説明

酸化性物質の総濃度測定方法、酸化性物質の総濃度測定用濃度計およびそれを用いた硫酸電解装置

【課題】過硫酸や過硫酸塩、過酸化水素などの多成分を含有する評価液であっても、簡便な操作で、一度の測定により総濃度を得ることができる酸化性物質の総濃度測定方法、簡易かつ安価な酸化性物質の総濃度測定用濃度計、および、それを用いた硫酸電解装置を提供する。
【解決手段】酸化性物質を少なくとも一種含有する評価液中の酸化性物質の総濃度を測定する方法である。電解セルを用いて評価液中の酸化性物質を還元する電解工程と、電解工程における、電解開始から所定の電解停止時間までの還元電流値より総クーロン量を算出するクーロン量算出工程と、クーロン量算出工程で算出された総クーロン量より酸化性物質の総濃度を算出する濃度算出工程と、を少なくとも含む酸化性物質の総濃度測定方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化性物質の総濃度測定方法、酸化性物質の総濃度測定用濃度計(以下、単に「測定方法」および「濃度計」とも称する)およびそれを用いた硫酸電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルオキソ二硫酸およびペルオキソ一硫酸を総称する過硫酸や過酸化水素は、優れた酸化力を有する。そのため、硫酸と過酸化水素水溶液との混合溶液や、硫酸を直接電気分解により酸化させ、その溶液中に過硫酸や過酸化水素を含有させた溶液は、金属の電解めっきの前処理剤やエッチング剤、半導体デバイス製造における化学的機械的研磨処理における酸化剤、湿式分析における有機物の酸化剤、シリコンウェハの洗浄剤等の、様々な製造プロセスや検査プロセスに用いる薬剤として、利用されている。
【0003】
ここで、本発明において「酸化性物質」とは、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ一硫酸を総称する過硫酸や、過酸化水素などを意味する。また、本発明において「SPM」とは、硫酸と過酸化水素水溶液との混合溶液を意味する。
【0004】
さらに、本発明において「硫酸電解装置」とは、硫酸を直接電気分解により酸化させ、過硫酸や過酸化水素を含有させた溶液を製造する装置を意味する。さらにまた、本発明において「電解硫酸溶液」とは、硫酸を直接電気分解により酸化させて、その溶液中に過硫酸や過酸化水素を含有させた溶液を意味する。
【0005】
さらにまた、本発明において「酸化性物質の総濃度測定用濃度計」とは、酸化性物質を少なくとも一つ含有する溶液の酸化性物質の総濃度を測定する濃度計を意味する。このとき、含有する酸化性物質が一成分であっても多成分であっても、その総濃度が測定結果として表される。
【0006】
酸化性物質を部材の洗浄や表面処理等に使用する場合には、ペルオキソ二硫酸やペルオキソ一硫酸、過酸化水素などの濃度によって処理効果が異なるものとなるため、目的とする処理効果を得るためには、SPMや電解硫酸溶液中の各酸化性物質濃度を監視することが必要となる。一方で、多成分の濃度を個々に監視しようとすると、機器が複雑かつ高価となるため、全成分の総濃度を監視することで、代替することが考えられる。
【0007】
酸化性物質に関連する従来技術として、例えば、特許文献1には、排水に含まれる有機物を過硫酸で加熱分解するシステムが開示されており、排水中に残留した過硫酸イオン濃度を検出する過硫酸濃度センサーとして、導電性ダイヤモンド電極に銀を担持した電極と対電極とを用いて、このダイヤモンド電極上での過硫酸イオンの還元電流を検出することにより濃度を測定する方法が記載されている。
【0008】
しかし、特許文献1に記載の過硫酸濃度センサーは、ペルオキソ二硫酸イオンを測定対象とするものであり、ペルオキソ一硫酸および過酸化水素に関する記載はなく、また、多成分を含有する評価液に関しては記載がない。また、この過硫酸濃度センサーでは、陰極に印加する電位を走査しつつ電流値を測定して、過硫酸のピーク電流値を検出しなくてはならず、この操作を行うためには関数発生器が一体化したポテンショスタットが必要となり、測定装置が複雑かつ高価となってしまうという難点もあった。
【0009】
また、特許文献2には、金、銀またはカーボン基体に、ハロゲン化物イオン、イオウイオンおよびチオール化合物などの吸着種を単層吸着させた電極を用いて、過酸化水素の還元電流を検出することにより過酸化水素濃度を測定する過酸化水素用センサーが開示されている。しかし、特許文献2に記載の過酸化水素用センサーは、過酸化水素溶液のみを測定対象としており、ペルオキソ二硫酸やペルオキソ一硫酸など、多成分を含有する評価液に関しては記載がない。また、この過酸化水素用センサーについても、陰極に印加する電位を走査しつつ電流値を測定して、過酸化水素のピーク電流値を検出しなくてはならず、関数発生器が一体化したポテンショスタットが必要となって、特許文献1に記載されたセンサーの場合と同様に、測定装置が複雑かつ高価となってしまうという難点があった。
【0010】
さらに、特許文献3には、酸化性物質を含有する試料液にヨウ化カリウム水溶液を加えて、酸化性成分との反応によって遊離したヨウ素をチオ硫酸ナトリウム溶液にて滴定する、全酸化性物質濃度の算出方法が開示されている。しかし、特許文献3に記載された定量方法では、滴定を行う作業者が必要となる。また、作業者が不要となるよう全自動滴定装置を用いる場合、試料液の計量注入作業や、試料液に対する希釈液ないしヨウ化カリウム水溶液の添加作業、チオ硫酸ナトリウム溶液による滴定作業等が必要となり、測定・定量作業が複雑なものとなってしまう。さらに、構造が複雑であるため、設備が高価となるという難点もあった。さらにまた、測定後の廃液にはヨウ化カリウムおよびチオ硫酸ナトリウムが含まれるため、その廃液処理作業も別途行わなくてはならなかった。
【0011】
また、非特許文献1には、レーザーラマンスペクトル法を用いた、硫酸溶液中のペルオキソ二硫酸、ペルオキソ一硫酸、過酸化水素の定性・定量方法が開示されている。しかし、非特許文献1に記載されたレーザーラマンスペクトル法を用いた定性・定量方法では、成分ごとに定性・定量されるため、各成分の波数毎に強度を測定して、各々の成分の検量線に基づいて濃度換算を行うことが必要となり、測定・定量作業が複雑なものとなってしまう。また、構造が複雑であるため、設備が高価となるという難点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006‐150320号公報
【特許文献2】特開2007‐71720号公報
【特許文献3】特開2008‐164504号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】田坂明政,電気化学,9,745(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、従来の技術においては、多成分の酸化性物質で構成された酸化性物質の総濃度を、簡便な操作で、一度に測定することができるものではなかった。また、従来の濃度計は、構成が複雑であって高価であり、より簡易かつ安価な濃度計が求められていた。
【0015】
そこで本発明の目的は、上記従来技術における問題を解消して、過硫酸や過硫酸塩、過酸化水素などの多成分を含有する評価液であっても、簡便な操作で、一度の測定により総濃度を得ることができる酸化性物質の総濃度測定方法、簡易かつ安価な酸化性物質の総濃度測定用濃度計、および、それを用いた硫酸電解装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、酸化性物質を含有する評価液を電解して、酸化性物質を還元させた際における、電解開始から所定の電解停止時間までの還元電流値より算出できる総クーロン量と、酸化性物質の総濃度との間に密接な関係があることを見出して、上記課題を解決するに至った。
【0017】
すなわち、本発明の酸化性物質の総濃度測定方法は、酸化性物質を少なくとも一種含有する評価液中の酸化性物質の総濃度を測定する方法であって、
電解セルを用いて前記評価液中の前記酸化性物質を還元する電解工程と、該電解工程における、電解開始から所定の電解停止時間までの還元電流値より総クーロン量を算出するクーロン量算出工程と、該クーロン量算出工程で算出された該総クーロン量より前記酸化性物質の総濃度を算出する濃度算出工程と、を少なくとも含むことを特徴とするものである。
【0018】
本発明の測定方法においては、前記評価液が、前記酸化性物質として、ペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素のうちの少なくとも一種を含有することが好ましい。
【0019】
また、前記電解工程においては、隔膜により陽極室と陰極室とに区画され、かつ、該陰極室内に陰極を、該陽極室内に陽極を、それぞれ備える電解セルを用いることが好ましい。さらに、前記電解工程においては、前記評価液を、下記式(1)、
0.5<X/Y ・・・(1)
(式中、Xは陰極表面積(dm)であり、Yは陰極液量(ml)である)を満足する条件で電解することが好ましい。
【0020】
さらにまた、本発明の測定方法においては、前記電解セル内の陰極として、白金、金、炭素材料および銀からなる群より選択される少なくとも一種から構成されたものを用いることが好ましい。さらにまた、前記電解セルの電圧または陰極電位を、陰極において水素発生および過酸化水素酸化のいずれも生じない電圧または電位に保持することが好ましい。
【0021】
また、本発明の酸化性物質の総濃度測定用濃度計は、酸化性物質を少なくとも一種含有する評価液中の酸化性物質の総濃度の測定に用いられる濃度計であって、
前記評価液中の前記酸化性物質の還元を行う電解セルと、該電解セルに電圧または電位を印加する印加部と、該電解セルに印加される電圧または電位を制御する制御部と、該電解セルにおける、電解開始から所定の電解停止時間までの還元電流値より総クーロン量を算出するクーロン量算出部と、該クーロン量算出部で算出された該総クーロン量より前記酸化性物質の総濃度を算出する濃度算出部と、を備えたことを特徴とするものである。
【0022】
本発明の濃度計においては、前記電解セルが、隔膜により陽極室と陰極室とに区画され、かつ、該陰極室内に陰極を、該陽極室内に陽極を、それぞれ備えることが好ましい。また、前記電解セルにおいて、前記評価液が、下記式(1)、
0.5<X/Y ・・・(1)
(式中、Xは陰極表面積(dm)であり、Yは陰極液量(ml)である)を満足する条件で電解されることが好ましい。
【0023】
さらに、本発明の濃度計においては、前記電解セル内の陰極が、白金、金、炭素材料および銀からなる群より選択される少なくとも一種から構成されることが好ましい。さらにまた、本発明の濃度計においては、前記電解セル内の電圧または陰極電位が、陰極において水素発生および過酸化水素酸化のいずれも生じない電圧または電位に保持されることも好ましい。
【0024】
さらに、本発明の硫酸電解装置は、上記本発明の酸化性物質の総濃度測定用濃度計を搭載したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ペルオキソ二硫酸イオンやペルオキソ一硫酸イオン、過酸化水素などの多成分の酸化性物質を含有する評価液であっても、簡便な操作で、一度の測定で総濃度を得ることができる酸化性物質の総濃度測定方法、簡易かつ安価な酸化性物質の総濃度測定用濃度計およびそれを用いた硫酸電解装置を実現することが可能となった。
【0026】
本発明の測定方法においては、酸化性物質が一成分の場合でも、多成分の場合でも、総濃度の測定が可能である。また、本発明の濃度計においては、多成分の総濃度を一度で測定することが可能であるので、測定に必要な構成機器を減らすことができ、小型で安価に作製することができるため、一般家庭用や業務用として適している。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る電解セルの一例を示す概略図である。
【図2】本発明の濃度計の一例を示す説明図である。
【図3】本発明に係る電解セルの他の例を示す概略図である。
【図4】白金電極を用いた酸化性物質硫酸溶液のリニアスイープボルタモグラムである。
【図5】実施例1〜3の酸化性物質総濃度と総クーロン量との相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明は、酸化性物質を少なくとも一種含有する評価液中の酸化性物質の総濃度を測定する方法の改良に係るものである。
【0029】
本発明においては、かかる酸化性物質を含有する評価液を電解した際に、電解開始から所定の電解停止時間までの還元電流値より算出される総クーロン量と、酸化性物質の総濃度との間に密接な関係があることを見出したものである。すなわち、本発明者らによる多くの実験の結果、後述する実施例に示す通り、電解開始から所定の電解停止時間までの還元電流値から算出できる総クーロン量を用いることで、ペルオキソ二硫酸イオンやペルオキソ一硫酸イオン、過酸化水素などの多成分の酸化性物質を高濃度に含有する評価液であっても、酸化性物質の総濃度を一度で測定できることが明らかになった。
【0030】
具体的には、本発明の酸化性物質の総濃度測定方法においては、電解セルを用いて上記評価液中の酸化性物質を還元して(電解工程)、この電解工程における、電解開始から所定の電解停止時間までの還元電流値より総クーロン量を算出し(クーロン量算出工程)、算出された総クーロン量より酸化性物質の総濃度を算出する(濃度算出工程)。
【0031】
本発明において、酸化性物質としては、ペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素のうちの少なくとも一種を含有するものとすることができる。本発明におけるペルオキソ二硫酸、ペルオキソ一硫酸および過酸化水素は、各々の水溶液および塩などを溶解したものでもよく、硫酸と過酸化水素水溶液との混合によって得られるものであってもよく、硫酸の電解によって得られるものであってもよい。
【0032】
ここで、電解セルを用いた評価液中の酸化性物質の電解還元反応を以下に示す。
1)陰極反応
2−+2H+2e→2HSO ・・・(2)
HSO+2H+2e→HSO+HO ・・・(3)
+2H+2e→2HO ・・・(4)
陽極反応については、供給する電解液によるが、硫酸溶液を用いる場合、以下の反応が進行する。
2)陽極反応
2HO→O+4H+4e・・・(5)
【0033】
上記のように、ペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素の還元反応は全て2電子還元であるので、評価液中の酸化性物質の電解還元に使用された総クーロン量が分かれば、元々の評価液中の酸化性物質の総濃度へと換算することが可能となる。
【0034】
本発明における、電解開始から電解停止までの所定の時間は、求められる測定精度に応じて任意に設定することができる。評価液中の酸化性物質が電解還元によって十分少なくなったときを電解停止と設定する場合、例えば、電解開始の電流値を検知して、電流値が電解開始時の1/100となった時点を、電解停止時として設定することができる。電解停止時を設定するための電流値は、電解開始時の1/100、1/10等、任意に設定できるが、小さいほど精度が高いものとなる。また、例えば、既に濃度がわかっている十分に濃度の薄い酸化性物質を含む評価液の電流値をあらかじめ測定しておき、その電流値となった時点を電解停止時と設定することもできる。この場合、電解停止時を設定するための酸化性物質を含む評価液の酸化性物質濃度、および、その電解測定から得られる電流値は、小さいほど精度の高いものとなる。さらに、評価液中の酸化性物質の電解還元電流値の減衰波形をあらかじめ測定しておき、電解初期の電流値から電解停止までに要する総クーロン量を、あらかじめ測定しておいた減衰波形と電解初期の電流値とから計算で算出する場合、例えば、電解開始の電流値を検知して、電流値が電解開始時の1/100となるまでに要する総クーロン量を、あらかじめ測定しておいた減衰波形と電解開始時の電流値とから算出することもできる。一般に、測定時間が長いほど測定精度は高くなるものと考えられるが、濃度計としては、測定時間が短いほど好ましい。
【0035】
また、本発明の酸化性物質の総濃度測定方法に好適に用いられる本発明の酸化性物質の総濃度測定用濃度計は、評価液中の酸化性物質の還元を行う電解セルと、電解セルに電圧または電位を印加する印加部と、電解セルに印加される電圧または電位を制御する制御部と、電解セルにおける、電解開始から所定の電解停止時間までの還元電流値より総クーロン量を算出するクーロン量算出部と、クーロン量算出部で算出された総クーロン量より酸化性物質の総濃度を算出する濃度算出部と、を備えるものである。
【0036】
また、本発明の酸化性物質の総濃度測定方法で算出された値の出力方法や他の装置への伝達方法については、特に限定されず、任意の方法を用いることができる。
【0037】
以下、本発明の酸化性物質の総濃度測定方法および総濃度測定用濃度計の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0038】
本発明において、電解セルの形状は特に限定されず、筒状や枡状など、任意の形状を選択することができる。また、各電極の位置についても任意に設定できるが、陽極は、陰極近傍にあるほど液抵抗が小さいため好ましい。また、電解セルが参照電極を備える場合には、参照電極を陰極の中心近傍に設置すると、電位分布にばらつきが少なくなるので、好ましい。ここで、電解セルに電圧を印加して測定を行う場合には、電極として陰極および陽極の2極を用いる。陽極は参照電極であってもよく、その他の電極であってもよい。電解セルに電位を印加して測定を行う場合には、電極として陰極、陽極および参照電極の3極を同時に用いる。
【0039】
図1は、本発明の測定方法および濃度計に使用する電解セルの一例を示したものである。図示する電解セルは、隔膜16により陰極室3と陽極室4とに区画されている。このうち陰極室3には白金メッシュ陰極8が収容され、この白金メッシュ陰極8近傍には多孔質ガラス液絡部11を有するAg/AgCl(内部液:飽和KCl)参照電極10が収容され、かつ、酸化性物質を含む評価液が満たされており、陽極室4には白金メッシュ陽極9が収容され、かつ、陰極室3と同濃度の酸化性物質を含む評価液が満たされている。陰極室3には陰極液供給口14が接続され、この陰極液供給口14を通して、陰極液である酸化性物質を含む評価液が陰極室3に供給される。また、陽極室4には陽極液供給口15が接続され、この陽極液供給口15を通して、陽極液が陽極室4に供給される。陰極室3において電解された酸化性物質を含む評価液は、陰極室排出口1より排出される。また、陽極室4において生成した酸素および酸化性物質を含む評価液は、陽極室排出口2より排出される。ここで、陰極としては、白金メッシュ陰極8に代えて、金、炭素材料および銀を含む電極を使用してもよい。また、陽極としては、白金メッシュ陽極9に代えて、その他の陽極を使用してもよい。さらに、陽極液としては、酸化性物質を含む評価液に代えて、その他の溶液を使用してもよい。なお、図中の符号5は陰極給電端子、符号6は陽極給電端子、符号7は参照電極給電端子、符号12は陰極室エンドプレート、符号13は陽極室エンドプレート、符号17は電解セルのシール材を、それぞれ示す。
【0040】
図2は、本発明の濃度計の一例を示したものである。図示する濃度計において、酸化性物質を含む評価液は、酸化性物質溶液供給ライン21より、酸化性物質溶液供給ポンプ22および流量計23を用いて、電解セル24の陰極室3および陽極室4に供給される。供給された評価液中、酸化性物質が陰極室3において電解還元され、水が陽極室4において電解酸化されて、酸化性物質溶液排出ライン20により排出される。電解が終了すると、電解開始から電解終了まで、経時的に測定された電流値の変化と、その電流が流れた時間とを積算することで、総クーロン量が算出され、その総クーロン量より酸化性物質の総物質量が算出されて、総物質量とあらかじめ測定もしくは計算された陰極液量とより、酸化性物質の総濃度が算出される。ここで、図中、電解用直流電源が電解セルに電圧または電位を印加する印加部に相当し、電解用直流電源は制御部を介してクーロン量算出部および濃度算出部に接続されている。なお、制御部には、電解セルに印加される電圧または電位の制御と併せて、測定時間の制御も行わせることができる。
【0041】
ここで、本発明において、電解液の流量は制限されない。電解中、電解液は停止した状態であってもよいし(流量ゼロ)、ポンプを用いて一定の流量で排出されていてもよい。
【0042】
図3は、本発明の測定方法および濃度計に使用できる電解セルの他の例を示したものである。図示する電解セルは隔膜を有することなく電解を行うものであり、陰極液供給口および陽極液供給口の代わりに評価液供給口19を用い、陰極液排出口および陽極液排出口の代わりに評価液排出口18を用いた点以外は、図1と全く同一の構成を有し、符号も同一の符号を用いているので、工程の説明については省略する。
【0043】
本発明における隔膜16とは、陰極室3と陽極室4とを区画しつつ、イオン交換作用や、隔膜内の孔を通して電解液および/またはイオンが陰極室3と陽極室4との間を移動することによって、導電性を発現させるものである。構成材料については特に制限されないが、耐久性の面からは、フッ素樹脂系陽イオン交換膜、または、親水化処理を行った多孔質フッ素系樹脂膜若しくは多孔質ガラスよりなる隔膜を用いることが好ましい。
【0044】
本発明に係る電解セルにおける陽極反応は、上記式(5)に示す水の電解酸化による酸素発生であるが、陽極近傍に過酸化水素が存在する場合、下記式(6)に示す反応も進行する。
→O+2H+2e ・・・(6)
過酸化水素を含有する評価液中の酸化性物質の総濃度を測定する際には、隔膜がないと、上記式(6)によって過酸化水素が陽極で電解酸化されてしまう。また、ペルオキソ二硫酸およびペルオキソ一硫酸のみを含有する評価液中の酸化性物質の総濃度測定においても、ペルオキソ二硫酸およびペルオキソ一硫酸は以下の自己分解反応によって経時で過酸化水素を生成し、生成した過酸化水素は上記式(6)によって陽極で電解酸化されてしまう可能性があるため、本発明において、電解セルには隔膜を設けることが好ましい。
+HO→HSO+HSO ・・・(7)
SO+HO→H+HSO ・・・(8)
【0045】
本発明において、電極材料については特に限定されないが、白金、金、炭素材料および銀からなる群より選択される少なくとも一種から構成されたものが好ましい。特に、酸化性物質の還元反応に利用される陰極については、水素発生電位よりも貴な電位で、ペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素イオンの還元反応が進行する電極材料を用いることが好ましい。また、測定時間を短縮できる観点からは、陰極材料として、酸化性物質の還元反応速度が速い白金を用いることが、より好ましい。
【0046】
また、本発明においては、電解セルにおいて、評価液を、下記式(1)、
0.5<X/Y ・・・(1)
(式中、Xは陰極表面積(dm)であり、Yは陰極液量(ml)である)を満足する条件で電解することが好ましい。X/Yが0.5以下では、陰極表面積に対する陰極液量が多すぎるため、電解還元が進行するとともに酸化性物質の拡散層が広がり、それによって酸化性物質の還元反応速度が遅いものとなってしまう。したがって、測定時間を短縮する観点から、X/Yは0.5より大きいことが好ましい。X/Yは大きいほど好ましいが、陰極表面積が大きくなりすぎると陰極の電位分布にばらつきが生じたり、電極材料コストが高くなるという問題が生ずる。一方、陰極液量が少なくなりすぎると電解セルが小さくなりすぎて、セルの内部容量の精度が低いものとなってしまい、酸化性物質の総濃度測定の精度低下につながってしまうので、X/Yの上限は15程度であると考えられる。
【0047】
本発明において、電極表面積の測定は、白金であれば水素吸着法により行うことができ、炭素材料、金または銀であればBET法で行うことができる。
【0048】
また、本発明における陰極液量とは、電解セル内に存在する陰極側の電解液量を意味する。隔膜を有しない電解セルの場合には、電解セル内に存在する電解液量の総量を意味する。
【0049】
図4に、硫酸濃度3.73mol/l、ペルオキソ二硫酸イオン濃度0.3mol/lのペルオキソ二硫酸アンモニウムを含む硫酸溶液、硫酸濃度3.73mol/l、ペルオキソ一硫酸イオン濃度0.3mol/lのペルオキソ一硫酸塩を含む硫酸溶液、および、硫酸濃度3.73mol/l、過酸化水素濃度0.3mol/lの過酸化水素を含む硫酸溶液の、白金電極上でのリニアスイープボルタモグラムを各々示す(電位走査速度:50mV/s)。図4から、水の還元反応による水素発生電位(−0.20Vvs.Ag/AgCl)よりも貴な電位で、上記式(2)〜(4)で表される、ペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素の還元反応が進行していることがわかる。このように、水素発生電位よりも貴な電位でペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素イオンの還元反応が進行する陰極を用いて、水素発生電位よりも貴な電位に電極電位を保持した場合、電解停止までの総クーロン量には、酸化性物質の還元反応に要したクーロン量のみが含まれ、水素発生に要したクーロン量が含まれないので、酸化性物質の総濃度を精度良く測定できる。一方で、ペルオキソ二硫酸を含む硫酸溶液、ペルオキソ一硫酸を含む硫酸溶液および過酸化水素を含む硫酸溶液の還元電位が水素発生電位とほぼ同程度の電位となる電極では、総クーロン量には、酸化性物質の還元反応に要したクーロン量のみならず、水素発生に要したクーロン量が同時に含まれるので、酸化性物質の総濃度を精度良く測定することはできない。
【0050】
本発明においては、電解セルの電圧または陰極電位を、陰極において水素発生も過酸化水素酸化も生じない電圧または電位に保持することが好ましい。ここで、陰極電位を制御する場合には、電解セルとして、参照電極を有するものを用いる。なお、陰極電位は、水素発生電位よりも貴かつ過酸化水素酸化電位よりも卑な電位に保持することが好ましいが、より卑な電位に保持することで、酸化性物質の還元反応速度を速めることができるため、測定時間を短縮できる観点から、より好ましい。
【0051】
本発明に用いる参照電極の種類および形状については特に限定されないが、取り扱いの容易さの点からは、Ag/AgCl参照電極、硫酸溶液を用いる点からは、水銀/硫酸水銀参照電極などが挙げられる。
【0052】
本発明に用いる陽極の種類および形状については特に限定されないが、白金、金、炭素材料および銀などが挙げられ、また、Ag/AgCl(内部液:飽和KCl)、水銀/硫酸水銀電極などの参照電極として用いられる材料を陽極として使用することもできる。
【0053】
本発明の濃度計は、評価する溶液の流れ方向に対して、本濃度計の上流側では、評価液を流通させる工場配管や装置内配管等に接続し、また、下流側では、廃液する配管に接続することで、装置付属の濃度計として利用できる。配管への接続方法については任意に設定できるが、例えば、工場配管や装置配管等から分岐させた配管を濃度計に接続し、その後、廃液する配管に接続することができる。
【0054】
本発明の硫酸電解装置は、上記本発明の酸化性物質の総濃度測定用濃度計を搭載したものである。本発明において、濃度計を硫酸電解装置に搭載または接続して利用する場合には、例えば、評価液を連続的に濃度計に流通させて、濃度を連続的に監視することが可能であり、例えば、電解硫酸溶液を調製するバッチ工程における最終濃度確認のためなどに、必要に応じて非連続的に濃度測定を行ってもよい。
【0055】
本発明の硫酸電解装置においては、特に限定されないが、硫酸電解槽として、陽極および陰極に導電性ダイヤモンドを用い、隔膜として多孔質PTFEからなる隔膜を用いた電解槽を好適に用いることができる。かかる硫酸電解装置における電解工程では、まず、第1工程として、陽極液タンクに、濃硫酸供給ラインおよび超純水供給ラインを介して濃硫酸と超純水とをそれぞれ供給し、陽極液タンク内にて硫酸の濃度調整を行う。ここで、硫酸の濃度調整を陽極液タンク内で行うことは必須ではなく、あらかじめ濃度調整した硫酸を陽極液タンクに供給してもよい。このときの硫酸溶液の濃度は、任意に調整することができる。次に、第2工程では、陽極液タンク内の硫酸溶液を、陽極循環ポンプにて電解槽内の陽極室に圧送し、電解を行う。この工程によって陽極では酸化性物質を有する電解硫酸を作製する。さらに、第3工程では、電解液を、発生した陽極ガスとともに、陽極循環ポンプにて、陽極液供給ライン、陽極室、陽極液循環ラインおよび陽極液タンクを循環させて、十分に攪拌しながら、電解を続けて行う。ここで、電解液の循環を行わずに、電解液を電解セルに一度だけ流通させる、いわゆるワンパスの方法を用いてもよい。このとき陽極ガスは、陽極液タンクで気液分離し、装置外へ排出する。なお、陰極液タンク側においても、記載はしないが、同様の機構により、同様に循環、攪拌を行うことができる。
【0056】
本発明において、濃度計を硫酸電解装置に接続して利用する場合、濃度計の接続箇所は特に限定されず、任意の位置に設置できるが、陽極タンクもしくは電解セル直後の陽極液循環ラインに接続することが好ましい。このとき、評価液は、上記硫酸電解装置の陽極タンクや循環ライン等から酸化性物質の総濃度測定用濃度計に直接供給するよう設置してもよいし、上記循環ラインや陽極タンクから一度評価液用タンクに供給後、濃度計に供給してもよい。
【0057】
また、本発明において、濃度計を硫酸電解装置に接続して利用する場合には、濃度計で測定した結果に基づき、所定の酸化性物質の総濃度を目的値として、硫酸電解装置の電解時間や電流値、温度、液滞留時間などを制御しつつ、運転することができる。
【実施例】
【0058】
次に、本発明を実施例および比較例を挙げて、具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
本発明における、電極表面積の算出、評価に使用した電解液の作製、作製した電解液中のペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素の濃度測定、酸化性物質の総濃度測定、総クーロン量の算出、並びに、総クーロン量と陰極液量とから算出した酸化性物質の総濃度の算出は、それぞれ以下に従い行った。また、下記の表1,3,5,7に、各実施例および比較例における電解セルおよび評価液(電解液)の条件、並びに、評価条件をまとめて示す。
【0060】
<白金の電極表面積算出>
白金の電極表面積を算出するため、電極のサイクリックボルタンメトリー測定を行った。具体的には、−0.15〜0.20V(vs.Ag/AgCl)に見られる水素吸着ピークについて、サンプリング周期と、観測された電流値から電極二重層充電のための電流値を差し引いた値の絶対値との積により、水素吸着の総クーロン量を算出した。この総クーロン量から、あらかじめ把握している係数(Pt表面積1cmあたり210μC(210μC/cm))の値で除することにより、電気化学反応に有効に使用されているPtの表面積を算出した。
・電解セル:蓋付ガラスセル
・作用極:濃度計に使用する白金メッシュ陰極・陽極
・対極:白金メッシュ
・参照極:Ag/AgCl(内部液:飽和KCl)
・電解液:3.73mol/l%硫酸(測定前にはセル内が陽圧となる条件で電解液中に30分Nバブリングを行った。)
・測定装置:北斗電工(株)製 HABF−5001
・サンプリング周期:50ms
・電位走査速度:50mV/s
・電位走査範囲:−0.15〜0.20V(vs.Ag/AgCl)
・電気二重層充電電流:0.20V(vs.Ag/AgCl)の電流値を用いた。
【0061】
<カーボンフェルトの電極表面積算出>
窒素ガスの吸着等温測定から、BET法によるカーボンフェルトの表面積を、ユアサアイオニクス(株)製の全自動ガス吸着装置「AUTOSORB−1」を用いて求めた。測定対象に対して、窒素流通下、350℃で30分間、予備乾燥を行った後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用いて、ガス流動法による窒素吸着BET10点法によって測定した。
【0062】
<評価液の作製(硫酸溶液)>
1lの評価液を作製するために必要な98%硫酸の重量を下記式(9)に基づき算出し、1lメスフラスコに、98%硫酸(HSO:関東化学(株)製)を採取して、超純水を加えて全1lの評価液とした。

(式中、A(g)は1lの評価液の作製に必要な98%硫酸の重量を示す)
【0063】
<評価液の作製(電解硫酸溶液)>
電解面積1.000dmの導電性ダイヤモンド電極を陽極および陰極に用いた隔膜付き電解セルを用いて、陽極液および陰極液をそれぞれ循環しながら硫酸を電解し、以下の条件に従い電解硫酸溶液の製造を行った。評価液は、1lメスフラスコに、98%硫酸(関東化学(株)製)を上記式(9)に基づき372g採取して、超純水を加えて全1lに希釈し、硫酸イオンを3.72mol/l含む電解液とし、そのうち300mlを陽極液、残り300mlを陰極液として使用した。電解時間は、酸化性物質の総濃度に合わせて調整した。
・セル電流:100A
・電流密度:100A/dm
・陽極液量:300ml
・電解液温度:28℃
・陽極液流量:1l/min
・陰極液流量:1l/min
・陽極電解液:3.73mol/l硫酸
・陰極電解液:3.73mol/l硫酸
・隔膜:(住友電工ファインポリマー(株)製のポアフロン(登録商標))
【0064】
<評価液の作製(ペルオキソ二硫酸アンモニウムを含む硫酸溶液)>
1lの評価液を作製するために必要な98%硫酸の重量を上記式(9)に基づき算出し、ペルオキソ二硫酸アンモニウムの重量を下記式(10)に基づき算出して、1lメスフラスコに、98%硫酸(関東化学(株)製)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム((NH:和光純薬工業(株)製)および超純水を加えて、全1lの評価液とした。評価液の作製は、評価液の温度が上昇しないように、メスフラスコの底を冷却水で冷やしながら行った。

(式中、B(g)は1lの評価液の作製に必要なペルオキソ二硫酸アンモニウムの重量を示す)
【0065】
<評価液の作製(ペルオキソ一硫酸塩を含む硫酸溶液)>
1lの評価液を作製するために必要な98%硫酸の重量を上記式(9)に基づき算出し、オキソン(登録商標)一過硫酸塩化合物の重量を下記式(11)に基づき算出して、1lメスフラスコに、98%硫酸(関東化学(株)製)、オキソン(登録商標)一過硫酸塩化合物(2KHSO・KHSO・KSO:和光純薬工業(株)製)および超純水を加えて、全1lの評価液とした。評価液の作製は、評価液の温度が上昇しないように、メスフラスコの底を冷却水で冷やしながら行った。

(式中、C(g)は1lの評価液の作製に必要なオキソン(登録商標)一過硫酸塩の重量を示す)
【0066】
<評価液の作製(過酸化水素を含む硫酸溶液)>
1lの評価液を作製するために必要な98%硫酸の重量を上記式(9)に基づき算出し、35%過酸化水素の重量を下記式(12)に基づき算出して、1lメスフラスコに、98%硫酸(関東化学(株)製)、35%過酸化水素(H:和光純薬工業(株)製)および超純水を加えて、全1lの評価液とした。評価液の作製は、評価液の温度が上昇しないように、メスフラスコの底を冷却水で冷やしながら行った。

(式中、D(g)は1lの評価液の作製に必要な過酸化水素の重量を示す)
【0067】
<ラマン分光法による評価液中のペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素の濃度測定>
作製した評価液中のペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素の濃度測定を、ラマン分光法を用いて行った。測定条件および測定方法は以下に示すとおりである。濃度が既知のペルオキソ二硫酸アンモニウムを含む硫酸溶液、ペルオキソ一硫酸塩を含む硫酸溶液、および、過酸化水素を含む硫酸溶液を、上記(10),(11),(12)式に基づき作製・測定し、仕込みの酸化性物質総濃度とラマン分光結果から検量線を作成して、濃度換算に利用した。なお、硫酸濃度は3.73mol/lとした。
・測定装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製ラマン分光光度計
・型式:AlMEGA XR
・レーザー光:532nm
・露光時間:2.00秒
・露光回数:20
・バックグラウンド露光回数:20
・グレーティング:672lines/mm
・測定幅:700〜1500cm−1
・分光器アパーチャ:25μmスリット
・マクロ試験室にて低分解能測定
・スペクトル補正:全範囲の強度から、710cm−1と1140cm−1の強度を直線で結んだベースライン値を差し引いた。
・ペルオキソ二硫酸濃度測定には832cm−1のときの強度を利用した。
・ペルオキソ一硫酸濃度測定には770cm−1のときの強度を利用した。
・過酸化水素濃度測定には872cm−1のときの強度を利用した。
【0068】
<総クーロン量算出>
電流値(A)の絶対値とそれを流した時間(s)との積分により、還元反応の総クーロン量を算出した。今回の電流値のサンプリング周期は50msとし、電解開始から電解停止までの総クーロン量を算出した。電解開始時の電流値が1/100まで小さくなったとき、電解を停止した。
【0069】
<総クーロン量を用いた酸化性物質の総濃度の算出>
総クーロン量と陰極液量とから、下記式(13)に基づき、酸化性物質の総濃度を算出した。

(式中、E(mol/l)は酸化性物質の総濃度を示す)
【0070】
<ラマン分光測定結果とのずれ>
全電解方式から算出した酸化性物質の総濃度と、ラマン分光法による酸化性物質の総濃度の値のずれを以下式から算出した。

(式中、F(%)はラマン分光測定結果とのずれを示す)
【0071】
<実施例1>
図2で示す濃度計に、図1に示すような、陰極に電極面積1.16dmの白金メッシュ電極を、陽極に電極面積2.32dmの白金メッシュ電極を、参照電極にAg/AgCl(内部液:飽和KCl)参照電極を、それぞれ用いた隔膜付き電解セル24を組み込んで、酸化性物質総濃度1.00mol/l、硫酸濃度3.73mol/lの電解硫酸溶液中の酸化性物質の総濃度測定を行った。なお、評価液の作製から測定開始までの時間は10分であった。以下、実施例1に係る酸化性物質の総濃度測定方法を全電解方式と称する。電解開始時の電流値の絶対値は0.8Aであったため、電解停止は、電解開始時の電流値の1/100である0.008Aまで電流値が減衰したときとした。その結果を、下記の表2および図5に示す。
【0072】
<実施例2〜4>
実施例2〜4として、電解硫酸溶液中の酸化性物質の総濃度、および、評価液作製から測定開始までの時間を変えることにより、評価液中の酸化性物質成分の割合を変えた評価液を用いた以外は実施例1と同様の方法で、評価液中の酸化性物質の総濃度を測定した。その結果を、下記の表2および図5(実施例2,3のみ)に示す。
【0073】
<実施例5〜7>
評価液として、上記式(9)および(10)に基づき作製した硫酸濃度3.73mol/l、ペルオキソ二硫酸イオン濃度0.30mol/lのペルオキソ二硫酸アンモニウム硫酸を含む硫酸溶液、上記式(9)および(11)に基づき作製した硫酸濃度3.73mol/l、ペルオキソ一硫酸イオン濃度0.30mol/lのペルオキソ一硫酸塩を含む硫酸溶液、および、上記式(9)および(12)に基づき作製した硫酸濃度3.73mol/l、過酸化水素濃度0.30mol/lの過酸化水素を含む硫酸溶液を用いた以外は実施例1と同様の方法で、評価液中の酸化性物質の総濃度を測定した。その結果を、下記の表2に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
実施例1において、上記総クーロン量算出方法に従い総クーロン量を算出したところ、77Cであった。また、上記総クーロン量を用いた酸化性物質の総濃度算出方法に従い、評価液中の酸化性物質総濃度を算出したところ、1.00mol/lであった。この値は、ラマン分光法で得られた酸化性物質の総濃度の結果と一致したため、本発明に従う酸化性物質の総濃度測定方法を用いた濃度計により、酸化性物質の総濃度が精度良く測定されていることが確かめられた。
【0077】
また、実施例2〜7においても、ラマン分光法で得られた酸化性物質の総濃度の結果と近い数値が得られており、本発明に従う酸化性物質の総濃度測定方法を用いた濃度計により、酸化性物質の総濃度が精度良く測定されていることが確かめられた。
【0078】
実施例1〜7の結果から、酸化性物質の成分および濃度が異なる評価液であっても、本発明に従う酸化性物質の総濃度測定方法を用いた濃度計により、酸化性物質の総濃度を精度良く評価できることが確かめられた。
【0079】
<実施例8>
陰極としてカーボンフェルトを用い、保持電位を下記表中に示すように変更した以外は実施例4と同様の方法で、評価液中の酸化性物質の総濃度を測定した。その結果を、下記の表4に示す。
【0080】
<実施例9>
実施例9として、電解セルに図3に示す無隔膜電解セルを用いた以外は実施例4と同様の方法で、評価液中の酸化性物質の総濃度を測定した。その結果を、下記の表4に示す。
【0081】
<実施例10〜12>
陰極液量および陰極表面積/陰極液量の比を下記表中に示すように変更した以外は実施例4と同様の方法で、評価液中の酸化性物質の総濃度を測定した。その結果を、下記の表4に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
実施例8において、カーボンフェルトを用いた場合にも、ラマン分光法で得られた酸化性物質の総濃度の結果と近い数値が得られており、本発明に従う酸化性物質の総濃度測定方法を用いた濃度計により、酸化性物質の総濃度が精度良く測定されていることが確かめられた。また、この結果より、白金およびカーボンフェルトに代表される、水素発生電位から過酸化水素酸化電位までの電位の間でペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素などの多成分を還元することが可能な電極であれば、本発明の濃度計の電解セルの陰極として利用できることがわかった。
【0085】
実施例9においては、ラマン分光法で得られた酸化性物質の総濃度の結果と若干ずれが生じることがわかった。これは、過酸化水素が陽極側で酸化されてしまったためと考えられる。この結果より、電解セルとしては、隔膜を有しているものを用いるほうが、精度良く測定できることがわかった。
【0086】
実施例10〜12においては、ラマン分光法で得られた酸化性物質の総濃度の結果と近い数値が得られており、本発明に従う酸化性物質の総濃度測定方法を用いた濃度計により、酸化性物質の総濃度が精度良く測定されていることが確かめられた。一方で、実施例10〜12と実施例4の結果とを比較することで、陰極液量が大きく、陰極表面積/陰極液量の比が小さいほど、電解開始から停止までの時間が長くなることがわかった。この結果より、陰極液量が少なく、陰極表面積/陰極液量の比が大きいほど、電解開始から停止までの時間を短縮することができるので、応答速度が速い濃度計を作製できることがわかった。
【0087】
<実施例13〜15>
陰極室の保持電位を下記表中に示すように変更した以外は実施例4と同様の方法で、評価液中の酸化性物質の総濃度を測定した。その結果を、下記の表6に示す。
【0088】
<実施例16>
電解停止を電解開始時の電流値の1/10である0.08Aまで電流値が減衰したときとした以外は実施例4と同様の方法で、評価液中の酸化性物質の総濃度を測定した。その結果を、下記の表6に示す。
【0089】
【表5】

【0090】
【表6】

【0091】
実施例13〜15においては、実施例4の結果と比較して、保持電位が貴になるほど、電解停止までの時間が長くなることがわかった。これは、保持電位が貴になるほど酸化性物質の還元速度(=電流値)が小さくなるためであると考えられる。保持電位が0.4V(vs.Ag/AgCl)になると、ラマン分光法で得られた酸化性物質の総濃度の結果からずれが生じることがわかった。これは、図4からもわかるように、この電位ではペルオキソ二硫酸イオンの還元反応が起こりにくいためであると考えられる。この結果より、保持電位は、用いた陰極に合わせて水素発生電位から過酸化水素酸化電位の間に保持することが効果的であり、より卑な電位に保持すると、応答速度がより速い濃度計を作製できることがわかった。実施例15では、実施例4と比べて酸化性物質総濃度が高くなり、ラマン測定結果とずれが生じた。これは総クーロン量の一部に水素発生の電流値を含んでいることによるものと考えられる。
【0092】
実施例16の結果からは、実施例4の結果と比較して、電解停止を設定する電流値が大きくなると、電解開始から終了までに要した時間は短くなるものの、検出できる酸化性物質の総濃度が低いものとなり、その結果、ラマン測定結果とのずれが大きくなることがわかった。
【0093】
<比較例1〜5>
比較例1〜5として、電解硫酸溶液中の酸化性物質の総濃度、および、評価液作製から測定開始までの時間を変えることにより、評価液中の酸化性物質成分の割合を変えた評価液を用い、電解面積0.01cmの白金陰極を用いて、陰極電位を0.8Vから−0.2V(vs.Ag/AgCl)まで走査速度50mV/sにて電位走査し、還元電流値のピーク値を検出した。その結果を、下記の表8に示す。
【0094】
【表7】

【0095】
【表8】

【0096】
比較例1〜5においては、酸化性物質の総濃度と電流値とに相関関係が得られないことがわかった。これは、図4からも明らかなように、酸化性物質成分によって還元速度(=電流値)が異なるためであると考えられる。この結果から、還元電流検出方式の濃度計は、ペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素などの多成分を高濃度に含有する硫酸溶液の酸化性物質の濃度計としては、利用できないことが確かめられた。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、ペルオキソ二硫酸イオンやペルオキソ一硫酸イオン、過酸化水素などの多成分の酸化性物質を高濃度に含有する評価液中の酸化性物質の総濃度測定方法として、有用である。
【符号の説明】
【0098】
1 陰極室排出口
2 陽極室排出口
3 陰極室
4 陽極室
5 陰極給電端子
6 陽極給電端子
7 参照電極給電端子
8 白金メッシュ陰極
9 白金メッシュ陽極
10 Ag/AgCl参照電極
11 多孔質ガラス液絡部
12 陰極室エンドプレート
13 陽極室エンドプレート
14 陰極液供給口
15 陽極液供給口
16 隔膜
17 シール材
18 評価液排出口
19 評価液供給口
20 酸化性物質溶液排出ライン
21 酸化性物質溶液供給ライン
22 酸化性物質溶液供給ポンプ
23 流量計
24 電解セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化性物質を少なくとも一種含有する評価液中の酸化性物質の総濃度を測定する方法であって、
電解セルを用いて前記評価液中の前記酸化性物質を還元する電解工程と、該電解工程における、電解開始から所定の電解停止時間までの還元電流値より総クーロン量を算出するクーロン量算出工程と、該クーロン量算出工程で算出された該総クーロン量より前記酸化性物質の総濃度を算出する濃度算出工程と、を少なくとも含むことを特徴とする酸化性物質の総濃度測定方法。
【請求項2】
前記評価液が、前記酸化性物質として、ペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素のうちの少なくとも一種を含有する請求項1記載の酸化性物質の総濃度測定方法。
【請求項3】
前記電解セルが、隔膜により陽極室と陰極室とに区画され、かつ、該陰極室内に陰極を、該陽極室内に陽極を、それぞれ備える請求項1または2記載の酸化性物質の総濃度測定方法。
【請求項4】
前記電解工程において、前記評価液を、下記式(1)、
0.5<X/Y ・・・(1)
(式中、Xは陰極表面積(dm)であり、Yは陰極液量(ml)である)を満足する条件で電解する請求項1〜3のうちいずれか一項記載の酸化性物質の総濃度測定方法。
【請求項5】
前記電解セル内の陰極として、白金、金、炭素材料および銀からなる群より選択される少なくとも一種から構成されたものを用いる請求項1〜4のうちいずれか一項記載の酸化性物質の総濃度測定方法。
【請求項6】
前記電解セルの電圧または陰極電位を、陰極において水素発生および過酸化水素酸化のいずれも生じない電圧または電位に保持する請求項1〜5のうちいずれか一項記載の酸化性物質の総濃度測定方法。
【請求項7】
酸化性物質を少なくとも一種含有する評価液中の酸化性物質の総濃度の測定に用いられる濃度計であって、
前記評価液中の前記酸化性物質の還元を行う電解セルと、該電解セルに電圧または電位を印加する印加部と、該電解セルに印加される電圧または電位を制御する制御部と、該電解セルにおける、電解開始から所定の電解停止時間までの還元電流値より総クーロン量を算出するクーロン量算出部と、該クーロン量算出部で算出された該総クーロン量より前記酸化性物質の総濃度を算出する濃度算出部と、を備えたことを特徴とする酸化性物質の総濃度測定用濃度計。
【請求項8】
前記電解セルが、隔膜により陽極室と陰極室とに区画され、かつ、該陰極室内に陰極を、該陽極室内に陽極を、それぞれ備える請求項7記載の酸化性物質の総濃度測定用濃度計。
【請求項9】
前記電解セルにおいて、前記評価液が、下記式(1)、
0.5<X/Y ・・・(1)
(式中、Xは陰極表面積(dm)であり、Yは陰極液量(ml)である)を満足する条件で電解される請求項7または8記載の酸化性物質の総濃度測定用濃度計。
【請求項10】
前記電解セル内の陰極が、白金、金、炭素材料および銀からなる群より選択される少なくとも一種から構成される請求項7〜9のうちいずれか一項記載の酸化性物質の総濃度測定用濃度計。
【請求項11】
前記電解セル内の電圧または陰極電位が、陰極において水素発生および過酸化水素酸化のいずれも生じない電圧または電位に保持される請求項7〜10のうちいずれか一項記載の酸化性物質の総濃度測定用濃度計。
【請求項12】
請求項7〜11のうちいずれか一項記載の酸化性物質の総濃度測定用濃度計を搭載したことを特徴とする硫酸電解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−215462(P2012−215462A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80762(P2011−80762)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000105040)クロリンエンジニアズ株式会社 (48)
【Fターム(参考)】