説明

酸化型リン脂質の合成方法、及びアテローム性動脈硬化を防止および処置するための医薬組成物

【課題】酸化型リン脂質を合成する方法を提供。
【解決手段】(a)脂肪酸側鎖の少なくとも1つがモノ不飽和脂肪酸である2つの脂肪酸側鎖を含むリン脂質骨格を提供すること、および(b)前記モノ不飽和脂肪酸の二重結合を酸化して、それにより酸化型リン脂質を得ることを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アテローム性動脈硬化および関連する疾患を防止および処置するための規定された酸化型LDL(oxLDL)成分に関し、より詳細には、粘膜寛容性を誘導することにおいて、そしてアテローム性血管疾患および後遺症の一因である炎症プロセスを阻害することにおいて効果的な酸化型リン脂質を用いる方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓血管疾患は工業化世界全体における主要な健康リスクである。アテローム性動脈硬化(心臓血管疾患の最も一般的なもの)は、心臓発作、卒中および四肢の壊疽の主原因であり、そのため、合衆国における死亡原因の第1位である。アテローム性動脈硬化は、多くの細胞タイプおよび分子因子が関係する複合疾患である(詳細な総説については、Ross、1993、Nature、362:801〜809を参照のこと)。そのプロセスは、動脈壁の内皮細胞および平滑筋細胞(SMC)に対する傷害に応答して生じるが、線維脂肪性および線維性の病変または斑(プラーク)の形成からなり、これには、炎症が先行し、そして付随する。アテローム性動脈硬化の進行した病変は、関係する動脈を閉塞させることがあり、そして多数の異なる形態の傷害に対する過度な炎症性線維増殖性応答から生じる。例えば、剪断ストレスは、乱れた血流が生じる循環系の様々な領域(分岐点および不規則な構造部など)におけるアテローム硬化性斑の度重なる出現の原因であると考えられている。
【0003】
アテローム硬化性斑の形成における最初の観測可能な事象が、単球由来のマクロファージなどの炎症性細胞が血管の内皮層に付着して、内皮下空間にまで遊走するときに生じる。上昇した血漿LDLレベルは血管壁の脂質充血をもたらし、そして隣接する内皮細胞により、酸化された低密度リポタンパク質(LDL)が産生される。さらに、細胞外マトリックスによるリポタンパク質の捕捉は、リポキシゲナーゼ、反応性酸素種(ペルオキシ亜硝酸)および/またはミエロペルオキシダーゼによるLDLのさらに進む酸化を生じさせる。これらの酸化されたLDLは、その後、その表面に発現しているスカベンジャー受容体を介して血管細胞によって多量に取り込まれる。
【0004】
脂質で満たされた単球および平滑筋由来細胞は泡沫細胞と呼ばれ、脂肪縞の主要な構成成分である。泡沫細胞とそれらを取り囲む内皮細胞および平滑筋細胞との相互作用は、内皮細胞の活性化、マクロファージの増大したアポトーシス、平滑筋細胞の増殖および遊走、そして線維質斑の形成を最終的には生じさせ得る慢性的な局所的炎症の状態をもたらす(Hajjar,DPおよびHaberland,ME、J.Biol.Chem、1997(9月12日)、272(37):22975〜78)。そのような斑は、関係する血管を閉塞させ、従って血液の流れを制限し、その結果、虚血(不十分な灌流による器官の組織における酸素供給の欠乏を特徴とする状態)をもたらす。関与する動脈により心臓への血流が遮断されたとき、人は「心臓発作」によって苦しめられる。一方、脳動脈が閉塞したとき、人は卒中を経験する。四肢への動脈が狭くなると、その結果は重症の痛み、低下した身体運動性であり、そしておそらくは切断の必要性が生じる。
【0005】
酸化されたLDLは、単球および平滑筋細胞に対するその作用によって、そして内皮細胞のアポトーシスを誘導し、内皮における抗凝固バランスを損なうことによってアテローム性動脈硬化およびアテローム性血栓症の病因に関係している。酸化されたLDLはまた、アテローム発生を防止するHDLが関与する、酸化されたリン脂質の分解を阻害する(Mertens,AおよびHolvoet,P、FASEB J、2001(10月)、15(12):2073〜84)。この関与はまた、酸化されたLDLがアテローム発生の様々な動物モデルにおいて斑に存在すること;アテローム発生が、薬理学的操作および/または遺伝的操作により酸化を阻害することによって遅くなること;そして抗酸化性ビタミンを用いた介入試験の有望な結果を明らかにする多くの研究によって支持されている(例えば、現状の文献の総説については、Witztum,JおよびSteinberg,D、Trends Cardiovasc Med、2001(4月/5月)、11(3−4):93〜102を参照のこと)。実際、酸化されたLDLおよびマロンジアルデヒド(MDA)修飾されたLDLは、最近、冠状動脈疾患の第1期および第2期に対する正確な血液マーカーとして提案されている(米国特許第6,309,888号(Holvoet他)および米国特許第6,255,070号(Witztum他))。
【0006】
LDL酸化およびLDL活性の低下は、心臓血管疾患を処置および防止するための多数の提案された臨床応用の標的である。Bucala他(米国特許第5869534号)は、進行したグリコシル化最終産物(すなわち、年齢、疾患および糖尿病に関連した泡沫細胞形成に特徴的な脂質)を低下させることによって脂質の過酸化を調節する方法を開示する。Tang他(Incyte Pharmaceuticals,Inc.;米国特許第5,945,308号)は、ヒト酸化型LDL受容体の同定を開示し、そして心臓血管疾患および自己免疫疾患およびガンの処置におけるその臨床応用を提案している。
【0007】
アテローム性動脈硬化および自己免疫疾患
アテローム性動脈硬化および虚血における過度な炎症性線維性増殖応答の推定される役割のために、ますます多くの研究が、血管傷害の自己免疫成分を明らかにするために試みられている。自己免疫疾患において、免疫系は、侵入している異物抗原を攻撃することに加えて、通常の場合には非抗原性の身体成分(自己抗原)を認識し、攻撃する。自己免疫疾患は、自己(もしくは自身)の抗体により媒介される疾患または自己(もしくは自身)の細胞により媒介される疾患として分類される。典型的な自己抗体媒介の自己免疫疾患は重症筋無力症および突発性血小板減少性紫斑症(ITP)であり、一方、典型的な細胞媒介の疾患は橋本病およびI型(若年性)糖尿病である。
【0008】
免疫媒介のプロセスがアテローム硬化性病変の内部に広がっているという認識が、最も初期の段階(すなわち、脂肪縞)におけるリンパ球およびマクロファージの一貫した観察から得られていた。CD4+細胞の優勢な集団(残りはCD8+細胞である)を含むこれらのリンパ球は、この比率が逆転する傾向があるさらにより進行した病変と比較したとき、初期の病変ではマクロファージよりも数が多いことが見出されていた。これらの発見は、それらが可能な抗原に対する一次免疫感作を反映しているか、あるいは以前に誘導された局所的な組織損傷の単なる付帯徴候として位置づけられるかどうかという疑問をもたらしていた。これらの炎症性細胞が初期の斑に集まることをもたらす因子にも関わらず、これらの炎症性細胞は、白血球共通抗原(CD45R0)および超後期抗原1(VLA−1)インテグリンだけでなく、MHCクラスIIのHLA−DRおよびインターロイキン(IL)受容体を同時に発現することによって示される活性化された状態を示すようである。
【0009】
アテローム硬化性病変の初期段階における進行中の炎症反応は、その局所的な細胞(すなわち、内皮細胞、マクロファージ、平滑筋細胞および炎症性細胞)による様々なサイトカインの産生を生じさせる一次の開始事象であり得るか、またはこの反応が有害なプロセスに対する身体の防御免疫系の一形態であると考えられるかのいずれかである。常在性の細胞によってアップレギュレーションされることが示されているサイトカインの一部には、TNF−α、IL−1、IL−2、IL−6、IL−8、IFN−γおよび単球誘因性ペプチド−1(MCP−1)が含まれる。アテローム硬化性斑内のすべての細胞性構成成分によって発現される血小板由来増殖因子(PDGF)およびインスリン様増殖因子(ILGF)もまた過剰に発現していることが示されており、従って、これは、おそらくは、分裂促進性走化性因子の形態での同時刺激担体による既に存在する炎症反応を強化している。最近、Uyemura他(アテローム性動脈硬化におけるIL−12およびIL−10の交差調節的役割、J.Clin.Invest、1996、97:2130〜2138)は、正常な動脈との比較において、IL−4ではなく、IFN−γのmRNAの強い発現によって例示されるヒトのアテローム硬化性病変における1型T細胞のサイトカインパターンを解明している。さらに、活性化単球およびTh1サイトカインパターンの選択的誘導剤によって主に産生されるIL−12−aT細胞増殖因子が、その主要なヘテロ二量体形態(p70およびp40(その優勢な誘導性タンパク質))のmRNAの量が多いことにより示されるように病変内で過剰発現していることが見出された。
【0010】
細胞性免疫系がアテローム硬化性斑内では優勢であることに関する強い証拠と同様に、局所的な液性免疫系の関与を支持する十分なデータもまた存在する。例えば、免疫グロブリンおよび補体成分の堆積が、常在性マクロファージにおけるC3b受容体およびC3Bi受容体の増強された発現に加えて、斑において明らかにされている。
【0011】
アテローム性動脈硬化の進行に対する免疫媒介炎症の寄与に関する有益な手がかりが、動物モデルから得られている。免疫低下マウス(クラスIMHC不全)は、免疫応答性マウスと比較した場合、加速されたアテローム性動脈硬化を発症する傾向がある。さらに、シクロスポリンA(IL−2転写の強力な抑制剤)によるC57BL/6マウスの処置(Emerson EE、Shen ML、シクロスポリンAで処置された高脂血症C57BL/6マウスにおける加速されたアテローム性動脈硬化、Am.J.Pathol、1993、142:1906〜1915)およびニュージーランド白ウサギの処置(Roselaar SE、Schonfeld G、Daugherty A、細胞媒介免疫性の抑制によるコレステロール投与ウサギにおけるアテローム性動脈硬化の増強された発症、J.Clin.Invest、1995、96:1389〜1394)は、「正常」なリポタンパク質「負荷」のもとで著しく増強されたアテローム性動脈硬化をもたらした。これらの後者の研究では、アテローム硬化性斑内で自己永続的な炎症プロセスに対抗することにおける免疫系の可能な役割を洞察することができる。
【0012】
アテローム性動脈硬化は、血管を妨げる斑の生成などのその症候のいくつかが異常な免疫応答性に関連するかもしれないが、古典的な自己免疫疾患ではない。古典的な自己免疫疾患では、自己抗原を認識する免疫系および免疫系の成分(液性、すなわち、自己抗体、または細胞性、すなわち、リンパ球)によって攻撃される感作性自己抗原を非常に明瞭に明らかにすることができる。中でも、免疫系のこれらの成分の受動的移入によって、この疾患を健康な動物において誘導することができること、またはヒトの場合には、この疾患が病気の母胎からその子に伝達し得ることを示すことができる。上記の多くは、アテローム性動脈硬化では一般的ではない。さらに、この疾患は、高血圧、糖尿病、運動不足、喫煙およびその他などの共通するリスク因子を明らかに有しており、そしてこの疾患は若年者に罹患し、古典的な自己免疫疾患の場合とは異なる遺伝的優位を有する。
【0013】
自己免疫炎症疾患の処置は、全身的および/または疾患特異的な免疫反応性の抑制または逆転に対して行うことができる。従って、例えば、Aiello(米国特許第6,034,102号および同6,114,395号)により、炎症性細胞の呼び寄せを阻害することによってアテローム性動脈硬化およびアテローム硬化性斑の進行を処置および防止するためのエストロゲン様化合物の使用が開示される。同様に、Medford他(米国特許第5,846,959号)は、細胞接着分子VCAM−1により媒介される心臓血管および非心臓血管の炎症性疾患を処置するために酸化型PUFAの形成を防止する方法を開示する。さらに、Falb(米国特許第6,156,500号)は、抗炎症治療の潜在的な標的として、アテローム硬化性の斑および疾患において量が多い多数の細胞シグナル分子および細胞接着分子を示している。
【0014】
酸化されたLDLはアテローム性動脈硬化の病因に明らかに関係しているので(上記参照)、アテローム性疾患プロセスにおける自己免疫性に対するこれらの顕著な斑成分の寄与が調べられている。
【0015】
酸化されたLDLに対する免疫応答性
OxLDLがT細胞および単球に対して走化性であることが知られている。OxLDLおよびその副生成物はまた、単球走化性因子1などの様々な因子の発現、コロニー刺激因子の分泌、および血小板活性化性質を誘導することが知られており、これらはすべて強力な増殖刺激剤である。アテローム性動脈硬化における細胞性免疫応答の積極的な関与が最近立証されている(Stemme S他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1995、92:3893〜97)。Stemme S他は、刺激剤としてのOxLDLに応答する斑クローン内のCD4+を単離した。OxLDLに応答するクローン(27個のうちの4個)は、IL−4ではなく、インターフェロン−γを主に産生した。上記T細胞クローンが、誘発性の強い免疫原(OxLDL)とともに細胞性免疫系との単なる接触を表しているかどうか、またはこの反応が、明らかにゆっくりと進むアテローム硬化性プロセスを治療する手段を提供することはまだ分かっていない。
【0016】
液性機構の関与に関するデータおよびその意味は、さらにより大きな議論の的になっている。1つの最近の研究により、心臓疾患および/または糖尿病に罹っている女性では、LDL酸化の代謝産物であるMDA−LDLに対する抗体レベルが増大していることが報告された(Dotevall他、Clin.Sci、2001(11月)、101(5):523〜31)。他の研究者らは、アテローム性動脈硬化および他の疾患(糖尿病、腎血管症候群、尿毒症、リウマチ熱、紅斑性狼瘡など)において脂質成分およびアポリポタンパク質成分に対する免疫応答性を表す、酸化型LDLにおける多数のエピトープを認識する抗体を明らかにしている(Steinerova A他、Physiol.Res、2001、50(2):131〜41)。いくつかの報告は、OxLDLに対する抗体の増大したレベルを、(頸動脈狭窄の程度、末梢血管疾患の重篤度などによって表される)アテローム性動脈硬化の進行と関連させている。ごく最近には、Sherer他(Cardiology、2001、95(1):20〜4)により、冠状動脈心臓疾患では、ホスファチジルコリンまたは内皮細胞に対してではなく、カルジオリピンおよびβ2GPIおよびoxLDLに対する抗体レベルが上昇していることが明らかにされた。従って、アテローム硬化性斑内における免疫複合体の形態でOxLDL抗体が存在することに関して意見が一致しているようであるが、この発見の真の意味は明らかにされていない。
【0017】
OxLDLに対する抗体が、リポタンパク質代謝において積極的な役割を果たしているとして仮説されている。従って、OxLDLとその対応する抗体との免疫複合体が、OxLDLと比較したとき、懸濁状態のマクロファージによってより効率的に取り込まれることが知られている。マクロファージによるOxLDLの加速された取り込みが有益または有害であるかという疑問は未だ解決されていないので、アテローム性動脈硬化の病因に関して、この一致する発見から結論を引き出すことができない。
【0018】
アテローム発生における液性免疫系の重要性に関する重要なデータが動物モデルから得られている。相同的な酸化型LDLによるLDL受容体欠損ウサギの過免疫化は、リン酸塩緩衝化生理的食塩水(PBS)にさらされたコントロール群と比較した場合、高レベルの抗OxLDL抗体の産生をもたらし、アテローム硬化性病変の程度の著しい低下と関連したことが見出されている。斑形成の低下はまた、ウサギを高コレステロールリポソームで免疫化することによって、抗コレステロール抗体の同時産生とともに達成されているが、この作用には超低密度リポタンパク質コレステロールレベルの35%の低下が伴っていた。
【0019】
従って、様々な酸化型LDL成分の病因的役割、およびアテローム性動脈硬化ならびに他の疾患における自己抗原としてのそれらの重要性はともに、実験室研究および臨床研究において広範囲に明らかにされている。
【0020】
自己免疫疾患の処置における粘膜寛容性
最近、自己免疫疾患(および関連するT細胞媒介による免疫障害、例えば、同種移植片拒絶およびレトロウイルス関連の神経学的疾患など)を処置するために有用である新しい方法および薬学的配合物が見出されている。これらの処置は、自己抗原、またはバイスタンダー抗原、または自己抗原もしくはバイスタンダー抗原の疾患抑制性のフラグメントもしくはアナログを寛容化剤として使用して、経口的または粘膜的に、例えば、吸入によって、寛容性を誘導する。そのような処置は、例えば、米国特許第5,935,577号(Weiner他)に記載される。自己抗原およびバイスタンダー抗原は下記に定義される(粘膜寛容性の一般的総説については、Nagler−Anderson,C.、Crit.Rev.Immunol、2000、20(2):103〜20を参照のこと)。自己抗原(およびその分子の免疫優勢エピトープ領域を含有するそのフラグメント)の静脈内投与は、クローン麻痺と呼ばれる機構による免疫抑制を誘導することが見出されている。クローン麻痺は、特定の抗原に対して特異的な免疫攻撃T細胞のみの不活性化を生じさせ、その結果は、この抗原に対する免疫応答の著しい低下である。従って、自己免疫応答を促進し、かつ自己抗原に対して特異的なT細胞は、一旦麻痺化されると、その抗原に応答してもはや増殖しない。増殖におけるこの低下はまた、自己免疫疾患の症状(MSにおいて認められる神経組織損傷など)の原因となる免疫反応を減少させる。単回用量で、そして「能動的抑制」を誘発する量よりも実質的に多い量で自己抗原(または免疫優勢フラグメント)を経口投与することによってもまた、寛容性が麻痺(またはクローン除去)により誘導され得ることもまた明らかにされている。
【0021】
能動的抑制によって進行する処置方法もまた開示されている。能動的抑制は、クローン麻痺の機構とは異なる機構によって機能する。この方法は、PCT出願PCT/US93/01705に詳細に議論されているが、自己免疫の攻撃を受けている組織に対して特異的な抗原を経口投与または粘膜投与することを伴う。これらは「バイスタンダー抗原」と呼ばれる。この処置により、調節(サプレッサー)T細胞が、腸管関連リンパ組織(GALT)、または気管関連リンパ組織(BALT)、または最も一般的には粘膜関連リンパ組織(MALT)において誘導させられる(MALTにはGALTおよびBALTが含まれる)。これらの調節細胞は血液内またはリンパ組織内に放出され、その後、自己免疫疾患によって苦しめられている器官または組織に遊走して、苦しめられている器官または組織の自己免疫攻撃を抑制する。バイスタンダー抗原によって誘発されるT細胞(これは、T細胞を誘発するために使用されたバイスタンダー抗原の少なくとも1つの抗原性決定基を認識する)が、ある種の免疫調節因子およびサイトカイン(形質転換増殖因子β(TGF−β)、インターロイキン−4(IL−4)および/またはインターロイキン−10(IL−10)など)の局所的な放出を媒介する自己免疫攻撃の場所に標的化される。これらの中で、TGF−βは、攻撃を誘発する抗原にもかかわらず免疫攻撃を抑制する点で、抗原非特異的な免疫抑制因子である(しかし、バイスタンダー抗原による経口寛容化または粘膜寛容化は自己免疫攻撃の近傍におけるTGF−βの放出を生じさせるだけであるので、全身的な免疫抑制は起こらない)。IL−4およびIL−10もまた、抗原非特異的な免疫調節性のサイトカインである。特に、IL−4は(TヘルパーTh2)Th応答を増強し、すなわち、T細胞前駆体に対して作用し、そしてTh応答を犠牲にしてT細胞前駆体を優先的にTh細胞に分化させる。IL−4はまた、Thの悪化を間接的に阻害する。IL−10はTh応答の直接的な阻害剤である。自己免疫疾患状態で苦しめられている哺乳動物をバイスタンダー抗原で経口投与により寛容化した後、TGF−β、IL−4およびIL−10の増大したレベルが自己免疫攻撃の場所で認められる(Chen,Y.他、Science、265:1237〜1240、1994)。バイスタンダー抑制機構がvon Herreth他によって確認されている(J.Clin.Invest.、96:1324〜1331、1996(9月))。
【0022】
より最近には、経口寛容性が、共生細菌を与えることによる炎症性腸疾患の動物モデルの処置において(Dunne,C.他、Antonie Van Leeuwenhoek、1999(7月−11月)、76(1−4):279〜92)、腎糸球体基底膜を与えることによる自己免疫糸球体腎炎の動物モデルの処置において(Reynolds他、J.Am.Soc.Nephrol、2001(1月)、12(1):61〜70)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)を与えることによる実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE、これは多発性硬化症またはMSの等価体である)の動物モデルの処置において、対象にコラーゲンおよびHSP−65をそれぞれ与えることによるアジュバント関節炎およびコラーゲン関節炎の動物モデルの処置において、効果的に適用されている。Autoimmuneと呼ばれる、ボストンに本社を置く企業は、糖尿病、多発性硬化症、慢性関節リウマチおよびブドウ膜炎を防止するためのヒト試験をいくつか行っている。ヒト試験の結果は、非ヒトでの試験よりも優れていなかったが、ある程度の成功が関節炎の防止について得られていた。
【0023】
アテローム硬化性斑病変において見出される自己抗原に対する経口寛容性もまた調べられている。アテローム性動脈硬化の臨床モデルおよび動物モデルにおける、T細胞によって認識されるエピトープおよびIg力価の研究により、アテローム性病変における炎症の抑制に関して3つの候補抗原が示された:酸化型LDL、ストレス関連の熱ショックタンパク質HSP65、およびカルジオリピン結合タンパク質β2GP1。米国特許出願第09/806,400号(Shoenfeld他、1999年9月30日出願)(これはその全体が本明細書中に組み込まれる)には、酸化型ヒトLDLを与えた遺伝的感受性のLDL−RD受容体欠損トランスジェニックマウスの動脈におけるアテローム発生が約30%減少したことが開示される。しかし、この保護効果は、Cu++による長期間の酸化処理に供された、遠心分離およびろ過および精製が行われたヒト血清LDLからなる粗抗原調製物を与えることによって達成された。アテローム発生の著しい阻害がおそらくは経口寛容性により達成されたが、特異的な脂質抗原または免疫原性LDL成分の確認は行われなかった。遭遇した別の障害は、粗酸化型LDLが、酵素活性のために、そして肝臓および細胞性免疫機構による酸化型LDLの取り込みのためにインビボでは固有的に不安定であるということであった。安定な、より慎重に規定される酸化型LDLアナログならば、より大きい効率の経口寛容性が得られたと考えられる。免疫寛容性の誘導、および自己免疫炎症プロセスのその後の防止または阻害が、腸管以外の粘膜部位を介した抑制性抗原への暴露を使用して明らかにされている。眼の周りの膜組織および鼻腔の粘膜は、腸管と同様に、多くの侵入する抗原ならびに自己抗原にさらされ、そして免疫反応性に対する様々な機構を有する。例えば、Rossi他(Scand.J.Immunol、1999(8月)、50(2):177〜82)は、グリアジンの鼻腔投与が、セリアック病のマウスモデルにおける抗原に対する免疫応答をダウンレギュレーションすることにおいて静脈内投与と同じくらい効果的であることを見出した。同様に、アセチルコリン受容体抗原に対する鼻腔暴露は、重症筋無力症のマウスモデルにおける筋肉衰弱および特異的なリンパ球増殖の遅延および低下において、経口暴露よりも効果的であった(Shi,FD.他、J.Immunol、1999(5月15日)、162(10):5757〜63)。従って、粘膜投与ならびに静脈内投与または腹腔内投与のために意図された免疫原性化合物は、最適には、投与の鼻腔経路および他の膜経路に適合させることができるはずである。
【0024】
従って、静脈内投与、腹腔内投与および粘膜投与において、増強された代謝安定性および効率的な寛容化免疫原性を示す、新規で、十分に規定される合成された酸化型リン脂質誘導体が明らかに求められている。
【0025】
酸化型リン脂質の合成
リン脂質の修飾が様々な用途のために用いられている。例えば、脂質可溶性の活性な化合物を有するリン脂質を経皮適用および経膜適用のための組成物に配合してもよく(米国特許第5,985,292号、Fournerou他)、そしてリン脂質誘導体を薬物送達用のリポソームおよびバイオベクターに配合することができる(例えば、米国特許第6,261,597号および同第6,017,513号(それぞれ、KurtzおよびBetbeder他)を参照のこと)。血小板活性化因子(PAF)構造を模倣する修飾されたリン脂質誘導体は、血管透過性、血圧、心臓機能阻害などのような機能を達成するので、様々な障害および疾患において薬学的に活性であることが知られている。これらの誘導体の一群が抗ガン活性を有し得ることが示唆されている(米国特許第4,778,912号、Inoue他)。しかし、米国特許第4,778,912号に開示される化合物は、ホスファチジル基の場合よりもはるかに長い架橋をリン酸基と末端アミン基との間に有しており、従って、ox−LDLと免疫学的に類似しているとは予想されない。
【0026】
修飾されたリン脂質エーテル誘導体の別の一群が開示されている。これらは、クロマトグラフィー分離のために意図されたが、ある程度の生理学的作用を有し得る(スイス国特許第642,665号、Berchtold)。
【0027】
リン脂質の酸化は、アテローム斑に豊富に存在するフリーラジカルおよび酵素反応の作用によってインビボで生じる。インビトロでは、酸化型リン脂質の調製は、通常、天然のLDLまたはLDLリン脂質成分の単純な化学的酸化を伴う。酸化型LDLの役割を研究している研究者は、例えば、斑成分に関連する分子に類似する酸化型リン脂質分子または穏やかに酸化されたリン脂質分子を作製するために、2価鉄イオンおよびアスコルビン酸を用い(Itabe,H他、J.Biol.Chem.1996、271:33208〜217)、そして硫酸銅を用いている(George,J.他、Atherosclerosis、1998、138:147〜152;Ameli,S.他、Arteriosclerosis Thromb Vasc Biol、1996、16:1074〜79)。同様にして調製される分子は、アテローム発生に関連する自己抗原と同一であることが示され(Watson A.D.他、J.Biol.Chem.1997、272:13597〜607)、そしてマウスにおいて保護的なアテローム発生防止性の免疫寛容性を誘導し得ることが示されている(米国特許出願第09/806,400号(Shoenfeld他)、1999年9月30日出願)。同様に、Koike(米国特許第5,561,052号)は、診断に使用される酸化されたアラカドン酸またはリノール酸および酸化型LDLを製造するために硫酸銅およびスーパーオキシドディスムターゼを使用して、酸化された脂質およびリン脂質を製造する方法を開示する。しかし、用いられる酸化技術は非特異的であり、様々な酸化生成物をもたらし、純粋でない抗原性化合物のさらなる精製または使用のいずれかが余儀なくされる。このことは、精製されたとしても、天然LDLの場合にはさらにより重大である。
【0028】
その上、上記のように調製された酸化型リン脂質を用いるインビボ適用には、体内における活性な化合物の認識感受性および結合および代謝の欠点があり、投薬量および投与後の安定性が重要な検討事項になっている。
【0029】
従って、上記の制限がない新規な合成された酸化型リン脂質ならびにその改善された合成方法およびその使用が必要であることが広く認識されており、そしてそれらを有することは非常に好都合である。
【発明の概要】
【0030】
発明の要約
本発明によれば、下記の式を有する化合物またはその薬学的に受容可能な塩が提供される:
【化22】

式中、
(i)AおよびAはそれぞれが独立して、CHおよびC=Oからなる群から選択され、かつAおよびAの少なくとも1つがCHであり;
(ii)RおよびRはそれぞれが独立して、1炭素〜27炭素の長さのアルキル鎖、および
【化23】

(式中、XはC1〜24の鎖であり;Yは、
【化24】

−OH、−H、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、アセトキシおよび芳香族官能基からなる群から選択され;Zは、
【化25】

からなる群から選択される)
からなる群から選択され;かつ
(iii)Rは、H、アシル、アルキル、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルカルジオリピンおよびホスファチジルイノシトールからなる群から選択される。
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、Rは非ホスファチジル基であり、そのようなものとして、化合物はジグリセリドである。
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらにさらなる特徴によれば、RおよびRの少なくとも1つは、
【化26】

(式中、XはC1〜24の鎖であり;Yは、
【化27】

−OH、−H、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、アセトキシおよび芳香族官能基からなる群から選択され;Zは、
【化28】

からなる群から選択される)
である。
【0031】
本発明の別の局面によれば、アテローム性動脈硬化、心臓血管疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患、狭窄、再狭窄および/またはステント内狭窄を、その防止および/または処置を必要とする対象において防止および/または処置するための薬学的組成物であって、有効成分として、下記の式を有する群またはその薬学的に受容可能な塩:
【化29】

(式中、
(i)AおよびAは独立して、CHおよびC=Oからなる群から選択され;
(ii)RまたはRはそれぞれが独立して、1炭素〜27炭素の長さのアルキル鎖、および
【化30】

(式中、XはC1〜24であり;Yは、
【化31】

−OH、−H、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、アセトキシおよび芳香族官能基からなる群から選択され;Zは、
【化32】

からなる群から選択される)
からなる群から選択され;かつ
(iii)Rは、H、アシル、アルキル、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルカルジオリピンおよびホスファチジルイノシトールからなる群から選択される)
から選択される化合物の治療効果的な量と、薬学的に受容可能なキャリアとを含む薬学的組成物が提供される。
【0032】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、Rは非ホスファチジル基であり、そのようなものとして、化合物はジグリセリドである。
【0033】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらにさらなる特徴によれば、RおよびRの少なくとも1つは、
【化33】

(式中、XはC1〜24の鎖であり;Yは、
【化34】

−OH、−H、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、アセトキシおよび芳香族官能基からなる群から選択され;Zは、
【化35】

からなる群から選択される)
である。
【0034】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、AおよびAの少なくとも1つはCHである。
【0035】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、この分子はALLEとして知られている。
【0036】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらにさらなる特徴によれば、薬学的組成物は、粘膜投与によって酸化型LDLに対する寛容性を誘導するために設計される。
【0037】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、薬学的組成物は、単独での、またはさらなる免疫調節経路との組み合わせられる鼻腔投与、経口投与、皮下投与または腹腔内投与のために設計される。
【0038】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、化合物は、前記対象における酸化型LDLに対する免疫反応性を低下させる。
【0039】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、薬学的組成物は、アテローム性動脈硬化、心臓血管疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患、狭窄、再狭窄および/またはステント内狭窄からなる群から選択される少なくとも1つの障害の防止および/または処置における使用のために包装および識別される。
【0040】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、薬学的組成物は、HMGCoAレダクターゼ阻害剤(スタチン類)、粘膜アジュバント、コルチコステロイド、抗炎症性化合物、鎮痛剤、増殖因子、トキシンおよびさらなる寛容化抗原からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる化合物の治療効果的な量をさらに含む。
【0041】
本発明のなおさらに別の局面によれば、アテローム性動脈硬化、心臓血管疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患、狭窄、再狭窄および/またはステント内狭窄からなる群から選択される疾患または症候群または状態を、その防止および/または処置を必要とする対象において防止および/または処置するための薬学的組成物で、有効成分として合成LDL誘導体またはその薬学的に受容可能な塩の治療効果的な量を含み、さらに薬学的に受容可能なキャリアを含む組成物が提供される。
【0042】
本発明のさらに別の局面によれば、アテローム性動脈硬化、心臓血管疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患、狭窄、再狭窄および/またはステント内狭窄を、その防止および/または処置を必要とする対象において防止および/または処置する方法で、下記の式を有する群またはその薬学的に受容可能な塩:
【化36】

(式中、
(i)AおよびAは独立して、CHまたはC=Oからなる群から選択され;
(ii)RまたはRはそれぞれが独立して、1炭素〜27炭素の長さのアルキル鎖、および
【化37】

(式中、XはC1〜24の鎖であり;Yは、
【化38】

−OH、−H、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、アセトキシおよび芳香族官能基からなる群から選択され;Zは、
【化39】

からなる群から選択される)
からなる群から選択され;かつ
(iii)Rは、H、アシル、アルキル、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルカルジオリピンおよびホスファチジルイノシトールからなる群から選択される)
から選択される化合物の治療効果的な量を投与することを含む方法が提供される。
【0043】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、RおよびRの少なくとも1つは、
【化40】

(式中、XはC1〜24の鎖であり;Yは、
【化41】

−OH、−H、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、アセトキシおよび芳香族官能基からなる群から選択され;Zは、
【化42】

からなる群から選択される)
である。
【0044】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、AおよびAの少なくとも1つはCHである。
【0045】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、化合物は、1−ヘキサデシル−2−(5’−オキソ−ペンタニル)−sn−グリセロ−3−ホスホコリンエステル、3−ヘキサデシル−2−(5’−オキソ−ペンタニル)−sn−グリセロ−1−ホスホコリンおよびそのラセミ混合物(ALLE)である。
【0046】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらにさらなる特徴によれば、化合物は粘膜投与によって投与される。
【0047】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、化合物の投与は、単独での、またはさらなる免疫調節経路と組み合わせられる鼻腔投与、経口投与、皮下投与または腹腔内投与である。下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、化合物の投与により、前記対象における酸化型LDLに対する免疫反応性が低下させられる。
【0048】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、化合物は、HMGCoAレダクターゼ阻害剤(スタチン類)、粘膜アジュバント、コルチコステロイド、抗炎症性化合物、鎮痛剤、増殖因子、トキシンおよびさらなる寛容化抗原からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる化合物の治療効果的な量に加えて投与される。
【0049】
さらに、本発明のさらなる局面によれば、酸化型リン脂質を合成する方法が提供される。この方法は、(a)脂肪酸側鎖の少なくとも1つがモノ不飽和脂肪酸である2つの脂肪酸側鎖を含むリン脂質骨格を提供すること、および(b)前記モノ不飽和脂肪酸の二重結合を酸化して、それにより酸化型リン脂質を得ることを含む。
【0050】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、リン脂質骨格は、H、アシル、アルキル、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルカルジオリピンおよびホスファチジルイノシトールからなる群から選択される成分をさらに含む。
【0051】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、モノ不飽和脂肪酸はC2〜15である。
【0052】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらにさらなる特徴によれば、酸化型リン脂質は1−パルミトイル−2−オキソバレロイル−sn−3−ホスホコリン(POVPC)であり、モノ不飽和脂肪酸は5−ヘキセン酸である。
【0053】
本発明は、新規な酸化型リン脂質である酸化型LDLに対する免疫寛容性を誘導する方法(そのような方法では、例えば、POVPCおよびALLEなどの合成された酸化型LDL誘導体が利用される)を提供することによって、現在知られている形態の欠点を対処することに成功している。
【0054】
図面の簡単な説明
本発明は、本明細書中には、例としてだけ、添付された図面を参照して記載される。次に図面を詳細に特に参照することにより、示される特定の事項は、例として、かつ本発明の好ましい実施形態の例示的な議論のためだけであり、そして本発明の原理および概念的局面の最も有用で、かつ容易に理解される記載であると考えられるものを提供するために示されることに重点が置かれている。これに関連して、本発明の基本的な理解のために必要とされるよりも詳しく本発明の構造的詳細を示すことはなされておらず、従って、図面とともに理解される説明により、本発明のいくつかの形態がいかにして実際に具体化され得るかが当業者には明らかになる。
図1は、2,5’−アルデヒドレシチンエーテル、1−ヘキサデシル−2−(5’−オキソ−ペンタニル)−sn−グリセロ−3−ホスホコリンエーテル(D−ALLE)または3−ヘキサデシル−2−(5’−オキソ−ペンタニル)−sn−グリセロ−1−ホスホコリンエーテル(L−ALLE)(ALLE)の合成を示す流れ図である。
図2は、POVPCの合成を示す流れ図である。
図3は、ALLEの混合されたD異性体およびL異性体を用いた腹腔内免疫化によるアポE欠損マウスにおける初期アテローム発生の阻害を示すグラフである。5週齢〜7週齢のアポEマウスを、精製ツベルクリンタンパク質誘導体にカップリングされたALLEの混合されたD異性体およびL異性体の150μg/マウスで免疫化し(ALLE L+D)(n=6)、または150μg/マウスの精製ツベルクリンタンパク質誘導体の単独で免疫化し(PPD)(n=5)、または免疫化しなかった(コントロール)(n=7)。アテローム発生は、4回目の免疫化を行った6週間後の大動脈洞におけるアテローム性病変の面積として表される。
図4は、ALLEを与えることによって誘導される経口寛容性によるアポE欠損マウスにおける初期アテローム発生の阻害を示すグラフである。8週齢〜10週齢のアポEマウスに、ALLEの混合されたD異性体およびL異性体の10μg/マウス(ALLE L+D、10μg)(n=11)もしくは1mg/マウス(ALLE L+D、1mg)(n=11)で、またはPBS(コントロール)(n=12)が5日間にわたり1日おきに与えられた。アテローム発生は、最後の投与が行われた8週間後の大動脈洞におけるアテローム性病変の面積として表される。
図5は、L−ALLEにさらすことによって誘導される粘膜寛容性によるアポE欠損マウスにおける初期アテローム発生の阻害を示すグラフである。7週齢〜9週齢のアポEマウスは、5日間にわたり1日おきに1mg/マウスのL−ALLEが与えられ(OT L−ALLE)(n=11)、または3日間にわたり1日おきに10μg/マウスのL−ALLEに鼻腔投与によりさらされた(NT L−ALLE)(n=11)。コントロールのマウスには、同一容量(0.2ml)のPBSが与えられた(PBS経口)(n=12)。アテローム発生は、最後の経口暴露または鼻腔暴露が行われた8週間後の大動脈洞におけるアテローム性病変の面積として表される。
図6は、合成された酸化型リン脂質(L−ALLEおよびPOVPC)に経口暴露することによって誘導されるアテローム硬化性斑抗原に対する免疫反応性の抑制を示すグラフである。6週齢のオスのアポE欠損マウスに、0.2mlのPBSにおいて1mg/マウスのL−ALLE(L−ALLE)(n=2)もしくはPOVPC(POVPC)(n=3)のいずれかが、またはPBS単独(コントロール)(n=3)が5日間にわたり1日おきに与えられた。最後の投与が行われた1週間後、マウスを50μgのヒト酸化型LDL抗原の単回皮下注射で感作した。7日後、鼠蹊リンパ節からのT細胞を、増殖のインビトロ評価のために、下記の材料および方法の節に記載されるように調製して、感作用ヒトox−LDL抗原にさらした。増殖は、免疫反応性を示しており、ヒトox−LDL抗原の存在下および非存在下における標識チミジンのT細胞DNA内への取り込み比(刺激指数、S.I.)として表される。
図7は、合成された酸化型リン脂質(D−ALLE、L−ALLEまたはPOVPC)によって誘導される経口寛容性によるアポE欠損マウスにおける後期アテローム発生の進行の阻害を示すグラフである。24.5週齢のアポE欠損マウスに、1mg/マウスのL−ALLE(L−ALLE)(n=11)もしくはD−ALLE(D−ALLE)(n=9)もしくはPOVPC(POVPC)(n=10)が、5日間にわたり1日おきに4週間の間隔で12週間の期間にわたって与えられた。コントロールのマウスには、PBSの同一の容量(0.2ml)および処置法が与えられた(コントロール)(n=10)。アテローム発生は、最後の投与が行われた12週間後の大動脈洞におけるアテローム性病変の面積として表され、これは、投与前の未処置の24.5週齢マウスの病変スコア(時間0)と比較される。
図8は、合成された酸化型リン脂質(D−ALLE、L−ALLEまたはPOVPC)を与えることによって誘導される24.5週齢アポE欠損マウスにおけるトリグリセリド含有量の減少を示すグラフである。24.5週齢のアポE欠損マウスに、1mg/マウスのL−ALLE(三角)(n=11)もしくはD−ALLE(逆三角)(n=9)もしくはPOVPC(四角)(n=10)が、5日間にわたり1日おきに4週間の間隔で12週間の期間にわたって与えられた。コントロールのマウスには、PBSの同一の容量(0.2ml)および処置法が与えられた(丸)(n=10)。トリグリセリド含有量(Tg、mg/ml)は、下記の材料および方法の節に記載されるように、プールされた血液サンプルをFPLCで分離した後のVLDL画分における酵素比色法によって測定された。
図9は、合成された酸化型リン脂質(D−ALLE、L−ALLEまたはPOVPC)を与えることによって誘導される24.5週齢アポE欠損マウスにおけるコレステロール含有量の減少を示すグラフである。24.5週齢のアポE欠損マウスに、1mg/マウスのL−ALLE(三角)(n=11)もしくはD−ALLE(逆三角)(n=9)もしくはPOVPC(四角)(n=10)が、5日間にわたり1日おきに4週間の間隔で12週間の期間にわたって与えられた。コントロールのマウスには、PBSの同一の容量(0.2ml)および処置法が与えられた(丸)(n=10)。コレステロール含有量(コレステロール、mg/ml)は、下記の材料および方法の節に記載されるように、プールされた血液サンプルをFPLCで分離した後のVLDL画分における酵素比色法によって測定された。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明は、粘膜寛容性を誘導することにおいて、そしてアテローム性血管疾患および後遺症の一因である炎症プロセスを阻害することにおいて効果的な合成された酸化型リン脂質を用いる方法および組成物に関する。
【0056】
本発明の原理および操作は、図面および添付された説明を参照してより良く理解することができる。
【0057】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明に示される細部または実施例により例示される細部に限定されないことを理解しなければならない。本発明は、他の実施形態が可能であり、または様々な方法で実施することができ、または様々な方法で実施される。また、本明細書中で用いられている表現法および用語法は説明のためであり、従って限定として見なされるべきではないことを理解しなければならない。
【0058】
実験的および臨床的な証拠により、アテローム性動脈硬化における過度な炎症応答の病因において酸化型LDLおよびLDL成分に対する原因的役割が示される。斑に関連した酸化型LDLに対する細胞性および液性の両方の免疫反応性が明らかにされており、このことは、アテローム発生における重要な抗酸化型LDLの自己免疫成分を示唆している。従って、酸化型LDLおよびその成分は、心臓疾患、脳血管疾患および末梢血管疾患を防止および処置するための多数の治療法の標的となっている。
【0059】
先行技術は、LDLの経口投与はアテローム発生の30%の減少を生じさせ得ることを教示するが、そのような保護的効果は、Cu++による長期間の酸化処理に供された、遠心分離およびろ過および精製が行われたヒト血清LDLからなる粗抗原調製物を投与した後に観測された。アテローム発生の著しい阻害がおそらくは経口寛容性により達成されたが、特異的な脂質抗原または免疫原性LDL成分の確認は行われなかった。遭遇した別の障害は、粗酸化型LDLが、酵素活性のために、そして肝臓および細胞性免疫機構による酸化型LDLの取り込みのためにインビボでは固有的に不安定であるということであった。
【0060】
本発明を実施しながら、本発明者らは、十分に規定される合成された酸化型LDL誘導体の投与により、酸化型LDLに対する免疫寛容性が誘導され、従ってアテローム発生が阻害され、同時に上記の制限が回避され得ることを見出した。
【0061】
従って、本発明の1つの局面によれば、ヒトなどの対象における酸化型LDLに対する免疫寛容性を誘導する方法が提供される。そのような免疫寛容性は、アテローム性動脈硬化、アテローム硬化性の臓血管疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患、狭窄、再狭窄およびステント内狭窄(これらに限定されない)を含む、斑形成に関連する様々な障害の防止および処置において使用することができる。アテローム硬化性の心臓血管疾患のいくつかの非限定的な例には、心筋梗塞、冠状動脈疾患、急性冠状動脈症候群、鬱血性心不全、狭心症および心筋虚血がある。末梢血管疾患のいくつかの非限定的な例には、壊疽、糖尿病性血管障害、虚血性腸疾患、血栓症、糖尿病網膜症および糖尿病性腎症がある。脳血管疾患のいくつかの非限定的な例には、卒中、脳血管炎症、脳出血および椎骨動脈不全がある。狭窄は血管系の閉塞性疾患であり、これは、アテローム斑および増強された血小板活性によって一般には引き起こされ、冠状動脈血管系に対して非常に重要な影響を及ぼす。再狭窄は、狭窄性の血管系における閉塞を低下させた後に多い進行性の再閉塞である。血管系の能力がステントの機械的支持を必要とする場合、ステント内の狭窄が生じることがあり、処置された血管を再び閉塞させる。
【0062】
下記の実施例の節にさらに詳しく記載されるように、本発明のこの局面による方法は、酸化型リン脂質の合成されたエステル誘導体(これはまた、以降、エステル化(された)酸化型リン脂質として示される)の治療効果的な量を対象に投与することによって達成される。本発明による使用に好適な酸化型リン脂質のエステル誘導体の非限定的な例には、POVPC(完全な式については下記の実施例の節を参照のこと)、POVPC、PGPC(Watson,AD他、J.Biol.Chem.1997、272:13597〜607を参照のこと)、および下記の一般式を有する誘導体が含まれる:
【化43】

(式中、
(i)AおよびAはC=Oであり;
(ii)RまたはRはそれぞれが独立して、1炭素〜27炭素の長さのアルキル鎖、および
【化44】

(式中、XはC1〜24であり;Yは、
【化45】

−OH、−H、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、アセトキシおよび芳香族官能基からなる群から選択され;Zは、
【化46】

からなる群から選択される)
からなる群から選択され;かつ
(iii)Rは、H、アシル、アルキル、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルカルジオリピンおよびホスファチジルイノシトールからなる群から選択される)。
【0063】
本明細書中で使用される用語「C1〜n」は、n−1個の炭素からなる鎖に共有結合した炭素原子からなる炭素骨格として定義される。
【0064】
本発明のさらなる実施形態において、Rは、非ホスファチジル基からなる群から選択され、そのため、得られる化合物はリン脂質ではなく、ジグリセリド化合物である。そのようなジグリセリド化合物は、類似する構造特徴を保持しており、そのため、おそらくは抗原性および免疫寛容化活性を有すると考えられる。従って、これらの化合物もまた、アテローム性動脈硬化に関連した障害の防止および/または処置において使用することができ、そして本明細書中に記載される酸化型リン脂質誘導体と同様に用いることができ、かつ適用することができる。
【0065】
最近、リン脂質およびリン脂質代謝産物が、病理発生において、従ってアテローム性動脈硬化に関連しないさらなる疾患の潜在的処置において明らかに関係している。そのような疾患および症候群には、老化の酸化的ストレス(Onorato JM他、Annal NY Acad Sci、1998(11月20日)、854:277〜90)、慢性関節リウマチ(RA)(Paimela L他、Ann Rheum Dis、1996(8月)、55(8):558〜9)、若年性慢性関節リウマチ(Savolainen A他、1995、24(4):209〜11)、炎症性腸疾患(IBD)(Sawai T他、Pediatr Surg Int、2001(5月)、17(4):269〜74)および腎臓ガン(Noguchi S他、Biochem Biophys Res Commun、1992(1月31日)、182(2):544〜50)が含まれる。従って、本発明の方法は、老化、RA、若年性RA、IBDおよびガンなどの、アテローム性動脈硬化に関連しない疾患を防止および/または処置するために使用することができる。
【0066】
合成されたエステル化酸化型リン脂質は、先行技術の方法(Ou Z.、Ogamo A.、Guo L.、Konda Y.、Harigaya Y.およびNakagawa Y.、Anal.Biochem.227:289〜294、1995)を使用して合成することができる。
【0067】
あるいは、そして好ましくは、本発明のこの局面によって利用される酸化型リン脂質の合成されたエステル誘導体は、新規な合成方法を使用して合成される。
従って、本発明の別の局面によれば、エステル化された酸化型リン脂質を合成する方法が提供される。本発明の方法は、脂肪酸側鎖の少なくとも1つがモノ不飽和脂肪酸(好ましくはC2〜15)である2つの脂肪酸側鎖を含むリン脂質骨格を最初に提供すること、続いて、モノ不飽和脂肪酸の二重結合を酸化して、それによりエステル化酸化型リン脂質を得ることによって達成される。
【0068】
本発明の教示に従ってエステル化酸化型リン脂質を合成するための好適なリン脂質骨格の例には、2つの脂肪酸側鎖を含むレシチン、および1個の側鎖を含み、そのため、さらなる脂肪酸側鎖を酸化の前に付加するさらなる合成工程を受けなければならないリゾレシチンが含まれるが、これらに限定されない。
【0069】
POVPCを合成するために利用されるとき、リン脂質骨格には、5−ヘキセン酸がモノ不飽和脂肪酸側鎖として含まれる。
【0070】
そのような新規な合成方法は、先行技術の合成方法を上回るいくつかの利点を提供する。この合成方法では、所望する長さおよび構造を有する規定されたモノ不飽和酸が、リゾレシチン骨格を有する分子と反応させられ、所望する二重結合において酸化されるモノ不飽和リン脂質が得られる。
【0071】
そのような新規な方法の利点はその特異性および簡便性にある。レシチン骨格を有するモノ不飽和リン脂質を酸化することにより、単一の所望する特定の生成物が得られ、従って、商業的な生成物の処理および精製がはるかにより効率的になる。
【0072】
そのような反応は特定の所望する酸化型リン脂質を提供し、これにより、複雑な分離および精製を行う必要性がなくなる。
【0073】
さらに、本発明の方法を使用したとき、二重結合を鎖の端部に有するモノ不飽和リン脂質を酸化することによって、酸化型リン脂質を設計し、合成することが可能であり、これにより、合成プロセスにおける実質的に短い不飽和酸の鎖の使用が可能になる。そのようなモノ不飽和の短い酸の鎖は比較的安価であり、従って、合成に関連するコストが削減される。そのため、従って、本発明の合成方法は大規模な製造プロセスに都合良く適合させることができる。
【0074】
本発明の教示に従ったエステル化酸化型リン脂質の合成の詳しい記載が下記の実施例の節に示される。
【0075】
実施例の節に明瞭に示されているように、免疫寛容性はまた、酸化型リン脂質エーテル(これはまた、以降、エーテル化(された)酸化型リン脂質と呼ばれる)を使用することによって確立することができる。
【0076】
従って、本発明の別の局面によれば、酸化型リン脂質エーテルを対象に投与することによって行われる、酸化型LDLに対する免疫寛容性を誘導する方法(ならびに、従って、アテローム性動脈硬化および他の関連する障害を処置する方法)が提供される。
【0077】
本発明のこの局面によって利用可能な酸化型リン脂質エーテルの1つの例が、ALLE[好ましくは、1−ヘキサデシル−2−(5’−オキソ−ペンタニル)−sn−グリセロ−3−ホスホコリンエーテル(D−ALLE)および3−ヘキサデシル−2−(5’−オキソ−ペンタニル)−sn−グリセロ−1−ホスホコリンエーテル(L−ALLE)の混合物]であり、その合成および使用は下記の実施例の節においてさらに詳しく記載される。
【0078】
本明細書中に記載される免疫寛容性誘導化合物は、それ自体で、または化合物が好適なキャリアまたは賦形剤と混合される薬学的組成物で投与することができる。
【0079】
本明細書中で使用される「薬学的組成物」は、生理学的に好適なキャリアおよび賦形剤などの他の化学的成分を伴う、本明細書中に記載される1つ以上の有効成分の調製物を示す。薬学的組成物の目的は、化合物を生物に投与することを容易にすることである。
【0080】
本明細書中では、用語「有効成分」は、生物学的作用を説明することができる化合物(例えば、POVPCまたはALLE)を示す。
【0081】
以降、交換可能に使用することができる表現「生理学的に受容可能なキャリア」および表現「薬学的に受容可能なキャリア」は、生物に対する著しい刺激を生じさせず、投与された化合物の生物学的な活性および性質を妨げないキャリアまたは希釈剤を示す。アジュバントはこれらの表現に含まれる。
【0082】
本明細書中では、用語「賦形剤」は、有効成分の投与をさらに容易にするために薬学的組成物に添加される不活性な物質を示す。賦形剤の非限定的な例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖および様々なタイプのデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールが含まれる。
【0083】
薬物の配合および投与に関する様々な技術を「Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing Co.、Easton、PA)、最新版」(これは参考として本明細書中に組み込まれる)に見出すことができる。
【0084】
好適な投与経路には、例えば、経口送達、直腸送達、経粘膜送達(特に、経鼻腔送達)、腸送達または非経口送達(筋肉内注射、皮下注射および髄内注射、ならびにくも膜下注射、直接的な心室内注射、静脈内注射、腹腔内注射、鼻腔内注射または眼内注射を含む)を挙げることができる。
【0085】
あるいは、薬学的組成物は、例えば、薬学的組成物を患者の組織領域内に直接注射することによって、全身的な様式ではなく、局所な様式で投与することができる。
【0086】
本発明の薬学的組成物は、この分野で十分に知られているプロセスによって、例えば、従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠作製、研和、乳化、カプセル化、包括化または凍結乾燥のプロセスによって製造することができる。
【0087】
本発明に従って使用される薬学的組成物は、従って、薬学的に使用され得る調製物への有効成分の加工を容易にする、賦形剤および補助剤を含む1つ以上の生理学的に受容可能なキャリアを使用して、従来の様式で配合することができる。適正な配合は、選ばれた投与経路に依存する。
【0088】
注射の場合、薬学的組成物の有効成分は、水溶液において、好ましくは生理学的に適合する緩衝液(ハンクス溶液、リンゲル溶液または生理学的塩の緩衝液など)において配合することができる。経粘膜投与の場合、透過しなければならないバリアに対して適切な浸透剤が配合において使用される。そのような浸透剤はこの分野では一般に知られている。
【0089】
経口投与の場合、薬学的組成物は、活性な化合物を、この分野で十分に知られている薬学的に受容可能なキャリアと組み合わせることによって容易に配合することができる。そのようなキャリアにより、薬学的組成物を、患者によって経口摂取される錠剤、ピル、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー剤、懸濁物などとして配合することが可能になる。経口使用される薬理学的調製物は、固体の賦形剤を使用し、得られた混合物を場合により粉砕し、そして錠剤または糖衣錠コアを得るために所望する場合には好適な補助剤を添加した後、顆粒の混合物を加工して作製することができる。好適な賦形剤は、具体的には、ラクトース、スクロース、マンニトールまたはソルビトールを含む糖などの充填剤;セルロース調製物、例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボメチルセルロースなど;および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などの生理学的に受容可能なポリマーである。所望する場合には、架橋されたポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩(アルギン酸ナトリウムなど)などの崩壊剤を加えることができる。
【0090】
糖衣錠コアには、好適なコーティングが施される。この目的のために、高濃度の糖溶液を使用することができ、この場合、糖溶液は、場合により、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、ラッカー溶液および好適な有機溶媒または溶媒混合物を含有し得る。色素または顔料が、活性な化合物の量を明らかにするために、または活性な化合物の量の種々の組合せを特徴づけるために、錠剤または糖衣錠コーティングに添加され得る。
【0091】
経口使用され得る薬学的組成物には、ゼラチンから作製されたプッシュ・フィット型カプセル、ならびにゼラチンおよび可塑剤(グリセロールまたはソルビトールなど)から作製された軟いシールされたカプセルが含まれる。プッシュ・フィット型カプセルは、充填剤(ラクトースなど)、結合剤(デンプンなど)、滑剤(タルクまたはステアリン酸マグネシウムなど)および場合により安定化剤と混合された有効成分を含有し得る。軟カプセルでは、有効成分を好適な液体(脂肪油、流動パラフィンまたは液状のポリエチレングリコールなど)に溶解または懸濁させることができる。さらに、安定化剤を加えることができる。経口投与される配合物はすべて、選ばれた投与経路に好適な投薬形態でなければならない。
【0092】
口内投与の場合、組成物は、従来の様式で配合された錠剤またはトローチの形態を取ることができる。
【0093】
鼻吸入による投与の場合、本発明に従って使用される有効成分は、好適な噴射剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタンまたは二酸化炭素)の使用により加圧パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレー提示物の形態で都合よく送達される。加圧されたエアロゾルの場合、投薬量単位は、計量された量を送達するためのバルブを備えることによって決定することができる。ディスペンサーで使用される、例えば、ゼラチン製のカプセルおよびカートリッジで、本発明の化合物と好適な粉末基剤(ラクトースまたはデンプンなど)との粉末混合物を含有するカプセルおよびカートリッジを配合することができる。
【0094】
本明細書中に記載される薬学的組成物は、例えば、ボーラス注射または連続注入による非経口投与のために配合することができる。注射用配合物は、例えば、アンプルまたは多用量容器における単位投薬形態で、場合により、添加された保存剤とともに提供され得る。組成物は、油性ビヒクルまたは水性ビヒクルにおける懸濁物または溶液剤またはエマルションにすることができ、そして懸濁剤、安定化剤および/または分散剤などの配合剤を含有することができる。
【0095】
非経口投与される薬学的組成物には、水溶性形態の活性な調製物の水溶液が含まれる。さらに、有効成分の懸濁物を適切な油性または水系の注射懸濁物として調製することができる。好適な親油性の溶媒またはビヒクルには、脂肪油(ゴマ油など)、または合成脂肪酸エステル(オレイン酸エチルなど)、トリグリセリドまたはリポソームが含まれる。水性の注射用懸濁物は、懸濁物の粘度を増大させる物質、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトールまたはデキストランなどを含有することができる。場合により、懸濁物はまた、高濃度の溶液の調製を可能にするために有効成分の溶解性を増大させる好適な安定化剤または薬剤を含有することができる。
【0096】
あるいは、有効成分は、使用前に好適なビヒクル(例えば、滅菌されたパイロジェン非含有水に基づく溶液)により構成される粉末形態にすることができる。
【0097】
本発明の薬学的組成物はまた、例えば、カカオバターまたは他のグリセリドなどの従来の坐薬基剤を使用して、坐薬または停留浣腸剤などの直腸用組成物で配合することができる。
【0098】
本発明に関連して使用される好適な薬学的組成物には、意図された目的を達成するために効果的な量で有効成分が含有される組成物が含まれる。より詳細には、治療効果的な量は、障害(例えば、アテローム性動脈硬化)の症状を防止もしくは緩和もしくは改善するために、または処置されている対象の生存を延ばすために効果的な有効成分の量を意味する。
【0099】
治療効果的な量の決定は、特に本明細書中に示される詳細な開示を考慮に入れて十分に当業者の能力の範囲内である。
【0100】
本発明の方法において使用される任意の調製物に関して、治療効果的な量または用量は、インビトロアッセイおよび細胞培養アッセイから最初に推定することができる。例えば、用量は、所望する濃度または力価を達成するために動物モデルにおいて組み立てることができる。そのような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために使用することができる。
【0101】
本明細書中に記載される有効成分の毒性および治療効力は、細胞培養または実験動物において標準的な薬学的手法によりインビトロで決定することができる。これらのインビトロアッセイおよび細胞培養アッセイから得られたデータは、ヒトにおける使用に対する投薬量範囲を決定するために使用することができる。投薬量は、用いられる投薬物形態および利用される投与経路に依存して変化し得る。正確な配合、投与経路および投薬量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選ぶことができる(例えば、Fingl他、1975、The Pharmacological Basis of Therapeutics、第1章、1頁を参照のこと)。
【0102】
投薬量および投薬間隔は、血管形成を誘導または抑制するために十分な有効成分の血漿レベルまたは脳内レベル(最小有効濃度、MEC)をもたらすために個々に調節することができる。MECはそれぞれの調製物について異なるが、インビトロでのデータから推定することができる。MECを達成するために必要な投薬量は、個々の特性および投与経路に依存する。様々な検出アッセイを、血漿濃度を測定するために使用することができる。
【0103】
処置される状態の重篤度および応答性に依存して、投薬は単回投与または多数回の投与にすることができ、この場合、処置期間は、数日から数週間まで、または治療が達成されるまで、または疾患状態の軽減が達成されるまで続く。
【0104】
投与される組成物の量は、当然のことではあるが、処置されている対象、苦痛の重篤度、投与様式、処方医の判断などに依存する。
【0105】
本発明の組成物は、所望する場合には、有効成分を含有する1つ以上の単位投薬形態物を含有し得る、FDA承認キットなどのパックまたはディスペンサーデバイスで提供することができる。パックは、例えば、ブリスターパックなどの金属箔またはプラスチック箔を含むことができる。パックまたはディスペンサーデバイスには、投与に関する説明書が伴ってもよい。パックまたはディスペンサーはまた、医薬品の製造または使用または販売を規制する政府当局により定められた形式で容器に関連する通知によって規定され得る。この場合、そのような通知は、組成物の形態またはヒトもしくは動物への投与の当局の承認を反映する。そのような通達は、例えば、処方薬物または承認された製品添付文書に関する米国食品医薬品局により承認されたラベル書きであり得る。適合性の薬学的キャリアにおいて配合された本発明の調製物を含む組成物もまた、上記にさらに詳述されているかのように、調製することができ、適切な容器に入れられ、そして指示された状態の処置について表示することができる。
【0106】
本発明により、酸化型リン脂質の合成された誘導体が、生物学的に由来する形態の酸化型LDLを利用する処置に固有的な制限を回避しながら、対象におけるアテローム性動脈硬化を防止および処置するために使用され得ることが初めて例示される。
【0107】
本発明はまた、エステル化された酸化型リン脂質を合成するための新規な方法を提供する。本発明はまた、アテローム性動脈硬化および関連の障害を処置するために利用することができる新規な形態の酸化型リン脂質エーテルを提供する。
本発明のさらなる目的および利点および新規な特徴は、限定であることを意図しない下記の実施例を検討したとき、当業者に明らかになる。さらに、本明細書中上記に示され、そして下記の請求項の節に記載される本発明の様々な実施形態および局面のそれぞれは、実験的裏づけが下記の実施例に見出される。
【実施例】
【0108】
次に、下記の実施例が参照されるが、下記の実施例は、上記の説明とともに、本発明を非限定的な様式で例示する。
【0109】
一般に、本明細書中で使用される命名法および本発明において用いられる実験室手順には生化学的技術および免疫学的技術が含まれる。そのような技術は文献に詳細に説明されている。例えば、「Cell Biology:A Laboratory Handbook」、第I巻〜第III巻、Cellis,J.E.編(1994);「Current Protocols in Immunology」、第I巻〜第III巻、Coligan J.E.編(1994);Stites他編、「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton&Lange、Norwalk、CT(1994);MishellおよびShiigi(編)、「Selected Methods in Cellular Immunology」、W.H.Freeman and Co.、New York(1980)を参照のこと。様々な利用可能な免疫アッセイが特許および科学文献に広範囲に記載されている:例えば、米国特許第3,791,932号、同第3,839,153号、同第3,850,752号、同第3,850,578号、同第3,853,987号、同第3,867,517号、同第3,879,262号、同第3,901,654号、同第3,935,074号、同第3,984,533号、同第3,996,345号、同第4,034,074号、同第4,098,876号、同第4,879,219号、同第5,011,771号および同第5,281,521号;そして「Methods in Enzymology」、第1巻〜第317巻、Academic Press;Marshak他。これらはすべて、全体が本明細書中に示されているかのように参考として組み込まれる。他の一般的な参考文献がこの文書中に示されている。参考文献中の手順は、この分野では十分に知られていると考えられ、そして読者の便宜のために提供される。参考文献に含まれる情報はすべて、参考として本明細書中に組み込まれる。
【0110】
一般的な材料および方法
動物
本発明者らの実験において使用されたアポE欠損マウスは、アテローム性動脈硬化になりやすいC57BL/6J−Apoetm1unc系統である。Apoetm1unc変異についてホモ接合マウスは、月齢および性に影響を受けない、総血漿コレステロールレベルの著しい増大を示す。近位大動脈における脂肪縞が3月齢で見出される。病変は月齢とともに増大し、そして前アテローム硬化性病変のより進行した状態に典型的な、脂質がより少ないが、より細長くなった細胞を有する病変に進行する。
【0111】
系統の開発:Apoetm1unc変異系統はノースカロライナ大学(Chapel Hill)においてノブヨ・マエダ博士の研究室で開発された。129由来のE14Tg2aのES細胞株が使用された。使用されたプラスミドはpNMC109と名付けられた。始祖系はT−89である。C57BL/6J系統は、Apoetm1unc変異をC57BL/6Jマウスに10回戻し交配することによって作製された(11、12)。
このマウスは、12時間の明暗周期のもと、22℃〜24℃でSheba Hospital Animal Facility(Tel−Hashomer、イスラエル)において維持され、0.027%のコレステロール(約4.5%の総脂肪)を含有する規定脂肪餌の実験用餌(Purina Rodent Laboratory Chow No.5001)および水が自由に与えられた。
【0112】
免疫化:
I.ALLEによる腹腔内免疫化:リン脂質エーテルアナログ(ALLE D+L)が、ツベルクリン由来の精製されたタンパク質誘導体(PPD)に1.6/1の比率でカップリングされた。ALLE(D+L)のストック溶液はエタノールに溶解された(99mg/ml)。5mgのALLE(D+L)、すなわち、50.5μlのストック溶液を、氷上で撹拌することによって、0.25Mリン酸塩緩衝液(pH7.2)で5mg/mlに希釈した。1.5mgのD−ALLEおよびL−ALLEを、300μlのリン酸塩緩衝液において、300μlのリン酸塩緩衝液に溶解された0.6mgのPPDに加えた。50μlの水に溶解された1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド−HCl(5mg;Sigma、St.Louis、MO)を、4℃で20分間撹拌することによって加えた。残存する活性部位を100μlの1Mグリシンでブロッキングした。カップリングされた化合物をリン酸塩緩衝化生理的食塩水(PBS)に対して透析し、PBSで3mlに調節して、4℃で保存した。マウスあたり0.3ml(150μg)の抗原を用いた免疫化を、2週間ごとに4回、腹腔内投与により行った。
【0113】
II.ヒト酸化型LDLによる皮下免疫化:ヒト酸化型LDLをヒト血漿プール(超遠心分離によりd−1.019〜1.063g/ml)から調製し、そして(1mg/mlの濃度に前もって希釈されたLDLの各1mlに1mM CuSOの15μlを加えることによって)一晩Cuで酸化した。酸化型LDLを生理的食塩水−Tris−EDTAに対して透析して、ろ過した。免疫化のために、酸化型LDLをPBSに溶解して、等容量のフロイント不完全アジュバントと混合した。免疫化を0.2ml容量における50μg抗原/マウスの単回皮下注射によって行った。最後の経口投与の1日後〜3日後に、マウスは1回の免疫化を受け、そして免疫化の7日後〜10日後に屠殺された。
【0114】
コレステロールレベルの測定:実験が完了したとき、1ml〜1.5mlの血液を心臓穿刺によって得て、1000U/mlのヘパリンを各サンプルに加え、そして総血漿コレステロールレベルを、自動化された酵素技術(Boehringer Mannheim、ドイツ)を使用して測定した。
【0115】
FPLC分析:リポタンパク質のコレステロール含有量および脂質含有量の高速タンパク質液体クロマトグラフィー分析を、セファロース6HR10/30カラム(Amersham Pharmacia Biotech,Inc.、Peapack、NJ)をFPLCシステム(Pharmacia LKB、FRAC−200、Pharmacia、Peapack、NJ)において使用して行った。300μlの最少サンプル容量(3匹のマウスからプールされた血液が1:2希釈され、ろ過され、その後、負荷された)が、200μlのサンプルループを完全に満たすために、自動化サンプラーのサンプリングバアイルにおいて必要とされた。画分10〜40が集められ、各画分は0.5mlを含有した。各画分からの250μlのサンプルを、新しく調製されたコレステロール試薬またはトリグリセリド試薬とそれぞれ混合し、37℃で5分間インキュベーションして、分光光度法により500nmにおいてアッセイした。
【0116】
アテローム性動脈硬化の評価:アテローム硬化性脂肪縞病変の定量化を、以前の記載(16)のように大動脈洞における病変サイズを計算することによって、そして大動脈における病変サイズを計算することによって行った。簡単に記載すると、生理的食塩水−Tris−EDTAで灌流した後、心臓および大動脈を動物から摘出して、周辺の脂肪を注意深く除いた。心臓の上側部分をOCT培地(10.24%(w/w)ポリビニルアルコール;4.26%(w/w)ポリエチレングリコール;85.50%(w/w)非反応性成分)に包埋し、凍結した。大動脈洞(400μm)全体を1つおきに切片(10μm厚)を分析のために採取した。大動脈洞の遠位部分が、大動脈が心臓につながる部分である3つの弁尖によって認められた。切片は、オイルレッドOによる染色の後、脂肪縞病変について評価された。切片あたりの病変面積が、数字を付けた未同定標本を計数する観測者によってグリッドに基づいてスコア化された(17)。大動脈は心臓から切開され、周りの付随的組織が除かれた。大動脈の固定および血管のズダン染色を以前の記載(21)のように行った。
【0117】
増殖アッセイ:マウスは、アテローム性動脈硬化の評価について記載されるようにALLEまたはPOVPCまたはPBSが与えられ、その後、精製ヒトLDLから上記のように調製された酸化型LDLを最後に与えた1日後に免疫化された。
【0118】
増殖は、酸化型LDLによる免疫化の8日後に下記のようにアッセイされた。脾臓またはリンパ節を、組織を100メッシュのふるいで処理することにより調製した(免疫化が行われた場合のリンパ節、および免疫化が行われなかった場合の脾臓)。赤血球を、冷却された無菌の2回蒸留水(6ml)で30秒間溶解して、2mlの3.5%NaClを加えた。不完全な培地を加え(10ml)、細胞を1,700rpmで7分間遠心分離し、そしてRPMI培地に再懸濁して、1:20希釈(10μlの細胞+190μlのトリパンブルー)において血球計で計数した。増殖は、96ウエルマイクロタイタープレートにおいて、充填細胞(2,5’×10細胞/ml)の100μlの三連サンプルにおけるDNA内への[H]チミジンの取り込みによって測定された。酸化型LDLの三連のサンプル(0〜10μg/ml、100μ/ウエル)を加えて、細胞を72時間インキュベーションし(37℃、5%COおよび約98%の湿度)、そして10μlの[H]チミジン(0.5μCi/ウエル)を加えた。さらに1日間インキュベーションした後、細胞ハーベスター(Brandel)を使用して、細胞を集めてガラス繊維フィルターに移し、そしてβカウンター(Lumitron)を使用して計数した。サイトカインのアッセイの場合、[H]チミジンを加えることなく、上清を集めて、ELISAによりアッセイした。
【0119】
別のマウス群には、ALLEまたはPBSが与えられ、免疫化を、最後の投与が行われた1日後に上記のように酸化型LDLを用いて行った。排液する鼠蹊リンパ節(免疫化の8日後に採取)が、増殖研究のために、群のそれぞれの3匹のマウスから集められた。1×10細胞/mlを、10μg/mlの酸化型LDLの存在下、マイクロタイタープレートで、0.2mlの培養培地において三連で72時間インキュベーションした。増殖は、最後の12時間のインキュベーションのときにおけるDNA内への[H]チミジンの取り込みによって測定された。結果は、刺激指数(S.I.)、すなわち、抗原の平均放射能(cpm)と、抗原の非存在下で得られる平均バックグラウンド(cpm)との比として表される。標準偏差は常に平均cpmの10%未満であった。
【0120】
統計学的分析:一元ANOVA検定を使用して、独立した値を比較した。p<0.05を統計学的に有意として採用した。
【0121】
実施例1
寛容化抗原/免疫化抗原の2,5’−アルデヒドレシチンエーテル(ALLE)およびPOVPCの合成
【化47】

【化48】

2,5’−アルデヒドレシチンエーテル(ALLE)を、Eibl H.他(Ann.Chem.709:226〜230(1967));W.J.BaumannおよびH.K.Mangold(J.Org.Chem.31:498(1996));E.BaerおよびBuchnea(JBC、230:447(1958));Halperin G他(Methods in Enzymology、129:838〜846(1986))によって報告されたレシチンのエーテルアナログの合成に関する一般的方法の改変法に従って合成した。下記のプロトコルは、図1に2D形態で示される化合物およびプロセスを示す。
【0122】
ヘキサデシル−グリセロールエーテル: L−ALLEを合成するためのD−アセトン−グリセロール(4g)またはD−ALLEを合成するためのL−アセトン−グリセロール、粉末化水酸化カリウム(約10g)および臭化ヘキサデシル(9.3g)を、ベンゼン(100ml)中で、生成した水を共沸蒸留により除きながら5時間にわたって撹拌および還流した(W.J.BaumannおよびH.K.Mangold(J.Org.Chem.29:3055、1964;F.Paltauf、Monatsh.99:1277、1968を参照のこと)。溶媒量を約20mlにまで徐々に減らし、そして冷却した混合物をエーテル(100ml)に溶解した。溶液を水(50ml)で2回洗浄して、溶媒を真空下で除いた。残渣を100mlのメタノール:水:濃塩酸(90:10:5)において10分間還流した。生成物をエーテル(200ml)で抽出し、水(50ml)および10%水酸化ナトリウム(20ml)で洗浄し、そして中性になるまで再び水で洗浄した(20mlの容量で数回)。溶媒を真空下で除き、生成物(8.8g)をヘキサンから結晶化して、7.4gの純粋な1−ヘキサデシル−グリセリルエーテル(化合物I、図1)がD−ALLE合成のために、または3−ヘキサデシル−グリセリルエーテルがL−ALLE合成のために得られた。
【0123】
5−ヘキセニルメタンスルホナート:5−ヘキサデセノール(1.9ml)および乾燥ピリジン(5ml)を、テフロン(登録商標)保護のスクリュー栓が取り付けられた培養チューブにおいて混合して、氷−塩の浴で−4℃〜−10℃に冷却した。塩化メタンスルホニル(10ml)を60分かけて1mlづつ加えて、混合物を4℃で48時間保った。氷(20g)を加えて、混合物を30分間放置し、そして生成物をエーテル(200ml)で抽出した。有機相を、水(20ml)、10%塩酸、10%重炭酸ナトリウム(20ml)、そして再び水(20ml)で洗浄した。溶媒を蒸発させ、粗生成物をシリカゲル60(100g)と混合した。14gの5−ヘキセニルメタンスルホナートが20%酢酸エチル/クロロホルムで溶出された。
【0124】
1−ヘキサデシルオキシ−3−トリチルオキシ−2−プロパノール(D−ALLE用)または3−ヘキサデシルオキシ−1−トリチルオキシ−2−プロパノール(L−ALLE用)(化合物II): 1−ヘキサデシルオキシ−グリセロール(D−ALLE用)または3−ヘキサデシルオキシ−グリセロール(L−ALLE用)(7.9g)およびトリフェニルクロロメタン(8.4g)および乾燥ピリジン(40ml)を、還流冷却器および塩化カルシウム管が取り付けられた丸底フラスコに入れた。混合物を油浴において100℃で12時間加熱した。冷却後、300mlのエーテルおよび150mlの氷冷水を加えて、反応混合物を分液ロートに移した。分離したエーテル相を、50mlの氷水で、(塩基性になるまで)1%炭酸カリウム溶液で、そして50mlの水で順次洗浄し、そして無水硫酸ナトリウムで乾燥した。一緒にした水相をもう一度抽出することにより、収率がわずかに増大した。溶媒を蒸発させ、残渣を150mlの暖かい石油エーテルで処理して、溶液を4℃で一晩冷却した。300mg〜400mgの1−ヘキサデシル−グリセリルエーテル(D−ALLE用)または3−ヘキサデシル−グリセリルエーテル(L−ALLE用)(化合物I、図1)を分離した後、ろ液を蒸発させ、そして残渣を20mlの酢酸エチルから−30℃で再結晶して、8.2gの1−ヘキサデシルオキシ−3−トリチルオキシ−2−プロパノール(D−ALLE用)または3−ヘキサデシルオキシ−1−トリチルオキシ−2−プロパノール(化合物II、図1)(L−ALLE用)が得られた。融点:49℃。
【0125】
1−ヘキサデシル−2−(5’−ヘキセニル)−グリセリルエーテル(D−ALLE用)または3−ヘキサデシル−2−(5’−ヘキセニル)−グリセリルエーテル(L−ALLE用)(化合物IV): 1−ヘキサデシルオキシ−3−トリチルオキシ−2−プロパノール(D−ALLE用)または3−ヘキサデシルオキシ−1−トリチルオキシ−2−プロパノール(L−ALLE用)(化合物II、図1)(5.5g)を、上記に記載されるように、ベンゼン溶液中で粉末化水酸化カリウムとともに5−ヘキセニル−メタンスルホナートでエーテル化した。粗生成物の1−ヘキサデシルオキシ−2−(5’−ヘキセニルオキシ)−sn−3−トリチルオキシ−プロパン(D−ALLE用)または3−ヘキサデシルオキシ−2−(5’−ヘキセニルオキシ)−sn−3−トリチルオキシ−プロパン(L−ALLE用)(化合物III、図1)を100mlのメタノール:水:濃塩酸(90:10:5)に溶解して、混合物を6時間還流した。生成物をエーテルで抽出し、水で洗浄して、溶媒を除いた。残渣を石油エーテル(100ml)に溶解して、4℃で一晩保ち、トリフェニルカルビノールの大部分を析出させた。残存する生成物をシリカゲル60(40g)でクロマトグラフィー処理した。純粋な1−ヘキサデシル−2−(5’−ヘキセニル)−グリセリルエーテル(D−ALLE用)または3−ヘキサデシル−2−(5’−ヘキセニル)−グリセリルエーテル(L−ALLE用)(化合物IV、図1)(1.8g)が50%クロロホルム/石油エーテルで溶出された。
【0126】
1−ヘキサデシル−2−(5’−ヘキセニル)−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(D−ALLE用)または3−ヘキサデシル−2−(5’−ヘキセニル)−sn−グリセロ−1−ホスホコリン(L−ALLE用)(化合物V): 手順の下記部分は、Eibl H.他(Ann.Chem.709:226〜230、1967)によって報告された方法の改変である。
【0127】
1−ヘキサデシル−2−ヘキセニル−グリセリルエーテル(D−ALLE用)または3−ヘキサデシル−2−ヘキセニル−グリセリルエーテル(L−ALLE用)(化合物IV、図1)(2g)の乾燥クロロホルム(15ml)における溶液を、氷浴において−4℃〜−10℃で15分かけて、乾燥トリエチルアミン(3ml)およびジクロロリン酸2−ブロモエチル(1.25ml)の乾燥クロロホルム(15ml)における溶液に撹拌下で滴下して加えた。混合物を室温で6時間保ち、次いで40℃で12時間保った。暗褐色の溶液を0℃に冷却して、0.1M塩化カリウム(15ml)を加えた。混合物を60分間撹拌して、メタノール(25ml)およびクロロホルム(50ml)を加え、有機相を0.1M塩酸(20ml)および水(20ml)で洗浄した。溶媒を蒸発させ、培養チューブ内の粗生成物を氷−塩の浴においてメタノール(15ml)に溶解した。冷トリメチルアミン(3ml、−76℃)を加えて、チューブをスクリュー栓で閉じた。混合物を55℃で12時間保ち、そして溶媒を窒素流で蒸発させた。残渣を2:1のクロロホルム:メタノール(25ml)で抽出し、1M炭酸カリウム(10ml)で洗浄し、そして水(10ml)で2回洗浄した。溶媒を真空下で除き、生成物をシリカゲル60(20g)でのクロマトグラフィーによって分離した。40%メタノール/クロロホルムで溶出することにより、1.5gの1−ヘキサデシル−2−(5’−ヘキセニル)−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(D−ALLE用)または3−ヘキサデシル−2−(5’−ヘキセニル)−sn−グリセロ−1−ホスホコリン(L−ALLE用)(化合物V、図1)が得られた。化合物Vの構造はNMRおよび質量分析によって確認された。
【0128】
1−ヘキサデシル−2−(5’−オキソ−ペンタニル)−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(D−ALLE用)または3−ヘキサデシル−2−(5’−オキソ−ペンタニル)−sn−グリセロ−1−ホスホコリン(L−ALLE用)(化合物VI):
化合物V(0.5g)を、ギ酸(15ml)および30%過酸化水素(3.5ml)において、室温で一晩保った。生成物を2:1のクロロホルム:メタノール(50ml)で抽出して、クロロホルム抽出物を10%炭酸ナトリウム(10ml)および水(10ml)で洗浄した。溶媒を真空下で蒸発させ、残渣(0.4g)をメタノール(10ml)および10%水酸化ナトリウム(4ml)と混合して、室温で60分間保った。80%リン酸(2ml)およびメタ過ヨウ素酸カリウム(0.8g)を加えた。混合物を室温で一晩保ち、2:1のクロロホルム:メタノール(50ml)を加えた。有機相を10%重亜硫酸ナトリウム(10ml)および水(10ml)で洗浄した。溶媒を真空下で除き、生成物(0.3g)をシリカゲル60(10g)でクロマトグラフィー処理した。化合物1−ヘキサデシル−2−(5’−オキソ−ペンタニル)−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(D−ALLE用)または3−ヘキサデシル−2−(5’−オキソ−ペンタニル)−sn−グリセロ−1−ホスホコリン(L−ALLE用)(化合物VI、図1)(249mg)を1:1のクロロホルム:メタノールで溶出した。これは0.15のR(TLC系、クロロホルム:メタノール:水=60:40:8)およびジニトロフェニルヒドラジンとの陽性反応を示した。化学構造はNMRおよび質量分析によって確認された。代わりのプロセスでは、エチレン性の基が、オゾン化およびパラジウム・炭酸カルシウムでの接触水素化によってアルデヒド基に変換された。
【0129】
ジクロロリン酸2−ブロモエチルの調製
ジクロロリン酸2−ブロモエチルは、新しく蒸留された2−ブロモエタノール(0.5M;Gilman、Org.Synth.12:117(1926)に記載されるようにして調製)を、新しく蒸留されたオキシ塩化リン(0.5M)の乾燥クロロホルムにおける氷冷溶液に1時間かけて滴下して加え、続いて5時間還流し、そして真空蒸留(沸点:0.4〜0.5mmHgで66〜68℃)することによって調製された。この試薬は、使用されるまで、小さい密封アンプルにおいて窒素下で保存された(−20℃)(Hansen W.H.他、Lipids、17(6):453〜459、1982)。
【0130】
1−ヘキサデカノイル−2−(5’−オキソ)−ペンタノイル−sn−3−グリセロホスホコリン(POVPC)
1−ヘキサデカノイル−sn−3−グリセロホスホコリン(化合物I、図2)(L−α−パルミトイル−リゾホスファチジルコリン)(3g)、5−ヘキセン酸(1.2ml)、1,3−ジシクロヘキシルカルボジミド(DCC、4.05g)およびジメチルアミノピリジン(DMP、1.6g)の混合物を、ジクロロメタン(100ml、五酸化リンから新しく蒸留されたもの)中で、室温において4日間十分に撹拌した。混合物を、直接、シリカゲル60(40g)でクロマトグラフィー処理して、生成物の1−ヘキサデカノイル−2−(5’−ヘキセノイル)−sn−3−グリセロホスホコリン(化合物II、図2)を25:75のクロロホルム:メタノールで溶出した(2.8g)。溶出物を4:15の30%過酸化水素:ギ酸に溶解して、室温で一晩保った。水(50ml)を加えて、生成物を2:1のクロロホルム:メタノール(100ml)で抽出し、有機相を再び水で洗浄した。溶媒を真空下で蒸発させ、残渣をメタノール(15ml)/10%アンモニア溶液(5ml)に溶解して、室温で6時間保った。粗1−ヘキサデカノイル−2−(5’,6’−ジヒドロキシ)−ヘキサノイル−sn−3−グリセロホスホコリン(化合物III、図2)(構造はNMRおよび質量分析によって確認された)は抽出されなかった。80%リン酸(3ml)およびメタ過ヨウ素酸ナトリウム(1g)を溶液に加えて、混合物を室温で一晩保った。
【0131】
クロロホルム:メタノール(2:1)での抽出、シリカゲル60(20g)でのクロマトグラフィー、および25:75のクロロホルム:メタノールでの溶出により、850mgの1−ヘキサデカノイル−2−(5’−オキソペンタノイル)−sn−3−グリセロホスホコリン(POVPC、化合物IV、図2)が得られ、これはTLCでのレシチンのクロマトグラフィー移動度および陽性のジニトロフェニルヒドラジン反応を有した。構造はNMRおよび質量分析によって確認された。あるいは、エチレン性の基が、オゾン化およびパラジウム・炭酸カルシウムでの接触水素化によってアルデヒド基に変換された。
【0132】
実施例II
L−ALLE+D−ALLEに対する免疫化は遺伝的傾向(アポE欠損)マウスにおけるアテローム発生を特異的に阻害する
【0133】
本発明者らは、安定なエーテル化された合成LDL成分ALLEによる免疫化は感受性マウスにおいてアテローム硬化性斑形成の程度を低下させることができることを明らかにしている。19匹のメスの5週齢〜7週齢のアポE/C57マウスを3つの群に分けた。群A(n=6)において、マウスは、上記の材料および方法の節に記載されるように、150μg/マウスのL−ALLE+D−ALLEで、2週間毎に1回(0.3ml/マウス)、8週間にわたって腹腔内投与により免疫化された。群B(n=6)において、マウスは、2週間毎に1回(0.3ml/マウス)、ツベルクリントキシンの精製タンパク質誘導体(PPD)で免疫化された。群C(n=7)において、マウスは免疫化を受けなかった。3つの群すべてのマウスは、抗oxLDL抗体、抗ALLE抗体および脂質プロフィルを測定するために、免疫化前(時間0)、そして2回目の免疫化の1週間後に採血された。抗体応答がプラトーに達しなかったマウスは、プラトーに達するまで、連続して2週間の間隔で採血された。アテローム性動脈硬化の評価が上記のように行われ、そして脾臓が4回目の免疫化の6週間後に集められた。すべての群のマウスは、実験期間中、2週間の間隔で体重が測定された。すべてのマウスには、4.5重量%の脂肪(0.02%のコレステロール)を含有する規定実験餌および水が自由に与えられた。

表I:ALLEによるアポEマウスの免疫化はアテローム発生を阻害する
【表1】

【0134】
図3に示され得るように、表Iに示される結果は、アテローム性病変の著しい減少が、PPDマウスおよび非免疫化コントロールマウスの両方と比較して、ALLE免疫化マウスの心臓組織で測定されたことを明らかにしている。体重増加、トリグリセリドもしくはコレステロールの血中レベル、または免疫抑制性サイトカインTGF−βのレベルにより測定されるような免疫能などの測定された他のパラメーターに対する有意な影響は認められない。従って、合成された酸化型LDL成分ALLE(D体およびL体のラセミ混合物)による免疫化は、アテローム硬化性病変の形成からの著しい(>50%)保護をこれらの遺伝的感受性のアポE欠損マウスにおいてもたらす。あまり劇的ではないが、斑形成の著しい減少が、PPDで免疫化されたマウスにおいて認められた。
【0135】
実施例III
L−ALLEおよびD−ALLEを用いた経口寛容性の誘導による遺伝的傾向(アポE欠損)マウスにおけるアテローム発生の阻害
斑病変成分のエステルアナログによる腹腔内免疫化は、アポE欠損マウスにおけるアテローム発生を阻害することにおいて効果的であった(図1)。従って、経口寛容性によりアテローム発生を抑制するL−ALLEおよびD−ALLEの能力を調べた。34匹のオスの8週齢〜10週齢のアポE/C57マウスを3つの群に分けた。群A(n=11)において、経口寛容性を、1日おきに5日間、PBSに懸濁されたL−ALLE+D−ALLE(5mg/ml、1mg/マウス)の胃管法による投与によって誘導した。群B(n=11)において、マウスには、1日おきに5日間、PBSに懸濁されたL−ALLE+D−ALLEが10μg/マウスで与えられた(0.2ml/マウス)。群C(n=12)のマウスには、(群Aおよび群Bの場合と同じ容量のエタノールを含有する)PBSが与えられた。マウスは、脂質プロフィルを測定するために投与前(時間0)および実験完了時(終了)に採血された。アテローム性動脈硬化が、最後の投与を行った8週間後に、上記に記載されるように心臓および大動脈および血清において評価された。マウスは、実験期間中、2週間毎に体重が測定された。すべてのマウスには、4.5重量%の脂肪(0.02%コレステロール)を含有する規定実験餌および水が自由に与えられた。

表2:L−ALLEおよびD−ALLEの経口投与によるアポE欠損マウスにおけるアテローム発生の阻害
【表2】

【0136】
図4から理解され得るように、表2に示される結果は、アテローム性硬化の進行の著しい低下が、非暴露のコントロールマウスと比較して、低い用量(10μg/マウス〜1mg/マウス)のALLEが与えられたマウスの組織において測定されたことを明らかにしている。体重増加、トリグリセリドもしくはコレステロールの血中レベル、または免疫抑制性サイトカインTGF−βのレベルにより測定されるような免疫能などの測定された他のパラメーターに対する有意な影響は認められない。従って、合成された酸化型LDL成分ALLEは経口寛容性の強力な誘導剤であり、腹腔免疫化により達成される保護と類似する、アテローム性動脈硬化からの著しい(>50%)保護をこれらの遺伝的感受性のアポE欠損マウスにおいてもたらす(図1を参照のこと)。
【0137】
実施例IV
L−ALLEおよびD−ALLEによる経口寛容性および鼻腔寛容性の誘導による遺伝的傾向(アポE欠損)マウスにおけるアテローム発生の阻害
粘膜寛容性の機構は、消化管と同様に、鼻腔粘膜において能動的である。従って、L−ALLEおよびD−ALLEに対する鼻腔暴露および経口暴露を、アポE欠損マウスにおけるアテローム発生を抑制する際のそれらの有効性について比較した。34匹のオスの7週齢〜9週齢のアポE/C57マウスを3つの群に分けた。群A(n=11)において、経口寛容性を、1日おきに5日間、PBSに懸濁されたL−ALLE+D−ALLE(5mg/ml、1mg/マウス)の胃管法による投与によって誘導した。群B(n=11)において、鼻腔寛容性を、材料および方法に記載されるように、1日おきに5日間、PBSに懸濁されたL−ALLE+D−ALLEを10μg/マウス/10μlで投与することによって誘導した。群C(n=12)のマウスには、(群Aおよび群Bの場合と同じ容量のエタノールを含有する)PBSが経口投与および鼻腔投与によって与えられた。マウスは、脂質プロフィルを測定するために投与前(時間0)および実験完了時(終了)に採血された。アテローム性動脈硬化が、最後の投与を行った8週間後に、上記に記載されるように心臓および大動脈において評価された。マウスは、実験期間中、2週間毎に体重が測定された。すべてのマウスは、4.5重量%の脂肪(0.02%コレステロール)を含有する規定実験餌および水が自由に与えられた。

表3:L−ALLEおよびD−ALLEの鼻腔投与によるアポE欠損マウスにおけるアテローム発生の阻害
【表3】

【0138】
図5から理解され得るように、表3に示される結果は、アテローム発生の効果的な阻害(経口寛容性と同じくらい効果的な阻害)が、非暴露のコントロールマウスと比較して、低い用量(10μg/マウス)のALLEに対する鼻腔暴露を受けたマウスの組織において測定されたことを明らかにしている。鼻腔寛容性の誘導は、経口寛容性と同様に、体重増加、トリグリセリドもしくはコレステロールの血中レベル、または免疫抑制性サイトカインTGF−βのレベルにより測定されるような免疫能などの測定された他のパラメーターに対する有意な影響を有していなかった。従って、合成された酸化型LDL成分ALLEは鼻腔寛容性ならびに経口寛容性の強力な誘導剤であり、経口寛容性単独の誘導により達成される保護と類似する、アテローム性動脈硬化からの著しい(約50%)保護をこれらの遺伝的感受性のアポE欠損マウスにおいてもたらす。
【0139】
実施例V
L−ALLEおよびPOVPCの経口投与による遺伝的傾向(アポE欠損)マウスにおける特異的な抗oxLDL免疫反応性の抑制
LDLの酸化されたアナログに対する粘膜暴露により誘導される寛容性が、斑関連抗原に対する特異的な免疫応答を抑制することによって媒介され得る。POVPC(1−ヘキサデカノイル−2−(5’−オキソ−ペンタノイル)−sn−グリセロホスホコリン)は非エーテルの酸化型LDLアナログであり、これは、ALLEとは異なり、肝臓における分解を受けやすい。POVPCおよびより安定なアナログALLEの両方に対する経口暴露に応答したリンパ球増殖をアポE欠損マウスにおいて測定した。8匹のオスの6週齢のアポE/C57マウスを3つの群に分けた。群A(n=2)において、経口寛容性を、0.2mlのPBSに懸濁されたL−ALLEを、1mg/マウスで、上記に記載されるように、1日おきに5日間にわたって胃管法により投与して誘導した。群B(n=3)において、経口寛容性を、0.2mlのPBSに懸濁されたPOVPCを、1mg/マウスで、上記に記載されるように、1日おきに5日間にわたって経口投与して誘導した。群C(n=3)のマウスには、1日おきに5日間、200μlのPBSが与えられた。免疫反応性は、最後の投与が行われた1日後に、材料および方法の節において上記に記載されるようにヒト酸化型LDLによる免疫化によって刺激された。免疫化した1週間後に、リンパ節を増殖アッセイのために集めた。すべてのマウスは、4.5重量%の脂肪(0.02%コレステロール)を含有する規定実験餌および水が自由に与えられた。

表4:合成された酸化型LDL(ALLEおよびPOVPC)の経口投与による前処理はアポE欠損マウスにおけるヒトoxLDLに対する免疫応答を抑制する
【表4】

【0140】
図6から理解され得るように、表4に示される結果は、ヒト酸化型LDL抗原に対する免疫反応性の著しい抑制が、アポE欠損マウスのリンパ節における増殖の阻害により測定されたことを明らかにしている。アテローム発生阻害量(1mg/マウス)のALLEまたはPOVPCに対する経口暴露を受けたマウスから得られたリンパ球は、コントロール(PBS)のマウスと比較して、ox−LDLによる免疫化の後に低下した刺激指数を示した。経口寛容性の誘導は、鼻腔寛容性の誘導と同様に、体重増加、トリグリセリドもしくはコレステロールの血中レベル、または免疫能などの測定された他のパラメーターに対する有意な影響を有していなかった(表1、表2および表3を参照のこと)。これらの結果は抗ox−LDL免疫反応性の特異的な抑制を示している。従って、合成された酸化型LDL成分L−ALLEの経口投与は、これらの遺伝的感受性のアポE欠損マウスにおける免疫原性のアテローム発生性斑成分に対する細胞性免疫応答を弱める効果的な方法である。図4はまた、あまり安定でない合成された酸化型LDL成分POVPCの経口投与による、あまり効果的な阻害ではないが、増殖の類似する阻害を明らかにしている。
【0141】
実施例VI
ALLEのD異性体およびL異性体ならびにPOVPCによる経口寛容性の誘導による遺伝的傾向(アポE欠損)マウスにおけるアテローム発生の阻害
ALLEおよびPOVPCを与えることにより、初期のアテローム発生が阻害され、そして斑関連のヒトLDL抗原に対する免疫反応性が阻害されることが示されたので、老齢マウスにおけるアテローム発生の進行を抑制する、エーテルLDLアナログのD異性体およびL異性体の両方ならびに非エーテルアナログPOVPCの能力を比較した。VLDLのトリグリセリド画分およびコレステロール画分に対するそれらの影響もまたFPLCによってモニターした。40匹のオスの24.5週齢のアポE/C57マウスを4つの群に分けた。群A(n=11)において、経口寛容性を、0.2mlのPBSに懸濁されたL−ALLEを、1mg/マウスで、上記に記載されるように、1日おきに5日間にわたって胃管法により投与して誘導した。群B(n=9)において、経口寛容性を、0.2mlのPBSに懸濁されたD−ALLEを、1mg/マウスで、上記に記載されるように、1日おきに5日間にわたって経口投与して誘導した。群C(n=10)において、経口寛容性を、0.2mlのPBSに懸濁されたPOVPCを、1mg/マウスで、上記に記載されるように、1日おきに5日間にわたって胃管法により投与して誘導した。コントロール群D(n=10)には、(群A、群B、群Cの場合と同じ容量のエタノールを含有する)PBSが経口投与された。試験される抗原の経口投与は、24.5週齢から開始して、(5回の経口投与;1日おきの)4週間毎が12週間の期間中(3セットの投与)行われた。
【0142】
マウスは、脂質プロフィルの測定、脂質分画化および血漿採取のために、投与前(時間0)、2セット目の投与の後、そして実験完了時(終了)に採血された。最初の投与の12週間後に、アテローム性動脈硬化を心臓および大動脈において上記のように評価し、そして脾臓を増殖アッセイのために集めた。体重が、実験期間中を通して2週間毎に記録された。すべてのマウスには、4.5重量%の脂肪(0.02%コレステロール)を含有する規定実験餌および水が自由に与えられた。

表5:L−ALLE、D−ALLEおよびPOVPCの経口投与によるアポE欠損マウスにおけるアテローム発生の阻害
【表5】

【0143】
図7から理解され得るように、表5に示される結果は、後期段階のアテローム発生の効果的な阻害が、PBSが与えられたコントロールのマウスと比較して、適度に低い用量(1mg/マウス)のALLEのD異性体およびL異性体ならびにPOVPCに対する長期の経口暴露の後の老齢マウスの組織で測定されたことを明らかにしている。経口寛容性の誘導は、体重増加、トリグリセリドもしくはコレステロールの総血中レベルなどの測定された他のパラメーターに対する有意な影響を有していなかった。従って、合成された酸化型LDL成分のD−ALLEおよびL−ALLEおよびPOVPCは個々に経口寛容性の強力な誘導剤であり、(24.5週齢における病変スコアと比較したとき)アテローム進行からのほぼ完全な保護をこれらの遺伝的感受性のアポE欠損マウスにおいてもたらす。驚くべきことに、FPLCにより分析されたとき、これらの酸化型LDLアナログによるアテローム発生の阻害には、VLDLコレステロールおよびトリグリセリドの著しい減少が伴うことが認められた(図8および図9)。
【0144】
本発明がその具体的な実施形態とともに記載されているが、多くの代替および改変および変化が当業者には明かであることはいうまでもないことである。従って、本発明は、添付された請求項の精神および広い範囲に含まれるすべてのそのような代替および改変および変化を包含するものとする。本明細書中に言及されているすべての刊行物および特許および特許出願は、個々の刊行物または特許または特許出願のそれぞれが、参考として本明細書中に組み込まれることが具体的かつ個々に示されていたかのようにそれと同じ程度に、参考として本明細書中にその全体が組み込まれる。さらに、本明細書中におけるいずれかの参照事項の引用または同一化は、そのような参照事項が本発明に対する先行技術として利用できるという許可として解釈してはならない。



【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】図1は、2,5’−アルデヒドレシチンエーテル、1−ヘキサデシル−2−(5’−オキソ−ペンタニル)−sn−グリセロ−3−ホスホコリンエーテル(D−ALLE)または3−ヘキサデシル−2−(5’−オキソ−ペンタニル)−sn−グリセロ−1−ホスホコリンエーテル(L−ALLE)(ALLE)の合成を示す流れ図である。
【図2】図2は、POVPCの合成を示す流れ図である。
【図3】図3は、ALLEの混合されたD異性体およびL異性体を用いた腹腔内免疫化によるアポE欠損マウスにおける初期アテローム発生の阻害を示すグラフである。
【図4】図4は、ALLEを与えることによって誘導される経口寛容性によるアポE欠損マウスにおける初期アテローム発生の阻害を示すグラフである。
【図5】図5は、L−ALLEにさらすことによって誘導される粘膜寛容性によるアポE欠損マウスにおける初期アテローム発生の阻害を示すグラフである。
【図6】図6は、合成された酸化型リン脂質(L−ALLEおよびPOVPC)に経口暴露することによって誘導されるアテローム硬化性斑抗原に対する免疫反応性の抑制を示すグラフである。
【図7】図7は、合成された酸化型リン脂質(D−ALLE、L−ALLEまたはPOVPC)によって誘導される経口寛容性によるアポE欠損マウスにおける後期アテローム発生の進行の阻害を示すグラフである。
【図8】図8は、合成された酸化型リン脂質(D−ALLE、L−ALLEまたはPOVPC)を与えることによって誘導される24.5週齢アポE欠損マウスにおけるトリグリセリド含有量の減少を示すグラフである。
【図9】図9は、合成された酸化型リン脂質(D−ALLE、L−ALLEまたはPOVPC)を与えることによって誘導される24.5週齢アポE欠損マウスにおけるコレステロール含有量の減少を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化型リン脂質を合成する方法であって、
(a)脂肪酸側鎖の少なくとも1つがモノ不飽和脂肪酸である2つの脂肪酸側鎖を含むリン脂質骨格を提供すること、および
(b)前記モノ不飽和脂肪酸の二重結合を酸化して、それにより酸化型リン脂質を得ること
を含む方法。
【請求項2】
前記リン脂質骨格は、H、ホスホコリン、ホスホエタノールアミン、ホスホセリン、ホスホカルジオリピンおよびホスホイノシトールからなる群から選択される成分をさらに含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記モノ不飽和脂肪酸はC2〜15である請求項1記載の方法。
【請求項4】
酸化型リン脂質はPOVPCであり、前記モノ不飽和脂肪酸は5−ヘキセン酸である請求項1記載の方法。
【請求項5】
アテローム性動脈硬化、心臓血管疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患、狭窄、再狭窄および/またはステント内狭窄からなる群から選択される疾患または症候群または状態を、その防止および/または処置を必要とする対象において防止および/または処置するための薬学的組成物であって、有効成分として合成酸化型LDL誘導体またはその薬学的に受容可能な塩の治療効果的な量を含み、さらに薬学的に受容可能なキャリアを含む組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−149075(P2012−149075A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−60309(P2012−60309)
【出願日】平成24年3月16日(2012.3.16)
【分割の表示】特願2008−151301(P2008−151301)の分割
【原出願日】平成13年11月22日(2001.11.22)
【出願人】(503179263)ヴァスキュラー バイオジェニックス リミテッド (12)
【Fターム(参考)】