説明

酸化亜鉛結晶の製造方法及び該方法により得られる酸化亜鉛結晶付き基材

【課題】簡便な工程で、高温焼成することなく、特に高価な装置や複雑な装置を用いず、溶液内で基材に直接析出させることによりコスト的に非常に有利であって、表面積が大きく、結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶を製造する方法を提供する。
【解決手段】亜鉛イオン及びアミン化合物を少なくとも含みかつpHが7以上に調整された水溶液に基材を浸漬することによって、基材上に結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶を自己組織的に析出させる。アミン化合物としては、アンモニアを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光体や色素増感型太陽電池、光触媒などへの用途に利用、応用が期待される、酸化亜鉛結晶の製造方法及び該方法により得られる酸化亜鉛結晶付き基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ここ数年活発に開発が進められている酸化亜鉛の成膜方法として、スパッタリング法、分子線エピタキシー法、有機金属気相成長法、イオンプレーティング法、反応性プラズマ蒸着法などの気相法があるが、どれも特殊で非常に高価な装置が必要であった。またその薄膜作製には長時間を要する等の点でコストや製作効率の観点から課題を有している方法が多かった。
【0003】
そのため、気相法に比べて、製造コストが低く、環境負荷のかかりにくい液相法による研究が進められている。
【0004】
例えば、電解液中に基板を保持する工程、及び電着により該基板上に酸化亜鉛を形成する工程を含み、かつ該電解液には亜鉛イオンと少なくとも1種類以上の添加剤が含まれていることを特徴とする酸化亜鉛針状構造体の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1の方法に使用される添加剤として、有機溶媒、ハロゲン化物、モノマー、モノマーの重合体、或いは界面活性剤が挙げられている。
【0005】
また、一定方位への規則的な結晶配向構造を有する金属含有材料を含む結晶面を有する基板を金属酸化物が析出可能な反応溶液中に浸漬させて該金属含有材料を含む結晶面に金属酸化物結晶を析出させることを特徴とする金属酸化物構造体の製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。この特許文献2では、針状及び棒状のいずれかの形状を有する金属酸化物構造体及び金属酸化物粒子を効率良く低コストで製造することができると記載されている。
【特許文献1】特開2002−356400号公報(特許請求の範囲[請求項1]及び[請求項2])
【特許文献2】特開2006−96591号公報(特許請求の範囲[請求項1]、明細書[0007])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に示される方法では、特別な電解等の設備が必要であった。また、上記特許文献2に示される方法では、基板として高配向結晶膜を有する必要があるため、使用する基板に制限があるか、又は、基板上にシード層を形成する必要があり生産性が低い問題を有していた。
【0007】
一方、酸化亜鉛を色素増感型太陽電池や光触媒へ応用する際には、表面積が大きいことが求められるが、上記特許文献1や上記特許文献2で得られているのは、針状酸化亜鉛膜であり、これまでに溶液内析出法にて表面積が十分に大きい酸化亜鉛が得られた例はなかった。
【0008】
本発明の目的は、表面積が大きな酸化亜鉛結晶の製造方法及び該方法により得られる酸化亜鉛結晶付き基材を提供することにある。
本発明の目的は、焼成が不要で、低温で簡便に製造し得る酸化亜鉛結晶の製造方法及び該方法により得られる酸化亜鉛結晶付き基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、亜鉛イオン及びアミン化合物を少なくとも含みかつpHが7以上に調整された水溶液に基材を浸漬することによって、基材上に結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶を自己組織的に析出させることを特徴とする酸化亜鉛結晶の製造方法である。
請求項1に係る発明では、亜鉛イオン及びアミン化合物を少なくとも含む水溶液に基材を浸漬するという簡便な工程で、基材上に結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶を製造することができる。本発明で得られた酸化亜鉛結晶は、焼成が不要であり、従来の技術に比べて生産性が高い。このようにして得られた酸化亜鉛結晶は、大きな表面積を有する。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、アミン化合物がアンモニアである製造方法である。
請求項2に係る発明では、アミン化合物がアンモニアであれば、花状の酸化亜鉛結晶の花びら状部の数を増加させることができる。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、水溶液中に水溶性高分子が添加剤として含まれる製造方法である。
請求項3に係る発明では、水溶液中に水溶性高分子を添加剤として含ませることで、花状の酸化亜鉛結晶の花びら状部の数を増加させることができる。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明であって、水溶性高分子がポリオール系水溶性高分子である製造方法である。
請求項4に係る発明では、水溶性高分子がポリオール系水溶性高分子であれば、花状の酸化亜鉛結晶の花びら状部の数を特に増加させることができる。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4いずれか1項に係る発明であって、酸化亜鉛結晶を析出させる際の水溶液の温度が50〜90℃である製造方法である。
請求項5に係る発明では、水溶液の温度が上記範囲内であれば、花状の酸化亜鉛結晶の花びら状部の数を増加させることができる。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項1ないし5いずれか1項に係る発明であって、水溶液中の亜鉛イオン濃度が0.005〜0.50mol/Lである製造方法である。
請求項6に係る発明では、亜鉛イオン濃度が上記範囲内であれば、花状の酸化亜鉛結晶の花びら状部の数を増加させることができる。
【0015】
請求項7に係る発明は、亜鉛イオン及びアミン化合物を少なくとも含みかつpHが7以上に調整され、液中に基材を浸漬することによって、基材上に結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶を自己組織的に析出させる、請求項1記載の製造方法に用いられる酸化亜鉛結晶作製用水溶液である。
請求項8に係る発明は、請求項7に係る発明であって、アミン化合物がアンモニアである水溶液である。
請求項9に係る発明は、請求項7又は8に係る発明であって、水溶液中に水溶性高分子が添加剤として含まれる水溶液である。
請求項10に係る発明は、請求項9に係る発明であって、水溶性高分子がポリオール系水溶性高分子である水溶液である。
請求項11に係る発明は、請求項7ないし10いずれか1項に係る発明であって、亜鉛イオン濃度が0.005〜0.50mol/Lである水溶液である。
【0016】
請求項12に係る発明は、請求項1ないし6いずれか1項に記載の製造方法により製造され、直径が1〜20μmであり、その結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶が形成された酸化亜鉛結晶付き基材である。
請求項12に係る発明では、上記製造方法により製造され、その結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶は、大きな表面積を有する。
【0017】
請求項13に係る発明は、請求項12に係る発明であって、花状の酸化亜鉛結晶が複数枚の花びら状部とこれらの花びら状部で囲まれた中心部により構成された酸化亜鉛結晶付き基材である。
請求項14に係る発明は、請求項13に係る発明であって、花びら状部の一端が尖形であり、花びら状部の他端が中心部の外周部に位置し、花びら状部の横幅が0.1〜1μm、長さが0.2〜5μmである酸化亜鉛結晶付き基材である。
請求項15に係る発明は、請求項13に係る発明であって、中心部は微粒子が凝集した1又は2以上の二次凝集体から構成され、中心部の大きさが1〜5μmである酸化亜鉛結晶付き基材である。
請求項16に係る発明は、請求項12ないし15いずれか1項に係る発明であって、基材が金属酸化物からなる酸化亜鉛結晶付き基材である。
【0018】
請求項17に係る発明は、請求項12ないし16いずれか1項に記載の酸化亜鉛結晶付き基材からなる発光体である。
請求項18に係る発明は、請求項12ないし16いずれか1項に記載の酸化亜鉛結晶付き基材を有する色素増感型太陽電池である。
【0019】
請求項19に係る発明は、請求項12ないし16いずれか1項に記載の酸化亜鉛結晶付き基材からなる光触媒膜である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の酸化亜鉛結晶の製造方法は、亜鉛イオン及びアミン化合物を少なくとも含みかつpHが7以上に調整された水溶液を用意し、この水溶液に基材を浸漬することによって、基材上に結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶を自己組織的に析出させる。亜鉛イオン及びアミン化合物を少なくとも含む水溶液に基材を浸漬するという簡便な工程で、高温焼成することなく、特に高価な装置や複雑な装置を用いず、溶液内で基材に直接析出させるというコスト的に非常に有利な方法によって、結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明の酸化亜鉛結晶の製造方法は、亜鉛イオン及びアミン化合物を少なくとも含みかつpHが7以上に調整された水溶液を用意し、この水溶液に基材を浸漬することによって、基材上に結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶を自己組織的に析出させることを特徴とする。亜鉛イオン及びアミン化合物を少なくとも含む水溶液に基材を浸漬するという簡便な工程で、高温焼成することなく、特に高価な装置や複雑な装置を用いず、溶液内で基材に直接析出させるというコスト的に非常に有利な方法によって、基材上に結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶を製造することができる。
【0022】
酸化亜鉛結晶の析出に使用する水溶液は、亜鉛イオンとアミン化合物を水に溶解してpHを調整することにより調製される。水溶液中で亜鉛イオンを形成することが可能な化合物として、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、塩化亜鉛などが挙げられる。
【0023】
水溶液中の亜鉛イオン濃度は0.005〜0.50mol/Lの範囲内に調整される。ここで、水溶液中の亜鉛イオン濃度を0.005〜0.50mol/Lの範囲としたのは、亜鉛イオン濃度が0.005mol/L未満であると、濃度が低すぎて基材上に結晶が析出されないからであり、亜鉛イオン濃度が0.50mol/Lを越えると、花状の酸化亜鉛結晶の花びら状部の数が減ってしまい、表面積が小さくなってしまうからである。このうち、水溶液中の亜鉛イオン濃度は0.01〜0.20mol/Lとなるような割合が、0.01mol/L未満では結晶の析出速度が遅くなる傾向にあり、0.20mol/Lを越えても結晶の析出速度が上がらなくなる傾向にあるため、特に好ましい。
【0024】
アミン化合物は、結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶を作製するために必須な成分であるが、その他にも、水溶液のpH調整として機能する。アミン化合物としては、アンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ヘキサメチレンテトラミン等が挙げられる。このうち、花状の酸化亜鉛結晶の花びら状部の数を増加させることができるため、アンモニアが特に好ましい。
【0025】
ここで、水溶液のpHを7以上としたのは、pHが7未満であると、基板上に膜が析出しないためである。このうち、水溶液のpHは8〜11となるような割合が、結晶の析出速度の観点から、特に好ましい。
【0026】
また、水溶液の原料として、水溶性高分子を添加剤として含ませることで、特に表面積の大きい、即ち花びら状部の数が多い花状の酸化亜鉛結晶が得られるため、好適である。水溶性高分子としてはポリオール系水溶性高分子が挙げられる。水溶性高分子がポリオール系水溶性高分子であれば、花状の酸化亜鉛結晶の花びら状部の数を特に増加させることができる。ポリオール系水溶性高分子としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、それらの共重合体及び誘導体等が挙げられる。例えば、水溶性高分子としてポリエチレングリコール(PEG)を用いた場合は、PEG中のC−O−C基(親水部)が酸化亜鉛表面に部分的に修飾されるため、結晶成長するサイトが部分的になり、花びら状部の数が多い花状の酸化亜鉛結晶が得られるものと考えられる。
【0027】
水溶液に基材を浸漬する際に、水溶液の温度を調整する。酸化亜鉛結晶を析出させる際の水溶液の温度は50〜90℃である。水溶液の温度が上記範囲内であれば、花状の酸化亜鉛結晶の花びら状部の数を増加させることができる。ここで、水溶液の温度を50〜90℃としたのは、50℃未満では反応が進まず、90℃を越えると水の蒸発が早く、亜鉛イオン水溶液が乾固するという不具合を生じるからである。このうち、水溶液の温度は60〜80℃が膜の析出速度の観点から、特に好ましい。
【0028】
基材としては、pHが7以上で表面が負電荷を帯びるようなものであれば、どのような基材を使用しても良い。特に、金属酸化物からなる基材が好ましく、例えば、シリコンウェーハやガラス基板をpHが7.0以上の水溶液に浸漬することによって、表面が負電荷を帯びた基材が得られる。
【0029】
調製された水溶液に基材を浸漬し、所定の時間静置することによって、基材上に結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶を自己組織的に析出させる。例えば、アミン化合物としてアンモニアを使用し、その表面が負電荷を帯びた基材を水溶液に浸漬した場合、次の式(1)〜式(2)に示すように、水溶液中で亜鉛イオンはアンモニアとアンミン錯体を形成し、次いで、基材上に存在する負電荷との相互作用によって、正電荷を帯びたアンミン錯体イオンが基板表面に集まり、その集まったアンミン錯体が水溶液中のOH-と反応してZnO核形成を起こし、そこを基点に核成長が急速に進み、花状の形状を有する酸化亜鉛結晶が基材上に形成されるものと推察される。
【0030】
Zn2+ + 4NH3 → Zn(NH342+ ……(1)
Zn(NH342+ + 2OH- → ZnO + H2O + 4NH3 ……(2)
なお、基材を浸漬することなく、水溶液をただ単に静置しただけでは、酸化亜鉛は両性であるため、水溶液のpHが高い場合には、水溶液中に溶解したまま析出しないことが知られている。
【0031】
基材を水溶液中に浸漬する時間は2時間以下が好ましい。ここで、浸漬時間を2時間以下としたのは、浸漬時間が長すぎると形成される結晶の花びら状部の数が減る傾向があるためである。このうち、浸漬時間は2時間以下が、特に好ましい。
【0032】
なお、基材を水溶液に浸漬して酸化亜鉛結晶を析出させる際の容器はどのようなものを用いてもよい。結晶を析出させる際の諸条件に併せて、開放型容器や密閉系容器を使い分けることが好ましい。
【0033】
上記製造方法により製造された酸化亜鉛結晶は、直径が1〜20μmの範囲内であり、花状の結晶形状を形成する。花状の酸化亜鉛結晶は、複数枚の花びら状部とこれらの花びら状部で囲まれた中心部により構成される。花びら状部の一端は尖形であり、花びら状部の他端が中心部の外周部に位置し、花びら状部の横幅が0.1〜1μm、長さが0.2〜5μmである。中心部は微粒子が凝集した1又は2以上の二次凝集体から構成され、中心部の大きさが1〜5μmである。このような形状を有する酸化亜鉛結晶は、大きな表面積を有する。
【0034】
上記酸化亜鉛結晶は、紫外及び緑色領域の少なくとも一方の波長領域で発光波長を有するため、LEDのような発光体に使用することができる。また、上記酸化亜鉛結晶は、その表面積が大きいため、色素増感型太陽電池に使用することができる。更に、上記酸化亜鉛結晶は、光触媒機能を有し、特に防汚、防曇、超親水、抗菌効果を示すため、光触媒としての用途に有効である。
【実施例】
【0035】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
亜鉛源として硝酸亜鉛六水和物を、添加剤として分子量が約1000のポリエチレングリコールを用意した。また、pH調整のためのアルカリ源として、アンモニアを用意した。また、基材としてシリコン基板を用意した。先ず、0.027mol/Lの硝酸亜鉛六水和物を溶解させた水溶液50mlに、分子量が約1000のポリエチレングリコールを0.05質量%含んだ1mol/Lアンモニア水溶液をpHが10.6になるように添加し、30分室温で攪拌することにより水溶液を調製した。なお、調製した水溶液中の亜鉛イオン濃度は0.019mol/Lとなるように調整した。次に、調製した水溶液をビーカーに入れて水溶液温度を70℃に加温し、そこにシリコン基板を浸漬し、水溶液温度を70℃に保持しながら静置し、6時間後に水溶液からシリコン基板を取り出した。取り出したシリコン基板上には結晶が析出されていた。その後、結晶が析出されたシリコン基板を洗浄した後、60℃で乾燥した。
【0036】
得られた結晶をSEM(scanning electron microscope、走査型電子顕微鏡)により観察したところ、図1(a)及び図1(b)に示すように、シリコン基板上に結晶形状が花状の結晶が成長していることが確認された。また、X線回折(XRD、X-ray Diffractmeter)による測定の結果、図2に示すように、結晶のXRDパターンは酸化亜鉛(JCPDSカードNo.36−1451)と一致し、シリコン基板表面に析出した結晶形状が花状の結晶が酸化亜鉛結晶であることが確認された。
【0037】
<実施例2>
基材をシリコン基板からスライドガラスに変更した以外は、実施例1の方法と同様の方法により、スライドガラス上に結晶を析出させた。実施例1と同様にSEM観察及びXRD測定を行ったところ、スライドガラス上に析出された結晶は、結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶であることが確認された。
【0038】
<実施例3>
基材をシリコン基板からITO膜付きガラス基板に変更した以外は、実施例1の方法と同様の方法により、ITO膜付きガラス基板上に結晶を析出させた。実施例1と同様にSEM観察及びXRD測定を行ったところ、ITO膜付きガラス基板上に析出された結晶は、結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶であることが確認された。
【0039】
<実施例4>
水溶液を調製する際に添加剤を添加しなかったこと以外は、実施例1の方法と同様の方法により、シリコン基板上に結晶を析出させた。実施例1と同様にSEMにより観察したところ、図3(a)及び図3(b)に示すように、シリコン基板上に結晶形状が花状の結晶が成長していることが確認された。なお、この実施例4で得られた結晶を、実施例1で得られた結晶とを比較すると、一つ当たりの花状の酸化亜鉛結晶に備わっている花びら状部の数が少なかった。また、実施例1と同様にXRD測定を行ったところ、シリコン基板上に析出された結晶は、酸化亜鉛結晶であることが確認された。この結果から、水溶液中に溶解させる添加剤の存在の有無にかかわらず結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶は析出すること、添加剤の存在によって花状の酸化亜鉛結晶の花びら状部の数を増加させることができることが確認された。
【0040】
<比較例1>
アンモニアの代わりに水酸化ナトリウムを用いた以外は、実施例1の方法と同様の方法により、水溶液中にシリコン基板を浸漬したが、シリコン基板上に結晶は析出されなかった。なお、水溶液中にも粒子は生成されていなかった。
【0041】
<比較例2>
水溶液のpHを10.6から6.8に変更した以外は、実施例1の方法と同様の方法により、水溶液中にシリコン基板を浸漬したが、シリコン基板上に結晶は析出されなかった。なお、水溶液中には粒子は生成されていた。
【0042】
<実施例5>
実施例1で作製した酸化亜鉛結晶付きシリコン基板について、蛍光測定を行った。その結果、図4に示すように、発光スペクトルでは、波長約385nmの紫外発光と、約550nmにピークトップを持つ緑色発光が検出され、本発明の実施例1で作製した酸化亜鉛結晶付きガラス基板の酸化亜鉛結晶が良好な発光体であることが示された。
【0043】
<実施例6>
アセトニトリルとエタノールからなる混合溶媒にルテニウム錯体(Ru(dcbpy)2(NCS)2;小島化学薬品社製)を溶解させて色素溶液を調製した。この色素溶液に実施例3で作製した酸化亜鉛結晶が析出したITO膜付きガラス基板を一晩浸漬し、色素を吸着させることにより、色素電極を得た。一方、導電性ガラス基板に白金をコートした白金電極を用意し、この白金電極と色素電極とを各々の活性面が20μm間隔で向かい合わせとなるように固定し、その間に電解液を注入して色素増感型太陽電池を作製した。注入した電解液には、アセトニトリルに、0.1mol/Lのヨウ化リチウム、0.05mol/Lのヨウ素及び0.5mol/Lのテトラブチルアンモニウムヨウ素塩をそれぞれ溶解させることにより調製された液を用いた。作製した色素増感型太陽電池は、日中の屋外にばく露したところ、起電力の発現を確認した。
【0044】
<実施例7>
実施例1で作製した酸化亜鉛結晶付きシリコン基板の光触媒活性を評価した。なお、光触媒活性は、以下に示す手順により評価した。
【0045】
先ず、酸化亜鉛結晶付きシリコン基板を1Lのガラス製容器に入れ、容器を密閉した。次いで、容器内に350ppm(初期濃度)のアセトアルデヒドを導入した。次に、このアセトアルデヒドを導入した容器を照射量1.2mW/cm2の紫外線ランプで1時間照射した。照射後の容器内部のアセトアルデヒド濃度をガス検知管(ガステック社製)で測定し、下記に示す式(1)に基づいて除去率を求めた。
【0046】
除去率[%]=[(初期濃度−光照射後の濃度)÷初期濃度]×100 ……(1)
評価の結果、アセトアルデヒド除去率が98%と高い結果が得られた。この結果から、本発明の酸化亜鉛結晶付きシリコン基板の酸化亜鉛結晶が良好な光触媒機能を有することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1で作製した結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶のSEM画像を示す図。
【図2】実施例1で作製した結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶のXRDパターンを示す図。
【図3】実施例4で作製した結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶のSEM画像を示す図。
【図4】実施例1で作製した結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶の発光スペクトルを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛イオン及びアミン化合物を少なくとも含みかつpHが7以上に調整された水溶液に基材を浸漬することによって、前記基材上に結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶を自己組織的に析出させることを特徴とする酸化亜鉛結晶の製造方法。
【請求項2】
アミン化合物がアンモニアである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
水溶液中に水溶性高分子が添加剤として含まれる請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
水溶性高分子がポリオール系水溶性高分子である請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
酸化亜鉛結晶を析出させる際の水溶液の温度が50〜90℃である請求項1ないし4いずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
水溶液中の亜鉛イオン濃度が0.005〜0.50mol/Lである請求項1ないし5いずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
亜鉛イオン及びアミン化合物を少なくとも含みかつpHが7以上に調整され、液中に基材を浸漬することによって、前記基材上に結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶を自己組織的に析出させる、請求項1記載の製造方法に用いられる酸化亜鉛結晶作製用水溶液。
【請求項8】
アミン化合物がアンモニアである請求項7記載の水溶液。
【請求項9】
水溶液中に水溶性高分子が添加剤として含まれる請求項7又は8記載の水溶液。
【請求項10】
水溶性高分子がポリオール系水溶性高分子である請求項9記載の水溶液。
【請求項11】
亜鉛イオン濃度が0.005〜0.50mol/Lである請求項7ないし10いずれか1項に記載の水溶液。
【請求項12】
請求項1ないし6いずれか1項に記載の製造方法により製造され、直径が1〜20μmであり、その結晶形状が花状の酸化亜鉛結晶が形成された酸化亜鉛結晶付き基材。
【請求項13】
花状の酸化亜鉛結晶が複数枚の花びら状部とこれらの花びら状部で囲まれた中心部により構成された請求項12記載の酸化亜鉛結晶付き基材。
【請求項14】
花びら状部の一端が尖形であり、前記花びら状部の他端が中心部の外周部に位置し、前記花びら状部の横幅が0.1〜1μm、長さが0.2〜5μmである請求項13記載の酸化亜鉛結晶付き基材。
【請求項15】
中心部は微粒子が凝集した1又は2以上の二次凝集体から構成され、前記中心部の大きさが1〜5μmである請求項13記載の酸化亜鉛結晶付き基材。
【請求項16】
基材が金属酸化物からなる請求項12ないし15いずれか1項に記載の酸化亜鉛結晶付き基材。
【請求項17】
請求項12ないし16いずれか1項に記載の酸化亜鉛結晶付き基材からなる発光体。
【請求項18】
請求項12ないし16いずれか1項に記載の酸化亜鉛結晶付き基材を有する色素増感型太陽電池。
【請求項19】
請求項12ないし16いずれか1項に記載の酸化亜鉛結晶付き基材からなる光触媒膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−230877(P2008−230877A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70558(P2007−70558)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】