酸化物薄膜用スパッタリングターゲットおよびその製造法
【課題】スパッタリング法を用いた酸化物半導体膜の成膜時の異常放電の発生が抑制され、連続して安定な成膜が可能なスパッタリングターゲットを提供すること。希土類酸化物C型の結晶構造を持つ、表面にホワイトスポット(スパッタリングターゲット表面上に生じる凹凸などの外観不良)がないスパッタリングターゲット用の酸化物を提供すること。
【解決手段】ビックスバイト構造を有し、酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化亜鉛を含有する酸化物焼結体であって、インジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たす組成範囲にある焼結体を提供する。
In/(In+Ga+Zn)<0.75
【解決手段】ビックスバイト構造を有し、酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化亜鉛を含有する酸化物焼結体であって、インジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たす組成範囲にある焼結体を提供する。
In/(In+Ga+Zn)<0.75
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、組成式In2Ga2ZnO7で表されるYb2Fe3O7構造化合物を含む酸化物焼結体から成る、酸化物薄膜の形成に適したスパッタリングターゲットおよびその製造法に関する。
また、本発明は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の酸化物を含み、ビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)m (mは1〜4の自然数)を含む酸化物焼結体から成る酸化物半導体膜の形成に適したスパッタリングターゲットおよびその製造法に関する。
また、本発明は、希土類酸化物C型の結晶構造を持つ焼結体に関する。
また、本発明は、希土類酸化物C型の結晶構造を持つターゲット、特にスパッタリングによるアモルファス酸化物膜の形成に適したターゲット、及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属複合酸化物からなる酸化物半導体膜としては、例えばIn、GaおよびZnの酸化物(IGZO)からなる酸化物半導体膜(以下、酸化物薄膜とも言う)が挙げられる。IGZOスパッタリングターゲットを用いて成膜してなる酸化物半導体膜は、アモルファスSi膜よりも移動度が大きいことを特徴として注目を集めている。また、このような酸化物半導体膜は、アモルファスSi膜よりも移動度が大きいことや可視光透過性が高いことから、液晶表示装置、薄膜エレクトロルミネッセンス表示装置などのスイッチング素子(薄膜トランジスタ)などへの応用が期待されており、注目を集めている。
IGZOスパッタリングターゲットはInGaO3(ZnO)m(m=1〜20の整数)で表される化合物が主成分であることが知られている。しかし、IGZOスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング(DCスパッタリング)をする場合に、このInGaO3(ZnO)mで表される化合物が異常成長して異常放電を起こし、得られる膜に不良が発生する問題があった。また得られるスパッタリングターゲットの比抵抗は低くても1×10-2Ωcm程度であり、抵抗が高いためにプラズマ放電が安定せず、DCスパッタリングを行うことが困難なだけでなく、スパッタ時に割れが発生しないターゲットを得られなかった。
【0003】
アモルファス酸化物膜形成を目的としたスパッタリングターゲットが知られている(特許文献1)。この場合、ホモロガス相(InGa(ZnO)m;mは6未満の自然数)の結晶構造を示す焼結体であって、本発明とは主成分が異なる。また、ターゲットの比抵抗が1×10-2Ωcm以上と高く、生産性の高いDCスパッタリング法を用いるには適さない。また、特許文献1のホモロガス構造InGaO3(ZnO)m (mは1〜4の自然数)で表される化合物単相から成るスパッタリングターゲットは、本発明とは焼結体の構成化合物が異なり、化合物単相の焼結体を得るにはその製造工程が複雑であり、かつ焼成時間が長いために、生産性が高くコストが低いターゲット焼結体を得られなかった。また、このホモロガス構造InGaO3(ZnO)mのみから成る(単相)焼結体の生成には焼成条件が制限される。さらに、このホモロガス構造InGaO3(ZnO)m(mは1〜4の自然数)のバルク抵抗は通常102〜103Ωcmと高く、焼成後に還元処理を行うことでバルク抵抗を低減させているが、還元後のバルク抵抗はせいぜい1×10-1Ωcm程度であり、その製造工程の多さに比べバルク抵抗の低減効果は小さかった。さらに、このホモロガス構造InGaO3(ZnO)mで表される化合物のみの焼結体からなるスパッタリングターゲットは、スパッタリング成膜中に異常成長して異常放電を起こし、得られる膜に不良が発生した。
さらに、液晶ディスプレイ、ELディスプレイおよび太陽電池に用いられる電極に用いられる酸化物焼結体として、In2Ga2ZnO7もしくは酸素欠損dを持つIn2Ga2ZnO7-dで表される化合物が知られている(特許文献2及び3)。この場合、In2Ga2ZnO7で表される化合物に対して酸素欠損量dを導入することで導電性を持たせているが、本発明とは異なる結晶構造を持つ焼結体の発明であり、酸化物焼結体の製造過程において、還元工程が短かく、かつ焼成時間を長くすることができず、生産性を高くかつコストを低くすることができなかった。
【0004】
加えて、1350℃におけるIn2O3-Ga2ZnO4-ZnO系の相図に関して君塚らの報告がある(非特許文献1))が、本発明とは異なる結晶構造を持つ焼結体の発明であり、酸化物焼結体の製造過程において、還元工程が短かく、かつ焼成時間を長くすることができず、生産性を高くかつコストを低くすることができなかった。
【0005】
さらに、薄膜トランジスタ(TFT)等の電界効果型トランジスタは、半導体メモリ集積回路の単位電子素子、高周波信号増幅素子、液晶駆動用素子等として広く用いられており、現在、最も多く実用されている電子デバイスである。
なかでも、近年における表示装置のめざましい発展に伴い、液晶表示装置(LCD)、エレクトロルミネッセンス表示装置(EL)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)等の各種の表示装置において、表示素子に駆動電圧を印加して表示装置を駆動させるスイッチング素子として、TFTが多用されている。
電界効果型トランジスタの主要部材である半導体層の材料としては、シリコン半導体化合物が最も広く用いられている。一般に、高速動作が必要な高周波増幅素子や集積回路用素子等には、シリコン単結晶が用いられている。一方、液晶駆動用素子等には、大面積化の要求から非晶性シリコン半導体(アモルファスシリコン)が用いられている。
例えば、TFTとして、ガラス等の基板上にゲ−ト電極、ゲ−ト絶縁層、水素化アモルファスシリコン(a−Si:H)等の半導体層、ソ−ス及びドレイン電極を積層した逆スタガ構造のものがある。このTFTは、イメ−ジセンサを始め、大面積デバイスの分野において、アクティブマトリスク型の液晶ディスプレイに代表されるフラットパネルディスプレイ等の駆動素子として用いられている。これらの用途では、従来アモルファスシリコンを用いたものでも高機能化に伴い作動の高速化が求められている。
現在、表示装置を駆動させるスイッチング素子としては、シリコン系の半導体膜を用いた素子が主流を占めているが、それは、シリコン薄膜の安定性、加工性の良さの他、スイッチング速度が速い等、種々の性能が良好なためである。そして、このようなシリコン系薄膜は、一般に化学蒸気析出法(CVD)法により製造されている。
【0006】
ところで、結晶性のシリコン系薄膜は、結晶化を図る際に、例えば、800℃以上の高温が必要となり、ガラス基板上や有機物基板上への構成が困難である。このため、シリコンウェハーや石英等の耐熱性の高い高価な基板上にしか形成できず、また、製造に際して多大なエネルギーと工程数を要する等の問題があった。
また、結晶性のシリコン系薄膜は、通常TFTの素子構成がトップゲート構成に限定されるためマスク枚数の削減等コストダウンが困難であった。
一方、アモルファスシリコンの薄膜は、比較的低温で形成できるものの、結晶性のものに比べてスイッチング速度が遅いため、表示装置を駆動するスイッチング素子として使用したときに、高速な動画の表示に追従できない場合がある。
具体的に、解像度がVGAである液晶テレビでは、移動度が0.5〜1cm2/Vsのアモルファスシリコンが使用可能であったが、解像度がSXGA、UXGA、QXGAあるいはそれ以上になると2cm2/Vs以上の移動度が要求される。また、画質を向上させるため駆動周波数を上げるとさらに高い移動度が必要となる。
また、有機ELディスプレイでは電流駆動となるため、DCストレスにより特性が変化するアモルファスシリコンを使用すると長時間の使用により画質が低下するという問題があった。
その他、これらの用途に結晶シリコンを使用すると、大面積に対応が困難であったり、高温の熱処理が必要なため製造コストが高くなるという問題があった。
【0007】
このような状況下、近年にあっては、シリコン系半導体薄膜よりも安定性が優れるものとして、酸化物を用いた酸化物半導体薄膜が注目されている。
例えば、半導体層として酸化亜鉛を使用したTFTが公開されている。
しかしながら、この半導体層では移動度が1cm2/V・sec程度と低く、オンオフ比も小さかった。その上、漏れ電流が発生しやすいため、工業的には実用化が困難であった。また、酸化亜鉛を用いた結晶質を含む酸化物半導体については、多数の検討がなされているが、工業的に一般に行われているスパッタリング法で成膜した場合には、次のような問題があった。
即ち、移動度が低い、オンオフ比が低い、漏れ電流が大きい、ピンチオフが不明瞭、ノーマリーオンになりやすい等、TFTの性能が低くなるおそれがあった。また、耐薬品性が劣るため、ウェットエッチングが難しい等製造プロセスや使用環境の制限があった。さらに、性能を上げるためには高い圧力で成膜する必要があり成膜速度が遅かったり、700℃以上の高温処理が必要である等工業化に問題もあった。また、ボトムゲート構成での移動度等のTFT性能が低く、性能を上げるにはトップゲート構成で膜厚を50nm以上にする必要がある等TFT素子構成上の制限もあった。
【0008】
このような問題を解決するために酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化ガリウムからなる非晶質の酸化物半導体膜を作製し、薄膜トランジスタを駆動させる方法が検討されている。
例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化ガリウムを含み、ホモロガス結晶構造を示す焼結体からなるターゲットが公開されている(特許文献4及び5)。しかし、ホモロガス結晶構造は、熱安定性が悪く焼結温度や焼結時間のわずかな変化により結晶形態が変化してしまう。従って、ターゲットの密度、バルク抵抗、抗折強度、表面粗さなどの特性が一定しないという問題点があった。さらに、薄膜トランジスタ作製用のターゲットとして用いると成膜開始時と開始終了時ではトランジスタの特性が大きく変化してしまうというホモロガス結晶構造特有の問題点があった。
また、Gaを2.2〜40原子%、Inを50〜90原子%含む相対密度95%以上の酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化ガリウムからなるターゲットが公開されている(特許文献6)。しかし、Inが50原子%未満となった場合の検討はなされていなかった。
【0009】
一方、In2O3(酸化インジウム)は、希土類酸化物C型の結晶構造をとり、希土類酸化物C型の結晶構造による高い移動度を持つことが知られている。しかし、焼結時に酸素を含みやすく低抵抗な焼結体を作ることが困難であった。In2O3(酸化インジウム)からなる、またはIn2O3(酸化インジウム)を多量に含むスパッタリングターゲットはノジュール(スパッタリングターゲット表面に生じる塊)が発生しやすく、パーティクル(スパッタリングの際に生じるスパッタ材料の発塵)が多く、スパッタリングの際に異常放電が発生しやすいという問題があった。また、In2O3(酸化インジウム)はIn以外の原子を含むと、β-GaInO3、β-Ga2O3、ZnGa2O4など希土類酸化物C型以外の結晶型が生成することが知られている。特に、Ga2O3を10質量%以上含む(In2O3が90質量%以下になる)と、β-Ga2O3が生成してしまうことが知られていた(非特許文献1)。希土類酸化物C型以外の結晶型、特にβ-Ga2O3が生成すると、クラックが発生しやすい、バルク抵抗が高い、相対密度が低い、抗折強度(JIS R1601)が低い、構造等の各種物理的性質が均一なスパッタリングターゲットが得られにくいなどの問題が起き易く、工業用のスパッタリングターゲットとして適さないものとなっていた。また、半導体膜形成用に用いた場合、不均一な部分が発生し面内均一性が得られないおそれ、歩留りが低下するおそれ、あるいは信頼性(安定性)が低下するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007-73312
【特許文献2】特許3947575
【特許文献3】特許3644647
【特許文献4】特開2000-044236号公報
【特許文献5】特開2007-73312号公報
【特許文献6】特開平10-63429号公報
【特許文献7】特開2007-223849号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】JOURNAL OF THE AMERICAN CERAMIC SOCIETY 1997,80,253-257
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の第1の目的は、スパッタリング法を用いた酸化物薄膜の成膜時の異常放電の発生が抑制されるスパッタリングターゲットを提供することにある。
本発明の第2の目的は、連続して安定な成膜が可能なスパッタリングターゲットを提供することにある。
本発明の第3の目的は、バルク抵抗の低減効果が大きく、かつ生産性が高く低コストな焼結体を用いたスパッタリングターゲットを提供することにある。
本発明の第4の目的は、スパッタリング法を用いて酸化物薄膜を成膜する際に発生する異常放電を抑制し、連続して安定な成膜が可能な酸化物薄膜用スパッタリングターゲットを提供することにある。
本発明の第5の目的は、上記スパッタリングターゲットを用いた酸化物薄膜と酸化物絶縁体層を含む薄膜トランジスタの形成方法を提供することにある。
本発明の第6の目的は、表面にホワイトスポット(スパッタリングターゲット表面上に生じる凹凸などの外観不良)がないスパッタリングターゲットを提供することにある。
本発明の第7の目的は、スパッタリングレートの早いスパッタリングターゲットを提供することにある。
本発明の第8の目的は、スパッタリングによって膜を形成する際に、直流(DC)スパッタリングが可能であり、スパッタ時のアーキング、パーティクル(発塵)、ノジュール発生が少なく、且つ高密度で品質のばらつきが少なく量産性を向上させることのできるスパッタリングターゲットを提供することにある。
本発明の第9の目的は、上記スパッタリングターゲットに特に適した酸化物を提供することにある。
本発明の第10の目的は、上記スパッタリングターゲットを用いて得られる薄膜、好ましくは保護膜、並びに該膜を含む薄膜トランジスタの形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、インジウム(In)、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)を特定の組成比で含有させ特定の条件で焼結することにより、ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、組成式In2Ga2ZnO7表されるYb2Fe3O7構造化合物を含む酸化物からなる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いることにより、スパッタリング法を用いた酸化物薄膜の成膜時の異常放電の発生が抑制され、連続して安定な成膜が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
また、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、スパッタリングターゲットとして用いられる酸化物焼結体として、ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、ホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)m (mは1〜4の自然数)を含む酸化物焼結体を用いることにより、バルク抵抗の低減効果が大きく、かつ、製造工程が簡便であり、スパッタリング法を用いて酸化物半導体膜を成膜する際に発生する異常放電を抑制し、連続して安定な成膜が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
加えて、上述の通り、インジウム(In)のみを金属原子として含むインジウム(In)の酸化物(In2O3(酸化インジウム))の焼結体は、希土類酸化物C型の結晶構造をとる。しかし、In以外の原子を金属原子として含むと、β-GaInO3、β-Ga2O3、ZnGa2O4などの結晶構造が生成し、希土類酸化物C型の結晶構造が失われる。
しかしながら、本発明者らは、酸素を除く目的の酸化物中に含まれる全原子の原子数を100原子%とした場合、インジウム(In)を原子比で49原子%以下しか含まない酸化物であっても、酸化物中の組成比と酸化物の焼結条件との組合せによっては、In以外の金属原子の存在により失われるはずの希土類酸化物C型の結晶構造を再度とり得る事を見出した。また、意外なことに、最終的に得られた酸化物の焼結体を用いると、In含有量が少ないにも係わらず、バルク抵抗が低く、相対密度が高く、抗折強度が高いスパッタリングターゲットを提供できることを見出した。さらに、Inを多量に含むターゲットと比べ、スパッタ時のノジュール発生が極めて少ないターゲットを提供できることを見出した。
このスパッタリングターゲットを用いて薄膜トランジスタを作製すると、高いトランジスタ特性と製造の安定性を示す薄膜トランジスタを得ることができた。
【0014】
本発明は、
〔1〕ビックスバイト構造を有し、酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化亜鉛を含有する酸化物焼結体であって、インジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たす組成範囲にある焼結体に関する。
In/(In+Ga+Zn)<0.75
〔2〕さらに、インジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たすことを特徴とする〔1〕に記載の酸化物焼結体に関する。
0.10<Ga/(In+Ga+Zn)<0.49
〔3〕さらに、インジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たすことを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の酸化物焼結体に関する。
0.05<Zn/(In+Ga+Zn)<0.65
〔4〕ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、組成式In2Ga2ZnO7で表されるYb2Fe3O7構造化合物とを含む酸化物焼結体に関する。
〔5〕前記酸化物焼結体中のインジウム(In)、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たすような組成範囲にある、〔4〕に記載の酸化物焼結体に関する。
0.5<In/(In+Ga)<0.98、0.6<Ga/(Ga+Zn)<0.99
〔6〕前記酸化インジウムと前記In2Ga2ZnO7のInの一部が、正四価以上の金属元素(X)により固溶置換される、〔4〕又は〔5〕に記載の酸化物焼結体に関する。
〔7〕ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、InGaO3(ZnO)m (mは1〜4の自然数)で表される1又は2種類以上のホモロガス構造化合物とを含む酸化物焼結体に関する。
〔8〕前記酸化物焼結体中のインジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たすような組成範囲にある、〔7〕に記載の酸化物焼結体に関する。
0.5<In/(In+Ga)<0.99、0.2<Zn/(In+Ga+Zn)<0.7
〔9〕前記酸化インジウム、又は前記1又は2種類以上のホモロガス構造化合物のInの一部が正四価以上の金属元素により固溶置換される、〔7〕又は〔8〕に記載の酸化物焼結体に関する。
〔10〕酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、In(インジウム)を24〜49原子%含み、希土類酸化物C型の結晶構造を持つことを特徴とする酸化物焼結体に関する。
〔11〕酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、In(インジウム)を24〜49原子%、Ga(ガリウム)を10〜49原子%、Zn(亜鉛)を5〜65原子%含み、希土類酸化物C型の結晶構造を持つことを特徴とする〔10〕の酸化物焼結体に関する。
〔12〕希土類酸化物C型の結晶構造を構成するInの一部が正四価以上の金属元素により固溶置換される〔10〕又は〔11〕に記載の酸化物焼結体に関する。
〔13〕平均結晶粒径が20μm以下の希土類酸化物C型の結晶構造を持つことを特徴とする〔10〕〜〔12〕のいずれか1つに記載の酸化物焼結体に関する。
〔14〕相対密度が80%以上である、〔1〕〜〔13〕のいずれか1つに記載の酸化物焼結体に関する。
〔15〕相対密度が90%以上である、〔1〕〜〔13〕のいずれか1項に記載の酸化物焼結体に関する。
〔16〕バルク抵抗が0.1〜100mΩ・cmの範囲内であることを特徴とする〔1〕〜〔15〕のいずれか1つに記載の酸化物焼結体に関する。
〔17〕バルク抵抗が1×10-2Ωcm以下である、〔1〕〜〔15〕のいずれか1つに記載の酸化物焼結体に関する。
〔18〕格子定数a<10.12Åであることを特徴とする〔1〕〜〔17〕のいずれか1つに記載の酸化物焼結体に関する。
〔19〕酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、正四価以上の金属元素10〜10000ppm含むことを特徴とする〔6〕、〔9〕、〔12〕〜〔18〕のいずれか1つに記載の酸化物焼結体に関する。
〔20〕前記正四価以上の金属元素(X)が原子比で(正四価以上の金属元素(X))/(酸化物焼結体中の全金属元素)=100ppm〜10000ppmの割合で固溶置換される、〔6〕、〔9〕、〔12〕〜〔18〕のいずれか1つに記載の酸化物焼結体に関する。
〔21〕前記正四価以上の金属元素(X)が、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン及びチタンからなる群から選ばれた1種以上の元素である、〔19〕又は〔20〕に記載の酸化物焼結体に関する。
〔22〕〔1〕〜〔21〕のいずれかに記載の酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットに関する。
〔23〕(a) 原料酸化物粉末を混合する工程;
(b)得られた混合物を成形する工程;及び
(c)得られた成形体を1200℃以上1600℃未満で焼成する工程
を含む、〔4〕〜〔9〕又は〔14〕〜〔21〕のいずれか1つに記載の酸化物焼結体の製造法に関する。
〔24〕(a) 原料酸化物粉末を混合する工程;
(b)得られた混合物を成形する工程;及び
(c)得られた成形体を1200℃以上1400℃以下で焼成する工程
を含む、〔4〕〜〔9〕又は〔14〕〜〔21〕のいずれか1項に記載の酸化物焼結体の製造法に関する。
〔25〕(a) 原料酸化物粉末を混合する工程;
(b)得られた混合物を成形する工程;及び
(c)得られた成形体を1450℃以上1600℃未満で焼成する工程
を含む、〔10〕〜〔21〕のいずれか1項に記載の酸化物焼結体の製造法に関する。
〔26〕〔22〕に記載のスパッタリングターゲットを利用したスパッタリング法により成膜してなる酸化物薄膜に関する。
〔27〕〔22〕に記載のスパッタリングターゲットを用い、25〜450℃の成膜温度下でスパッタリングを行う工程を含んだ、電子キャリア濃度が1×1018/cm3未満のアモルファス酸化物薄膜を形成する方法に関する。
〔28〕前記アモルファス酸化物薄膜が、薄膜トランジスタのチャネル層用の薄膜である、〔27〕に記載の方法に関する。
〔29〕アモルファス酸化物薄膜と酸化物絶縁体層とを含む薄膜トランジスタの製造方法であって、
(i)〔27〕に記載の方法で形成されたアモルファス酸化物薄膜を、酸化雰囲気中で熱処理する工程;
及び
(ii)前記熱処理したアモルファス酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程、
を含む、薄膜トランジスタの製造方法に関する。
〔30〕〔29〕に記載の薄膜トランジスタの製造方法により製造した薄膜トランジスタを備えた半導体装置に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、IGZOスパッタリングターゲットの有する特性を保持したまま、バルク抵抗が低く、相対密度が高いスパッタリングターゲットを提供することができる。また本発明品を用いれば、スパッタリング法により酸化物薄膜を成膜する際に発生する異常放電を抑制し、連続して安定的に成膜可能なスパッタリングターゲットを提供できる。
本発明により、焼結時間、組成などを調整して、ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと組成式In2Ga2ZnO7表されるYb2Fe3O7構造化合物を含む酸化物焼結体を生成させることができる。
本発明のスパッタリングターゲットを半導体の製造に用いることにより、優れた酸化物半導体やTFTを作製できる。
また、本発明は、バルク抵抗の低減効果が大きく、かつ、生産性が高く低コストであり、スパッタリング法を用いて酸化物薄膜を成膜する際に発生する異常放電を抑制し、連続して安定な成膜を可能とし、さらに、従来のIn、GaおよびZnの酸化物からなるスパッタリングターゲットよりも広い組成範囲の酸化物半導体膜を成膜することができるスパッタリングターゲットを提供する。
本発明により、特定の製造方法、あるいは特定の製造条件(焼結温度、焼結時間)でビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)m (mは1〜4の自然数)を含む酸化物焼結体を生成させることができる。
本発明のスパッタリングターゲットを半導体の製造に用いることにより、優れた酸化物半導体やTFTを作製できる。
さらに、本発明は、目的の酸化物中に含まれる酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、49原子%以下のインジウム(In)と、その他の金属原子を含む酸化物であって、希土類酸化物C型の結晶構造を示す酸化物を提供するものである。本発明の酸化物は、In含有量が少ないにもかかわらず、バルク抵抗が低く、相対密度が高く、抗折強度が高いスパッタリングターゲットを提供できるものである。さらに、Inを多量に含むターゲットと比べ、本発明の酸化物は、スパッタ時のノジュール発生が極めて少ないターゲットを提供できる。
このスパッタリングターゲットを用いて薄膜トランジスタを作製すると、高いトランジスタ特性と製造の安定性を示す薄膜トランジスタが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1の酸化物のX線回折のチャートである(IZO+Ga 試料(1) 1400℃ (実施例1))。
【図2】実施例2の酸化物のX線回折のチャートである(IZO+Ga 試料(4) 1500℃ ((実施例2))。
【図3】実施例3の酸化物のX線回折のチャートである(IZO+Ga 試料(5) 1500℃(実施例3))。
【図4】比較例1の酸化物のX線回折のチャートである(IZO+Ga(6) 40at%1400℃(比較例1))。
【図5】比較例2の酸化物のX線回折のチャートである(IZO+Ga(6) 40at% 1200℃(比較例2))。
【図6】薄層トランジスタの概略図である。
【図7】図7(1)は、薄層トランジスタ(ソース電極)の概略図である。図7(2)は、薄層トランジスタ(ドレイン電極)の概略図である。
【図8】実施例4の酸化物のX線回折のチャートである(Ga 10at% 1400 ℃ 20h 実施例4)。
【図9】実施例5の酸化物のX線回折のチャートである(Ga 13at% 1400℃ 実施例5)。
【図10】実施例6の酸化物のX線回折のチャートである(Ga 13at% 1400℃ 20h 実施例6)。
【図11】実施例7の酸化物のX線回折のチャートである(Ga 20at% 1400℃ 20h 実施例7)。
【図12】実施例8の酸化物のX線回折のチャートである。
【図13】実施例9の酸化物のX線回折のチャートである。
【図14】In2O3-ZnO-Ga2O3焼結体のX線マイクロアナライザによる結晶構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図15】実施例Aの酸化物のX線回折のチャートである。
【図16】実施例Bの酸化物のX線回折のチャートである。
【図17】実施例Cの酸化物のX線回折のチャートである。
【図18】実施例Dの酸化物のX線回折のチャートである。
【図19】比較例Aの酸化物のX線回折のチャートである。
【図20】比較例Bの酸化物のX線回折のチャートである。
【図21】薄膜トランジスタの概略図である。
【図22】薄膜トランジスタの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1)スパッタリングターゲット
本発明のスパッタリングターゲットは、ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、組成式In2Ga2ZnO7で表されるYb2Fe3O7構造化合物を含む酸化物焼結体からからなる。本発明のスパッタリングターゲットに係る酸化物焼結体は、酸化インジウムの酸素欠損によってバルク抵抗が低下するため、In2Ga2ZnO7-dにおいてd=0でもかまわない。つまりビックスバイト構造を有する酸化インジウムとIn2Ga2ZnO7を組み合わせることで酸化物焼結体のバルク抵抗を低くすることができる。
なお、酸化物焼結体とは、酸化物の原料を高温焼成により焼結させたものを言う。
また、別の態様として本発明のスパッタリングターゲットは、インジウム(In)、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の酸化物からなるスパッタリングターゲットであって、ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、ホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)m (mは1〜4の自然数)を含む酸化物焼結体から成ってもよい。
(2)ビックスバイト構造
ビックスバイト構造とは、X線回折JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)データベースの06-0416のピークパターンかあるいは類似(シフトした)パターンを示す構造である。一般にビックスバイト構造の酸化インジウムは酸素欠損を生じやすく、透明かつ電導性の酸化物であることが知られている。本発明に関して酸化インジウムの酸素欠損量は特に規定しないが、酸素欠損があるほうがターゲット焼結体のバルク抵抗が低くなるため好ましい。
ビックスバイト構造を有する酸化インジウムのInの一部が、他の元素で固溶置換されていてもよい。例えば、Inと固溶置換される元素は、GaまたはZnが好ましく、GaまたはZnの一方、又はその両方で固溶置換されていてもよい。Inの元素の一部を他の元素と固溶置換することにより、酸化物に電子を注入することができる。Inの元素の一部を他の元素で固溶置換されていることは、X線回折から計算した格子定数(格子間距離)の変化や高輝度放射光を用いた構造解析によって確認できる。具体的には、X線回折パターンのピークシフトから、結晶構造の軸長変化により判断することができる。また、固溶置換により軸長が短くなった場合は、X線回折パターンのピークが高角度側にシフトする。さらに、格子定数はリートベルト解析を用いて求める。
【0018】
(3)ホモロガス構造化合物
ホモロガス構造化合物とは、ホモロガス相を有する化合物である。ホモロガス相(同族化物列相)とは、例えばnを自然数としてTinO2n-1の組成式で表されるマグネリ相で、こうした相ではnが連続的に変化する一群の化合物群がある。ホモロガス構造化合物の具体例としては、In2O3(ZnO)m(mは2〜20の自然数)が挙げられる。本発明に関するホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)m(mは自然数)に関してはm=1〜20までの化合物の存在が確認されている(『固体物理』Vol.28 No.5 p317 (1993))。m=1の場合、nGaO3(ZnO)は、JCPDSデータベースの38-1104のピークパターンかあるいは類似(シフトした)パターンを示す。m=2の場合、InGaO3(ZnO)2はJCPDSデータベースの40-0252のピークパターンかあるいは類似(シフトした)パターンを示す。m=3の場合、InGaO3(ZnO)3は、JCPDSデータベースの40-0253のピークパターンかあるいは類似(シフトした)パターンを示す。さらに、m=4の場合、InGaO3(ZnO)4は、JCPDSデータベースの40-0254のピークパターンかあるいは類似(シフトした)パターンを示す。そして、ホモロガス相の結晶構造は、例えばターゲットを粉砕したパウダーにおけるX線回折パターンが、組成比から想定されるホモロガス相の結晶構造X線回折パターンと一致することから確認できる。具体的には、JCPDS(Joint Committee of Powder Diffraction Standards)カードから得られるホモロガス相の結晶構造X線回折パターンと一致することから確認することができる。
【0019】
本発明においては、ビックスバイト構造を有する酸化インジウムの酸素欠損によってバルク抵抗が低下するため、ホモロガス構造InGaO3(ZnO)m(mは1〜4である自然数)で表される化合物のみからなる焼結体よりも焼結体のバルク抵抗は低くなる。つまりビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、InGaO3(ZnO)m(mは1〜4の自然数)を組み合わせることで、スパッタリングターゲットのバルク抵抗を低くすることができる。
【0020】
(4)酸化物焼結体の物理的性質
(a)組成量比
本発明のスパッタリングターゲットに含まれるInとGaの組成量が原子比で0.5<In/(In+Ga)<0.98であり、GaとZnの組成量が原子比で0.6<Ga/(Ga+Zn)<0.99であることが好ましい。0.5<In/(In+Ga)であると酸化インジウムの割合が高くなり、バルク抵抗が高くなることもなく、(In+Ga)<0.98及び0.6<Ga/(Ga+Zn)<0.99の範囲にあることで、In2Ga2ZnO7で表される化合物を生成できるため好ましい。さらには、0.6<In/(In+Ga)<0.98であれば酸化インジウムの相の割合がより多くなり、ターゲットのバルク抵抗がさらに低くなるためより好ましい。
また、本発明のスパッタリングターゲットに含まれるInの比率は、0.50<In/(In+Ga+Zn)<0.98、好ましくは0.50<In/(In+Ga+Zn)<0.75、より好ましくは0.50<In/(In+Ga+Zn)<0.72であってもよい。また、本発明のスパッタリングターゲットに含まれるGaの比率は、0<Ga/(In+Ga+Zn)<0.99、好ましくは0.15<Ga/(In+Ga+Zn)<0.45、より好ましくは0.19<Ga/(In+Ga+Zn)<0.32であってもよい。また、本発明のスパッタリングターゲットに含まれるZnの比率は、0<Zn/(In+Ga+Zn)<0.25、好ましくは0.05<Zn/(In+Ga+Zn)<0.20、より好ましくは0.08<Zn/(In+Ga+Zn)<0.19であってもよい。
ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、組成式In2Ga2ZnO7で表されるYb2Fe3O7構造の割合はX線回折の各相の最大ピークの比によって確認できる。また、ターゲット焼結体内の各元素の原子比はICP(Inductively Coupled Plasma)測定により、各元素の存在量を測定することで求めることができる。
Yb2Fe3O7構造とは、X線回折JCPDSデータベースの38-1097のピークパターンかあるいは類似(シフトした)パターンを示す構造である。In2Ga2ZnO7で表される酸化物に関しては、君塚らが結晶構造を解析した報告がある(K.Kato、I.Kawada、N.Kimizuka and T.Katsura Z.Kristallogr 143巻、278頁 1976年、およびN.Kimizuka、T.Mohri、Y.Matsui and K.Shiratori J.Solid State Chem. 74巻 98頁 1988年)。さらにIn2Ga2ZnO7とZnGa2O4およびZnOの各相の関係を1350℃において調べた結果がある(M.Nakamura、N.Kimizuka and T.Mohri J.Solid State Chem. 93巻 2号 298頁 1991年)。
また、本発明のスパッタリングターゲットに含まれるInとGaの組成量が、原子比で0.5<In/(In+Ga)<0.99であり、一方、ターゲット焼結体内のGaとZnの組成量が原子%で比は0.2<Zn/(In+Ga+Zn)<0.7であることが好ましい。さらに好ましくは0.5<In/(In+Ga)<0.90である。In/(In+Ga)が0.99以上の場合、In2O3(ZnO)m(mは自然数)で表される化合物もしくはこれにGa元素がドープされた化合物が生成されてしまい、本発明は実現されない。
0.5<In/(In+Ga) 又は、Zn/(In+Ga+Zn)<0.7であると酸化インジウムの割合が高くなり、バルク抵抗が高くなることもなく、0.5<In/(In+Ga)<0.99又は、0.2<Zn/(In+Ga+Zn)の組成範囲においてホモロガス構造InGaO3(ZnO)m(m=1〜4である自然数)で表される化合物が生成されるため好ましい。
また、本発明のスパッタリングターゲットに含まれるInの比率は、0.0<In/(In+Ga+Zn)<0.75、好ましくは0.30<In/(In+Ga+Zn)<0.65、より好ましくは0.34<In/(In+Ga+Zn)<0.61であってもよい。また、本発明のスパッタリングターゲットに含まれるGaの比率は、0.0<Ga/(In+Ga+Zn)<0.45、好ましくは0.05<Ga/(In+Ga+Zn)<0.30、より好ましくは0.10<Ga/(In+Ga+Zn)<0.20であってもよい。また、本発明のスパッタリングターゲットに含まれるZnの比率は、0.20<Zn/(In+Ga+Zn)<0.70、好ましくは0.23<Zn/(In+Ga+Zn)<0.60、より好ましくは0.25<Zn/(In+Ga+Zn)<0.55であってもよい。
ビックスバイト構造を有する酸化インジウム及びホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)m (mは1〜4の自然数)の割合はX線回折の各相の最大ピークの比によって確認できる。また、ターゲット焼結体内の各元素の原子比はICP(Inductively Coupled Plasma)測定により、各元素の存在量を測定することで求めることができる。
【0021】
本発明のスパッタリングターゲットに係る酸化物焼結体に含まれるビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、組成式In2Ga2ZnO7で表されるYb2Fe3O7構造化合物のInの一部が正四価以上の金属元素(X)により固溶置換されることが好ましい。正四価の金属元素(X)により固溶置換されると、バルク抵抗がさらに低くなるため好ましい。正四価以上の金属元素(X)としては、例えば、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、チタンから選ばれた1種以上の元素が挙げられる。Inの一部が正四価以上の金属元素(X)で置換されていることは、X線回折から計算した格子間距離の変化や高輝度放射光を用いた構造解析によって確認できる。具体的には、格子定数はリートベルト解析を用いて求める。
【0022】
更に別の態様として、本発明のスパッタリングターゲットに係る酸化物焼結体に含まれる、ビックスバイト構造を有する酸化インジウム、又はInGaO3(ZnO)m (mは1〜4の自然数)で表される1又は2種類以上のホモロガス構造化合物のInの一部が、正四価以上の金属元素により固溶置換されることが好ましい。正四価の金属元素により固溶置換されるとバルク抵抗はさらに低くなるため好ましい。正四価以上の金属元素としては、例えば、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、チタンから選ばれた1種以上の元素が挙げられる。Inの一部が正四価以上の金属元素で固溶置換されていることは、X線回折から計算した格子間距離の変化や高輝度放射光を用いた構造解析によって確認できる。具体的には、格子定数はリートベルト解析を用いて求める。
【0023】
本発明のスパッタリングターゲットが、正四価の金属元素(X)を含む場合、原子比で(正四価以上の金属元素(X))/(酸化物焼結体中の全金属元素)=100ppm〜10000ppmであることが好ましく、200ppm〜5000ppmであることがさらに好ましく、500ppm〜3000ppmであることが特に好ましい。原子比で(正四価以上の金属元素(X))/(酸化物焼結体中の全金属元素)が100ppm以上であると添加効果が大きくバルク抵抗が低減されるため好ましい。また、原子比で(正四価以上の金属元素(X))/(酸化物焼結体中の全金属元素)が10000ppm以下であると、ホモロガス構造InGaO3(ZnO)m(m=1〜4である自然数)で表される化合物が生成され、本発明で得られるスパッタリングターゲットによって成膜した酸化物半導体膜が安定であるため好ましい。
【0024】
(b)相対密度
相対密度とは、加重平均より算出した理論密度に対して相対的に算出した密度である。
各原料の密度の加重平均より算出した密度が理論密度であり、これを100%とする。
本発明のスパッタリングターゲットの相対密度は、80%以上であることが好ましく、さらに好ましくは85%以上であり、特に好ましくは90%以上である。スパッタリングターゲットの相対密度を80%以上とすることにより、スパッタリングターゲットの抗折強度を高くしてスパッタリング中のスパッタリングターゲットの割れを抑制することができ、スパッタリングターゲット表面の黒化による異常放電も抑制できるので好ましい。また、密度が高いほどバルク抵抗が低くなる傾向にあるため、スパッタリングターゲットの相対密度は85%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましい。
相対密度の高い焼結体を得るためには、後述するスパッタリングターゲットの製造方法において、冷間静水水圧(CIP)や熱間静水水圧(HIP)等の処理後に焼成することが好ましい。
スパッタリング成膜中の異常放電の発生回数は、チャンバー内の放電電圧を常時記録し、瞬間的なチャンバー内の放電電圧の変化を観察することにより、異常放電の発生を確認する。
【0025】
(c)バルク抵抗
本発明に係るスパッタリングターゲットに係るターゲット焼結体のバルク抵抗は、好ましくは1×10-2Ωcm以下であり、より好ましくは5×10-3Ωcm以下である。バルク抵抗が1×10-2Ωcm以下であることで、スパッタリング中の異常放電の発生を抑制したり、異物(ノジュール)の発生を抑制できるため好ましい。さらに、バルク抵抗が5×10-3Ωcm以下の場合、工業的に有利なDCマグネトロンスパッタリング法を採用することができるためより好ましい。
本発明のスパッタリングターゲットのバルク抵抗は、四探針法によって測定できる。
なお、本発明の実施例および比較例に関しては、三菱化学株式会社製の低抵抗率計「ロレスターEP」(JIS K 7194に準拠)によって測定した。
また、スパッタリング成膜中の異常放電の発生回数は、チャンバー内の放電電圧を常時記録し、瞬間的なチャンバー内の放電電圧の変化を観察することにより、異常放電の発生を確認する。
【0026】
(5)スパッタリングターゲットの製造方法
本発明のスパッタリングターゲットは、以下の方法により製造されることが適当である。
(a) 原料酸化物粉末を混合する工程;
(b)得られた混合物を成形する工程;及び
(c)得られた成形体を1200℃以上1600℃未満で焼成する工程
【0027】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、以下のような必須の工程及び任意の工程を含んだ方法で製造してもよい。
(a) 少なくとも酸化インジウム、酸化ガリウム及び酸化亜鉛からなる原料酸化物粉末を秤量し、混合し、粉砕する必須工程(混合工程);
(a)'得られた混合物を500〜1200℃で1〜100時間熱処理する任意工程(仮焼工程);
(b) (a)又は(a)'で得られた混合物を成形する必須工程(成形工程);
(c)得られた成形体を1200℃以上1600℃未満で焼結する必須工程(焼結工程);
(d)焼成して得られた焼結体を還元処理する任意工程(還元工程);及び
(e)焼結体をスパッタリング装置への装着に適した形状に加工する任意工程(加工工程)。
【0028】
(a)混合工程
混合工程は、スパッタリングターゲットの原料である金属酸化物を混合する必須の工程である。
原料としては、上述したインジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、亜鉛元素(Zn)及び正四価以上の金属元素(X)等の金属酸化物が挙げられる。
ここで、原料として使用する亜鉛化合物粉末の平均粒径が、インジウム化合物粉末の平均粒径よりも小さいことが好ましい。原料の金属酸化物粉末の平均粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。インジウムの化合物としては、例えば、酸化インジウム、水酸化インジウム等が挙げられる。ガリウムの化合物としては、酸化ガリウム等が挙げられる。亜鉛の化合物としては、例えば、酸化亜鉛、水酸化亜鉛等が挙げられる。各々の化合物として、焼結のしやすさ、副生成物の発生の少なさから、酸化物が好ましい。
上記各原料は、公知の混合及び粉砕手段により混合及び粉砕する。各原料の純度は、通常99.9質量%(3N)以上、好ましくは99.99質量%(4N)以上、さらに好ましくは99.995質量%以上、特に好ましくは99.999質量%(5N)以上である。各原料の純度が99.9質量%(3N)以上であれば、Fe、Al、Si、Ni、Cu等の不純物により半導体特性が低下することもなく、信頼性を十分に保持できる。特にNa含有量が100ppm未満であると薄膜トランジスタを作製した際に信頼性が向上するため好ましい。
上記原料酸化物粉末を混合する。混合は、通常の混合粉砕機、例えば、湿式ボールミルやビーズミル又は超音波装置を用いて、均一に混合・粉砕することが好ましい。混合・粉砕後に得られる混合物の平均粒径は、通常10μm以下、好ましくは1〜9μm、特に好ましくは1〜6μmとすることが好ましい。平均粒径が10μm以下であれば、得られるスパッタリングターゲットの密度を高くすることができるので好適である。ここで平均粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。
【0029】
原料酸化物粉末の比表面積は、例えば、2〜10m2/g、好ましくは4〜8m2/gであることが適当である。各原料粉同士の比表面積の差は、5m2/g以下、好ましくは3m2/gとすることが好ましい。比表面積の差が小さいほど、原料粉末を効率的に粉砕・混合することができ、特に、得られる酸化物中に酸化ガリウム粒子が残ることもないので好ましい。さらに、酸化インジウム粉の比表面積と酸化ガリウム粉末の比表面積が、ほぼ同じであることが好ましい。これにより、原料酸化物粉末を特に効率的に粉砕・混合できる。なお、比表面積は、例えば、BET法で求めることができる。 さらに、原料について、比表面積が3〜16m2/gである酸化インジウム粉、酸化ガリウム粉、亜鉛粉あるいは複合酸化物粉を含み、粉体全体の比表面積が3〜16m2/gである混合粉体を原料とすることが好ましい。尚、各酸化物粉末の比表面積が、ほぼ同じである粉末を使用することが好ましい。これにより、より効率的に粉砕混合できる。具体的には、比表面積の比を1/4〜4倍以内にすることが好まく、1/2〜2倍以内が特に好ましい。
【0030】
混合粉体を、例えば、湿式媒体撹拌ミルを使用して混合粉砕する。このとき、粉砕後の比表面積が原料混合粉体の比表面積より1.0〜3.0m2/g増加する程度か、又は粉砕後の平均メジアン径(d50)が0.6〜1μmとなる程度に粉砕することが好ましい。このように調整した原料粉を使用することにより、仮焼工程を全く必要とせずに、高密度の酸化物焼結体を得ることができる。また、還元工程も不要となる。
尚、上記原料混合粉体の比表面積の増加分が1.0m2/g以上又は粉砕後の原料混合粉の平均メジアン径が1μm以下であれば、焼結密度が十分に大きくなるので好ましい。
一方、原料混合粉体の比表面積の増加分が3.0m2/g以下又は粉砕後の平均メジアン径が0.6μm以上であれば、粉砕時の粉砕器機等からのコンタミ(不純物混入量)が増加することもないので好適である。
ここで、各粉体の比表面積はBET法で測定した値である。各粉体の粒度分布のメジアン径は、粒度分布計で測定した値である。これらの値は、粉体を乾式粉砕法、湿式粉砕法等により粉砕することにより調整できる。
混合粉砕の際、ポリビニールアルコール(PVA)を1容積%程度添加した水、又はエタノール等を媒体として用いてもよい。
これらの原料酸化物粉末のメジアン径(d50)は、例えば、0.5〜20μm、好ましくは1〜10μmとすることが好ましい。原料酸化物粉末のメジアン径(d50)が0.5μm以上であれば、焼結体中に空胞ができ焼結密度が低下することを防ぐことができ、20μm以下であれば、焼結体中の粒径の増大が防げるので好ましい。
【0031】
(a)'仮焼工程
さらに、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、(a)工程の後に、(a)'得られた混合物を仮焼する工程を含んでもよい。
仮焼工程では、上記(a)工程で得られた混合物が仮焼される。仮焼を行うことにより、最終的に得られるスパッタリングターゲットの密度を上げることが容易になる。
仮焼工程においては、500〜1200℃、好ましくは、800〜1200℃で、1〜100時間、好ましくは2〜50時間の条件で、(a)工程で得られた混合物を熱処理することが好ましい。500℃以上かつ1時間以上の熱処理条件であれば、インジウム化合物や亜鉛化合物、錫化合物の熱分解が十分に行われるので好ましい。熱処理条件が、1200℃以下及び100時間以下であれば、粒子が粗大化することもないので好適である。
さらに、ここで得られた仮焼後の混合物を、続く成形工程及び焼成工程の前に粉砕することが好ましい。この仮焼後の混合物の粉砕は、ボールミル、ロールミル、パールミル、ジェットミル等を用いて行うことが適当である。粉砕後に得られた仮焼後の混合物の平均粒径は、例えば、0.01〜3.0μm、好ましくは0.1〜2.0μmであることが適当である。得られた仮焼後の混合物の平均粒径が0.01μm以上であれば、十分な嵩比重を保持することができ、かつ取り扱いが容易になるので好ましい。また、仮焼後の混合物の平均粒径が1.0μm以下であれば最終的に得られるスパッタリングターゲットの密度を上げることが容易になる。
なお、仮焼後の混合物の平均粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。
【0032】
(b)成形工程
成形工程は、金属酸化物の混合物(上記仮焼工程を設けた場合には仮焼後の混合物)を加圧成形して成形体とする工程である。この工程により、混合物(又は仮焼後の混合物)をスパッタリングターゲットとして好適な形状に成形する。仮焼工程を設けた場合には得られた仮焼後の混合物の微粉末を造粒した後、プレス成形により所望の形状に成形することができる。
本工程で用いることができる成形処理としては、例えば、一軸加圧、金型成形、鋳込み成形、射出成形等も挙げられるが、焼結密度の高い焼結体(スパッタリングターゲット)を得るためには、冷間静水圧(CIP)等で成形するのが好ましい。
尚、成形処理に際しては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸等の成形助剤を用いてもよい。
また、プレス成形は、コールドプレス(Cold Press)法やホットプレス(Hot Press)法等、公知の成形方法を用いることができる。例えば、得られた混合粉を金型に充填し、コールドプレス機にて加圧成形する。加圧成形は、例えば、常温(25℃)下、100〜100000kg/cm2、好ましくは、500〜10000kg/cm2の圧力で行われる。さらに、温度プロファイルは、1000℃までの昇温速度を30℃/時間以上、冷却時の降温速度を30℃/時間以上とするのが好ましい。昇温速度が30℃/時間以上であれば酸化物の分解が進むこともなく、ピンホールも発生しない。また冷却時の降温速度が30℃/時間以上であればIn,Gaの組成比が変化するおそれもない。
【0033】
上記コールドプレス法とホットプレス法について詳説する。コールドプレス法では、混合粉を成形型に充填して成形体を作製し、焼結させる。ホットプレス法では、混合粉を成形型内で直接焼結させる。
乾式法のコールドプレス(Cold Press)法としては、粉砕工程後の原料をスプレードライヤー等で乾燥した後、成形する。成形は公知の方法、例えば、加圧成形、冷間静水圧加圧、金型成形、鋳込み成形射出成形が採用できる。焼結密度の高い焼結体(スパッタリングターゲット)を得るためには、冷間静水圧(CIP)等加圧を伴う方法で成形するのが好ましい。尚、成形処理に際しては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸等の成形助剤を用いてもよい。
上記湿式法としては、例えば、濾過式成形法(特開平11−286002号公報参照)を用いることが好ましい。この濾過式成形法は、セラミックス原料スラリーから水分を減圧排水して成形体を得るための非水溶性材料からなる濾過式成形型であって、1個以上の水抜き孔を有する成形用下型と、この成形用下型の上に載置した通水性を有するフィルターと、このフィルターをシールするためのシール材を介して上面側から挟持する成形用型枠からなり、前記成形用下型、成形用型枠、シール材、およびフィルターが各々分解できるように組立てられており、該フィルター面側からのみスラリー中の水分を減圧排水する濾過式成形型を用い、混合粉、イオン交換水と有機添加剤からなるスラリーを調製し、このスラリーを濾過式成形型に注入し、該フィルター面側からのみスラリー中の水分を減圧排水して成形体を作製し、得られたセラミックス成形体を乾燥脱脂後、焼成する。
【0034】
乾式法あるいは湿式法で得られた焼結体のバルク抵抗を酸化物全体として均一化するために、さらに還元工程を含むことが好ましい。適用することができる還元方法としては、例えば、還元性ガスによる方法や真空焼成又は不活性ガスによる還元等が挙げられる。
還元性ガスによる還元処理の場合、水素、メタン、一酸化炭素や、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。不活性ガス中での焼成による還元処理の場合、窒素、アルゴンや、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。尚、還元工程における温度は、通常300〜1200℃、好ましくは500〜800℃である。また、還元処理の時間は、通常0.01〜10時間、好ましくは0.05〜5時間である。
【0035】
得られた酸化物は、適宜加工される。
加工工程は、上記のようにして焼結して得られた焼結体を、さらにスパッタリング装置への装着に適した形状に切削加工し、またバッキングプレート等の装着用治具を取り付けるための、必要に応じて設けられる工程である。スパッタリングターゲットの厚みは通常2〜20mm、好ましくは3〜12mm、特に好ましくは4〜6mmであるので、本発明の酸化物も当該厚みに加工されることが適当である。また、複数の酸化物を一つのバッキングプレート(支持体)に取り付け、実質一つのスパッタリングターゲットとしてもよい。また、表面は200〜10,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが好ましく、400〜5,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが特に好ましい。200番〜10,000番のダイヤモンド砥石を使用すれば、酸化物が割れることもないので好ましい。
【0036】
酸化物をスパッタリングターゲットの形状に加工後、バッキングプレート(支持体)へボンディングすることにより、成膜装置に装着して使用できるスパッタリングターゲットとなる。バッキングプレートは無酸素銅製が好ましい。ボンディングにはインジウム半田を用いることが好ましい。
【0037】
(c)焼結工程
焼結工程は、上記成形工程で得られた成形体を焼結する工程である。
焼結条件としては、酸素ガス雰囲気下、大気圧又は加圧下で、通常、1200〜1600℃、又は1200〜1450℃、より好ましくは1250〜1500℃、さらに好ましくは1200〜1400℃、特に好ましくは1300〜1400℃、より特に好ましくは1300〜1450℃において、通常30分〜360時間、好ましくは8〜180時間、より好ましくは12〜96時間焼成する。焼成温度が1200℃以上であれば、スパッタリングターゲットの密度を上昇しやすくなり、適度な時間内に焼結を行うことができる。1600℃以下であれば、成分が気化することもなく、亜鉛が蒸発し焼結体の組成が変化する及び/またはターゲット中にボイド(空隙)が発生するおそれもないので好適である。さらに、燃焼時間が30分以上であれば、スパッタリングターゲットの密度が上昇しやすくなり、360時間以下であれば、適度な時間内に焼結を行うことができる。また、酸素ガス雰囲気又は酸素ガス雰囲気で焼成を行うことにより、スパッタリングターゲットの密度が上昇しやすくなり、スパッタリング時の異常放電の発生を抑制できるので好ましい。酸素ガス雰囲気は、酸素濃度が、例えば、10〜1000%である雰囲気を言う。焼成は大気圧下又は加圧下で行うことができる。加圧は、例えば、98000〜1000000Pa、好ましくは、100000〜500000Paであることが適当である。
また、焼成時の昇温速度は、通常20℃/分以下、好ましくは8℃/分以下、より好ましくは4℃/分以下、さらに好ましくは2℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。20℃/分以下であれば、ホモロガス結晶の形成を十分に行うことができる。
焼結時の温度プロファイルは、600℃までの昇温速度を0.1℃/分以上、好ましくは0.5〜10℃/分、800℃までの昇温速度を0.1℃/分以上、好ましくは0.5〜10℃/分、1500℃までの昇温速度を0.5℃/分以上、好ましくは1〜10 ℃/分であることが適当である。また、冷却時の降温速度は、0.1℃/分以上、好ましくは、0.5〜10℃/分とするのが適当である。昇温速度が1℃/分以上であれば酸化物の分解が進むこともなく、ピンホールも発生しない。また冷却時の降温速度が0.5℃/分以上であればIn,Gaの組成比が変化するおそれもない。
【0038】
(d)還元工程
還元工程は、上記焼成工程で得られた焼結体のバルク抵抗をターゲット全体として均一化するために還元処理を行う任意工程である。
本工程で適用することができる還元方法としては、例えば、還元性ガスを循環させる方法、真空中で焼成する方法、及び不活性ガス中で焼成する方法等が挙げられる。
還元性ガスとしては、例えば、水素、メタン、一酸化炭素、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
尚、還元処理時の温度は、通常100〜800℃、好ましくは200〜800℃である。また、還元処理の時間は、通常0.01〜10時間、好ましくは0.01〜5時間、より好ましくは0.05〜5時間、さらに好ましくは0.05〜1時間である。
還元ガスや不活性ガスの圧力は、例えば、9800〜1000000Pa、好ましくは、98000〜500000Paである。真空中で焼成する場合、真空とは、具体的には、10-1〜10-8Pa、好ましくは10-2〜10-5Pa程度の真空を言い、残存ガスはアルゴンや窒素などである。
【0039】
(e)加工工程
加工工程は、上記のようにして焼結して得られた焼結体を、さらにスパッタリング装置への装着に適した形状に切削加工し、またバッキングプレート等の装着用治具を取り付けるための、必要に応じて設けられる工程である。
スパッタリングターゲットの厚みは、通常2〜20mm、好ましくは3〜12mm、特に好ましくは4〜6mmである。スパッタリングターゲットの表面は200〜10,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが好ましく、400〜5,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが特に好ましい。200番〜10,000番のダイヤモンド砥石を使用すれば、スパッタリングターゲットが割れることもないので好ましい。また、複数のスパッタリングターゲットを一つのバッキングプレートに取り付け、実質一つのターゲットとしてもよい。バッキングプレートとしては、例えば、無酸素銅製のものが挙げられる。
【0040】
(6)薄膜の形成方法
(6-1) アモルファス酸化物薄膜の形成
本発明のスパッタリングターゲットを用い、スパッタリング法により、基板上にアモルファス酸化物薄膜を形成することができる。具体的には、
(i)本発明のスパッタリングターゲットを用い、25〜450℃の成膜温度下でスパッタリングを行う工程を含む。これにより、電子キャリアー濃度が1×1018/cm3未満のアモルファス酸化物薄膜を形成することができる。
スパッタリング法としては、DC(直流)スパッタ法、AC(交流)スパッタ法、RF(高周波) マグネトロンスパッタ法、エレクトロンビーム蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられるが、DC(直流)スパッタ法及びRF(高周波)スパッタ法が好ましくは利用される。
スパッタ時の成膜温度は、スパッタ法によって異なるが、例えば、25〜450℃、好ましくは、30〜250℃、より好ましくは、35〜150℃であることが適当である。ここで、成膜温度とは、薄膜を形成する基板の温度である。
スパッタ時のスパッタリングチャンバー内の圧力は、スパッタ法によって異なるが、例えば、DC(直流)スパッタ法の場合は、0.1〜2.0MPa、好ましくは、0.3〜0.8MPaであり、RF(高周波)スパッタ法の場合は0.1〜2.0MPa、好ましくは、0.3〜0.8MPaであることが適当である。
スパッタ時に投入される電力出力は、スパッタ法によって異なるが、例えば、DC(直流)スパッタ法の場合は、10〜1000W、好ましくは、100〜300Wであり、RF(高周波)スパッタ法の場合は、10〜1000W、好ましくは、50〜250Wであることが適当である。
RF(高周波)スパッタ法の場合の電源周波数は、例えば、50Hz〜50MHz、好ましくは、10k〜20MHzであることが適当である。
スパッタ時のキャリアーガスとしては、スパッタ法によって異なるが、例えば、酸素、ヘリウム、アルゴン、キセノン、クリプトンが挙げられる。好ましくは、アルゴンと酸素の混合ガスである。アルゴンと酸素の混合ガスを使用する場合、アルゴン:酸素の流量比は、Ar:O2=100〜80:0〜20、好ましくは、99.5〜90:0.5〜10であることが適当である。
【0041】
スパッタリングに先立ち、スパッタリングターゲットを支持体に接着(ボンディング)する。これは、ターゲットをスパッタリング装置に固定するためである。
ボンディングしたスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行い、基板上にIn及びGa及びZnの酸化物を主成分とするアモルファス酸化物薄膜を得る。ここで、「主成分とする」とは、酸素を除く元素の原子比の和を100%として、In及びGa及びZnの各元素を原子比で50%以上含むことを意味する。
基板としては、ガラス、樹脂(PET、PES等)等を用いることができる。
得られたアモルファス酸化物薄膜の膜厚は、成膜時間やスパッタ法によっても異なるが、例えば、5〜300nm、好ましくは、10〜90nmであることが適当である。
また、得られたアモルファス酸化物薄膜の電子キャリアー濃度は、例えば、1×1018/cm3未満、好ましくは、5×1017〜1×1012/cm3であることが適当である。
さらに、得られたアモルファス酸化物薄膜の相対密度は、6.0g/cm3以上、好ましくは、6.1〜 7.2g/cm3であることが適当である。このような高密度を備えていれば、得られた酸化物薄膜においても、ノジュールやパーティクルの発生が少なく、膜特性に優れた酸化物薄膜を得ることができる。
【0042】
(6-2) 薄膜トランジスタの製造
さらに、本発明のアモルファス酸化物薄膜と酸化物絶縁体層とを含む薄膜トランジスタを製造する場合は、
(i)本発明のアモルファス酸化物薄膜を、酸化雰囲気中で熱処理する工程;及び
(ii)前記熱処理したアモルファス酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程、
を含むことが適当である。
ここで、熱処理は、例えば、100〜450℃、好ましくは150〜350℃で0.1〜10時間、好ましくは、0.5〜2時間行うことが、半導体特性を安定化させる観点から好適である。
熱処理したアモルファス酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する方法としては、例えば、CVD法やスパッタ法が挙げられる。
ここで、酸化物絶縁体層としては、例えば、SiO2,SiNx,Al2O3,Ta2O5,TiO2,MgO,ZrO2,CeO2,K2O,Li2O,Na2O,Rb2O,Sc2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3,PbTi3,BaTa2O6,SrTiO3,AlN等を用いることができる。これらのなかでも、SiO2,SiNx,Al2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3を用いるのが好ましく、より好ましくはSiO2,SiNx,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3であり、特に好ましくはSiO2,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3等の酸化物である。これらの酸化物の酸素数は、必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば、SiO2でもSiOxでもよい)。また、SiNxは水素元素を含んでいても良い。
【0043】
異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。
また、結晶質、多結晶質、非晶質のいずれであってもよいが、工業的に製造しやすい多結晶質か、非晶質であるのが好ましい。しかし、保護層が非晶質であることが特に好ましい。非晶質膜であれば界面の平滑性が良好となり、高いキャリアー移動度を維持することができ、閾値電圧やS値が大きくなりすぎることもない。
なお、ここでS値(Swing Factor)とは、オフ状態からゲート電圧を増加させた際に、オフ状態からオン状態にかけてドレイン電流が急峻に立ち上がるが、この急峻さを示す値である。下記式で定義されるように、ドレイン電流が1桁(10倍)上昇するときのゲート電圧の増分をS値とする。
S値=dVg/dlog(Ids)
S値が小さいほど急峻な立ち上がりとなる(「薄膜トランジスタ技術のすべて」、鵜飼育弘著、2007年刊、工業調査会)。S値が大きいと、オンからオフに切り替える際に高いゲート電圧をかける必要があり、消費電力が大きくなるおそれがある。
また、S値は0.8V/dec以下が好ましく、0.3V/dec以下がより好ましく、0.25V/dec以下がさらに好ましく、0.2V/dec以下が特に好ましい。0.8V/decより大きいと駆動電圧が大きくなり消費電力が大きくなるおそれがある。特に、有機ELディスプレイで用いる場合は、直流駆動のためS値を0.3V/dec以下にすると消費電力を大幅に低減できるため好ましい。
【0044】
(6-3)薄膜トランジスタの具体的製造方法
ここで、薄膜トランジスタを例にとり、図6を参照しながら説明する。
ガラス基板等の基板(1)を準備し、基板上に電子ビーム蒸着法により、厚さ1〜100nmのTi(密着層)、厚さ10〜300nmのAu(接続層)及び厚さ1〜100nmのTi(密着層)をこの順で積層する。積層した膜をフォトリソグラフィー法とリフトオフ法を用いることにより、ゲート電極(2)を形成する。
さらにその上に、厚さ50〜500nmのSiO2膜をTEOS−CVD法により成膜し、ゲート絶縁膜(3)を形成する。なお、ゲート絶縁膜(3)の成膜はスパッタ法でもよいが、TEOS−CVD法やPECVD法などのCVD法が好ましい。
【0045】
続いて、本発明の酸化物からなるスパッタリングターゲットをターゲットとして用い、RFスパッタ法により、チャネル層(4)として厚さ5〜300nmのIn−Ga−Zn−O酸化物からなるアモルファス酸化物薄膜(半導体)を堆積する。得られた薄膜を堆積した素子は、適宜所望の大きさに切り取った後、大気圧下、100〜450℃、6〜600分熱処理を行う。得られた素子を、さらに厚さ1〜100nmのTi(密着層)、厚さ10〜300nmのAu(接続層)及び厚さ1〜100nmのTi(密着層)をこの順で積層し、フォトリソグラフィー法とリフトオフ法により、ソース電極(5)およびドレイン電極(6)を形成する。さらにその上にスパッタ法により保護膜(7)としてSiO2膜を50〜500nm堆積する。なお、保護膜(7)の成膜方法はCVD法でもよい。なお、工程を変更し、図7 (1)(2)のような保護膜(エッチングストッパー)の製造を、上記ソース電極及びドレイン電極の製造に先立って行ってもよい。
【0046】
(7)酸化物
別の態様として、本発明の酸化物は、酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、In(インジウム)を24〜49原子%含み、希土類酸化物C型の結晶構造を持っていてもよい。以下、別の態様としての本発明の酸化物を詳細に説明する。
【0047】
(7-1)結晶構造
希土類酸化物C型の結晶構造(ビックスバイト構造とも言う)とは、(Th7,Ia3)の空間群を持つ立方晶系で、Mn2O3(I)型酸化物結晶構造とも言う。X線回折でJCPDSカードNo.6−0416のパターンを示す。Sc2O3、Y2O3、Tl2O3、Pu2O3、Am2O3、Cm2O3、In2O3、ITO(In2O3に10wt%程度以下のSnをドープしたもの)がこの結晶構造を示す(日本学術振興会透明酸化物光電子材料第166委員会編「透明導電膜の技術 改訂2版」オーム社、2006年)。希土類酸化物C型の結晶構造を持つことは、X線回折でJCPDSカードNo.6−0416のパターンを示すことから確認できる。
希土類酸化物C型の結晶構造は、MX2(M:陽イオン、X:陰イオン)で示される化合物の結晶構造の一つである蛍石型結晶構造から、化学量論比がM2X3のため陰イオンの四つに一つが抜けている構造となる。陽イオンに対して陰イオン(通常酸化物の場合は、酸素)が6配位し、残りの二つの陰イオンサイトは空となっている(空となっている陰イオンサイトは準イオンサイトとも呼ばれる)(上記「透明導電膜の技術 改訂2版」参照)。陽イオンに酸素(陰イオン)が6配位した希土類酸化物C型の結晶構造は、酸素八面体稜共有構造を有している。酸素八面体稜共有構造を有していると、陽イオンであるp金属のns軌道が互いに重なり合って電子の伝導路を形成し、有効質量が小さくなり高い移動度を示す。ここで、移動度はホール効果あるいはTOF(Time of flight)を用いて測定するか、電界効果トランジスタを作製してその電界効果移動度を測定することによって求められる。
【0048】
希土類酸化物C型の結晶構造は、X線回折でJCPDSカードNo.6−0416のパターンを示していれば、化学量論比がM2X3からずれていてもよい。すなわち、M2O3-dとなっていてもよい。酸素欠損量d が3×10-5〜3×10-1の範囲であることが好ましい。dは終結条件や、焼結時、昇温時、降温時の雰囲気などで調整することができる。また、焼結後に還元処理をすることなどによって調整することもできる。酸素欠損量とは、1 モルの酸化物結晶中に含まれる酸素イオンの数を化学量論量の酸素イオンの数から差し引いた値をモル単位で示した値である。酸化物結晶中に含まれる酸素イオンの数は、例えば、酸化物結晶を炭素粉末中で加熱させて生成する二酸化炭素の量を赤外吸収スペクトルで測定することで算出することができる。また、化学量論量の酸素イオンの数は酸化物結晶の質量から算出することができる。
「希土類酸化物C型の結晶構造を持つ」とは、希土類酸化物C型の結晶構造が主成分であることを意味する。主成分であるとは、X線回折で希土類酸化物C型の結晶構造に帰属されるピークの最大強度が他の結晶型に帰属されるピークの最大強度の2倍以上であることを意味する。X線回折で希土類酸化物C型の結晶構造に帰属されるピークの最大強度が他の結晶型に帰属されるピークの最大強度の5倍以上がより好ましく、10倍以上がさらに好ましく、20倍以上が特に好ましい。特に、β−Ga2O3構造が存在すると焼結体の抵抗値が高くなったり抗折強度が低下するおそれがあるので、β−Ga2O3構造はX線回折で確認されない程度であることが好ましい。
【0049】
(7-2)含有元素
別の態様としての本発明の酸化物は、酸素及びインジウム(In)を含む。
本発明の酸化物は、希土類酸化物C型の結晶構造をとるために、上記酸素及びIn(インジウム)以外に、Ga、Zn、Sn、Mg、Al、B、Sc、Y、ランタノイド類(La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)、Zr、Hf、Ge、Si、Ti、Mn、W、Mo、V、Cu、Ni、Co、Fe、Cr及びNbから選ばれた1種若しくは2種類以上の元素を含むことが好ましい。
また、本発明の酸化物は、本発明の酸化物に含まれる酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合、In(インジウム)を24〜49原子%、好ましくは、30〜45原子%、より好ましくは、35〜40原子%含む。なお、上記原子%(原子%)は、本発明の酸化物に含まれる酸素を除く全原子の原子数を100原子%とする他、本発明の酸化物に含まれる酸素及び正四価以上の金属元素を除く全原子の原子数を100原子%としてもよい。
本発明の酸化物は、本発明の酸化物に含まれる酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合、ガリウム(Ga)を、例えば、10〜45原子%、好ましくは、15〜45原子%、より好ましくは、20〜40原子%含むことが適当である。さらに、本発明の酸化物は、本発明の酸化物に含まれる酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合、亜鉛(Zn)を、例えば、5〜65原子%、10〜60原子%、好ましくは、15〜50原子%含むことが適当である。ここで原子%は、原子比を示す単位であり、本発明の酸化物に含まれる酸素を除く全原子の原子数を100原子%とする値である。正四価以上の金属元素(X)を含む場合、発明の酸化物に含まれる酸素及び正四価以上の金属元素(X)を除く全原子の原子数を100原子%とする値である。
インジウム(In)、ガリウム(Ga)及び亜鉛(Zn)の原子比が上記範囲内であれば、ホモロガス構造やβ−Ga2O3などの他の結晶型が析出することもなく、希土類酸化物C型の結晶構造が現れるので好ましい。さらに、
Inが24原子%以上であれば、ターゲットとした時の抗折強度が高くなる、抵抗が低くなり好ましい。
Inが49原子%以下であれば、レアメタルであるInの使用量が削減でき、原料コストを下げることができる。
Gaが10原子%以上であれば、ターゲットとしてトランジスタを作製する際、成膜時の酸素分圧が低くとも均一なトランジスタを作製することができる。
Gaが49原子%以下であれば、Gaの添加による移動度の低下やS値の悪化を防ぐことが出来る。
Znが5原子%以上であれば、ターゲットとして用いた時、大面積でも均一な非晶質膜を成膜することができる。
Znが65原子%以下であれば、抗折強度が低下することを防ぐことが出来、ターゲットとして用いた時、成膜した膜に酸化亜鉛の結晶が生成することが防げる。
本発明の酸化物に含まれるInの比率は、0.24<In/(In+Ga+Zn)<0.49、好ましくは0.30<In/(In+Ga+Zn)<0.45、より好ましくは0.35<In/(In+Ga+Zn)<0.40である。本発明の酸化物に含まれるGaの比率は、0.1<Ga/(In+Ga+Zn)<0.45、好ましくは0.15<Ga/(In+Ga+Zn)<0.45、より好ましくは0.2<Ga/(In+Ga+Zn)<0.4である。本発明の酸化物に含まれるZnの比率は、0.05<Zn/(In+Ga+Zn)<0.65、好ましくは0.10<Zn/(In+Ga+Zn)<0.60、より好ましくは0.15<Zn/(In+Ga+Zn)<0.50である。
【0050】
本発明の酸化物は、特に、インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)及び亜鉛元素(Zn)の各元素の原子比が、下記の式(1)〜(3)の関係を満たすことが好ましい。
0.24≦In/(In+Ga+Zn)≦0.49 (1)
0.10≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.49 (2)
0.05≦Zn/(In+Ga+Zn)≦0.65 (3)
特に好ましくは、下記の式(1)’〜(3)’の関係を満たすことが好ましい。
0.30≦In/(In+Ga+Zn)≦0.45 (1)’
0.15≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.45 (2)’
0.10≦Zn/(In+Ga+Zn)≦0.50 (3)’
【0051】
本発明の酸化物は、さらに、酸素を含まない酸化物全体の原子数に対し、正四価以上の金属元素(X)を10〜10000ppm(原子比)含むことが好ましい。
ここで、正四価以上の金属元素(X)としては、例えば、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、チタンから選ばれた1種以上の元素であることが好ましい。
正四価以上の金属元素(X)の原子数は、酸素を含まない酸化物全体の原子数に対し、10〜10000ppmが好ましく、100〜5000ppmがより好ましく、200〜1000ppmが特に好ましい。10ppm以上であれば、相対密度が向上し、バルク抵抗が低下し、抗折強度が向上するといった効果を十分に発揮でき、また、10000ppm以下であれば、希土類酸化物C型以外の結晶型が析出するおそれもないので好ましい。
【0052】
(7-3)酸化物の物理的性質
(a)格子定数
本発明の酸化物の格子定数(a)は、a<10.12Åであることが好ましく、a<10.11Åであることがより好ましく、a<10.10Åであることが特に好ましい。格子定数は、X線解析の最大ピーク位置などから計算できる。なお、格子定数が小さくなると、X線解析のピーク位置は大きくなる。
格子定数(a)が10.12Å未満であれば、p金属のns軌道が増え、有効質量が小さくなり、移動度が向上することが期待できる。さらに、格子定数a10.12Å未満であれば、他の結晶相が析出することもない。なお、他の結晶相が析出すると、一般的にターゲットの抵抗が高くなる、密度が低下する、抗折強度が低下するなどのおそれがある。
【0053】
(b)平均結晶粒径
本発明の酸化物の希土類酸化物C型の結晶構造の平均結晶粒径は20μm以下が好ましく、10μm以下がさらに好ましく、5μm以下が特に好ましい。
平均結晶粒径が50μm以下であれば、異常放電が発生することもなく、抗折強度が低下することもなく、成膜品の均一性が失われることもない。
ここで、平均結晶粒径とは、好ましくは、X線マイクロアナライザ(EPMA)によって測定される最大粒径の平均である。最大粒径は、例えば、得られた酸化物を樹脂に包埋し、その表面を粒径0.05μmのアルミナ粒子で研磨した後、X線マイクロアナライザ(EPMA)であるJXA−8621MX(日本電子社製)により5、000倍に拡大した焼結体表面の40μm×40μm四方の枠内で観察される希土類酸化物C型の結晶粒子の最大径を5箇所で測定する。各箇所の最大径の最大値(各箇所の一番大きな粒子の最大径)の平均を最大粒径の平均を平均結晶粒径とする。なお、ここでは外接円の直径(粒子が有する一番長い直径)を最大径とする。
焼結体の任意の断面を走査型電子顕微鏡を用いて観察される希土類酸化物C型の結晶相内の結晶粒子の上記最大径が0.4μm以下、好ましくは、0.3μm、より好ましくは、0.2μmであることが好ましい。具体的には、上記最大径は、X線マイクロアナライザ(EPMA)によって測定される最大粒径の平均粒径である。最大粒径は、例えば、得られた焼結体を樹脂に包埋し、その表面を粒径0.05μmのアルミナ粒子で研磨した後、X線マイクロアナライザ(EPMA)であるJXA−8621MX(日本電子社製)により焼結体表面の40μm×40μm四方の枠内で観察される結晶粒子の最大径を5箇所で測定する。図1にIn2O3-ZnO-Ga2O3焼結体参考例のEPMAによる元素マッピング(試料:Ga20%、1500℃、20時間)各箇所の最大径の最大値(各箇所の一番大きな粒子の最大径)の平均を最大粒径の平均粒径とする。なお、ここでは外接円の直径(粒子が有する一番長い直径、例えば図1中の矢印の長さ)を最大径とする。
【0054】
(8)酸化物の製造方法
別の態様としての本発明の酸化物は、以下の方法により製造されてもよい。
(a) インジウム化合物の粉末、亜鉛化合物の粉末、ガリウム化合物の粉末を配合した混合物を得る工程;
(b) 該混合物を加圧成形し成形体を作る工程及び
(c) 該成形体を焼結する工程。
【0055】
工程(a):インジウム化合物の粉末、亜鉛化合物の粉末、ガリウム化合物の粉末を配合した混合物を得る工程
原料の各化合物の粉末(原料粉)の比表面積2〜16m2/gが好ましく、より好ましくは、3〜15m2/gである。尚、各酸化物粉末の比表面積が、ほぼ同じである粉末を使用することが好ましい。これにより、より効率的に粉砕混合できる。具体的には、比表面積の比が1/4〜4倍以内にすることが好まく、1/2〜2倍以内が特に好ましい。
これらの原料粉の平均メジアン径(d50)は、例えば、0.1〜10μm、好ましくは0.15〜0.5μm、より好ましくは、0.2〜3μmとすることが好ましい。原料粉の平均メジアン径(d50)が0.1μm以上であれば、焼結体中にピンホール(空胞)ができ焼結密度が低下することを防ぐことができ、10μm以下であれば、焼結体中の粒径の増大が防げるので好ましい。
ここで、各粉体の比表面積はBET法で測定した値である。平均メジアン径を、原料粉のメジアン径を5回測定して平均化した値である。これらの値は、粉体を乾式粉砕法、湿式粉砕法等により粉砕することにより調整できる。
各原料粉の純度は、通常99.9%(3N)以上、好ましくは99.99%(4N)以上、さらに好ましくは99.995%以上、特に好ましくは99.999%(5N)以上である。各原料粉の純度が99.9%(3N)以上であれば、不純物により半導体特性が低下することもなく、色むらや斑点などの外観上の不良が発生することもなく、高い信頼性が保持できる。
・In-Zn酸化物、In-Ga酸化物、Ga-Zn酸化物などの複合酸化物を原料としてもよい。特にIn-Zn酸化物、あるいはGa-Zn酸化物を用いるとZnの昇華を抑制することが出来るため好ましい。
【0056】
上記原料の粉末の混合・粉砕は、例えば、湿式媒体撹拌ミルを使用して行うことが適当である。混合・粉砕用のミルとしては、例えば、ビースミル、ボールミル、ロールミル、遊星ミル、ジェットミル等を使用できる。ビーズミルを使用した場合は、粉砕媒体(ビーズ)はジルコニア、アルミナ、石英、窒化珪素、ステンレス、ムライト、ガラスビーズ、SiC等が好ましく、その粒径は0.1〜2mmが好ましい。特に好ましくは、固体粒子のジルコニアビーズが挙げられる。媒体と混合することにより、得られる混合粉の比表面積を増加することができる。例えば、粉砕後の比表面積が原料混合粉体の比表面積より1.5〜2.5m2/g、好ましくは、1.8〜2.3m2/g増加する程度か、又は混合・粉砕後に得られる混合物の平均メジアン径が0.6〜1μmとなる程度に混合・粉砕することが好ましい。このように調整した原料粉を使用することにより、仮焼工程を全く必要とせずに、高密度の酸化物焼結体を得ることができる。また、還元工程も不要となる。尚、上記原料混合粉体の比表面積の増加分が1.5m2/g以上又は粉砕後の平均メジアン径が1μm以下であれば、焼結密度が十分に大きくなるので好ましい。一方、原料混合粉体の比表面積の増加分が2.5m2/g以下又は粉砕後の平均メジアン径が0.6μm以上であれば、粉砕時の粉砕器機等からのコンタミ(不純物混入量)が増加することもないので好適である。
上記原料の各粉体の比表面積及び平均メジアン径等の値は、粉体を乾式粉砕法、湿式粉砕法等により粉砕することにより調整できる。
【0057】
工程(a)'
(a)および(b)工程の間に、(a)工程で得られた混合物を仮焼する工程を含めてもよい。
仮焼工程は、(a)工程で得られた混合物を仮焼し、低級酸化物や非酸化成分を十分に酸化させる工程である。仮焼工程においては、500〜1200℃で、1〜100時間の条件で金属酸化物の混合物を熱処理することが好ましい。500℃以上又は1時間以上の熱処理条件であれば、インジウム化合物や亜鉛化合物、錫化合物の熱分解が十分に行われる。一方、1200℃以下又は100時間以下の場合は、粒子の粗大化が起こることもないので好ましい。
従って、特に好ましいのは、800〜1200℃の温度範囲で、2〜50時間の条件で、熱処理(仮焼)することである。
【0058】
工程(b)
上記工程(a)又は任意の工程(a)'の後、得られた混合物を成型して所望のスパッタリングターゲットの形状とする。成形は公知の方法、例えば、加圧成形、冷間静水圧加圧が採用できる。
また、成形は、加圧成形、コールドプレス(Cold Press)法やホットプレス(Hot Press)法がより好ましく、加圧成形が特に好ましい。例えば、得られた混合物を金型に充填し、コールドプレス機にて加圧成形する。加圧成形は、例えば、常温(25℃)下、100〜100000kg/cm2、好ましくは、500〜10000kg/cm2の圧力で行われる。
【0059】
上記コールドプレス法とホットプレス法について詳説する。コールドプレス法では、工程(a)で得られた混合物を成形型に充填して成形体を作製し、焼結させる。ホットプレス法では、混合物を成形型内で直接焼結させる。
乾式法のコールドプレス(Cold Press)法としては、工程(a)の後の原料をスプレードライヤー等で乾燥した後、成形する。成形は公知の方法、例えば、加圧成形、冷間静水圧加圧、金型成形、鋳込み成形射出成形が採用できる。焼結密度の高い焼結体(スパッタリングターゲット)を得るためには、冷間静水圧(CIP)等加圧を伴う方法で成形するのが好ましい。尚、成形処理に際しては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸等の成形助剤を用いてもよい。
上記湿式法としては、例えば、濾過式成形法(特開平11−286002号公報参照)を用いるのが好ましい。この濾過式成形法は、セラミックス原料スラリーから水分を減圧排水して成形体を得るための非水溶性材料からなる濾過式成形型であって、1個以上の水抜き孔を有する成形用下型と、この成形用下型の上に載置した通水性を有するフィルターと、このフィルターをシールするためのシール材を介して上面側から挟持する成形用型枠からなり、前記成形用下型、成形用型枠、シール材、およびフィルターが各々分解できるように組立てられており、該フィルター面側からのみスラリー中の水分を減圧排水する濾過式成形型を用い、工程(a)で得られた混合物とイオン交換水と有機添加剤とからなるスラリーを調製し、このスラリーを濾過式成形型に注入し、該フィルター面側からのみスラリー中の水分を減圧排水して成形体を作製し、得られたセラミックス成形体を乾燥脱脂後、焼成する。
【0060】
工程(c)
次いで、得られた成形物を焼結して焼結体を得る。焼結は、公知の焼結方法を利用できるが、例えば、電気炉等を利用して焼結することが適当である。焼結は、例えば、空気の存在下、好ましくは酸素雰囲気下、より好ましくは、酸素を流通することにより酸素雰囲気中で行うことがよい。更に好ましくは、加圧下にて焼結するのがよい。これにより亜鉛の蒸散を抑えることができ、ボイド(空隙)のない焼結体が得られる。このようにして製造した焼結体は、密度が高いため、使用時におけるノジュールやパーティクルの発生が少ないことから、膜特性に優れた酸化物半導体膜を作製することができる。焼結は、焼結すべき混合粉の表面温度で1360〜1700℃で1〜500時間焼結することが好ましく、1440〜1650℃で1〜100時間焼結することがより好ましく、1450〜1600℃で2〜50時間焼結することがさらに好ましい。1360℃以上であれば、希土類酸化物C型の結晶が十分に生成し、十分に高いバルク密度が期待できる。
また、1700℃以下であれば亜鉛が蒸散して焼結体の組成が変化することもなく、当該蒸散により焼結体中にボイド(空隙)が発生したりすることもない。焼結時間が長ければ、本願の結晶形態を取り得る組成領域が広がる傾向にある。また、焼結は酸素存在下が好ましく、酸素を流通することにより酸素雰囲気中で焼結するか、加圧下にて焼結するのがより好ましい。これにより亜鉛の蒸散を抑えることができ、ボイド(空隙)のない焼結体が得られる。このようにして製造した焼結体は、密度が高いため、使用時におけるノジュールやパーティクルの発生が少ないことから、膜特性に優れた酸化物半導体膜を作製することができる。
焼結時の温度プロファイルは、600℃までの昇温速度を0.1℃/分以上、好ましくは0.5〜10℃/分、800℃までの昇温速度を0.1℃/分以上、好ましくは0.5〜10℃/分、1500℃までの昇温速度を0.5℃/分以上、好ましくは1〜10 ℃/分であることが適当である。また、冷却時の降温速度は、0.1℃/分以上、好ましくは、0.5〜10℃/分とするのが適当である。昇温速度が1℃/分以上であれば酸化物の分解が進むこともなく、ピンホールも発生しない。また冷却時の降温速度が0.5℃/分以上であればIn,Gaの組成比が変化するおそれもない。
【0061】
工程(d)
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、工程(c)の後、焼結体のバルク抵抗をスパッタリングターゲット全体として均一化するために、さらに還元工程(d)を含むことが好ましい。適用することができる還元方法としては、例えば、還元性ガスによる方法や真空焼成又は不活性ガスによる還元等が挙げられる。還元性ガスによる還元処理の場合、水素、メタン、一酸化炭素や、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。不活性ガス中での焼成による還元処理の場合、窒素、アルゴンや、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。尚、還元処理時の温度は、通常100〜800℃、好ましくは200〜800℃である。また、還元処理の時間は、通常0.01〜10時間、好ましくは0.05〜5時間である。また、還元処理により酸素欠損量dを調整することができる。
【0062】
工程(e)
上述のようにして得られたスパッタリングターゲットは、任意に加工されてもよい(加工工程(e))。加工工程(e)は、上記のようにして焼結して得られた焼結体を、さらにスパッタリング装置への装着に適した形状に切削加工し、またバッキングプレート等の装着用治具を取り付けるための、必要に応じて設けられる工程である。スパッタリングターゲットの厚みは通常2〜20mm、好ましくは3〜12mm、特に好ましくは4〜6mmであるので、本発明のスパッタリングターゲットも当該厚みに加工されることが適当である。
また、複数の酸化物を一つのバッキングプレート(支持体)に取り付け、実質一つのスパッタリングターゲットとしてもよい。
【0063】
工程(f)
上述の工程(c)で得た焼結体を、さらに研磨してもよい(研磨工程(f))。上述のようにして得られた焼結体を、例えば、平面研削盤で研削して平均表面粗さRaを5μm以下、好ましくは、4μm、より好ましくは、0.1〜3μmとする。さらに、ターゲットのスパッタ面に鏡面加工を施して、平均表面粗さRaが100nm以下、好ましくは、50nm以下、より好ましくは1〜30nmとしてもよい。ここで、平均表面粗さ(Ra)とは、中心線平均粗さを意味する。この鏡面加工(研磨)は機械的な研磨、化学研磨、メカノケミカル研磨(機械的な研磨と化学研磨の併用)等の、すでに知られている研磨技術を用いることができる。例えば、固定砥粒ポリッシャー(ポリッシュ液:水)で#2000(インチ基準)以上にポリッシングしたり、又は遊離砥粒ラップ(研磨材:SiCペースト等)にてラッピング後、研磨材をダイヤモンドペーストに換えてラッピングすることによって得ることができる。このような研磨方法には特に制限はない。例えば、表面は200〜10,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが好ましく、400〜5,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが特に好ましい。200番〜10,000番のダイヤモンド砥石を使用すれば、スパッタリングターゲットが割れることもないので好ましい。
得られたターゲットをバッキングプレート(支持体)へボンディングすることにより、各種成膜装置に装着して使用できる。成膜法としては、例えば、スパッタリング法、PLD(パルスレーザーディポジション)法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。ここでバッキングプレートは無酸素銅製が好ましい。ボンディングにはインジウム半田を用いることが好ましい。
尚、ターゲットの清浄処理には、エアーブローや流水洗浄等を使用できる。エアーブローで異物を除去する際には、ノズルの向い側から集塵機で吸気を行なうとより有効に除去できる。
エアーブローや流水洗浄の他に、超音波洗浄等を行なうこともできる。超音波洗浄では、周波数25〜300KHzの間で多重発振させて行なう方法が有効である。例えば周波数25〜300KHzの間で、25KHz刻みに12種類の周波数を多重発振させて超音波洗浄を行なうのがよい。
【0064】
(9)ターゲット
別の態様としての本発明の酸化物及び当該酸化物からなる焼結体は、上述(8)のような各工程を経て、さらに適宜研磨等の加工を施すことによりスパッタリングターゲットとしてもよい。なお、スパッタリングターゲットとは、スパッタリング成膜の際に用いる酸化物の塊であって、上述の通り無酸素銅のようなバッキングプレート(支持体)を該スパッタリングターゲットに貼り付けて使用することが一般的である。
【0065】
(a)相対密度
別の態様としての本発明の酸化物の相対密度は、例えば95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上であることが適当である。95%以上であれば、本発明の酸化物をスパッタリングターゲットとして利用しても、該ターゲットが割れることもなく、異常放電が発生することもないので好ましい。ここで、相対密度とは、加重平均より算出した理論密度に対して相対的に算出した密度である。各原料粉の密度の加重平均より算出した密度が理論密度であり、これを100%とする。例えば、原料粉の密度から計算した理論密度とアルキメデス法で測定した焼結体の密度から下記で計算される。
相対密度=(アルキメデス法で測定した密度)÷(理論密度)×100 (%)
また、酸化物内における相対密度のばらつき(均一性)の範囲が3%以内、好ましくは1%以内であることが適当である。ここで、ばらつき(均一性)は、平均値に対する標準偏差の大きさで示される値であり、酸化物を20個以上の小片を切り出し各々の密度を測定し、平均と標準偏差を求める。
【0066】
(b)バルク抵抗
別の態様としての本発明の酸化物のバルク抵抗は、例えば、JISR1637に従って測定する。バルク抵抗の値は、例えば、20mΩcm以下、好ましくは0.1〜10mΩcm以下、さらに好ましくは0.3〜5mΩcmであることが適当である。バルク抵抗が0.1mΩcm以上であれば、スパッタ時に存在するスパッタ材料のパーティクルとの間で異常放電が発生することもないので好ましい。また、20mΩcm以下であれば、本発明の酸化物をスパッタリングターゲットとして利用しても、該ターゲットが割れたり、放電が不安定になったり、パーティクルが増えるようなこともないので好ましい。
また、酸化物内におけるバルク抵抗のばらつき(均一性)の範囲が3%以内、好ましくは1%以内であることが適当である。ここで、ばらつき(均一性)は、バルク抵抗の平均値に対する標準偏差の大きさで示される値である。バルク抵抗は、例えば、ロレスタ(三菱化学(株)製)などを用いた四探針法で酸化物表面を均等間隔に10〜50点程度測定して求める。
【0067】
(c)抗折強度
別の態様としての本発明のスパッタリングターゲットの抗折強度は、例えば8kg/mm2以上が好ましく、10kg/mm2以上がより好ましく、12kg/mm2以上が特に好ましい。ここで、抗折強度は、曲げ強さともいい、抗折試験器を用いてJIS R1601に基づいて評価される。抗折強度が8kg/mm2以上であれば、スパッタリング中にスパッタリングターゲットが割れることもなく、スパッタリングターゲットの支持体としてのバッキングプレートをスパッタリングターゲットに接着する際や、スパッタリングターゲットを輸送する際に該スパッタリングターゲットが破損するおそれもなく、好ましい。
【0068】
(d)陽性元素のばらつき
別の態様としての本発明の酸化物は、当該酸化物内に含まれる亜鉛以外の、陽性の金属元素のばらつきの範囲が0.5%以内、好ましくは0.1%以内であることが適当であるであることが好ましい。ここで、ばらつきは、平均値に対する標準偏差の大きさを意味する。このばらつきは、酸化物を20個以上の小片を切り出し各々の亜鉛以外の陽性の金属元素の含有量をICPなどで測定し、平均と標準偏差を求める。 当該平均と標準偏差より、陽性元素のばらつき(均一性)は以下の式より求められる。
陽性元素のばらつき(均一性、%)=[金属元素の含有量の平均値]/[金属元素の含有量の標準偏差]×100(%)
【0069】
(e)表面粗さ
別の態様としての本発明のスパッタリングターゲットの表面粗さ(Ra)は、Ra≦0.5μm、好ましくは、Ra≦0.3μm、より好ましくは、Ra≦100nmであることが適当である。研磨面に方向性がない方が、異常放電の発生やパーティクルの発生を抑制することができるので好ましい。表面粗さ(Ra)が0.5μm以下であれば、スッパッタリング中の異常放電を抑制したり、スパッタ材料の発塵(パーティクル)の発生を抑制できるので好ましい。
ここで、表面粗さは、中心線平均粗さを意味する。
【0070】
(f)ピンホール
別の態様としての本発明の酸化物の表面は、ピンホールを有さないことが好ましい。ピンホールは酸化物粉末を焼結して本発明の酸化物を作成する際、該粉末と粉末の間に生じる空隙である。ピンホールの数は、水平フェレー径を利用して評価することができる。ここで、水平フェレー径とは、ピンホールを粒子として見立てた場合に、該粒子を挟む一定方向の2本の平行線の間隔をいう。水平フェレー径は、例えば、倍率100倍のSEM像による観察で計測することができる。ここで、本発明の酸化物の表面の水平フェレー径は、単位面積(1mm×1mm)当たりの酸化物内に存在する水平フェレー径2μm以上のピンホール数が50個/mm2以下であることが好ましく、20個/mm2以下であることがより好ましく、5個/mm2以下であることがさらに好ましい。当該水平フェレー径2μm以上のピンホール数が50個/mm2以下であれば、本発明の酸化物をスパッタリングターゲットとして用いた場合、スパッタ時に異常放電が生じることもなく、得られるスパッタ膜の平滑性も向上することができるので好ましい。
【0071】
(10)薄膜の用途
このようにして得られたアモルファス酸化物薄膜は、そのまま、あるいは熱処理することで液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス表示装置、X線イメージセンサ等に用いられる薄膜トランジスタ、薄膜トランジスタのチャネル層、太陽電池、ガスセンサーなどの半導体膜として使用することができる。
(10-1)ここで、本発明を利用して製造し得る薄膜トランジスタについて説明する。薄膜トランジスタは、基板、半導体層、半導体層の保護層、ゲート絶縁膜、電極を含む。
●基板
基板としては、特に制限はなく、本技術分野で公知のものを使用できる。例えば、ケイ酸アルカリ系ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等のガラス基板、シリコン基板、アクリル、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の樹脂基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等の高分子フィルム基材等が使用できる。基板や基材の厚さは0.1〜10mmが一般的であり、0.3〜5mmが好ましい。ガラス基板の場合は、化学的に、或いは熱的に強化させたものが好ましい。透明性や平滑性が求められる場合は、ガラス基板、樹脂基板が好ましく、ガラス基板が特に好ましい。軽量化が求められる場合は樹脂基板や高分子機材が好ましい。
【0072】
●半導体層
半導体層は、In(インジウム)、Zn(亜鉛)及びGa(ガリウム)複合酸化物からなる。このような半導体層は、例えば、本発明のスパッタリングターゲット(複合酸化物ターゲット)(半導体層用ターゲット)を使用して薄膜を形成することで作製できる。
本発明において、半導体層は非晶質膜であることが好ましい。非晶質膜であることにより、絶縁膜や保護層との密着性が改善される、大面積でも均一なトランジスタ特性が容易に得られることとなる。ここで、半導体層が非晶質膜であるか否かは、X線結晶構造解析により確認できる。明確なピークが観測されない場合が非晶質である。
また、半導体層の電子キャリアー濃度が1013〜1018/cm3であることが好ましく、特に1014〜1017/cm3であることが好ましい。電子キャリアー濃度が上記の範囲であれば、非縮退半導体となりやすく、トランジスタとして用いた際に移動度とオンオフ比のバランスが良好となり好ましい。また、バンドギャップが2.0〜6.0eVであることが好ましく、特に、2.8〜5.0eVがより好ましい。バンドギャップは、2.0eV以上であれば、可視光を吸収し電界効果型トランジスタが誤動作するおそれもない。
一方、6.0eV以下であれば、キャリアが供給されにくくなり電界効果型トランジスタが機能しなくなるおそれも低い。
半導体層は、熱活性型を示す非縮退半導体であることが好ましい。非縮退半導体であれば、キャリアが多すぎてオフ電流・ゲートリーク電流が増加する、閾値が負になりノーマリーオンとなるなどの不利益を回避できる。半導体層が非縮退半導体であるか否かは、ホール効果を用いた移動度とキャリア密度の温度変化の測定を行うことにより判断できる。また、半導体層を非縮退半導体とするには、成膜時の酸素分圧を調整する、後処理をすることで酸素欠陥量を制御しキャリア密度を最適化することで達成できる。
【0073】
半導体層の表面粗さ(RMS)は、1nm以下が好ましく、0.6nm以下がさらに好ましく、0.3nm以下が特に好ましい。1nm以下であれば、移動度が低下するおそれもない。
半導体層は、酸化インジウムのビックスバイト構造の稜共有構造の少なくとも一部を維持している非晶質膜であることが好ましい。酸化インジウムを含む非晶質膜が酸化インジウムのビックスバイト構造の稜共有構造の少なくとも一部を維持しているかどうかは、高輝度のシンクロトロン放射等を用いた微小角入射X線散乱(GIXS)によって求めた動径分布関数(RDF)により、In−X(Xは,In,Zn)を表すピークが0.30から0.36nmの間にあることで確認できる(詳細については、下記の文献を参照すればよい。F.Utsuno, et al.,Thin Solid Films,Volume 496, 2006, Pages 95−98)。
さらに、原子間距離が0.30から0.36nmの間のRDFの最大値をA、原子間距離が0.36から0.42の間のRDFの最大値をBとした場合に、A/B>0.7の関係を満たすことが好ましく、A/B>0.85がより好ましく、A/B>1がさらに好ましく、A/B>1.2が特に好ましい。
A/Bが0.7以上であれば、半導体層をトランジスタの活性層として用いた場合、移動度が低下したり、閾値やS値が大きくなりすぎるおそれもない。A/Bが小さいことは、非晶質膜の近距離秩序性が悪いことを反映しているものと考えられる。
また、In−Inの平均結合距離が0.3〜0.322nmであることが好ましく、0.31〜0.32nmであることが特に好ましい。In−Inの平均結合距離はX線吸収分光法により求めることができる。X線吸収分光法による測定では、立ち上がりから数百eVも高いエネルギーのところまで広がったX線吸収広域微細構造(EXAFS)を示す。EXAFSは、励起された原子の周囲の原子による電子の後方散乱によって引き起こされる。飛び出していく電子波と後方散乱された波との干渉効果が起こる。干渉は電子状態の波長と周囲の原子へ行き来する光路長に依存する。EXAFSをフーリエ変換することで動径分布関数(RDF)が得られる。RDFのピークから平均結合距離を見積もることができる。
【0074】
半導体層の膜厚は、通常0.5〜500nm、好ましくは1〜150nm、より好ましくは3〜80nm、特に好ましくは10〜60nmである。0.5nm以上であれば、工業的に均一に成膜することが可能である。一方、500nm以下であれば、成膜時間が長くなりすぎることもない。また、3〜80nmの範囲内にあると、移動度やオンオフ比等TFT特性が特に良好である。
本発明では、半導体層が非晶質膜であり、非局在準位のエネルギー幅(E0)が14meV以下であることが好ましい。半導体層の非局在準位のエネルギー幅(E0)は10meV以下がより好ましく、8meV以下がさらに好ましく、6meV以下が特に好ましい。非局在準位のエネルギー幅(E0)が14meV以下であれば、半導体層をトランジスタの活性層として用いた場合、移動度が低下したり、閾値やS値が大きくなりすぎるおそれもない。半導体層の非局在準位のエネルギー幅(E0)が大きいことは、非晶質膜の近距離秩序性が悪いことを反映しているものと考えられる。
【0075】
●半導体層の保護層
・薄膜トランジスタは、半導体の保護層があることが好ましい。半導体の保護層があれば、真空中や低圧下で半導体の表面層の酸素が脱離せず、オフ電流が高くなる、閾値電圧が負になるおそれもない。また、大気下でも湿度等周囲の影響を受けることもなく、閾値電圧等のトランジスタ特性のばらつきが大きくなるおそれもない。
・半導体の保護層を形成する材料は特に制限はない。本発明の効果を失わない範囲で一般に用いられているものを任意に選択できる。例えば、SiO2,SiNx,Al2O3,Ta2O5,TiO2,MgO,ZrO2,CeO2,K2O,Li2O,Na2O,Rb2O,Sc2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3,PbTi3,BaTa2O6,SrTiO3,AlN等を用いることができる。これらのなかでも、SiO2,SiNx,Al2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3を用いるのが好ましく、より好ましくはSiO2,SiNx,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3であり、特に好ましくはSiO2,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3等の酸化物である。これらの酸化物の酸素数は、必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば、SiO2でもSiOxでもよい)。また、SiNxは水素元素を含んでいても良い。
さらに保護層用の材料として下記のものを用いても良い。
・半導体膜の成膜時よりも高い酸素分圧で成膜した半導体層と同一組成の非晶質酸化物膜・半導体層と同一組成であるが組成比を変えた非晶質酸化物膜
・In及びZnを含み半導体層と異なる元素Xを含む非晶質酸化物膜
・酸化インジウムを主成分とする多結晶酸化物膜
・酸化インジウムを主成分とし、Zn、Cu、Co、Ni、Mn、Mgなどの正二価元素を1種以上ドープした多結晶酸化物膜
半導体層と同一組成であるが組成比を変えた非晶質酸化物膜や、In及びZnを含み半導体層と異なる元素Xを含む非晶質酸化物膜を保護層として用いる場合は、In組成比が半導体層よりも少ないことが好ましい。また、元素Xの組成比が半導体層よりも多いことが好ましい。
保護層用の材料は、In及びZnを含む酸化物であることが好ましい。これらを含むことにより、保護層と半導体層との間で元素の移動が発生することもなく、ストレス試験等を行った際に閾値電圧のシフトが大きくなるおそれもない。
このような保護膜は、異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。特に、SiOxとSiNxの積層は工業的に安価に製造できるため好ましい。
また、保護層は、結晶質、多結晶質、非晶質のいずれであってもよいが、工業的に製造しやすい多結晶質か、非晶質であるのが好ましい。しかし、保護層が非晶質であることが特に好ましい。非晶質膜であれば、界面の平滑性が良好となり、移動度が低下することもなく、閾値電圧やS値が大きくなりすぎるおそれもない。
【0076】
半導体層の保護層は、非晶質酸化物あるいは非晶質窒化物であることが好ましく、非晶質酸化物であることが特に好ましい。また、保護層が酸化物であれば、半導体中の酸素が保護層側に移動することもなく、オフ電流が高くなることもなく、閾値電圧が負になりノーマリーオフを示すおそれもない。また、半導体層の保護層は、ポリ(4−ビニルフェノール)(PVP)、パリレン等の有機絶縁膜を用いてもよい。さらに、半導体層の保護層は無機絶縁膜及び有機絶縁膜の2層以上積層構造を有してもよい。
【0077】
●ゲート絶縁膜
ゲート絶縁膜を形成する材料にも特に制限はない。本実施形態の発明の効果を失わない範囲で一般に用いられているものを任意に選択できる。例えば、SiO2,SiNx,Al2O3,Ta2O5,TiO2,MgO,ZrO2,CeO2,K2O,Li2O,Na2O,Rb2O,Sc2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3,PbTi3,BaTa2O6,SrTiO3,AlN等を用いることができる。これらのなかでも、SiO2,SiNx,Al2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3を用いるのが好ましく、より好ましくはSiO2,SiNx,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3である。これらの酸化物の酸素数は、必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば、SiO2でもSiOxでもよい)。また、SiNxは水素元素を含んでいても良い。
このようなゲート絶縁膜は、異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。また、ゲート絶縁膜は、結晶質、多結晶質、非晶質のいずれであってもよいが、工業的に製造しやすい多結晶質か、非晶質であるのが好ましい。
また、ゲート絶縁膜は、ポリ(4−ビニルフェノール)(PVP)、パリレン等の有機絶縁膜を用いてもよい。さらに、ゲート絶縁膜は無機絶縁膜及び有機絶縁膜の2層以上積層構造を有してもよい。
【0078】
●電極
ゲート電極、ソ−ス電極及びドレイン電極の各電極を形成する材料に特に制限はなく、本発明の効果を失わない範囲で一般に用いられているものを任意に選択することができる。
例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物、ZnO、SnO2等の透明電極や、Al,Ag,Cr,Ni,Mo,Au,Ti,Ta、Cu等の金属電極、又はこれらを含む合金の金属電極を用いることができる。また、それらを2層以上積層して接触抵抗を低減したり、界面強度を向上させることが好ましい。また、ソ−ス電極、ドレイン電極の接触抵抗を低減させるため半導体の電極との界面をプラズマ処理、オゾン処理等で抵抗を調整してもよい。
例えば、成膜方法としては、スプレー法、ディップ法、CVD法等の化学的成膜方法、又はスパッタ法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、パルスレーザーディポジション法等の物理的成膜方法を用いることができる。キャリア密度が制御し易い、及び膜質向上が容易であることから、好ましくは物理的成膜方法を用い、より好ましくは生産性が高いことからスパッタ法を用いる。
【0079】
(10-2)薄膜トランジスタ(電界効果型トランジスタ)の製造方法
本発明の製造方法では、上述した本発明のスパッタリングターゲットを用い、アモルファス酸化物薄膜(半導体層)を成膜する工程と、アモルファス酸化物薄膜を形成した後に70〜350℃で熱処理する工程を含むことを特徴とする。
尚、上述した薄膜トランジスタの各構成部材(層)は、本技術分野で公知の手法で形成できる。
具体的に、成膜方法としては、スプレー法、ディップ法、CVD法等の化学的成膜方法、又はスパッタ法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法イオンプレーティング法、パルスレーザーディポジション法等の物理的成膜方法を用いることができる。キャリア密度が制御し易い、及び膜質向上が容易であることから、好ましくは物理的成膜方法を用い、より好ましくは生産性が高いことからスパッタ法を用いる。
スパッタリングでは、複合酸化物の焼結ターゲットを用いる方法、複数の焼結ターゲットを用いコスパッタを用いる方法、合金ターゲットを用い反応性スパッタを用いる方法等が利用できる。好ましくは、複合酸化物の焼結ターゲットを用いる。RF、DCあるいはACスパッタリングなど公知のものが利用できるが、均一性や量産性(設備コスト)からDCあるいはACスパッタリングが好ましい。
【0080】
形成した膜を各種エッチング法フォトリソグラフィー法及びリフトオフ法によりパターニングできる。
本発明では半導体層を、本発明のターゲットを用い、DC又はACスパッタリングにより成膜することが好ましい。DC又はACスパッタリングを用いることにより、RFスパッタリングの場合と比べて、成膜時のダメージを低減できる。このため、電界効果型トランジスタ及び薄膜トランジスタにおいて、閾値電圧シフトの低減、移動度の向上、閾値電圧の減少、S値の減少等の効果が期待できる。
また、本発明では半導体層成膜後に70〜350℃で熱処理することが好ましい。特に、半導体層と半導体の保護層を形成した後に、70〜350℃で熱処理することが好ましい。70℃以上であれば、得られるトランジスタの十分な熱安定性や耐熱性を保持することができ、十分な移動度を保持でき、S値が大きくなったり、閾値電圧が高くなるおそれもない。一方、350℃以下であれば、耐熱性のない基板も使用でき、熱処理用の設備費用がかかるおそれもない。
熱処理温度は80〜260℃がより好ましく、90〜180℃がさらに好ましく、100〜150℃が特に好ましい。特に、熱処理温度が180℃以下であれば、基板としてPEN等の耐熱性の低い樹脂基板を利用できるため好ましい。
熱処理時間は、通常1秒〜24時間が好ましいが、処理温度により調整することが好ましい。例えば、70〜180℃では、10分から24時間がより好ましく、20分から6時間がさらに好ましく、30分〜3時間が特に好ましい。180〜260℃では、6分から4時間がより好ましく、15分から2時間がさらに好ましい。260〜300℃では、30秒から4時間がより好ましく、1分から2時間が特に好ましい。300〜350℃では、1秒から1時間がより好ましく、2秒から30分が特に好ましい。
熱処理は、不活性ガス中で酸素分圧が10-3Pa以下の環境下で行うか、あるいは半導体層を保護層で覆った後に行うことが好ましい。上記条件下だと再現性が向上する。
【0081】
(10-3)薄膜トランジスタの特性
本発明の薄膜トランジスタにおいて、移動度は1cm2/Vs以上が好ましく、3cm2/Vs以上がより好ましく、8cm2/Vs以上が特に好ましい。1cm2/Vs以上であればスイッチング速度が遅くなることもなく、大画面高精細のディスプレイに用いるのに最適である。
オンオフ比は、106以上が好ましく、107以上がより好ましく、108以上が特に好ましい。
オフ電流は、2pA以下が好ましく、1pA以下がより好ましい。オフ電流が2pA以下であれば、ディスプレイのTFTとして用いた場合に十分なコントラストが得られ、良好な画面の均一性が得られる。
ゲートリーク電流は1pA以下が好ましい。1pA以上であれば、ディスプレイのTFTとして用いた場合に良好なコントラストが得られる。
閾値電圧は、通常0〜10Vであるが、0〜4Vが好ましく、0〜3Vがより好ましく、0〜2Vが特に好ましい。0V以上であればノーマリーオンとなることもなく、オフ時に電圧をかけることも必要なく、消費電力を低く抑えることができる。10V以下であれば駆動電圧が大きくなることもなく、消費電力を低く抑えることができ、移動度を低く抑えることができる。
また、S値は0.8V/dec以下が好ましく、0.3V/dec以下がより好ましく、0.25V/dec以下がさらに好ましく、0.2V/dec以下が特に好ましい。0.8V/dec以下であれば、駆動電圧を低く抑えることができ、消費電力も抑制できる。特に、有機ELディスプレイで用いる場合は、直流駆動のためS値を0.3V/dec以下にすると消費電力を大幅に低減できるため好ましい。
尚、S値(Swing Factor)とは、オフ状態からゲート電圧を増加させた際に、オフ状態からオン状態にかけてドレイン電流が急峻に立ち上がるが、この急峻さを示す値である。下記式で定義されるように、ドレイン電流が1桁(10倍)上昇するときのゲート電圧の増分をS値とする。
S値=dVg/dlog(Ids)
S値が小さいほど急峻な立ち上がりとなる(「薄膜トランジスタ技術のすべて」、鵜飼育弘著、2007年刊、工業調査会)。S値が小さければ、オンからオフに切り替える際に高いゲート電圧をかける必要がなく、消費電力を低く抑えることができる。
【0082】
また、10μAの直流電圧50℃で100時間加えた前後の閾値電圧のシフト量は、1.0V以下が好ましく、0.5V以下がより好ましい。1.0V以下であれば有機ELディスプレイのトランジスタとして利用した場合、画質が変化することもない。
また、伝達曲線でゲート電圧を昇降させた場合のヒステリシスが小さい方が好ましい。
また、チャンネル幅Wとチャンネル長Lの比W/Lは、通常0.1〜100、好ましくは0.5〜20、特に好ましくは1〜8である。W/Lが100以下であれば漏れ電流が増えることもなく、オンオフ比が低下したりするおそれがある。0.1以上であれば電界効果移動度が低下することもなく、ピンチオフが明瞭になる。また、チャンネル長Lは通常0.1〜1000μm、好ましくは1〜100μm、さらに好ましくは2〜10μmである。0.1μm以上であれば工業的に製造が難しくまた漏れ電流が大きくなるおそれもなく、1000μm以下であれば素子が大きくなりすぎることもない。
【0083】
本発明の薄膜トランジスタ(電界効果型トランジスタ)は、半導体層を遮光する構造を持つことが好ましい。半導体層を遮光する構造(例えば、遮光層)があれば、光が半導体層に入射した場合にキャリア電子が励起されオフ電流が高くなるおそれもない。遮光層は、300〜800nmに吸収を持つ薄膜が好ましい。遮光層は半導体層の上部、下部どちらかでも構わないが、上部及び下部の両方にあることが好ましい。また、遮光層はゲート絶縁膜やブラックマトリックス等と兼用されていても構わない。遮光層が片側だけにある場合、遮光層が無い側から光が半導体層に照射しないよう構造上工夫する必要がある。
尚、本発明の薄膜トランジスタでは、半導体層とソース電極・ドレイン電極との間にコンタクト層を設けてもよい。コンタクト層は半導体層よりも抵抗が低いことが好ましい。コンタクト層の形成材料は、上述した半導体層と同様な組成の複合酸化物が使用できる。
即ち、コンタクト層はIn,Zn及びZr等の各元素を含むことが好ましい。これらの元素を含む場合、コンタクト層と半導体層の間で元素の移動が発生することもなく、ストレス試験等を行った際に閾値電圧のシフトが大きくなるおそれもない。
コンタクト層の作製方法に特に制約はないが、成膜条件を変えて半導体層と同じ組成比のコンタクト層を成膜したり、半導体層と組成比の異なる層を成膜したり、半導体の電極とのコンタクト部分をプラズマ処理やオゾン処理により抵抗を高めることで構成したり、半導体層を成膜する際に酸素分圧等の成膜条件により抵抗を高くなる層を構成してもよい。また、本発明の薄膜トランジスタ(電界効果型トランジスタ)では、半導体層とゲート絶縁膜との間、及び/又は半導体層と保護層との間に、半導体層よりも抵抗の高い酸化物抵抗層を有することが好ましい。酸化物抵抗層があればオフ電流が発生することもなく、閾値電圧が負となりノーマリーオンとなることもなく、保護膜成膜やエッチングなどの後処理工程時に半導体層が変質し特性が劣化するおそれもない。
【0084】
酸化物抵抗層としては、以下のものが例示できる。
・半導体膜の成膜時よりも高い酸素分圧で成膜した半導体層と同一組成の非晶質酸化物膜・半導体層と同一組成であるが組成比を変えた非晶質酸化物膜
・In及びZnを含み半導体層と異なる元素Xを含む非晶質酸化物膜
・酸化インジウムを主成分とする多結晶酸化物膜
・酸化インジウムを主成分とし、Zn、Cu、Co、Ni、Mn、Mgなどの正二価元素を1種以上ドープした多結晶酸化物膜
半導体層と同一組成であるが組成比を変えた非晶質酸化物膜や、In及びZnを含み半導体層と異なる元素Xを含む非晶質酸化物膜の場合は、In組成比が半導体層よりも少ないことが好ましい。また、元素Xの組成比が半導体層よりも多いことが好ましい。
酸化物抵抗層は、In及びZnを含む酸化物であることが好ましい。これらを含む場合、酸化物抵抗層と半導体層の間で元素の移動が発生することもなく、ストレス試験等を行った際に閾値電圧のシフトが大きくなるおそれもない。
以下、本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例の態様に限定されるものではない。
【実施例】
【0085】
実施例1
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 61:25:14質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。
そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で2時間焼成した。これによって、相対密度が86%であるIGZOスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとIn2Ga2ZnO7の結晶が存在することが確認された。X線回折パターンを図1に示す。また、この焼結体のバルク抵抗は4.80×10-3Ωcmであった。このとき焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=51:31:18原子%であった。
このターゲット焼結体を用いて酸化物半導体膜をスパッタリング成膜したとき異常放電は4回/72時間であった。また、DCマグネトロンスパッタリング法による成膜が可能であった。
なお、本発明の実施例および比較例に関しては三菱化学株式会社製の低抵抗率計「ロレスターEP」(JIS K 7194に準拠)によって測定した。
【0086】
実施例2
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 70:23:7質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。
そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1500℃の高温で2時間焼成した。これによって、相対密度が91%であるIGZOスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとIn2Ga2ZnO7の結晶が存在することが確認された。X線回折パターンを図2に示す。また、この焼結体のバルク抵抗は1.77×10-3Ωcmであった。このとき焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=62:30:8原子%であった。
このターゲット焼結体を用いて酸化物半導体膜をスパッタリング成膜したとき異常放電は3回/72時間であった。DCマグネトロンスパッタリング法による成膜が可能であった。
【0087】
実施例3
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 78:15:7質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。
そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で2時間焼成した。これによって、相対密度が83%であるIGZOスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中には実施例2と同様にビックスバイト構造を有する酸化インジウムとIn2Ga2ZnO7の結晶が存在することが確認された。X線回折パターンを図3に示す。また、この焼結体のバルク抵抗は6.60×10-3Ωcmであった。このとき焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=71:20:9原子%であった。
このターゲット焼結体を用いて酸化物半導体膜をスパッタリング成膜したとき異常放電は4回/72時間であった。
【0088】
比較例1(IGZO(In2Ga2ZnO7)スパッタリングターゲットIn:Ga:Zn=40:40:20原子% 1400℃焼結)
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 51:34:15質量%となるように秤量し、大気雰囲気中1400℃の高温で2時間焼成してIn2Ga2ZnO7の粉末を得た。この粉末と酸化インジウムIn2O3粉末を質量比で50:50質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。
そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で2時間焼成し、IGZOスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはIn2Ga2ZnO7の結晶が存在とビックスバイト構造を有する酸化インジウムのピークが観測されたが、相対密度が75%であった。X線回折パターンを図4に示す。また、この焼結体のバルク抵抗は1.65×101Ωcmであった。このとき焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=40:40:20原子%であった。
また、このターゲット焼結体を用いて酸化物半導体膜をスパッタリング成膜したときDCスパッタリング法ではプラズマが立たず成膜できなかった。RFスパッタリング法で成膜を行なったところ、成膜中に多数の異常放電が確認された。
【0089】
比較例2(IGZO(In2Ga2ZnO7)スパッタリングターゲットIn:Ga:Zn=40:40:20原子% 1400℃焼結)
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 51:34:15質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。
そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で2時間焼成した。これによって、相対密度が87%であるIGZOスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはIn2Ga2ZnO7の結晶が存在し、酸化インジウムのピークは見られなかった。X線回折パターンを図5に示す。また、この焼結体のバルク抵抗は9.24×10-2Ωcmであった。このとき焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=40:40:20原子%であった。
また、このターゲット焼結体を用いて酸化物半導体膜をスパッタリング成膜したときDCスパッタリング法ではプラズマが立たず成膜できなかった。RFスパッタリング法で成膜を行なったところ、成膜中に多数の異常放電が確認された。
【0090】
比較例3(酸化インジウムIn2O3スパッタリングターゲット In:Ga:Zn=100:0:0原子%)
純度99.99%の酸化インジウム粉末を、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。
そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1300℃の高温で2時間焼成した。これによって、相対密度が80%であるIn2O3スパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造のIn2O3の結晶のみが存在した。また、この焼結体のバルク抵抗は2.64×101Ωcmであった。このとき焼結体内の元素量比はICPの結果よりInのみ確認された。
また、このターゲット焼結体を用いて酸化物半導体膜をスパッタリング成膜したときDCスパッタリング法ではプラズマが立たず成膜できなかった。RFスパッタリング法で成膜を行なったところ、成膜中に多数の電圧異常が確認された。
【0091】
比較例4(In2O3-ZnOスパッタリングターゲット In:Ga:Zn=80:0:20原子%)
純度99.99%の酸化インジウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:ZnO = 87.2:12.8質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。
なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。
そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1200℃の高温で2時間焼成した。これによって、相対密度が87%であるIn2O3-ZnOスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはIn2Ga2ZnO7の結晶および酸化インジウムのピークは見られなかった。また、この焼結体のバルク抵抗は4.21×10-3Ωcmであった。このとき焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=80:0:20原子%であった。
また、このターゲット焼結体を用いてスパッタリング成膜した薄膜は導電膜であり、半導体として機能しなかった。
【0092】
比較例5((In,Ga)2O3スパッタリングターゲット In:Ga:Zn=60:40:0原子%)
純度99.99%の酸化インジウム粉末および純度99.99%の酸化ガリウム粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3 = 70:30質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。
そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で2時間焼成した。X線回折により焼結体中には(In、Ga)O3が観測され、In2Ga2ZnO7および酸化インジウムのピークは確認されなかった。このとき、相対密度は88%であった。また、この焼結体のバルク抵抗は6.43×106Ωcmであった。このとき焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=60:40:0原子%であった。
また、このターゲット焼結体を用いて酸化物半導体膜をスパッタリング成膜したときDCスパッタリング法ではプラズマが立たず成膜できなかった。RFスパッタリング法で成膜を行なったところ、成膜中に多数の電圧異常が確認された。
【0093】
以下の表に、上記実施例及び比較例の結果をまとめる。
【表1】
【0094】
( IGZOスパッタリングターゲットの作製 )
実施例4 ( 組成A 1400℃ 20h焼成 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 47.3:9.1:43.6質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で20時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が89%であるスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造のInGaO3(ZnO)の結晶が存在することが確認された。X線回折パターンを図8に示す。この焼結体のバルク抵抗は3.42×10-2Ωcmであった。このとき、バルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=35:10:55原子%であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき目立った異常放電は観測されなかった。連続72時間運転中の異常放電の回数は5回未満だった。
【0095】
実施例5 ( 組成B 1400℃ 2h焼成 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 49.3:11.7:39.0質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で2時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が87%であるスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造のInGaO3(ZnO)2の結晶が存在することが確認された。X線回折パターンを図9に示す。この焼結体のバルク抵抗は4.02×10-1Ωcmであった。このとき、バルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=37:13:50原子%であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき目立った異常放電は観測されなかった。連続72時間運転中の異常放電の回数は5回未満だった。
【0096】
実施例6 ( 組成B 1400℃ 20h焼成 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 49.3:11.7:39.0質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で20時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が90%であるスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造のInGaO3(ZnO)の結晶が存在することが確認された。X線回折パターンを図10に示す。この焼結体のバルク抵抗は1.02×10-2Ωcmであった。このとき、バルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=37:13:50原子%であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき目立った異常放電は観測されなかった。連続72時間運転中の異常放電の回数は5回未満だった。
【0097】
実施例7 ( 組成C 1400℃ 20h焼成 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 46.7:18.1:35.2質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で20時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が85%であるスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造のInGaO3(ZnO)の結晶が存在することが確認された。X線回折パターンを図11に示す。この焼結体のバルク抵抗は1.84×100Ωcmであった。このとき、バルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=35:20:45原子%であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき目立った異常放電は観測されなかった。連続72時間運転中の異常放電の回数は5回未満だった。
【0098】
実施例8 ( 組成D 1400℃ 2h焼成 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 66:16:18質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で2時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が84%であるスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造のInGaO3(ZnO)の結晶が存在することが確認された。X線回折パターンを図12に示す。この焼結体のバルク抵抗は1.17×100Ωcmであった。このとき、バルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=55:20:25原子%であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき目立った異常放電は観測されなかった。連続72時間運転中の異常放電の回数は5回未満だった。
【0099】
実施例9 ( 組成E 1400℃ 2h焼成 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 71:8:21質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で2時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が83%であるスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造のInGaO3(ZnO)の結晶が存在することが確認された。X線回折パターンを図13に示す。この焼結体のバルク抵抗は1.87×100Ωcmであった。このとき、バルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=60:10:30原子%であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき目立った異常放電は観測されなかった。連続72時間運転中の異常放電の回数は5回未満だった。
【0100】
( 正四価元素添加IGZOスパッタリングターゲットの作製 )
実施例10 ( 組成B+Sn 300ppm 1400℃ 20h焼成 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 49.3:11.7:39.0質量%となるように秤量し、さらにスズSn単体金属粉を300ppm添加した。これら粉末を、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で20時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が89%であるスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造のInGaO3(ZnO)の結晶が存在することが確認された。この焼結体のバルク抵抗は6.07×10-3Ωcmであった。このとき、バルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=37:13:50原子%であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき目立った異常放電は観測されなかった。連続72時間運転中の異常放電の回数は5回未満だった。また、DCマグネトロンスパッタリング法による成膜が可能であった。
【0101】
実施例11 ( 組成B+Sn 1500ppm 1400℃ 20h焼成 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 49.3:11.7:39.0質量%となるように秤量し、さらにスズSn単体金属粉を1500ppm添加した。これら粉末を、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で20時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が91%であるスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造のInGaO3(ZnO)の結晶が存在することが確認された。この焼結体のバルク抵抗は2.15×10-3Ωcmであった。このとき、バルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=37:13:50原子%であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき目立った異常放電は観測されなかった。連続72時間運転中の異常放電の回数は5回未満だった。また、DCマグネトロンスパッタリング法による成膜が可能であった。
【0102】
実施例12 ( 組成B+Ge 1500ppm 1400℃ 20h焼成 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 49.3:11.7:39.0質量%となるように秤量し、さらにゲルマニウムGe元素粉末を1500ppm添加した。これら粉末を、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で20時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が87%であるスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造のInGaO3(ZnO)の結晶が存在することが確認された。この焼結体のバルク抵抗は4.89×10-3Ωcmであった。このとき、バルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=37:13:50原子%であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき目立った異常放電は観測されなかった。連続72時間運転中の異常放電の回数は5回未満だった。また、DCマグネトロンスパッタリング法による成膜が可能であった。
【0103】
比較例6 ( ホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO) )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 44.2:29.9:25.9質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で20時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が87%であるホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)のみの酸化物焼結体を得た。この焼結体のバルク抵抗は2.67×102Ωcmであった。なお、このときバルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=1:1:1 mol比であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき異常放電は観測された。連続72時間運転中の異常放電の回数は15回だった。
【0104】
比較例7 ( ホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)2 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 35.1:23.7:41.2質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で20時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が85%であるホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)2のみの酸化物焼結体を得た。この焼結体のバルク抵抗は4.83×102Ωcmであった。なお、このときバルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=1:1:2 mol比であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき異常放電は観測された。連続72時間運転中の異常放電の回数は18回だった。
【0105】
比較例8 ( ホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)3 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 29.1:19.7:51.2質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で20時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が83%であるホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)3のみの酸化物焼結体を得た。
この焼結体のバルク抵抗は1.52×103Ωcmであった。なお、このときバルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=1:1:3 mol比であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき異常放電は観測された。連続72時間運転中の異常放電の回数は24回だった。
【0106】
比較例9 ( ホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)4 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO =24.8:16.8:58.4質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で20時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が82%であるホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)4のみの酸化物焼結体を得た。
この焼結体のバルク抵抗は6.53×103Ωcmであった。なお、このときバルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=1:1:4 mol比であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき異常放電は観測された。連続72時間運転中の異常放電の回数は23回だった。
【0107】
以下の表に、上記実施例及び比較例の結果を示す。
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【0110】
【表4】
【0111】
<希土類酸化物C型の結晶構造を持つ酸化物の確認試験>
原料及び焼結条件を変えて、種々の酸化物焼結体を作製し、希土類酸化物C型の結晶構造を持つ酸化物が得られることを確認した。具体的に、当該確認試験は以下のように行った。
(1)実施例A
それぞれ比表面積及び平均メジアン径が以下の通りのIn2O3 、Ga2O3及びZnOの各粉末を、容量500mlのポリアミド容器に加えた。
比表面積(m2/g) 平均メジアン径(μm)
In2O3粉末 15 5
Ga2O3粉末 14 5
ZnO粉末 4 2
ここで、比表面積とは、BET法で測定した値である。
平均メジアン径はレーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)を用いて測定した粒度分布から求める。
さらに、当該ポリアミド容器に平均直径2mmのジルコニアビーズ200g を加え混合物を得た。
この混合物を、フリッツジャパン社製遊星ボールミル装置を用いて1 時間湿式混合した。分散媒にはエタノールを用いた。各混合粉をアルミナるつぼ中、大気下、1000 ℃ で5時間仮焼した後、再び遊星ボールミル装置を用いて1時間解砕処理した。このようにして調製した仮焼粉体を一軸加圧(100kg/cm2)によって直径20mmの円板状に成形し、大気下、1500 ℃ で20時間焼結して焼結体を得た。
焼結体を粉砕しICPで分析したところ、実施例Aの含有金属の原子比がIn:Ga:Zn=33:33:34であった。X線回折(XRD)による解析の結果、結晶型は希土類酸化物C型(JCPDSカードNo.14-0564)であった。X線回折(XRD)は高角側にシフトしており、格子定数が単結晶のIn2O3より小さくなっていることが分かった。このことから、Ga、Znのどちらかあるいは両方が、酸化インジウムの希土類酸化物C型の結晶構造に固溶置換して結晶の単位格子を小さくしていると思われる。
【0112】
(2)比較例
比表面積及び平均粒径がそれぞれ以下の通りのIn2O3 、Ga2O3及びZnOの各粉末を、容量500mlのポリアミド容器に加えた。
比表面積(m2/g) 平均メジアン径(μm)
In2O3粉末 11 4
Ga2O3粉末 11 4
ZnO粉末 9 3
さらに当該ポリアミド容器に、平均直径2mmのジルコニアビーズ200g を加え混合物を得た。
この混合物を大気下、1400 ℃ で2時間焼結した以外は実施例Aと同様にして酸化物焼結体を得た。
焼結体を粉砕しICPで分析したところ、比較例Aの含有金属の原子比がIn:Ga:Zn=33:33:34であった。X線回折(XRD)による解析の結果、結晶型は希土類酸化物C型ではなく、結晶型は特許文献4、5、7と同様のInGaZnO4(JCPDSカードNo.38-1104)であった。
【0113】
実施例Aのような酸化インジウムが全体の1/3程度しか含まれていない複合元素からなる酸化物の結晶型が、酸化インジウム由来の希土類酸化物C型を示すことは、驚くべきことである。
また、同一の組成で比較すると希土類酸化物C型の結晶構造を示す場合の方が従来に比べて、密度が高くバルク抵抗も低かった。
組成、焼結条件を変え同様に焼結し、実施例A〜D及び比較例A及びBの焼結体の物性等の結果を表5にまとめた。また、図15〜20に実施例A〜Dと比較例A及びBのX線回折(XRD)データを示す。
【0114】
【表5】
【0115】
<スパッタリングターゲットの作製>
(実施例13)
比表面積15m2/g、平均メジアン径5μm、純度99.99%のIn2O3粉、比表面積14m2/g、平均メジアン径5μm、純度99.99%のGa2O3粉、及び比表面積4m2/g、平均メジアン径2μm、純度99.99%のZnO粉末を配合し、各原料粉末の平均メジアン径が1μm以下になるまで混合、粉砕を行った。ここで、比表面積は、BET法で測定した値をいい、平均メジアン径はレーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)を用いて測定した粒度分布から求める。
こうして作製した混合物を、混合物の供給速度140ml/min、熱風温度140℃、熱風量8Nm3/minの条件で、スプレードライヤーを用いて急速乾燥造粒し、造粒物を冷間静水圧プレスにて25℃下、3000kg/cm2の圧力で成形し、成形体を得た。
【0116】
次に、この成形体を大気中にて、成形体の表面温度で600℃までは0.5℃/分の速度で昇温し、酸素ガスを10L/分の流速で導入しながら、600〜800℃までは1℃/分の速度で、さらに800〜1500℃の温度範囲では3℃/分の速度で昇温した。その後、1500℃にて2時間の保持を行い、焼結体を得た。
得られた焼結体をICPで分析し、組成が酸素を除く原子比でIn:Ga:Zn=35:20:45であることを確認した。また、得られた焼結体の密度を、焼結体の質量と幾何学的な寸法より算出した。X線回折結果により焼結体が希土類酸化物C型(JCPDSカードNo.14-0564)の多結晶からなることを確認した。格子定数aは、10.05Åであった。
また、酸素欠損量dは、1×10-3、ターゲット内における亜鉛以外の、陽性元素のばらつきの範囲が3 % 以内、焼結体内における密度のばらつきの範囲が3 % 以内、焼結体内におけるフェレー径2μm以上のピンホール数が単位面積当たり5個/mm2以下であった。また、EPMAで測定した平均結晶粒径は17μmであった。
【0117】
[実施例14〜35及び比較例10〜23]
焼結時間、焼結温度、組成、原料、造粒方法が異なる以外は実施例1と同様にして酸化物の焼結体を得た。なお、実施例15のEPMA図を示す(図14)。
【0118】
[評価]
バルク抵抗、坑折強度、焼結時のクラックの有無を評価した。得られた結果を表6に示す。なお、評価は下記の方法で行った。
相対密度
・原料粉の密度から計算した理論密度とアルキメデス法で測定した焼結体の密度から下記で計算した。
相対密度=(アルキメデス法で測定した密度)÷(理論密度)×100 (%)
平均結晶粒径
・焼結体を樹脂に包埋し、その表面を粒径0.05μmのアルミナ粒子で研磨した後、X線マイクロアナライザー(EPMA)であるJXA−8621MX(日本電子社製)により焼結体表面の40μm×40μm四方の枠内で観察される結晶粒子の最大径を5箇所で測定し、その平均を平均結晶粒径とした。
【0119】
バルク抵抗
・抵抗率計(三菱化学(株)製、ロレスタ)を使用し四探針法(JIS R 1637)に基づき測定、10箇所の平均値をバルク抵抗値とした。
バルク抵抗の均一性
・同一ターゲット表面10箇所のバルク抵抗を測定し、最大値と最小値の比(最大値/最小値)を測定した。その結果、均一性の良い方から順に、5以内:◎、10以内:○、20以内:△、20より大:×として、4段階で評価した。
坑折強度(曲げ強さ)
・抗折試験器を用いてJIS R1601に基づいて評価した。
焼結時のクラック
・焼結直後に肉眼で目視し、クラック発生の有無を確認した。
【0120】
X線回折測定(XRD)
・装置:(株)リガク製Ultima−III
・X線:Cu−Kα線(波長1.5406Å、グラファイトモノクロメータにて単色化)
・2θ−θ反射法、連続スキャン(1.0°/分)
・サンプリング間隔:0.02°
・スリット DS、SS:2/3°、RS:0.6mm
【0121】
【表6】
【表7】
【0122】
<スパッタリングターゲットの作製>
実施例13〜35及び比較例10〜23の焼結体からスパッタリングターゲットを切り出した。実施例13〜35及び比較例10〜23の焼結体の側辺をダイヤモンドカッターで切断して、表面を平面研削盤で研削して表面粗さRa5μm以下のターゲット素材とした。次に、表面をエアーブローし、さらに周波数25〜300KHzの間で25KHz刻みに12種類の周波数を多重発振させて3分間超音波洗浄を行なった。この後、ターゲット素材をインジウム半田にて無酸素銅製のバッキングプレートにボンディングしてターゲットとした。ターゲットの表面粗さRa≦0.5μmであり、方向性のない研削面を備えていた。
【0123】
<スパッタリング試験>
上述のようにして作製された実施例13〜35及び比較例10〜23のスパッタリングターゲットを用い、RFマグネトロンスパッタリング及びDCマグネトロンスパッタリングをそれぞれ行い、スパッタリングの状態を評価した。具体的に、RFマグネトロンスパッタリングは、RFマグネトロンスパッタリング成膜装置(神港精機(株)製)に装着し、ガラス基板(コーニング1737)上に酸化物半導体膜を成膜した。
スパッタ条件は、基板温度;25℃、到達圧力;5×10-4Pa、雰囲気ガス;Ar98%、酸素2%、スパッタ圧力(全圧);1×10-1Pa、投入電力100W、S−T距離100mmとした。
DCマグネトロンスパッタリングは、DCマグネトロンスパッタリング成膜装置(神港精機(株)製)に装着し、ガラス基板(コーニング1737)上に酸化物半導体膜を成膜した。
スパッタ条件は、基板温度;25℃、到達圧力;5×10-4Pa、雰囲気ガス;Ar98%、酸素2%、スパッタ圧力(全圧);1×10-1Pa、投入電力100W、S−T距離100mmとした。
得られた結果を表6に示す。
【0124】
[評価]評価は下記の方法で行った。
・RFスパッタリング
異常放電:3時間あたりに発生する異常放電回数を測定した。評価は、5回以下:◎、10回以下:○、20回以下:△、30回以下:×とした。
面内均一性:同一面内の比抵抗の最大値と最小値の比( 最大値/ 最小値)を測定した。その結果、比抵抗の均一性の良い方から順に、1.05以内: ◎ 、1.10以内: ○ 、1.20以内: △ 、1.20より大: × として、4段階で評価した。
【0125】
・DCスパッタリング
異常放電:3時間あたりに発生する異常放電回数を測定した。評価は、5回以下:◎、10回以下:○、20回以下:△、30回以下:×とした。
ノジュールの発生については、◎:ほとんど無、○:若干あり、△:有り、×:多発、−:成膜不可とした。
・連続成膜安定性
連続20バッチ分における第1バッチと第20バッチの平均電界効果移動度の比(第1バッチ/第20バッチ)を測定した。その結果、TFT特性の再現性の良い方から順に、1.10以内:◎、1.20以内:○、1.50以内:△、1.50より大:×として、4段階で評価した。
・面内均一性
同一面内の比抵抗の最大値と最小値の比(最大値/最小値)を測定した。その結果、比抵抗の均一性の良い方から順に、1.05以内: ◎ 、1.10以内: ○ 、1.20以内: △ 、1.20より大: × として、4段階で評価した。
・クラック発生
スパッタリングターゲットに発生するクラッキング(ターゲットのクラック発生):成膜直後に肉眼で目視し、クラック発生の有無を確認した。
【0126】
<薄膜トランジスタ(TFT)の作製>
上述のようにして得られた実施例13〜35及び比較例10〜23のスパッタリングターゲットを、を逆スタガ型薄膜トランジスタ(以下、「薄膜トランジスタ」を単にTFTと省略することがある)中の活性層の成膜に用い、図21及び22に示す逆スタガ型TFTを作製した。まず、基板として、無アルカリガラス製のガラス基板(コーニング社製Corning1737)を準備した。この基板上に電子ビーム蒸着法により、厚さ5nmのTiと厚さ50nmのAuと厚さ5nmのTiをこの順で積層した。積層した膜をフォトリソグラフィー法とリフトオフ法を用いることにより、ゲート電極を形成した。得られたゲート電極の上部表面に、厚さ200nmのSiO2膜をTEOS−CVD法により成膜し、ゲート絶縁膜を形成した。
続いて、RFスパッタ法により、上記の焼結体をターゲットとして、半導体層として厚さ30nmのアモルファス酸化物薄膜(In−Ga−Zn−O酸化物半導体)を堆積した。ここで、投入したRF電源の出力は200Wであった。成膜時は、全圧0.4Paとし、その際のガス流量比はAr:O2=95:5とした。また、基板温度は25℃であった。
堆積したアモルファス酸化物薄膜を用い、フォトリソグラフィー法とエッチング法を用いて、それぞれの素子の上に厚さ5nmのTiと厚さ50nmのAuと厚さ5nmのTiをこの順で積層し、フォトリソグラフィー法とリフトオフ法により、ソース電極およびドレイン電極を形成し、W=100μm、L=20μmの素子を作成した。得られた素子を大気圧下、300℃で60分間熱処理を行い、薄膜トランジスタを得た。さらに素子の上にスパッタ法により保護膜としてSiO2膜を200nm堆積した。
【0127】
[評価]
評価は下記の方法で行った。
・移動度・オンオフ比
半導体パラメーターアナライザー(ケースレー4200)を用い、ドライ窒素中・室温(25℃)・遮光環境下で測定した。
・TFT特性の均一性
得られた薄膜トランジスタ内のVg(ゲート電圧)=6Vにおけるオン電流の最大値と最小値の比(最大値/最小値)を測定した。その結果、TFT特性の均一性の良い方から順に、1.05以内:◎、1.10以内:○、1.20以内:△、1.20より大:×として、4段階で評価した。
・TFT特性の再現性
連続20バッチ分における第1バッチと第20バッチの移動度の比(第1バッチ/第20バッチ)を測定した。その結果、TFT特性の再現性の良い方から順に、1.10以内:◎、1.20以内:○、1.50以内:△、1.50より大:×として、4段階で評価した。
【0128】
●本発明のその他の態様
本発明は、さらに以下の(a)〜(c)の態様であっても良い。
(a) 本発明のその他の態様は、
〔1〕ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、組成式In2Ga2ZnO7で表されるYb2Fe3O7構造化合物を含む酸化物焼結体から成るスパッタリングターゲットに関する。
〔2〕前記酸化物焼結体中のインジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たすような組成範囲にある、〔2〕に記載のスパッタリングターゲットに関する。
0.5<In/(In+Ga)<0.98、0.6<Ga/(Ga+Zn)<0.99
〔3〕酸化物焼結体の相対密度が80%以上である、〔1〕又は〔2〕に記載のスパッタリングターゲットに関する。
〔4〕酸化物焼結体のバルク比抵抗が1×10-2Ωcm以下である、〔1〕〜〔3〕のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲットに関する。
〔5〕前記酸化インジウムと前記In2Ga2ZnO7のInの一部が、正四価以上の金属元素(X)により固溶置換される、〔1〕〜〔4〕のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲットに関する。
〔6〕前記正四価以上の金属元素(X)が原子比で(正四価以上の金属元素(X))/(酸化物焼結体中の全金属元素)=100ppm〜10000ppmの割合で固溶置換される、〔5〕に記載のスパッタリングターゲットに関する。
〔7〕前記正四価以上の金属元素(X)が、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン及びチタンからなる群から選ばれた1種以上の元素である、〔5〕又は〔6〕に記載のスパッタリングターゲットに関する。
〔8〕(a) 原料酸化物粉末を混合する工程;
(b)得られた混合物を成形する工程;及び
(c)得られた成形体を1200℃以上1600℃未満で焼成する工程
を含む、〔1〕〜〔7〕のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲットの製造法に関する。
〔9〕〔1〕〜〔7〕のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲットを用い、25〜450℃の成膜温度下でスパッタリングを行う工程を含んだ、電子キャリア濃度が1×1018/cm3未満のアモルファス酸化物薄膜を形成する方法に関する。
〔10〕前記アモルファス酸化物薄膜が、薄膜トランジスタのチャネル層用の薄膜である、〔9〕に記載の方法に関する。
〔11〕アモルファス酸化物薄膜と酸化物絶縁体層とを含む薄膜トランジスタの製造方法であって、
(i)〔9〕で形成されたアモルファス酸化物薄膜を、酸化雰囲気中で熱処理する工程;及び
(ii)前記熱処理したアモルファス酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程、
を含む、薄膜トランジスタの製造方法に関する。
〔12〕〔11〕に記載の薄膜トランジスタの製造方法により製造した薄膜トランジスタを備えた半導体装置に関する。
【0129】
(b)本発明のその他の態様は、
〔1〕ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、InGaO3(ZnO)m (mは1〜4の自然数)で表される1又は2種類以上のホモロガス構造化合物を含む酸化物焼結体から成るスパッタリングターゲットに関する。
〔2〕前記酸化物焼結体中のインジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たすような組成範囲にある、〔1〕に記載のスパッタリングターゲットに関する。
0.5<In/(In+Ga)<0.99、0.2<Zn/(In+Ga+Zn)<0.7
〔3〕前記酸化インジウム、又は前記1又は2種類以上のホモロガス構造化合物のInの一部が正四価以上の金属元素により固溶置換される、〔1〕又は〔2〕に記載のスパッタリングターゲットに関する。
〔4〕前記正四価以上の金属元素が原子比で(正四価以上の金属元素)/(酸化物焼結体中の全金属元素)=100ppm〜10000ppmの割合で固溶置換される、〔3〕に記載のスパッタリングターゲットに関する。
〔5〕前記正四価以上の金属元素がスズ、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、チタンから選ばれた1種類以上の元素である、〔3〕又は〔4〕に記載のスパッタリングターゲットに関する。
〔6〕前記酸化物焼結体のバルク比抵抗が1×10-2Ωcm以下である、〔1〕〜〔5〕のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲットに関する。
〔7〕前記酸化物焼結体の相対密度が80%以上である、〔1〕〜〔6〕のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲットに関する。
〔8〕(a) 原料酸化物粉末を混合する工程;
(b)得られた混合物を成形する工程;及び
(c)得られた成形体を1200℃以上1400℃以下で焼成する工程
を含む、〔1〕〜〔7〕のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲットの製造法に関する。
〔9〕〔1〕〜〔7〕のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲットを用い、25〜450℃の成膜温度下でスパッタリングを行う工程を含んだ、電子キャリア濃度が1×1018/cm3未満のアモルファス酸化物薄膜を形成する方法に関する。
〔10〕前記アモルファス酸化物薄膜が、薄膜トランジスタのチャネル層用の薄膜である、〔9〕に記載の方法に関する。
〔11〕アモルファス酸化物薄膜と酸化物絶縁体層とを含む薄膜トランジスタの製造方法であって、
(i)〔9〕で形成されたアモルファス酸化物薄膜を、酸化雰囲気中で熱処理する工程;及び
(ii)前記熱処理したアモルファス酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程、
を含む薄膜トランジスタの製造方法に関する。
〔12〕〔11〕に記載の薄膜トランジスタの製造方法により製造した薄膜トランジスタを備えた半導体装置に関する。
【0130】
(c)本発明のその他の態様は、
[1]酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、In(インジウム)を24〜49原子%含み、希土類酸化物C型の結晶構造を持つことを特徴とする酸化物に関する。
[2]酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、In(インジウム)を24〜49原子%、Ga(ガリウム)を10〜49原子%、Zn(亜鉛)を5〜65原子%含み、希土類酸化物C型の結晶構造を持つことを特徴とする[1]の酸化物に関する。
[3]格子定数a<10.12Åであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の酸化物に関する。
[4][1]〜[3]のいずれかに記載の酸化物からなることを特徴とする酸化物焼結体に関する。
[5]平均結晶粒径が20μm以下の希土類酸化物C型の結晶構造を持つことを特徴とする酸化物焼結体に関する。
[6][4]又は[5]に記載の酸化物焼結体からなることを特徴とするターゲットに関する。
[7]酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、正四価以上の金属元素10〜10000ppm含むことを特徴とする[6]に記載のターゲットに関する。
[8]相対密度が90%以上、バルク抵抗が0.1〜100mΩ・cmの範囲内であることを特徴とする[6]又は[7]に記載のスパッタリングターゲットに関する。
[9]
(a)インジウム化合物の粉末、亜鉛化合物の粉末、ガリウム化合物の粉末を配合した混合物を得る工程と、
(b)該混合物を加圧成形し成形体を作る工程と、
(c)該成形体を焼結する工程と、
を含む[6]〜[8]のいずれかに記載のスパッタリングターゲットの製造方法に関する。
[10] [6]〜[8]のいずれかに記載のスパッタリングターゲットを利用したスパッタリング法により成膜してなる酸化物薄膜に関する。
[11] [10]に記載の酸化物薄膜を用いた薄膜トランジスタに関する。
【符号の説明】
【0131】
1 基板
2 ゲート電極
3 ゲート絶縁膜
4 チャネル層
5 ソース電極
6 ドレイン電極
7 保護膜
11 基板
12 ゲート電極
13 ゲート絶縁膜
14 チャネル層
15 ソース電極
16 ドレイン電極
17 保護膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、組成式In2Ga2ZnO7で表されるYb2Fe3O7構造化合物を含む酸化物焼結体から成る、酸化物薄膜の形成に適したスパッタリングターゲットおよびその製造法に関する。
また、本発明は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の酸化物を含み、ビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)m (mは1〜4の自然数)を含む酸化物焼結体から成る酸化物半導体膜の形成に適したスパッタリングターゲットおよびその製造法に関する。
また、本発明は、希土類酸化物C型の結晶構造を持つ焼結体に関する。
また、本発明は、希土類酸化物C型の結晶構造を持つターゲット、特にスパッタリングによるアモルファス酸化物膜の形成に適したターゲット、及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属複合酸化物からなる酸化物半導体膜としては、例えばIn、GaおよびZnの酸化物(IGZO)からなる酸化物半導体膜(以下、酸化物薄膜とも言う)が挙げられる。IGZOスパッタリングターゲットを用いて成膜してなる酸化物半導体膜は、アモルファスSi膜よりも移動度が大きいことを特徴として注目を集めている。また、このような酸化物半導体膜は、アモルファスSi膜よりも移動度が大きいことや可視光透過性が高いことから、液晶表示装置、薄膜エレクトロルミネッセンス表示装置などのスイッチング素子(薄膜トランジスタ)などへの応用が期待されており、注目を集めている。
IGZOスパッタリングターゲットはInGaO3(ZnO)m(m=1〜20の整数)で表される化合物が主成分であることが知られている。しかし、IGZOスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング(DCスパッタリング)をする場合に、このInGaO3(ZnO)mで表される化合物が異常成長して異常放電を起こし、得られる膜に不良が発生する問題があった。また得られるスパッタリングターゲットの比抵抗は低くても1×10-2Ωcm程度であり、抵抗が高いためにプラズマ放電が安定せず、DCスパッタリングを行うことが困難なだけでなく、スパッタ時に割れが発生しないターゲットを得られなかった。
【0003】
アモルファス酸化物膜形成を目的としたスパッタリングターゲットが知られている(特許文献1)。この場合、ホモロガス相(InGa(ZnO)m;mは6未満の自然数)の結晶構造を示す焼結体であって、本発明とは主成分が異なる。また、ターゲットの比抵抗が1×10-2Ωcm以上と高く、生産性の高いDCスパッタリング法を用いるには適さない。また、特許文献1のホモロガス構造InGaO3(ZnO)m (mは1〜4の自然数)で表される化合物単相から成るスパッタリングターゲットは、本発明とは焼結体の構成化合物が異なり、化合物単相の焼結体を得るにはその製造工程が複雑であり、かつ焼成時間が長いために、生産性が高くコストが低いターゲット焼結体を得られなかった。また、このホモロガス構造InGaO3(ZnO)mのみから成る(単相)焼結体の生成には焼成条件が制限される。さらに、このホモロガス構造InGaO3(ZnO)m(mは1〜4の自然数)のバルク抵抗は通常102〜103Ωcmと高く、焼成後に還元処理を行うことでバルク抵抗を低減させているが、還元後のバルク抵抗はせいぜい1×10-1Ωcm程度であり、その製造工程の多さに比べバルク抵抗の低減効果は小さかった。さらに、このホモロガス構造InGaO3(ZnO)mで表される化合物のみの焼結体からなるスパッタリングターゲットは、スパッタリング成膜中に異常成長して異常放電を起こし、得られる膜に不良が発生した。
さらに、液晶ディスプレイ、ELディスプレイおよび太陽電池に用いられる電極に用いられる酸化物焼結体として、In2Ga2ZnO7もしくは酸素欠損dを持つIn2Ga2ZnO7-dで表される化合物が知られている(特許文献2及び3)。この場合、In2Ga2ZnO7で表される化合物に対して酸素欠損量dを導入することで導電性を持たせているが、本発明とは異なる結晶構造を持つ焼結体の発明であり、酸化物焼結体の製造過程において、還元工程が短かく、かつ焼成時間を長くすることができず、生産性を高くかつコストを低くすることができなかった。
【0004】
加えて、1350℃におけるIn2O3-Ga2ZnO4-ZnO系の相図に関して君塚らの報告がある(非特許文献1))が、本発明とは異なる結晶構造を持つ焼結体の発明であり、酸化物焼結体の製造過程において、還元工程が短かく、かつ焼成時間を長くすることができず、生産性を高くかつコストを低くすることができなかった。
【0005】
さらに、薄膜トランジスタ(TFT)等の電界効果型トランジスタは、半導体メモリ集積回路の単位電子素子、高周波信号増幅素子、液晶駆動用素子等として広く用いられており、現在、最も多く実用されている電子デバイスである。
なかでも、近年における表示装置のめざましい発展に伴い、液晶表示装置(LCD)、エレクトロルミネッセンス表示装置(EL)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)等の各種の表示装置において、表示素子に駆動電圧を印加して表示装置を駆動させるスイッチング素子として、TFTが多用されている。
電界効果型トランジスタの主要部材である半導体層の材料としては、シリコン半導体化合物が最も広く用いられている。一般に、高速動作が必要な高周波増幅素子や集積回路用素子等には、シリコン単結晶が用いられている。一方、液晶駆動用素子等には、大面積化の要求から非晶性シリコン半導体(アモルファスシリコン)が用いられている。
例えば、TFTとして、ガラス等の基板上にゲ−ト電極、ゲ−ト絶縁層、水素化アモルファスシリコン(a−Si:H)等の半導体層、ソ−ス及びドレイン電極を積層した逆スタガ構造のものがある。このTFTは、イメ−ジセンサを始め、大面積デバイスの分野において、アクティブマトリスク型の液晶ディスプレイに代表されるフラットパネルディスプレイ等の駆動素子として用いられている。これらの用途では、従来アモルファスシリコンを用いたものでも高機能化に伴い作動の高速化が求められている。
現在、表示装置を駆動させるスイッチング素子としては、シリコン系の半導体膜を用いた素子が主流を占めているが、それは、シリコン薄膜の安定性、加工性の良さの他、スイッチング速度が速い等、種々の性能が良好なためである。そして、このようなシリコン系薄膜は、一般に化学蒸気析出法(CVD)法により製造されている。
【0006】
ところで、結晶性のシリコン系薄膜は、結晶化を図る際に、例えば、800℃以上の高温が必要となり、ガラス基板上や有機物基板上への構成が困難である。このため、シリコンウェハーや石英等の耐熱性の高い高価な基板上にしか形成できず、また、製造に際して多大なエネルギーと工程数を要する等の問題があった。
また、結晶性のシリコン系薄膜は、通常TFTの素子構成がトップゲート構成に限定されるためマスク枚数の削減等コストダウンが困難であった。
一方、アモルファスシリコンの薄膜は、比較的低温で形成できるものの、結晶性のものに比べてスイッチング速度が遅いため、表示装置を駆動するスイッチング素子として使用したときに、高速な動画の表示に追従できない場合がある。
具体的に、解像度がVGAである液晶テレビでは、移動度が0.5〜1cm2/Vsのアモルファスシリコンが使用可能であったが、解像度がSXGA、UXGA、QXGAあるいはそれ以上になると2cm2/Vs以上の移動度が要求される。また、画質を向上させるため駆動周波数を上げるとさらに高い移動度が必要となる。
また、有機ELディスプレイでは電流駆動となるため、DCストレスにより特性が変化するアモルファスシリコンを使用すると長時間の使用により画質が低下するという問題があった。
その他、これらの用途に結晶シリコンを使用すると、大面積に対応が困難であったり、高温の熱処理が必要なため製造コストが高くなるという問題があった。
【0007】
このような状況下、近年にあっては、シリコン系半導体薄膜よりも安定性が優れるものとして、酸化物を用いた酸化物半導体薄膜が注目されている。
例えば、半導体層として酸化亜鉛を使用したTFTが公開されている。
しかしながら、この半導体層では移動度が1cm2/V・sec程度と低く、オンオフ比も小さかった。その上、漏れ電流が発生しやすいため、工業的には実用化が困難であった。また、酸化亜鉛を用いた結晶質を含む酸化物半導体については、多数の検討がなされているが、工業的に一般に行われているスパッタリング法で成膜した場合には、次のような問題があった。
即ち、移動度が低い、オンオフ比が低い、漏れ電流が大きい、ピンチオフが不明瞭、ノーマリーオンになりやすい等、TFTの性能が低くなるおそれがあった。また、耐薬品性が劣るため、ウェットエッチングが難しい等製造プロセスや使用環境の制限があった。さらに、性能を上げるためには高い圧力で成膜する必要があり成膜速度が遅かったり、700℃以上の高温処理が必要である等工業化に問題もあった。また、ボトムゲート構成での移動度等のTFT性能が低く、性能を上げるにはトップゲート構成で膜厚を50nm以上にする必要がある等TFT素子構成上の制限もあった。
【0008】
このような問題を解決するために酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化ガリウムからなる非晶質の酸化物半導体膜を作製し、薄膜トランジスタを駆動させる方法が検討されている。
例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化ガリウムを含み、ホモロガス結晶構造を示す焼結体からなるターゲットが公開されている(特許文献4及び5)。しかし、ホモロガス結晶構造は、熱安定性が悪く焼結温度や焼結時間のわずかな変化により結晶形態が変化してしまう。従って、ターゲットの密度、バルク抵抗、抗折強度、表面粗さなどの特性が一定しないという問題点があった。さらに、薄膜トランジスタ作製用のターゲットとして用いると成膜開始時と開始終了時ではトランジスタの特性が大きく変化してしまうというホモロガス結晶構造特有の問題点があった。
また、Gaを2.2〜40原子%、Inを50〜90原子%含む相対密度95%以上の酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化ガリウムからなるターゲットが公開されている(特許文献6)。しかし、Inが50原子%未満となった場合の検討はなされていなかった。
【0009】
一方、In2O3(酸化インジウム)は、希土類酸化物C型の結晶構造をとり、希土類酸化物C型の結晶構造による高い移動度を持つことが知られている。しかし、焼結時に酸素を含みやすく低抵抗な焼結体を作ることが困難であった。In2O3(酸化インジウム)からなる、またはIn2O3(酸化インジウム)を多量に含むスパッタリングターゲットはノジュール(スパッタリングターゲット表面に生じる塊)が発生しやすく、パーティクル(スパッタリングの際に生じるスパッタ材料の発塵)が多く、スパッタリングの際に異常放電が発生しやすいという問題があった。また、In2O3(酸化インジウム)はIn以外の原子を含むと、β-GaInO3、β-Ga2O3、ZnGa2O4など希土類酸化物C型以外の結晶型が生成することが知られている。特に、Ga2O3を10質量%以上含む(In2O3が90質量%以下になる)と、β-Ga2O3が生成してしまうことが知られていた(非特許文献1)。希土類酸化物C型以外の結晶型、特にβ-Ga2O3が生成すると、クラックが発生しやすい、バルク抵抗が高い、相対密度が低い、抗折強度(JIS R1601)が低い、構造等の各種物理的性質が均一なスパッタリングターゲットが得られにくいなどの問題が起き易く、工業用のスパッタリングターゲットとして適さないものとなっていた。また、半導体膜形成用に用いた場合、不均一な部分が発生し面内均一性が得られないおそれ、歩留りが低下するおそれ、あるいは信頼性(安定性)が低下するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007-73312
【特許文献2】特許3947575
【特許文献3】特許3644647
【特許文献4】特開2000-044236号公報
【特許文献5】特開2007-73312号公報
【特許文献6】特開平10-63429号公報
【特許文献7】特開2007-223849号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】JOURNAL OF THE AMERICAN CERAMIC SOCIETY 1997,80,253-257
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の第1の目的は、スパッタリング法を用いた酸化物薄膜の成膜時の異常放電の発生が抑制されるスパッタリングターゲットを提供することにある。
本発明の第2の目的は、連続して安定な成膜が可能なスパッタリングターゲットを提供することにある。
本発明の第3の目的は、バルク抵抗の低減効果が大きく、かつ生産性が高く低コストな焼結体を用いたスパッタリングターゲットを提供することにある。
本発明の第4の目的は、スパッタリング法を用いて酸化物薄膜を成膜する際に発生する異常放電を抑制し、連続して安定な成膜が可能な酸化物薄膜用スパッタリングターゲットを提供することにある。
本発明の第5の目的は、上記スパッタリングターゲットを用いた酸化物薄膜と酸化物絶縁体層を含む薄膜トランジスタの形成方法を提供することにある。
本発明の第6の目的は、表面にホワイトスポット(スパッタリングターゲット表面上に生じる凹凸などの外観不良)がないスパッタリングターゲットを提供することにある。
本発明の第7の目的は、スパッタリングレートの早いスパッタリングターゲットを提供することにある。
本発明の第8の目的は、スパッタリングによって膜を形成する際に、直流(DC)スパッタリングが可能であり、スパッタ時のアーキング、パーティクル(発塵)、ノジュール発生が少なく、且つ高密度で品質のばらつきが少なく量産性を向上させることのできるスパッタリングターゲットを提供することにある。
本発明の第9の目的は、上記スパッタリングターゲットに特に適した酸化物を提供することにある。
本発明の第10の目的は、上記スパッタリングターゲットを用いて得られる薄膜、好ましくは保護膜、並びに該膜を含む薄膜トランジスタの形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、インジウム(In)、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)を特定の組成比で含有させ特定の条件で焼結することにより、ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、組成式In2Ga2ZnO7表されるYb2Fe3O7構造化合物を含む酸化物からなる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いることにより、スパッタリング法を用いた酸化物薄膜の成膜時の異常放電の発生が抑制され、連続して安定な成膜が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
また、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、スパッタリングターゲットとして用いられる酸化物焼結体として、ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、ホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)m (mは1〜4の自然数)を含む酸化物焼結体を用いることにより、バルク抵抗の低減効果が大きく、かつ、製造工程が簡便であり、スパッタリング法を用いて酸化物半導体膜を成膜する際に発生する異常放電を抑制し、連続して安定な成膜が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
加えて、上述の通り、インジウム(In)のみを金属原子として含むインジウム(In)の酸化物(In2O3(酸化インジウム))の焼結体は、希土類酸化物C型の結晶構造をとる。しかし、In以外の原子を金属原子として含むと、β-GaInO3、β-Ga2O3、ZnGa2O4などの結晶構造が生成し、希土類酸化物C型の結晶構造が失われる。
しかしながら、本発明者らは、酸素を除く目的の酸化物中に含まれる全原子の原子数を100原子%とした場合、インジウム(In)を原子比で49原子%以下しか含まない酸化物であっても、酸化物中の組成比と酸化物の焼結条件との組合せによっては、In以外の金属原子の存在により失われるはずの希土類酸化物C型の結晶構造を再度とり得る事を見出した。また、意外なことに、最終的に得られた酸化物の焼結体を用いると、In含有量が少ないにも係わらず、バルク抵抗が低く、相対密度が高く、抗折強度が高いスパッタリングターゲットを提供できることを見出した。さらに、Inを多量に含むターゲットと比べ、スパッタ時のノジュール発生が極めて少ないターゲットを提供できることを見出した。
このスパッタリングターゲットを用いて薄膜トランジスタを作製すると、高いトランジスタ特性と製造の安定性を示す薄膜トランジスタを得ることができた。
【0014】
本発明は、
〔1〕ビックスバイト構造を有し、酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化亜鉛を含有する酸化物焼結体であって、インジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たす組成範囲にある焼結体に関する。
In/(In+Ga+Zn)<0.75
〔2〕さらに、インジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たすことを特徴とする〔1〕に記載の酸化物焼結体に関する。
0.10<Ga/(In+Ga+Zn)<0.49
〔3〕さらに、インジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たすことを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の酸化物焼結体に関する。
0.05<Zn/(In+Ga+Zn)<0.65
〔4〕ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、組成式In2Ga2ZnO7で表されるYb2Fe3O7構造化合物とを含む酸化物焼結体に関する。
〔5〕前記酸化物焼結体中のインジウム(In)、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たすような組成範囲にある、〔4〕に記載の酸化物焼結体に関する。
0.5<In/(In+Ga)<0.98、0.6<Ga/(Ga+Zn)<0.99
〔6〕前記酸化インジウムと前記In2Ga2ZnO7のInの一部が、正四価以上の金属元素(X)により固溶置換される、〔4〕又は〔5〕に記載の酸化物焼結体に関する。
〔7〕ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、InGaO3(ZnO)m (mは1〜4の自然数)で表される1又は2種類以上のホモロガス構造化合物とを含む酸化物焼結体に関する。
〔8〕前記酸化物焼結体中のインジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たすような組成範囲にある、〔7〕に記載の酸化物焼結体に関する。
0.5<In/(In+Ga)<0.99、0.2<Zn/(In+Ga+Zn)<0.7
〔9〕前記酸化インジウム、又は前記1又は2種類以上のホモロガス構造化合物のInの一部が正四価以上の金属元素により固溶置換される、〔7〕又は〔8〕に記載の酸化物焼結体に関する。
〔10〕酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、In(インジウム)を24〜49原子%含み、希土類酸化物C型の結晶構造を持つことを特徴とする酸化物焼結体に関する。
〔11〕酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、In(インジウム)を24〜49原子%、Ga(ガリウム)を10〜49原子%、Zn(亜鉛)を5〜65原子%含み、希土類酸化物C型の結晶構造を持つことを特徴とする〔10〕の酸化物焼結体に関する。
〔12〕希土類酸化物C型の結晶構造を構成するInの一部が正四価以上の金属元素により固溶置換される〔10〕又は〔11〕に記載の酸化物焼結体に関する。
〔13〕平均結晶粒径が20μm以下の希土類酸化物C型の結晶構造を持つことを特徴とする〔10〕〜〔12〕のいずれか1つに記載の酸化物焼結体に関する。
〔14〕相対密度が80%以上である、〔1〕〜〔13〕のいずれか1つに記載の酸化物焼結体に関する。
〔15〕相対密度が90%以上である、〔1〕〜〔13〕のいずれか1項に記載の酸化物焼結体に関する。
〔16〕バルク抵抗が0.1〜100mΩ・cmの範囲内であることを特徴とする〔1〕〜〔15〕のいずれか1つに記載の酸化物焼結体に関する。
〔17〕バルク抵抗が1×10-2Ωcm以下である、〔1〕〜〔15〕のいずれか1つに記載の酸化物焼結体に関する。
〔18〕格子定数a<10.12Åであることを特徴とする〔1〕〜〔17〕のいずれか1つに記載の酸化物焼結体に関する。
〔19〕酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、正四価以上の金属元素10〜10000ppm含むことを特徴とする〔6〕、〔9〕、〔12〕〜〔18〕のいずれか1つに記載の酸化物焼結体に関する。
〔20〕前記正四価以上の金属元素(X)が原子比で(正四価以上の金属元素(X))/(酸化物焼結体中の全金属元素)=100ppm〜10000ppmの割合で固溶置換される、〔6〕、〔9〕、〔12〕〜〔18〕のいずれか1つに記載の酸化物焼結体に関する。
〔21〕前記正四価以上の金属元素(X)が、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン及びチタンからなる群から選ばれた1種以上の元素である、〔19〕又は〔20〕に記載の酸化物焼結体に関する。
〔22〕〔1〕〜〔21〕のいずれかに記載の酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットに関する。
〔23〕(a) 原料酸化物粉末を混合する工程;
(b)得られた混合物を成形する工程;及び
(c)得られた成形体を1200℃以上1600℃未満で焼成する工程
を含む、〔4〕〜〔9〕又は〔14〕〜〔21〕のいずれか1つに記載の酸化物焼結体の製造法に関する。
〔24〕(a) 原料酸化物粉末を混合する工程;
(b)得られた混合物を成形する工程;及び
(c)得られた成形体を1200℃以上1400℃以下で焼成する工程
を含む、〔4〕〜〔9〕又は〔14〕〜〔21〕のいずれか1項に記載の酸化物焼結体の製造法に関する。
〔25〕(a) 原料酸化物粉末を混合する工程;
(b)得られた混合物を成形する工程;及び
(c)得られた成形体を1450℃以上1600℃未満で焼成する工程
を含む、〔10〕〜〔21〕のいずれか1項に記載の酸化物焼結体の製造法に関する。
〔26〕〔22〕に記載のスパッタリングターゲットを利用したスパッタリング法により成膜してなる酸化物薄膜に関する。
〔27〕〔22〕に記載のスパッタリングターゲットを用い、25〜450℃の成膜温度下でスパッタリングを行う工程を含んだ、電子キャリア濃度が1×1018/cm3未満のアモルファス酸化物薄膜を形成する方法に関する。
〔28〕前記アモルファス酸化物薄膜が、薄膜トランジスタのチャネル層用の薄膜である、〔27〕に記載の方法に関する。
〔29〕アモルファス酸化物薄膜と酸化物絶縁体層とを含む薄膜トランジスタの製造方法であって、
(i)〔27〕に記載の方法で形成されたアモルファス酸化物薄膜を、酸化雰囲気中で熱処理する工程;
及び
(ii)前記熱処理したアモルファス酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程、
を含む、薄膜トランジスタの製造方法に関する。
〔30〕〔29〕に記載の薄膜トランジスタの製造方法により製造した薄膜トランジスタを備えた半導体装置に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、IGZOスパッタリングターゲットの有する特性を保持したまま、バルク抵抗が低く、相対密度が高いスパッタリングターゲットを提供することができる。また本発明品を用いれば、スパッタリング法により酸化物薄膜を成膜する際に発生する異常放電を抑制し、連続して安定的に成膜可能なスパッタリングターゲットを提供できる。
本発明により、焼結時間、組成などを調整して、ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと組成式In2Ga2ZnO7表されるYb2Fe3O7構造化合物を含む酸化物焼結体を生成させることができる。
本発明のスパッタリングターゲットを半導体の製造に用いることにより、優れた酸化物半導体やTFTを作製できる。
また、本発明は、バルク抵抗の低減効果が大きく、かつ、生産性が高く低コストであり、スパッタリング法を用いて酸化物薄膜を成膜する際に発生する異常放電を抑制し、連続して安定な成膜を可能とし、さらに、従来のIn、GaおよびZnの酸化物からなるスパッタリングターゲットよりも広い組成範囲の酸化物半導体膜を成膜することができるスパッタリングターゲットを提供する。
本発明により、特定の製造方法、あるいは特定の製造条件(焼結温度、焼結時間)でビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)m (mは1〜4の自然数)を含む酸化物焼結体を生成させることができる。
本発明のスパッタリングターゲットを半導体の製造に用いることにより、優れた酸化物半導体やTFTを作製できる。
さらに、本発明は、目的の酸化物中に含まれる酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、49原子%以下のインジウム(In)と、その他の金属原子を含む酸化物であって、希土類酸化物C型の結晶構造を示す酸化物を提供するものである。本発明の酸化物は、In含有量が少ないにもかかわらず、バルク抵抗が低く、相対密度が高く、抗折強度が高いスパッタリングターゲットを提供できるものである。さらに、Inを多量に含むターゲットと比べ、本発明の酸化物は、スパッタ時のノジュール発生が極めて少ないターゲットを提供できる。
このスパッタリングターゲットを用いて薄膜トランジスタを作製すると、高いトランジスタ特性と製造の安定性を示す薄膜トランジスタが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1の酸化物のX線回折のチャートである(IZO+Ga 試料(1) 1400℃ (実施例1))。
【図2】実施例2の酸化物のX線回折のチャートである(IZO+Ga 試料(4) 1500℃ ((実施例2))。
【図3】実施例3の酸化物のX線回折のチャートである(IZO+Ga 試料(5) 1500℃(実施例3))。
【図4】比較例1の酸化物のX線回折のチャートである(IZO+Ga(6) 40at%1400℃(比較例1))。
【図5】比較例2の酸化物のX線回折のチャートである(IZO+Ga(6) 40at% 1200℃(比較例2))。
【図6】薄層トランジスタの概略図である。
【図7】図7(1)は、薄層トランジスタ(ソース電極)の概略図である。図7(2)は、薄層トランジスタ(ドレイン電極)の概略図である。
【図8】実施例4の酸化物のX線回折のチャートである(Ga 10at% 1400 ℃ 20h 実施例4)。
【図9】実施例5の酸化物のX線回折のチャートである(Ga 13at% 1400℃ 実施例5)。
【図10】実施例6の酸化物のX線回折のチャートである(Ga 13at% 1400℃ 20h 実施例6)。
【図11】実施例7の酸化物のX線回折のチャートである(Ga 20at% 1400℃ 20h 実施例7)。
【図12】実施例8の酸化物のX線回折のチャートである。
【図13】実施例9の酸化物のX線回折のチャートである。
【図14】In2O3-ZnO-Ga2O3焼結体のX線マイクロアナライザによる結晶構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図15】実施例Aの酸化物のX線回折のチャートである。
【図16】実施例Bの酸化物のX線回折のチャートである。
【図17】実施例Cの酸化物のX線回折のチャートである。
【図18】実施例Dの酸化物のX線回折のチャートである。
【図19】比較例Aの酸化物のX線回折のチャートである。
【図20】比較例Bの酸化物のX線回折のチャートである。
【図21】薄膜トランジスタの概略図である。
【図22】薄膜トランジスタの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1)スパッタリングターゲット
本発明のスパッタリングターゲットは、ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、組成式In2Ga2ZnO7で表されるYb2Fe3O7構造化合物を含む酸化物焼結体からからなる。本発明のスパッタリングターゲットに係る酸化物焼結体は、酸化インジウムの酸素欠損によってバルク抵抗が低下するため、In2Ga2ZnO7-dにおいてd=0でもかまわない。つまりビックスバイト構造を有する酸化インジウムとIn2Ga2ZnO7を組み合わせることで酸化物焼結体のバルク抵抗を低くすることができる。
なお、酸化物焼結体とは、酸化物の原料を高温焼成により焼結させたものを言う。
また、別の態様として本発明のスパッタリングターゲットは、インジウム(In)、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の酸化物からなるスパッタリングターゲットであって、ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、ホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)m (mは1〜4の自然数)を含む酸化物焼結体から成ってもよい。
(2)ビックスバイト構造
ビックスバイト構造とは、X線回折JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)データベースの06-0416のピークパターンかあるいは類似(シフトした)パターンを示す構造である。一般にビックスバイト構造の酸化インジウムは酸素欠損を生じやすく、透明かつ電導性の酸化物であることが知られている。本発明に関して酸化インジウムの酸素欠損量は特に規定しないが、酸素欠損があるほうがターゲット焼結体のバルク抵抗が低くなるため好ましい。
ビックスバイト構造を有する酸化インジウムのInの一部が、他の元素で固溶置換されていてもよい。例えば、Inと固溶置換される元素は、GaまたはZnが好ましく、GaまたはZnの一方、又はその両方で固溶置換されていてもよい。Inの元素の一部を他の元素と固溶置換することにより、酸化物に電子を注入することができる。Inの元素の一部を他の元素で固溶置換されていることは、X線回折から計算した格子定数(格子間距離)の変化や高輝度放射光を用いた構造解析によって確認できる。具体的には、X線回折パターンのピークシフトから、結晶構造の軸長変化により判断することができる。また、固溶置換により軸長が短くなった場合は、X線回折パターンのピークが高角度側にシフトする。さらに、格子定数はリートベルト解析を用いて求める。
【0018】
(3)ホモロガス構造化合物
ホモロガス構造化合物とは、ホモロガス相を有する化合物である。ホモロガス相(同族化物列相)とは、例えばnを自然数としてTinO2n-1の組成式で表されるマグネリ相で、こうした相ではnが連続的に変化する一群の化合物群がある。ホモロガス構造化合物の具体例としては、In2O3(ZnO)m(mは2〜20の自然数)が挙げられる。本発明に関するホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)m(mは自然数)に関してはm=1〜20までの化合物の存在が確認されている(『固体物理』Vol.28 No.5 p317 (1993))。m=1の場合、nGaO3(ZnO)は、JCPDSデータベースの38-1104のピークパターンかあるいは類似(シフトした)パターンを示す。m=2の場合、InGaO3(ZnO)2はJCPDSデータベースの40-0252のピークパターンかあるいは類似(シフトした)パターンを示す。m=3の場合、InGaO3(ZnO)3は、JCPDSデータベースの40-0253のピークパターンかあるいは類似(シフトした)パターンを示す。さらに、m=4の場合、InGaO3(ZnO)4は、JCPDSデータベースの40-0254のピークパターンかあるいは類似(シフトした)パターンを示す。そして、ホモロガス相の結晶構造は、例えばターゲットを粉砕したパウダーにおけるX線回折パターンが、組成比から想定されるホモロガス相の結晶構造X線回折パターンと一致することから確認できる。具体的には、JCPDS(Joint Committee of Powder Diffraction Standards)カードから得られるホモロガス相の結晶構造X線回折パターンと一致することから確認することができる。
【0019】
本発明においては、ビックスバイト構造を有する酸化インジウムの酸素欠損によってバルク抵抗が低下するため、ホモロガス構造InGaO3(ZnO)m(mは1〜4である自然数)で表される化合物のみからなる焼結体よりも焼結体のバルク抵抗は低くなる。つまりビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、InGaO3(ZnO)m(mは1〜4の自然数)を組み合わせることで、スパッタリングターゲットのバルク抵抗を低くすることができる。
【0020】
(4)酸化物焼結体の物理的性質
(a)組成量比
本発明のスパッタリングターゲットに含まれるInとGaの組成量が原子比で0.5<In/(In+Ga)<0.98であり、GaとZnの組成量が原子比で0.6<Ga/(Ga+Zn)<0.99であることが好ましい。0.5<In/(In+Ga)であると酸化インジウムの割合が高くなり、バルク抵抗が高くなることもなく、(In+Ga)<0.98及び0.6<Ga/(Ga+Zn)<0.99の範囲にあることで、In2Ga2ZnO7で表される化合物を生成できるため好ましい。さらには、0.6<In/(In+Ga)<0.98であれば酸化インジウムの相の割合がより多くなり、ターゲットのバルク抵抗がさらに低くなるためより好ましい。
また、本発明のスパッタリングターゲットに含まれるInの比率は、0.50<In/(In+Ga+Zn)<0.98、好ましくは0.50<In/(In+Ga+Zn)<0.75、より好ましくは0.50<In/(In+Ga+Zn)<0.72であってもよい。また、本発明のスパッタリングターゲットに含まれるGaの比率は、0<Ga/(In+Ga+Zn)<0.99、好ましくは0.15<Ga/(In+Ga+Zn)<0.45、より好ましくは0.19<Ga/(In+Ga+Zn)<0.32であってもよい。また、本発明のスパッタリングターゲットに含まれるZnの比率は、0<Zn/(In+Ga+Zn)<0.25、好ましくは0.05<Zn/(In+Ga+Zn)<0.20、より好ましくは0.08<Zn/(In+Ga+Zn)<0.19であってもよい。
ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、組成式In2Ga2ZnO7で表されるYb2Fe3O7構造の割合はX線回折の各相の最大ピークの比によって確認できる。また、ターゲット焼結体内の各元素の原子比はICP(Inductively Coupled Plasma)測定により、各元素の存在量を測定することで求めることができる。
Yb2Fe3O7構造とは、X線回折JCPDSデータベースの38-1097のピークパターンかあるいは類似(シフトした)パターンを示す構造である。In2Ga2ZnO7で表される酸化物に関しては、君塚らが結晶構造を解析した報告がある(K.Kato、I.Kawada、N.Kimizuka and T.Katsura Z.Kristallogr 143巻、278頁 1976年、およびN.Kimizuka、T.Mohri、Y.Matsui and K.Shiratori J.Solid State Chem. 74巻 98頁 1988年)。さらにIn2Ga2ZnO7とZnGa2O4およびZnOの各相の関係を1350℃において調べた結果がある(M.Nakamura、N.Kimizuka and T.Mohri J.Solid State Chem. 93巻 2号 298頁 1991年)。
また、本発明のスパッタリングターゲットに含まれるInとGaの組成量が、原子比で0.5<In/(In+Ga)<0.99であり、一方、ターゲット焼結体内のGaとZnの組成量が原子%で比は0.2<Zn/(In+Ga+Zn)<0.7であることが好ましい。さらに好ましくは0.5<In/(In+Ga)<0.90である。In/(In+Ga)が0.99以上の場合、In2O3(ZnO)m(mは自然数)で表される化合物もしくはこれにGa元素がドープされた化合物が生成されてしまい、本発明は実現されない。
0.5<In/(In+Ga) 又は、Zn/(In+Ga+Zn)<0.7であると酸化インジウムの割合が高くなり、バルク抵抗が高くなることもなく、0.5<In/(In+Ga)<0.99又は、0.2<Zn/(In+Ga+Zn)の組成範囲においてホモロガス構造InGaO3(ZnO)m(m=1〜4である自然数)で表される化合物が生成されるため好ましい。
また、本発明のスパッタリングターゲットに含まれるInの比率は、0.0<In/(In+Ga+Zn)<0.75、好ましくは0.30<In/(In+Ga+Zn)<0.65、より好ましくは0.34<In/(In+Ga+Zn)<0.61であってもよい。また、本発明のスパッタリングターゲットに含まれるGaの比率は、0.0<Ga/(In+Ga+Zn)<0.45、好ましくは0.05<Ga/(In+Ga+Zn)<0.30、より好ましくは0.10<Ga/(In+Ga+Zn)<0.20であってもよい。また、本発明のスパッタリングターゲットに含まれるZnの比率は、0.20<Zn/(In+Ga+Zn)<0.70、好ましくは0.23<Zn/(In+Ga+Zn)<0.60、より好ましくは0.25<Zn/(In+Ga+Zn)<0.55であってもよい。
ビックスバイト構造を有する酸化インジウム及びホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)m (mは1〜4の自然数)の割合はX線回折の各相の最大ピークの比によって確認できる。また、ターゲット焼結体内の各元素の原子比はICP(Inductively Coupled Plasma)測定により、各元素の存在量を測定することで求めることができる。
【0021】
本発明のスパッタリングターゲットに係る酸化物焼結体に含まれるビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、組成式In2Ga2ZnO7で表されるYb2Fe3O7構造化合物のInの一部が正四価以上の金属元素(X)により固溶置換されることが好ましい。正四価の金属元素(X)により固溶置換されると、バルク抵抗がさらに低くなるため好ましい。正四価以上の金属元素(X)としては、例えば、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、チタンから選ばれた1種以上の元素が挙げられる。Inの一部が正四価以上の金属元素(X)で置換されていることは、X線回折から計算した格子間距離の変化や高輝度放射光を用いた構造解析によって確認できる。具体的には、格子定数はリートベルト解析を用いて求める。
【0022】
更に別の態様として、本発明のスパッタリングターゲットに係る酸化物焼結体に含まれる、ビックスバイト構造を有する酸化インジウム、又はInGaO3(ZnO)m (mは1〜4の自然数)で表される1又は2種類以上のホモロガス構造化合物のInの一部が、正四価以上の金属元素により固溶置換されることが好ましい。正四価の金属元素により固溶置換されるとバルク抵抗はさらに低くなるため好ましい。正四価以上の金属元素としては、例えば、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、チタンから選ばれた1種以上の元素が挙げられる。Inの一部が正四価以上の金属元素で固溶置換されていることは、X線回折から計算した格子間距離の変化や高輝度放射光を用いた構造解析によって確認できる。具体的には、格子定数はリートベルト解析を用いて求める。
【0023】
本発明のスパッタリングターゲットが、正四価の金属元素(X)を含む場合、原子比で(正四価以上の金属元素(X))/(酸化物焼結体中の全金属元素)=100ppm〜10000ppmであることが好ましく、200ppm〜5000ppmであることがさらに好ましく、500ppm〜3000ppmであることが特に好ましい。原子比で(正四価以上の金属元素(X))/(酸化物焼結体中の全金属元素)が100ppm以上であると添加効果が大きくバルク抵抗が低減されるため好ましい。また、原子比で(正四価以上の金属元素(X))/(酸化物焼結体中の全金属元素)が10000ppm以下であると、ホモロガス構造InGaO3(ZnO)m(m=1〜4である自然数)で表される化合物が生成され、本発明で得られるスパッタリングターゲットによって成膜した酸化物半導体膜が安定であるため好ましい。
【0024】
(b)相対密度
相対密度とは、加重平均より算出した理論密度に対して相対的に算出した密度である。
各原料の密度の加重平均より算出した密度が理論密度であり、これを100%とする。
本発明のスパッタリングターゲットの相対密度は、80%以上であることが好ましく、さらに好ましくは85%以上であり、特に好ましくは90%以上である。スパッタリングターゲットの相対密度を80%以上とすることにより、スパッタリングターゲットの抗折強度を高くしてスパッタリング中のスパッタリングターゲットの割れを抑制することができ、スパッタリングターゲット表面の黒化による異常放電も抑制できるので好ましい。また、密度が高いほどバルク抵抗が低くなる傾向にあるため、スパッタリングターゲットの相対密度は85%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましい。
相対密度の高い焼結体を得るためには、後述するスパッタリングターゲットの製造方法において、冷間静水水圧(CIP)や熱間静水水圧(HIP)等の処理後に焼成することが好ましい。
スパッタリング成膜中の異常放電の発生回数は、チャンバー内の放電電圧を常時記録し、瞬間的なチャンバー内の放電電圧の変化を観察することにより、異常放電の発生を確認する。
【0025】
(c)バルク抵抗
本発明に係るスパッタリングターゲットに係るターゲット焼結体のバルク抵抗は、好ましくは1×10-2Ωcm以下であり、より好ましくは5×10-3Ωcm以下である。バルク抵抗が1×10-2Ωcm以下であることで、スパッタリング中の異常放電の発生を抑制したり、異物(ノジュール)の発生を抑制できるため好ましい。さらに、バルク抵抗が5×10-3Ωcm以下の場合、工業的に有利なDCマグネトロンスパッタリング法を採用することができるためより好ましい。
本発明のスパッタリングターゲットのバルク抵抗は、四探針法によって測定できる。
なお、本発明の実施例および比較例に関しては、三菱化学株式会社製の低抵抗率計「ロレスターEP」(JIS K 7194に準拠)によって測定した。
また、スパッタリング成膜中の異常放電の発生回数は、チャンバー内の放電電圧を常時記録し、瞬間的なチャンバー内の放電電圧の変化を観察することにより、異常放電の発生を確認する。
【0026】
(5)スパッタリングターゲットの製造方法
本発明のスパッタリングターゲットは、以下の方法により製造されることが適当である。
(a) 原料酸化物粉末を混合する工程;
(b)得られた混合物を成形する工程;及び
(c)得られた成形体を1200℃以上1600℃未満で焼成する工程
【0027】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、以下のような必須の工程及び任意の工程を含んだ方法で製造してもよい。
(a) 少なくとも酸化インジウム、酸化ガリウム及び酸化亜鉛からなる原料酸化物粉末を秤量し、混合し、粉砕する必須工程(混合工程);
(a)'得られた混合物を500〜1200℃で1〜100時間熱処理する任意工程(仮焼工程);
(b) (a)又は(a)'で得られた混合物を成形する必須工程(成形工程);
(c)得られた成形体を1200℃以上1600℃未満で焼結する必須工程(焼結工程);
(d)焼成して得られた焼結体を還元処理する任意工程(還元工程);及び
(e)焼結体をスパッタリング装置への装着に適した形状に加工する任意工程(加工工程)。
【0028】
(a)混合工程
混合工程は、スパッタリングターゲットの原料である金属酸化物を混合する必須の工程である。
原料としては、上述したインジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、亜鉛元素(Zn)及び正四価以上の金属元素(X)等の金属酸化物が挙げられる。
ここで、原料として使用する亜鉛化合物粉末の平均粒径が、インジウム化合物粉末の平均粒径よりも小さいことが好ましい。原料の金属酸化物粉末の平均粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。インジウムの化合物としては、例えば、酸化インジウム、水酸化インジウム等が挙げられる。ガリウムの化合物としては、酸化ガリウム等が挙げられる。亜鉛の化合物としては、例えば、酸化亜鉛、水酸化亜鉛等が挙げられる。各々の化合物として、焼結のしやすさ、副生成物の発生の少なさから、酸化物が好ましい。
上記各原料は、公知の混合及び粉砕手段により混合及び粉砕する。各原料の純度は、通常99.9質量%(3N)以上、好ましくは99.99質量%(4N)以上、さらに好ましくは99.995質量%以上、特に好ましくは99.999質量%(5N)以上である。各原料の純度が99.9質量%(3N)以上であれば、Fe、Al、Si、Ni、Cu等の不純物により半導体特性が低下することもなく、信頼性を十分に保持できる。特にNa含有量が100ppm未満であると薄膜トランジスタを作製した際に信頼性が向上するため好ましい。
上記原料酸化物粉末を混合する。混合は、通常の混合粉砕機、例えば、湿式ボールミルやビーズミル又は超音波装置を用いて、均一に混合・粉砕することが好ましい。混合・粉砕後に得られる混合物の平均粒径は、通常10μm以下、好ましくは1〜9μm、特に好ましくは1〜6μmとすることが好ましい。平均粒径が10μm以下であれば、得られるスパッタリングターゲットの密度を高くすることができるので好適である。ここで平均粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。
【0029】
原料酸化物粉末の比表面積は、例えば、2〜10m2/g、好ましくは4〜8m2/gであることが適当である。各原料粉同士の比表面積の差は、5m2/g以下、好ましくは3m2/gとすることが好ましい。比表面積の差が小さいほど、原料粉末を効率的に粉砕・混合することができ、特に、得られる酸化物中に酸化ガリウム粒子が残ることもないので好ましい。さらに、酸化インジウム粉の比表面積と酸化ガリウム粉末の比表面積が、ほぼ同じであることが好ましい。これにより、原料酸化物粉末を特に効率的に粉砕・混合できる。なお、比表面積は、例えば、BET法で求めることができる。 さらに、原料について、比表面積が3〜16m2/gである酸化インジウム粉、酸化ガリウム粉、亜鉛粉あるいは複合酸化物粉を含み、粉体全体の比表面積が3〜16m2/gである混合粉体を原料とすることが好ましい。尚、各酸化物粉末の比表面積が、ほぼ同じである粉末を使用することが好ましい。これにより、より効率的に粉砕混合できる。具体的には、比表面積の比を1/4〜4倍以内にすることが好まく、1/2〜2倍以内が特に好ましい。
【0030】
混合粉体を、例えば、湿式媒体撹拌ミルを使用して混合粉砕する。このとき、粉砕後の比表面積が原料混合粉体の比表面積より1.0〜3.0m2/g増加する程度か、又は粉砕後の平均メジアン径(d50)が0.6〜1μmとなる程度に粉砕することが好ましい。このように調整した原料粉を使用することにより、仮焼工程を全く必要とせずに、高密度の酸化物焼結体を得ることができる。また、還元工程も不要となる。
尚、上記原料混合粉体の比表面積の増加分が1.0m2/g以上又は粉砕後の原料混合粉の平均メジアン径が1μm以下であれば、焼結密度が十分に大きくなるので好ましい。
一方、原料混合粉体の比表面積の増加分が3.0m2/g以下又は粉砕後の平均メジアン径が0.6μm以上であれば、粉砕時の粉砕器機等からのコンタミ(不純物混入量)が増加することもないので好適である。
ここで、各粉体の比表面積はBET法で測定した値である。各粉体の粒度分布のメジアン径は、粒度分布計で測定した値である。これらの値は、粉体を乾式粉砕法、湿式粉砕法等により粉砕することにより調整できる。
混合粉砕の際、ポリビニールアルコール(PVA)を1容積%程度添加した水、又はエタノール等を媒体として用いてもよい。
これらの原料酸化物粉末のメジアン径(d50)は、例えば、0.5〜20μm、好ましくは1〜10μmとすることが好ましい。原料酸化物粉末のメジアン径(d50)が0.5μm以上であれば、焼結体中に空胞ができ焼結密度が低下することを防ぐことができ、20μm以下であれば、焼結体中の粒径の増大が防げるので好ましい。
【0031】
(a)'仮焼工程
さらに、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、(a)工程の後に、(a)'得られた混合物を仮焼する工程を含んでもよい。
仮焼工程では、上記(a)工程で得られた混合物が仮焼される。仮焼を行うことにより、最終的に得られるスパッタリングターゲットの密度を上げることが容易になる。
仮焼工程においては、500〜1200℃、好ましくは、800〜1200℃で、1〜100時間、好ましくは2〜50時間の条件で、(a)工程で得られた混合物を熱処理することが好ましい。500℃以上かつ1時間以上の熱処理条件であれば、インジウム化合物や亜鉛化合物、錫化合物の熱分解が十分に行われるので好ましい。熱処理条件が、1200℃以下及び100時間以下であれば、粒子が粗大化することもないので好適である。
さらに、ここで得られた仮焼後の混合物を、続く成形工程及び焼成工程の前に粉砕することが好ましい。この仮焼後の混合物の粉砕は、ボールミル、ロールミル、パールミル、ジェットミル等を用いて行うことが適当である。粉砕後に得られた仮焼後の混合物の平均粒径は、例えば、0.01〜3.0μm、好ましくは0.1〜2.0μmであることが適当である。得られた仮焼後の混合物の平均粒径が0.01μm以上であれば、十分な嵩比重を保持することができ、かつ取り扱いが容易になるので好ましい。また、仮焼後の混合物の平均粒径が1.0μm以下であれば最終的に得られるスパッタリングターゲットの密度を上げることが容易になる。
なお、仮焼後の混合物の平均粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。
【0032】
(b)成形工程
成形工程は、金属酸化物の混合物(上記仮焼工程を設けた場合には仮焼後の混合物)を加圧成形して成形体とする工程である。この工程により、混合物(又は仮焼後の混合物)をスパッタリングターゲットとして好適な形状に成形する。仮焼工程を設けた場合には得られた仮焼後の混合物の微粉末を造粒した後、プレス成形により所望の形状に成形することができる。
本工程で用いることができる成形処理としては、例えば、一軸加圧、金型成形、鋳込み成形、射出成形等も挙げられるが、焼結密度の高い焼結体(スパッタリングターゲット)を得るためには、冷間静水圧(CIP)等で成形するのが好ましい。
尚、成形処理に際しては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸等の成形助剤を用いてもよい。
また、プレス成形は、コールドプレス(Cold Press)法やホットプレス(Hot Press)法等、公知の成形方法を用いることができる。例えば、得られた混合粉を金型に充填し、コールドプレス機にて加圧成形する。加圧成形は、例えば、常温(25℃)下、100〜100000kg/cm2、好ましくは、500〜10000kg/cm2の圧力で行われる。さらに、温度プロファイルは、1000℃までの昇温速度を30℃/時間以上、冷却時の降温速度を30℃/時間以上とするのが好ましい。昇温速度が30℃/時間以上であれば酸化物の分解が進むこともなく、ピンホールも発生しない。また冷却時の降温速度が30℃/時間以上であればIn,Gaの組成比が変化するおそれもない。
【0033】
上記コールドプレス法とホットプレス法について詳説する。コールドプレス法では、混合粉を成形型に充填して成形体を作製し、焼結させる。ホットプレス法では、混合粉を成形型内で直接焼結させる。
乾式法のコールドプレス(Cold Press)法としては、粉砕工程後の原料をスプレードライヤー等で乾燥した後、成形する。成形は公知の方法、例えば、加圧成形、冷間静水圧加圧、金型成形、鋳込み成形射出成形が採用できる。焼結密度の高い焼結体(スパッタリングターゲット)を得るためには、冷間静水圧(CIP)等加圧を伴う方法で成形するのが好ましい。尚、成形処理に際しては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸等の成形助剤を用いてもよい。
上記湿式法としては、例えば、濾過式成形法(特開平11−286002号公報参照)を用いることが好ましい。この濾過式成形法は、セラミックス原料スラリーから水分を減圧排水して成形体を得るための非水溶性材料からなる濾過式成形型であって、1個以上の水抜き孔を有する成形用下型と、この成形用下型の上に載置した通水性を有するフィルターと、このフィルターをシールするためのシール材を介して上面側から挟持する成形用型枠からなり、前記成形用下型、成形用型枠、シール材、およびフィルターが各々分解できるように組立てられており、該フィルター面側からのみスラリー中の水分を減圧排水する濾過式成形型を用い、混合粉、イオン交換水と有機添加剤からなるスラリーを調製し、このスラリーを濾過式成形型に注入し、該フィルター面側からのみスラリー中の水分を減圧排水して成形体を作製し、得られたセラミックス成形体を乾燥脱脂後、焼成する。
【0034】
乾式法あるいは湿式法で得られた焼結体のバルク抵抗を酸化物全体として均一化するために、さらに還元工程を含むことが好ましい。適用することができる還元方法としては、例えば、還元性ガスによる方法や真空焼成又は不活性ガスによる還元等が挙げられる。
還元性ガスによる還元処理の場合、水素、メタン、一酸化炭素や、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。不活性ガス中での焼成による還元処理の場合、窒素、アルゴンや、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。尚、還元工程における温度は、通常300〜1200℃、好ましくは500〜800℃である。また、還元処理の時間は、通常0.01〜10時間、好ましくは0.05〜5時間である。
【0035】
得られた酸化物は、適宜加工される。
加工工程は、上記のようにして焼結して得られた焼結体を、さらにスパッタリング装置への装着に適した形状に切削加工し、またバッキングプレート等の装着用治具を取り付けるための、必要に応じて設けられる工程である。スパッタリングターゲットの厚みは通常2〜20mm、好ましくは3〜12mm、特に好ましくは4〜6mmであるので、本発明の酸化物も当該厚みに加工されることが適当である。また、複数の酸化物を一つのバッキングプレート(支持体)に取り付け、実質一つのスパッタリングターゲットとしてもよい。また、表面は200〜10,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが好ましく、400〜5,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが特に好ましい。200番〜10,000番のダイヤモンド砥石を使用すれば、酸化物が割れることもないので好ましい。
【0036】
酸化物をスパッタリングターゲットの形状に加工後、バッキングプレート(支持体)へボンディングすることにより、成膜装置に装着して使用できるスパッタリングターゲットとなる。バッキングプレートは無酸素銅製が好ましい。ボンディングにはインジウム半田を用いることが好ましい。
【0037】
(c)焼結工程
焼結工程は、上記成形工程で得られた成形体を焼結する工程である。
焼結条件としては、酸素ガス雰囲気下、大気圧又は加圧下で、通常、1200〜1600℃、又は1200〜1450℃、より好ましくは1250〜1500℃、さらに好ましくは1200〜1400℃、特に好ましくは1300〜1400℃、より特に好ましくは1300〜1450℃において、通常30分〜360時間、好ましくは8〜180時間、より好ましくは12〜96時間焼成する。焼成温度が1200℃以上であれば、スパッタリングターゲットの密度を上昇しやすくなり、適度な時間内に焼結を行うことができる。1600℃以下であれば、成分が気化することもなく、亜鉛が蒸発し焼結体の組成が変化する及び/またはターゲット中にボイド(空隙)が発生するおそれもないので好適である。さらに、燃焼時間が30分以上であれば、スパッタリングターゲットの密度が上昇しやすくなり、360時間以下であれば、適度な時間内に焼結を行うことができる。また、酸素ガス雰囲気又は酸素ガス雰囲気で焼成を行うことにより、スパッタリングターゲットの密度が上昇しやすくなり、スパッタリング時の異常放電の発生を抑制できるので好ましい。酸素ガス雰囲気は、酸素濃度が、例えば、10〜1000%である雰囲気を言う。焼成は大気圧下又は加圧下で行うことができる。加圧は、例えば、98000〜1000000Pa、好ましくは、100000〜500000Paであることが適当である。
また、焼成時の昇温速度は、通常20℃/分以下、好ましくは8℃/分以下、より好ましくは4℃/分以下、さらに好ましくは2℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。20℃/分以下であれば、ホモロガス結晶の形成を十分に行うことができる。
焼結時の温度プロファイルは、600℃までの昇温速度を0.1℃/分以上、好ましくは0.5〜10℃/分、800℃までの昇温速度を0.1℃/分以上、好ましくは0.5〜10℃/分、1500℃までの昇温速度を0.5℃/分以上、好ましくは1〜10 ℃/分であることが適当である。また、冷却時の降温速度は、0.1℃/分以上、好ましくは、0.5〜10℃/分とするのが適当である。昇温速度が1℃/分以上であれば酸化物の分解が進むこともなく、ピンホールも発生しない。また冷却時の降温速度が0.5℃/分以上であればIn,Gaの組成比が変化するおそれもない。
【0038】
(d)還元工程
還元工程は、上記焼成工程で得られた焼結体のバルク抵抗をターゲット全体として均一化するために還元処理を行う任意工程である。
本工程で適用することができる還元方法としては、例えば、還元性ガスを循環させる方法、真空中で焼成する方法、及び不活性ガス中で焼成する方法等が挙げられる。
還元性ガスとしては、例えば、水素、メタン、一酸化炭素、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
尚、還元処理時の温度は、通常100〜800℃、好ましくは200〜800℃である。また、還元処理の時間は、通常0.01〜10時間、好ましくは0.01〜5時間、より好ましくは0.05〜5時間、さらに好ましくは0.05〜1時間である。
還元ガスや不活性ガスの圧力は、例えば、9800〜1000000Pa、好ましくは、98000〜500000Paである。真空中で焼成する場合、真空とは、具体的には、10-1〜10-8Pa、好ましくは10-2〜10-5Pa程度の真空を言い、残存ガスはアルゴンや窒素などである。
【0039】
(e)加工工程
加工工程は、上記のようにして焼結して得られた焼結体を、さらにスパッタリング装置への装着に適した形状に切削加工し、またバッキングプレート等の装着用治具を取り付けるための、必要に応じて設けられる工程である。
スパッタリングターゲットの厚みは、通常2〜20mm、好ましくは3〜12mm、特に好ましくは4〜6mmである。スパッタリングターゲットの表面は200〜10,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが好ましく、400〜5,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが特に好ましい。200番〜10,000番のダイヤモンド砥石を使用すれば、スパッタリングターゲットが割れることもないので好ましい。また、複数のスパッタリングターゲットを一つのバッキングプレートに取り付け、実質一つのターゲットとしてもよい。バッキングプレートとしては、例えば、無酸素銅製のものが挙げられる。
【0040】
(6)薄膜の形成方法
(6-1) アモルファス酸化物薄膜の形成
本発明のスパッタリングターゲットを用い、スパッタリング法により、基板上にアモルファス酸化物薄膜を形成することができる。具体的には、
(i)本発明のスパッタリングターゲットを用い、25〜450℃の成膜温度下でスパッタリングを行う工程を含む。これにより、電子キャリアー濃度が1×1018/cm3未満のアモルファス酸化物薄膜を形成することができる。
スパッタリング法としては、DC(直流)スパッタ法、AC(交流)スパッタ法、RF(高周波) マグネトロンスパッタ法、エレクトロンビーム蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられるが、DC(直流)スパッタ法及びRF(高周波)スパッタ法が好ましくは利用される。
スパッタ時の成膜温度は、スパッタ法によって異なるが、例えば、25〜450℃、好ましくは、30〜250℃、より好ましくは、35〜150℃であることが適当である。ここで、成膜温度とは、薄膜を形成する基板の温度である。
スパッタ時のスパッタリングチャンバー内の圧力は、スパッタ法によって異なるが、例えば、DC(直流)スパッタ法の場合は、0.1〜2.0MPa、好ましくは、0.3〜0.8MPaであり、RF(高周波)スパッタ法の場合は0.1〜2.0MPa、好ましくは、0.3〜0.8MPaであることが適当である。
スパッタ時に投入される電力出力は、スパッタ法によって異なるが、例えば、DC(直流)スパッタ法の場合は、10〜1000W、好ましくは、100〜300Wであり、RF(高周波)スパッタ法の場合は、10〜1000W、好ましくは、50〜250Wであることが適当である。
RF(高周波)スパッタ法の場合の電源周波数は、例えば、50Hz〜50MHz、好ましくは、10k〜20MHzであることが適当である。
スパッタ時のキャリアーガスとしては、スパッタ法によって異なるが、例えば、酸素、ヘリウム、アルゴン、キセノン、クリプトンが挙げられる。好ましくは、アルゴンと酸素の混合ガスである。アルゴンと酸素の混合ガスを使用する場合、アルゴン:酸素の流量比は、Ar:O2=100〜80:0〜20、好ましくは、99.5〜90:0.5〜10であることが適当である。
【0041】
スパッタリングに先立ち、スパッタリングターゲットを支持体に接着(ボンディング)する。これは、ターゲットをスパッタリング装置に固定するためである。
ボンディングしたスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行い、基板上にIn及びGa及びZnの酸化物を主成分とするアモルファス酸化物薄膜を得る。ここで、「主成分とする」とは、酸素を除く元素の原子比の和を100%として、In及びGa及びZnの各元素を原子比で50%以上含むことを意味する。
基板としては、ガラス、樹脂(PET、PES等)等を用いることができる。
得られたアモルファス酸化物薄膜の膜厚は、成膜時間やスパッタ法によっても異なるが、例えば、5〜300nm、好ましくは、10〜90nmであることが適当である。
また、得られたアモルファス酸化物薄膜の電子キャリアー濃度は、例えば、1×1018/cm3未満、好ましくは、5×1017〜1×1012/cm3であることが適当である。
さらに、得られたアモルファス酸化物薄膜の相対密度は、6.0g/cm3以上、好ましくは、6.1〜 7.2g/cm3であることが適当である。このような高密度を備えていれば、得られた酸化物薄膜においても、ノジュールやパーティクルの発生が少なく、膜特性に優れた酸化物薄膜を得ることができる。
【0042】
(6-2) 薄膜トランジスタの製造
さらに、本発明のアモルファス酸化物薄膜と酸化物絶縁体層とを含む薄膜トランジスタを製造する場合は、
(i)本発明のアモルファス酸化物薄膜を、酸化雰囲気中で熱処理する工程;及び
(ii)前記熱処理したアモルファス酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程、
を含むことが適当である。
ここで、熱処理は、例えば、100〜450℃、好ましくは150〜350℃で0.1〜10時間、好ましくは、0.5〜2時間行うことが、半導体特性を安定化させる観点から好適である。
熱処理したアモルファス酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する方法としては、例えば、CVD法やスパッタ法が挙げられる。
ここで、酸化物絶縁体層としては、例えば、SiO2,SiNx,Al2O3,Ta2O5,TiO2,MgO,ZrO2,CeO2,K2O,Li2O,Na2O,Rb2O,Sc2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3,PbTi3,BaTa2O6,SrTiO3,AlN等を用いることができる。これらのなかでも、SiO2,SiNx,Al2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3を用いるのが好ましく、より好ましくはSiO2,SiNx,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3であり、特に好ましくはSiO2,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3等の酸化物である。これらの酸化物の酸素数は、必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば、SiO2でもSiOxでもよい)。また、SiNxは水素元素を含んでいても良い。
【0043】
異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。
また、結晶質、多結晶質、非晶質のいずれであってもよいが、工業的に製造しやすい多結晶質か、非晶質であるのが好ましい。しかし、保護層が非晶質であることが特に好ましい。非晶質膜であれば界面の平滑性が良好となり、高いキャリアー移動度を維持することができ、閾値電圧やS値が大きくなりすぎることもない。
なお、ここでS値(Swing Factor)とは、オフ状態からゲート電圧を増加させた際に、オフ状態からオン状態にかけてドレイン電流が急峻に立ち上がるが、この急峻さを示す値である。下記式で定義されるように、ドレイン電流が1桁(10倍)上昇するときのゲート電圧の増分をS値とする。
S値=dVg/dlog(Ids)
S値が小さいほど急峻な立ち上がりとなる(「薄膜トランジスタ技術のすべて」、鵜飼育弘著、2007年刊、工業調査会)。S値が大きいと、オンからオフに切り替える際に高いゲート電圧をかける必要があり、消費電力が大きくなるおそれがある。
また、S値は0.8V/dec以下が好ましく、0.3V/dec以下がより好ましく、0.25V/dec以下がさらに好ましく、0.2V/dec以下が特に好ましい。0.8V/decより大きいと駆動電圧が大きくなり消費電力が大きくなるおそれがある。特に、有機ELディスプレイで用いる場合は、直流駆動のためS値を0.3V/dec以下にすると消費電力を大幅に低減できるため好ましい。
【0044】
(6-3)薄膜トランジスタの具体的製造方法
ここで、薄膜トランジスタを例にとり、図6を参照しながら説明する。
ガラス基板等の基板(1)を準備し、基板上に電子ビーム蒸着法により、厚さ1〜100nmのTi(密着層)、厚さ10〜300nmのAu(接続層)及び厚さ1〜100nmのTi(密着層)をこの順で積層する。積層した膜をフォトリソグラフィー法とリフトオフ法を用いることにより、ゲート電極(2)を形成する。
さらにその上に、厚さ50〜500nmのSiO2膜をTEOS−CVD法により成膜し、ゲート絶縁膜(3)を形成する。なお、ゲート絶縁膜(3)の成膜はスパッタ法でもよいが、TEOS−CVD法やPECVD法などのCVD法が好ましい。
【0045】
続いて、本発明の酸化物からなるスパッタリングターゲットをターゲットとして用い、RFスパッタ法により、チャネル層(4)として厚さ5〜300nmのIn−Ga−Zn−O酸化物からなるアモルファス酸化物薄膜(半導体)を堆積する。得られた薄膜を堆積した素子は、適宜所望の大きさに切り取った後、大気圧下、100〜450℃、6〜600分熱処理を行う。得られた素子を、さらに厚さ1〜100nmのTi(密着層)、厚さ10〜300nmのAu(接続層)及び厚さ1〜100nmのTi(密着層)をこの順で積層し、フォトリソグラフィー法とリフトオフ法により、ソース電極(5)およびドレイン電極(6)を形成する。さらにその上にスパッタ法により保護膜(7)としてSiO2膜を50〜500nm堆積する。なお、保護膜(7)の成膜方法はCVD法でもよい。なお、工程を変更し、図7 (1)(2)のような保護膜(エッチングストッパー)の製造を、上記ソース電極及びドレイン電極の製造に先立って行ってもよい。
【0046】
(7)酸化物
別の態様として、本発明の酸化物は、酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、In(インジウム)を24〜49原子%含み、希土類酸化物C型の結晶構造を持っていてもよい。以下、別の態様としての本発明の酸化物を詳細に説明する。
【0047】
(7-1)結晶構造
希土類酸化物C型の結晶構造(ビックスバイト構造とも言う)とは、(Th7,Ia3)の空間群を持つ立方晶系で、Mn2O3(I)型酸化物結晶構造とも言う。X線回折でJCPDSカードNo.6−0416のパターンを示す。Sc2O3、Y2O3、Tl2O3、Pu2O3、Am2O3、Cm2O3、In2O3、ITO(In2O3に10wt%程度以下のSnをドープしたもの)がこの結晶構造を示す(日本学術振興会透明酸化物光電子材料第166委員会編「透明導電膜の技術 改訂2版」オーム社、2006年)。希土類酸化物C型の結晶構造を持つことは、X線回折でJCPDSカードNo.6−0416のパターンを示すことから確認できる。
希土類酸化物C型の結晶構造は、MX2(M:陽イオン、X:陰イオン)で示される化合物の結晶構造の一つである蛍石型結晶構造から、化学量論比がM2X3のため陰イオンの四つに一つが抜けている構造となる。陽イオンに対して陰イオン(通常酸化物の場合は、酸素)が6配位し、残りの二つの陰イオンサイトは空となっている(空となっている陰イオンサイトは準イオンサイトとも呼ばれる)(上記「透明導電膜の技術 改訂2版」参照)。陽イオンに酸素(陰イオン)が6配位した希土類酸化物C型の結晶構造は、酸素八面体稜共有構造を有している。酸素八面体稜共有構造を有していると、陽イオンであるp金属のns軌道が互いに重なり合って電子の伝導路を形成し、有効質量が小さくなり高い移動度を示す。ここで、移動度はホール効果あるいはTOF(Time of flight)を用いて測定するか、電界効果トランジスタを作製してその電界効果移動度を測定することによって求められる。
【0048】
希土類酸化物C型の結晶構造は、X線回折でJCPDSカードNo.6−0416のパターンを示していれば、化学量論比がM2X3からずれていてもよい。すなわち、M2O3-dとなっていてもよい。酸素欠損量d が3×10-5〜3×10-1の範囲であることが好ましい。dは終結条件や、焼結時、昇温時、降温時の雰囲気などで調整することができる。また、焼結後に還元処理をすることなどによって調整することもできる。酸素欠損量とは、1 モルの酸化物結晶中に含まれる酸素イオンの数を化学量論量の酸素イオンの数から差し引いた値をモル単位で示した値である。酸化物結晶中に含まれる酸素イオンの数は、例えば、酸化物結晶を炭素粉末中で加熱させて生成する二酸化炭素の量を赤外吸収スペクトルで測定することで算出することができる。また、化学量論量の酸素イオンの数は酸化物結晶の質量から算出することができる。
「希土類酸化物C型の結晶構造を持つ」とは、希土類酸化物C型の結晶構造が主成分であることを意味する。主成分であるとは、X線回折で希土類酸化物C型の結晶構造に帰属されるピークの最大強度が他の結晶型に帰属されるピークの最大強度の2倍以上であることを意味する。X線回折で希土類酸化物C型の結晶構造に帰属されるピークの最大強度が他の結晶型に帰属されるピークの最大強度の5倍以上がより好ましく、10倍以上がさらに好ましく、20倍以上が特に好ましい。特に、β−Ga2O3構造が存在すると焼結体の抵抗値が高くなったり抗折強度が低下するおそれがあるので、β−Ga2O3構造はX線回折で確認されない程度であることが好ましい。
【0049】
(7-2)含有元素
別の態様としての本発明の酸化物は、酸素及びインジウム(In)を含む。
本発明の酸化物は、希土類酸化物C型の結晶構造をとるために、上記酸素及びIn(インジウム)以外に、Ga、Zn、Sn、Mg、Al、B、Sc、Y、ランタノイド類(La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)、Zr、Hf、Ge、Si、Ti、Mn、W、Mo、V、Cu、Ni、Co、Fe、Cr及びNbから選ばれた1種若しくは2種類以上の元素を含むことが好ましい。
また、本発明の酸化物は、本発明の酸化物に含まれる酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合、In(インジウム)を24〜49原子%、好ましくは、30〜45原子%、より好ましくは、35〜40原子%含む。なお、上記原子%(原子%)は、本発明の酸化物に含まれる酸素を除く全原子の原子数を100原子%とする他、本発明の酸化物に含まれる酸素及び正四価以上の金属元素を除く全原子の原子数を100原子%としてもよい。
本発明の酸化物は、本発明の酸化物に含まれる酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合、ガリウム(Ga)を、例えば、10〜45原子%、好ましくは、15〜45原子%、より好ましくは、20〜40原子%含むことが適当である。さらに、本発明の酸化物は、本発明の酸化物に含まれる酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合、亜鉛(Zn)を、例えば、5〜65原子%、10〜60原子%、好ましくは、15〜50原子%含むことが適当である。ここで原子%は、原子比を示す単位であり、本発明の酸化物に含まれる酸素を除く全原子の原子数を100原子%とする値である。正四価以上の金属元素(X)を含む場合、発明の酸化物に含まれる酸素及び正四価以上の金属元素(X)を除く全原子の原子数を100原子%とする値である。
インジウム(In)、ガリウム(Ga)及び亜鉛(Zn)の原子比が上記範囲内であれば、ホモロガス構造やβ−Ga2O3などの他の結晶型が析出することもなく、希土類酸化物C型の結晶構造が現れるので好ましい。さらに、
Inが24原子%以上であれば、ターゲットとした時の抗折強度が高くなる、抵抗が低くなり好ましい。
Inが49原子%以下であれば、レアメタルであるInの使用量が削減でき、原料コストを下げることができる。
Gaが10原子%以上であれば、ターゲットとしてトランジスタを作製する際、成膜時の酸素分圧が低くとも均一なトランジスタを作製することができる。
Gaが49原子%以下であれば、Gaの添加による移動度の低下やS値の悪化を防ぐことが出来る。
Znが5原子%以上であれば、ターゲットとして用いた時、大面積でも均一な非晶質膜を成膜することができる。
Znが65原子%以下であれば、抗折強度が低下することを防ぐことが出来、ターゲットとして用いた時、成膜した膜に酸化亜鉛の結晶が生成することが防げる。
本発明の酸化物に含まれるInの比率は、0.24<In/(In+Ga+Zn)<0.49、好ましくは0.30<In/(In+Ga+Zn)<0.45、より好ましくは0.35<In/(In+Ga+Zn)<0.40である。本発明の酸化物に含まれるGaの比率は、0.1<Ga/(In+Ga+Zn)<0.45、好ましくは0.15<Ga/(In+Ga+Zn)<0.45、より好ましくは0.2<Ga/(In+Ga+Zn)<0.4である。本発明の酸化物に含まれるZnの比率は、0.05<Zn/(In+Ga+Zn)<0.65、好ましくは0.10<Zn/(In+Ga+Zn)<0.60、より好ましくは0.15<Zn/(In+Ga+Zn)<0.50である。
【0050】
本発明の酸化物は、特に、インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)及び亜鉛元素(Zn)の各元素の原子比が、下記の式(1)〜(3)の関係を満たすことが好ましい。
0.24≦In/(In+Ga+Zn)≦0.49 (1)
0.10≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.49 (2)
0.05≦Zn/(In+Ga+Zn)≦0.65 (3)
特に好ましくは、下記の式(1)’〜(3)’の関係を満たすことが好ましい。
0.30≦In/(In+Ga+Zn)≦0.45 (1)’
0.15≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.45 (2)’
0.10≦Zn/(In+Ga+Zn)≦0.50 (3)’
【0051】
本発明の酸化物は、さらに、酸素を含まない酸化物全体の原子数に対し、正四価以上の金属元素(X)を10〜10000ppm(原子比)含むことが好ましい。
ここで、正四価以上の金属元素(X)としては、例えば、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、チタンから選ばれた1種以上の元素であることが好ましい。
正四価以上の金属元素(X)の原子数は、酸素を含まない酸化物全体の原子数に対し、10〜10000ppmが好ましく、100〜5000ppmがより好ましく、200〜1000ppmが特に好ましい。10ppm以上であれば、相対密度が向上し、バルク抵抗が低下し、抗折強度が向上するといった効果を十分に発揮でき、また、10000ppm以下であれば、希土類酸化物C型以外の結晶型が析出するおそれもないので好ましい。
【0052】
(7-3)酸化物の物理的性質
(a)格子定数
本発明の酸化物の格子定数(a)は、a<10.12Åであることが好ましく、a<10.11Åであることがより好ましく、a<10.10Åであることが特に好ましい。格子定数は、X線解析の最大ピーク位置などから計算できる。なお、格子定数が小さくなると、X線解析のピーク位置は大きくなる。
格子定数(a)が10.12Å未満であれば、p金属のns軌道が増え、有効質量が小さくなり、移動度が向上することが期待できる。さらに、格子定数a10.12Å未満であれば、他の結晶相が析出することもない。なお、他の結晶相が析出すると、一般的にターゲットの抵抗が高くなる、密度が低下する、抗折強度が低下するなどのおそれがある。
【0053】
(b)平均結晶粒径
本発明の酸化物の希土類酸化物C型の結晶構造の平均結晶粒径は20μm以下が好ましく、10μm以下がさらに好ましく、5μm以下が特に好ましい。
平均結晶粒径が50μm以下であれば、異常放電が発生することもなく、抗折強度が低下することもなく、成膜品の均一性が失われることもない。
ここで、平均結晶粒径とは、好ましくは、X線マイクロアナライザ(EPMA)によって測定される最大粒径の平均である。最大粒径は、例えば、得られた酸化物を樹脂に包埋し、その表面を粒径0.05μmのアルミナ粒子で研磨した後、X線マイクロアナライザ(EPMA)であるJXA−8621MX(日本電子社製)により5、000倍に拡大した焼結体表面の40μm×40μm四方の枠内で観察される希土類酸化物C型の結晶粒子の最大径を5箇所で測定する。各箇所の最大径の最大値(各箇所の一番大きな粒子の最大径)の平均を最大粒径の平均を平均結晶粒径とする。なお、ここでは外接円の直径(粒子が有する一番長い直径)を最大径とする。
焼結体の任意の断面を走査型電子顕微鏡を用いて観察される希土類酸化物C型の結晶相内の結晶粒子の上記最大径が0.4μm以下、好ましくは、0.3μm、より好ましくは、0.2μmであることが好ましい。具体的には、上記最大径は、X線マイクロアナライザ(EPMA)によって測定される最大粒径の平均粒径である。最大粒径は、例えば、得られた焼結体を樹脂に包埋し、その表面を粒径0.05μmのアルミナ粒子で研磨した後、X線マイクロアナライザ(EPMA)であるJXA−8621MX(日本電子社製)により焼結体表面の40μm×40μm四方の枠内で観察される結晶粒子の最大径を5箇所で測定する。図1にIn2O3-ZnO-Ga2O3焼結体参考例のEPMAによる元素マッピング(試料:Ga20%、1500℃、20時間)各箇所の最大径の最大値(各箇所の一番大きな粒子の最大径)の平均を最大粒径の平均粒径とする。なお、ここでは外接円の直径(粒子が有する一番長い直径、例えば図1中の矢印の長さ)を最大径とする。
【0054】
(8)酸化物の製造方法
別の態様としての本発明の酸化物は、以下の方法により製造されてもよい。
(a) インジウム化合物の粉末、亜鉛化合物の粉末、ガリウム化合物の粉末を配合した混合物を得る工程;
(b) 該混合物を加圧成形し成形体を作る工程及び
(c) 該成形体を焼結する工程。
【0055】
工程(a):インジウム化合物の粉末、亜鉛化合物の粉末、ガリウム化合物の粉末を配合した混合物を得る工程
原料の各化合物の粉末(原料粉)の比表面積2〜16m2/gが好ましく、より好ましくは、3〜15m2/gである。尚、各酸化物粉末の比表面積が、ほぼ同じである粉末を使用することが好ましい。これにより、より効率的に粉砕混合できる。具体的には、比表面積の比が1/4〜4倍以内にすることが好まく、1/2〜2倍以内が特に好ましい。
これらの原料粉の平均メジアン径(d50)は、例えば、0.1〜10μm、好ましくは0.15〜0.5μm、より好ましくは、0.2〜3μmとすることが好ましい。原料粉の平均メジアン径(d50)が0.1μm以上であれば、焼結体中にピンホール(空胞)ができ焼結密度が低下することを防ぐことができ、10μm以下であれば、焼結体中の粒径の増大が防げるので好ましい。
ここで、各粉体の比表面積はBET法で測定した値である。平均メジアン径を、原料粉のメジアン径を5回測定して平均化した値である。これらの値は、粉体を乾式粉砕法、湿式粉砕法等により粉砕することにより調整できる。
各原料粉の純度は、通常99.9%(3N)以上、好ましくは99.99%(4N)以上、さらに好ましくは99.995%以上、特に好ましくは99.999%(5N)以上である。各原料粉の純度が99.9%(3N)以上であれば、不純物により半導体特性が低下することもなく、色むらや斑点などの外観上の不良が発生することもなく、高い信頼性が保持できる。
・In-Zn酸化物、In-Ga酸化物、Ga-Zn酸化物などの複合酸化物を原料としてもよい。特にIn-Zn酸化物、あるいはGa-Zn酸化物を用いるとZnの昇華を抑制することが出来るため好ましい。
【0056】
上記原料の粉末の混合・粉砕は、例えば、湿式媒体撹拌ミルを使用して行うことが適当である。混合・粉砕用のミルとしては、例えば、ビースミル、ボールミル、ロールミル、遊星ミル、ジェットミル等を使用できる。ビーズミルを使用した場合は、粉砕媒体(ビーズ)はジルコニア、アルミナ、石英、窒化珪素、ステンレス、ムライト、ガラスビーズ、SiC等が好ましく、その粒径は0.1〜2mmが好ましい。特に好ましくは、固体粒子のジルコニアビーズが挙げられる。媒体と混合することにより、得られる混合粉の比表面積を増加することができる。例えば、粉砕後の比表面積が原料混合粉体の比表面積より1.5〜2.5m2/g、好ましくは、1.8〜2.3m2/g増加する程度か、又は混合・粉砕後に得られる混合物の平均メジアン径が0.6〜1μmとなる程度に混合・粉砕することが好ましい。このように調整した原料粉を使用することにより、仮焼工程を全く必要とせずに、高密度の酸化物焼結体を得ることができる。また、還元工程も不要となる。尚、上記原料混合粉体の比表面積の増加分が1.5m2/g以上又は粉砕後の平均メジアン径が1μm以下であれば、焼結密度が十分に大きくなるので好ましい。一方、原料混合粉体の比表面積の増加分が2.5m2/g以下又は粉砕後の平均メジアン径が0.6μm以上であれば、粉砕時の粉砕器機等からのコンタミ(不純物混入量)が増加することもないので好適である。
上記原料の各粉体の比表面積及び平均メジアン径等の値は、粉体を乾式粉砕法、湿式粉砕法等により粉砕することにより調整できる。
【0057】
工程(a)'
(a)および(b)工程の間に、(a)工程で得られた混合物を仮焼する工程を含めてもよい。
仮焼工程は、(a)工程で得られた混合物を仮焼し、低級酸化物や非酸化成分を十分に酸化させる工程である。仮焼工程においては、500〜1200℃で、1〜100時間の条件で金属酸化物の混合物を熱処理することが好ましい。500℃以上又は1時間以上の熱処理条件であれば、インジウム化合物や亜鉛化合物、錫化合物の熱分解が十分に行われる。一方、1200℃以下又は100時間以下の場合は、粒子の粗大化が起こることもないので好ましい。
従って、特に好ましいのは、800〜1200℃の温度範囲で、2〜50時間の条件で、熱処理(仮焼)することである。
【0058】
工程(b)
上記工程(a)又は任意の工程(a)'の後、得られた混合物を成型して所望のスパッタリングターゲットの形状とする。成形は公知の方法、例えば、加圧成形、冷間静水圧加圧が採用できる。
また、成形は、加圧成形、コールドプレス(Cold Press)法やホットプレス(Hot Press)法がより好ましく、加圧成形が特に好ましい。例えば、得られた混合物を金型に充填し、コールドプレス機にて加圧成形する。加圧成形は、例えば、常温(25℃)下、100〜100000kg/cm2、好ましくは、500〜10000kg/cm2の圧力で行われる。
【0059】
上記コールドプレス法とホットプレス法について詳説する。コールドプレス法では、工程(a)で得られた混合物を成形型に充填して成形体を作製し、焼結させる。ホットプレス法では、混合物を成形型内で直接焼結させる。
乾式法のコールドプレス(Cold Press)法としては、工程(a)の後の原料をスプレードライヤー等で乾燥した後、成形する。成形は公知の方法、例えば、加圧成形、冷間静水圧加圧、金型成形、鋳込み成形射出成形が採用できる。焼結密度の高い焼結体(スパッタリングターゲット)を得るためには、冷間静水圧(CIP)等加圧を伴う方法で成形するのが好ましい。尚、成形処理に際しては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸等の成形助剤を用いてもよい。
上記湿式法としては、例えば、濾過式成形法(特開平11−286002号公報参照)を用いるのが好ましい。この濾過式成形法は、セラミックス原料スラリーから水分を減圧排水して成形体を得るための非水溶性材料からなる濾過式成形型であって、1個以上の水抜き孔を有する成形用下型と、この成形用下型の上に載置した通水性を有するフィルターと、このフィルターをシールするためのシール材を介して上面側から挟持する成形用型枠からなり、前記成形用下型、成形用型枠、シール材、およびフィルターが各々分解できるように組立てられており、該フィルター面側からのみスラリー中の水分を減圧排水する濾過式成形型を用い、工程(a)で得られた混合物とイオン交換水と有機添加剤とからなるスラリーを調製し、このスラリーを濾過式成形型に注入し、該フィルター面側からのみスラリー中の水分を減圧排水して成形体を作製し、得られたセラミックス成形体を乾燥脱脂後、焼成する。
【0060】
工程(c)
次いで、得られた成形物を焼結して焼結体を得る。焼結は、公知の焼結方法を利用できるが、例えば、電気炉等を利用して焼結することが適当である。焼結は、例えば、空気の存在下、好ましくは酸素雰囲気下、より好ましくは、酸素を流通することにより酸素雰囲気中で行うことがよい。更に好ましくは、加圧下にて焼結するのがよい。これにより亜鉛の蒸散を抑えることができ、ボイド(空隙)のない焼結体が得られる。このようにして製造した焼結体は、密度が高いため、使用時におけるノジュールやパーティクルの発生が少ないことから、膜特性に優れた酸化物半導体膜を作製することができる。焼結は、焼結すべき混合粉の表面温度で1360〜1700℃で1〜500時間焼結することが好ましく、1440〜1650℃で1〜100時間焼結することがより好ましく、1450〜1600℃で2〜50時間焼結することがさらに好ましい。1360℃以上であれば、希土類酸化物C型の結晶が十分に生成し、十分に高いバルク密度が期待できる。
また、1700℃以下であれば亜鉛が蒸散して焼結体の組成が変化することもなく、当該蒸散により焼結体中にボイド(空隙)が発生したりすることもない。焼結時間が長ければ、本願の結晶形態を取り得る組成領域が広がる傾向にある。また、焼結は酸素存在下が好ましく、酸素を流通することにより酸素雰囲気中で焼結するか、加圧下にて焼結するのがより好ましい。これにより亜鉛の蒸散を抑えることができ、ボイド(空隙)のない焼結体が得られる。このようにして製造した焼結体は、密度が高いため、使用時におけるノジュールやパーティクルの発生が少ないことから、膜特性に優れた酸化物半導体膜を作製することができる。
焼結時の温度プロファイルは、600℃までの昇温速度を0.1℃/分以上、好ましくは0.5〜10℃/分、800℃までの昇温速度を0.1℃/分以上、好ましくは0.5〜10℃/分、1500℃までの昇温速度を0.5℃/分以上、好ましくは1〜10 ℃/分であることが適当である。また、冷却時の降温速度は、0.1℃/分以上、好ましくは、0.5〜10℃/分とするのが適当である。昇温速度が1℃/分以上であれば酸化物の分解が進むこともなく、ピンホールも発生しない。また冷却時の降温速度が0.5℃/分以上であればIn,Gaの組成比が変化するおそれもない。
【0061】
工程(d)
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、工程(c)の後、焼結体のバルク抵抗をスパッタリングターゲット全体として均一化するために、さらに還元工程(d)を含むことが好ましい。適用することができる還元方法としては、例えば、還元性ガスによる方法や真空焼成又は不活性ガスによる還元等が挙げられる。還元性ガスによる還元処理の場合、水素、メタン、一酸化炭素や、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。不活性ガス中での焼成による還元処理の場合、窒素、アルゴンや、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。尚、還元処理時の温度は、通常100〜800℃、好ましくは200〜800℃である。また、還元処理の時間は、通常0.01〜10時間、好ましくは0.05〜5時間である。また、還元処理により酸素欠損量dを調整することができる。
【0062】
工程(e)
上述のようにして得られたスパッタリングターゲットは、任意に加工されてもよい(加工工程(e))。加工工程(e)は、上記のようにして焼結して得られた焼結体を、さらにスパッタリング装置への装着に適した形状に切削加工し、またバッキングプレート等の装着用治具を取り付けるための、必要に応じて設けられる工程である。スパッタリングターゲットの厚みは通常2〜20mm、好ましくは3〜12mm、特に好ましくは4〜6mmであるので、本発明のスパッタリングターゲットも当該厚みに加工されることが適当である。
また、複数の酸化物を一つのバッキングプレート(支持体)に取り付け、実質一つのスパッタリングターゲットとしてもよい。
【0063】
工程(f)
上述の工程(c)で得た焼結体を、さらに研磨してもよい(研磨工程(f))。上述のようにして得られた焼結体を、例えば、平面研削盤で研削して平均表面粗さRaを5μm以下、好ましくは、4μm、より好ましくは、0.1〜3μmとする。さらに、ターゲットのスパッタ面に鏡面加工を施して、平均表面粗さRaが100nm以下、好ましくは、50nm以下、より好ましくは1〜30nmとしてもよい。ここで、平均表面粗さ(Ra)とは、中心線平均粗さを意味する。この鏡面加工(研磨)は機械的な研磨、化学研磨、メカノケミカル研磨(機械的な研磨と化学研磨の併用)等の、すでに知られている研磨技術を用いることができる。例えば、固定砥粒ポリッシャー(ポリッシュ液:水)で#2000(インチ基準)以上にポリッシングしたり、又は遊離砥粒ラップ(研磨材:SiCペースト等)にてラッピング後、研磨材をダイヤモンドペーストに換えてラッピングすることによって得ることができる。このような研磨方法には特に制限はない。例えば、表面は200〜10,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが好ましく、400〜5,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが特に好ましい。200番〜10,000番のダイヤモンド砥石を使用すれば、スパッタリングターゲットが割れることもないので好ましい。
得られたターゲットをバッキングプレート(支持体)へボンディングすることにより、各種成膜装置に装着して使用できる。成膜法としては、例えば、スパッタリング法、PLD(パルスレーザーディポジション)法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。ここでバッキングプレートは無酸素銅製が好ましい。ボンディングにはインジウム半田を用いることが好ましい。
尚、ターゲットの清浄処理には、エアーブローや流水洗浄等を使用できる。エアーブローで異物を除去する際には、ノズルの向い側から集塵機で吸気を行なうとより有効に除去できる。
エアーブローや流水洗浄の他に、超音波洗浄等を行なうこともできる。超音波洗浄では、周波数25〜300KHzの間で多重発振させて行なう方法が有効である。例えば周波数25〜300KHzの間で、25KHz刻みに12種類の周波数を多重発振させて超音波洗浄を行なうのがよい。
【0064】
(9)ターゲット
別の態様としての本発明の酸化物及び当該酸化物からなる焼結体は、上述(8)のような各工程を経て、さらに適宜研磨等の加工を施すことによりスパッタリングターゲットとしてもよい。なお、スパッタリングターゲットとは、スパッタリング成膜の際に用いる酸化物の塊であって、上述の通り無酸素銅のようなバッキングプレート(支持体)を該スパッタリングターゲットに貼り付けて使用することが一般的である。
【0065】
(a)相対密度
別の態様としての本発明の酸化物の相対密度は、例えば95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上であることが適当である。95%以上であれば、本発明の酸化物をスパッタリングターゲットとして利用しても、該ターゲットが割れることもなく、異常放電が発生することもないので好ましい。ここで、相対密度とは、加重平均より算出した理論密度に対して相対的に算出した密度である。各原料粉の密度の加重平均より算出した密度が理論密度であり、これを100%とする。例えば、原料粉の密度から計算した理論密度とアルキメデス法で測定した焼結体の密度から下記で計算される。
相対密度=(アルキメデス法で測定した密度)÷(理論密度)×100 (%)
また、酸化物内における相対密度のばらつき(均一性)の範囲が3%以内、好ましくは1%以内であることが適当である。ここで、ばらつき(均一性)は、平均値に対する標準偏差の大きさで示される値であり、酸化物を20個以上の小片を切り出し各々の密度を測定し、平均と標準偏差を求める。
【0066】
(b)バルク抵抗
別の態様としての本発明の酸化物のバルク抵抗は、例えば、JISR1637に従って測定する。バルク抵抗の値は、例えば、20mΩcm以下、好ましくは0.1〜10mΩcm以下、さらに好ましくは0.3〜5mΩcmであることが適当である。バルク抵抗が0.1mΩcm以上であれば、スパッタ時に存在するスパッタ材料のパーティクルとの間で異常放電が発生することもないので好ましい。また、20mΩcm以下であれば、本発明の酸化物をスパッタリングターゲットとして利用しても、該ターゲットが割れたり、放電が不安定になったり、パーティクルが増えるようなこともないので好ましい。
また、酸化物内におけるバルク抵抗のばらつき(均一性)の範囲が3%以内、好ましくは1%以内であることが適当である。ここで、ばらつき(均一性)は、バルク抵抗の平均値に対する標準偏差の大きさで示される値である。バルク抵抗は、例えば、ロレスタ(三菱化学(株)製)などを用いた四探針法で酸化物表面を均等間隔に10〜50点程度測定して求める。
【0067】
(c)抗折強度
別の態様としての本発明のスパッタリングターゲットの抗折強度は、例えば8kg/mm2以上が好ましく、10kg/mm2以上がより好ましく、12kg/mm2以上が特に好ましい。ここで、抗折強度は、曲げ強さともいい、抗折試験器を用いてJIS R1601に基づいて評価される。抗折強度が8kg/mm2以上であれば、スパッタリング中にスパッタリングターゲットが割れることもなく、スパッタリングターゲットの支持体としてのバッキングプレートをスパッタリングターゲットに接着する際や、スパッタリングターゲットを輸送する際に該スパッタリングターゲットが破損するおそれもなく、好ましい。
【0068】
(d)陽性元素のばらつき
別の態様としての本発明の酸化物は、当該酸化物内に含まれる亜鉛以外の、陽性の金属元素のばらつきの範囲が0.5%以内、好ましくは0.1%以内であることが適当であるであることが好ましい。ここで、ばらつきは、平均値に対する標準偏差の大きさを意味する。このばらつきは、酸化物を20個以上の小片を切り出し各々の亜鉛以外の陽性の金属元素の含有量をICPなどで測定し、平均と標準偏差を求める。 当該平均と標準偏差より、陽性元素のばらつき(均一性)は以下の式より求められる。
陽性元素のばらつき(均一性、%)=[金属元素の含有量の平均値]/[金属元素の含有量の標準偏差]×100(%)
【0069】
(e)表面粗さ
別の態様としての本発明のスパッタリングターゲットの表面粗さ(Ra)は、Ra≦0.5μm、好ましくは、Ra≦0.3μm、より好ましくは、Ra≦100nmであることが適当である。研磨面に方向性がない方が、異常放電の発生やパーティクルの発生を抑制することができるので好ましい。表面粗さ(Ra)が0.5μm以下であれば、スッパッタリング中の異常放電を抑制したり、スパッタ材料の発塵(パーティクル)の発生を抑制できるので好ましい。
ここで、表面粗さは、中心線平均粗さを意味する。
【0070】
(f)ピンホール
別の態様としての本発明の酸化物の表面は、ピンホールを有さないことが好ましい。ピンホールは酸化物粉末を焼結して本発明の酸化物を作成する際、該粉末と粉末の間に生じる空隙である。ピンホールの数は、水平フェレー径を利用して評価することができる。ここで、水平フェレー径とは、ピンホールを粒子として見立てた場合に、該粒子を挟む一定方向の2本の平行線の間隔をいう。水平フェレー径は、例えば、倍率100倍のSEM像による観察で計測することができる。ここで、本発明の酸化物の表面の水平フェレー径は、単位面積(1mm×1mm)当たりの酸化物内に存在する水平フェレー径2μm以上のピンホール数が50個/mm2以下であることが好ましく、20個/mm2以下であることがより好ましく、5個/mm2以下であることがさらに好ましい。当該水平フェレー径2μm以上のピンホール数が50個/mm2以下であれば、本発明の酸化物をスパッタリングターゲットとして用いた場合、スパッタ時に異常放電が生じることもなく、得られるスパッタ膜の平滑性も向上することができるので好ましい。
【0071】
(10)薄膜の用途
このようにして得られたアモルファス酸化物薄膜は、そのまま、あるいは熱処理することで液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス表示装置、X線イメージセンサ等に用いられる薄膜トランジスタ、薄膜トランジスタのチャネル層、太陽電池、ガスセンサーなどの半導体膜として使用することができる。
(10-1)ここで、本発明を利用して製造し得る薄膜トランジスタについて説明する。薄膜トランジスタは、基板、半導体層、半導体層の保護層、ゲート絶縁膜、電極を含む。
●基板
基板としては、特に制限はなく、本技術分野で公知のものを使用できる。例えば、ケイ酸アルカリ系ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等のガラス基板、シリコン基板、アクリル、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の樹脂基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等の高分子フィルム基材等が使用できる。基板や基材の厚さは0.1〜10mmが一般的であり、0.3〜5mmが好ましい。ガラス基板の場合は、化学的に、或いは熱的に強化させたものが好ましい。透明性や平滑性が求められる場合は、ガラス基板、樹脂基板が好ましく、ガラス基板が特に好ましい。軽量化が求められる場合は樹脂基板や高分子機材が好ましい。
【0072】
●半導体層
半導体層は、In(インジウム)、Zn(亜鉛)及びGa(ガリウム)複合酸化物からなる。このような半導体層は、例えば、本発明のスパッタリングターゲット(複合酸化物ターゲット)(半導体層用ターゲット)を使用して薄膜を形成することで作製できる。
本発明において、半導体層は非晶質膜であることが好ましい。非晶質膜であることにより、絶縁膜や保護層との密着性が改善される、大面積でも均一なトランジスタ特性が容易に得られることとなる。ここで、半導体層が非晶質膜であるか否かは、X線結晶構造解析により確認できる。明確なピークが観測されない場合が非晶質である。
また、半導体層の電子キャリアー濃度が1013〜1018/cm3であることが好ましく、特に1014〜1017/cm3であることが好ましい。電子キャリアー濃度が上記の範囲であれば、非縮退半導体となりやすく、トランジスタとして用いた際に移動度とオンオフ比のバランスが良好となり好ましい。また、バンドギャップが2.0〜6.0eVであることが好ましく、特に、2.8〜5.0eVがより好ましい。バンドギャップは、2.0eV以上であれば、可視光を吸収し電界効果型トランジスタが誤動作するおそれもない。
一方、6.0eV以下であれば、キャリアが供給されにくくなり電界効果型トランジスタが機能しなくなるおそれも低い。
半導体層は、熱活性型を示す非縮退半導体であることが好ましい。非縮退半導体であれば、キャリアが多すぎてオフ電流・ゲートリーク電流が増加する、閾値が負になりノーマリーオンとなるなどの不利益を回避できる。半導体層が非縮退半導体であるか否かは、ホール効果を用いた移動度とキャリア密度の温度変化の測定を行うことにより判断できる。また、半導体層を非縮退半導体とするには、成膜時の酸素分圧を調整する、後処理をすることで酸素欠陥量を制御しキャリア密度を最適化することで達成できる。
【0073】
半導体層の表面粗さ(RMS)は、1nm以下が好ましく、0.6nm以下がさらに好ましく、0.3nm以下が特に好ましい。1nm以下であれば、移動度が低下するおそれもない。
半導体層は、酸化インジウムのビックスバイト構造の稜共有構造の少なくとも一部を維持している非晶質膜であることが好ましい。酸化インジウムを含む非晶質膜が酸化インジウムのビックスバイト構造の稜共有構造の少なくとも一部を維持しているかどうかは、高輝度のシンクロトロン放射等を用いた微小角入射X線散乱(GIXS)によって求めた動径分布関数(RDF)により、In−X(Xは,In,Zn)を表すピークが0.30から0.36nmの間にあることで確認できる(詳細については、下記の文献を参照すればよい。F.Utsuno, et al.,Thin Solid Films,Volume 496, 2006, Pages 95−98)。
さらに、原子間距離が0.30から0.36nmの間のRDFの最大値をA、原子間距離が0.36から0.42の間のRDFの最大値をBとした場合に、A/B>0.7の関係を満たすことが好ましく、A/B>0.85がより好ましく、A/B>1がさらに好ましく、A/B>1.2が特に好ましい。
A/Bが0.7以上であれば、半導体層をトランジスタの活性層として用いた場合、移動度が低下したり、閾値やS値が大きくなりすぎるおそれもない。A/Bが小さいことは、非晶質膜の近距離秩序性が悪いことを反映しているものと考えられる。
また、In−Inの平均結合距離が0.3〜0.322nmであることが好ましく、0.31〜0.32nmであることが特に好ましい。In−Inの平均結合距離はX線吸収分光法により求めることができる。X線吸収分光法による測定では、立ち上がりから数百eVも高いエネルギーのところまで広がったX線吸収広域微細構造(EXAFS)を示す。EXAFSは、励起された原子の周囲の原子による電子の後方散乱によって引き起こされる。飛び出していく電子波と後方散乱された波との干渉効果が起こる。干渉は電子状態の波長と周囲の原子へ行き来する光路長に依存する。EXAFSをフーリエ変換することで動径分布関数(RDF)が得られる。RDFのピークから平均結合距離を見積もることができる。
【0074】
半導体層の膜厚は、通常0.5〜500nm、好ましくは1〜150nm、より好ましくは3〜80nm、特に好ましくは10〜60nmである。0.5nm以上であれば、工業的に均一に成膜することが可能である。一方、500nm以下であれば、成膜時間が長くなりすぎることもない。また、3〜80nmの範囲内にあると、移動度やオンオフ比等TFT特性が特に良好である。
本発明では、半導体層が非晶質膜であり、非局在準位のエネルギー幅(E0)が14meV以下であることが好ましい。半導体層の非局在準位のエネルギー幅(E0)は10meV以下がより好ましく、8meV以下がさらに好ましく、6meV以下が特に好ましい。非局在準位のエネルギー幅(E0)が14meV以下であれば、半導体層をトランジスタの活性層として用いた場合、移動度が低下したり、閾値やS値が大きくなりすぎるおそれもない。半導体層の非局在準位のエネルギー幅(E0)が大きいことは、非晶質膜の近距離秩序性が悪いことを反映しているものと考えられる。
【0075】
●半導体層の保護層
・薄膜トランジスタは、半導体の保護層があることが好ましい。半導体の保護層があれば、真空中や低圧下で半導体の表面層の酸素が脱離せず、オフ電流が高くなる、閾値電圧が負になるおそれもない。また、大気下でも湿度等周囲の影響を受けることもなく、閾値電圧等のトランジスタ特性のばらつきが大きくなるおそれもない。
・半導体の保護層を形成する材料は特に制限はない。本発明の効果を失わない範囲で一般に用いられているものを任意に選択できる。例えば、SiO2,SiNx,Al2O3,Ta2O5,TiO2,MgO,ZrO2,CeO2,K2O,Li2O,Na2O,Rb2O,Sc2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3,PbTi3,BaTa2O6,SrTiO3,AlN等を用いることができる。これらのなかでも、SiO2,SiNx,Al2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3を用いるのが好ましく、より好ましくはSiO2,SiNx,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3であり、特に好ましくはSiO2,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3等の酸化物である。これらの酸化物の酸素数は、必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば、SiO2でもSiOxでもよい)。また、SiNxは水素元素を含んでいても良い。
さらに保護層用の材料として下記のものを用いても良い。
・半導体膜の成膜時よりも高い酸素分圧で成膜した半導体層と同一組成の非晶質酸化物膜・半導体層と同一組成であるが組成比を変えた非晶質酸化物膜
・In及びZnを含み半導体層と異なる元素Xを含む非晶質酸化物膜
・酸化インジウムを主成分とする多結晶酸化物膜
・酸化インジウムを主成分とし、Zn、Cu、Co、Ni、Mn、Mgなどの正二価元素を1種以上ドープした多結晶酸化物膜
半導体層と同一組成であるが組成比を変えた非晶質酸化物膜や、In及びZnを含み半導体層と異なる元素Xを含む非晶質酸化物膜を保護層として用いる場合は、In組成比が半導体層よりも少ないことが好ましい。また、元素Xの組成比が半導体層よりも多いことが好ましい。
保護層用の材料は、In及びZnを含む酸化物であることが好ましい。これらを含むことにより、保護層と半導体層との間で元素の移動が発生することもなく、ストレス試験等を行った際に閾値電圧のシフトが大きくなるおそれもない。
このような保護膜は、異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。特に、SiOxとSiNxの積層は工業的に安価に製造できるため好ましい。
また、保護層は、結晶質、多結晶質、非晶質のいずれであってもよいが、工業的に製造しやすい多結晶質か、非晶質であるのが好ましい。しかし、保護層が非晶質であることが特に好ましい。非晶質膜であれば、界面の平滑性が良好となり、移動度が低下することもなく、閾値電圧やS値が大きくなりすぎるおそれもない。
【0076】
半導体層の保護層は、非晶質酸化物あるいは非晶質窒化物であることが好ましく、非晶質酸化物であることが特に好ましい。また、保護層が酸化物であれば、半導体中の酸素が保護層側に移動することもなく、オフ電流が高くなることもなく、閾値電圧が負になりノーマリーオフを示すおそれもない。また、半導体層の保護層は、ポリ(4−ビニルフェノール)(PVP)、パリレン等の有機絶縁膜を用いてもよい。さらに、半導体層の保護層は無機絶縁膜及び有機絶縁膜の2層以上積層構造を有してもよい。
【0077】
●ゲート絶縁膜
ゲート絶縁膜を形成する材料にも特に制限はない。本実施形態の発明の効果を失わない範囲で一般に用いられているものを任意に選択できる。例えば、SiO2,SiNx,Al2O3,Ta2O5,TiO2,MgO,ZrO2,CeO2,K2O,Li2O,Na2O,Rb2O,Sc2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3,PbTi3,BaTa2O6,SrTiO3,AlN等を用いることができる。これらのなかでも、SiO2,SiNx,Al2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3を用いるのが好ましく、より好ましくはSiO2,SiNx,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3である。これらの酸化物の酸素数は、必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば、SiO2でもSiOxでもよい)。また、SiNxは水素元素を含んでいても良い。
このようなゲート絶縁膜は、異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。また、ゲート絶縁膜は、結晶質、多結晶質、非晶質のいずれであってもよいが、工業的に製造しやすい多結晶質か、非晶質であるのが好ましい。
また、ゲート絶縁膜は、ポリ(4−ビニルフェノール)(PVP)、パリレン等の有機絶縁膜を用いてもよい。さらに、ゲート絶縁膜は無機絶縁膜及び有機絶縁膜の2層以上積層構造を有してもよい。
【0078】
●電極
ゲート電極、ソ−ス電極及びドレイン電極の各電極を形成する材料に特に制限はなく、本発明の効果を失わない範囲で一般に用いられているものを任意に選択することができる。
例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物、ZnO、SnO2等の透明電極や、Al,Ag,Cr,Ni,Mo,Au,Ti,Ta、Cu等の金属電極、又はこれらを含む合金の金属電極を用いることができる。また、それらを2層以上積層して接触抵抗を低減したり、界面強度を向上させることが好ましい。また、ソ−ス電極、ドレイン電極の接触抵抗を低減させるため半導体の電極との界面をプラズマ処理、オゾン処理等で抵抗を調整してもよい。
例えば、成膜方法としては、スプレー法、ディップ法、CVD法等の化学的成膜方法、又はスパッタ法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、パルスレーザーディポジション法等の物理的成膜方法を用いることができる。キャリア密度が制御し易い、及び膜質向上が容易であることから、好ましくは物理的成膜方法を用い、より好ましくは生産性が高いことからスパッタ法を用いる。
【0079】
(10-2)薄膜トランジスタ(電界効果型トランジスタ)の製造方法
本発明の製造方法では、上述した本発明のスパッタリングターゲットを用い、アモルファス酸化物薄膜(半導体層)を成膜する工程と、アモルファス酸化物薄膜を形成した後に70〜350℃で熱処理する工程を含むことを特徴とする。
尚、上述した薄膜トランジスタの各構成部材(層)は、本技術分野で公知の手法で形成できる。
具体的に、成膜方法としては、スプレー法、ディップ法、CVD法等の化学的成膜方法、又はスパッタ法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法イオンプレーティング法、パルスレーザーディポジション法等の物理的成膜方法を用いることができる。キャリア密度が制御し易い、及び膜質向上が容易であることから、好ましくは物理的成膜方法を用い、より好ましくは生産性が高いことからスパッタ法を用いる。
スパッタリングでは、複合酸化物の焼結ターゲットを用いる方法、複数の焼結ターゲットを用いコスパッタを用いる方法、合金ターゲットを用い反応性スパッタを用いる方法等が利用できる。好ましくは、複合酸化物の焼結ターゲットを用いる。RF、DCあるいはACスパッタリングなど公知のものが利用できるが、均一性や量産性(設備コスト)からDCあるいはACスパッタリングが好ましい。
【0080】
形成した膜を各種エッチング法フォトリソグラフィー法及びリフトオフ法によりパターニングできる。
本発明では半導体層を、本発明のターゲットを用い、DC又はACスパッタリングにより成膜することが好ましい。DC又はACスパッタリングを用いることにより、RFスパッタリングの場合と比べて、成膜時のダメージを低減できる。このため、電界効果型トランジスタ及び薄膜トランジスタにおいて、閾値電圧シフトの低減、移動度の向上、閾値電圧の減少、S値の減少等の効果が期待できる。
また、本発明では半導体層成膜後に70〜350℃で熱処理することが好ましい。特に、半導体層と半導体の保護層を形成した後に、70〜350℃で熱処理することが好ましい。70℃以上であれば、得られるトランジスタの十分な熱安定性や耐熱性を保持することができ、十分な移動度を保持でき、S値が大きくなったり、閾値電圧が高くなるおそれもない。一方、350℃以下であれば、耐熱性のない基板も使用でき、熱処理用の設備費用がかかるおそれもない。
熱処理温度は80〜260℃がより好ましく、90〜180℃がさらに好ましく、100〜150℃が特に好ましい。特に、熱処理温度が180℃以下であれば、基板としてPEN等の耐熱性の低い樹脂基板を利用できるため好ましい。
熱処理時間は、通常1秒〜24時間が好ましいが、処理温度により調整することが好ましい。例えば、70〜180℃では、10分から24時間がより好ましく、20分から6時間がさらに好ましく、30分〜3時間が特に好ましい。180〜260℃では、6分から4時間がより好ましく、15分から2時間がさらに好ましい。260〜300℃では、30秒から4時間がより好ましく、1分から2時間が特に好ましい。300〜350℃では、1秒から1時間がより好ましく、2秒から30分が特に好ましい。
熱処理は、不活性ガス中で酸素分圧が10-3Pa以下の環境下で行うか、あるいは半導体層を保護層で覆った後に行うことが好ましい。上記条件下だと再現性が向上する。
【0081】
(10-3)薄膜トランジスタの特性
本発明の薄膜トランジスタにおいて、移動度は1cm2/Vs以上が好ましく、3cm2/Vs以上がより好ましく、8cm2/Vs以上が特に好ましい。1cm2/Vs以上であればスイッチング速度が遅くなることもなく、大画面高精細のディスプレイに用いるのに最適である。
オンオフ比は、106以上が好ましく、107以上がより好ましく、108以上が特に好ましい。
オフ電流は、2pA以下が好ましく、1pA以下がより好ましい。オフ電流が2pA以下であれば、ディスプレイのTFTとして用いた場合に十分なコントラストが得られ、良好な画面の均一性が得られる。
ゲートリーク電流は1pA以下が好ましい。1pA以上であれば、ディスプレイのTFTとして用いた場合に良好なコントラストが得られる。
閾値電圧は、通常0〜10Vであるが、0〜4Vが好ましく、0〜3Vがより好ましく、0〜2Vが特に好ましい。0V以上であればノーマリーオンとなることもなく、オフ時に電圧をかけることも必要なく、消費電力を低く抑えることができる。10V以下であれば駆動電圧が大きくなることもなく、消費電力を低く抑えることができ、移動度を低く抑えることができる。
また、S値は0.8V/dec以下が好ましく、0.3V/dec以下がより好ましく、0.25V/dec以下がさらに好ましく、0.2V/dec以下が特に好ましい。0.8V/dec以下であれば、駆動電圧を低く抑えることができ、消費電力も抑制できる。特に、有機ELディスプレイで用いる場合は、直流駆動のためS値を0.3V/dec以下にすると消費電力を大幅に低減できるため好ましい。
尚、S値(Swing Factor)とは、オフ状態からゲート電圧を増加させた際に、オフ状態からオン状態にかけてドレイン電流が急峻に立ち上がるが、この急峻さを示す値である。下記式で定義されるように、ドレイン電流が1桁(10倍)上昇するときのゲート電圧の増分をS値とする。
S値=dVg/dlog(Ids)
S値が小さいほど急峻な立ち上がりとなる(「薄膜トランジスタ技術のすべて」、鵜飼育弘著、2007年刊、工業調査会)。S値が小さければ、オンからオフに切り替える際に高いゲート電圧をかける必要がなく、消費電力を低く抑えることができる。
【0082】
また、10μAの直流電圧50℃で100時間加えた前後の閾値電圧のシフト量は、1.0V以下が好ましく、0.5V以下がより好ましい。1.0V以下であれば有機ELディスプレイのトランジスタとして利用した場合、画質が変化することもない。
また、伝達曲線でゲート電圧を昇降させた場合のヒステリシスが小さい方が好ましい。
また、チャンネル幅Wとチャンネル長Lの比W/Lは、通常0.1〜100、好ましくは0.5〜20、特に好ましくは1〜8である。W/Lが100以下であれば漏れ電流が増えることもなく、オンオフ比が低下したりするおそれがある。0.1以上であれば電界効果移動度が低下することもなく、ピンチオフが明瞭になる。また、チャンネル長Lは通常0.1〜1000μm、好ましくは1〜100μm、さらに好ましくは2〜10μmである。0.1μm以上であれば工業的に製造が難しくまた漏れ電流が大きくなるおそれもなく、1000μm以下であれば素子が大きくなりすぎることもない。
【0083】
本発明の薄膜トランジスタ(電界効果型トランジスタ)は、半導体層を遮光する構造を持つことが好ましい。半導体層を遮光する構造(例えば、遮光層)があれば、光が半導体層に入射した場合にキャリア電子が励起されオフ電流が高くなるおそれもない。遮光層は、300〜800nmに吸収を持つ薄膜が好ましい。遮光層は半導体層の上部、下部どちらかでも構わないが、上部及び下部の両方にあることが好ましい。また、遮光層はゲート絶縁膜やブラックマトリックス等と兼用されていても構わない。遮光層が片側だけにある場合、遮光層が無い側から光が半導体層に照射しないよう構造上工夫する必要がある。
尚、本発明の薄膜トランジスタでは、半導体層とソース電極・ドレイン電極との間にコンタクト層を設けてもよい。コンタクト層は半導体層よりも抵抗が低いことが好ましい。コンタクト層の形成材料は、上述した半導体層と同様な組成の複合酸化物が使用できる。
即ち、コンタクト層はIn,Zn及びZr等の各元素を含むことが好ましい。これらの元素を含む場合、コンタクト層と半導体層の間で元素の移動が発生することもなく、ストレス試験等を行った際に閾値電圧のシフトが大きくなるおそれもない。
コンタクト層の作製方法に特に制約はないが、成膜条件を変えて半導体層と同じ組成比のコンタクト層を成膜したり、半導体層と組成比の異なる層を成膜したり、半導体の電極とのコンタクト部分をプラズマ処理やオゾン処理により抵抗を高めることで構成したり、半導体層を成膜する際に酸素分圧等の成膜条件により抵抗を高くなる層を構成してもよい。また、本発明の薄膜トランジスタ(電界効果型トランジスタ)では、半導体層とゲート絶縁膜との間、及び/又は半導体層と保護層との間に、半導体層よりも抵抗の高い酸化物抵抗層を有することが好ましい。酸化物抵抗層があればオフ電流が発生することもなく、閾値電圧が負となりノーマリーオンとなることもなく、保護膜成膜やエッチングなどの後処理工程時に半導体層が変質し特性が劣化するおそれもない。
【0084】
酸化物抵抗層としては、以下のものが例示できる。
・半導体膜の成膜時よりも高い酸素分圧で成膜した半導体層と同一組成の非晶質酸化物膜・半導体層と同一組成であるが組成比を変えた非晶質酸化物膜
・In及びZnを含み半導体層と異なる元素Xを含む非晶質酸化物膜
・酸化インジウムを主成分とする多結晶酸化物膜
・酸化インジウムを主成分とし、Zn、Cu、Co、Ni、Mn、Mgなどの正二価元素を1種以上ドープした多結晶酸化物膜
半導体層と同一組成であるが組成比を変えた非晶質酸化物膜や、In及びZnを含み半導体層と異なる元素Xを含む非晶質酸化物膜の場合は、In組成比が半導体層よりも少ないことが好ましい。また、元素Xの組成比が半導体層よりも多いことが好ましい。
酸化物抵抗層は、In及びZnを含む酸化物であることが好ましい。これらを含む場合、酸化物抵抗層と半導体層の間で元素の移動が発生することもなく、ストレス試験等を行った際に閾値電圧のシフトが大きくなるおそれもない。
以下、本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例の態様に限定されるものではない。
【実施例】
【0085】
実施例1
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 61:25:14質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。
そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で2時間焼成した。これによって、相対密度が86%であるIGZOスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとIn2Ga2ZnO7の結晶が存在することが確認された。X線回折パターンを図1に示す。また、この焼結体のバルク抵抗は4.80×10-3Ωcmであった。このとき焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=51:31:18原子%であった。
このターゲット焼結体を用いて酸化物半導体膜をスパッタリング成膜したとき異常放電は4回/72時間であった。また、DCマグネトロンスパッタリング法による成膜が可能であった。
なお、本発明の実施例および比較例に関しては三菱化学株式会社製の低抵抗率計「ロレスターEP」(JIS K 7194に準拠)によって測定した。
【0086】
実施例2
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 70:23:7質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。
そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1500℃の高温で2時間焼成した。これによって、相対密度が91%であるIGZOスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとIn2Ga2ZnO7の結晶が存在することが確認された。X線回折パターンを図2に示す。また、この焼結体のバルク抵抗は1.77×10-3Ωcmであった。このとき焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=62:30:8原子%であった。
このターゲット焼結体を用いて酸化物半導体膜をスパッタリング成膜したとき異常放電は3回/72時間であった。DCマグネトロンスパッタリング法による成膜が可能であった。
【0087】
実施例3
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 78:15:7質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。
そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で2時間焼成した。これによって、相対密度が83%であるIGZOスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中には実施例2と同様にビックスバイト構造を有する酸化インジウムとIn2Ga2ZnO7の結晶が存在することが確認された。X線回折パターンを図3に示す。また、この焼結体のバルク抵抗は6.60×10-3Ωcmであった。このとき焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=71:20:9原子%であった。
このターゲット焼結体を用いて酸化物半導体膜をスパッタリング成膜したとき異常放電は4回/72時間であった。
【0088】
比較例1(IGZO(In2Ga2ZnO7)スパッタリングターゲットIn:Ga:Zn=40:40:20原子% 1400℃焼結)
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 51:34:15質量%となるように秤量し、大気雰囲気中1400℃の高温で2時間焼成してIn2Ga2ZnO7の粉末を得た。この粉末と酸化インジウムIn2O3粉末を質量比で50:50質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。
そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で2時間焼成し、IGZOスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはIn2Ga2ZnO7の結晶が存在とビックスバイト構造を有する酸化インジウムのピークが観測されたが、相対密度が75%であった。X線回折パターンを図4に示す。また、この焼結体のバルク抵抗は1.65×101Ωcmであった。このとき焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=40:40:20原子%であった。
また、このターゲット焼結体を用いて酸化物半導体膜をスパッタリング成膜したときDCスパッタリング法ではプラズマが立たず成膜できなかった。RFスパッタリング法で成膜を行なったところ、成膜中に多数の異常放電が確認された。
【0089】
比較例2(IGZO(In2Ga2ZnO7)スパッタリングターゲットIn:Ga:Zn=40:40:20原子% 1400℃焼結)
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 51:34:15質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。
そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で2時間焼成した。これによって、相対密度が87%であるIGZOスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはIn2Ga2ZnO7の結晶が存在し、酸化インジウムのピークは見られなかった。X線回折パターンを図5に示す。また、この焼結体のバルク抵抗は9.24×10-2Ωcmであった。このとき焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=40:40:20原子%であった。
また、このターゲット焼結体を用いて酸化物半導体膜をスパッタリング成膜したときDCスパッタリング法ではプラズマが立たず成膜できなかった。RFスパッタリング法で成膜を行なったところ、成膜中に多数の異常放電が確認された。
【0090】
比較例3(酸化インジウムIn2O3スパッタリングターゲット In:Ga:Zn=100:0:0原子%)
純度99.99%の酸化インジウム粉末を、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。
そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1300℃の高温で2時間焼成した。これによって、相対密度が80%であるIn2O3スパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造のIn2O3の結晶のみが存在した。また、この焼結体のバルク抵抗は2.64×101Ωcmであった。このとき焼結体内の元素量比はICPの結果よりInのみ確認された。
また、このターゲット焼結体を用いて酸化物半導体膜をスパッタリング成膜したときDCスパッタリング法ではプラズマが立たず成膜できなかった。RFスパッタリング法で成膜を行なったところ、成膜中に多数の電圧異常が確認された。
【0091】
比較例4(In2O3-ZnOスパッタリングターゲット In:Ga:Zn=80:0:20原子%)
純度99.99%の酸化インジウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:ZnO = 87.2:12.8質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。
なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。
そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1200℃の高温で2時間焼成した。これによって、相対密度が87%であるIn2O3-ZnOスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはIn2Ga2ZnO7の結晶および酸化インジウムのピークは見られなかった。また、この焼結体のバルク抵抗は4.21×10-3Ωcmであった。このとき焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=80:0:20原子%であった。
また、このターゲット焼結体を用いてスパッタリング成膜した薄膜は導電膜であり、半導体として機能しなかった。
【0092】
比較例5((In,Ga)2O3スパッタリングターゲット In:Ga:Zn=60:40:0原子%)
純度99.99%の酸化インジウム粉末および純度99.99%の酸化ガリウム粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3 = 70:30質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。
そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で2時間焼成した。X線回折により焼結体中には(In、Ga)O3が観測され、In2Ga2ZnO7および酸化インジウムのピークは確認されなかった。このとき、相対密度は88%であった。また、この焼結体のバルク抵抗は6.43×106Ωcmであった。このとき焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=60:40:0原子%であった。
また、このターゲット焼結体を用いて酸化物半導体膜をスパッタリング成膜したときDCスパッタリング法ではプラズマが立たず成膜できなかった。RFスパッタリング法で成膜を行なったところ、成膜中に多数の電圧異常が確認された。
【0093】
以下の表に、上記実施例及び比較例の結果をまとめる。
【表1】
【0094】
( IGZOスパッタリングターゲットの作製 )
実施例4 ( 組成A 1400℃ 20h焼成 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 47.3:9.1:43.6質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で20時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が89%であるスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造のInGaO3(ZnO)の結晶が存在することが確認された。X線回折パターンを図8に示す。この焼結体のバルク抵抗は3.42×10-2Ωcmであった。このとき、バルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=35:10:55原子%であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき目立った異常放電は観測されなかった。連続72時間運転中の異常放電の回数は5回未満だった。
【0095】
実施例5 ( 組成B 1400℃ 2h焼成 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 49.3:11.7:39.0質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で2時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が87%であるスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造のInGaO3(ZnO)2の結晶が存在することが確認された。X線回折パターンを図9に示す。この焼結体のバルク抵抗は4.02×10-1Ωcmであった。このとき、バルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=37:13:50原子%であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき目立った異常放電は観測されなかった。連続72時間運転中の異常放電の回数は5回未満だった。
【0096】
実施例6 ( 組成B 1400℃ 20h焼成 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 49.3:11.7:39.0質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で20時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が90%であるスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造のInGaO3(ZnO)の結晶が存在することが確認された。X線回折パターンを図10に示す。この焼結体のバルク抵抗は1.02×10-2Ωcmであった。このとき、バルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=37:13:50原子%であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき目立った異常放電は観測されなかった。連続72時間運転中の異常放電の回数は5回未満だった。
【0097】
実施例7 ( 組成C 1400℃ 20h焼成 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 46.7:18.1:35.2質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で20時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が85%であるスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造のInGaO3(ZnO)の結晶が存在することが確認された。X線回折パターンを図11に示す。この焼結体のバルク抵抗は1.84×100Ωcmであった。このとき、バルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=35:20:45原子%であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき目立った異常放電は観測されなかった。連続72時間運転中の異常放電の回数は5回未満だった。
【0098】
実施例8 ( 組成D 1400℃ 2h焼成 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 66:16:18質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で2時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が84%であるスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造のInGaO3(ZnO)の結晶が存在することが確認された。X線回折パターンを図12に示す。この焼結体のバルク抵抗は1.17×100Ωcmであった。このとき、バルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=55:20:25原子%であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき目立った異常放電は観測されなかった。連続72時間運転中の異常放電の回数は5回未満だった。
【0099】
実施例9 ( 組成E 1400℃ 2h焼成 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 71:8:21質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で2時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が83%であるスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造のInGaO3(ZnO)の結晶が存在することが確認された。X線回折パターンを図13に示す。この焼結体のバルク抵抗は1.87×100Ωcmであった。このとき、バルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=60:10:30原子%であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき目立った異常放電は観測されなかった。連続72時間運転中の異常放電の回数は5回未満だった。
【0100】
( 正四価元素添加IGZOスパッタリングターゲットの作製 )
実施例10 ( 組成B+Sn 300ppm 1400℃ 20h焼成 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 49.3:11.7:39.0質量%となるように秤量し、さらにスズSn単体金属粉を300ppm添加した。これら粉末を、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で20時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が89%であるスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造のInGaO3(ZnO)の結晶が存在することが確認された。この焼結体のバルク抵抗は6.07×10-3Ωcmであった。このとき、バルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=37:13:50原子%であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき目立った異常放電は観測されなかった。連続72時間運転中の異常放電の回数は5回未満だった。また、DCマグネトロンスパッタリング法による成膜が可能であった。
【0101】
実施例11 ( 組成B+Sn 1500ppm 1400℃ 20h焼成 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 49.3:11.7:39.0質量%となるように秤量し、さらにスズSn単体金属粉を1500ppm添加した。これら粉末を、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で20時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が91%であるスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造のInGaO3(ZnO)の結晶が存在することが確認された。この焼結体のバルク抵抗は2.15×10-3Ωcmであった。このとき、バルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=37:13:50原子%であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき目立った異常放電は観測されなかった。連続72時間運転中の異常放電の回数は5回未満だった。また、DCマグネトロンスパッタリング法による成膜が可能であった。
【0102】
実施例12 ( 組成B+Ge 1500ppm 1400℃ 20h焼成 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 49.3:11.7:39.0質量%となるように秤量し、さらにゲルマニウムGe元素粉末を1500ppm添加した。これら粉末を、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で20時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が87%であるスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を得た。X線回折により焼結体中にはビックスバイト構造を有する酸化インジウムとホモロガス構造のInGaO3(ZnO)の結晶が存在することが確認された。この焼結体のバルク抵抗は4.89×10-3Ωcmであった。このとき、バルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=37:13:50原子%であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき目立った異常放電は観測されなかった。連続72時間運転中の異常放電の回数は5回未満だった。また、DCマグネトロンスパッタリング法による成膜が可能であった。
【0103】
比較例6 ( ホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO) )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 44.2:29.9:25.9質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で20時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が87%であるホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)のみの酸化物焼結体を得た。この焼結体のバルク抵抗は2.67×102Ωcmであった。なお、このときバルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=1:1:1 mol比であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき異常放電は観測された。連続72時間運転中の異常放電の回数は15回だった。
【0104】
比較例7 ( ホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)2 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 35.1:23.7:41.2質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で20時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が85%であるホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)2のみの酸化物焼結体を得た。この焼結体のバルク抵抗は4.83×102Ωcmであった。なお、このときバルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=1:1:2 mol比であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき異常放電は観測された。連続72時間運転中の異常放電の回数は18回だった。
【0105】
比較例8 ( ホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)3 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO = 29.1:19.7:51.2質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で20時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が83%であるホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)3のみの酸化物焼結体を得た。
この焼結体のバルク抵抗は1.52×103Ωcmであった。なお、このときバルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=1:1:3 mol比であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき異常放電は観測された。連続72時間運転中の異常放電の回数は24回だった。
【0106】
比較例9 ( ホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)4 )
純度99.99%の酸化インジウム粉末、純度99.99%の酸化ガリウム粉末および純度99.99%の酸化亜鉛粉末を質量比でIn2O3:Ga2O3:ZnO =24.8:16.8:58.4質量%となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。なお、湿式媒体攪拌ミルの媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、各原料を混合粉砕後スプレードライヤーで乾燥させた。得られた混合粉末を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し成形体を作製した。
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃の高温で20時間焼結した。これによって、焼結体相対密度が82%であるホモロガス構造化合物InGaO3(ZnO)4のみの酸化物焼結体を得た。
この焼結体のバルク抵抗は6.53×103Ωcmであった。なお、このときバルク抵抗を低減させるために還元処理等は行っていない。焼結体内の元素量比はICPの結果よりIn:Ga:Zn=1:1:4 mol比であった。
上記の工程で得られた焼結体を用いてスパッタリングターゲットを作製した。酸化物半導体膜をRFスパッタリング成膜したとき異常放電は観測された。連続72時間運転中の異常放電の回数は23回だった。
【0107】
以下の表に、上記実施例及び比較例の結果を示す。
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【0110】
【表4】
【0111】
<希土類酸化物C型の結晶構造を持つ酸化物の確認試験>
原料及び焼結条件を変えて、種々の酸化物焼結体を作製し、希土類酸化物C型の結晶構造を持つ酸化物が得られることを確認した。具体的に、当該確認試験は以下のように行った。
(1)実施例A
それぞれ比表面積及び平均メジアン径が以下の通りのIn2O3 、Ga2O3及びZnOの各粉末を、容量500mlのポリアミド容器に加えた。
比表面積(m2/g) 平均メジアン径(μm)
In2O3粉末 15 5
Ga2O3粉末 14 5
ZnO粉末 4 2
ここで、比表面積とは、BET法で測定した値である。
平均メジアン径はレーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)を用いて測定した粒度分布から求める。
さらに、当該ポリアミド容器に平均直径2mmのジルコニアビーズ200g を加え混合物を得た。
この混合物を、フリッツジャパン社製遊星ボールミル装置を用いて1 時間湿式混合した。分散媒にはエタノールを用いた。各混合粉をアルミナるつぼ中、大気下、1000 ℃ で5時間仮焼した後、再び遊星ボールミル装置を用いて1時間解砕処理した。このようにして調製した仮焼粉体を一軸加圧(100kg/cm2)によって直径20mmの円板状に成形し、大気下、1500 ℃ で20時間焼結して焼結体を得た。
焼結体を粉砕しICPで分析したところ、実施例Aの含有金属の原子比がIn:Ga:Zn=33:33:34であった。X線回折(XRD)による解析の結果、結晶型は希土類酸化物C型(JCPDSカードNo.14-0564)であった。X線回折(XRD)は高角側にシフトしており、格子定数が単結晶のIn2O3より小さくなっていることが分かった。このことから、Ga、Znのどちらかあるいは両方が、酸化インジウムの希土類酸化物C型の結晶構造に固溶置換して結晶の単位格子を小さくしていると思われる。
【0112】
(2)比較例
比表面積及び平均粒径がそれぞれ以下の通りのIn2O3 、Ga2O3及びZnOの各粉末を、容量500mlのポリアミド容器に加えた。
比表面積(m2/g) 平均メジアン径(μm)
In2O3粉末 11 4
Ga2O3粉末 11 4
ZnO粉末 9 3
さらに当該ポリアミド容器に、平均直径2mmのジルコニアビーズ200g を加え混合物を得た。
この混合物を大気下、1400 ℃ で2時間焼結した以外は実施例Aと同様にして酸化物焼結体を得た。
焼結体を粉砕しICPで分析したところ、比較例Aの含有金属の原子比がIn:Ga:Zn=33:33:34であった。X線回折(XRD)による解析の結果、結晶型は希土類酸化物C型ではなく、結晶型は特許文献4、5、7と同様のInGaZnO4(JCPDSカードNo.38-1104)であった。
【0113】
実施例Aのような酸化インジウムが全体の1/3程度しか含まれていない複合元素からなる酸化物の結晶型が、酸化インジウム由来の希土類酸化物C型を示すことは、驚くべきことである。
また、同一の組成で比較すると希土類酸化物C型の結晶構造を示す場合の方が従来に比べて、密度が高くバルク抵抗も低かった。
組成、焼結条件を変え同様に焼結し、実施例A〜D及び比較例A及びBの焼結体の物性等の結果を表5にまとめた。また、図15〜20に実施例A〜Dと比較例A及びBのX線回折(XRD)データを示す。
【0114】
【表5】
【0115】
<スパッタリングターゲットの作製>
(実施例13)
比表面積15m2/g、平均メジアン径5μm、純度99.99%のIn2O3粉、比表面積14m2/g、平均メジアン径5μm、純度99.99%のGa2O3粉、及び比表面積4m2/g、平均メジアン径2μm、純度99.99%のZnO粉末を配合し、各原料粉末の平均メジアン径が1μm以下になるまで混合、粉砕を行った。ここで、比表面積は、BET法で測定した値をいい、平均メジアン径はレーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)を用いて測定した粒度分布から求める。
こうして作製した混合物を、混合物の供給速度140ml/min、熱風温度140℃、熱風量8Nm3/minの条件で、スプレードライヤーを用いて急速乾燥造粒し、造粒物を冷間静水圧プレスにて25℃下、3000kg/cm2の圧力で成形し、成形体を得た。
【0116】
次に、この成形体を大気中にて、成形体の表面温度で600℃までは0.5℃/分の速度で昇温し、酸素ガスを10L/分の流速で導入しながら、600〜800℃までは1℃/分の速度で、さらに800〜1500℃の温度範囲では3℃/分の速度で昇温した。その後、1500℃にて2時間の保持を行い、焼結体を得た。
得られた焼結体をICPで分析し、組成が酸素を除く原子比でIn:Ga:Zn=35:20:45であることを確認した。また、得られた焼結体の密度を、焼結体の質量と幾何学的な寸法より算出した。X線回折結果により焼結体が希土類酸化物C型(JCPDSカードNo.14-0564)の多結晶からなることを確認した。格子定数aは、10.05Åであった。
また、酸素欠損量dは、1×10-3、ターゲット内における亜鉛以外の、陽性元素のばらつきの範囲が3 % 以内、焼結体内における密度のばらつきの範囲が3 % 以内、焼結体内におけるフェレー径2μm以上のピンホール数が単位面積当たり5個/mm2以下であった。また、EPMAで測定した平均結晶粒径は17μmであった。
【0117】
[実施例14〜35及び比較例10〜23]
焼結時間、焼結温度、組成、原料、造粒方法が異なる以外は実施例1と同様にして酸化物の焼結体を得た。なお、実施例15のEPMA図を示す(図14)。
【0118】
[評価]
バルク抵抗、坑折強度、焼結時のクラックの有無を評価した。得られた結果を表6に示す。なお、評価は下記の方法で行った。
相対密度
・原料粉の密度から計算した理論密度とアルキメデス法で測定した焼結体の密度から下記で計算した。
相対密度=(アルキメデス法で測定した密度)÷(理論密度)×100 (%)
平均結晶粒径
・焼結体を樹脂に包埋し、その表面を粒径0.05μmのアルミナ粒子で研磨した後、X線マイクロアナライザー(EPMA)であるJXA−8621MX(日本電子社製)により焼結体表面の40μm×40μm四方の枠内で観察される結晶粒子の最大径を5箇所で測定し、その平均を平均結晶粒径とした。
【0119】
バルク抵抗
・抵抗率計(三菱化学(株)製、ロレスタ)を使用し四探針法(JIS R 1637)に基づき測定、10箇所の平均値をバルク抵抗値とした。
バルク抵抗の均一性
・同一ターゲット表面10箇所のバルク抵抗を測定し、最大値と最小値の比(最大値/最小値)を測定した。その結果、均一性の良い方から順に、5以内:◎、10以内:○、20以内:△、20より大:×として、4段階で評価した。
坑折強度(曲げ強さ)
・抗折試験器を用いてJIS R1601に基づいて評価した。
焼結時のクラック
・焼結直後に肉眼で目視し、クラック発生の有無を確認した。
【0120】
X線回折測定(XRD)
・装置:(株)リガク製Ultima−III
・X線:Cu−Kα線(波長1.5406Å、グラファイトモノクロメータにて単色化)
・2θ−θ反射法、連続スキャン(1.0°/分)
・サンプリング間隔:0.02°
・スリット DS、SS:2/3°、RS:0.6mm
【0121】
【表6】
【表7】
【0122】
<スパッタリングターゲットの作製>
実施例13〜35及び比較例10〜23の焼結体からスパッタリングターゲットを切り出した。実施例13〜35及び比較例10〜23の焼結体の側辺をダイヤモンドカッターで切断して、表面を平面研削盤で研削して表面粗さRa5μm以下のターゲット素材とした。次に、表面をエアーブローし、さらに周波数25〜300KHzの間で25KHz刻みに12種類の周波数を多重発振させて3分間超音波洗浄を行なった。この後、ターゲット素材をインジウム半田にて無酸素銅製のバッキングプレートにボンディングしてターゲットとした。ターゲットの表面粗さRa≦0.5μmであり、方向性のない研削面を備えていた。
【0123】
<スパッタリング試験>
上述のようにして作製された実施例13〜35及び比較例10〜23のスパッタリングターゲットを用い、RFマグネトロンスパッタリング及びDCマグネトロンスパッタリングをそれぞれ行い、スパッタリングの状態を評価した。具体的に、RFマグネトロンスパッタリングは、RFマグネトロンスパッタリング成膜装置(神港精機(株)製)に装着し、ガラス基板(コーニング1737)上に酸化物半導体膜を成膜した。
スパッタ条件は、基板温度;25℃、到達圧力;5×10-4Pa、雰囲気ガス;Ar98%、酸素2%、スパッタ圧力(全圧);1×10-1Pa、投入電力100W、S−T距離100mmとした。
DCマグネトロンスパッタリングは、DCマグネトロンスパッタリング成膜装置(神港精機(株)製)に装着し、ガラス基板(コーニング1737)上に酸化物半導体膜を成膜した。
スパッタ条件は、基板温度;25℃、到達圧力;5×10-4Pa、雰囲気ガス;Ar98%、酸素2%、スパッタ圧力(全圧);1×10-1Pa、投入電力100W、S−T距離100mmとした。
得られた結果を表6に示す。
【0124】
[評価]評価は下記の方法で行った。
・RFスパッタリング
異常放電:3時間あたりに発生する異常放電回数を測定した。評価は、5回以下:◎、10回以下:○、20回以下:△、30回以下:×とした。
面内均一性:同一面内の比抵抗の最大値と最小値の比( 最大値/ 最小値)を測定した。その結果、比抵抗の均一性の良い方から順に、1.05以内: ◎ 、1.10以内: ○ 、1.20以内: △ 、1.20より大: × として、4段階で評価した。
【0125】
・DCスパッタリング
異常放電:3時間あたりに発生する異常放電回数を測定した。評価は、5回以下:◎、10回以下:○、20回以下:△、30回以下:×とした。
ノジュールの発生については、◎:ほとんど無、○:若干あり、△:有り、×:多発、−:成膜不可とした。
・連続成膜安定性
連続20バッチ分における第1バッチと第20バッチの平均電界効果移動度の比(第1バッチ/第20バッチ)を測定した。その結果、TFT特性の再現性の良い方から順に、1.10以内:◎、1.20以内:○、1.50以内:△、1.50より大:×として、4段階で評価した。
・面内均一性
同一面内の比抵抗の最大値と最小値の比(最大値/最小値)を測定した。その結果、比抵抗の均一性の良い方から順に、1.05以内: ◎ 、1.10以内: ○ 、1.20以内: △ 、1.20より大: × として、4段階で評価した。
・クラック発生
スパッタリングターゲットに発生するクラッキング(ターゲットのクラック発生):成膜直後に肉眼で目視し、クラック発生の有無を確認した。
【0126】
<薄膜トランジスタ(TFT)の作製>
上述のようにして得られた実施例13〜35及び比較例10〜23のスパッタリングターゲットを、を逆スタガ型薄膜トランジスタ(以下、「薄膜トランジスタ」を単にTFTと省略することがある)中の活性層の成膜に用い、図21及び22に示す逆スタガ型TFTを作製した。まず、基板として、無アルカリガラス製のガラス基板(コーニング社製Corning1737)を準備した。この基板上に電子ビーム蒸着法により、厚さ5nmのTiと厚さ50nmのAuと厚さ5nmのTiをこの順で積層した。積層した膜をフォトリソグラフィー法とリフトオフ法を用いることにより、ゲート電極を形成した。得られたゲート電極の上部表面に、厚さ200nmのSiO2膜をTEOS−CVD法により成膜し、ゲート絶縁膜を形成した。
続いて、RFスパッタ法により、上記の焼結体をターゲットとして、半導体層として厚さ30nmのアモルファス酸化物薄膜(In−Ga−Zn−O酸化物半導体)を堆積した。ここで、投入したRF電源の出力は200Wであった。成膜時は、全圧0.4Paとし、その際のガス流量比はAr:O2=95:5とした。また、基板温度は25℃であった。
堆積したアモルファス酸化物薄膜を用い、フォトリソグラフィー法とエッチング法を用いて、それぞれの素子の上に厚さ5nmのTiと厚さ50nmのAuと厚さ5nmのTiをこの順で積層し、フォトリソグラフィー法とリフトオフ法により、ソース電極およびドレイン電極を形成し、W=100μm、L=20μmの素子を作成した。得られた素子を大気圧下、300℃で60分間熱処理を行い、薄膜トランジスタを得た。さらに素子の上にスパッタ法により保護膜としてSiO2膜を200nm堆積した。
【0127】
[評価]
評価は下記の方法で行った。
・移動度・オンオフ比
半導体パラメーターアナライザー(ケースレー4200)を用い、ドライ窒素中・室温(25℃)・遮光環境下で測定した。
・TFT特性の均一性
得られた薄膜トランジスタ内のVg(ゲート電圧)=6Vにおけるオン電流の最大値と最小値の比(最大値/最小値)を測定した。その結果、TFT特性の均一性の良い方から順に、1.05以内:◎、1.10以内:○、1.20以内:△、1.20より大:×として、4段階で評価した。
・TFT特性の再現性
連続20バッチ分における第1バッチと第20バッチの移動度の比(第1バッチ/第20バッチ)を測定した。その結果、TFT特性の再現性の良い方から順に、1.10以内:◎、1.20以内:○、1.50以内:△、1.50より大:×として、4段階で評価した。
【0128】
●本発明のその他の態様
本発明は、さらに以下の(a)〜(c)の態様であっても良い。
(a) 本発明のその他の態様は、
〔1〕ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、組成式In2Ga2ZnO7で表されるYb2Fe3O7構造化合物を含む酸化物焼結体から成るスパッタリングターゲットに関する。
〔2〕前記酸化物焼結体中のインジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たすような組成範囲にある、〔2〕に記載のスパッタリングターゲットに関する。
0.5<In/(In+Ga)<0.98、0.6<Ga/(Ga+Zn)<0.99
〔3〕酸化物焼結体の相対密度が80%以上である、〔1〕又は〔2〕に記載のスパッタリングターゲットに関する。
〔4〕酸化物焼結体のバルク比抵抗が1×10-2Ωcm以下である、〔1〕〜〔3〕のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲットに関する。
〔5〕前記酸化インジウムと前記In2Ga2ZnO7のInの一部が、正四価以上の金属元素(X)により固溶置換される、〔1〕〜〔4〕のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲットに関する。
〔6〕前記正四価以上の金属元素(X)が原子比で(正四価以上の金属元素(X))/(酸化物焼結体中の全金属元素)=100ppm〜10000ppmの割合で固溶置換される、〔5〕に記載のスパッタリングターゲットに関する。
〔7〕前記正四価以上の金属元素(X)が、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン及びチタンからなる群から選ばれた1種以上の元素である、〔5〕又は〔6〕に記載のスパッタリングターゲットに関する。
〔8〕(a) 原料酸化物粉末を混合する工程;
(b)得られた混合物を成形する工程;及び
(c)得られた成形体を1200℃以上1600℃未満で焼成する工程
を含む、〔1〕〜〔7〕のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲットの製造法に関する。
〔9〕〔1〕〜〔7〕のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲットを用い、25〜450℃の成膜温度下でスパッタリングを行う工程を含んだ、電子キャリア濃度が1×1018/cm3未満のアモルファス酸化物薄膜を形成する方法に関する。
〔10〕前記アモルファス酸化物薄膜が、薄膜トランジスタのチャネル層用の薄膜である、〔9〕に記載の方法に関する。
〔11〕アモルファス酸化物薄膜と酸化物絶縁体層とを含む薄膜トランジスタの製造方法であって、
(i)〔9〕で形成されたアモルファス酸化物薄膜を、酸化雰囲気中で熱処理する工程;及び
(ii)前記熱処理したアモルファス酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程、
を含む、薄膜トランジスタの製造方法に関する。
〔12〕〔11〕に記載の薄膜トランジスタの製造方法により製造した薄膜トランジスタを備えた半導体装置に関する。
【0129】
(b)本発明のその他の態様は、
〔1〕ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、InGaO3(ZnO)m (mは1〜4の自然数)で表される1又は2種類以上のホモロガス構造化合物を含む酸化物焼結体から成るスパッタリングターゲットに関する。
〔2〕前記酸化物焼結体中のインジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たすような組成範囲にある、〔1〕に記載のスパッタリングターゲットに関する。
0.5<In/(In+Ga)<0.99、0.2<Zn/(In+Ga+Zn)<0.7
〔3〕前記酸化インジウム、又は前記1又は2種類以上のホモロガス構造化合物のInの一部が正四価以上の金属元素により固溶置換される、〔1〕又は〔2〕に記載のスパッタリングターゲットに関する。
〔4〕前記正四価以上の金属元素が原子比で(正四価以上の金属元素)/(酸化物焼結体中の全金属元素)=100ppm〜10000ppmの割合で固溶置換される、〔3〕に記載のスパッタリングターゲットに関する。
〔5〕前記正四価以上の金属元素がスズ、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、チタンから選ばれた1種類以上の元素である、〔3〕又は〔4〕に記載のスパッタリングターゲットに関する。
〔6〕前記酸化物焼結体のバルク比抵抗が1×10-2Ωcm以下である、〔1〕〜〔5〕のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲットに関する。
〔7〕前記酸化物焼結体の相対密度が80%以上である、〔1〕〜〔6〕のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲットに関する。
〔8〕(a) 原料酸化物粉末を混合する工程;
(b)得られた混合物を成形する工程;及び
(c)得られた成形体を1200℃以上1400℃以下で焼成する工程
を含む、〔1〕〜〔7〕のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲットの製造法に関する。
〔9〕〔1〕〜〔7〕のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲットを用い、25〜450℃の成膜温度下でスパッタリングを行う工程を含んだ、電子キャリア濃度が1×1018/cm3未満のアモルファス酸化物薄膜を形成する方法に関する。
〔10〕前記アモルファス酸化物薄膜が、薄膜トランジスタのチャネル層用の薄膜である、〔9〕に記載の方法に関する。
〔11〕アモルファス酸化物薄膜と酸化物絶縁体層とを含む薄膜トランジスタの製造方法であって、
(i)〔9〕で形成されたアモルファス酸化物薄膜を、酸化雰囲気中で熱処理する工程;及び
(ii)前記熱処理したアモルファス酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程、
を含む薄膜トランジスタの製造方法に関する。
〔12〕〔11〕に記載の薄膜トランジスタの製造方法により製造した薄膜トランジスタを備えた半導体装置に関する。
【0130】
(c)本発明のその他の態様は、
[1]酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、In(インジウム)を24〜49原子%含み、希土類酸化物C型の結晶構造を持つことを特徴とする酸化物に関する。
[2]酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、In(インジウム)を24〜49原子%、Ga(ガリウム)を10〜49原子%、Zn(亜鉛)を5〜65原子%含み、希土類酸化物C型の結晶構造を持つことを特徴とする[1]の酸化物に関する。
[3]格子定数a<10.12Åであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の酸化物に関する。
[4][1]〜[3]のいずれかに記載の酸化物からなることを特徴とする酸化物焼結体に関する。
[5]平均結晶粒径が20μm以下の希土類酸化物C型の結晶構造を持つことを特徴とする酸化物焼結体に関する。
[6][4]又は[5]に記載の酸化物焼結体からなることを特徴とするターゲットに関する。
[7]酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、正四価以上の金属元素10〜10000ppm含むことを特徴とする[6]に記載のターゲットに関する。
[8]相対密度が90%以上、バルク抵抗が0.1〜100mΩ・cmの範囲内であることを特徴とする[6]又は[7]に記載のスパッタリングターゲットに関する。
[9]
(a)インジウム化合物の粉末、亜鉛化合物の粉末、ガリウム化合物の粉末を配合した混合物を得る工程と、
(b)該混合物を加圧成形し成形体を作る工程と、
(c)該成形体を焼結する工程と、
を含む[6]〜[8]のいずれかに記載のスパッタリングターゲットの製造方法に関する。
[10] [6]〜[8]のいずれかに記載のスパッタリングターゲットを利用したスパッタリング法により成膜してなる酸化物薄膜に関する。
[11] [10]に記載の酸化物薄膜を用いた薄膜トランジスタに関する。
【符号の説明】
【0131】
1 基板
2 ゲート電極
3 ゲート絶縁膜
4 チャネル層
5 ソース電極
6 ドレイン電極
7 保護膜
11 基板
12 ゲート電極
13 ゲート絶縁膜
14 チャネル層
15 ソース電極
16 ドレイン電極
17 保護膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビックスバイト構造を有し、酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化亜鉛を含有する酸化物焼結体であって、インジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たす組成範囲にある焼結体。
In/(In+Ga+Zn)<0.75
【請求項2】
さらに、インジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の酸化物焼結体。
0.10<Ga/(In+Ga+Zn)<0.49
【請求項3】
さらに、インジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化物焼結体。
0.05<Zn/(In+Ga+Zn)<0.65
【請求項4】
ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、組成式In2Ga2ZnO7で表されるYb2Fe3O7構造化合物とを含む酸化物焼結体。
【請求項5】
前記酸化物焼結体中のインジウム(In)、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たすような組成範囲にある、請求項4に記載の酸化物焼結体。
0.5<In/(In+Ga)<0.98、0.6<Ga/(Ga+Zn)<0.99
【請求項6】
前記酸化インジウムと前記In2Ga2ZnO7のInの一部が、正四価以上の金属元素(X)により固溶置換される、請求項4又は5に記載の酸化物焼結体。
【請求項7】
ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、InGaO3(ZnO)m (mは1〜4の自然数)で表される1又は2種類以上のホモロガス構造化合物とを含む酸化物焼結体。
【請求項8】
前記酸化物焼結体中のインジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たすような組成範囲にある、請求項7に記載の酸化物焼結体。
0.5<In/(In+Ga)<0.99、0.2<Zn/(In+Ga+Zn)<0.7
【請求項9】
前記酸化インジウム、又は前記1又は2種類以上のホモロガス構造化合物のInの一部が正四価以上の金属元素により固溶置換される、請求項7又は8に記載の酸化物焼結体。
【請求項10】
酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、In(インジウム)を24〜49原子%含み、希土類酸化物C型の結晶構造を持つことを特徴とする酸化物焼結体。
【請求項11】
酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、In(インジウム)を24〜49原子%、Ga(ガリウム)を10〜49原子%、Zn(亜鉛)を5〜65原子%含み、希土類酸化物C型の結晶構造を持つことを特徴とする請求項10の酸化物焼結体。
【請求項12】
希土類酸化物C型の結晶構造を構成するInの一部が正四価以上の金属元素により固溶置換される請求項10又は11に記載の酸化物焼結体
【請求項13】
平均結晶粒径が20μm以下の希土類酸化物C型の結晶構造を持つことを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項に記載の酸化物焼結体。
【請求項14】
相対密度が80%以上である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の酸化物焼結体。
【請求項15】
相対密度が90%以上である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の酸化物焼結体。
【請求項16】
バルク抵抗が0.1〜100mΩ・cmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の酸化物焼結体。
【請求項17】
バルク抵抗が1×10-2Ωcm以下である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の酸化物焼結体。
【請求項18】
格子定数a<10.12Åであることを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の酸化物焼結体。
【請求項19】
酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、正四価以上の金属元素10〜10000ppm含むことを特徴とする請求項6、9、12〜18のいずれかに記載の酸化物焼結体。
【請求項20】
前記正四価以上の金属元素(X)が原子比で(正四価以上の金属元素(X))/(酸化物焼結体中の全金属元素)=100ppm〜10000ppmの割合で固溶置換される、請求項6、9、12〜18のいずれかに記載の酸化物焼結体。
【請求項21】
前記正四価以上の金属元素(X)が、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン及びチタンからなる群から選ばれた1種以上の元素である、請求項19又は20に記載の酸化物焼結体。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれかに記載の酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲット。
【請求項23】
(a) 原料酸化物粉末を混合する工程;
(b)得られた混合物を成形する工程;及び
(c)得られた成形体を1200℃以上1600℃未満で焼成する工程
を含む、請求項4〜9又は14〜21のいずれか1項に記載の酸化物焼結体の製造法。
【請求項24】
(a) 原料酸化物粉末を混合する工程;
(b)得られた混合物を成形する工程;及び
(c)得られた成形体を1200℃以上1400℃以下で焼成する工程
を含む、請求項4〜9又は14〜21のいずれか1項に記載の酸化物焼結体の製造法。
【請求項25】
(a) 原料酸化物粉末を混合する工程;
(b)得られた混合物を成形する工程;及び
(c)得られた成形体を1450℃以上1600℃未満で焼成する工程
を含む、請求項10〜21のいずれか1項に記載の酸化物焼結体の製造法。
【請求項26】
請求項22に記載のスパッタリングターゲットを利用したスパッタリング法により成膜してなる酸化物薄膜。
【請求項27】
請求項22に記載のスパッタリングターゲットを用い、25〜450℃の成膜温度下でスパッタリングを行う工程を含んだ、電子キャリア濃度が1×1018/cm3未満のアモルファス酸化物薄膜を形成する方法。
【請求項28】
前記アモルファス酸化物薄膜が、薄膜トランジスタのチャネル層用の薄膜である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
アモルファス酸化物薄膜と酸化物絶縁体層とを含む薄膜トランジスタの製造方法であって、
(i)請求項27に記載の方法で形成されたアモルファス酸化物薄膜を、酸化雰囲気中で熱処理する工程;
及び
(ii)前記熱処理したアモルファス酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程、
を含む、薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項30】
請求項29に記載の薄膜トランジスタの製造方法により製造した薄膜トランジスタを備えた半導体装置。
【請求項1】
ビックスバイト構造を有し、酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化亜鉛を含有する酸化物焼結体であって、インジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たす組成範囲にある焼結体。
In/(In+Ga+Zn)<0.75
【請求項2】
さらに、インジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の酸化物焼結体。
0.10<Ga/(In+Ga+Zn)<0.49
【請求項3】
さらに、インジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化物焼結体。
0.05<Zn/(In+Ga+Zn)<0.65
【請求項4】
ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、組成式In2Ga2ZnO7で表されるYb2Fe3O7構造化合物とを含む酸化物焼結体。
【請求項5】
前記酸化物焼結体中のインジウム(In)、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たすような組成範囲にある、請求項4に記載の酸化物焼結体。
0.5<In/(In+Ga)<0.98、0.6<Ga/(Ga+Zn)<0.99
【請求項6】
前記酸化インジウムと前記In2Ga2ZnO7のInの一部が、正四価以上の金属元素(X)により固溶置換される、請求項4又は5に記載の酸化物焼結体。
【請求項7】
ビックスバイト構造を有する酸化インジウムと、InGaO3(ZnO)m (mは1〜4の自然数)で表される1又は2種類以上のホモロガス構造化合物とを含む酸化物焼結体。
【請求項8】
前記酸化物焼結体中のインジウム(In) 、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)の組成量が原子比で以下の式を満たすような組成範囲にある、請求項7に記載の酸化物焼結体。
0.5<In/(In+Ga)<0.99、0.2<Zn/(In+Ga+Zn)<0.7
【請求項9】
前記酸化インジウム、又は前記1又は2種類以上のホモロガス構造化合物のInの一部が正四価以上の金属元素により固溶置換される、請求項7又は8に記載の酸化物焼結体。
【請求項10】
酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、In(インジウム)を24〜49原子%含み、希土類酸化物C型の結晶構造を持つことを特徴とする酸化物焼結体。
【請求項11】
酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、In(インジウム)を24〜49原子%、Ga(ガリウム)を10〜49原子%、Zn(亜鉛)を5〜65原子%含み、希土類酸化物C型の結晶構造を持つことを特徴とする請求項10の酸化物焼結体。
【請求項12】
希土類酸化物C型の結晶構造を構成するInの一部が正四価以上の金属元素により固溶置換される請求項10又は11に記載の酸化物焼結体
【請求項13】
平均結晶粒径が20μm以下の希土類酸化物C型の結晶構造を持つことを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項に記載の酸化物焼結体。
【請求項14】
相対密度が80%以上である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の酸化物焼結体。
【請求項15】
相対密度が90%以上である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の酸化物焼結体。
【請求項16】
バルク抵抗が0.1〜100mΩ・cmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の酸化物焼結体。
【請求項17】
バルク抵抗が1×10-2Ωcm以下である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の酸化物焼結体。
【請求項18】
格子定数a<10.12Åであることを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の酸化物焼結体。
【請求項19】
酸素を除く全原子の原子数を100原子%とした場合に、正四価以上の金属元素10〜10000ppm含むことを特徴とする請求項6、9、12〜18のいずれかに記載の酸化物焼結体。
【請求項20】
前記正四価以上の金属元素(X)が原子比で(正四価以上の金属元素(X))/(酸化物焼結体中の全金属元素)=100ppm〜10000ppmの割合で固溶置換される、請求項6、9、12〜18のいずれかに記載の酸化物焼結体。
【請求項21】
前記正四価以上の金属元素(X)が、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン及びチタンからなる群から選ばれた1種以上の元素である、請求項19又は20に記載の酸化物焼結体。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれかに記載の酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲット。
【請求項23】
(a) 原料酸化物粉末を混合する工程;
(b)得られた混合物を成形する工程;及び
(c)得られた成形体を1200℃以上1600℃未満で焼成する工程
を含む、請求項4〜9又は14〜21のいずれか1項に記載の酸化物焼結体の製造法。
【請求項24】
(a) 原料酸化物粉末を混合する工程;
(b)得られた混合物を成形する工程;及び
(c)得られた成形体を1200℃以上1400℃以下で焼成する工程
を含む、請求項4〜9又は14〜21のいずれか1項に記載の酸化物焼結体の製造法。
【請求項25】
(a) 原料酸化物粉末を混合する工程;
(b)得られた混合物を成形する工程;及び
(c)得られた成形体を1450℃以上1600℃未満で焼成する工程
を含む、請求項10〜21のいずれか1項に記載の酸化物焼結体の製造法。
【請求項26】
請求項22に記載のスパッタリングターゲットを利用したスパッタリング法により成膜してなる酸化物薄膜。
【請求項27】
請求項22に記載のスパッタリングターゲットを用い、25〜450℃の成膜温度下でスパッタリングを行う工程を含んだ、電子キャリア濃度が1×1018/cm3未満のアモルファス酸化物薄膜を形成する方法。
【請求項28】
前記アモルファス酸化物薄膜が、薄膜トランジスタのチャネル層用の薄膜である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
アモルファス酸化物薄膜と酸化物絶縁体層とを含む薄膜トランジスタの製造方法であって、
(i)請求項27に記載の方法で形成されたアモルファス酸化物薄膜を、酸化雰囲気中で熱処理する工程;
及び
(ii)前記熱処理したアモルファス酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程、
を含む、薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項30】
請求項29に記載の薄膜トランジスタの製造方法により製造した薄膜トランジスタを備えた半導体装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2013−100224(P2013−100224A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−288870(P2012−288870)
【出願日】平成24年12月28日(2012.12.28)
【分割の表示】特願2010−515937(P2010−515937)の分割
【原出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年12月28日(2012.12.28)
【分割の表示】特願2010−515937(P2010−515937)の分割
【原出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】
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