酸化タングステン可視光応答光触媒塗料
【課題】本発明は、膜重量に優れかつアセトアルデヒド分解効果を促進しえるとともに、ガラスへ塗布した場合に透明かつ強固な被膜を形成し得ることを課題とする。
【解決手段】光触媒作用を有する酸化タングステン微粒子を含み、かつ金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムを少なくとも含むことを特徴とする酸化タングステン可視光応答光触媒塗料。
【解決手段】光触媒作用を有する酸化タングステン微粒子を含み、かつ金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムを少なくとも含むことを特徴とする酸化タングステン可視光応答光触媒塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化タングステン可視光応答光触媒塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の如く、光触媒を成膜するための材料であるスラリーやゾルは、それ自身基材に密着する能力は乏しいため、「のり」となるバインダーが必要となる。光触媒膜と一般塗料膜との違いは、光触媒が接触する有機物を分解することにあるから、塗料に用いられるような有機高分子はバインダーとして用いることができず、無機系のバインダーを利用する必要がある。最も用いられるバインダーはケイ素化合物系材料であり、それ自体が透明で強化な膜を形成することからバインダー候補として有力である。一方、アルミナやリン酸系材料も高温熱処理で硬化するため透明膜用途に利用できるが、膜特性や原料との混合安定性の面でケイ素化合物ほど汎用的に利用されていない。
【0003】
その他セメント、溶融フリット、フッ素樹脂等がバインダーとして例示できるが、これらの使用は構造、外観、固定化工程等に特徴があるため特殊な場合に限られる。しかし、コーティング液として前述した無機バインダー及び光触媒を調整する場合に、バインダーの比率や材質、さらには塗膜の膜厚により光触媒活性や塗膜性能が大きく異なることが知られている。
なお、酸化タングステンの可視光による光触媒効果は、例えば反応性スパッター法で作成した膜で認められている(特許文献1、あるいは「光触媒」、エヌ,ティー,エス社、2005年5月27日発行、p676)。
【特許文献1】特開2001−152130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化タングステンはバンドギャップエネルギーが2.8eVであり、可視光を吸収して光触媒活性を示す材料として知られている。ところで、活性向上として酸化タングステン粒子をビーズミル等で粉砕する固相法が知られているが、粉を処理する際の応力によって容易に結晶構造が変化し、光触媒活性が急激に低下する。
【0005】
一方、他の微粒子化方法として、気相法が知られている。この気相法は、タングステンワイヤーをバーナー加熱により消化し急激に酸化してWO3微粒子のヒュームとして大気に放出し、このヒュームを電気集塵機により採取することで酸化タングステン微粒子が得る方法である。発生したヒュームには三斜晶系と単斜晶系の2種類が混在し、三斜晶リッチの0.01〜0.03μmの超微粒子が含まれている。そこで、600℃で短時間加熱処理することにより、WO3微粒子の結晶粒子成長を抑え、結晶構造を三斜晶系から単斜晶系へ転移させて高活性の酸化タングステン微粒子を合成している。
【0006】
このようにして得られた三酸化タングステン微粒子は、アセトアルデヒド分解において高い光触媒作用を示すことが明らかになっている。しかし、酸化タングステン水溶液としてガラス板等に塗布しただけでは、膜重量が少なく十分な効果が得られない場合がある。これを解決する手段として、膜を重ねて塗布することで重量を稼ぎ触媒効果を向上させようとしたが、単に膜重量を増加させるだけでは効果は向上しなかった。そこで、バインダーとして少なくともZrを添加することで、他の金属バインダー共存下でも酸化タングステン粉の場合と同等の性能を有する塗膜の形成が可能となった。
【0007】
本発明は、こうした問題点を解消するためになされたもので、膜重量に優れかつアセトアルデヒド分解効果を促進しえるとともに、ガラスへ塗布した場合に透明かつ強固な被膜を形成し得る酸化タングステン可視光応答光触媒塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)請求項1記載の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料は、光触媒作用を有する酸化タングステン微粒子を含み、かつ金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムを少なくとも含むことを特徴とする。
(2)請求項2記載の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料は、金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウムを含む酸化タングステンからなる第1の層と、金属酸化物バインダーとしての酸化アルミニウムを含む酸化タングステン若しくは金属酸化物バインダーとしての酸化アルミニウムからなる第2の層が積層されて形成されていることを特徴とする。
【0009】
(3)請求項3記載の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料は、金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムを含む酸化タングステンからなる層が形成されていることを特徴とする。
(4)請求項4記載の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料は、光触媒作用を有する酸化タングステン微粒子を含み、かつ酸化タングステン粒子自身をバインダーとして用いることを特徴とする。
(5)請求項5記載の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料は、酸化タングステン微粒子の平均粒子径は0.01〜0.1μm以下であることを特徴とする。
(6)請求項6記載の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料は、単斜晶系の結晶構造を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、光触媒作用を有する酸化タングステン微粒子を含み、かつ金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムを少なくとも含むことにより、従来に比べて膜重量に優れかつアセトアルデヒド分解効果を促進することができる。また、請求項4記載の発明によれば、光触媒作用を有する酸化タングステン微粒子を含み、かつ酸化タングステン粒子自身をバインダーとして用いることにより、ガラスへ塗布した場合に透明かつ強固な被膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上記(2)の発明において、酸化タングステン可視光応答光触媒塗料の形態としては、図10(A)〜(D)に示すような例が挙げられる。
1)基材上に、金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウムを含む酸化タングステンからなる第1層と、金属酸化物バインダーとしての酸化アルミニウムを含む酸化タングステンからなる第2層が基材側から順に積層されて形成されている場合(図10(A)参照)。なお、図中のAcOHは酢酸を意味する。
【0012】
2)基材上に、金属酸化物バインダーとしての酸化アルミニウムを含む酸化タングステンからなる第1層と、金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウムを含む酸化タングステンからなる第2層が基材側から順に積層されて形成されている場合(図10(B)参照)。
【0013】
3)基材上に、金属酸化物バインダーとしての酸化アルミニウムからなる第1層と、金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウムを含む酸化タングステンからなる第2層が基材側から順に積層されて形成されている場合(図10(C)参照)。
4)基材上に、金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウムを含む酸化タングステンからなる第1層と、金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウムを含む第2層が基材側から順に積層されて形成されている場合(図10(D)参照)。
【0014】
上記1)〜4)のケースでは、1)>2)>3)>4)の順にガス分解効果を有する。特に、1)の場合は、第1層で生成した酢酸は第2層へ、また第2層で生成した酢酸も、同層内にトラップされるため、特にガス分解効果が高い。2)は1)と逆の構造だが、第2層が酸化ジルコニウムバインダーなので、生成した酢酸が1)のケースよりも大気に放出されやすく、1)よりガス分解効果の点で劣る。
【0015】
上記(3)の発明において、具体的な例としては、図11に示すように基材上に、金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムを含む酸化タングステンからなる第1層が形成されている場合が挙げられる。
上記(1)〜(4)の発明において、金属酸化物バインダーは酸化タングステンに対して0.1から10質量%であることが好ましい。この理由は、0.1質量%未満では塗膜としての強度が十分でなく、10質量%を超えると光触媒活性が弱くなる。
【0016】
上記(5)の発明において、平均粒径は小さい方が表面積は大きくなり、電子と正孔とが再結合する割合も低下しやすいので、光触媒活性を向上するのに都合がよいが、安定的に造粒することが可能な平均粒径の下限を0.01μmとするのがよい。即ち、平均粒子径の好ましい範囲は0.01〜0.03μmである。なお、平均粒子径が0.1μmを超えると、表面積が小さくなって触媒の活性が低下する。
【0017】
上記(6)の発明において、本発明者が三酸化タングステンの光触媒活性について種々検討を重ねたところ、従来効果が高いと考えられていた三斜晶系の結晶構造を有するよりも単斜晶系の結晶構造を有する特定粒径の三酸化タングステンの方が可視光反応性に優れており、光触媒活性が高いことがわかった。なお、三酸化タングステンの結晶構造は単斜晶系であるが、これは例えばすり鉢で擦っただけで三斜晶系に変りやすいので、単斜晶系を維持することが重要である。
【0018】
本発明において、酸化タングステンを合成するには図1に示す装置を用いる。図中の符番1は金属タングステンワイヤー2を送り出すタングステンワイヤープール(以下、スプールと呼ぶ)を示す。金属タングステンワイヤー2は、ガスバーナー3により加熱、燃焼されて酸化タングステン微粒子のヒューム4となる。このヒューム4は回収装置としての電気集塵機5に設けられたヒューム吸引管6により回収される。ヒューム吸引管6の一部は、電気炉7内に配置されている。
【0019】
また、本発明において、アセトアルデヒドガス分解効果を確認するためには、図2に示す測定装置を用いる。図中の符番8はデシケーターを示し、この中に光触媒塗布サンプル9が収納されている。このシャーレ9の下部のデシケーター8内にはファン10が配置されている。デシケーター8の上部、側部には、配管11を介してマルチガスモニター12が接続されている。また、デシケーター8の斜め上部には、光触媒に光を矢印Aのように照射する励起用光源(図示せず)が取り付けられている。図中の符番13はデシケーター8の開閉自在な蓋を示す。
【0020】
なお、上記測定装置の仕様は次の通りである。
・測定BOX容量:3000cc
・使用光源 :FL20S−W2本
・照度 :6000[lx]
・測定器 :マルチガスモニター
・導入ガス :アセトアルデヒド10ppm相当
次に、本発明の具体的な実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る光触媒膜は、図1の装置を用いて次のようにして作成した。
まず、線径0.1〜1.0mmの金属タングステンワイヤー2をガスバーナー3により1000〜1700℃程度で短時間(1cmあたり5〜15秒)で加熱する。これにより金属タングステンが燃焼することで昇華し、急激に酸化されることによって三酸化タングステン(WO3)微粒子のヒューム4が大気に放出される。発生したヒューム4には三斜晶系と単斜晶系の2種類が混在し、三斜晶系リッチの0.01〜0.03μmの超微粒子が含まれている。次に、このヒューム4を電気集塵機5により採取し、WO3微粒子を得る。つづいて、この微粒子を水に混合させ、Zrバインダー(シーアイ化成(株)製の商品名:ZRAP10wt%−E−17)を固形成分としてWO3に対し0.1〜10wt%の間で添加した。
【0021】
第1の実施形態によれば、光触媒作用を有するWO3微粒子を含み、かつZrバインダーを固形成分としてWO3に対し0.1〜10wt%の間で添加することにより、Zrバインダーを未添加と比較して3倍以上の膜重量を有しかつアセトアルデヒド分解効果に優れた光触媒膜の形成が可能となる。
事実、Zrバインダーの有無によるアセトアルデヒドガス分解効果を比較したところ、図3に示す特性図が得られた。図3中の線(a)はZrバインダーを含まないWO3塗膜の場合、線(b)はZrバインダーを含むWO3塗膜の場合、線(c)はアセトアルデヒドガスが漏れない場合を示す。図3より、線(a)よりも線(b)の方が、アセトアルデヒド残存率がより一層早く低下し、光触媒活性がより一層高くなることが明らかである。
【0022】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る光触媒膜は、図1の装置を用いて次のようにして作成した。
まず、線径0.1〜1.0mmの金属タングステンワイヤー2をガスバーナー3により600℃程度で短時間(約1分)で加熱する。これにより金属タングステンが燃焼することで昇華し、急激に酸化されることによって三酸化タングステン(WO3)微粒子のヒューム4が大気に放出される。発生したヒューム4には三斜晶系と単斜晶系の2種類が混在し、三斜晶系リッチの0.01〜0.03μmの超微粒子が含まれている。次に、このヒューム4を電気集塵機5により採取し、WO3微粒子を得る。つづいて、この微粒子を水に混合させ、Zrバインダー(シーアイ化成(株)製)を固形成分としてWO3に対し0.1〜10wt%の間で添加し、第1の塗布液とした。更に、この第1の塗布液と同様に、WO3超微粒子の水溶液に対してアルミナゾル(日産化学製)を固形成分としてWO3に対し1〜20wt%添加し、第2の塗布液とした。
【0023】
第2の実施形態では、調整した第1の塗布液、第2の塗布液をガラス板に塗布して積層構造とすることにより、アセトアルデヒド分解効果を増加させると共に、酢酸の生成を抑制することが可能な皮膜を得ることができる。
図4は、アルミナ無添加(線(a))、アルミナ添加(線(b))の光触媒膜による酢酸発生抑制効果を示す特性図を示す。なお、縦軸の単位a.u.は任意単位を示す。図4より、アルミナ無添加の場合は酢酸濃度が時間の経過とともに増加するのに対し、アルミ添加の場合は酢酸濃度が最初低下し、その後はほとんど変化がないことが分かる。即ち、本発明のようにアルミナ(Al2O3)を塗布した場合、酢酸の生成を抑制することが明らかである。
【0024】
図5は、Al2O3バインダー含有WO3膜(線(a))、(遷移金属酸化物バインダー含有WO3膜+Al2O3バインダー含有WO3膜の複合酸化物膜)(線(b))を塗布した場合によるアセトアルデヒドガス分解効果を示す特性図である。線(c)はアセトアルデヒドガスが漏れない場合を示す。図5より、線(a)よりも線(b)の方が、アセトアルデヒド残存率がより一層早く低下し、光触媒活性がより一層高くなることが明らかである。なお、図2の測定装置では、WO3量は全て10wt%とした。
【0025】
なお、第2の実施形態において、光触媒による塗布膜は1層でもよいし、2層以上でもよい。本発明者等は、種々研究を重ねたところ、Zrの添加によりガス分解効率は向上するが、同時にアセトアルデヒド酸化生成物である酢酸の発生量も増加することを究明した。これは、一般に酸化タングステンは、酸化チタンと比較して酢酸吸着能力が弱いために、酢酸を分解する前に大気中に放出しまうためと考えられる。上記問題を解決するためには酸化タングステンの酢酸吸着能を向上させる必要がある。酢酸は弱酸性を有する有機酸であることが知られているので、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩または酸化アルミニウムのようなアルカリ性を有する金属酸化物を、酸化タングステンに担持させることで酢酸の吸着能力が向上し、酢酸の発生を抑制する効果が期待できる。
【0026】
これらのバインダーの特性を活かし、高ガス分解性能・酢酸発生抑制効果の両機能を有する塗料の作製には、酸化タングステンに対して、夫々の機能を有したバインダーを2種類添加することが望ましい。しかし、バインダーを混合すると塗料のゲル化が起こるため、塗料として用いることが困難であった。そこで、図5に示したように、異なるバインダーを含んだ酸化タングステン層を重ねた複合膜を発明した。上述したように、従来のAl2O3バインダー含有酸化タングステン膜とのアセトアルデヒドガス分解効果を比較したところ、触媒活性を高めかつ酢酸の発生を抑えることに成功した。
【0027】
(第3の実施形態)
第2の実施形態と同様に、三斜晶系リッチの0.01〜0.03μmの超微粒子を含んだヒューム4を電気集塵機5により採取して、WO3微粒子を得る。つづいて、この微粒子を水に混合させ、Zrバインダー(シーアイ化成(株)製)を固形成分としてWO3に対し0.1〜10wt%の間で添加し、第1の塗布液とした。次に、この第1の塗布液と同様に、WO3超微粒子の水溶液に対してアルミナゾル(日産化学製)を固形成分としてWO3に対し1〜10wt%添加し、第2の塗布液とした。
【0028】
第3の実施形態では、調整した第1の塗布液、第2の塗布液をガラス板に塗布して積層構造とすることにより、アセトアルデヒド分解効果を増加させると共に、酢酸の生成を抑制することが可能な皮膜を得ることができる。なお、第3の実施形態におけるポイントは、大気と接触する最表面の層がAl2O3バインダー含有酸化WO3層であるこであり、従来のWO3複合膜と比較して、副生する酢酸の生成抑制する効果を損なうことなく、かつより高いアセトアルデヒドガス分解効果が発現する。
【0029】
図6は、ガラス板上にAl2O3バインダー含有WO3膜,遷移金属酸化物バインダー含有WO3膜を順次積層した従来の積層膜の場合(線(a))、ガラス板上に遷移金属酸化物バインダー含有WO3膜,Al2O3バインダー含有WO3膜を順次積層した本発明の複合酸化物膜の場合(線(b))のアセトアルデヒドガス分解効果を示す特性図である。線(c)はアセトアルデヒドガスが漏れない場合を示す。図6より、線(a)よりも線(b)の方が、アセトアルデヒド残存率がより一層早く低下し、光触媒活性がより一層高くなることが明らかである。なお、図2の測定装置では、WO3量は全て10wt%とした。
【0030】
(第4の実施形態)
まず、第4の実施形態に係る酸化タングステン可視光応答光触媒膜付きガラスの製造方法について説明する。
最初に、酸化タングステン原料であるパラタングステン酸アンモニウムを熱処理することにより、表面にクラックが入った中間体を作成した。次に、ボールミル,ビーズミルによる解砕処理による原料を微粒子として第1の塗料を作成した。つづいて、図示しないガラス面にこの第1の塗料を塗布した後、焼成することにより光触媒活性を持つ透明な酸化タングステン光触媒膜(第1の光触媒膜と呼ぶ)が形成されたガラス板を製造した。
【0031】
次に、第1の実施形態と同様にして形成した粒子径0.01〜0.03μmの酸化タングステン粒子を水と金属酸化物を含む溶媒に混合させて第2の塗料を作成した。つづいて、この第2の塗料を前記ガラス面の第1の光触媒膜上に塗布した後、焼成することにより、第2の光触媒膜を形成した。このようにして製造された第1・第2の光触媒膜が形成されたガラス板は、紫外光の存在しない環境において、水の接触角が10°以下を維持している。
【0032】
第4の実施形態によれば、ガラス面に酸化タングステン単体からなる第1の光触媒膜及び酸化タングステンと金属酸化物を含有する第2の光触媒膜からなる積層膜が形成され、紫外光の存在しない環境において水の接触角が10°以下を維持した構成であるので、低汚染性光触媒膜を有したガラス板が得られる。従って、本発明の光触媒膜を自動車リアガラスや窓ガラス屋内面に応用した場合でも、セルフクリーニング、防曇効果を得ることができる。
【0033】
図7は、紫外光の存在しない白色LED照射条件(6000ルックス)での接触角の推移を示す。なお、接触角は予めオレイン酸で50°前後に調整した光触媒サンプルを使用した。図7より、酸化タングステン光触媒は、酸化チタン型光触媒と比較して低接触角を維持しやすいことが分かる。これは、酸化タングステン光触媒が酸化チタン型光触媒と比較して有機成分の吸着が低く、有機物付着による汚染が起こりにくいためである。
【0034】
図8は、通常大気保管時における接触角の推移を示す。図8より、本発明の酸化タングステン光触媒の場合、紫外光が存在しない環境下でも可視光で付着した有機成分を分解し接触角を維持することができる。また、図8より、通常大気環境下で酸化チタン光触媒膜と接触角の暗所維持率を比較すると、5倍以上の維持率を示すことが明らかである。
なお、第4の実施形態において、ガラス面には第1・第2の光触媒膜からなる積層膜を形成した場合について述べたが、これに限定されない。
【0035】
(第5の実施形態)
第5の実施形態は、光触媒作用を有する酸化タングステン微粒子を含み、かつ酸化タングステン粒子自身をバインダーとして用いる例を示す。なお、本実施形態で用いた測定装置では、図2の測定装置の使用光源として白色LED(NSPW500BS使用)を用い、0.1gの光触媒入り時計皿を用いた。
【0036】
まず、パラタングステン酸アンモニウムを400〜500℃の間で加熱した後、冷却し、アルコールまたはアルコールと水の混合溶媒中へ混合させ、混合溶液を得た。次に、この混合溶液をボールミル及びビーズミルにて粉砕することにより、三酸化タングステンゾル(バインダー)を得た。タングステン微粒子は、第1の実施形態と同様にして形成し、三斜晶系と単斜晶系の2種類が混在し、三斜晶系リッチの0.01〜0.03μmの超微粒子を得た。このようにして得られたバインダーと超微粒子を総固形成分として1〜10%の間となるように混合することにより、光触媒機能を有する膜を形成した。なお、総固形成分が10%を超えると、膜強度の低下や透明度の低下が生じる。また、三酸化タングステンゾルと微粒子は互に混合した場合に凝集しない。
【0037】
第5の実施形態によれば、光触媒作用を有する三斜晶系リッチの三酸化タングステン微粒子を含み、かつ酸化タングステン粒子自身をバインダーとして用いることにより、市販の三酸化タングステン微粒子と比較して粒子径の小さい三酸化タングステンが得られる。また、加熱処理を行なうことにより光触媒活性が向上して安定化し、市販品と比較して高いアセトアルデヒドガス分解効果を示す。更に、水やアルコール等の有機溶媒に対して優れた分散性を示し、三酸化タングステン含有溶液を超音波処理することで、均一に分散した塗料が得られる。従って、この塗料をガラスやタイル等へ塗布した場合に、アセトアルデヒド等の有機化合物を分解する機能を与えることが可能である。
図9は、第5の実施形態による三酸化タングステン微粒子のアセトアルデヒドガス分解性能を示す特性図であり、線(a)は本発明の場合、線(b)はがアセトアルデヒドガスが漏れない場合を示す。
【0038】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、その実施の段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。更に、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更には、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、本発明に係る酸化タングステンを合成する装置の概略図を示す。
【図2】図2は、アセトアルデヒドガス分解試験の測定装置の概略図を示す。
【図3】図3は、本発明の第1の実施形態による酸化タングステン膜のアセトアルデヒドガス分解効果を示す。
【図4】図4は、本発明の第2の実施形態によるアルミナ含有酸化タングステン光触媒膜の酢酸発生抑制効果を示す。
【図5】図5は、本発明の第2の実施形態による酸化タングステン膜のアセトアルデヒドガス分解効果を示す。
【図6】図6は、本発明の第3の実施形態による酸化タングステン膜のアセトアルデヒドガス分解効果を示す。
【図7】図7は、本発明の第4の実施形態による白色LED照射下における接触角の推移を示す。
【図8】図8は、本発明の第4の実施形態による通常大気暗所保管時における接触角の推移を示す。
【図9】図9は、本発明の第5の実施形態による酸化タングステン膜のアセトアルデヒドガス分解効果を示す。
【図10】図10は、本発明の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料が異なる2層からなる場合の例を示す。
【図11】図11は、本発明の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料が1層からなる場合の例を示す。
【符号の説明】
【0040】
1…金属タングステンワイヤーリール、2…金属タングステンワイヤー、3…ガスバーナー、4…酸化タングステンヒューム、5…ヒューム吸引管、7…電気炉。
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化タングステン可視光応答光触媒塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の如く、光触媒を成膜するための材料であるスラリーやゾルは、それ自身基材に密着する能力は乏しいため、「のり」となるバインダーが必要となる。光触媒膜と一般塗料膜との違いは、光触媒が接触する有機物を分解することにあるから、塗料に用いられるような有機高分子はバインダーとして用いることができず、無機系のバインダーを利用する必要がある。最も用いられるバインダーはケイ素化合物系材料であり、それ自体が透明で強化な膜を形成することからバインダー候補として有力である。一方、アルミナやリン酸系材料も高温熱処理で硬化するため透明膜用途に利用できるが、膜特性や原料との混合安定性の面でケイ素化合物ほど汎用的に利用されていない。
【0003】
その他セメント、溶融フリット、フッ素樹脂等がバインダーとして例示できるが、これらの使用は構造、外観、固定化工程等に特徴があるため特殊な場合に限られる。しかし、コーティング液として前述した無機バインダー及び光触媒を調整する場合に、バインダーの比率や材質、さらには塗膜の膜厚により光触媒活性や塗膜性能が大きく異なることが知られている。
なお、酸化タングステンの可視光による光触媒効果は、例えば反応性スパッター法で作成した膜で認められている(特許文献1、あるいは「光触媒」、エヌ,ティー,エス社、2005年5月27日発行、p676)。
【特許文献1】特開2001−152130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化タングステンはバンドギャップエネルギーが2.8eVであり、可視光を吸収して光触媒活性を示す材料として知られている。ところで、活性向上として酸化タングステン粒子をビーズミル等で粉砕する固相法が知られているが、粉を処理する際の応力によって容易に結晶構造が変化し、光触媒活性が急激に低下する。
【0005】
一方、他の微粒子化方法として、気相法が知られている。この気相法は、タングステンワイヤーをバーナー加熱により消化し急激に酸化してWO3微粒子のヒュームとして大気に放出し、このヒュームを電気集塵機により採取することで酸化タングステン微粒子が得る方法である。発生したヒュームには三斜晶系と単斜晶系の2種類が混在し、三斜晶リッチの0.01〜0.03μmの超微粒子が含まれている。そこで、600℃で短時間加熱処理することにより、WO3微粒子の結晶粒子成長を抑え、結晶構造を三斜晶系から単斜晶系へ転移させて高活性の酸化タングステン微粒子を合成している。
【0006】
このようにして得られた三酸化タングステン微粒子は、アセトアルデヒド分解において高い光触媒作用を示すことが明らかになっている。しかし、酸化タングステン水溶液としてガラス板等に塗布しただけでは、膜重量が少なく十分な効果が得られない場合がある。これを解決する手段として、膜を重ねて塗布することで重量を稼ぎ触媒効果を向上させようとしたが、単に膜重量を増加させるだけでは効果は向上しなかった。そこで、バインダーとして少なくともZrを添加することで、他の金属バインダー共存下でも酸化タングステン粉の場合と同等の性能を有する塗膜の形成が可能となった。
【0007】
本発明は、こうした問題点を解消するためになされたもので、膜重量に優れかつアセトアルデヒド分解効果を促進しえるとともに、ガラスへ塗布した場合に透明かつ強固な被膜を形成し得る酸化タングステン可視光応答光触媒塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)請求項1記載の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料は、光触媒作用を有する酸化タングステン微粒子を含み、かつ金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムを少なくとも含むことを特徴とする。
(2)請求項2記載の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料は、金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウムを含む酸化タングステンからなる第1の層と、金属酸化物バインダーとしての酸化アルミニウムを含む酸化タングステン若しくは金属酸化物バインダーとしての酸化アルミニウムからなる第2の層が積層されて形成されていることを特徴とする。
【0009】
(3)請求項3記載の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料は、金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムを含む酸化タングステンからなる層が形成されていることを特徴とする。
(4)請求項4記載の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料は、光触媒作用を有する酸化タングステン微粒子を含み、かつ酸化タングステン粒子自身をバインダーとして用いることを特徴とする。
(5)請求項5記載の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料は、酸化タングステン微粒子の平均粒子径は0.01〜0.1μm以下であることを特徴とする。
(6)請求項6記載の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料は、単斜晶系の結晶構造を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、光触媒作用を有する酸化タングステン微粒子を含み、かつ金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムを少なくとも含むことにより、従来に比べて膜重量に優れかつアセトアルデヒド分解効果を促進することができる。また、請求項4記載の発明によれば、光触媒作用を有する酸化タングステン微粒子を含み、かつ酸化タングステン粒子自身をバインダーとして用いることにより、ガラスへ塗布した場合に透明かつ強固な被膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上記(2)の発明において、酸化タングステン可視光応答光触媒塗料の形態としては、図10(A)〜(D)に示すような例が挙げられる。
1)基材上に、金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウムを含む酸化タングステンからなる第1層と、金属酸化物バインダーとしての酸化アルミニウムを含む酸化タングステンからなる第2層が基材側から順に積層されて形成されている場合(図10(A)参照)。なお、図中のAcOHは酢酸を意味する。
【0012】
2)基材上に、金属酸化物バインダーとしての酸化アルミニウムを含む酸化タングステンからなる第1層と、金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウムを含む酸化タングステンからなる第2層が基材側から順に積層されて形成されている場合(図10(B)参照)。
【0013】
3)基材上に、金属酸化物バインダーとしての酸化アルミニウムからなる第1層と、金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウムを含む酸化タングステンからなる第2層が基材側から順に積層されて形成されている場合(図10(C)参照)。
4)基材上に、金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウムを含む酸化タングステンからなる第1層と、金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウムを含む第2層が基材側から順に積層されて形成されている場合(図10(D)参照)。
【0014】
上記1)〜4)のケースでは、1)>2)>3)>4)の順にガス分解効果を有する。特に、1)の場合は、第1層で生成した酢酸は第2層へ、また第2層で生成した酢酸も、同層内にトラップされるため、特にガス分解効果が高い。2)は1)と逆の構造だが、第2層が酸化ジルコニウムバインダーなので、生成した酢酸が1)のケースよりも大気に放出されやすく、1)よりガス分解効果の点で劣る。
【0015】
上記(3)の発明において、具体的な例としては、図11に示すように基材上に、金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムを含む酸化タングステンからなる第1層が形成されている場合が挙げられる。
上記(1)〜(4)の発明において、金属酸化物バインダーは酸化タングステンに対して0.1から10質量%であることが好ましい。この理由は、0.1質量%未満では塗膜としての強度が十分でなく、10質量%を超えると光触媒活性が弱くなる。
【0016】
上記(5)の発明において、平均粒径は小さい方が表面積は大きくなり、電子と正孔とが再結合する割合も低下しやすいので、光触媒活性を向上するのに都合がよいが、安定的に造粒することが可能な平均粒径の下限を0.01μmとするのがよい。即ち、平均粒子径の好ましい範囲は0.01〜0.03μmである。なお、平均粒子径が0.1μmを超えると、表面積が小さくなって触媒の活性が低下する。
【0017】
上記(6)の発明において、本発明者が三酸化タングステンの光触媒活性について種々検討を重ねたところ、従来効果が高いと考えられていた三斜晶系の結晶構造を有するよりも単斜晶系の結晶構造を有する特定粒径の三酸化タングステンの方が可視光反応性に優れており、光触媒活性が高いことがわかった。なお、三酸化タングステンの結晶構造は単斜晶系であるが、これは例えばすり鉢で擦っただけで三斜晶系に変りやすいので、単斜晶系を維持することが重要である。
【0018】
本発明において、酸化タングステンを合成するには図1に示す装置を用いる。図中の符番1は金属タングステンワイヤー2を送り出すタングステンワイヤープール(以下、スプールと呼ぶ)を示す。金属タングステンワイヤー2は、ガスバーナー3により加熱、燃焼されて酸化タングステン微粒子のヒューム4となる。このヒューム4は回収装置としての電気集塵機5に設けられたヒューム吸引管6により回収される。ヒューム吸引管6の一部は、電気炉7内に配置されている。
【0019】
また、本発明において、アセトアルデヒドガス分解効果を確認するためには、図2に示す測定装置を用いる。図中の符番8はデシケーターを示し、この中に光触媒塗布サンプル9が収納されている。このシャーレ9の下部のデシケーター8内にはファン10が配置されている。デシケーター8の上部、側部には、配管11を介してマルチガスモニター12が接続されている。また、デシケーター8の斜め上部には、光触媒に光を矢印Aのように照射する励起用光源(図示せず)が取り付けられている。図中の符番13はデシケーター8の開閉自在な蓋を示す。
【0020】
なお、上記測定装置の仕様は次の通りである。
・測定BOX容量:3000cc
・使用光源 :FL20S−W2本
・照度 :6000[lx]
・測定器 :マルチガスモニター
・導入ガス :アセトアルデヒド10ppm相当
次に、本発明の具体的な実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る光触媒膜は、図1の装置を用いて次のようにして作成した。
まず、線径0.1〜1.0mmの金属タングステンワイヤー2をガスバーナー3により1000〜1700℃程度で短時間(1cmあたり5〜15秒)で加熱する。これにより金属タングステンが燃焼することで昇華し、急激に酸化されることによって三酸化タングステン(WO3)微粒子のヒューム4が大気に放出される。発生したヒューム4には三斜晶系と単斜晶系の2種類が混在し、三斜晶系リッチの0.01〜0.03μmの超微粒子が含まれている。次に、このヒューム4を電気集塵機5により採取し、WO3微粒子を得る。つづいて、この微粒子を水に混合させ、Zrバインダー(シーアイ化成(株)製の商品名:ZRAP10wt%−E−17)を固形成分としてWO3に対し0.1〜10wt%の間で添加した。
【0021】
第1の実施形態によれば、光触媒作用を有するWO3微粒子を含み、かつZrバインダーを固形成分としてWO3に対し0.1〜10wt%の間で添加することにより、Zrバインダーを未添加と比較して3倍以上の膜重量を有しかつアセトアルデヒド分解効果に優れた光触媒膜の形成が可能となる。
事実、Zrバインダーの有無によるアセトアルデヒドガス分解効果を比較したところ、図3に示す特性図が得られた。図3中の線(a)はZrバインダーを含まないWO3塗膜の場合、線(b)はZrバインダーを含むWO3塗膜の場合、線(c)はアセトアルデヒドガスが漏れない場合を示す。図3より、線(a)よりも線(b)の方が、アセトアルデヒド残存率がより一層早く低下し、光触媒活性がより一層高くなることが明らかである。
【0022】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る光触媒膜は、図1の装置を用いて次のようにして作成した。
まず、線径0.1〜1.0mmの金属タングステンワイヤー2をガスバーナー3により600℃程度で短時間(約1分)で加熱する。これにより金属タングステンが燃焼することで昇華し、急激に酸化されることによって三酸化タングステン(WO3)微粒子のヒューム4が大気に放出される。発生したヒューム4には三斜晶系と単斜晶系の2種類が混在し、三斜晶系リッチの0.01〜0.03μmの超微粒子が含まれている。次に、このヒューム4を電気集塵機5により採取し、WO3微粒子を得る。つづいて、この微粒子を水に混合させ、Zrバインダー(シーアイ化成(株)製)を固形成分としてWO3に対し0.1〜10wt%の間で添加し、第1の塗布液とした。更に、この第1の塗布液と同様に、WO3超微粒子の水溶液に対してアルミナゾル(日産化学製)を固形成分としてWO3に対し1〜20wt%添加し、第2の塗布液とした。
【0023】
第2の実施形態では、調整した第1の塗布液、第2の塗布液をガラス板に塗布して積層構造とすることにより、アセトアルデヒド分解効果を増加させると共に、酢酸の生成を抑制することが可能な皮膜を得ることができる。
図4は、アルミナ無添加(線(a))、アルミナ添加(線(b))の光触媒膜による酢酸発生抑制効果を示す特性図を示す。なお、縦軸の単位a.u.は任意単位を示す。図4より、アルミナ無添加の場合は酢酸濃度が時間の経過とともに増加するのに対し、アルミ添加の場合は酢酸濃度が最初低下し、その後はほとんど変化がないことが分かる。即ち、本発明のようにアルミナ(Al2O3)を塗布した場合、酢酸の生成を抑制することが明らかである。
【0024】
図5は、Al2O3バインダー含有WO3膜(線(a))、(遷移金属酸化物バインダー含有WO3膜+Al2O3バインダー含有WO3膜の複合酸化物膜)(線(b))を塗布した場合によるアセトアルデヒドガス分解効果を示す特性図である。線(c)はアセトアルデヒドガスが漏れない場合を示す。図5より、線(a)よりも線(b)の方が、アセトアルデヒド残存率がより一層早く低下し、光触媒活性がより一層高くなることが明らかである。なお、図2の測定装置では、WO3量は全て10wt%とした。
【0025】
なお、第2の実施形態において、光触媒による塗布膜は1層でもよいし、2層以上でもよい。本発明者等は、種々研究を重ねたところ、Zrの添加によりガス分解効率は向上するが、同時にアセトアルデヒド酸化生成物である酢酸の発生量も増加することを究明した。これは、一般に酸化タングステンは、酸化チタンと比較して酢酸吸着能力が弱いために、酢酸を分解する前に大気中に放出しまうためと考えられる。上記問題を解決するためには酸化タングステンの酢酸吸着能を向上させる必要がある。酢酸は弱酸性を有する有機酸であることが知られているので、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩または酸化アルミニウムのようなアルカリ性を有する金属酸化物を、酸化タングステンに担持させることで酢酸の吸着能力が向上し、酢酸の発生を抑制する効果が期待できる。
【0026】
これらのバインダーの特性を活かし、高ガス分解性能・酢酸発生抑制効果の両機能を有する塗料の作製には、酸化タングステンに対して、夫々の機能を有したバインダーを2種類添加することが望ましい。しかし、バインダーを混合すると塗料のゲル化が起こるため、塗料として用いることが困難であった。そこで、図5に示したように、異なるバインダーを含んだ酸化タングステン層を重ねた複合膜を発明した。上述したように、従来のAl2O3バインダー含有酸化タングステン膜とのアセトアルデヒドガス分解効果を比較したところ、触媒活性を高めかつ酢酸の発生を抑えることに成功した。
【0027】
(第3の実施形態)
第2の実施形態と同様に、三斜晶系リッチの0.01〜0.03μmの超微粒子を含んだヒューム4を電気集塵機5により採取して、WO3微粒子を得る。つづいて、この微粒子を水に混合させ、Zrバインダー(シーアイ化成(株)製)を固形成分としてWO3に対し0.1〜10wt%の間で添加し、第1の塗布液とした。次に、この第1の塗布液と同様に、WO3超微粒子の水溶液に対してアルミナゾル(日産化学製)を固形成分としてWO3に対し1〜10wt%添加し、第2の塗布液とした。
【0028】
第3の実施形態では、調整した第1の塗布液、第2の塗布液をガラス板に塗布して積層構造とすることにより、アセトアルデヒド分解効果を増加させると共に、酢酸の生成を抑制することが可能な皮膜を得ることができる。なお、第3の実施形態におけるポイントは、大気と接触する最表面の層がAl2O3バインダー含有酸化WO3層であるこであり、従来のWO3複合膜と比較して、副生する酢酸の生成抑制する効果を損なうことなく、かつより高いアセトアルデヒドガス分解効果が発現する。
【0029】
図6は、ガラス板上にAl2O3バインダー含有WO3膜,遷移金属酸化物バインダー含有WO3膜を順次積層した従来の積層膜の場合(線(a))、ガラス板上に遷移金属酸化物バインダー含有WO3膜,Al2O3バインダー含有WO3膜を順次積層した本発明の複合酸化物膜の場合(線(b))のアセトアルデヒドガス分解効果を示す特性図である。線(c)はアセトアルデヒドガスが漏れない場合を示す。図6より、線(a)よりも線(b)の方が、アセトアルデヒド残存率がより一層早く低下し、光触媒活性がより一層高くなることが明らかである。なお、図2の測定装置では、WO3量は全て10wt%とした。
【0030】
(第4の実施形態)
まず、第4の実施形態に係る酸化タングステン可視光応答光触媒膜付きガラスの製造方法について説明する。
最初に、酸化タングステン原料であるパラタングステン酸アンモニウムを熱処理することにより、表面にクラックが入った中間体を作成した。次に、ボールミル,ビーズミルによる解砕処理による原料を微粒子として第1の塗料を作成した。つづいて、図示しないガラス面にこの第1の塗料を塗布した後、焼成することにより光触媒活性を持つ透明な酸化タングステン光触媒膜(第1の光触媒膜と呼ぶ)が形成されたガラス板を製造した。
【0031】
次に、第1の実施形態と同様にして形成した粒子径0.01〜0.03μmの酸化タングステン粒子を水と金属酸化物を含む溶媒に混合させて第2の塗料を作成した。つづいて、この第2の塗料を前記ガラス面の第1の光触媒膜上に塗布した後、焼成することにより、第2の光触媒膜を形成した。このようにして製造された第1・第2の光触媒膜が形成されたガラス板は、紫外光の存在しない環境において、水の接触角が10°以下を維持している。
【0032】
第4の実施形態によれば、ガラス面に酸化タングステン単体からなる第1の光触媒膜及び酸化タングステンと金属酸化物を含有する第2の光触媒膜からなる積層膜が形成され、紫外光の存在しない環境において水の接触角が10°以下を維持した構成であるので、低汚染性光触媒膜を有したガラス板が得られる。従って、本発明の光触媒膜を自動車リアガラスや窓ガラス屋内面に応用した場合でも、セルフクリーニング、防曇効果を得ることができる。
【0033】
図7は、紫外光の存在しない白色LED照射条件(6000ルックス)での接触角の推移を示す。なお、接触角は予めオレイン酸で50°前後に調整した光触媒サンプルを使用した。図7より、酸化タングステン光触媒は、酸化チタン型光触媒と比較して低接触角を維持しやすいことが分かる。これは、酸化タングステン光触媒が酸化チタン型光触媒と比較して有機成分の吸着が低く、有機物付着による汚染が起こりにくいためである。
【0034】
図8は、通常大気保管時における接触角の推移を示す。図8より、本発明の酸化タングステン光触媒の場合、紫外光が存在しない環境下でも可視光で付着した有機成分を分解し接触角を維持することができる。また、図8より、通常大気環境下で酸化チタン光触媒膜と接触角の暗所維持率を比較すると、5倍以上の維持率を示すことが明らかである。
なお、第4の実施形態において、ガラス面には第1・第2の光触媒膜からなる積層膜を形成した場合について述べたが、これに限定されない。
【0035】
(第5の実施形態)
第5の実施形態は、光触媒作用を有する酸化タングステン微粒子を含み、かつ酸化タングステン粒子自身をバインダーとして用いる例を示す。なお、本実施形態で用いた測定装置では、図2の測定装置の使用光源として白色LED(NSPW500BS使用)を用い、0.1gの光触媒入り時計皿を用いた。
【0036】
まず、パラタングステン酸アンモニウムを400〜500℃の間で加熱した後、冷却し、アルコールまたはアルコールと水の混合溶媒中へ混合させ、混合溶液を得た。次に、この混合溶液をボールミル及びビーズミルにて粉砕することにより、三酸化タングステンゾル(バインダー)を得た。タングステン微粒子は、第1の実施形態と同様にして形成し、三斜晶系と単斜晶系の2種類が混在し、三斜晶系リッチの0.01〜0.03μmの超微粒子を得た。このようにして得られたバインダーと超微粒子を総固形成分として1〜10%の間となるように混合することにより、光触媒機能を有する膜を形成した。なお、総固形成分が10%を超えると、膜強度の低下や透明度の低下が生じる。また、三酸化タングステンゾルと微粒子は互に混合した場合に凝集しない。
【0037】
第5の実施形態によれば、光触媒作用を有する三斜晶系リッチの三酸化タングステン微粒子を含み、かつ酸化タングステン粒子自身をバインダーとして用いることにより、市販の三酸化タングステン微粒子と比較して粒子径の小さい三酸化タングステンが得られる。また、加熱処理を行なうことにより光触媒活性が向上して安定化し、市販品と比較して高いアセトアルデヒドガス分解効果を示す。更に、水やアルコール等の有機溶媒に対して優れた分散性を示し、三酸化タングステン含有溶液を超音波処理することで、均一に分散した塗料が得られる。従って、この塗料をガラスやタイル等へ塗布した場合に、アセトアルデヒド等の有機化合物を分解する機能を与えることが可能である。
図9は、第5の実施形態による三酸化タングステン微粒子のアセトアルデヒドガス分解性能を示す特性図であり、線(a)は本発明の場合、線(b)はがアセトアルデヒドガスが漏れない場合を示す。
【0038】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、その実施の段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。更に、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更には、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、本発明に係る酸化タングステンを合成する装置の概略図を示す。
【図2】図2は、アセトアルデヒドガス分解試験の測定装置の概略図を示す。
【図3】図3は、本発明の第1の実施形態による酸化タングステン膜のアセトアルデヒドガス分解効果を示す。
【図4】図4は、本発明の第2の実施形態によるアルミナ含有酸化タングステン光触媒膜の酢酸発生抑制効果を示す。
【図5】図5は、本発明の第2の実施形態による酸化タングステン膜のアセトアルデヒドガス分解効果を示す。
【図6】図6は、本発明の第3の実施形態による酸化タングステン膜のアセトアルデヒドガス分解効果を示す。
【図7】図7は、本発明の第4の実施形態による白色LED照射下における接触角の推移を示す。
【図8】図8は、本発明の第4の実施形態による通常大気暗所保管時における接触角の推移を示す。
【図9】図9は、本発明の第5の実施形態による酸化タングステン膜のアセトアルデヒドガス分解効果を示す。
【図10】図10は、本発明の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料が異なる2層からなる場合の例を示す。
【図11】図11は、本発明の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料が1層からなる場合の例を示す。
【符号の説明】
【0040】
1…金属タングステンワイヤーリール、2…金属タングステンワイヤー、3…ガスバーナー、4…酸化タングステンヒューム、5…ヒューム吸引管、7…電気炉。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒作用を有する酸化タングステン微粒子を含み、かつ金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムを少なくとも含むことを特徴とする酸化タングステン可視光応答光触媒塗料。
【請求項2】
金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウムを含む酸化タングステンからなる第1の層と、金属酸化物バインダーとしての酸化アルミニウムを含む酸化タングステン若しくは金属酸化物バインダーとしての酸化アルミニウムからなる第2の層が積層されて形成されていることを形成されていることを特徴とする請求項1記載の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料。
【請求項3】
金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムを含む酸化タングステンからなる層が形成されていることを特徴とする請求項1記載の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料。
【請求項4】
光触媒作用を有する酸化タングステン微粒子を含み、かつ酸化タングステン粒子自身をバインダーとして用いることを特徴とする酸化タングステン可視光応答光触媒塗料。
【請求項5】
酸化タングステン微粒子の平均粒子径は0.01〜0.1μmであることを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料。
【請求項6】
単斜晶系の結晶構造を有することを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料。
【請求項1】
光触媒作用を有する酸化タングステン微粒子を含み、かつ金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムを少なくとも含むことを特徴とする酸化タングステン可視光応答光触媒塗料。
【請求項2】
金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウムを含む酸化タングステンからなる第1の層と、金属酸化物バインダーとしての酸化アルミニウムを含む酸化タングステン若しくは金属酸化物バインダーとしての酸化アルミニウムからなる第2の層が積層されて形成されていることを形成されていることを特徴とする請求項1記載の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料。
【請求項3】
金属酸化物バインダーとしての酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムを含む酸化タングステンからなる層が形成されていることを特徴とする請求項1記載の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料。
【請求項4】
光触媒作用を有する酸化タングステン微粒子を含み、かつ酸化タングステン粒子自身をバインダーとして用いることを特徴とする酸化タングステン可視光応答光触媒塗料。
【請求項5】
酸化タングステン微粒子の平均粒子径は0.01〜0.1μmであることを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料。
【請求項6】
単斜晶系の結晶構造を有することを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載の酸化タングステン可視光応答光触媒塗料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−231382(P2008−231382A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77339(P2007−77339)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000003757)東芝ライテック株式会社 (2,710)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000003757)東芝ライテック株式会社 (2,710)
【Fターム(参考)】
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