酸化チタン粒子およびその製造方法
【課題】反応速度を速くできる酸化チタン粒子を提供する。
【解決手段】酸化チタン粒子10は、アモルファス相1と、多結晶相2と、TiZrO4とを備える。アモルファス相1および多結晶相2の各々は、TiO2からなる。そして、アモルファス相1は、欠陥を有する。酸化チタン粒子10は、ジルコニアからなる粉砕ボールと、多結晶からなる酸化チタンと、メタノールとを粉砕容器に入れ、粉砕容器を自転および公転させて酸化チタンを粉砕することによって製造される。製造された酸化チタン粒子10の粒径は、約400nmである。酸化チタン粒子10をメチレンブルー水溶液の脱色反応における光触媒として用いた場合、アモルファス相1に含まれる欠陥を介してメンチレンブルー水溶液の還元反応が促進される。そして、酸化チタン粒子10を光触媒として場合ときの脱色反応の反応速度は、従来の酸化チタンに比べ、約132倍になる。
【解決手段】酸化チタン粒子10は、アモルファス相1と、多結晶相2と、TiZrO4とを備える。アモルファス相1および多結晶相2の各々は、TiO2からなる。そして、アモルファス相1は、欠陥を有する。酸化チタン粒子10は、ジルコニアからなる粉砕ボールと、多結晶からなる酸化チタンと、メタノールとを粉砕容器に入れ、粉砕容器を自転および公転させて酸化チタンを粉砕することによって製造される。製造された酸化チタン粒子10の粒径は、約400nmである。酸化チタン粒子10をメチレンブルー水溶液の脱色反応における光触媒として用いた場合、アモルファス相1に含まれる欠陥を介してメンチレンブルー水溶液の還元反応が促進される。そして、酸化チタン粒子10を光触媒として場合ときの脱色反応の反応速度は、従来の酸化チタンに比べ、約132倍になる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酸化チタン粒子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、化学、物理、工学および医薬の分野をはじめ、一般社会でも非常に注目されている。
【0003】
特に、酸化チタン(TiO2)を材料にした光触媒は、実用化され、抗菌コートの材料、外壁の汚れを分解する材料、手術室の壁・床などの殺菌材料として幅広く利用されている(非特許文献1,2)。
【0004】
また、酸化チタンは、水の分解による水素発生を行なう光触媒として、燃料電池、およびクリーンエネルギー源を生成する重要な役割が期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】G. K. Mor, K. Shankar, M. Paulose, O. K. Varghese, and C. A. Grimes, “Enhanced Photocleavage of Water Using Titania Nanotube Arrays,” Nano Lett., 5, 191-195, (2005).
【非特許文献2】日本化学会編 藤島昭(責任編集)「実力養成化学スクール 光触媒」丸善株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の酸化チタンを光触媒として用いた場合、反応速度が遅いという問題がある。
【0007】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、反応速度を速くできる酸化チタン粒子を提供することである。
【0008】
また、この発明の別の目的は、反応速度を速くできる酸化チタン粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の実施の形態によれば、酸化チタン粒子は、粒径がナノメートルオーダーの酸化チタン粒子であって、アモルファス相からなる酸化チタンと、多結晶相からなる酸化チタンと、TiZrO4とを含む。
【0010】
また、この発明の実施の形態によれば、酸化チタン粒子の製造方法は、粉砕ボールと、多結晶からなる酸化チタン粉体と、溶媒とを粉砕容器に入れる第1の工程と、第1の時間の間、粉砕容器を自転および公転させる第2の工程と、第2の工程の後、粉砕容器の自転および公転を停止し、第1の時間と異なる第2の時間の間、粉砕容器内の内容物を冷却する第3の工程と、第2および第3の工程を所望の回数だけ行なう第4の工程とを備える。
【発明の効果】
【0011】
この発明の実施の形態による酸化チタン粒子は、アモルファス相からなる酸化チタンと、多結晶相からなる酸化チタンとを含むので、多結晶相のみからなる酸化チタンに比べ、欠陥が多い。その結果、酸化チタン粒子をメチレンブルー水溶液の脱色反応における光触媒として用いた場合、アモルファス相に含まれる欠陥を介してメンチレンブルー水溶液の還元反応が促進される。
【0012】
従って、酸化チタン粒子を光触媒として用いた場合の反応速度を速くできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態による酸化チタン粒子の概念図である。
【図2】図1に示す酸化チタン粒子を製造する遊星型ボールミルの斜視図である。
【図3】図2に示す回転盤および粉砕容器の平面図である。
【図4】この発明の実施の形態による酸化チタン粒子の製造方法を示す工程図である。
【図5】図1に示す酸化チタン粒子のX線回折の測定結果を示す図である。
【図6】酸化チタン粒子におけるアモルファスの割合とトータルの粉砕時間との関係を示す図である。
【図7】アモルファスの割合と回転速度との関係を示す図である。
【図8】Zr原子の割合とトータルの粉砕時間との関係を示す図である。
【図9】Zr原子の割合と回転速度との関係を示す図である。
【図10】動的光散乱を用いて計測された相関関数と時間との関係を示す図である。
【図11】図2に示す遊星型ボールミルによる粉砕前後における動的光散乱の相関関数を示す図である。
【図12】光触媒能を検証するための紫外線照射装置の概略図である。
【図13】図12に示す攪拌子の概略図である。
【図14】吸光度の波長依存性を示す図である。
【図15】吸光度とレーザ光の照射時間との関係を示す図である。
【図16】吸光度と粉砕時間との関係を示す図である。
【図17】脱色反応の反応速度とトータルの粉砕時間との関係を示す図である。
【図18】脱色反応の反応速度と粉砕時の公転の回転速度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0015】
図1は、この発明の実施の形態による酸化チタン粒子の概念図である。図1を参照して、この発明の実施の形態による酸化チタン粒子10は、アモルファス相1と、多結晶相2と、TiZrO4とを含む。なお、図1においては、TiZrO4は、図示されていない。
【0016】
酸化チタン粒子10は、例えば、400nmの粒径を有し、球形からなる。アモルファス相1および多結晶相2の各々は、TiO2からなる。アモルファス相1の割合は、多結晶相2の割合よりも小さくても、大きくてもよいが、好ましくは、多結晶相2の割合よりも大きい。
【0017】
図2は、図1に示す酸化チタン粒子10を製造する遊星型ボールミルの斜視図である。図2を参照して、遊星型ボールミル100は、本体部11と、制御部12と、回転盤13と、粉砕容器14とを備える。なお、遊星型ボールミル100は、フリッチュ社製のpremium line P−7である。
【0018】
制御部12は、本体部11の一方端側において本体部11上に配置される。そして、制御部12は、タッチパネル方式の操作パネル121を有する。
【0019】
回転盤13は、本体部11の空間111内に配置される。そして、回転盤13は、例えば、時計回りに所望の回転速度で回転する。
【0020】
粉砕容器14は、例えば、45ccの容積を有し、ジルコニア(ZrO2)からなる。粉砕容器14は、回転盤13上に設置され、回転盤13に着脱可能になっている。そして、粉砕容器14は、例えば、半時計回りに所望の回転速度で回転する。
【0021】
粉砕容器14は、ナノ粒子を製造するための原料と、原料を粉砕するためのボールと、溶媒とを入れるための容器である。
【0022】
図2においては、図示されていないが、回転盤13および粉砕容器14を回転させるためのモータが回転盤13の下側の本体部11内に内蔵されている。
【0023】
操作パネル121は、遊星型ボールミル100の操作者から回転盤13の回転速度(=公転の回転速度Vrev)と粉砕容器14の回転速度(=自転の回転速度Vrot)とを受け付ける。そして、操作パネル121は、その受け付けた回転速度Vrev,Vrotをモータへ出力する。
【0024】
そうすると、モータは、回転盤13および粉砕容器14をそれぞれ回転速度Vrev,Vrotで回転させる。
【0025】
そして、所望の時間が経過すると、操作パネル121は、回転盤13および粉砕容器14の回転を停止させるための停止指示を操作者から受け付け、モータを停止させる。
【0026】
このように、回転盤13および粉砕容器14がそれぞれ回転速度Vrev,Vrotで回転すると、粉砕容器14は、回転速度Vrevで公転し、回転速度Vrotで自転する。そして、公転の方向は、自転の方向と逆方向である。
【0027】
図3は、図2に示す回転盤13および粉砕容器14の平面図である。図3を参照して、回転盤13は、時計回りに回転速度Vrevで回転し、粉砕容器14は、半時計回りに回転速度Vrotで回転する。
【0028】
そうすると、遠心力Fct1が回転盤13の回転(=公転)によって発生し、遠心力Fct2が粉砕容器14の回転(=自転)によって発生する。そして、遠心力Fct1と遠心力Fct2とが複合した重力Fが粉砕容器14内で発生する。
【0029】
その結果、粉砕容器14内に入れられた原料(図示せず)は、重力Fによって粉砕ボール15および粉砕容器14の壁にぶつかり、連続的に強い衝撃を受け、粉砕される。
【0030】
この場合、重力Fの最大値は、97G(G:重力加速度)である。
【0031】
図4は、この発明の実施の形態による酸化チタン粒子10の製造方法を示す工程図である。図4を参照して、酸化チタン粒子10の製造が開始されると、所望の直径を有する粉砕ボール15と、多結晶からなる酸化チタンの粉体と、溶媒とを粉砕容器14に入れる(ステップS1)。
【0032】
この場合、粉砕ボール15は、例えば、1mmの直径を有するジルコニア(ZrO2)からなる。また、酸化チタンの粉体は、市販されているanataseまたはP25からなり、ミクロンオーダーの粒径を有する。更に、溶媒は、例えば、メタノールからなる。
【0033】
そして、40gのジルコニア製の粉砕ボール15と、1.0gの酸化チタンと、6.0gのメタノールとが粉砕容器14に入れられる。
【0034】
また、ステップS1においては、好ましくは、粉砕ボール15、酸化チタン、および溶媒は、粉砕ボール15、酸化チタン、および溶媒の順で粉砕容器14に入れられる。
【0035】
粉砕ボール15、酸化チタン、および溶媒が粉砕容器14に入れられると、n=1を設定し(ステップS2)、第1の時間の間、粉砕容器14を自転および公転させる(ステップS3)。この場合、粉砕容器14の公転の回転速度Vrevは、例えば、600rpmに設定され、粉砕容器14の自転の回転速度Vrotは、例えば、1200rpmに設定される。また、第1の時間は、20分または1時間である。
【0036】
ステップS3の後、粉砕容器14の自転および公転を停止し(ステップS4)、第2の時間の間、粉砕容器14内の内容物を冷却する(ステップS5)。この場合、第2の時間は、例えば、10分または15分である。また、粉砕容器14内の内容物は、空冷によって室温まで冷却される。このように、粉砕時間である第1の時間は、冷却時間である第2の時間よりも長い。
【0037】
その後、n=N(Nは、所望の回数)であるか否かが判定される(ステップS6)。
【0038】
ステップS6において、n=Nでないと判定されたとき、n=n+1が設定される(ステップS7)。そして、一連の動作は、ステップS3へ戻り、ステップS6において、n=Nであると判定されるまで、上述したステップS3〜ステップS6が繰り返し実行される。
【0039】
その後、ステップS6において、n=Nであると判定されると、酸化チタン粒子10の製造が完了する。なお、図4に示す工程が終了したとき、粉砕容器14内には、メタノールが残っており、酸化チタン粒子10は、メタノールとともに別の容器に入れられて保存される。
【0040】
上述したステップS3を実行することによって、酸化チタンの粉体が粉砕される。また、Nは、ステップS3を実行したトータルの時間が0.5時間〜12時間の範囲になるように設定される。例えば、第1の時間が1時間であり、ステップS3を実行したトータルの時間が3時間である場合、Nは、N=3回に設定される。
【0041】
上述したように、ステップS3における酸化チタンの粉砕と、ステップS5における粉砕容器14内の内容物の冷却とを行なうことによって、後述するように、酸化チタン粒子10を光触媒として用いたときの反応速度を速くできる。
【0042】
第1の時間が1時間である場合、ステップS3が終了した時点で、粉砕容器14の内容物の温度は、40℃よりも高い温度に昇温されている。従って、40℃よりも高い温度に昇温された内容物をステップS5において冷却することによって、アモルファス相1における欠陥を増加させることができ、酸化チタン粒子10を光触媒として用いたときの反応速度を速くできる。
【0043】
図5は、図1に示す酸化チタン粒子10のX線回折の測定結果を示す図である。図5において、縦軸は、X線回折の回折強度を表し、横軸は、散乱角2θを表す。
【0044】
また、曲線k1は、酸化チタン粒子10のX線回折の測定結果を示し、曲線k2は、遊星型ボールミル100を用いて粉砕する前の酸化チタンのX線回折の測定結果を示し、曲線k3は、曲線k2の25.4度の散乱角におけるピークが曲線k1の25.4度の散乱角におけるピークに一致するように曲線k2を規格化し、その規格化後のデータを曲線k1から差し引いた結果を示す。
【0045】
更に、遊星型ボールミル100を用いて酸化チタンを粉砕するときの粉砕条件は、次のとおりである。粉砕ボール15は、40gのジルコニア(直径1mmφ)からなり、試料は、1.0gの酸化チタンからなり、溶媒は、6.0gのメタノールからなり、図4に示すステップS3における第1の時間が1時間であり、図4に示すステップS5における第2の時間が15分であり、トータルの粉砕時間が8時間であり、粉砕容器14の公転の回転速度Vrevは、600rpmであり、粉砕容器14の自転の回転速度Vrotは、1200rpmである。
【0046】
図5を参照して、遊星型ボールミル100を用いて粉砕する前の酸化チタンは、多結晶相に起因するピークのみが観測された(曲線k2)。
【0047】
一方、酸化チタン粒子10は、多結晶相に起因するピークが著しく減少し(強度が1/18)、ブロードなアモルファス相に起因する信号が顕著となった(曲線k1)。ピークP1〜P3は、TiZrO4に起因するピークである。そして、Zrは、粉砕容器14および粉砕ボール15の材料であるジルコニア(ZrO2)に起因する。
【0048】
従って、酸化チタン粒子10は、多結晶相からなるTiO2とアモルファス相からなるからなるTiO2とTiZrO4とからなることが実証された。
【0049】
図6は、酸化チタン粒子10におけるアモルファスの割合とトータルの粉砕時間との関係を示す図である。
【0050】
図6において、縦軸は、アモルファスの割合を表し、横軸は、トータルの粉砕時間を表す。また、粉砕条件は、図5において説明した粉砕条件において、トータルの粉砕時間を0.5、0.75、1、3、6、8、12時間と変えたものであり、トータルの粉砕時間以外の条件は、上述したとおりである。この場合、トータルの粉砕時間が0.5時間、および0.75時間である場合については、図4に示すステップS3における第1の時間をそれぞれ0.5時間、および0.75時間とした。更に、アモルファスの割合は、図5に示す曲線k3の面積を曲線k1の面積で除算することによって算出された。
【0051】
図6を参照して、アモルファスの割合は、トータルの粉砕時間が長くなるに従って大きくなり、トータルの粉砕時間が8時間以上で飽和する。より詳細には、アモルファスの割合は、トータルの粉砕時間が1時間までは、約40%程度まで大きくなり、トータルの粉砕時間が1時間から3時間に長くなると、約40%から約80%へ急激に大きくなり、トータルの粉砕時間が3時間よりも長くなると、徐々に大きくなり、約90%で飽和する。このように、トータルの粉砕時間が1時間以内では、アモルファスの割合は、多結晶相の割合よりも小さく、トータルの粉砕時間が3時間以上になると、アモルファスの割合は、多結晶相の割合よりも大きくなる。
【0052】
従って、遊星型ボールミル100による粉砕時間が長くなると、酸化チタン粒子10におけるアモルファスの割合が大きくなることが解った。
【0053】
図7は、アモルファスの割合と回転速度との関係を示す図である。図7において、縦軸は、アモルファスの割合を表し、横軸は、遊星型ボールミル100による粉砕時の公転の回転速度を表す。また、粉砕条件は、図5において説明した粉砕条件において、粉砕容器14の公転の回転速度Vrevを100、300、600、800および1000(rpm)と変えたものであり、公転の回転速度以外の条件は、上述したとおりである。更に、アモルファスの割合は、図5に示す曲線k3の面積を曲線k1の面積で除算することによって算出された。
【0054】
図7を参照して、アモルファスの割合は、粉砕容器14の公転の回転速度Vrevが速くなるに従って大きくなる。これは、酸化チタンに印加される衝撃力が回転速度Vrevが速くなるに従って大きくなるためであると考えられる。
【0055】
図8は、Zr原子の割合とトータルの粉砕時間との関係を示す図である。図8において、縦軸は、Zr原子の割合を表し、横軸は、トータルの粉砕時間を表す。また、粉砕条件は、図6において説明した粉砕条件と同じである。更に、Zr原子の割合は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)によって測定された。
【0056】
図8を参照して、Zr原子の割合は、トータルの粉砕時間が長くなるに従って多くなる。これは、トータルの粉砕時間が長くなることによって原材料である酸化チタンの粉体と、粉砕容器14および粉砕ボール15の材料であるジルコニア(ZrO2)との衝突が増加し、ZrO2中のZr原子が酸化チタン中に取り込まれたものと考えられる。また、トータルの粉砕時間が長くなることによるZr原子の増加は、図6に示したように、トータルの粉砕時間が長くなるに従ってアモルファスの割合が大きくなることと良い一致を示す。
【0057】
図9は、Zr原子の割合と回転速度との関係を示す図である。図9において、縦軸は、Zr原子の割合を表し、横軸は、遊星型ボールミル100による粉砕時の公転の回転速度を表す。また、粉砕条件は、図7において説明した粉砕条件と同じである。更に、Zr原子の割合は、EPMAによって測定された。
【0058】
図9を参照して、Zr原子の割合は、400rpm程度の回転速度Vrevまでは、ほぼ一定であるが、回転速度Vrevが400rpm以上になると、回転速度Vrevが速くなるに従って大きくなる。これは、回転速度Vrevが400rpm程度までは、酸化チタンの粉砕が進行するが、粉砕された酸化チタンの粒径は、相対的に大きいため、酸化チタンへ取り込まれるZr原子の量は、ほぼ一定になるが、回転速度Vrevが400rpm以上になると、酸化チタンの粉砕が更に進行し、酸化チタンの粒径は、相対的に小さくなるため、酸化チタンへ取り込まれるZr原子の量が増えるためと考えられる。
【0059】
図4に示す工程に従って製造した酸化チタン粒子10の粒径を計測する方法について説明する。酸化チタン粒子10の粒径は、動的光散乱を用いて計測された。
【0060】
図10は、動的光散乱を用いて計測された相関関数と時間との関係を示す図である。酸化チタン粒子10を含むメタノール溶液に532nmの波長を有するレーザ光を照射し、ブラウン運動を行なう酸化チタン粒子10によって散乱される散乱光を光電子増倍管で検出する。その結果、図10に示す相関関数と時間との関係が得られる。
【0061】
そして、図10に示す相関関数をキュムラント法(式(1))を用いて解析する。即ち、式(1)に示すG1(τ)が図10に示す相関関数に一致するようにフィッティングし、Γを得る。
【0062】
【数1】
【0063】
なお、式(1)において、Γは、相関時間の逆数であり、μは、多分散度である。
【0064】
式(1)を用いた解析によって得られたΓと次式(2)とを用いて拡散係数Dを算出する。
【0065】
【数2】
【0066】
なお、式(2)において、kは、散乱ベクトルであり、n0は、溶媒(メタノール)の屈折率であり、λ0は、レーザ光の波長(532nm)であり、θは、酸化チタン粒子10によるレーザ光の散乱角である。
【0067】
そして、式(2)を用いて算出した拡散係数Dを次式に代入して粒径dを算出した。
【0068】
【数3】
【0069】
なお、式(3)において、kBは、ボルツマン定数であり、Tは、絶対温度であり、η0は、溶媒(メタノール)の粘度である。
【0070】
図11は、図2に示す遊星型ボールミル100による粉砕前後における動的光散乱の相関関数を示す図である。なお、図11の(a)は、遊星型ボールミル100による粉砕前における動的光散乱の相関関数を示す図であり、図11の(b)は、遊星型ボールミル100による粉砕後における動的光散乱の相関関数を示す図である。
【0071】
図11の(a)に示す相関関数を用いて上述した方法によって算出した酸化チタンの粒径は、1.011μmであり、一粒の表面積は、3.21×10−12m2であり、一粒の体積は、5.41×10−19m3であった。
【0072】
また、図11の(b)に示す相関関数を用いて上述した方法によって算出した酸化チタン粒子10の粒径は、402nmであり、一粒の表面積は、5.08×10−13m2であり、一粒の体積は、3.04×10−20m3であった。
【0073】
このように、遊星型ボールミル100を用いて図4に示す工程に従って製造された酸化チタン粒子10は、粉砕前の酸化チタンの粉体よりも粒径が小さくなり、それに伴って、一粒の表面積および一粒の体積が小さくなる。そして、酸化チタン粒子10は、ナノメートルオーダーの粒子からなる。
【0074】
次に、酸化チタン粒子10の光触媒能について説明する。
【0075】
図12は、光触媒能を検証するための紫外線照射装置の概略図である。図12を参照して、測定装置200は、スターラー210と、攪拌子220と、容器230と、ミラー240,250と、レーザ装置260とを備える。
【0076】
容器230は、四角柱の形状を有し、石英およびサファイアのいずれかからなる。なお、容器230は、四角柱以外の形状からなっていてもよい。攪拌子220は、容器230の内部に設置される。そして、攪拌子220が入れられた容器230は、スターラー210上に設置される。
【0077】
レーザ装置260は、例えば、He/Cdレーザからなり、325nmの波長を有するレーザ光を出射する。このレーザ光は、8mWの光強度を有する。
【0078】
ミラー240,250は、アルミニウムミラーからなる。ミラー240は、レーザ装置260から出射されたレーザ光をミラー250の方向へ反射する。ミラー250は、ミラー240によって反射されたレーザ光を容器230へ照射する。
【0079】
攪拌子220は、スターラー210から磁力を受け、その受けた磁力によって回転し、容器230内の溶液270を攪拌する。この場合、攪拌子220の回転数は、1150rpmである。スターラー210は、磁力によって攪拌子220を回転させる。
【0080】
図13は、図12に示す攪拌子220の概略図である。図13を参照して、攪拌子220は、磁石221と、保護膜222と、帯状部材223とを含む。磁石221は、角柱形状からなり、例えば、六角形の断面形状を有する。そして、磁石221は、スターラー210に保持された磁石と同じ極性を有する。
【0081】
保護膜222は、例えば、テフロン(登録商標)からなり、磁石221を覆う。なお、保護膜222が磁石221を覆うのは、磁石221が容器230の内壁を傷付けるのを防止するためである。帯状部材223は、テフロン(登録商標)からなり、磁石221の長さ方向の略中央部において保護膜222を覆うように配置される。
【0082】
攪拌子220の磁石221は、スターラー210の磁石と同じ極性を有するため、例えば、スターラー210の磁石が反時計回りに回転すると、磁石221は、スターラー210の磁石から矢印224の方向へ磁力を受け、攪拌子220は、矢印224の方向へ回転する。その結果、攪拌子220は、容器230内の溶液270を攪拌する。この場合、攪拌子220は、帯状部材223を有するので、保護膜222のうち、帯状部材223によって覆われた部分以外の部分は、容器230の底面に接せず、保護膜222と容器230との間に隙間が形成される。その結果、攪拌子220は、スターラー210の磁石が反時計回りに回転することによって、矢印224の方向に回転し易くなる。
【0083】
再び、図12を参照して、酸化チタン粒子10の光触媒能を測定する場合、溶液270は、次の化学式(1)によって表されるメチレンブルーを含むメチレンブルー水溶液からなる。
【0084】
【化1】
【0085】
メチレンブルー水溶液は、約2mgの酸化チタン粒子10を分散させたメタノール溶液と、2.94×10−5モルのメチレンブルーとを含み、溶媒が水である。そして、メチレンブルー水溶液の容積は、3.0mlである。
【0086】
レーザ装置260が325nmの波長を有するレーザ光をメチレンブルー水溶液に照射すると、次の化学式(2)における還元反応が進行し、メチレンブルー水溶液の色は、青から無色に変化する。そして、レーザ光の照射を停止すると、化学式(2)の酸化反応が進行し、メチレンブルー水溶液の色は、無色から青に変化する。
【0087】
【化2】
【0088】
測定装置200を用いてメチレンブルー水溶液に325nmの波長を有するレーザ光を照射した後、波長を変えながらメチレンブルー水溶液の吸光度を測定した。吸光度の測定条件は、バンド幅が5.0nmであり、走査速度が400nm/minであり、開始波長が900nmであり、終了波長が400nmであり、データ取込間隔が1.0nmである。
【0089】
図14は、吸光度の波長依存性を示す図である。図14の(a)は、暗状態、即ち、325nmのレーザ光を照射しない場合の吸光度の波長依存性を示す図である。また、図14の(b)は、遊星型ボールミル100を用いて粉砕しない酸化チタンを含むメチレンブルー水溶液に325nmのレーザ光を照射した場合の吸光度の波長依存性を示す図である。更に、図14の(c)は、遊星型ボールミル100を用いて粉砕した酸化チタン粒子10を含むメチレンブルー水溶液に325nmのレーザ光を照射した場合の吸光度の波長依存性を示す図である。
【0090】
図14の(b)における曲線k4〜k11は、それぞれ、325nmの波長を有するレーザ光の照射時間が15分、30分、45分、60分、75分、90分、105分および120分であるときの吸光度の波長依存性を示す。
【0091】
図14の(c)における曲線k12〜k19は、それぞれ、暗状態、325nmの波長を有するレーザ光の照射時間が0.25分、0.5分、0.75分、1分、2分、5分および10分であるときの吸光度の波長依存性を示す。
【0092】
なお、図14の(c)に示す吸光度の測定に用いた酸化チタン粒子10を製造するための粉砕条件は、図4に示すステップS3における第1の時間が1時間であり、ステップS5における第2の時間が15分であり、粉砕のトータル時間(=第1の時間の合計)が6時間であり、粉砕容器14の公転速度Vrevが600rpmであり、粉砕容器14の自転速度Vrotが1200rpmである。
【0093】
図14の(a)を参照して、325nmの波長を有するレーザ光を照射しない場合、15分から120分へと時間が経過しても、吸光度のスペクトルは、殆ど、変化せず、約662nmの波長に吸収のピークを有する。
【0094】
図14の(b)を参照して、吸光度は、約662nmの波長に吸収のピークを有し、レーザ光の照射時間が長くなるに従って低下する(曲線k4〜k11参照)。そして、吸光度が低下することは、化学式(2)の還元反応が進行し、メチレンブルーが脱色することを意味する。従って、遊星型ボールミル100を用いて粉砕されていない酸化チタンは、約120分の時間を要してメチレンブルーの還元反応を進行させる光触媒として作用する。
【0095】
図14の(c)を参照して、吸光度は、約662nmの波長に吸収のピークを有する。そして、吸光度は、レーザ光の照射時間が0.25分から0.5分へ長くなると、急激に低下し、レーザ光の照射時間が0.5分よりも長くなるに従って更に低下する。
【0096】
このように、遊星型ボールミル100を用いて粉砕された酸化チタン粒子10は、10分以内という非常に短時間でメチレンブルーの還元反応を促進させる光触媒として作用する。
【0097】
図15は、吸光度とレーザ光の照射時間との関係を示す図である。図15において、縦軸は、図14に示す波長662nmにおける吸光度を表し、横軸は、レーザ光の照射時間を表す。また、直線k20は、暗状態における吸光度とレーザ光の照射時間との関係を示し、曲線k21は、遊星型ボールミル100を用いて粉砕しない酸化チタンを含むメチレンブルー水溶液に325nmのレーザ光を照射した場合の吸光度とレーザ光の照射時間との関係を示し、曲線k22は、遊星型ボールミル100を用いて粉砕した酸化チタン粒子10を含むメチレンブルー水溶液に325nmのレーザ光を照射した場合の吸光度とレーザ光の照射時間との関係を示す。
【0098】
図15を参照して、暗状態である場合、吸光度は、レーザ光の照射時間に対して殆ど変化しない(直線k20参照)。
【0099】
遊星型ボールミル100を用いて粉砕しない酸化チタンを光触媒として用いた場合、吸光度は、レーザ光の照射時間が長くなるに従って低下する(曲線k21参照)。
【0100】
これに対して、遊星型ボールミル100を用いて粉砕した酸化チタン粒子10を光触媒として用いた場合、吸光度は、レーザ光の照射時間に対して非常に急峻に低下する(曲線k22参照)。
【0101】
曲線k21をexp(−t/τ)の関数によって表した場合の時定数をτ1とし、曲線k22をexp(−t/τ)の関数によって表した場合の時定数をτ2とした場合、τ2/τ1=0.00765となる。従って、酸化チタン粒子10を光触媒として用いたとき、粉砕していない酸化チタンを光触媒として用いた場合よりも、メチレンブルーの還元反応が132倍速く進行することが解った。
【0102】
図16は、吸光度とレーザ光の照射時間との関係を示す図である。図16において、縦軸は、波長662nmにおける吸光度を表し、横軸は、レーザ光の照射時間を表す。
【0103】
また、図16の(a)に示す曲線k23〜k30は、それぞれ、表1における粉砕条件を用いて粉砕されたサンプル1〜サンプル8(酸化チタン粒子)を含むメチレンブルー水溶液の吸光度と粉砕時間との関係を示す。
【0104】
【表1】
【0105】
なお、表1において、サンプル1は、アナターゼ型の結晶構造を持つ酸化チタンであり、粉砕されていない。サンプル2は、光触媒専用の酸化チタンであり、粉砕されていない。また、サンプル3〜8の各々において、1回の粉砕時間(図4に示すステップS3の第1の時間)は、1時間であり、冷却時間(図4に示すステップS5の第2の時間)は、15分である。
【0106】
更に、図16の(b)は、図16の(a)に示す曲線k25〜k30の0〜3分における拡大図である。
【0107】
図16を参照して、粉砕されていない酸化チタンを含むメチレンブルー水溶液の吸光度は、レーザ光の照射時間が長くなるに従って低下する(曲線k23,k24参照)。
【0108】
一方、粉砕された酸化チタンを含むメチレンブルー水溶液の吸光度は、レーザ光の照射時間に対して急峻に低下する。そして、粉砕された酸化チタンを含むメチレンブルー水溶液の吸光度の低下割合は、粉砕時間が長い方が大きい(曲線k25〜k30参照)。
【0109】
図17は、脱色反応の反応速度とトータルの粉砕時間との関係を示す図である。図17において、縦軸は、反応速度を表し、横軸は、トータルの粉砕時間を表す。
【0110】
また、黒菱形は、表1に示すサンプル1,4〜8の酸化チタンを含むメチレンブルー水溶液の反応速度とトータルの粉砕時間との関係を示し、白菱形は、表1に示すサンプル2,3の酸化チタンを含むメチレンブルー水溶液の反応速度とトータルの粉砕時間との関係を示す。
【0111】
更に、反応速度は、図16に示す曲線k23〜k30をexp(−t/τ)の関数によって表したときの時定数τの逆数を演算することによって算出された。
【0112】
図17を参照して、P25の酸化チタンを含むメチレンブルー水溶液の反応速度は、粉砕時間が長くなるに従って速くなる(白菱形参照)。
【0113】
また、anataseの酸化チタンを含むメチレンブルー水溶液の反応速度は、粉砕時間が長くなるに従って速くなる(黒菱形参照)。
【0114】
更に、反応速度は、トータルの粉砕時間が1時間以上において飛躍的に大きくなる(白菱形および黒菱形参照)。これは、図7に示したように、トータルの粉砕時間が1時間以上になると、酸化チタン粒子10がアモルファス相を含むようになり、酸化チタン粒子10の欠陥が増加するためである。
【0115】
トータルの粉砕時間による脱色反応の反応速度の増加率を表2に示す。
【0116】
【表2】
【0117】
表2において、P25の反応速度に対する比は、トータルの粉砕時間が零であるP25の反応速度(=0.03355(min−1))に対するanataseの反応速度の比である。
【0118】
表2に示す結果から、anataseからなる酸化チタンを粉砕することによって、反応速度は、飛躍的に速くなり、最大で約135倍になることが解る。また、anataseからなる酸化チタンを粉砕することによって、反応速度は、光触媒専用として用いられるP25の反応速度に対しても約29倍以上に速くなる。更に、P25の酸化チタンを粉砕することによって、反応速度は、粉砕しないP25の酸化チタンに対して約37倍になる。
【0119】
このように、図4に示す工程に従って粉砕された酸化チタン粒子を光触媒として用いることによって、メチレンブルーの脱色反応の反応速度を飛躍的に速くできる。
【0120】
図18は、脱色反応の反応速度と粉砕時の公転の回転速度との関係を示す図である。図18において、縦軸は、脱色反応の反応速度を表し、横軸は、粉砕容器14の公転の回転速度を表す。また、粉砕条件は、表1に示す粉砕条件において、トータルの粉砕時間を1時間に設定し、粉砕容器14の公転の回転速度Vrevを450rpm、600rpm、800rpmおよび1000rpmと変化させたものである。
【0121】
図18を参照して、反応速度は、公転の回転速度Vrevが速くなるに従って速くなる。図7に示したように、酸化チタン粒子10におけるアモルファスの割合は、公転の回転数Vrevが速くなると、大きくなる。従って、図7に示す結果と図18に示す結果とを併せて考えれば、酸化チタン粒子10におけるアモルファスの割合が大きくなれば、脱色反応の反応速度が速くなることが解った。
【0122】
粉砕時の公転の回転速度による脱色反応の反応速度の増加率を表3に示す。
【0123】
【表3】
【0124】
表3において、P25の反応速度に対する比は、トータルの粉砕時間が零であるP25の反応速度(=0.03355(min−1))に対するanataseの反応速度の比である。
【0125】
表3に示す結果から、anataseからなる酸化チタンを粉砕することによって、反応速度は、公転の回転速度が速くなるに従って速くなり、最大で約91倍になることが解る。また、anataseからなる酸化チタンを粉砕することによって、反応速度は、光触媒専用として用いられるP25の反応速度に対しても約21倍以上に速くなる。
【0126】
上述したように、図4に示す工程に従って製造された酸化チタン粒子10は、アモルファス相1と、多結晶相2とを備える。そして、メチレンブルー水溶液の脱色反応における光触媒として酸化チタン粒子10を用いた場合、アモルファス相1の欠陥を介してメチレンブルー水溶液の還元反応が促進される。従って、メチレンブルー水溶液の脱色反応の反応速度を飛躍的に速くできる。
【0127】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0128】
この発明は、酸化チタン粒子およびその製造方法に適用される。
【符号の説明】
【0129】
1 アモルファス相、2 多結晶相、10 酸化チタン粒子、11 本体部、12 制御部、13 回転盤、14 粉砕容器、15 粉砕ボール、100 遊星型ボールミル、121 操作パネル、200 測定装置、210 スターラー、220 攪拌子、221 磁石、222 保護膜、223 帯状部材、230 容器、240,250 ミラー、260 レーザ装置。
【技術分野】
【0001】
この発明は、酸化チタン粒子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、化学、物理、工学および医薬の分野をはじめ、一般社会でも非常に注目されている。
【0003】
特に、酸化チタン(TiO2)を材料にした光触媒は、実用化され、抗菌コートの材料、外壁の汚れを分解する材料、手術室の壁・床などの殺菌材料として幅広く利用されている(非特許文献1,2)。
【0004】
また、酸化チタンは、水の分解による水素発生を行なう光触媒として、燃料電池、およびクリーンエネルギー源を生成する重要な役割が期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】G. K. Mor, K. Shankar, M. Paulose, O. K. Varghese, and C. A. Grimes, “Enhanced Photocleavage of Water Using Titania Nanotube Arrays,” Nano Lett., 5, 191-195, (2005).
【非特許文献2】日本化学会編 藤島昭(責任編集)「実力養成化学スクール 光触媒」丸善株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の酸化チタンを光触媒として用いた場合、反応速度が遅いという問題がある。
【0007】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、反応速度を速くできる酸化チタン粒子を提供することである。
【0008】
また、この発明の別の目的は、反応速度を速くできる酸化チタン粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の実施の形態によれば、酸化チタン粒子は、粒径がナノメートルオーダーの酸化チタン粒子であって、アモルファス相からなる酸化チタンと、多結晶相からなる酸化チタンと、TiZrO4とを含む。
【0010】
また、この発明の実施の形態によれば、酸化チタン粒子の製造方法は、粉砕ボールと、多結晶からなる酸化チタン粉体と、溶媒とを粉砕容器に入れる第1の工程と、第1の時間の間、粉砕容器を自転および公転させる第2の工程と、第2の工程の後、粉砕容器の自転および公転を停止し、第1の時間と異なる第2の時間の間、粉砕容器内の内容物を冷却する第3の工程と、第2および第3の工程を所望の回数だけ行なう第4の工程とを備える。
【発明の効果】
【0011】
この発明の実施の形態による酸化チタン粒子は、アモルファス相からなる酸化チタンと、多結晶相からなる酸化チタンとを含むので、多結晶相のみからなる酸化チタンに比べ、欠陥が多い。その結果、酸化チタン粒子をメチレンブルー水溶液の脱色反応における光触媒として用いた場合、アモルファス相に含まれる欠陥を介してメンチレンブルー水溶液の還元反応が促進される。
【0012】
従って、酸化チタン粒子を光触媒として用いた場合の反応速度を速くできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態による酸化チタン粒子の概念図である。
【図2】図1に示す酸化チタン粒子を製造する遊星型ボールミルの斜視図である。
【図3】図2に示す回転盤および粉砕容器の平面図である。
【図4】この発明の実施の形態による酸化チタン粒子の製造方法を示す工程図である。
【図5】図1に示す酸化チタン粒子のX線回折の測定結果を示す図である。
【図6】酸化チタン粒子におけるアモルファスの割合とトータルの粉砕時間との関係を示す図である。
【図7】アモルファスの割合と回転速度との関係を示す図である。
【図8】Zr原子の割合とトータルの粉砕時間との関係を示す図である。
【図9】Zr原子の割合と回転速度との関係を示す図である。
【図10】動的光散乱を用いて計測された相関関数と時間との関係を示す図である。
【図11】図2に示す遊星型ボールミルによる粉砕前後における動的光散乱の相関関数を示す図である。
【図12】光触媒能を検証するための紫外線照射装置の概略図である。
【図13】図12に示す攪拌子の概略図である。
【図14】吸光度の波長依存性を示す図である。
【図15】吸光度とレーザ光の照射時間との関係を示す図である。
【図16】吸光度と粉砕時間との関係を示す図である。
【図17】脱色反応の反応速度とトータルの粉砕時間との関係を示す図である。
【図18】脱色反応の反応速度と粉砕時の公転の回転速度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0015】
図1は、この発明の実施の形態による酸化チタン粒子の概念図である。図1を参照して、この発明の実施の形態による酸化チタン粒子10は、アモルファス相1と、多結晶相2と、TiZrO4とを含む。なお、図1においては、TiZrO4は、図示されていない。
【0016】
酸化チタン粒子10は、例えば、400nmの粒径を有し、球形からなる。アモルファス相1および多結晶相2の各々は、TiO2からなる。アモルファス相1の割合は、多結晶相2の割合よりも小さくても、大きくてもよいが、好ましくは、多結晶相2の割合よりも大きい。
【0017】
図2は、図1に示す酸化チタン粒子10を製造する遊星型ボールミルの斜視図である。図2を参照して、遊星型ボールミル100は、本体部11と、制御部12と、回転盤13と、粉砕容器14とを備える。なお、遊星型ボールミル100は、フリッチュ社製のpremium line P−7である。
【0018】
制御部12は、本体部11の一方端側において本体部11上に配置される。そして、制御部12は、タッチパネル方式の操作パネル121を有する。
【0019】
回転盤13は、本体部11の空間111内に配置される。そして、回転盤13は、例えば、時計回りに所望の回転速度で回転する。
【0020】
粉砕容器14は、例えば、45ccの容積を有し、ジルコニア(ZrO2)からなる。粉砕容器14は、回転盤13上に設置され、回転盤13に着脱可能になっている。そして、粉砕容器14は、例えば、半時計回りに所望の回転速度で回転する。
【0021】
粉砕容器14は、ナノ粒子を製造するための原料と、原料を粉砕するためのボールと、溶媒とを入れるための容器である。
【0022】
図2においては、図示されていないが、回転盤13および粉砕容器14を回転させるためのモータが回転盤13の下側の本体部11内に内蔵されている。
【0023】
操作パネル121は、遊星型ボールミル100の操作者から回転盤13の回転速度(=公転の回転速度Vrev)と粉砕容器14の回転速度(=自転の回転速度Vrot)とを受け付ける。そして、操作パネル121は、その受け付けた回転速度Vrev,Vrotをモータへ出力する。
【0024】
そうすると、モータは、回転盤13および粉砕容器14をそれぞれ回転速度Vrev,Vrotで回転させる。
【0025】
そして、所望の時間が経過すると、操作パネル121は、回転盤13および粉砕容器14の回転を停止させるための停止指示を操作者から受け付け、モータを停止させる。
【0026】
このように、回転盤13および粉砕容器14がそれぞれ回転速度Vrev,Vrotで回転すると、粉砕容器14は、回転速度Vrevで公転し、回転速度Vrotで自転する。そして、公転の方向は、自転の方向と逆方向である。
【0027】
図3は、図2に示す回転盤13および粉砕容器14の平面図である。図3を参照して、回転盤13は、時計回りに回転速度Vrevで回転し、粉砕容器14は、半時計回りに回転速度Vrotで回転する。
【0028】
そうすると、遠心力Fct1が回転盤13の回転(=公転)によって発生し、遠心力Fct2が粉砕容器14の回転(=自転)によって発生する。そして、遠心力Fct1と遠心力Fct2とが複合した重力Fが粉砕容器14内で発生する。
【0029】
その結果、粉砕容器14内に入れられた原料(図示せず)は、重力Fによって粉砕ボール15および粉砕容器14の壁にぶつかり、連続的に強い衝撃を受け、粉砕される。
【0030】
この場合、重力Fの最大値は、97G(G:重力加速度)である。
【0031】
図4は、この発明の実施の形態による酸化チタン粒子10の製造方法を示す工程図である。図4を参照して、酸化チタン粒子10の製造が開始されると、所望の直径を有する粉砕ボール15と、多結晶からなる酸化チタンの粉体と、溶媒とを粉砕容器14に入れる(ステップS1)。
【0032】
この場合、粉砕ボール15は、例えば、1mmの直径を有するジルコニア(ZrO2)からなる。また、酸化チタンの粉体は、市販されているanataseまたはP25からなり、ミクロンオーダーの粒径を有する。更に、溶媒は、例えば、メタノールからなる。
【0033】
そして、40gのジルコニア製の粉砕ボール15と、1.0gの酸化チタンと、6.0gのメタノールとが粉砕容器14に入れられる。
【0034】
また、ステップS1においては、好ましくは、粉砕ボール15、酸化チタン、および溶媒は、粉砕ボール15、酸化チタン、および溶媒の順で粉砕容器14に入れられる。
【0035】
粉砕ボール15、酸化チタン、および溶媒が粉砕容器14に入れられると、n=1を設定し(ステップS2)、第1の時間の間、粉砕容器14を自転および公転させる(ステップS3)。この場合、粉砕容器14の公転の回転速度Vrevは、例えば、600rpmに設定され、粉砕容器14の自転の回転速度Vrotは、例えば、1200rpmに設定される。また、第1の時間は、20分または1時間である。
【0036】
ステップS3の後、粉砕容器14の自転および公転を停止し(ステップS4)、第2の時間の間、粉砕容器14内の内容物を冷却する(ステップS5)。この場合、第2の時間は、例えば、10分または15分である。また、粉砕容器14内の内容物は、空冷によって室温まで冷却される。このように、粉砕時間である第1の時間は、冷却時間である第2の時間よりも長い。
【0037】
その後、n=N(Nは、所望の回数)であるか否かが判定される(ステップS6)。
【0038】
ステップS6において、n=Nでないと判定されたとき、n=n+1が設定される(ステップS7)。そして、一連の動作は、ステップS3へ戻り、ステップS6において、n=Nであると判定されるまで、上述したステップS3〜ステップS6が繰り返し実行される。
【0039】
その後、ステップS6において、n=Nであると判定されると、酸化チタン粒子10の製造が完了する。なお、図4に示す工程が終了したとき、粉砕容器14内には、メタノールが残っており、酸化チタン粒子10は、メタノールとともに別の容器に入れられて保存される。
【0040】
上述したステップS3を実行することによって、酸化チタンの粉体が粉砕される。また、Nは、ステップS3を実行したトータルの時間が0.5時間〜12時間の範囲になるように設定される。例えば、第1の時間が1時間であり、ステップS3を実行したトータルの時間が3時間である場合、Nは、N=3回に設定される。
【0041】
上述したように、ステップS3における酸化チタンの粉砕と、ステップS5における粉砕容器14内の内容物の冷却とを行なうことによって、後述するように、酸化チタン粒子10を光触媒として用いたときの反応速度を速くできる。
【0042】
第1の時間が1時間である場合、ステップS3が終了した時点で、粉砕容器14の内容物の温度は、40℃よりも高い温度に昇温されている。従って、40℃よりも高い温度に昇温された内容物をステップS5において冷却することによって、アモルファス相1における欠陥を増加させることができ、酸化チタン粒子10を光触媒として用いたときの反応速度を速くできる。
【0043】
図5は、図1に示す酸化チタン粒子10のX線回折の測定結果を示す図である。図5において、縦軸は、X線回折の回折強度を表し、横軸は、散乱角2θを表す。
【0044】
また、曲線k1は、酸化チタン粒子10のX線回折の測定結果を示し、曲線k2は、遊星型ボールミル100を用いて粉砕する前の酸化チタンのX線回折の測定結果を示し、曲線k3は、曲線k2の25.4度の散乱角におけるピークが曲線k1の25.4度の散乱角におけるピークに一致するように曲線k2を規格化し、その規格化後のデータを曲線k1から差し引いた結果を示す。
【0045】
更に、遊星型ボールミル100を用いて酸化チタンを粉砕するときの粉砕条件は、次のとおりである。粉砕ボール15は、40gのジルコニア(直径1mmφ)からなり、試料は、1.0gの酸化チタンからなり、溶媒は、6.0gのメタノールからなり、図4に示すステップS3における第1の時間が1時間であり、図4に示すステップS5における第2の時間が15分であり、トータルの粉砕時間が8時間であり、粉砕容器14の公転の回転速度Vrevは、600rpmであり、粉砕容器14の自転の回転速度Vrotは、1200rpmである。
【0046】
図5を参照して、遊星型ボールミル100を用いて粉砕する前の酸化チタンは、多結晶相に起因するピークのみが観測された(曲線k2)。
【0047】
一方、酸化チタン粒子10は、多結晶相に起因するピークが著しく減少し(強度が1/18)、ブロードなアモルファス相に起因する信号が顕著となった(曲線k1)。ピークP1〜P3は、TiZrO4に起因するピークである。そして、Zrは、粉砕容器14および粉砕ボール15の材料であるジルコニア(ZrO2)に起因する。
【0048】
従って、酸化チタン粒子10は、多結晶相からなるTiO2とアモルファス相からなるからなるTiO2とTiZrO4とからなることが実証された。
【0049】
図6は、酸化チタン粒子10におけるアモルファスの割合とトータルの粉砕時間との関係を示す図である。
【0050】
図6において、縦軸は、アモルファスの割合を表し、横軸は、トータルの粉砕時間を表す。また、粉砕条件は、図5において説明した粉砕条件において、トータルの粉砕時間を0.5、0.75、1、3、6、8、12時間と変えたものであり、トータルの粉砕時間以外の条件は、上述したとおりである。この場合、トータルの粉砕時間が0.5時間、および0.75時間である場合については、図4に示すステップS3における第1の時間をそれぞれ0.5時間、および0.75時間とした。更に、アモルファスの割合は、図5に示す曲線k3の面積を曲線k1の面積で除算することによって算出された。
【0051】
図6を参照して、アモルファスの割合は、トータルの粉砕時間が長くなるに従って大きくなり、トータルの粉砕時間が8時間以上で飽和する。より詳細には、アモルファスの割合は、トータルの粉砕時間が1時間までは、約40%程度まで大きくなり、トータルの粉砕時間が1時間から3時間に長くなると、約40%から約80%へ急激に大きくなり、トータルの粉砕時間が3時間よりも長くなると、徐々に大きくなり、約90%で飽和する。このように、トータルの粉砕時間が1時間以内では、アモルファスの割合は、多結晶相の割合よりも小さく、トータルの粉砕時間が3時間以上になると、アモルファスの割合は、多結晶相の割合よりも大きくなる。
【0052】
従って、遊星型ボールミル100による粉砕時間が長くなると、酸化チタン粒子10におけるアモルファスの割合が大きくなることが解った。
【0053】
図7は、アモルファスの割合と回転速度との関係を示す図である。図7において、縦軸は、アモルファスの割合を表し、横軸は、遊星型ボールミル100による粉砕時の公転の回転速度を表す。また、粉砕条件は、図5において説明した粉砕条件において、粉砕容器14の公転の回転速度Vrevを100、300、600、800および1000(rpm)と変えたものであり、公転の回転速度以外の条件は、上述したとおりである。更に、アモルファスの割合は、図5に示す曲線k3の面積を曲線k1の面積で除算することによって算出された。
【0054】
図7を参照して、アモルファスの割合は、粉砕容器14の公転の回転速度Vrevが速くなるに従って大きくなる。これは、酸化チタンに印加される衝撃力が回転速度Vrevが速くなるに従って大きくなるためであると考えられる。
【0055】
図8は、Zr原子の割合とトータルの粉砕時間との関係を示す図である。図8において、縦軸は、Zr原子の割合を表し、横軸は、トータルの粉砕時間を表す。また、粉砕条件は、図6において説明した粉砕条件と同じである。更に、Zr原子の割合は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)によって測定された。
【0056】
図8を参照して、Zr原子の割合は、トータルの粉砕時間が長くなるに従って多くなる。これは、トータルの粉砕時間が長くなることによって原材料である酸化チタンの粉体と、粉砕容器14および粉砕ボール15の材料であるジルコニア(ZrO2)との衝突が増加し、ZrO2中のZr原子が酸化チタン中に取り込まれたものと考えられる。また、トータルの粉砕時間が長くなることによるZr原子の増加は、図6に示したように、トータルの粉砕時間が長くなるに従ってアモルファスの割合が大きくなることと良い一致を示す。
【0057】
図9は、Zr原子の割合と回転速度との関係を示す図である。図9において、縦軸は、Zr原子の割合を表し、横軸は、遊星型ボールミル100による粉砕時の公転の回転速度を表す。また、粉砕条件は、図7において説明した粉砕条件と同じである。更に、Zr原子の割合は、EPMAによって測定された。
【0058】
図9を参照して、Zr原子の割合は、400rpm程度の回転速度Vrevまでは、ほぼ一定であるが、回転速度Vrevが400rpm以上になると、回転速度Vrevが速くなるに従って大きくなる。これは、回転速度Vrevが400rpm程度までは、酸化チタンの粉砕が進行するが、粉砕された酸化チタンの粒径は、相対的に大きいため、酸化チタンへ取り込まれるZr原子の量は、ほぼ一定になるが、回転速度Vrevが400rpm以上になると、酸化チタンの粉砕が更に進行し、酸化チタンの粒径は、相対的に小さくなるため、酸化チタンへ取り込まれるZr原子の量が増えるためと考えられる。
【0059】
図4に示す工程に従って製造した酸化チタン粒子10の粒径を計測する方法について説明する。酸化チタン粒子10の粒径は、動的光散乱を用いて計測された。
【0060】
図10は、動的光散乱を用いて計測された相関関数と時間との関係を示す図である。酸化チタン粒子10を含むメタノール溶液に532nmの波長を有するレーザ光を照射し、ブラウン運動を行なう酸化チタン粒子10によって散乱される散乱光を光電子増倍管で検出する。その結果、図10に示す相関関数と時間との関係が得られる。
【0061】
そして、図10に示す相関関数をキュムラント法(式(1))を用いて解析する。即ち、式(1)に示すG1(τ)が図10に示す相関関数に一致するようにフィッティングし、Γを得る。
【0062】
【数1】
【0063】
なお、式(1)において、Γは、相関時間の逆数であり、μは、多分散度である。
【0064】
式(1)を用いた解析によって得られたΓと次式(2)とを用いて拡散係数Dを算出する。
【0065】
【数2】
【0066】
なお、式(2)において、kは、散乱ベクトルであり、n0は、溶媒(メタノール)の屈折率であり、λ0は、レーザ光の波長(532nm)であり、θは、酸化チタン粒子10によるレーザ光の散乱角である。
【0067】
そして、式(2)を用いて算出した拡散係数Dを次式に代入して粒径dを算出した。
【0068】
【数3】
【0069】
なお、式(3)において、kBは、ボルツマン定数であり、Tは、絶対温度であり、η0は、溶媒(メタノール)の粘度である。
【0070】
図11は、図2に示す遊星型ボールミル100による粉砕前後における動的光散乱の相関関数を示す図である。なお、図11の(a)は、遊星型ボールミル100による粉砕前における動的光散乱の相関関数を示す図であり、図11の(b)は、遊星型ボールミル100による粉砕後における動的光散乱の相関関数を示す図である。
【0071】
図11の(a)に示す相関関数を用いて上述した方法によって算出した酸化チタンの粒径は、1.011μmであり、一粒の表面積は、3.21×10−12m2であり、一粒の体積は、5.41×10−19m3であった。
【0072】
また、図11の(b)に示す相関関数を用いて上述した方法によって算出した酸化チタン粒子10の粒径は、402nmであり、一粒の表面積は、5.08×10−13m2であり、一粒の体積は、3.04×10−20m3であった。
【0073】
このように、遊星型ボールミル100を用いて図4に示す工程に従って製造された酸化チタン粒子10は、粉砕前の酸化チタンの粉体よりも粒径が小さくなり、それに伴って、一粒の表面積および一粒の体積が小さくなる。そして、酸化チタン粒子10は、ナノメートルオーダーの粒子からなる。
【0074】
次に、酸化チタン粒子10の光触媒能について説明する。
【0075】
図12は、光触媒能を検証するための紫外線照射装置の概略図である。図12を参照して、測定装置200は、スターラー210と、攪拌子220と、容器230と、ミラー240,250と、レーザ装置260とを備える。
【0076】
容器230は、四角柱の形状を有し、石英およびサファイアのいずれかからなる。なお、容器230は、四角柱以外の形状からなっていてもよい。攪拌子220は、容器230の内部に設置される。そして、攪拌子220が入れられた容器230は、スターラー210上に設置される。
【0077】
レーザ装置260は、例えば、He/Cdレーザからなり、325nmの波長を有するレーザ光を出射する。このレーザ光は、8mWの光強度を有する。
【0078】
ミラー240,250は、アルミニウムミラーからなる。ミラー240は、レーザ装置260から出射されたレーザ光をミラー250の方向へ反射する。ミラー250は、ミラー240によって反射されたレーザ光を容器230へ照射する。
【0079】
攪拌子220は、スターラー210から磁力を受け、その受けた磁力によって回転し、容器230内の溶液270を攪拌する。この場合、攪拌子220の回転数は、1150rpmである。スターラー210は、磁力によって攪拌子220を回転させる。
【0080】
図13は、図12に示す攪拌子220の概略図である。図13を参照して、攪拌子220は、磁石221と、保護膜222と、帯状部材223とを含む。磁石221は、角柱形状からなり、例えば、六角形の断面形状を有する。そして、磁石221は、スターラー210に保持された磁石と同じ極性を有する。
【0081】
保護膜222は、例えば、テフロン(登録商標)からなり、磁石221を覆う。なお、保護膜222が磁石221を覆うのは、磁石221が容器230の内壁を傷付けるのを防止するためである。帯状部材223は、テフロン(登録商標)からなり、磁石221の長さ方向の略中央部において保護膜222を覆うように配置される。
【0082】
攪拌子220の磁石221は、スターラー210の磁石と同じ極性を有するため、例えば、スターラー210の磁石が反時計回りに回転すると、磁石221は、スターラー210の磁石から矢印224の方向へ磁力を受け、攪拌子220は、矢印224の方向へ回転する。その結果、攪拌子220は、容器230内の溶液270を攪拌する。この場合、攪拌子220は、帯状部材223を有するので、保護膜222のうち、帯状部材223によって覆われた部分以外の部分は、容器230の底面に接せず、保護膜222と容器230との間に隙間が形成される。その結果、攪拌子220は、スターラー210の磁石が反時計回りに回転することによって、矢印224の方向に回転し易くなる。
【0083】
再び、図12を参照して、酸化チタン粒子10の光触媒能を測定する場合、溶液270は、次の化学式(1)によって表されるメチレンブルーを含むメチレンブルー水溶液からなる。
【0084】
【化1】
【0085】
メチレンブルー水溶液は、約2mgの酸化チタン粒子10を分散させたメタノール溶液と、2.94×10−5モルのメチレンブルーとを含み、溶媒が水である。そして、メチレンブルー水溶液の容積は、3.0mlである。
【0086】
レーザ装置260が325nmの波長を有するレーザ光をメチレンブルー水溶液に照射すると、次の化学式(2)における還元反応が進行し、メチレンブルー水溶液の色は、青から無色に変化する。そして、レーザ光の照射を停止すると、化学式(2)の酸化反応が進行し、メチレンブルー水溶液の色は、無色から青に変化する。
【0087】
【化2】
【0088】
測定装置200を用いてメチレンブルー水溶液に325nmの波長を有するレーザ光を照射した後、波長を変えながらメチレンブルー水溶液の吸光度を測定した。吸光度の測定条件は、バンド幅が5.0nmであり、走査速度が400nm/minであり、開始波長が900nmであり、終了波長が400nmであり、データ取込間隔が1.0nmである。
【0089】
図14は、吸光度の波長依存性を示す図である。図14の(a)は、暗状態、即ち、325nmのレーザ光を照射しない場合の吸光度の波長依存性を示す図である。また、図14の(b)は、遊星型ボールミル100を用いて粉砕しない酸化チタンを含むメチレンブルー水溶液に325nmのレーザ光を照射した場合の吸光度の波長依存性を示す図である。更に、図14の(c)は、遊星型ボールミル100を用いて粉砕した酸化チタン粒子10を含むメチレンブルー水溶液に325nmのレーザ光を照射した場合の吸光度の波長依存性を示す図である。
【0090】
図14の(b)における曲線k4〜k11は、それぞれ、325nmの波長を有するレーザ光の照射時間が15分、30分、45分、60分、75分、90分、105分および120分であるときの吸光度の波長依存性を示す。
【0091】
図14の(c)における曲線k12〜k19は、それぞれ、暗状態、325nmの波長を有するレーザ光の照射時間が0.25分、0.5分、0.75分、1分、2分、5分および10分であるときの吸光度の波長依存性を示す。
【0092】
なお、図14の(c)に示す吸光度の測定に用いた酸化チタン粒子10を製造するための粉砕条件は、図4に示すステップS3における第1の時間が1時間であり、ステップS5における第2の時間が15分であり、粉砕のトータル時間(=第1の時間の合計)が6時間であり、粉砕容器14の公転速度Vrevが600rpmであり、粉砕容器14の自転速度Vrotが1200rpmである。
【0093】
図14の(a)を参照して、325nmの波長を有するレーザ光を照射しない場合、15分から120分へと時間が経過しても、吸光度のスペクトルは、殆ど、変化せず、約662nmの波長に吸収のピークを有する。
【0094】
図14の(b)を参照して、吸光度は、約662nmの波長に吸収のピークを有し、レーザ光の照射時間が長くなるに従って低下する(曲線k4〜k11参照)。そして、吸光度が低下することは、化学式(2)の還元反応が進行し、メチレンブルーが脱色することを意味する。従って、遊星型ボールミル100を用いて粉砕されていない酸化チタンは、約120分の時間を要してメチレンブルーの還元反応を進行させる光触媒として作用する。
【0095】
図14の(c)を参照して、吸光度は、約662nmの波長に吸収のピークを有する。そして、吸光度は、レーザ光の照射時間が0.25分から0.5分へ長くなると、急激に低下し、レーザ光の照射時間が0.5分よりも長くなるに従って更に低下する。
【0096】
このように、遊星型ボールミル100を用いて粉砕された酸化チタン粒子10は、10分以内という非常に短時間でメチレンブルーの還元反応を促進させる光触媒として作用する。
【0097】
図15は、吸光度とレーザ光の照射時間との関係を示す図である。図15において、縦軸は、図14に示す波長662nmにおける吸光度を表し、横軸は、レーザ光の照射時間を表す。また、直線k20は、暗状態における吸光度とレーザ光の照射時間との関係を示し、曲線k21は、遊星型ボールミル100を用いて粉砕しない酸化チタンを含むメチレンブルー水溶液に325nmのレーザ光を照射した場合の吸光度とレーザ光の照射時間との関係を示し、曲線k22は、遊星型ボールミル100を用いて粉砕した酸化チタン粒子10を含むメチレンブルー水溶液に325nmのレーザ光を照射した場合の吸光度とレーザ光の照射時間との関係を示す。
【0098】
図15を参照して、暗状態である場合、吸光度は、レーザ光の照射時間に対して殆ど変化しない(直線k20参照)。
【0099】
遊星型ボールミル100を用いて粉砕しない酸化チタンを光触媒として用いた場合、吸光度は、レーザ光の照射時間が長くなるに従って低下する(曲線k21参照)。
【0100】
これに対して、遊星型ボールミル100を用いて粉砕した酸化チタン粒子10を光触媒として用いた場合、吸光度は、レーザ光の照射時間に対して非常に急峻に低下する(曲線k22参照)。
【0101】
曲線k21をexp(−t/τ)の関数によって表した場合の時定数をτ1とし、曲線k22をexp(−t/τ)の関数によって表した場合の時定数をτ2とした場合、τ2/τ1=0.00765となる。従って、酸化チタン粒子10を光触媒として用いたとき、粉砕していない酸化チタンを光触媒として用いた場合よりも、メチレンブルーの還元反応が132倍速く進行することが解った。
【0102】
図16は、吸光度とレーザ光の照射時間との関係を示す図である。図16において、縦軸は、波長662nmにおける吸光度を表し、横軸は、レーザ光の照射時間を表す。
【0103】
また、図16の(a)に示す曲線k23〜k30は、それぞれ、表1における粉砕条件を用いて粉砕されたサンプル1〜サンプル8(酸化チタン粒子)を含むメチレンブルー水溶液の吸光度と粉砕時間との関係を示す。
【0104】
【表1】
【0105】
なお、表1において、サンプル1は、アナターゼ型の結晶構造を持つ酸化チタンであり、粉砕されていない。サンプル2は、光触媒専用の酸化チタンであり、粉砕されていない。また、サンプル3〜8の各々において、1回の粉砕時間(図4に示すステップS3の第1の時間)は、1時間であり、冷却時間(図4に示すステップS5の第2の時間)は、15分である。
【0106】
更に、図16の(b)は、図16の(a)に示す曲線k25〜k30の0〜3分における拡大図である。
【0107】
図16を参照して、粉砕されていない酸化チタンを含むメチレンブルー水溶液の吸光度は、レーザ光の照射時間が長くなるに従って低下する(曲線k23,k24参照)。
【0108】
一方、粉砕された酸化チタンを含むメチレンブルー水溶液の吸光度は、レーザ光の照射時間に対して急峻に低下する。そして、粉砕された酸化チタンを含むメチレンブルー水溶液の吸光度の低下割合は、粉砕時間が長い方が大きい(曲線k25〜k30参照)。
【0109】
図17は、脱色反応の反応速度とトータルの粉砕時間との関係を示す図である。図17において、縦軸は、反応速度を表し、横軸は、トータルの粉砕時間を表す。
【0110】
また、黒菱形は、表1に示すサンプル1,4〜8の酸化チタンを含むメチレンブルー水溶液の反応速度とトータルの粉砕時間との関係を示し、白菱形は、表1に示すサンプル2,3の酸化チタンを含むメチレンブルー水溶液の反応速度とトータルの粉砕時間との関係を示す。
【0111】
更に、反応速度は、図16に示す曲線k23〜k30をexp(−t/τ)の関数によって表したときの時定数τの逆数を演算することによって算出された。
【0112】
図17を参照して、P25の酸化チタンを含むメチレンブルー水溶液の反応速度は、粉砕時間が長くなるに従って速くなる(白菱形参照)。
【0113】
また、anataseの酸化チタンを含むメチレンブルー水溶液の反応速度は、粉砕時間が長くなるに従って速くなる(黒菱形参照)。
【0114】
更に、反応速度は、トータルの粉砕時間が1時間以上において飛躍的に大きくなる(白菱形および黒菱形参照)。これは、図7に示したように、トータルの粉砕時間が1時間以上になると、酸化チタン粒子10がアモルファス相を含むようになり、酸化チタン粒子10の欠陥が増加するためである。
【0115】
トータルの粉砕時間による脱色反応の反応速度の増加率を表2に示す。
【0116】
【表2】
【0117】
表2において、P25の反応速度に対する比は、トータルの粉砕時間が零であるP25の反応速度(=0.03355(min−1))に対するanataseの反応速度の比である。
【0118】
表2に示す結果から、anataseからなる酸化チタンを粉砕することによって、反応速度は、飛躍的に速くなり、最大で約135倍になることが解る。また、anataseからなる酸化チタンを粉砕することによって、反応速度は、光触媒専用として用いられるP25の反応速度に対しても約29倍以上に速くなる。更に、P25の酸化チタンを粉砕することによって、反応速度は、粉砕しないP25の酸化チタンに対して約37倍になる。
【0119】
このように、図4に示す工程に従って粉砕された酸化チタン粒子を光触媒として用いることによって、メチレンブルーの脱色反応の反応速度を飛躍的に速くできる。
【0120】
図18は、脱色反応の反応速度と粉砕時の公転の回転速度との関係を示す図である。図18において、縦軸は、脱色反応の反応速度を表し、横軸は、粉砕容器14の公転の回転速度を表す。また、粉砕条件は、表1に示す粉砕条件において、トータルの粉砕時間を1時間に設定し、粉砕容器14の公転の回転速度Vrevを450rpm、600rpm、800rpmおよび1000rpmと変化させたものである。
【0121】
図18を参照して、反応速度は、公転の回転速度Vrevが速くなるに従って速くなる。図7に示したように、酸化チタン粒子10におけるアモルファスの割合は、公転の回転数Vrevが速くなると、大きくなる。従って、図7に示す結果と図18に示す結果とを併せて考えれば、酸化チタン粒子10におけるアモルファスの割合が大きくなれば、脱色反応の反応速度が速くなることが解った。
【0122】
粉砕時の公転の回転速度による脱色反応の反応速度の増加率を表3に示す。
【0123】
【表3】
【0124】
表3において、P25の反応速度に対する比は、トータルの粉砕時間が零であるP25の反応速度(=0.03355(min−1))に対するanataseの反応速度の比である。
【0125】
表3に示す結果から、anataseからなる酸化チタンを粉砕することによって、反応速度は、公転の回転速度が速くなるに従って速くなり、最大で約91倍になることが解る。また、anataseからなる酸化チタンを粉砕することによって、反応速度は、光触媒専用として用いられるP25の反応速度に対しても約21倍以上に速くなる。
【0126】
上述したように、図4に示す工程に従って製造された酸化チタン粒子10は、アモルファス相1と、多結晶相2とを備える。そして、メチレンブルー水溶液の脱色反応における光触媒として酸化チタン粒子10を用いた場合、アモルファス相1の欠陥を介してメチレンブルー水溶液の還元反応が促進される。従って、メチレンブルー水溶液の脱色反応の反応速度を飛躍的に速くできる。
【0127】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0128】
この発明は、酸化チタン粒子およびその製造方法に適用される。
【符号の説明】
【0129】
1 アモルファス相、2 多結晶相、10 酸化チタン粒子、11 本体部、12 制御部、13 回転盤、14 粉砕容器、15 粉砕ボール、100 遊星型ボールミル、121 操作パネル、200 測定装置、210 スターラー、220 攪拌子、221 磁石、222 保護膜、223 帯状部材、230 容器、240,250 ミラー、260 レーザ装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径がナノメートルオーダーの酸化チタン粒子であって、
アモルファス相からなる酸化チタンと、
多結晶相からなる酸化チタンと、
TiZrO4とを含む酸化チタン粒子。
【請求項2】
粉砕ボールと、多結晶からなる酸化チタン粉体と、溶媒とを粉砕容器に入れる第1の工程と、
第1の時間の間、前記粉砕容器を自転および公転させる第2の工程と、
前記第2の工程の後、前記粉砕容器の自転および公転を停止し、前記第1の時間と異なる第2の時間の間、前記粉砕容器内の内容物を冷却する第3の工程と、
前記第2および第3の工程を所望の回数だけ行なう第4の工程とを備える酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第1の工程において、前記粉砕ボール、前記酸化チタン粉体および前記溶媒は、前記粉砕ボール、前記酸化チタン粉体および前記溶媒の順で前記粉砕容器へ入れられる、請求項2に記載の酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項4】
前記第1の時間は、前記第2の時間よりも長い、請求項2または請求項3に記載の酸化チタンの製造方法。
【請求項5】
前記自転の回転数は、前記公転の回転数よりも大きい、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項1】
粒径がナノメートルオーダーの酸化チタン粒子であって、
アモルファス相からなる酸化チタンと、
多結晶相からなる酸化チタンと、
TiZrO4とを含む酸化チタン粒子。
【請求項2】
粉砕ボールと、多結晶からなる酸化チタン粉体と、溶媒とを粉砕容器に入れる第1の工程と、
第1の時間の間、前記粉砕容器を自転および公転させる第2の工程と、
前記第2の工程の後、前記粉砕容器の自転および公転を停止し、前記第1の時間と異なる第2の時間の間、前記粉砕容器内の内容物を冷却する第3の工程と、
前記第2および第3の工程を所望の回数だけ行なう第4の工程とを備える酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第1の工程において、前記粉砕ボール、前記酸化チタン粉体および前記溶媒は、前記粉砕ボール、前記酸化チタン粉体および前記溶媒の順で前記粉砕容器へ入れられる、請求項2に記載の酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項4】
前記第1の時間は、前記第2の時間よりも長い、請求項2または請求項3に記載の酸化チタンの製造方法。
【請求項5】
前記自転の回転数は、前記公転の回転数よりも大きい、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の酸化チタン粒子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−201569(P2012−201569A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69562(P2011−69562)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
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