説明

酸化パルプの洗浄及び脱水方法

【課題】N−オキシル化合物を酸化触媒として得られた酸化パルプから効率よくN−オキシル化合物を除去でき、さらに酸化パルプを高い固形分濃度に濃縮できる酸化パルプの洗浄及び脱水方法を提供する。
【解決手段】酸化パルプをpH5未満及び温度40℃未満の条件下でに置いた後に洗浄及び脱水することにより、N−オキシル化合物を除去し、酸化パルプを高濃縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−オキシル化合物を酸化触媒として用いて製造された酸化パルプの洗浄及び脱水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース系原料を触媒量の2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシラジカル(以下、TEMPOと称する)と安価な酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムとの共存下で処理するとセルロースの一級水酸基をカルボキシル基およびアルデヒド基へと酸化することができ、こうして得られた酸化パルプに水中でミキサーなどの機械処理を施すことにより、高粘度で透明なセルロースナノファイバー水分散液を得ることができることが知られている(非特許文献1)。
【0003】
TEMPOを酸化触媒に用いて製造したセルロースナノファイバーは、生分解性のある水分散型新規素材であり、セルロースナノファイバー表面に局在するカルボキシル基を基点として、自由に改質することができる。また、上記の方法により得られたセルロースナノファイバーは、分散液の形態であるため、各種水溶性ポリマーとのブレンドや、有機・無機系顔料との複合化も可能である。さらに、セルロースナノファイバーのシート化や、繊維化も可能である。セルロースナノファイバーのこのような特性を活かした用途として高機能包装材料、透明有機基盤部材、高機能繊維、分離膜、再生医療材料などへの利用や、循環型の安全・安心社会形成に不可欠な新規高機能性商品の開発への応用が期待されている。
【0004】
TEMPOなどのN−オキシル化合物を酸化触媒として用いてセルロース系原料から酸化パルプを製造した場合、製造後の酸化パルプから酸化触媒を除去する必要がある。しかし、N−オキシル化合物を触媒に用いて製造した酸化パルプは保水性が高く、洗浄によって触媒を除去しようとしても、触媒が酸化パルプ中に保持される水の中に残留して十分に除去できないという問題や、洗浄後の酸化パルプ水分散液の脱水性が低下して分散液を所望の濃度に濃縮できないという問題が生じていた。このため、水による洗浄で酸化触媒を完全に除去するためには、洗浄操作を複数回繰り返す必要があり、より効率の良い酸化触媒の除去方法が求められていた。
【0005】
この問題に対して、本発明者らは、以前に、N−オキシル化合物を酸化触媒として用いて製造した酸化パルプを、pH3〜10の条件下で50℃以上120℃以下に加熱した後に水洗することにより、酸化パルプからN−オキシル化合物を除去する方法を見出し、出願している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Saito, T., et al., Cellulose Commun., 14 (2), 62 (2007)
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−236106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、TEMPOなどのN−オキシル化合物を酸化触媒として用いて製造した酸化パルプから、さらに効率よく酸化触媒を除去することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記問題に対してさらに検討を進めた結果、(1)N−オキシル化合物、及び、(2)臭化物、ヨウ化物、若しくはこれらの混合物の存在下で、酸化剤を用いてセルロース系原料を酸化して得られた酸化パルプから酸化触媒を除去するに当たり、意外なことに、酸化パルプをpH5未満及び温度40℃未満の条件下に置いた後に洗浄及び脱水することにより、比較的短時間で効率よく酸化触媒を除去することができることを見出した。また、pH5未満及び温度40℃未満に置くことにより、酸化パルプの保水性が低下し、洗浄後の酸化パルプ分散液の脱水が容易となり、比較的高濃度に濃縮できることを見出した。さらに、上記処理で得られた洗浄済みの酸化パルプは、処理前とほぼ同等の白色度を有しており、上記処理では酸化パルプの退色も起こりにくいことを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、N−オキシル化合物を酸化触媒として用いて得られた酸化パルプをpH5未満及び温度40℃未満の条件下に置いた後に、洗浄及び脱水することを特徴とする酸化パルプの洗浄及び脱水方法である。本発明によれば、酸化パルプから効率よく酸化触媒を除去するとともに、酸化パルプ分散液を比較的高い濃度に濃縮でき、さらに、洗浄処理による酸化パルプの退色も抑制することができる。
(セルロース系原料)
本発明で酸化パルプの原料として用いるセルロース系原料は特に限定されるものではなく、各種木材由来のクラフトパルプ又はサルファイトパルプ、溶解パルプ、それらを高圧ホモジナイザーやミル等で粉砕した粉末セルロース、あるいはそれらを酸加水分解などの化学処理により精製した微結晶セルロース粉末などを使用することができる他、ケナフ、麻、イネ、バカス、竹等の植物由来のセルロース系原料を使用することもできる。このうち、ISO白色度が80%以上の漂白済みクラフトパルプ、ISO白色度が80%以上の漂白済みサルファイトパルプ、粉末セルロース、または微結晶セルロース粉末を用いることが量産化やコストの観点から好ましい。また、粉末セルロース及び微結晶セルロース粉末を用いると、高濃度であってもより低い粘度を有するセルロースナノファイバー分散液を製造することができるから好ましい。
【0011】
粉末セルロースとは、木材パルプの非結晶部分を酸加水分解処理で除去した後、粉砕・篩い分けすることで得られる微結晶性セルロースからなる棒軸状粒子である。粉末セルロースにおけるセルロースの重合度は100〜500程度であり、X線回折法による粉末セルロースの結晶化度は70〜90%であり、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積平均粒子径は好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下である。体積平均粒子径が100μm以下であると、流動性に優れるセルロースナノファイバー分散液を得ることができる。本発明で用いる粉末セルロースとしては、例えば、精選パルプを酸加水分解した後に得られる未分解残渣を精製・乾燥し、粉砕・篩い分けするといった方法により製造される棒軸状である一定の粒径分布を有する結晶性セルロース粉末を用いてもよいし、KCフロック(登録商標)(日本製紙ケミカル社製)、セオラス(商標)(旭化成ケミカルズ社製)、アビセル(登録商標)(FMC社製)などの市販品を用いてもよい。
【0012】
(N−オキシル化合物を用いた酸化パルプの製造)
本発明において洗浄処理に付される酸化パルプは、(1)N−オキシル化合物、及び(2)臭化物、ヨウ化物、若しくはこれらの混合物の存在下で、酸化剤を用いてセルロース系原料を酸化することにより、製造される。
【0013】
N−オキシル化合物としては、下記一般式(式1)で示される物質が挙げられる。
【0014】
【化1】

【0015】
(式1中、R〜Rは同一又は異なる炭素数1〜4程度のアルキル基を示す。)
式1で表される化合物のうち、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−オキシラジカル(以下TEMPOと称する)及び4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−オキシラジカル(以下、4−ヒドロキシTEMPOと称する)が好ましい。また、下記式2〜5のいずれかで表されるN−オキシル化合物のラジカル、すなわち、4−ヒドロキシTEMPOの水酸基をアルコールでエーテル化、またはカルボン酸若しくはスルホン酸でエステル化し、適度な疎水性を付与した4−ヒドロキシTEMPO誘導体や、4−アミノTEMPOのアミノ基をアセチル化し、適度な疎水性を付与した4−アセトアミドTEMPOは、安価であり、かつ均一な酸化パルプを得ることができるため、セルロース系原料の酸化触媒として好ましく用いることができ、また、本発明の方法により効率よく除去することができる。
【0016】
【化2】

【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

【0019】
【化5】

【0020】
(式2〜5中、Rは炭素数4以下の直鎖又は分岐状炭素鎖である。)
さらに、下記式6で表されるN−オキシル化合物のラジカル、すなわち、アザアダマンタン型ニトロキシラジカルも、4−ヒドロキシTEMPO誘導体と同様の理由から、好ましい。
【0021】
【化6】

【0022】
(式6中、R及びRは、同一又は異なる水素又はC1〜C6の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基を示す。)
セルロース系原料の酸化の際に用いられるN−オキシル化合物の使用量は、一般的に、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.01〜10mmol、好ましくは0.01〜1mmol、さらに好ましくは0.05〜0.5mmol程度である。
【0023】
セルロース系原料の酸化の際に用いられる臭化物またはヨウ化物としては、水中で解離してイオン化可能な化合物、例えば、臭化アルカリ金属やヨウ化アルカリ金属などが挙げられる。臭化物またはヨウ化物は、一般的に、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.1〜100mmol、好ましくは1〜50mmol、さらに好ましくは5〜10mmol程度の量で用いられる。
【0024】
セルロース系原料の酸化の際に用いられる酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などが挙げられる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが、生産コストの観点から、特に好ましく用いられる。酸化剤は、一般的に、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.5〜500mmol、好ましくは0.5〜50mmol、さらに好ましくは2.5〜25mmol程度の量で用いられる。
【0025】
(1)N−オキシル化合物、及び(2)臭化物、ヨウ化物も敷くはこれらの混合物の存在下で酸化剤を用いて行なわれるセルロース系原料の酸化は、一般的に、15〜30℃程度の室温で、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加することにより、反応液のpHを9〜12、好ましくは10〜11程度に維持しながら、0.5〜6時間程度の反応時間で行なわれる。
【0026】
酸化反応により得られる酸化パルプのカルボキシル基量は、セルロース系原料の絶乾質量に対して、1.3mmol/g以上となるように条件を設定することが好ましく、より好ましくは1.3mmol/g〜3.0mmol/g、さらに好ましくは1.4mmol/g〜2.5mmol/g、とりわけ好ましくは1.5mmol/g〜2.0mmol/gである。カルボキシル基量は、酸化反応時間の調整、酸化反応温度の調整、酸化反応時のpHの調整、N−オキシル化合物や臭化物、ヨウ化物、酸化剤の添加量の調整などを行うことにより、所望の量とすることができる。
【0027】
酸化パルプのカルボキシル基量は、酸化パルプの0.5質量%スラリーを60ml調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる。
カルボキシル基量〔mmol/gパルプ〕= a〔ml〕× 0.05/酸化パルプ質量〔g〕。
【0028】
(酸化パルプの洗浄及び脱水)
本発明では、上記の酸化方法により得られた酸化パルプを、pH5未満及び温度40℃未満の条件下に置いた後に洗浄及び脱水することにより、酸化パルプ中に残留するN−オキシル化合物を除去する。pHの下限は特に限定されないが、通常1程度である。よって、pHが1以上5未満であることが好ましく、1以上3以下がさらに好ましい。温度は、室温程度がより好ましく、したがって、20〜30℃程度は好ましい。
【0029】
本発明において、酸化パルプをpH5未満及び温度40℃未満の条件下に置いた後に洗浄及び脱水することにより、効率よく酸化触媒が除去できるとともに、酸化パルプ分散液を比較的高い濃度に濃縮でき、さらに酸化パルプの退色も抑制することができる理由は明らかではないが、次のように推測される。TEMPOなどのN−オキシル化合物を触媒として製造された酸化パルプ中のカルボキシル基は通常、水との親和性が非常に高いナトリウム塩の形態で存在するが、pH5未満とすることにより、カルボキシル基のナトリウム塩(−COONa)が、カルボン酸(−COOH)に変換するため親水性が低下し、酸化パルプの保水性が低下すると考えられる。これにより、酸化パルプ中に保持される水の量が減少するため、洗浄による触媒の除去効率が向上すると考えられる。また、酸化パルプの保水性が低下することにより、脱水性が向上し、脱水時に酸化パルプ中の触媒をより多く排出させることができるようになり、また、分散液を比較的高い濃度に濃縮することができるようになると考えられる。さらに、これらの処理により酸化パルプの着色に影響を与える物質も除去されると考えられる。
本発明において、pH5未満及び温度40℃未満の条件下に供する酸化パルプは、パルプ濃度0.1〜50質量%に調整された水分散液の形態であることが好ましく、より好ましくはパルプ濃度が1〜30質量%、更に好ましくは1〜10質量%である。
【0030】
pHの調整に使用する酸の種類は、特に限定されず、無機化合物でも有機化合物でも良い。好適には、塩酸、硫酸、又は炭酸ガスを用いてpH5未満に調整することができる。pHが5以上の場合は、N−オキシル化合物の除去率が低下し、また、洗浄及び脱水後の酸化パルプ分散液の固形分濃度が低くなる。これは、pH5以上の処理では酸化パルプ中のカルボキシル基の酸型(−COOH)への変換が不十分であり、酸化パルプが依然として高い保水性を維持するため、触媒が酸化パルプに保持される水中に残留し、また、酸化パルプの脱水が良好に進行しなくなるためと考えられる。
pH5未満及び温度40未満に維持する時間は、pH及び温度に応じて設定すればよいが、通常、1分〜10時間程度、好ましくは5分〜3時間程度、さらに好ましくは10分〜1時間程度、最も好ましくは10分〜30分程度とすることができる。本発明では、比較的短時間で効率よくN−オキシル化合物を除去することができる。
【0031】
上記の処理を行なった酸化パルプを、次いで、十分に洗浄する。洗浄の際は、洗浄液として純水または蒸留水を用いることが好ましい。
洗浄の後は、脱水を行なう。脱水は、洗浄後の酸化パルプの水分散液が所望の固形分濃度に達するまで、遠心型脱水機などの公知の脱水装置を用いて行なうことができる。本発明によりpH5未満及び温度40℃未満に置いた後に洗浄した酸化パルプは、保水性が低下しているため、短時間で簡便に脱水を進行させることができる。例えば、本発明の処理により得られた洗浄済みの酸化パルプは、遠心型脱水機で1000×gで1分間程度処理することにより、固形分25%以上、好ましくは30%以上に脱水・濃縮することができる。高い固形分濃度に濃縮された酸化パルプは、運搬、貯蔵の際などに便利である。
【0032】
本発明の洗浄及び脱水に使用することができる装置は特に限定されないが、デカンタ等の縦型および横型遠心式洗浄・脱水機、真空フィルター、加圧フィルター、ドラムディスプレーサ等のフィルター式洗浄・脱水機、フィルタープレス、ベルトプレス、スクリュープレス、ツインロールプレス、ウォッシュプレス等のプレス式洗浄・脱水機などを挙げることができる。
【0033】
本発明により洗浄及び脱水処理された酸化パルプは、処理前の酸化パルプとほぼ同等の白色度を有するという特徴がある。本発明の方法は、酸化パルプの退色をほとんど引き起こすことなく、触媒を除去できる。酸化パルプが退色しにくいと、透明なセルロースナノファイバー分散液が得られる点で有利である。
酸化パルプの退色性は、次の方法を用いて評価することができる。
退色性試験方法:ブフナー漏斗上にろ紙をひき、洗浄及び脱水後の酸化パルプ分散液(絶乾5g)をろ紙の上にのせ、吸引脱水してシートを作成する。シートを50℃で1時間乾燥させて乾燥シートを作成する。乾燥シートを105℃下に12時間置いた後に、ISO白色度を測定する。同様に、pH5未満及び40℃未満に処理する前の酸化パルプを用いて、ISO白色度を測定する。これらの白色度の差(ΔBN)を、退色性の指標とする。なお、ΔBNが4以上であると、肉眼でも色の変化が判別できるほどであり、高い白色度を有する酸化パルプまたはセルロースナノファイバーを得るためには好ましくない。
(セルロースナノファイバーの製造)
本発明の洗浄及び脱水処理によりN−オキシル化合物が除去された酸化パルプは、水酸化ナトリウムなどのアルカリで中和した後、解繊・分散処理することにより、セルロースナノファイバー分散液とすることができる。セルロースナノファイバーは、幅2〜5nm、長さ1〜5μm程度のセルロースのシングルミクロフィブリルである。
解繊・分散処理に用いる装置の種類としては、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置が挙げられるが、透明性と流動性に優れるセルロースナノファイバー分散液を効率よく得るには、50MPa以上、好ましくは100MPa以上、さらに好ましくは140MPa以上の条件下で分散できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーで処理することが好ましい。
【実施例】
【0034】
次に実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は、本発明の好適な例を具体的に説明したものであり、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0035】
[実施例1]
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(日本製紙社)5g(絶乾)をTEMPO(SigmaAldrich社)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム754mg(7.3mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで攪拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素5%)18mlを添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHは低下するが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。2時間反応させた後、ガラス濾過器(柴田科学製ブフナー型25GP250、最大細孔160〜250μm、アスピレーター吸引脱水)を用いて水洗し、酸化パルプを得た。得られた酸化パルプのカルボキシル基量は1.8mmol/gであった。
次いで、得られた酸化パルプの1%水分散液に1N硫酸水溶液を添加してpH2とした。温度25℃で15分間放置した後、ガラス濾過器(柴田科学製ブフナー型25GP250、最大細孔160〜250μm、アスピレーター吸引脱水)を用いて水洗した。水洗後の酸化パルプの1%水分散液を小型遠心脱水機(1000×g)で1分間処理して脱水した。脱水後の酸化パルプ水分散液の固形分を測定したところ、38.4%であった。
洗浄及び脱水後の酸化パルプ中の残留TEMPO量を、電子スピン共鳴装置(型番ESR−X10SA、キーコム社製)を用いて、次の手順で測定した。その結果、洗浄及び脱水後の酸化パルプ中にTEMPOは検出されなかった。
電子スピン共鳴装置を用いた酸化パルプ中のTEMPOの定量方法:測定条件を、Frequency 9.6GHz、Modulation 0.3mT、Constant 0.003sec、Sweep 30sec、磁場335mT〜351mT、積算数5回とした。まず、既知量のTEMPOを含んだウェットパルプをティッシュセルに詰め、マンガンを標準試料に用いて測定し、低磁場側から数えて3番目のマンガンシグナルのエリア面積及びTEMPOシグナル(3つ)のエリア面積の総和を求め、計算により、マンガンのスピン数が求めた。次に、同一のマンガン試料を用いて酸化パルプを測定した。低磁場側から数えて3番目のマンガンシグナルのエリア面積及びTEMPOシグナル(3つ)のエリア面積の総和を求め、マンガンのスピン数とエリア面積から酸化パルプ中のTEMPO量を求めた。
また、次の手順に従って、酸化パルプの退色性試験を行ったところ、ΔBNは0であり、退色が見られなかった。
退色性試験方法:ブフナー漏斗上にろ紙をひき、洗浄及び脱水後の酸化パルプ分散液(絶乾5g)をろ紙の上にのせ、吸引脱水してシートを作成した。シートを50℃で1時間乾燥させて乾燥シートを作成した。乾燥シートを105℃下に12時間置いた後、ISO白色度を測定した。同様に、pH5未満及び40℃未満に処理する前の酸化パルプを用いて、ISO白色度を測定した。これらの白色度の差(ΔBN)を、退色性の指標とした。なお、ΔBNが4以上であると、肉眼でも色の変化が判別できるほどであり、高い白色度を有する酸化パルプまたはセルロースナノファイバーを得るためには好ましくない。
【0036】
[実施例2]
pHを2から3に変更した以外は、実施例1と同様に処理して洗浄及び脱水後の酸化パルプを得た。洗浄及び脱水後の酸化パルプの固形分は30.3%であり、TEMPOは検出されなかった。ΔBNは0であり、退色は見られなかった。
【0037】
[実施例3]
pHを2から1に変更し、温度を25℃から20℃に変更した以外は、実施例1と同様に処理して、洗浄及び脱水後の酸化パルプを得た。固形分は39%であり、TEMPOは検出されなかった。ΔBNは0であり、退色は見られなかった。
【0038】
[実施例4]
pHを2から3に変更し、温度を25℃から20℃に変更した以外は、実施例1と同様に処理して、洗浄及び脱水後の酸化パルプを得た。固形分は30%であり、TEMPOは検出されなかった。ΔBNは0であり、退色は見られなかった。
【0039】
[実施例5]
pHを2から1に変更し、温度を25℃から30℃に変更した以外は、実施例1と同様に処理して、洗浄及び脱水後の酸化パルプを得た。固形分は39%であり、TEMPOは検出されなかった。ΔBNは0であり、退色は見られなかった。
【0040】
[実施例6]
pHを2から3に変更し、温度を25℃から30℃に変更した以外は、実施例1と同様に処理して、洗浄及び脱水後の酸化パルプを得た。固形分は30%であり、TEMPOは検出されなかった。ΔBNは0であり、退色は見られなかった。
[比較例1]
pHを2から3.5に変更し、温度を25℃から50℃に変更した以外は、実施例1と同様に処理して、洗浄及び脱水後の酸化パルプを得た。固形分は28%であり、TEMPOは検出されなかった。ΔBNは5であり、退色が見られた。
[比較例2]
pHを2から3.5に変更し、温度25℃から85℃に変更した以外は、実施例1と同様に処理して、洗浄及び脱水後の酸化パルプを得た。固形分は28%であり、TEMPOは検出されなかった。ΔBNは8であり、退色が見られた。
[比較例3]
pHを2から3.5に変更し、温度25℃から120℃に変更した以外は、実施例1と同様に処理して、洗浄及び脱水後の酸化パルプを得た。固形分は28%であり、TEMPOは検出されなかった。ΔBNは10であり、退色が見られた。
[比較例4]
pHを2から5に変更した以外は、実施例1と同様に処理して、洗浄及び脱水後の酸化パルプを得た。固形分は20%であり、30mg/パルプkgのTEMPOが検出された。ΔBNは0であり、退色は見られなかった。
[比較例5]
pHを2から5.5に変更し、温度を25℃から85℃に変更した以外は、実施例1と同様に処理して、洗浄及び脱水後の酸化パルプを得た。固形分は15%であり、40mg/パルプkgのTEMPOが検出された。ΔBNは8であり、退色が見られた。
[比較例6]
pHを2から6に変更した以外は、実施例1と同様に処理して洗浄及び脱水後の酸化パルプを得た。固形分は10.1%であり、50mg/パルプkgのTEMPOが検出された。ΔBNは0であり、退色は見られなかった。
[比較例7]
pHを2から7に変更した以外は、実施例1と同様に処理して洗浄及び脱水後の酸化パルプを得た。固形分は6.8%であり、60mg/パルプkgのTEMPOが検出された。酸化パルプのΔBNは0であり、退色は見られなかった。
[比較例8]
pHを2から7.7に変更し、温度を25℃から85℃に変更した以外は、実施例1と同様に処理して、洗浄及び脱水後の酸化パルプを得た。固形分は6.7%であり、60mg/パルプkgのTEMPOが検出された。ΔBNは8であり、退色が見られた。
【0041】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)N−オキシル化合物、及び、(2)臭化物、ヨウ化物、若しくはこれらの混合物の存在下で、酸化剤を用いてセルロース系原料を酸化して得られた酸化パルプを洗浄及び脱水する方法であって、該酸化パルプをpH5未満及び温度40℃未満の条件下に置いた後に洗浄及び脱水することを特徴とする酸化パルプの洗浄及び脱水方法。
【請求項2】
請求項1に記載の洗浄及び脱水方法により得られた酸化パルプを解繊・分散することを含む、セルロースナノファイバーの製造方法。

【公開番号】特開2013−67904(P2013−67904A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206834(P2011−206834)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】