説明

酸化剤を用いたピリジン−2,3−ジカルボン酸エステルのin−situ処理

過酸化水素のような酸化剤を用いて、ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルをin-situ処理することにより、製品品質を改善する方法が提供される。ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルの鹸化溶液からの不純物をin-situ除去する上記方法は、以下のステップを含む:ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルの溶液を用意し、塩基で上記溶液を鹸化することによって対応するピリジン-2,3-ジカルボン酸塩を形成し、不純物を除去するのに有効な量の酸化剤と上記溶液を反応させ、酸を用いてこの溶液を酸性化することにより、上記ピリジン-2,3-ジカルボン酸塩を対応するピリジン-2,3-ジカルボン酸に変換した後、ピリジン-2,3-ジカルボン酸を含む精製溶液を回収する。さらに、上記方法により製造されたピリジン-2,3-ジカルボン酸塩を中間体として用いて、除草剤2-(2-イミダゾリン-2-イル)ニコチン酸、エステル、および塩を製造する方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピリジン-2,3-ジカルボン酸の製品品質を改善する方法に関する。特に、本発明は、過酸化水素で鹸化ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルをin-situ処理することにより高品質のジカルボン酸を生産することに関する。
【背景技術】
【0002】
ピリジン-2,3-ジカルボキシレート誘導体は、除草剤2-(2-イミダゾリン-2-イル)ニコチン酸、エステル、および塩の製造に有用な中間体である。このような除草剤化合物のいくつかが、米国特許第5,334,576号および米国特許第4,798,619号(本明細書に参照として組み込む)に記載されている。ピリジン-2,3-ジカルボキシレート誘導体、およびそれらの中間体を製造するための多数の方法もすでに記載されている。例えば、米国特許第4,723,011号には、アンモニウム塩の存在下で、α,β-不飽和アルデヒドまたはケトンとα-ハロ-β-ケトエステルを反応させることにより、ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルを製造する方法が提供されている。米国特許第4,816,588号には、大きな化学量論的過剰量の過酸化水素と塩基を用いた回分式酸化により、8-置換キノリンをピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルに変換する方法が提供されている。米国特許第5,614,635号には、大きな化学量論的過剰量の過酸化水素と塩基を用いた置換キノリンの連続的酸化により、ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルを製造する方法が提供されている。当分野において上記およびその他の特許により提供される方法は、収率および純度が低く、しかも、不安定なハロゲン化オキサロ酢酸塩中間体を使用するという問題があるため、批判されてきた。
【0003】
米国特許第6,080,867号および米国特許第5,925,764号(両者とも全文を本明細書に参照として組み込む)は、ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルの製造方法を開示し、これらの方法が、前記の問題を解決すると主張している。一方法によれば、アミノアルコキシ(またはアルキルチオ)オキサロ酢酸塩を溶剤およびアンモニア供給源の存在下でα,β-不飽和ケトンと反応させる。第2の方法によれば、アミノアルコキシ(またはアルキルチオ)マレイン酸塩またはフマル酸塩を溶剤の存在下でα,β-不飽和ケトンと反応させる。
【0004】
これらの方法は、それ以前の合成方法に伴う問題のいくつかを解決するが、この方法により製造されたピリジン-2,3-ジカルボン酸エステル、およびそれらの対応するジカルボン酸は、プロセスストリーム、製品ストリームおよび廃液ストリームの品質および加工動作に影響を及ぼす不純物を依然として含んでいる。特に、ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステル類似体(例えば、5-エチル-ピリジン-2,3-ジカルボン酸など)のフルスケール製造のために前記方法を実施した際、製品品質の課題が認められている。特に顕著な品質に関する懸念として、製品の純度、色および臭気、ならびに、プロセス廃液ストリーム中の暗色のタール形成に起因する問題などが挙げられる。これらの製品品質に関する問題の直接的結果として、フィルター生成物の乾燥、規格に満たないジエステルおよびジカルボン酸から不純物を除去する方法の開発、ならびに、排水処理設備からのタールの除去のために余分な加工費を支出しなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した問題を考慮すれば、当分野では、製造工程中に不純物を除去する、ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルの改善された製造方法が求められる。このような改善された方法は、改善されたジカルボン酸生成物を提供し、かつ、製品ストリームおよび廃液ストリームから不純物を除去する要件のために不必要に増加した製造費を削減することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、酸化剤でピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルプロセスストリームをin-situ処理することにより製品品質を改善する方法を提供する。特に、製造工程中に、過酸化水素のような酸化剤でピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルプロセスストリームを処理すると、不純物が化学的に除去されることを見出したが、このような不純物は、処理しない場合、はるかに高いコストおよびはるかに多くの労力をかけて、後に製品および廃液ストリームから除去しなければならない。例えば、比較的少量の過酸化水素を鹸化ジエステルプロセスストリームに添加すれば、暗色の有機不純物が速やかに除去されることがわかった。
【0007】
一形態では、本発明は、ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルの鹸化溶液からの不純物のin-situ除去方法を提供する。この方法は、以下のステップを含む:ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルと塩基を含む鹸化溶液からなるプロセスストリームを用意し、不純物を除去するのに有効な量の酸化剤と上記溶液を反応させることにより、精製された鹸化溶液を取得し、この精製鹸化溶液を回収する。
【0008】
一実施形態によれば、前記方法は、以下のステップを含む:不純物を含むピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルの溶液を用意し、塩基を添加することにより上記溶液を鹸化し、これによってピリジン-2,3-ジカルボン酸塩の鹸化溶液を形成し、不純物を除去するのに有効な量の酸化剤と上記溶液を反応させ、この溶液に酸を添加することにより、上記溶液を酸性化して、ピリジン-2,3-ジカルボン酸塩を対応するピリジン-2,3-ジカルボン酸に変換した後、ピリジン-2,3-ジカルボン酸の精製溶液を回収する。
【0009】
本発明の別の形態では、除草剤2-(2-イミダゾリン-2-イル)ニコチン酸、エステル、および塩の製造方法が提供される。この方法は、以下のステップを含む:ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルの溶液を用意し、塩基を添加することにより上記溶液を鹸化し、これによってピリジン-2,3-ジカルボン酸塩の鹸化溶液を形成し、不純物を除去するのに有効な量の酸化剤と上記溶液を反応させ、この溶液に酸を添加することにより、上記溶液を酸性化して、ピリジン-2,3-ジカルボン酸塩を対応するピリジン-2,3-ジカルボン酸に変換した後、除草剤2-(2-イミダゾリン-2-イル)ニコチン酸、エステル、および塩の製造に中間体としてピリジン-2,3-ジカルボン酸を用いる。
【0010】
本発明の好ましい実施形態および代替実施形態の両方を記載する以下の詳細な説明を考察すれば、当業者には本発明の前記およびその他の特徴ならびに利点がさらに容易に明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の好ましい実施形態を参照しながら、本発明をさらに詳しく説明する。しかし、本発明は、多数の様々な形態に具体化することができ、本明細書に記載する実施形態に限定されると解釈すべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本発明の開示内容を綿密かつ完全にし、本発明の範囲を当業者に十分に知らせるために記載するものである。従って、以下の詳細な説明の考察から明らかなように、本発明が多数の代替物、改変および同等物を含むことを理解すべきである。本明細書で用いる用語「含む(comprising)」およびその変形は、用語「含む(including)」およびその変形と同義に用いられ、制約のない非制限的用語である。
【0012】
本発明は、酸化剤でピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルプロセスストリームをin-situ処理することにより製品の品質を改善する方法を提供する。前述したように、ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルを製造する様々な方法が知られている。特に本発明に関するものとして、米国特許第6,080,867号および米国特許第5,925,764号に記載されている方法がある。一方法は、溶剤およびアンモニア供給源の存在下でα,β-不飽和ケトンとアミノアルコキシ(またはアルキルチオ)オキサロ酢酸塩を反応させることを含む。この方法は、以下の流れ図Iに示すように説明することができる。
【0013】
流れ図I
【化1】

【0014】
(式中、Xは、OまたはSであり;R1は、C1-C6アルキル、フェニルもしくは置換されたフェニルであり;R2およびR3は、各々独立に、C1-C6アルキル、フェニルもしくは置換されたフェニルであり;R4およびR6は、各々独立に、H、C1-C6アルキル、C1-C6アルケニル、フェニルもしくは置換されたフェニルであり;R5は、H、ハロゲン、任意に1個以上のC1-C4アルコキシ基で置換されたC1-C6アルキル、C1-C6アルケニル、フェニルもしくは置換されたフェニルである)。別の方法は、溶剤の存在下でα,β-不飽和ケトンとアミノアルコキシ(またはアルキルチオ)マレイン酸塩またはフマル酸塩を反応させることを含む。この方法は、以下の流れ図IIに示すように説明することができる。
【0015】
流れ図II
【化2】

【0016】
(式中、XおよびR1〜R6は、前記の通りである)。
【0017】
本発明は、周知の生産方法に対し明らかな改善を有するピリジン-2,3-ジカルボン酸の製造方法を提供する。この改善は、製品の製造工程中に過酸化水素(H2O2)のような酸化剤をプロセスストリームに添加すると、製品から不純物を化学的に除去できるという発見に基づくものである。
【0018】
従来の周知の方法によるピリジン-2,3-ジカルボン酸の製造方法では、不純物が生成物および廃液ストリームに残留し、これを除去しなければないため、工程が複雑かつコスト高になった。前述したような従来の方法に酸化処理ステップを加えることにより、品質の向上したジカルボン酸を生産できることが明らかにされており、これによって、ピリジン-2,3-ジカルボン酸を中間体として用いて得られる別の生成物(例えば、イミダゾリノン除草剤)の製造工程も改善される。
【0019】
本発明の精製ピリジン-2,3-ジカルボン酸は、従来の周知の方法に従って除草剤2-(2-イミダゾリン-2-イル)ニコチン酸、エステル、および塩の製造に用いることができ、このような方法として、例えば、米国特許第5,334,576号に記載される方法(その全文を参照として本明細書に組み込む)がある。
【0020】
従って、本発明は、酸化剤を用いてピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルプロセスストリームをin-situ処理することにより、製品品質を改善する方法を提供する。本発明の好ましい一実施形態では、上記方法は、以下のステップを含む:ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルと塩基を含む鹸化溶液からなるプロセスストリームを用意し、不純物を除去するのに有効な量の酸化剤と上記溶液を反応させることにより、精製された鹸化溶液を取得した後、この精製鹸化溶液を回収する。
【0021】
エステルを水性塩基または水性酸のいずれかで加水分解することにより、カルボン酸とアルコールが得られることは当分野ではよく知られている。このような反応の概要を以下の流れ図IIIに示す。
【0022】
流れ図III
【化3】

【0023】
塩基を用いたエステル加水分解には、カルボン酸の塩が形成される中間ステップがあることが知られている。酸の添加により、最終カルボン酸生成物が形成される。塩基を用いて実施するエステル加水分解の全体的概要は、流れ図IVに従って進行することは理解されよう。
【0024】
流れ図IV
【化4】

【0025】
塩基性溶液中のエステル加水分解は、周知の用語「鹸化(saponification)」により一般に知られており、当分野では、ピリジン-2,3-ジカルボキシレートのようなエステルを対応する酸に変換するのに通常用いられている。エステルを加水分解してその対応するカルボン酸に変換するのに有効なあらゆる塩基を本発明の方法に用いることができる。一般に、水溶性塩を生成することができる強塩基を用いることができ、水酸化ナトリウム(NaOH)や水酸化カリウム(KOH)のような水酸化物が本発明には特に有用であることがわかっている。本発明の方法において有用なその他の塩基は、当業者には容易に明らかであるため、これらも本発明に包含される。エステルを加水分解して、その対応するカルボン酸を形成する作用には、一般に、加水分解に用いる酸または塩基を水溶液状にする必要があることがわかっている。従って、本発明の鹸化溶液は水性成分も含むことは言うまでもない。さらに、鹸化エステルは、加水分解後の酸性化ステップにより、対応するカルボン酸へと完全に変換される。本発明の方法によれば、通常の酸性化工程に有用なすべての酸を用いることができる。特に好ましいものは硫酸(H2SO4)である。
【0026】
エステルの鹸化が実施される工程を本明細書では水性鹸化プロセスストリームと呼ぶ。さらに、このようなストリームにより加工されたピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルを鹸化ジエステルと呼び、また、水酸化ナトリウムを鹸化塩基として用いる方法では、NaOH-鹸化ジエステルと呼ぶこともある。鹸化ステップは、ジエステルをジカルボン酸塩に加水分解することから、鹸化反応が起こるプロセスストリームは、ジエステルおよび対応するジカルボン酸塩の混合物を含むと予想される。続いて、さらに酸性化ステップを用いることにより、最終ジカルボン酸生成物を製造することができる。
【0027】
本発明の方法は、最終生成物を単離する前に、酸化剤の導入からなる追加処理ステップを含む。この追加ステップは、鹸化ジエステルを含む選択したプロセスストリームに、有効量の酸化剤を添加することを含む。本明細書に用いる「酸化剤」は、還元剤との酸化−還元反応に参加する薬剤であり、この反応では、還元剤から酸化剤に電子が移動する。本明細書で用いる用語「有効量」とは、ジエステルプロセスストリームに通常存在する不純物を化学的に除去する所望の効果を有する量を意味する。周知の酸化剤のいずれも本発明の方法において有用であると考えられるが、過酸化物およびペルオキシ酸として当分野ではよく知られる酸化剤が特に有効であることがわかっている。過酸化物は、溶液状の場合、2個の酸素原子(−2の総電荷を有する)からなるイオンを提供し、構造的にはO22-と示すことができる。過酸化物の一般的例として過酸化水素(H2O2)が挙げられる。ペルオキシ酸は、過酸化水素から誘導された酸であり、溶液状でO22-基も提供する。本発明に従い用いることができるペルオキシ酸の例として、過酢酸(CH3COOOH)および過安息香酸(C6H5COOOH)がある。加えて、次亜ハロゲン酸塩、例えば、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)または次亜臭素酸ナトリウム(NaOBr)も本発明で有用な酸化剤として考慮される。ジカルボン酸分子のアルキル部分を酸化する時点まで酸化を進行させない限り、クロム酸塩のような強力な酸化剤を本発明の方法に用いることもできる。
【0028】
本発明の一実施形態では、比較的少量の酸化剤で、不純物を除去するのに有効であることがわかっている。例えば、過酸化水素を酸化剤として用いる場合には、ジエステル1モルにつき約0.1〜約2.0モルのH2O2、好ましくはジエステル1モルにつき約0.2〜約0.8モルのH2O2の範囲にある比率が不純物に有効であることがわかっている。
【0029】
本発明の方法は、ピリジン-2,3-ジカルボン酸を製造する周知の方法、特に、ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルを製造する前記のような方法に容易に適合させることができる。当業者には容易に理解されるように、好ましい範囲を個別に設定する際、一般に加工条件(例えば、温度、酸化剤の量、反応時間、および加えるせん断力)を総合的に考慮すべきである。例えば、反応温度は、不純物を除去するのに必要な酸化剤の量に影響しうる、またその逆もありうることが考えられる。さらに、鹸化溶液中に存在する不純物の量は、必要な酸化剤の量および使用すべき加工条件を決定する際に考慮しなければならないもう一つの因子である。一つの具体的実施形態では、有効な加工温度は、約60℃〜約110℃の範囲であることがわかっている。
【0030】
また、鹸化ジエステルプロセスストリームに酸化剤を添加する速度も、得られるジカルボン酸生成物の純度に影響しうる。本発明の一実施形態によれば、前記方法に関連する生成物および廃液ストリームに通常存在する不純物の除去は、一般に酸化剤を約15分〜約120分間にわたって添加すれば達成される。加えて、残留酸化剤をすべて除去するために、鹸化ジエステルプロセスストリームに酸化剤を添加した後、さらに反応時間をおくのが有用であることもわかっている。さらにまた、例えば、攪拌またはその他の同様に有効な攪拌方法で、溶液にせん断を加えるのも有用であると認められている。本発明の一実施形態では、せん断を加えながら、酸化剤の添加後の反応を好ましくは約15分〜約120分の間持続させる。
【0031】
一般に、サイクル時間を最小限にし(生産性を高める)、しかも反応混合物の発泡を最小限にするような時間にわたり、酸化剤を添加し、反応混合物を攪拌するのが望ましい。加えて、温度、添加時間、および攪拌時間のような条件は、連続法と回分法では違ってくる。このようなパラメーターの最適化は、過度の実験をしなくても、当業者には容易に明らかであると考えられる。
【0032】
鹸化ステップの副産物はR基に対応するアルコールであり、これを加水分解ステップで除去することは一般に知られている。上の流れ図IIIを参照されたい。例えば、プロパン酸エチルのような単純なエステルの鹸化が、プロパン酸および副産物としてのエタノールを生成することは当業者には容易に理解されるであろう。このようなアルコール副産物の生成は、前述のようなジエステルの鹸化にも同様に予想される。本発明の方法に従い実施した場合、酸化剤の添加による不純物の化学的除去の際にアルコール副産物が存在する可能性があるが、これはジカルボン酸生成物の単離の際に除去してもよいし、あるいは、酸化剤の添加前にアルコール副産物を除去してもよい。酸化剤の添加前が後かにかかわらず、アルコール副産物の除去は、当業者には容易に明らかないずれかの方法、例えば、蒸留により実施することができる。
【0033】
典型的には、本発明に従い処理しようとするジエステルは、約85〜約92%の純度レベルを有する。本発明による処理の後、得られたジカルボン酸生成物は、典型的に、少なくとも約97%、さらに好ましくは約98%の純度を有する。通常ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステル鹸化混合物に通常認められる不純物のために、溶液は一般に暗色または黒色である。酸化剤の添加による不純物の化学的除去は、通常、鹸化混合物の変色により肉眼で検出することができる。黒色から薄色、例えば、薄琥珀色への変化は、一般に、不純物の化学的除去が実質的に完全であることを示すものであり、混合物を試験して、残留酸化剤が存在しないことを確認することができる。このような試験方法は当業者であればすぐに認識されよう。例えば、過酸化水素を酸化剤として用いる場合には、標準的試験ストリップ、例えば、KI/デンプン紙を用いることができる。
【0034】
次に、所望の最終製品に合わせて、精製鹸化混合物をさらに処理する。例えば、前述のような精製ジカルボン酸塩を単離し、回収することができる。あるいは、酸性化を実施し、精製ピリジン-2,3-ジカルボン酸を単離および回収することができる。いずれかの回収に応じて、当業者には容易に明らかな周知の回収および単離方法を用いることができる。
【0035】
本発明の方法は、問題の多い不純物を実質的に含まない製品ストリームを提供すると同時に、不純物を実質的に含まない廃液ストリームを提供することができる。洗浄した生成物、ならびにそれ以外の廃液ストリームからのろ過物の再循環および再使用はピリジン-2,3-ジカルボン酸およびエステルのラージスケール製造では一般的であるため、生成物中の不純物が再循環に供される可能性もある。これは、不純物が、再循環されたろ過物からプロセスストリームに導入されたり、また、エステル化工程の際に新たに生成されたりする拡大作用を招くことになる。しかし、本発明の方法は、不純物を生成物回収後ではなく、製造中に除去するため、この問題も解決する。従って、本発明は、ピリジン-2,3-ジカルボン酸製造工程から不純物を除去することにより、得られる廃液ストリーム、ろ過物、および工程副産物が実質的に不純物を含まないようにする方法も考慮する。
【0036】
製造工程の際、特に、鹸化ジエステルプロセスストリーム中の不純物を除去するのに酸化剤の導入が有効であるため、本発明の別の実施形態は、不純物を実質的に含まないピリジン-2,3-ジカルボン酸塩を製造する方法である。本発明のこの実施形態によれば、ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルの鹸化溶液を含むプロセスストリームを用意し、不純物を除去するのに有効な量の酸化剤と上記鹸化溶液を反応させた後、実質的に純粋なピリジン-2,3-ジカルボン酸塩を回収することを含む。
【0037】
すでに記載されているように、鹸化エステルは、鹸化に用いられる塩基に対応するカルボン酸塩を形成する。例えば、NaOHで鹸化した5-エチル-ピリジン-2,3-ジカルボキシレートは、5-エチル-ピリジン-2,3-ジカルボン酸ナトリウム塩を形成すると考えられる。プロセスストリーム中の中間体塩は、生成物として回収しても、若しくは、別の化合物(カルボン酸など)の製造に後に使用するために回収してもよい。あるいは、ジカルボン酸塩をプロセスストリーム中に残し、後に、酸性化によりカルボン酸に変換することもできる。このような塩は、上に開示した従来の周知の方法により製造することができるが、このジカルボン酸塩には、ジエステルの製造時に形成された不要な不純物を含むという問題が依然としてある。本発明の方法は、鹸化溶液に酸化剤を添加することにより、この問題を解決する。通常、ジカルボン酸塩を酸性化する前に、鹸化溶液から不純物をin-situで除去する。従って、実質的に不純物を含まないピリジン-2,3-ジカルボン酸塩を製造することができる。
【0038】
さらに別の実施形態では、本発明は、除草剤2-(2-イミダゾリン-2-イル)ニコチン酸、エステル、および塩、例えば、イマゼタピルの製造方法を提供する。この方法は、以下のステップを含む:ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルの溶液を用意し、塩基を添加することにより溶液を鹸化し、これによってピリジン-2,3-ジカルボン酸塩の鹸化溶液を形成し、不純物を除去するのに有効な量の酸化剤と上記溶液を反応させ、この溶液に酸を添加することにより、溶液を酸性化して、ピリジン-2,3-ジカルボン酸塩を対応するピリジン-2,3-ジカルボン酸に変換した後、除草剤2-(2-イミダゾリン-2-イル)ニコチン酸、エステル、および塩の製造に上記ピリジン-2,3-ジカルボン酸を中間体として用いる。ピリジン-2,3-ジカルボン酸中間体を用いてこのような除草剤を形成するのに用いることができる加工ステップは当分野では周知である。例えば、脱水剤を用いて、ジカルボン酸を対応する無水物に変換することができ、この無水物を米国特許第4,658,030号および第4,782,157号(本明細書に参照として組み込む)に記載されている反応スキームに用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下に示す実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。この実施例は、本発明を説明するために記載するものであり、本発明を制限するものと解釈すべきではない。
【0040】
実施例1
粗ジエステル(100グラム)、水(103グラム)、および50%NaOH(76グラム)の鹸化混合物を100℃に加熱した。鹸化混合物のアルコール蒸留副産物を回収した(33グラム)。続いて、温度を95℃に維持しながら、30グラムの35%H2O2を上記ジカルボン酸塩溶液にゆっくりと添加した。この溶液は初め黒い色をしていた。H2O2の添加により発泡させた。H2O2の添加が進行するにつれ、発泡および反応色は両方とも顕著に低減した。H2O2の添加後、温度を95℃に維持しながら、溶液を2時間攪拌した。それからKI/デンプン紙を用いて、残留過酸化物について試験したが、結果は陰性であった。次に、酸化した溶液に水(67グラム)を添加した。
【0041】
沈殿により生成物を単離してから、ろ過ケークをH2O(50グラム)で洗浄した。含水ろ過ケークの質量は76.3グラムであり、4.0%ジカルボン酸を含む母液を再循環させた。得られたオフホワイトのろ過ケークを一晩乾燥させた。乾燥させたジカルボン酸生成物を回収すると、その質量は61.0グラム、純度は98.9%であった。
【0042】
本発明に関する分野の当業者は、以上の説明および関連する図に記載される教示内容から、本発明について多数の改変および他の実施形態を想起するであろう。従って、本発明が本明細書に開示した具体的実施形態に限定されないこと、また、改変および他の実施形態も添付の請求の範囲に含まれることを理解すべきである。本明細書では特定の用語を用いているが、これらは、一般的かつ記述的意味で用いているにすぎず、制限を意図するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルの鹸化溶液からの不純物のin-situ除去方法であって、以下のステップ:
ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルと塩基を含む鹸化溶液を用意し;
不純物を除去するのに有効な量の酸化剤と上記溶液を反応させることにより、精製された鹸化溶液を得て;そして、
この精製鹸化溶液を回収する;
ことを含む上記方法。
【請求項2】
前記塩基が水酸化物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水酸化物が水酸化ナトリウムである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化剤が、過酸化物、ペルオキシ酸、および次亜ハロゲン酸塩からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化剤が過酸化水素である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化剤が、次亜塩素酸ナトリウムまたは次亜臭素酸ナトリウムである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
不純物を除去するのに有効な前記過酸化水素の量は、ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステル1モル当たり約0.1〜約2.0モルの範囲の過酸化水素量である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
不純物を除去するのに有効な前記過酸化水素の量は、ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステル1モル当たり約0.2〜約0.8モルの範囲の過酸化水素量である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
不純物を除去するのに有効な前記酸化剤の量が、前記鹸化溶液の色を暗色から薄色に変化させるのに必要な量である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記鹸化溶液の色が黒色から薄琥珀色に変化する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記反応が約60℃〜約110℃の温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記酸化剤の添加を約15分〜約120分間にわたって実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記反応がさらに、前記鹸化溶液の攪拌を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記攪拌を約15分〜約120分間にわたって実施する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルが以下の式:
【化1】

(式中、R4およびR6は、各々独立に、H、C1-C6アルキル、C1-C6アルケニル、フェニルもしくは置換されたフェニルであり;
R5は、H;ハロゲン;任意に1個以上のC1-C4アルコキシ基で置換されたC1-C6アルキル;C1-C6アルケニル;フェニルもしくは置換されたフェニルであり;
R2およびR3は、各々独立に、C1-C6アルキル、フェニルもしくは置換されたフェニルである)
の化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルの溶液からの不純物のin-situ除去方法であって、以下のステップ:
ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルを含む溶液を用意し;
塩基を添加することにより上記溶液を鹸化し、これによってピリジン-2,3-ジカルボン酸塩を含む鹸化溶液を形成し;
不純物を除去するのに有効な量の酸化剤と上記溶液を反応させ、これにより精製された鹸化溶液を得て;
この溶液に酸を添加することにより、上記溶液を酸性化して、ピリジン-2,3-ジカルボン酸塩を対応するピリジン-2,3-ジカルボン酸に変換し;そして、
ピリジン-2,3-ジカルボン酸を含む精製溶液を回収する;
ことを含む、上記方法
【請求項17】
前記塩基が水酸化物である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記水酸化物が水酸化ナトリウムである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記酸化剤が、過酸化物、ペルオキシ酸、および次亜ハロゲン酸塩からなる群より選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記酸化剤が過酸化水素である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記酸化剤が、次亜塩素酸ナトリウムまたは次亜臭素酸ナトリウムである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
不純物を除去するのに有効な前記過酸化水素の量は、ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステル1モル当たり約0.1〜約2.0モルの範囲の過酸化水素量である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
不純物を除去するのに有効な前記過酸化水素の量は、ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステル1モル当たり約0.2〜約0.8モルの範囲の過酸化水素量である、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
不純物を除去するのに有効な前記酸化剤の量が、前記鹸化溶液の色を暗色から薄色に変化させるのに必要な量である、請求項16に記載の方法。
【請求項25】
前記鹸化溶液の色が黒色から薄琥珀色に変化する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記反応が約60℃〜約110℃の温度で実施される、請求項16に記載の方法。
【請求項27】
前記酸化剤の添加を約15分〜約120分間にわたって実施する、請求項16に記載の方法。
【請求項28】
前記反応がさらに、前記鹸化溶液の攪拌を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項29】
前記攪拌を約15分〜約120分間にわたって実施する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記酸が硫酸である、請求項16に記載の方法。
【請求項31】
前記ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルが以下の式:
【化2】

(式中、R4およびR6は、各々独立に、H、C1-C6アルキル、C1-C6アルケニル、フェニルもしくは置換されたフェニルであり;
R5は、H;ハロゲン;任意に1個以上のC1-C4アルコキシ基で置換されたC1-C6アルキル;C1-C6アルケニル;フェニルもしくは置換されたフェニルであり;
R2およびR3は、各々独立に、C1-C6アルキル、フェニルもしくは置換されたフェニルである)
の化合物である、請求項16に記載の方法。
【請求項32】
前記ピリジン-2,3-ジカルボン酸が、5-メチル-ピリジン-2,3-ジカルボン酸または5-エチル-ピリジン-2,3-ジカルボン酸である、請求項16に記載の方法。
【請求項33】
除草剤2-(2-イミダゾリン-2-イル)ニコチン酸、エステル、および塩の製造方法であって、以下のステップ:
ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルを含む溶液を用意し;
塩基を添加することにより上記溶液を鹸化し、これによってピリジン-2,3-ジカルボン酸塩を含む鹸化溶液を形成し;
不純物を除去するのに有効な量の酸化剤と上記溶液を反応させることにより、精製された鹸化溶液を得て;
この精製鹸化溶液に酸を添加することにより、上記溶液を酸性化して、ピリジン-2,3-ジカルボン酸塩を対応するピリジン-2,3-ジカルボン酸に変換し;そして、
除草剤2-(2-イミダゾリン-2-イル)ニコチン酸、エステル、および塩の製造に中間体としてピリジン-2,3-ジカルボン酸を用いる;
ことを含む、上記方法。
【請求項34】
前記塩基が水酸化物である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記水酸化物が水酸化ナトリウムである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記酸化剤が、過酸化物、ペルオキシ酸、および次亜ハロゲン酸塩からなる群より選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記酸化剤が過酸化水素である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムまたは次亜臭素酸ナトリウムである、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
不純物を除去するのに有効な前記過酸化水素の量は、ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステル1モル当たり約0.1〜約2.0モルの範囲の過酸化水素量である、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
不純物を除去するのに有効な前記過酸化水素の量は、ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステル1モル当たり約0.2〜約0.8モルの範囲の過酸化水素量である、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
不純物を除去するのに有効な前記過酸化水素の量が、前記鹸化溶液の色を暗色から薄色に変化させるのに必要な量である、請求項33に記載の方法。
【請求項42】
前記鹸化溶液の色が黒色から薄琥珀色に変化する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記反応が約60℃〜約110℃の温度で実施される、請求項33に記載の方法。
【請求項44】
前記酸化剤の添加を約15分〜約120分間にわたって実施する、請求項33に記載の方法。
【請求項45】
前記反応がさらに、前記鹸化溶液の攪拌を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項46】
前記攪拌を約15分〜約120分間にわたって実施する、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記酸が硫酸である、請求項33記載の方法。
【請求項48】
前記ピリジン-2,3-ジカルボン酸エステルが以下の式:
【化3】

(式中、R4およびR6は、各々独立に、H、C1-C6アルキル、C1-C6アルケニル、フェニルもしくは置換されたフェニルであり;
R5は、H;ハロゲン;任意に1個以上のC1-C4アルコキシ基で置換されたC1-C6アルキル;C1-C6アルケニル;フェニルもしくは置換されたフェニルであり;
R2およびR3は、各々独立に、C1-C6アルキル、フェニルもしくは置換されたフェニルである)
の化合物である、請求項33に記載の方法。
【請求項49】
前記ピリジン-2,3-ジカルボン酸が、5-メチル-ピリジン-2,3-ジカルボン酸または5-エチル-ピリジン-2,3-ジカルボン酸である、請求項33に記載の方法。

【公表番号】特表2009−514775(P2009−514775A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516058(P2006−516058)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【国際出願番号】PCT/EP2004/006893
【国際公開番号】WO2005/005391
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】