説明

酸化タンタルメソ多孔体微粒子およびその製造方法

【課題】粒子径が小さく且つメソ細孔構造を有し、吸着性能や触媒活性に優れた酸化タンタルメソ多孔体微粒子を提供すること。
【解決手段】平均粒子径が100nm以下であり、窒素吸着等温線において相対圧P/Pが0.99の場合の窒素吸着量がP/Pが0.90の場合の1.4倍以上であることを特徴とする酸化タンタルメソ多孔体微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化タンタルメソ多孔体微粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化タンタルは、電解コンデンサの誘電体、光学材料や光触媒など、多岐にわたる用途がある半導体材料として知られている。例えば、酸化タンタルに紫外線を照射すると水が完全分解することが報告されており、有用な光触媒材料として期待されている。
【0003】
このような酸化タンタルについては、高機能化の目的で、酸化タンタルの構造を制御する試みも検討されている。例えば、Chem.Mater.、1996年、第8巻、874−881頁(非特許文献1)には、界面活性剤であるアミン化合物の存在下でタンタル原料に少量の水を添加して酸化タンタル/界面活性剤複合粒子を調製し、これに水熱合成処理を施して多孔体前駆体粒子を生成させ、前記多孔体前駆体粒子から界面活性剤を除去することによって酸化タンタルメソ多孔体粒子を調製する方法が開示されている。また、Chem.Mater.、2001年、第13巻、1200−1206頁(非特許文献2)には、非特許文献1に記載の方法においてスプレーを用いて少量の水を添加することによって非特許文献1の酸化タンタルメソ多孔体粒子より粒子径の小さい酸化タンタルメソ多孔体粒子が得られることが開示されている。これらの酸化タンタルメソ多孔体粒子においては、比表面積が350〜400m/gと非常に高い値であったが、粒子径については、SEM写真から判断すると、粒子径が小さい非特許文献2の酸化タンタルメソ多孔体粒子であってもその大部分は数100nm〜1μmであり、中には塊状の粒子も存在していた。
【0004】
また、Chem.Mater.、1999年、第11巻、2813−2826頁(非特許文献3)およびChem.Lett.、2005年、第34巻、第3号、394−395頁(非特許文献4)には、トリブロック共重合体界面活性剤を用いて合成した酸化タンタルメソ多孔体が開示されている。ここで得られる酸化タンタルメソ多孔体はフィルム状のものであるため、酸化タンタルメソ多孔体粒子を得るには粉砕する必要があるが、この場合、粒子の形状やサイズを制御することは容易ではなかった。
【0005】
さらに、従来の酸化タンタルメソ多孔体粒子や酸化タンタル微粒子においては吸着性能や触媒活性が十分ではなく、より吸着性能や触媒活性に優れた酸化タンタル材料が求められていた。
【0006】
一方、Chem.Mater.、2008年、第20巻、5361−5367頁(非特許文献5)には、トリブロック共重合体界面活性剤を用いて合成したタンタル系酸化物メソ多孔体を、多孔構造を維持したまま結晶化させる方法が開示されており、多孔構造を維持して結晶化させることにより光触媒活性が向上する(具体的には、NiOを担持させたタンタル系酸化物メソ多孔体において紫外線照射による水の分解能が約8倍に向上した)ことも開示されている。しかしながら、このタンタル系酸化物メソ多孔体においても触媒活性は十分なものではなく、より触媒活性に優れた酸化タンタルメソ多孔体粒子が求められていた。また、このようなタンタル系酸化物メソ多孔体は、紫外光に応答する触媒として有用であるが、可視光に対する応答性が低く、太陽光を利用する場合などにおいてはさらに改良の余地があった。
【0007】
そこで、このような酸化タンタルを可視光応答性にする方法として、酸化タンタルに窒素原子を導入する方法が提案されている。例えば、特開2007−22858号公報(特許文献1)には、細孔構造を有するアモルファスの酸化タンタルを結晶化するとともに窒化することによって、結晶化した細孔構造を有する窒化タンタルを得る方法が開示されている。この窒化タンタルは可視光応答性を示し、光酸化反応においては有効な光触媒であるが、光還元反応における触媒活性は十分なものではなかった。
【0008】
また、J.Phys.Chem.B、2004年、第108巻、15803−15807頁(非特許文献6)においては、市販の酸化タンタル粉末をアンモニア雰囲気中、600〜850℃で3時間アニーリングすることによって、窒素がドープされた酸化タンタルを得ている。さらに、Appl.Phys.Lett.、2010年、第96巻、142111−1〜3頁(非特許文献7)においては、塩化タンタルのエタノール溶液にアンモニア溶液を添加して酸化タンタルのコロイド溶液を調製し、沈殿物にアンモニア処理を施すことによって、窒素がドープされた酸化タンタルを得ている。しかしながら、これらの方法で合成した窒素ドープの酸化タンタルは光触媒活性が十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−22858号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】D.M.Antonelliら、Chem.Mater.、1996年、第8巻、874−881頁
【非特許文献2】J.N.Kondoら、Chem.Mater.、2001年、第13巻、1200−1206頁
【非特許文献3】P.Yangら、Chem.Mater.、1999年、第11巻、2813−2826頁
【非特許文献4】K.Nakajimaら、Chem.Lett.、2005年、第34巻、第3号、394−395頁
【非特許文献5】Y.Nodaら、Chem.Mater.、2008年、第20巻、5361−5367頁
【非特許文献6】T.Muraseら、J.Phys.Chem.B、2004年、第108巻、15803−15807頁
【非特許文献7】T.Morikawaら、Appl.Phys.Lett.、2010年、第96巻、142111−1〜3頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、粒子径が小さく且つメソ細孔構造を有し、吸着性能や触媒活性に優れた酸化タンタルメソ多孔体微粒子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、タンタル原料およびアルキルアンモニウムハライドを含有する溶液と、所定のアルコール濃度の水/アルコール混合溶媒とを混合して酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子を形成させ、これに水熱処理を施した後、界面活性剤を除去することによって、粒子径が非常に小さく、メソ細孔構造を有する酸化タンタルメソ多孔体微粒子が得られること、ならびに、この酸化タンタルメソ多孔体微粒子が吸着性能や触媒活性に優れていることを見出した。また、本発明者らは、前記酸化タンタルメソ多孔体微粒子のメソ細孔構造を維持したまま酸化タンタルを結晶化させることによって触媒活性が向上することも見出した。さらに、本発明者らは、結晶化させた酸化タンタルメソ多孔体微粒子に窒素原子を含有させることによって可視光応答性を有する高活性な光触媒が得られることを見出した。そして、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子は、平均粒子径が100nm以下であり、窒素吸着等温線において相対圧P/Pが0.99の場合の窒素吸着量がP/Pが0.90の場合の1.4倍以上であることを特徴とするものである。本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子においては、中心細孔直径が1〜25nmであることが好ましい。
【0014】
また、本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子はアモルファス粒子であっても結晶化した粒子であってもよい。本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子がアモルファス粒子である場合には、その中心細孔直径としては1〜5nmが好ましく、また、窒素吸着等温線において相対圧P/Pが0.99の場合の窒素吸着量がP/Pが0.90の場合の2倍以上であることが好ましい。さらに、結晶化した粒子においては、窒素原子を1.0〜49.9原子%の割合で含有していることが好ましい。
【0015】
また、本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法は、
タンタル原料および下記式(1):
【0016】
【化1】

【0017】
[式(1)中、R、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表し、nは9〜25の整数である。]
で表される界面活性剤を含有する溶液と、アルコール濃度が80質量%未満の水とアルコールの混合溶媒とを、タンタル原子濃度が0.002〜0.03mol/L、界面活性剤濃度が0.002〜0.03mol/Lとなるように混合し、前記混合溶媒中で前記タンタル原料を反応させて酸化タンタル中に前記界面活性剤が導入された酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子を形成させる第一の工程と、
前記酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子に水熱処理を施して酸化タンタルメソ多孔体微粒子中に前記界面活性剤が導入された多孔体前駆体微粒子を形成させる第二の工程と、
前記多孔体前駆体微粒子中の前記界面活性剤を除去して酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得る第三の工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0018】
本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法において、タンタル原料としては、タンタルアルコキシドおよび塩化タンタルからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。また、アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコールおよびグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。このようなアルコールの濃度としては30質量%以上が好ましい。
【0019】
本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法において、
前記第二の工程では、拡張剤を含有する溶液中で前記酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子に水熱処理を施して酸化タンタルメソ多孔体微粒子中に前記界面活性剤および前記拡張剤が導入された多孔体前駆体微粒子を形成させ、且つ
前記第三の工程では、前記多孔体前駆体微粒子中の前記界面活性剤および前記拡張剤を除去して酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得ること、
が好ましい。
【0020】
また、本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法においては、
前記第三の工程で得られた前記酸化タンタルメソ多孔体微粒子の細孔内に炭素源を吸着させて該酸化タンタルメソ多孔体微粒子の細孔内に炭素源が導入された酸化タンタルメソ多孔体/炭素源複合微粒子を形成させる第四の工程と、
前記酸化タンタルメソ多孔体/炭素源複合微粒子を700〜890℃で加熱して前記酸化タンタルを結晶化させるとともに前記炭素源を炭化させて、結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子中に炭素が導入された結晶化多孔体前駆体微粒子を形成させる第五の工程と、
前記結晶化多孔体前駆体微粒子中の前記炭素を除去して結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得る第六の工程と、
をさらに含むことが好ましい。
【0021】
さらに、本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法においては、前記第六の工程で得られた前記結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子に、窒素源を含有する雰囲気中で加熱処理を施して、窒素原子を含有する結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得る第七の工程をさらに含むことが特に好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、粒子径が非常に小さく且つメソ細孔構造を有し、吸着性能や触媒活性に優れた酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A】実施例1で得られた酸化タンタルメソ多孔体微粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図1B】実施例4で得られた酸化タンタルメソ多孔体微粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図1C】比較例1で得られた酸化タンタルメソ多孔体粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図1D】比較例2で得られた酸化タンタルメソ多孔体粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例3で得られた酸化タンタルメソ多孔体微粒子の高分解能走査電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例1〜3で得られた酸化タンタルメソ多孔体微粒子のX線回折パターンを示すグラフである。
【図4】実施例5で得られた酸化タンタルメソ多孔体微粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例3〜5で得られた酸化タンタルメソ多孔体微粒子の窒素吸着等温線を示すグラフである。
【図6】比較例1〜2で得られた酸化タンタルメソ多孔体粒子の窒素吸着等温線を示すグラフである。
【図7】比較例4〜6で得られた酸化タンタルメソ多孔体粒子の窒素吸着等温線を示すグラフである。
【図8】実施例3〜5で得られた酸化タンタルメソ多孔体微粒子の細孔径分布を示すグラフである。
【図9】実施例3、実施例5、比較例4〜5、比較例7〜8で得られた酸化タンタル粒子の色素吸着量を示すグラフである。
【図10】実施例1、実施例4〜6、比較例1および比較例4〜8で得られた酸化タンタル粒子にPtを担持させた触媒の触媒性能を示すグラフである。
【図11】実施例11で得られた結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図12】実施例8で得られた酸化タンタルメソ多孔体微粒子、実施例10〜11で得られた結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子のX線回折パターンを示すグラフである。
【図13】実施例11で得られた結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子の窒素吸着等温線を示すグラフである。
【図14】実施例10〜11で得られた結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子、比較例8で得られた酸化タンタル粉末、比較例9、12で得られた結晶化酸化タンタル微粒子、および比較例10〜11で得られた結晶化酸化タンタルメソ多孔体粒子にPtを担持させた触媒の触媒性能を示すグラフである。
【図15】実施例14〜16で得られた、窒素原子を含有する結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子のX線回折パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0025】
先ず、本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子について説明する。本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子は100nm以下の平均粒子径を有するものである。平均粒子径が前記上限を超えると酸化タンタルメソ多孔体微粒子表面での物質の移動や拡散が起こりにくくなり、特に、酸化タンタルメソ多孔体微粒子を触媒や触媒担体として使用した場合には反応物の吸着や生成物の脱離が起こりにくくなり、また、吸着剤として使用した場合には吸着物質の吸着・脱離が起こりにくくなる。また、微粒子表面での物質の移動や拡散など、上記の現象が起こりやすくなるという観点から、前記平均粒子径としては90nm以下が好ましい。
【0026】
なお、前記平均粒子径は以下のようにして求められる。すなわち、酸化タンタルメソ多孔体微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真において無作為に抽出した微粒子の最大径と最小径を測定し、これらの平均値を当該微粒子の粒子径とする。この粒子径測定を無作為に抽出した50個の微粒子について実施し、これらの平均値(n=50)を酸化タンタルメソ多孔体微粒子の平均粒子径とする。
【0027】
また、本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子は、窒素吸着等温線において相対圧P/Pが0.99の場合の窒素吸着量がP/Pが0.90の場合の1.4倍以上(好ましくは1.8倍以上)となるものである。P/P=0.90での窒素吸着量に対するP/P=0.99での窒素吸着量の割合は、酸化タンタルメソ多孔体中の微粒子の割合を反映するものであり、P/P=0.95付近での窒素吸着量が急激に増大するのは、微粒子間の窒素吸着に起因するものであり、微粒子に特異な現象である。具体的には、酸化タンタルメソ多孔体がほぼ全て微粒子により構成される場合には前記窒素吸着量の割合は1.4倍以上(好ましくは1.8倍以上)となり、他方、酸化タンタルメソ多孔体が比較的大きな粒子である場合や大きな塊が含まれる場合には前記窒素吸着量の割合は1.4倍未満となる。なお、酸化タンタルメソ多孔体微粒子が後述するアモルファス粒子の場合には、微粒子の凝集の原因の1つである高温での加熱処理を行わないため、前記窒素吸着量の割合は通常2倍以上となる。
【0028】
なお、前記窒素吸着等温線は以下のようにして求められる。すなわち、酸化タンタルメソ多孔体微粒子を液体窒素温度(−196℃)に冷却して窒素ガスを所定の圧力で導入し、定容量式ガス吸着法または重量法によりその平衡圧における窒素吸着量を求める。次に、導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧における窒素吸着量を求める。得られた窒素吸着量を平衡圧に対してプロットすることにより窒素吸着等温線が得られる。
【0029】
本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子は、孔径が1〜50nm程度のメソ細孔構造を有するものであり、これにより、本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子は比表面積が大きくなり、吸着物質や反応物質の吸着量(付着量)または触媒担持量が増大して吸着性能や触媒活性が向上する。このような酸化タンタルメソ多孔体微粒子において、その中心細孔直径としては1〜25nmが好ましく、1〜22nmがより好ましい。中心細孔直径が前記下限未満になると助触媒、色素、酵素などの分子量の大きな物質を細孔内に導入できない傾向にあり、他方、前記上限を超えると導入された物質を確実に保持できない傾向にある。なお、酸化タンタルメソ多孔体微粒子が後述するアモルファス粒子の場合には、大きな直径の細孔が形成されにくいため、中心細孔直径は通常1〜5nmとなる。
【0030】
なお、酸化タンタルメソ多孔体微粒子のメソ細孔構造形成は、X線回折パターンを測定したり、透過型電子顕微鏡により観察したりすることによって確認することができる。また、前記中心細孔直径は以下のようにして求められる。すなわち、上記のようにして得られた窒素吸着等温線からCranston−Inklay法、Pollimore−Heal法またはBJH法などの計算法により細孔径分布曲線を求める。ここで得られる細孔径分布曲線は、細孔容積Vを細孔直径Dで微分した値(dV/dD)を細孔直径(D)に対してプロットしたものである。この細孔径分布曲線の最大ピークにおける細孔直径を酸化タンタルメソ多孔体微粒子の中心細孔直径とする。
【0031】
本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の比表面積としては50m/g以上が好ましい。比表面積が前記下限未満になると吸着サイトや触媒活性サイトが少なく、高い吸着性能や触媒活性が得られない傾向にある。なお、酸化タンタルメソ多孔体微粒子の比表面積は、上記のようにして得られた窒素吸着等温線からBET法により求められる。
【0032】
本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の細孔容量としては0.1ml/g以上が好ましい。細孔容量が前記下限未満になると細孔内での吸着物質や反応物質の保持量または触媒担持量が少なく、高い吸着性能や触媒活性が得られない傾向にある。
【0033】
また、本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子は、アモルファスであっても結晶化されたものであってもよいが、酸化タンタル内で励起した電子が内部失活しにくく、反応物へ効率よく電子を渡すことができ、より高い触媒活性を示すという観点から、結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子が好ましい。なお、酸化タンタルメソ多孔体微粒子の結晶性はX線回折パターンを測定することによって確認することができる。
【0034】
本発明の結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子は、結晶構造を有する酸化タンタルからなり、上記のような特性(平均粒子径、アスペクト比、中心細孔直径、粒子径分布、比表面積および細孔容量)を有するものである。このような結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子は、紫外光応答性に優れており、紫外線を利用した光触媒反応(特に、光還元反応)における光触媒として有用である。
【0035】
また、前記結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子においては、窒素原子を含有していることが好ましい。このような窒素原子を含有する結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子は、上記のような特性(平均粒子径、アスペクト比、中心細孔直径、粒子径分布、比表面積および細孔容量)を有するとともに、可視光応答性に優れており、可視光(特に、太陽光)を利用した光触媒反応(特に、光還元反応)における光触媒として有用である。
【0036】
前記窒素原子を含有する結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子における窒素含有量は、微粒子中の全原子に対して1.0〜49.9原子%(好ましくは、2.0〜30.0原子%)である。窒素含有量が前記下限未満になると、可視光応答性が十分に得られにくく、他方、前記上限を超えると、窒化タンタルとして作用し、金属錯体を担持しても金属錯体のLUMOのエネルギーレベルに比べて、窒化タンタルの伝導体下端のエネルギーレベルが低いため、金属錯体の還元触媒機能が十分に発現しにくい。
【0037】
なお、結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子に窒素原子を導入することによって結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子が可視光応答性を示す理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子に窒素原子を導入することによって、結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子の酸素原子サイトの一部が窒素原子に置換される。そして、酸素原子の2p軌道によって形成される価電子帯が、窒素原子の2p軌道との混成効果によって、より高いポテンシャルで形成され、その結果、バンドギャップが狭くなり、可視光応答性が発現すると推察される。
【0038】
このような酸化タンタルメソ多孔体微粒子は、アモルファスのもの、結晶化したもの、窒素原子を含有するもののいずれについても、そのまま使用してもよいが、必要に応じて所望の形状に成形して使用してもよい。成形手段としては特に制限はないが、押出成形、打錠成形、転動造粒、圧縮成形、CIPなどが好ましい。また、成形物の形状は使用箇所や方法に応じて適宜決めることができ、例えば、円柱状、破砕状、球状、ハニカム状、凹凸状。波板状などが挙げられる。
【0039】
このような本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子は、より安定して製造できるという観点から、以下のような本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法により製造することが好ましい。
【0040】
すなわち、本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法は、
タンタル原料および界面活性剤であるアルキルアンモニウムハライドを含有する溶液と、水とアルコールの混合溶媒とを混合し、前記混合溶媒中で前記タンタル原料を反応させて酸化タンタル中に前記界面活性剤が導入された酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子を形成させる第一の工程と、
前記酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子に水熱処理を施して酸化タンタルメソ多孔体微粒子中に前記界面活性剤が導入された多孔体前駆体微粒子を形成させる第二の工程と、
前記多孔体前駆体微粒子中の前記界面活性剤を除去して酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得る第三の工程と、
を含む方法である。
【0041】
このような方法により、従来は困難であった粒子径が非常に小さく且つメソ細孔構造を有する酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得ることが可能となる。以下、第一〜第三の工程について工程ごとに説明する。
【0042】
<第一の工程>
第一の工程では、先ず、タンタル原料および界面活性剤であるアルキルアンモニウムハライドを含有する溶液と、水とアルコールの混合溶媒(以下、「水/アルコール混合溶媒」という)とを調製し、これらを混合する。これにより、水/アルコール混合溶媒中で前記タンタル原料が反応する。その結果、酸化タンタル中に前記界面活性剤が導入された酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子が形成される。
【0043】
本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法に用いられるタンタル原料としては、反応により酸化タンタルを形成するものであれば特に制限はないが、タンタルアルコキシドおよび塩化タンタルが好ましく、加水分解反応の制御が容易であるという観点からタンタルアルコキシドがより好ましい。タンタルアルコキシドを構成するアルコキシ基としては特に制限はないが、反応性の観点から、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基中の炭素数が比較的少ないもの(好ましくは炭素数が1〜4程度のもの)が好ましい。このようなアルコキシ基は加水分解により水酸基に変換され、これが縮合することによってタンタルアルコキシドから酸化タンタルが形成される。このようなタンタルアルコキシドの中でも、反応速度の観点から、タンタルメトキシド〔Ta(OCH〕、タンタルエトキシド〔Ta(OC〕が特に好ましい。また、タンタルアルコキシドは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0044】
本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法に用いられる界面活性剤は、下記式(1):
【0045】
【化2】

【0046】
[式(1)中、R、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表し、nは9〜25の整数である。]
で表されるアルキルアンモニウムハライドである。
【0047】
前記式(1)において、R、RおよびRはそれぞれ独立にメチル基、エチル基、プロピル基のうちのいずれかであるが、R、RおよびRのうちの少なくとも1つがメチル基であることが好ましい。また、界面活性剤分子の対称性の観点からR、RおよびRの全てが同じアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。対称性の高い界面活性剤分子を使用すると界面活性剤分子同士が凝集しやすく、ミセルの形成などが容易に起こる傾向にある。
【0048】
前記式(1)中のXはハロゲン原子であり、その種類としては特に制限はないが、入手しやすいという観点から塩素原子および臭素原子が好ましい。
【0049】
前記式(1)中のnは9〜25の整数である。nが8以下になると酸化タンタル微粒子は得られるが、界面活性剤の疎水性相互作用が弱く、ミセルを形成しにくいため、酸化タンタル微粒子に細孔が形成されにくく、多孔体になりにくい。他方、nが26以上になると界面活性剤の疎水性相互作用が強くなりすぎるため、層状の酸化タンタルが形成しやすく、酸化タンタル微粒子のアスペクト比が大きくなる。適度な疎水性相互作用を有する界面活性剤であるという観点からnは13〜17の整数であることが好ましい。
【0050】
このようなアルキルアンモニウムハライドのうち、ミセルを形成しやすいという観点から、テトラデシルトリメチルアンモニウムハライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムハライドがより好ましく、テトラデシルトリメチルアンモニウムハライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハライドが特に好ましい。
【0051】
本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法において、このような界面活性剤は前記タンタル原料と複合体(以下、「タンタル原料/界面活性剤複合体」という)を形成する。その後、タンタル原料が反応により酸化タンタルに変化して酸化タンタル中に界面活性剤が導入された複合微粒子(以下、「酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子」という)となる。この複合微粒子に水熱処理を施すことによって酸化タンタルメソ多孔体微粒子中に界面活性剤が導入された多孔体前駆体微粒子が形成され、この多孔体前駆体微粒子中の界面活性剤を除去することによって界面活性剤が存在していた部分にメソ細孔が形成され、本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子が得られる。したがって、本発明にかかる界面活性剤は、メソ細孔形成のためのテンプレートとして機能する。本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法においては、界面活性剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよいが、界面活性剤がメソ細孔形成のためのテンプレートとして機能し、メソ細孔の形状に大きな影響を与えることを考慮すると、酸化タンタルメソ多孔体微粒子中に均一なメソ細孔を形成させるためには1種類の界面活性剤を使用することが好ましい。
【0052】
また、本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法においては、前記タンタル原料および前記界面活性剤は、後述する水/アルコール混合溶媒と混合する前に、予め混合しておく必要がある。これにより、予め、タンタル原料/界面活性剤複合体を形成することができ、この複合体を水/アルコール混合溶媒と混合することによってタンタル原料が酸化タンタルに変化して平均粒子径が100nm以下の酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得ることができる。一方、タンタル原料と界面活性剤をそれぞれ独立に水/アルコール混合溶媒に添加すると、水/アルコール混合溶媒中でタンタル原料/界面活性剤複合体が形成されるため、酸化タンタルメソ多孔体は形成されるが、平均粒子径が100nmを超える粒子が形成される。
【0053】
タンタル原料と界面活性剤を予め混合する際、通常、溶媒にこれらを添加する。このとき用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、グリセリンなどのアルコール類が挙げられる。これらのアルコール類は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらのアルコール類のうち、後述する水/アルコール混合溶媒に使用するアルコールと同じものを使用することが好ましい。
【0054】
また、タンタル原料の加水分解反応を制御するための試薬を、タンタル原料および界面活性剤を含有する溶液に添加してもよい。このような試薬としては、例えば、アセチルアセトンなどのβ−ジケトン類、酢酸などのカルボン酸類、乳酸、マンデル酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸などのα−ヒドロキシカルボン酸類、アセトール、アセトインなどのα−ヒドロキシカルボニル誘導体、エチレングリコールなどのグリコール類、ジエタノールアミンなどのエタノールアミン類が挙げられる。これらの試薬がタンタル原料に配位したり、反応したりすることによって、タンタル原料が安定化し、タンタル原料の加水分解反応を制御することが可能となる。このような試薬の添加量としては、タンタル原料が溶解している状態が維持できれば特に制限はない。
【0055】
本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法においては、このようにして調製したタンタル原料および界面活性剤を含有する溶液を、水/アルコール混合溶媒と混合する。溶媒として水/アルコール混合溶媒を使用することによって、タンタル原料の加水分解反応が反応系内で均一に且つ適度な速度で進行するため、比較的均一な粒子径の酸化タンタルメソ多孔体微粒子が得られる。一方、溶媒として水のみを使用するとタンタル原料の加水分解反応が速く進行しすぎるため、粒子が析出しやすく、粒子径が均一な酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得ることができない。
【0056】
また、本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法においては、水/アルコール混合溶媒にタンタル原料および界面活性剤を含有する溶液を添加して混合することが好ましい。これにより、タンタル原料の加水分解反応を反応系内でより均一に且つより適度な速度で進行させることが可能となる。
【0057】
このように、本発明にかかるアルコールはタンタル原料の加水分解を抑制する効果を有する。したがって、水/アルコール混合溶媒中のアルコール濃度を調整することによってタンタル原料の加水分解速度をコントロールすることでき、より均一な粒子径の酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得ることが可能となる。本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法に使用する水/アルコール混合溶媒中のアルコール濃度は80質量%未満である。アルコール濃度が80質量%以上になると酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子が析出せず、酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得ることができない。また、より確実に酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子を析出させるためにはアルコール濃度は70質量%以下であることが好ましい。他方、アルコール濃度の下限としては30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。アルコール濃度が前記下限未満になるとタンタル原料の加水分解速度が速く、粒子径が制御しにくく、粒子径が均一な酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得られない傾向にある。
【0058】
本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法に用いられるアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。これらのアルコールは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0059】
本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法において、タンタル原料および界面活性剤を含有する溶液と水/アルコール混合溶媒は、混合後の溶液中のタンタル原子濃度が0.002〜0.03mol/L(好ましくは0.003〜0.02mol/L)、界面活性剤濃度が0.002〜0.03mol/L(好ましくは0.003〜0.02mol/L)となるように混合する。このような濃度でタンタル原料を反応させることにより粒子径が比較的均一な酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得ることができる。タンタル原子濃度または界面活性剤濃度が前記下限未満になるとメソ細孔構造を有する微粒子を高比率で得ることが困難であり、他方、前記上限を超えると反応の均一性が低下するため、析出した酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子が凝集しやすく、所定の粒子径の酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得ることが困難となる。
【0060】
また、本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法においては、タンタル原料は酸性および塩基性のいずれの条件下においても酸化タンタルに変化するため、タンタル原料の反応を酸性および塩基性のいずれの条件下において行なってもよい。タンタル原料の反応を塩基性条件下で行なう場合には、通常、水/アルコール混合溶媒に水酸化ナトリウム水溶液やアンモニア水溶液などの塩基性物質を添加する。
【0061】
このようにタンタル原料および界面活性剤を含有する溶液と水/アルコール混合溶媒とを混合すると、混合溶媒中でタンタル原料が反応して酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子が形成される。このとき、タンタル原料の反応は撹拌状態で進行させることが好ましい。タンタル原料の反応条件(反応温度、反応時間など)としては特に制限はないが、例えば、反応温度としては−20〜100℃が好ましく、0〜80℃がより好ましく、10〜40℃が特に好ましい。また、反応時間としては1〜24時間が好ましい。
【0062】
このようにして形成された酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子は、必要に応じて室温で一晩放置して系を安定化させ、得られた沈殿物を必要に応じてろ過および洗浄することによって回収される。
【0063】
<第二の工程>
本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法における第二の工程では、第一の工程で得られた酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子に水熱処理を施して酸化タンタルメソ多孔体微粒子中に前記界面活性剤が導入された多孔体前駆体微粒子を形成させる。これにより、界面活性剤の安定なミセル形成が促進されるため、メソ細孔構造が確実に形成されるとともに、メソ細孔の規則性が向上する。また、タンタル原料の反応も促進される。
【0064】
この第二の工程で用いられる溶媒としては、水、または水とアルコールとの混合溶媒が好ましく、特に、後述する拡張剤を使用する場合には、拡張剤の溶解性の観点から水とアルコールとの混合溶媒が好ましい。前記アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。これらのアルコールは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、アルコール濃度としては10〜80質量%が好ましい。
【0065】
また、この第二の工程においては、拡張剤(エキスパンダー)を含有する溶液中で酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子に水熱処理を施すことによって酸化タンタルメソ多孔体微粒子の細孔径を拡大させることも可能である。このような拡張剤としては鎖状炭化水素、環状炭化水素、ヘテロ環化合物などが挙げられる。
【0066】
前記鎖状炭化水素としては、鎖状の炭化水素であれば特に制限はないが、炭素数が6〜26(より好ましくは6〜12)の鎖状炭化水素が好ましい。鎖状炭化水素の炭素数が前記下限未満になると、鎖状炭化水素は疎水性が小さくなり、酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子の細孔内部に導入されにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると溶媒への溶解性が低下するため、細孔径の拡大が図れなくなる傾向にある。
【0067】
このような鎖状炭化水素としては、例えば、ヘキサン、メチルペンタン、ジメチルブタン、ヘプタン、メチルへキサン、ジメチルペンタン、トリメチルブタン、オクタン、メチルヘプタン、ジメチルへキサン、トリメチルペンタン、イソプロピルペンタン、ノナン、メチルオクタン、エチルヘプタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカンなどが挙げられ、疎水性や溶解性などの観点から、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンが好ましい。
【0068】
前記環状炭化水素としては、その骨格に環状の炭化水素を含有するものであれば特に制限はないが、環数が1〜3で炭素数が6〜20(より好ましくは6〜16)の環状炭化水素が好ましい。環状炭化水素の炭素数が前記下限未満になると、環状炭化水素は疎水性が小さくなり、酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子の細孔内部に導入されにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると溶媒への溶解性が低下するため、細孔径の拡大が図れなくなる傾向にある。また、環状炭化水素の環数が3を超えると溶媒への溶解性が低下するため、細孔径の拡大が図れなくなる傾向にある。
【0069】
このような環状炭化水素としては、例えば、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、メチルベンゼン、ジメチルベンゼン、トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリエチルベンゼン、ビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、トリイソプロピルベンゼン、インデン、ナフタレン、テトラリン、アズレン、ビフェニレン、アセナフチレン、フルオレン、フェナントレン、アントラセンなどが挙げられ、疎水性や溶解性の観点から、シクロヘキサン、ベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン、トリイソプロピルベンゼン、ナフタレンが好ましい。
【0070】
前記ヘテロ環化合物としては、その骨格にヘテロ環を含有するものであれば特に制限はないが、環数が1〜3で炭素数が4〜18(より好ましくは5〜12)でヘテロ原子が窒素、酸素および硫黄からなる群から選択される少なくとも1種の原子であるヘテロ環化合物が好ましい。ヘテロ環化合物の炭素数が前記下限未満になると、ヘテロ環化合物は疎水性が小さくなり、酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子の細孔内部に導入されにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると溶媒への溶解性が低下するため、細孔径の拡大が図れなくなる傾向にある。また、ヘテロ環化合物の環数が3を超えると溶媒への溶解性が低下するため、細孔径の拡大が図れなくなる傾向にある。
【0071】
このようなヘテロ環化合物としては、例えば、ピロール、チオフェン、フラン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、インドール、キノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、カルバゾール、フェナントリジン、アクリジン、フェナントロリン、フェナジンなどが挙げられ、疎水性や溶解性の観点から、ピリジン、キノリン、アクリジン、フェナントロリンが好ましい。
【0072】
このような拡張剤は、一般的には水への溶解性が低いため、水中、または水とアルコールとの混合溶媒中に存在するよりも疎水性の高い酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子の細孔内部に導入されやすい。また、酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子中の酸化タンタルネットワークが柔軟であるため、細孔内部に拡張剤が導入された酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子に水熱処理を施すことによって細孔径の拡大を図ることが可能となる。
【0073】
このような拡張剤の濃度としては、水熱処理時の溶液において、0.05〜10mol/Lであることが好ましく、0.1〜1mol/Lであることがより好ましい。拡張剤の濃度が前記下限未満になると拡張剤が細孔内へ十分に導入されず、細孔径が十分に拡大されにくい傾向にあり、他方、前記上限を超えると粒子径制御が困難となる傾向にある。
【0074】
本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法において、水熱処理温度としては60〜250℃が好ましく、100〜200℃がより好ましい。水熱処理温度が前記下限未満になるとミセルが形成されにくく、メソ細孔構造が形成されにくい傾向にあり、他方、前記上限を超えると多孔体前駆体微粒子の粒子径制御が困難となり、酸化タンタルメソ多孔体微粒子の粒子径が100nmを超える傾向にある。なお、水熱処理温度以外の水熱処理条件としては特に制限はない。
【0075】
このようにして形成された多孔体前駆体微粒子は、得られた沈殿物を必要に応じてろ過および洗浄することによって回収される。
【0076】
<第三の工程>
本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法における第三の工程では、第二の工程で得られた多孔体前駆体微粒子中の界面活性剤を除去してメソ細孔を形成させ、本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得る。前記多孔体前駆体微粒子に拡張剤が導入されている場合には、拡張剤もこの第三の工程で除去される。
【0077】
多孔体前駆体微粒子から界面活性剤および拡張剤を除去する方法としては、焼成による方法、有機溶媒で処理する方法、イオン交換法などが挙げられる。中でも、焼成による方法では加熱に伴って酸化タンタルが結晶成長するため、メソ細孔を閉塞させる場合があるため、より安定して酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得るという観点から有機溶媒で処理する方法またはイオン交換法が好ましい。
【0078】
有機溶媒で処理する方法は、多孔体前駆体微粒子中の界面活性剤および拡張剤を有機溶媒中に溶出させて除去する方法である。すなわち、用いた界面活性剤および拡張剤の溶解度が高い良溶媒に多孔体前駆体微粒子を浸漬して撹拌する。これにより、多孔体前駆体微粒子中の界面活性剤および拡張剤が溶媒中に抽出され、酸化タンタル微粒子にメソ細孔が形成される。
【0079】
イオン交換法は、多孔体前駆体微粒子中の界面活性剤および拡張剤を水素イオンにイオン交換する方法である。すなわち、多孔体前駆体微粒子を酸性溶液(少量の塩酸を含むエタノール溶液など)に浸漬し、例えば、50〜70℃で加熱しながら撹拌する。これにより、多孔体前駆体微粒子中の界面活性剤および拡張剤が水素イオンで置換され、酸化タンタル微粒子にメソ細孔が形成される。なお、イオン交換により酸化タンタルメソ多孔体微粒子のメソ細孔中には水素イオンが存在することになるが、水素イオンのイオン半径は細孔直径に比べて十分に小さいため、細孔閉塞という問題は発生しない。
【0080】
このように、本発明にかかる第一〜第三の工程を経て得られる酸化タンタルメソ多孔体微粒子は、通常、アモルファス粒子である。このようなアモルファスの酸化タンタルメソ多孔体微粒子においては、従来の酸化タンタルメソ多孔体粒子や酸化タンタル微粒子に比べて十分に高い触媒活性を得ることができるが、本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子においては、酸化タンタルを結晶化させることによって触媒活性をさらに向上させることが可能である。
【0081】
本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子を結晶化させる方法としては、より安定して結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子を製造できるという観点から、以下のような本発明の結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法により製造することが好ましい。
【0082】
すなわち、本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法は、
前記第三の工程で得られた前記酸化タンタルメソ多孔体微粒子の細孔内に炭素源を吸着させて該酸化タンタルメソ多孔体微粒子の細孔内に炭素源が導入された酸化タンタルメソ多孔体/炭素源複合微粒子を形成させる第四の工程と、
前記酸化タンタルメソ多孔体/炭素源複合微粒子を700〜890℃で加熱して前記酸化タンタルを結晶化させるとともに前記炭素源を炭化させて、結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子中に炭素が導入された結晶化多孔体前駆体微粒子を形成させる第五の工程と、
前記結晶化多孔体前駆体微粒子中の前記炭素を除去して結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得る第六の工程と、
を含む方法である。
【0083】
このような方法によれば、メソ細孔を閉塞させることなく、酸化タンタルを結晶化させることが可能であり、より優れた触媒活性を有する結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得ることが可能となる。なお、本発明の結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法においては、炭素源の吸着と重合と炭化をそれぞれ独立した工程で実施してもよいし、炭素源の吸着と重合、あるいは炭素源の吸着と重合と炭化を一工程で実施してもよい。以下、第四〜第六の工程について工程ごとに説明する。
【0084】
<第四の工程>
第四の工程では、第三の工程で得られた酸化タンタルメソ多孔体微粒子の細孔内に炭素源である有機物を吸着させ、この酸化タンタルメソ多孔体微粒子の細孔内に炭素源が導入された酸化タンタルメソ多孔体/炭素源複合微粒子を形成させる。これにより、酸化タンタルを結晶化させる際の細孔の閉塞を防ぐことが可能となる。
【0085】
この第四の工程で用いられる炭素源である有機物としては、酸化タンタルの結晶化の際に細孔の閉塞を防ぐことができるものであれば特に制限はなく、熱分解によって炭素を生成し得る有機物であればよい。このような有機物として、具体的には、
(1)常温で液体であり且つ熱重合性の高いポリマー前駆体(例えば、フルフリルアルコール、アニリンなど)
(2)炭化水素(例えば、スクロース(ショ糖)、キシロース(木糖)、グルコース(ブドウ糖)などの単糖類、二糖類、多糖類など)を含む水溶液と、酸(例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸など)との混合物
(3)不飽和結合を有する重合性のガス(例えば、アセチレン、プロピレンなど)
(4)2液硬化型のポリマー前駆体の混合物(例えば、フェノールとホルマリンなど)
などが挙げられる。
【0086】
このような有機物の中でも、溶媒で希釈することなく酸化タンタルメソ多孔体微粒子の細孔内に含浸させることが可能であり、相対的に多量の炭素を細孔内に生成させることができるという観点から、前記(1)ポリマー前駆体が好ましい。また、このようなポリマー前駆体は、重合開始剤が不要であり,取り扱いも容易であるという利点も有する。さらに、このようなポリマー前駆体の中でも、細孔内での炭素が生成しやすいという観点から、フルフリルアルコールが特に好ましい。
【0087】
このような炭素源である有機物を細孔内に吸着させる方法としては特に制限はない。例えば、液体の炭素源または炭素源を含む溶液を用いて炭素源を吸着させる場合には、酸化タンタルメソ多孔体微粒子が極めて吸着特性に優れたものであるため、酸化タンタルメソ多孔体微粒子に所定量の液体または溶液を添加し、室温で外部から軽く振動を加えるだけで、細孔内に液体または溶液が含浸し、炭素源を細孔内に吸着させることができる。また、酸化タンタルメソ多孔体微粒子を密閉可能な容器内に入れ、容器内を排気した後、容器に液体の炭素源または炭素源を含む溶液の蒸気を導入することにより、酸化タンタルメソ多孔体微粒子の細孔内に炭素源を吸着させることも可能である。なお、いずれの方法においても、液体の炭素源または炭素源を含む溶液の量としては、酸化タンタルメソ多孔体微粒子の全ての細孔が液体または溶液で満たされる量が好ましい。
【0088】
このようにして炭素源である有機物を酸化タンタルメソ多孔体微粒子の細孔内に吸着させた後、有機物を重合させる。例えば、有機物が(1)ポリマー前駆体、(2)炭化水素を含む水溶液と酸との混合物、(4)2液硬化型のポリマー前駆体の混合物のいずれかである場合には、細孔内に有機物を吸着させた酸化タンタルメソ多孔体微粒子を所定温度で所定時間加熱することにより有機物を重合させる。このような有機物の重合における最適な温度および時間は、有機物の種類により異なるが、通常、重合温度は50〜400℃であり、重合時間は5分〜48時間である。
【0089】
<第五の工程>
第五の工程では、第四の工程で得られた酸化タンタルメソ多孔体/炭素源複合微粒子を加熱して前記酸化タンタルメソ多孔体微粒子を結晶化させるとともに前記炭素源を炭化させ、結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子中に炭素が導入された結晶化多孔体前駆体微粒子を形成させる。酸化タンタルメソ多孔体微粒子を結晶化させることにより酸化タンタルメソ多孔体微粒子の触媒活性が向上する。
【0090】
本発明の結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法における加熱温度は700〜890℃である。加熱温度が前記下限未満になると酸化タンタルが十分に結晶化せず、他方、前記上限を超えると酸化タンタルは結晶化されるが、結晶化した粒子が成長して炭素源が細孔内から除去されるため、細孔が閉塞する。また、より安定した結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得るという観点から、加熱温度としては700〜850℃が好ましい。なお、この加熱温度を変化させることによって平均粒子径、細孔径、比表面積および細孔容量を変化させることが可能である。
【0091】
加熱時間は30分〜6時間である。加熱時間が前記下限より短くなると酸化タンタルが十分に結晶化せず、他方、前記上限を超えると酸化タンタルは結晶化されるが、炭素源が細孔内から除去されるため、細孔が閉塞する。また、より安定した結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得るという観点から、加熱時間としては1〜3時間が好ましい。
【0092】
また、このような加熱処理は非酸化雰囲気下(例えば、不活性な雰囲気中または真空中など)で実施することが好ましい。これにより細孔構造を維持したまま、より安定して酸化タンタルを結晶化させることが可能となる。一方、酸素を含む雰囲気下で前記加熱処理を行なうと、炭素が焼成されて細孔内から除去され、細孔が閉塞する傾向にある。
【0093】
<第六の工程>
第六の工程では、第五の工程で得られた結晶化多孔体前駆体微粒子中の炭素を除去してメソ細孔を形成させる。これにより、本発明の結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子が得られる。
【0094】
結晶化多孔体前駆体微粒子から炭素を除去する方法としては、焼成による方法が挙げられる。焼成温度としては300〜900℃が好ましく、400〜700℃がより好ましい。焼成温度が前記下限未満になると炭素が十分に除去されずに細孔内に残存し、結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子の触媒活性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると酸化タンタル微粒子が成長し、細孔が閉塞する傾向にある。また、焼成時間としては30分間以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。焼成時間が前記下限未満になると炭素が十分に除去されずに細孔内に残存し、結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子の触媒活性が低下する傾向にある。焼成時間の上限としては特に制限はないが、経済的な面から10時間以下が好ましい。
【0095】
また、このような焼成は、空気などの酸素を含有するガス雰囲気下で実施することが好ましい。これにより炭素を容易に除去することができる。一方、不活性ガス雰囲気下で焼成を行なうと、炭素が除去されにくい傾向にある。
【0096】
上述したように、本発明にかかる第四〜第六の工程を経て得られる結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子は、紫外光応答性を示すものであり、従来の酸化タンタルメソ多孔体粒子や酸化タンタル微粒子に比べて十分に高い触媒活性を有するものであるが、窒素を含有させることによって可視光に対しても応答性を示し、高い触媒活性を有するものとなる。
【0097】
本発明の結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子に窒素原子を含有させる方法としては、より安定して窒素原子を含有する結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子(以下、「窒素含有結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子」という。)を製造できるという観点から、以下のような本発明の窒素含有結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法により製造することが好ましい。
【0098】
すなわち、本発明の窒素含有結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法は、前記第六の工程で得られた前記結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子に、窒素源を含有する雰囲気中で加熱処理を施して、窒素原子を含有する結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得る第七の工程を含む方法である。
【0099】
第七の工程で用いられる窒素源である窒素化合物としては、結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子に窒素原子を導入できるものであれば特に制限はなく、例えば、アンモニア、尿素、チオ尿素、シアヌル酸、メラニンなどが挙げられる。窒素化合物が気体の場合、加熱処理雰囲気は気相であり、窒素化合物の濃度としては、0.5〜100体積%が好ましく、20〜100体積%がより好ましい。この場合の希釈ガスとしては、アルゴン、窒素、ヘリウムなどの非酸化性ガスが挙げられる。また、窒素化合物が固体の場合、窒素化合物の濃度としては、1〜300質量%が好ましく、25〜150質量%がより好ましい。
【0100】
このような窒素源を含有する雰囲気中で行う加熱処理の条件としては、得られる窒素含有結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子の窒素含有量が1.0〜49.9原子%(好ましくは、2.0〜30.0原子%)となる条件であれば特に制限はなく、例えば、加熱温度としては450〜800℃が好ましく、500〜750℃がより好ましい。また、加熱時間としては0.5〜24時間が好ましく、1〜8時間がより好ましい。加熱温度または加熱時間が前記下限未満になると、結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子に窒素原子が十分に導入されず、可視光応答性が発現しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、窒素原子が導入されすぎて窒化タンタルが生成する傾向にある。
【実施例】
【0101】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
(実施例1)
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド2.0g(6.15mmol)、タンタルエトキシド5.0g(12.3mmol)、メタノール1.5gを混合し、室温で完全に溶解するまで攪拌して界面活性剤/タンタル原料混合溶液を調製した。また、水/メタノール混合溶液1500g(70/30=w/w)に1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液4.4gを添加して恒温水槽中で25℃に保って攪拌した。その後、この水/メタノール混合溶液に前記界面活性剤/タンタル原料混合溶液を添加したところ、直ちに微粒子の析出が見られ、溶液が白濁した。この溶液を25℃で約5時間撹拌した後、一晩静置して酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子を含む溶液を得た。
【0103】
この複合微粒子をろ過により回収した後、テフロン(登録商標)製の密閉容器に入れ、水25mlを添加して分散させた。この分散液を室温で1日間、80℃で1日間、100℃で1日間、180℃で7日間放置することにより水熱処理を行ない、多孔体前駆体微粒子を含む分散液を得た。この分散液を放冷後にろ過し、回収した多孔体前駆体微粒子を水/アルコール溶液に再分散させた。この操作を2回繰り返した後、得られた多孔体前駆体微粒子を45℃で3日間乾燥させた。
【0104】
この多孔体前駆体微粒子1gをエタノール100mlに分散させ、濃塩酸1mlを添加した。この分散液を60℃で3時間撹拌して多孔体前駆体微粒子の細孔内の界面活性剤を除去した。その後、ろ過により酸化タンタル多孔体微粒子を回収し、45℃で3日間乾燥させた。
【0105】
(実施例2)
前記水/メタノール混合溶液の代わりに水/メタノール/エチレングリコール混合溶液1500g(55/40/5=w/w/w)を用いた以外は実施例1と同様にして酸化タンタル多孔体微粒子を得た。
【0106】
(実施例3)
前記水/メタノール混合溶液の代わりに水/メタノール/エチレングリコール混合溶液1500g(40/40/20=w/w/w)を用いた以外は実施例1と同様にして酸化タンタル多孔体微粒子を得た。45℃で3日間乾燥させた。
【0107】
(実施例4)
水熱処理の際に、水の代わりに、水30mlとエタノール30mlの混合溶媒にメシチレン2.25gを溶解させた溶液を用いた以外は実施例3と同様にして酸化タンタル多孔体微粒子を得た。
【0108】
(実施例5)
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリドの量を4.0g(12.3mmol)に変更し、前記水/メタノール混合溶液の代わりに水/メタノール/エチレングリコール混合溶液2000g(30/40/30=w/w/w)を用いた以外は実施例1と同様にして酸化タンタル多孔体微粒子を得た。
【0109】
(実施例6)
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリドの代わりにオクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド2.2g(6.15mmol)を用い、前記水/メタノール混合溶液の代わりに水/メタノール/エチレングリコール混合溶液1500g(40/50/10=w/w/w)を用いた以外は実施例1と同様にして酸化タンタル多孔体微粒子を得た。
【0110】
(実施例7)
タンタルエトキシドの量を4.1g(10.0mmol)に変更した以外は実施例3と同様にして酸化タンタル多孔体微粒子を得た。
【0111】
(実施例8)
水/メタノール混合溶液1500g(70/30=w/w)の代わりに水/メタノール混合溶液1500g(50/50=w/w)を用い、水熱処理を80℃で1日間、100℃で1日間、150℃で7日間放置することにより行なった以外は実施例1と同様にして酸化タンタル多孔体微粒子を得た。
【0112】
(実施例9)
80℃で1日間、100℃で1日間、130℃で7日間放置することにより水熱処理を実施した以外は実施例8と同様にして酸化タンタル多孔体微粒子を得た。
【0113】
(比較例1)
前記水/メタノール混合溶液の代わりに水1500gを用いた以外は実施例1と同様にして酸化タンタル多孔体粒子を得た。
【0114】
(比較例2)
水/メタノール/エチレングリコール混合溶液1500g(30/40/30=w/w/w)にヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド4.0g(12.3mmol)および1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液4.4gを添加して恒温水槽中で25℃に保って攪拌した。その後、この混合溶液にタンタルエトキシド5.0g(12.3mmol)を添加したところ、直ちに粒子の析出が見られ、溶液が白濁した。この溶液を約5時間撹拌した後、一晩静置して酸化タンタル/界面活性剤複合粒子を含む溶液を得た。その後、実施例1と同様にして酸化タンタル多孔体粒子を得た。
【0115】
(比較例3)
前記水/メタノール混合溶液の代わりに水/メタノール/エチレングリコール混合溶液1500g(20/40/40=w/w/w)を用いた以外は実施例1と同様にして酸化タンタル多孔体の調製を試みたが、粒子が全く析出しなかった。
【0116】
(比較例4)
Chem.Mater.、1996年、第8巻、874−881頁に記載の方法に準じて酸化タンタル多孔体を調製した。すなわち、オクタデシルアミン1.32g(6.15mmol)、タンタルエトキシド5.0g(12.3mmol)、メタノール1gを混合し、室温で完全に溶解するまで攪拌して界面活性剤/タンタル原料混合溶液を調製した。この混合溶液に水25mlを一括で添加したところ、直ちに粒子の析出が見られ、溶液が白濁した。この溶液を室温で5時間攪拌した後、一晩静置して酸化タンタル/界面活性剤複合粒子を含む溶液を得た。
【0117】
この複合粒子を含む溶液をテフロン(登録商標)製の密閉容器へ移し、80℃で1日間、100℃で1日間、180℃で7日間放置することにより水熱合成処理を行ない、多孔体前駆体粒子を含む溶液を得た。この溶液を放冷後にろ過し、回収した多孔体前駆体粒子を水/アルコール溶液に再分散させた。この操作を2回繰り返した後、得られた多孔体前駆体粒子を45℃で3日間乾燥させた。
【0118】
この多孔体前駆体粒子1gをエタノール100mlに分散させ、濃塩酸1mlを添加した。この分散液を60℃で3時間撹拌して多孔体前駆体粒子の細孔内の界面活性剤を除去した。その後、ろ過により酸化タンタル多孔体粒子を回収し、45℃で3日間乾燥させた。
【0119】
(比較例5)
Chem.Mater.、2001年、第13巻、1200−1206頁に記載の方法に準じて酸化タンタル多孔体を調製した。すなわち、オクタデシルアミン1.32g(6.15mmol)、タンタルエトキシド5.0g(12.3mmol)、メタノール1gを混合し、室温で完全に溶解するまで攪拌して界面活性剤/タンタル原料混合溶液を調製した。この混合溶液に水をスプレーにより加えたところ、直ちに粒子の析出が見られた。この溶液を室温で5時間攪拌した後、一晩静置して酸化タンタル/界面活性剤複合粒子を含む溶液を得た。
【0120】
この複合粒子をろ過により回収した後、テフロン(登録商標)製の密閉容器に入れ、水25mlを添加して分散させた。この分散液を室温で1日間、80℃で1日間、100℃で1日間、180℃で7日間放置することにより水熱合成処理を行ない、多孔体前駆体粒子を含む分散液を得た。この分散液を放冷後にろ過し、回収した多孔体前駆体粒子を水/アルコール溶液に再分散させた。この操作を2回繰り返した後、得られた多孔体前駆体粒子を45℃で3日間乾燥させた。
【0121】
この多孔体前駆体粒子1gをエタノール100mlに分散させ、濃塩酸1mlを添加した。この分散液を60℃で3時間撹拌して多孔体前駆体粒子の細孔内の界面活性剤を除去した。その後、ろ過により酸化タンタル多孔体粒子を回収し、45℃で3日間乾燥させた。
【0122】
(比較例6)
Chem.Lett.、2005年、第34巻、第3号、394−395頁に記載の方法に準じて酸化タンタル多孔体を調製した。すなわち、トリブロック共重合体界面活性剤P123(商品名、アルドリッチ社製、化学式:HO(CHCHO)20(CHCH(CH)O)70(CHCHO)20H)2gにエタノール20gを加え、室温で完全に溶解するまで攪拌した。この溶液に塩化タンタル4.3g(12mmol)を添加し、10分間激しく攪拌した。その後、水0.22ml(12mmol)を添加して1時間以上攪拌した。得られた反応溶液をシャーレに移し、40℃で7日間熟成を行ってゲル化させた。このゲル化物を、大気下、500℃で5時間焼成することにより鋳型を除去した後、粉砕して酸化タンタル多孔体粒子を得た。
【0123】
(比較例7)
塩化タンタル5gをエタノール100mlに溶解させ、5%のNH水溶液を加えて300mlにメスアップした。この溶液を5時間攪拌することにより酸化タンタルの白色粉末を合成した。この粉末に大気下、500℃で5時間熱処理を施した。この粉末について粉末X線回折装置((株)リガク製「RINT−2200」)を用いてX線回折パターンを測定したところ、一次粒子径が約20〜30nmの酸化タンタル微粒子であり、細孔構造は見られなかった。
【0124】
(比較例8)
市販の酸化タンタル粉末(和光純薬工業(株)製)を入手した。
【0125】
<特性評価>
実施例1〜9で得られた酸化タンタル多孔体微粒子、比較例1〜2および比較例4〜6で得られた酸化タンタル多孔体粒子、比較例7で得られた酸化タンタル微粒子、並びに比較例8の市販の酸化タンタル粉末(以下、これらをまとめて「酸化タンタル粒子」という。)の各特性を以下の方法により測定し、評価した。
【0126】
(走査型電子顕微鏡(SEM)写真)
酸化タンタル粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を走査型電子顕微鏡((株)明石製作所製「SIGMA−V」)を用いて加速電圧19eVで撮影した。図1A〜1Dには、それぞれ実施例1、実施例4、比較例1〜2で得られた酸化タンタル多孔体粒子のSEM写真を示す。なお、図1A〜1DのSEM写真を撮影するにあたっては、粒子の形状を明確にするために、予め、粒子を水/エタノール混合溶媒に分散し、得られた分散液をSEM用Cu板に滴下して乾燥した後、Auコーティングを行い、粒子表面にAuを被覆した。
【0127】
(高分解能走査電子顕微鏡(高分解能SEM)写真)
酸化タンタル粒子の高分解能走査電子顕微鏡(高分解能SEM)写真を電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM、(株)日立ハイテクノロジーズ製「S−5500」)を用いて加速電圧2kVで撮影した。図2には、実施例3で得られた酸化タンタル多孔体微粒子の高分解能SEM写真を示す。
【0128】
(X線回折パターン)
酸化タンタル粒子のX線回折パターンを粉末X線回折装置((株)リガク製「RINT−2200」)を用いて測定した。図3には、実施例1〜3で得られた酸化タンタル多孔体微粒子のX線回折パターンを示す。
【0129】
(透過型電子顕微鏡(TEM)写真)
酸化タンタル粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を透過型電子顕微鏡(日本分光(株)製「Joel−200CX」)を用いて加速電圧200kVで撮影した。図4には、実施例5で得られた酸化タンタル多孔体微粒子のTEM写真を示す。
【0130】
(窒素吸着等温線)
自動比表面積/細孔分布測定装置(日本ベル(株)製「Belsorp−mini」)を用い、液体窒素温度(−196℃)条件で定容量式ガス吸着法により酸化タンタル粒子の窒素吸着等温線を求めた。なお、酸化タンタル粒子には測定前に120℃で2時間の真空脱気処理を施した。図5〜7には、実施例3〜5、比較例1〜2および比較例4〜6で得られた酸化タンタル多孔体粒子の窒素吸着等温線を示す。
【0131】
(細孔径分布曲線、中心細孔直径)
前記窒素吸着等温線からBJH法により酸化タンタル多孔体粒子の細孔径分布曲線を求めた。図8には実施例3〜5で得られた酸化タンタル多孔体微粒子の細孔径分布曲線を示す。
【0132】
また、前記細孔径分布曲線から酸化タンタル多孔体粒子の中心細孔直径を算出した。表1には、実施例1〜9、比較例1〜2および比較例4〜6で得られた酸化タンタル多孔体粒子の中心細孔直径を示す。
【0133】
(比表面積)
前記窒素吸着等温線からBET法により酸化タンタル粒子の比表面積を算出した。表1には、実施例1〜9、比較例1〜2および比較例4〜7で得られた酸化タンタル粒子の比表面積を示す。
【0134】
(細孔容量)
前記窒素吸着等温線から酸化タンタル多孔体粒子の細孔容量を算出した。表1には、実施例1〜9、比較例1〜2および比較例4〜6で得られた酸化タンタル多孔体粒子の細孔容量を示す。
【0135】
(相対圧P/P=0.95付近における窒素吸着量の相対評価)
前記窒素吸着等温線から、相対圧P/P=0.99とP/P=0.90における窒素吸着量を求め、窒素吸着量比[(P/P=0.99)/(P/P=0.90)]を算出した。表1には、実施例1〜9および比較例1〜2、4〜7で得られた酸化タンタル粒子の窒素吸着量比[(P/P=0.99)/(P/P=0.90)]を示す。
【0136】
(平均粒子径)
酸化タンタル粒子のSEM写真において無作為に抽出した粒子の最大径と最小径を測定し、その平均値をその粒子の粒子径とした。この粒子径測定を無作為に抽出した50個の粒子について行ない、これらの算術平均値を平均粒子径とした。表1には、実施例1〜9および比較例1〜2、4〜8で得られた酸化タンタル粒子の平均粒子径を示す。
【0137】
【表1】

【0138】
図1A〜1Bおよび図2に示した結果から明らかなように、タンタル原料およびアルキルアンモニウムハライドを含有する溶液と水/アルコール混合溶媒とを混合した場合(実施例1、実施例3、実施例4)には微粒子状の酸化タンタルが生成することが確認された(それぞれ、図1A、図2および図1B参照)。また、実施例3で得られた酸化タンタル多孔体微粒子の粒子径は数10nmであることが確認された(図2参照)。
【0139】
一方、図1C〜1Dに示した結果から明らかなように、タンタル原料およびアルキルアンモニウムハライド含有する溶液と水とを混合した場合(比較例1)には、微粒子状の酸化タンタルは生成するものの、粒子が凝集したような大きな塊状の酸化タンタルも生成することが分かった(図1C参照)。また、界面活性剤を含有する水/アルコール混合溶媒にタンタル原料を添加した場合(比較例2)には、予め、タンタル原料とアルキルアンモニウムハライドを混合した場合(実施例1、実施例3、実施例4)に比べて酸化タンタル粒子の粒子径が大きくなることが分かった(図1D参照)。
【0140】
図3に示した結果から明らかなように、実施例1〜3で得られた酸化タンタル多孔体微粒子は、X線回折パターンにおいて2θ=2°付近にピークが観察されたことから、メソ細孔構造を有するものであることが確認された。また、このようなメソ細孔構造は、実施例5で得られた酸化タンタル多孔体微粒子のTEM写真においても観察された(図4参照)。
【0141】
図5に示した結果から明らかなように、実施例3〜5で得られた酸化タンタル多孔体微粒子は、窒素吸着等温線がIV型であることから、メソ多孔体であることが確認された。また、相対圧P/P=0.95付近において窒素吸着量が急激に増大することが確認された。さらに、図8に示した結果から明らかなように、実施例3〜5で得られた酸化タンタル多孔体微粒子は、数nmのメソ細孔を有するものであることが確認された。
【0142】
一方、図6に示した結果から明らかなように、比較例1で得られた酸化タンタル多孔体粒子は、相対圧P/P=0.95付近において窒素吸着量の急激な増大が若干観察されたが、その割合は実施例の場合に比べて小さかった。また、比較例2で得られた酸化タンタル多孔体粒子は、相対圧P/P=0.95付近での窒素吸着量の急激な増大は観察されなかった。また、図7に示した結果から明らかなように、比較例4〜6で得られた従来の酸化タンタル多孔体粒子はメソ多孔体であるものの、相対圧P/P=0.95付近での窒素吸着量の急激な増大は観察されなかった。
【0143】
表1に示した結果から明らかなように、タンタル原料およびアルキルアンモニウムハライドを含有する溶液と水/アルコール混合溶媒とを混合した場合(実施例1〜9)には、相対圧P/P=0.95付近において窒素吸着量の急激な増大(P/P=0.99における窒素吸着量がP/P=0.90の2倍以上)が観察され、平均粒子径が80nm以下の酸化タンタル微粒子が生成することが確認された。一方、界面活性剤を使用せずに酸化タンタルを生成させた場合(比較例7)には、相対圧P/P=0.95付近において窒素吸着量の急激な増大が観察され、平均粒子径が100nm以下の酸化タンタル微粒子が生成するものの、タンタル原料およびアルキルアンモニウムハライド含有する溶液と水とを混合した場合(比較例1)には粒子が凝集したような大きな塊状の酸化タンタルが生成し、また、界面活性剤を含有する水/アルコール混合溶媒にタンタル原料を添加した場合(比較例2)、界面活性剤としてアミン化合物を使用した場合(比較例4〜5)およびトリブロック共重合体界面活性剤を使用した場合(比較例6)には、相対圧P/P=0.95付近において窒素吸着量の急激な増大が観察されず、微粒子ではない平均粒子径が100nmを超える酸化タンタル粒子が生成することが分かった。
【0144】
また、表1に示した中心細孔直径の値から、界面活性剤を使用して酸化タンタル多孔体粒子を調製した場合(実施例1〜9、比較例1〜2および比較例4〜6)にはメソ細孔構造が形成されることが確認された。
【0145】
表1および図8に示した結果から明らかなように、拡張剤を使用した場合(実施例4)には、使用しなかった場合(実施例3)に比べて細孔径が拡大し、細孔容量が増大することが確認された。
【0146】
以上の結果から明らかなように、本発明の製造方法によれば、平均粒子径が100nm以下の酸化タンタルメソ多孔体微粒子が形成されることが確認された。また、このように粒子径が非常に小さい酸化タンタルメソ多孔体微粒子においては、相対圧P/P=0.95付近において窒素吸着量の急激な増大が観察されることが確認された。これは、粒子径が非常に小さい場合には、微粒子間で窒素吸着が起こっていることによるものである。したがって、相対圧P/P=0.95付近における窒素吸着量の急激な増大の有無によって酸化タンタルメソ多孔体粒子の大きさを予測することができる。
【0147】
(色素吸着)
酸化タンタル粒子50mgに、色素として1mMのメチレンブルー水溶液1mlを添加し、室温で16時間振盪して酸化タンタル粒子に色素を吸着させた。色素吸着後の酸化タンタル粒子を遠心分離により除去し、上澄み液の664nmにおける吸光度を測定して酸化タンタル粒子の色素吸着量を算出した。図9には、実施例3、実施例5、比較例4〜5、比較例7〜8で得られた酸化タンタル粒子の色素吸着量を示す。
【0148】
図9に示した結果から明らかなように、実施例3および実施例5で得られた酸化タンタルメソ多孔体微粒子においては、疎水性の色素であるメチレンブルーの吸着量が多く、高い吸着特性を示すことが確認された。一方、平均粒子径が比較的大きい酸化タンタルメソ多孔体粒子の場合(比較例4〜5)には、ある程度の量のメチレンブルーは吸着するものの、その吸着量は実施例3および実施例5の1/4であった。また、細孔を有していない酸化タンタル微粒子(比較例7)および市販の酸化タンタル粉末(比較例8)においては、さらにメチレンブルーの吸着量は少なくなった。
【0149】
(触媒性能)
酸化タンタル粒子0.3gにイオン交換水12mlを添加し、室温で1分間攪拌した。次に、Pt担持量が0.6質量%となるように、白金−Pソルト硝酸溶液(4.531質量%)を0.0397g(36μl)添加し、室温で1時間攪拌した。得られた分散液を1時間静置した後、上澄み液を除去し、固形物を50℃で30分間、45℃で一晩乾燥させた。その後、さらに40℃で24時間真空乾燥してPt担持酸化タンタル粒子を得た。
【0150】
8mlの石英試験管に、20体積%のメタノール水溶液4mlと、前記Pt担持酸化タンタル粒子4mgを入れ、混合した。この分散液に窒素ガスを15分間通気して飽和させた後、石英試験管をゴム栓で密閉した。分散液をスターラーで攪拌しながら、メリーゴーラウンド方式の照射装置を用い、Xeランプ(ウシオ電機(株)製)を光源とする光を60時間照射した。光照射後、石英試験管内の気相部分のガスをガスクロマトグラフィで分析した。
【0151】
図10には、実施例1、実施例4〜6、比較例1および比較例4〜8で得られた酸化タンタル粒子にPtを担持させた触媒の触媒性能を示す。なお、図10には、対照実験として、20体積%のメタノール水溶液のみに光照射した結果も示した。
【0152】
図10に示した結果から明らかなように、対照実験においては、酸化タンタルが存在しないため、ほとんど水素は発生しなかった。一方、平均粒子径が比較的大きい酸化タンタルメソ多孔体粒子(比較例1、比較例4〜6)および細孔を有しない酸化タンタル微粒子(比較例7)は、Ptを担持することによって水素が発生し、触媒活性を有するものであることが分かった。他方、平均粒子径が非常に小さく且つメソ細孔構造を有する本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子(実施例1、実施例4〜6)にPtを担持させた触媒は、さらに多くの水素を発生し、触媒活性に優れたものであることが確認された。
【0153】
(実施例10)
テフロン(登録商標)製の容器に、実施例8で得られた酸化タンタルメソ多孔体微粒子1.0gと、この酸化タンタルメソ多孔体微粒子の細孔容量の1.5倍量のフルフリルアルコール0.66gを入れて均一に混合した。この混合物を150℃で24時間放置してフルフリルアルコールを重合させることにより、酸化タンタル多孔体微粒子の細孔内にポリフルフリルアルコールが導入された酸化タンタル多孔体/ポリフルフリルアルコール複合微粒子を得た。
【0154】
この酸化タンタル多孔体/ポリフルフリルアルコール複合微粒子0.3gを窒素雰囲気下、250℃で1時間、次いで750℃で1時間加熱することにより、酸化タンタルを結晶化させるとともにポリフルフリルアルコールを炭素化して結晶化多孔体前駆体微粒子を得た。この結晶化多孔体前駆体微粒子を大気下、550℃で5時間焼成することにより結晶化多孔体前駆体粒子の細孔内の炭素を除去して結晶化酸化タンタル多孔体微粒子を得た。
【0155】
(実施例11)
実施例10と同様にして得た酸化タンタル多孔体/ポリフルフリルアルコール複合微粒子を窒素雰囲気下、250℃で1時間、次いで800℃で1時間加熱して酸化タンタルを結晶化させるとともにポリフルフリルアルコールを炭素化した以外は実施例10と同様にして結晶化酸化タンタル多孔体微粒子を得た。
【0156】
(比較例9)
実施例10と同様にして得た酸化タンタル多孔体/ポリフルフリルアルコール複合微粒子を窒素雰囲気下、500℃で6時間、次いで900℃で2時間加熱して酸化タンタルを結晶化させるとともにポリフルフリルアルコールを炭素化した以外は実施例10と同様にして結晶化酸化タンタル微粒子を得た。
【0157】
(比較例10)
実施例8で得られた酸化タンタルメソ多孔体微粒子の代わりに比較例6で得られた酸化タンタルメソ多孔体粒子1.0gを用いた以外は実施例10と同様にして結晶化酸化タンタル多孔体粒子を得た。
【0158】
(比較例11)
Chem.Mater.、2008年、第20巻、5361−5367頁に記載の方法に準じて結晶化酸化タンタル多孔体粒子を調製した。すなわち、比較例6で得られた酸化タンタルメソ多孔体粒子1gとビス−トリメチルシロキシ−メチルシラン(BTMS)3gを混合し、アルゴン雰囲気下、70℃で12時間反応させた。反応溶液をろ過し、残渣を45℃で一晩乾燥させた後、200℃で1時間真空乾燥させることにより未反応のBTMSを除去して酸化タンタル多孔体/シリカ複合粒子を得た。
【0159】
この酸化タンタル多孔体/シリカ複合粒子を大気下、860℃で1時間加熱することにより酸化タンタルを結晶化して結晶化酸化タンタル多孔体/シリカ複合粒子を得た。この結晶化酸化タンタル多孔体/シリカ複合粒子0.4gを1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液20mlに分散させ、70℃で1時間攪拌することにより複合粒子中のシリカを抽出した。この操作をシリカが検出されなくなるまで繰り返した後、ろ過により結晶化酸化タンタル多孔体粒子を回収し、45℃で3日間乾燥させた。
【0160】
(比較例12)
比較例7で得られた酸化タンタル微粒子を大気下、800℃で5時間加熱して結晶化酸化タンタル微粒子を得た。
【0161】
<特性評価>
実施例10〜11で得られた結晶化酸化タンタル多孔体微粒子、比較例9、12で得られた結晶化酸化タンタル微粒子および比較例10〜11で得られた結晶化酸化タンタル多孔体粒子(以下、これらをまとめて「結晶化酸化タンタル粒子」という。)の各特性を以下の方法により測定し、評価した。
【0162】
(走査型電子顕微鏡(SEM)写真)
結晶化酸化タンタル粒子のSEM写真を走査型電子顕微鏡((株)明石製作所製「SIGMA−V」)を用いて加速電圧19eVで撮影した。なお、この場合も、粒子の形状を明確にするために予め粒子表面にAuを被覆した。図11には、実施例11で得られた結晶化酸化タンタル多孔体微粒子のSEM写真を示す。
【0163】
(X線回折パターン)
結晶化酸化タンタル粒子のX線回折パターンを粉末X線回折装置((株)リガク製「RINT−2200」)を用いて測定した。図12には、実施例10〜11で得られた結晶化酸化タンタル多孔体微粒子のX線回折パターンを示す。なお、図12には、実施例8で得られた酸化タンタル多孔体微粒子のX線回折パターンも示した。
【0164】
(窒素吸着等温線)
自動比表面積/細孔分布測定装置(日本ベル(株)製「Belsorp−mini」)を用い、液体窒素温度(−196℃)条件で定容量式ガス吸着法により結晶化酸化タンタル粒子の窒素吸着等温線を求めた。なお、結晶化酸化タンタル粒子には測定前に120℃で2時間の真空脱気処理を施した。図13には、実施例11で得られた結晶化酸化タンタル多孔体微粒子の窒素吸着等温線を示す。
【0165】
(中心細孔直径)
前記窒素吸着等温線からBJH法により結晶化酸化タンタル多孔体粒子の細孔径分布曲線を求め、この細孔径分布曲線から結晶化酸化タンタル多孔体粒子の中心細孔直径を算出した。表2には、実施例10〜11および比較例10〜11で得られた結晶化酸化タンタル多孔体粒子の中心細孔直径を示す。なお、窒素吸着測定の結果、比較例9、12で得られた結晶化酸化タンタル粒子には細孔構造はみられなかった。
【0166】
(比表面積)
前記窒素吸着等温線からBET法により結晶化酸化タンタル粒子の比表面積を算出した。表2には、実施例10〜11および比較例9〜12で得られた結晶化酸化タンタル粒子の比表面積を示す。
【0167】
(細孔容量)
前記窒素吸着等温線から結晶化酸化タンタル多孔体粒子の細孔容量を算出した。表2には、実施例10〜11および比較例10〜11で得られた結晶化酸化タンタル多孔体粒子の細孔容量を示す。
【0168】
(相対圧P/P=0.95付近における窒素吸着量の相対評価)
前記窒素吸着等温線から、相対圧P/P=0.99とP/P=0.90における窒素吸着量を求め、窒素吸着量比[(P/P=0.99)/(P/P=0.90)]を算出した。表2には、実施例10〜11および比較例9〜12で得られた結晶化酸化タンタル粒子の窒素吸着量比[(P/P=0.99)/(P/P=0.90)]を示す。
【0169】
(平均粒子径)
結晶化酸化タンタル粒子のSEM写真において無作為に抽出した粒子の最大径と最小径を測定し、その平均値をその粒子の粒子径とした。この粒子径測定を無作為に抽出した50個の粒子について行い、これらの算術平均値を平均粒子径とした。表2には、実施例10〜11および比較例9〜12で得られた結晶化酸化タンタル粒子の平均粒子径を示す。
【0170】
【表2】

【0171】
図11に示した結果から明らかなように、実施例8で得られた酸化タンタル多孔体微粒子を、細孔を炭素源で保護しながら加熱した場合(実施例11)でも、微粒子形状が維持されることが確認された。
【0172】
図12に示した結果から明らかなように、実施例8で得られた酸化タンタルメソ多孔体微粒子は、X線回折パターンにおいて2θ=20〜60°付近にピークが観察されず、アモルファス粒子であることが確認された。一方、このアモルファスの酸化タンタルメソ多孔体微粒子を、細孔を炭素源で保護しながら加熱した場合(実施例10〜11)には、2θ=20〜60°付近に酸化タンタル結晶に由来のピークが観察され、酸化タンタルメソ多孔体微粒子は結晶化されたことが確認された。なお、図には示していないが、比較例9〜12で得られた酸化タンタル粒子においても結晶化されていることが確認された。
【0173】
図13に示した結果から明らかなように、実施例8で得られたアモルファスの酸化タンタルメソ多孔体微粒子を、細孔を炭素源で保護しながら加熱した場合(実施例11)には、得られた結晶化酸化タンタル多孔体微粒子は、細孔径は均一ではないものの、窒素吸着等温線がIV型であることから、メソ多孔体であることが確認された。また、相対圧P/P=0.95付近において窒素吸着量が急激に増大することが確認された。
【0174】
表2に示した結果から明らかなように、実施例8で得られたアモルファスの酸化タンタルメソ多孔体微粒子を、細孔を炭素源で保護しながら所定の温度で加熱した場合(実施例10〜11)には、相対圧P/P=0.95付近において窒素吸着量の急激な増大(P/P=0.99における窒素吸着量がP/P=0.90の1.9倍以上)が観察され、平均粒子径が約40nmのメソ細孔を有する結晶化酸化タンタル多孔体微粒子が得られることが確認された。また、酸化タンタルを結晶化させる際の加熱温度が高くなると中心細孔直径が拡大することが分かった。
【0175】
一方、細孔を炭素源で保護しても900℃で2時間加熱して結晶化させた場合(比較例9)には、平均粒子径が約40nmの結晶化酸化タンタル微粒子が得られるものの、細孔が閉塞し、比表面積が著しく減少することが分かった。また、比較例6で得られた酸化タンタルメソ多孔体粒子を、細孔を炭素源で保護しながら本発明にかかる温度で加熱した場合(比較例10)、ならびに細孔をシリカで保護しながら850℃で1時間加熱した場合(比較例11)には、メソ細孔構造は保持されているものの、使用した酸化タンタル多孔体粒子の粒子径が大きいため、平均粒子径が100nm以下の結晶化酸化タンタル多孔体微粒子を得ることはできなかった。さらに、細孔構造を有しない酸化タンタル微粒子を800℃で5時間加熱した場合(比較例12)には、平均粒子径はほとんど変化しないものの、比表面積が著しく減少した。
【0176】
表2に示した実施例10〜11および比較例9の結果から明らかなように、酸化タンタルメソ多孔体微粒子を、細孔を炭素源で保護しながら本発明にかかる温度で加熱することによって、細孔を閉塞させずに酸化タンタルメソ多孔体微粒子を結晶化できることが分かった。
【0177】
(触媒性能)
酸化タンタル粒子の代わりに結晶化酸化タンタル粒子0.3gを用いた以外は前記方法と同様にして触媒性能を評価した。図14には、実施例10〜11および比較例9〜12で得られた結晶化酸化タンタル粒子にそれぞれPtを担持させた触媒の触媒性能を示す。なお、図14には、比較例8の市販の酸化タンタル粉末にPtを担持させた触媒の触媒性能も示した。
【0178】
図14に示した結果から明らかなように、平均粒子径が非常に小さく且つメソ細孔構造を有する本発明の結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子(実施例10〜11)にPtを担持させた触媒の水素発生量は、7.7〜8.0μmolと高い値であった。一方、平均粒子径は非常に小さいものの、メソ細孔構造を有しない結晶化酸化タンタル微粒子(比較例9、12)や、メソ細孔構造を有するものの、平均粒子径が大きい結晶化酸化タンタルメソ多孔体粒子(比較例10〜11)を用いた場合には、水素発生量は2.6〜6.1と低い値であった。
【0179】
(実施例12)
実施例10で得られた白色の結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子0.6gを反応器に入れ、アンモニアを400ml/分、アルゴンを200ml/分の流量で反応器に供給しながら、600℃で5時間加熱して黄色の微粒子を得た。
【0180】
(実施例13)
実施例10で得られた結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子の代わりに実施例11で得られた白色の結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子0.6gを用いた以外は実施例12と同様にして黄色の微粒子を得た。
【0181】
(実施例14)
加熱温度を550℃に変更した以外は実施例13と同様にして黄色の微粒子を得た。
【0182】
(実施例15)
加熱温度を650℃に、加熱時間を2.5時間に変更した以外は実施例13と同様にして橙色の微粒子を得た。
【0183】
(実施例16)
加熱温度を700℃に変更した以外は実施例15と同様にして朱色の微粒子を得た。
【0184】
(比較例13)
実施例10で得られた結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子の代わりに比較例10で得られた白色の結晶化酸化タンタルメソ多孔体粒子0.6gを用いた以外は実施例12と同様にして黄色の粒子を得た。
【0185】
(比較例14)
実施例10で得られた結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子の代わりに比較例12で得られた白色の結晶化酸化タンタル微粒子0.6gを用いた以外は実施例12と同様にして黄色の微粒子を得た。
【0186】
(比較例15)
加熱温度を700℃に変更した以外は比較例14と同様にして赤色の微粒子を得た。
【0187】
<特性評価>
実施例12〜16および比較例13〜15で得られた粒子について、前記方法と同様にして、SEMによる観察、窒素吸着法による中心細孔直径および細孔容量の測定を行なったところ、アンモニア処理の前後で変化はほとんど見られなかった。また、その他の特性について、以下の方法により測定し、評価した。
【0188】
(窒素原子含有量)
X線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ(株)製「Quantera SXM」)を用いてX線光電子分光(XPS)により粒子のXPSスペクトルを測定した。X線源としてモノクロ化されたAl−Kαを使用した。得られたXPSスペクトルにおいて、Shirley法によりバックグランド処理を行なった後、窒素の1s軌道のピーク面積P、タンタルの4P3/2軌道のピーク面積PTaおよび酸素の1s軌道のピーク面積Pを求めた。これらのピーク面積から次式により感度補正をして窒素原子含有量を求めた。
【0189】
窒素原子含有量=α×P/(α×P+β×PTa+γ×P
なお、前記式中のα、β、γは、装置固有の相対感度係数であり、例えば、前記XPS装置におけるαは0.499である。
【0190】
算出された窒素原子含有量について、粒子中の不純物を含めた全元素量の合計が100%となるように規格化した。表3には、実施例12〜16および比較例13〜14で得られた粒子の窒素原子含有量を示す。
【0191】
(X線回折パターン)
粒子のX線回折パターンを粉末X線回折装置((株)リガク製「RINT−2200」)を用いて測定した。図15には、実施例14〜16で得られた微粒子のX線回折パターンを示す。なお、比較例13、14で得られた粒子の結晶化酸化タンタルに基づくX線回折パターンは、それぞれ比較例10で得られた結晶化酸化タンタルメソ多孔体粒子、比較例12で得られた結晶化酸化タンタル微粒子のX線回折パターンと同じものであった。また、比較例15で得られた微粒子のX線回折パターンは窒化タンタル(Ta)に相当するものであった。
【0192】
【表3】

【0193】
表3に示した結果から明らかなように、結晶化酸化タンタル粒子にアンモニア処理を施すことによって、平均粒子径や細孔構造の有無にかかわらず、窒素原子が導入され、窒素原子を含有する粒子が得られることが確認された(実施例12〜16、比較例13〜14)。また、実施例12〜16で得られた微粒子においては、アンモニア処理時の加熱温度が高くなるにつれて窒素原子含有量が増加し、700℃(実施例16)では窒素含有量は26.8%になることが分かった。
【0194】
図12および図15に示した結果から明らかなように、窒素原子を4.0%(実施例14)または7.0%(実施例15)含有する微粒子のX線回折パターンは、窒素原子を含まない結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子(実施例11)のX線回折パターンと変わらないものであった。また、窒素原子を26.8%含有する微粒子(実施例16)のX線回折パターンは、窒素原子を含まない結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子(実施例11)のX線回折パターンと異なるものの、結晶化酸化タンタルに基づくX線回折ピークが見られた。したがって、これらの結果から、結晶化酸化タンタルメソ多孔体粒子にアンモニア処理を施すことによって得られる粒子は、窒素原子を含有する結晶化酸化タンタルメソ多孔体粒子(化学構造:Ta(5−x)−N、以下、「窒素含有結晶化酸化タンタルメソ多孔体粒子」という。)であると考えられる。なお、実施例16で得られた微粒子のX線回折パターンにおいては、窒化タンタル(Ta)に相当するピークも見られた。
【0195】
また、図15に示した結果から明らかなように、実施例14〜16で得られた窒素含有結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子のX線回折パターンにおける各ピークはブロードであった。このことから、実施例14〜16で得られた窒素含有結晶化球状酸化タンタルメソ多孔体微粒子はナノ粒子であることが分かった。
【0196】
(メチルビオロゲン還元性能)
8mlの石英試験管に、0.05mMのメチルビオロゲン溶液(メタノール/トリエタノールアミン=5/1(体積比))4mlと、窒素含有結晶化酸化タンタルメソ多孔体粒子または結晶化酸化タンタル微粒子10mgを入れ、混合した。この分散液にアルゴンガスを15分間通気して飽和させた後、石英試験管をゴム栓で密閉した。分散液をスターラーで攪拌しながら、メリーゴーラウンド方式の照射装置を用い、Xeランプ(ウシオ電機(株)製)を光源とし、熱線吸収フィルタ(旭硝子(株)製)と紫外線カットフィルタ(40L、シグマ光機製)を通した可視光を10分間照射した。光照射前後の石英試験管内の溶液の色の変化を目視により観察し、以下の基準により判定した。
A:溶液の色が無色透明から濃紺に変化(高還元活性)
B:溶液の色が無色透明から薄い青色に変化(低還元活性)
C:溶液の色は無色透明のまま変化なし(還元活性なし)
表4には、実施例12〜16で得られた窒素含有結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子、および比較例13で得られた窒素含有結晶化酸化タンタルメソ多孔体粒子のメチルビオロゲン還元性能を示す。なお、表4には、比較例12で得られた窒素原子を含有しない結晶化酸化タンタル微粒子のメチルビオロゲン還元性能も示した。
【0197】
【表4】

【0198】
表4に示した結果から明らかなように、平均粒子径が約40nmの結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子に窒素原子を導入した場合(実施例12〜16)には、良好なメチルビオロゲン還元活性を示す、窒素含有結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子が得られることが確認された。すなわち、平均粒子径が100nm以下の窒素含有結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子は可視光応答性の還元触媒として機能することが分かった。一方、平均粒子径が100nmを超える結晶化酸化タンタルメソ多孔体粒子に窒素原子を導入した場合(比較例13)には、前記平均粒子径が100nm以下の窒素含有結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子に比べてメチルビオロゲン還元活性が低くなることが分かった。また、窒素原子を含有しない結晶化酸化タンタル微粒子(比較例12)はメチルビオロゲン還元活性を示さないことが分かった。
【0199】
(CO還元性能)
先ず、4,4’−ジフォスフォネート−2,2’−ビピリジン(以下、「dpbpy」と略す。)の2mMジメチルスルホキシド溶液5mlに、窒素含有結晶化酸化タンタル微粒子または窒化タンタル粒子250mgを添加し、16時間撹拌して、窒素含有結晶化酸化タンタル微粒子または窒化タンタル粒子にdpbpy配位子を吸着させた。得られた分散液に遠心分離を施して上澄み液を除去し、固形物をメタノールで洗浄後、乾燥して、窒素含有結晶化酸化タンタル微粒子または窒化タンタル粒子とdpbpy配位子との複合体(以下、「dpbpy配位子複合体」という。)を調製した。
【0200】
次に、このdpbpy配位子複合体200mgと、ルテニウム化合物[Ru(bpy)(CO)(CFSO]6mgと、エタノール2mlとを混合し、2時間還流させた後、ろ過、洗浄、真空乾燥を施して、窒素含有結晶化酸化タンタル微粒子または窒化タンタル粒子とRu錯体[Ru(dpbpy)(bpy)(CO)]との複合体(以下、「Ru錯体複合体」という。)を調製した。なお、bpyはビピリジンを表す。得られたRu錯体複合体中のRu含有量をIPC分析により定量したところ、いずれも0.12〜0.14質量%の範囲内であった。
【0201】
8mlの石英試験管に、アセトニトリル(AcCN)とトリエタノールアミン(TEOA)との混合溶液(AcCN/TEOA=5/1(体積比))4mlと、前記Ru錯体複合体10mgを入れ、混合した。この分散液に炭酸ガスを15分間通気して飽和させた後、石英試験管をゴム栓で密閉した。分散液をスターラーで攪拌しながら、メリーゴーラウンド方式の照射装置を用い、Xeランプ(ウシオ電機(株)製)を光源とし、熱線吸収フィルタ(旭硝子(株)製)と紫外線カットフィルタ(40L、シグマ光機製)を通した可視光を60時間照射した。光照射後、石英試験管内の気相部分のガスをガスクロマトグラフィで、液相部分の溶液をイオンクロマトグラフで分析した。
【0202】
表5には、実施例13で得られた窒素含有結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子を用いて調製したRu錯体複合体、比較例14で得られた窒素含有結晶化酸化タンタル微粒子を用いて調製したRu錯体複合体、比較例15で得られた窒化タンタル粒子を用いて調製したRu錯体複合体のCO還元性能を示す。TNHCOOHおよびTNCOは、それぞれ還元生成物であるギ酸および一酸化炭素のターンオーバー数(生成物モル数/Ru錯体複合体のモル数)を示す。なお、これらの生成物は、酸化タンタルまたは窒化タンタル内で光励起により生成した電子がRu錯体へ移動し、還元反応が進行することによって生成するものである。また、表5には、酸化タンタルまたは窒化タンタルによる直接還元で生成する水素の生成量も示した。
【0203】
【表5】

【0204】
表5に示した結果から明らかなように、窒素含有結晶化酸化タンタル微粒子とRu錯体との複合体の場合(実施例13、比較例14)には、ギ酸および一酸化炭素が生成し、二酸化炭素の還元反応が進行していることが確認された。これは、二酸化炭素からギ酸や一酸化炭素が生成する反応がRu錯体触媒に特徴的な反応であることから、窒素含有結晶化酸化タンタル微粒子内で光励起により生成した電子がRu錯体へ移動し、Ru錯体の触媒作用によりギ酸および一酸化炭素が生成したためと考えられる。一方、窒化タンタルとRu錯体との複合体の場合(比較例15)には、二酸化炭素を光還元することはできず、窒化タンタルによる直接還元で水素のみが生成した。この結果は、窒化タンタルの伝導体下端のエネルギーレベルが二酸化炭素を還元するRu錯体のLUMOのエネルギーレベルより低いことを示している。
【0205】
また、実施例13で得られた窒素含有結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子および比較例14で得られた窒素含有結晶化酸化タンタル微粒子において、窒素含有量がほぼ同量であるにもかかわらず、ギ酸および一酸化炭素の生成量(ターンオーバー数)、水素発生量はいずれも、実施例13で得られた窒素含有結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子の方が多くなった。特に、水素発生量については、実施例13で得られた窒素含有結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子は、比較例14で得られた窒素含有結晶化酸化タンタル微粒子の4.3倍と著しく多くなった。これは、比較例14で得られた窒素含有結晶化酸化タンタル微粒子が細孔構造を有しておらず、比表面積が小さいのに対して、実施例13で得られた窒素含有結晶化酸化タンタル多孔体微粒子は、メソ細孔構造を有し、比表面積が大きいため、細孔内壁にRu錯体が配置されていない部分が多く残存し、この部分が水素生成に関与したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0206】
以上説明したように、本発明によれば、平均粒子径が非常に小さく且つメソ細孔構造を有する酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得ることが可能となる。
【0207】
したがって、本発明の酸化タンタルメソ多孔体微粒子は、吸着性能や触媒活性に優れているため、吸着剤、触媒、触媒担体などとして有用である。特に、本発明の窒素原子を含有する結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子は、錯体触媒を含有させることによって、多孔体微粒子による触媒作用と錯体による触媒作用を兼ね備えるマルチ触媒として利用することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が100nm以下であり、窒素吸着等温線において相対圧P/Pが0.99の場合の窒素吸着量がP/Pが0.90の場合の1.4倍以上であることを特徴とする酸化タンタルメソ多孔体微粒子。
【請求項2】
中心細孔直径が1〜25nmであることを特徴とする請求項1に記載の酸化タンタルメソ多孔体微粒子。
【請求項3】
アモルファス粒子であり、且つ中心細孔直径が1〜5nmであることを特徴とする請求項2に記載の酸化タンタルメソ多孔体微粒子。
【請求項4】
アモルファス粒子であり、且つ窒素吸着等温線において相対圧P/Pが0.99の場合の窒素吸着量がP/Pが0.90の場合の2倍以上であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の酸化タンタルメソ多孔体微粒子。
【請求項5】
結晶化した粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化タンタルメソ多孔体微粒子。
【請求項6】
窒素原子を1.0〜49.9原子%の割合で含有することを特徴とする請求項5に記載の酸化タンタルメソ多孔体微粒子。
【請求項7】
タンタル原料および下記式(1):
【化1】

[式(1)中、R、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表し、nは9〜25の整数である。]
で表される界面活性剤を含有する溶液と、アルコール濃度が80質量%未満の水とアルコールの混合溶媒とを、タンタル原子濃度が0.002〜0.03mol/L、界面活性剤濃度が0.002〜0.03mol/Lとなるように混合し、前記混合溶媒中で前記タンタル原料を反応させて酸化タンタル中に前記界面活性剤が導入された酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子を形成させる第一の工程と、
前記酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子に水熱処理を施して酸化タンタルメソ多孔体微粒子中に前記界面活性剤が導入された多孔体前駆体微粒子を形成させる第二の工程と、
前記多孔体前駆体微粒子中の前記界面活性剤を除去して酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得る第三の工程と、
を含むことを特徴とする酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記タンタル原料がタンタルアルコキシドおよび塩化タンタルからなる群から選択される少なくとも1種のタンタル原料であることを特徴とする請求項7に記載の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記アルコールが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコールおよびグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種のアルコールあることを特徴とする請求項7または8に記載の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記アルコール濃度が30質量%以上であることを特徴とする請求項7〜9のうちのいずれか一項に記載の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法。
【請求項11】
前記第二の工程においては、拡張剤を含有する溶液中で前記酸化タンタル/界面活性剤複合微粒子に水熱処理を施して酸化タンタルメソ多孔体微粒子中に前記界面活性剤および前記拡張剤が導入された多孔体前駆体微粒子を形成させ、且つ
前記第三の工程においては、前記多孔体前駆体微粒子中の前記界面活性剤および前記拡張剤を除去して酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得ること、
を特徴とする請求項7〜10のうちのいずれか一項に記載の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法。
【請求項12】
前記第三の工程で得られた前記酸化タンタルメソ多孔体微粒子の細孔内に炭素源を吸着させて該酸化タンタルメソ多孔体微粒子の細孔内に炭素源が導入された酸化タンタルメソ多孔体/炭素源複合微粒子を形成させる第四の工程と、
前記酸化タンタルメソ多孔体/炭素源複合微粒子を700〜890℃で加熱して前記酸化タンタルを結晶化させるとともに前記炭素源を炭化させて、結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子中に炭素が導入された結晶化多孔体前駆体微粒子を形成させる第五の工程と、
前記結晶化多孔体前駆体微粒子中の前記炭素を除去して結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得る第六の工程と、
をさらに含むことを特徴とする請求項7〜11のうちのいずれか一項に記載の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法。
【請求項13】
前記第六の工程で得られた前記結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子に、窒素源を含有する雰囲気中で加熱処理を施して、窒素原子を含有する結晶化酸化タンタルメソ多孔体微粒子を得る第七の工程をさらに含むことを特徴とする請求項12に記載の酸化タンタルメソ多孔体微粒子の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−136897(P2011−136897A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267435(P2010−267435)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】