説明

酸化物焼結体、その製造方法およびそれを用いたターゲット

【課題】優れた導電性と化学的耐久性とを兼ね備えた酸化亜鉛系透明導電膜を、成膜方法に拘らず安定に形成し得る酸化物焼結体を提供する。
【解決手段】実質的に亜鉛と、チタンと、酸素と、アルミニウム、ガリウムおよびインジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の微量添加元素とからなる酸化物焼結体であって、前記チタンが、4価の酸化チタン由来のチタンであり、亜鉛、チタンおよび微量添加元素(TE)の合計に対するチタンの原子数比[Ti/(Zn+Ti+TE)]が、0.02以上0.05以下であり、亜鉛、チタンおよび微量添加元素(TE)の合計に対する微量添加元素(TE)の原子数比[TE/(Zn+Ti+TE)]が、0.001を超え0.005未満であり、酸化物焼結体が、5.3g/cm3以上の密度を有し、かつ15mΩ・cm未満の比抵抗を有することを特徴とする、酸化物焼結体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザーデポジション(PLD)法、エレクトロンビーム(EB)蒸着法などによる酸化亜鉛系透明導電膜の形成に有用な酸化物焼結体、その製造方法、およびそれを用いたターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
導電性と光透過性とを兼ね備えた透明導電膜は、従来、太陽電池、液晶表示素子、その他各種受光素子における電極などとして利用されているほか、自動車窓や建築用の熱線反射膜、帯電防止膜、冷凍ショーケース等における防曇用透明発熱体など、幅広い用途に利用されている。特に、低抵抗で導電性に優れた透明導電膜は、太陽電池や、液晶、有機エレクトロルミネッセンス、無機エレクトロルミネッセンスなどの液晶表示素子や、タッチパネルなどに好適であることが知られている。
【0003】
従来、透明導電膜としては、例えば、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)膜やフッ素ドープ酸化スズ(FTO)膜などの酸化スズ(SnO2)系の薄膜;アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)膜やガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)膜などの酸化亜鉛(ZnO)系の薄膜;そしてスズドープ酸化インジウム(ITO:Indium Tin Oxide)膜などの酸化インジウム(In23)系の薄膜が知られている。中でも、最も工業的に利用されているのは酸化インジウム系の透明導電膜であり、とりわけITO膜は、低抵抗で導電性に優れることから、幅広く実用化されている。
【0004】
例えば、ITOのような酸化物の膜をスパッタリング法で形成する際には、ターゲットとしては、一般に、膜を構成する金属元素からなる合金ターゲット(ITO膜の場合にはIn−Sn合金)か、または膜を構成する金属元素を含む酸化物を焼結もしくは混合してなる酸化物ターゲット(ITO膜の場合にはIn−Sn−Oからなる焼結体や混合体)が用いられる。ただし、合金ターゲットを用いると、形成される膜中の酸素は全て雰囲気中の酸素ガスから供給されることになるため、雰囲気中の酸素ガス量が変動しやすくなる。その結果、雰囲気中の酸素ガス量に依存する成膜速度や得られる膜の特性(比抵抗、透過率)を一定に保つことが困難になる場合がある。他方、酸化物ターゲットを用いた場合には、膜に供給される酸素の一部はターゲット自体から供給され、不足分のみが雰囲気中の酸素ガスから供給されることになるので、雰囲気中の酸素ガス量の変動は、合金ターゲットを用いる場合に比べ抑えることができ、その結果、一定の膜厚を有し一定の膜特性を有する透明導電膜を容易に製造することが可能となる。したがって、工業的に用いるターゲットとしては、酸化物ターゲット(すなわち酸化物焼結体または酸化物混合体)が用いられている。
【0005】
ところで、ITO膜などの酸化インジウム系の透明導電膜は、その必須原料であるIn(インジウム)が、希少金属であるため高価で且つ資源枯渇のおそれがあり、しかも毒性を有し環境や人体に対して悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、近年、ITO膜に代替し得る工業的に汎用可能な透明導電膜が要望されている。そのような中、スパッタリング法による工業的製造も可能である酸化亜鉛系透明導電膜が注目されており、その導電性能を高めるべく研究が進められている。具体的には、非特許文献1では、導電性を高めるべくZnOに種々のドーパントをドープさせる試みが報告されている。
【0006】
しかし、TiO2をドープした酸化物ターゲットは、比抵抗が高いため、絶縁物に使用されるRF(高周波)スパッタリングのみに適用され、低抵抗の導電体に適用することが可能なDC(直流)スパッタリングには適用することができない。また、導電体であるが抵抗が高めの焼結体をDCスパッタリングに適用した場合、投入電力が著しく低下し、放電が不安定で全く連続運転することができない。生産効率の観点から、量産性に優れているDCスパッタリングにて成膜することが可能なターゲットが求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】月刊ディスプレイ、1999年9月号、p10〜「ZnO系透明導電膜の動向」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、優れた導電性と化学的耐久性とを兼ね備えた酸化亜鉛系透明導電膜を、成膜方法に拘らず安定に形成し得る酸化物焼結体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)実質的に亜鉛と、チタンと、酸素と、アルミニウム、ガリウムおよびインジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の微量添加元素とからなる酸化物焼結体であって、
前記チタンが、4価の酸化チタン由来のチタンであり、
亜鉛、チタンおよび微量添加元素(TE)の合計に対するチタンの原子数比[Ti/(Zn+Ti+TE)]が、0.02以上0.05以下であり、
亜鉛、チタンおよび微量添加元素(TE)の合計に対する微量添加元素(TE)の原子数比[TE/(Zn+Ti+TE)]が、0.001を超え0.005未満であり、
酸化物焼結体が、5.3g/cm3以上の密度を有し、かつ15mΩ・cm未満の比抵抗を有することを特徴とする、酸化物焼結体。
(2)前記微量添加元素がアルミニウムであり、亜鉛、チタンおよびアルミニウムの合計に対するアルミニウムの原子数比[Al/(Zn+Ti+Al)]が、0.001を超え0.005未満である、(1)に記載の酸化物焼結体。
(3)前記微量添加元素がガリウムであり、亜鉛、チタンおよびガリウムの合計に対するガリウムの原子数比[Ga/(Zn+Ti+Ga)]が、0.001を超え0.005未満である、(1)に記載の酸化物焼結体。
(4)前記微量添加元素がインジウムであり、亜鉛、チタンおよびガリウムの合計に対するインジウムの原子数比[In/(Zn+Ti+In)]が、0.001を超え0.005未満である、(1)に記載の酸化物焼結体。
(5)前記微量添加元素が、アルミニウムまたはガリウムとインジウムとの組み合わせであり、亜鉛とチタンとアルミニウムまたはガリウムとインジウムとの合計に対する、アルミニウムまたはガリウムとインジウムとの原子数比[Al(Ga)+In/(Zn+Ti+Al(Ga)+In)]が、0.001を超え0.005未満である、(1)に記載の酸化物焼結体。
(6)(1)〜(5)のいずれかの項に記載の酸化物焼結体を製造する方法であって、
以下の(A)または(B)を含む原料粉末を成形する工程、および
得られた成形体を、大気雰囲気中または酸化雰囲気中にて600〜1500℃で焼結する工程、
を含むことを特徴とする、酸化物焼結体の製造方法:
(A)4価の酸化チタン粉と、酸化アルミニウム、酸化ガリウムおよび酸化インジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の粉と、酸化亜鉛粉との混合粉、
(B)4価の酸化チタン粉と、酸化アルミニウム、酸化ガリウムおよび酸化インジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の粉と、水酸化亜鉛粉との混合粉。
(7)請求項1〜5のいずれかの項に記載の酸化物焼結体を製造する方法であって、
以下の(A)または(B)を含む原料粉末を成形する工程、および
得られた成形体を、大気雰囲気中または酸化雰囲気中にて600〜1500℃で加圧焼結する工程、
を含むことを特徴とする、酸化物焼結体の製造方法:
(A)4価の酸化チタン粉と、酸化アルミニウム、酸化ガリウムおよび酸化インジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の粉と、酸化亜鉛粉との混合粉、
(B)4価の酸化チタン粉と、酸化アルミニウム、酸化ガリウムおよび酸化インジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の粉と、水酸化亜鉛粉との混合粉。
(8)前記加圧焼結が、ホットプレス法で行われる、請求項7に記載の方法。
(9)前記焼結する工程の後、不活性雰囲気中、真空中または還元雰囲気中にてアニール処理する工程をさらに含む、(6)〜(8)のいずれかの項に記載の酸化物焼結体の製造方法。
(10)前記アニール処理が、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素および水素からなる群より選ばれる少なくとも1種の雰囲気中にて行われる、(9)に記載の酸化物焼結体の製造方法。
(11)(1)〜(5)のいずれかの項に記載の酸化物焼結体を加工して得られることを特徴とする、ターゲット。
(12)スパッタリング法による成膜に用いられる、(11)に記載のターゲット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸化物焼結体が低抵抗かつ高密度であるため、優れた導電性と化学的耐久性とを兼ね備えた酸化亜鉛系透明導電膜を、成膜方法に拘らず安定に形成し得るという効果が得られる。特に、酸化亜鉛系透明導電膜形成用のDCスパッタリングターゲットとして極めて優れた性能を有している。すなわち、本発明の酸化物焼結体を用いることにより、DCスパッタリング法においても、安定した放電状態で成膜でき、優れた導電性と化学的耐久性とを兼ね備えたチタンドープ酸化亜鉛導電膜を安定的に製造可能である。また、このようにして形成された透明導電膜は、希少金属であり毒性を有するインジウムを必須としないという利点も有するので、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(酸化物焼結体)
本発明の酸化物焼結体は、実質的に亜鉛と、特定の酸化チタン由来のチタンと、酸素と、微量添加元素(アルミニウム、ガリウムおよびインジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種)とが特定の割合からなり、5.3g/cm3以上の密度を有し、かつ15mΩ・cm未満の比抵抗を有する。ここで、「実質的」とは、酸化物焼結体を構成する全原子の99%以上が亜鉛、チタン、酸素および微量添加元素からなることを意味する。
【0012】
本発明の酸化物焼結体は、5.3g/cm3以上の密度を有する。酸化物焼結体が5.3g/cm3以上の密度を有する場合、相対密度が95%以上となる。本発明の酸化物焼結体は、好ましくは5.3〜5.6g/cm3、より好ましくは5.5〜5.6g/cm3の密度を有する。
【0013】
本発明の酸化物焼結体は、15mΩ・cm未満の比抵抗を有する。DCスパッタリング時の成膜速度は、スパッタリングターゲットである酸化物焼結体の比抵抗に依存するため、酸化物焼結体の比抵抗が高い場合、DCスパッタリングで安定に成膜できない可能性がある。したがって、本発明の酸化物焼結体は、比抵抗が15mΩ・cm未満と低いものに特定している。成膜性や生産性を考慮すると、本発明に係る酸化物焼結体の比抵抗は低いほど好ましく、具体的には10mΩ・cm未満であることが好ましい。
【0014】
本発明の酸化物焼結体に含まれるチタンはドーパントの主成分であり、微量添加元素(アルミニウム、ガリウムおよびインジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種)は、比抵抗を低下させる作用を有する。
【0015】
本発明の酸化物焼結体に含まれるチタンは、4価の酸化チタン(すなわち、TiO2(IV)由来のチタンである。
【0016】
このように、一般的な4価の酸化チタン(TiO2(IV))を、チタン原子に換算して2%の割合で添加した場合、得られる導電膜は最も低抵抗を有する。しかし、導電膜の材料である焼結体は1kΩ・cm以上の高抵抗であり、この比抵抗だと、DCスパッタリングにて成膜することができない。
【0017】
本発明者らは、さらに、特定の割合の微量添加元素を用いることにより、焼結体の抵抗を低くすることができ、DCスパッタリングが可能となり、さらなる低抵抗化した膜を作製し得ることを見出した。
【0018】
微量添加元素は、アルミニウム、ガリウムおよびインジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、その由来は特に限定されない。例えば、アルミニウム源としては酸化アルミニウム、ガリウム源としては酸化ガリウム、インジウム源としては酸化インジウムが挙げられる。
【0019】
本発明の酸化物焼結体においては、亜鉛、チタンおよび微量添加元素(TE)の合計に対するチタンの原子数比[Ti/(Zn+Ti+TE)]が、0.02以上0.05以下である。[Ti/(Zn+Ti+TE)]の値が0.02未満の場合、酸化物焼結体をターゲットとして形成された膜の耐薬品性など化学的耐久性が不十分となり、しかも、酸化物焼結体中にチタン酸亜鉛化合物が形成されにくくなるため焼結体の強度が低下し、ターゲットへの加工が困難になる。一方、[Ti/(Zn+Ti+TE)]の値が0.05を超える場合、この酸化物焼結体をターゲットとして形成された膜の導電性や透明性が低下する。好ましくは、チタンの原子数比[Ti/(Zn+Ti+TE)]は0.02〜0.04となる量であり、より好ましくは0.03〜0.04である。
【0020】
本発明の酸化物焼結体においては、亜鉛、チタンおよび微量添加元素(TE)の合計に対する微量添加元素(TE)の原子数比[TE/(Zn+Ti+TE)]が、0.001を超え0.005未満である。[TE/(Zn+Ti+TE)]の値が0.001以下の場合、得られる焼結体は、1kΩ・cm以上の高抵抗を有し、低抵抗化することができない。一方、[TE/(Zn+Ti+TE)]の値が0.005以上の場合、微量添加元素(TE)の添加量が多くなり、高抵抗を有する焼結体が得られることになる。
【0021】
微量添加元素としては、アルミニウム、ガリウムまたはインジウムをそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、アルミニウムとインジウムとの組み合わせ、またはガリウムとインジウムとの組み合わせが好ましい。なお、2種以上を併用する場合の上記原子数比は、全ての微量添加元素の合計が上記範囲となればよい。
【0022】
本発明の酸化物焼結体は、酸化亜鉛相とチタン酸亜鉛化合物相とから構成されるか、または、チタン酸亜鉛化合物相で構成されることが好ましい。このように酸化物焼結体中にチタン酸亜鉛化合物相が含まれていると、焼結体自体の強度が増すので、例えばターゲットとして過酷な条件(高電力など)で成膜してもクラックを生じることがない。
【0023】
チタン酸亜鉛化合物相とは、具体的には、ZnTiO3、Zn2TiO4のほか、これらの亜鉛サイトにチタン元素が固溶されたものや、酸素欠損が生じているものや、Zn/Ti比がこれらの化合物から僅かにずれた非化学量論組成のものも含む。
【0024】
酸化亜鉛相とは、具体的には、ZnOのほか、これにチタン、アルミニウム、ガリウムまたはインジウムが固溶されたものや、酸素欠損が生じているものや、亜鉛欠損により非化学量論組成となったものも含む。なお、酸化亜鉛相は、通常ウルツ鉱型構造を有する。
【0025】
本発明の酸化物焼結体は、実質的に酸化チタンの結晶相を含有しないことが好ましい。酸化物焼結体に酸化チタンの結晶相が含まれていると、得られる膜が、比抵抗などの物性にムラがあり均一性に欠けるものとなるおそれがある。上述のように例えば、[Ti/(Zn+Ti+TE)]の値が0.05以下であるので、通常、チタンが酸化亜鉛に完全に反応し、酸化物焼結体中に酸化チタン結晶相は生成されにくい。なお、酸化チタンの結晶相とは、具体的には、TiO2以外にも、これらの結晶にZnなど他の元素が固溶された物質も含む。
【0026】
本発明の酸化物焼結体を製造する方法は、特に限定されず、例えば、後述する製造方法によって好ましく得られる。
【0027】
(酸化物焼結体の製造方法)
本発明に係る酸化物焼結体の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」と記載する場合がある)は、以下の(A)および/または(B)を含む原料粉末を成形する工程、および得られた成形体を、大気雰囲気中または酸化雰囲気中にて600〜1500℃で焼結する工程、を含む:
(A)4価の酸化チタン粉と、酸化アルミニウム、酸化ガリウムおよび酸化インジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の粉と、酸化亜鉛粉との混合粉、
(B)4価の酸化チタン粉と、酸化アルミニウム、酸化ガリウムおよび酸化インジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の粉と、水酸化亜鉛粉との混合粉。
【0028】
本発明の製造方法において、原料粉末としては、上記(A)または(B)の混合粉が用いられる。例えば、酸化チタン(IV)の代わりにチタン金属を用いても、酸化物焼結体は得られる。しかし、この場合、酸化物焼結体中にチタンや亜鉛の金属粒が存在しやすくなり、これをターゲットとして成膜すると、成膜中にターゲット表面の金属粒が溶融してターゲットから放出されず、得られる膜の組成とターゲットの組成とが大きく異なる傾向がある。
【0029】
酸化亜鉛粉としては、通常、ウルツ鉱構造を有するZnOなどの粉末が用いられ、さらにこのZnOを予め還元雰囲気で焼成して酸素欠損を生じさせたものを用いてもよい。また、水酸化亜鉛粉としては、アモルファスでもよく、結晶構造を有するものであってもよい。
【0030】
酸化チタン粉としては、4価の酸化チタン(TiO2(IV))を用いる。TiO2(IV)は特に限定されず、アモルファスでもよく、結晶構造(ルチル、アナターゼ、ブルックライトなど)を有するものであってもよい。さらに、上記のように、アルミニウム源としては酸化アルミニウム、ガリウム源としては酸化ガリウム、インジウム源としては酸化インジウムを用いるのが好ましい。
【0031】
原料粉末として用いる化合物(粉)の平均粒径は、それぞれ5μm以下であることが好ましい。
【0032】
各粉の混合割合は、用いる化合物(粉)の種類に応じて、適宜設定され得る。例えば、最終的に得られる酸化物焼結体において、原子数比が上述した範囲となるように適宜設定すればよい。その際、亜鉛はチタンに比べて蒸気圧が高く焼結した際に揮散しやすいことを考慮して、所望する酸化物焼結体の目的組成(ZnとTiとの原子数比)よりも、予め亜鉛の量が多くなるように混合割合を設定しておくことが好ましい。具体的には、亜鉛の揮散のしやすさは、焼結する際の雰囲気によって異なり、例えば、酸化亜鉛粉を用いた場合、大気雰囲気や酸化雰囲気では酸化亜鉛粉自体の揮散しか起こらないが、還元雰囲気で焼結すると、酸化亜鉛が還元されて、酸化亜鉛よりもさらに揮散しやすい金属亜鉛となるので、亜鉛の消失量が増すことになるのである(但し、後述のように、一旦焼結した後、還元雰囲気中でアニール処理を施す場合には、アニール処理を施す時点で既に複合酸化物となっているので、亜鉛が揮散しにくい)。したがって、目的組成に対してどの程度亜鉛の量を増やしておくかについては、焼結の雰囲気などを考慮して設定すればよく、例えば、大気雰囲気や酸化雰囲気で焼結する場合には所望する原子数比となる量の1.0〜1.05倍程度、還元雰囲気で焼結する場合には所望する原子数比となる量の1.1〜1.3倍程度とすればよい。なお、原料粉末として用いる化合物(粉)は、それぞれ1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0033】
原料粉末を成形する際の方法は、特に制限されるものではないが、例えば、原料粉末と水系溶媒とを混合し、得られたスラリーを十分に湿式混合によって混合した後、固液分離し、乾燥し、造粒して得られた造粒物を成形すればよい。
【0034】
湿式混合は、例えば、硬質ZrO2ボールなどを用いた湿式ボールミルや振動ミルにより行えばよく、湿式ボールミルや振動ミルを用いた場合の混合時間は、12〜78時間程度が好ましい。なお、原料粉末をそのまま乾式混合してもよいが、湿式混合の方がより好ましい。固液分離、乾燥および造粒については、それぞれ公知の方法を採用すればよい。
【0035】
得られた造粒物を成形する際には、例えば、造粒物を型枠に入れ、冷間プレスや冷間静水圧プレスなどの冷間成形機を用いて1ton/cm2以上の圧力をかけて成形することができる。このとき、ホットプレスなどを用いて熱間で成形を行うと、製造コストの面で不利となるとともに、大型焼結体が得にくくなるおそれがある。なお、成形体として造粒物を得る際には、乾燥後、公知の方法で造粒すればよいのであるが、その場合、原料粉末とともにバインダーも混合することが好ましい。バインダーとして、例えば、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル、エチルセルロースなどを用いることができる。
【0036】
得られた成形体の焼結は、大気雰囲気および酸化雰囲気(大気よりも酸素濃度が高い雰囲気)のいずれかの雰囲気中、600〜1500℃で行われる。特に酸化雰囲気中では、1000〜1500℃で行うのが好ましい。焼結後、好ましくは、不活性雰囲気中、真空中または還元雰囲気中にてアニール処理する工程をさらに含む。大気雰囲気中あるいは酸化雰囲気中で焼結した後に施すアニール処理は、酸化物焼結体に酸素欠損を生じさせ、比抵抗を低下させるために行なうものである。また、焼結を、不活性雰囲気(窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオンなど)、真空または還元雰囲気(二酸化炭素、水素、アンモニアなど)中で行ってもよい。なお、不活性雰囲気中、真空中または還元雰囲気中で焼結した際にも、さらなる比抵抗の低下を所望する場合には、焼結後、アニール処理を施してもよい。
【0037】
焼結温度が600℃未満であると、焼結が十分に進行しないので、ターゲット密度が低くなり、一方、1500℃を超えると、酸化亜鉛自体が分解して消失してしまうこととなる。上記いずれの雰囲気においても、より好ましくは1000〜1300℃で焼結が行われる。なお、成形体を上記焼結温度まで昇温する際には、昇温速度を、600℃までは5〜10℃/分とし、600℃を超え1500℃までは1〜4℃/分とすることが、焼結密度を均一にするうえで好ましい。
【0038】
いずれの雰囲気中で焼結する際も、焼結時間(すなわち、焼結温度での保持時間)は、3〜15時間とすることが好ましい。焼結時間が3時間未満であると、焼結密度が不十分となりやすく、得られる酸化物焼結体の強度が低下する傾向があり、一方、15時間を超えると、焼結体の結晶粒成長が著しくなるとともに、空孔の粗大化、ひいては最大空孔径の増大化を招く傾向があり、その結果、焼結密度が低下するおそれがある。
【0039】
焼結を行う際の方法は特に限定されず、例えば、常圧焼成法、マイクロ波焼結法、ミリ波焼結法などが挙げられる。
【0040】
さらに、本発明の酸化物焼結体は、上記(A)または(B)からなる原料粉末を、大気雰囲気中または酸化雰囲気中にて600〜1500℃で加圧焼結して製造してもよい。
加圧焼結は、通常、型材に原料粉末を入れて行われる。型材の材質としては、金属、黒鉛などが挙げられる。
加圧焼結は、好ましくは20〜150MPa、より好ましくは30〜100MPaの加圧条件下で、好ましくは900〜1400℃、より好ましくは1100〜1200℃の温度条件下で行われる。
焼成時間は、焼成温度、原料粉末の量などによって適宜調整すればよく、好ましくは30分〜4時間、より好ましくは1時間〜2時間程度である。
また、加圧焼結を行う際の方法は特に限定されず、例えば、ホットプレス法、放電プラズマ焼結法、熱間等方圧加圧(HIP)法などが挙げられる。
【0041】
アニール処理を施す際の雰囲気としては、例えば、不活性雰囲気(窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオンなど)、真空または還元雰囲気(二酸化炭素、水素、アンモニアなど)が挙げられる。アニール処理の方法としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、水素などの非酸化性ガスを導入しながら常圧で加熱する方法や、真空下(好ましくは、2Pa以下)で加熱する方法などが挙げられる。製造コストの観点から、非酸化性ガスを導入しながら常圧で行う方法が有利である。
アニール温度(加熱温度)は、好ましくは1000〜1400℃、より好ましくは1100〜1300℃である。アニール時間(加熱時間)は、好ましくは7〜15時間、より好ましくは8〜12時間である。アニール温度が1000℃未満の場合、アニール処理による酸素欠損が不十分になるおそれがあり、一方、アニール温度が1400℃を超える場合、亜鉛が揮散しやすくなり、得られる酸化物焼結体の組成(ZnとTiとの原子数比)が所望の比率と異なってしまうおそれがある。
【0042】
本発明の製造方法により得られた酸化亜鉛焼結体は、上記のように5.3g/cm3以上の密度を有し、かつ15mΩ・cm未満の比抵抗を有する。
【0043】
(ターゲット)
本発明のターゲットは、各種成膜方法で用いられるターゲットであり、特にスパッタリング法(好ましくは、量産性に優れているDCスパッタリング法)による成膜に用いられるターゲットである。本発明のターゲットは、上述した本発明の酸化物焼結体を、所定の形状および所定の寸法に加工して得られる。
【0044】
加工方法は、特に制限されず、適宜公知の方法を採用すればよい。例えば、酸化物焼結体に平面研削などを施した後、所定の寸法に切断して支持台に貼着することにより、本発明のターゲットを得ることができる。必要に応じて、複数枚の酸化物焼結体を分割形状に並べて、大面積のターゲット(複合ターゲット)としてもよい。
【0045】
本発明の酸化物焼結体または本発明のターゲットを用いて形成された透明導電膜は、優れた導電性と化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐薬品性(耐アルカリ性、耐酸性)など)とを兼ね備えたものである。このような透明導電膜は、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、無機EL(エレクトロルミネセンス)ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパーなどの透明電極;太陽電池の光電変換素子の窓電極;透明タッチパネルなどの入力装置の電極;電磁シールドの電磁遮蔽膜などの用途に好適に用いられる。さらに、本発明の酸化物焼結体または本発明のターゲットを用いて形成された透明導電膜は、透明電波吸収体、紫外線吸収体、あるいは透明半導体デバイスとして、他の金属膜や金属酸化膜と組み合わせて利用することもできる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
なお、実施例および比較例において、焼結体や透明導電膜の評価は、以下の方法により行った。
<比抵抗>
比抵抗は、抵抗率計(三菱化学(株)製「LORESTA−GP、MCP−T610」)を用いて、四端子四探針法により測定した。詳しくは、サンプルに4本の針状の電極を直線上に置き、外側の二探針間と内側の二探針間とに一定の電流を流し、内側の二探針間に生じる電位差を測定して抵抗を求めた。
<表面抵抗>
表面抵抗は、比抵抗(Ω・cm)を膜厚(cm)で除することにより算出した。
<透過率>
透過率は、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製「V−670」)を用いて測定した。
<耐湿性>
透明導電性基板を、温度60℃、相対湿度90%の雰囲気中で1000時間保持する耐湿試験に付した後、表面抵抗を測定した。耐湿試験後の表面抵抗が、耐湿試験前の表面抵抗の2倍以下の場合、耐湿性に優れると評価した。
<耐熱性>
透明導電性基板を、温度200℃の大気中で5時間保持する耐熱試験に付した後、表面抵抗を測定した。耐熱試験後の表面抵抗が、耐熱試験前の表面抵抗の1.5倍以下の場合、耐熱性に優れると評価した。
<耐アルカリ性>
透明導電性基板を、3%のNaOH水溶液(40℃)中に10分間浸漬し、浸漬前後における膜質の変化を目視にて確認した。
<耐酸性>
透明導電性基板を、3%のHCl水溶液(40℃)中に10分間浸漬し、浸漬前後における膜質の変化を目視にて確認した。
【0048】
(実施例1)
酸化亜鉛粉末(ZnO:和光純薬工業(株)製、特級)、酸化チタン(IV)粉末(TiO2:(株)高純度化学研究所製、純度99.9%)、酸化インジウム粉末(In23:和光純薬製、純度99.9%)および酸化アルミニウム粉末(Al23:住友化学製、純度99.9%)を、原子数比がZn:Ti:In:Al=97.6:2.0:0.2:0.2(Ti/(Zn+Ti+Al)=0.02、およびIn+Al/(Zn+Ti+In+Al)=0.004)となるように配合して混合物を得た。次いで、得られた混合物を金型に入れ、一軸プレスにより成形圧500kg/cm2にて成形し、直径100mmおよび厚さ5mmの円盤状の成形体を得た。この成形体を常圧(1.01325×102kPa)の大気雰囲気下、1400℃で4時間焼結して、酸化物焼結体(1)を得た。
【0049】
得られた酸化物焼結体(1)をエネルギー分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「EDX−700L」)にて分析したところ、ZnとTiとInとAlとの原子数比はZn:Ti:In:Al=97.6:2.0:0.2:0.2(Ti/(Zn+Ti+Al)=0.02、およびIn+Al/(Zn+Ti+In+Al)=0.004)であった。この焼結体の密度は5.52g/cm3であり、比抵抗は、13mΩ・cmであった。
【0050】
次に、酸化物焼結体(1)を50mmφの円盤状に加工してターゲットを得、このターゲットを用いてDCスパッタリング法により透明導電膜を成膜し、透明導電基板を得た。すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、上記ターゲットと透明基材(石英ガラス基板)とを設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力70W、基板温度200℃の条件下でスパッタリングを行い、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。このように、得られたターゲットは、DCスパッタリングにより安定して十分成膜可能であることがわかった。
【0051】
得られた透明導電膜中の組成について、波長分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「XRF−1700WS」)を用いて蛍光X線法により定量分析を行ったところ、Zn:Ti:In:Al=97.6:2.0:0.2:0.2であった。また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタン、インジウムおよびアルミニウムのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタン、インジウムおよびアルミニウムが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
【0052】
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は6.0×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は12.0Ω/□であった。なお、透明導電性基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
【0053】
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜1500nm)で平均87%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜1500nm)における透過率は平均94%であった。
【0054】
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.5倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.5倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
【0055】
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
【0056】
したがって、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。
【0057】
(実施例2)
実施例1において、酸化アルミニウム粉末を用いず、原子数比がZn:Ti:In=97.6:2.0:0.4となるように配合したこと以外は、実施例1と同様にして酸化物焼結体(2)を得た。
【0058】
得られた酸化物焼結体(2)を、実施例1と同様に分析すると、ZnとTiとInとの原子数比はZn:Ti:In=97.6:2.0:0.4(Ti/(Zn+Ti+In)=0.02、およびIn/(Zn+Ti+In)=0.004)であった。酸化物焼結体(2)の密度は5.52g/cm3であり、比抵抗は13mΩ・cmであった。
【0059】
次いで、酸化物焼結体(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてターゲットを作製し、実施例1と同様にしてDCスパッタリング法により、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。このように、得られたターゲットは、DCスパッタリングにより安定して十分成膜可能であることがわかった。
【0060】
得られた透明導電膜中の組成について、実施例1と同様にして定量分析を行ったところ、Zn:Ti:In=97.6:2.0:0.4であった。また、実施例1と同様にして亜鉛へのチタンおよびインジウムのドープ状態および結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンおよびインジウムが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
【0061】
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は6.3×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は12.6Ω/□であった。なお、透明導電性基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
【0062】
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜1500nm)で平均87%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜1500nm)における透過率は平均94%であった。
【0063】
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.5倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.5倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
【0064】
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
【0065】
したがって、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。
【0066】
(実施例3)
酸化インジウムの代わりに酸化ガリウム粉末(Ga23:住友化学製、純度99.9%)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして酸化物焼結体(3)を得た。
【0067】
得られた酸化物焼結体(3)を、実施例1と同様に分析すると、ZnとTiとGaとの原子数比はZn:Ti:Ga=97.6:2.0:0.4(Ti/(Zn+Ti+Ga)=0.02、およびGa/(Zn+Ti+Ga)=0.004)であった。酸化物焼結体(3)の密度は5.51g/cm3であり、比抵抗は12mΩ・cmであった。
【0068】
次いで、酸化物焼結体(3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてターゲットを作製し、実施例1と同様にしてDCスパッタリング法により、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。このように、得られたターゲットは、DCスパッタリングにより安定して十分成膜可能であることがわかった。
【0069】
得られた透明導電膜中の組成について、実施例1と同様にして定量分析を行ったところ、Zn:Ti:Ga=97.6:2.0:0.4であった。また、実施例1と同様にして亜鉛へのチタンおよびガリウムのドープ状態および結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンおよびガリウムが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
【0070】
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は6.3×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は12.6Ω/□であった。なお、透明導電性基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
【0071】
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜1500nm)で平均87%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜1500nm)における透過率は平均94%であった。
【0072】
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.5倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.5倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
【0073】
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
【0074】
したがって、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。
【0075】
(実施例4)
実施例1において、原子数比がZn:Ti:In:Al=96.2:3.4:0.2:0.2となるように配合したこと以外は、実施例1と同様にして酸化物焼結体(4)を得た。
【0076】
得られた酸化物焼結体(4)を、実施例1と同様に分析すると、ZnとTiとInとAlとの原子数比はZn:Ti:In:Al=96.2:3.4:0.2:0.2(Ti/(Zn+Ti+In+Al)=0.034、およびIn+Al/(Zn+Ti+In+Al)=0.004)であった。酸化物焼結体(4)の密度は5.52g/cm3であり、比抵抗は13mΩ・cmであった。
【0077】
次いで、酸化物焼結体(4)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてターゲットを作製し、実施例1と同様にしてDCスパッタリング法により、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。このように、得られたターゲットは、DCスパッタリングにより安定して十分成膜可能であることがわかった。
【0078】
得られた透明導電膜中の組成について、実施例1と同様にして定量分析を行ったところ、Zn:Ti:In:Al=96.2:3.4:0.2:0.2であった。また、実施例1と同様にして亜鉛へのチタン、インジウムおよびアルミニウムのドープ状態および結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタン、インジウムおよびアルミニウムが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
【0079】
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は6.5×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は13.0Ω/□であった。なお、透明導電性基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
【0080】
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜1500nm)で平均86%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜1500nm)における透過率は平均94%であった。
【0081】
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
【0082】
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
【0083】
したがって、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。
【0084】
(実施例5)
実施例2において、原子数比がZn:Ti:In=96.2:3.4:0.4となるように配合したこと以外は、実施例2と同様にして酸化物焼結体(5)を得た。
【0085】
得られた酸化物焼結体(5)を、実施例1と同様に分析すると、ZnとTiとInとの原子数比はZn:Ti:In=96.2:3.4:0.4(Ti/(Zn+Ti+In)=0.034、およびIn/(Zn+Ti+In)=0.004)であった。酸化物焼結体(5)の密度は5.51g/cm3であり、比抵抗は13mΩ・cmであった。
【0086】
次いで、酸化物焼結体(5)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてターゲットを作製し、実施例1と同様にしてDCスパッタリング法により、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。このように、得られたターゲットは、DCスパッタリングにより安定して十分成膜可能であることがわかった。
【0087】
得られた透明導電膜中の組成について、実施例1と同様にして定量分析を行ったところ、Zn:Ti:In=96.2:3.4:0.4であった。また、実施例1と同様にして亜鉛へのチタンおよびインジウムのドープ状態および結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンおよびインジウムが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
【0088】
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は6.5×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は13.0Ω/□であった。なお、透明導電性基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
【0089】
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜1500nm)で平均86%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜1500nm)における透過率は平均94%であった。
【0090】
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
【0091】
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
【0092】
したがって、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。
【0093】
(比較例1)
実施例1において、酸化インジウム粉末および酸化アルミニウム粉末を用いず、原子数比がZn:Ti=98.0:2.0となるように配合したこと以外は、実施例1と同様にして酸化物焼結体(C1)を得た。
【0094】
得られた酸化物焼結体(C1)を、実施例1と同様に分析すると、ZnとTiとInとの原子数比はZn:Ti=98.0:2.0(Ti/(Zn+Ti)=0.02)であった。酸化物焼結体(C1)の密度は5.52g/cm3であり、比抵抗は5.8kΩ・cmであった。
【0095】
次いで、酸化物焼結体(C1)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてターゲットを作製し、実施例1と同様にしてDCスパッタリング法により、基板上に透明導電膜を形成しようと試みた。しかし、ターゲットが高抵抗であるため、成膜することができなかった。
【0096】
したがって、この酸化物焼結体(C1)(ターゲット)を用いた場合、絶縁体のターゲットでも成膜可能なRFスパッタリングであれば、透明導電膜が形成されるが、工業的生産に適したDCスパッタリングでは、形成されないことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に亜鉛と、チタンと、酸素と、アルミニウム、ガリウムおよびインジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の微量添加元素とからなる酸化物焼結体であって、
前記チタンが、4価の酸化チタン由来のチタンであり、
亜鉛、チタンおよび微量添加元素(TE)の合計に対するチタンの原子数比[Ti/(Zn+Ti+TE)]が、0.02以上0.05以下であり、
亜鉛、チタンおよび微量添加元素(TE)の合計に対する微量添加元素(TE)の原子数比[TE/(Zn+Ti+TE)]が、0.001を超え0.005未満であり、
酸化物焼結体が、5.3g/cm3以上の密度を有し、かつ15mΩ・cm未満の比抵抗を有することを特徴とする、酸化物焼結体。
【請求項2】
前記微量添加元素がアルミニウムであり、亜鉛、チタンおよびアルミニウムの合計に対するアルミニウムの原子数比[Al/(Zn+Ti+Al)]が、0.001を超え0.005未満である、請求項1に記載の酸化物焼結体。
【請求項3】
前記微量添加元素がガリウムであり、亜鉛、チタンおよびガリウムの合計に対するガリウムの原子数比[Ga/(Zn+Ti+Ga)]が、0.001を超え0.005未満である、請求項1に記載の酸化物焼結体。
【請求項4】
前記微量添加元素がインジウムであり、亜鉛、チタンおよびガリウムの合計に対するインジウムの原子数比[In/(Zn+Ti+In)]が、0.001を超え0.005未満である、請求項1に記載の酸化物焼結体。
【請求項5】
前記微量添加元素が、アルミニウムまたはガリウムとインジウムとの組み合わせであり、亜鉛とチタンとアルミニウムまたはガリウムとインジウムとの合計に対する、アルミニウムまたはガリウムとインジウムとの原子数比[Al(Ga)+In/(Zn+Ti+Al(Ga)+In)]が、0.001を超え0.005未満である、請求項1に記載の酸化物焼結体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの項に記載の酸化物焼結体を製造する方法であって、
以下の(A)または(B)を含む原料粉末を成形する工程、および
得られた成形体を、大気雰囲気中または酸化雰囲気中にて600〜1500℃で焼結する工程、
を含むことを特徴とする、酸化物焼結体の製造方法:
(A)4価の酸化チタン粉と、酸化アルミニウム、酸化ガリウムおよび酸化インジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の粉と、酸化亜鉛粉との混合粉、
(B)4価の酸化チタン粉と、酸化アルミニウム、酸化ガリウムおよび酸化インジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の粉と、水酸化亜鉛粉との混合粉。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかの項に記載の酸化物焼結体を製造する方法であって、
以下の(A)または(B)を含む原料粉末を成形する工程、および
得られた成形体を、大気雰囲気中または酸化雰囲気中にて600〜1500℃で加圧焼結する工程、
を含むことを特徴とする、酸化物焼結体の製造方法:
(A)4価の酸化チタン粉と、酸化アルミニウム、酸化ガリウムおよび酸化インジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の粉と、酸化亜鉛粉との混合粉、
(B)4価の酸化チタン粉と、酸化アルミニウム、酸化ガリウムおよび酸化インジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の粉と、水酸化亜鉛粉との混合粉。
【請求項8】
前記加圧焼結が、ホットプレス法で行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記焼結する工程の後、不活性雰囲気中、真空中または還元雰囲気中にてアニール処理する工程をさらに含む、請求項6〜8のいずれかの項に記載の酸化物焼結体の製造方法。
【請求項10】
前記アニール処理が、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素および水素からなる群より選ばれる少なくとも1種の雰囲気中にて行われる、請求項9に記載の酸化物焼結体の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかの項に記載の酸化物焼結体を加工して得られることを特徴とする、ターゲット。
【請求項12】
スパッタリング法による成膜に用いられる、請求項11に記載のターゲット。

【公開番号】特開2012−197216(P2012−197216A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−47778(P2012−47778)
【出願日】平成24年3月5日(2012.3.5)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】