説明

酸化物膜積層構造体の酸素拡散評価方法

【課題】酸素を主成分とする材料において、化学量論的組成に対する酸素の微量な超過、欠損などが当該材料の物性に寄与することが経験的にわかっている。しかしながら、酸素を主成分とする材料中の微量の酸素を評価しようとするとき、既存の定量分析の手法では、定量精度に数atomic%の不確かさが含まれる。そのため、酸素を主成分とする材料における酸素の超過、欠損などの影響を正確に評価することが困難であった。そこで、酸素を主成分とする膜において、微量な酸素の増減を比較可能とする評価方法について提案する。
【解決手段】第1の酸化物膜と、該第1の酸化物膜と酸素の同位体の存在比率の異なる第2の酸化物膜と、を有する基板を、二次イオン質量分析法によって前記酸素の同位体の一の深さ方向の定量値を測定し、第1の酸化物膜から第2の酸化物膜へ拡散する酸素の同位体の一を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一形態は酸化物材料の評価方法に係り、例えば酸化物膜が積層された構造体における酸素の挙動を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁表面を有する基板上に形成された半導体薄膜を用いてトランジスタを構成する技術が注目されている。該トランジスタは集積回路(IC)や画像表示装置(表示装置)のような電子デバイスに広く応用されている。トランジスタに適用可能な半導体薄膜の材料としてシリコン系半導体材料が広く知られているが、その他の材料として酸化物半導体が注目されている。
【0003】
例えば、トランジスタの活性層として、電子キャリア濃度が1018/cm未満であるインジウム(In)、ガリウム(Ga)、及び亜鉛(Zn)を含む非晶質酸化物を用いたトランジスタが開示されている(特許文献1参照。)。
【0004】
酸化物半導体を用いたトランジスタは、アモルファスシリコンを用いたトランジスタよりも動作が速く、多結晶シリコンを用いたトランジスタよりも製造が容易であるものの、電気的特性が変動しやすく信頼性が低いという問題点が知られている。例えば、バイアス−熱ストレス試験(BT試験)前後において、トランジスタのしきい値電圧は変動してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−165528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸素を主成分とする膜において、化学量論的組成に対する酸素の微量な超過、欠損などが該膜の物性に寄与することが経験的にわかっている。しかしながら、酸素を主成分とする膜中の微量の酸素を評価しようとするとき、既存の定量分析の手法では、定量精度に数atomic%の不確かさが含まれる。そのため、酸素を主成分とする膜における酸素の微量な超過、欠損などの影響を正確に評価することが困難であった。そこで、酸素を主成分とする膜において、微量な酸素の増減を比較可能とする評価方法について提案する。
【0007】
さらに、酸化物半導体膜における酸素の挙動を評価することを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、第1の酸化物膜と、該第1の酸化物膜と酸素の同位体の存在比率の異なる第2の酸化物膜と、を有する基板を、二次イオン質量分析法によって前記酸素の同位体の一の深さ方向の定量値を測定し、第1の酸化物膜から第2の酸化物膜へ拡散する酸素の同位体の一を評価する酸化物膜積層構造体の酸素拡散評価方法である。
【0009】
なお、第1、第2として付される序数詞は便宜上用いるものであり、工程順または積層順を示すものではない。また、本明細書において発明を特定するための事項として固有の名称を示すものではない。
【0010】
また、本発明の一態様は、第1の酸化物と第2の酸化物を入れ替えて適用することが可能である。
【0011】
また、酸素の同位体の一が、質量数18の酸素原子である酸化物膜積層構造体の酸素拡散評価方法である。
【0012】
本明細書において、質量数18の酸素原子を18Oと記載する。また、18Oで構成される酸素分子を18と記載する。その他の同位体原子、同位体原子によって構成される分子についても同様の記載方法を適用する。また、18Oと質量数16の酸素原子(16O)によって構成される酸素分子も当然存在するものであるが、煩雑になることを避けるため、本明細書においては説明を省略する。
【0013】
本明細書において、酸素の同位体の一として18Oを主に用いて説明する。ただし、必ずしも18Oに限定されるものではなく、例えば、質量数17の酸素原子(17O)や16Oに置き換えて実施することが可能である。
【0014】
また、本明細書では、酸化物膜積層構造体の酸素拡散評価方法に言及しているが、これを水素、窒素、硫黄、炭素などの安定同位体を有する元素の評価方法に用いることもできる。
【0015】
ここで、自然界に存在する酸素の同位体の平均の存在比率は、16Oが99.762atomic%、17Oが0.037atomic%、18Oが0.204atomic%である。同位体の存在比率が上記から0.1atomic%程度ずれることもある。述べるまでもないが、上記の同位体の存在比率から外れた場合においても、本発明を適用することに何ら問題はない。
【0016】
上述の存在比率から、16Oは18Oの489倍多く自然界に存在することがわかる。即ち、意図的に同位体の比率を制御していない通常の酸化物においても、16Oは18Oの489倍多く存在する。
【0017】
例えば、第1の酸化物膜は、酸化物半導体膜または酸化物絶縁膜である。また、第2の酸化物膜は、酸化物半導体膜または酸化物絶縁膜である。
【0018】
第1の酸化物膜に第2の酸化物膜よりも高い濃度で18Oが含まれるとき、その含有量に十分な差があれば、第1の酸化物膜を18Oの供給源として第2の酸化物膜への18Oの拡散を評価し得る。18Oの拡散の評価には、拡散係数にもよるが、ある程度の熱を加えることが必要な場合が多い。
【0019】
このとき、加えた温度Tと時間tに応じて、18Oの拡散距離x及び表面濃度CをSIMSによって見積もることができる。ここで、xは表面からの距離(第1の酸化物膜及び第2の酸化物膜の界面から、第2の酸化物膜方向に向かっての距離)である。
【0020】
見積もった18Oの拡散距離x及び表面濃度Cから数式1を適用すると、拡散係数Dを導出できる。
【0021】
【数1】

【0022】
ここで、加える温度Tを何条件か変えて拡散係数Dを導出すると、拡散係数Dは数式2のように表せるため、後述するように活性化エネルギーEを導出することができる。
【0023】
【数2】

ここで、Dは頻度因子、kはボルツマン定数である。
【0024】
数式2の両辺の自然対数をとると、数式3になる。
【0025】
【数3】

【0026】
即ち、Tの逆数に対してlnDをプロットした直線の傾きは−(E/k)、切片はlnDとなり、活性化エネルギーE及び頻度因子Dを導出することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一態様により、酸素を主成分とする膜中の酸素の拡散を評価できる。
【0028】
また、酸化物半導体膜に適用することで、酸化物半導体膜の酸素の微量な増減を評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施の形態を説明するための試料の断面構造を示した図。
【図2】酸素の濃度について説明する図。
【図3】酸素の拡散について説明する図。
【図4】酸素の拡散を解析するための図。
【図5】酸素の拡散係数と温度の逆数をプロットした図。
【図6】トランジスタの上面図及び断面図。
【図7】トランジスタの電気的特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、その形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、図面を用いて発明の構成を説明するにあたり、同じものを指す符号は異なる図面間でも共通して用いる。なお、同様のものを指す際にはハッチパターンを同じくし、特に符号を付さない場合がある。
【0031】
本実施の形態では、酸化物膜から近接する酸化物膜への酸素の拡散を評価する方法について説明する。
【0032】
酸化物半導体膜は、酸素欠損に起因して電荷が生じる場合がある。一般に酸化物半導体膜中の酸素欠損の一部は、ドナーとなりキャリアである電子を生じる。この結果、酸化物半導体を用いたトランジスタのしきい値電圧がマイナスシフトしてしまう。なお、本明細書においてしきい値電圧とは、トランジスタを「オン状態」にするために必要なゲート電圧をいう。そして、ゲート電圧とは、ソースの電位を基準としたゲートの電位との電位差をいう。
【0033】
例えば、酸化物半導体を用いたトランジスタにおいて、下地である絶縁膜から酸化物半導体膜に酸素が供給されるとき、トランジスタの動作などに起因して生じうる電荷の影響を低減することができる。
【0034】
このように、酸化物半導体膜の酸素欠損に起因するトランジスタの電気特性の変動が問題になることがある。ところが、上述の酸素欠損を評価しようとする場合、既存の簡便な評価方法がなく、状況証拠や計算結果などの結果を鑑みて総合的に評価する必要があった。
【0035】
例えば、ラザフォード後方散乱法(RBS:Rutherford Backscattering Spectrometry)による酸化物膜の酸素の定量分析には、プラスマイナス5atomic%の不確かさを伴う。RBSは重金属の定量分析には一定の精度を有するが、低質量の元素ほど精度が低くなるため酸素の定量分析には適さない。また、電子線マイクロアナライザー(EPMA:Electron Probe X−ray MicroAnalyzer)による酸化物膜の酸素の定量分析には、プラスマイナス0.1weight%の不確かさを伴う。EPMAは比較的定量精度の高い分析方法であるが、酸化物膜の厚さを1μm以上とする必要があり、また得られる定量値は測定範囲における平均値となるため、トランジスタに用いるような薄膜中の酸素の評価には不適当である。また、X線光電子分光法(XPS:X−ray Photoelectron Spectroscopy)は、膜をエッチングしながら分析を行うことで深さ方向の定量分析が可能であるが、酸素の定量分析にプラスマイナス1atomic%の不確かさを伴う。即ち、これらの定量分析方法では、薄膜中の微量の酸素の増減を議論することができない。
【0036】
一般に微量の酸素の定量分析には、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectroscopy)が用いられる。SIMSは微量分析に適しているが、1×1022atoms/cm以上含まれる主成分の微量な増減を評価することは困難である。
【0037】
そこで、酸素を主成分とする膜においても酸素の微量の増減を比較可能とするため、酸素の同位体の一を用いる酸化物膜積層構造体の酸素拡散評価方法を提案する。
【0038】
酸素の微量の増減が比較可能な試料について図1を用いて説明する。該試料は、基板100と、基板100上の第1の酸化物膜102と、第1の酸化物膜102上の第2の酸化物膜104と、を有する(図1参照。)。
【0039】
ここで、第1の酸化物膜102または第2の酸化物膜104の一方は、酸素の同位体の一を天然に存在する比率より高濃度に含む。好ましくは1×1021atoms/cm以上含む。酸素の同位体としては、16O、17O及び18Oが知られている。
【0040】
第1の酸化物膜102には、例えば酸化物絶縁膜を用いる。酸化物絶縁膜の材料には、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化ランタン、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化セリウムまたは酸化ネオジムなどを用いる。あるいは、前述の酸化物を混合して用いてもよい。また、水素、窒素、炭素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなどを含んでもよい。
【0041】
第2の酸化物膜104には、例えば酸化物半導体膜を用いる。酸化物半導体膜に用いる材料としては、四元系金属酸化物であるIn−Sn−Ga−Zn−O系の材料や、三元系金属酸化物であるIn−Ga−Zn−O系の材料、In−Sn−Zn−O系の材料、In−Al−Zn−O系の材料、Sn−Ga−Zn−O系の材料、Al−Ga−Zn−O系の材料、Sn−Al−Zn−O系の材料や、二元系金属酸化物であるIn−Zn−O系の材料、Sn−Zn−O系の材料、Al−Zn−O系の材料、Zn−Mg−O系の材料、Sn−Mg−O系の材料、In−Mg−O系の材料、In−Ga−O系の材料や、In−O系の材料、Sn−O系の材料、Zn−O系の材料などを用いてもよい。また、上記の材料に酸化シリコンを含ませてもよい。ここで、例えば、In−Ga−Zn−O系の材料は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)を有する酸化物膜、という意味であり、その組成比は特に問わない。また、InとGaとZn以外の元素を含んでいてもよい。
【0042】
また、酸化物半導体膜は、化学式InMO(ZnO)(m>0)で表記される材料を用いた薄膜により形成する。ここで、Mは、Ga、Al、Mn及びCoから選ばれた一または複数の金属元素を示す。例えば、Mとして、Ga、Ga及びAl、Ga及びMnまたはGa及びCoなどを用いてもよい。
【0043】
ここで、第1の酸化物膜102及び第2の酸化物膜104を適宜入れ替えてもよい。また、本実施の形態では、第1の酸化物膜102として酸化物絶縁膜を、第2の酸化物膜104として酸化物半導体膜を、それぞれ用いているが、これに限定されない。例えば、第1の酸化物膜102として酸化物半導体膜を、第2の酸化物膜104としても酸化物半導体膜を設けても構わない。酸化物半導体膜に代えて酸化物絶縁膜を用いた場合についても同様である。
【0044】
なお、図示しないが第2の酸化物膜上に保護膜を設けてもよい。保護膜によって、第2の酸化物膜の脱ガスを抑制できる。保護膜としては、窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、窒化アルミニウム膜などを用いることができる。
【0045】
または、第1の酸化物膜102及び第2の酸化物膜104は酸化物に限らず、窒化物、硫化物、フッ化物、塩化物、セレン化合物、有機化合物、その他化合物などとしても構わない。その場合、後述の第1の酸化物膜102及び第2の酸化物膜104の成膜時に用いる同位体を有する成膜ガスを適宜選択すればよい。
【0046】
基板100の材質などに大きな制限はないが、少なくとも、後の熱処理に耐えうる程度の耐熱性を有している必要がある。例えば、ガラス基板、セラミック基板、石英基板、サファイア基板などを、基板100として用いることができる。また、シリコンや炭化シリコンなどの単結晶半導体基板、多結晶半導体基板、シリコンゲルマニウムなどの化合物半導体基板、SOI基板などを適用することも可能であり、これらの基板上に半導体素子が設けられたものを、基板100として用いてもよい。
【0047】
ここで、第1の酸化物膜102及び第2の酸化物膜104のSIMSを行い、第1の酸化物膜102及び第2の酸化物膜104に含まれる各酸素の同位体の濃度について、深さ方向の定量分析を行う。なお、一次イオン種にはセシウム一次イオン(Cs)を用いればよい。
【0048】
こうすることで、第1の酸化物膜102に含まれる天然よりも存在比率の高い酸素の同位体の一が、第2の酸化物膜104中に拡散する距離や濃度などを評価することができる。または、第2の酸化物膜104に含まれる天然よりも存在比率の高い酸素の同位体の一が、第1の酸化物膜102中に拡散する距離や濃度などを評価することができる。
【0049】
また、図1の積層物を一定時間だけ熱処理したときの第1の酸化物膜102に含まれる天然よりも存在比率の高い酸素の同位体の一が、第2の酸化物膜104中に拡散する距離や濃度などを評価してもよい。または、第2の酸化物膜104に含まれる天然よりも存在比率の高い酸素の同位体の一が、第1の酸化物膜102中に拡散する距離や濃度などを評価してもよい。
【0050】
このとき、熱処理の時間t及び温度Tから、前述の数式1を適用して拡散係数Dを導出することができる。また、拡散係数Dと温度Tの逆数のプロットから、数式3を適用して活性化エネルギーE及び頻度因子Dを導出することができる。
【0051】
次に、図1に示す積層物の作製方法について説明する。
【0052】
まず、第1の酸化物膜102は、スパッタリング法、分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、CVD法、パルスレーザ堆積法、原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法などの成膜方法で成膜する。あるいは、酸素の同位体の一を、第1の酸化物膜102中に天然よりも高い存在比率で含ませることのできる成膜方法であればよい。
【0053】
例えば、第1の酸化物膜102をスパッタリング法を用いて酸化アルミニウム膜を成膜する場合、スパッタ室に成膜ガスとしてアルゴンガスを10sccm及び酸素ガスとして18を40sccm導入し、圧力を0.4Paに調整した後、該成膜ガスを用いてアルミニウムターゲットにパルスDC電源から1kWの電力を印加する反応性スパッタリング法を用いて成膜すればよい。このとき、成膜対象となる基板の温度は室温とすればよい。
【0054】
また、第1の酸化物膜102をCVD法の一種であるプラズマCVD法を用いて酸化窒化シリコン膜を成膜する場合、成膜ガスとしてモノシランガスを25sccm及び亜酸化窒素ガスとしてN18Oを1000sccm導入し、圧力を133.3Paに調整した後、電極にRF電源から電力を35W印加することで気相反応及び基板表面反応を起こし、膜を堆積させればよい。このとき、成膜対象となる基板の温度及び電極の温度はそれぞれ200℃とする。
【0055】
または、上述の成膜方法に限らず、成膜ガス中に18Oを1atomic%以上含めばよい。
【0056】
なお、ここでは、酸化窒化シリコンとは、その組成として、窒素よりも酸素の含有量が多いものであって、好ましくは、RBS及び水素前方散乱法(HFS:Hydrogen Forward Scattering Spectrometry)を用いて測定した場合に、組成範囲として酸素が50atomic%〜70atomic%、窒素が0.5atomic%〜15atomic%、およびシリコンが25atomic%〜35atomic%の範囲で含まれるものをいう。また、窒化酸化シリコンとは、その組成として、酸素よりも窒素の含有量が多いものであって、好ましくは、RBS及びHFSを用いて測定した場合に、組成範囲として酸素が5atomic%〜30atomic%、窒素が20atomic%〜55atomic%、シリコンが25atomic%〜35atomic%、および水素が10atomic%〜30atomic%の範囲で含まれるものをいう。ただし、酸化窒化シリコンまたは窒化酸化シリコンを構成する原子の合計を100atomic%としたとき、窒素、酸素、シリコン及び水素の含有比率が上記の範囲内に含まれるものとする。
【0057】
ここで、基板、第1の酸化物膜102及び第2の酸化物膜104を加熱する場合、例えば、抵抗発熱体などを用いて加熱すればよい。または、加熱されたガスなどの媒体からの熱伝導または熱輻射によって、加熱しても用いてもよい。例えば、GRTA(Gas Rapid Thermal Anneal)、LRTA(Lamp Rapid Thermal Anneal)などのRTA(Rapid Thermal Anneal)を用いることができる。LRTAは、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、高圧ナトリウムランプ、高圧水銀ランプなどのランプから発する光(電磁波)の輻射により、被処理物を加熱する。GRTAは、高温のガスを用いて熱処理を行う。ガスとしては、不活性ガスが用いられる。
【0058】
以上の工程で、図1に示す積層物を作製することができる。
【0059】
本実施の形態によって、酸化物膜から近接する酸化物膜への酸素の拡散を評価することが可能となる。
【実施例1】
【0060】
本実施例では、18及びOを成膜ガスに用いて石英ターゲットをスパッタリングして成膜した酸化シリコン膜について説明する。なお、単にOと表記する場合、自然界に存在する比率で同位体を含んだ酸素を示すものとする。
【0061】
成膜ガスは、アルゴンガスを25sccm、酸素ガスを25sccmとした。このとき、酸素ガスの総流量は一定とし、酸素ガス中の18及びOの混合比を変えた。具体的には、(18/(18+O))割合を0volume%、20volume%、40volume%、60volume%、80volume%及び100volume%とし、石英ターゲットをスパッタリングして酸化シリコン膜を300nmの厚さで成膜した。その後、該酸化シリコン膜に含まれる18O及び16Oの平均の濃度をSIMSによって評価した(図2参照。)。なお、一次イオン種にはセシウム一次イオンを用いた。18O及び16Oの平均の濃度は、酸化シリコン膜の表面及び基板の界面から50nmの深さまでを除外して算出した。酸化シリコン膜の成膜条件を以下に示す。
【0062】
・成膜法:RFスパッタリング法
・ターゲット:石英ターゲット
・成膜ガス:Ar(25sccm)、18+O(計25sccm)
・電力:1.5kW(13.56MHz)
・圧力:0.4Pa
・T−S間距離:60mm
・成膜時基板温度:100℃
【0063】
図2において、シンボル1002は16Oの濃度を、シンボル1004は18Oの濃度を、それぞれ示す。酸素ガス中の(18/(18+O))割合を高めるに従い、膜中の18Oの濃度が一次関数的に増加し、16Oの濃度が一次関数的に減少することがわかる。
【0064】
本実施例によって、18及びOを成膜ガスに用いて石英ターゲットをスパッタリングして成膜した酸化シリコン膜は、酸素ガス中の(18/(18+O))割合に応じて、成膜した酸化シリコン膜中の18O及び16Oの割合が決まることがわかる。
【実施例2】
【0065】
本実施例では、酸化シリコン膜から酸化物半導体膜へ拡散する酸素を評価した例について説明する。
【0066】
なお、酸化物半導体膜への酸素の拡散を評価するために、実施例2に示した方法で、第1の酸化物膜102中に18Oを含有させている。
【0067】
本実施例では、試料1乃至試料5の18Oの深さ方向分析をSIMSを用いて行った。なお、一次イオン種にはセシウム一次イオンを用いた。
【0068】
各試料の作製方法を示す。
【0069】
まず、石英基板に18Oを含有する酸化シリコン膜を成膜した。酸化シリコン膜の成膜条件を以下に示す。
【0070】
・成膜法:RFスパッタリング法
・ターゲット:石英ターゲット
・成膜ガス:Ar(25sccm)、18(25sccm)
・電力:1.5kW(13.56MHz)
・圧力:0.4Pa
・T−S間距離:60mm
・成膜時基板温度:100℃
・厚さ:300nm
【0071】
次に、酸化シリコン膜上に酸化物半導体膜を成膜した。
【0072】
酸化物半導体膜の成膜条件を以下に示す。
【0073】
・成膜法:DCスパッタリング法
・ターゲット:In−Ga−Zn−O(In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比])ターゲット
・成膜ガス:Ar(30sccm)、O(15sccm)
・電力:0.5kW(DC)
・圧力:0.4Pa
・T−S間距離:60mm
・成膜時基板温度:200℃
・厚さ:100nm
【0074】
次に、熱処理を行う。熱処理の条件は、温度を250℃、450℃、550℃または650℃、時間を1時間、窒素雰囲気中とした。ここで、試料2は加熱温度を250℃とし、試料3は加熱温度を450℃とし、試料4は加熱温度を550℃とし、試料5は加熱温度を650℃とした。なお、試料1は熱処理を行っていない。
【0075】
図3に試料1乃至試料5の18Oの深さ方向分析の結果を示す。シンボル2001は試料1、シンボル2003は試料2、シンボル2005は試料3、シンボル2007は試料4、シンボル2009は試料5を示す。また、範囲2050は酸化物半導体膜、範囲2060は酸化シリコン膜を示す。ここで、18Oの定量範囲は範囲2050である。なお、破線2070は18Oの、酸化物半導体膜における定量下限を示す。
【0076】
試料1及び試料2では18Oがほとんど酸化物半導体膜へSIMSの測定範囲内において拡散しないことがわかる。また、試料3、試料4、試料5と熱処理温度を上げるに伴い、18Oの酸化物半導体膜での表面濃度が高まり、拡散距離が長くなることがわかる。
【0077】
ここで、18Oの拡散源である酸化シリコン膜における18Oの表面濃度を一定とし、無限遠における18Oの濃度はゼロと仮定して拡散係数を見積もった。上記の仮定において、18Oの深さ方向の濃度分布は前述の数式1で表される。数式1を用いて実験値とのフィッティングを行う際、距離の基準となる酸化シリコン膜と酸化物半導体膜の界面の位置はシリコンの信号強度が大きく変化する位置から判断した。
【0078】
ここで、Cは酸化物半導体膜における18Oの表面濃度、xは表面からの距離(ここでは酸化シリコン膜及び酸化物半導体膜の界面から酸化物半導体膜方向への距離)、Dは酸化物半導体膜における18Oの拡散係数、tは熱処理の時間である。
【0079】
数式1を用いてフィッティングを行った結果を図4に示す。シンボル2105は試料3、シンボル2107は試料4、シンボル2109は試料5の18Oの濃度分布を示す。また、実線2115は試料3、実線2117は試料4、実線2119は試料5のフィッティングカーブを示す。ここで、範囲2150は、酸化物半導体膜、範囲2160は酸化シリコン膜を示す。18Oの定量範囲は範囲2150である。なお、破線2170は酸化シリコン膜と酸化物半導体膜の界面、破線2180は、酸化物半導体膜の表面を示す。得られたフィッティング値は、実験値を非常によく再現できた。なお、試料1及び試料2は、図3からSIMSの測定範囲内において拡散が確認できなかったためフィッティングを行っていない。
【0080】
図4のフィッティングの結果から試料3における18Oの拡散係数は3.5×10−17cm/秒、試料4における18Oの拡散係数は6.3×10−16cm/秒、試料5における18Oの拡散係数は6.2×10−15cm/秒であった。
【0081】
ここで、前述の数式3より、図4から得られた試料3乃至試料5におけるDの自然対数とTの逆数をプロットし、図5に示す。図5のプロットを近似すると、lnD=−14.304、−(E/k)=−17025が得られた。つまり、D=6.16×10−7cm/秒である。また、kは1.3807×10−23J/Kであるから、E=2.39×10−19Jとなる。単位換算すると、E=1.49eVとわかる。
【0082】
本実施例によって、酸化シリコン膜から酸化物半導体膜への酸素の拡散を評価できた。
【0083】
また、得られた頻度因子D及び活性化エネルギーEから、前述の数式2を適用することで各温度における拡散係数Dを外挿し導出することができるため、SIMS分析の測定下限値以下の酸素の拡散についても議論可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
酸化物半導体を用いたトランジスタの安定動作及び特性向上が、下地である酸化物絶縁膜から酸化物半導体層への酸素の拡散によってもたらされることを説明する。
【0085】
図6は、酸化物半導体を用いたトップゲートトップコンタクト型であるトランジスタ251の上面図及び断面図を示す。ここで、図6(A)は上面図であり、図6(B)及び図6(C)はそれぞれ、図6(A)におけるA−B断面及びC−D断面における断面図である。なお、図6(A)では、煩雑になることを避けるため、トランジスタ251の構成要素の一部(例えば、ゲート絶縁膜212など)を省略している。
【0086】
図6に示すトランジスタ251は、基板200と、基板200上の酸化物絶縁膜202と、酸化物絶縁膜202上の酸化物半導体膜206と、酸化物半導体膜206上に設けられた一対のソース電極208a及びドレイン電極208bと、ソース電極208a及びドレイン電極208bを覆い、酸化物半導体膜206と一部が接するゲート絶縁膜212と、酸化物半導体膜206上にゲート絶縁膜212を介して設けられたゲート電極214とを含む。
【0087】
酸化物絶縁膜202は実施例2で示した酸化シリコン膜を300nmの厚さで用いた。また、酸化物半導体膜206は実施例2で示した酸化物半導体膜を30nmの厚さで用いた。実施例2において、試料の熱処理温度を高めるに従い、酸化シリコン膜から酸化物半導体膜への酸素の拡散量が増加することがわかった。酸化シリコン層から酸化物半導体膜への酸素の拡散量が増加することで作製するトランジスタの諸特性がどのように変化するか以下に説明する。
【0088】
ソース電極208a、ドレイン電極208b及びゲート電極214の材料は、全てタングステン膜を100nmの厚さで用いた。
【0089】
ゲート絶縁膜212は、酸化窒化シリコン膜を30nmの厚さで用いた。
【0090】
トランジスタ251を2試料を用意し、それぞれを熱処理した。熱処理は、窒素ガス雰囲気において、温度を250℃または350℃、時間を1時間とした。該熱処理によって、下地である酸化物絶縁膜202から酸化物半導体膜206へ酸素の拡散が起こる。
【0091】
なお、実施例2の結果から250℃及び350℃における酸素の拡散を外挿すると、250℃では、0.2nmの深さまで1×1017atoms/cm以上の酸素が拡散することがわかり、350℃では、3nmの深さまで1×1017atoms/cm以上の酸素が拡散することがわかる。
【0092】
本実施例のトランジスタにおけるドレイン電流(Ids)−ゲート電圧(Vgs)測定結果について図7に示す。測定は、基板面内で25点行っており、重ねて表示している。チャネル長Lは0.8μm、チャネル幅Wは10μmである。なお、トランジスタのソース電極とドレイン電極の間の電圧Vdsは3Vとした。
【0093】
図7(A)は250℃で熱処理した試料の、図7(B)は350℃で熱処理した試料のIds−Vgs測定結果である。250℃で熱処理した試料は、しきい値電圧の平均が0.22V、Vgs=0Vにおける電流値の平均が1.7×10−8Aであった。350℃で熱処理した試料は、しきい値電圧の平均が0.72V、Vgs=0Vにおける電流値の平均が1.2×10−12Aであった。
【0094】
酸化物絶縁膜202から酸化物半導体膜206への酸素の拡散量が大きい試料において、しきい値電圧がプラスシフトし、Vgs=0Vにおける電流値が低減した。即ち、酸素の拡散によってトランジスタをノーマリーオフ化することができるとわかる。
【0095】
このように、酸化物絶縁膜と酸化物半導体膜との間における酸素拡散の挙動を把握することで、酸化物半導体を用いたトランジスタ及び関連するデバイスの開発、信頼性の向上、特性向上に寄与する。
【符号の説明】
【0096】
100 基板
102 第1の酸化物膜
104 第2の酸化物膜
200 基板
202 酸化物絶縁膜
206 酸化物半導体膜
208a ソース電極
208b ドレイン電極
212 ゲート絶縁膜
214 ゲート電極
251 トランジスタ
1002 シンボル
1004 シンボル
2001 シンボル
2003 シンボル
2005 シンボル
2007 シンボル
2009 シンボル
2050 範囲
2060 範囲
2070 破線
2105 シンボル
2107 シンボル
2109 シンボル
2115 実線
2117 実線
2119 実線
2150 範囲
2160 範囲
2170 破線
2180 破線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の酸化物膜と、
前記第1の酸化物膜上に設けられた、前記第1の酸化物膜と酸素の同位体の存在比率の異なる第2の酸化物膜と、を有する基板を、二次イオン質量分析法によって前記酸素の同位体の一の深さ方向の定量値を測定し、
前記第1の酸化物膜から前記第2の酸化物膜へ拡散する前記酸素の同位体の一を評価することを特徴とする酸化物膜積層構造体の酸素拡散評価方法。
【請求項2】
第1の酸化物膜と、
前記第1の酸化物膜上に設けられた、前記第1の酸化物膜と酸素の同位体の存在比率の異なる第2の酸化物膜と、を有する基板を、二次イオン質量分析法によって前記酸素の同位体の一の深さ方向の定量値を測定し、
前記第2の酸化物膜から前記第1の酸化物膜へ拡散する前記酸素の同位体の一を評価することを特徴とする酸化物膜積層構造体の酸素拡散評価方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記第1の酸化物膜及び前記第2の酸化物膜を有する前記基板を熱処理した後、前記二次イオン質量分析法によって前記酸素の同位体の一の深さ方向の定量値を測定することを特徴とする酸化物膜積層構造体の酸素拡散評価方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
前記酸素の同位体の一が、質量数18の酸素原子であることを特徴とする酸化物膜積層構造体の酸素拡散評価方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
前記第1の酸化物膜及び前記第2の酸化物膜の少なくとも一が酸化物半導体膜であることを特徴とする酸化物膜積層構造体の酸素拡散評価方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記酸化物半導体膜が、インジウム、ガリウム及び亜鉛の少なくともいずれかを含むことを特徴とする酸化物膜積層構造体の酸素拡散評価方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一において、
前記第1の酸化物膜及び前記第2の酸化物膜の少なくともいずれかが酸化物絶縁膜であることを特徴とする酸化物膜積層構造体の酸素拡散評価方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一において、
前記第1の酸化物膜が、質量数18の酸素原子を1atomic%以上含むガスを用いて成膜されることを特徴とする酸化物膜積層構造体の酸素拡散評価方法。
【請求項9】
請求項8において、
前記第1の酸化物膜が、スパッタリング法によって成膜されることを特徴とする酸化物膜積層構造体の酸素拡散評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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