説明

酸化亜鉛系透明導電膜形成材料、それを用いたターゲット、酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法および透明導電性基板

【課題】実用に耐えうる導電性を保ちながら、かつ耐候性、耐熱性等の化学的耐久性を備え、パターニングの際に適当なエッチングレートを有する透明導電膜を成膜するためのターゲットに用いることができる酸化亜鉛系透明導電膜形成材料、その製造方法、それを用いたターゲット、および酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法を提供する。
【解決手段】本発明の透明導電膜形成材料は、酸化亜鉛を主成分とし、フッ化ガリウムおよびフッ化アルミニウムのうち少なくとも一方を含み、さらにチタンを含む酸化亜鉛系透明導電膜形成材料であり、全金属原子数に対するチタンの原子数の割合が2%超10%以下であり、全金属原子数に対するフッ化ガリウムおよびフッ化アルミニウムの一方または両方の金属原子数の割合が0.1%以上5%以下であり、かつチタン源として、一般式:TiO2-X(X=0.1〜1)で表される低原子価酸化チタンを用いた酸化物焼結体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザー堆積(PLD)法またはエレクトロンビーム(EB)蒸着法により酸化亜鉛系透明導電膜を形成する際に用いられるターゲット等として有用な酸化物焼結体である酸化亜鉛系透明導電膜形成材料、それを用いたターゲット、酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法、およびそのターゲットから製膜した透明導電性基板に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は可視光透過性と電気伝導性を兼ね備えた膜であり、太陽電池や、液晶表示素子、受光素子の電極など幅広い分野で利用されている。
透明導電膜としては酸化インジウムに酸化錫を添加したスズドープ酸化インジウム(ITO)膜が知られており、該ITO膜はスパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザ堆積法(PLD)法、エレクトロンビーム(EB)蒸着法、スプレー法といった成膜方法により製造され、また利用されている。
しかし、その原料となるインジウムはレアメタルであり、資源量、価格等に問題があるため、その代替材料が求められている。
【0003】
代替材料の候補として、酸化亜鉛系、酸化錫系、酸化チタン系、水酸化マグネシウム系などの透明導電膜が提案されている。
その中でも酸化亜鉛系透明導電膜として、3価の元素である酸化アルミニウムもしくは酸化ガリウムを酸化亜鉛に添加したアルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)膜、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)膜が提案されており、ITO膜と比較しても遜色のない導電性、透明性を有した膜が製造されている。
これら透明導電膜の成膜方法として、真空成膜法であるPLD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などや、非真空系成膜方法であるスプレー法、ゾルゲル法などが提案されている。
【0004】
酸化亜鉛系透明導電膜については、上述のように、透明性や導電性についてはITO膜と比肩しうる値が得られているが、温度や湿度に対する耐久性(耐候性)が劣ることや、また素子を製造する際のパターニング時に、エッチングレートが速すぎてパターニングが困難であるなどの問題がある。
【0005】
このような耐候性、および化学的な脆弱性といった性質は、異種の金属元素を添加することにより制御できることが知られており、特許文献1には、酸化亜鉛に酸化チタンTiO2と酸化ガリウムをコドープしたターゲットを使用して、スパッタリング法やイオンプレーティング法などにより、耐久性に優れたが酸化亜鉛系透明導電膜が得られることが記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1では、2価の元素である亜鉛元素の結晶中サイトに4価の元素であるTi元素が置換固溶していることから、電荷のバランスの崩れが大きく、結晶構造のひずみが大きいことや、イオン性不純物散乱の要因となることから、十分な導電性を発現することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4295811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記問題点を解決したものであり、実用に耐えうる導電性を保ちながら、かつ耐候性、耐熱性等の化学的耐久性を備え、パターニングの際に適当なエッチングレートを有する透明導電膜を成膜するためのターゲットに用いることができる酸化亜鉛系透明導電膜形成材料、それを用いたターゲット、酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法、および透明導電性基板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討を重ねた結果、酸化亜鉛を母体とし、そこに所定量のフッ化アルミニウムもしくはフッ化ガリウムと、さらに低原子価酸化チタン(たとえばチタン元素が2価または3価等)とを添加することにより得られる酸化亜鉛系透明導電膜形成材料を用いて製造された透明導電膜が温度や湿度に対して十分な耐候性をもち、さらに適度なエッチングレートを有することを見出し、本発明を完成するに至った。
特にフッ素をドープすることにより、キャリア電子移動度が大きくなることにより、近赤外領域透過性(780nm〜1500nm)を低下させずにさらなる低抵抗化が可能になることを見出した。
また、フッ素を真空プロセスで成膜する際、成膜雰囲気にフッ素系のガスを導入してフッ素をドープする試みはなされているが、均一に再現性よく、フッ素を導入することが困難であったが、酸化物焼結体中にフッ素をドープすることにより、均一に再現性よく、膜中にフッ素を導入することが可能であることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)酸化亜鉛を主成分とし、フッ化ガリウムおよびフッ化アルミニウムのうち少なくとも一方を含み、さらにチタンを含む酸化亜鉛系透明導電膜形成材料であり、全金属原子数に対するチタンの原子数の割合が2%超10%以下であり、全金属原子数に対するフッ化ガリウムおよびフッ化アルミニウムの一方または両方の金属原子数の割合が0.1%以上5%以下であり、かつチタン源として、一般式:TiO2-X(X=0.1〜1)で表される低原子価酸化チタンを用いた酸化物焼結体であることを特徴とする酸化亜鉛系透明導電膜形成材料。
(2)前記酸化物焼結体の相対密度が93%以上である前記(1)に記載の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料。
(3)スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザ堆積(PLD)法またはエレクトロンビーム(EB)蒸着法による成膜に用いられるターゲットであって、前記(1)または(2)に記載の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料を加工してなることを特徴とするターゲット。
(4)前記(3)に記載のターゲットを用いて、スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザ堆積法(PLD)法またはエレクトロンビーム(EB)蒸着法により酸化亜鉛系透明導電膜を形成する、ことを特徴とする酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法。
(5)透明基材上に、前記(4)に記載の酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法により成膜された酸化亜鉛系透明導電膜を備える、ことを特徴とする透明導電性基板
【発明の効果】
【0011】
本発明の透明導電膜形成材料は、酸化亜鉛を主成分とし、フッ化アルミニウムもしくはフッ化ガリウムと、3価あるいは2価等の低原子価チタン元素とをドープしたものであるので、スパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法、EB蒸着法などによって、透明導電膜を成膜するためのターゲットとして好適に用いることができ、形成された透明導電膜は、パターニングの際に適当なエッチングレートを有する。
また、形成された酸化亜鉛系透明導電膜は、優れた導電性と共に、高い耐候性および化学的耐久性[耐熱性、耐湿性、耐候性、耐薬品性(耐アルカリ性、耐酸性)など]を備える。しかも、このようにして形成された透明導電膜は、希少金属であり毒性を有するインジウムを必須としないという利点も有するので、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を更に詳細に説明するが、下記の記載は一実施様態であり、本発明の要旨を外れない限り、本発明は以下の記載により制限を受けるものではない。
【0013】
(酸化亜鉛系透明導電膜形成材料)
本発明の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料は、実質的に亜鉛と、チタンと、アルミニウムおよび/またはガリウムと、酸素と、フッ素とからなる酸化物焼結体である。
ここで、「実質的」とは、酸化物焼結体を構成する全原子の99%以上が、亜鉛と、チタンと、ガリウムおよび/またはアルミニウムと、フッ素と、酸素とからなることを意味する。
【0014】
本発明における酸化物焼結体においては、チタンの原子数が全金属原子数に対して2%超10%以下の割合で含有されていることが重要であり、好ましくは、チタンの原子数が全金属原子数に対して3%以上9%以下となる割合であり、より好ましくは4%以上8%以下となる割合である。チタンの原子数の割合が2%未満であると、この酸化物焼結体をターゲットとして形成された膜の耐薬品性など化学的耐久性が不充分となるおそれがある。一方、チタンの原子数の割合が10%を超えると、酸化チタンが亜鉛サイトに十分置換固溶できなくなり、この酸化物焼結体をターゲットとして形成された膜の導電性や透明性が低下するおそれがある。
【0015】
また、酸化物焼結体においては、フッ化ガリウムまたはフッ化アルミニウムの金属原子数、すなわちガリウムまたはアルミニウムの原子数は、全金属原子数に対して0.1%以上5%以下の割合であるのがよい。フッ化ガリウムまたはフッ化アルミニウムの金属原子数の割合が0.1%未満であると、形成された膜の導電性の向上効果が不十分となるおそれがある。一方、5%を超えると、ガリウムまたはアルミニウムが亜鉛サイトに置換固溶解しきれなくなり、結晶粒界に析出し、形成された膜の導電性、透過率が不十分となるおそれがある。
なお、AlF3とGaF3は、両方を用いても構わない。その場合、AlF3およびGaF3の金属原子数のトータル量が、前記したように、全金属原子数に対して0.1%以上5%以下の割合となる条件を満たせばよい。
【0016】
本発明における酸化物焼結体は、酸化亜鉛相と、チタン酸亜鉛化合物相と、フッ化アルミニウム相および/またはフッ化ガリウム相とから構成されるか、または、チタン酸亜鉛化合物相並びにフッ化アルミニウム相および/またはフッ化ガリウム相から構成されることが好ましい。このように酸化物焼結体中にチタン酸亜鉛化合物相が含まれていると、酸化物焼結体自体の強度が増すので、過酷な条件(高電力など)で成膜条件においても膜形成材料にクラックが生じたりすることがない。
前記酸化物焼結体は、実質的に酸化チタン相を含有しないことが好ましい。
ここで、チタン酸亜鉛化合物相とは、具体的には、ZnTiO3、Zn2TiO4のほか、これらの亜鉛サイトにチタン元素、ガリウム元素、アルミニウム元素、また、酸素サイトにフッ素が固溶されたもの;酸素欠損が導入されているもの;Zn/Ti比がこれらの化合物から僅かにずれた非化学量論組成のものも含むものとする。
酸化亜鉛相とは、具体的には、ZnOのほか、これにチタン元素、ガリウム元素、アルミニウム元素、フッ素元素が固溶されたもの;酸素欠損が導入されているもの;亜鉛欠損により非化学量論組成となったものも含むものとする。なお、酸化亜鉛相は、通常、ウルツ鉱型構造をとる。
酸化チタン相とは、具体的には、Ti23(III)、TiO(II)等の低原子化酸化チタンとする。
【0017】
本発明における酸化物焼結体は、酸化亜鉛粉末と、酸化チタン粉末と、フッ化アルミニウム粉末および/またはフッ化ガリウム粉末とを混合しプレス成形したものである。
酸化チタン粉末としては酸化チタン(III)、酸化チタン(II)が好ましい。
【0018】
本発明における酸化物焼結体は、必須元素である亜鉛、チタン、アルミニウムおよび/またはガリウム、酸素、フッ素、後述する添加元素のほかに、例えば、インジウム、イリジウム、ルテニウム、レニウムなどの他の元素を、不純物として含有していてもよい。不純物として含有される元素の合計含有量は、原子比で、酸化物焼結体を構成する全金属元素の総量に対して0.5%以下であることが好ましい。
【0019】
本発明における酸化物焼結体は、錫、シリコン、ゲルマニウム、ジルコニウム、ハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(以下、これらを「添加元素」ということがある)をも含有することが好ましい。このような添加元素を含有することによって、この酸化物焼結体をターゲットとして形成される膜の比抵抗に加え、酸化物焼結体自体の比抵抗も低下させることができる。例えば、直流スパッタリング時の成膜速度は、スパッタリングターゲットとする酸化物焼結体の比抵抗に依存し、酸化物焼結体自体の比抵抗を下げることにより、成膜時の生産性を向上させることができる。添加元素を含有する場合、その全含有量は、原子比で、酸化物焼結体を構成する全金属元素の総量に対して0.05%以下であることが好ましい。添加元素の含有量が前記範囲よりも多いと、酸化物焼結体をターゲットとして形成される膜の比抵抗が増大するおそれがある。
【0020】
本発明における酸化物焼結体は、相対密度が93%以上、好ましくは95〜100%であるのがよい。ここで、相対密度とは、酸化物焼結体の密度を理論密度で除し、100を掛けたものと定義する。相対密度が93%未満であると、酸化物焼結体の特徴である、安定に放電して成膜速度が速い、という特徴を損なわれるおそれがある。
【0021】
(酸化亜鉛系透明導電膜形成材料の製造方法)
本発明の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料は、低原子価酸化チタン粉と、酸化亜鉛粉または水酸化亜鉛粉と、フッ化アルミニウム粉および/またはフッ化ガリウム粉との混合粉を含む原料粉末を成形した後、得られた成形体を焼結することにより製造される。
【0022】
前記原料粉末としては、酸化チタン粉と、酸化亜鉛粉または水酸化亜鉛粉と、フッ化アルミニウム粉および/またはフッ化ガリウム粉との混合粉を含めばよく、例えば、混合粉そのものであってもよいし、混合粉に上述した、例えば、インジウム、イリジウム、ルテニウム、レニウムなどの他の元素;添加元素などの粉末が上述した範囲内で含有していてもよい。
【0023】
前記低原子価酸化チタン粉としては、Ti23、TiO等の低原子価酸化チタンの粉末を用いることができ、特に、Ti23の粉末を用いるのが好ましい。なぜなら、Ti23の結晶構造は三方晶であり、これと混合する酸化亜鉛は六方晶のウルツ鉱であるため、結晶構造の対称性が一致し、固相焼結する際に置換固溶しやすいからである。
ここでいう低原子価酸化チタンとは、TiO(II)、Ti23(III)という整数の原子価を有するチタンの酸化物ばかりでなく、Ti35、Ti47、Ti611、Ti59、Ti815等も含み、一般式:TiO2-X(X=0.1〜1)で表される。本発明における低原子価酸化チタンは、一般式TiO2-Xで表される新規な低原子価酸化チタンである。この低原子価酸化チタンの構造は、X線回折装置(X−Ray Diffraction、 XRD)、X線光電子分光装置(X−ray Photoelectron Spectroscopy、 XPS)などの機器分析の結果によって確認することができる。
【0024】
前記一般式TiO2-X(X=0.1〜1)で表される酸化チタンの単成分を作製するのは難しく、混合物として得られる。通常、酸化チタン(TiO2)を水素雰囲気等の還元雰囲気にて、還元剤としてカーボン等を用いて、加熱することにより作製することができる。水素濃度、還元剤としてカーボン量、加熱温度を調製することにより、低原子価酸化チタンの混合物の割合を制御することができる。
【0025】
前記酸化亜鉛粉としては、通常、ウルツ鉱構造のZnO等の粉末が用いられ、さらにこのZnOを予め還元雰囲気で焼成して酸素欠損を含有させたものを用いてもよい。
前記水酸化亜鉛粉としては、アモルファスもしくは結晶構造のいずれであってもよい。
前記フッ化アルミニウム粉は、AlF3の粉末である。
前記フッ化ガリウム粉は、GaF3の粉末である。
各原料粉末の平均粒径は、それぞれ1μm以下であることが好ましい。
【0026】
原料粉末においては、全金属原子数に対するチタンの原子数の割合は、前記した酸化物焼結体と同様に、2%超10%以下、好ましくは3%以上9%以下、より好ましくは4%以上8%以下となる割合であるのがよい。
【0027】
また、全金属原子数に対するフッ化ガリウム粉またはフッ化アルミニウム粉の金属原子数、すなわちガリウムまたはアルミニウムの原子数の割合は、前記した酸化物焼結体と同様に、0.1%以上5%以下の割合であるのがよい。
なお、原料粉末にフッ化ガリウム粉およびフッ化アルミニウム粉の両方を用いる場合も、それらの総量が全金属原子数に対して0.1%以上5%以下の割合となる条件を満たせばよい。
【0028】
前記原料粉末として低原子価酸化チタン粉と、酸化亜鉛粉または水酸化亜鉛粉と、フッ化アルミニウム粉および/またはフッ化ガリウム粉との混合粉を用いる場合の各粉の混合割合は、各々用いる化合物(粉)の種類に応じて、最終的に得られる酸化物焼結体においてチタンの原子数の割合並びにガリウムまたはアルミニウムの原子数の割合が上述した範囲となるように適宜設定すればよい。なお、各原料粉末は、それぞれ1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0029】
その際、亜鉛はチタンに比べて蒸気圧が高く焼結した際に揮散しやすいことを考慮して、所望する酸化物焼結体の目的組成(ZnとTiとの原子数比)よりも、予め亜鉛の量が多くなるように混合割合を設定しておくことが好ましい。具体的には、亜鉛の揮散のしやすさは、焼結する際の雰囲気によって異なり、例えば、酸化亜鉛粉を用いた場合、大気雰囲気や酸化雰囲気では酸化亜鉛粉自体の揮散しか起こらないが、還元雰囲気で焼結すると、酸化亜鉛が還元されて、酸化亜鉛よりもさらに揮散しやすい金属亜鉛となるので、亜鉛の消失量が増すことになるのである(ただし、後述のように、一旦焼結した後、還元雰囲気中でアニール処理を施す場合には、アニール処理を施す時点で既に複合酸化物となっているので、亜鉛が揮散しにくい)。
【0030】
従って、目的組成に対してどの程度亜鉛の量を増やしておくかについては、焼結の雰囲気などを考慮して設定すればよく、例えば、大気雰囲気や酸化雰囲気で焼結する場合には所望する原子数比となる量の1.0〜1.05倍程度、還元雰囲気で焼結する場合には所望する原子数比となる量の1.1〜1.3倍程度とすればよい。なお、原料粉末として各々用いる化合物(粉)は、それぞれ1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0031】
前記原料粉末は成形される前に、粉砕処理が施されてもよい。粉砕処理が施されることで、原料粉末は幅の狭い粒度分布に整えられ、後述する焼結において、均一に固相焼結させることができ、密度の高い酸化物焼結体を得ることができる。
【0032】
粉砕処理する方法としては、特に限定されず、例えば、メディアを使用する場合、ビーズミル、ボールミル、遊星ミル、サンドグラインダー、振動ミルまたはアトライター等の装置を備えた粉砕機による方法、メディアを使用しないジェットミル、ナノマイザー、スターバースト等の湿式超高圧微粒化装置による方法などが挙げられる。
【0033】
前記原料粉末を成形する方法は、特に制限されるものではないが、例えば、原料粉末と水系溶媒とを混合し、得られたスラリーを充分に湿式混合により混合した後、固液分離・乾燥・造粒し、得られた造粒物を成形すればよい。
水系溶媒は、水を主成分とし、水単独であってもよいし、水とメタノール、エタノールなどのアルコールなどとの混合物であってもよい。
湿式混合は、例えば、硬質ZrO2ボール等を用いた湿式ボールミルや振動ミルにより行なえばよく、湿式ボールミルや振動ミルを用いた場合の混合時間は、12〜78時間程度が好ましい。なお、原料粉末をそのまま乾式混合してもよいが、湿式混合の方がより好ましい。
【0034】
固液分離・乾燥・造粒については、それぞれ公知の方法を採用すればよい。得られた造粒物を成形する際には、例えば、造粒物を型枠に入れ、冷間プレスや冷間静水圧プレスなどの冷間成形機を用いて1ton/cm2以上の圧力をかけて成形することができる。このとき、ホットプレスなどを用いて熱間で成形を行うと、製造コストの面で不利となるとともに、大型焼結体が得にくくなる。なお、成形体として造粒物を得る際には、乾燥後、公知の方法で造粒すればよいのであるが、その場合、原料粉末とともにバインダーも混合することが好ましい。バインダーとして、例えば、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル等を用いることができる。
【0035】
得られた成形体の焼結は、大気雰囲気、還元雰囲気(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、真空、水素等)および酸化雰囲気(大気よりも酸素濃度が高い雰囲気)のいずれかの雰囲気中、600〜1500℃で行なう。そして、酸化雰囲気中で焼結した場合には、その後さらに還元雰囲気中でアニール処理を施すようにする。この酸化雰囲気中で焼結した後に施す還元雰囲気中でのアニール処理は、酸化物焼結体に酸素欠損を生じさせ、比抵抗を低下させるために行なうものである。したがって、大気雰囲気中または還元雰囲気中で焼結した際にも、さらなる比抵抗の低下を所望する場合には、焼結後、前記アニール処理を施すのが好ましいことは言うまでもない。
いずれの雰囲気中で焼結する際も、焼結温度は600〜1500℃、好ましくは1000〜1300℃とする。焼結温度が600℃未満であると、焼結が充分に進行せず、ターゲット密度が低くなるおそれがあり、一方、1500℃を超えると、酸化亜鉛自体が分解して消失してしまうおそれがある。なお、成形体を前記焼結温度まで昇温する際には、昇温速度を、1000℃までは5〜10℃/分とし、1000℃を超え1500℃までは1〜4℃/分とすることが、焼結密度を均一にするうえで好ましい。
【0036】
いずれの雰囲気中で焼結する際も、焼結時間(すなわち、焼結温度での保持時間)は、3〜15時間とすることが好ましい。焼結時間が3時間未満であると、焼結密度が不充分となりやすく、得られる酸化物焼結体の強度が低下する傾向があり、一方、15時間を超えると、焼結体の結晶粒成長が著しくなるとともに、空孔の粗大化、ひいては最大空孔径の増大化を招く傾向があり、その結果、焼結密度が低下するおそれがある。
【0037】
焼結を行なう方法は、特に制限されるものではなく、例えば、常圧焼成法、ホットプレス法、熱間等方圧加圧法(HIP法)、放電プラズマ焼結法(SPS法)、冷間等方圧加圧法(CIP法)、マイクロ波焼結法、ミリ波焼結法など公知の方法を採用することができる。
【0038】
前記アニール処理を施す際の還元雰囲気としては、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、真空および水素からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる雰囲気が挙げられる。
前記アニール処理の方法としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、水素などの非酸化性ガスを導入しながら常圧で加熱する方法や、真空(好ましくは、2Pa以下)下で加熱する方法等により行うことができるが、製造コストの観点からは、前者の常圧で行う方法が有利である。
【0039】
前記アニール処理を施すに際し、アニール温度(加熱温度)は、1000〜1400℃とするのが好ましく、より好ましくは1100〜1300℃とするのがよい。アニール時間(加熱時間)は、7〜15時間とするのが好ましく、より好ましくは8〜12時間とするのがよい。アニール温度が1000℃未満であると、アニール処理による酸素欠損の導入が不充分になるおそれがあり、一方、1400℃を超えると、亜鉛が揮散しやすくなり、得られる酸化物焼結体の組成(ZnとTiとの原子数比)が所望の比率と異なってしまうおそれがある。
【0040】
(ターゲット)
本発明のターゲットは、スパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法またはEB蒸着法による成膜に用いられるターゲットである。なお、このような成膜の際に用いる固形材料のことを「タブレット」と称する場合もあるが、本発明においてはこれらを含め「ターゲット」と称することとする。
【0041】
本発明のターゲットは、上述した本発明の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料を加工して得られる。
加工方法は、特に制限されず、適宜公知の方法を採用すればよい。例えば、上記透明導電膜形成材料に平面研削等を施した後、所定の寸法に切断してから、支持台に貼着することにより、本発明のターゲットを得ることができる。また、必要に応じて、複数枚の上記透明導電膜形成材料を分割形状にならべて、大面積のターゲット(複合ターゲット)としてもよい。
【0042】
本発明の酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法は、スパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法またはEB蒸着法により成膜を行うものであるが、その際の具体的手法や条件などについては、上述したターゲットを用いること以外、特に制限はなく、公知のスパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法またはEB蒸着法の手法や条件を適宜採用すればよい。
【0043】
本発明の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料またはターゲットを用いて形成された透明導電膜は、優れた導電性と化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐候性、耐薬品性(耐アルカリ性、耐酸性)など)とを兼ね備えたものであるので、例えば、液晶ディスプレイ・プラズマディスプレイ・無機EL(エレクトロルミネセンス)ディスプレイ・有機ELディスプレイ・電子ペーパーなどの透明電極、太陽電池の光電変換素子の窓電極、透明タッチパネル等の入力装置の電極、電磁シールドの電磁遮蔽膜等の用途に好適に用いられる。さらに、本発明の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料またはターゲットを用いて形成された透明導電膜は、透明電波吸収体、紫外線吸収体、さらには透明半導体デバイスとして、他の金属膜や金属酸化膜と組み合わせて活用することもできる。
【0044】
本発明の酸化亜鉛系透明導電膜の膜厚は、用途に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、好ましくは50〜600nm、より好ましくは100〜500nmである。50nm未満であると、充分な比抵抗が確保できないおそれがあり、一方、600nmを超えると膜に着色が生じてしまうおそれがある。
【0045】
(透明導電性基板)
本発明の透明導電性基板は、透明基材上に、上述した酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法により成膜された酸化亜鉛系透明導電膜を備えるものである。
前記透明基材は、スパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法またはEB蒸着法による成膜条件において形状を維持しうるものであれば、特に限定されない。例えば、各種ガラス等の無機材料、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロース、ポリイミドなどのプラスチック類)等の樹脂などで形成された板状物、シート状物、フィルム状物等を用いることができるが、特に、ガラス板、樹脂フィルム又は樹脂シートのいずれかであるのが好ましい。透明基材の可視光透過率は、通常、90%以上、好ましくは95%以上であるのがよい。
【0046】
なお、前記透明基材として樹脂フィルムや樹脂シートを用いる場合、スパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法またはEB蒸着法による成膜で受けるダメージを分散均一化するために、工業的に行われているロールツーロールの成膜方法で、巻き出し速度と巻取り速度をコントロールしながら引張応力をかけた状態で成膜することが好ましい。さらに、あらかじめ樹脂フィルムまたは樹脂シートを加熱した状態で成膜してもよいし、成膜最中に樹脂フィルムまたは樹脂シートを冷却するようにしてもよい。また、スパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法またはEB蒸着法による成膜でダメージを受ける時間を短縮するため、樹脂フィルムまたは樹脂シートの搬送速度の高速化(例えば1.0m/分以上で)を図ることも効果的であり、この場合は、例えば成膜する樹脂フィルムまたは樹脂シートとターゲットとの距離が短くても成膜が可能となり、工業的プロセスとしては有利である。
【0047】
前記透明基材には、必要に応じて、単層または多層からなる絶縁層、半導体層、ガスバリア層または保護層のいずれかが形成されていてもよい。絶縁層としては、酸化珪素膜や窒化酸化珪素膜などが挙げられる。半導体層としては、薄膜トランジスター(TFT)などが挙げられ、主にガラス基板に形成される。ガスバリア層としては、酸化珪素膜、窒化酸化珪素膜、アルミニウム酸マグネシウム膜などが挙げられ、水蒸気バリア膜などとして樹脂板もしくは樹脂フィルムに形成される。保護層は、基材の表面を傷や衝撃から守るためのものであり、Si系、Ti系、アクリル樹脂系など各種コーティング層が挙げられる。
【0048】
本発明の透明導電性基板の比抵抗は、通常2×10-3Ω・cm以下、好ましくは8×10-4Ω・cm以下である。また、その表面抵抗(シート抵抗)は、用途によって異なるが、通常5〜10000Ω/□、好ましくは10〜300Ω/□であるのが好ましい。なお、比抵抗および表面抵抗は、例えば実施例で後述する方法によって測定することができる。
本発明の透明導電性基板の透過率は、可視光領域で、通常85%以上、好ましくは90%以上である。また、その全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上であり、そのヘイズ値は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下であるのがよい。なお、透過率は、例えば実施例で後述する方法によって測定することができる。
【0049】
本発明の透明導電性基板における酸化亜鉛系透明導電膜の膜厚は、50〜600nmであることが好ましい。この膜厚の範囲では、用途によって異なるが、可撓性が保たれた連続的な膜を得る事ができる。さらに、本発明の透明導電膜の膜厚は用途に応じて100〜500nmとすることが望ましい。
本発明の透明導電性基板には、必要に応じて、最外層として、保護膜、反射防止膜、フィルター等の役割や、液晶の視野角の調整、曇り止め等の機能を発揮する任意の樹脂または無機化合物の層を、1層または2層以上積層することができる。
【0050】
本発明の透明導電性基板は、上述したように、良好な透明性を有し、かつ、上述したように優れた導電性と化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐候性、耐薬品性(耐アルカリ性、耐酸性)など)を兼ね備えたものである。そのため、例えば、液晶ディスプレイ・プラズマディスプレイ・無機EL(エレクトロルミネセンス)ディスプレイ・有機ELディスプレイ・電子ペーパーなどの透明電極、太陽電池の光電変換素子の窓電極、透明タッチパネル等の入力装置の電極、電磁シールドの電磁遮蔽膜、透明電波吸収体、紫外線吸収体、さらには透明半導体デバイスとして他の金属膜/金属酸化膜と組み合わせて活用することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例により限定されるものではない。
なお、得られた透明導電性基板の評価は以下の方法で行なった。
【0052】
<比抵抗>
比抵抗は、抵抗率計(三菱化学(株)製「LORESTA−GP、MCP−T610」)を用いて、四端子四探針法により測定した。詳しくは、サンプルに4本の針状の電極を直線上に置き、外側の二探針間に一定の電流を流し、内側の二探針間に一定電流を流し、内側の二探針間に生じる電位差を測定し、抵抗を求めた。
<表面抵抗>
表面抵抗(Ω/□)は、比抵抗(Ω・cm)を膜厚(cm)で除することにより算出した。
<透過率>
透過率は、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製「V−670」)を用いて測定した。
<耐湿性>
透明導電性基板を、温度60℃、相対湿度90%の雰囲気中に1000時間保持する耐湿試験に付した後、表面抵抗を測定した。耐湿試験後の表面抵抗が、耐湿試験前の表面抵抗の2倍以下であると、耐湿性に優れると言える。
<耐熱性>
透明導電性基板を、温度200℃の大気中に5時間保持する耐熱試験に付した後、表面抵抗を測定した。耐熱試験後の表面抵抗が、耐熱試験前の表面抵抗の1.5倍以下であると、耐熱性に優れると言える。
<耐アルカリ性>
透明導電性基板を、3%のNaOH水溶液(40℃)中に10分間浸漬し、浸漬前後の基板上の膜質の変化の有無を目視にて確認した。
<耐酸性>
透明導電性基板を、3%のHCl水溶液(40℃)中に10分間浸漬し、浸漬前後の基板上の膜質の変化の有無を目視にて確認した。
【0053】
[実施例1]
酸化亜鉛(ZnO、キシダ化学(株)製)、フッ化ガリウム(GaF3、和光純薬工業(株)製)、および酸化チタン(Ti23、(株)高純度化学研究所製)を、亜鉛元素とチタン元素とガリウム元素とが原子数比 Zn:Ti:Ga=96.5:3.0:0.5となるように秤量し、ポリプロピレン製の容器に入れ、更に2mmφジルコニア製ボールと混合溶媒としてエタノールを入れた。これをボールミルにより混合し、原料粉末を得た。
混合操作後、2mmφジルコニア製ボールとエタノールを除去して得られた原料粉末を金型に入れ、40MPaの圧力で加圧し、円盤型の成形体を得た。これを電気炉に入れ、Ar雰囲気中1100℃で加熱処理を行い、酸化物焼結体を得た。この酸化物焼結体の相対密度を酸化物焼結体のサイズから算出したところ93.8%であった。なお、相対密度は、酸化亜鉛、フッ化ガリウム、酸化チタンの単体密度に混合の重量比をかけ、和をとった理論密度を100%として求めている(下式(A)、(B)を参照)。得られた酸化物焼結体に研削、表面研磨を施し、50.8mmφ、厚さ3mmの酸化物焼結体を得た。
相対密度=100×[(焼結体の密度)/(理論密度)]・・・(A)
理論密度=(酸化亜鉛の単体密度×混合重量比+フッ化ガリウムの単体密度×混合重量比+酸化チタンの単体密度×混合重量比)・・・(B)
【0054】
得られた酸化物焼結体を、銅板をバッキングプレートとして用い、インジウム半田を用いてボンディングし、スパッタリングターゲットを得た。
得られたスパッタリングターゲットを用い、スパッタリングにより成膜を行った。スパッタ条件は以下のとおりであり、厚さ約500nmの薄膜を得た。
ターゲット寸法 :50.8mmφ×3mm厚
スパッタリング装置 :キャノンアネルバ製 「E-200S」
スパッタ方式 :DCマグネトロンスパッタリング
到達真空度 :2.0×10-4Pa
Ar圧力 :0.5Pa
基板温度 :200℃
スパッタ電力 :30W
使用基板 :ソーダライムガラス(50.8mm×50.8mm×0.5mm)
【0055】
得られた薄膜を2倍希釈した塩酸に溶解させ、ICP−AES(サーモサイエンティフィック社製「Thermo−6500」)により薄膜組成を測定したところ、亜鉛:チタン:ガリウムのモル比は、ターゲット組成とほぼ等しい組成の薄膜が得られていた。フッ素が薄膜に含まれているかはXPS(X線光電子分光、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製 「VG Theta Prob」)にて調べたところ、フッ素が薄膜に含まれていることが確認された。
また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンおよびガリウムが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
得られた薄膜のシート抵抗を四探針法(三菱化学(株)製、ロレスタ)で、膜厚をケーエルエー・テンコール(株)製「Alpha−Step IQ」を用いて測定し、抵抗率を算出したところ、3.7×10-4Ω・cmであった。表面抵抗は7.4Ω/□であった。なお、透明基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。また、ホール測定(ナノメトリクス・ジャパン(株)製、「HL5500」)を行ったところ、キャリア濃度1.04×1021cm-3、キャリア電子移動度15.4cm2/V・sであった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、近赤外領域(780nm〜1500nm)で平均89%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、近赤外領域(780nm〜1500nm)における透過率は平均94%であった。近赤外領域の透過性が高いまま、低抵抗化していることがわかる。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
【0056】
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。また、耐アルカリ性、耐酸性に優れていることから、パターニングの際には適当なエッチングレートを有することが推測される。
さらに、フッ素をドープさせたことにより、キャリア電子移動度を大きくすることができ、得られた透明導電性基板上の膜を近赤外領域の透過性を損なわずにさらに低抵抗化することができた。
【0057】
[実施例2]
酸化亜鉛(ZnO、キシダ化学(株)製)、フッ化アルミニウム(AlF3、和光純薬工業(株)製)、および酸化チタン(Ti23、(株)高純度化学研究所製)を、亜鉛元素とチタン元素とアルミニウム元素とが原子数比 Zn:Ti:Al=96.5:3.0:0.5となるように秤量し、ポリプロピレン製の容器に入れ、更に2mmφジルコニア製ボールと混合溶媒としてエタノールを入れた。これをボールミルにより混合し、原料粉末を得た。
混合操作後、2mmφジルコニア製ボールとエタノールを除去して得られた原料粉末を金型に入れ、40MPaの圧力で加圧し、円盤型の成形体を得た。これを電気炉に入れ、Ar雰囲気で1100℃で加熱処理を行い、酸化物焼結体を得た。この酸化物焼結体の相対密度を酸化物焼結体のサイズから算出したところ93.5%であった。なお、相対密度は、酸化亜鉛、フッ化アルミニウム、酸化チタンの単体密度に混合の重量比をかけ、和をとったものを100%として求めている(式(A)、下式(C)参照)。得られた酸化物焼結体に研削、表面研磨を施し、50.8mmφ、厚さ3mmの酸化物焼結体を得た。
理論密度=(酸化亜鉛の単体密度×混合重量比+フッ化アルミニウムの単体密度×混合重量比+酸化チタンの単体密度×混合重量比)・・・(C)
【0058】
得られた酸化物焼結体を、銅板をバッキングプレートとして用い、インジウム半田を用いてボンディングし、スパッタリングターゲットを得た。
得られたスパッタリングターゲットを用い、スパッタリングにより成膜を行った。スパッタ条件は以下のとおりであり、厚さ約500nmの薄膜を得た。
ターゲット寸法 :50.8mmφ×3mm厚
スパッタリング装置 :キャノンアネルバ製 「E-200S」
スパッタ方式 :DCマグネトロンスパッタリング
到達真空度 :2.0×10-4Pa
Ar圧力 :0.5Pa
基板温度 :200℃
スパッタ電力 :30W
使用基板 :ソーダライムガラス(50.8mm×50.8mm×0.5mm)
【0059】
得られた薄膜を2倍希釈した塩酸に溶解させ、ICP−AES(サーモサイエンティフィック社製「Thermo−6500」)により薄膜組成を測定したところ、亜鉛:チタン:アルミニウムのモル比は、ターゲット組成とほぼ等しい組成の薄膜が得られていた。フッ素が薄膜に含まれているかはXPS(X線光電子分光、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製、「VG Theta Probe」)にて調べたところ、フッ素が薄膜に含まれていることが確認された。
また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンおよびアルミニウムが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
得られた薄膜のシート抵抗を四探針法(三菱化学(株)製、ロレスタ)で、膜厚をケーエルエー・テンコール(株)製「Alpha−Step IQ」を用いて測定し、抵抗率を算出したところ、3.8×10-4Ω・cmであった。表面抵抗は7.6Ω/□であった。なお、透明基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。また、ホール測定(ナノメトリクス・ジャパン(株)製、「HL5500」)を行ったところ、キャリア濃度1.02×1021cm-3、キャリア電子移動度15.1cm2/V・sであった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、近赤外領域(780nm〜1500nm)で平均89%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、近赤外領域(780nm〜1500nm)における透過率は平均94%であった。近赤外領域の透過性が高いまま、低抵抗化していることがわかる。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
【0060】
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。また、耐アルカリ性、耐酸性に優れていることから、パターニングの際には適当なエッチングレートを有することが推測される。
さらに、フッ素をドープさせたことにより、キャリア電子移動度を大きくすることができ、得られた透明導電性基板上の膜を近赤外領域の透過性を損なわずにさらに低抵抗化することができた。
【0061】
[実施例3]
酸化亜鉛(ZnO、キシダ化学(株)製)、フッ化アルミニウム(AlF3、和光純薬工業(株)製)、および酸化チタン(II)(TiO、(株)高純度化学研究所製)を、亜鉛元素とチタン元素とアルミニウム元素とが原子数比 Zn:Ti:Al=96.5:3.0:0.5となるように秤量し、ポリプロピレン製の容器に入れ、更に2mmφジルコニア製ボールと混合溶媒としてエタノールを入れた。これをボールミルにより混合し、原料粉末を得た。
混合操作後、2mmφジルコニア製ボールとエタノールを除去して得られた原料粉末を金型に入れ、40MPaの圧力で加圧し、円盤型の成形体を得た。これを電気炉に入れ、Ar雰囲気で1100℃で加熱処理を行い、酸化物焼結体を得た。この酸化物焼結体の相対密度を酸化物焼結体のサイズから算出したところ93.5%であった。なお、相対密度は、実施例2と同様にして求めている。得られた酸化物焼結体に研削、表面研磨を施し、50.8mmφ、厚さ3mmの酸化物焼結体を得た。
【0062】
得られた酸化物焼結体を、銅板をバッキングプレートとして用い、インジウム半田を用いてボンディングし、スパッタリングターゲットを得た。
得られたスパッタリングターゲットを用い、スパッタリングにより成膜を行った。スパッタ条件は以下のとおりであり、厚さ約500nmの薄膜を得た。
ターゲット寸法 :50.8mmφ×3mm厚
スパッタリング装置 :キャノンアネルバ製 「E-200S」
スパッタ方式 :DCマグネトロンスパッタリング
到達真空度 :2.0×10-4Pa
Ar圧力 :0.5Pa
基板温度 :200℃
スパッタ電力 :30W
使用基板 :ソーダライムガラス(50.8mm×50.8mm×0.5mm)
【0063】
得られた薄膜を2倍希釈した塩酸に溶解させ、ICP−AES(サーモサイエンティフィック社製「Thermo−6500」)により薄膜組成を測定したところ、亜鉛:チタン:アルミニウムのモル比は、ターゲット組成とほぼ等しい組成の薄膜が得られていた。フッ素が薄膜に含まれているかはXPS(X線光電子分光、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製 「VG Theta Probe」)にて調べたところ、フッ素が薄膜に含まれていることが確認された。
また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンおよびアルミニウムが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
得られた薄膜のシート抵抗を四探針法(三菱化学(株)製、ロレスタ)で、膜厚をケーエルエー・テンコール(株)製「Alpha−Step IQ」を用いて測定し、抵抗率を算出したところ、3.6×10-4Ω・cmであった。表面抵抗は7.2Ω/□であった。なお、透明基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。また、ホール測定(ナノメトリクス・ジャパン(株)製、「HL5500」)を行ったところ、キャリア濃度1.08×1021cm-3、キャリア電子移動度15.4cm2/V・sであった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、近赤外領域(780nm〜1500nm)で平均89%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、近赤外領域(780nm〜1500nm)における透過率は平均94%であった。近赤外領域の透過性が高いまま、低抵抗化していることがわかる。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
【0064】
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。また、耐アルカリ性、耐酸性に優れていることから、パターニングの際には適当なエッチングレートを有することが推測される。
さらに、フッ素をドープさせたことにより、キャリア電子移動度を大きくすることができ、得られた透明導電性基板上の膜を近赤外領域の透過性を損なわずにさらに低抵抗化することができた。
【0065】
(実施例4)
酸化亜鉛(ZnO、キシダ化学(株)製)、フッ化アルミニウム(AlF3、和光純薬工業(株)製)、および酸化チタン(II)(TiO、(株)高純度化学研究所製)を、亜鉛元素とチタン元素とアルミニウム元素とが原子数比 Zn:Ti:Al=93.9:2.1:4.0となるように秤量し、ポリプロピレン製の容器に入れ、更に2mmφジルコニア製ボールと混合溶媒としてエタノールを入れた。これをボールミルにより混合し、原料粉末を得た。
混合操作後、2mmφジルコニア製ボールとエタノールを除去して得られた原料粉末を金型に入れ、40MPaの圧力で加圧し、円盤型の成形体を得た。これを電気炉に入れ、Ar雰囲気で1100℃で加熱処理を行い、酸化物焼結体を得た。この酸化物焼結体の相対密度を酸化物焼結体のサイズから算出したところ93.1%であった。なお、相対密度は、実施例2と同様にして求めている。得られた酸化物焼結体に研削、表面研磨を施し、50.8mmφ、厚さ3mmの酸化物焼結体を得た。
【0066】
得られた酸化物焼結体を、銅板をバッキングプレートとして用い、インジウム半田を用いてボンディングし、スパッタリングターゲットを得た。
得られたスパッタリングターゲットを用い、スパッタリングにより成膜を行った。スパッタ条件は以下のとおりであり、厚さ約500nmの薄膜を得た。
ターゲット寸法 :50.8mmφ×3mm厚
スパッタリング装置 :キャノンアネルバ製 「E-200S」
スパッタ方式 :DCマグネトロンスパッタリング
到達真空度 :2.0×10-4Pa
Ar圧力 :0.5Pa
基板温度 :200℃
スパッタ電力 :30W
使用基板 :ソーダライムガラス(50.8mm×50.8mm×0.5mm)
【0067】
得られた薄膜を2倍希釈した塩酸に溶解させ、ICP−AES(サーモサイエンティフィック社製「Thermo−6500」)により薄膜組成を測定したところ、亜鉛:チタン:アルミニウムのモル比は、ターゲット組成とほぼ等しい組成の薄膜が得られていた。フッ素が薄膜に含まれているかはXPS(X線光電子分光、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製 「VG Theta Probe」)にて調べたところ、フッ素が薄膜に含まれていることが確認された。
また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンおよびアルミニウムが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
得られた薄膜のシート抵抗を四探針法(三菱化学(株)製、ロレスタ)で、膜厚をケーエルエー・テンコール(株)製「Alpha−Step IQ」を用いて測定し、抵抗率を算出したところ、3.8×10-4Ω・cmであった。表面抵抗は7.6Ω/□であった。なお、透明基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。また、ホール測定(ナノメトリクス・ジャパン(株)製、「HL5500」)を行ったところ、キャリア濃度1.08×1021cm-3、キャリア電子移動度14.4cm2/V・sであった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、近赤外領域(780nm〜1500nm)で平均89%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、近赤外領域(780nm〜1500nm)における透過率は平均94%であった。近赤外領域の透過性が高いまま、低抵抗化していることがわかる。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.4倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.4倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
【0068】
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。また、耐アルカリ性、耐酸性に優れていることから、パターニングの際には適当なエッチングレートを有することが推測される。
さらに、フッ素をドープさせたことにより、キャリア電子移動度を大きくすることができ、得られた透明導電性基板上の膜を近赤外領域の透過性を損なわずにさらに低抵抗化することができた。
【0069】
(実施例5)
酸化亜鉛(ZnO、キシダ化学(株)製)、フッ化アルミニウム(AlF3、和光純薬工業(株)製)、および酸化チタン(II)(TiO、(株)高純度化学研究所製)を、亜鉛元素とチタン元素とアルミニウム元素とが原子数比 Zn:Ti:Al=95.0:3.0:2.0となるように秤量し、ポリプロピレン製の容器に入れ、更に2mmφジルコニア製ボールと混合溶媒としてエタノールを入れた。これをボールミルにより混合し、原料粉末を得た。
混合操作後、2mmφジルコニア製ボールとエタノールを除去して得られた原料粉末を金型に入れ、40MPaの圧力で加圧し、円盤型の成形体を得た。これを電気炉に入れ、Ar雰囲気で1100℃で加熱処理を行い、酸化物焼結体を得た。この酸化物焼結体の相対密度を酸化物焼結体のサイズから算出したところ93.1%であった。なお、相対密度は、実施例2と同様にして求めている。得られた酸化物焼結体に研削、表面研磨を施し、50.8mmφ、厚さ3mmの酸化物焼結体を得た。
【0070】
得られた酸化物焼結体を、銅板をバッキングプレートとして用い、インジウム半田を用いてボンディングし、スパッタリングターゲットを得た。
得られたスパッタリングターゲットを用い、スパッタリングにより成膜を行った。スパッタ条件は以下のとおりであり、厚さ約500nmの薄膜を得た。
ターゲット寸法 :50.8mmφ×3mm厚
スパッタリング装置 :キャノンアネルバ製 「E-200S」
スパッタ方式 :DCマグネトロンスパッタリング
到達真空度 :2.0×10-4Pa
Ar圧力 :0.5Pa
基板温度 :200℃
スパッタ電力 :30W
使用基板 :ソーダライムガラス(50.8mm×50.8mm×0.5mm)
【0071】
得られた薄膜を2倍希釈した塩酸に溶解させ、ICP−AES(サーモサイエンティフィック社製「Thermo−6500」)により薄膜組成を測定したところ、亜鉛:チタン:アルミニウムのモル比は、ターゲット組成とほぼ等しい組成の薄膜が得られていた。フッ素が薄膜に含まれているかはXPS(X線光電子分光、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製 「VG Theta Probe」)にて調べたところ、フッ素が薄膜に含まれていることが確認された。
また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンおよびアルミニウムが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
得られた薄膜のシート抵抗を四探針法(三菱化学(株)製、ロレスタ)で、膜厚をケーエルエー・テンコール(株)製「Alpha−Step IQ」を用いて測定し、抵抗率を算出したところ、3.6×10-4Ω・cmであった。表面抵抗は7.2Ω/□であった。なお、透明基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。また、ホール測定(ナノメトリクス・ジャパン(株)製、「HL5500」)を行ったところ、キャリア濃度1.10×1021cm-3、キャリア電子移動度15.3cm2/V・sであった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、近赤外領域(780nm〜1500nm)で平均89%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、近赤外領域(780nm〜1500nm)における透過率は平均94%であった。近赤外領域の透過性が高いまま、低抵抗化していることがわかる。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
【0072】
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。また、耐アルカリ性、耐酸性に優れていることから、パターニングの際には適当なエッチングレートを有することが推測される。
さらに、フッ素をドープさせたことにより、キャリア電子移動度を大きくすることができ、得られた透明導電性基板上の膜を近赤外領域の透過性を損なわずにさらに低抵抗化することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛を主成分とし、フッ化ガリウムおよびフッ化アルミニウムのうち少なくとも一方を含み、さらにチタンを含む酸化亜鉛系透明導電膜形成材料であり、
全金属原子数に対するチタンの原子数の割合が2%超10%以下であり、全金属原子数に対するフッ化ガリウムおよびフッ化アルミニウムの一方または両方の金属原子数の割合が0.1%以上5%以下であり、かつチタン源として、一般式:TiO2-X(X=0.1〜1)で表される低原子価酸化チタンを用いた酸化物焼結体であることを特徴とする酸化亜鉛系透明導電膜形成材料。
【請求項2】
前記酸化物焼結体の相対密度が93%以上である請求項1に記載の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料。
【請求項3】
スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザ堆積(PLD)法またはエレクトロンビーム(EB)蒸着法による成膜に用いられるターゲットであって、請求項1または2に記載の酸化亜鉛系透明導電膜形成材料を加工してなることを特徴とするターゲット。
【請求項4】
請求項3に記載のターゲットを用いて、スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザ堆積法(PLD)法またはエレクトロンビーム(EB)蒸着法により酸化亜鉛系透明導電膜を形成する、ことを特徴とする酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法。
【請求項5】
透明基材上に、請求項4に記載の酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法により成膜された酸化亜鉛系透明導電膜を備える、ことを特徴とする透明導電性基板。

【公開番号】特開2012−140276(P2012−140276A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293547(P2010−293547)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(591141784)学校法人大阪産業大学 (49)
【Fターム(参考)】