説明

酸化性ガス指示材及び指示手段付包装容器

【目的】パン酵母の醗酵作用を利用して還元性が痕跡としても存在しない還元体に転化された酸化還元色素によって包装・容器に侵入のごく微量の酸化性ガス(代表的には、酸素、二酸化炭素及び二酸化硫黄等)を定性的及び定量的にも視認検知できる酸化性ガス指示材及びそれを利用する指示手段付包装容器が。
提供される。
【構成】酸化性ガス指示材は、酸化還元色素と少なくともパン酵母とが媒体に共存してで、酸化還元色素が嫌気的雰囲気でのパン酵母の醗酵作用によって還元性を有しない還元体に転化されて、包装・容器の酸化性ガスの視認検知に供される。指示手段付包装容器は、その酸化性ガス指示材が酸化性ガスの侵入可能な箇所で、外側から視認可能にして包装・容器の内側に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン酵母の醗酵作用を利用して還元性が痕跡としても存在しない還元体に転化された酸化還元色素によって包装・容器に侵入のごく微量の酸化性ガス(代表的には、酸素、二酸化炭素及び二酸化硫黄等)を定性的及び定量的にも視認検知できる酸化性ガス指示材及びそれを利用する指示手段付包装容器に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、化学品、医薬品、医療品、精密機械部品及び電子部品等は、微量の酸素雰囲気下でも品質劣化が生じるので、ガスバリー性(ガス不透過性)のプラスチック素材からなる包装・容器(以下において、「包装容器」と略称することがある)に収納されて運搬・保存される。しかし、包装容器は、そのプラスチック素材を含む製造過程で多くの要因によって、空気透過可能な傷等が生じて品質劣化が生じている。
そこで、可逆的に酸化体・還元体に転化可能な酸化還元色素を還元体にして包装容器の内部に取付けて、侵入酸素によって酸化体に転化する際の発色変化の視認による酸素検知剤が、提案されて(例えば、特許文献1〜特許文献5等を参照)、工業化もされている。
従来の酸素検知剤に使用される酸化還元色素は、メチレンブルー、ニユートラルレッド、インジゴカルミン、アシッドレッド、サフラニンT、フェノサフラニン、カプリブルー、ナイルブルー、ジフェニルアミン、キシレンアミン、フェロイン若しくはN−フェニルアントラニル酸等である(例えば、特許文献1〜5等を参照)。
【0003】
従来の酸素検知剤では、酸化還元色素を短時間に還元体に転化して検知可能状態にすることが工業的に不可欠な特性であるとされて、強力な還元剤によって酸化還元色素が短時間に還元されている(例えば、特許文献1〜5等を参照)。強力な還元剤としては、アスコルビン酸、エリソルビン酸及びそれらの塩、Dーアラビノース、Dーエリスロース、Dーガラクトース、Dーキシロース、Dーグルコース、Dーマンノース、Dーフロクトース、Dーラクトース等の還元糖、第一スズ塩、第一鉄塩等の金属塩等が使用されている(例えば、特許文献1〜5等を参照)。
さらに、酸化還元色素の還元時間を短縮するために、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等による強力な還元剤の併用が提案されている(例えば、特許文献3等を参照)。
【0004】
従来の酸化還元色素による酸素検知剤は、現時点においても、下記(a)〜(e)等の問題点を有している。
(a)酸化還元色素の還元時の電子移動と強力な還元性の還元剤の作用とを電気化学的に一致させて完結した還元体にすることが困難(実質的に著しく困難)であるところから、還元剤が過量になる場合が頻繁発生して、還元剤が酸素検知剤に残存し、それを除去するのが困難である。
(b)酸化還元色素を還元する還元剤が足りない場合には、還元剤を途中で追加して還元体への転化を完結する。しかし、その場合にも、追加する還元剤量を最適量にするのが困難で、還元剤が酸素検知剤に残存する場合が多い。
(c)強力な還元剤は、痕跡量としても残存すると(実際には、そのような場合が頻繁に発生する)、侵入した酸素が残存する痕跡量の還元剤と反応して酸化還元色素の発色が変化せず、侵入当初の酸素が検知されない場合が多々発生する。
(d)還元体がロイコ型(無発色)であるメチレンブルーは、酸素に対する感受性が高いので、痕跡量の強力な還元剤が残存すると、ごく微小の酸素と反応して、ごく短時間(実際的には、瞬時)に青発色の酸化体になるが、すぐに元の還元体の無発色に戻って侵入酸素の存在を指示しない。
【0005】
特許文献1 特開2004−150924号公報
特許文献2 特開2004−352329号公報
特許文献3 特開2003−327269号公報
特許文献4 特開2001−124758号公報
特許文献5 特開2000−214152号公報
【0006】
非特許文献1 好井久雄・金子安之/山口和夫編「食品微生物ハンドブック」技報堂出版株式会社、1995年発行
非特許文献2 中江利昭著「改定版 パン化学ノート」株式会社パンニュウース社、2004年発行
非特許文献3 田中康夫・松本博著「製パンの化学<1> 製パンプロセスの科学」株式会社光琳、平成3年発行
非特許文献4 田中康夫・松本博著「製パンの化学<11> 製パンプロセスの科学」株式会社光琳、平成4年発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、ごく微量の酸素に対する高感度の感受性の酸化還元色素に還元する方法が、本発明者により詳細に実験主体に検討されて、新たないくつかの事実が見出だされて第一及び第二の本発明が創案された。
【0008】
第一の本発明は、以下(i)〜(vi)を目的とする。
(i)第一の本発明は、痕跡として還元性が残存しない還元体の酸化還元色素の酸化性ガス指示材を提供すること、をも目的とする。
(i)第一の本発明は、酸化還元色素の還元体の還元体の転化の制御を正確に行うことが可能な酸化性ガス指示材を提供すること、をも目的とする。
(iii)第一の本発明は、包装・容器へのごく侵入当初の酸化性ガスの存在を痕跡として還元性が残存しない還元体の酸化還元色素による発色変化及び発色の濃淡によって指示させ、侵入酸化性ガスを定性的及び定量的に視認検知できる酸化性ガス指示材を提供すること、を目的とする。
(iv)第一の本発明は、酸化性ガスの包装・容器への侵入箇所の微細形状までも痕跡として還元性が残存しない還元体の酸化還元色素の発色変化及び発色の濃淡による指示から視認検知できる酸化性ガス指示材を提供すること、を目的とする。
(v)第一の本発明は、痕跡として還元性が残存しない還元体の酸化還元色素が酸化性ガスと接触する酸化性ガス指示材を提供すること、をも目的とする。
(vi)第一の本発明は、プラスチック素材の製造・流通の過程、その素材からの包装・容器の製造過程及び包装・容器の流通過程で実質的に不可避的に発生する微細な傷(酸化性ガス侵入要因となる)等の存在箇所及び形状等を容易・正確に視認検知し得る酸化性ガス指示材を提供すること、をも目的とする
第二の本発明は、以下(a)及び(b)を目的とする。
(a)第二の本発明は、包装・容器に侵入する酸化性ガスを高感度かつ・容易に視認検知し得る指示手段付包装容器を提供すること、を目的とする。
(b) 第二の本発明は、包装容器の大きさ及び形態に制約されることなく、かつ、侵入する酸化性ガスの条件(例えば、量等)に制約されることなく検知する手段を備える指示手段付包装容器提供すること、をも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第一の本発明による酸化性ガス指示材は、酸化還元色素と少なくともパン酵母とが媒体に共存してなるもので、該酸化還元色素が嫌気的雰囲気でのパン酵母の醗酵作用によって還元性を有しない還元体に転化されて、包装・容器の酸化性ガスの視認検知に供されること、を特徴とする。
第二の本発明による指示手段付包装容器は、酸化性ガスの侵入可能な箇所で、外側から視認可能にして包装・容器の内側に下記(A)の酸化性ガス指示材が、配置されていること、を特徴とする。
(A)酸化性ガス指示材
酸化性ガス指示材は、酸化還元色素と少なくともパン酵母とが媒体に共存するもので、該酸化還元色素がパン酵母による嫌気的雰囲気での醗酵作用によって還元性を有しない還元体に転化されて、包装・容器の酸化性ガスの視認検知に供されること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】

第一の本発明によれば、下記(A)〜(E)等に代表される効果が得られる。
(A)嫌気的雰囲気で、かつ、酸化還元色素の耐熱温度以下の温度領域では、パン酵母の醗酵作用を制御(例えば、休止、死活等)して、酸化性ガス指示材の酸化還元色素を痕跡として還元性が残存しない還元体への転化が可能で、還元性未残存の還元体の酸化還元色素によって酸素等の酸化性ガスを視認検知することができる。
(B)還元性が痕跡として残存しない還元体の酸化還元色素に酸素等の酸化性ガスを反応させるので、包装・容器に侵入する酸素等の酸化性ガスがごく微量であっても、侵入当初(特に、ごく当初)の段階で存在を酸化還元色素の発色変化及び発色濃淡によって視認検知することができる。
(C)酸化還元色素の選択によって(例えば、ロイコ型還元体のチアジン色素の選択によって)、酸化性ガスの侵入箇所(例えば、傷等)の微小形状までが酸化還元色素の発色濃淡等の視認から検知が可能になる。
【0011】
(D)包装容器での製造過程・流通過程で発生する傷等に起因の酸化性ガス侵入箇所の検知が可能で、その情報の利用により傷等の発生を無くすことができる。例えば、厚みむら・肉厚不均一・熱的及び物理的ストレスによる歪み等に起因する容器製造で発生する酸化性ガス侵入箇所を検知できる。例えば、巻取りローラ・テンションコントロールローラ等との機械的摩擦等に起因するフイルム製膜で発生する酸化性ガス侵入箇所(例えば、摩擦による気体透過化箇所等)を検知できる。例えば、シール不良(熱溶融シール部の汚れ等による)、シール部切断(過剰な熱・圧力の負荷等による)、熱履歴によるシール部への応力・歪みの集中等に起因する酸化性ガス侵入箇所を検知できる。材料特性の相違(例えば、延伸性及び熱収縮等の相違)に起因して包装容器に発生する酸化性ガス侵入箇所を検知できる。
従って、金属(例えば、アルミ・酸化アルミ)と無機物(例えば、二酸化ケイ素)を蒸着若しくはコーティングして延伸性及び熱収縮等の相違に起因して発生する酸化性ガス侵入箇所(例えば、傷等)を視認検知できる。
(E)ハンドリング不良により流通過程で発生する酸化性ガス侵入箇所(例えば、ピンホール等)を視認検知できる。
第二の本発明による指示手段付包装容器によれば、第一の本発明による効果に加えて下記(1)及び(2)等に代表される効果が得られる。
(1)包装容器が、その形態に無関係に、侵入酸化性ガスに対する高感度の視認検知する能力を備える。
(2)包装容器が、侵入酸化性ガスに対する所望の水準及び領域で視認検知するする能力を備える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<第一の本発明による酸化性ガス指示材>:
第一の本発明による酸化性ガス指示は、酸化還元色素(特に、チアジン色素)と、醗酵可能なパン酵母とが少なくとも共存する媒体から構成されて、該酸化還元色素が嫌気的雰囲気でのパン酵母の醗酵作用によって還元性を有しない還元体に転化されて(特に、醗酵作用の制御によって痕跡としての還元性も有しない還元体に転化されて)、包装・容器の酸化性ガスの視認検知に供される。なお、嫌気的雰囲気とは、空気無存在若しくは空気が存在しても微量である雰囲気をいう。
【0013】
<酸化還元色素>:
視認可能な波長領域(最大波長が約400〜670 nm)で、酸化体・還元体の発色が可逆的に変化(無発色からの変化を含む)する酸化還元色素であって、チアジン色素(代表的には、メチレンブルー、ニューメチレンブルー、トルイジンぶるー、チオニン、レゾルシンブルー等)、オキサジン色素(例えば、レサルジン等)等のアジン色素、インジゴイド色素及びチオインジゴイド色素が適している。なお、以下において、「酸化還元色素」という場合は、特に、言及しない限り、それらの本発明での使用に適する酸化還元色素の意味で使用する。
また、還元体がロイコ型になるチアジン色素のメチレンブルー系統の酸化還元色素であると、還元体への転化が完結的に行うことが容易で、発色の変化及び発色の濃淡から高感度に視認検知が可能になる(後記実際例を参照)。
【0014】
<パン酵母>
パン酵母は、サッカロミセス(Saccharomyces)に属する、cerevissia種、xiguuss種,Candidamilleri種,rosei種,Torulopsis celluculosa種, Torulopsis candida種が適して、それれの一種若しくは複数種であっても使用可能で、酸化還元色素(特に、発色基)との最適な組み合わせで使用される。最適な組み合わせは、好気的雰囲気下でのパン酵母の醗酵作用による酸化還元色素の還元体への転化が、制御容易で酸化還元色素の還元体・酸化体間での発色の変化が視認容易で、ごく微量の酸化性ガスで酸化体に転化する構造の酸化還元色素を与えるもので、例えば、チアジン色素の酸化還元色素と、Saccharomyces cerevissia種の組み合わせ等である。
ハ゜ン生地でのパン酵母は、嫌気的雰囲気下で50種以上の酵素作用が、基質・温度・時間・pH等に適合する条件で進行し、生成する炭酸ガスによって半固相のパン生地が膨張する(例えば、非特許文献1のp256〜258及び非特許文献2のp87〜89等を参照)。
【0015】
パン酵母の醗酵に要する栄養成分は、パン酵母自体の含有成分及びパン生地の小麦から補給される。パン酵母の栄養成分は、炭素源(ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖等の糖)、窒素源(代表的には、アスパラギン酸、グルタミン酸、アラニン、アルギニン、グルシン等の遊離アミノ酸)、無機成分(代表的には、リン、マグネシウム、カリウム)及びビタミン等が代表的である。ハ゜ン生地でのパン酵母の醗酵は、基質の糖を消費する醗酵後に小麦に含まれるマルタ−ゼ若しくは菌種によっては菌体内に予め有するマルタ−ゼによりマルトース醗酵が誘導される。
パン酵母は、培地から取り込む等によって、タンパク質及びビタミンB群を菌体内に多く含むものがある。次の表1は、公表されたパン用パン酵母のビタミン含有量を示している(非特許文献4のp64の表2−2を参照)。
【0016】
【表1】

【0017】
嫌気的雰囲気下でのパン生地中のパン酵母の醗酵において、窒素源からの高級アルコール生成が報告されていて、表2は公表されたデータである(非特許文献3のp135の表4−4を参照)。
【0018】
【表2】

【0019】
また、パン生地中のパン醗酵において、約38種のエステル、約19種の有機酸及び約16種のカルボニル化合物の生成が報告されている(非特許文献3の表4−9、表6−7、表6−9、表6−10を参照)。
そして、嫌気的雰囲気でのパン酵母の醗酵作用と還元体転化時の酸化還元色素との間の電子移動(特に、発色原体の官能基の共役二重結合の励起時の電子移動)に関与する条件が、本発明で実験主体に検討されて、パン酵母の醗酵作用によって酸化還元色素の酸化から還元の際の励起の電子移動が生じることが本発明で見出されている。
さらに、パン酵母の菌体等に含まれる栄養成分を利用する醗酵作用によっても酸化還元色素の酸化体から還元体への転化が生じることが本発明で見出されている。従って、栄養分を補給する醗酵作用であっても転化を進行させることができる。
従って、本発明の「パン酵母」は、パン酵母の菌体等に含まれる栄養成分によって醗酵可能になっているパン酵母であってもよく、栄養成分としての炭素源・窒素源・無機成分・ビタミン等を媒体に加えて醗酵可能になっているパン酵母であってもよい。また、補酵素、イーストフード等のようなものを媒体に加えておいてもよい。
なお、酸化還元色素が、ロイコ型還元体のチアジン色素のメチレンブルー系統であると、パン酵母自体に含まれる栄養成分を利用する醗酵作用によって高感受性の還元体に転化させて、ごく微細量の酸化性ガスが侵入しても、侵入箇所の凹凸及び形状に対応する青色の濃淡を示す。
【0020】
<パン酵母の種類及び形態>
パン酵母は、形態から大別すると、約60%以上の水分を含む生パン酵母(すなわち、生イースト)と約8%以下の水分を含む乾燥パン酵母(すなわち、ドライイースト)に分けられる。いずれのタイプのパン酵母であっても本発明に使用可能である。
醗酵作用の制御が容易で、還元体が酸化性ガスに対して高感受性有すところから、乾燥パン酵母の使用が適している。乾燥パン酵母には、活性型の乾燥パン酵母も存在するが本発明に使用可能である。乾燥パン酵母は、パン生地に対する醗酵力を向上させたインスタント乾燥パン酵母であってもよい。圧縮パン酵母、クリームパン酵母及び耐凍性パン酵母等も使用可能である。
【0021】
パン酵母「すなわち、Bakers Yeast」は、一般には、酵母の英語名が「Yeast(イースト)」であること及び酵母の大部分がパン酵母であること等に由来して、「イースト」と称されていて(例えば、非特許文献1〜4を参照)、「イースト」と「パン酵母」とは、実質的に同義語である。
【0022】
<媒体>
媒体は、酸化還元色素及びパン酵母を溶解等による含有が可能な水、水溶液及び溶媒等の液体で、液体の状態で使用してもよく、ゲル・半固体・固体等の坦持材に坦持させる使用してもよい。坦持材の特性・形状については制約がなく、例えば、天然若しくは合成の繊維であってもよく、高分子吸収材等からなる坦持材であってもよい。
酸化還元色素及び発酵可能なパン酵母を含む媒体の液体(例えば、水、水溶液)を当初から約pH4〜8の範囲内に調整して、酸化還元色素を還元体に転化させると、痕跡として還元性が残存しない還元体への転化が容易である。パン生地の醗酵では、パン生地がpH6近傍で、生地の炭酸ガス保持力がpH5.0〜5.5で最良になって、pH5以下で生地の炭酸ガス保持力が急激低下するところから、pHは5付近に制約される。
しかし、本発明では、約pH4〜8の範囲内であれば、制御可能な緩やかな速度で還元体への転化を正確に進行させることができる。また、酸化還元色素の還元体への転化の温度領域は、好冷菌(例えば、上限温度20℃)、中温菌(例えば、35℃)及び耐熱性菌(例えば、42℃)の生育温度の領域であればよい。
【0023】
<還元体への転化の制御>
酸化還元色素の還元体への転化に際しては、パン酵母の酵母作用を制御によって転化を完了(例えば、酵母作用の不活性化)させると、還元性が痕跡として残存しない還元体になって、酸化性ガスに対して高水準の感受性を備える。
パン酵母の酵母作用を不活性にして転化を完了させる方法としては、(1)予めの実験によって酸化還元色素の発色変化と転化完了に要する時間と転化完了に要するパン酵母の必要量を計測しておいて、その計測データを基準にして転化を完了させる方法、(2)酸化還元色素の還元体への転化の発色変化を比色計測装置(例えば、モル吸光係数)で追跡して、発色変化から正確な転化完了に要するパン酵母及びその作用条件を特定して、そのデータを基準として転化を完了させる方法、(3)酸化還元色素の還元体への転化の電子移動を電気学的に計測して(例えば、クーロメトリーの原理に基く計測)して、転化時の励起に要する電子移動に必要なパン酵母及びその作用条件を特定して、そのデータを基準として転化をを完了させる方法、(4)パン酵母の醗酵作用の強制的停止により転化を終了させる方法等がある。
工業的実施には、(4)のパン酵母の醗酵作用の強制的停止により転化を終了させる方法が便宜である。例えば、ロイコ型還元体のチアジン色素のメチレンブルーを還元体に転化するに際しては、パン酵母の醗酵作用により転化を進行させて無色のロイコ型還元体になっても、確認的に
醗酵作用の強制的停止作用を施すと、完結的かつ容易にパン酵母の酵母作用を不活性にして転化を完了させることができる。
なお、醗酵作用の強制的停止手段は、醗酵作用が停止可能であれば任意の手段であり得るが、酸化還元色素の機能の影響を与えない温度で、かつ、パン酵母の作用を停止させる温度(例えば、55〜95℃)の熱量を加えるのが便宜である。
【0024】
<酸化性ガス>
酸化性ガスは、対象物(例えば、食品、化学品、医薬品、医療品、精密機械部品、電子部品等)を酸化により品質劣化を生じさせて、かつ、酸化還元色素の還元体を酸化体に転化させるガスである。酸化性ガスは、代表的には、酸素若しくは酸素を含む空気等であるが、二酸化炭素あるいは二酸化硫黄またはそれらの一種若しくは複数を含むガスであってもよい。
【0025】
<包装・容器>
包装・容器は、酸化性ガスの存在による品質劣化防止を必要とする材料・製品(例えば、食品、化学品、医薬品、医療品、精密機械部品、電子部品等の材料・製品)に用いられるガスバリヤ−性材料(例えば、ガスバリヤ−性プラスチック材料及びその他)からなる包装・容器である。
ガスバリヤ−性の包装・容器は、形態において任意であって、軟質若しくは硬質のいずれの構造であってもよい。包装・容器は、外側から内部の酸化還元色素の発色変化が視認可能であることが必要である。
【0026】
<第二の本発明の指示手段付包装容器>:
第二の本発明による指示手段付包装容器(包装容器は、包装・容器と同義である)は、酸化性ガスの侵入可能な箇所で、外側から視認可能にして包装・容器の内側に第一の本発明による酸化性ガス指示材が、配置されていること、を特徴とする。
酸化性ガス指示材は、包装・容器の酸化性ガスの侵入可能な箇所(例えば、包装・容器のコーナ部若しくは全面)に所望厚さの層で付着させる等して配置される。また、液体不透過性で気体透過性の袋等に酸化性ガス指示材を収納して、それを包装・容器の内部に収納しても侵入する酸化性ガスを視認検知することができる。
【0027】
なお、本発明においては、本発明の目的に沿うものであって、本発明の効果を特に害さない限りにおいては、改変あるいは部分的な変更及び付加は任意であって、いずれも本発明の範囲である。次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、実施例は例示であって本発明を拘束するものではない。
【実施例】
【0028】
<実施例1>
メチレンブルー(チアジン系酸化還元色素)及び乾燥パン酵母(ドライイースト)をリン酸緩衝液希釈の水溶液に加えて混合均一した試験液を調製した。試験液は、メチレンブルーと乾燥パン酵母(Saccharomyces cerevissia種主体)との量的比率及び水溶液中の濃度を変えたものを複数調製した。乾燥パン酵母としては、市販のドライイーストを利用した。
メチレンブルー及びドライイーストは、ドライイースト重量/メチレンブルー重量の比率を4〜8の範囲内にした。
各試験液は、高ガスバリャー性のプラスチック材料からなるプラスチック袋に入れて空気及び気泡をできるだけ除去して開口部を熱溶着・密封状態にして、嫌気的雰囲気の袋内に試験液を収納した複数の試験用袋を用意した。各試験用袋は、中温菌の生育温度領域(30〜35℃)を中核温度領域とし、近傍の相違する温度領域において、メチレンブルーの青色(酸化体の発色)の経時の変化を観察した。
経時(約5〜8時間)によって、メチレンブルーの青色が消失して無色(すなわち、ロイコ型還元体のメチレンブルー)になった試験用袋と退色した青色が残存する試験用袋が存在した。
このことから、酸化還元色素の転化反応とパン酵母の醗酵作用とを電気化学的及び化学量論的に一致する場合は、時間の経過によって酸化還元色素の全体がロイコ型還元体に転化することが明らかになった。
【0029】
<実施例2>還元体への転化の完全化
実施例1の酸化体の青色が消えない状態(ロイコ型還元体への転化が不十分な状態)の試験用袋の開口部を開いて、糖を加えて、次に空気を追い出して試験用袋内を嫌気的雰囲気にして、同じ温度領域で放置して時間を経過させた。その結果、メチレンブルーの青色が消えて全部がロイコ型に転化した。すなわち、ドライイーストの醗酵作用を制御して、メチレンブルーの全体をロイコ型にした。
【0030】
<実施例3>メチレンブルー還元体の酸素感受性
実施例1で得られた還元体(ロイコ型)のメチレンブルーの酸素感受性を試験した。実施例1でロイコ型還元体の試験用袋を長時間放置して、侵入酸素に対するメチレンブルーの発色変化を観察した。酸素が侵入した試験用袋は、当初から鮮明な青色に変色した。
【0031】
<実施例4>醗酵作用の強制的停止
実施例2で糖を過量に加えた試験用袋を加熱処理してドライイース
トの醗酵作用を強制的に停止する実験をした。
試験用袋を乾燥機からの熱風に試験用袋をあてる若しくは温水中に漬ける等の手段によってパン酵母菌が死活させて醗酵作用を強制的に停止させた。加熱温度は、約80℃及びその近傍温度で十分であった。加熱時間は、2〜20分を実験したが、約5分間程度で醗酵作用が強制的に停止した。パン酵母菌を加熱により死活させると、試験用袋の酸化性ガス指示には、還元性が残存していなかった。
【0032】
<実施例5>試験用袋への酸素侵入の観察
ロイコ型メチレンブルー含有の試験液を収納したガスバリャー性プラスチック袋の試験用袋を用意した。ガスバリャー性プラスチック袋は、OPP/CPPの積層フイルムにPETを蒸着により積層してガスバリャー性積層材から形成することで高ガスバリャー性を付与した。
試験用袋Aには、実施例1の化学的量論の一致と時間経過によるロイコ型のメチレンブルー含有の試験液を収納して、試験用袋Bには、実施例4の醗酵作用の強制的停止によって醗酵作用由来の還元性が痕跡としても存在しないロイコ型メチレンブルー含有の試験液を収納した。
時間経過後に酸素が侵入すると、試験用袋A・Bは、酸素侵入のごく当初から侵入の痕跡としてのメチレンブルーの青色への変色が鮮明見られた。ただし、試験用袋Bの方が、メチレンブルーの青色発色による微細形状がより鮮明に表れた。
【0033】
図1は、試験用袋Bの酸素侵入によりメチレンブルーの青色発色した状況を示す拡大説明図である。図1において、試験用袋Bの側面の外周領域の熱溶着部が熱と加圧の負荷によってガスバリャー性積層材に生じた裂断傷が、正方形状線1として青色に発色した状況を示している。
図1において、正方形枠状線1の右横方向の縦方向の太い短線と四角状の点と斜右下方向の短線との組み合わせは、試験用袋Bの変形ストレスクラキングによる傷2が、メチレンブルーの青色の発色の濃淡により鮮明に表れている。なお、横長四方形枠状線3は、変形ストレスクラッキング傷2を真ん中にして囲む領域を示しているだけである。
図1において、左下側の斜方向の短線4と下側の横方向の短線5,6,7は
ガスバリャー性積層材を加工時に生じた「ずれ」及び「曲げ」に由来する蒸着割れを示している。
【0034】
図2は、図1の変形ストレスクラッキング傷2を囲む四方形枠状線3の領域の拡大説明図である。図2において、変形ストレスクラッキング傷2の周辺にも、多くの傷8、9、10、11、12がメチレンブルーの青色の発色の濃淡により鮮明に表れている。
【産業上の利用可能性】
【0035】

本発明の酸化性ガス指示材によって、包装・容器に侵入する微量の酸化性ガス、侵入当初(特に、ごく当初)の段階で定性的・定量的に視認検知されて、酸化性ガスの侵入箇所の微小形状までが視認検知可能になる。
また、本発明の指示手段付包装容器によって、形態に無関係に侵入酸化性ガスを高感度で視認検知できる性能が包装・容器に付与される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】試験用袋Bの酸素侵入によりメチレンブルーの青色の発色した状況を示す拡大説明図である。
【図2】図1の変形ストレスクラキング傷を囲む領域の拡大説明図である。
【符号の説明】
【0037】
1 正方形枠状線
2
変形ストレスクラキングによる傷
3 変形ストレスクラキング傷を囲む横長四方形枠状線
4 左下側の斜方向の短線
5 下側の横方向の短線
6 下側の横方向の短線
7
下側の横方向の短線
8

9 傷
10 傷
11 傷
12 傷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化還元色素と少なくともパン酵母とが媒体に共存してなるもので、該酸化還元色素が嫌気的雰囲気でのパン酵母の醗酵作用によって還元性を有しない還元体に転化されて、包装・容器の酸化性ガスの視認検知に供されること、を特徴とする酸化性ガス指示材。
【請求項2】
酸化性ガスの侵入可能な箇所で、外側から視認可能にして包装・容器の内側に下記(A)の酸化性ガス指示材が、配置されていること、を特徴とする指示手段付包装容器。
(A)酸化性ガス指示材
酸化性ガス指示材は、酸化還元色素と少なくともパン酵母とが媒体に共存するもので、該酸化還元色素がパン酵母による嫌気的雰囲気での醗酵作用によって還元性を有しない還元体に転化されて、包装・容器の酸化性ガスの視認検知に供されること、を特徴とする。
【請求項3】
下記(1)〜(7)の特徴の一つ若しくは複数を備えること、を特徴とする請求項1に記載の酸化性ガス指示材。
(1)前記還元性を有しない還元体への転化が、パン酵母の醗酵作用の制御による。
(2)前記パン酵母が、サッカロミセスに属するcerevissia種、xiguuss種,Candidamilleri種,rosei種,Torulopsis celluculosa種及び Torulopsis
candida種の一種若しくは複数種からなる。
(3)前記酸化還元色素が、還元体がロイコ型になるチアジン色素からなる。
(4)前記酸化性ガスが、酸素、二酸化炭素及び二酸化硫黄の一種以上若しくはそれらを含むガスからなる。
(5)前記パン酵母が、乾燥パン酵母、活性乾燥パン酵母、インスタント乾燥パン酵母、生パン酵母、クリームパン酵母、耐凍性パン酵母及び圧縮パン酵母の一種若しくは複数種からなる。
(6)前記媒体の液体が、pH4〜8に調整される。
(7)前記包装・容器が、ガスバリャー性のプラスチックからなる。
【請求項4】
下記(i)〜(ii)の特徴の一つ若しくは複数を備えること、を特徴とする請求項3に記載の酸化性ガス指示材。
(i)前記パン酵母の醗酵作用の制御が、パン酵母の醗酵作用の休止若しくは死活からなる。
(ii)前記パン酵母の醗酵作用の制御が、パン酵母の発酵温度が酸化還元色素の耐熱温度よりも低い温度領域でのパン酵母への熱負荷による醗酵作用の停止からなる。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−74971(P2007−74971A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−266304(P2005−266304)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(593188844)株式会社愛知商会 (1)
【Fターム(参考)】