説明

酸化デンプンの製造方法

【課題】本発明の目的は、資源枯渇の心配がなく安価な酸素を酸化剤として、高酸化度で高分子量な酸化デンプンを製造できる方法を提供することにある。
【解決手段】触媒としてのマンガン酸(塩)存在下、及び塩基性条件下で、酸素とデンプンとを反応させてなる酸化デンプン(A)の製造方法。マンガン酸(塩)が、過マンガン酸(塩)、マンガン酸塩(塩)、亜マンガン酸(塩)及び次亜マンガン酸(塩)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。デンプンの反応液中濃度が、反応液全体の重量を基準として、0.1〜50重量%であることが好ましい。マンガン酸(塩)の使用量が、デンプンの構成単位であるグルコピラノース1モルに対して0.00001〜1.0モルであることが好ましい。反応槽内の気相における酸素の圧力が、常圧〜100気圧であることが好ましい。反応液のpHが、12〜14であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化デンプンの製造方法に関する。さらに詳しくは、高いカルボキシル基含有率を持ちかつ高分子量の酸化デンプンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化デンプンは、デンプンを酸化処理することにより、種々の表面物性を持たせることができるため、サイズ剤や疎水化剤等に粒子状の物が用いられている。一方、デンプンは高分子であり、酸化度を高めることにより水溶性の高分子として工業利用することが期待される。
【0003】
従来、酸化デンプンは、コスト及び技術上の理由のため、次亜塩素酸塩で酸化処理することにより製造されてきた。次亜塩素酸塩での処理は、表面にアルデヒド基あるいはカルボキシル基を生成することにより、表面を疎水性あるいは親水性に改質することができる。この場合の酸化度は低いものである。デンプンを水溶性高分子として用いるには、さらに酸化度を高める必要がある。しかしながら、酸化度を高めるためには酸化剤である次亜塩素酸塩のコストが高まるだけでなく、分子量の低下が著しく起こり、工業利用は限られてきた。
【0004】
デンプンを開裂酸化し高い酸化度を実現する方法としては、非特許文献1に示すように過ヨウ素酸塩を用いた方法が従来から知られている。また、ルテニウム触媒と次亜塩素酸塩を併用して開裂酸化を行い、分子量低下を抑制しながら高い酸化度を実現した方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。さらに過酸化水素とタングステン系触媒を併用した方法が非特許文献2に示されている。しかし非特許文献1や特許文献1に示されているような過ヨウ素酸塩や次亜塩素酸塩でデンプンを目標の酸化度に至らしめるには多量の酸化剤が必要で高価であり、またルテニウム触媒は回収率を高めたとしても高コストである。また非特許文献2に示されている方法では、ラジカルの発生により分子量の低下が著しい課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−122903号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Malaprade, L. Bull. Soc. Chim. France 1928, 43, 683.
【非特許文献2】M.Floorら、starch 41(1989)Nr.8.S.303-309
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、資源枯渇の心配がなく安価な酸素を酸化剤として、高酸化度で高分子量な酸化デンプンを製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、触媒としてのマンガン酸(塩)存在下、及び塩基性条件下で、酸素とデンプンとを反応させてなる酸化デンプン(A)の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の酸化デンプンの製造方法は、高酸化度で高分子量な酸化デンプンを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の酸化デンプンの製造方法は、触媒としてのマンガン酸(塩)存在下、及び塩基性条件下で酸素とデンプンとを反応させてなることを特徴とする。
【0011】
本発明で使用されるデンプンとしては、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、タピオカデンプン、小麦デンプン、サツマイモデンプン及び米デンプン等が挙げられる。これらを原料にして変性された水溶性デンプンや酸化デンプン、カルボキシル化デンプン、アルデヒド化デンプン等も使用できる。水溶性デンプンの例としては、酸加水分解された水解デンプンが挙げられる。酸化デンプンとしては、次亜塩素酸塩処理された市販の酸化デンプンが挙げられる。酸化デンプンはデンプンを構成するピラノース環の一部の水酸基がカルボキシル化あるいはアルデヒド化したデンプンである。
【0012】
本発明において、デンプンの反応液中濃度は、操作性及び反応時間等の観点から、反応液全体の重量を基準として、0.1〜50重量%が好ましく、さらに好ましくは1〜35重量%である。
【0013】
本発明の製造方法により製造される酸化デンプンは、デンプンの構成単位であるグルコピラノースのC2、C3位の二級アルコール残基が平均10モル%以上カルボキシル基又はその塩に転化した構造からなる重量平均分子量が3,000〜1,000,000であるカルボキシル化デンプンである。塩としては、カリウム、ナトリウム及びリチウム等のアルカリ金属塩が含まれる。
【0014】
マンガン酸(塩)は、過マンガン酸(塩)、マンガン酸塩(塩)、亜マンガン酸(塩)及び次亜マンガン酸(塩)からなる群より選ばれる少なくとも1種を意味する。なお、・・・酸(塩)は、・・・酸及び/又は・・・酸塩を意味し、以下同様である。
塩としては、カリウム、ナトリウム及びリチウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属塩が含まれる。
【0015】
本発明の製造方法において、酸素とデンプンとの反応は、塩基性溶液条件下においてマンガン酸(塩)が存在する状態で行なわれる。マンガン酸(塩)の使用量は、マンガン酸(塩)の析出の防止と触媒としての回収率の観点から、デンプンの構成単位であるグルコピラノース1モルに対して0.00001〜1.0モルが好ましく、さらに好ましくは0.001〜0.5モルである。
【0016】
本発明の製造方法において、酸素とデンプンとが反応する。反応槽内の気相における酸素の圧力は、反応を効率的に進めるため、常圧〜100気圧が好ましく、さらに好ましくは5〜20気圧である。
【0017】
本発明の製造方法において、マンガン酸(塩)存在下におけるデンプンと酸素との反応は、塩基性溶液条件下で行われる。塩基性条件下としては、反応液のpHが、触媒であるマンガン酸(塩)の安定性の観点から、7〜14であることが好ましく、さらに好ましくは12〜14である。
【0018】
pHの調整は、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物並びに水酸化マグネシウム及び水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物等のアルカリ剤を添加することにより調整する。水酸化ナトリウムが汎用的で好ましい。
【0019】
反応には溶媒を使用することもできる。溶媒は、反応速度の観点から、デンプンが溶解するものであれば特に限定されず、水及び極性溶媒が好ましい。極性溶媒としては、メタノール及びエタノール等のアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド並びにテトラヒドロフラン等が挙げられる。中でも耐酸化性のある水がより好ましい。
【0020】
反応装置は、酸素を吹き込むことができ、耐圧性があり、撹拌及び加熱が可能な容器であれば特に限定されない。前記のように、反応槽内の気相における酸素の圧力は、反応を効率的に進めるため、常圧〜100気圧が好ましく、さらに好ましくは5〜20気圧である。反応時間は、カルボキシル化度の観点から、0.5〜48時間が好ましい。
【0021】
本発明の製造法の一例を記載する。デンプン、マンガン酸(塩)及び塩基性水溶液の混合物に、撹拌しながら酸素を液中に通気して、温度0〜100℃、pH7〜14で反応させる。酸化反応の進行とともにpHが低下するため、アルカリ剤を随時添加し初期のpHを維持する。酸化反応は0.5〜48時間で終了する。反応混合物にはマンガン酸(塩)が含まれており、マンガン酸(塩)回収およびマンガン酸(塩)除去工程を経て酸化デンプンが取り出される。
マンガン酸(塩)は、UF濾過によって大半を回収、再利用できる。残マンガン酸(塩)は、中和、還元することで、不溶のマンガン酸化物となるので、濾過により容易に除去可能である。還元剤には、シュウ酸(塩)が知られているが、一般公知の還元剤が使用可能である。
【0022】
本発明の酸化デンプンの製造法は、安価な酸素を酸化剤として用い、かつデンプンへの配位効果の高いマンガン酸(塩)触媒を用いているため開裂酸化により高い酸化度を実現するとともに、分子量低下が少ないため、高分子量の酸化デンプンを安価に製造することができ、水溶性の高分子量ポリマーとして工業用途に使用することができ有用である。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、分子量およびカルボキシル基含量は以下の方法で測定される。
【0024】
<分子量>
測定はゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法による。
測定条件は以下の通りである。
溶媒 :酢酸ナトリウムを0.5重量%含むメタノール30vol%水溶液
サンプル濃度:2.5mg/ml
使用カラム:東ソー(株)製 GuardcolumnPWXL+TSKgelG6000PWXL+TSKgelG3000PWXL
カラム温度 :40℃
<カルボキシル基含量>
300mlのビーカーに酸化デンプン1.00gを正確に測りとり、純水を加えて100gとした後、95℃で15分攪拌して溶解し、測定溶液とする。この測定溶液を、まず、1/50NのKOH水溶液でpH10まで滴定を行い、その後1/20NのHCl水溶液でpH2.7まで滴定する。後者の滴定液の量をもとに、カルボキシル基の量を算出し、酸化デンプン1g当たりの質量%を求めて、カルボキシル基含量とした。
【0025】
<実施例1>
デンプン(日本コーンスターチ社製トウモロコシデンプン)10gを180gの水に分散させ、撹拌しながら90℃まで加熱し溶解させ混合液を得た。そこに48重量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて、混合液のpHを13とした。混合液に過マンガン酸カリウムを0.6g加えて溶解させた。混合直後の液は、マンガン酸塩の存在を示す緑色となった。混合液を反応槽に仕込んだ後、酸素ガスで置換した。その後、反応槽に特に加圧することなく酸素ガスを循環させながら反応液中にバブリングさせ温度を90℃に保ちながら48時間撹拌反応した。反応液のpHは、反応の進行とともに下がってくるため、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液で13.0に制御した。
【0026】
反応終了後、反応液をUF膜で濃縮し、酸化デンプンの30重量%水溶液とした。この液を水で希釈し酸化デンプンの5重量%水溶液とした後、希塩酸を加えてpHを10とし、析出してきた黒色固体をろ別した。ろ液をUF膜で濃縮し、30重量%酸化デンプン水溶液を得た。この希釈して濃縮する操作を3回繰り返した後、60℃で5時間減圧乾燥して、生成物13.1g(収率94%)を得た。
【0027】
上記生成物を13CNMR、IRにより分析したところ、原料デンプンを構成するグルコピラノース単位のC6位の一級アルコールが25モル%カルボキシル基に酸化されていると同時に、C2−C3位が開裂し、C2、C3位の二級アルコールが75モル%カルボキシル基に酸化されたトリカルボキシデンプンナトリウム塩であり、重量平均分子量は6000であった。
【0028】
<実施例2>
実施例1における酸素ガスの圧力を10気圧にして撹拌反応時間を5時間にした以外は実施例1と同様の操作を行い、生成物13.6g(収率93%)を得た。重量平均分子量は18000であった。
【0029】
<比較例1>
実施例1におけるpH条件を1とした以外は実施例1と同様の操作を行い、生成物9.5g(収率92%)を得た。
【0030】
<比較例2>
実施例1における酸素を窒素とした以外は実施例1と同様の操作を行い、生成物9.3g(収率92%)を得た。
【0031】
<比較例3>
実施例1におけるpH条件を1とし、過マンガン酸カリウムを同量のタングステン酸カリウムとし、酸素を吹き込む代わりに60%過酸化水素水を14g混合した以外は実施例1と同様の操作を行い、生成物6.6g(収率55%)を得た。
【0032】
実施例1〜2及び比較例1〜3の結果を表1に示した。表1のように、実施例1〜2では分子量高くカルボキシル基含有量も多いことがわかる。これに対し、比較例1は分子量、カルボキシ基含有量とも低いことがわかる。これは比較例1ではpHが低いため過マンガン酸カリウムの酸化力が過大で、酸素による酸化ではなく、過マンガン酸カリウムによる直接酸化だけが起こったものと考えられる。また比較例2では、分子量は高いが、カルボキシル基含有量が低い。比較例3では分子量が低くなったが、ラジカルが発生したためと考えられる。
【0033】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明により製造される酸化デンプンは、高分子量の水溶性ポリカルボン酸ポリマーとして工業利用することができる。ポリカルボン酸は、分散剤、湿潤剤、レベリング改良剤、農薬製剤用薬剤、キレート剤、コンクリート混和剤、等の用途に用いられており、本発明により製造される酸化デンプンは環境負荷の少ない植物由来のポリカルボン酸として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒としてのマンガン酸(塩)存在下、及び塩基性条件下で、酸素とデンプンとを反応させてなる酸化デンプン(A)の製造方法。
【請求項2】
マンガン酸(塩)が、過マンガン酸(塩)、マンガン酸塩(塩)、亜マンガン酸(塩)及び次亜マンガン酸(塩)からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の酸化デンプンの製造方法。
【請求項3】
デンプンの反応液中濃度が、反応液全体の重量を基準として、0.1〜50重量%である請求項1又は2に記載の酸化デンプンの製造方法。
【請求項4】
マンガン酸(塩)の使用量が、デンプンの構成単位であるグルコピラノース1モルに対して0.00001〜1.0モルである請求項1〜3のいずれかに記載の酸化デンプンの製造方法。
【請求項5】
反応槽内の気相における酸素の圧力が、常圧〜100気圧である請求項1〜4のいずれかに記載の酸化デンプンの製造方法。
【請求項6】
反応液のpHが、12〜14である請求項1〜5のいずれかに記載の酸化デンプンの製造方法。
【請求項7】
得られる酸化デンプン(A)のカルボキシル基量が酸化デンプン(A)の重量を基準として28〜65重量%であり、得られる酸化デンプン(A)の重量平均分子量が3,000〜10,000,000である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−188606(P2012−188606A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55009(P2011−55009)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】