説明

酸化タンタル系光触媒およびその製造方法

【課題】 酸化タンタル系光触媒の形態制御を行い、さらに光吸収端を長波長シフトさせることにより、特に水中で高機能な酸化タンタル系光触媒を得る。
【構成】 化学修飾したタンタルアルコキシドを部分加水分解によりポリマー化した前駆体を、粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート化した後、大気中あるいは空気、酸素、アンモニア、水素から選ばれる1種以上の雰囲気で焼成し、光吸収端が近紫外領域にある酸化タンタル系光触媒を製造し、さらに、白金、ロジウム、ニッケル、銅から選ばれる金属あるいは酸化ニッケル、酸化ルテニウムを担持して高活性化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化タンタル系光触媒およびその製造方法に関し、より詳しくは化学修飾したタンタルアルコキシドを部分加水分解によりポリマー化した前駆体を、粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート化した後焼成して得られる酸化タンタル系光触媒とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、太陽光を利用し環境汚染物質を分解除去できるため、エネルギーミニマム型環境浄化材料として期待されている。これまで、大気や水などを対象とした環境浄化材料としての光触媒は種々検討されているが、化学的安定性や安全性の観点からチタニアに勝るものはないとされ、これについて環境浄化材料への応用が活発に検討されている。
しかしチタニアの優れた性能は微粉末や薄膜について得られる物質本来の特性であり、これらは取り扱いやシステム化が困難であるため、環境浄化システムとして使用するためには、基材に固定化して用いる必要がある。固定化は一般的には、フッ素樹脂やコンクリートに練り込んだり、塗料あるいは粉末を塗布して焼結してコーティングとして用いられ、特に基材の劣化を防止するためにシリカ層などをアンダーコートする必要があり、これらはコスト高になるばかりでなく、場合によっては施工の煩雑さが光触媒の普及を妨げている。
【0003】
また、光触媒の最近の研究開発の動向として、可視光応答性の付与に関する研究も活発に行われており、プラズマ処理、窒素ドープ、硫黄ドープなどで成果が得られ始めている。このような研究が活発な理由は、とりもなおさず現状のチタニアではなお光触媒としての機能が十分ではないからに他ならない。
【0004】
現在行われているチタニアの可視光化は、プラズマ処理により伝導体に不純物準位を形成したり、窒素や硫黄などのドープにより新しい価電子帯を形成するかして、バンドギャップエネルギーを小さくし、その結果として可視光を吸収させるというものである。これらの方法は、一定の成功を収めており、可視光に応答する光触媒が得られている。このような試みは他の光触媒についても行われており、酸化タンタル系光触媒では、TaONやTaが可視光照射下、犠牲剤存在下での水分解材料として研究されており(G.Hitokiら、Chem.Commun.,2002,16,1968)、また窒素をドープして可視光応答性を付与しようとする試みもあるが、ほとんど全ての場合において、本来活性を有していた紫外線領域で活性が低下するといった問題や、寿命の問題など、依然として光触媒の高性能化には課題が残されている。特に酸化タンタル系は、例えば五酸化タンタルのバンドギャップエネルギーが3.7eV近くあり、光吸収端は高々330nmであり、近紫外光ではほとんど光触媒機能がないのが現状である(可視光応答型光触媒開発の最前線、エヌ・ティー・エス、2002年10月発行)。
【0005】
光触媒の機能を高めようとする試みはそのほかに、半導体触媒に貴金属や金属酸化物を担持する方法が一般的に認知されている。例えば特開2000−51709号公報にはチタニアや五酸化タンタルに白金、ロジウム、ニッケル、銅あるいは酸化ルテニウムを担持し光触媒機能を飛躍的に高める方法が開示されているが、実際には照射光がバンドギャップエネルギーよりはるかに大きなエネルギレベルの光源、例えば高圧水銀灯を光源とするものであり、また、分解が完全分解ではなく従って全て二酸化炭素にまで炭素が参加されるわけではないなど、問題が多く、このような方法は水分解が目的である。
すなわち、現在に至るまで、有機化合物など環境汚染物質を高速で分解できる光触媒はチタニアが圧倒的に高性能であり、しかも水中の有機化合物を高速で分解できる光触媒はチタニアでも日本エアロジル社製のP−25のみである。
【特許文献1】特開2000−51709号公報
【非特許文献1】可視光応答型光触媒開発の最前線、エヌ・ティー・エス、2002年10月発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記光触媒の問題点に鑑みなされたものであり、酸化タンタル系光触媒の形態制御を行い、さらに光吸収端を長波長シフトさせることにより特に水中で高機能な酸化タンタル系光触媒を製造することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、化学修飾したタンタルアルコキシドを部分加水分解によりポリマー化した前駆体を、粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート化後焼成することにより、上記課題を解決しうることを見いだした。
【0008】
本発明による酸化タンタル系光触媒の製造方法は、化学修飾したタンタルアルコキシドを部分加水分解によりポリマー化した前駆体を、粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート化した後焼成して酸化タンタル系光触媒を得るものである。この場合のタンタルアルコキシドの化学修飾はキレート化、エステル交換、アルコキシ交換、アシドリシス、酸無水物、二塩基酸との反応により行う。粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート化した酸化タンタル前駆体は、水蒸気処理してゲル化した後焼成する。或いは粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート化した酸化タンタル前駆体を大気中あるいは空気、酸素、アンモニア、水素から選ばれる1種以上の雰囲気で焼成する。さらに、粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート化した酸化タンタル系光触媒に白金、ロジウム、ニッケル、銅から選ばれる金属あるいは酸化ニッケル、酸化ルテニウムを担持する
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、化学修飾したタンタルアルコキシドを部分加水分解によりポリマー化した前駆体を、粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート化後、大気中あるいは空気、酸素、アンモニア、水素から選ばれる1種以上の雰囲気で焼成することにより、光吸収端が長波長シフトした、しかも、チタニアと同等以上の光触媒機能を有する酸化タンタル系光触媒が製造できる。これは、酸化タンタルの形態を制御し、ナノ−ミクロハイブリッド構造にすることにより、また価電子帯に新たに不純物準位を作ることにより、光吸収端を長波長シフトさせることができ、したがって酸化タンタルに近紫外光照射によっても光触媒機能を発現できるようにしたことにより実現したと考えられる。これにより、例えば、光触媒を水中で使用する場合、そのpHや塩濃度などの環境に応じて、チタニアに代えて使用したり、また、チタニアとハイブリッド化してさらに高機能光触媒を出現させることも期待できる。
【0010】
現在、光触媒の水中の有機化合物のより高速分解が強く求められており、光触媒の研究開発の方向は、チタニアに変わる材料の探索,開発に向かっている。しかしながら、実用化されている唯一の光触媒は現在のところチタニアである。本発明によって明らかにされる酸化タンタル系の光触媒機能発現メカニズムは、このチタニアをさらに高機能化するためにも適用できるものである。このように本発明は、最終的にはチタニアと競合するものではなく、本発明で製造される酸化タンタル系光触媒とチタニア光触媒が、相補的に利用され、その結果としてより高効率光触媒製品の開発が可能になることも期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の酸化タンタル系光触媒の製造方法は、化学修飾したジルコニウムアルコキシドを部分加水分解によりポリマー化した前駆体を、粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート化後焼成する方法である。
【0012】
本発明で使用するタンタルアルコキシドは一般式Ta(OR)(式中Rはアルキル基またはアリール基を表す)で表され、Rは焼成によりセラミックス中から除去されるため一般的には炭素数の少ないエチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル基などが好ましい。特別に、製造する光触媒を多孔質構造にしたい場合には、炭素数の多いアルキル基やアリール基を有するアルコキシドを用いることもできる。
【0013】
タンタルアルコキシドを部分加水分解するにあたり、適宜アルコキシ基を選択することにより加水分解速度を調整することもできるが、ジルコニウムタンタルアルコキシドをキレート化、エステル交換、アルコキシ交換、アシドリシス、酸無水物、二塩基酸との反応などにより化学修飾して加水分解速度を調整することが好ましい。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、オクタンジオール、ヘキサンジオールのようなグリコール類、アセチルアセトンのようなβ−ジケトン類、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、サリチル酸のようなヒドロキシカルボン酸類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチルのようなケトエステル類、ジアセトンアルコールのようなケトアルコール類のO配位タイプの配位子、エチレンジアミン、アミノアルコール、オキシキノリン、シッフベースのようなN配位タイプの配位子、シクロペンタジエニル化合物のようなC配位タイプの配位子、P、B、S配位タイプの配位子によるキレート化、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルのような有機酸エステル類によるエステル交換反応、n−ブチルアルコール、n−ペンタノールのようなアルキル鎖長の長いアルコール類によるアルコキシ交換反応、酢酸、プロピオン酸、フェニル酢酸のようなカルボン酸類とのアシドリシス、無水酢酸、無水ヘプタン酸、無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸のような酸無水物との反応、アジピン酸、マレイン酸、フタル酸のような二塩基酸との反応によりタンタルアルコキシドの一部あるいは全部を加水分解速度の異なる置換機に置換することにより、さらには一部ポリマー化することにより化学修飾して加水分解速度を調整することが可能となる。置換されるアルコキシ基の割合は金属の種類、アルコキシ基の種類により異なるが、全アルコキシ基の5〜80%が置換されていることが好ましい。5%以下では効果が十分ではなく、80%を超えると以下の部分加水分解でポリマー化が不十分となり、特に、繊維化やナノシート化する場合繊維やナノシート化しにくく好ましくない。
【0014】
このようなタンタルアルコキシドの化学修飾により、タンタルアルコキシド分子中には加水分解の速い置換基と遅い置換機が導入され、場合によっては加水分解によるポリマー化が部分的に達成されたのと同様の効果を期待できる。こうして化学修飾されたジルコニウムアルコキシドは、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジエチルエーテルのような水を溶解する溶媒で希釈され、これに同様の溶媒中に所望の量の水を溶解し、さらに必要に応じて塩酸などの酸触媒を加えたものを、溶液が白濁しない程度の速度で攪拌しながら加えることにより部分的に加水分解され、ポリマー化する。
化学修飾されたタンタルアルコキシドは必ずしも希釈する必要はないが、十分な流動性を確保するために、適宜溶媒で希釈することができる。この希釈用の溶媒は脱水されていることが望ましい。
【0015】
また混合する水の量はタンタルアルコキシドを部分的に加水分解する量であることが必要であり、一般的に、タンタルアルコキシドの0.5〜2倍モルの範囲で化学量論的に決定されなければならない。すなわち、本発明では、タンタルアルコキシドのポリマー化を、溶媒に可溶であることはもちろん、後述する粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート化する工程において、鎖状ポリマーあるいは分岐構造を有する鎖状ポリマーとして得ることが必須である。水の量がタンタルアルコキシドの0.5倍モルより少ないと鎖状ポリマーを形成しないアルコキシドが残留し、2倍モルを超えるとゲル化するか、一部無機微粒子を形成し前駆体溶液を形成しにくくなるので好ましくない。
【0016】
このように調製されたタンタル酸化物前駆体溶液は、本発明の粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート化する工程に用いることができるが、鎖状ポリマーあるいは分岐構造を有する鎖状ポリマーの十分な発達と溶液の組成および濃度を厳密に制御するために減圧下で熟成および濃縮することが望ましい。熟成時間は濃縮に要する時間で十分である。濃縮温度は室温から100℃で十分であり、100℃以上では精製したポリマーがゲル化する場合があり好ましくない。
本発明による製造方法の粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート化する工程では、得られた前駆体を溶媒を用いて所望の濃度の溶液に調整するか、加熱して溶融させて使用する。
【0017】
化学修飾したタンタルアルコキシドを部分加水分解によりポリマー化した前駆体を、粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート化する方法は公知の方法を用いることができる。
粉末は、前駆体を後述する雰囲気中で焼成して得た生成物を粉砕して製造することもできるし、前記前駆体溶液を激しく攪拌した水中に投入してゲル化させて製造することができる。さらに、例えば特開2002−205064号公報に開示されたチタニア球状多孔質体の製造方法と同様の方法で酸化タンタル系球状多孔質体を製造することもできる。
【0018】
繊維は、通常の乾式あるいは湿式紡糸により繊維化することができる。この繊維化は直径が2〜50μmであることが好ましい。2μm以下では合成が困難であり、50μm以上ではしなやかさに欠け、光触媒として利用する場合、繊維としての利点が活かせない。
薄膜化は、ディップコーティングやスピンコーテイングあるいはスプレーコーティングなどの方法を用いることができる。ナノシート化は、本発明者らがすでに特願2003−13156号公報により開示した方法により得ることができる。すなわち、化学修飾したタンタルアルコキシドを部分加水分解することによりポリマー化した前駆体を水に適度な溶解性を有する溶媒に溶解し、精密にケミカルデザインしたプロセスで流動する水面上に滴下し展開する流動界面ゾル−ゲル法により、厚みが制御され、均一な構造のゲルナノシートが連続的に製造する。
【0019】
このように形態を付与された酸化タンタル系前駆体ポリマーは、大気中の水分や形態付与される水中や水との界面で加水分解されゲル化しているが、粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート化した後、水蒸気処理してゲル化した粉末、繊維、薄膜あるいはナノシートをさらに加水分解し、ゲル化を進めるとともに、残留するゲル中の有機成分の量、すなわち炭素量を調整することができる。この水蒸気する雰囲気は飽和水蒸気圧の大気中でよいが、加水分解を促進し、分離した有機成分をゲルから除去しやすくするため50〜100℃で処理することが好ましい。
【0020】
ゲル化した粉末、繊維、薄膜あるいはナノシートは、大気中あるいは空気、酸素、アンモニア、水素から選ばれる1種以上の雰囲気で焼成して、酸化タンタル系粉末、繊維、薄膜あるいはナノシートに変換される。ゲル化した粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート中には有機成分が残留しているので、焼成する雰囲気は炭素成分を酸化してあるいは還元して除去できることが必要であり、大気中あるいは空気、酸素、アンモニア、水素雰囲気が好ましく、特に大気中あるいは空気、酸素、アンモニアが好適であり、必要により2種以上の混合雰囲気を使用してもよい。焼成する温度は、ゲル化した前駆体がタンタル酸化物に変換すればよく、化学修飾で導入した有機成分の種類にもよるが、一般的に200℃以上であればよいが、機能を十分発揮させるためには350℃以上が好ましく1400℃より高温で焼成しても効果に変わりがない。昇温速度には特に規定はないが、1時間に50℃以下では実用的でなく、500℃より速いと炭素含有量が多い場合タンタル酸化物中に炭化物が生成する場合があり好ましくない。
【0021】
粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート化した酸化タンタル系光触媒に白金、ロジウム、ニッケル、銅から選ばれる金属あるいは酸化ニッケル、酸化ルテニウムを担持する方法は公知方法を採用することができ、例えば、有機金属錯体を用いるコロイド焼成法、水溶性金属塩を含浸して水素雰囲気で還元する方法、光電着法、沈殿法、イオン交換法などで嘆じさせることができる。その担持量は光触媒の0.001〜10wt%でよく、より好ましくは0.01〜5wt%である。
【0022】
かくして得られる本発明の化学修飾したタンタルアルコキシドを部分加水分解によりポリマー化した前駆体を、粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート化後焼成して得られるタンタル酸化物は、光吸収端が近紫外光領域にあり、光触媒機能を有することを特徴とする。従来、五酸化タンタルはチタニアと同様酸化物半導体であるが、そのバンドギャップエネルギーは近紫外光で励起されるには3.7eV程度と大きすぎ、吸収する光の波長は高々320nmであり、通常光触媒としての機能はないとされている。本発明のタンタル酸化物が、近紫外光領域に光吸収端を有し、光触媒機能を有する理由は以下のように推定することができるが、必ずしも明確ではなく、本発明の酸化タンタル系光触媒が光触媒機能を有する原因はいかなる理論によっても拘束されるものではない。
【0023】
現在光触媒の応用が最も広範に検討されているものはチタニアであり、可視光応答性の付与に関する研究も活発に行われており、プラズマ処理、窒素ドープ、硫黄ドープ、炭素ドープなどで成果が得られ始めている。現在行われているチタニアの可視光化は、プラズマ処理により伝導体に不純物準位を形成するか、窒素ドープなどにより新しい価電子帯を形成するかして、半導体のバンドギャップエネルギーを小さくし、その結果として可視光を吸収するようにするというものである。これらの方法は、一定の成功を収めており、可視光に応答する光触媒のメカニズムと考えられている。
【0024】
本発明の酸化タンタル系光触媒が光触媒機を発現した要因は、その製造方法にあると考えられる。すなわち、化学修飾したタンタルアルコキシドを部分加水分解によりポリマー化した前駆体を、粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート化後焼成する方法において、タンタルアルコキシドの化学修飾がキレート化、エステル交換、アルコキシ交換、アシドリシス、酸無水物、二塩基酸との反応により耐加水分解性の高い置換基を導入することにより、ゲル化した粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート中には化学修飾の程度に応じた有機基が残存している。このような制御された炭素含有量を有するゲル化した粉末、繊維、薄膜あるいはナノシートを、大気中あるいは空気、酸素、アンモニア、水素から選ばれる1種以上の雰囲気で焼成される。ゲル化した粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート中には有機成分が残留しているので、焼成する雰囲気により、炭素成分は酸化あるいは還元されて除去されるが、大気中あるいは空気、酸素中で焼成されても分子中で結合した炭素は一部残留する可能性が高い。しかも、大気中あるいは空気中には窒素が存在し、特にアンモニア中では、分子中で結合した酸素が脱離する際、窒素と置換し、すなわち、窒素がタンタル酸化物中に取り込まれる可能性が高い。このように、最終的にタンタル酸化物中には、窒素ドープあるいは炭素ドープが起こり、新しい価電子帯が形成され、バンドギャップエネルギーが小さくなったことが推定される。さらに、化学修飾の程度に応じた有機基が残存しているゲル化した粉末、繊維、薄膜あるいはナノシートが高温で焼成される際、粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート中では、残存する有機基が熱分解により脱離する。このとき、生成する酸化タンタル系光触媒中には酸素欠陥構造が生成する可能性が極めて高い。特に水素を含有する雰囲気では酸素欠陥構造が生成しやすく、伝導体に不純物準位を形成し、バンドギャップエネルギーが小さくなることが推定される。
【0025】
しかしながら、本発明の酸化タンタル系光触媒が光触媒機を発現した最も大きな要因は、その形態にあると考えられる。特に、繊維あるいはナノシート化した酸化タンタル系光触媒では、その形態が一次元あるいは二次元的であり、図1に示すようにナノシートは極めて異方性の大きな材料である。しかも、例えば繊維の場合には、図2に示すように表面と内部の構造の違い、すなわち表面は緻密で内部は大きな結晶粒が発達しているという、構造的にナノ−ミクロハイブリッド構造を有している。さらに、ナノシートでは図1に示したように厚みが一般的に50〜1000nmであり、形態的にもナノ−ミクロハイブリッド構造を有している。すなわち、従来の考え方では予想できない電荷分離効果などの現象が起きている可能性もある。また、ナノシートに金属などを担持し、その後粉砕してスラリー化すると金属が担持された表面と担持されていない端面を有する従来存在しなかった材料が出現していることになり、表面と端面で異なる反応が起きている可能性もある。
【0026】
このように、酸化タンタル系光触媒の形態を制御することにより、さらに価電子帯に新たに不純物準位を作ることにより、光吸収端を長波長シフトさせることができ、したがってタンタル酸化物に光触媒機能を発現させることに成功したと考えられる。
光触媒のより高効率化が強く求められている状況から、現在、光触媒の研究開発の方向は、チタニアに変わる材料の探索、可視光応答型光触媒の開発に向かっている。しかしながら、実用化されている唯一の光触媒はチタニアである。本発明によって明らかにされるた高活性な酸化タンタル系光触媒は、このチタニアをさらに高機能化するためにも適用できるものである。このように本発明は、最終的にはチタニアと競合するものではなく、本発明で製造される酸化タンタル系光触媒とチタニア光触媒が、相補的に利用され、その結果としてより高効率光触媒製品の開発が可能になると期待される。
【0027】
次に、本発明の具体例を説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
1モルのペンタエトキシタンタルを過剰の2−プロパノールに溶解し、加熱しながら減圧下で濃縮してペンタ−2−プロポキシタンタルを得た。これを1モルの3−オキソブタン酸エチルでキレート化し、発熱がおさまってから、攪拌しながら塩酸とエタノールの混合液に溶解した1.35モルの水を加え部分加水分解を行った。さらにロータリーエバポレーターにより減圧下で60℃まで加熱し濃縮して、粘稠な生成物を得た。これにイソプロパノールを加え、75重量%溶液を調整した。
【0029】
この溶液を酸化物セラミックスナノシート製造装置を用いて、流動界面ゾル−ゲル法により、ノズル周囲の雰囲気を窒素雰囲気として、23℃に制御した流動する水面上に12mgの液滴で正確に滴下し、ゲルナノシートを作製した。得られたゲルナノシートを100℃で3時間、大気中で乾燥し、その後200℃/時の昇温速度で大気中で1000℃まで加熱し、1時間保持して焼成し、厚みがおよそ90nmの五酸化タンタルナノシートを得た。
【0030】
さらに、この五酸化タンタルナノシート500mgを100mLの純水中に分散し、ヘキサクロロ白金酸六水和物を白金換算で2wt%になるように添加し、さらにイソプロパノールを300mL混合して、1時間光反応装置中で攪拌後、低圧水銀灯の光を水フィルターを通して3時間照射して、白金を五酸化タンタルナノシート上に析出させた。反応終了後、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、100℃で乾燥して、白金担持五酸化タンタルナノシートを得た。
【0031】
10ppmCのフタル酸水素カリウム水溶液を調整し、平沼産業(株)の光触媒方式の全有機炭素測定装置TOC−2000(中心波長が380nmであるランプで光照射を行った)を用いて五酸化タンタルナノシートおよび白金担持五酸化タンタルナノシートのフタル酸水素カリウムの分解速度を評価した。反応液は、ナノシートを1時間ボールミルで粉砕したもの3gを純水1Lに懸濁させ、さらに0.1M過塩素酸を20mL添加して調整した。反応液量は4mL、フタル酸水素カリウム水溶液量は2mLとした。リアクター内にフタル酸水素カリウム水溶液を際、さらに0.1M過塩素酸を0.5mL添加した。比較のために、酸化チタン(P−25)微粉末も同様にして反応液を調整した。
水溶液中の全有機炭素の分析結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
本発明の酸化タンタル系光触媒がP−25と同等以上の光触媒機能を有することがわかった。
【実施例2】
【0034】
1モルのペンタエトキシタンタルを0.8モルの3−オキソブタン酸エチル(Lと略記する)でキレート化し、これに1モルの2−プロパノールと1−ブタノールを加え、加熱しながら減圧下で濃縮してTaL(OC)2(OiC)(OnC)を得た。これに、攪拌しながら塩酸とエタノールの混合液に溶解した1.35モルの水を加え部分加水分解を行った。さらにロータリーエバポレーターにより減圧下で60℃まで加熱し濃縮して、粘稠な生成物を得た。これを紡糸して、80℃の飽和水蒸気中で1時間保持してゲル化を促進すると共に分解性生物である有機物をできる限り除去した。大気中で1時間に100℃の昇温速度で1200℃まで加熱し、1時間保持して直径約6μmから20μmの繊維状五酸化タンタル光触媒を得た。紫外−可視吸収スペクトルは、400nm以上に光吸収端を示した。
【0035】
この繊維を約5mmの長さに切断し内径8mm、長さ25mmの石英ガラス管に50mg/cm以上の充填密度で充填しモジュール化した。
このモジュール内へ104ppmのトリクロロエチレン(TCE)を流しながらブラックライトで波長310〜400nm、強度1.3mW/cm2の紫外線を照射し、TCEの分解速度をガスクロマトグラフで測定した結果、分解生成物は大部分が二酸化炭素と水であり、チタニア繊維の60%程度の分解速度でTCEを分解した。
【実施例3】
【0036】
1モルのペンタエトキシタンタルを0.8モルの3−オキソブタン酸エチルでキレート化し、これに2モルの1−ブタノールを加え、35℃で加熱しながら減圧下で濃縮した。濃縮物に攪拌しながら塩酸とエタノールの混合液に溶解した1.35モルの水を加え部分加水分解を行った。さらにロータリーエバポレーターにより減圧下で65℃まで加熱し濃縮して、粘稠な生成物を得た。これにイソプロパノールを加え、25wt%溶液を調整した。
【0037】
得られた溶液を100〜110℃で乾燥した市販のメタクリル系ハイポーラス型合成吸着材に含浸した。含浸後80℃の飽和水蒸気雰囲気で1時間処理し、その後、大気中900℃で5時間焼成して酸化タンタル系球状多孔質体を得た。球状多孔質体の直径は110〜350μmであった。
【0038】
さらに、この球状多孔質体に無電解メッキでNi−P(Pはおよそ3wt%)をNiが1wt%になるようにメッキし、大気中で800℃で焼成してNiO担持酸化タンタル系光触媒とした。また、塩化ロジウム三水和物のエタノール溶液をロジウムが3wt%になるように含浸し、その後10%の水素を含有するアルゴン雰囲気で100℃/時の昇温速度で800℃まで加熱し、1時間保持してロジウム担持酸化タンタル系光触媒を得た。
【0039】
これらの球状多孔質体1gを、内径6mm、長さ20cmのガラスフィルター付き石英ガラス管に充填し水系浄化モジュールとし、下方から20ppmのペンタクロロフェノールのアルカリ水溶液100mlを流速35ml/minで通水し、高さ15cmの流動層を形成させながら1.3mW/cmでブラックライト(波長域310〜400nm)で照射した。ペンタクロロフェノールの分解を紫外−可視スペクトルの吸収ピークの減少で追跡し、吸光度が1/10に減少する時間で評価した結果をチタニア球状多孔質体と比較して表2に示す。
【0040】
【表2】

いずれもチタニア球状多孔質体と同程度の光触媒機能を有していることが分かった。
【実施例4】
【0041】
実施例1で得られた五酸化タンタルナノシートを、アンモニア雰囲気中で100℃/時の昇温速度で500℃まで加熱し、1時間保持して焼成し窒素をドープした。得られた生成物のX線回折図形は五酸化タンタルと同様であったが、ナノシートはわずかに褐色に着色しておりXPS測定の結果窒化されていることが分かった。おそらく窒素がドープされた酸窒化物のTa5-xが生成していることが分かった。
これを実施例1と同様に反応液とし、フタル酸水素カリウムの分解速度を評価した結果、分析時間は8.5分となり、P−25とほぼ同程度であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】酸化タンタル系ナノシートが極めて異方性が大きい形態的にナノ−ミクロハイブリッド材料であることを示す図である。
【図2】繊維状酸化タンタル系光触媒の表面のSEM写真である。
【図3】繊維状酸化タンタル系光触媒の内部のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学修飾したタンタルアルコキシドを部分加水分解によりポリマー化した前駆体を、粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート化した後焼成して得られる酸化タンタル系光触媒の製造方法。
【請求項2】
タンタルアルコキシドの化学修飾がキレート化、エステル交換、アルコキシ交換、アシドリシス、酸無水物、二塩基酸との反応である請求項1に記載の酸化タンタル系光触媒の製造方法。
【請求項3】
粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート化した酸化タンタル前駆体を水蒸気処理してゲル化した後焼成する請求項1または2に記載の酸化タンタル系光触媒の製造方法。
【請求項4】
粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート化した酸化タンタル前駆体を大気中あるいは空気、酸素、アンモニア、水素から選ばれる1種以上の雰囲気で焼成する請求項1または2に記載の酸化タンタル系光触媒の製造方法。
【請求項5】
粉末、繊維、薄膜あるいはナノシート化した酸化タンタル系光触媒に白金、ロジウム、ニッケル、銅から選ばれる金属あるいは酸化ニッケル、酸化ルテニウムを担持する請求項1〜4の何れかに記載の酸化タンタル系光触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜6に記載された酸化タンタル系光触媒の製造方法により製造された酸化タンタル系光触媒。
【請求項7】
光吸収端が近紫外領域以上である請求項6に記載の酸化タンタル光触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−263504(P2006−263504A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−81722(P2005−81722)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(301035194)株式会社ひたちなかテクノセンター (11)
【出願人】(503032588)株式会社アート科学 (12)
【Fターム(参考)】