説明

酸化亜鉛系透明導電膜形成材料、その製造方法、それを用いたターゲット、酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法および透明導電性基板

【課題】優れた導電性と化学的耐久性及び近赤外領域の高透過性を有する透明導電膜の成膜を可能にする酸化亜鉛系透明導電膜形成材料、その製造方法、それを用いたターゲット、および酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法を提供する。
【解決手段】本発明の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料は、実質的に亜鉛、チタン、酸素および窒素からなる酸化物焼結体であって、原子数比でTi/(Zn+Ti)=0.02超0.1以下となるよう含有されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザー堆積法(PLD法)またはエレクトロンビーム蒸着法(EB蒸着法)により酸化亜鉛系透明導電膜を形成する際に用いられるターゲット等として有用な酸化物焼結体である酸化亜鉛系透明導電膜形成材料、その製造方法、それを用いたターゲット、酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法および透明導電性基板に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性と光透過性とを兼ね備えた透明導電膜は、これまでから、太陽電池、液晶表示素子、その他各種受光素子における電極などとして利用されているほか、自動車窓や建築用の熱線反射膜、帯電防止膜、冷凍ショーケース等における防曇用透明発熱体など、幅広い用途に利用されている。特に、低抵抗で導電性に優れた透明導電膜は、太陽電池や、液晶、有機エレクトロルミネッセンス、無機エレクトロルミネッセンスなどの液晶表示素子や、タッチパネルなどに好適であることが知られている。
【0003】
従来、透明導電膜としては、例えば、酸化スズ(SnO2)系の薄膜、酸化亜鉛(ZnO)系の薄膜、そして酸化インジウム(In23)系の薄膜が知られている。
具体的には、酸化スズ系の透明導電膜としては、アンチモンをドーパントとしたアンチモンドープ酸化スズ(ATO)膜やフッ素をドーパントとしたフッ素ドープ酸化スズ(FTO)膜が知られている。
酸化亜鉛系の透明導電膜としては、アルミニウムをドーパントとしたアルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)膜やガリウムをドーパントとしたガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)膜が知られている。
酸化インジウム系の透明導電膜としては、スズをドーパントとしたスズドープ酸化インジウム(ITO;Indium Tin Oxide)膜が知られている。中でも、最も工業的に利用されているのは酸化インジウム系の透明導電膜であり、とりわけITO膜は、低抵抗で導電性に優れることから、幅広く実用化されている。
【0004】
このような透明導電膜を形成する際には、従来から、スパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法、EB蒸着法などが工業的に汎用されている。これらの成膜方法において膜原料として用いられるターゲットは、成膜しようとする膜を構成する金属元素を含む固体からなり、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物などの焼結体や、場合によっては単結晶で形成される。工業的に用いるターゲットとしては、酸化物ターゲット(すなわち酸化物焼結体)が汎用されてきた。
【0005】
ところで、ITO膜の如き酸化インジウム系の透明導電膜は、その必須原料であるIn(インジウム)が、希少金属であるため高価で且つ資源枯渇のおそれがあり、しかも毒性を有し環境や人体に対して悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、近年、ITO膜に代替し得る工業的に汎用可能な透明導電膜が要望されている。そのような中、スパッタリング法による工業的製造も可能である酸化亜鉛系透明導電膜が注目されており、その導電性能を高めるべく研究が進められている。
【0006】
非特許文献1には、導電性を高めるべくZnOに種々のドーパントをドープさせる試みがなされており、種々のドーパントごとに最適ドープ量と最低抵抗率が報告されている。この報告によれば、例えば、TiO2をドープさせる場合には、ドープ量は2wt%が最適であり、その時の最低抵抗率は5.6×10-4Ω・cmであることが示されている。このように、酸化亜鉛系透明導電膜は、実験室レベルではITO膜に遜色のない程度の低抵抗が得られるよう改善されてきている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】月刊ディスプレイ、1999年9月号、p10〜「ZnO系透明導電膜の動向」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これまでの酸化亜鉛系透明導電膜は、導電性の点では優れるものの、耐熱性、耐湿性、耐薬品性(耐アルカリ性、耐酸性)などの化学的耐久性及び特に太陽電池用透明導電膜に強く求められる近赤外領域の透過性が低いという欠点があった。
【0009】
そこで、本発明の課題は、優れた導電性と化学的耐久性及び近赤外領域の高透過性を有する透明導電膜の成膜を可能にする酸化亜鉛系透明導電膜形成材料、その製造方法、それを用いたターゲット、および酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記問題を解決すべく種々検討した結果、酸化亜鉛を母体とし、そこに所定量のチタンブラックを添加することにより得られる酸化亜鉛系透明導電膜形成材料を用いて製造された透明導電膜が温度や湿度に対して十分な耐候性をもち、さらに適度なエッチングレートを有し、化学的耐久性に優れ、近赤外領域の高透過性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)実質的に亜鉛、チタン、酸素および窒素からなる酸化物焼結体であって、原子数比でTi/(Zn+Ti)=0.02超0.1以下となるよう含有されていることを特徴とする酸化亜鉛系透明導電膜形成材料。
(2)酸化亜鉛を主成分とし、チタンブラックを含む酸化亜鉛系透明導電膜形成材料であり、チタンブラックの原子数の割合が全金属原子数に対して2%超10%以下であり、かつチタンブラックを用いて作製される酸化物焼結体であることを特徴とする酸化亜鉛系透明導電膜形成材料。
(3)前記焼結体の相対密度が93%以上である前記(1)または(2)に記載の透明導電膜形成材料。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料を製造する方法であって、チタンブラック粉と、酸化亜鉛粉もしくは水酸化亜鉛粉との混合粉を含む原料粉末を成形した後、得られた成形体を不活性雰囲気または還元雰囲気中600℃〜1500℃で焼結することを特徴とする酸化亜鉛系透明導電膜形成材料の製造方法。
(5)前記不活性雰囲気または還元雰囲気は、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、真空および水素からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる雰囲気である、前記(4)に記載の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料の製造方法。
(6)スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザ堆積法(PLD法)またはエレクトロンビーム(EB)蒸着法による成膜に用いられるターゲットであって、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料を加工してなることを特徴とするターゲット。
(7)前記(6)に記載のターゲットを用いて、スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザ堆積法(PLD法)またはエレクトロンビーム(EB)蒸着法により酸化亜鉛系透明導電膜を形成する、ことを特徴とする酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法。
(8)透明基材上に、前記(7)に記載の透明導電膜の形成方法により成膜された酸化亜鉛系透明導電膜を備える、ことを特徴とする透明導電性基板。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法またはEB蒸着法などによって、チタンブラックをドープすることで、パターニングの際に適当なエッチングレートを有する透明導電膜を成膜するためのターゲットに用いることができる。また、形成された酸化亜鉛系透明導電膜は、優れた導電性、化学的耐久性[耐熱性、耐湿性、耐薬品性(耐アルカリ性、耐酸性)など]および近赤外領域の高透過性を備える。しかも、このようにして形成された酸化亜鉛系透明導電膜は、希少金属であり毒性を有するインジウムを必須としないという利点も有するので、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を更に詳細に説明するが、下記の記載は一実施様態であり、本発明の要旨を外れない限り、本発明は以下の記載により制限を受けるものではない。
【0014】
(酸化物焼結体)
本発明の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料は、実質的に亜鉛と、チタンと、酸素と、窒素とからなる酸化物焼結体である。
また、本発明の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料は、チタンブラックを含む酸化物焼結体である。
ここで、「実質的」とは、酸化物焼結体を構成する全原子の99%以上が亜鉛、チタン、酸素、および窒素からなることを意味する。
【0015】
本発明における酸化物焼結体は、チタンの原子数の割合が全金属原子数に対して2%超10%以下で含有されていることが重要であり、好ましくは、チタンの原子数の割合が全金属原子数に対して3%以上9%以下であり、より好ましくは3%以上6%以下であるのがよい。チタンの原子数の割合が2%以下となると、この酸化物焼結体をターゲットとして形成された膜の耐薬品性など化学的耐久性が不充分となるおそれがある。一方、チタンの割合が10%を超えると、チタンが亜鉛サイトに十分置換固溶できなくなり、この酸化物焼結体をターゲットとして形成された膜の導電性や透明性が不十分となるおそれがある。
【0016】
ここで定義するチタンブラックと称される黒色酸化チタン粉末は、黒色顔料や樹脂の充填材等として広く利用されており、これは主に、白色酸化チタン(IV)粉末を原料として製造されている。
チタンブラックの製造方法は、通常の白色酸化チタン(IV)を水素ガス、アンモニアガスなどの還元雰囲気中で600℃以上に加熱還元することにより黒色の低原子価酸化チタンとし、この焼結体を機械的に粉砕して黒色酸化チタン粉末を得ている。還元雰囲気にアンモニアガスを用いて、この製造方法から得られるチタンブラックは、窒素を一部含有している。
【0017】
上記製造方法から得られるチタンブラックとは、実質的に低原子価酸化チタン、低原子価酸窒化チタン等の混合物である。
還元雰囲気としてアンモニアガスを用いた加熱還元では、白色酸化チタン(IV)は窒素が取り込まれた酸窒化チタンとなり、還元雰囲気として水素ガスを用いた加熱還元では、白色酸化チタン(IV)は低原子価酸化チタンとなるが、本発明におけるチタンブラックは、これら酸窒化チタンおよび低原子価酸化チタンの何れも含み、従って、組成式TiNXY(X=0〜1.4、Y=0.1〜1.8)で表されるものである。例えば、化学式は、TiO、TiO1.5、TiON等であり、TiNXY(X=0〜1.4、Y=0.1〜1.8)等の色々な混合物である。チタンブラックは色々な化学式を有するが、チタンブラックの組成は、全体の平均として、窒素は10〜20mol%、酸素が30〜50mol%、チタンが50〜60mol%であるのが好ましい。
チタンブラックの一次粒子サイズは、原料とする白色酸化チタン(IV)粉末のサイズによって調整することができる。通常、市販品では、40nm〜100nmである。
なお、一次粒子サイズとは、粒度分布計や電子顕微鏡等によって測定されたものである。
【0018】
本発明における酸化物焼結体は、酸化亜鉛粉末と、チタンブラック粉末とを混合しプレス成形したものである。
チタンブラック粉末としては三菱マテリアル(株)製の商品名「12S」、「13M」、「13M−C」等が好ましい。白色酸化チタン(IV)を水素ガス、アンモニアガスなどの還元雰囲気で600℃以上に加熱還元して作製しても構わない。
【0019】
本発明における酸化物焼結体は、必須元素である亜鉛、チタン、酸素および窒素、や後述する添加元素のほかに、例えば、インジウム、イリジウム、ルテニウム、レニウムなどの他の元素を、不純物として含有していてもよい。
不純物として含有される元素の合計含有量は、原子比で、酸化物焼結体を構成する全金属元素の総量に対して0.5%以下であることが好ましい。
【0020】
本発明における酸化物焼結体は、酸化亜鉛相とチタン酸亜鉛化合物相とから構成されることが好ましい。このように酸化物焼結体中にチタン酸亜鉛化合物相が含まれていると、酸化物焼結体自体の強度が増すので、例えばターゲットとして過酷な条件(高電力など)で成膜してもクラックを生じることがない。
ここで、チタン酸亜鉛化合物相とは、具体的には、ZnTiO3、Zn2TiO4のほか、これらの亜鉛サイトにチタン元素が固溶されたものや、酸素欠損が導入されているものや、Zn/Ti比がこれらの化合物から僅かにずれた非化学量論組成のものも含むものとする。
また、酸化亜鉛相とは、具体的には、ZnOのほか、これにチタン元素が固溶されたものや、酸素欠損が導入されているものや、亜鉛欠損により非化学量論組成となったものも含むものとする。なお、酸化亜鉛相は、通常、ウルツ鉱型構造をとる。
【0021】
本発明における酸化物焼結体は、実質的に酸化チタン、酸窒化チタンの結晶相を含有しないことが好ましい。すなわち、原子数比でTi/(Zn+Ti)の値が0.02以下である酸化物焼結体では、通常、チタンが酸化亜鉛に完全に反応するため、酸化物焼結体中に酸化チタンの結晶相は生成されないが、本発明における酸化物焼結体の如くTi/(Zn+Ti)の値が0.1以上を超えると、一般に、チタンが酸化亜鉛へ反応しきれないため、酸化物焼結体中に酸化チタンの結晶相が生じやすくなる。酸化物焼結体に酸化チタンの結晶相が含まれていると、得られる透明導電膜は、比抵抗などの物性にムラがあり均一性に欠けるものとなるおそれがあるため、本発明における酸化物焼結体では実質的に酸化チタンの結晶相を含有しないことが好ましいのである。
また、酸化チタンの結晶相とは、具体的には、TiO2,Ti23,TiO等のほか、これらの結晶にZnなど他の元素が固溶された物質も含むものとする。
酸窒化チタンの結晶相とは、TiON等のほか、これらの結晶にZnなど他の元素が固溶された物質も含むものとする。
【0022】
本発明における酸化物焼結体は、ガリウム、アルミニウム、錫、シリコン、ゲルマニウム、ジルコニウム、ハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(以下、これらを「添加元素」と称することもある)をも含有することが好ましい。このような添加元素を含有することによって、この酸化物焼結体をターゲットとして形成される膜の比抵抗に加え、酸化物焼結体自体の比抵抗も低下させることができる。例えば直流スパッタリング時の成膜速度は、スパッタリングターゲットとする酸化物焼結体の比抵抗に依存し、酸化物焼結体自体の比抵抗を下げることにより、成膜時の生産性を向上させることができる。
添加元素を含有する場合、その全含有量は、原子比で、酸化物焼結体を構成する全金属元素の総量に対して0.05%以下であることが好ましい。添加元素の含有量が前記範囲よりも多いと、酸化物焼結体をターゲットとして形成される膜の比抵抗が増大するおそれがある。
【0023】
前記添加元素は、酸化物の形態で酸化物焼結体中に存在していてもよいし、前記酸化亜鉛相の亜鉛サイトに置換した(固溶した)形態で存在していてもよいし、前記チタン酸亜鉛化合物相のチタンサイトおよび/または亜鉛サイトに置換した(固溶した)形態で存在していてもよい。
【0024】
本発明の酸化物焼結体は、必須元素である亜鉛および、チタン、酸素および窒素や前記添加元素のほかに、例えば、インジウム、イリジウム、ルテニウム、レニウムなどの他の元素を、不純物として含有していてもよい。不純物として含有される元素の合計含有量は、原子比で、酸化物焼結体を構成する全金属元素の総量に対して0.1%以下であることが好ましい。
【0025】
本発明における酸化物焼結体の比抵抗は、5kΩ・cm以下であることが好ましい。例えば、直流スパッタリング時の成膜速度は、スパッタリングターゲットとする酸化物焼結体の比抵抗に依存するので、酸化物焼結体の比抵抗が5kΩ・cmを超えると、直流スパッタで安定的な成膜を行えないおそれがある。成膜時の生産性を考慮すると、本発明における酸化物焼結体の比抵抗は低いほど好ましく、具体的には100Ω・cm以下であるのがよい。
【0026】
以上のような本発明における酸化物焼結体は、後述する本発明の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料の製造方法によって好ましく得られるが、該製造方法により得られたものに限定されるわけではない。例えば、チタンブラックと、酸化亜鉛粉もしくは水酸化亜鉛粉とを組み合わせたものや、チタンブラックと亜鉛金属とを組み合わせたものを原料粉末として得られたものであってもよい。
【0027】
本発明の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料は、酸化物焼結体の相対密度が93%以上、好ましくは95〜100%であるのがよい。ここで、相対密度とは、酸化物焼結体の密度を理論密度で除し、100を掛けたものと定義する。相対密度が93%未満であると、酸化物焼結体の特徴である、成膜速度が速い、安定な成膜が可能という特徴を損なわれるおそれがある。
【0028】
(酸化物焼結体の製造方法)
本発明の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料の製造方法は、チタンブラック粉と、酸化亜鉛粉もしくは水酸化亜鉛粉との混合粉を含む原料粉末を成形した後、得られた成形体を焼結することにより、上述した本発明における酸化物焼結体を得る方法である。
【0029】
前記原料粉末の具体例としては、チタンブラック粉と、酸化亜鉛粉もしくは水酸化亜鉛粉との混合粉であればよい。好ましくは、チタンブラック粉と、酸化亜鉛粉もしくは水酸化亜鉛粉との混合粉を含むものがよい。上述したように、例えば、チタンブラックと亜鉛金属とを組み合わせたものを原料粉末としても、本発明の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料は得られるが、その場合、酸化物焼結体中に亜鉛の金属粒が存在しやすくなり、これをターゲットとして成膜すると、成膜中にターゲット表面の金属粒が溶融してしまいターゲットから放出されず、得られる膜の組成とターゲットの組成とが大きく異なる傾向がある。
【0030】
前記チタンブラック粉としては、例えば、三菱マテリアル(株)製の商標「12S」、「13M」、「13M−C」等;白色酸化チタン(IV)を水素ガス、アンモニアガスなどの還元雰囲気で600℃以上に加熱還元して作製したものなどが挙げられる。
前記酸化亜鉛粉としては、通常、ウルツ鉱構造のZnO等の粉末が用いられ、さらにこのZnOを予め還元雰囲気で焼成して酸素欠損を含有させたものを用いてもよい。
前記水酸化亜鉛粉としては、アモルファスもしくは結晶構造のいずれであってもよい。
原料粉末として各々用いる化合物(粉)の平均粒径は、それぞれ1μm以下であることが好ましい。
【0031】
前記原料粉末としてチタンブラック粉と、酸化亜鉛粉もしくは水酸化亜鉛粉との混合粉を用いる場合の各粉の混合割合は、各々用いる化合物(粉)の種類に応じて、最終的に得られる酸化物焼結体において原子数比でTi/(Zn+Ti)の値が上述した範囲となるように適宜設定すればよい。その際、亜鉛はチタンに比べて蒸気圧が高く焼結した際に揮散しやすいことを考慮して、所望する酸化物焼結体の目的組成(ZnとTiとの原子数比)よりも、予め亜鉛の量が多くなるように混合割合を設定しておくことが好ましい。
【0032】
本発明では、チタンブラックを用いることを特徴とする。これは、原子価が異なる複数のチタン酸化物成分が存在しない純粋な低原子価酸化チタンである、例えば、酸化チタン(II)、酸化チタン(III)などを用いるとコストが高いが、チタンブラックを用いれば、色々な低原子価酸化チタン、あるいは、低原子価酸窒化チタンの混合物であるため、コストが安く、さらに、本発明者は、チタンブラックは、単成分の酸化チタン(II)、酸化チタン(III)と同等の酸化亜鉛のドーパントとして機能を有することを見出したためである。
【0033】
大気雰囲気中での焼結では、チタンブラック中に含まれる低原子価酸化チタン、低原子価酸窒化チタンのいずれも酸化されて主原子価(チタンは4価)になってしまう。そのため、不活性雰囲気または還元雰囲気中での焼結が必須である。但し、不活性雰囲気または還元雰囲気中での焼結では、酸化亜鉛が還元されて揮散しやすいので、酸化亜鉛を所望する原子数比となる量の1.1〜1.3倍程度とすればよい。なお、原料粉末として各々用いる化合物(粉)は、それぞれ1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
不活性雰囲気または還元雰囲気としては、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、真空および水素からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる雰囲気が挙げられる。
【0034】
原料粉末を成形する方法は、特に制限されるものではないが、例えば、原料粉末と水系溶媒とを混合し、得られたスラリーを充分に湿式混合により混合した後、固液分離・乾燥・造粒し、得られた造粒物を成形すればよい。
水系溶媒は、水を主成分とし、水単独であってもよいし、水とメタノール、エタノールなどのアルコールなどとの混合物であってもよい。
湿式混合は、例えば、硬質ZrO2ボール等を用いた湿式ボールミルや振動ミルにより行なえばよく、湿式ボールミルや振動ミルを用いた場合の混合時間は、12〜78時間程度が好ましい。なお、原料粉末をそのまま乾式混合してもよいが、湿式混合の方がより好ましい。
【0035】
固液分離・乾燥・造粒については、それぞれ公知の方法を採用すればよい。
得られた造粒物を成形する際には、例えば、造粒物を型枠に入れ、冷間プレスや冷間静水圧プレスなどの冷間成形機を用いて1ton/cm2以上の圧力をかけて成形することができる。このとき、ホットプレスなどを用いて熱間で成形を行うと、製造コストの面で不利となるとともに、大型焼結体が得にくくなる。
【0036】
得られた成形体の焼結は、不活性雰囲気または還元雰囲気の雰囲気中、600〜1500℃で行なう。
不活性雰囲気または還元雰囲気中で焼結する際も、焼結温度は600〜1500℃、好ましくは1000〜1300℃とする。焼結温度が600℃未満であると、焼結が充分に進行しないので、ターゲット密度が低くなり、一方、1500℃を超えると、酸化亜鉛自体が分解して消失してしまうこととなる。なお、成形体を前記焼結温度まで昇温する際には、昇温速度を、1000℃までは5〜10℃/分とし、1000℃を超え1500℃までは1〜4℃/分とすることが、焼結密度を均一にするうえで好ましい。
【0037】
不活性雰囲気または還元雰囲気中で焼結する際の焼結時間(すなわち、焼結温度での保持時間)は、3〜15時間とすることが好ましい。焼結時間が3時間未満であると、焼結密度が不充分となりやすく、得られる酸化亜鉛系透明導電膜形成材料の強度が低下する傾向があり、一方、15時間を超えると、酸化亜鉛系透明導電膜形成材料の結晶粒成長が著しくなるとともに、空孔の粗大化、ひいては最大空孔径の増大化を招く傾向があり、その結果、焼結密度が低下するおそれがある。
【0038】
焼結方法は、特に制限されるものではなく、例えば、常圧焼結法、ホットプレス法、熱間等方圧加圧法(HIP法)、放電プラズマ焼結法(SPS法)、ミリ波焼結法、マイクロ波焼結法など公知の方法を採用することができる。
【0039】
(ターゲット)
本発明のターゲットは、スパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法またはEB蒸着法などによる成膜に用いられるターゲットである。なお、このような成膜の際に用いる固形材料のことを「タブレット」と称する場合もあるが、本発明においてはこれらを含め「ターゲット」と称することとする。
【0040】
本発明のターゲットは、上述した本発明の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料を加工してなる。
加工方法は、特に制限されず、適宜公知の方法を採用すればよい。例えば、酸化亜鉛系透明導電膜形成材料に平面研削等を施した後、所定の寸法に切断してから、支持台に貼着することにより、本発明のターゲットを得ることができる。また、必要に応じて、複数枚の酸化物焼結体を分割形状にならべて、大面積のターゲット(複合ターゲット)としてもよい。
【0041】
本発明の酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法は、スパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法またはEB蒸着法などにより成膜を行うものであるが、その際の具体的手法や条件などについては、上述した酸化亜鉛系透明導電膜形成材料またはターゲットを用いること以外、特に制限はなく、公知のスパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法またはEB蒸着法の手法や条件を適宜採用すればよい。
【0042】
本発明の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料またはターゲットを用いて形成された透明導電膜は、優れた導電性と化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐薬品性(耐アルカリ性、耐酸性)など)および近赤外領域高透過性とを兼ね備えたものである。そのため、例えば、液晶ディスプレイ・プラズマディスプレイ・無機EL(エレクトロルミネセンス)ディスプレイ・有機ELディスプレイ・電子ペーパーなどの透明電極、太陽電池の光電変換素子の窓電極、透明タッチパネル等の入力装置の電極、電磁シールドの電磁遮蔽膜等の用途に好適に用いられる。
さらに、本発明の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料またはターゲットを用いて形成された酸化亜鉛系透明導電膜は、透明電波吸収体、紫外線吸収体、さらには透明半導体デバイスとして、他の金属膜や金属酸化膜と組み合わせて活用することもできる。
【0043】
本発明の酸化亜鉛系透明導電膜の膜厚は、用途に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、好ましくは50〜600nm、より好ましくは100〜500nmである。50nm未満であると、充分な比抵抗が確保できないおそれがあり、一方、600nmを超えると膜に着色が生じてしまうおそれがある。
【0044】
(透明導電性基板)
本発明の透明導電性基板は、透明基材上に、上述した酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法により成膜された酸化亜鉛系透明導電膜を備えるものである。
前記透明基材は、スパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法またはEB蒸着法による成膜条件において形状を維持しうるものであれば、特に限定されない。例えば、各種ガラス等の無機材料、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロース、ポリイミドなどのプラスチック類)等の樹脂などで形成された板状物、シート状物、フィルム状物等を用いることができるが、特に、ガラス板、樹脂フィルム又は樹脂シートのいずれかであるのが好ましい。透明基材の可視光透過率は、通常、90%以上、好ましくは95%以上であるのがよい。
【0045】
なお、前記透明基材として樹脂フィルムや樹脂シートを用いる場合、スパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法またはEB蒸着法による成膜で受けるダメージを分散均一化するために、工業的に行われているロールツーロールの成膜方法で、巻き出し速度と巻取り速度をコントロールしながら引張応力をかけた状態で成膜することが好ましい。さらに、あらかじめ樹脂フィルムまたは樹脂シートを加熱した状態で成膜してもよいし、成膜最中に樹脂フィルムまたは樹脂シートを冷却するようにしてもよい。また、スパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法またはEB蒸着法による成膜でダメージを受ける時間を短縮するため、樹脂フィルムまたは樹脂シートの搬送速度の高速化(例えば1.0m/分以上で)を図ることも効果的であり、この場合は、例えば成膜する樹脂フィルムまたは樹脂シートとターゲットとの距離が短くても成膜が可能となり、工業的プロセスとしては有利である。
【0046】
前記透明基材には、必要に応じて、単層または多層からなる絶縁層、半導体層、ガスバリア層または保護層のいずれかが形成されていてもよい。絶縁層としては、酸化珪素膜や窒化酸化珪素膜などが挙げられる。半導体層としては、薄膜トランジスター(TFT)などが挙げられ、主にガラス基板に形成される。ガスバリア層としては、酸化珪素膜、窒化酸化珪素膜、アルミニウム酸マグネシウム膜などが挙げられ、水蒸気バリア膜などとして樹脂板もしくは樹脂フィルムに形成される。保護層は、基材の表面を傷や衝撃から守るためのものであり、Si系、Ti系、アクリル樹脂系など各種コーティング層が挙げられる。
【0047】
本発明の酸化亜鉛系透明導電性基板の比抵抗は、通常2×10-3Ω・cm以下、好ましくは8×10-4Ω・cm以下である。また、その表面抵抗(シート抵抗)は、用途によって異なるが、通常5〜10000Ω/□、好ましくは10〜300Ω/□であるのが好ましい。なお、比抵抗および表面抵抗は、例えば実施例で後述する方法によって測定することができる。
本発明の酸化亜鉛系透明導電性基板の透過率は、可視光領域で、通常85%以上、好ましくは90%以上である。また、その全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上であり、そのヘイズ値は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下であるのがよい。なお、透過率は、例えば実施例で後述する方法によって測定することができる。
【0048】
本発明の透明導電性基板における酸化亜鉛系透明導電膜の膜厚は、50〜600nmであることが好ましい。この膜厚の範囲では、用途によって異なるが、可撓性が保たれた連続的な膜を得る事ができる。さらに、本発明の透明導電膜の膜厚は用途に応じて100〜500nmとすることが望ましい。
本発明の透明導電性基板には、必要に応じて、最外層として、保護膜、反射防止膜、フィルター等の役割や、液晶の視野角の調整、曇り止め等の機能を発揮する任意の樹脂または無機化合物の層を、1層または2層以上積層することができる。
【0049】
本発明の透明導電性基板は、上述したように、良好な透明性を有し、かつ、上述したように優れた導電性と化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐薬品性(耐アルカリ性、耐酸性)など)を兼ね備えたものである。そのため、例えば、液晶ディスプレイ・プラズマディスプレイ・無機EL(エレクトロルミネセンス)ディスプレイ・有機ELディスプレイ・電子ペーパーなどの透明電極、太陽電池の光電変換素子の窓電極、透明タッチパネル等の入力装置の電極、電磁シールドの電磁遮蔽膜、透明電波吸収体、紫外線吸収体、さらには透明半導体デバイスとして他の金属膜/金属酸化膜と組み合わせて活用することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例により限定されるものではない。
なお、得られた透明導電性基板の評価は以下の方法で行なった。
【0051】
<比抵抗>
比抵抗は、抵抗率計(三菱化学(株)製「LORESTA−GP、MCP−T610」)を用いて、四端子四探針法により測定した。詳しくは、サンプルに4本の針状の電極を直線上に置き、外側の二探針間に一定の電流を流し、内側の二探針間に一定電流を流し、内側の二探針間に生じる電位差を測定し、抵抗を求めた。
<表面抵抗>
表面抵抗(Ω/□)は、比抵抗(Ω・cm)を膜厚(cm)で除することにより算出した。
<透過率>
透過率は、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製「V−670」)を用いて測定した。
<耐湿性>
透明導電性基板を、温度60℃、相対湿度90%の雰囲気中に1000時間保持する耐湿試験に付した後、表面抵抗を測定した。耐湿試験後の表面抵抗が、耐湿試験前の表面抵抗の2倍以下であると、耐湿性に優れると言える。
<耐熱性>
透明導電性基板を、温度200℃の大気中に5時間保持する耐熱試験に付した後、表面抵抗を測定した。耐熱試験後の表面抵抗が、耐熱試験前の表面抵抗の1.5倍以下であると、耐熱性に優れると言える。
<耐アルカリ性>
透明導電性基板を、3%のNaOH水溶液(40℃)中に10分間浸漬し、浸漬前後の基板上の膜質の変化の有無を目視にて確認した。
<耐酸性>
透明導電性基板を、3%のHCl水溶液(40℃)中に10分間浸漬し、浸漬前後の基板上の膜質の変化の有無を目視にて確認した。
【0052】
[実施例1]
酸化亜鉛(ZnO、キシダ化学(株)製)、チタンブラック(三菱マテリアル(株)製、品番「13M」:1次粒子サイズ97nm)を、亜鉛元素とチタン元素とが原子数比 Zn:Ti=96.0:4.0となるように秤量し、ポリプロピレン製の容器に入れ、更に2mmφジルコニア製ボールと混合溶媒としてエタノールを入れた。これをボールミルにより混合し、原料粉末を得た。ここで、チタンブラックは、低原子価酸化チタン、低原子価酸窒化チタン等の混合物であり、正確な組成はわからないので、計算上、チタンブラックの平均原子価を3と仮定してモル比を96:4となるようにした。
混合操作後、2mmφジルコニア製ボールとエタノールを除去して得られた原料粉末を金型に入れ、40MPaの圧力で加圧し、円盤型の成形体を得た。これを電気炉に入れ、Ar雰囲気で1300℃で加熱処理を行い、酸化物焼結体を得た。この酸化物焼結体の相対密度を酸化物焼結体のサイズから算出したところ96.1%であった。なお、相対密度は、酸化亜鉛、酸化チタンの単体密度に混合の重量比をかけ、和をとった理論密度を100%として求めている(下式(A)、(B)を参照、以下の実施例においても同様にして求めた)。得られた酸化物焼結体に研削、表面研磨を施し、50.8mmφ、厚さ3mmの酸化物焼結体を得た。
相対密度=100×[(酸化物焼結体の密度)/(理論密度)]・・・(A)
理論密度=(酸化亜鉛の単体密度×混合重量比+酸化チタンの単体密度×混合重量比)・・・(B)
【0053】
得られた酸化物焼結体を、銅板をバッキングプレートとして用い、インジウム半田を用いてボンディングし、スパッタリングターゲットを得た。
得られたスパッタリングターゲットを用い、スパッタリングにより成膜を行った。スパッタ条件は以下のとおりであり、厚さ約500nmの薄膜を得た。
ターゲット寸法 :50.8mmφ×3mm厚
スパッタリング装置 :キャノンアネルバ製 「E-200S」
スパッタ方式 :DCマグネトロンスパッタリング
到達真空度 :2.0×10-4Pa
Ar圧力 :0.5Pa
基板温度 :200℃
スパッタ電力 :30W
使用基板 :石英ガラス(50.8mm×50.8mm×0.7mm)
【0054】
また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
得られた薄膜のシート抵抗を四探針法(三菱化学(株)製、「ロレスタ」)で、膜厚をケーエルエー・テンコール(株)製「Alpha−Step IQ」を用いて測定し、抵抗率を算出したところ、5.1×10-4Ω・cmであった。表面抵抗は10.2Ω/□であった。なお、透明基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均87%、赤外領域(780nm〜1500nm)で平均87%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜1500nm)における透過率は平均94%であった。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
【0055】
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。また、耐アルカリ性、耐酸性に優れていることから、パターニングの際には適当なエッチングレートを有することが推測される。
【0056】
[実施例2]
酸化亜鉛(ZnO、キシダ化学(株)製)、チタンブラック(三菱マテリアル(株)製、品番「13M−C」:1次粒子サイズ75nm)を、亜鉛元素とチタン元素とが原子数比 Zn:Ti=96.0:4.0となるように秤量し、ポリプロピレン製の容器に入れ、更に2mmφジルコニア製ボールと混合溶媒としてエタノールを入れた。これをボールミルにより混合し、原料粉末を得た。ここで、チタンブラックは、低原子価酸化チタン、低原子価酸窒化チタン等の混合物であり、正確な組成はわからないので、計算上、チタンブラックの平均原子価を3(Ti23(III))と仮定してモル比を96:4となるようにした。
混合操作後、2mmφジルコニア製ボールとエタノールを除去して得られた原料粉末を金型に入れ、40MPaの圧力で加圧し、円盤型の成形体を得た。これを電気炉に入れ、Ar雰囲気で1300℃で加熱処理を行い、酸化物焼結体を得た。この酸化物焼結体の相対密度を酸化物焼結体のサイズから算出したところ96.7%であった。なお、相対密度は、実施例1と同様にして求めている。得られた酸化物焼結体に研削、表面研磨を施し、50.8mmφ、厚さ3mmの酸化物焼結体を得た。
【0057】
得られた酸化物焼結体を、銅板をバッキングプレートとして用い、インジウム半田を用いてボンディングし、スパッタリングターゲットを得た。
得られたスパッタリングターゲットを用い、スパッタリングにより成膜を行った。スパッタ条件は以下のとおりであり、厚さ約500nmの薄膜を得た。
ターゲット寸法 :50.8mmφ×3mm厚
スパッタリング装置 :キャノンアネルバ製 「E-200S」
スパッタ方式 :DCマグネトロンスパッタリング
到達真空度 :2.0×10-4Pa
Ar圧力 :0.5Pa
基板温度 :200℃
スパッタ電力 :30W
使用基板 :石英ガラス(50.8mm×50.8mm×0.7mm)
【0058】
また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
得られた薄膜のシート抵抗を四探針法(三菱化学(株)製、ロレスタ)で、膜厚をケーエルエー・テンコール(株)製「Alpha−Step IQ」を用いて測定し、抵抗率を算出したところ、5.0×10-4Ω・cmであった。表面抵抗は10.0Ω/□であった。なお、透明基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均87%、赤外領域(780nm〜1500nm)で平均87%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜1500nm)における透過率は平均94%であった。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
【0059】
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。また、耐アルカリ性、耐酸性に優れていることから、パターニングの際には適当なエッチングレートを有することが推測される。
【0060】
[比較例1]
酸化亜鉛(ZnO、キシダ化学(株)製)、チタンブラック(三菱マテリアル(株)製、品番「13M−C」:1次粒子サイズ75nm)を、亜鉛元素とチタン元素とが原子数比 Zn:Ti=85:15となるように秤量し、ポリプロピレン製の容器に入れ、更に2mmφジルコニア製ボールと混合溶媒としてエタノールを入れた。これをボールミルにより混合し、原料粉末を得た。ここで、チタンブラックは、低原子価酸化チタン、低原子価酸窒化チタン等の混合物であり、正確な組成はわからないので、計算上、チタンブラックの平均原子価を3(Ti23(III))と仮定してモル比を85:15となるようにした。
混合操作後、2mmφジルコニア製ボールとエタノールを除去して得られた原料粉末を金型に入れ、40MPaの圧力で加圧し、円盤型の成形体を得た。これを電気炉に入れ、Ar雰囲気で1300℃で加熱処理を行い、酸化物焼結体を得た。この酸化物焼結体の相対密度を酸化物焼結体のサイズから算出したところ93.2%であった。なお、相対密度は、実施例1と同様にして求めている。得られた酸化物焼結体に研削、表面研磨を施し、50.8mmφ、厚さ3mmの酸化物焼結体を得た。
【0061】
得られた酸化物焼結体を、銅板をバッキングプレートとして用い、インジウム半田を用いてボンディングし、スパッタリングターゲットを得た。
得られたスパッタリングターゲットを用い、スパッタリングにより成膜を行った。スパッタ条件は以下のとおりであり、厚さ約500nmの薄膜を得た。
ターゲット寸法 :50.8mmφ×3mm厚
スパッタリング装置 :キャノンアネルバ製 「E-200S」
スパッタ方式 :DCマグネトロンスパッタリング
到達真空度 :2.0×10-4Pa
Ar圧力 :0.5Pa
基板温度 :200℃
スパッタ電力 :30W
使用基板 :石英ガラス(50.8mm×50.8mm×0.7mm)
【0062】
また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
得られた薄膜のシート抵抗を四探針法(三菱化学(株)製、ロレスタ)で、膜厚をケーエルエー・テンコール(株)製「Alpha−Step IQ」を用いて測定し、抵抗率を算出したところ、2.1×10-2Ω・cmであった。表面抵抗は420.0Ω/□であった。なお、透明基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均83%、赤外領域(780nm〜1500nm)で平均83%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜1500nm)における透過率は平均94%であった。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.1倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.1倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
【0063】
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)に優れているが比抵抗が高いことが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に亜鉛、チタン、酸素および窒素からなる酸化物焼結体であって、原子数比でTi/(Zn+Ti)=0.02超0.1以下となるよう含有されていることを特徴とする酸化亜鉛系透明導電膜形成材料。
【請求項2】
酸化亜鉛を主成分とし、チタンブラックを含む酸化亜鉛系透明導電膜形成材料であり、チタンブラックの原子数の割合が全金属原子数に対して2%超10%以下であり、かつチタンブラックを用いて作製される酸化物焼結体であることを特徴とする酸化亜鉛系透明導電膜形成材料。
【請求項3】
前記酸化物焼結体の相対密度が93%以上である請求項1または2に記載の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料を製造する方法であって、チタンブラック粉と、酸化亜鉛粉もしくは水酸化亜鉛粉との混合粉を含む原料粉末を成形した後、得られた成形体を不活性雰囲気または還元雰囲気中600℃〜1500℃で焼結することを特徴とする酸化亜鉛系透明導電膜形成材料の製造方法。
【請求項5】
前記不活性雰囲気または還元雰囲気は、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、真空および水素からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる雰囲気である、請求項4に記載の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料の製造方法。
【請求項6】
スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザ堆積法(PLD法)またはエレクトロンビーム(EB)蒸着法による成膜に用いられるターゲットであって、請求項1〜3のいずれかに記載の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料を加工してなることを特徴とするターゲット。
【請求項7】
請求項6に記載のターゲットを用いて、スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザ堆積法(PLD法)またはエレクトロンビーム(EB)蒸着法により酸化亜鉛系透明導電膜を形成する、ことを特徴とする酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法。
【請求項8】
透明基材上に、請求項7に記載の透明導電膜の形成方法により成膜された酸化亜鉛系透明導電膜を備える、ことを特徴とする透明導電性基板。

【公開番号】特開2012−158825(P2012−158825A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21177(P2011−21177)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】