説明

酸化バナジウム(III)及びその製造方法

【課題】 高比表面積を有する酸化バナジウム(III)、及び、酸化バナジウム(III)を工業的に有利に製造する方法を提供する。
【解決手段】 三価のバナジウム原子を有する酸化バナジウム(III)であって、該酸化バナジウム(III)の比表面積は、10m/g以上である酸化バナジウム(III)、及び、上記酸化バナジウム(III)を製造する方法であって、該製造方法は、四価又は五価のバナジウム化合物を、還元性ガスを用いて液相で還元する工程を有する酸化バナジウム(III)の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化バナジウム(III)の製造方法に関する。より詳しくは、四価又は五価のバナジウム化合物を還元することによって、有用な工業材料として期待されている三価のバナジウム化合物である酸化バナジウム(III)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化バナジウム(III)はVの化学式で表され、四価又は五価のバナジウム化合物を還元することによって製造されている。例えば、メタバナジン酸アンモニウム又はメタバナジン酸アンモニウムを焙焼して得られた酸化バナジウム(V)、酸化バナジウム(IV)や、五価バナジウムとシュウ酸等との反応により得られた有機錯体を、最終的に気相で水素又はアンモニアで500℃以上、多くは600〜800℃の高温で還元して酸化バナジウム(III)が得られている。このように、バナジウム化合物の還元によって酸化バナジウム(III)を製造する方法としては、下記のような方法が開示されている。
【0003】
例えば、メタバナジン酸アンモニウムを水素気流中、250〜650℃で還元する方法(特許文献1参照)、還元剤として金属アルミニウム又は金属マグネシウムをガラス管に入れ、真空封入した封管中、酸化バナジウム(V)を650〜1000℃に加熱する方法(特許文献2参照)、メタバナジン酸アンモニウム、酸化バナジウム(V)、酸化バナジウム(IV)を450〜700℃でアンモニア還元する方法(特許文献3参照)、重油燃焼塵灰(バナジウム含有量0.68%)を水に懸濁させ、還元剤として二酸化硫黄、硫酸ヒドラジン、硫酸ヒドロキシルアミン、亜硫酸アンモニウムを使用して、オキシ水酸化バナジウム水和物(VO(OH)・nHO)を得た後、最終的に500〜850℃で水素還元する方法(特許文献4参照)、酸化バナジウム(IV)と金属バナジウムの混合物を1200〜1600℃にて真空排気させる方法(特許文献5参照)、酸化バナジウム(V)をシュウ酸、ビタミンC、N・2HCl又はヒドラジンで液相にて還元した後、更に水素雰囲気下500〜1000℃で気相還元する方法(特許文献6参照)、ゾル−ゲル法で得た酸化バナジウム(V)を気相水素還元する方法等(非特許文献1参照)が開示されている。
【0004】
また実施例においては、300℃水素処理では還元が不十分であり、500℃水素処理で酸化バナジウム(III)が得られること、メタバナジン酸アンモニウムとシュウ酸を反応させたものを水素気流中で還元して酸化バナジウム(III)が得られることが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、酸化バナジウム(III)を得るには800℃以上の温度が必要であり(特許文献2参照)、アンモニアを用いる場合には550と600℃でアンモニア還元することにより酸化バナジウム(III)が得られる(特許文献3参照)ことが開示されている。
【0005】
しかしながら、これらの製法で得られる酸化バナジウム(III)は、高温焼成の必要があることから、その比表面積が小さくなり、5m/g以下程度になることが予測される。比表面積が小さくなると、酸化バナジウム(III)が持つ特性・性能を充分に発揮させることができなくなることから、この点において改善が求められている。更に、従来の製法では、還元剤(金属マグネシウム、金属アルミニウム、NaBH等)として用いた物質の一部が生成物中に混入又は残存する可能性があったため、酸化バナジウム(III)の製品品質や製造コストを有利なものとする工夫の余地があった。
【特許文献1】特開昭49−47294号公報
【特許文献2】特開昭50−72894号公報
【特許文献3】特開昭61−141622号公報
【特許文献4】特開2001−233616号公報
【特許文献5】ソ連特許第1006375号明細書
【特許文献6】中国特許第1347856号明細書
【非特許文献1】「ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジィックス・パート1・レギュラーペーパー・ショートノート・アンド・レビューペーパー (Japanese journal of Applied Physics. Part 1. Regular Paper, Short Notes & Review Papers)」 1998年、第37巻、第12A号、pp.6519-6523
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、10m/g以上の比表面積を有する酸化バナジウム(III)、及び、高比表面積を有する酸化バナジウム(III)を工業的に有利に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、酸化バナジウム(III)及びその製造方法について種々検討したところ、酸化バナジウム(III)の比表面積を高くし、特に10m/g以上の比表面積とすると、酸化バナジウム(III)が高活性、高反応性等の優れた特性を発揮し、種々の用途に好適に用いることができることを見いだした。具体的には、電解質溶媒である硫酸等の溶媒、バナジウムを含む酸化還元電池の電解液等に対する溶解速度が高まり、取り扱い性が向上し、比表面積が大きくなるので、従来品に比べ、反応性の向上等々において有利な効果を奏することができることを見いだした。また、酸化バナジウム(III)の製造方法として、四価又は五価のバナジウム化合物から酸化バナジウム(III)を製造する方法が工業的な製造方法として有用であることに着目し、還元性ガスを用いた液相還元工程によって四価又は五価のバナジウム化合物を還元して酸化バナジウム(III)を製造することができること、好ましくは、原料である四価又は五価バナジウム化合物を溶媒に溶解又は分散させ、還元性ガスを用いて加熱処理し、液相で還元する工程を有することによって酸化バナジウム(III)を製造することができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し本発明に到達したものである。このような液相還元方法は、バナジウム化合物の還元方法として新規な方法であり、高比表面積を有する酸化バナジウム(III)を、還元剤として用いた物質の一部が生成物中に残存することなく酸化バナジウム(III)を製造することができるという有利な効果を奏することになる。高比表面積を有する酸化バナジウム(III)が得られるのは、高温焼成によって製造する必要がなく、従来の製法における焼成温度よりも低い温度で処理して製造することができることによるものと考えられる。
【0008】
従来の酸化バナジウム(III)の製造方法の代表的なものとして、水素ガス、アンモニアガス、金属マグネシウムを還元剤とし、気相にて還元が行われているものが挙げられる。これらはいずれも500℃以上で原料バナジウム化合物は還元されていることから、生成する酸化バナジウム(III)の比表面積は5m/g以下となると思われる。しかしいずれの文献にも酸化バナジウム(III)の比表面積のデータは開示されていない。例えば、特開昭49−47294号公報の実施例では、メタバナジン酸アンモニウムとシュウ酸の水溶液をアルミナ担体に含浸担持させたものを水素ガス気相還元したものがあるが、シュウ酸との反応時、室温以上であればバナジウムの一部は4価に還元されることが推察される。これは液相還元ではあるが、還元剤は還元性ガスではなく有機物であることから本発明とは異なる技術であると考えられる。
【0009】
すなわち本発明は、三価のバナジウム原子を有する酸化バナジウム(III)であって、上記酸化バナジウム(III)の比表面積は、10m/g以上である酸化バナジウム(III)である。
本発明はまた、上記酸化バナジウム(III)を製造する方法であって、上記製造方法は、四価又は五価のバナジウム化合物を、還元性ガスを用いて液相で還元する工程を有する酸化バナジウム(III)の製造方法でもある。
本発明は更に、四価又は五価のバナジウム化合物から酸化バナジウム(III)を製造する方法であって、上記製造方法は、還元性ガスを用いて液相で還元する工程を有する酸化バナジウム(III)の製造方法でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明の酸化バナジウム(III)は、三価のバナジウム原子を有し、比表面積が10m/g以上の酸化バナジウム(III)である。
上記酸化バナジウム(III)の比表面積が10m/g以上であることにより、高活性、高反応性を示し、各種誘導体を合成する原料として有効である。また、それ自体でも高活性であり活性成分として使ったときの触媒の性能向上も期待できる。一方本件のバナジウムは、例えば、溶媒、具体的には電解質溶媒である、硫酸に対する溶解速度が高まる。また、比表面積が充分大きくなるので、従来品に比べ、反応性の向上、取り扱い性の向上(例えば、各種溶媒等への溶解性、例えばバナジウムを含む酸化還元電池の電解液への溶解性)等々が期待でき、各種用途に好適に用いることができる。本発明のバナジウムを含む電解液は好ましい形態の一つである。また、10m/g未満であると、酸化バナジウム(III)を種々の用途に有用なものとすることができないおそれがある。より好ましくは、15m/g以上であり、更に好ましくは、20m/g以上であり、特に好ましくは、25m/g以上であり、最も好ましくは、30m/g以上である。
【0011】
上記比表面積は、吸着ガスに窒素を使用し、150℃で60分脱気した酸化バナジウム(III)を、湯浅アイオニクス社製自動BET比表面積計(湯浅アイオニクス社製 商品名:4−ソーブ)にて測定して得ることができる。
上記比表面積測定方法の詳細は、以下のとおりである。
1.ガラス製の専用セルに酸化バナジウム(III)0.5gを装填し、Nガス流通下200℃で1時間乾燥させた。
2.次にセルを液体窒素に浸漬させ、30%窒素ガス(Heバランス)を流通させて酸化バナジウム表面に窒素分子を飽和吸着させた。Nの吸着及びこの後の脱離はTCD(ガスクロマトグラム)にて分析した。
続いてセルを液体窒素から取り出し、室温にてHeガスを流通させて吸着していた窒素の分子量を定量し、それから比表面積を算出した。
【0012】
本発明はまた、比表面積が10m/g以上である酸化バナジウム(III)を製造する方法であって、該製造方法は、四価又は五価のバナジウム化合物を、還元性ガスを用いて液相で還元する工程を有する酸化バナジウム(III)の製造方法でもある。
本発明の製造方法においては、四価又は五価のバナジウム化合物を還元して酸化バナジウム(III)を得ることになる。四価又は五価のバナジウム化合物は、四価又は五価のバナジウム原子を有する化合物であればよく、例えば、四価バナジウム原子を有する酸化バナジウム(IV)〔化学式:V〕、五価バナジウム原子を有する酸化バナジウム(V)〔化学式:V〕、メタバナジン酸アンモニウム〔化学式:NHVO〕等の1種又は2種以上が好適である。
【0013】
上記四価又は五価のバナジウム化合物としては、ポリバナジン酸ゾル〔略称:PVS〕等のゾルの形態となった四価又は五価のバナジウム化合物を用いることが好ましい。ゾルの形態のものを用いると、バナジウム自体に含まれる不純物(アルカリ、アルカリ土類、Fe、Si等)をカットすることができ、非常に高純度な酸化バナジウム(III)が得られる利点がある。なお、酸化バナジウム(V)をゾルの形態にした酸化バナジウム(V)水和ゾルとしては、酸化バナジウム(V)水和ゾル等種々の名称があるが、五酸化バナジウム水和物、五酸化バナジウムゾルが一般的である。これらの四価又は五価のバナジウム化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0014】
本発明では、上記四価又は五価のバナジウム化合物を還元する工程として還元性ガスを用いて液相で還元する工程(液相還元工程)を有することが好適である。還元性ガスを用いて液相で還元するとは、四価又は五価のバナジウム化合物を含む液相部と当該液相部に接触する気相部とによって形成される反応系において、(1)気相部に還元性ガスを存在させることにより、気相部に存在する還元性ガスが液相部に存在する四価又は五価のバナジウム化合物と接触したり、気相部に存在する還元性ガスが液相部に取り込まれて四価又は五価のバナジウム化合物と接触したりすることによって還元する、(2)液相部に還元性ガスを吹き込み、液相部に取り込まれた還元性ガスが四価又は五価のバナジウム化合物と接触することによって還元する、(3)これら(1)と(2)が組み合わされて還元する、ことを意味するものである。なお、気相部と液相部であるが、気相部を液相部に導入してバブリングしながら反応を行ってもよい。
【0015】
上記液相還元工程としては、本発明の作用効果が発揮される限り特に限定されないが、例えば、オートクレーブで行われることが好ましい。また、混合方法は特に限定されず、例えば、実施例で使用したオートクレーブは攪拌ばねで混合が行われている。
上記(1)及び(3)の液相還元条件において、オートクレーブ内の空間部(気相部)は、還元性ガスが存在していればよく、仕込みバナジウム(四価又は五価のバナジウム化合物)の絶対量に対して、還元に十分量(五価(四価)から最終三価まで還元できるのに必要な量)となる還元性ガス量を満たす又はフィート゛すればよい。従って、オートクレーブ内の空間部は、全て還元性ガスで満たす必要はなく、その他の気体が存在していてもよい。上記その他の気体としては、例えば、N、二酸化炭素、希ガスのような不活性ガス等が好適である。この場合、還元性ガスの割合としては、1/10以上が好ましく、1/2以上がより好ましい。
【0016】
上記液相還元工程において、上記(1)のように気相部に還元性ガスを存在させる場合、オートクレーブ等の加圧機器を用いて加圧条件下で行うことが好ましい。加圧条件としては、0.5〜30MPaとすることが好適である。なお、上述したように、気相部に還元性ガスとその他のガスとが共存する場合は、例えば、内圧全体では1気圧以上でも、還元性ガス自体の分圧は1気圧未満、逆に減圧条件であってもよい。
上記(2)のように液相部に還元性ガスを吹き込む場合、いわゆるバブリングにより還元性ガスを液相部に吹き込むことが好ましい。この場合においても、通常では気相部中に還元性ガスが存在することになることから、上記(1)の場合と同様に、加圧条件下で行うことが好ましい。
【0017】
これらの液相還元工程において、加圧条件として、還元性ガスのオートクレーブ等の反応容器への注入圧力は、20MPa以下が好ましく、15MPa以下がより好ましい。反応(還元)温度としては、40℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。反応(還元)時間としては、0.5〜50時間が好ましく、1〜35時間がより好ましい。
【0018】
上記液相還元工程は、還元性ガスを含む雰囲気下で行われることが好ましい。すなわち、上記液相還元工程においては、反応系の気相部に還元性ガスを存在させることで充分に四価又は五価のバナジウム化合物を還元することができるため、上記(1)〜(3)の中でも、(1)気相部に還元性ガスを存在させることによる液相還元工程とすることが好ましい。なお、上記(2)又は(3)のバブリングにより還元性ガスを液相部に吹き込む形態であってもよく、これらは、四価又は五価のバナジウム化合物の還元を充分に行う観点から好ましい。
【0019】
上記液相還元工程は、四価又は五価のバナジウム化合物を溶媒に溶解又は分散させた溶液を用いて行われることが好ましい。すなわち、四価又は五価のバナジウム化合物を溶媒に溶解又は分散させた溶液を上記四価又は五価のバナジウム化合物を含む液相部とすることが好ましい。より好ましくは、四価又は五価のバナジウム化合物を水に溶解させた水溶液の形態とすることである。この場合、水溶液中の四価又は五価のバナジウム化合物の濃度としては、特に限定されず、飽和溶解液が好ましく、解け残りを有する溶液であってもよい。例えば、メタバナジン酸アンモニウムの場合、溶解度はそれほど大きくないため、飽和溶解液や、解け残りを有する溶液を好適に用いることができる。このように、上記製造方法は、還元性ガスを用いて液相で還元する工程を有するものであり、該液相還元工程は、四価又は五価のバナジウム化合物を溶媒に溶解又は分散させた溶液を用いて行われる酸化バナジウム(III)の製造方法は、本発明の好ましい形態の一つである。
【0020】
上記製造方法は、加熱処理工程を含むものであり、該加熱処理工程は、液相還元工程の後に還元性ガスの存在下で行われることが好ましい。加熱処理工程を液相還元工程の後とすることで、比較的低温の加熱処理で、比表面積の高い酸化バナジウム(III)を得ることができる。
上記加熱処理工程は、反応系を還元性ガスの存在下で加熱するものであればよいが、還元性ガスを反応系に導入する必要がある場合は、加熱処理により還元反応が進行するようにするために、還元性ガスを反応系に導入後に所定の温度とすることが好ましい。加熱温度としては、反応系の温度が40〜350℃となるようにすることが好ましい。40℃未満であると、還元反応が充分に進行しないおそれがあり、350℃を超えると、得られる酸化バナジウム(III)が高温還元に起因して高比表面積なものとはならないおそれがある。より好ましくは、100〜250℃である。本発明においては、加熱処理して四価又は五価のバナジウム化合物を還元する際に、上記のように従来技術と比較して低温で行うことができ、これによって高比表面積を有する酸化バナジウム(III)を得ることができることとなる。なお、加熱処理工程は、液相還元工程の後であればよく、液相還元工程と加熱処理工程の間に他の工程が含まれていてもよい。
【0021】
本発明の製造方法における好ましい実施形態としては、(1)原料調製工程、(2)還元性ガスによる液相還元工程、(3)乾燥工程、(4)還元性ガスによる気相還元工程(加熱処理工程)、の順に操作を行う実施形態が挙げられる。この場合、(2)の還元性ガスによる液相還元工程が上述した液相還元工程となり、(4)の還元性ガスによる気相還元工程が上述した加熱処理工程となる。(4)の還元性ガスによる加熱処理工程においては、従来技術の場合には高温焼成が必要となるが、本発明においては、(2)の還元性ガスによる液相還元工程を経ているために比較的低温で行うことができる。例えば、(4)の還元性ガスによる加熱処理工程温度範囲としては、上述の範囲とすることが好適である。
【0022】
上記液相還元工程及び加熱処理工程において、還元性ガスとしては、水素、アンモニア、一酸化炭素、炭素数1〜3の低級アルカン、及び、炭素数1〜3の低級アルコールからなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。これらの中でも、より好ましくは、水素、アンモニアであり、更に好ましくは、水素である。
【0023】
本発明においては、上述したように高比表面積の酸化バナジウム(III)を得ることができる。なお、生成する酸化バナジウム(III)は、原料中に含まれる不純物等に起因する不純物が混入する場合、通常の精製方法によって精製して用いることができる。
【0024】
本発明の液相還元工程による酸化バナジウム(III)の製造方法は、酸化バナジウム(III)の製造に限らず、他の金属酸化物の製造にも適用することができる。この場合、本発明は、原料化合物を還元し、より低級な金属酸化物を製造する方法、特に原料化合物を還元し、より低級な金属酸化物を製造する方法であって、還元性ガスを用いて液相で還元する工程を有する金属酸化物の製造方法となる。
すなわち、気相部に還元性ガスを存在させて液相部に含まれる原料化合物を還元する方法、特に液相部に原料化合物を存在させて還元する方法は、原料化合物の還元方法として新規な方法であり、工業的に有用である。このような還元方法も、金属酸化物の製造において、加熱処理温度を比較的低く設定して原料化合物の還元を行うことができ、また還元剤として用いた物質を残さずに金属酸化物得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の酸化バナジウム(III)の製造方法は、上述の構成よりなり、種々の用途に好適に用いることができる10m/g以上の比表面積を有する酸化バナジウム(III)であり、また、高比表面積を有する酸化バナジウム(III)を、還元剤として用いた物質が生成物中に残存するといった不具合を来すことなく酸化バナジウム(III)を製造することができ、酸化バナジウム(III)を工業的に有利に製造する方法でもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0027】
実施例1
メタバナジン酸アンモニウム1.05gを約80℃に加熱した水60gに溶解させた。一旦そのメタバナジン酸水溶液を室温まで冷却後、不活性耐熱耐圧反応容器(オートクレーブ)に装入した。次にオートクレーブ容器内を水素ガス置換した後、水素ガスを15MPaまで封入、密閉した。つづいて容器内の液温が50℃になるまで攪拌しながら10分間で昇温し、その状態を30時間維持した。次に室温まで冷却後、内容物を通常の乾燥機(常圧空気雰囲気)にて80℃で乾燥させ、固体のバナジウム化合物を得た。次にそのバナジウム化合物を管状炉にて、0.4体積%の水素ガス(窒素バランス)を流通させながら、400℃まで昇温し、4時間維持した。得られたバナジウム化合物はX線回折分析から純粋な酸化バナジウム(III)であることを確認した(得られた酸化バナジウム(III)を、バナジウム化合物(A)という)。また窒素分子吸着によるBET式比表面積測定を行った結果(湯浅アイオニクス社製自動BET比表面積計 商品名 4−ソーブ)、その酸化バナジウム(III)の比表面積は30m/gであった。なお、BET式比表面積の方法及び測定条件は、上述のとおりであり、X線回折分析は、下記のとおり行った(以下の実施例及び比較例において、同様にして測定した。)。
【0028】
(X線回折)
機器メーカー:スペクトリス社
商品名:X’ Pert PRO
分析条件
X線源:Cu−Kα
X線出力:45kV、40mA
分析範囲:5°<2θ<90°
【0029】
実施例2
実施例1と同様にしてメタバナジン酸アンモニウム水溶液を攪拌装置が備わったオートクレーブに装入した。次に水素ガスを10MPaまで封入、密閉した後、容器内の液温が160℃になるまで攪拌しながら1時間で昇温し、その状態を3時間維持した。
次に室温まで冷却後、内容物はエバポレーターを用いて50℃減圧乾燥させた。次に実施例1と同様にして気相水素還元し酸化バナジウム(III)を得た(得られた酸化バナジウム(III)を、バナジウム化合物(B)という)。比表面積は30m/gであった。
【0030】
実施例3
実施例1と同様のメタバナジン酸アンモニウム水溶液を、オートクレーブにて水素圧5MPa、温度240℃で1時間還元後、管状炉にて380℃で水素還元した。結果、比表面積32m/gを有する酸化バナジウム(III)が得られた(得られた酸化バナジウム(III)を、バナジウム化合物(C)という)。
実施例4
オートクレーブによる水素処理工程までは実施例2と同様に行い、管状炉による水素還元を350℃で行った。結果、比表面積35m/gを有する酸化バナジウム(III)が得られた(得られた酸化バナジウム(III)を、バナジウム化合物(D)という)。
【0031】
実施例5
実施例1で使用したものと同濃度のメタバナジン酸アンモウム水溶液を強酸性陽イオン交換樹脂(Dowex50W×8、ダウケミカル社製)に通してバナジン酸水溶液を得た。これは自己脱水縮合しポリバナジン酸(ゾル)となる。このポリバナジン酸ゾルを出発バナジウム源とし、実施例2と同条件で水素還元を行った結果、比表面積21m/gを有する酸化バナジウム(III)が得られた(得られた酸化バナジウム(III)を、バナジウム化合物(E)という)。
実施例6
管状炉による水素還元温度を330℃にした以外は実施例5と同条件にしてポリバナジン酸ゾルを還元した。結果、比表面積24m/gを有する酸化バナジウム(III)が得られた(得られた酸化バナジウム(III)を、バナジウム化合物(F)という)。
【0032】
比較例1
メタバナジン酸アンモニウムを空気中300℃で焼成したものを、管状炉にて、実施例1〜6までと同ガス条件にて、650℃で水素還元した。結果、純粋な酸化バナジウム(III)は得られず、価数が3〜5価の範囲をとる種々の酸化バナジウムの混合物が得られた(得られた酸化バナジウムを、バナジウム化合物(G)という)。
比較例2
メタバナジン酸アンモニウムを管状炉にて比較例1と同条件にて水素還元を行った。結果、純粋な酸化バナジウム(III)が得られたが、比表面積は3.7m/gであった(得られた酸化バナジウム(III)を、バナジウム化合物(H)という)。
比較例3
ポリバナジン酸ゾルを通常の乾燥機にて空気中80℃で乾燥してポリバナジン酸ゲルを得た。次にそれを管状炉にて450℃で水素還元した。結果、酸化バナジウム(III)は全く生成せず、酸化バナジウム(V)、V等の生成が確認された(得られた酸化バナジウムを、バナジウム化合物(I)という)。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
実施例においては、液相還元処理工程後に気相還元処理工程を行っているが、液相還元処理工程を経ることによって気相還元処理工程の処理温度を気相還元処理工程のみ行う比較例よりも下げることができるために、高比表面積な酸化バナジウム(III)が得られた。液相還元処理工程をしなかった比較例においては、いずれも高比表面積な酸化バナジウム(III)は得られなかった。
【0036】
実施例、比較例の差異としては、上述のとおりであるが、更に特徴点を挙げると次のようになる。
実施例1では、液相還元温度を低く設定することができた。ただ、液相還元時間が比較的長く、仕込み水素圧が高くなった。実施例2では、液相還元時間を短く、また仕込み水素圧を低く設定することができ、実施例3では、液相還元時間を更に短く、また仕込み水素圧を更に低く設定することができた。実施例4では、比表面積を最も大きくすることができた。実施例5では、メタバナジン酸アンモニウムをポリバナジン酸ゾルとするために陽イオン交換工程が増えたが、高純度の酸化バナジウム(III)(コンタミ他元素なし)が得られた。実施例4及び5では、ポリバナジン酸ゾルを用いたが、比較的高比表面積のものが得られた。実施例5及び6では、出発バナジウム源をポリバナジン酸ゾルにすると、バナジウム自体に含まれる不純物(アルカリ、アルカリ土類、Fe、Si等)までカットでき、非常に高純度な酸化バナジウム(III)が得られた。
これに対して、比較例1では、純粋な酸化バナジウム(III)が得られなかった。比較例2では、酸化バナジウム(III)が得られるものの、比表面積が低いものとなった。比較例3では、全く酸化バナジウム(III)は得られなかった。
【0037】
酸化バナジウム(III)の硫酸溶解実験
実施例4で調製した比表面積が35m/gであるバナジウム化合物(D)1gを濃度が4Mである硫酸水溶液20gに投入して溶解させた。なお、この溶解実験は、所定の大きさの容器と攪拌ばねを使用し、攪拌速度を一定にし、25度/RH65%で目視を行った。
実施例4で調製したバナジウム化合物(D)に代えて、実施例2で調製した比表面積が21m/gであるバナジウム化合物(E)、及び、比較例2で調製した比表面積が3.7m/gであるバナジウム化合物(H)を用いた以外は、上記と同様にして硫酸への溶解性を比較した。
結果を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
表3について以下に説明する。
◎:かなり速く溶解した
〇:比較的速く溶解した
△:溶解したがかなり遅い
この結果より、本発明による比表面積の大きな酸化バナジウム(III)は、例えば、電解質への溶解性が向上するので、より均一な分散電解質液を得ることができ有用である。
よって、本発明の酸化バナジウム(III)を含む電解質液は好ましい形態の一つである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三価のバナジウム原子を有する酸化バナジウム(III)であって、
該酸化バナジウム(III)の比表面積は、10m/g以上であることを特徴とする酸化バナジウム(III)。
【請求項2】
請求項1記載の酸化バナジウム(III)を製造する方法であって、
該製造方法は、四価又は五価のバナジウム化合物を、還元性ガスを用いて液相で還元する工程を有することを特徴とする酸化バナジウム(III)の製造方法。
【請求項3】
前記液相還元工程は、四価又は五価のバナジウム化合物を溶媒に溶解又は分散させた溶液を用いて行われることを特徴とする請求項2記載の酸化バナジウム(III)の製造方法。
【請求項4】
前記製造方法は、加熱処理工程を含むものであり、
該加熱処理工程は、液相還元工程の後に還元性ガスの存在下で行われることを特徴とする請求3記載の酸化バナジウム(III)の製造方法。
【請求項5】
前記還元性ガスは、水素、アンモニア、一酸化炭素、炭素数1〜3の低級アルカン、及び、炭素数1〜3の低級アルコールからなる群より選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項4記載の酸化バナジウム(III)の製造方法。