説明

酸化マグネシウム粒子、その製造方法、放熱性フィラー、樹脂組成物、放熱性グリース及び放熱性塗料組成物

【課題】放熱性フィラー等の用途において、従来の酸化マグネシウムよりも好適に使用することができ、その他の用途においても使用することができる酸化マグネシウムを提供する。
【解決手段】(メジアン径)/(比表面積から求められる比表面積径)の比が3以下であり、D90/D10が4以下である酸化マグネシウム粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化マグネシウム粒子、その製造方法、放熱性フィラー、樹脂組成物、放熱性グリース及び放熱性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化マグネシウムは、耐熱性、熱伝導性、電気絶縁性に優れた化合物であり、ゴムの加硫促進剤、塗料・インキ用顔料、医薬品、様々な産業分野において広く使用されている。このような酸化マグネシウムの種々の用途の一つとして、放熱性フィラーが提案されている(特許文献1等)。
【0003】
このような放熱性フィラーとしては、アルミナや窒化アルミニウム等が広く使用されている。しかしながら、アルミナはモース硬度が高く、放熱シート等の製造過程において、混練機の磨耗が激しいという欠点があった。また、窒化アルミニウムは充填性が悪く、樹脂中への高充填が難しいという欠点がある。また、窒化アルミニウムは高価であり、放熱部材が高価になってしまうという欠点もあった。よって、これらの原料とは異なる新たな放熱性フィラーが要求されている。
【0004】
一方、酸化マグネシウム粒子は、モース硬度が低く、比重が軽い化合物であるため、取扱いに優れるという利点もある。更に、電気抵抗値が高い素材であることから、電気・電子分野において使用することにも適している。しかしながら、放熱性フィラーとして用いる際には、成形物を形成する樹脂に高充填し得ることが必要である。このためには、粒子の凝集状態や粒径分布が制御された酸化マグネシウムが要求される。しかし、特許文献1においては、1次粒子径を制御することは記載されているが、粒子の凝集の割合や、粒子分布が制御された粒子に関しては記載されていない。
【0005】
また、放熱性フィラー以外の上述したような各種の酸化マグネシウムの用途においても、特異的な粒度分布を有する酸化マグネシウムを使用することによって、従来と異なる物性による新たな効果を奏することが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−7215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、放熱性フィラー等の用途において、従来の酸化マグネシウムよりも好適に使用することができる酸化マグネシウム粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(メジアン径)/(比表面積から求められる比表面積径)の比が3以下であり、D90/D10が4以下であることを特徴とする酸化マグネシウム粒子である。
上記酸化マグネシウム粒子は、水酸化マグネシウムを硼酸又はその塩存在下、1000〜1800℃で焼成することによって得られるものであることが好ましい。
上記酸化マグネシウム粒子は、水酸化マグネシウム100モル部に対し、硼素換算で0.1〜10モル部の硼酸又はその塩を混合し、焼成することによって得られるものであることが好ましい。
上記硼酸又はその塩は、四硼酸リチウム・五水和物、四硼酸ナトリウム・十水和物、四硼酸カリウム・四水和物及び四硼酸アンモニウム・四水和物からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
上記酸化マグネシウム粒子は、更に表面処理をすることによって得られたものであることが好ましい。
【0009】
本発明は、水酸化マグネシウムを硼酸又はその塩存在下、1000〜1800℃で焼成する工程を有することを特徴とする上記酸化マグネシウム粒子の製造方法である。
上記酸化マグネシウム粒子の製造方法は、水酸化マグネシウム100モル部に対し、硼素換算で0.1〜10モル部の硼酸又はその塩を混合し、焼成する工程を有することが好ましい。
上記硼酸又はその塩は、四硼酸リチウム・五水和物、四硼酸ナトリウム・十水和物、四硼酸カリウム・四水和物及び四硼酸アンモニウム・四水和物からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0010】
本発明は、上述した酸化マグネシウム粒子からなることを特徴とする放熱性フィラーでもある。
本発明は、上述した酸化マグネシウム粒子を含有することを特徴とする樹脂組成物でもある。
本発明は、上述した酸化マグネシウム粒子を含有することを特徴とする放熱性グリースでもある。
本発明は、上述した酸化マグネシウム粒子を含有することを特徴とする放熱性塗料組成物でもある。
【発明の効果】
【0011】
本発明の酸化マグネシウム粒子は、粒度分布がシャープで、粒子の凝集度合が制御されたものであるため、マトリックスを形成する材料に対して高充填とすることができる。これによって、優れた放熱性材料として使用することができる。また、ゴムの加硫促進剤;塗料・インキ用顔料;医薬品等の分野においても使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の酸化マグネシウム粒子は、(メジアン径)/(比表面積から求められる比表面積径(以下、SSA径と表す))の比が3以下であり、D90/D10が4以下であることを特徴とするものである。
【0013】
酸化マグネシウム粒子を放熱材として使用する場合、高い放熱性を得るためには、組成物中での粒子の充填率を高くすることが望まれている。高い充填率を得るためには、凝集状態や粒径分布をコントロールすることが重要である。このため、凝集状態や形状が高レベルでコントロールされた酸化マグネシウム粒子を得ることが要求されている。このような目的を達成する上では、上述したような特定のパラメータを満たす粒子が良好であることを見出すことによって、本発明を完成したものである。
【0014】
更に、上述したような粒子径や形状がコントロールされた酸化マグネシウムであって、粒子径が異なるものを複数組み合わせて使用すると、より高い充填率を得ることができ、優れた放熱性能を得ることができる点でも好ましい。
【0015】
本発明の酸化マグネシウム粒子は、粒子の凝集度と粒径分布とが制御された酸化マグネシウム粒子である。(メジアン径)/(SSA径)の比は、粒子の凝集度を示す値である。メジアン径は、2次粒子径を反映した粒子径であり、SSA径は1次粒子径を反映した粒子径である。よって、上記比は、2次粒子を構成する1次粒子の数を示すパラメータとなる。本発明の酸化マグネシウム粒子は、比較的少数の1次粒子が凝集して形成された2次粒子を有する酸化マグネシウム粒子である。このような粒子は、樹脂やオイル等への分散性に優れるという点で有利であり、特に放熱材料に適したものである。
本発明の酸化マグネシウム粒子は、上記メジアン径/SSA径が3以下となるものであり、2.8以下であることがより好ましく、2.7以下であることが更に好ましい。
【0016】
更に、本発明の酸化マグネシウム粒子はD90/D10が4以下であることから、その粒子径分布がシャープであることを特徴とするものである。このように粒子径分布がシャープな粒子であると、充填率を制御することが容易になるため、容易に高い放熱性を有する組成物を得ることができる点で好ましい。上記D90/D10は、3.9以下であることがより好ましい。
【0017】
すなわち、本発明の酸化マグネシウム粒子は、従来の酸化マグネシウム粒子に比べて少ない数の一次粒子が凝集して2次粒子を形成しており、D90とD10との比が小さい(すなわち、粒子径の分布がシャープである)ことを特徴とするものである。このような酸化マグネシウム粒子は公知ではなく、本発明者らによって初めて製造されたものである。
【0018】
上記メジアン径は、D50ともいわれ、粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量となる径をいう。D10,D90は同様に粒子径の分布を測定した場合に、小さい側が10%となる粒子径をD10,小さい側が90%となる粒子径をD90という。D10,D50,D90はそれぞれ、粒子径の分布を測定することによって得られる値であるが、本発明において、粒子径の分布はレーザー回折粒度分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラック MT 3300 EX)によって測定された値である。
【0019】
上記SSA径は、通常の方法によって測定されたBET比表面積から粒子が真球であるとの前提に基づいて求められた値である。
【0020】
上記酸化マグネシウム粒子は、粒子径を特に限定するものではないが、メジアン径が0.1〜25μmであることが好ましく、下限が1μmであることがより好ましい。すなわち、上述したような幅広い粒子径の範囲内のものが放熱材として使用可能であり、高い充填率を得る上で必要とされる任意の大きさのものとすることができる。
【0021】
上記酸化マグネシウム粒子は、粒子径を特に限定するものではないが、SSA径が0.1〜15μmであることが好ましく、下限が1μmであることがより好ましい。すなわち、上述したような幅広い粒子径の範囲内のものが放熱材として使用可能であり、高い充填率を得る上で必要とされる任意の大きさのものとすることができる。
【0022】
本発明の酸化マグネシウム粒子の粒子形状は特に限定されず、針状、棒状、板状、球状等を挙げることができ、より球状に近い形状であることが好ましい。なお粒子の形状は走査型電子顕微鏡(JEOL製JSM840F)によって観察することができる。
【0023】
上記酸化マグネシウム粒子は、粒子径を特に限定するものではないが、平均1次粒子径が0.1〜15μmであることが好ましく、下限が1μmであることがより好ましい。すなわち、上述したような幅広い粒子径の範囲内のものが放熱材として使用可能であり、高い充填率を得る上で必要とされる任意の大きさのものとすることができる。
【0024】
上記1次粒子径は、以下、実施例において詳述する方法により測定することができる。
【0025】
本発明の酸化マグネシウム粒子は、表面処理を施したものであることが好ましい。酸化マグネシウム粒子は、水と接触した場合や多湿な環境に曝された場合に水酸化マグネシウムに変換されやすいという性質を有する。よって、耐水性を向上させるためには、表面処理を施すことが好ましい。
【0026】
上記表面処理は、疎水性を向上させるとともに、電気伝導度が低い状態を維持することが好ましい。すなわち、表面処理によって形成された被膜が高い導電性を有するものであると、これによって酸化マグネシウムの低い電気伝導度を維持することができないため、特に電気・電子材料用途において使用する場合は、特定の表面処理を行うことが好ましい。
【0027】
上気表面処理は、上述した観点から下記一般式(1)であらわされるアルコキシシランによって行われたものであることが好ましい。
【0028】
【化1】

【0029】
(式中、Rは、炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基又は少なくとも一部の水素原子がフッ素に置換されたフッ化アルキル基を表す。Rは、炭素数1〜3のアルキル基を表す。nは、2、3又は4を表す。)
上記一般式(1)であらわされるアルコキシシランとしては特に限定されないが、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0030】
上記表面処理は、酸化マグネシウム粒子に対して0.1〜20質量%の被覆層を表面に形成することが好ましい。このような処理を行うことにより、低い電気伝導度を維持したままで耐水性、耐酸性等を向上させることができる。
【0031】
上述したような本発明の酸化マグネシウム粒子は、水酸化マグネシウムを硼酸又はその塩存在下で焼成することによって製造することができる。このような酸化マグネシウム粒子の製造方法も本発明の一部である。このような硼酸又はその塩存在下での焼成による酸化マグネシウムの製造は、硼酸又はその塩の添加量及び焼成温度を調整することによって、上述した特定の(メジアン径)/(SSA径)の比及びD90/D10を有し、所望の粒子径を有する酸化マグネシウムを容易に得ることができる点で好ましい。
【0032】
より具体的には、以下に詳述する本発明の酸化マグネシウム粒子の製造方法によって得ることができる。
以下、上述した本発明の酸化マグネシウム粒子の製造方法を詳述する。
【0033】
本発明の酸化マグネシウム粒子の製造方法においては、水酸化マグネシウムを原料として使用するものである。上記水酸化マグネシウムは、平均粒径0.05〜2μmであることが好ましい。上記水酸化マグネシウムの平均粒径は、レーザー回折粒度分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラック MT 3300 EX)によって測定された値である。
【0034】
本発明において用いる水酸化マグネシウムは、天然鉱物を粉砕して得られる天然品、水中にて水溶性マグネシウム塩をアルカリ性物質で中和することによって得られる合成品等、その由来において何ら限定されるものではないが、好ましくは、後者の合成品が用いられる。合成品を製造する場合において、上記水溶性マグネシウム塩としては、例えば、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム等が用いられる。また、上記アルカリ性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が用いられる。本発明においては、このようなアルカリ性物質は、通常、水溶性マグネシウム塩1当量について、0.8〜1.2当量の範囲で用いられる。
【0035】
本発明においては、水中にて水溶性マグネシウム塩をアルカリ性物質と反応させて、水酸化マグネシウムを製造する場合、好ましくは、水溶性マグネシウム塩1当量をアルカリ性物質0.8〜1.2当量、好ましくは、1.0〜1.2当量と反応させて、水酸化マグネシウムの沈殿を含むスラリーを得、このスラリーを加圧下に温度120〜200℃の範囲で加熱する水熱処理を行い、次いで、得られた反応混合物を、通常、常温まで冷却し、濾過、水洗して、副生塩を除去し、乾燥、粉砕して、通常、平均1次粒子径0.1〜2μm、比表面積1〜30m/gの範囲の六角板状の形状を有する水酸化マグネシウムを得、これを焼成することによって、通常、平均1次粒子径0.1〜2μmの範囲の球状の酸化マグネシウム粒子を得ることができる。
【0036】
本発明の酸化マグネシウム粒子の製造方法は、硼酸又はその塩の存在下で焼成することを特徴とする。無機粒子の製造においては、粒子径を大きくするためにフラックス存在下で焼成することが行われる場合がある。このような焼成時のフラックスとして硼酸又はその塩を使用すると、その他の化合物をフラックスとして使用した場合に比べて、得られた酸化マグネシウム粒子の粒子径の分布がシャープであることを本発明者らは見出した。
【0037】
上記硼酸又はその塩は、水酸化マグネシウム100モル部に対して硼素換算で0.1〜10モル部とすることが好ましい。0.1モル部未満では粒子が成長しにくくなるためエネルギーコストが高くなる。10モル部を超えると粗粒子の発生が多くなり、製品の歩留まりが低下するため、生産性が良くない。上記硼酸又はその塩の配合量及び反応温度を調整することによって、所望の粒子径を有する酸化マグネシウム粒子を得ることができる。粒子径を小さくしたい場合は、硼酸又はその塩の量を少なくして、反応温度を低くすることが好ましく、粒子径を大きくしたい場合は、硼酸又はその塩の量を多くして、反応温度を高くすることが好ましい。
【0038】
上記硼酸又はその塩としては特に限定されず、例えば、硼酸、硼酸亜鉛・3.5水和物、硼酸アンモニウム・八水和物、硼酸カリウム、硼酸カルシウム・n水和物、硼酸トリエタノールアミン、硼酸ナトリウム、硼酸マグネシウム・n水和物、硼酸リチウム、四硼酸アンモニウム・四水和物、四硼酸ナトリウム、四硼酸ナトリウム・十水和物、四硼酸カリウム・四水和物、四硼酸マンガン(II)、四硼酸リチウム無水、四硼酸リチウム・n水和物等を挙げることができる。上記硼酸塩としては、水和物であっても無水物であってもよい。上記硼酸又はその塩としては、四硼酸リチウム・五水和物、四硼酸ナトリウム・十水和物、四硼酸カリウム・四水和物及び四硼酸アンモニウム・四水和物が好ましく、なかでも四硼酸ナトリウム・十水和物(硼砂)が好ましい。
【0039】
上記硼酸又はその塩として、硼酸塩を使用する場合、硼酸と金属塩化合物及び/または金属水酸化物とを水酸化マグネシウムに対して混合してもよい。また、硼酸とアンモニウム塩及び/またはアンモニア水溶液を用いてもよい。すなわち、ナトリウム塩、水酸化ナトリウム、リチウム塩、水酸化リチウム、カリウム塩、水酸化カリウム、アンモニウム塩、アンモニア水溶液、亜鉛塩、トリエタノールアミン塩等のアミン塩化合物等の塩類および/または金属水酸化物と、硼酸とを水酸化マグネシウムに混合することによっても、同様に本発明の酸化マグネシウムを得ることができる。このような場合、硼酸と塩類および/または金属水酸化物とを同時に水酸化マグネシウムに添加して混合してもよいし、それぞれを別の段階で添加(例えば、一方を焼成の途中で添加する等)してもよい。
【0040】
本発明の酸化マグネシウム粒子は、上記水酸化マグネシウムと上記硼酸又はその塩とを公知の方法で混合し、得られた混合物を焼成することによって、製造することができる。上記混合としては特に限定されず、分散剤を使用した湿式混合であることが好ましい。上記焼成は、工業的には静置焼成が好ましいが特に限定される訳ではない。
【0041】
上記焼成は1000〜1800℃で行うものである。1000℃未満での焼成であると、粒子成長が不十分である点で好ましくない。1800℃を超えると、粗大粒子の発生が多くなり、収率が低下するおそれがある点で好ましくない。上記温度も、得られる酸化マグネシウム粒子の粒子径に大きな影響を与える要素であることから、目的とする粒子の粒径に応じて、上記温度範囲内において適切な温度を選択することが好ましい。
【0042】
上記方法によって製造された酸化マグネシウム粒子は、その粒径分布においてシャープなものとなるが、更にシャープなものを得る必要がある場合や、低い割合で含まれている粗大粒子を除去するために、粉砕・篩による分級を行うものであってもよい。粉砕方法は特に限定されず、例えば、アトマイザー等を挙げることができる。また篩による分級方法としては、湿式分級、乾式分級を挙げることができる。
【0043】
本発明の酸化マグネシウム粒子はその用途を特に限定するものではないが、例えば、放熱性フィラーの用途において好適に使用することができる。このような放熱性フィラーも本発明の一部である。
【0044】
本発明の放熱性フィラーは、通常、放熱性樹脂組成物や放熱性グリース、放熱性塗料等において使用される。このような用途については、多くの公知文献が存在しており、本発明の放熱性フィラーは、このような公知の放熱性樹脂組成物や放熱性グリース、放熱性塗料において使用することができる。
【0045】
本発明の酸化マグネシウム粒子を放熱性フィラーとして使用する場合、いずれも本発明の要件を満たし、粒子径が異なる複数の酸化マグネシウム粒子を混合して使用してもよい。より具体的には、上述した電子顕微鏡写真撮影装置にて撮影した画像を用いる測定方法によって求められた1次粒子径が1〜15μmの酸化マグネシウム(a)と、0.05〜4μmの酸化マグネシウム(b)をその粒径比が4≦(a)/(b)≦20となる割合で選択し、(a):(b)が5:5〜9:1の重量比率で混合することによって得られた酸化マグネシウム粒子を挙げることができる。
【0046】
また、3種以上の酸化マグネシウム粒子を組み合わせることもできる。3種類の酸化マグネシウム粒子を組み合わせる場合は、上述した電子顕微鏡写真撮影装置にて撮影した画像を用いる測定方法によって求められた1次粒子径が1〜15μmの酸化マグネシウム(a)、0.05〜4μmの酸化マグネシウム(b)、0.01〜1μmの酸化マグネシウム(c)を組み合わせて使用するものであり、その粒径比が4≦(a)/(b)≦20、4≦(b)/(c)≦20となる割合の粒子を選択し、酸化マグネシウム全量に対して、(a):((b)+(c))=5:5〜9:1、(b):(c)=5:5〜9:1の重量比率で混合することによって得られた酸化マグネシウム粒子を挙げることができる。
【0047】
上述のように、粒子径が異なる複数の酸化マグネシウム粒子を充填率が高くなる組み合わせを選択して混合することにより高い充填率を得ることができ、優れた放熱性能を得ることができる点でも好ましい。
【0048】
本発明の酸化マグネシウム粒子は、放熱性フィラーとして使用する場合、その他の成分を併用して使用することもできる。併用して使用することができるその他の成分としては、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム等の金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化チタン、金属シリコン、ダイヤモンド等の酸化マグネシウム以外の放熱性フィラー、樹脂、界面活性剤等を挙げることができる。
【0049】
上記酸化マグネシウム粒子を放熱性フィラーとして使用する場合、樹脂と混合した樹脂組成物として使用することができる。このような樹脂組成物も本発明の一つである。この場合、使用する樹脂は、熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であってもよく、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリメタクリル酸メチル、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂、液晶樹脂(LCP)、シリコーン樹脂、アクリル樹脂等の樹脂を挙げることができる。
【0050】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と上記酸化マグネシウム粒子とを溶融状態で混練することによって得られた熱成型用の樹脂組成物;熱硬化性樹脂と上記酸化マグネシウム粒子とを混練後、加熱硬化させることによって得られた樹脂組成物;等のいずれの形態であってもよい。
【0051】
本発明の樹脂組成物中の上記酸化マグネシウム粒子の配合量は、目的とする熱伝導率や樹脂組成物の硬度等、樹脂組成物の性能に合わせて任意に決定することができる。上記酸化マグネシウム粒子の放熱性能を充分に発現させるためには、樹脂組成物中の固形分全量に対して10〜90体積%含有する事が好ましい。上記配合量は必要とされる放熱性能に応じて配合量を調整して使用することができ、より高い放熱性が要求される用途においては、30体積%以上含有することが好ましく、50体積%以上とすることが更に好ましい。
【0052】
本発明の樹脂組成物は、用途によって樹脂成分を自由に選択することができる。例えば、熱源と放熱板の間に装着し密着させる場合には、シリコーン樹脂やアクリル樹脂のような接着性が高く硬度の低い樹脂を選択すればよい。
【0053】
本発明の樹脂組成物が熱成型用の樹脂組成物である場合、熱可塑性樹脂と上記酸化マグネシウム粒子を、例えば、スクリュー型二軸押出機を用いた溶融混練によって、樹脂組成物をペレット化し、その後射出成型等の任意の成形方法によって所望の形状に成型する方法等によって製造することができる。
【0054】
本発明の樹脂組成物が熱硬化性樹脂と上記酸化マグネシウム粒子とを混練後、加熱硬化させることによって得られた樹脂組成物である場合、例えば、加圧成形等によって成形するものであることが好ましい。このような樹脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、樹脂組成物をトランスファー成型により成型し、製造することができる。
【0055】
本発明の樹脂組成物の用途は、電子部品の放熱部材、熱伝導性充填剤、温度測定用等の絶縁性充填剤等がある。例えば、本発明の樹脂組成物は、MPU、パワートランジスタ、トランス等の発熱性電子部品からの熱を放熱フィンや放熱ファン等の放熱部品に伝熱させるために使用することができ、発熱性電子部品と放熱部品の間に挟み込まれて使用することができる。これによって、発熱性電子部品と放熱部品間の伝熱が良好となり、長期的に発熱性電子部品の誤作動を軽減させることができる。ヒートパイプとヒートシンクの接続や、種々の発熱体の組込まれたモジュールとヒートシンクとの接続に好適に用いることもできる。
【0056】
上記酸化マグネシウム粒子を放熱性フィラーとして使用する場合、鉱油または合成油を含有する基油と混合した放熱性グリースとして使用することもできる。このような放熱性グリースも本発明の一つである。
【0057】
本発明の放熱性グリース中の上記マグネシウム粒子の配合量は、目的とする熱伝導率に合わせて任意に決定する事ができる。上記酸化マグネシウム粒子の放熱性能を充分に発現させるためには、放熱性グリース全量に対して10〜90体積%以上含有する事が好ましい。上記配合量は必要とされる放熱性能に応じて配合量を調整して使用することができ、より高い放熱性が要求される用途においては、30体積%以上含有することが好ましく、50体積%以上とすることが更に好ましい。
【0058】
上記基油は、鉱油、合成油、シリコーンオイル、フッ素系炭化水素油等の各種油性材料を1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。合成油としては特に炭化水素油がよい。合成油としてα−オレフィン、ジエステル、ポリオールエステル、トリメリット酸エステル、ポリフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテルなどが使用できる。
【0059】
本発明の放熱性グリースは、必要に応じて界面活性剤を含有するものであってもよい。上記界面活性剤としては、非イオン系界面活性剤が好ましい。非イオン系界面活性剤の配合により、高熱伝導率化を図り、ちょう度を好適に制御することができる。
【0060】
非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコールエチレンジアミン、デカグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンジ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンプロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリ脂肪酸エステル、エチレングリコールモノ脂肪酸エステル、ジエチレングリコールモノ脂肪酸エステル、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ペンタエリトリットモノ脂肪酸エステル、ソルビタンモノ脂肪酸エステル、ソルビタンセスキ脂肪酸エステル、ソルビタントリ脂肪酸エステルが挙げられる。
【0061】
非イオン系界面活性剤の添加の効果は、放熱性フィラーの種類、配合量、及び親水性と親油性のバランスを示すHLB(親水親油バランス)によって異なる。本実施の形態で使用される非イオン系界面活性剤には、室温においても良好なちょう度を得るにはHLBが9以下の液状界面活性剤が好ましい。また、高放熱性グリース等の電気絶縁性や電気抵抗の低下を重視しない用途では、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤を使用することができる。
【0062】
本発明の放熱性グリースは、前述した成分をドウミキサー(ニーダー)、ゲートミキサー、プラネタリーミキサーなどの混合機器を用いて混合することによって調製することができる。
【0063】
本発明の放熱性グリースは、発熱体や放熱体に塗布することによって使用される。発熱体としては、例えば、一般の電源;電源用パワートランジスタ、パワーモジュール、サーミスタ、熱電対、温度センサなどの電子機器;LSI、CPU等の集積回路素子などの発熱性電子部品などが挙げられる。放熱体としては、例えば、ヒートスプレッダ、ヒートシンク等の放熱部品;ヒートパイプ、放熱板などが挙げられる。塗布は、例えば、スクリーンプリントによって行うことができる。スクリーンプリントは、例えば、メタルマスクもしくはスクリーンメッシュを用いて行うことができる。本発明の放熱性グリースを発熱体および放熱体の間に介在させて塗布することにより、上記発熱体から上記放熱体へ効率よく熱を伝導させることができるので、上記発熱体から効果的に熱を取り除くことができる。
【0064】
上記酸化マグネシウム粒子を放熱性フィラーとして使用する場合、樹脂溶液又は分散液中に分散させた塗料組成物として使用することもできる。このような放熱性塗料組成物も本発明の一つである。この場合、使用する樹脂は硬化性を有するものであっても、硬化性を有さないものであってもよい。上記樹脂として具体的には、上述した樹脂組成物において使用することができる樹脂として例示した樹脂を挙げることができる。塗料は、有機溶剤を含有する溶剤系のも のであっても、水中に樹脂が溶解又は分散した水系のものであってもよい。
【0065】
上記塗料組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、ディスパーやビーズミル等を使用し、必要とする原料及び溶剤を混合・分散することによって製造することができる。
【0066】
本発明の放熱性塗料組成物中の上記酸化マグネシウム粒子の配合量は、目的とする熱伝導率に合わせて任意に決定する事ができる。上記酸化マグネシウム粒子の放熱性能を充分に発現させるためには、塗料組成物全量に対して10〜90体積%以上含有する事が好ましい。上記配合量は必要とされる放熱性能に応じて配合量を調整して使用することができ、より高い放熱性が要求される用途においては、30体積%以上含有することが好ましく、50体積%以上とすることが更に好ましい。
【0067】
本発明の酸化マグネシウム粒子は、上述した放熱性フィラーの他に、ゴムの加硫促進剤、塗料・インキ用顔料、医薬品等の分野においても使用することができる。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
以下において、得られた酸化マグネシウム粒子のメジアン径及び粒度分布は、レーザー回折粒度分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラック MT 3300 EX)で測定した。
【0069】
(酸化マグネシウムの1次粒子径の測定方法)
まず、BET比表面積および真比重から粒子径(SSA粒子径)を求める。そして走査型電子顕微鏡写真撮影装置(JEOL製 JSM840F)にて、SSA粒子径が10μm程度の場合は、2000倍、SSA粒子径が1μmおよび2μm程度の場合は5000倍、SSA粒子径が0.1μm程度の場合は、50000倍の倍率で各々5視野撮影し、画像部分が短辺9cm、長辺12cmの写真とする。それぞれの写真1枚に付き、それぞれの短辺及び長辺の中間点からそれぞれ短辺、長辺に対して平行線を引き、さらに、対角線を2本引き、計4本の直線に重なっている粒子の短径及び長径の値をノギスを用いて測定し、これらの値の平均値をその画像の平均1次粒子径(SEM径)とした。
【0070】
(実施例1) 酸化マグネシウム粒子−a
堺化学工業製水酸化マグネシウム(製品名 MGZ−0)1kgを、ディスペックス−A40(アライドコロイド社製ポリアクリル酸アンモニア塩)50g、四硼酸ナトリウム・十水和物(和光純薬製)1.64gを溶解したイオン交換水1Lに加え、水酸化マグネシウムの分散スラリーとする。このとき添加した四硼酸ナトリウム・十水和物の量は、硼素換算で0.1mol部である。このスラリーを噴霧乾燥し、四硼酸ナトリウム・十水和物が均一に混合した水酸化マグネシウムを得た。この水酸化マグネシウムを、蓋付のアルミナ匣鉢に入れ、1100℃、10時間大気焼成した。焼成後の酸化マグネシウムを脱塩処理後、粉砕を行い、酸化マグネシウム粒子−aを得た。この酸化マグネシウム粒子−aのSEM写真から求められる1次粒子径は1.68μm、粒度分布から求められるメジアン径は、4.29μm、比表面積から算出される比表面積径は1.65μmであり、粒度分布から求められるメジアン径/比表面積から求められる比表面積径の値が2.60であった。また、D90が6.79μm、D10が1.75μmであり、D90/D10の値が3.88であった。
【0071】
(実施例2) 酸化マグネシウム粒子−b
四硼酸ナトリウム・十水和物の量を8.20gとした以外は、実施例1と同じ操作を行い、酸化マグネシウム粒子−bを得た。このとき添加した四硼酸ナトリウム・十水和物の量は、硼素換算で0.5mol部である。この酸化マグネシウム粒子−bのSEM写真から求められる1次粒子径は2.06μm、粒度分布から求められるメジアン径は、3.91μm、比表面積から算出される比表面積径は1.98μmであり、粒度分布から求められるメジアン径/比表面積から求められる比表面積径の値が1.97であった。また、D90が6.22μm、D10が2.35μmであり、D90/D10の値が2.65であった。
【0072】
(実施例3)酸化マグネシウム粒子−c
四硼酸ナトリウム・十水和物の代わりに、四硼酸リチウム・五水和物を5.57gとした以外は、実施例1と同じ操作を行い、酸化マグネシウム粒子−cを得た。このとき添加した四硼酸リチウム・五水和物の量は、硼素換算で0.5mol部である。この酸化マグネシウム粒子−cのSEM写真から求められる1次粒子径は2.11μm、粒度分布から求められるメジアン径は、4.28μm、比表面積から算出される比表面積径は2.02μmであり、粒度分布から求められるメジアン径/比表面積から求められる比表面積径の値が2.03であった。また、D90が6.75μm、D10が2.56μmであり、D90/D10の値が2.64であった。
【0073】
(実施例4)酸化マグネシウム粒子−d
四硼酸ナトリウム・十水和物の代わりに、四硼酸カリウム・四水和物を6.57gとした以外は、実施例1と同じ操作を行い、酸化マグネシウム粒子−dを得た。このとき添加した四硼酸カリウム・四水和物の量は、硼素換算で0.5mol部である。この酸化マグネシウム粒子−dのSEM写真から求められる1次粒子径は2.16μm、粒度分布から求められるメジアン径は、4.34μm、比表面積から算出される比表面積径は2.06μmであり、粒度分布から求められるメジアン径/比表面積から求められる比表面積径の値が2.01であった。また、D90が6.65μm、D10が2.48μmであり、D90/D10の値が2.68であった。
【0074】
(実施例5)酸化マグネシウム粒子−e
四硼酸ナトリウム・十水和物の代わりに、四硼酸アンモニウム・四水和物を5.66gとした以外は、実施例1と同じ操作を行い、酸化マグネシウム粒子−eを得た。このとき添加した四硼酸アンモニウム・四水和物の量は、硼素換算で0.5mol部である。この酸化マグネシウム粒子−eのSEM写真から求められる1次粒子径は2.16μm、粒度分布から求められるメジアン径は、4.34μm、比表面積から算出される比表面積径は2.06μmであり、粒度分布から求められるメジアン径/比表面積から求められる比表面積径の値が2.01であった。また、D90が6.65μm、D10が2.48μmであり、D90/D10の値が2.68であった。
【0075】
(実施例6) 酸化マグネシウム粒子−f
四硼酸ナトリウム・十水和物の量を82.0gとした以外は、実施例1と同じ操作を行い、酸化マグネシウム粒子−fを得た。このとき添加した四硼酸ナトリウム・十水和物の量は、硼素換算で5mol部である。この酸化マグネシウム粒子−fのSEM写真から求められる1次粒子径は2.22μm、粒度分布から求められるメジアン径は、4.02μm、比表面積から算出される比表面積径は2.31μmであり、粒度分布から求められるメジアン径/比表面積から求められる比表面積径の値が1.74であった。また、D90が6.53μm、D10が2.48μmであり、D90/D10の値が2.63であった。
【0076】
(実施例7) 酸化マグネシウム粒子−g
四硼酸ナトリウム・十水和物の量を131.2gとした以外は、実施例1と同じ操作を行い、酸化マグネシウム粒子−gを得た。このとき添加した四硼酸ナトリウム・十水和物の量は、硼素換算で8mol部である。この酸化マグネシウム粒子−gのSEM写真から求められる1次粒子径は2.39μm、粒度分布から求められるメジアン径は、4.58μm、比表面積から算出される比表面積径は2.46μmであり、粒度分布から求められるメジアン径/比表面積から求められる比表面積径の値が1.86であった。また、D90が6.86μm、D10が2.56μmであり、D90/D10の値が2.68であった。
【0077】
(実施例8) 酸化マグネシウム粒子−h
四硼酸ナトリウム・十水和物の量を16.4g、焼成温度を1000℃とした以外は、実施例1と同じ操作を行い、酸化マグネシウム粒子−hを得た。このとき添加した四硼酸ナトリウム・十水和物の量は、硼素換算で1mol部である。この酸化マグネシウム粒子−hのSEM写真から求められる1次粒子径は1.41μm、粒度分布から求められるメジアン径は、4.43μm、比表面積から算出される比表面積径1.50μmであり、粒度分布から求められるメジアン径/比表面積から求められる比表面積径の値が2.95であった。また、D90が6.62μm、D10が1.76μmであり、D90/D10の値が3.76であった。
【0078】
(実施例9) 酸化マグネシウム粒子−i
四硼酸ナトリウム・十水和物の量を16.4g、焼成温度を1200℃とした以外は、実施例1と同じ操作を行い、酸化マグネシウム粒子−iを得た。このとき添加した四硼酸ナトリウム・十水和物の量は、硼素換算で1mol部である。この酸化マグネシウム粒子−iのSEM写真から求められる1次粒子径は3.14μm、粒度分布から求められるメジアン径は、6.58μm、比表面積から算出される比表面積径3.28μmであり、粒度分布から求められるメジアン径/比表面積から求められる比表面積径の値が2.01であった。また、D90が8.12μm、D10が3.56μmであり、D90/D10の値が2.28であった。
【0079】
(実施例10) 酸化マグネシウム粒子−j
四硼酸ナトリウム・十水和物の量を16.4g、焼成温度を1400℃とした以外は、実施例1と同じ操作を行い、酸化マグネシウム粒子−jを得た。このとき添加した四硼酸ナトリウム・十水和物の量は、硼素換算で1mol部である。この酸化マグネシウム粒子−jのSEM写真から求められる1次粒子径は8.61μm、粒度分布から求められるメジアン径は、19.2μm、比表面積から算出される比表面積径9.01μmであり、粒度分布から求められるメジアン径/比表面積から求められる比表面積径の値が2.13であった。また、D90が25.3μm、D10が11.9μmであり、D90/D10の値が2.12であった。
【0080】
(実施例11) 酸化マグネシウム粒子−k
四硼酸ナトリウム・十水和物の量を16.4g、焼成温度を1600℃とした以外は、実施例1と同じ操作を行い、酸化マグネシウム粒子−kを得た。このとき添加した四硼酸ナトリウム・十水和物の量は、硼素換算で1mol部である。この酸化マグネシウム粒子−kのSEM写真から求められる1次粒子径は12.1μm、粒度分布から求められるメジアン径は、23.5μm、比表面積から算出される比表面積径13.0μmであり、粒度分布から求められるメジアン径/比表面積から求められる比表面積径の値が1.81であった。また、D90が29.8μm、D10が18.2μmであり、D90/D10の値が1.64であった。
【0081】
(実施例12) 酸化マグネシウム粒子−l
実施例2で得られた酸化マグネシウム粒子−b100gをメタノール(和光純薬)100mlに再分散し、酢酸(和光純薬)0.02g、デシルトリメトキシシラン(KBM−3103C;信越化学)1g加え、攪拌下、純水を1g加え、1時間攪拌後、濾過、乾燥、粉砕を行い酸化マグネシウム粒子−lを得た。この酸化マグネシウム粒子−lを温度85℃、湿度85%の恒温恒湿器に入れ、重量変化を観察したところ、500時間経過後も、質量増加が観察されなかった。
【0082】
(比較例1) 酸化マグネシウム粒子−m
四硼酸ナトリウム・十水和物の量を0.82g、焼成温度を1200℃とした以外は、実施例1と同じ操作を行い、酸化マグネシウム粒子−mを得た。このとき添加した四硼酸ナトリウム・十水和物の量は、硼素換算で0.05mol部である。この酸化マグネシウム粒子−mのSEM写真から求められる1次粒子径は0.98μm、粒度分布から求められるメジアン径は、3.26μm、比表面積から算出される比表面積径1.05μmであり、粒度分布から求められるメジアン径/比表面積から求められる比表面積径の値が3.10であった。また、D90が6.21μm、D10が1.38μmであり、D90/D10の値が4.50であった。
【0083】
(比較例2) 酸化マグネシウム粒子−n
四硼酸ナトリウム・十水和物を添加せず、焼成温度を1200℃とした以外は、実施例1と同じ操作を行い、酸化マグネシウム粒子−nを得た。この酸化マグネシウム粒子−nのSEM写真から求められる1次粒子径は0.76μm、粒度分布から求められるメジアン径は、3.02μm、比表面積から算出される比表面積径0.79μmであり、粒度分布から求められるメジアン径/比表面積から求められる比表面積径の値が3.82であった。また、D90が5.88μm、D10が1.23μmであり、D90/D10の値が4.78であった。
【0084】
(実施例13〜24)
表1に示す割合でEEA樹脂(A−1150 日本ポリエチレン社製)及び実施例1〜12の酸化マグネシウム粒子を160℃に加熱しながら混合した後、加圧成形により樹脂成型体を得た。これを直径50mm×厚み2mmの形状の成型体とした。これらの熱伝導率を測定した。なお、熱伝導率は、熱流計法により、25℃で測定した。
【0085】
(実施例25)
表1に示す割合でEEA樹脂(A−1150 日本ポリエチレン社製)及び実施例8と実施例11の酸化マグネシウム粒子を混合したものを用い、160℃に加熱しながら混合した後、加圧成形により樹脂成型体を得た。これを直径50mm×厚み2mmの形状の成型体とした。これらの熱伝導率を測定した。なお、熱伝導率は、熱流計法により、25℃で行った。
【0086】
(実施例26)
表1に示す割合でEEA樹脂(A−1150 日本ポリエチレン社製)及び実施例8と実施例11の酸化マグネシウム粒子を混合したものに、更に、堺化学工業製酸化マグネシウム(SEM径0.1μm)を加え、160℃に加熱しながら混合した後、加圧成形により樹脂成型体を得た。これを直径50mm×2厚みmmの形状の成型体とした。これらの熱伝導率を測定した。なお、熱伝導率は、熱流計法により、25℃で行った。
【0087】
(比較例3)
酸化マグネシウム粒子を配合しないこと以外は実施例13と同様にして、熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0088】
(比較例4〜6)
酸化マグネシウム粒子にかえて、アルミナを使用したこと以外は実施例13と同様にして、熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
(実施例27)
表2に示す割合でエポキシ樹脂(jER828 ジャパンエポキシレジン社製)、エポキシ樹脂硬化剤(jERキュアST12 ジャパンエポキシレジン社製)及び実施例10の酸化マグネシウム粒子−jを混合し、直径50mm×高さ2mmの型に注入後、80℃で3時間熱処理することで成型体を得た。この成型体の熱伝導率を測定した結果を表2に示す。
【0091】
(比較例7)
酸化マグネシウム粒子−jにかえて、アルミナ10μmを使用したこと以外は実施例27と同様にして、熱伝導率を測定した。結果を表2に示す。
【0092】
【表2】

【0093】
(実施例28)
表3に示す割合でシリコーン樹脂(KE−103 信越化学工業社製)、シリコーン樹脂硬化剤(CAT−103 信越化学工業社製)及び実施例10の酸化マグネシウム粒子−jを混合し、150℃に加熱しながら30分間加圧成形する事で樹脂組成物を得た。これを直径50mm×厚み2mmの形状の成型体とし、熱伝導率を測定した結果を表3に示す。
【0094】
(比較例8)
酸化マグネシウム粒子−jにかえて、アルミナ10μmを使用したこと以外は実施例28と同様にして、熱伝導率を測定した。結果を表3に示す。
【0095】
【表3】

【0096】
(実施例29)
表4に示す割合でシリコーンオイル(KF−99 信越化学工業社製)、及び実施例10の酸化マグネシウム粒子−jを混合することで放熱性グリースを作製した。この放熱性グリースの熱伝導率を測定した結果を表4に示す。
【0097】
(比較例9)
酸化マグネシウム粒子−jにかえて、アルミナ10μmを使用したこと以外は実施例29と同様にして、熱伝導率を測定した。結果を表4に示す。
【0098】
【表4】

【0099】
(実施例30)
表5に示す割合でエポキシ樹脂(jER828 ジャパンエポキシレジン社製)、トルエン及び実施例10の酸化マグネシウム粒子−jをディスパー分散することで放熱性塗料を作製した。この放熱性塗料組成物の熱伝導率を測定した結果を表5に示す。
【0100】
(比較例10)
酸化マグネシウム粒子−jにかえて、アルミナ10μmを使用したこと以外は実施例30と同様にして、熱伝導率を測定した。結果を表5に示す。
【0101】
【表5】

【0102】
表1〜5の結果から、本発明の放熱性フィラーは、汎用されている放熱性フィラーよりも優れた性能を有するものであることが明らかである。また低配合〜高配合のいずれにおいても放熱性の付与が可能であることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の酸化マグネシウム粒子は、放熱性フィラーとして好適に使用することができ、その他にはゴムの加硫促進剤、塗料・インキ用顔料、医薬品等の用途においても使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メジアン径)/(比表面積から求められる比表面積径)の比が3以下であり、D90/D10が4以下であることを特徴とする酸化マグネシウム粒子。
【請求項2】
水酸化マグネシウムを硼酸又はその塩存在下、1000〜1800℃で焼成することによって得られる請求項1に記載の酸化マグネシウム粒子。
【請求項3】
水酸化マグネシウム100モル部に対し、硼素換算で0.1〜10モル部の硼酸又はその塩を混合し、焼成することによって得られる請求項1又は2に記載の酸化マグネシウム粒子。
【請求項4】
硼酸又はその塩は、四硼酸リチウム・五水和物、四硼酸ナトリウム・十水和物、四硼酸カリウム・四水和物及び四硼酸アンモニウム・四水和物からなる群より選択される少なくとも一種である請求項2又は3記載の酸化マグネシウム粒子。
【請求項5】
更に表面処理をすることによって得られた請求項1〜4のいずれかに記載の酸化マグネシウム粒子。
【請求項6】
水酸化マグネシウムを硼酸又はその塩存在下、1000〜1800℃で焼成する工程を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の酸化マグネシウム粒子の製造方法。
【請求項7】
水酸化マグネシウム100モル部に対し、硼素換算で0.1〜10モル部の硼酸又はその塩を混合し、焼成する工程を有する請求項6記載の酸化マグネシウム粒子の製造方法。
【請求項8】
硼酸又はその塩は、四硼酸リチウム・五水和物、四硼酸ナトリウム・十水和物、四硼酸カリウム・四水和物及び四硼酸アンモニウム・四水和物からなる群より選択される少なくとも一種である請求項6又は7記載の酸化マグネシウム粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜5いずれかに記載の酸化マグネシウム粒子からなることを特徴とする放熱性フィラー。
【請求項10】
請求項1〜5いずれかに記載の酸化マグネシウム粒子を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜5いずれかに記載の酸化マグネシウム粒子を含有することを特徴とする放熱性グリース。
【請求項12】
請求項1〜5いずれかに記載の酸化マグネシウム粒子を含有することを特徴とする放熱性塗料組成物。

【公開番号】特開2011−20870(P2011−20870A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165303(P2009−165303)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000174541)堺化学工業株式会社 (96)
【Fターム(参考)】