説明

酸化チタン光触媒用塗膜の形成方法

【課題】可視光領域において高い光吸収特性を発現する硫黄含有酸化チタン粉末を含有する塗膜形成用組成物を基材に塗布した際、酸化チタン粉末が均一に分散され、且つ硬度および密着性に優れる酸化チタン光触媒用塗膜の形成方法を提供すること。
【解決手段】オルガノシラン化合物を含有する液(A液)と、硫黄含有酸化チタン粉末及びペルオクソチタン酸を含有する液(B液)を混合し、混合後、24時間以内に該A液と該B液の混合液を基板に塗布し、乾燥して塗膜を形成する酸化チタン光触媒用塗膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光応答型で光触媒活性が高く有害物分解や湿式太陽電池に有効な酸化チタン光触媒用塗膜の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン粉末は、白色顔料として古くから利用されており、近年は化粧品などの紫外線遮蔽材料、光触媒、コンデンサ、サーミスタの構成材料あるいはチタン酸バリウムの原料等電子材料に用いられる焼結材料に広く利用されている。特にここ数年、光触媒としての利用が盛んに試みられており、酸化チタンに、そのバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を照射することによって酸化チタンが励起されて、伝導帯に電子が生じ、価電帯に正孔が生じるが、この電子による還元力または正孔による酸化力を利用した光触媒反応の用途開発が盛んに行われている。この酸化チタン光触媒の用途は非常に多岐に亘っており、水の分解による水素の発生、酸化還元反応を利用した有機化合物の分解、排ガス処理、空気清浄、防臭、殺菌、抗菌、水処理、照明機器等の汚れ防止等、数多くの用途開発が行われている。
【0003】
しかしながら、酸化チタンは可視光付近の波長領域において大きな屈折率を示すため、可視光領域では殆ど光吸収は起こらない。これは、アナターゼ型二酸化チタンは3.2eV、ルチル型二酸化チタンは3.0eVというバンドギャップを有することに起因しており、酸化チタンの吸収可能な光の波長は、アナターゼ型酸化チタンで385nm以下、ルチル型酸化チタンで415nm以下である。これらの波長の光は大部分が紫外線領域に該当し、地球上に無限にある太陽光にはごく一部しか含まれておらず、従来知られている酸化チタン光触媒は、紫外線照射下では光触媒特性を発現するものの、太陽光のもとでは、そのエネルギーのうちごく一部しか活用できずに、光触媒として十分な活性は期待できない。また、屋内での蛍光灯などの下での利用を考えると、蛍光灯のスペクトルは殆どが400nm以上であるため、光触媒として十分な特性を発現することはできない。そこで可視光領域での触媒活性を発現させ、より利用性が高い高活性の光触媒の開発が行なわれている。
【0004】
近年、従前の金属イオンを酸化チタンにドープした光触媒の不十分な触媒活性を改善するものとして、硫黄含有酸化チタン粉末、分散剤及び溶媒からなる酸化チタン分散体が開示されている(特開2006−1774号公報)。この酸化チタン分散体によれば、紫外線領域だけではなく可視光領域の光触媒活性が高いことから、太陽光の当たらない蛍光灯等の室内においても十分に光触媒作用を発揮することができるものである。
【0005】
上記酸化チタン分散体を光触媒として用いる場合、水あるいは有機溶剤等の分散媒に懸濁し分散させてコーティング剤や塗料を調製し、これを基材に塗布して乾燥し、光触媒用酸化チタン塗膜を形成する。この場合、酸化チタン粉末の溶媒への分散性が問題となる。具体的には、酸化チタン粉末を溶媒に分散させた後、酸化チタン粉末が凝集して沈殿してしまう。
【0006】
従来、酸化チタン粉末の分散性に関する問題を解決するために、シリカ、アルミナ等の元来分散性の高い疎水性物質を酸化チタン粉末表面に被覆する方法が知られており、例えば特開平5−281726号公報では、アルミニウム塩基性塩水溶液を酸でpHを10.5〜12.0に調節し、これに二酸化チタンスラリーを混合し、次いでこれを酸で中和して二酸化チタン粉末表面に酸化アルミニウム水和物を均一に析出させる方法が開示されている。また、特開2001−220141号公報および特開2001−262005号公報では、ペルオクソチタン酸含有分散媒に酸化チタン粉末を均一分散してなる酸化チタン分散体または酸化チタン光触媒用塗膜形成用組成物が開示されている。
【0007】
しかし、これらの酸化チタン光触媒塗膜形成用組成物は、分散媒に対する酸化チタン粉末の分散性は改善されているが、実際には、更に分散性の高いものが要求されている。また、これらの酸化チタン光触媒塗膜形成用組成物は、保存中にゲル化を起こすという問題も抱えていた。さらに、これら酸化チタン光触媒塗膜形成用組成物を使用して形成した酸化チタン塗膜の硬度が低く、酸化チタン塗膜によりコーティングした基材を加工した際に、塗膜が剥がれてしまうという問題があった。
【0008】
また、(a)アナターゼ型酸化チタンと、(b)シリカ微粒子、シリコーン樹脂皮膜を形成可能なシリコーン樹脂皮膜前駆体、およびシリカ皮膜を形成可能なシリカ皮膜前駆体からなる群から選択される少なくとも一種と、(c)溶媒とを少なくとも含む組成物が開示されている(WO98/03607号)。この組成物の(b)成分としては、加水分解性シラン誘導体が使用でき、酸化チタン粉末を基板面に固定化することが開示されている。しかし、この酸化チタン光触媒塗膜形成用組成物は、3日間の放置で凝集が起こらない程度の分散性であり、高度な分散性の要求を満足するものではない。また、これら先行文献は、本発明に用いられる硫黄含有酸化チタン粉末を用いた光触媒塗膜形成用組成物について開示したものではない。
【特許文献1】特開2006−1774号公報
【特許文献2】特開平5−281726号公報
【特許文献3】特開2001−220141号公報
【特許文献4】特開2001−262005号
【特許文献5】WO98/03607号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、可視光領域において高い光吸収特性を発現する硫黄含有酸化チタン粉末を含有する塗膜形成用組成物を基材に塗布した際、酸化チタン粉末が高度に分散され、且つ硬度および密着性に優れる酸化チタン光触媒用塗膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、オルガノシラン化合物を含有する液(A液)と、硫黄含有酸化チタン粉末及びペルオクソチタン酸を含有する液(B液)を混合し、混合後所定時間内に該A液と該B液の混合液(以下、「塗膜形成用組成物」とも言う。)を基板に塗布し、乾燥して塗膜を形成すれば、該A液と該B液の分散性がそれぞれ高いため硫黄含有酸化チタン粉末の凝集の恐れがないこと、更に混合後、基材に塗布して得られた塗膜は、酸化チタン粉末の分散性に優れ、且つ硬度が高く、密着性が顕著に優れる共に、可視光領域において、高い触媒活性を発現することなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、オルガノシラン化合物を含有する液(A液)と、硫黄含有酸化チタン粉末及びペルオクソチタン酸を含有する液(B液)を混合し、混合後、24時間以内に該A液と該B液の混合液を基板に塗布し、乾燥して塗膜を形成することを特徴とする酸化チタン光触媒用塗膜の形成方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の酸化チタン光触媒用塗膜の形成方法によれば、塗布した光触媒用塗膜は酸化チタン粉末が均一に分散されており、硬度に優れ、容易に剥がれることがなく、さらに可視光領域において高い光吸収特性を発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の酸化チタン光触媒用塗膜の形成方法(以下、単に「塗膜形成方法」とも言う。)で用いるオルガノシラン化合物を含有する液(A液)において、オルガノシラン化合物は、得られる塗膜の硬度を高めるために使用される。オルガノシラン化合物としては、オルガノシラン又はオルガノシランの加水分解物が挙げられる。オルガノシランとしては、アルキルアルコキシシラン、アルコキシシラン、またこれらのオリゴマーまたは重合物が用いられる。オルガノシラン化合物は、例えば、一般式(1);
Si(OR4―x (1)
(式中、Rは、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ビニル基、アリル基、アラルキル基のいずれかで、同一または異なっていてもよく、Rは炭素数1〜6のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ビニル基、アリル基、アラルキル基を示し、同一または異なっていてもよく、xは0≦x≦3の整数である。)あるいは一般式(2);
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、RおよびRは炭素数1から6のアルキル基、アルコキシ基、水酸基、または塩素原子、臭素原子およびフッ素原子から選ばれるハロゲン原子であり、RとRは同一または異なってもよく、RおよびRは炭素数1から6のアルキル基であり、RとRは同一または異なり、mは繰返しの数であり2〜20である。)で表されるオルガノシラン化合物が挙げられる。
【0016】
オルガノシラン化合物の具体例としては、テトラアルコキシシラン、テトラアセチルオキシシラン、テトラフェノキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、クロロトリエトキシシラン等を挙げることができる。テトラアルコキシシランとしては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、トリメトキシエトキシシラン等が好ましく、特にテトラエトキシシランが好ましい。
【0017】
オルガノシランの加水分解物としては、例えばpHを1〜4に調製した水溶媒中にオルガノシランを添加、攪拌して得られるものが使用でき、このうち、テトラエトキシシランの加水分解物が好適である。
【0018】
A液は上記オルガノシラン化合物を、溶媒に溶解あるいは懸濁させたものである。この溶媒としては、特に制限されず、例えば水および有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類やケトン類が挙げられ、このうち、水が好ましい。溶媒は1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0019】
A液の調製方法としては、特に制限されず、例えば酸でpHを1〜4、好ましくは2〜4に調製した純水中に、テトラエトキシシランを添加し、スターラーで一昼夜攪拌し加水分解させテトラエトキシシラン加水分解物水溶液を得る方法が挙げられる。酸としては、鉱酸あるいは有機酸が挙げられる。鉱酸としては塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられ、有機酸としては、酢酸、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムなどが挙げられる。これらのうち、硝酸あるいはリン酸が、得られる光触媒活性に影響を及ぼさない点で好ましい。
【0020】
上記テトラエトキシシラン加水分解物水溶液(A液)に、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムおよびヘキサメタリン酸ナトリウムから選ばれる1種以上の凝集防止剤を更に混合することが、塗膜形成用組成物を形成した際の酸化チタン粉末の分散性の向上またゲル化防止の効果を得ることができる点で好ましい。A液中、これら凝集防止剤の配合量としては、特に制限されないが、概ね0.05〜10重量%の範囲で適宜決定される。
【0021】
更に、A液の調製において、塗膜形成用組成物(混合液)を表面が疎水性の基板に塗布する場合は、基板との密着性を改善するためにスルホン酸型化合物を加えることができる。スルホン酸型化合物としては、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルフォン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩−ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩などがある。添加量は、塗膜形成用組成物中、0.04〜0.4質量%、好ましくは0.04〜0.2質量%である。量が少ないと濡れ性改善効果が得られ難く、一方、量が多いと光触媒性能へ悪影響を及ぼす傾向にある。また、スルホン酸型化合物をB液に配合すると、硫黄含有酸化チタン粉末をB液中で分散させ難くなる。
【0022】
本発明において、B液で使用される硫黄含有酸化チタン粉末としては、特に制限されず、特開2006−1774号公報に記載のものであり、酸化チタン中に硫黄原子を含有するもの、さらに硫黄原子が酸化チタン中のチタン原子と置換して陽イオンとして酸化チタン中にドープされたものが挙げられる。このような硫黄含有酸化チタン粉末を得る方法としては、四塩化チタンと酸素また必要に応じて水素ガスなどの可燃性ガスや水蒸気を気相で反応させて得られたルチル型またはアナターゼ型酸化チタンと硫黄または含硫黄化合物を混合し焼成する方法、硫酸チタニル、硫酸チタンおよび硫酸チタンアンモニウムを焼成する方法、硫酸チタニル、硫酸チタンおよび硫酸チタンアンモニウムなどの含チタン水溶液を加水分解させ得られた酸化チタンと硫黄または含硫黄化合物を混合し焼成する方法、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物を加水分解させ得られた酸化チタンと硫黄または含硫黄化合物を混合し焼成する方法および塩化チタン水溶液を加水分解またはアルカリで中和して固形物を得る際、この何れかの段階において硫黄または含硫黄化合物を混合させ、次いで硫黄または含硫黄化合物を含む固形物を焼成する方法等が挙げられる。このうち、塩化チタン水溶液を加水分解またはアルカリで中和して固形物を得る際、この何れかの段階において硫黄または含硫黄化合物を混合させ、次いで硫黄または含硫黄化合物を含む固形物を焼成する方法(以下、単に、「塩化チタン水溶液を用いた方法」とも言う。)で得られる硫黄含有酸化チタン粉末は、これを光触媒として用いた場合、可視光領域で光触媒活性が発現する点で好ましい。以下、塩化チタン水溶液を用いた方法について詳述する。
【0023】
塩化チタン水溶液は、三塩化チタン水溶液または四塩化チタン水溶液である。三塩化チタン水溶液は、例えば塩酸に金属チタンを溶解することで得ることができる。金属チタンとしてはチタン粉末やスポンジ状チタン、または切粉などのチタンスクラップなどが用いられる。四塩化チタン水溶液は、四塩化チタンを水または塩酸に溶解させて得ることができる。塩化チタン水溶液中のチタン濃度は任意であるが、製造効率また得られる酸化チタン粉末の粒径などを考慮するとチタン含有量が1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%、特に好ましくは2〜5質量%である。また塩化チタン水溶液は不純物成分が少なく純度が高いことが望ましく、具体的にはアルミニウム、鉄、及びバナジウムがそれぞれ1ppm以下、ケイ素及びスズがそれぞれ10ppm以下である。
【0024】
また、上記塩化チタン水溶液を加水分解またはアルカリで中和して固形物を得るが、この固形物は、ルチル型あるいはアナターゼ型の酸化チタン、オルトチタン酸、メタチタン酸、水酸化チタンまたは酸化チタン水和物であり粉末状あるいはコロイド状である。また、この固形物は、硫黄又は硫黄化合物を含む場合も同様の結晶及び形態である。このような固形物を得る方法として、具体的には以下のような方法が挙げられる。
【0025】
(1)塩化チタン水溶液を還流下で加熱し、加水分解して固形物を析出させる方法。このとき塩素ガスが発生するが、加圧または還流器などにより塩酸ガスの発生を抑え、低pH領域で加水分解することによって、より微粒の酸化チタン粉末を得ることができる。
(2)塩化チタン水溶液中に、アンモニアなどのアルカリを添加し、固形物を析出させる方法。このときこれらのアルカリの内、金属成分を含まないアンモニアまたはアンモニア水で中和することが望ましい。
(3)アンモニア水などのアルカリ溶液中に、塩化チタン水溶液を添加して固形物を析出させる方法。
【0026】
上記のように塩化チタン水溶液を加水分解あるいは中和して得られた後、オルトチタン酸またはメタチタン酸が生成するが、光触媒活性を向上させるためにはメタチタン酸が生成するような条件で塩化チタン水溶液を加水分解または中和することが望ましい。その後、塩酸分やアルカリ成分など不純物を除去するために洗浄を行ない、必要に応じて分離、乾燥して粉末状にする。さらに、必要に応じて結晶水などの水分を除去するために乾燥を行なう。固形物の分離方法は、フィルターあるいはフィルタープレスによる濾過、デカンテーション、遠心分離などで行なわれ、乾燥は固形物の粒子の凝集を防止できる方法が好ましく、スプレードライヤーや市販の乾燥機が用いられる。また、得られた固形物は、乾燥せずに懸濁状態のまま硫黄または含硫黄化合物と混合させたり、焼成工程を行なってもよい。
【0027】
上記(2)の方法において、塩化チタン水溶液をNaOH、KOH、Ca(OH)(消石灰)などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属等の金属の水酸化物で中和し、得られる酸化チタン粉末にこれらの金属成分が残留しても差し支えなく、最終的に得られる光触媒の特性にあまり影響はない。例えば、塩化チタン水溶液に消石灰溶液を添加し中和して酸化チタン水和物を析出させ、この懸濁液にポリ塩化アルミニウムのような凝集剤を添加して固形物を沈降分離させる。このような方法は、酸性水などの排水処理などに一般に用いられている工程であり、工業的規模で非常に効率よく酸化チタン粉末を製造することが可能となる。
【0028】
また、塩化チタン水溶液を硫酸アンモニウム存在下に加水分解して固形物を得ることによって、最終的に得られる酸化チタン光触媒の活性などの性能を向上させることができる。さらに、塩化チタン水溶液を硫酸アンモニウムの存在下に加水分解し、次いでアンモニアで中和して固形物を得ることによっても、最終的に得られる酸化チタン光触媒の活性などの性能を向上させることができる。
【0029】
さらに、上記の塩化チタン水溶液を中和または加水分解して固形物を得る時点で、最終的に得られる硫黄含有酸化チタン粉末の酸化チタンの結晶型を制御することもできる。酸化チタンの結晶型はルチル型、アナターゼ型あるいはこれらの混合結晶であり、光触媒の用途に応じて酸化チタンの結晶型(ルチル化率)を制御する。得られる酸化チタン粉末のルチル化率は、上記の塩化チタン水溶液の加水分解またはアルカリによる中和の時間または速度によって制御することができる。例えば四塩化チタン水溶液をアンモニア水などで中和する場合、短時間で中和するとアナターゼリッチのルチル化率の低い酸化チタンが得られ、また中和反応の速度を遅くするとルチル化率の高い酸化チタンを得ることができる。中和速度としてはチタン原子を質量換算で1分当たり50〜500gが好ましく、より好ましくは100〜300gである。1分当たり200gのチタン原子を中和する速度より遅い場合、ルチル化率が50%以上となる。また、塩化チタン水溶液を中和あるいは加水分解する際の反応系のpHによっても得られる酸化チタンのルチル化率を制御でき、例えば酸化チタン粉末が析出した後、低pH雰囲気で熟成反応するとルチル化率が向上し、ルチル型とアナターゼ型の混合結晶を得ることができる。
【0030】
上記のようにして得られる固形物は、加水分解あるいはアルカリでの中和の条件により平均粒径、比表面積また結晶形を制御することができるが、光触媒の活性を向上させるためには、比表面積が大きいほうが好ましい。具体的にはBET比表面積で50m/g以上、好ましくは100m/g以上、特に好ましくは150〜300m/gである。結晶形としてはルチル型、アナターゼ型またはルチル型とアナターゼ型の混合結晶であって、かつ比表面積が50m/g以上の微粒酸化チタンが好ましい。
【0031】
硫黄または含硫黄化合物を混合する何れかの段階としては、固形物を調製する前の段階、固形物を析出させる段階または固形物を析出させた後の段階の何れかの段階であり、そのうち、原料である前記塩化チタン水溶液への混合か、または析出した固形物への混合が望ましい。
【0032】
塩化チタン水溶液を用いた方法で用いられる含硫黄化合物は、常温で液体あるいは固体の化合物が好ましく、含硫黄無機化合物、含硫黄有機化合物あるいは金属の硫化物などが挙げられる。具体的にはチオエーテル類、チオ尿素類、チオアミド類、チオアルコール類、チオアルデヒド類、チアジル類、メルカプタール類、チオール類、チオシアン酸塩類などであり、具体的な化合物としては、チオ尿素、ジメチルチオ尿素、スルホ酢酸、チオフェノール、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、チオベンゾフェノン、ビチオフェン、フェノチアジン、スルホラン、チアジン、チアゾール、チアジアゾール、チアゾリン、チアゾリジン、チアントレン、チアン、チオアセトアニリド、チオアセトアミド、チオベンズアミド、チオアニソール、チオニン、メチルチオール、チオエーテル、チオシアン、硫酸、スルホン酸類、スルホニウム塩類、スルホンアミド類、スルフィン酸類、スルホキシド類、スルフィン類、スルファン類などが挙げられる。なおこれらの化合物は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0033】
上記のなかでも含硫黄有機化合物が好ましく、さらには酸素原子を含まず硫黄原子と窒素原子が混在した有機化合物が特に好ましく、具体的には、チオ尿素およびジメチルチオ尿素が好ましい。
【0034】
塩化チタン水溶液を用いた方法において、固形物と硫黄または含硫黄化合物の混合物の形成方法として、具体的には以下のような方法が挙げられる。
(1)塩化チタン水溶液に硫黄または含硫黄化合物を混合し、次いで加水分解またはアルカリで中和して固形物と硫黄または含硫黄化合物との混合物を得る方法、
(2)塩化チタン水溶液を加水分解またはアルカリで中和して固形物を得、次いで該固形物と硫黄または含硫黄化合物とを混合し混合物を得る方法、
(3)塩化チタン水溶液を加水分解またはアルカリで中和して固形物を得、得られた固形物を仮焼し、次いで該固形物と硫黄または含硫黄化合物とを混合し混合物を得る方法、
(4)塩化チタン水溶液に硫黄または含硫黄化合物を混合し、次いで加水分解またはアルカリで中和して固形物を形成した後、さらに硫黄または含硫黄化合物を該固形物と混合して固形物と硫黄または含硫黄化合物の混合物を得る方法などが挙げられる。
【0035】
塩化チタン水溶液を用いた方法で用いる固形物と混合する硫黄または含硫黄化合物の量は、硫黄原子の質量に換算すると、固形物に対し、通常1質量%以上であり、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10〜30質量%である。硫黄または含硫黄化合物の混合量が少ないと、最終的に光触媒酸化チタンに含まれる硫黄原子量が少なくなり、十分な可視光吸収が起こらなくなる。
【0036】
硫黄または含硫黄化合物はそのまま固体あるいは液体のまま混合してもよいが、純水やアルコールなどの溶媒に溶解させ、あるいは懸濁させて混合してもよく、この場合、硫黄または含硫黄化合物が固形物中に均一に分散し、結果として硫黄原子が酸化チタン中に均一にドープした性能のよい硫黄含有酸化チタン粉末を得ることができる。
【0037】
次いで、上記で得られた固形物と硫黄または含硫黄化合物の混合物を焼成し酸化チタン光触媒を形成するが、焼成温度は200〜800℃、好ましくは300〜600℃、より好ましくは400〜500℃である。含硫黄有機化合物を用いた場合、その化合物が分解し硫黄原子が遊離して固形物中のチタン原子と置換する温度で行なう。また焼成雰囲気は、空気、酸素などの酸化性雰囲気、水素ガスやアンモニアガスなどの還元性雰囲気、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性雰囲気、また真空下などで行なわれる。水素ガスのような還元性ガスのみでもよいが、水素と酸素の混合ガス、水素と酸素と不活性ガスの混合ガスの雰囲気で焼成することも有効である。さらに焼成時に硫黄が蒸発しまたは含硫黄化合物が分解して硫黄成分が焼成炉から排出しないよう、ある程度硫黄成分の分圧を保持するよう焼成雰囲気を保つことが重要である。炭素原子を有する含硫黄有機化合物など焼成時に分解して炭酸ガスなどの副生ガスを発生する場合は、ある程度焼成雰囲気から排出したほうがよい。従って、焼成する際の容器は、完全にオープンまたは密閉のものではなく、ある程度の圧力がかかりかつ副生ガスを排出し得るような、上部が開放され、この上部に非固定式の蓋体を備えた円筒形、皿状または矩形などの容器が好ましい。
【0038】
上記のようにして得られた硫黄含有酸化チタン粉末は、必要に応じて洗浄して遊離の硫黄成分やその他を除去する。また、粒子の分散性を向上させるために界面活性剤などにより表面処理することもできる。
【0039】
上記のようにして得られた硫黄含有酸化チタン粉末は、淡黄色または黄色の粉末であり酸化チタン中に硫黄原子を含有するものであり、さらにこの硫黄原子は酸化チタン中のチタン原子と置換して陽イオンとして酸化チタン中にドープされたものを含む。具体的にはTi1−xの化学式で表すことができ、チタン原子に対する硫黄原子の含有量であるxは0.0001以上、好ましくは0.0005以上、より好ましくは0.001〜0.008である。また、硫黄原子は酸化チタン中に陽イオンとして含まれるものだけではなく、硫黄酸化物あるいは硫黄分子として酸化チタン粒子表面に吸着したものや、酸化チタンの結晶粒界に含有されるものを含む。最終的に酸化チタン光触媒に含有する硫黄成分は、硫黄原子として0.01質量%以上、好ましくは0.01〜3質量%、特に好ましくは0.03〜1質量%である。また、平均粒径はSEM写真画像観察による1次粒子の粒径で5〜150nm、好ましくは5〜100nm、特に好ましくは10〜80nm、BET比表面積は30〜250m/g、好ましくは50〜250m/g、特に好ましくは100〜200m/gである。
【0040】
また、前記硫黄含有酸化チタン粉末は、可視光の光吸収特性に優れており、紫外可視拡散反射スペクトルを測定して、波長300〜350nmの吸光度の積分値を1として、通常、波長350〜400nmの吸光度の積分値が0.3〜0.9であり、且つ波長400〜500nmの吸光度の積分値が0.3〜0.9であり、好ましくは波長350〜400nmの吸光度の積分値が0.4〜0.8であり、且つ波長400〜500nmの吸光度の積分値が0.4〜0.8であり、さらに好ましくは、波長350〜400nmの吸光度の積分値が0.5〜0.7であり、且つ波長400〜500nmの吸光度の積分値が0.5〜0.75である。
【0041】
また、前記硫黄含有酸化チタン粉末は、酸化チタンがルチル型、アナターゼ型、あるいはルチル型およびアナターゼ型の混合結晶であって、かつ硫黄原子を含有するが、好ましくはルチル型およびアナターゼ型の混合結晶であり、酸化チタンのルチル化率は5〜99%、好ましくは20〜80%、より好ましくは30〜70%である。前記硫黄含有酸化チタン粉末はルチル型とアナターゼ型の混合結晶であるが、この他に非晶質の酸化チタンを含んでいてもよい。
【0042】
ルチル化率の測定方法は、ASTM D 3720−84に従いX線回折パターンにおける、ルチル型結晶酸化チタンの最強干渉線(面指数110)のピーク面積(Ir)と、酸化チタン粉末の最強干渉線(面指数101)のピーク面積(Ia)を求め次式の算出式より求めることができる。
ルチル化率(質量%)=100−100/(1+1.2×Ir/Ia)
式中、ピーク面積(Ir)及びピーク面積(Ia)は、X線回折スペクトルの該当回折線におけるベースラインから突出した部分の面積をいい、その算出方法は公知の方法で行えばよく、例えば、コンピュータ計算、近似三角形化などの手法により求められる。
【0043】
本発明の塗膜形成方法のB液で用いるペルオクソチタン酸は、硫黄含有酸化チタン粉末の凝集を抑制し、分散性を向上させるために使用される。ペルオクソチタン酸は、ペルオキシチタン酸又は過酸化チタンともいわれるもので、その構造はH4TiO5、Ti(OOH)(OH)3またはTiO3・2H2Oで表される。ペルオクソチタン酸は、通常、黄色、黄褐色または赤褐色の透明粘性水溶液(ゾル溶液)で取り扱われ、水溶液の場合、そのpHは5〜8でありほぼ中性領域にある。ペルオクソチタン酸は市販されているものを使用することができ、例えば「PTA−85」、「PTA−170」(いずれも鯤コーポレーション製のペルオクソチタン酸水溶液)が挙げられる。また、公知の方法によって調製することも可能であり、例えば、四塩化チタン水溶液をアンモニア水で加水分解し、水酸化チタンを含むスラリーを生成し、これを洗浄した後、過酸化水素を加えてペルオキシチタン酸水溶液を得ることができる。ペルオクソチタン酸溶液の溶媒としては、特に制限されないが、例えば水及びエタノール、メタノールなどのアルコール類が挙げられ、このうち、水が好ましい。ペルオクソチタン酸水溶液を使用する場合は、市販のペルオクソチタン酸水溶液をそのまま使用することができる。使用するペルオクソチタン酸溶液の濃度は、硫黄含有酸化チタン粉末の添加濃度、酸化チタン光触媒コーティング液の用途等によって適宜決定される。ペルオクソチタン酸は、単体組成物質に限定されるものではなく、その塩またはキレート剤との錯体を含む。ペルオクソチタン酸塩としては、ペルオクソチタン酸アンモニウム、ペルオクソチタン酸ナトリウム、ペルオクソチタン酸カリウム、ペルオクソチタン酸マグネシウム、ペルオクソチタン酸カルシウムなどが挙げられる。また、キレート剤との錯体としては、上記ペルオクソチタン酸の塩と酒石酸、クエン酸などのキレート剤との錯体が挙げられ、具体的には、チタンペルオクソクエン酸アンモニウムなどである。
【0044】
B液において、上記硫黄含有酸化チタン及びペルオクソチタン酸を、懸濁又は溶解させる溶媒としては、特に制限されず、例えば水および有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類やケトン類が挙げられ、このうち、水が好ましい。溶媒は1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0045】
B液の調製は、例えば溶媒に上記硫黄含有酸化チタンを分散させ、これにペルオクソチタン酸水溶液を所定の割合で混合する方法が挙げられる。分散方法としては、ホモジナイザー、ヘンシェルミキサー及びスーパミキサー等の高速撹拌、振とう、ビーズミル等の公知の手段を用いて分散することができる。また、分散はボールミルやジェットミル等により湿式粉砕処理することもできる。
【0046】
B液の調製において、溶媒に硫黄含有酸化チタン粉末を分散させる際、適宜ペルオキシチタン酸以外の分散材を用いることもできる。分散材としては、ポリカルボン酸塩、高分子ポリカルボン酸塩、ポリオキシエチレンモノまたはジアルキルエーテル、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテルの1種または2種以上を使用することが好ましい。具体的には、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、高分子ポリアクリル酸アミン塩、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等を挙げることができ、特にポリアクリル酸アンモニウム(「ポイズ532A」;花王(株)製)、高分子ポリアクリル酸アミン塩(「HIPLAAD ED214」;楠本化成(株)製)が好ましい。ペルオキソチタン酸と分散材を組み合わることにより、更に硫黄含有酸化チタン粉末の分散性は向上する。
【0047】
本発明の塗膜形成方法において、B液中、硫黄含有酸化チタンの含有量は、その用途に応じて適宜決定すればよいが、得られる酸化チタンコーティング塗膜の透明度等を考慮すると、A液とB液混合後の塗膜形成用組成物中、酸化チタンとして、0.8〜20質量%、好ましくは1.0〜20質量%が好ましい。酸化チタン粉末の濃度が0.8質量%未満では、光触媒性能を十分に発揮できず、一方、酸化チタン粉末の濃度が20質量%を越えると、分散媒中の酸化チタンの分散性が低下する。
【0048】
A液中のオルガノシラン化合物と溶媒との配合比率としては、特に制限されず、B液中の硫黄含有酸化チタン粉末の添加濃度により適宜決定される。A液中のオルガノシラン化合物の配合量としては、塗膜形成用組成物中、質量基準で、酸化チタン濃度に対し、ペルオクソチタン酸との合計濃度で0.37〜2.2倍、かつペルオクソチタン酸との合計濃度の30%以上が好適である。ペルオクソチタン酸との合計濃度で0.37倍未満、ペルオクソチタン酸との合計濃度の30%未満であると塗膜の硬度が低くなる。一方、2.2倍を超えると、塗膜表面にクラックが入り、平滑性が損なわれる。
【0049】
ペルオクソチタン酸の配合量は、B液中、0.1〜1.1質量%が好ましい。また、ペルオクソチタン酸と硫黄含有酸化チタン粉末の質量比率(ペルオクソチタン酸/硫黄含有酸化チタン粉末)は、0.01〜1.0であることが好ましい。これらの条件を考慮してB液を製造することが、A液との混合において、分散性、硬度、触媒活性の全ての特性を満足する混合を容易に行うことができる。
【0050】
このように調製されたA液中、オルガノシラン化合物は安定して分散されている。またB液中、硫黄含有酸化チタン粉末、またはペルオクソチタン酸と硫黄含有酸化チタン粉末は安定して分散されている。このため、A液およびB液は所定期間、保存しておき、その後、塗膜形成方法に供してもよい。保存期間としては、15〜25℃のような室温下で3ヶ月以内、好ましくは2ヶ月以内である。
【0051】
本発明の塗膜形成方法では、塗布前にA液とB液を混合する。この時、オルガノシラン化合物とペルオクソチタン酸の合計濃度0.6〜3.4質量%とすることが好ましく、更にペルオクソチタン酸とオルガノシラン化合物との配合比率は、質量基準で1:99〜70:30、好ましくは3:97〜70:30とすることが、得られる塗膜の度、密着度、塗膜表面の平滑性などの点から好ましい。
【0052】
本発明の酸化チタン光触媒塗膜形成方法は、A液とB液を混合し、混合後24時間以内に混合液である酸化チタン光触媒塗膜形成用組成物を基材に塗布する方法であり、好ましくは、A液とB液の混合後、12時間以内、特に5時間以内に該混合液を基材に塗布する方法である。この方法によると、A液とB液を混合した後、塗膜組成物中の酸化チタン粉末の凝集を防止でき分散性に優れ、かつ組成物のゲル化を防止することも可能である。また、塗膜形成後、硫黄含有酸化チタン粉末がより高分散し、より密着性が高くかつ光触媒活性に高い酸化チタン光触媒塗膜を形成することできる。なお、本発明の塗膜形成方法により得られた酸化チタン光触媒塗膜は、特に凝集防止剤を配合したものは、A液とB液を混合した後、長期間保存しても酸化チタン粉末の凝集を防止でき分散性に優れ、かつ組成物のゲル化も防止することができる。凝集防止剤としては、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムおよびヘキサメタリン酸ナトリウムが挙げられ、これらの1種以上を使用することができる。凝集防止剤は、通常B液に混合することが、混合後の酸化チタン粉末の凝集をより抑制することができる。
【0053】
本発明の塗膜形成方法において、前記混合液を基板に塗布し、乾燥して光触媒用塗膜を形成する。塗布の方法としては、特に制限されず、公知の方法でよく、例えばスプレーコーティング法、ディップコーティング法、スピンコーティング法などが挙げられる。乾燥条件としては、特に制限されず、例えば特別な加熱処理を施さなくとも常温〜100℃未満で乾燥すればよい。これにより、強固でかつ光触媒活性の高い塗膜が形成される。また、100℃〜500℃の範囲で加熱処理することによっても、より強固な塗膜を形成することができる。また塗膜の厚さは光触媒活性が発現しうる程度でかつ塗膜の強度が確保し得る程度であれば特に制限はないが、通常0.1〜10μm、好ましくは0.5〜2μmである。
【0054】
本発明の酸化チタン光触媒用塗膜の形成方法において、基材としては、特に制限されず、例えば、ステンレス、炭素鋼、アルミニウム、チタン等の金属、ガラス、コンクリート、アスファルト、スレート、石材、木材、繊維、プラスティックなど有機材料、紙等酸性領域において耐蝕性のない材料及び耐熱性のない材料が挙げられる。また、表面が疎水処理された基板であってもよい。疎水処理としては、例えば、シリコーン系の撥水処理剤によるコーティング等が挙げられる。
【0055】
本発明において、酸化チタン光触媒塗膜形成用組成物は、光触媒として活性の高い硫黄含有酸化チタンを含有しており、またペルオクソチタン酸およびオルガノシラン化合物を含有しているため、ガラス、タイル、鏡、金属、レンズ等にコーティングすると、光触媒活性が高いことに加え、硬度、密着度の高い光触媒塗膜が得られる。また、本発明の酸化チタン光触媒塗布用塗膜組成物は、可視光領域での吸収特性に優れた光触媒塗膜が得られるため、紫外光の光源がなくても、太陽光や室内における蛍光灯による光源で十分に光触媒活性が再現する。また、得られる光触媒塗膜の硬度、密着度に優れるため、コーティングを施した基材を加工しても光触媒塗膜が破壊されることがない点で非常に有利であり、排ガス処理、空気清浄、防臭、殺菌、抗菌、水処理、照明器具の汚れ防止等を目的とした光触媒塗料として広く適応することができる。
【0056】
実施例
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0057】
実施例で得られた硫黄含有酸化チタン光触媒の評価は以下のように実施した。
(1)硫黄含有酸化チタン光触媒中の硫黄含有量の測定
エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を付帯した電界放出型走査型電子顕微鏡(Field Emission-SEM:FE−SEM)(日立電子走査顕微鏡S−4700)にて酸化チタン中の硫黄原子の定量分析を行なった。
【0058】
(2)ルチル化率の測定
ASTM D 3720−84に従いX線回折パターンにおける、ルチル型結晶酸化チタンの最強干渉線(面指数110)のピーク面積(Ir)と、酸化チタン粉末の最強干渉線(面指数101)のピーク面積(Ia)を求め前述の算出式より求めた。なお、X線回折測定条件は下記の通りである。
【0059】
(X線回折測定条件)
回折装置 RAD−1C(株式会社リガク製)
X線管球 Cu
管電圧・管電流40kV、30mA
スリット DS−SS:1度、RS:0.15mm
モノクロメータグラファイト
測定間隔 0.002度
計数方法 定時計数法
【0060】
(4)イソプロピルアルコール(IPA)の分解性能
10mlの攪拌機付きのガラス製フラスコに、初期濃度50mmol/リットルのイソプロピルアルコールのアセトニトリル溶液5mlを充填し、これに硫黄含有酸化チタン光触媒粉末を0.1g装入し、攪拌しながら410nm以下の波長の光をフィルターによりカットした光源を照射して、1時間、2時間および5時間後にイソプロピルアルコールのアセトニトリル溶液を少量採取し、それぞれガスクロマトグラフィーにてイソプロピルアルコールの濃度を測定した。分解性能は各時間における濃度を初期濃度に対する比率(%)で示した。
【0061】
(5)メチレンブルー(MB)の分解性能
150mlの攪拌機付きのガラス製フラスコに、初期濃度50μmol/リットルのメチレンブルー水溶液100mlを充填し、これに硫黄含有酸化チタン光触媒粉末を0.2g装入し、塩酸でpHを3に調整し遮光して12時間以上攪拌しながら放置し、メチレンブルー水溶液を少量採取し、分光光度計にてメチレンブルーの濃度を測定して、このときの濃度を所期濃度とした。その後、攪拌しながら410nm以下の波長の光をフィルターによりカットした光源を照射して、1時間、2時間および5時間後にメチレンブルー水溶液を少量採取し、それぞれ分光光度計にてメチレンブルーの濃度を測定した。分解性能は各時間における濃度を初期濃度に対する比率(%)で示した。
【0062】
(硫黄含有酸化チタン粉末の製造)
攪拌器を具備した容量1000ミリリッターの丸底フラスコにチタン濃度4質量%の四塩化チタン水溶液297g挿入し、次いで60℃に加熱した。次いで反応系のpHが7.4に維持させるようにアンモニア水を瞬時に添加して中和し、60℃で1時間保持し、メタチタン酸の固形物を得た。得られた固形物を濾過し純水で洗浄し、これに100mlの純水に溶解させたチオ尿素9.7gを添加し30分攪拌した。その後、固形物を60℃で乾燥して、ボールミルにて粉砕して酸化チタン粉末とチオ尿素の混合物を得た。この混合物をアルミナ製のルツボに蓋をしない状態で充填しこれを焼成炉に装入し、水素を3容量%混合した空気中にて400℃で3時間焼成した。その後ボールミルにて粉砕して、純水で洗浄した後、60℃で乾燥して淡黄色の酸化チタン光触媒を得た。得られた酸化チタン光触媒中の硫黄含有量を測定したところ0.25質量%、ルチル化率は10%、比表面積は180m/gであった。また、イソプロピルアルコール(IPA)の分解性能およびメチレンブルー(MB)の分解性能を表1に示した。表1から明らかなように、この硫黄含有酸化チタン光触媒は、可視光領域での光触媒作用を有し、またIPAやMBなどの有機物の分解性能に優れている。
【0063】
【表1】

【0064】
(A液の調製)
硝酸でpH3に調製した水溶液中に1.7質量%となるようにテトラエトキシシランを添加し、スターラーで一昼夜攪拌し加水分解を行った後、アルカンスルホン酸ナトリウム(商品名「親水促進剤」;(クラリアントジャパン(株)製)を、0.16質量%となるように添加し、テトラエトキシシラン加水分解物水溶液を作製してA液を得た。
【0065】
(B液の調製方法)
純水に対して、参考例1で得られた硫黄含有酸化チタン粉末、ペルオクソチタン酸水溶液、ポリアクリル酸アンモニウム(商品名「ポイズ2100」;(花王(株)製))および硫黄含有酸化チタン粉末の水スラリーを作製した。この際、各成分の配合量は酸化チタン濃度が8.3質量%、ペルオクソチタン酸濃度が0.28質量%、ポリアクリル酸アンモニウム濃度が0.33質量%となるように配合した。この水スラリーを、ボールミル、ビーズミルで処理を行い、ペルオクソチタン酸と硫黄含有酸化チタン粉末含有スラリーの混合水溶液を作製してB液を得た。ボールミルの運転条件はメディア径10mmφ、回転数60rpm、粉砕時間16時間、ビーズミルの運転条件は、メディア径0.03〜0.1mmφ、周速6〜8m/秒、運転時間2時間で行った。
【0066】
実施例1〜実施例3および比較例
(酸化チタン光触媒塗膜形成用組成物の製造方法)
上記A液とB液を85:15の比率で混合して硫黄含有酸化チタン光触媒塗膜形成用組成物(コーティング液)を作製した。
【0067】
(酸化チタン光触媒塗膜の形成および評価)
A液とB液の混合後、2時間(実施例1)、5時間(実施例2)、24時間(実施例3)、48時間(比較例1)に、スプレーガンにて基板面に吹き付けた。その後、常温で乾燥させ厚さ1μmの膜を得た。上記基板は、主成分がメチルトリメトキシシランである信越化学工業(株)製のアルコキシオリゴマー(製品名KR400)にアクリル樹脂板をディップし、常温で24時間乾燥して基板表面を疎水性としたものである。得られた酸化チタン光触媒塗膜の評価はその硬度、密着度、塗工性、分散性を測定することによって行った。硬度、密着度、塗工性、分散性は、以下のように測定した。
【0068】
(5)鉛筆硬度試験
JIS−K5400(手かき法)に準拠して鉛筆硬度試験を行い、塗膜の破れを目視で評価した。○は傷無し、△は若干の傷、×は明らかな傷を示す。
(6)密着強度試験
JIS−K5400(テープ剥離試験)準拠して密着強度試験を行った。光触媒塗膜を塗布したスライドガラスにカッターナイフで碁盤目状(10×10=100マス)に切り傷をつけ、セロハンテープを付着させてから、セロハンテープを塗面に対して直角に保ち瞬間的に引き剥がし、傷の状態を目視で観察し、評価点数(0〜10)を付けた。評価点数もJIS−K5400(テープ剥離試験)準拠した。例えば、10はまったく剥がれないこと、8は切り傷の交点にわずかな剥がれがあって正方形の一目一目には剥がれが無く、欠損部の面積は全長方形面積の5%以内、2は切り傷による剥がれの幅が広く、欠損部の面積は全長方形面積の35〜65%以内、0は剥がれの面積が全長方形の65%以上を示す。
(7)塗工性の評価
酸化チタン光触媒塗膜形成用組成物を部材に塗布して、塗膜を作製した。このときの塗工性について評価を行った。○は塗工可能、×は塗工が不可能であることを示す。
(8)分散性評価
A液とB液を混合後の硫黄含有酸化チタン光触媒塗膜形成用組成物(コーティング液)の分散性の評価を目視で行った。○は固体層と液体層による分離・凝集が見られず分散性が良好であることを示す。×は固体層と液体層による明らかな分離・凝集があり、分散性が不良であることを示す。
(9)保存安定性
A液、B液の混合前であって、20℃の状態に保管し、ゲル化する時間を観察した。
【0069】
A液、B液とも3ヶ月保管してもゲル化を起こさず、保存安定性も十分あることが確認された。表2に膜の鉛筆硬度、密着度、塗工性、分散性の結果を示す。表2に示すように、実施例1〜3では、A液、B液混合後の塗工性、分散性も優れており、得られた塗膜の硬度、密着度も優れていた。比較例1では、分散した状態でゲル化してしまい、十分な塗工性が得られなかった。
【0070】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノシラン化合物を含有する液(A液)と、硫黄含有酸化チタン粉末及びペルオクソチタン酸を含有する液(B液)を混合し、混合後、24時間以内に該A液と該B液の混合液を基板に塗布し、乾燥して塗膜を形成することを特徴とする酸化チタン光触媒用塗膜の形成方法。
【請求項2】
前記オルガノシラン化合物が、オルガノシラン又はオルガノシランの加水分解物であることを特徴とする請求項1に記載の酸化チタン光触媒用塗膜の形成方法。
【請求項3】
前記オルガノシランの加水分解物は、オルガノシランをpH1〜4に調製した水溶媒中に添加して加水分解したものであることを特徴とする請求項2に記載の酸化チタン光触媒用塗膜の形成方法。
【請求項4】
前記オルガノシランが、テトラエトキシシランであることを特徴とする請求項2に記載の酸化チタン光触媒用塗膜の形成方法。
【請求項5】
前記A液は、アルカンスルホン酸を更に含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸化チタン光触媒用塗膜の形成方法。
【請求項6】
前記基板は、疎水性の基板である請求項5記載の酸化チタン光触媒用塗膜の形成方法。

【公開番号】特開2007−275731(P2007−275731A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103876(P2006−103876)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(390007227)東邦チタニウム株式会社 (191)
【Fターム(参考)】