説明

酸化亜鉛機能膜の製造方法及び該方法により得られる酸化亜鉛機能膜

【課題】導電性に優れ、紫外線遮蔽性及び赤外線遮蔽性が高く、かつ、高い可視光透過性を有する酸化亜鉛機能膜の製造方法及び該方法により得られる酸化亜鉛機能膜を提供する。
【解決手段】亜鉛源として亜鉛イオンと、ドーパント源として亜鉛イオンとは異なる種類の金属イオンとをそれぞれ含みかつpHが6以上に調整された水溶液に予め亜鉛と酸素を含有する化合物からなるシード層が表面に存在する基材を浸漬することによって、基材上にドーパントを含んだ酸化亜鉛機能膜を自己組織的に析出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜、透明電極、帯電防止膜、電磁波シールド膜や電磁波シールドフィルム、反射防止膜などへの用途に利用、応用が期待される、酸化亜鉛機能膜の製造方法及び該方法により得られる酸化亜鉛機能膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の酸化亜鉛膜として、ゾルゲル法にてc軸配向した酸化亜鉛膜が得られることが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。しかしながら、ゾルゲル法で得られた酸化亜鉛膜は、500℃と非常に高温で焼成する必要があった。
【0003】
また、ここ数年活発に開発が進められている酸化亜鉛の成膜方法として、スパッタリング法、分子線エピタキシー法、有機金属気相成長法、イオンプレーティング法、反応性プラズマ蒸着法などの気相法があるが、どれも特殊で非常に高価な装置が必要であった。またその薄膜作製には長時間を要する等の点でコストや製作効率の観点から課題を有している方法が多かった。
【0004】
そのため、気相法に比べて、製造コストが低く、環境負荷のかかりにくい液相法による研究が進められている。
【0005】
例えば、一定方位への規則的な結晶配向構造を有する金属含有材料を含む結晶面を有する基板を金属酸化物が析出可能な反応溶液中に浸漬させて該金属含有材料を含む結晶面に金属酸化物結晶を析出させることを特徴とする金属酸化物構造体の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1では、針状及び棒状のいずれかの形状を有する金属酸化物構造体及び金属酸化物粒子を効率良く低コストで製造することができると記載されている。
【0006】
また、電解液中に基板を保持する工程、及び電着により該基板上に酸化亜鉛を形成する工程を含み、かつ該電解液には亜鉛イオンと少なくとも1種類以上の添加剤が含まれていることを特徴とする酸化亜鉛針状構造体の製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。この特許文献2の方法に使用される添加剤として、有機溶媒、ハロゲン化物、モノマー、モノマーの重合体、或いは界面活性剤が挙げられている。
【0007】
更に、亜鉛イオンを含む出発水溶液に基板を浸漬することによって、基板上にZnO結晶薄膜を自己組織的に生成する方法において、浸漬する基板に対してc軸が垂直に配向し、緻密な微細構造の高密度柱状ZnO結晶膜体が得られるように該出発水溶液中の亜鉛イオン濃度を調整することを特徴とした、高密度柱状ZnO結晶膜体の製造方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【非特許文献1】S.Sakka et al, Ceram. Soc. Jpn., 104, 1996, p.296-300
【特許文献1】特開2006−96591号公報(特許請求の範囲[請求項1]、明細書[0007])
【特許文献2】特開2002−356400号公報(特許請求の範囲[請求項1]及び[請求項2])
【特許文献3】特開2004−315342号公報(特許請求の範囲[請求項4])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献1に示される方法や上記特許文献2に示される方法では、基板に対して垂直な針状の酸化亜鉛を形成することはできても、緻密な膜を形成することはできなかった。また、特許文献2に示される方法では、特別な電解等の設備が必要であり、生産性が低い問題を有していた。更に、上記特許文献3に示される方法では、溶液内析出法により高密度柱状酸化亜鉛結晶膜が得られているが、透明導電膜や帯電防止膜、電磁波シールド膜の用途に対応可能な程度の導電性が高く、また、バンドギャップ由来に基づく紫外線を吸収する特性と異種金属元素がドープされることによるキャリア増加等による赤外線を遮蔽する特性を併せ持つ膜は得られていない。
【0009】
本発明の目的は、導電性に優れ、紫外線遮蔽性及び赤外線遮蔽性が高く、かつ、高い可視光透過性を有する酸化亜鉛機能膜の製造方法及び該方法により得られる酸化亜鉛機能膜を提供することにある。
本発明の目的は、結晶性に優れ、かつ、緻密な微細構造を有する酸化亜鉛機能膜の製造方法及び該方法により得られる酸化亜鉛機能膜を提供することにある。
本発明の目的は、焼成が不要で、低温で簡便に製造し得る酸化亜鉛機能膜の製造方法及び該方法により得られる酸化亜鉛機能膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、亜鉛源として亜鉛イオンと、ドーパント源として亜鉛イオンとは異なる種類の金属イオンとをそれぞれ含みかつpHが6以上に調整された水溶液に予め亜鉛と酸素を含有する化合物からなるシード層が表面に存在する基材を浸漬することによって、基材上にドーパントを含んだ酸化亜鉛機能膜を自己組織的に析出させることを特徴とする酸化亜鉛機能膜の製造方法である。
請求項1に係る発明では、亜鉛源とドーパント源とをそれぞれ含む水溶液に基材を浸漬するという簡便な工程で、酸化亜鉛機能膜を製造することができる。本発明で得られた酸化亜鉛機能膜は、焼成が不要であり、従来の技術に比べて生産性が高い。このようにして得られた酸化亜鉛機能膜は、導電性に優れ、紫外線遮蔽性及び赤外線遮蔽性が高く、かつ、高い可視光透過性を有する。また、得られた酸化亜鉛機能膜は、結晶性に優れ、かつ、緻密な微細構造を有する。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、ドーパントが13族元素、14族元素、Mg、La及びCeからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素である製造方法である。
請求項2に係る発明では、ドーパントが上記種類の元素であれば、得られる酸化亜鉛機能膜の導電性を制御することができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、水溶液中に含まれる総金属量を100質量%としたときのドーパント濃度が0.1〜15質量%である製造方法である。
請求項3に係る発明では、ドーパント濃度が上記範囲内であれば、所望の導電性を有する酸化亜鉛機能膜を得ることができる。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3いずれか1項に係る発明であって、亜鉛と酸素を含有する化合物からなるシード層が、ゾルゲル法により形成された層である製造方法である。
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4いずれか1項に係る発明であって、シード層を構成する亜鉛と酸素を含有する化合物が、酸化亜鉛である製造方法である。
請求項6に係る発明は、請求項1ないし5いずれか1項に係る発明であって、シード層を構成する亜鉛と酸素を含有する化合物が、カルボン酸、アミノアルコール、アルコール及びアルコキシドからなる群より選ばれた1種又は2種以上を含む化合物である製造方法である。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項1ないし6いずれか1項に係る発明であって、酸化亜鉛機能膜を析出させる際の水溶液の温度が50〜90℃である製造方法である。
請求項7に係る発明では、水溶液の温度が上記範囲内であれば、品質の高い酸化亜鉛膜を形成することができる。
【0015】
請求項8に係る発明は、請求項1ないし7いずれか1項に係る発明であって、水溶液中の亜鉛イオン濃度が0.01〜0.50mol/Lである製造方法である。
請求項8に係る発明では、亜鉛イオン濃度が上記範囲内であれば、品質の高い酸化亜鉛膜を形成することができる。
【0016】
請求項9に係る発明は、亜鉛源として亜鉛イオンと、ドーパント源として亜鉛イオンとは異なる種類の金属イオンとをそれぞれ含みかつpHが6以上に調整され、液中に予め亜鉛と酸素を含有する化合物からなるシード層が表面に存在する基材を浸漬することによって、基材上にドーパントを含んだ酸化亜鉛機能膜を自己組織的に析出させる、請求項1ないし8いずれか1項に記載の製造方法に用いられる酸化亜鉛機能膜作製用水溶液である。
請求項10に係る発明は、請求項9に係る発明であって、ドーパントが13族元素、14族元素、Mg、La及びCeからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素である水溶液である。
請求項11に係る発明は、請求項9又は10に係る発明であって、液中に含まれる総金属量を100質量%としたときのドーパント濃度が0.1〜15質量%である水溶液である。
請求項12に係る発明は、請求項9ないし11いずれか1項に係る発明であって、亜鉛イオン濃度が0.01〜0.50mol/Lである水溶液である。
【0017】
請求項13に係る発明は、請求項1ないし8いずれか1項に記載の製造方法により製造された酸化亜鉛機能膜である。
請求項13に係る発明では、上記製造方法により製造された酸化亜鉛機能膜は、導電性に優れ、紫外線遮蔽性及び赤外線遮蔽性が高く、かつ、高い可視光透過性を有する。また、この酸化亜鉛機能膜は、結晶性に優れ、かつ、緻密な微細構造を有する。
【0018】
請求項14に係る発明は、請求項8記載の製造方法により製造され、その結晶構造が柱状連続膜構造を有する酸化亜鉛機能膜である。
請求項15に係る発明は、請求項13又は14に係る発明であって、基材表面に対して垂直にc軸が配向している酸化亜鉛機能膜である。
請求項16に係る発明は、請求項13ないし15いずれか1項に係る発明であって、ヘキサメチレンテトラミン又はポリエチレングリコールのいずれか一方又はその双方が酸化亜鉛機能膜表面に修飾されていることを特徴とする酸化亜鉛機能膜である。
【0019】
請求項17に係る発明は、請求項13ないし16いずれか1項に係る発明であって、亜鉛元素とは異なる種類の金属元素をドーパントとして含み、ドーパントが13族元素、14族元素、Mg、La及びCeからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、膜中に含まれる総金属量を100質量%としたときのドーパント濃度が0.1〜15質量%である酸化亜鉛機能膜である。
請求項18に係る発明は、請求項13ないし17いずれか1項に係る発明であって、導電性が10-1Ωcm以下でかつ可視光透過率が80%以上である酸化亜鉛機能膜である。
【0020】
請求項19に係る発明は、請求項13ないし18いずれか1項に記載の酸化亜鉛機能膜からなる紫外線及び赤外線の遮蔽膜である。
請求項20に係る発明は、請求項13ないし18いずれか1項に記載の酸化亜鉛機能膜からなる光触媒膜である。
請求項21に係る発明は、紫外及び緑色領域の少なくとも一方の波長領域で発光波長を有する請求項13ないし18いずれか1項に記載の酸化亜鉛機能膜からなる発光体である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の酸化亜鉛機能膜の製造方法は、亜鉛源として亜鉛イオンと、ドーパント源として亜鉛イオンとは異なる種類の金属イオンとをそれぞれ含みかつpHが6以上に調整された水溶液を用意し、この水溶液に予め亜鉛と酸素を含有する化合物からなるシード層が表面に存在する基材を浸漬することによって、基材上にドーパントを含んだ酸化亜鉛機能膜を自己組織的に析出させる。亜鉛源とドーパント源とをそれぞれ含む水溶液に基材を浸漬するという簡便な工程で、高温焼成することなく、特に高価な装置や複雑な装置を用いず、溶液内で基材に直接成膜するというコスト的に非常に有利な方法によって、高い配向性を有し、緻密な微細構造の酸化亜鉛機能膜を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明の酸化亜鉛機能膜の製造方法は、亜鉛源として亜鉛イオンと、ドーパント源として亜鉛イオンとは異なる種類の金属イオンとをそれぞれ含みかつpHが6以上に調整された水溶液を用意し、この水溶液に予め亜鉛と酸素を含有する化合物からなるシード層が表面に存在する基材を浸漬することによって、基材上にドーパントを含んだ酸化亜鉛機能膜を自己組織的に析出させることを特徴とする。亜鉛源とドーパント源とをそれぞれ含む水溶液に基材を浸漬するという簡便な工程で、高温焼成することなく、特に高価な装置や複雑な装置を用いず、溶液内で基材に直接成膜するというコスト的に非常に有利な方法によって、高い配向性を有し、緻密な微細構造の酸化亜鉛機能膜を製造することができる。
【0023】
酸化亜鉛機能膜の析出に使用する水溶液は、亜鉛源とドーパント源を水に溶解し、pHを調整することにより調製される。亜鉛源としては、水溶性で水溶液中で亜鉛イオンを形成することが可能な硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、塩化亜鉛などが挙げられる。
【0024】
水溶液中の亜鉛イオン濃度は0.01〜0.50mol/Lの範囲内に調整される。ここで、水溶液中の亜鉛イオン濃度を0.01〜0.50mol/Lの範囲としたのは、亜鉛イオン濃度が0.01mol/L未満であると、濃度が低すぎて基材上に膜が析出されないからであり、亜鉛イオン濃度が0.50mol/Lを越えると、基材上に膜は形成されるが、その結晶構造は緻密ではなく、また柱状構造とはならないからである。また、形成された膜の配向性が低く、導電性が悪化し、使用用途が限定されてしまう、可視光における透明性が確保できないといった問題が生じる。このうち、水溶液中の亜鉛イオン濃度は0.02〜0.20mol/Lとなるような割合が、0.02mol/L未満では膜の析出速度が遅くなる傾向にあり、0.20mol/Lを越えても膜の析出速度が上がらなくなる傾向にあるため、特に好ましい。
【0025】
ドーパント源は塩化物、硝酸塩、硫酸塩及び酢酸塩からなる群より選ばれた1種又は2種以上から構成される。ドーパント源が上記種類の化合物から構成され、亜鉛源を含む水溶液にドーパント源を溶解させ、水溶液中で亜鉛イオンと異種金属イオンを共存させることで、得られる酸化亜鉛膜中の均一な導電性や紫外線遮蔽性及び赤外線遮蔽性、蛍光特性を確保することができる。
【0026】
ドーパントは、全ての元素が可能だが、特に13族元素、14族元素、Mg、La及びCeからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素が好ましい。具体的なドーパント種には、B、Al、Ga、In、Tl、C、Si、Ge、Sn、Pb、Mg、La、Ceが挙げられる。ドーパントが上記種類の元素であれば、得られる酸化亜鉛機能膜の導電性や光学特性、蛍光特性を制御することができる。
【0027】
水溶液中に含まれる総金属量を100質量%としたときのドーパント濃度は0.1〜15質量%である。ここで、ドーパント濃度を0.1〜15質量%の範囲としたのは、ドーパント濃度が0.1質量%未満であると、所望の導電性が得られないからであり、ドーパント濃度が15質量%を越えると、連続膜が形成されないからである。このうち、ドーパント濃度は0.5〜5.0質量%となるような割合が、0.5質量%未満では十分な機能が得られ難く、5.0質量%を越えてもその機能は向上しないため、特に好ましい。
【0028】
ここで、水溶液のpHを6以上としたのは、pHが6未満であると、水溶液中に水酸化亜鉛粒子が生成してしまい、また、基材上に水酸化亜鉛膜が形成されてしまうか、或いは配向性のない酸化亜鉛膜となり、光透過性が損なわれるためである。このうち、水溶液のpHは6〜10となるような割合が、膜の析出速度の観点から、特に好ましい。亜鉛源とドーパント源を溶解した水溶液を上記範囲内のpHとなるように調整するため、水溶液にアルカリ源を添加する。アルカリ源としては、得られる酸化亜鉛機能膜の配向性を重視する場合、アミン系化合物が好ましい。このうち、ヘキサメチレンテトラミン、アンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンが特に好ましい。
【0029】
また、水溶液の原料として、ヘキサメチレンテトラミンやポリエチレングリコールを用いると、配向性が向上し、得られた酸化亜鉛機能膜表面にヘキサメチレンテトラミンやポリエチレングリコールが修飾されて残存する場合がある。
【0030】
水溶液に基材を浸漬する際に、水溶液の温度を調整する。酸化亜鉛機能膜を析出させる際の水溶液の温度は50〜90℃である。水溶液の温度が上記範囲内であれば、品質の高い酸化亜鉛膜を形成することができる。ここで、水溶液の温度を50〜90℃としたのは、50℃未満では反応が進まず、90℃を越えると水の蒸発が早く、亜鉛イオン水溶液が乾固するという不具合を生じるからである。このうち、水溶液の温度は60〜80℃が膜の析出速度の観点から、特に好ましい。
【0031】
酸化亜鉛機能膜を析出させる基材は、亜鉛と酸素を含有する化合物からなるシード層が表面に存在すればどのような基材を用いても良い。例えば、基材として、ガラス基板やシリコン基板、フレキシブル基板として、PETフィルムやポリイミドフィルム、ポリカーボネートフィルム等が挙げられる。また、シード層は、表面に限らず、裏面や側面が存在していても良く、一部分又は全面にシード層が存在していても良い。例えば、基材表面に予め亜鉛と酸素を含有する化合物からなるシード層を形成した基材を用いてもよい。基材表面に予めシード層が形成された基材は、酸化亜鉛膜が形成し難いような非晶質の基材であっても、良好に膜形成を行うことができるためである。
【0032】
基材表面にシード層を形成する方法としては、シード層を形成することができるのであればどのような方法を用いても構わない。例えば、次のような方法によって、基材表面にシード層を形成することができる。先ず、2−メトキシエタノール、2−アミノエタノール及び酢酸亜鉛を混合し、60℃にて攪拌することによって溶液を調製する。次いで、この得られた亜鉛溶液を基材表面にスピンコートする。次に、スピンコートした基材を75〜600℃で焼成するというゾルゲル法によって、基材表面にシード層を形成することができる。シード層形成の際の焼成温度としては90〜400℃が好ましい。90℃未満では析出させる酸化亜鉛機能膜の配向性が若干悪くなる傾向にあるためである。また、400℃を越えても、析出させる酸化亜鉛機能膜の配向性がほとんど向上しないためである。従って、省エネルギーの観点からも400℃以下が好ましい。特に、焼成温度が100〜300℃の場合は、基材として、PETフィルムやポリイミドフィルム、ポリカルボネートフィルム等のフレキシブル基板を用いることができる。ここでの、焼成方法はどのような方法を用いても良く、焼成炉での加熱や、赤外線加熱炉、マイクロ波照射等の方法が挙げられる。シード層の組成としては、酸化亜鉛や、カルボン酸、アミノアルコール、アルコール及びアルコキシドからなる群より選ばれた1種又は2種以上を含む亜鉛との化合物が好ましく、このうち配向性を重視する場合は酸化亜鉛が特に好ましい。
【0033】
調製された水溶液に基材を浸漬し、所定の時間静置することによって、基材上にドーパントを含んだ酸化亜鉛機能膜を自己組織的に析出させる。基材を水溶液中に浸漬する時間は5時間以下が好ましい。ここで、浸漬時間を5時間以下としたのは、浸漬時間が長すぎると形成される膜の可視光透過性が悪くなる傾向があるためである。このうち、浸漬時間は3時間以下が、特に好ましい。
【0034】
なお、基材を水溶液に浸漬して酸化亜鉛機能膜を析出させる際の容器はどのようなものを用いてもよい。機能膜を析出させる際の諸条件に併せて、開放型容器や密閉系容器を使い分けることが好ましい。
【0035】
上記製造方法により製造された酸化亜鉛機能膜は、導電性に優れ、紫外線遮蔽性及び赤外線遮蔽性が高く、かつ、高い可視光透過性を有する。具体的には、10-1Ωcm以下の高い導電性を有し、かつ80%以上の高い可視光透過率を有する。特に、亜鉛イオン濃度が0.01〜0.50mol/Lの水溶液を用いて製造された酸化亜鉛膜は、その結晶構造が柱状連続膜構造を有し、緻密な微細構造が形成される。また、上記製造方法により製造された酸化亜鉛機能膜は、基材表面に対して垂直にc軸が配向し、優れた結晶性を有する。また、酸化亜鉛機能膜は、その表面にヘキサメチレンテトラミン又はポリエチレングリコールのいずれか一方又はその双方が修飾されることで、配向性が向上する。具体的には、本発明の酸化亜鉛機能膜は、亜鉛元素とは異なる種類の金属元素をドーパントとして含み、ドーパントが13族元素、14族元素、Mg、La及びCeからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、膜中に含まれる総金属量を100質量%としたときのドーパント濃度が0.1〜15質量%である。
【0036】
上記酸化亜鉛機能膜は、紫外線遮蔽性及び赤外線遮蔽性が高いため、遮蔽膜として使用することができる。また、上記酸化亜鉛機能膜は、光触媒機能を有し、特に防汚、防曇、超親水、抗菌効果を示すため、光触媒膜として有効である。更に、上記酸化亜鉛機能膜は、紫外及び緑色領域の少なくとも一方の波長領域で発光波長を有するため、蛍光発光体としても有効である。
【実施例】
【0037】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
亜鉛源として硝酸亜鉛を、ドーパント源として塩化ガリウムを用意した。pH調整のためのアルカリ源として、ヘキサメチレンテトラミンを用意した。また、基材として酸化亜鉛シード層付きガラス基板を用意した。先ず、硝酸亜鉛と塩化ガリウムを水に溶解し、アルカリ源を添加し、pHが6となるように調整して水溶液を調製した。なお、水溶液中の亜鉛イオン濃度は0.05mol/L、水溶液中に含まれる総金属量を100質量%としたときのドーパント濃度は1質量%となるように調整した。次に、調製した水溶液をビーカーに入れて水溶液温度を80℃に加温し、そこに酸化亜鉛シード層付きガラス基板を浸漬し、水溶液温度を80℃に保持しながら静置し、3時間後に水溶液からガラス基板を取り出した。取り出したガラス基板上には酸化亜鉛膜が析出されていた。析出により形成された酸化亜鉛膜の膜厚は0.9μmであった。また、得られた酸化亜鉛膜中に含まれるドーパント濃度は1質量%であった。
【0038】
得られた膜の断面をSEM(scanning electron microscope、走査型電子顕微鏡)により観察したところ、図1に示すように、酸化亜鉛シード層上に柱状の酸化亜鉛がガラス基板に垂直に配列するように柱状連続膜構造の酸化亜鉛膜が成長していることが確認された。また、X線回折(XRD、X-ray Diffractmeter)による測定の結果、図2に示すように、得られた酸化亜鉛膜はXRDパターンでは酸化亜鉛(002)面及び(004)面以外のピークはほぼ見られず、強くc軸配向した酸化亜鉛膜であることが確認された。
【0039】
<実施例2〜12>
次の表1に示すように、ドーパント種、ドーパント濃度、水溶液中の亜鉛イオン濃度、水溶液のpH、水溶液温度、保持時間及び基材の種類をそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にして、基材上に酸化亜鉛膜を形成した。析出により形成された酸化亜鉛膜の膜厚は、0.3μm(実施例2)、0.1μm(実施例3)、0.5μm(実施例4)、0.3μm(実施例5)、0.3μm(実施例6)、0.2μm(実施例7)、0.3μm(実施例8)、0.2μm(実施例9)、0.2μm(実施例10)、0.3μm(実施例11)及び0.2μm(実施例12)であった。
【0040】
得られた膜の断面をSEM(scanning electron microscope、走査型電子顕微鏡)により観察したところ、酸化亜鉛シード層上に柱状の酸化亜鉛が基材に垂直に配列するように柱状連続膜構造の酸化亜鉛機能膜が成長していることが確認された。また、X線回折(XRD、X-ray Diffractmeter)による測定の結果、得られた酸化亜鉛膜はXRDパターンでは酸化亜鉛(002)面及び(004)面以外のピークはほぼ見られず、強くc軸配向した酸化亜鉛膜であることが確認された。
【0041】
<比較例1>
次の表1に示すように、水溶液のpHを6.0から5.0に変更した以外は実施例1と同様にして、水溶液中に基材を浸漬したが、基材上には酸化亜鉛ではない、水酸化亜鉛からなる不均一な膜が形成された。なお、水溶液中に水酸化亜鉛粒子が生成されていた。
【0042】
<比較例2>
次の表1に示すように、ドーパント種を添加せず、水溶液のpHを6.0から6.8に変更した以外は実施例1と同様にして、基材上に酸化亜鉛膜を形成した。析出により形成された酸化亜鉛膜の膜厚は0.4μmであった。
【0043】
得られた膜の断面をSEM(scanning electron microscope、走査型電子顕微鏡)により観察したところ、酸化亜鉛シード層上に柱状の酸化亜鉛が基材に垂直に配列するように柱状連続膜構造の酸化亜鉛膜が成長していることが確認された。また、X線回折(XRD、X-ray Diffractmeter)による測定の結果、得られた酸化亜鉛膜はXRDパターンでは酸化亜鉛(002)面及び(004)面以外のピークはほぼ見られず、強くc軸配向した酸化亜鉛膜であることが確認された。
【0044】
【表1】

表1から明らかなように、水溶液のpHが5.0と低い比較例1では、水溶液中に水酸化亜鉛粒子が発生してしまい、また基材上に膜が析出しても水酸化亜鉛からなる不均一な膜であった。
【0045】
一方、実施例1〜12では、基材上に酸化亜鉛膜が得られており、得られた膜は柱状連続膜構造であり、酸化亜鉛(002)面及び(004)面のピークのみを有するc軸に配向した膜であった。なお、水溶液にドーピング源が含まれていない比較例2は、実施例1〜12と同様に、柱状連続膜構造の酸化亜鉛膜が得られていた。
【0046】
<比較試験1>
実施例2,3,7〜12及び比較例2で得られた酸化亜鉛膜について、導電性と可視光透過率を求めた。その結果を次の表2にそれぞれ示す。なお、導電性は四探針法(ロレスタEP;三菱化学社製)により測定し、体積抵抗値として求めた。また、可視光透過率は分光光度計(V570;日本分光社製)により測定した。
【0047】
【表2】

表面に酸化亜鉛膜やシード層が作製されていないガラス基板の可視光透過率を測定したところ、89%であった。表2から明らかなように、比較例2の酸化亜鉛膜は、可視光透過率は84%と良好な透明性が得られていたが、導電性は100Ωcmのオーダーであり、非常に導電性に劣ることが確認された。
【0048】
一方、本発明の実施例2,3,7〜12で得られた酸化亜鉛膜は、導電性が10-1Ωcm以下であり、かつ可視光透過率が80%以上となっており、良好な透明導電膜が作製されていることが判った。
【0049】
<実施例13>
実施例1で作製したガリウムドープ酸化亜鉛機能膜付きガラス基板の紫外線遮蔽特性及び赤外線遮蔽特性について評価した。これらの光学特性は、前述した比較試験1で使用した分光光度計により測定することで特性を評価した。その結果、実施例1で作製したガリウムドープ酸化亜鉛機能膜付きガラス基板は、紫外線遮蔽効果及び赤外線遮蔽効果の双方を備えていることが確認された。
【0050】
<実施例14>
実施例1で作製したガリウムドープ酸化亜鉛機能膜付きガラス基板の光触媒活性をそれぞれ評価した。なお、光触媒活性は、以下に示す手順により評価した。
【0051】
先ず、ガリウムドープ酸化亜鉛機能膜付きガラス基板を1Lのガラス製容器内に入れ、容器を密閉した。次いで、容器内に350ppm(初期濃度)のアセトアルデヒドを導入した。次に、このアセトアルデヒドを導入した容器を照射量1.2mW/cm2の紫外線ランプで1時間照射した。照射後の容器内部のアセトアルデヒド濃度をガス検知管(ガステック社製)で測定し、下記に示す式(1)に基づいて除去率を求めた。
【0052】
除去率[%]=[(初期濃度−光照射後の濃度)÷初期濃度]×100 ……(1)
評価の結果、アセトアルデヒド除去率が90%と高い結果が得られた。この結果から、本発明のガリウムドープ酸化亜鉛機能膜付きガラス基板の酸化亜鉛機能膜が良好な光触媒機能を有することが示された。
【0053】
<実施例15>
実施例1で作製したガリウムドープ酸化亜鉛機能膜付きガラス基板について、蛍光測定を行った。その結果、発光スペクトルでは、波長約385nmの紫外発光と、約550nmにピークトップを持つ緑色発光が検出され、本発明の実施例1で作製したガリウムドープ酸化亜鉛機能膜付きガラス基板の酸化亜鉛機能膜が良好な発光体であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1で得られた酸化亜鉛膜断面のSEM画像を示す図。
【図2】実施例1で得られた酸化亜鉛膜のXRDパターンを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛源として亜鉛イオンと、ドーパント源として前記亜鉛イオンとは異なる種類の金属イオンとをそれぞれ含みかつpHが6以上に調整された水溶液に予め亜鉛と酸素を含有する化合物からなるシード層が表面に存在する基材を浸漬することによって、前記基材上にドーパントを含んだ酸化亜鉛機能膜を自己組織的に析出させることを特徴とする酸化亜鉛機能膜の製造方法。
【請求項2】
ドーパントが13族元素、14族元素、Mg、La及びCeからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
水溶液中に含まれる総金属量を100質量%としたときのドーパント濃度が0.1〜15質量%である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
亜鉛と酸素を含有する化合物からなるシード層が、ゾルゲル法により形成された層である請求項1ないし3いずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
シード層を構成する亜鉛と酸素を含有する化合物が、酸化亜鉛である請求項1ないし4いずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
シード層を構成する亜鉛と酸素を含有する化合物が、カルボン酸、アミノアルコール、アルコール及びアルコキシドからなる群より選ばれた1種又は2種以上を含む化合物である請求項1ないし5いずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
酸化亜鉛機能膜を析出させる際の水溶液の温度が50〜90℃である請求項1ないし6いずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
水溶液中の亜鉛イオン濃度が0.01〜0.50mol/Lである請求項1ないし7いずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
亜鉛源として亜鉛イオンと、ドーパント源として前記亜鉛イオンとは異なる種類の金属イオンとをそれぞれ含みかつpHが6以上に調整され、液中に予め亜鉛と酸素を含有する化合物からなるシード層が表面に存在する基材を浸漬することによって、前記基材上にドーパントを含んだ酸化亜鉛機能膜を自己組織的に析出させる、請求項1ないし8いずれか1項に記載の製造方法に用いられる酸化亜鉛機能膜作製用水溶液。
【請求項10】
ドーパントが13族元素、14族元素、Mg、La及びCeからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素である請求項9記載の水溶液。
【請求項11】
液中に含まれる総金属量を100質量%としたときのドーパント濃度が0.1〜15質量%である請求項9又は10記載の水溶液。
【請求項12】
亜鉛イオン濃度が0.01〜0.50mol/Lである請求項9ないし11いずれか1項に記載の水溶液。
【請求項13】
請求項1ないし8いずれか1項に記載の製造方法により製造された酸化亜鉛機能膜。
【請求項14】
請求項8記載の製造方法により製造され、その結晶構造が柱状連続膜構造を有する酸化亜鉛機能膜。
【請求項15】
基材表面に対して垂直にc軸が配向している請求項13又は14記載の酸化亜鉛機能膜。
【請求項16】
ヘキサメチレンテトラミン又はポリエチレングリコールのいずれか一方又はその双方が酸化亜鉛機能膜表面に修飾されていることを特徴とする請求項13ないし15いずれか1項に記載の酸化亜鉛機能膜。
【請求項17】
亜鉛元素とは異なる種類の金属元素をドーパントとして含み、前記ドーパントが13族元素、14族元素、Mg、La及びCeからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、膜中に含まれる総金属量を100質量%としたときのドーパント濃度が0.1〜15質量%である請求項13ないし16いずれか1項に記載の酸化亜鉛機能膜。
【請求項18】
導電性が10-1Ωcm以下でかつ可視光透過率が80%以上である請求項13ないし17いずれか1項に記載の酸化亜鉛機能膜。
【請求項19】
請求項13ないし18いずれか1項に記載の酸化亜鉛機能膜からなる紫外線及び赤外線の遮蔽膜。
【請求項20】
請求項13ないし18いずれか1項に記載の酸化亜鉛機能膜からなる光触媒膜。
【請求項21】
紫外及び緑色領域の少なくとも一方の波長領域で発光波長を有する請求項13ないし18いずれか1項に記載の酸化亜鉛機能膜からなる発光体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−230878(P2008−230878A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70566(P2007−70566)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】