説明

酸化亜鉛粒子、樹脂組成物、グリース、塗料組成物及び化粧料

【課題】真球度が高いためにマトリックス成分中の充填率を高めることができる酸化亜鉛粒子、並びに、それを有する樹脂組成物、グリース及び塗料組成物を得る。
【解決手段】真球度が1.00〜1.10であり、メジアン径(D50)が17〜10000μmであることを特徴とする酸化亜鉛粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真球度が高い酸化亜鉛粒子並びにそれを含有する樹脂組成物、グリース、塗料組成物及び化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛粒子は、樹脂、塗料、グリース等の分野においてフィラー粒子として幅広く使用されている。このようなフィラー粒子として使用する場合、高い充填率を得ることが望ましい場合がある。具体的には、放熱性フィラーとして使用する場合は、より放熱性能を高くするために、酸化亜鉛粒子のマトリックス成分に対する充填率を高くすることが望まれている。
【0003】
このように、高い放熱性を得ることを目的としてフィラー粒子の充填率を高めるには、酸化亜鉛粒子の真球度を高めることが考えられる。更に、放熱性フィラーは、比較的粒子径が大きい粒子とすることが必要であるから、用途によっては大きな粒子径と高い真球度とを有する酸化亜鉛粒子が求められている。
【0004】
粒子径が大きい酸化亜鉛粒子としては、特許文献1に記載されたようなものが知られている。しかし、これらの粒子は、真球度は充分に高いものではなく、よって、高い濃度でマトリックス成分中に充填することは困難であった。また、発明者らによって追試を行ったところ、真球度が1.10以下の粒子を得ることはできなかった。
【0005】
特許文献2には、粒子径が大きい酸化亜鉛粒子を高熱伝導性組成物において使用することが記載されている。しかし、特許文献2に記載されている酸化亜鉛粒子は、真球度が1.40以下であり、高い濃度でマトリックス成分中に充填するには不充分であった。また、発明者らによって追試を行ったところ、真球度が1.10以下の粒子を得ることはできなかった。
【0006】
特許文献3には、球状酸化亜鉛粒子が記載されている。しかし、上記技術では、球状の粒子を得ることができるが、金平糖状粒子も同時に形成され、選択的に球状粒子を得ることができない。発明者らによって追試を行ったところ、粒度分布を測定するとメジアン径(D50)が数μmであり、10μm以上の粒子を得ることはできなかった。
【0007】
更に、酸化亜鉛粒子は化粧料用粉体としても使用されている。化粧料用途において使用される酸化亜鉛粒子は、皮膚への塗布時の滑り性や滑らかな使用感が要求される。このような優れた感触を得るためには、粒子間の摩擦力が小さく安息角が小さい粒子が好まれている。真球度が高い粒子は表面の角がないため、小さな安息角を有する粒子となることが期待される。しかし、特許文献1、2、3に記載された文献においてはこのような化粧料用途における検討はなされておらず、また、充分に優れた感触が得られる程度にまで高い真球度や小さい安息角を有していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−218749号公報
【特許文献2】特開2009−249226号公報
【特許文献3】特開平11−49516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記に鑑み、真球度が高いためにマトリックス成分中の充填率を高めることができる酸化亜鉛粒子、並びに、それを有する樹脂組成物、グリース及び塗料組成物を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、真球度が1.00〜1.10であり、メジアン径(D50)が17〜10000μmであることを特徴とする酸化亜鉛粒子である。
上記酸化亜鉛粒子は、D50/D10及びD90/D50がともに1.70未満であることが好ましい。
上記酸化亜鉛粒子は、D90/D10が2.80未満であることが好ましい。
上記酸化亜鉛粒子は、安息角が45°以下であることが好ましい。
本発明は、上記酸化亜鉛粒子を含有することを特徴とする樹脂組成物でもある。
本発明は、上記酸化亜鉛粒子を含有することを特徴とするグリースでもある。
本発明は、上記酸化亜鉛粒子を含有することを特徴とする塗料組成物でもある。
本発明は、上記酸化亜鉛粒子を配合して得られたことを特徴とする化粧料でもある。
【発明の効果】
【0011】
本発明の酸化亜鉛粒子は、高い真球度と大きな粒子径を有するものであり、樹脂組成物、グリース、塗料組成物に対して高い充填率で配合することができる。更に、安息角が小さいものであることから、取り扱い性がよく、化粧料用粉体として使用した場合も使用感に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1によって得られた酸化亜鉛粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例2によって得られた酸化亜鉛粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例3によって得られた酸化亜鉛粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】比較例1によって得られた酸化亜鉛粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】比較例2によって得られた酸化亜鉛粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明は、真球度が1.00〜1.10であり、メジアン径(D50)が17〜10000μmであることを特徴とする酸化亜鉛粒子である。すなわち、一定以上の大粒子径を有し、かつ、特に高い真球度を有する酸化亜鉛粒子である。
【0014】
このような酸化亜鉛粒子は、真球度が高いために、最密充填されやすく、このためにマトリックス樹脂中への充填率を高くすることができるという利点を有する。
【0015】
更に、本発明の酸化亜鉛粒子は、粒子の分布がシャープでD50/D10及びD90/D50がともに1.70未満であることが好ましく、D90/D10が2.80未満であることが好ましい。このように粒子径の分布がシャープな酸化亜鉛粒子とすることで、最密充填されやすい、という特性を更に向上させることができる。更に、粒子径の分布がシャープであり、かつ真球度が高いことにより安息角を小さくすることができる、という特徴を有する。
【0016】
本発明の酸化亜鉛粒子は、メジアン径(D50)が17〜10000μmである。すなわち、従来の酸化亜鉛粒子に較べて粒子径が大きいことを特徴とするものである。なお、本明細書においてメジアン径(D50)は、粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量となる径をいい、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−750(堀場製作所社製)によって測定された値、もしくは目視観察による統計的手法により求められた値である。目視観察は走査型電子顕微鏡JSM−5400(日本電子社製)によって行うことができる。上記メジアン径(D50)の下限は、17μmであることが好ましく、20μmであることがより好ましい。上記メジアン径(D50)の上限は、10000μmであることが好ましく、1000μmであることがより好ましく、100μmであることが更に好ましい。
【0017】
本発明の酸化亜鉛粒子は、真球度が高い球状粒子である。球状粒子であると、最密充填することができるため、例えば、放熱性フィラーとして使用する場合にフィラーの割合を高くすることができる。これによって、より高い放熱性能を付与することができる点で好ましい。粒子の形状は走査型電子顕微鏡JSM−5400(日本電子社製)によって観察することができる。上記酸化亜鉛粒子は、真球度が1.00〜1.10である。放熱性フィラーに使用する場合、真球度は1.00に近い程、フィラーの配向性が無くなりどの方向から加圧成型してもフィラーが均一に充填された樹脂成型体を得ることができる。上記真球度は、1.07以下であることがより好ましい。なお、真球度の測定は、走査型電子顕微鏡JSM−5400(日本電子社製)で撮影した電子顕微鏡写真の250個の粒子について、粒子の中心を通る長径と短径の長さを定規で計測し、長径/短径の比を求め、その平均値を真球度とした。
【0018】
本発明の酸化亜鉛粒子は、粒子中の90%以上の粒子が真球度1.10以下であることが好ましい。すなわち、真球度が低い粒子が混在していると、フィラーとして使用した際の充填率が低くなりやすい。したがって、真球度が高い粒子が高い割合で存在していることが好ましい。なお、粒子中の90%以上の粒子が真球度1.10以下であるとは、電子顕微鏡写真において視野中に存在しているすべての粒子の真球度を測定し、このような操作によって合計250個の粒子について真球度を測定した場合に、90%以上の粒子が真球度1.10以下となることをいう。
【0019】
真球度が1.00〜1.10であり、メジアン径(D50)が17〜10000μmである酸化亜鉛粒子は、その製造方法を特に限定されるものではないが、以下のような製造方法で得ることができる。
【0020】
本発明の酸化亜鉛粒子は、D50/D10及びD90/D50がともに1.70未満であることが好ましい。すなわち、このような酸化亜鉛粒子は粒子径の分布がシャープであり、均一な大きさの酸化亜鉛粒子である。このような酸化亜鉛粒子は優れた充填率を得ることができる点で好ましい。
【0021】
本発明の酸化亜鉛粒子は、D90/D10が2.80未満であることが好ましい。すなわち、D90とD10との比が小さい(すなわち、粒子径が極端に大きい粗大粒子の数が少ない)ことが好ましい。このように粗大粒子の数を減らすことにより粒度分布をシャープなものとすることによって、より最密充填できるフィラーを生産できる点で好ましい。
【0022】
なお、D10、D90はそれぞれ、粒子径の分布を測定することによって得られる値である。D10とは体積基準での10%積算粒径、D90とは体積基準での90%積算粒径であることを意味する。これらの値は、上記メジアン径(D50)と同様の方法によって測定された値である。
【0023】
本発明の酸化亜鉛粒子は、安息角が45°以下であることが好ましく、40°以下であることがより好ましく、35°以下であることが更に好ましい。安息角は、水平面と粉体の山の斜面とのなす角度であり、本明細書においては「JIS R 9301−2−2アルミナ粉末−第2部:物性測定方法−2:安息角」によって得られた値である。安息角が45°以下である酸化亜鉛粒子は、粒子同士の接触面に働く摩擦力が小さいため、化粧料用粉体として使用した場合に、優れた官能特性を有する点で好ましい。このような効果は、安息角を小さくすることで、より優れたものとすることができる。また、安息角が小さい酸化亜鉛粒子は、樹脂組成物、グリース、塗料組成物等の用途において使用する場合も、粉体としての流動性が向上するため、取り扱い性が向上するという点で好ましい。また、一般的に樹脂組成物シートは、真球度が高い粒子を充填した場合、非球状粒子を充填した場合よりも柔らかいシートになる。よって、放熱性の樹脂組成物として使用した場合は、基盤との密着性が向上し熱伝導が向上すると推測される。更に、グリースや樹脂組成物については延展性が向上することによって、使用時の性能が向上することが期待される。
【0024】
上述した酸化亜鉛粒子は、亜鉛源粒子に有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基又はそれらの塩を混合して造粒する工程(1)、及び、上記工程(1)によって得られた造粒粒子を焼成する工程(2)を有する酸化亜鉛粒子の製造方法によって得ることができる。上記酸化亜鉛粒子の製造方法によって、真球度が1.00〜1.10であり、メジアン径(D50)が17〜10000μmの真球状酸化亜鉛粒子を大量に製造することができる。
【0025】
本発明の酸化亜鉛粒子の製造方法は、亜鉛源粒子に有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基又はそれらの塩を混合して造粒する工程(1)を有する。上記工程(1)は、亜鉛源粒子を水にリパルプし有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基又はそれらの塩を混合して造粒する工程である。
【0026】
本発明の酸化亜鉛粒子の製造方法においては、亜鉛源粒子を原料として使用するものである。亜鉛源粒子としては、酸化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、水酸化亜鉛、酢酸亜鉛等、焼成により酸化亜鉛になるものであれば特に限定されない。上記亜鉛源粒子は、酸化亜鉛が特に好ましい。上記亜鉛源粒子は、メジアン径(D50)が0.01〜1.0μmであることが好ましい。上記亜鉛源粒子のメジアン径(D50)は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−750(堀場製作所社製)又は動的光散乱型粒度分布測定装置ELS−Z2(大塚電子社製)によって測定した値である。
【0027】
原料として使用することができる酸化亜鉛としては特に限定されず、フランス法、アメリカ法等の公知の方法によって製造された酸化亜鉛を使用することができるが、特に、フランス法によって製造された酸化亜鉛を使用することが不純物が少ない点で好ましい。
【0028】
上記有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基としては、例えば蟻酸、酢酸、クエン酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、蓚酸、ステアリン酸、硝酸、硫酸、過酸化水素、水酸化物イオン、アンモニア、ピリジン、ピペラジン、イミダゾール等を挙げることができる。上記塩としては、例えば、アンモニウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、銅塩、カルシウム塩、ニッケル塩、コバルト塩、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アミン塩、セシウム塩等を挙げることができる。より具体的には、ポリカルボン酸アンモニウム、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウム、酢酸銅、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、ステアリン酸リチウム、硝酸亜鉛、硝酸リチウム、硝酸マグネシウム、硝酸銅、酢酸カルシウム、酢酸ニッケル、酢酸コバルト、硫酸亜鉛、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等を使用することができる。
【0029】
上記有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基又はそれらの塩の混合量は、混合する成分にもよるが、金属塩の場合、亜鉛源粒子の重量に対して酸化物換算で0.1重量%以上、15.0重量%未満であることが、焼成工程で酸化亜鉛が緻密に焼結する点で好ましい。
上記有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基又はそれらの塩として酢酸を使用する場合、酢酸の混合量は、亜鉛源粒子の重量に対して0.1〜10.0重量%であることが、焼成工程で酸化亜鉛が緻密に焼結する点で好ましい。
【0030】
但し、上記有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基又はそれらの塩において、臭化アンモニウムや塩酸といったハロゲン成分を含むものであってはならない。ハロゲン成分を含む化合物を混合した場合、球状かつメジアン径(D50)が17〜10000μmの酸化亜鉛粒子を得ることは困難である。
【0031】
上記工程(1)における造粒は、その方法を特に限定するものではないが、例えば、上記亜鉛源粒子とハロゲンを含まない有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基又はそれらの塩を水に分散してスラリーとして、噴霧乾燥を行う方法等を挙げることができる。また、上記亜鉛源粒子にハロゲンを含まない有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基又はそれらの塩の水溶液を添加し、スパルタンリューザー、スパルタンミキサー、ヘンシェルミキサー、マルメライザー等を用いて混合し造粒する方法等を挙げることができる。
【0032】
上記工程(1)において、スラリーとする場合は、分散剤を使用してもよい。また、有機酸塩として脂肪酸塩を使用した場合には、有機酸塩自体が分散剤としての機能を有することから、容易にスラリーを得ることができる点で好ましい。分散剤として好適に使用することができるものとしては、特に限定されず、例えば、ポリカルボン酸アンモニウム塩(花王社製 ポイズ532A)等を挙げることができる。
【0033】
スラリーの調製方法は特に限定されず、例えば、上記成分を水に添加し、18〜30℃で10〜30分間、分散させることによって、亜鉛源粒子の濃度100〜1500g/lの均一なスラリーとすることができる。
【0034】
上記噴霧乾燥の方法としては特に限定されず、例えば、上記スラリーを好ましくは150〜300℃程度の気流中に、2流体ノズル又は回転ディスク等により噴霧し、20〜100μm程度の造粒粒子を作る方法が挙げられる。この際、スラリーの粘度が50〜3500cpsとなるようにスラリーの濃度を制御することが好ましい。スラリーの粘度はB型粘度計(東京計器社製)で60rpmのシェアで測定した値である。この気流中にて乾燥された造粒粒子をサブミクロンオーダーのフィルター(バグフィルター)にて捕集する。スラリーの粘度、乾燥温度、気流速度が望ましい範囲にないと、造粒粒子は中空もしくはくぼんだ形状になってしまう。
【0035】
このようにして得られた粒子を焼成することによって、上記酸化亜鉛粒子を得ることができる。焼成条件は、特に限定されるものではないが、焼成温度が700〜1500℃、焼成時間1〜3時間行い、焼成は静置焼成によって行うことが好ましい。上記静置焼成は、ムライト製、ムライト・コージライト製等の匣鉢中で行うことができる。上記焼成は、1000〜1200℃で行うことがより好ましい。上述した方法によって焼成を行うと、粒子同士の融着がほとんど無く、高い真球度を有する酸化亜鉛粒子を得ることができる。
【0036】
700℃未満での焼成であると、粒子内部まで充分に焼結しないおそれがある点で好ましくない。1500℃を超えると、粒子同士の融着が進む点で好ましくない。
【0037】
上記方法によって製造された酸化亜鉛粒子は、その粒度分布においてシャープなものとなるが、更にシャープなものを得る必要がある場合や、低い割合で含まれている粗大粒子を除去するために、篩による分級を行うものであっても良い。篩による分級方法としては、湿式分級、乾式分級を挙げることができる。
【0038】
上記篩による分級は、80重量%以上の割合で目的とする粒子が得られるような条件で行うことが好ましい。すなわち、上述したような製造方法によって得られた酸化亜鉛粒子は、粒子同士の融着が抑制されていることから、目的とする酸化亜鉛粒子の収率を高く維持することができる。上記分級は、90重量%以上の割合で目的とする粒子が得られるような条件がより好ましく、95重量%以上であることが更に好ましい。
【0039】
上記方法では、原料である亜鉛源粒子の粒子サイズを変更しても、ハロゲンを含まない有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基又はそれらの塩の量、分散剤の量、スラリーの濃度、焼成温度を適切に制御することにより、上記と同様の酸化亜鉛粒子を得ることができる。また、噴霧乾燥の場合、2流体ノズルについてはスラリーの供給量を、回転ディスクについてはディスクの回転数を変えることにより、粒子サイズを制御することもできる。また、焼成温度を上げることにより、焼成後の酸化亜鉛粒子の密度を上げることができる。
【0040】
上記製造方法によって得られた酸化亜鉛粒子は、従来の酸化亜鉛粒子に対して、
1.粒子サイズを大きくすることができ、球状化することもできる。
2.製造方法において炉を傷めるようなフラックスを使用する必要が無い。
3.樹脂への大量の充填が可能。
4.樹脂に高充填すると非常に優れた放熱性能を示す。
等の利点を有する。これは粒子径が従来の酸化亜鉛粒子に対して非常に大きく、粒子形状が球状に形態制御されていることに由来するものである。
【0041】
本発明の酸化亜鉛粒子はその用途を特に限定するものではないが、例えば、放熱性フィラーの用途において好適に使用することができる。
【0042】
上記酸化亜鉛粒子をフィラー粒子として使用する場合、樹脂と混合した放熱性樹脂組成物として使用することができる。この場合、使用する樹脂は、熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であっても良く、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリメタクリル酸メチル、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂、エポキシ、フェノール、液晶樹脂(LCP)、シリコン樹脂、アクリル樹脂等の樹脂を挙げることができる。
【0043】
本発明の樹脂組成物は、(1)熱可塑性樹脂と上記酸化亜鉛粒子とを溶融状態で混練することによって得られた熱成型用の樹脂組成物、(2)熱硬化性樹脂と上記酸化亜鉛粒子とを混練後、加熱硬化させることによって得られた樹脂組成物、(3)樹脂溶液又は分散液中に上記酸化亜鉛粒子を分散させた塗料用の樹脂組成物であっても良い。
【0044】
本発明の放熱性樹脂組成物中の上記酸化亜鉛粒子の配合量は、目的とする放熱性能や樹脂組成物の硬度等、樹脂組成物の性能に合わせて任意に決定することができる。上記酸化亜鉛粒子の放熱性能を充分に発現させるためには、樹脂組成物中の固形分全量に対して62体積%以上、より好ましくは69体積%以上の酸化亜鉛粒子を含有することが好ましい。
【0045】
本発明の樹脂組成物が熱成型用の樹脂組成物である場合、用途によって樹脂成分を自由に選択することができる。例えば、熱源と放熱板に接着し密着させる場合には、シリコン樹脂やアクリル樹脂のような接着性が高く硬度の低い樹脂を選択すれば良い。
【0046】
本発明が塗料用の樹脂組成物である場合、樹脂は硬化性を有するものであっても、硬化性を有さないものであっても良い。塗料は、有機溶媒を含有する溶剤系のものであっても、水中に樹脂が溶解又は分散した水系のものであっても良い。
【0047】
上記酸化亜鉛粒子を放熱性フィラーとして使用する場合、鉱油又は合成油を含有する基油と混合したグリースとして使用することもできる。このようなグリースとして使用する場合は、合成油としてα−オレフィン、ジエステル、ポリオールエステル、トリメリット酸エステル、ポリフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテル等が使用できる。また、シリコーンオイルと混合したグリースとして使用することもできる。
【0048】
本発明の酸化亜鉛粒子は、放熱性フィラーとして使用する場合、その他の成分を併用して使用することもできる。併用して使用することができるその他の成分としては、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム等の金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化チタン、金属シリコン、ダイヤモンド等の酸化亜鉛以外の放熱性フィラー、樹脂、界面活性剤等を挙げることができる。
【0049】
本発明の酸化亜鉛粒子は、よりメジアン径(D50)が小さい酸化亜鉛粒子及び他の放熱性フィラーと組合わせて使用することで、より優れた放熱性能を得ることができる。組み合わせて使用するメジアン径(D50)が小さい酸化亜鉛粒子は、球状、針状、棒状、板状等の形状を有するものであることが好ましい。
【0050】
本発明の酸化亜鉛粒子は、上述した放熱性フィラーの他に、ゴムの加硫促進剤、塗料・インキ用顔料、フェライトやバリスタ等の電子部品、医薬品、化粧品等の分野においても使用することができる。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
微細酸化亜鉛(堺化学工業社製 メジアン径(D50)0.2μm)600gを水にリパルプし、微細酸化亜鉛の重量に対し分散剤(花王社製 ポイズ532A)3.50重量%を混合し、酢酸0.61重量%を混合して濃度が600g/lとなるスラリーを調製する。次に、このスラリーをラボスプレードライヤー DCR型(坂本技研社製)で噴霧乾燥することにより造粒粒子を得る。これをムライト製、ムライト・コージライト製等の匣鉢に入れ1150℃で3時間静置焼成した。これを冷却後、1.0リットルの水に分散後、200メッシュ(目開き75μm)の篩を通過させ、通過したスラリーをろ過、乾燥することにより、粒子同士の融着が殆ど無く、球状かつメジアン径(D50)が33.1μmの酸化亜鉛粒子を得た。得られた酸化亜鉛粒子のサイズ・形態を走査型電子顕微鏡JSM-5400(日本電子社製)で観察した。得られた電子顕微鏡写真を図1に示す。
【0053】
(実施例2、3)
処理条件を表1に示したものに変更した以外は同様の方法で酸化亜鉛粒子を製造した。
【0054】
表1に示した結果から、大粒子径で真球度が高い本発明の酸化亜鉛粒子は、高い充填率で樹脂中に充填できることが明らかである。更に、安息角が小さいものであることも明らかである。
【0055】
(比較例1)
酸化亜鉛1種(堺化学工業社製 メジアン径(D50)0.6μm)1200gと臭化アンモニウム12g(酸化亜鉛1種の重量に対し1.00重量%)を30秒間乾式混合し、混合粉をムライト製、ムライト・コージライト製等の匣鉢に入れ、1150℃で3時間焼成した。
これを冷却後、3.5リットルの水に分散後、200メッシュ(目開き75μm)の篩を通過させ、通過したスラリーをろ過、乾燥することにより、メジアン径(D50)が10.2μmの酸化亜鉛粒子を得た。得られた酸化亜鉛粒子のサイズ・形態を走査型電子顕微鏡JSM-5400(日本電子社製)で観察した。得られた電子顕微鏡写真を図4に示す。比較例1の粒子について、安息角を測定したところ、49°であった。また、図4から形状においても真球度が低く、球状でない粒子が多数含まれる粒子であることは明らかである。また、比較例1の酸化亜鉛粒子の真球度は、1.37であり、真球度1.10以下の粒子の割合は、3%である。これらの評価結果を表1に記載した。
【0056】
(比較例2)
比較例1の酸化亜鉛粒子(堺化学工業社製、メジアン径(D50)10.2μm)240gと酸化亜鉛1種(堺化学工業社製 メジアン径(D50)0.6μm)960gと臭化アンモニウム60g(比較例1の酸化亜鉛粒子と酸化亜鉛1種の総重量に対し5.00重量%)を30秒間乾式混合し、混合粉をムライト製、ムライト・コージライト製等の匣鉢に入れ、1150℃で3時間焼成した。
これを冷却後、3.5リットルの水に分散後、200メッシュ(目開き75μm)の篩を通過させ、通過したスラリーをろ過、乾燥することにより、メジアン径(D50)が23.8μmの酸化亜鉛粒子を得た。得られた酸化亜鉛粒子のサイズ・形態を走査型電子顕微鏡JSM-5400(日本電子社製)で観察した。得られた電子顕微鏡写真を図5に示す。比較例2の粒子について、安息角を測定したところ、54°であった。また、図5から形状においても真球度が低く、球状でない粒子が多数含まれる粒子であることは明らかである。また、比較例2の酸化亜鉛粒子の真球度は、1.40であり、真球度1.10以下の粒子の割合は、2%である。これらの評価結果を表1に記載した。
【0057】
【表1】

【0058】
なお、表1における測定は以下に示す方法に従って行った。
(メジアン径(D50)、D10、D90)
酸化亜鉛粒子1.0gを秤量し、0.025重量%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液100mlに分散させ、その分散液をレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−750(堀場製作所社製)の0.025重量%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液で満たした試料バスに投入し、循環速度:15、超音波強度:7、超音波時間:3分の設定条件下で測定を行った。室温下における酸化亜鉛の屈折率が1.9〜2.0、水の屈折率が1.3であることから、相対屈折率は1.5に設定してメジアン径(D50)、D10、D90を求めた。
【0059】
(真球度)
走査型電子顕微鏡JSM−5400(日本電子社製)で撮影した電子顕微鏡写真の250個の粒子について、粒子の中心を通る長径と短径の長さを定規で計測し、長径/短径の比を求め、その平均値を真球度とした。更に、250個の粒子について、真球度を測定し、真球度が1.10以下のものの個数の割合(%)を算出した。
【0060】
(安息角)
JIS R 9301−2−2アルミナ粉末−第2部:物性測定方法−2:安息角に従って安息角を測定した。
【0061】
(最大フィラー充填率)
(i)EEA樹脂(日本ポリエチレン社製 レクスパールA1150)及び実施例1〜3の酸化亜鉛粒子、(ii)EEA樹脂及び比較例1、2の酸化亜鉛粒子を表1の酸化亜鉛粒子の最大フィラー充填率(体積%)の割合で配合した。最大フィラー充填率(体積%)は、EEA樹脂の比重を0.945、酸化亜鉛粒子の比重を5.55と仮定して求めたものである。酸化亜鉛粒子の重量をa(g)、酸化亜鉛粒子の比重をA、EEA樹脂の重量をb(g)、EEA樹脂の比重をBとしたとき、次式により最大フィラー充填率(体積%)を算出した。
最大フィラー充填率(体積%)=(a/A)/(a/A+b/B)×100
最大フィラー充填率を超えた充填率で酸化亜鉛粒子と樹脂を混練した場合、酸化亜鉛粒子と樹脂とを充分均一に混練することができず、混練後のシートの表面に酸化亜鉛粒子が一部残ってしまう。このように、酸化亜鉛粒子が樹脂と充分に混練されずに一部残ってしまうような状態にならない最大の充填率のことを、本明細書において最大フィラー充填率という。
【0062】
(樹脂組成物のシートの作成)
表1に示すフィラーの充填率(体積%)の割合で(i)EEA樹脂及び実施例1〜3の酸化亜鉛粒子、(ii)EEA樹脂及び比較例1、2の酸化亜鉛粒子をLABO PLASTMILL(東洋精機製作所社製)でミキサーの回転数40rpm、150℃で10分間加熱混練した。
フィラーと樹脂の混練物を取り出し、厚み2mmのステンレス製鋳型版(150mm×200mm)の中央に置き、上下よりステンレス製板(200mm×300mm)で挟み、ミニテストプレス−10(東洋精機製作所社製)の試料台に設置し、150℃で加熱しながら0.5MPaで5分間加圧し、更に圧を25MPaに上げ150℃で加熱しながら3分間加圧した。
次に、蒸気プレス(ゴンノ油圧機製作所社製)の試料台に設置し、蒸気を通気して加熱した状態で圧を25MPaまで上げた後、冷却水を通水して25MPaで5分間冷却することにより樹脂組成物のシートを得た。
【0063】
比較例1の酸化亜鉛粒子については、酸化亜鉛粒子の充填率が69体積%となる割合で樹脂組成物のシートの作成を試みたが、酸化亜鉛粒子と樹脂とを充分均一に混練することができず、混練後のシートの表面に酸化亜鉛粒子が一部残ってしまうという結果となり、シートを作成することができなかった。比較例2の酸化亜鉛粒子については、真球度が低いため、安息角が大きくなり、樹脂への充填率も実施例のものほど高くすることができなかった。
【0064】
上述した実施例の結果から、本発明の酸化亜鉛粒子は、高い真球度を有し、それに基づいてマトリックス成分中に高い濃度で充填することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の酸化亜鉛粒子は、フィラーが使用される各種の用途において好適に使用することができる。例えば、樹脂組成物、グリース、塗料組成物等に添加することができる。更に、滑らかな感触が要求される化粧料用途においても好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真球度が1.00〜1.10であり、メジアン径(D50)が17〜10000μmであることを特徴とする酸化亜鉛粒子。
【請求項2】
D50/D10及びD90/D50がともに1.7未満である請求項1記載の酸化亜鉛粒子。
【請求項3】
D90/D10が2.8未満である請求項1又は2記載の酸化亜鉛粒子。
【請求項4】
安息角が45°以下である請求項1、2又は3記載の酸化亜鉛粒子
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の酸化亜鉛粒子を配合して得られたことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1、2、3又は4記載の酸化亜鉛粒子を配合して得られたことを特徴とするグリース。
【請求項7】
請求項1、2、3又は4記載の酸化亜鉛粒子を配合して得られたことを特徴とする塗料組成物。
【請求項8】
請求項1、2、3又は4記載の酸化亜鉛粒子を配合して得られたことを特徴とする化粧料。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−25619(P2012−25619A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165707(P2010−165707)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(000174541)堺化学工業株式会社 (96)
【Fターム(参考)】