説明

酸化亜鉛焼結体、それから成るスパッタリングターゲットおよび酸化亜鉛薄膜

【課題】ターゲットの製造時およびスパッタリング時に割れを生じることのない高強度な酸化亜鉛焼結体および高抵抗な酸化亜鉛薄膜を提供する。
【解決手段】ジルコニウムを10〜1000ppm含有し、抵抗率が10Ω・cm以下である円筒形状の酸化亜鉛焼結体から成るスパッタリングターゲットを作製する。
またジルコニウムを10〜2000ppm含有し、抵抗率が10Ω・cm以上であり、膜厚100nmのとき、波長500nmの透過率が75%以上の酸化亜鉛薄膜を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング法により酸化亜鉛薄膜を製造する際に原料として用いられる酸化亜鉛焼結体および酸化亜鉛薄膜に関する。詳しくは、高抵抗の酸化亜鉛薄膜をスパッタリング法で作製することができる高強度かつ低抵抗な焼結体、それから成るターゲットおよび酸化亜鉛薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛は、六方晶系の結晶構造を有する白色の粉末であり、近年では薄膜の形態で様々な用途に用いられている。この酸化亜鉛薄膜を形成する方法としては真空蒸着法やスパッタリング法などの物理蒸着法や、CVDなどの化学蒸着法などの手段があるが、蒸気圧の低い材料でも安定して成膜でき、かつ操作が容易なことなどからスパッタリング法が広く使用されている。このスパッタリング法は陰極に設置したターゲットにArイオンなどの正イオンを物理的に衝突させ、その衝突エネルギーでターゲットを構成する材料を放出させて、対面に設置した基板上にターゲット材料とほぼ同組成の膜を堆積する方法であり、直流スパッタリング法(DCスパッタリング法)と高周波スパッタリング法(RFスパッタリング法)がある。直流スパッタリング法は、直流電源を用い陰極のターゲットに直流電圧を印加する方式であり、成膜速度が速く生産性が高いが、使用できるターゲットの抵抗率が10Ω・cm以下でなければならないという制約がある。もし、抵抗率が10Ω・cm以上の場合はスパッタリング中に発生する放電が安定しないためである。一方、高周波スパッタリング法は直流電源の代わりに高周波電源を用いる方法であり、使用するターゲットが導電性材料で無くてもよいが、直流スパッタリング法に比べて膜の堆積速度が遅いため生産性が低く、かつ電源や装置が複雑で高価なため生産のための設備コストが高い課題がある。そのため、直流スパッタリング可能なターゲットが望まれている。
【0003】
酸化亜鉛薄膜として最もよく用いられているのは、透明導電膜である。例えば0.1atm%(1120ppmに相当)以上のジルコニウムを加えた酸化亜鉛薄膜があり(例えば特許文献1)、添加物を加えることで導電性を持たせ、太陽電池用の透明導電膜などの用途で用いられている。しかし、その薄膜の導電率は0.0003Ω・cmであり、高抵抗用薄膜としては使用する事はできない。
【0004】
また、上記以外の酸化亜鉛を主成分とする薄膜の用途として、高抵抗な酸化亜鉛薄膜がある。例えば、CIGS系薄膜型太陽電池などのバッファ層として1.0Ω・cm以上の高抵抗な値を持つ酸化亜鉛薄膜が用いられ(例えば特許文献2)、その抵抗率は高ければ高いほど良い。この膜をスパッタリング法により作製するための酸化亜鉛ターゲットは、添加物や不純物を極力含まない高純度なものが使用される(例えば特許文献3)。その理由は、膜中に不純物が存在すると、不純物からキャリア電子が発生し膜の抵抗率を低下させ、高抵抗の薄膜が得られないためである(特許文献2)。この高抵抗な酸化亜鉛薄膜は、原料が比較的安価で、かつスパッタリング法により高抵抗な膜が得られる利点を持つが、二つの大きな課題があった。
【0005】
第一の課題は、このターゲットの導電性が低いため、直流スパッタリング法に適さないことである。高純度の酸化亜鉛ターゲットは、不純物によるキャリアの発生が少ないために抵抗が10Ω・cm以上になり、直流スパッタリング法には適していない。そのため、成膜速度が低く、設備コストが高い高周波スパッタリング法を用いなければならないという課題があった。
【0006】
この課題を克服する方法として、反応性スパッタリング法が知られている。この方法は、Arガスと一緒に反応性のガスを導入し、Arイオンの衝突により放出されたターゲット材料を反応性ガスと反応させ、基板上に絶縁膜として堆積させる方法であり、導電性のターゲットを用いて直流スパッタリング法により絶縁性の膜を形成できるという特徴を持つ。高抵抗の酸化亜鉛膜を成膜する場合、導電性の金属の亜鉛ターゲットを用い、Arガスに酸素ガスを添加して直流スパッタリング法により絶縁性の酸化亜鉛薄膜を堆積することが可能となる。しかし、この方法は添加する反応性ガスの量、または亜鉛の堆積速度の経時変化により膜質が大きく変動するため、反応の制御が難しく安定した膜の抵抗率が得にくいという課題があった。
【0007】
また、その他の方法として、金属の亜鉛を酸化亜鉛粉末中に混合し、亜鉛の溶融温度以下で焼成するという方法が提案されている(特許文献5)。この方法では金属の亜鉛を含有するため、ターゲットの抵抗が低くなるが、焼成温度が亜鉛の融点(419.5℃)付近になるため、この条件では酸化亜鉛は緻密化せず著しく脆いターゲットとなり、スパッタリング中にターゲットが割れるという課題があった。
【0008】
高抵抗膜用の酸化亜鉛ターゲットの第二の課題は、ターゲットの強度が低いことである。ここで言う強度とはターゲットの物理的強度のことで、測定値としては抗折強度で表される。高純度な酸化亜鉛ターゲット材は不純物がほとんど存在しないため、ターゲットを焼成により作製する際には、不純物による焼結阻害が起こりにくい。そのためターゲットの粒成長が促進され、かつ異常粒成長も発生しやすいため、焼結体の強度が極めて弱くなる。かつ、内部よりも外部が先に焼結し、緻密化が起こるため、内部に気泡が残り、焼結体は低密度となりやすい。また、不純物がほとんどないために粒界における相互作用が弱く粒界部分で割れ、欠け、もげなどが非常におきやすい。そのため、内部まで緻密化するために酸化亜鉛の焼成を1200℃の高温で行うことが提案されているが(特許文献3)、その温度で焼成した場合は、焼結体の粒成長が促進され粒径が増大し、抗折強度で40MPa未満の極めて脆いターゲットとなる。ターゲットの強度が低いと、スパッタリング法でターゲットを使用すると割れが発生するという問題があった。
【0009】
また、最近、円筒形状のスパッタリングターゲットが使用され始めたが、従来の平板形状のターゲットよりもスパッタリング中に内部に発生する応力が大きいために、更に高い強度が必要とされる。
【0010】
以上の理由から、従来の円筒形状のターゲットは、金属材料で広く使用されていたが、強度が低く脆いセラミックス材料はスパッタリング中や製造中に割れが発生し易いため、溶射法によるターゲット以外はほとんど使用されていなかった。この溶射法によるセラミックスターゲットは、ターゲット内に気泡が残りやすく、相対密度が90%以下の低密度のターゲットとなる。そのため、スパッタリング中にターゲットの割れや異常放電が発生し易いという欠点があった。
【0011】
また、円筒形状のターゲットに用いられる回転カソードスパッタ装置は、高周波スパッタリングには適さない。そのため、円筒形状の酸化亜鉛ターゲットには、高密度、高強度、かつ直流スパッタリングが可能な導電性のあるターゲットが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平2−149459号公報
【特許文献2】国際公開第2009/110092号パンフレット
【特許文献3】特開2009−167095号公報
【特許文献4】特表昭58−500174号公報
【特許文献5】特開2008−115453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、ターゲットの製造時およびスパッタリング時に割れを生じることのない高強度な酸化亜鉛焼結体および高抵抗な酸化亜鉛薄膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題に関し鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち本発明は、以下のとおりである。
(1)ジルコニウムを10〜1000ppm含有することを特徴とする酸化亜鉛焼結体。
(2)抵抗率が10Ω・cm以下である、(1)に記載の酸化亜鉛焼結体。
(3)円筒形状である(1)または(2)に記載の酸化亜鉛焼結体。
(4)上述の(1)〜(3)いずれかに記載の焼結体から成ることを特徴とする酸化亜鉛スパッタリングターゲット。
(5)ジルコニウムを10〜2000ppm含有し、抵抗率が10Ω・cm以上であることを特徴とする酸化亜鉛薄膜。
(6)膜厚100nmのとき、波長500nmの透過率が75%以上である、(5)に記載の酸化亜鉛薄膜。
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。なお本発明において、ジルコニウムのppmとは全体重量に占めるジルコニウムの含有重量率を示す。
【0016】
初めに本発明の焼結体について説明する。本発明の焼結体は、ジルコニウムを10〜1000ppm含有する酸化亜鉛焼結体である。このジルコニウムの含有量は本発明の最も重要な点である。ジルコニウムを10ppm以上含有することにより、ジルコニウムを酸化亜鉛焼結体の粒内や粒界に均一に存在させることができ、酸化亜鉛焼結体の強度を飛躍的に向上させることができる。10ppm未満ではジルコニウムを均一に酸化亜鉛焼結体中に分散させることが難しく、酸化亜鉛焼結体の強度向上は望めない。また、ジルコニウムの含有量は多いほど焼結体の強度が増加するが、ジルコニウム含有量が1000ppmを超えると、その焼結体から成るスパッタリングターゲットを用いて成膜した酸化亜鉛薄膜の抵抗率が低下するため、高抵抗膜を製造することができるという効果が小さくなる。従って、本発明の焼結体において、ジルコニウムの含有量は10ppm以上でかつ1000ppm以下とする必要がある。この範囲のジルコニアを含有することにより、本発明の焼結体は強度が高く、かつターゲットとして用いたときに高抵抗の酸化亜鉛薄膜を製造することができる。さらに高強度の酸化亜鉛焼結体を得るためには、ジルコニウムの含有量は30ppm以上1000ppm以下が望ましい。
【0017】
このように本発明の酸化亜鉛焼結体は高い強度を有するため、円筒形状の酸化亜鉛系ターゲットを製造することができ、かつスパッタリングターゲットとして使用することができる。
【0018】
また本発明の焼結体の抵抗率は10Ω・cm以下であることが好ましい。これにより、焼結体の抵抗率が低下し、スパッタリングターゲットとして利用したときに直流スパッタリングが可能となる。抵抗率を10Ω・cm以下とする方法には特に限定はなく、例えばジルコニウムの含有量を500ppm以上とするか、または酸化亜鉛中に酸素欠陥を発生させ、酸化亜鉛焼結体のバルク抵抗値を低くすればよい。酸化亜鉛中に酸素欠陥が存在するとキャリアが発生し、焼結体の抵抗率が減少するからである。酸素欠陥の作製方法としては特に限定しないが、例えば焼結体の焼成時に雰囲気中の酸素分圧を低下させればよい。このようにして、ジルコニウムの含有量が500ppm未満の場合でも、焼結体の抵抗率を通常の1/100程度に低減することができる。なお、この様な焼結体を用いてターゲットを作製し、スパッタリングによって成膜する際には、微量の酸素ガスを添加することにより酸素の不足を補えばよい。
【0019】
本発明のジルコニウム含有酸化亜鉛焼結体は、例えば以下のようにして製造することができる。原料とする酸化亜鉛粉末は膜の抵抗を低減させないために、不純物を極力含まないものを用いる事が望ましい。添加するジルコニウム源は、金属ジルコニウム、塩化ジルコニウムなど各種ジルコニウム塩、ジルコニウム錯体、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、部分安定化ジルコニア、安定化ジルコニア、アルミナ添加ジルコニアなど、ジルコニウムを含むものならば特に限定しないが、酸化亜鉛と同じ酸化物である酸化ジルコニウム、部分安定化ジルコニア、安定化ジルコニアまたはアルミナ添加ジルコニアが望ましい。添加物の性状は特に限定しないが、添加物として粉末を使用する場合は、分散性を向上させるためにその粉体は細かければ細かいほど良い。
【0020】
混合方式としては特に限定しないが、なるべく均一に混合する事が望ましく、乾式によるボールミル混合、湿式ビーズミル混合または撹拌混合などの方法が使用できる。また、ジルコニウム源を所定量混合した酸化亜鉛粉末を更に酸化亜鉛粉末に混合して所定の濃度に希釈する方法も均一に混合する方法として有効である。
【0021】
他の添加物混合方法として、粉砕、混合または分散装置のメディアとして酸化ジルコニウムを用いる方法がある。即ち、本方法は、粉砕、混合、分散装置としてジルコニアビーズまたはおよびジルコニアライニングされた容器を使用して酸化亜鉛の粉砕、混合、分散することで微量のジルコニウムを酸化亜鉛粉末に混合する方法であり、粉砕、混合、分散装置のメディアが汚染源とならず逆にジルコニウム源となる利点がある。例えば、酸化亜鉛をスラリー化し、ジルコニアビーズと一緒にジルコニアライニング容器で分散を行なうことにより、ジルコニウムを酸化亜鉛に均一に混合することができる。このような手法を用いることで、微量のジルコニウムを酸化亜鉛に均一に分散させる事が可能となる。添加量は10ppm以上1000ppm以下となるように処理時間で制御することができる。
【0022】
粉砕、混合、分散装置は湿式が望ましいが、乾式を用いてもかまわない。
【0023】
最終的な粉末の状態は特に限定しないが、乾式で成形する場合には、粉末の流動性が高く成形体密度が均一となる造粒粉末を用いるのが望ましい。造粒方法についても特に限定しないが、噴霧造粒、流動層造粒、転動造粒、撹拌造粒などが使用できる。特に、操作が容易で、多量に処理できる噴霧造粒を用いることが望ましい。
【0024】
粉末の物性としては特に規定しないが、高密度な焼結体を得るためにはBET比表面積は2m/g以上、20m/g以下である事が望ましく、さらに望ましくは4m/g以上、10m/g以下である事が望ましい。2m/gより低い比表面積の場合、焼結体の緻密化が進行し難く、低密度となり焼結体の強度が低下する。一方、20m/gよりも高い比表面積の場合には、粉体が凝集して成形しにくい。また、焼結性が良いために焼結時には粒成長が進み、粗大な粒子となって焼結体の強度を低下させる。
【0025】
このとき、粉末の二次粒径は、粉末の成形性、焼結性を考慮すると、平均の二次粒径1.5μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜1.5μmである。このような粉末を使用することにより、焼結体密度が向上する。ここでの二次粒径とはTEMなどで観察されるような1次粒子が凝集した状態の粒子のことで、主に粉末を懸濁後に湿式の粒度分布計などで測定した際に得られる粒子径のことである。粉末のかさ密度は0.5〜1.8g/cmが好ましい。このかさ密度の範囲にある粉末は、取扱性に優れ、成形歩留まりが高く、焼結体の密度も高まる。また、粉末の安息角は45°以下である事が望ましい。これ以上の数値だと粉末の流動性が悪く均一に粉末を充填することができない。さらには35°以下であることがさらに望ましい。
【0026】
成形体の製造方法は特に問わないが、金型プレス成形法、冷間静水圧プレス成形法または鋳込み成形法を用いることができる。原料として用いる粉末やスラリーは、有機もしくは無機バインダーを含んでいてもかまわない。上記方法は、平板状、円筒状等の様々な形状に用いることができる。
【0027】
得られた成形体は高温で焼結することにより焼結体とする。焼結体の製造に用いられる製造装置は特に限定しないが、電気炉、ガス炉、ホットプレスなどが使用でき、中でも生産性、炉内の温度分布、装置が比較的安価であることから電気炉が望ましい。本発明では10ppm以上のジルコニウムを酸化亜鉛に混合することにより、相対密度95%以上の緻密な焼結体を得ることができる。その理由は、ジルコニウムが酸化亜鉛の焼成を阻害し収縮速度が低下するため、焼結粒径がジルコニウムを含まないのものより小さくなり、かつ、外部と内部の焼成による収縮差が減少して焼結体内部に気泡が取り残されにくく高密度な焼結体が得られるためである。また、ジルコニウムを添加することにより粒界の相互作用の力を増大させ、粒界における割れ、欠け、もげなどを緩和する事ができる。
【0028】
焼結条件は特に限定しないが、焼成時間の短縮と割れ防止のため、昇温速度は10〜400℃/時間とするのが望ましい。また、焼成温度は900℃〜1200℃が望ましく、さらに、更に相対密度97%以上の緻密な焼結体を得るには950℃〜1150℃が望ましい。降温速度についても割れ防止ため10〜400℃/時間で行なう事が望ましい。特に熱衝撃による焼結体の割れを防止するために、焼結体を炉から取り出す温度は室温付近で行なう事が望ましい。
【0029】
焼結体の密度は高いほど強度が高くなるため、相対密度で95%以上、さらに望ましくは97%以上とすることが望ましい。また、焼結体の粒径は微細なほど強度が高いため、その平均焼結体粒径は1〜15μmが望ましく、さらには1〜10μmの粒径である事が望ましい。
【0030】
硬度は、ビッカース硬度にて120HV10以上、さらに望ましくは150HV10以上である事が望ましい。この様な焼結体は強度が高くなる。スパッタリング中のターゲットの割れを防止するためには、ターゲットはスパッタリングにおいてターゲット内に発生する熱応力よりも高い強度を持つ必要がある。この熱応力は、スパッタ条件やスパッタ装置により異なるが、一般的に40Mpa程度であるため、スパッタリング中のターゲットの割れを防止するためにはターゲットはそれ以上の強度、つまり抗折強度を持たねばならない。本発明の焼結体を用いることにより、ターゲットの抗折強度を40MPa以上とすることができる。このことにより、焼成、焼結体の加工おいて焼結体の割れや欠けが発生しにくく歩留まりが向上する。更に、スパッタリングにおいてもターゲットが割れて異常放電に起因した基板の欠陥(ピンホール)が発生せず安定し高い歩留まりを維持することができる。
【0031】
本発明の酸化亜鉛焼結体は、ジルコニウムがキャリア電子を発生させ焼結体の抵抗率を低下させる。そのため、高温で焼成することにより10Ω・cm以下の抵抗率となり直流スパッタリングが可能なる。但し、安定して直流スパッタリングをするためには、更に酸化亜鉛焼結体の抵抗率を低下させることが好ましい。またより低抵抗な焼結体を得るためには、焼成炉に不活性ガスまたは窒素ガスを導入して焼成雰囲気の酸素分圧を低下させ、酸化亜鉛成形体を焼成することができる。焼成雰囲気の酸素分圧は、焼成する酸化亜鉛成形体の量に依存する。導入するガス流量をA(L/min)、焼成する成形体の仕込み量をB(kg)とし、その比をガス流量パラメータとして以下の式で定義する。
ガス流量パラメータ=B/A
ガス流量パラメータを2.0以下とすることにより、ジルコニウムの含有量が10ppm以上であれば、焼結温度が1100℃以下であっても焼結体の抵抗率は10Ω・cm以下となる。
【0032】
本発明の焼結体は、スパッタリングターゲットとして用いることができる。その際、焼結体は所定の寸法に加工してもよい。加工方法は特に限定しないが、平面研削法、ロータリー研削法または円筒研削法等を用いることができる。本発明にて得られた焼結体はジルコニウムを含有するため、焼結体の粒径が小さく粒界の強度が向上すると共に、焼結体が緻密化し焼結体硬度が向上するため、焼結体を所定のターゲット寸法に研削加工する際に割れや欠けが発生しにくく歩留りが向上する。
【0033】
また本発明の焼結体は、必要に応じて平板状または円筒状の支持体にハンダ材等の接着剤により固定(ボンディング)しても良い。支持体の材質は、熱伝導率が高く焼結体を支持できる強度があれば特に限定されないが、熱伝導率が高く強度が高いことからCu、SUSまたはTiなどの金属が望ましい。更に好ましくは、熱膨張率が酸化亜鉛に近いTiが望ましい。支持体の形状は平板形状の焼結体には平板形状の支持体を用い、円筒形状の焼結体には円筒形状の支持体を用いる。焼結体と支持体を接着する接着材(ボンディング材)は、支持するために十分な接着強度があれば特に限定されないが、導電性の樹脂、スズ系ハンダ材またはインジウム系のハンダ材を使用することが出来る。好ましくは、導電性、熱伝導性が高く、かつ柔らかく変形しやすいインジウムハンダが望ましい。その理由は、ターゲット表面の熱を効率的に冷却でき、熱膨張により発生した焼結体と支持体の間の応力を吸収し焼結体の割れを防止することができるためである。
【0034】
また、焼結体と支持体が接着材により接合される際に、その接着材中に気泡(ボイド)が残留すると、その部分の熱伝導率が低下する問題がある。気泡が存在すると、スパッタリング中にターゲット表面に発生した熱を効率的に冷却することができずターゲットの割れが発生しやすい。気泡はX線写真または超音波探傷装置により検査することができ、接着率は以下の式により定義することができる。
接着率=(接着すべき面積−ボイド面積)/接着すべき面積×100
スパッタリング中においては、支持体は冷却水により冷却されているため膨張量が少ないが、ターゲットは形状によらずスパッタリングで発生した熱により膨張する。このため、平板形状のターゲットの場合はターゲットと支持体の間の距離は変化しないが、円筒形状のターゲットの場合、ターゲットの熱膨張によりターゲットと支持体の間の距離が増加する。そのため焼結体と接着材の界面に垂直な力が加わり、接着率の低いターゲットでは気泡部分から剥離が増大し熱伝導が悪化する。そのため、接着率の低い円筒形状のターゲットは平板形状のターゲットよりクラックが発生しやすい。平板形状の焼結体の場合、クラックを防止するために90%以上の接着率が望ましい。一方、円筒形状のターゲットの場合は、95%以上が望ましい。更に好ましくは、接着率が97%以上である。
【0035】
また、本発明の酸化亜鉛焼結体は、通常の高純度の酸化亜鉛スパッタリングターゲットと比較して強度が高いために、円筒形状の焼結体をボンディングする時に発生する熱膨張により生ずる焼結体と支持体の間の応力に耐える事ができ、スパッタリングターゲットを歩留り良く製造することが可能となる。
【0036】
更に、本発明のスパッタリングターゲットは密度も高く、粒界の強度も高いことから、スパッタリングにおいてターゲットの割れが発生しにくくパーティクルの発生も少ない。かつ、スパッタリングにおいてターゲット表面上に発生する黒色の突起状異物(ノジュール)の発生を抑制する事ができる。また、高密度であるために熱伝導率が高く、ターゲットに高パワーを印加しても熱応力による割れが生じにくい。従って、スパッタリング法による生産においても基板の欠陥(ピンホール)が少なく歩留り良く長期間ターゲットを使用することができる。
【0037】
なお本発明のターゲットを用いて得られた薄膜もターゲットと同じ組成となる。つまり、ジルコニウムを10ppm以上1000ppm以下含有する焼結体から成るターゲットを用いて成膜すると、ターゲットと同量のジルコニウムを含有する酸化亜鉛薄膜が得られる。
【0038】
次に本発明の薄膜について説明する。本発明の薄膜は、ジルコニウムの含有量が10ppm以上2000ppm以下で、抵抗率が10Ω・cm以上という高い抵抗率を持つものである。
【0039】
本発明の薄膜の製造方法は特に限定されるものではなく、CVDなどによる化学蒸着法でも、溶媒に懸濁または溶解させて塗布したもの、スパッタ法などにより成膜したものでもかまわない。中でもスパッタ法が好ましい。スパッタリングに用いられるターゲットは、所定濃度のジルコニウムを含有するよう製造した酸化亜鉛焼結体を用いたものでもよく、またジルコニウムをチップオンした酸化亜鉛ターゲットでスパッタしてもかまわない。なお、ジルコニウム含有量が10ppm以上1000ppm以下の薄膜は、前述の本発明のターゲットを用いてスパッタリングすることにより得ることもできる。
【0040】
後述の図3に示すように、本発明の薄膜は10ppm以上のジルコニウムを含有させると抵抗率が上昇する。そしてジルコニウム濃度がおよそ1000ppmまで高い抵抗率を示し、およそ1000ppmを超えると急激に抵抗率が低下する。それでもCIGSなどの太陽電池の高抵抗膜層として用いる場合に必要とされる10Ω・cm以上の高い抵抗率は2000ppmを超えるまで維持される。そのため、本発明の薄膜は、ジルコニウム含有量を2000ppm以下に抑える必要がある。さらに高抵抗な薄膜を得るためには薄膜の抵抗値が下がり始める領域である1000ppmを上限とし、10ppm以上1000ppm以下とすることが望ましい。このようにジルコニウムの含有量を増加させた場合に、およそ10ppm以上で抵抗値が上昇し、およそ1000ppm以上で下降に転じる理由は明確ではないが、恐らく含有量によりジルコニウムの存在位置が変化し、薄膜の導電性を阻害もしくは向上させているものと推測され、その変化の閾値が10ppmと1000ppm付近に存在しているものと推測される。なおジルコニウム含有量1000ppm付近まではスパッタ条件による膜の抵抗率の変化は大きくないが、1200ppm以上ではアルゴンのみのスパッタでは薄膜の抵抗率が低くなる恐れがあるため、スパッタリング時に少量の酸素を導入することによりキャリアの発生を抑えて薄膜の抵抗値を向上させることが可能となる。なお、ジルコニウム含有量10ppmから1000ppmにおいても酸素を導入してスパッタリングを行ってもかまわない。酸素の導入量はアルゴン量に対して0.2vol%以上添加すれば効果が現れるが、より高い抵抗を持つ膜を得るためには0.4vol%以上導入することが望ましい。
【0041】
本発明の酸化亜鉛薄膜は、ジルコニウムによるキャリアが発生していないために高い透過率を有し、膜厚100nmのとき、波長500nmばかりでなく400〜1200nmの広い範囲にわたって、透過率が75%以上と極めて高い透過率を有するものである。このため、薄膜型太陽電池のバッファ層等に用いることができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、酸化亜鉛焼結体中にジルコニウムを10〜1000ppm含有させることにより、焼結体の強度を40MPa以上に向上させることができる。それによって、これまでは強度不足のために発生していた焼成、焼結体加工、およびターゲット作製時のボンディングにおける割れおよび欠けを防止することができ生産性を改善できる。さらにスパッタリング時のターゲットの割れを防止し、高抵抗の酸化亜鉛薄膜を安定的に作製することが可能となる。
【0043】
加えて、焼結体の抵抗率を10Ω・cm以下とすれば、直流スパッタリング法にて成膜することが可能なターゲットとなる。
【0044】
また、高強度な焼結体が得られることから円筒形状等の複雑な加工が可能となり、回転カソードスパッタ装置用のターゲットの製造が可能となる。また、スパッタリングにおける円筒形状の酸化亜鉛ターゲットの割れを防止し、高抵抗な酸化亜鉛薄膜を安定的に作製する事が可能となる。
【0045】
更に本発明のジルコニウムを10〜2000ppm含有し10Ω・cm以上の高抵抗な酸化亜鉛薄膜は、半導体用絶縁膜や太陽電池のバッファ層に用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】焼結体のジルコニウム濃度と抗折強度との関係を示す図である。
【図2】焼結体のジルコニウム濃度と薄膜の抵抗率との関係を示す図である。
【図3】薄膜のジルコニウム濃度と薄膜の抵抗率との関係を示す図である。
【図4】焼結体の抵抗と抗折強度との関係を示す図である。
【図5】焼結体の抵抗と粒径との関係を示す図である。
【図6】薄膜における波長と透過率との関係を示す図である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例をもって説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお物性については、以下のようにして測定した。
(粉末のBET比表面積)
MONOSORB(米国QUANTACHROME社製)を用い、BET式1点法により測定した。
(粉末のかさ密度)
JIS R9301−2−3中の軽装かさ密度の測定に準拠して測定した。
(粉末の平均二次粒径)
COULTER LS を用いて、粉末を水に懸濁し、超音波分散を2分間行なった後に粒度分布を測定し、そのメディアン径を平均二次粒径とした。
(粉末の安息角測定)
粉末の流動性のパラメータである安息角はホソカワミクロン製の装置パウダーテスターPT−N型を用いることで測定を行なった。
(焼結体の平均粒子径)
焼結体を研磨後、酢酸にてエッチングを行い、そのサンプルをSEMを用いて倍率100〜10000倍にてエッチング面を撮影、粒子の直径をコード法を用いて平均粒径を測定した。
【0048】
(焼結体ビッカース硬度)
ビッカース硬度の測定はJISR−1610に従ってHV10にて測定をおこなった。
(焼結体の抗折強度)
抗折強度の測定はJISR−1601の基準に従って測定を行なった。
(焼結体密度)
焼結体密度はアルキメデス法にて測定を行い、焼結体の真密度を酸化亜鉛の密度である5.68g/cmとして計算を行なった。
(添加物の濃度測定)
添加物の濃度は各対象物を溶解し、ICP分析によって測定をおこなった。
【0049】
(抵抗率)
測定装置ハイレスタMCP−HT450(三菱化学製)を用い、10〜1000Vの電圧を1分間印加したときの電流値を検出し、表面抵抗を求めた。ハイレスタにて測定できない物については、ローレスタHP MCP−T410を用いて1mA〜100mAの定電流を印加して4探針法にて測定を行った。
(薄膜の透過率)
基板を含めた光透過率を分光光度計U−4100(日立製作所社製)で波長240nmから2600nmの範囲を測定した。
【0050】
(実施例1)
市販のJIS1種規格酸化亜鉛粉末と酸化ジルコニウム粉末を、合計2000gとなりジルコニウムの含有量が45ppmになるように、10Lのナイロン製ポット中で直径15mmの鉄心入り樹脂製ボールを用いて回転ボールミルにより16時間乾式混合した。次いで、粉末を500μmの篩を用いて粒度の調整を行い、最終的に約1990gの混合粉末を得た。混合粉末の物性を表1に示す。
【0051】
混合粉末のうち600gを150mmφの金型に投入し、300kgf/cmにて加圧成形を行った。同様にして計3枚の成形体を作製した。3枚の成形体を更に3000kgf/cmにてCIP処理を行った。
【0052】
その後、500℃までを50℃/h、それ以上の温度域を20℃/hの昇温速度で昇温し、焼成温度1100℃で3時間保持し、降温速度100℃/hにて大気にて焼成を行なった。焼成条件を表2に示す。また焼結体密度、抗折強度、ビッカース硬度、焼結体の平均粒子径、焼結体の抵抗率、焼結体中のジルコニウム濃度を表3に示す。3枚の成形体はいずれも割れることなく焼成することができた。
【0053】
その後、3枚の焼結体をそれぞれ101.6mmφ×5mmtに加工し、ボンディング材料としてInハンダを用いて、Cu製のバッキングプレート上にボンディングを行なうことにより、3枚の酸化亜鉛ターゲットを作製した。
【0054】
得られたターゲットを用いて、以下の条件にてRFスパッタにて成膜を行い、得られた膜の評価をおこなった。
放電方式:RFスパッタ
成膜装置:ULVAC CS2000(マグネトロンスパッタ装置)
成膜圧力:0.4Pa
添加ガス:アルゴン+酸素
酸素分圧:0.4%
ターゲット−基板間距離:90mm
放電パワー:450W
膜厚:約100nm
基板温度:室温(約25℃)。
【0055】
スパッタにより得られた膜の抵抗は5.5×10Ω・cmと高い数値を示した。また、その透過率は、膜厚100nmで透過光の波長500nmにおいて86%の数値を示した。膜中のZr濃度は表4のとおりで、ジルコニウムを40ppm含有していることがわかった。これにより高強度の酸化亜鉛系スパッタリングターゲットを用いた酸化亜鉛系高抵抗薄膜を作製できることが確認された。
【0056】
(実施例2)
ジルコニアの含有量を20ppmから1000ppmまで変化させた以外は実施例1と同様にして成形体を作製した。成形は、ジルコニウム濃度を変化させたもの(表1における番号2、3、4)について各3枚行った。粉末の物性を表1に示す。焼成については、500℃までを50℃/h、それ以上の温度域を20℃/hの昇温速度で昇温し、焼成温度1100℃で3時間保持し、降温速度100℃/h、窒素中、ガス流通パラメータ=1.8の条件で焼成して、酸化亜鉛焼結体を得た。焼成までの成功率は表2のように、すべて100%となった。また、焼結体の物性は表3に示すとおりであり、このように高密度、高強度、高硬度、低抵抗の焼結体を得ることができた。
【0057】
その後、焼結体を101.6mmφ×5mmtに加工し、ボンディング材料としてInハンダを用いて、Cu製のバッキングプレート上にボンディングを行なうことにより、酸化亜鉛ターゲットを得た。表2に記載のように、成功率100%であった。
【0058】
得られたターゲットを用いて、以下の条件にて成膜を行い、得られた膜の評価をおこなった。
放電方式:DCスパッタ
成膜装置:ULVAC CS2000(マグネトロンスパッタ装置)
成膜圧力:0.4Pa
添加ガス:アルゴン+酸素
酸素分圧:0.8%
ターゲット−基板間距離:90mm
放電パワー:300W
膜厚:約100nm
基板温度:室温(約25℃)。
【0059】
スパッタにより得られた膜の物性は表4に示す通りであり、高抵抗、高透過率な薄膜を得ることができた。これらより、18ppmから990ppmまでのジルコニウムを含む、高強度、低抵抗スパッタリングターゲットを歩留まりよく作製し、DCスパッタにより高抵抗な酸化亜鉛系薄膜を作製できることが確認された。
【0060】
(実施例3)
市販のJIS1種規格酸化亜鉛粉末15kgを純水にてスラリー化し、そのスラリー濃度を50wt%にした状態で湿式ビーズミル装置にて分散処理を行なった。装置の容器はジルコニア製であり、使用したビーズも0.3mmジルコニアビーズを使用した。粉砕の時間を変えた上で装置に通したスラリーを回収し、噴霧造粒を行なった。粉砕時間を長くすることによりジルコニウムの添加量を増加できることから、粉砕時間を変えることによってジルコニウムの含有量を調整し、15ppm、33ppm、120ppmのジルコニウムを含有する粉末を得た。粉末の各物性は表1の通りであり、流動性の高い粉末が得られた。
【0061】
得られた粉末のうち600gを150mmφの金型に投入し300kgf/cmにて加圧成形を行った。成形は、ジルコニウム濃度を変化させたもの(表1における番号5、6、7)について各3枚行った。加圧成形後3000kgf/cmにてCIP処理を行い、成形体密度を高めた。
【0062】
500℃までを50℃/h、それ以上の温度域を10℃/hの昇温速度で昇温し、焼成温度1100℃で3時間保持し、降温速度100℃/h、窒素中、ガス流通パラメータ=1.0の条件で焼成して、酸化亜鉛焼結体を得た。焼成までの成功率は表2のように、それぞれの条件にて100%となった。また、焼結体の物性は表3に示すとおりであり、高密度、高強度、高硬度、高抵抗の焼結体を歩留り良く得ることができた。
【0063】
その後、焼結体を101.6mmφ×5mmtに加工し、ボンディング材料としてInハンダを用いて、Cu製のバッキングプレート上にボンディングを行なうことにより、酸化亜鉛ターゲットを得た。表2に記載のように成功率100%であった。
【0064】
得られたターゲットを用いて実施例2と同様の条件にて成膜を行い、得られた膜の評価をおこなった。スパッタにより得られた膜の抵抗率並びに透過率は表4の通りであり、高透過率、高抵抗酸化亜鉛薄膜を作製することができた。
【0065】
(実施例4)
実施例3における番号6と同様の条件にて作製した粉末を用いた。成形は円筒形状のゴム型に粉末を充填し、2000kgf/cmにてCIP成形を行い、さらに高密度化のために3000kgf/cmにてCIP処理を行なうことで円筒形状の成形体を2本作製し、割れのない成形体を得た。
【0066】
得られた成形体について500℃までを50℃/h、それ以上の温度域を10℃/hの昇温速度で昇温し、焼成温度1100℃で3時間保持し、降温速度100℃/h、窒素中、ガス流通パラメータ=1.0の条件で焼成して、酸化亜鉛焼結体を得た。焼結体密度は98.0%となった。またビッカース硬度は175HV10となった。焼結体の抵抗率は8.2×10Ω・cmだった。その焼結体中のジルコニウム量は33ppmであった。焼結体平均粒径は7.0μmだった。2本とも割れなく焼成する事が可能だった。これにより高密度、高強度、高硬度、低抵抗の円筒形状の焼結体を歩留り良く得る事ができた。
【0067】
その後、焼結体を内径77.5mmφ外径91.5mmφ×350mmtに加工し、ボンディング材料としてInハンダを用いて、Ti製のバッキングチューブ上にボンディングを行なうことにより、割れ、欠けのない円筒形酸化亜鉛ターゲットを得た。
【0068】
得られたターゲットを用いて以下の条件にて成膜を行い、得られた膜の評価をおこなった。
放電方式:DCスパッタ
成膜装置:円筒カソード式
成膜圧力:0.25Pa
添加ガス:アルゴン+酸素
酸素分圧:10%
ターゲット−基板間距離:90mm
放電パワー:500W
膜厚:約100nm
基板温度:室温。
【0069】
スパッタにより得られた膜の抵抗は5.0×10Ω・cmと高い数値を示した。透過率は、膜厚100nmで波長500nmにおいて86%と高い数値を示した。これより、これまで製造が困難であった酸化亜鉛高抵抗膜作製用円筒形スパッタリングターゲットを作製できることが確認された。
【0070】
(実施例5)
実施例3と同様の粉末製造ならびに成形を行った。成形は実施例3と同様にして、表1における番号9、10、11について各3枚ずつ行った。
【0071】
作製したすべての成形物について500℃までを50℃/h、それ以上の温度域を10℃/hの昇温速度で昇温し、焼成温度950、1000、1100、1170℃で3時間保持し、降温速度100℃/h、窒素中、ガス流通パラメータ=1.0の条件で焼成して、酸化亜鉛焼結体を得た。表2より分かるように、各番号において3枚とも割れなく焼成することが可能だった。焼結体の物性は表3に表される通りであり、これにより高密度、高強度、高硬度、高抵抗の焼結体を得ることができた。
【0072】
その後、焼結体を101.6mmφ×5mmtに加工し、ボンディング材料としてInハンダを用いて、Cu製のバッキングプレート上にボンディングを行なうことにより問題なく酸化亜鉛ターゲットを得た。
【0073】
得られたターゲットを実施例2と同様の条件にて成膜を行い、得られた膜の評価をおこなった。スパッタにより得られた膜の抵抗は3.0×10Ω・cmと高い数値を示した。その透過率は膜厚100nmで波長500nmで86%と高い数値を示した。Zr濃度は33ppmだった。
【0074】
(比較例1)
市販のJIS1種規格酸化亜鉛粉末にジルコニウムを添加しない以外は実施例1と同様の方法にて粉末を作製した。粉末の物性は表1に示すとおりである。そのうち600gを150mmφの金型に投入し、300kgf/cmにて加圧成形を表1の番号12から15において各3枚ずつ行った。加圧成形後3000kgf/cmにてCIP処理を行い、成形体密度を高めた。
【0075】
焼成に関しては500℃までを50℃/h、それ以上の温度域を20℃/hの昇温速度で昇温し、焼成温度を950℃、1000℃、1100℃、又は1200℃で、3時間保持し、降温速度100℃/hにて大気にて行なった。各焼成温度について3枚ずつ焼成を行なったところ、表2に見られるように14番、15番については焼成時に割れを生じるものが見られた。これは表3の抗折強度から分かるように強度が低下しているためと考えられる。
【0076】
得られた焼結体を101.6mmφ×5mmtに加工し、ボンディング材料としてInハンダを用いて、Cu製のバッキングプレート上にボンディングを行なうことにより酸化亜鉛ターゲットを作製したところ、加工中に割れを生じたため、表2のようにターゲット作製の成功率が低下した。
【0077】
得られたターゲットを実施例1と同様の条件にてRFスパッタ成膜を行い、得られた膜の評価をおこなった。スパッタして得られた膜の抵抗は1.0×10から1.2×10Ω・cmの間の値を示した。その透過率は膜厚100nmで波長500nmにおいて86%から87%を示した。
【0078】
(比較例2)
比較例1と同じ方法にて粉末を作製、成形を行った。焼成は500℃までを50℃/h、それ以上の温度域を10℃/hの昇温速度で昇温し、焼成温度を1170℃にて3時間保持し、降温速度100℃/h、窒素中、ガス流通パラメータ=1.0の条件で行い、酸化亜鉛焼結体を得た。
【0079】
得られた焼結体を101.6mmφ×5mmtに加工し、Inハンダを用いてボンディングを行なうことにより酸化亜鉛ターゲットを作製したところ、加工中に割れを生じたため、表2のようにターゲット作製の成功率が低下した。
【0080】
得られたターゲットを実施例2と同様の条件にて成膜を行い、得られた膜の評価をおこなった。スパッタして得られた膜の抵抗は1.2×10Ω・cmを示した。透過率は膜厚100nmで波長500nmにおいて86%を示した。
【0081】
(比較例3)
作製する粉末量を15kgとする以外は比較例1と同様の粉末の作製を行った。成形は円筒形状のゴム型に粉末を充填し、2000kgf/cmにてCIP成形を行い、さらに高密度化のために3000kgf/cmにてCIP処理を行なうことにより、円筒形状の成形体を2本得た。
【0082】
得られた成形体について500℃までを50℃/h、それ以上の温度域を10℃/hの昇温速度で昇温し、焼成温度1170℃で3時間保持し、降温速度100℃/h、窒素中、ガス流通パラメータ=1.0の条件で焼成して、酸化亜鉛焼結体を得た。焼結体密度は96.3%となった。またビッカース硬度は110HV10となった。焼結体の抵抗率は8.0×10Ω・cmだった。
【0083】
得られた焼結体を内径77.5mmφ外径91.5mmφ×350mmtに加工し、ボンディングを行なおうとしたが、加工やボンディングの際に割れが生じ、ターゲットを作製する事ができなかった。
【0084】
(比較例4)
成形体を得るまでは、添加するジルコニアの濃度を5ppm、1100ppm、3000ppm、又は8000ppmとした以外は実施例1と同様にして作製した。成形体は表1における番号18、19、20、21において各3枚作製した。各粉末物性は表1に挙げた通りである。焼成については500℃までを50℃/h、それ以上の温度域を20℃/hの昇温速度で昇温し、焼成温度1100℃で3時間保持し、降温速度100℃/h、窒素中、ガス流通パラメータ=1.0の条件で行い、酸化亜鉛焼結体を得た。
【0085】
表2に示す結果となった。また焼結体の物性は表3に示されるとおりである。ジルコニウムの含有量が少ない場合は焼結体の強度が低く、作製時に割れが生じていた。
【0086】
得られた焼結体を101.6mmφ×5mmtに加工し、ボンディング材料としてInハンダを用いて、Cu製のバッキングプレート上にボンディングを行なうことで酸化亜鉛ターゲットを得た。
【0087】
得られたターゲットを用いて実施例2と同様の条件にて成膜を行い、得られた膜の評価をおこなった。
【0088】
スパッタして得られた膜の物性は表4の通りであり、ジルコニウムの含有量が多いものに関しては膜の抵抗率が低下し、高抵抗酸化亜鉛膜を作製することができなかった。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【0092】
【表4】

(図1の説明)
図1には窒素雰囲気にて焼成を行なった、実施例2、実施例3、実施例4、比較例4のデータに則したジルコニウム含有量とそのときの焼結体の抗折強度の関係のグラフを示している。このグラフから、ジルコニウムの含有量が増加するほど焼結体の強度が増加している事が見て取れる。また、ジルコニウムの含有量が少ない場合(およそ10ppm未満)、急激に強度が低下する。グラフから読み取れるように、およそ10ppmあたりから焼結体の強度が増加していることが読み取れる。即ちジルコニウムを10ppm以上含有することにより、強度の向上した酸化亜鉛焼結体を得ることが可能となる。
【0093】
(図2の説明)
図2にはDCスパッタにより成膜を行なった、実施例2、実施例3、比較例2、比較例4のデータに則した焼結体中のジルコニウムの含有量とそのときの薄膜の抵抗率を示している。このグラフから明らかなように、ジルコニウムの含有量がおよそ1000ppmを超えると薄膜の抵抗率が大きく低下する。よって、ジルコニウムの含有量を1000ppm以下とすることにより、薄膜の抵抗率を高く維持できることが確認された。
【0094】
(図3の説明)
図3にはDCスパッタにより成膜を行なった、実施例2、実施例3、比較例2、比較例4のデータに則した薄膜中のジルコニウムの含有量とそのときの薄膜の抵抗率を示している。このグラフから明らかなように、ジルコニウムの含有量がおよそ1000ppmを超えると薄膜の抵抗率が大きく低下する。少なくとも2000ppmまでは10Ω・cm以上の高い抵抗率を示すが、それを超えると急激に抵抗率が低下する。
【0095】
(図4の説明)
図4には実施例2と比較例1のデータに則した焼結体の抵抗と、抗折強度の関係について示している。実施例2はジルコニウムを含有するもの、比較例1はジルコニウムを含まないものである。比較例1から分かるようにジルコニアを含まない場合は、焼結体の抵抗を低くしようとすると抗折強度も低くなり、焼結体の抵抗を低くしつつ抗折強度を向上させることができない。しかし、実施例2のように、ジルコニウムを適量添加することにより、10Ω・cm以下の低い抵抗と40MPa以上の高い抗折強度を両立できることが見て取れる。つまり、ジルコニウムを適量含有させることにより、従来の高抵抗薄膜用スパッタリングターゲットよりも高い抗折強度でかつ低い抵抗のスパッタリングターゲットを作製することが可能となった。
【0096】
(図5の説明)
図5には実施例2と比較例1のデータに則した焼結体の抵抗と、焼結体粒子径の関係について示している。従来の焼結体は、比較例1から分かるように、焼結体の抵抗値を低減させるほど焼結体の粒子径が大きくなっていく。それに対して、実施例2で示されるように、ジルコニウムを適量含有させることにより、焼結体の抵抗値を低減させても焼結体粒子の大きさを抑制することができる。これらの関係は図3にも繋がり、焼結体粒子が小さいほど焼結体の抗折強度が向上する。よって、ジルコニウムを含有させることにより、焼結体粒子の成長を抑制し、またジルコニウムが適度な導電性を付与することにより焼結体の抵抗も小さくなっていることがわかる。
【0097】
(図6の説明)
図6は実施例3の番号6で得られた膜の透過率を示す。横軸に光の波長、縦軸にそのときの透過率を示す。広い波長に対して高い透過率を示すことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウムを10〜1000ppm含有することを特徴とする酸化亜鉛焼結体。
【請求項2】
抵抗率が10Ω・cm以下である、請求項1に記載の酸化亜鉛焼結体。
【請求項3】
円筒形状である請求項1または2に記載の酸化亜鉛焼結体。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の焼結体から成ることを特徴とする酸化亜鉛スパッタリングターゲット。
【請求項5】
ジルコニウムを10〜2000ppm含有し、抵抗率が10Ω・cm以上であることを特徴とする酸化亜鉛薄膜。
【請求項6】
膜厚100nmのとき、波長500nmの透過率が75%以上である、請求項5に記載の酸化亜鉛薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−136417(P2012−136417A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224969(P2011−224969)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】