説明

酸化安定性酸化鉄顔料、その調製方法、およびその使用

【課題】酸化安定性がホウ素含有酸化鉄顔料と少なくとも同程度に良好であるが無機物質を使用せずに市販されている通常の有機物質を使用して一工程で調製可能である酸化安定性鉄(II)含有酸化鉄顔料を提供する。
【解決手段】少なくとも1種の有機物質のコーティングを有する酸化安定性酸化鉄顔料とその調製とその使用とに関する。本発明の目的は、FeOとして計算したときに少なくとも5重量%の鉄(II)含量を有しかつ有機コーティングを有する酸化鉄顔料を用いて達成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の有機物質のコーティングを有する酸化安定性酸化鉄顔料とその調製とその使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
+2の酸化状態の鉄を含有する酸化鉄顔料は、酸化鉄(III)(Fe)と比較して熱力学的に不安定な相を構成する。空気または酸素の存在下では、たとえば、
2Fe+1/2O→3Fe
のような完全酸化または部分酸化を受ける可能性がある。そのような反応は公知であり、例としては、組成および構造がマグネタイトに対応する黒色酸化鉄顔料の場合が挙げられる。酸化の結果として、顔料は、その最も重要な品質である色の消失を起こすので、使用不能になる。酸化を受ける傾向は、微細分割度と共に、したがって、顔料の比表面積と共に増加する。
【0003】
同じことが、黒色酸化鉄と他の酸化鉄着色顔料(赤色酸化鉄および/または黄色酸化鉄)との混合物(褐色の色調を得るために作製される)にもあてはまる。
【0004】
使用不能になる原因は、着色顔料の場合、色特性の喪失であり、鉄(II)含有磁性顔料の場合、同様に酸化の結果として生じる磁気特性の喪失である。その可能性がとくに高いのは、微細分割マグネタイト顔料であり、さらには高い鉄(II)含量を有するときのマグネタイト(Fe)とマグヘマイト(γ−Fe)との混合相である。しかしながら、マグネタイトおよび/またはフェライトの混合相(たとえば、コバルトフェライトなど)ならびに磁性金属酸化物(とくに、鉄やコバルトの磁性金属酸化物)のシェルに包囲されたFeおよびγ−Feのコアで構成される磁性顔料もまた、酸化を受けやすい。技術文献では、本明細書に記載の組成物に対して、混合相という表記のほかに、「ベルトライド」という表現も見受けられる。
【0005】
(特許文献1)には、複素環式有機化合物で処理することにより微細分割フェリ磁性マグネタイト粒子の酸化感受性を減少させることが開示されている。この処理は、未処理の顔料よりもかなり優れた改良を提供するが、特定のレベルを超えることができない。モルホリン、N−(3−アミノプロピル)モルホリン、N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、1,2,4−トリアゾール、および3−アミノ−1,2,4−トリアゾールは、とくに効果的であることが判明している。使用される複素環は、顔料上に単に物理吸着されるにすぎないので、水溶性成分間に存在する。この結果、さまざまなバインダー系において不相溶性を生じる可能性がある。さらに、マグネタイト粒子は、非酸化性雰囲気下で複素環式有機化合物で処理されるので、空気の存在は、排除しなければならない。したがって、この方法は、コストがかかり複雑である。
【0006】
(特許文献2)には、大気による酸化に対する安定性を増大させるべく一般式
【0007】
【化1】

で示される環状カルボン酸ヒドラジドでコーティングされた酸化鉄顔料が開示されている。
【0008】
好ましくは、「フタル酸ヒドラジド」および「マレイン酸ヒドラジド」を使用する。しかしながら、より詳細に見ると、以上で与えられた一般式で示される化合物はすべて、単にピリダジンの3,6−ジヒドロキシ置換誘導体であるにすぎない。なぜなら、以上で与えられた一般式で示される化合物の場合、次の互変異性形が存在するからである。
【0009】
【化2】

【0010】
したがって、「フタル酸ヒドラジド」および「マレイン酸ヒドラジド」の場合、それぞれ、1,4−ジヒドロキシフタラジンおよび3,6−ジヒドロキシピリダジンという名称もまた、慣用される。したがって、(特許文献2)に開示されている環状カルボン酸ヒドラジドは、単なる窒素含有複素環である。既に上述したように、これらは、顔料上に単に物理吸着されるにすぎないので、水溶性成分間に組み込まれる。この結果、さまざまなバインダー系において不相溶性を生じる可能性がある。
【0011】
(特許文献3)には、一般式
【0012】
【化3】

〔式中、
X=OまたはNH、かつ
R=1〜30個の炭素原子を有する場合により置換されていてもよい線状もしくは分枝状のアルキル基もしくはアルキレン基または5〜12個の炭素原子を有する場合により置換されていてもよいシクロアルキル基または5〜10個の炭素原子を有する場合により置換されていてもよいアリール基または水素〕に適合する安息香酸の誘導体を用いた酸化鉄顔料のコーティングが記載されている。とくに好ましいのは、2〜18個の炭素原子を有する脂肪族アルコール成分を含有するサリチル酸エステル、たとえば、オクチルサリチレートまたはドデシルサリチレートなどである。この一般式で示される安息香酸の誘導体を使用した場合、それらは、顔料上に単に物理吸着されるにすぎないので、水溶性成分間に組み込まれる。この結果、さまざまなバインダー系において不相溶性を生じる可能性がある。
【0013】
先行技術にはまた、酸化鉄顔料の酸化安定性を向上させる目的で、多数の無機コーティングおよび有機物質と無機物質との混合物のコーティングが報告されている。
【0014】
たとえば、(特許文献4)には、ホウ素含有化合物を用いた後処理が記載されている。考えられる化合物としては、オルトホウ酸、テトラホウ酸、メタホウ酸、ガラス状三酸化二ホウ素、結晶性三酸化二ホウ素、トリメチルボレート、トリエチルボレート、ホウ酸とポリヒドロキシ化合物との錯体、およびホウ酸の塩、たとえば、NH4HO、Na10HO、CaBOH2HO、またはNaBOなどが挙げられる。同様に、ホウ素/窒素化合物またはホウ素−硫黄化合物が挙げられる。ホウ素化合物として、好ましくは、酸化ホウ素、ホウ酸、および/またはホウ酸の塩、とくに好ましくは、オルトホウ酸および/または三酸化二ホウ素を使用する。開示されている実施例では、微粉砕されたオルトホウ酸および微粉砕された三酸化二ホウ素が添加される。ホウ酸で安定化された顔料の酸化安定性は、複素環式化合物でコーティングされた顔料の酸化安定性と同等であり、それと同時に水溶性画分の減少を伴う。
【0015】
(特許文献5)には、ホウ素、アルミニウム、および/またはケイ素の酸化物または水酸化物と、さらには一般式
Ar−(COOX)
〔式中、Arは、ハロゲン、NH、OH、NHR、NR、ORまたはR(ここで、Rは、1〜30個の炭素原子を有する線状もしくは分枝状のアルキル基または6〜10個の炭素原子を有する場合により置換されていてもよいアリール基である)により場合により置換されていてもよい芳香族化合物であり、かつXは、水素、アルカリ金属、NR(ここで、R=H、アルキル、および/またはアリール)、1/2アルカリ土類金属、1/3Al、または1/3Feであり、かつnは、1〜10の整数である〕
で示される芳香族カルボン酸とでコーティングされた酸化鉄顔料が開示されている。開示されている実施例では、ホウ酸と安息香酸との混合物またはホウ酸と4−ヒドロキシ安息香酸との混合物が添加される。
【0016】
欧州連合の専門家委員会は、ホウ酸、オルトホウ酸のボレート(たとえば、NaBO)、およびテトラホウ酸のボレート(たとえば、Na10HOまたはNa5HOなど)、さらには三酸化二ホウ素を、カテゴリー2の生殖毒性(動物実験から得られる明確な知見または他の関連情報に基づいてヒトにおいて胎児毒性または妊性阻害性があるとみなされるべき物質)および「毒性」(危険有害性シンボルマークT)に分類することを提案している((非特許文献1)を参照されたい)。2005年9月8日、EU Technical Committee “Classification and Labelling”(EU技術委員会「分類および表示」)は、以上に明記した化合物について最終的な検討を行った。多数決により、専門家委員会の推奨基準が採用され、これらのクラスの物質に対して、「生殖毒性カテゴリー2」の分類が記録された。適用されるR警告は、60(妊性を損なう可能性あり)および61(胎児に有害な影響を及ぼす可能性あり)であり、さらには危険有害性シンボルマークT(「毒性」)が適用される((非特許文献2)を参照されたい)。したがって、鉄(II)含有酸化鉄顔料を安定化させるためにこれらの物質を取り扱ったりまたは製造作業時にそれらを使用したりするには、従業員および環境を保護するための対応策が必要となる。このため、以上で述べた化合物の代替品が望まれる。
【特許文献1】DE2744598A1
【特許文献2】DE4139052A1
【特許文献3】DE3726048A1
【特許文献4】DE3211327A1
【特許文献5】DE4322886A1
【非特許文献1】EU「生殖毒性分野専門家委員会作業部会」に関連する協議の要約記録(Summary Record of a consultation in connection with the EU “Commission Working Group of Specialised Experts in the Field of Reprotoxicity”)、イスプラ(Ispra)、2004年10月5〜6日−記録日:2004年11月22日
【非特許文献2】EU技術委員会「分類および表示」の会議の要約記録(Summary Record of the meeting of EU Technical Committee “Classification and Labelling”)、アロナ(Arona)、2005年9月8日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明の目的は、酸化安定性がホウ素含有酸化鉄顔料と少なくとも同程度に良好であるが無機物質を使用せずに市販されている通常の有機物質を使用して一工程で調製可能である酸化安定性鉄(II)含有酸化鉄顔料を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的は、FeOとして計算したときに少なくとも5重量%の鉄(II)含量を有しかつ有機コーティングを有する酸化鉄顔料を用いて達成された。この酸化鉄顔料は、有機コーティングが、一般式(I)
R−(COOX)
〔式中、
Rは、1〜15個の炭素原子を有する飽和もしくは不飽和の線状もしくは分枝状の脂肪族基(ただし、ハロゲンおよび/もしくはNHおよび/もしくはOHおよび/もしくはNHRおよび/もしくはNRおよび/もしくはORにより場合により1つ以上置換されていてもよい)であるか、または
4〜26個の炭素原子を有する脂環式もしくは芳香族の基(ただし、ハロゲンおよび/もしくはNHおよび/もしくはOHおよび/もしくはNHRおよび/もしくはNRおよび/もしくはORおよび/もしくはRにより場合により1つ以上置換されていてもよい)であり、
ここで、Rは、飽和もしくは不飽和の線状もしくは分枝状の場合により置換されていてもよい脂肪族基(ただし、いずれの場合も、1〜10個の炭素原子を有する)または場合により置換されていてもよい脂環式もしくは芳香族の基(ただし、いずれの場合も、6〜10個の炭素原子を有する)であり;
Xは、水素、アルカリ金属、NR(ここで、Rは、Hまたは線状もしくは分枝状の脂肪族、脂環式、もしくは芳香族の基である)、または1/2アルカリ土類金属、1/3Al、または1/3Feであり、かつ
nは、1〜10の整数である〕
で示される1種以上の化合物で構成され、酸化鉄顔料が、コーティングされていない酸化鉄顔料と比較して酸化安定性試験において≧10℃の酸化安定性を有することを特徴とする。酸化安定性は、実施例に開示されている酸化安定性試験に従って測定される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
酸化鉄顔料は、コーティングされていない酸化鉄顔料と比較して好ましくは≧20℃の酸化安定性を有する。
【0020】
「脂肪族」とは、本発明との関連では、炭素原子が鎖中に配置された化合物を意味する(炭素原子が環を形成する同素環式化合物とは対照的である)。したがって、脂肪族化合物は、非環式化合物と同等なものとみなされ、非分枝状もしくは分枝状の鎖を有するアルカン、アルキン、またはアルケンは、その部分群をなす。
【0021】
「脂環式」とは、本発明との関連では、炭素原子が環中に配置された化合物を意味する(「脂肪族」および「環状」という2つの用語を一緒に記述したものと同一であることからすでに示唆されるとおりである)。したがって、脂環式とは、環状脂肪族の同義語でもある。結果的に、脂環式化合物は、同素環式化合物群に属し、この場合には、シクロアルカン、シクロアルケン、およびシクロアルキンを包含する。芳香族化合物および複素環式化合物、さらには複素環式化合物の飽和化合物例は、本発明の意味の範囲内では、脂環式であるとはみなされない。
【0022】
「芳香族」とは、本発明との関連では、単に炭素環式芳香族化合物を意味し、環員は、炭素原子のみで構成される。それらは、とくに、ベンゼン、さらには2個以上の縮合ベンゼン環を含有する化合物、たとえば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレンなどを包含する。炭素原子が排他的でなく1個もしくは複数個の環中に配置された複素環は、本発明の意味の範囲内では、芳香族であるとはみなされない。
【0023】
本発明の意味の範囲内では、脂環式化合物および芳香族化合物は、「炭素環」という一般的見出し語の下にまとめることが可能である。なぜなら、いずれの場合も、環員が炭素原子のみで構成されているからである。
【0024】
有機コーティングは、好ましくは、Rが1〜15個の炭素原子を有する(好ましくは1〜8個の炭素原子を有する)飽和の線状もしくは分枝状の脂肪族基であるときの一般式(I)で示される化合物で構成される。
【0025】
有機コーティングは、好ましくは、Rがベンゼン、ナフタレン、またはアントラセンに由来する6〜14個の炭素原子を有する芳香族基であるときの一般式(I)で示される化合物で構成される。
【0026】
有機コーティングは、好ましくは、Xが水素、NR(ここで、Rは、Hまたは線状もしくは分枝状の脂肪族、脂環式、もしくは芳香族の基である)、またはアルカリ金属(好ましくは、ナトリウムもしくはカリウム)であるときの一般式(I)で示される化合物で構成される。
【0027】
有機コーティングは、好ましくは、nが整数≦5、好ましくは≦3であるときの一般式(I)で示される化合物で構成される。したがって、一般式(I)で示される有機化合物は、1個以上のカルボキシレート基またはカルボン酸基を有する。この1個もしくは複数個の基は、アンカー機能基として作用しうるものであり、結果的に、一般式(I)で示される有機化合物は、酸化鉄顔料の表面に対してイオン結合を形成することも可能である。
【0028】
一般式(I)で示される有機化合物は、好ましくは、酸無水物の形態で使用される。酸無水物は、顔料表面上に存在し続ける残留湿分により加水分解を起こして、対応するカルボン酸を与えうる。
【0029】
一般式(I)で示される有機化合物は、好ましくは、さらに水をも含み、その水和物の形態で使用される。
【0030】
使用される有機化合物は、好ましくは、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、アセテート、および/または無水フタル酸である。
【0031】
一般式(I)で示される有機化合物は、コーティングされた顔料中に、好ましくは0.1〜10重量%、好ましくは0.2〜3重量%の量で存在する。
【0032】
FeOとして計算したときに17〜28重量%の鉄(II)含量を有しかつBET窒素一点吸着法(DIN66131/ISO9277)により測定したときに23m/g未満の比表面積を有する典型的な黒色酸化鉄顔料の場合、一般式(I)で示される有機化合物は、コーティングされた顔料中に、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.2〜5重量%、とくに好ましくは0.2〜3重量%の量で存在する。
【0033】
磁気信号記憶に使用される顔料は、黒色酸化鉄顔料よりも微細に分割されるので(窒素一点吸着法により測定されるBET表面積は、23m/g超である)、所与の鉄(II)含量では、40m/gをはるかに超える可能性のあるそれらの比表面積に基づいて、より多い添加量の一般式(I)で示される有機化合物を必要とする。
【0034】
磁性金属酸化物で包まれた以上に記載の磁性酸化鉄化合物の場合のように鉄(II)含量がより低い場合、それに応じて添加量を減少させることが可能である。そのほか、所望の酸化安定性を達成するために個々の場合に必要とされる処理量は、当業者であれば、開示された酸化安定性試験に従って何回かの試行実験を行うことにより、容易に決定可能である。
【0035】
酸化鉄顔料は、好ましくは<5重量%、好ましくは<3.5重量%の残留湿分含量を有する。これは、適切であれば、後続の乾燥により達成可能である。
【0036】
本発明に係る熱安定性酸化鉄顔料は、粉末または顆粒のいずれかの形態をとる。「顆粒」とは、本発明との関連では、平均粒度が出発原料と比較して処理工程により増大されている任意の材料を意味する。したがって、「顆粒」は、スプレー顆粒やコンパクティング顆粒だけでなく、たとえば、湿潤処理または加湿処理の生成物(後続工程で細粒化に付される)および乾燥処理工程または実質的乾燥処理工程の生成物(たとえば、乾燥製造された顆粒、ブリケットなど)をも包含する。顆粒の場合、粒子の少なくとも85%は、60μm〜3000μm、好ましくは80μm〜1500μmの範囲内のサイズを有する。
【0037】
本発明はまた、FeOとして計算したときに少なくとも5重量%のFe(II)含量を有する酸化鉄顔料を一般式(I)で示される少なくとも1種の化合物と混合し、場合により、混合物を乾燥および/または粉砕し、それにより得られる酸化鉄顔料が、酸化安定性試験においてコーティングされていない酸化鉄顔料と比較して≧10℃の酸化安定性を有することを特徴とする酸化鉄顔料の調製方法に関する。本発明に係る酸化鉄顔料は、乾燥顔料から出発して、さもなければ湿潤相(懸濁液またはペースト)の状態から出発して、調製することが可能である。好ましくは、FeOとして計算したときに少なくとも5重量%のFe(II)含量を有する酸化鉄顔料を一般式(I)で示される少なくとも1種の化合物と懸濁液またはペーストの状態で混合し、混合物を乾燥させ、場合により粉砕し、それにより得られる酸化鉄顔料は、酸化安定性試験においてコーティングされていない酸化鉄顔料と比較して≧10℃の酸化安定性を有する。
【0038】
顔料懸濁液は、好ましくは、顔料製造作業から得られる懸濁液またはペーストである。
【0039】
顔料懸濁液は、好ましくは、アグロメレート粒子の再生分散体である。
【0040】
酸化鉄顔料は、好ましくは、最終的に、非酸化性または弱酸化性の雰囲気中で200℃〜800℃の温度処理に付される。
【0041】
FeOとして計算したときに少なくとも5重量%の鉄(II)含量を有する安定化処理に付される酸化鉄顔料は、着色顔料、たとえば、黒色酸化鉄および/または褐色酸化鉄であってもよいし、他の選択肢として、磁性顔料、たとえば、マグネタイトまたはマグネタイトとマグヘマイトおよび/もしくはフェライトとの混合相、または磁性金属酸化物で包まれかつマグネタイトとマグヘマイトとの間の酸化状態を有する酸化鉄および/もしくはマグネタイトであってもよい。
【0042】
鉄(II)含有酸化鉄顔料の調製については、文献に記載されている。それらは、多くの方法により取得可能である。工業規模では、黒色酸化鉄顔料は、主に2つの方法により製造される(ウルマン工業化学百科事典(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry),第5版,第A20巻,297頁,ファウツェーハー・フェアラークスゲゼルシャフトmbH(VCH Verlagsgesellschaft mbH)刊,ヴァインハイム(Weinheim),1992年)。すなわち、所望のFe(III)/Fe(II)比に達するまで約90℃の空気を導入しながら中性点の近傍でアルカリにより鉄(II)塩溶液を沈澱させる沈殿法およびニトロベンゼンを金属鉄によりアニリンに還元し強着色黒色酸化鉄顔料が生成するように制御可能であるラウクス(Laux)法である。
【0043】
製造方法および使用される原材料の純度にもよるが、黒色酸化鉄顔料は、たとえばSiOまたはAlのような第2の成分を一般的には5重量%までのさまざまな量で含有しうる。また、通常、Fe(III)/Fe(II)比は、理論値2を超える。
【0044】
鉄(II)を含有する褐色酸化鉄顔料は、そのほぼ大分が黄色酸化鉄および/または赤色酸化鉄を黒色酸化鉄と混合することにより製造される(ウルマン工業化学百科事典(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry);上記参照)。
【0045】
鉄(II)含有磁性酸化鉄顔料(ウルマン工業化学百科事典(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry),第5版,第A20巻,330頁,ファウツェーハー・フェアラークスゲゼルシャフトmbH(VCH Verlagsgesellschaft mbH)刊,ヴァインハイム(Weinheim),1992年)を製造するための最も一般的な出発点は、α−FeOOHまたはγ−FeOOHであり、これらは、乾燥され、脱水され、そして350℃〜600℃で水素で還元され、Feを生成する。マグネタイトとマグヘマイトとの混合相は、温和な条件下で磁性顔料を部分酸化させることにより取得可能である。マグネタイトとマグヘマイトおよび/またはフェライトとの混合相顔料(「ベルトライド」)は、典型的には、FeOOH前駆体の製造時、Zn、Mn、Co、Ni、Ca、Mg、Ba、Cu、またはCdのようなフェライト形成金属を酸化物もしくは水酸化物として共沈させることにより、またはそれらを製造済みのFeOOH顔料に適用することにより、かつ顔料の変換を行うことにより、製造される。磁性金属酸化物、とくに、鉄およびコバルトの磁性金属酸化物のコーティングを、FeのコアまたはFeとγ−Feとの間の酸化状態を有する酸化鉄のコアに適用することにより製造される特定の磁性顔料もまた、保護可能である。
【0046】
本発明に係る第1の方法によれば、従来の方法で調製された鉄(II)含有酸化鉄顔料が、一般式(I)で示される少なくとも1種の有機化合物と混合される。有機化合物は、有利には、あらかじめ微細分割された状態にされる。他の選択肢として、それらは、水性媒体中および/または有機媒体中の溶液または懸濁液の形態で混合可能である。混合は、典型的な工業装置、たとえば、ニューマチックミキサー、パドルミキサー、スクリューミキサー、ドラムミキサー、またはコーンミキサーなどを用いて、実施可能である。混合は、室温で、さもなければ室温よりも高い温度で、行いうる。混合は、一般的には、空気の存在下で行われるが、比較的高い温度を用いる場合、窒素などのような不活性ガスを使用することが利点なこともある。ごく少量の一般式(I)で示される1種以上の有機化合物を多量の顔料と混合する場合、予備混合物を作製することが利点なこともある。次に、所望により、得られた混合物を粉砕する。さまざまな構成の粉砕ユニット、たとえば、ロールミル、エッジランナーミル、ペンジュラムミル、ハンマーミル、ピンディスクミル、ターボミル、ボールミル、またはジェットミルが、この目的に好適である。ミリングは、室温でまたは室温よりも高い温度で、適切であれば、窒素などのような不活性ガス下で、行いうる。適切であれば、続いて、不活性雰囲気またはごく少量の酸素を含有する雰囲気で800℃までの温度で熱処理を行う。
【0047】
本発明に係る第2の方法によれば、慣例に従って調製された鉄(II)含有酸化鉄顔料が、最初に、一般式(I)で示される少なくとも1種の有機化合物と懸濁液またはペーストの状態で混合される。懸濁液の場合、一般式(I)で示される有機化合物を添加混合することが容易であるので、湿潤相で有機化合物を添加することが有利である。使用される懸濁液媒体は、一般的には水であるが、原理的には、水性媒体/有機媒体または完全有機媒体を使用することも可能である。顔料の懸濁液またはペーストは、好ましくは、顔料製造作業から得られる懸濁液である。一般式(I)で示される有機化合物は、顔料の製造前、製造中、または製造後の任意の所望の時点で懸濁液に添加可能である。他の選択肢として、顔料懸濁液は、一般式(I)で示される少なくとも1種の有機化合物で処理するための顔料懸濁液を顔料粉末から出発して制御下で調製すべく、すでにアグロメレーションされた粒子の再生分散体であってもよい。処理は、いずれの場合も、室温でまたはより高い温度で、適切であれば、不活性ガス雰囲気下で行いうる。処理時間は、好ましくは、1分間〜数時間である。処理された顔料は、さらなる処理工程で乾燥される。当業者であれば、乾燥工程用として利用可能な一連のアセンブリーを備えている。現時点では、ダクト乾燥機、ベルト乾燥機、プラットフォーム乾燥機、シリンダー乾燥機、ドラム乾燥機、チューブ乾燥機、パドル乾燥機、さもなければ不連続チャンバートレー乾燥機が挙げられるにすぎない。乾燥は、好ましくは、スプレー乾燥または流動床乾燥により達成される。好ましくは、スプレーディスクまたはスプレーノズルを用いて並流法または向流法で操作されるスプレー乾燥機(アトマイジング乾燥機)を使用する。選択される乾燥アセンブリーにもよるが、後続の粉砕工程を含めることが必要になることもある。第1の方法のときと同様に、コーティングされ乾燥された顔料は、次に、粉砕され、場合により、続いて、不活性雰囲気またはごく少量の酸素を含有する雰囲気で800℃までの温度で熱処理される。
【0048】
本発明に係る製造方法の1つの利点は、本発明に係る酸化安定性酸化鉄顔料を調製する場合、後処理物質の沈殿、さらに言えば後処理のための多段階合成法が不必要なことである。
【0049】
さまざまな酸化鉄着色顔料の混合物である酸化安定性鉄(II)含有酸化鉄顔料は、有利には、コストを考慮して、本発明に係る2つの方法の一方を用いて二価鉄を含有する混合物成分だけを酸化から保護し、その時点でのみ顔料を他の酸化鉄顔料と混合するようにして製造される。しかしながら、もちろん、鉄(II)含有酸化鉄着色顔料と鉄(II)非含有酸化鉄着色顔料との混合物全体を本発明に係る2つの方法の一方に付すことも可能である。
【0050】
本発明に係る酸化安定性酸化鉄顔料が粉末形態をとるか顆粒形態をとるかは、本発明にとってそれほど必要ではない。酸化安定性酸化鉄顔料を顆粒形態で製造する場合、慣用技術がこの目的に好適である。先行技術によれば、顔料顆粒に好適な製造方法としては、並流法もしくは向流法によるスプレー顆粒化(ディスクもしくはノズルによるスプレー乾燥)、サイズ増大顆粒化(ミキサー、流動床グラニュレーター、プレートもしくはドラム)、コンパクティング法、または押出法が挙げられる。当然ながら、これらの顆粒化方法の組合せも考えられる。適切な顆粒化方法の選択は、すでに乾燥が行われている顔料に一般式(I)で示される有機化合物が実際に湿潤相(懸濁液またはペースト)で添加されたかどうかなどの因子に依存する。前者の場合、スプレー乾燥法または押出法が適切であり、後者の場合、コンパクティング法が適切である。酸化安定性酸化鉄顔料は、好ましくは乾燥状態で、場合により粉砕状態で、同様に、後続の顆粒化操作に付される。
【0051】
本発明はまた、ライム結合建築材料および/またはセメント結合建築材料を着色するための、プラスチック、ワニス、エマルジョンペイントを着色するための、および磁気記録媒体およびトナーを製造するための、酸化鉄顔料の使用に関する。
【0052】
ライム結合建築材料および/またはセメント結合建築材料は、好ましくは、コンクリート、セメントモルタル、プラスター、および/またはケイ灰レンガである。酸化鉄顔料は、セメントを基準にして0.1〜10重量%の量で建築材料と混合される。他の選択肢として、最初に、それらを水中に懸濁させ、次に、建築材料と混合することも可能である。
【0053】
酸化鉄顔料は、任意の種類の磁気記録材料、たとえば、オーディオテープおよびビデオテープ、計装テープ、コンピューターテープ、磁気カード、可撓性磁性ディスク、剛性磁性ディスク、またはドラムメモリーなどの製造に有利に使用可能である。
【0054】
本発明の主題は、個々の請求項の主題だけからでなく個々の請求項の相互の組合せからも明らかである。同じことが、本明細書に開示されているすべてのパラメータおよびそれらの任意の所望の組合せにもあてはまる。
【0055】
以下の実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、それらは、なんら本発明に限定を加えようとするものではない。
[実施例]
【0056】
I.使用した測定方法の説明
I.1 酸化安定性試験
酸化安定性試験は、酸化自己加熱を起こしやすい物質に対する試験法に基づく方法により行った。この方法については、危険物輸送に関する国連勧告「試験および判定基準の手引き」(“Recommendations on the Transport of Dangerous Goods − Manual of Tests and Criteria” of the United Nations)、連邦材料試験研究所のドイツ語翻訳の第三改訂版(the third, revised edition of the German translation of the Bundesanstalt fuer Materialforschung und −pruefung)、第III部、第33.3.1.6.1〜33.3.1.6.3節、338頁に記載されている。
【0057】
オーブン:±2℃の精度で内部設定値温度を保持できるように装備された9L超の内部容積を有する熱風循環式オーブン。
【0058】
サンプルホルダー:350メッシュのメッシュサイズを有するステンレス鋼ワイヤーメッシュから作製され、開放上端面を有する10cmの稜の長さの立方形サンプルホルダー。このサンプルホルダーは、8メッシュのメッシュサイズを有するステンレス鋼ワイヤーから作製された10.8cmの稜の長さの立方形保護ホルダー中に挿入しなければならない。上端隅角部に、サンプルホルダーは、自由にかつ保護ホルダーの中央に垂下されるように小さい取付けロッドを有する。保護ホルダーは、乾燥チャンバーの中央に配置できるように脚上に配設される。
【0059】
温度測定:1.5mmの直径を有するジャケット付きNiCrNi熱電対により、サンプル中の温度検出を行う。この熱電対は、サンプルの中央に配置されるようにする。オーブンチャンバー内に突出しサンプルホルダーとオーブン壁との間に配置された白金抵抗温度計PT100を介して、オーブンの温度検出および温度調節を行う。2つの温度は、連続的に測定されるようにする。
【0060】
サンプル調製:最初に、粉末状もしくは顆粒状のサンプルをサンプルホルダー内の中間点まで導入するようにし、約3cmの高さから徐々にホルダーを3回圧縮するようにする。次に、サンプルホルダーを粉末状もしくは顆粒状のサンプルで縁まで満たし、再び、約3cmの高さから徐々にホルダーを3回圧縮する。サンプルが沈下した場合、縁まで満たすようにする。サンプルホルダーを保護ホルダーの中央に挿入するようにし、保護ホルダーをオーブンの中央に配置するようにする。
【0061】
試験条件:最初に、オーブン温度を120℃の設定値温度に設定し、少なくとも20時間保持する。サンプルの内部温度を記録するようにする。試験中にサンプル内の温度がオーブン温度よりも60℃高くなった場合、酸化の結果としてサンプル内で自己加熱が起こったことになるので、酸化安定性試験の結果は、陽性である。そのような場合、オーブン設定値温度を10℃低くして、新たに調製されたサンプルで再び酸化安定性試験を行う。試験が陰性の結果を示すまで、すなわち、試験中にサンプルの内部の温度がオーブン温度よりも60℃高くならなくなるまで、結果的に、60℃超の温度上昇を伴う酸化に起因するサンプルの自己加熱が起こらなくなるまで、この手順を反復するようにする。120℃のオーブン設定値温度でさえも試験が陰性の結果を示す場合、オーブン設定値温度を10℃高くして、新たに調製された試験片で再び酸化安定性試験を行う。酸化安定性試験が陽性の結果を示すまで、この処理を反復するようにする。酸化安定性試験が継続して陰性の結果を示すとき(すなわち、サンプルが酸化に対して安定であるとき)の最大到達オーブン設定値温度を、試験対象の顔料の酸化安定性/熱安定性とみなす。この温度は、それぞれの実施例について表1〜3に報告されている。
【0062】
I.2 建築材料着色試験
白色セメントを用いて作製された以下のデータを有するプリズムを比色測定することにより、建築材料の色値に関する試験をセメントモルタルで行った。
【0063】
セメント/ケイ砂比 1:4、水/セメント値 0.35、セメントを基準にした顔料着色レベル 1.2%、使用したミキサー ベルリンのRKトニ・テクニック(RK Toni Technik,Berlin)製、5Lミキシングボウル付き、モデル1551、速度140rpm、バッチ:1200gの0.1〜1mmケイ砂、600gの1〜2mmケイ砂、200gの微粉砕石灰石(90μm篩上の残留物<5%)、500gの白色セメント。ケイ砂画分および微粉砕石灰石を混合容器中に一緒に入れる。次に、顔料を添加し、混合物を10秒間予備混合する(ミキサー設定1:緩速)。次に、混合物の中央に導入されるように、この混合物に水を添加する。水が混合物中に滲み込んだ後、セメントを添加し、混合を行う(ミキサー設定1:緩速)。100秒間の混合時間の後、サンプル(600g)を採取し、それを用いて加圧下(加圧力114kN、2秒間)で試験試料(10×10×2.5cm)を作製する。ミノルタ・クロマメーター310(Minolta Chromameter 310)を用いて1ブロックあたり4つの測定点で比色データを測定する(測定ジオメトリーd/8°、C光源/2°(光沢を含む))。得られた平均値を参照試料(表1のサンプルに対する実施例1のコーティングされていない顔料または表3のサンプルに対する実施例9のコーティングされていない顔料)の値と比較する。全色差ΔEabおよび相対色強度(参照サンプル=100%)(DIN5033、DIN6174)の評価を行う。この場合、全色差ΔEabは、
・ ΔEab=[(ΔL+(Δa+(Δb1/2
に従って計算される。適用される略号(CIELAB系から公知である)は、以下のとおりである:
・ aは、赤色−緑色軸に対応し、Δa=a(サンプル)−a(参照)である。
・ bは、黄色−青色軸に対応し、Δb=b(サンプル)−b(参照)である。
・ Lは、輝度に対応し、ΔL=L(サンプル)−L(参照)である。
【0064】
I.3 相対色強度
%単位の相対色強度については、次式を適用する:
【0065】
【数1】

式中、r=0.04かつr=0.6かつYは三刺激値(輝度)である。
【0066】
DIN 53 234に準拠して計算を行う。
【0067】
I.4 残留湿分含量
(コーティングされた)顔料を恒量になるまで徐々に乾燥させることにより、残留湿分含量を測定した。
【0068】
I.5 圧縮強度
DIN EN 196−1に準拠した方法により、圧縮強度を測定した。この試験では、非顔料着色サンプルと比較して顔料着色セメントモルタルの圧縮強度を試験して、偏差は、DIN EN 12878「ライム結合建築材料および/またはセメント結合建築材料を着色するための顔料」に規定される値(鉄筋コンクリートでは多くとも−8%)を超えてはならない。
【0069】
I.6 固化挙動
DIN EN 196−3に準拠した方法により、固化挙動を測定した。顔料着色を用いたときと用いないときのセメントスラリーの固化の開始および固化の終了を互いに比較して、差異は、DIN EN 12878に規定される値を超えないことが要求される。
【0070】
II.実施例1(コーティング物質を有していない比較例)
12.0m/gのBETおよび23.4%のFeO含量を有する黒色酸化鉄顔料をラウクス(Laux)法により作製し、アニリンを分離除去する処理を施し、濾過し、塩を洗浄除去し、スプレーディスクを備えたスプレー乾燥機で乾燥させ、そして1mmスクリーンインサートを備えたバウエルマイスター(Bauermeister)ミルで粉砕した。得られた顔料を酸化安定性試験およびさらなる試験に付した。結果を表1にまとめる。
【0071】
III.実施例2(先行技術に従って作製された比較例)
実施例1で得られた乾燥黒色酸化鉄顔料の5kg部分を微粉砕オルトホウ酸75g(1.5重量%に対応する)と(実施例2a)または安息香酸とオルトホウ酸との1:1粉末混合物75g(1.5重量%に対応する)と(実施例2b)ミキサーで混ぜ合わせ、15分間混合し、次に、1mmスクリーンインサートを備えたバウエルマイスター(Bauermeister)ミルで粉砕した。いずれの場合も得られたコーティング付き顔料を酸化安定性試験およびさらなる試験に付した。結果を表1にまとめる。
【0072】
IV.実施例3
実施例1で得られた乾燥黒色酸化鉄顔料の5kg部分を微粉砕された一般式(I)で示されるさまざまな有機化合物75g(1.5重量%に対応する)とミキサーで混ぜ合わせ、15分間混合し、次に、1mmスクリーンインサートを備えたバウエルマイスター(Bauermeister)ミルで粉砕した。いずれの場合も得られたコーティング付き顔料を酸化安定性試験およびさらなる試験に付した。結果を表1にまとめる。
【0073】
V.実施例4(先行技術に従って作製された比較例)
実施例1で得られた乾燥黒色酸化鉄顔料の5kg部分を微粉砕オルトホウ酸125g(2.5重量%に対応する)と(実施例4a)または安息香酸とオルトホウ酸との1:1粉末混合物125g(2.5重量%に対応する)と(実施例4b)ミキサーで混ぜ合わせ、15分間混合し、次に、1mmスクリーンインサートを備えたバウエルマイスター(Bauermeister)ミルで粉砕した。いずれの場合も得られたコーティング付き顔料を酸化安定性試験およびさらなる試験に付した。結果を表1にまとめる。
【0074】
VI.実施例5
実施例1で得られた乾燥黒色酸化鉄顔料の5kg部分を微粉砕された一般式(I)で示されるさまざまな有機化合物125g(2.5重量%に対応する)とミキサーで混ぜ合わせ、15分間混合し、次に、1mmスクリーンインサートを備えたバウエルマイスター(Bauermeister)ミルで粉砕した。いずれの場合も得られたコーティング付き顔料を酸化安定性試験およびさらなる試験に付した。結果を表1にまとめる。
【0075】
VII.実施例6(コーティング物質を有していない比較例)
15.5m/gのBETおよび17.5%のFeO含量を有するラウクス(Laux)法により作製される黒色酸化鉄顔料を合成し、アニリンを分離除去する処理を施し、次に、濾過し、そして塩を洗浄除去した。濾過ケーキを水でスラリー化して50%の固形分含量を有するペーストを与えた。いかなる添加剤も加えることなく10kgのこの黒色酸化鉄ペーストを乾燥させ、乾燥キャビネット中で3mmのメッシュサイズのシュレッダーで予備細粒化し、最後に、1mmスクリーンインサートを備えたバウエルマイスター(Bauermeister)ミルで粉砕した。得られた顔料を酸化安定性試験に付した。結果を表2にまとめる。
【0076】
VIII.実施例7(先行技術に従って作製された比較例)
10kgの実施例6で得られたスラリー化黒色酸化鉄ペーストを安息香酸とオルトホウ酸との1:1混合物75g(1.5重量%に対応する)と混ぜ合わせ、15分間攪拌し、乾燥キャビネット中で乾燥させ、3mmのメッシュサイズのシュレッダーで予備細粒化し、最後に、1mmスクリーンインサートを備えたバウエルマイスター(Bauermeister)ミルで粉砕した。得られた顔料を酸化安定性試験に付した。結果を表2にまとめる。
【0077】
IX.実施例8
実施例6で得られたスラリー化黒色酸化鉄ペーストの10kg部分を一般式(I)で示されるさまざまな有機化合物75g(1.5重量%に対応する)と混ぜ合わせ、15分間攪拌し、乾燥キャビネット中で乾燥させ、3mmのメッシュサイズのシュレッダーで予備細粒化し、最後に、1mmスクリーンインサートを備えたバウエルマイスター(Bauermeister)ミルで粉砕した。いずれの場合も得られた顔料を酸化安定性試験に付した。結果を表2にまとめる。
【0078】
X.実施例9(コーティング物質を有していない比較例)
ラウクス(Laux)法により作製される黒色酸化鉄顔料を合成し、アニリンを分離除去する処理を施し、次に、濾過し、そして塩を洗浄除去した。濾過ケーキは、66.7重量%の固形分含量を有していた。いかなる添加剤も加えることなく乾燥させた。得られた固体を3mmのメッシュサイズのシュレッダーで予備細粒化し、次に、1mmスクリーンインサートを備えたバウエルマイスター(Bauermeister)ミルで粉砕した。得られた顔料は、約21m/gのBETおよび21.1%のFeO含量を有していた。それを酸化安定性試験および建築材料着色試験に付した。結果を表3にまとめる。
【0079】
XI.実施例10
いずれの場合も、実施例9で得られた66.7重量%の固形分含量の洗浄済み黒色酸化鉄濾過ケーキ7.5kgを2.5kgの水でスラリー化して、50重量%の固形分含量を有するペーストを与えた。ペーストを一般式(I)で示されるさまざまな有機化合物125g(2.5重量%に対応する)と混ぜ合わせ、15分間攪拌し、乾燥させ、3mmのメッシュサイズのシュレッダーで予備細粒化し、次に、1mmスクリーンインサートを備えたバウエルマイスター(Bauermeister)ミルで粉砕した。いずれの場合も得られた顔料を酸化安定性試験および建築材料着色試験に付した。結果を表3にまとめる。
【0080】
XII.実施例11(コーティング物質を有していない比較例)
硫酸鉄(II)から沈殿法により作製される黒色酸化鉄顔料を合成し、濾過し、そして塩を洗浄除去した。濾過ケーキをスラリー化して22.8重量%の固形分含量を有する懸濁液を与えた。懸濁液を分割し、その1つをいかなる添加剤も加えることなく乾燥させた。得られた固体を3mmのメッシュサイズのシュレッダーで予備細粒化し、次に、1mmスクリーンインサートを備えたバウエルマイスター(Bauermeister)ミルで粉砕した。得られた顔料は、18.2m/gのBETおよび20.6%のFeO含量を有していた。それを酸化安定性試験に付したところ、80℃の酸化安定性を有することが判明した。
【0081】
XIII.実施例12
22.8重量%の固形分含量を有する実施例11に記載の懸濁液19.3kgをイソフタル酸110g(2.5重量%に対応する)と混ぜ合わせ、15分間攪拌し、そして乾燥させた。得られた固体を3mmのメッシュサイズのシュレッダーで予備細粒化し、次に、1mmスクリーンインサートを備えたバウエルマイスター(Bauermeister)ミルで粉砕した。得られたコーティング付き顔料は、酸化安定性試験において100℃の酸化安定性を与えた。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeOとして計算したときに少なくとも5重量%のFe(II)含量を有しかつ有機コーティングを有する酸化安定性酸化鉄顔料であって、
該有機コーティングが、一般式(I)
R−(COOX)
〔式中、
Rは、1〜15個の炭素原子を有する飽和もしくは不飽和の線状もしくは分枝状の脂肪族基(ただし、ハロゲンおよび/もしくはNHおよび/もしくはOHおよび/もしくはNHRおよび/もしくはNRおよび/もしくはORにより場合により1つ以上置換されていてもよい)であるか、または
4〜26個の炭素原子を有する脂環式もしくは芳香族の基(ただし、ハロゲンおよび/もしくはNHおよび/もしくはOHおよび/もしくはNHRおよび/もしくはNRおよび/もしくはORおよび/もしくはRにより場合により1つ以上置換されていてもよい)であり、
ここで、Rは、飽和もしくは不飽和の線状もしくは分枝状の場合により置換されていてもよい脂肪族基(ただし、いずれの場合も、1〜10個の炭素原子を有する)または場合により置換されていてもよい脂環式もしくは芳香族の基(ただし、いずれの場合も、6〜10個の炭素原子を有する)であり;
Xは、水素、アルカリ金属、NR(ここで、Rは、Hまたは線状もしくは分枝状の脂肪族、脂環式、もしくは芳香族の基である)、または1/2アルカリ土類金属、1/3Al、または1/3Feであり、かつ
nは、1〜10の整数である〕
で示される1種以上の化合物で構成され、該酸化鉄顔料が、コーティングされていない酸化鉄顔料と比較して酸化安定性試験において≧10℃の酸化安定性を有することを特徴とする酸化鉄顔料。
【請求項2】
前記酸化鉄顔料が、コーティングされていない酸化鉄顔料と比較して≧20℃の酸化安定性を有することを特徴とする、請求項1に記載の酸化鉄顔料。
【請求項3】
前記有機コーティングが、前記一般式(I)で示される化合物で構成され、前記一般式(I)中、Rが、1〜15個の炭素原子を有する(特定的には、1〜8個の炭素原子を有する)飽和の線状もしくは分枝状の脂肪族基であることを特徴とする、請求項1または2に記載の酸化鉄顔料。
【請求項4】
前記有機コーティングが、前記一般式(I)で示される化合物で構成され、前記一般式(I)中、Rが、ベンゼン、ナフタレン、またはアントラセンに由来する6〜14個の炭素原子を有する芳香族基であることを特徴とする、請求項1または2に記載の酸化鉄顔料。
【請求項5】
前記有機コーティングが、前記一般式(I)で示される化合物で構成され、前記一般式(I)中、Xが、水素、NR(ここで、Rは、Hまたは線状もしくは分枝状の脂肪族、脂環式、もしくは芳香族の基である)、またはアルカリ金属(特定的にはナトリウムもしくはカリウム)であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の酸化鉄顔料。
【請求項6】
前記有機コーティングが、前記一般式(I)で示される化合物で構成され、前記一般式(I)中、nが、整数≦5、特定的には≦3であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の酸化鉄顔料。
【請求項7】
前記一般式(I)で示される有機化合物が、酸無水物の形態で使用されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の酸化鉄顔料。
【請求項8】
前記一般式(I)で示される有機化合物が、さらに水をも含有し、かつその水和物の形態で使用されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の酸化鉄顔料。
【請求項9】
使用される前記有機化合物が、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、アセテート、および/または無水フタル酸であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の酸化鉄顔料。
【請求項10】
前記一般式(I)で示される有機化合物が、コーティングされた顔料中に0.1〜10重量%、特定的には0.2〜3重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の酸化鉄顔料。
【請求項11】
前記酸化鉄顔料が、<5重量%、特定的には<3.5重量%の残留湿分含量を有することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の酸化鉄顔料。
【請求項12】
FeOとして計算したときに少なくとも5重量%のFe(II)含量を有する酸化鉄顔料を一般式(I)で示される少なくとも1種の化合物と混合し、場合により、この混合物を乾燥および/または粉砕し、それにより得られる酸化鉄顔料が、酸化安定性試験においてコーティングされていない酸化鉄顔料と比較して≧10℃の酸化安定性を有することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の酸化鉄顔料の調製方法。
【請求項13】
FeOとして計算したときに少なくとも5重量%のFe(II)含量を有する酸化鉄顔料を一般式(I)で示される少なくとも1種の化合物と懸濁液またはペーストの状態で混合し、この混合物を乾燥させ、場合により、粉砕し、それにより得られる酸化鉄顔料が、酸化安定性試験においてコーティングされていない酸化鉄顔料と比較して≧10℃の酸化安定性を有することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の酸化鉄顔料の調製方法。
【請求項14】
前記顔料懸濁液が、顔料製造作業から得られる懸濁液またはペーストであることを特徴とする、請求項13に記載の酸化鉄顔料の調製方法。
【請求項15】
前記顔料懸濁液が、アグロメレート粒子の再生分散体であることを特徴とする、請求項13に記載の酸化鉄顔料の調製方法。
【請求項16】
前記酸化鉄顔料が、最終的に、非酸化性または弱酸化性の雰囲気中で200℃〜800℃の温度処理に付されることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ライム結合建築材料および/またはセメント結合建築材料を着色するための、プラスチック、ワニス、エマルジョンペイントを着色するための、ならびに磁気記録媒体およびトナーを作製するための、請求項1〜11のいずれか一項に記載の酸化鉄顔料および請求項12〜16のいずれか一項に記載の方法により調製された酸化鉄顔料の使用。
【請求項18】
前記ライム結合建築材料および/またはセメント結合建築材料が、コンクリート、セメントモルタル、プラスター、および/またはケイ灰レンガであることを特徴とする、請求項17に記載の使用。

【公開番号】特開2008−1889(P2008−1889A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−132020(P2007−132020)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】