説明

酸化物コーティング酸化チタン含有液及びその製造方法

【課題】酸化物によって被覆された酸化物コーティング酸化チタンが凝集することなく高分散に含有される液を得る手段を提供する。
【解決手段】本発明に係る酸化物コーティング酸化チタンの製造方法は、酸化チタンの分散液に、酸化物前駆体を加えて加熱することによって、当該酸化チタンを酸化物で被覆する。これにより、粒子径が細かく且つ均一な酸化物コーティング酸化チタンが得られる。また、透光率の高い酸化物コーティング酸化チタン含有液が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物コーティング酸化チタン含有液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光触媒の研究が、幅広い分野において盛んに行われている。環境問題に対する取り組みとして、化石燃料に代わる太陽光を利用したクリーンなエネルギーを入手する研究が推進されている。光触媒においては、エネルギー源として太陽光を利用することが可能である。よって、太陽光を利用した太陽電池に関する研究が行われている。
【0003】
従来のシリコン型の太陽電池に置き換わり、コストや軽量化の面から、色素増感型太陽電池が注目されている。色素増感型太陽電池は、金属酸化物半導体の上に吸着された増感色素が吸収した光のエネルギーを、電気的なエネルギーへと変換するものである。太陽光に代表される光のエネルギーを増感色素が吸収すると、その増感色素中の電子のエネルギー状態が高くなって、増感色素中の電子が励起される。励起された電子は、増感色素から金属酸化物半導体に移動する。移動した電子は、金属酸化物半導体から電極対の作用極へ移動し、外部回路を経由して対向電極へ移動する。対向電極に移動した電子は、電極間の電解質を介して増感色素へと戻る。色素から放出された電子は系の中を循環する。この電子の移動により、電流が発生する。
【0004】
金属酸化物半導体としては、酸化チタンや酸化亜鉛等が挙げられる。これらの金属酸化物半導体が核とされて、金属酸化物半導体の粒子の表面に金属酸化物を被覆する手法が試みられている。酸化物としては、金属酸化物半導体より高いエネルギーレベルの伝導帯を有するものが使用される。励起されて増感色素から放出された電子の逆注入が軽減される。すなわち、励起された電子が、電極間の電解質へと放出されることや、増感色素と再結合されてしまうといった問題が改善されることが知られている(特許文献1,2,3,非特許文献1)。
【0005】
光機能性材料として酸化チタンを用いる場合、特にアナターゼ型の結晶構造のものがエネルギーの変換効率が高いことが知られている(特許文献4)。光機能性材料として酸化チタンが利用される場合において、製品の安定性のため、粒子径の均一性が高い酸化チタン微粒子の研究が行われている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−59646号公報
【特許文献2】特開2008−288477号公報
【特許文献3】特開2004−47264号公報
【特許文献4】特開2009−40622号公報
【特許文献5】特開2007−176753号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「色素増感太陽電池におけるセル構成要素の影響」SHARP Technical Journal No.15 通巻83号 49−53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
酸化物で被膜された金属酸化物半導体を用いた色素増感型太陽電池は、前述されたように増感色素で励起され放出された電子の逆注入を減少されるという利点がある一方で、安定した光電変換効率が得られないといった欠点を有する。この欠点の原因として以下の要因が考えられている。
【0009】
従来の方法では、金属酸化物半導体の粒子の表面に、酸化物前駆体が塗布等によって吸着される。吸着された酸化物前駆体が乾燥された後に、焼成される。この焼成の工程で、酸化物前駆体は酸化されて、酸化物へと化学変化される。酸化によって、金属酸化物半導体の表面に酸化物が固定されて、酸化物の被膜が形成される。酸化物の被膜層が形成される焼成は、高温で行われる。酸化物の被膜層が形成されると同時に、金属酸化物半導体同士の凝集が起こり得る。酸化チタンは、乾燥によって凝集しやすく、凝集した酸化チタンの塊は、一度凝集すると分散しにくい性質を有する。
【0010】
酸化チタンを金属酸化物半導体の核となる粒子としたときに、乾燥工程や焼成工程において凝集が起こりやすい。酸化チタン粒子の凝集は、金属酸化物の形成と同時に進行したり、酸化チタン粒子が酸化物で被膜される前に起こったりする。この酸化チタン粒子の凝集によって、不均一な径の凝集体が生じ、酸化チタン粒子に対して酸化物が均一な層として被膜されないおそれがある。さらに、酸化物の分布が偏るおそれもある。酸化物の分布が偏ると、酸化チタン粒子の一部が酸化物で被覆されずに、酸化チタン粒子の表面が露出されるおそれがある。
【0011】
前述されたように酸化チタン粒子の凝集が起こると、結果として、色素が吸着できる酸化チタン粒子の表面積が狭くなり、酸化チタン粒子に吸着される色素の量が減少する。その結果、色素増感太陽電池において、光エネルギーを収集する機能が低下して、光電変換効率が低下する。
【0012】
また、酸化チタン粒子が凝集すると、入射光の散乱が大きくなり、酸化物で被覆された酸化チタン粒子が不透明となる。不透明な酸化チタン粒子によって膜を形成すると、その膜も不透明であるので、膜の内部まで光が届かない。したがって、膜の表面に存在する増感色素が主として機能し、内部の増感色素が機能しにくいので、色素増感太陽電池において、エネルギー変換効率が低下すると考えられる。膜の厚みが不均一となって、膜の物性が低下するおそれもある。
【0013】
また、酸化チタン粒子の表面が酸化物で被覆されずに露出すると、色素は酸化チタン粒子に直接接触することとなり、増感色素で励起されて放出された電子の逆注入が生じやすくなる。また、酸化チタンは強い酸化能力を有するので色素が酸化チタン粒子に長時間接触すると、色素が酸化されるおそれがある。酸化された色素は、光エネルギーを収集する能力を失うおそれがある。
【0014】
本発明は、前述された問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、酸化物によって被覆された酸化物コーティング酸化チタンが凝集することなく高分散に含有される液を得る手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る酸化物コーティング酸化チタンの製造方法は、酸化チタンの分散液に、酸化物前駆体を加えて加熱することによって、当該酸化チタンを酸化物で被覆する。
【0016】
酸化チタンが溶液中で長鎖脂肪酸で処理されることにより上記酸化チタン粒子の分散液が得られる。この分散液に酸化物前駆体を加えて加熱する。加熱によって、酸化物前駆体が酸化チタンの周囲において酸化されて酸化物となる。これにより、酸化チタンは酸化物で被覆される。
【0017】
溶媒への酸化チタンの分散、及び酸化物前駆体の酸化は、反応容器内で行われる。反応容器としては、例えば、三ツ口フラスコ、セパラブルフラスコなどの実験室で扱われるサイズの容器、大量生産用の反応釜及び微細な流路中で微細な量の反応を行うマイクロリアクタ等が挙げられる。これらの反応容器は、スターラのように内部に貯留される反応物を攪拌できる攪拌装置と、オイルバスのように内部の温度が制御される温度制御装置と、を備えるものが好ましい。反応容器は、外気が反応容器内に流入することなく、かつ反応過程において反応容器内に材料を注入することが可能な構造を有することが好ましい。
【0018】
酸化物前駆体の酸化は、不活性なガス雰囲気下で行われることが好ましい。大気中の酸素や水分等の存在によって、溶液や原料における余分な酸化反応等が起こることを防ぐためである。酸化チタンや溶液が反応容器内に封入された後に、反応容器の内部は不活性なガスで置換される。例えば、内部のガスを、減圧等の方法により反応容器から概ね除去した後に不活性なガスを反応容器に送り込む操作を数回繰り返す。不活性なガスは、例えばアルゴン、ヘリウム、ネオン等が挙げられる。不活性なガスは、比重や操作性などを考慮すると、アルゴンが最も好ましい。
【0019】
酸化チタンは、その結晶系により、例えばアナターゼ型、ルチル型、ブルカイット型、及びこれらの混合物等が挙げられる。特に、酸化物コーティング酸化チタンが太陽電池における光機能性材料として用いられる場合は、アナターゼ型の酸化チタンが用いられることが好ましい。アナターゼ型の酸化チタンは、光機能性材料として高いエネルギーの変換効率を有するためである。酸化チタンは、球状の粒子に限らず不定形な形状や、一定の形状を有する粒子であってもよい。
【0020】
本発明において、酸化チタンの平均粒子径は100nm以下であることが好ましい。更に好ましい平均粒子径は、50nm以下である。また、多分散度指数は0.3以下であることが好ましい。更に好ましい多分散度指数は、0.15以下である。平均粒子径及び多分散度指数が上記範囲内であることにより、得られる酸化物コーティング酸化チタンの粒子径が細かくかつ均一となり易い。酸化チタンは、水などの溶媒中において分散された状態で取り扱われることが好ましい。水などの溶媒中においては、酸化チタンが凝集されにくいからである。
【0021】
酸化チタンの分散液として使用される溶媒は、例えば、炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、フェノール系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アミン系溶媒、複素環系溶媒等が挙げられる。これら溶媒中において酸化物前駆体が加熱されて酸化されるので、この加熱工程の最高温度において溶媒が気化しないことが好ましく、具体的な好ましい溶媒としては、1−ドデカノールなどが挙げられる。
【0022】
長鎖脂肪酸としては、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸脂肪酸及びそれらのアミン誘導体などが好ましく、また、それらの塩も好ましい。例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、アラキジン酸、イコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などが挙げられる。炭化水素部分がある程度の長さを有するものが、溶液中においてミセルなどの自己集合体を構築しやすいので好ましい。長鎖脂肪酸の塩としては、前述されたような脂肪酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩などが、入手が容易という観点から好ましい。具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などが挙げられる。これら長鎖脂肪酸のうち、脂肪族モノカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸脂肪酸が好ましく、特に好ましい長鎖脂肪酸は、扱いやすさや入手しやすさの面からオレイン酸である。

【0023】
酸化物前駆体としては、酸化されたときの酸化物の伝導帯準位が、酸化チタンの伝導帯準位より高いことが好ましい。酸化物が半導体として扱われる場合において、逆注入が阻止されるからである。
【0024】
本発明において、前述された酸化チタン及び溶媒が反応容器に入れられて攪拌される。これらの混合比は、溶媒100重量部に対して、酸化チタン10重量部以下が好ましい。そして、反応容器内の大気が、不活性ガスに置換される。不活性ガス雰囲気下の反応容器内へ長鎖脂肪酸が2mL/minで滴下される。これらの混合比は、酸化チタン100重量部に対して、長鎖脂肪酸100重量部以上であることが好ましい。酸化チタンに対して長鎖脂肪酸の量を十分に多くすることによって、すべての酸化チタンが長鎖脂肪酸で覆われると考えられるからである。酸化チタン及び長鎖脂肪酸が混合された液が攪拌され、その液中において、酸化チタンは、長鎖脂肪酸で覆われたミセルを形成する。
【0025】
長鎖脂肪酸は、酸化チタンを核として、酸化チタンの表面に集合して吸着する。酸化チタンの粒子同士は、長鎖脂肪酸に覆われることによって凝集することなく互いに隔てられる。つまり、酸化チタンの粒子間に長鎖脂肪酸が介在することによって、酸化チタンの粒子同士が直接接する可能性が低下されて、凝集が阻止される。このようにして、酸化チタンの分散液が得られる。
【0026】
前述された溶媒として水が用いられる場合は、酸化チタンが混合された水に長鎖脂肪酸が加えられて攪拌された後、静置される。水に混合されていた酸化チタンは、長鎖脂肪酸によって覆われる。また、時間の経過に伴って、水と長鎖脂肪酸とが二層に分離する。長鎖脂肪酸によって覆われた酸化チタンは、長鎖脂肪酸の層に移動する。この長鎖脂肪酸の層が回収され、前述された溶媒が加えられて攪拌される。そして、減圧によって水分が除去されることによって、長鎖脂肪酸で覆われた酸化チタンの分散液が得られる。
【0027】
酸化チタンの分散液には、酸化物前駆体が加えられる。これらの混合比は、酸化チタン100重量部に対して、酸化物前駆体50重量部以上であることが好ましい。酸化物前駆体が加えられた後、分散液が攪拌されながら加熱される。反応容器内の圧力は、不活性ガスが連続して供給されながら大気圧に維持される。反応温度は、200℃以上400℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは、300℃以上350℃以下である。反応温度が従来より低くされることによって、酸化チタン粒子同士の衝突が起こりにくくなるので、酸化チタン粒子の凝集が抑制される。また、反応温度が200℃以上、好ましくは300℃以上とされることによって、酸化物前駆体の酸化が促進され、加熱後にアモルファス成分や未反応物などが生じることが抑制される。この加熱によって、酸化チタンの粒子の周囲において、酸化物前駆体が酸化され、酸化物コーティング酸化チタンが形成される。この酸化物コーティング酸化チタンは、前述された溶媒中において分散された状態に維持される。
【0028】
酸化物コーティング酸化チタンは、例えばXRD(X線回折法)で確認される。XRDは、物質の同定を行うものである。画像上における同位置において、酸化チタンのピークと酸化物のピークとが検出されると、酸化チタンが酸化物で被覆されていると推測される。また、エネルギー分散型X線分光法(以下、EDXとも称される。)により透過型電子顕微鏡(以下、TEMとも称される。)を用いたライン測定によって、同一線上の同位置に、酸化チタン中のチタンと酸化物の金属原子の有無が確認される。また、画像上における酸化物コーティング酸化チタンの外側、端(表面)及び内側の3点において、TEMを用いた測定が行われることにより、3点それぞれの位置に存在する元素が検出される。これらの測定方法によって、酸化チタンが酸化物で被覆されていることが確認される。
【0029】
酸化物コーティング酸化チタンは、酸化チタンを核として、その周囲が酸化物で被膜された構造である。酸化物コーティング酸化チタンの粒子径は、核となる酸化チタンの粒子径と、酸化物の被膜層の厚さによって決定される。したがって、本発明に係る製造方法によって得られる酸化物コーティング酸化チタンの粒子径及び多分散度指数は、原料となる酸化チタンの粒子の大きさ(粒子径)や、酸化物前駆体の混合比などによって、ある程度調整可能である。したがって、本発明に係る製造方法によれば、平均粒子径が5nmから100nmであり、かつ多分散度指数が0.1から0.3の酸化物コーティング酸化チタンを得ることができる。また、平均粒子径が5nmから50nmであり、かつ多分散度指数が0.1から0.15である酸化物コーティング酸化チタンを得ることもできる。
【0030】
酸化物コーティング酸化チタンの平均粒子径及び多分散度指数は、粒度分布測定装置によって酸化物コーティング酸化チタンが測定され、その測定結果を動的散乱法により解析することによって得られる。平均粒子径が小さくかつ均一な粒子径であるほど、酸化チタンが凝集なく高分散に存在すると推測される。凝集の有無は、例えば、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」とも称される。)で酸化物コーティング酸化チタンを観察することによって判断できる。また、多分散度指数が小さいほど均一性が高いと判断できる。
【0031】
本発明における酸化物コーティング酸化チタンの粒子は、従来の方法で作成した粒子と比べて、粒子径の均一性が高い。具体的には、従来の方法により得られた酸化物コーティング酸化チタンは、多分散度指数が0.3以上であり、また、粒子径が500nm以上の粒子が含まれる。
【0032】
本発明に係る酸化物コーティング酸化チタンは、例えば、太陽電池に用いられることを目的として、薄層に加工される。この薄層を形成する手法として、スクリーン印刷などが挙げられる。薄層に加工される際に、酸化物コーティング酸化チタンがペースト状にされる。本発明に係る酸化物コーティング酸化チタンは、平均粒子径が細かく均一性が高いので、スクリーン印刷において使用される版の穴に酸化物コーティング酸化チタンが目詰まりすることなく、印刷対象物上にペーストが均一に塗布される。つまり、版抜けがよい。また、酸化物コーティング酸化チタンの粒子が細かいので、ペーストを薄く塗布することが可能である。また、酸化物コーティング酸化チタンの粒子径が均一なので、薄層において、凹凸や偏りが生じにくい。これにより、薄層が安定し、ひいては安定した品質の太陽電池が得られる。
【0033】
また、本発明に係る酸化物コーティング酸化チタンが色素増感型太陽電池に用いる場合には、色素が酸化物コーティング酸化チタンの粒子の表面に吸着される。本発明に係る酸化物コーティング酸化チタンは均一且つ細かな粒子なので、粒子径が不均一であったり大きなものに比べて、全粒子の表面積の合計が大きい。その結果、粒子の表面に吸着される色素の量が増加するので、色素による増感が大きくなり、ひいては色素増感型太陽電池の変換効率が高くなる。
【0034】
本発明に係る酸化物コーティング酸化チタン含有液やペースト状の薄膜においては、酸化物コーティング酸化チタンの粒子径が小さく且つ均一性が高いので、入射光の乱反射が起こりにくい。したがって、入射光は酸化物コーティング酸化チタン含有液や薄膜内を概ね直進して透過する。つまり、本発明に係る酸化物コーティング酸化チタン含有液や薄膜は、光の透過率が高い。本明細書において透過率とは、物質に入射した光のうち、吸収や乱反射されずに透過した光の割合である。すなわち、入射光に対する透過光の割合である。入射光としては可視光の領域に属する波長の光が使用される。
【0035】
透過率は、分光光度計によって測定され得る。試料としては、例えば、濃度0.02g/mLの酸化物コーティング酸化チタン含有液が用いられる。この酸化物コーティング酸化チタン含有液に対して光が透過される厚みが10mmとされて、可視光帯域波長630nmの光が照射されて透過率が測定される。本発明に係る酸化物コーティング酸化チタン含有液の透過率は90%以上であり、より好ましくは95%以上である。この透過率によって、透光性の高い光機能性材料が得られる。透光性の高い光機能性材料が色素増感型太陽電池に用いられると、その光機能性材料において、酸化物コーティング酸化チタンが含まれる膜の内部まで光が到達するので、膜の表面付近に存在する酸化物コーティング酸化チタンのみならず、膜の内部に存在する酸化物コーティング酸化チタンの表面に吸着された色素によって増感が実現されて、エネルギー変換効率が増加すると考えられる。
【0036】
本発明に係る酸化物コーティング酸化チタン含有液は、遠心分離によって、液中に存在する酸化物コーティング酸化チタンを洗浄可能である。酸化物コーティング酸化チタン含有液を遠心分離すると、酸化物コーティング酸化チタンが液中において沈殿する。そして、上澄みがデカンテーションによって廃棄されると、酸化物コーティング酸化チタンが濃縮された液が得られる。この濃縮された液に新たな低極性溶媒を加えて攪拌する。低極性溶媒は、例えば扱いやすさなどからヘキサンやトルエンなどが好ましい。このような濃縮及び希釈の操作が繰り返されることにより、酸化物コーティング酸化チタン含有液中における未反応物質やその他の余分な物質が廃棄される。つまり、酸化物コーティング酸化チタンが洗浄される。
【0037】
本発明に係る酸化物コーティング酸化チタン含有液は、液体として得られるので、保存や放置による乾燥が抑制され、太陽電池等の素材として扱われる場合においても、凝集されない状態の酸化物コーティング酸化チタンとして使用することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、粒子径が細かく且つ均一な酸化物コーティング酸化チタンが得られる。また、本発明によれば、透光率の高い酸化物コーティング酸化チタン含有液が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、実施例1に係る酸化物コーティング酸化チタンのライン分析を行って得たTEMスペクトルである。
【図2】図2は、実施例1に係る酸化物コーティング酸化チタンのTEM画像である。
【図3】図3は、実施例1に係る酸化物コーティング酸化チタンのTEMスペクトルである。(A)は図2におけるAポイントのTEMスペクトルであり、(B)は図2におけるBポイントのTEMスペクトルであり、(C)は図2におけるCポイントのTEMスペクトルである。
【図4】図4は、実施例1に係る酸化物コーティング酸化チタンのペーストを塗布して形成した膜のSEM画像である。
【図5】図5は、比較例1に係る酸化物コーティング酸化チタンのペーストを塗布して形成した膜のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、本発明の好ましい実施例が説明される。なお、以下に説明される各実施例は本発明の一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、本発明の実施例を適宜変更できることは言うまでもない。
【実施例】
【0041】
[実施例1]
実施例1として、本発明に係る製造方法によって酸化物コーティング酸化チタンを合成した。具体的には、酸化チタン水分散液12g(150mmol)(鯤コーポレーション製,粒子径20nmから40nm)と純水180mLとを三ツ口フラスコに加えて希釈し、さらにオレイン酸60mLを加えて攪拌した。この混合液を一晩静置して、オレイン酸と水とを二層に分離させた。上澄みのオレイン酸層を別の三ツ口フラスコに回収した後、そのオレイン酸層に1−オクタデセンを加え、エバポレーターで三ツ口フラスコの内部を減圧して脱水を行った。その後、真空ポンプ(アルバック機工社製 GLD−201B)によって、三ツ口フラスコの内部の大気を除去してから、アルゴンガスを三ツ口フラスコに流入した。三ツ口フラスコ内の気体の除去及びアルゴンガスの流入を数回繰り返すことによって、三ツ口フラスコ内の気体をアルゴンガスに置換した。
【0042】
アルゴンガス雰囲気下の三ツ口フラスコにおいてオレイン酸層を攪拌(300℃、150rpm)しながら、三ツ口フラスコに、1−ドデカノール355g(1.91mol)と、オレイン酸マグネシウム44g(75mmol)とを加えた。その三ツ口フラスコに、アルゴンガスを50mL/minで流通させながら、内部の液を300℃で60分攪拌(150rpm)した後、40℃で一晩攪拌(150rpm)した。
【0043】
三ツ口フラスコ内の液を回収して遠心分離し、その上澄みをデカンテーションによって廃棄した。そして、残った液にヘキサンを加えて攪拌した。この操作を数回繰り返して、酸化物コーティング酸化チタン含有液を得た。
【0044】
[比較例1]
酸化チタン粉末12g(鯤コーポレーション製,粒子径20nmから40nm)に水100mLを加えた後、マグネシウムメトキシド6.5gを加え、室温で1時間攪拌した。さらに70℃で30分間攪拌した後、エバポレーターで溶媒を除去して乾燥し、粉末状態の酸化物コーティング酸化チタンを得た。
【0045】
[酸化物コーティング酸化チタンの確認試験]
SEM(日立ハイテクノロジーズ製 S−5200)、XRD(Rigaku製 RINT−TTRIII−AX2)及びTEM(日本電子製 JEM−4000)によって、実施例1に係る酸化物コーティング酸化チタンの粒子を評価した。図1のTEM画像上に示された白線に沿って粒子を横断しながらスキャンを行った。また、図2のTEM画像上に示される3点、すなわち粒子の外(ポイントA)、粒子の端(ポイントB)及び粒子の中心(ポイントC)において測定を行った。その測定結果が図3に示される。
【0046】
XRDによる解析結果において、同じ位置に酸化チタンのピーク25.3°と酸化マグネシウムのピーク42.6°とが認められた。また、図3に示される測定結果から、粒子の外(ポイントA)では、Mg及びTiの元素は認められず、粒子の端(ポイントB)及び粒子の中心(ポイントC)では、Mg及びTiの元素が共に認められ、特に粒子の中心ではTiの元素の強度が高く検出された。これらの結果から、実施例1により得られた粒子が酸化マグネシウムで被覆された酸化チタン粒子であることが確認された。
【0047】
[酸化物コーティング酸化チタンの物性試験]
(平均粒子径)
実施例1及び比較例1においてそれぞれ得られた酸化物コーティング酸化チタンを、Malvern Instruments(Ltd製、Nano−ZS)により測定した。その測定結果を動的散乱法により解析することによって、酸化物コーティング酸化チタンの平均粒子径を得た。実施例1の酸化物コーティング酸化チタンの平均粒子径は43.7nmであった。比較例1については、比較例1の酸化物コーティング酸化チタンに純水を加えて実施例1と同じ濃度の液になるように調製した。この純水中の酸化物コーティング酸化チタンを乳鉢で磨り潰した後に超音波によって分散させて、比較例1の酸化物コーティング酸化チタン含有液を得た。この比較例1の酸化物コーティング酸化チタン含有液における酸化物コーティング酸化チタンの平均粒子径は、2.3μmであった。
【0048】
(多分散度指数)
実施例1及び比較例1においてそれぞれ得られた酸化物コーティング酸化チタンを、Malvern Instruments(Ltd製、Nano−ZS)により測定した。その測定結果を動的散乱法により解析することによって、多分散度指数を得た。実施例1の酸化物コーティング酸化チタン含有液の多分散度指数は0.12であり、比較例1の酸化物コーティング酸化チタンの含有液の多分散度指数は0.32であった。なお、実施例1及び比較例1の酸化物コーティング酸化チタン含有液は共に、前述の平均粒子径の測定に使用されたものとそれぞれ同一の試料を用いた。
【0049】
(透過率)
実施例1の酸化物コーティング酸化チタン含有液の酸化物コーティング酸化チタンを用いて、酸化物コーティング酸化チタンの濃度が0.02g/mLであり透過厚10mmの試料を作成した。比較例1については、比較例1の酸化物コーティング酸化チタンに純水を加えて実施例1の試料と同じ濃度の液になるように調製した。この純水中の酸化物コーティング酸化チタンを、乳鉢で磨り潰した後に超音波によって分散させて、酸化物コーティング酸化チタン含有液を得た。この酸化物コーティング酸化チタン含有液を用いて、透過厚が10mmである試料を作成した。そして、分光光度計(日本分光社製、V−650)により、各試料に波長630nmの可視光を照射して透過光を測定することによって透過率を得た。実施例1の試料の透過率は90.6%であり、比較例1の試料の透過率は74.8%であった。
【0050】
(膜の生成)
実施例1及び比較例1においてそれぞれ得られた酸化物コーティング酸化チタンを用いて薄膜を形成した。具体的には、実施例1の酸化物コーティング酸化チタン含有液をエバポレーターで濃縮したものに、エチルセルロース、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テルピネオールを加えて、乳鉢で混合してペーストとした。得られたペーストをガラス基板上に塗布して乾燥することによって薄膜を得た。また、比較例1の粉末にエチルセルロース、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テルピネオールを加えて、乳鉢で混合してペーストとした。さらに、三本ロールミル(ノリタケカンパニーリミテッド社製NR−42A)を使用して、ペースト内の凝集粒子を粉砕してから、そのペーストをガラス基板上に塗布して乾燥することによって薄膜を得た。各薄膜を、SEMによって測定した。実施例1の薄膜のSEM画像が図4に示され、比較例1の薄膜のSEM画像が図5に示される。
【0051】
[評価]
実施例1及び比較例1の各酸化物コーティング酸化チタンの平均粒子径を比較すると、実施例1の酸化物コーティング酸化チタンは、比較例1の酸化物コーティング酸化チタンに比べて、平均粒子径が小さい。また多分散度指数についてみれば、実施例1の酸化物コーティング酸化チタンは、比較例1の酸化物コーティング酸化チタンに比べて小さい。これにより、実施例1に係る酸化物コーティング酸化チタンは、比較例1に係る酸化物コーティング酸化チタンに比べて、粒子が細かく且つ均一であるといえる。これは、比較例1の酸化物コーティング酸化チタンは凝集が生じて粒子が大きく不均一となっているのに対して、実施例1の酸化物コーティング酸化チタンは凝集することなく粒子が細かく均一であると推測される。
【0052】
また、実施例1及び比較例1の各試料の透過率を比較すると、実施例1の試料は、比較例1の試料より透過率が高い。これにより、実施例1の試料は透明度が高いといえる。また、実施例1及び比較例1の各薄膜を目視すると、実施例1の薄膜は透明であったが、比較例1の薄膜は白濁していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物前駆体が含まれる酸化チタンの分散液を加熱することによって、当該酸化チタンが酸化物で被覆された酸化物コーティング酸化チタンを含む液体を得る酸化物コーティング酸化チタンの製造方法。
【請求項2】
上記酸化物コーティング酸化チタンの平均粒子径が100nm以下であり、かつ上記液体の多分散度指数が0.3以下である請求項1に記載の酸化物コーティング酸化チタンの製造方法。
【請求項3】
濃度が0.02g/mLであって透過厚10mmとした上記液体に対する波長630nmの光の透過率が90%以上である請求項1または2に記載の酸化物コーティング酸化チタンの製造方法。
【請求項4】
上記酸化チタンの分散液は、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸脂肪酸及びこれらの脂肪酸のアミン誘導体、並びにこれらの塩のうちの少なくともいずれか一つを含む請求項1から3のいずれかに記載の酸化物コーティング酸化チタンの製造方法。
【請求項5】
上記酸化チタンの分散液は、オレイン酸を含む請求項4に記載の酸化物コーティング酸化チタンの製造方法。
【請求項6】
上記酸化物前駆体が、オレイン酸マグネシウムである請求項1から5のいずれかにに記載の酸化物コーティング酸化チタンの製造方法。
【請求項7】
平均粒子径が100nm以下の酸化物コーティング酸化チタンが、多分散度指数が0.3以下に分散された酸化物コーティング酸化チタン含有液。
【請求項8】
濃度が0.02g/mLであって透過厚10mmとした上記酸化物コーティング酸化チタン含有液に対する波長630nmの光の透過率が90%以上である請求項7に記載の酸化物コーティング酸化チタン含有液。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate