説明

酸化タングステン系光触媒、及びその製造方法

【課題】可視光照射下において、高い触媒活性を発現する酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】酸化チタンゾル中に銅イオン担持酸化タングステン粒子を均一に分散させた溶液に尿素を溶解させた後、尿素を熱分解することにより、銅イオン担持酸化タングステンの表面に酸化チタンを析出させ担持することを特徴とする、酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒の製造方法、及びその方法で得られる大気中での紫外線照射前後における拡散反射率(波長700nm)の変化率が3%未満で、酸化チタンが酸化タングステン上に1〜100nmの大きさで島状に担持されている酸化チタンと銅イオンが担持された共修飾酸化タングステン光触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化チタンと銅イオンを担持した酸化タングステン光触媒及びその製造方法に関する。さらに詳しく言えば、400nm以上の可視光線の照射下における触媒活性が高く、長時間変色することなく触媒性能が持続し、抗菌、抗ウィルス、消臭、防臭、大気の浄化、水質の浄化等に有用な、酸化チタンと銅イオンを担持した酸化タングステン光触媒、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは、光触媒として幅広く知られている物質であるが、紫外線のない場所ではほとんど機能しない。そのため、可視光線を利用できる酸化タングステン光触媒に関する研究が広く行われている。
【0003】
酸化タングステン粒子を単独で使用した光触媒は、可視光線が照射されると、光励起により価電子帯と伝導帯にそれぞれ正孔と電子が生成するが、伝導帯が酸素の酸化還元準位よりも低く、伝導帯に励起された電子では酸素の還元ができず、活性酸素種の生成量が不十分なものとなるため、可視光線が照射される環境下では光触媒活性を示さない。
そこで、可視光線照射下での触媒活性を向上させる試みとして、酸化タングステン表面に助触媒を担持した触媒が提案されている。例えば、白金を担持させたものは、可視光線照射下で光触媒活性を発現できる(特開2009−160566号公報(特許文献1))。しかし、白金のような貴金属は、その希少性からコストが高いという問題がある。一方、比較的安価な銅を銅イオンまたは酸化銅として担持させた、可視光照射下で光触媒活性を発現できる酸化タングステン光触媒が提案されている(特開2008−149312号公報(特許文献2)、特開2009−226299号公報(特許文献3))。
【0004】
また、光触媒活性を高めるために、他の光触媒を組み合わせる試みも行われている。例えば、窒素ドーピング酸化チタンと酸化タングステンを組み合わせたもの、及び酸化鉄を担持した酸化チタンと酸化タングステンを担持したゼオライトを組み合わせたもの(光触媒体)が、高い光触媒活性を示すことが開示されている(特開2007−98294号公報(特許文献4))。さらに、酸化チタン及び酸化タングステンを共存させ、少なくともその一方にCu、Pt、Au、Pd、Ag、Fe、Nb、Ru、Ir、Rh及びCoから選ばれる少なくとも1種の金属原子を含有する電子吸引性物質またはその前駆体を担持させた光触媒体も提案されている(特開2011−20009号公報(特許文献5))。しかし、特許文献4及び5の光触媒体では、2種の光触媒の混合を、乾式または湿式での単純な混練法により行っているため、ナノ粒子である酸化チタンと酸化タングステンをナノレベルで均一に混合するのが困難であり、結果として高い活性は得られていない。
【0005】
また、光触媒は、光照射下で使用していると、触媒自身が劣化し、また助触媒の金属粒子が凝集するなどして光触媒が変色することがあり、その対応策が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−160566号公報
【特許文献2】特開2008−149312号公報
【特許文献3】特開2009−226299号公報
【特許文献4】特開2007−98294号公報
【特許文献5】特開2011−20009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酸化タングステンと酸化チタンの複合触媒では、高い活性を発現するために、酸化タングステンに酸化チタンを高分散状態で担持する必要があるが、乾式法や湿式法による単純な混練では、混合状態が不均一になりやすく、結果として高活性の光触媒にならないという問題がある。また、長期間光触媒を使用していると、触媒が劣化し、また助触媒の金属粒子が凝集するなどして、光触媒が変色するという問題がある。
従って、生産性が高く、可視光照射下での光触媒活性が高く、かつ変色が少ない酸化チタンと酸化タングステン複合触媒の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、このような状況下において生産性が高く、使用条件下での変色が少なく、可視光照射下において高い触媒活性を発現し得る、酸化チタンと酸化タングステンとの複合系光触媒、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、銅イオンを担持した酸化タングステン粒子に酸化チタンを複合化して、銅イオンと酸化チタンを担持した酸化タングステン光触媒を製造するに際して、酸化チタンゾル中に尿素を共存させ、加熱して尿素を加水分解処理することにより、酸化チタンを高分散状態のままで酸化タングステン上に均一に担持でき、可視光照射下での触媒活性が従来のものに比べて2〜4倍向上し、かつ使用条件下での変色が少ない、酸化チタンと銅イオンを担持した酸化タングステン光触媒を効率よく製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
なお、本明細書において、光触媒とは、半導体の性質を有し、バンドギャップ以上の光を吸収することによって正孔と電子を生成し、それらが化学反応に関与することにより触媒作用を示す物質を指す。また、助触媒とは、光触媒により生成する正孔または電子を捕捉する、反応基質の吸着量を増加させる、または光触媒表面で起こる化学反応の活性化エネルギーを下げる役割をする物質を指す。400nm以上の可視光を照射する場合、酸化チタンは光触媒として機能せず、酸化タングステンのみが光触媒として機能し、酸化チタン及び銅イオンは助触媒として機能する。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[5]の酸化チタンと銅イオンを担持した酸化タングステン光触媒の製造方法、及び[6]〜[10]の酸化チタンと銅イオンを担持した酸化タングステン光触媒を提供する。
[1]酸化チタンゾル中に銅イオン担持酸化タングステン粒子を均一に分散させた溶液に尿素を溶解させた後、尿素を熱分解することにより、銅イオン担持酸化タングステンの表面に酸化チタンを析出させ担持することを特徴とする、酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒の製造方法。
[2]尿素の熱分解を60〜95℃で行う前項1に記載の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒の製造方法。
[3]銅イオン担持酸化タングステン粒子100質量部に対して尿素を5〜20質量部添加する前項1または2に記載の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒の製造方法。
[4]前記酸化チタンゾルが、四塩化チタン水溶液を60℃以上の熱水に混合し加水分解させることにより製造される水分散型酸化チタンゾルである前項1〜3のいずれかに記載の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒の製造方法。
[5]前記酸化チタンが、酸化タングステン上に1〜100nmの大きさで島状に担持されている前項1〜4のいずれかに記載の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒の製造方法。
[6]尿素を含む酸化チタンゾル中に銅イオン担持酸化タングステン粒子を分散させた後、尿素を熱分解することによって、銅イオン担持酸化タングステンの表面に酸化チタンを均一に担持させてなり、大気中で中心波長365nmの紫外線を照度1mW/cm2にて72時間照射した前後における拡散反射率(波長700nm)の変化率が3%未満であることを特徴とする酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒。
[7]銅イオンの担持量が、酸化タングステン100質量部に対し金属(Cu)換算で0.01〜0.06質量部である前項6に記載の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒。
[8]酸化チタンと銅イオンを担持した酸化タングステンの質量比が、1:99〜20:80である前項6または7に記載の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒。
[9]前記酸化チタンの結晶型が、アナターゼ型及び/またはブルッカイト型である前項6〜8のいずれかに記載の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒。
[10]前記酸化チタンが、酸化タングステン上に1〜100nmの大きさで島状に担持されている前項6〜9のいずれかに記載の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、使用条件下での変色が少なく、可視光照射下において高い触媒活性を発現する酸化チタンと銅イオンを担持した酸化タングステン光触媒を生産性よく提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1の酸化チタンと銅イオンを担持した酸化タングステン光触媒の走査型電子顕微鏡による二次電子像写真である。
【図2】実施例1の酸化チタンと銅イオンを担持した酸化タングステン光触媒の走査型電子顕微鏡による反射電子像写真である。
【図3】実施例1の酸化チタンと銅イオンを担持した酸化タングステン光触媒の紫外線照射前と紫外線照射後の拡散反射スペクトル、及び比較例2の酸化チタンと銅イオンを担持した酸化タングステン光触媒の紫外線照射後の拡散反射スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の酸化チタンと銅イオンを担持した酸化タングステン光触媒の製造方法について説明する。
本発明の酸化チタンと銅イオンを担持した酸化タングステンの製造方法は、銅イオンを担持した酸化タングステン粒子を分散させた弱酸性の溶液である酸化チタンゾルを弱塩基性の溶液に変化させることにより銅イオン担持酸化タングステンに酸化チタンを複合化処理する工程(複合化工程)、及びその後の遠心ろ過などによって固液分離する工程(脱水工程)からなる。
【0015】
複合化工程:
[銅イオン担持工程]
酸化タングステンとしては、タングステンが4価と6価の間の価数を持つ複数のものが知られているが、本発明では、粒子状のWO3を用いることが好ましい。酸化タングステン粒子の調製方法としては、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸アンモニウムなどのタングステン酸塩の水溶液を加温し、塩酸や硝酸を混合してタングステン酸を得た後、洗浄、乾燥、焼成を行って得る方法が挙げられる。またタングステン酸アンモニウムを熱分解して酸化タングステン粒子を得ることもできる。
【0016】
酸化タングステンを銅イオンで修飾し、銅イオン担持酸化タングステンを得る方法(銅イオン担持工程)としては、例えば酸化タングステン粉末を、銅二価塩(塩化銅、酢酸銅、硫酸銅、硝酸銅など)、好ましくは塩化銅(II)の極性溶媒溶液(好ましくは水溶液)に加え混合して、乾燥処理し、酸化タングステン表面に銅イオンを担持させる方法を用いることができる。
【0017】
銅イオンの担持量は、酸化タングステン100質量部に対し金属(Cu)換算で0.01〜0.06質量部が好ましく、0.02〜0.06質量部がより好ましく、0.02〜0.04質量部が最も好ましい。
担持量が0.01質量部以上であることで光触媒とした際の光触媒能が良好なものとなる。0.06質量部以下であることで、銅イオンの凝集が起こりにくく、光触媒とした際の光触媒能が低下するのを防ぐことができる。
【0018】
[複合化処理工程]
複合化処理工程では、銅イオン担持酸化タングステンに酸化チタンを担持させる。
酸化チタンとしては、含水酸化チタン、水酸化チタン、チタン酸、アモルファス、アナターゼ型結晶、ブルッカイト型結晶、ルチル型結晶等の酸化チタンが用いられる。これらの中で、一般的に高比表面積を持つ微粒子で得られやすいアナターゼ型結晶、またはブルッカイト型結晶が好ましい。
【0019】
具体的には、銅イオン担持酸化タングステン粒子を酸化チタンゾルに分散させた後、分散液のpHをpH4程度の弱酸性域からpH9程度の弱塩基性へ変化させることにより、酸化チタンの分散性が低下し、酸化タングステン粒子表面に吸着されることによって、酸化チタンを複合化させる。pHを変化させない場合には、酸化チタンと酸化タングステンとの複合化が十分に起こらず、活性が低い複合粒子になる。
【0020】
pHの変化は、酸化チタンゾル中において場所によってpHが異ならないように、均一に進むように操作することが重要である。銅イオン担持酸化タングステン粒子が分散した酸化チタンゾル溶液に水酸化ナトリウム、アンモニア、エチレンジアミン等の塩基性物質を加えると、添加点のpHのみが上昇するというようなpH変化が局所的に生じ、酸化チタンのみからなる凝集物の生成が支配的に進行し、酸化タングステンと酸化チタンの複合が不均一となり、活性が低い複合粒子になる。
【0021】
本発明において、溶液全体のpHを均一に変化させる手法として、尿素加水分解法が採用できる。尿素加水分解法は、酸化チタンゾル中に均一に溶解した尿素が分解することにより溶液内のpHを部分的な片寄りなく変化させることができる上、加水分解生成物が光触媒の不純物にならないアンモニアと二酸化炭素であるため好ましい。これらの方法によって、銅イオン担持酸化タングステン上に酸化チタンを高分散状態で担持することができる。
【0022】
尿素を溶解する温度は、室温〜40℃が好ましい。40℃を超えると添加した途端に尿素が分解してしまう。
尿素の熱分解温度は、特に制限されないが、60〜95℃が好ましく、80〜95℃がより好ましい。60℃以上に加熱することにより尿素の熱分解が効率よく起こり、溶液のpH変化を速やかに進行させることができる。
【0023】
尿素の添加量は、特に制限されないが、銅イオン担持酸化タングステン100質量部に対して5〜20質量部が好ましく、10〜15質量部がより好ましい。20質量部より多く存在していても、溶液のpHが大きく変化しないため、20質量部より多く加える必要はない。5質量部より少ない場合は、溶液のpH変化が少ないため、複合化が十分に進行しない。
【0024】
複合化時間としては、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。30分以上で処理することにより、複合化が均一に進行する。また、1時間以上で処理することにより、尿素の殆どが分解して二酸化炭素とアンモニアとなり、不活化の原因となる不純物の影響が少なくなるため好ましい。
【0025】
銅イオンを担持した酸化タングステンに複合化させる酸化チタンとしては、比表面積の大きい微粒子を用いることが好ましい。酸化チタンのBET法での比表面積は、特に制限されないが、100m2/g以上が好ましく、150m2/g以上がさらに好ましく、300m2/g以上が最も好ましい。比表面積が100m2/g以上であると、銅担持酸化タングステン上に酸化チタンが高分散状態に担持され、高活性の光触媒となる。
【0026】
本発明で使用する酸化チタン分散液(酸化チタンゾル)としては、触媒活性低下の原因となるコンタミネーションを考慮すると、シリカやアルミナなどの無機化合物やヒドロキシカルボン酸などの有機化合物を分散剤として使用していないものが好ましい。
【0027】
酸化チタンゾルの製造方法としては、例えば、塩化チタン等の水溶液を加水分解することによって、酸化チタンゾル(スラリー)を得ることができる。加水分解時の溶液の条件を変えることによって、任意の大きさ、結晶形に作りわけて高分散性の微粒子アナターゼ型酸化チタンゾル、またはブルッカイト型酸化チタンゾルを得ることができる。
【0028】
高分散性の微粒子アナターゼ型酸化チタンゾルは、液相法で四塩化チタンを加水分解して酸化チタンゾルを製造する方法において、80℃以上の水に、その温度を維持しながら四塩化チタン水溶液を60秒以内に混合し、その後15分以内に60℃未満に冷却することにより製造することができる。
【0029】
酸化チタンの分散性は、BET比表面積から換算した平均1次粒子径(DBET)と動的光散乱法によって測定した50%累積個数粒度分布径(D50DLS)との関係を示す次式(1)
【数1】

の係数kで評価することができ、係数kが5未満、さらに好ましくは2未満、最も好ましくは1.5未満で非常に高い分散性を持つことになる。
【0030】
平均1次粒子径(DBET)(nm)は、BET1点法により、酸化チタンの比表面積S(m2/g)を測定し、下式(2)
【数2】

より算出する。ここでρは酸化チタンの密度(g/cm3)を示し、アナターゼ型結晶を主成分とするときはρ=4と近似する。
【0031】
動的光散乱法による平均粒子径の測定には、動的光散乱法粒度測定装置(大塚電子(株)製,ELSZ−2)を使用し、酸化チタンゾルの固形分濃度が2質量%になるように調整した後、pHメーター((株)堀場製作所製D−51)でモニターしながら塩酸でpHを3.5(25℃)に調整し、粒度分布を測定して50%累積個数粒度分布径(D50DLS)の値を得ることができる。
【0032】
ブルッカイト型酸化チタンゾルは、四塩化チタン水溶液を熱水中に投入することにより加水分解して作ることができ、加水分解及び熟成温度を60〜100℃とし、熱水中へ四塩化チタン水溶液を滴下する速度を0.6g/分から2.1g/分とすることで得ることができる。
【0033】
ブルッカイト型結晶の含有量は、10質量%の酸化ニッケルを内標準物質として用いたリートベルト解析で求めることが可能である。各結晶の存在比をパナリティカル(Panalytical)社のX' Pert High Score Plusプログラム中のリートベルト解析ソフトにて求めることができる。
【0034】
(2)脱水工程:
脱水工程では、銅イオン担持酸化タングステンを酸化チタンと複合化させた後の分散液をろ過などによって固液分離する。これにより、余分な溶媒を除去することができ、乾燥時間を大きく短縮できる。
【0035】
脱水工程における固液分離法では、遠心分離機を使用するが、スパークラフィルター、フィルタープレス、シュナイダーフィルター、固液分離機などを用いても良い。ろ布の材質は特に制限がないが、通気度0.05〜3cc/cm2/secのものが好ましい。通気度が0.05cc/cm2/sec以上あることで、速やかに固液分離することができる。一方、3cc/cm2/secを超える粗いろ布であると、ロスが多くなるため好ましくない。
【0036】
[酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒]
本発明の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒は、上述の本発明の製造方法により得ることができる。
すなわち、本発明の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒は尿素を含む酸化チタンゾル中に銅イオン担持酸化タングステン粒子を分散させた後、尿素を熱分解することによって、銅イオン担持酸化タングステンの表面に酸化チタンを均一に担持させてなり、大気中での紫外線照射前後における拡散反射率(波長700nm)の変化率が3%未満であることを特徴とし、色調の変化が見られない。なお、紫外線照射の条件は実施例に記載の通りである。
【0037】
なお、上記拡散反射率の変化率(Y%)は、紫外線照射前の拡散反射率をA%、紫外線照射後の拡散反射率をB%としたとき、下記式(3)で算出される値である。
【数3】

【0038】
本発明の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒が、大気中での紫外線照射前後で、分光光度計による700nmにおける拡散反射率の変化率が低く色調が変化しにくい理由は必ずしも明らかではないが、銅イオン担持酸化タングステンに酸化チタンを複合化させると同時に、尿素の分解で発生するアンモニアによりケミカルエッチングが行われていることによると考えられる。
【0039】
銅イオン担持酸化タングステン上の酸化チタンの担持量は、1〜20質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましい。担持量が1質量%以上あることで光触媒とした際の光触媒機能を良好なものとすることができる。担持量が20質量%より多くなると、酸化タングステンの可視光領域の光吸収を阻害することになり、光触媒活性を低下させることになる。
【0040】
本発明の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒は、酸化チタンが銅イオン担持酸化タングステン上で島状に担持されていることが好ましい。島の大きさは1〜100nmが好ましく、1〜50nmの大きさがより好ましい。50nmより小さい島状に担持することによって、酸化チタンの助触媒機能が高くなる。島の大きさが100nmより大きくても、また島状でない場合でも、酸化タングステンと酸化チタンとの接点部が小さくなるため、電荷移動の効率が悪くなる。島の大きさ及び状態は電子顕微鏡による二次電子像観察及び反射電子像観察によって確認することができる。
【0041】
本発明の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒は波長420nm以上の可視光下においても高い触媒能を発現し、粉末状のみならず、複合粒子のまま溶媒に再懸濁することにより薄膜等の種々の形態で使用することができる。
【0042】
本発明の光触媒の機能は、例えば系内に光触媒粉末とアルデヒド類等の有機化合物等の環境に悪影響を与える物質が存在したときに、光照射下において、暗所と比較した場合に有機物の濃度の低下と酸化分解物である二酸化炭素濃度の増加が見られることで確認できる。本発明の光触媒の機能はこれには限定されず、抗菌、抗ウィルス、消臭、防汚、大気の浄化、水質の浄化等の環境浄化のような機能が含まれる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を参考例、実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
なお、各例で得られた光触媒粉末の諸特性は以下に示す方法に従って求めた。
【0044】
(1)二酸化炭素発生速度
密閉式のガラス製反応容器(容量0.5L)内に、直径1.5cmのガラス製シャーレを配置し、そのシャーレ上に、各実施例、比較例で得られた光触媒粉末0.3gを置いた。反応容器内を酸素と窒素との体積比が1:4である混合ガスで置換し、5.2μLの水(相対湿度50%相当(25℃))、5.1%アセトアルデヒド(25℃・1気圧の標準状態の窒素との混合ガスとして)を5.0mL封入し、反応容器の外から可視光線を照射した。可視光線の照射には、キセノンランプに、波長400nm以下の紫外線をカットするフィルター(商品名:L−42,旭テクノグラス)を装着した光源を用いた。アセトアルデヒドの酸化的分解生成物である二酸化炭素の発生速度をガスクロマトグラフィーで経時的に測定した。光触媒活性の評価は1時間あたりの二酸化炭素の発生量で行った。
【0045】
(2)拡散反射率
<紫外線の照射条件>
底面積36cm2のシャーレに、酸化チタン、銅イオン共修飾酸化タングステン光触媒粉末3gを入れ、瓶の底を押しつけて平らにならした上で(厚さは3mm程度)、光源としてブラックライトを用い、大気中にてシャーレ上の光触媒粉末に、中心波長365nmの紫外線を、照度1mW/cm2にて72時間照射した。照度は、カスタム社製LX−1332で測定した。
【0046】
<拡散反射率の測定条件>
明細書本文に記載の方法に従い、ブラックライトとして、日立社製、機種名「FL20S BL」を、分光光度計として、(株)島津製作所製、積分球付の分光光度計、機種名「UV−2400PC」を用い、大気中、中心波長365nmの紫外線を72時間照射前後における波長700nmの拡散反射率を測定すると共に、拡散反射率の変化率を算出した。
【0047】
参考例1:銅イオン担持酸化タングステンの調製
酸化タングステン(WO3)粉末500gを塩化銅水溶液4L(WO3100質量部に対してCuとして0.1質量部相当)に添加した。次いで、撹拌しながら90℃1時間加熱処理を行った後、吸引ろ過にて洗浄回収し、120℃で1昼夜乾燥後、メノウ乳鉢にて粉砕し、銅イオンが0.04質量部担持された銅イオン担持酸化タングステン粉末(Cu/WO3)を得た。
ここで、銅イオンの定量はCu/WO3をHCl中に分散させて銅イオンを抽出し、ろ過した抽出液を誘導結合プラズマ(ICP)分析することによって行った。
なお、銅イオンは、蛍光X線分析(XRF)によっても定量可能である。
【0048】
参考例2:ブルッカイト型酸化チタンゾルの調製
イオン交換水690mLを還流冷却器付きの反応槽に注入し、95℃に加温してそれを維持した。撹拌速度を300rpmに保ちながら、ここに18質量%四塩化チタン水溶液60gを1g/分の速度で反応槽に滴下した。反応槽中では反応液が滴下直後から、白濁し始めたがそのままの温度で保持し、滴下終了後さらに昇温し沸点付近の温度で60分間維持した後、室温まで放冷した。その後、反応で生じた塩酸を電気透析装置にて除去し、水分散酸化チタンゾル(粉末のBET比表面積:167m2/g、k=1.9)を得た。
【0049】
参考例3:アナターゼ型酸化チタンゾルの調製
イオン交換水690mLを櫛形撹拌機付き反応槽に入れ、95℃に予熱した。撹拌は300rpmに保ちながら、ここに室温の18質量%四塩化チタン水溶液50gを30秒間で滴下し、反応槽内で撹拌混合した。投入後も混合液は95℃を4分間維持した。その反応槽を氷浴中にて、1分未満で50℃まで冷却した。反応で生じた塩酸を電気透析装置にて除去し、水分散酸化チタンゾル(粉末のBET比表面積:350m2/g、k=1.1)を得た。
【0050】
実施例1:
参考例1で得られた銅イオンが0.04質量部担持された酸化タングステン粉末45gを、参考例2で得られたTiO2ゾル500g(TiO2として5g)に懸濁させ、銅イオン担持酸化タングステンに対して9g(20質量部)の尿素を室温で加え、加熱して90℃で1時間撹拌した。その後、遠心分離機にて固液分離した後、ケーキを120℃で乾燥し、室温まで放冷した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、本発明の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒を得た。
得られた光触媒の電子顕微鏡による二次電子像を図1に示し、反射電子像を図2に示す。図2の反射電子像中の黒色部分が酸化チタンであり、図1と図2から、50nm以下の酸化チタンが、酸化タングステンの表面に島状に担持されていることが確認できる。
【0051】
実施例2:
参考例1で得られた銅イオンが0.04質量部担持された酸化タングステン粉末45gを、参考例2で得られたTiO2ゾル500g(TiO2として5g)に懸濁させ、4.5g(10質量部)の尿素を室温で加え、加熱して90℃で1時間撹拌した。その後、遠心分離機にて固液分離した後、ケーキを120℃で乾燥し、室温まで放冷した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、本発明の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒を得た。
【0052】
実施例3:
参考例1で得られた銅イオンが0.04質量部担持された酸化タングステン粉末45gを、参考例3で得られたTiO2ゾル500g(TiO2として5g)に懸濁させ、9g(20質量部)の尿素を室温で加え、加熱して90℃で1時間撹拌した。その後、遠心分離機にて固液分離した後、ケーキを120℃で乾燥し、室温まで放冷した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、本発明の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒を得た。
【0053】
実施例4:
参考例1で得られた銅イオンが0.04質量部担持された酸化タングステン粉末45gを、参考例3で得られたTiO2ゾル500g(TiO2として5g)に懸濁させ、4.5g(10質量部)の尿素を室温で加え、加熱して90℃で1時間撹拌した。その後、遠心分離機にて固液分離した後、ケーキを120℃で乾燥し、室温まで放冷した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、本発明の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒を得た。
【0054】
実施例5:
参考例1で得られた銅イオンが0.04質量部担持された酸化タングステン粉末45gを、参考例2で得られたTiO2ゾル500g(TiO2として5g)に懸濁させ、2.25g(5質量部)の尿素を室温で加え、加熱して90℃で1時間撹拌した。その後、遠心分離機にて固液分離した後、ケーキを120℃で乾燥し、室温まで放冷した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、本発明の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒を得た。
【0055】
実施例6:
参考例1で得られた銅イオンが0.04質量部担持された酸化タングステン粉末42.5gを、参考例2で得られたTiO2ゾル750g(TiO2として7.5g)に懸濁させ、9g(20質量部)の尿素を室温で加え、加熱して90℃で1時間撹拌した。その後、遠心分離機にて固液分離した後、ケーキを120℃で乾燥し、室温まで放冷した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、本発明の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒を得た。
【0056】
比較例1:
参考例1で得られた、銅イオンが0.04質量部担持された酸化タングステン光触媒粉末を比較例1の光触媒とした。
【0057】
比較例2:
参考例1で得られた銅イオンが0.04質量部担持された酸化タングステン粉末45gを、参考例2で得られたTiO2ゾル500g(TiO2として5g)に懸濁させ、尿素を添加せずに、加熱して90℃で1時間撹拌した。その後、遠心分離機にて固液分離した後、ケーキを120℃で乾燥し、室温まで放冷した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、酸化チタンと銅イオンが担持された比較例2の酸化タングステン光触媒を得た。
【0058】
比較例3:
参考例1で得られた銅イオンが0.04質量部担持された酸化タングステン粉末45gを、参考例2で得られたTiO2ゾル500g(TiO2として5g)に懸濁させ、アンモニアを添加し、pHを9に変化させ、1時間撹拌した。その後、遠心分離機にて固液分離した後、ケーキを120℃で乾燥し、室温まで放冷した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、酸化チタンと銅イオンが担持された比較例3の酸化タングステン光触媒を得た。
【0059】
比較例4:
参考例1で得られた銅イオンが0.04質量部担持された酸化タングステン粉末45gを、参考例3で得られたTiO2ゾル500g(TiO2として5g)に懸濁させた後、固液分離せずに、120℃で静置乾燥し、室温まで放冷した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、酸化チタンと銅イオンが担持された比較例4の酸化タングステン光触媒を得た。
【0060】
以上の実施例1〜6及び比較例1〜4の光触媒粉末について得られた拡散反射率及び二酸化炭素発生速度のデータを表1に示す。
【表1】

【0061】
上記の表1の結果から、本発明の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒は、銅イオン担持酸化タングステン光触媒(比較例1)と比べて、最大で約4倍の速度で二酸化炭素を生成しており、明らかに光触媒活性が向上している。さらに、紫外線照射後の拡散反射率の変化がほとんどないことがわかる。
【0062】
また、比較例2〜4では、銅イオン担持酸化タングステン光触媒(比較例1)よりも活性は向上しているが、その効果は2倍にも達しておらず、実施例と比べて活性向上効果は明らかに低い。これは、比較例2〜4では、酸化チタンと酸化タングステンが単に物理的に混合された状態となっており、実施例1〜6のように酸化チタンが酸化タングステン粒子表面に均一に吸着されていないためと考えられる。
【0063】
酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒における感光は、触媒表面上での銅イオンの拡散、凝集、及び光エネルギーによる還元反応を生じさせる。
【0064】
図3に実施例1の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒の紫外線照射前と紫外線照射後の拡散反射スペクトル、及び比較例2の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒の紫外線照射後の拡散反射スペクトルを示す。図3より、比較例2の紫外光を照射する前の銅イオン担持酸化タングステンの700nmにおける拡散反射率は93%であり、その色調は鮮やかな黄色であるが、紫外光照射後の比較例2のサンプルでは、700nmにおける拡散反射率が87%となり、色調もくすんだ黄色になる。尿素の熱分解で生じるアンモニアによるケミカルエッチングによる触媒表面の状態変化が銅イオンの拡散、凝集の抑制効果を起こし、非感光特性が付与されることが期待されるが、実施例1のサンプルでは、紫外線を照射しても700nmにおける拡散反射率が92%と、光を当てる前と比べてほとんど変化しておらず非感光特性を有していることがわかる。実際の色調においても、実施例1のサンプルでは酸化タングステン由来の黄色い発色を保っていたのに対して、比較例2のサンプルではくすんだ黄色になっていた。
【0065】
以上から、本発明の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒は、使用条件下での変色が少なく、生産性が高く、可視光照射下において高い触媒活性を発現し得ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒は、可視光線照射下における触媒活性をより高く発現し得る光触媒であって、抗菌、抗ウィルス、消臭、防臭、大気の浄化、水質の浄化等に有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンゾル中に銅イオン担持酸化タングステン粒子を均一に分散させた溶液に尿素を溶解させた後、尿素を熱分解することにより、銅イオン担持酸化タングステンの表面に酸化チタンを析出させ担持することを特徴とする、酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒の製造方法。
【請求項2】
尿素の熱分解を60〜95℃で行う請求項1に記載の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒の製造方法。
【請求項3】
銅イオン担持酸化タングステン粒子100質量部に対して尿素を5〜20質量部添加する請求項1または2に記載の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒の製造方法。
【請求項4】
前記酸化チタンゾルが、四塩化チタン水溶液を60℃以上の熱水に混合し加水分解させることにより製造される水分散型酸化チタンゾルである請求項1〜3のいずれかに記載の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒の製造方法。
【請求項5】
前記酸化チタンが、酸化タングステン上に1〜100nmの大きさで島状に担持されている請求項1〜4のいずれかに記載の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒の製造方法。
【請求項6】
尿素を含む酸化チタンゾル中に銅イオン担持酸化タングステン粒子を分散させた後、尿素を熱分解することによって、銅イオン担持酸化タングステンの表面に酸化チタンを均一に担持させてなり、大気中で中心波長365nmの紫外線を照度1mW/cm2にて72時間照射した前後における拡散反射率(波長700nm)の変化率が3%未満であることを特徴とする酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒。
【請求項7】
銅イオンの担持量が、酸化タングステン100質量部に対し金属(Cu)換算で0.01〜0.06質量部である請求項6に記載の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒。
【請求項8】
酸化チタンと銅イオンを担持した酸化タングステンの質量比が、1:99〜20:80である請求項6または7に記載の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒。
【請求項9】
前記酸化チタンの結晶型が、アナターゼ型及び/またはブルッカイト型である請求項6〜8のいずれかに記載の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒。
【請求項10】
前記酸化チタンが、酸化タングステン上に1〜100nmの大きさで島状に担持されている請求項6〜9のいずれかに記載の酸化チタンと銅イオンが担持された酸化タングステン光触媒。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−13886(P2013−13886A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−114350(P2012−114350)
【出願日】平成24年5月18日(2012.5.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】