説明

酸化物系無機材料中の硫酸マグネシウム定量方法

【課題】製鉄プロセスで生成される製鉄スラグなどの酸化物系無機材料中の硫酸マグネシウムを精度良く、迅速かつ簡便に定量できる酸化物系無機材料中の硫酸マグネシウムの定量分析方法を提供する。
【解決手段】抽出溶媒による酸化物系無機材料試料中の硫酸マグネシウムの定量方法において、前記抽出溶媒としてエチレングリコールを用い、前記試料を含む抽出溶媒を攪拌しながらマグネシウムの抽出を開始し、前記硫酸マグネシウム中のマグネシウムが抽出完了後、該抽出溶媒中のマグネシウム濃度を測定し、該測定値を基に、前記試料中の硫酸マグネシウム含有量を求めることを特徴とする硫酸マグネシウムの定量方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒抽出法を用いた酸化物系無機材料試料の分析方法に係わり、特に製鉄プロセスの溶銑・溶鋼の精錬(製鋼)工程において生成する製鉄スラグや、一般の耐火物材料およびコンクリートなどの酸化物系無機材料中に含まれる硫酸マグネシウムを定量分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐火物材料およびコンクリートなどの酸化物系無機材料の使用環境下における風化および劣化は、硫酸イオンの影響、酸による中性化、塩害、アルカリ骨材反応、油の影響、凍害、乾燥収縮、熱膨張、磨耗や疲労及びこれらが複合的に合わさった結果、酸化物系無機材料に割れや崩壊が引き起こされると考えられる。
【0003】
これらのうち、主に海水と接する臨海用途や重油や石炭等イオウ分を含んだ燃料の燃焼を伴うプロセス、温泉地帯、下水道の管渠などの基盤材・建材、耐火物用材料として使用される酸化物系無機材料では、使用環境中の硫酸イオンの影響による劣化が問題視され、古くから研究されている。
【0004】
一方、製鉄プロセスの溶銑・溶鋼を精錬する製鋼工程において副産物として生成する製鉄スラグは、骨材や路盤材等に用いられるセメント用の酸化物系無機材料として利用されている。この製鉄スラグからなる酸化物系無機材料中には、硫酸マグネシウム(MgSO4)が残存している。また、製鉄スラグ中には酸化マグネシウム(MgO)や水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)も残存し、使用環境下で外部からの硫酸イオンの浸透により硫酸マグネシウム(MgSO4)に化学変化する。硫酸マグネシウム(MgSO4)は、それ自体は比較的無害であるが、環境(大気中の炭酸ガス濃度、温度、湿度、仕上げ材など)により酸化物系無機材料内で硫酸イオン源となり、酸化物系無機材の材質劣化の原因となる。
【0005】
最近の研究結果によれば、硫酸イオンによる酸化物系無機材料の材質劣化は以下のような反応メカニズムで発生すると考えられている(例えば非特許文献1参照)。
【0006】
つまり、酸化物系無機材料の使用環境下で、硫酸マグネシウム(MgSO4)や硫酸ナトリウム(Na2SO4)などを発生源として生成した硫酸イオンは、酸化物系無機材料中に含有する水酸化カルシウム(Ca(OH)2)と反応して二水セッコウ(CaSO4・2H2O)を生成する(下記(1)式、(2)式参照)。この二水セッコウ(CaSO4・2H2O)は、更に、酸化物系無機材料中に含有するアルミン酸三カルシウム3(CaO)(Al2O3)と反応し、エトリンガイト(3(CaO)(Al2O3)・3CaSO4・32H2O) の生成により体積膨張することにより、酸化物系無機材料中に割れや崩壊が生じ、材質が劣化する(下記(3)式参照)。
【0007】
Na2SO4+Ca(OH)2+2H2O→CaSO4・2H2O+2NaOH ・・・(1)
MgSO4+Ca(OH)2+2H2O→CaSO4・2H2O+Mg(OH)2 ・・・(2)
3(CaO)(Al2O3)・CaSO4・18H2O+2Ca(OH)2+2SO42-+12H2O→3(CaO) (Al2O3)・3CaSO4・32H2O ・・・(3)
この硫酸イオンによる酸化物系無機材料の材質劣化を防止するための方法は、従来から種々提案されている。
【0008】
例えば、セメント金属イオン封鎖剤および/またはオルトリン酸系化合物からなる保護剤により、硫酸イオンを含む外的劣化要因からセメント硬化物を保護する方法(例えば特許文献1参照)や、セメント中に硫酸イオンと実質的に不溶性塩を形成しない対イオンを有する一価アニオンの水溶性塩を添加し、セメント分散剤の流動性を向上させ、強度向上効果を有する水硬性組成物を生成する方法(例えば特許文献2参照)などが提案されている。また、セメント中に硬化促進剤として蟻酸アルカリ土類金属塩および水を添加し、体積膨張の原因となるエトリンガイトの生成を抑制し、寸法変化を阻止する方法(例えば特許文献3参照)も提案されている。
【0009】
これらの材質劣化の抑制方法を用いて、酸化物系無機材料中に含有する硫酸マグネシウムなどの硫酸イオン発生源を定量化する必要がある。
【0010】
特に、製鉄プロセスの溶銑・溶鋼の精錬工程において発生する製鉄スラグを耐火物、骨材、路盤材等の酸化物系無機材料として利用する場合は、製鉄スラグからなる酸化物系無機材料中に残存する硫酸マグネシウム(MgSO4)量を定量することが、これを硫酸イオン発生源として生じる材質劣化を防止するために重要となる。
【0011】
しかし、酸化物系無機材料中に含有する硫酸マグネシウム(MgSO4)量を精度良く定量分析するための方法はまだ確立されていない状況にある。
【0012】
従来、外部からの硫酸イオンに対する酸化物系無機材料の耐性は、試料を硫酸ナトリウム飽和溶液に浸漬・乾燥させることにより、結晶圧による破壊作用を試験する方法が知られている(例えば非特許文献2参照)。これは外部から硫酸イオンを浸透させて材料の安定性を試験する方法であり、酸化物系無機材料中に含有する硫酸マグネシウムなどを硫酸イオン発生源とする材質劣化を評価することは出来ない。
【0013】
また、酸化物系無機材料の膨張の影響を確認する方法として、パットを加熱し沸騰させ、冷却した後、酸化物系無機材料の膨張によるひび割れ又は反りの有無を確認する安定性試験が知られている(例えば非特許文献3参照)。しかし、この安定性試験は、主に酸化物系無機材料中に含有するカルシウムやマグネシウムなど酸化物(CaO、MgO)が水和反応により水酸化物に化学変化する際の体積膨張に起因する割れを確認するための試験であり、酸化物系無機材料中に含有する硫酸マグネシウムなどを硫酸イオン発生源とする材質劣化を評価することは出来ない。
【0014】
一般的な成分元素の分析方法として知られる、蛍光X線分析法や燃焼-赤外線吸収法、及び化学分析法(例えば非特許文献4参照)を用いて、酸化物系無機材料中の全硫黄濃度を測定し、この硫黄濃度から酸化物系無機材料中の硫酸化合物の含有量を推定する方法が知られている。あるいは、イオンクロマトグラフィーを用いて、酸化物系無機材料中の水溶性の硫酸イオンを抽出し、その量を測定する方法も知られている。
【0015】
しかし、これらの手法は、酸化物系無機材料中の硫酸マグネシウム以外の硫化物中の硫黄が測定されるため、或いは、硫酸マグネシウム中に硫酸イオンは安定して抽出することは困難であるため、全硫黄濃度や硫酸イオン量の測定により、酸化物系無機材料中の硫酸マグネシウムを精度良く測定することはできない。
【0016】
また、一般的な金属化合物の構造を特定するための手法として、X線回折法やフーリエ変換赤外線吸収法が知られている。しかし、酸化物系無機材料中の硫酸マグネシウムの含有量はたとえば数 mass%と微量であるため、これらの手法では測定感度や繰り返し精度が悪く、酸化物系無機材料の材質劣化の原因となる微量の硫酸マグネシウムを精度良く測定することはできない。
【0017】
近年、環境保全及び資源の有効利用の観点から、製鉄プロセスにおいて副産物として生成する製鉄スラグをセメント代替原料などの酸化物系無機材料として再利用することが望まれている。このためには、酸化物系無機材料の材質劣化の原因となる製鉄スラグ中に含有する硫酸マグネシウムを精度良く、迅速かつ簡便に定量測定する方法が求められている。
【0018】
【特許文献1】特開平07-069703号公報
【特許文献2】特開2000-281417号公報
【特許文献3】特開2001-130940号公報
【非特許文献1】盛岡実他, セメント・コンクリート論文集, p2-7, 52 (1998)
【非特許文献2】硫酸ナトリウムによる骨材の安定性試験方法, JIS A 1122 (2005)
【非特許文献3】セメントの物理試験方法, JIS R 5201 (1997)
【非特許文献4】ポルトランドセメントの化学分析方法, JIS R 5202 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上記従来技術の現状に鑑みて、製鉄プロセスで生成される製鉄スラグなどの酸化物系無機材料中の硫酸マグネシウムを精度良く、迅速かつ簡便に定量できる酸化物系無機材料中の硫酸マグネシウムの定量分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
発明者は、上記目的を達成するものであり、その発明の要旨とするとことは、以下の通りである。
(1)抽出溶媒による酸化物系無機材料試料中の硫酸マグネシウムの定量方法において、前記抽出溶媒としてエチレングリコールを用い、前記試料を含む抽出溶媒を攪拌しながらマグネシウムの抽出を開始し、前記硫酸マグネシウム中のマグネシウムを抽出完了後、該抽出溶媒中のマグネシウム濃度を測定し、該測定値を基に、前記試料中の硫酸マグネシウム含有量を求めることを特徴とする酸化物系無機材料試料中の硫酸マグネシウム定量方法。
(2)前記抽出溶媒中のマグネシウム濃度の測定は、誘導結合プラズマ発光分析法や原子吸光光度法、および、炎光光度法の何れかを用いて行うことを特徴とする上記(1)に記載の酸化物系無機材料試料中の硫酸マグネシウム定量方法。
(3)前記試料は、粒度:100μm以下の整粒された試料であることを特徴とする上記(1)または(2)記載の酸化物系無機材料試料中の硫酸マグネシウム定量方法。
(4)前記試料中の硫酸マグネシウム含有量Yは、前記抽出溶媒中のマグネシウム濃度の測定値Xから、下記(1)式を用いて求めることを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか1項に記載の酸化物系無機材料試料中の硫酸マグネシウム定量方法。
【0021】
Y=X×(A/B)×(C/D) ・・・(1)
ただし、
X:抽出溶媒中のマグネシウム濃度の測定値(g/ml)
Y:試料中の硫酸マグネシウム(MgSO4)含有量(質量%)、
A:MgSO4の分子量(=122.38)
B:Mgの原子量(=24.312)
C:抽出溶液の体積(ml)
D:無機酸化物材料試料の質量(g)
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、無機酸化物材料中の硫酸マグネシウム含有量を迅速かつ簡便に精度良く定量分析することができ、これに基づき、製鉄スラグなどの無機酸化物材料を耐火物、コンクリート、モルタルなどの原料として使用する際の硫酸マグネシウムを硫酸イオン発生減とする無機酸化物材料の材質劣化を予測し、対策を講じるための情報や指標を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の詳細について、以下に説明する。
【0024】
本発明は、抽出溶媒による酸化物系無機材料中の硫酸マグネシウムの定量法において、抽出溶媒としてエチレングリコールを用い、硫酸マグネシウム(MgSO4)とその他のマグネシウム化合物および硫化物との溶解性の違いを利用し、硫酸マグネシウム(MgSO4)を選択的に抽出し、抽出溶液中のマグネシウム濃度の測定により酸化物系無機材料中の硫酸マグネシウム(MgSO4)量を定量するものである。
【0025】
本発明者らの検討結果によれば、抽出溶媒としてエチレングリコールを用いることにより、硫酸マグネシウムのみが選択的に抽出できる理由は、以下のように考えられる。
【0026】
一般に酸化物系無機材料中の硫酸マグネシウムは七水和物(MgSO4・7H2O)の形態で存在するが、エチレングリコール(HOCH2CH2OH)中では、水(H2O)と硫酸マグネシウム(MgSO4)に乖離し、さらに、マグネシウムイオン(Mg2+) と硫酸イオン(SO42-)となる(下記(4)式)。この際、エチレングリコールから水素イオン(2H+)が放出され、硫酸イオン(SO42-)と硫酸(H2SO4)となり、水素イオン(2H+)の放出部にマグネシウムイオン(Mg2+)が結合し、マグネシウムのエチレングリコレート((OCH2CH2O) Mg)となる(下記(5)式)。
【0027】
MgSO4・7H2O ⇔ Mg2+ + SO42- + 7 H2O ・・・(4)
HOCH2CH2OH + Mg2+ + SO42-⇔ (OCH2CH2O) Mg + 2H+ + SO42- ・・・(5)
また、酸化物系無機材料試料中には、硫酸マグネシウム以外に、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムなどのマグネシウム化合物が存在する。しかし、発明者らの検討によれば、エチレングリコール中で、乖離し、マグネシウムのエチレングリコレート((OCH2CH2O) Mg)は形成されず、抽出されないことを確認した。たとえば炭酸マグネシウムの場合は、エチレングリコール中で、ほとんどMg2+ とCO32-に乖離せず、またイオン化してもグリコレートを形成するに至らない。
【0028】
また、抽出溶媒としてエチレングリコール以外の他のグリコール類を用いる場合には、マグネシウムのエチレングリコレート((OCH2CH2O) Mg)の形成反応による抽出は困難であるか、溶媒除去や分析可能な粘度まで大幅に希釈するなどの作業の煩雑化、コスト増加の原因となり、実用上好ましくない。例えば、ヘキサメチレングリコールは、エチレングリコールに比べて沸点が低く、常温で固体であるため試料を溶解できない。また、プロピレングリコール以上はエチレングリコールに比べて分子量が大きく、粘性が強いため、抽出溶媒として適さない。
【0029】
図1に、無機酸化物材料中に含有する硫酸マグネシウム(MgSO4)とその他のマグネシウム化合物の試薬を用い、エチレングリコール溶媒におけるこれら試薬中のマグネシウムの抽出挙動を調べた結果を示す。
【0030】
なお、抽出条件は、100μm以下に粉砕した試薬0.1gを採取し、エチレングリコール300mlに浸漬し、回転速度200rpm、で攪拌しつつ、25℃の温度でマグネシウムを抽出した。
【0031】
図1から硫酸マグネシウム(MgSO4)中のマグネシウムは、抽出開始後60分でほぼ完全にマグネシウムエチレングリコレート((OCH2CH2O) Mg)として抽出される。一方、その他のマグネシウム化合物(MgO、Mg(OH)2、MgSO4・7H2O、MgCO3・Mg(OH)2・H2O、3MgO・4SiO2・H2O)は抽出開始後840分経過してもほとんど抽出されない。
【0032】
図1から、硫酸マグネシウム(MgSO4)中のマグネシウムがほぼ全量抽出される抽出開始後60分後に溶液の一部を採取し、溶液中のマグネシウム濃度を測定し、このマグネシウム濃度から酸化物系無機材料中の硫酸マグネシウム量を求めることができる。
【0033】
以下に、本発明の溶媒抽出を用いた硫酸マグネシウムの定量法の実施形態を説明する。
【0034】
ここでは、製鉄プロセスの製鋼工程において生成された製鉄スラグを無機酸化物材料試料とし、この試料中に含有する硫酸マグネシウム(MgSO4)を定量する方法について説明する。
(試料の粒度)
酸化物系無機材料の試料は、乾燥させ、風化などにより付着した異物等を取り除いた後、各化合物の抽出を容易にし、抽出挙動を安定化するために予め粉砕し、整粒する必要がある。
【0035】
試料の粒度が100μmよりも大きい場合には、溶媒中へのマグネシウムの抽出が不安定となり、目的とする硫酸マグネシウム(MgSO4)中マグネシウムの抽出速度が遅くなるため、遊離酸化マグネシウム(MgO)を精度良く、かつ効率的に測定するためには、酸化物系無機材料試料は、予め粉砕後、篩い分けなどにより、粒度が100μm以下になるように整粒することが好ましい。より好ましくは、酸化物系無機材料試料を50μm以下に粉砕するのがよい。また、粉砕した試料は、試料中の組成が均一になるように溶媒抽出する前に予めよくかき混ぜるのが好ましい。
(抽出用溶媒:エチレングリコール)
本発明は、上述したように酸化物系無機材料に含有する硫酸マグネシウム中のマグネシウムをマグネシウムエチレングリコレート((OCH2CH2O) Mg)として選択的に抽出するために、抽出用溶媒としてエチレングリコールを用いる。
【0036】
エチレングリコールに比べて分子量が大きく、粘性が高く、或いは、室温で固体状態のグリコールは、硫酸マグネシウム中のマグネシウムを抽出できないか、或いは、マグネシウムの抽出速度が遅くなるため、好ましくない。
【0037】
なお、大気中の二酸化炭素の溶媒中への溶存や、汚染を抑止するために、抽出用溶媒を入れる容器は内部が陽圧になるか、或いは密閉できる構造のものが望ましい。
(抽出温度などの抽出条件)
本発明法において、上述したように酸化物系無機材料試料に含有する硫酸マグネシウム中のマグネシウムは、エチレングリコール中で、マグネシウムエチレングリコレート((OCH2CH2O) Mg)を形成して選択的に抽出される。エチレングリコールが変質しない限り、溶媒抽出の温度を高くすることにより、マグネシウムの抽出速度は向上し、短時間で抽出が完了させる。
【0038】
また、抽出中に、試料中のマグネシウムがマグネシウムエチレングリコレートを形成する反応を促進させ、安定して短時間でマグネシウムの溶媒抽出を行うためには、スターラを用いて攪拌するか、或いは、超音波を用いて溶液を攪拌しながら抽出を行うことが好ましい。
(抽出溶液中のMg濃度の測定)
本発明において、硫酸マグネシウム(MgSO4)中のマグネシウムがほぼ全量抽出される所定時間経過後に採取した抽出溶液中のマグネシウム濃度を測定するための方法は、特に限定するものではなく、マグネシウム金属成分の元素分析が可能な通常の汎用の分析装置を用いて測定することができる。
【0039】
一般に知られている元素分析方法の中で、特に誘導結合プラズマ発光分析法や原子吸光光度法、炎光光度法などは、抽出溶液中のマグネシウムの濃度を短時間で精度良く測定できるため好ましい。
【0040】
採取抽出溶液中のエチレングリコールは、他のグリコール類に比べ粘性は低いものの、そのままでは一般的な上記元素分析装置に導入しにくいため、塩酸、硝酸などの酸を添加して水酸化物の沈殿が生じないように安定させた後、純水で希釈するのが好ましい。
【0041】
なお、予め誘導結合プラズマ発光分析法や原子吸光光度法、炎光光度法などを用いた抽出溶液中のMg濃度の定量は、予め標準溶液を用いて作成した検量線を用いて行なわれる。
【0042】
この検量線を作成するために用いられる標準溶液は、市販の原子吸光用標準溶液を、上記抽出溶液と同じ組成になる様に調製した溶液で希釈し、標準溶液中のマグネシウム濃度は、被測定用試料によって変わるが、0〜10ppm とするのが好ましい。
【0043】
試料中の硫酸マグネシウムの含有量Yは、抽出溶液中のマグネシウム濃度Xの測定値から下記(1)式を用いて求めることができる。
【0044】
Y=X×(A/B)×(C/D) ・・・(1)
ただし、
X:抽出溶媒中のマグネシウム濃度 (g/ml)
Y:試料中の硫酸マグネシウム(MgSO4)含有量(質量%)、
A:MgSO4の分子量(=122.38)
B:Mgの原子量(=24.312)
C:抽出溶液の体積(ml)
D:無機酸化物材料試料の質量(g)
【実施例】
【0045】
以下に本発明の効果について実施例を用いて説明する。
【0046】
本発明の溶媒抽出を用いた硫酸マグネシウムの定量法を用い、実際に風化したコンクリートから採取した試料中の硫酸マグネシウム(MgSO4)の含有量を以下の手順で測定した。
【0047】
先ず、風化したコンクリートを粉砕し、篩分けにより粒度50μm以下にした後、異物を取り除き、粉砕物中の平均組成が均一になるように粉砕物を混合して測定用の試料とした。
【0048】
この試料0.1gを正確に秤量し、容器に入れた後、エチレングリコール100mlを計量し、大気から遮断される密閉構造の容器内に注ぎ入れた。この量のエチレングリコールであれば、一般的な酸化物系無機材料を0.1g添加しても飽和することなく硫酸マグネシウムのみを抽出できることを確認している。
【0049】
抽出条件は、抽出溶媒であるエチレングリコールの温度を室温25℃とし、スターラを用いて200rpmで攪拌しながら試料の抽出を行った。
【0050】
抽出開始から60分経過した後、抽出溶液の10mlをろ過・分取し、(1+1)塩酸10mlを添加してよく振り混ぜた後、純水を80ml添加して100mlにメスアップした後、溶液中のマグネシウム濃度を誘導結合プラズマ発光分析法を用いて測定した。
【0051】
なお、抽出開始から60分経過後には、試料中に含有する硫酸マグネシウム(MgSO4)中のマグネシウムの抽出がほぼ完了していることを確認した。
【0052】
なお、予め誘導結合プラズマ発光分析法の検量線は、標準溶液として、市販の原子吸光用標準溶液を上記抽出溶液と同じ組成になる様に調製した溶液で希釈し、マグネシウム濃度が0〜10ppmのものを用いて作成し、この検量線により、上記抽出溶液中のMg濃度の定量を行った。
【0053】
この抽出溶液中のマグネシウム濃度Xの測定値から下記(1)式を用いて試料中の硫酸マグネシウムの含有量Yを求めた。
【0054】
Y=X×(A/B)×(C/D) ・・・(1)
ただし、
X:抽出溶媒中のマグネシウム濃度(g/ml)
Y:試料中の硫酸マグネシウム(MgSO4)含有量(質量%)、
A:MgSO4の分子量(=122.38)
B:Mgの原子量(=24.312)
C:抽出溶液の体積(ml)
D:無機酸化物材料試料の質量(g)
以上の本発明法による硫酸マグネシウム含有量の定量結果の妥当性を確認するために、燃焼-赤外吸収法を用いて試料中の全イオウ量を測定し、イオウ量から硫酸マグネシウム含有量を求めた結果と比較した。本発明法による試料中の硫酸マグネシウムの含有量の測定、および、燃焼-赤外吸収法による硫酸マグネシウムの含有量の測定は、材質の劣化度の大きい試料H、材質の劣化度が中程度の試料M、及びほとんど材質劣化してない試料Lを用いて行った。その結果を表1に示す。なお、材質の劣化は、目視による外観検査により比較判断したものである。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示されるように、試料Mは材質の劣化度が中程度であるにもかかわらず、燃焼−赤外吸収法による全イオウ量から算出された硫酸マグネシウムの含有量は材質の劣化度の大きい試料Hよりも多くなっており、燃焼−赤外吸収法による全イオウ量から試料中の硫酸マグネシウム含有量は精度良く測定することはできない。
【0057】
これは、試料Mが試料Hよりも多くの硫酸マグネシウムを含んでいるが、あまり劣化していないことから、水分の存在やそのpH、温度など外部の環境条件により、硫酸マグネシウムが硫酸イオンを放出せず安定して存在し続けたため、劣化の原因となる二水セッコウの形成に寄与せず、結果として劣化が少ないままの状態でいたものだと考えられる。
【0058】
しかし、硫酸イオンそのものは硫酸マグネシウムとして材料内により多く存在していることから、水分の存在やそのpH、温度など外部環境に何らかの変化が生じれば、硫酸イオンがカルシウムと結合して二水セッコウとなり、コンクリートの劣化を加速させる可能性があることが予想できる。
【0059】
比較例である全イオウ量の分析値からも試料Mがイオウを多く含んでいることは分かるが、硫化物で存在しているのか、硫酸塩、特に、直に酸化物系無機材料の膨張に繋がる可能性のある二水セッコウや、硫酸イオン源となる硫酸マグネシウムが存在しているのかなど詳細な解析を行うことは難しい。
【0060】
以上より、酸化物系無機材料の特性に関する新たな知見を提供でき、硫酸イオンの存在形態の一つである硫酸マグネシウム濃度を明らかにすることにより、従来にない酸化物系無機材料の評価指標を得ることができ、酸化物系無機材料の適切な用途選択や、補修・保護方法の選択に指針を与えることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】各種マグネシウム化合物のエチレングリコール溶媒中への抽出挙動を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抽出溶媒による酸化物系無機材料試料中の硫酸マグネシウムの定量方法において、前記抽出溶媒としてエチレングリコールを用い、前記試料を含む抽出溶媒を攪拌しながらマグネシウムの抽出を開始し、前記硫酸マグネシウム中のマグネシウムを抽出完了後、該抽出溶媒中のマグネシウム濃度を測定し、該測定値を基に、前記試料中の硫酸マグネシウム含有量を求めることを特徴とする酸化物系無機材料試料中の硫酸マグネシウム定量方法。
【請求項2】
前記抽出溶媒中のマグネシウム濃度の測定は、誘導結合プラズマ発光分析法や原子吸光光度法、および、炎光光度法の何れかを用いて行うことを特徴とする請求項1に記載の酸化物系無機材料試料中の硫酸マグネシウム定量方法。
【請求項3】
前記試料は、粒度:100μm以下の整粒された試料であることを特徴とする請求項1または2記載の酸化物系無機材料試料中の硫酸マグネシウム定量方法。
【請求項4】
前記試料中の硫酸マグネシウム含有量Yは、前記抽出溶媒中のマグネシウム濃度Xの測定値から、下記(1)式を用いて求めることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の酸化物系無機材料試料中の硫酸マグネシウム定量方法。
Y=X×(A/B)×(C/D) ・・・(1)
ただし、
X:抽出溶媒中のマグネシウム濃度の測定値(g/ml)
Y:試料中の硫酸マグネシウム(MgSO4)含有量(質量%)、
A:MgSO4の分子量(=122.38)
B:Mgの原子量(=24.312)
C:抽出溶液の体積(ml)
D:無機酸化物材料試料の質量(g)

【図1】
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【公開番号】特開2007−309841(P2007−309841A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140652(P2006−140652)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】