説明

酸化亜鉛系結晶からなる透明膜のエッチング方法

【課題】 酸化亜鉛系結晶からなる透明膜のエッチングに際して、ジャストエッチング、オーバーエッチング等の種々のエッチング時間においても透明膜の剥離や可視光透過率の低下を生じることのないエッチング速度で処理を施すことができ、且つサイドエッチングを抑制して数μm幅の微細パターン(マスクサイズ)においてもエッチングが可能なエッチング方法を提供すること。
【解決手段】 酸化亜鉛系結晶が基板に対してc軸配向し、該c軸の傾きが基板垂直方向に対して45°未満の角度で配向してなる酸化亜鉛系透明膜のエッチング方法であって、pH5〜7に調整した有機酸又は無機酸を用いてc軸方向のエッチング速度に対するa軸方向のエッチング速度の比が5以下のエッチング速度でエッチングすることを特徴とする酸化亜鉛系透明膜のエッチング方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛系結晶からなる透明膜のエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明であり且つ導電性を有する酸化インジウムスズ(ITO)は、液晶ディスプレイや有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ等の電極として用いられている。
しかしながら、電子デバイスの需要の増大と共に希少金属であるインジウムの枯渇が懸念されており、インジウムを含まない材料が求められている。
このITOに替わる透明電極材料として、枯渇の虞がなく安価な酸化亜鉛(ZnO)について多く検討されている。
【0003】
酸化亜鉛結晶は、紫外光を吸収し可視光を透過するという性質を有しており、薄膜の状態であっても透明性を保つことができ、且つ導電性を有している。このことから、ITOの代替材料として酸化亜鉛結晶からなる透明導電膜は有望視されている。
【0004】
しかし、酸化亜鉛結晶からなる透明導電膜にウェットエッチングによる微細加工(パターニング)を行う場合において、最適なエッチング条件を決めることが困難であった。即ち、エッチングの過程で導電膜の剥離や、透過率の低下等が生じるという問題点があった。
これは酸化亜鉛が両性酸化物であるため、パターニングを行う際のフォトリソグラフィにおいて、現像、エッチング、フォトレジスト除去等の各工程に用いられる強アルカリ性又は強酸性の薬液に酸化亜鉛結晶が容易に溶解することに起因していた。
【0005】
上記の問題を解決するために、エッチング液についての検討がなされている(下記特許文献1、2参照)。
特許文献1には、周期律表の第4族、第14族元素(シリコン、ゲルマニウム、チタン、ジルコニウム)を含有する酸化亜鉛結晶からなる透明導電膜の微細加工処理に用いられるエッチング液と、そのエッチング方法について開示されている。
特許文献1の開示技術は、プロピオン酸、コハク酸、クエン酸から選択されるエッチング液を用いて、膜厚略1100Åの透明導電膜に対してエッチング処理を行っている。上記のエッチング液を用いることで、エッチングコントロールのし易いエッチング速度が得られるとされている。
しかしながら、上記エッチング液のpH範囲は2〜3であるため、酸化亜鉛結晶からなる透明導電膜が溶解する虞があった。
【0006】
特許文献2には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、コハク酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、マロン酸、マレイン酸、グルタル酸、アコニット酸、1,2,3−プロパントリカルボン酸及びそのアンモニウム塩からなる化合物と、ポリスルホン酸化合物を含む水溶液からなるエッチング液と、上記したエッチング液を用いたガリウムを含む酸化亜鉛結晶からなる透明導電膜のエッチング方法が開示されている。
【0007】
特許文献2の開示技術は、適度なエッチング速度で処理ができ、且つ微細加工を施してもエッチング残渣が生じないエッチングが可能である。
しかし、特許文献2に記載のエッチング液はpHの範囲が2〜9であるため、透明導電膜の剥離や透過率の低下が生じる虞があった。またオーバーエッチング処理を施した際に、エッチング速度をコントロールすることができないため大きなサイドエッチングを生じ、数μmの微細パターンを形成することが困難であった。
【0008】
特許文献1又は2に記載される発明は、いずれもエッチング液に係るものであり、そのエッチング液を用いることでエッチング速度をコントロールしようとするものであった。
即ち、特許文献1又は2に記載される発明は、結晶性透明導電膜の結晶軸配向にまで考慮してなされたものではなく、従って、オーバーエッチングにおけるエッチング速度をコントロールしたり、またサイドエッチングをなくすことのできるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−159814号公報
【特許文献2】特開2007−317856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、酸化亜鉛系結晶からなる透明膜のエッチングに際して、ジャストエッチング、オーバーエッチング等の種々のエッチング時間においても透明膜の剥離や可視光透過率の低下を生じることのないエッチング速度で処理を施すことができ、且つサイドエッチングを抑制して数μm幅の微細パターン(マスクサイズ)においてもエッチングが可能なエッチング方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、酸化亜鉛系結晶が基板に対してc軸配向し、該c軸の傾きが基板垂直方向に対して45°未満の角度で配向してなる酸化亜鉛系透明膜のエッチング方法であって、pH5〜7に調整した有機酸又は無機酸を用いてc軸方向のエッチング速度に対するa軸方向のエッチング速度の比が5以下のエッチング速度でエッチングすることを特徴とする酸化亜鉛系透明膜のエッチング方法に関する。
【0012】
請求項2に係る発明は、前記酸化亜鉛系結晶が多結晶であり、c軸の傾きが基板垂直方向に対して45°未満の角度で配向してなる領域を成長させた後に、c軸が基板に対して略垂直に配向してなる領域を成長させることを特徴とする請求項1記載の酸化亜鉛系透明膜のエッチング方法に関する。
【0013】
請求項3に係る発明は、前記酸化亜鉛系結晶のc軸の傾きが基板垂直方向に対して45°未満の角度で配向してなる領域の膜厚が500nm以下であることを特徴とする請求項2記載の酸化亜鉛系透明膜のエッチング方法に関する。
【0014】
請求項4に係る発明は、前記酸化亜鉛系透明膜が酸化亜鉛結晶からなることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の酸化亜鉛系透明膜のエッチング方法に関する。
【0015】
請求項5に係る発明は、前記酸化亜鉛系透明膜がアルミニウム、ガリウム、マグネシウム、マンガン、インジウムの少なくとも1種を1〜6重量%含有する酸化亜鉛結晶からなることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の酸化亜鉛系透明膜のエッチング方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によれば、酸化亜鉛系結晶が基板に対してc軸配向し、c軸の傾きが基板垂直方向に対して45°未満であり、pH5〜7に調整した有機酸又は無機酸のエッチング液を用いるため、酸化亜鉛系透明膜の剥離や可視光透過率の低下を防ぐことができ、サイドエッチングを抑制してエッチング処理を施すことができる。
また酸化亜鉛系結晶におけるc軸方向のエッチング速度に対するa軸方向のエッチング速度の比が5以下であるため、ジャストエッチングの場合だけでなく、オーバーエッチング時間が50%や100%であってもa軸方向のエッチング速度が速くなることがなく、サイドエッチングを1μm未満に制御することができ、様々な電子デバイス用の微細な配線加工を施すことができる。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、酸化亜鉛系結晶が多結晶であり、c軸の傾きが基板垂直方向に対して45°未満の角度で配向してなる領域を成長させた後に、c軸が基板に対して略垂直に配向してなる領域を成長させるため、効果的にサイドエッチングを抑制することができ、微細な加工を施すことができる。
【0018】
請求項3に係る発明によれば、酸化亜鉛系結晶のc軸の傾きが基板垂直方向に対して45°未満の角度で配向してなる領域の膜厚が500nm以下であるため、高透過率且つ低抵抗率の透明膜とすることができ、より効果的にサイドエッチングを抑制することができる。
【0019】
請求項4に係る発明によれば、酸化亜鉛系透明膜が酸化亜鉛結晶からなるため、可視光透過率に優れる透明膜を得ることができる。
【0020】
請求項5に係る発明によれば、酸化亜鉛系透明膜がアルミニウム、ガリウム、マグネシウム、マンガン、インジウムの少なくとも1種を1〜6重量%含有する酸化亜鉛結晶からなるため、酸化亜鉛系透明膜の導電性が向上し、且つ酸化亜鉛系結晶の結晶性が損われることがなく可視光透過率に優れる透明膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】膜厚50nmのガリウム含有酸化亜鉛透明膜における膜厚(c軸)方向のエッチング速度に対する膜平面(a軸)方向のエッチング速度の速度比のエッチング時間依存性を示す図である。
【図2】膜厚120nmのガリウム含有酸化亜鉛透明膜における膜厚(c軸)方向のエッチング速度に対する膜平面(a軸)方向のエッチング速度の速度比のエッチング時間依存性を示す図である。
【図3】膜厚100nmのガリウム含有酸化亜鉛透明膜におけるエッチング処理後のパターン形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る酸化亜鉛系結晶からなる透明膜のエッチング方法について詳述する。
【0023】
本発明において、透明膜を形成する材料としては酸化亜鉛系結晶が用いられ、その結晶構造は六方晶系ウルツァイト構造である。本発明に用いられる酸化亜鉛系結晶は、単結晶、多結晶のいずれであっても良いが、成膜基板に対してc軸配向し、c軸が基板垂直方向に対して45°未満の角度の傾きで形成されることが望ましく、30°未満の角度で形成されることがより好ましい。
【0024】
酸化亜鉛系結晶は、膜形成される基板に対して垂直方向にc軸配向しやすい性質を有している。
酸化亜鉛系結晶は上記したようにウルツァイト構造を有する結晶である。この結晶構造であるため、結晶の単位格子内において亜鉛原子面、酸素原子面が存在し、これらが基板の垂直方向に対して交互に重なって成長する。
しかしながら、基板と結晶との界面近傍(結晶生成初期)においては結晶の核生成が優先的に起こり、次いで結晶が成長する。そのため、基板と結晶との界面近傍では基板垂直方向に対してc軸の傾きが生る。c軸の傾きが大きく、またこのc軸の傾きの大きい領域が多いと、可視光に対して低透過率となって透明膜が得られず、高抵抗率の膜となる。
本発明においては、基板垂直方向に対するc軸の傾きがない、即ちc軸が基板に対して垂直となるように結晶を成長させることが最も望ましい。
しかし、上述したように基板と結晶との界面近傍においてはc軸の傾きが生じるため、c軸の傾きは基板垂直方向に対して45°未満であることが好ましく、且つ基板表面から前記した傾きの大きい領域の終端までの膜厚が500nm以下であることが望ましい。
【0025】
酸化亜鉛結晶に亜鉛(Zn)、酸素(O)以外の元素を添加することなく、透明膜に成膜して電子デバイスに利用することができる。
しかし酸化亜鉛は3.4eVのワイドギャップ半導体であり、その抵抗率は10−2Ω・cm〜10Ω・cmであるため、その導電性の向上、あるいはバンドギャップ制御のために周期律表の第2族、第4族、第7族、第13族、第14族元素などの種々の元素が添加される。
本発明においては酸化亜鉛にアルミニウム、ガリウム、マグネシウム、マンガン、インジウムの少なくとも1種の元素が添加される。前記元素の添加量は1〜6重量%であることが好ましく、3〜5重量%であることがより好ましい。1重量%未満であると導電性付与の効果が顕著でなく、6重量%を超えると固溶体が形成されず異相の析出が見られるようになり、結晶性の低下や抵抗率の増大が生じ、更には透明な薄膜を得ることができないためいずれの場合も好ましくない。
【0026】
酸化亜鉛系結晶からなる透明膜の成膜方法は公知の方法を用いることができ、その一つとしてスパッタリング法が挙げられる。スパッタリング法は携帯電話やデジタルカメラ、テレビ等の液晶ディスプレイのITO透明電極形成に用いられている。
本発明における成膜方法としては、具体的には例えば、上記したスパッタリング法や、真空蒸着法、イオンプレーティング法(プラズマ蒸着法)、DCスパッタ法、DCマグネトロンスパッタ法、レーザーアブレーション法、分子線堆積法(MB)、原子線堆積法(ALD)、化学気相成長法(CVD)等が用いられる。これらの中でもイオンプレーティング法が好適に用いられ、低抵抗の透明膜を最も安定的に得ることができる。
【0027】
本発明において酸化亜鉛系結晶は、上記したように基板に対してc軸配向して透明膜を形成する。
透明膜が形成される基板にはガラス、単結晶、セラミックス、樹脂等を用いることができる。例えば、無アルカリガラス、シリコン単結晶(Si)、シリコン多結晶(Si)、サファイア単結晶(α−Al)、アルミナ(Al)、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、環状ポリオレフィン樹脂等が用いられるが、これらに限定されない。また、透明膜を形成する基板は1層に限らず、前記基板上に、例えばアモルファス層を形成し、その上に透明膜を成膜することもできる。
【0028】
酸化亜鉛系結晶からなる透明膜にエッチング処理を施す際に用いるエッチング液は、有機酸又は無機酸のいずれであってもよく、pH調整した際のpHは弱酸性であり、具体的にはpH5〜7の範囲である。より好ましくはpH6〜7の範囲である。
このpH範囲であると、後述するようにオーバーエッチングにおいてもエッチング速度を制御することができ、且つエッチング処理後の加工断面におけるパターン端形状を略垂直とすることができる。
【0029】
エッチング液に用いられる有機酸としては、カルボキシル基を1乃至3有するカルボン酸又は多価カルボン酸が好適であり、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、マロン酸、酒石酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、クエン酸、アコニット酸、1,2,3−プロパントリカルボン酸等の有機酸を用いることができ、また無機酸としては、例えば硝酸を用いることができる。
上記の有機酸、無機酸のいずれの酸においてもpHを5〜7に調整したものが用いられる。pHを調整する際には、有機酸塩又は無機酸塩を用いることができ、例えばアンモニウム塩を用いることができる。
【0030】
エッチング処理において、透明膜の膜厚分だけエッチングするジャストエッチングで処理が終了することは稀であり、多くはジャストエッチング以降の余分な処理、即ちオーバーエッチング処理が施される。
このオーバーエッチングが不十分であると、膜が均一にエッチングされずに厚く残る箇所が生じる虞がある。従って、ジャストエッチングに対して50%や100%等の長い時間オーバーエッチングすることが望ましい。
【0031】
本発明における透明膜を形成する酸化亜鉛系結晶は、基板に対してc軸配向しており、a軸は基板平面方向に配向している。このような結晶軸配向をさせることで、エッチング速度をジャストエッチング以降のオーバーエッチング処理においてもコントロールすることができる。
具体的には、c軸方向のエッチング速度に対するa軸方向のエッチング速度の比が5以下であることが好ましい。速度比が5を超えるとオーバーエッチングした際に、a軸方向のエッチング速度が速くなり、サイドエッチング量を制御することが困難となり好ましくない。
【実施例】
【0032】
以下、本発明に係るエッチング方法に関する実施例及び比較例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。
但し、本発明は下記実施例には限定されない。
【0033】
<酸化亜鉛系結晶からなる透明膜の成膜>
成膜方法1.イオンプレーティング法(プラズマ蒸着法)による成膜
ターゲットとして酸化ガリウム(Ga)を3.5〜4.5重量%含む酸化亜鉛結晶タブレットを用い、基板としてガラスを用いた。
成膜時の基板加熱温度を150〜250℃、導入ガス(アルゴン及び酸素)のガス圧を0.4〜0.6Pa、プラズマ放電電流150Aとして成膜し、膜厚50nm、100、120nmのガリウム含有酸化亜鉛結晶からなる透明導電膜(以下、GZO膜という)を得た。
【0034】
成膜方法2.DCマグネトロンスパッタ法による成膜
ターゲットとして酸化ガリウム(Ga)を5.0〜6.0重量%含む酸化亜鉛結晶を用い、基板としてガラスを用いた。
成膜時の基板加熱温度を150〜250℃、導入ガス(アルゴン)のガス圧を0.1〜0.3Pa、投入電力1.0〜2.0kWとして成膜し、膜厚50nmのGZO膜を得た。
【0035】
(実施例1及び2)
<GZO膜厚50nmに対するpH6.7のエッチング液を用いたエッチング処理>
前記成膜方法1によって得られた50nmのGZO膜に対するエッチング処理を実施例1、前記成膜方法2によって得られた50nmGZO膜に対するエッチング処理を実施例2とする。
夫々のGZO膜に対して、pH6.7のエッチング液を用いてジャストエッチング処理、50%及び100%オーバーエッチング処理を施した。
尚、マスクサイズがライン幅2〜10μm、スペース幅2〜10μmのパターンマスクを用いた。
【0036】
(実施例3)
<GZO膜厚120nmに対するpH6.7のエッチング液を用いたエッチング処理>
前記成膜方法1によって得られた120nmのGZO膜に対して、pH6.7のエッチング液を用いてジャストエッチング処理、50%及び100%オーバーエッチング処理を施した。
パターンマスクは実施例1及び2と同じものを用いた。
【0037】
(実施例4)
<GZO膜厚100nmに対するpH6.7のエッチング液を用いたエッチング処理>
前記成膜方法1によって得られた100nmのGZO膜に対して、pH6.7のエッチング液を用いて100%オーバーエッチング処理を施した。
【0038】
(比較例1及び2)
<GZO膜厚50nmに対するpH1.7のエッチング液を用いたエッチング処理>
前記成膜方法1及び2によって得られた50nmのGZO膜に対して、pH1.7のエッチング液を用いてジャストエッチング処理、50%及び100%オーバーエッチング処理を施した。
パターンマスクは実施例1及び2と同じものを用いた。
【0039】
(比較例3)
<GZO膜厚120nmに対するpH4.5のエッチング液を用いたエッチング処理>
前記成膜方法1によって得られた120nmのGZO膜に対して、pH4.5のエッチング液を用いてジャストエッチング処理、50%及び100%オーバーエッチング処理を施した。
パターンマスクは実施例1及び2と同じものを用いた。
【0040】
(比較例4)
<GZO膜厚120nmに対するpH1.7のエッチング液を用いたエッチング処理>
前記成膜方法1によって得られた120nmのGZO膜に対して、pH1.7のエッチング液を用いてジャストエッチング処理、50%及び100%オーバーエッチング処理を施した。
パターンマスクは実施例1及び2と同じものを用いた。
【0041】
<膜厚50nmのGZO膜におけるエッチング速度比のエッチング時間依存性>
図1は、膜厚50nmのGZO膜における膜厚(c軸)方向のエッチング速度に対する膜平面(a軸)方向のエッチング速度の速度比のエッチング時間依存性である。
実線●のプロットは実施例1、実線■のプロットは実施例2、破線●のプロットは比較例1、破線■のプロットは比較例2の結果である。
【0042】
エッチング液のpHが6.7(実施例1及び2)であると、酸化亜鉛系結晶のa軸方向(膜平面方向)のエッチング速度(以下、Vaという)に対するc軸方向(膜厚方向)のエッチング速度(以下、Vcという)の比(Va/Vc)は5以下であり、ジャストエッチングに対して100%のオーバーエッチングを施した場合においても、エッチング速度の比が5を超えないことがわかる。
これに対してエッチング液のpHが1.7(比較例1及び2)であると、ジャストエッチングではVaとVcの比は5以下であるが、オーバーエッチングを施すとエッチング速度が速くなる。従って、オーバーエッチングを施した際には、エッチング速度をコントロールすることができず、微細加工を施すことが困難となる。
【0043】
<膜厚120nmのGZO膜におけるエッチング速度比のエッチング時間依存性>
図2は、膜厚120nmのGZO膜における膜厚(c軸)方向のエッチング速度に対する膜平面(a軸)方向のエッチング速度の速度比(Va/Vc)のエッチング時間依存性である。
実線●のプロットは実施例3、破線▲のプロットは比較例3、破線◆のプロットは比較例4の結果である。
【0044】
膜厚が120nmのGZO膜においても、エッチング液のpHが6.7(実施例3)であると、ジャストエッチングに対して100%のオーバーエッチングを施した場合においても、エッチング速度の比(Va/Vc)は5を超えない。
これに対して、エッチング液のpHが4.5(比較例3)又は1.7(比較例4)であると、膜厚が50nmの場合(図1)と比較しても顕著にエッチング速度が速くなっていることがわかる。
実施例1及び実施例2の結果と併せると、基板に対してc軸配向した酸化亜鉛系結晶をpH5〜7のエッチング液を用いてエッチング処理を施すことで、結晶中の亜鉛が炭酸と結び付いて亜鉛の炭酸化合物が形成されて保護膜となり、そのためにオーバーエッチングにおいてもエッチング速度が速くならないものと考えられる。また、酸化亜鉛系結晶は上述したように成膜基板に対して垂直方向にc軸配向しているため、膜全体において均一なエッチングが容易となり、従って、ウェットエッチングにおいて困難な速度コントロールが可能となる。
【0045】
図3は実施例4における膜厚100nmのガリウム含有酸化亜鉛透明膜についてエッチング処理を施した後のパターン形状を示しているが、パターン端の形状が良好であることがわかる。
サイドエッチングが1μmを超えないエッチング処理を施すことができるので、ライン幅2μm、スペース幅2μmのマスクサイズであってもパターン形成が可能となる。
前記マスクサイズは、液晶パネルに用いられる露光装置の限界線幅であるが、本発明に係るエッチング方法はこのような微細加工においても好適に利用することができる。
【0046】
上記実施例では、膜厚50nm、100nm、120nmのガリウムを含有する酸化亜鉛系透明膜における結果を示したが、膜厚が200nmや500nmの酸化亜鉛系透明膜においても数μm幅の微細加工を施すことができる。
尚、上記実施例で示した酸化亜鉛系透明膜の膜厚は液晶パネルの透明電極に一般的に用いられる膜厚である。
また、ガリウムを含まない、即ち酸化亜鉛結晶からなる透明膜の微細加工に利用することができ、更に、ガリウム以外の元素を含む酸化亜鉛系透明膜の微細加工にも好適に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係るエッチング方法は、酸化亜鉛系結晶からなる透明膜において、液晶ディスプレイのTFT基板側の透明電極のような微細加工を要する電子デバイス、太陽電池や薄膜トランジスタ等に用いられる半導体及び透明電極、発光ダイオードのような発光素子等の微細加工に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛系結晶が基板に対してc軸配向し、該c軸の傾きが基板垂直方向に対して45°未満の角度で配向してなる酸化亜鉛系透明膜のエッチング方法であって、pH5〜7に調整した有機酸又は無機酸を用いてc軸方向のエッチング速度に対するa軸方向のエッチング速度の比が5以下のエッチング速度でエッチングすることを特徴とする酸化亜鉛系透明膜のエッチング方法。
【請求項2】
前記酸化亜鉛系結晶が多結晶であり、c軸の傾きが基板垂直方向に対して45°未満の角度で配向してなる領域を成長させた後に、c軸が基板に対して略垂直に配向してなる領域を成長させることを特徴とする請求項1記載の酸化亜鉛系透明膜のエッチング方法。
【請求項3】
前記酸化亜鉛系結晶のc軸の傾きが基板垂直方向に対して45°未満の角度で配向してなる領域の膜厚が500nm以下であることを特徴とする請求項2記載の酸化亜鉛系透明膜のエッチング方法。
【請求項4】
前記酸化亜鉛系透明膜が酸化亜鉛結晶からなることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の酸化亜鉛系透明膜のエッチング方法。
【請求項5】
前記酸化亜鉛系透明膜がアルミニウム、ガリウム、マグネシウム、マンガン、インジウムの少なくとも1種を1〜6重量%含有する酸化亜鉛結晶からなることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の酸化亜鉛系透明膜のエッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−272599(P2010−272599A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121469(P2009−121469)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(509093026)公立大学法人高知工科大学 (95)
【Fターム(参考)】