説明

酸化物触媒粒子の担持方法

【課題】本発明は、酸化物触媒粒子の無機質多孔体への新しい担持方法に係り、従来のバインダーの範疇にはない分散剤を用いた触媒粒子の担持方法を提供する。
【解決手段】本発明の酸化物触媒粒子の担持方法は、ニトロセルロースを含有する分散媒に酸化物触媒粒子を懸濁させてなる分散液を、浸漬法又は吹き付け法により支持体上に塗布した後、乾燥・熱処理して分散媒並びにニトロセルロースを除去するとともに、前記酸化物触媒粒子を支持体上に担持させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化物触媒粒子の担持方法に関するものであり、更にいえば、酸化物触媒粒子の無機質多孔体への新しい担持方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化物触媒粒子を支持体上に担持し、この酸化物触媒粒子を触媒として有害物質の分解等に用いることが提案されているが、従来から行われている酸化物触媒粒子の担持方法は、有機或いは無機物のバインダーを含む(主として)水溶液に酸化物触媒粒子を懸濁させ、浸漬法によりこの溶液から支持体上に担持する方法が採用されていた。
【0003】
以下、本発明を主として熱触媒に用いる場合をもって説明すると、触媒粒子を支持体に強固に担持することは必須条件であり、この点の解決が充分ではなかった。又、強固な担持のために通常ではバインダーを用いるが、触媒反応は触媒粒子の表面反応であるので、触媒表面がバインダー等で被覆されないことが好ましいことはいうまでもない。これまでの担持方法では、触媒表面をバインダーが覆ってしまうため、必ずしもこの問題が解決されていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明にあっては、全く新たな従来のバインダーの範疇にはない分散剤を用いた触媒粒子の担持方法を提供し、上述の二つの問題点を解決したものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の酸化物触媒粒子の担持方法は、言ってみれば、酸化物触媒粒子の無機質多孔体への新しい担持方法に係るもので、ニトロセルロースを含有する分散媒に酸化物触媒粒子を懸濁させてなる分散液を、浸漬法又は吹き付け法により支持体上に塗布した後、乾燥・熱処理して分散媒並びにニトロセルロースを除去するとともに、前記酸化物触媒粒子を支持体上に担持させることを特徴とするものである。
尚、ニトロセルロースは分散媒中にモノマー換算で10乃至100mM含まれる。
【0006】
支持体が多孔質無機材料であり、ハニカム構造或いは三次元網状骨格構造の材料の場合には、分散媒を浸漬法により塗布する方法が採られ、SUSメッシュを複数枚積層させた擬似ハニカム体の場合には、分散媒を吹き付け法により塗布するのがよい。
尚、前記分散媒がケトン系並びにエステル系の有機溶剤であり、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンとジアセトンアルコールとの混合液、アセトンとイソプロピルアルコールとの混合液、アセトンとトルエンの混合液、酢酸エチルと酢酸イソアミル、酢酸ブチルとブチルアルコールの混合液から選択された少なくとも一種の溶剤である。
【発明の効果】
【0007】
ここで、ニトロセルロースの役割を中心に述べれば、酸化物触媒粒子の分散性( 分散剤効果)を良好ならしめ、更に、支持体上への濡性(界面活性剤効果)の向上が顕著であり、酸化物触媒粒子を均質かつ確実に担持させ、しかも、比較的低温域での加熱によってニトロセルロースを完全分解させて除去することができることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の最小限の条件は、支持体に塗布(浸漬又は吹き付け)する酸化物触媒粒子の分散液が、ニトロセルロースを含有することである。その好適含有量はニトロセルロースの重合度・硝化度並びに酸化物触媒粒子の比表面積によって変わるが、概ねモノマー換算で10乃至100mM、特に、10乃至20mM程度である。尚、この含有量が少なすぎると分散効果が低くなり、実際の使用には適さない。又、多すぎる場合には、使用できないことはないが、粘度が高くなり扱いにくくなり、塗膜の均一性や緻密度が損なわれることにもなるので、使用量は最小限がよいことはいうまでもなく、実用的には除外されるべきであろう。
【0009】
ニトロセルロースは分散液中の酸化物触媒粒子の表面に吸着し、この粒子の分散性を向上させるとともに、分散液の支持体へ塗布の際の界面活性剤としても作用し、顕著な濡性を示すという大きな特徴を有している。
【0010】
そして、かかるニトロセルロースは、約180℃以上に熱することで完全燃焼し飛散するので、担持された酸化物触媒粒子を熱触媒等として用いる場合、使用されたニトロセルロースは担持された触媒(酸化物粒子)中には存在せず、酸化物触媒粒子が表面にそのまま万遍なく強固に担持していることとなり、触媒として優れた効果を発揮する。即ち、熱処理によりニトロセルロースが燃焼除去された状態では、ファンデルワールス力により、酸化物粒子が支持体上に強固に担持するものである。
【0011】
尚、ニトロセルロースには種々の硝化度並びに重合度のものがあるが、例えば、韓国CNC社製のものにあっては、重合度の違いにより、RS1/16、RS1/2、RS20、RS60、RS1/120(夫々114、190、584、724、832)の商品がある。本発明では、どの重合度でも使用可能であるが、中でもRS1/2とRS20との1:1混合物(重量比)やRS60が最適と考える。
【0012】
ニトロセルロースは、硝化度にもよるが、一般にケトン類、エステル類に溶解し、アルコール類には一部溶解する。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンとジアセトンアルコールとの混合液、アセトンとイソプロピルアルコールとの混合液、アセトンとトルエンの混合液、酢酸エチルと酢酸イソアミル、酢酸ブチルとブチルアルコールの混合液から選択された少なくとも一種の溶剤が挙げられる。
【0013】
支持体上に担持される酸化物触媒粒子は、酸化物半導体であり、例えばTiO、 ZnO、Cr,Y、NiO、SnO、CeO、WO等から選択された少なくとも一種の酸化物触媒粒子である。
【0014】
これらの酸化物触媒粒子は、酸化物系の支持体(例えば、コージライトハニカム:2MgO・Al・5SiO)或いは活性炭ハニカムとの熱膨張係数も近く、ニトロセルロース系分散液で担持したものは、室温と500℃程度の熱履歴を繰り返しても剥離することはない。
【0015】
分散液の標準的な組成として一例を挙げれば、アセトン500ml、ニトロセルロース(RS60)1.25g、酸化物触媒粒子100gであり、前記したように、ニトロセルロースの量は、酸化物触媒粒子の比表面積の増加とともに増やす必要がある。
【0016】
更に、酸化物触媒粒子に負の電荷を与え、電気的な反発に基づく分散性を向上させる目的で、溶液中に少量の硫酸や燐酸を加えることもできる。
【0017】
本発明で用いられる支持体は、通常多孔質無機材料であり、具体的には、ハニカム構造或いはウレタンフォームを骨格とした三次元網状骨格構造の無機材料が例示され、これらに対しては分散液の塗布方法として浸漬法が好ましく採用される。
【0018】
一方、SUSメッシュを複数枚積層した擬似ハニカム構造の支持体については、単層のSUSメッシュに分散液を塗布乾燥してから積層するのが好ましいので、分散液の塗布方法として浸漬法ばかりでなく吹き付け法も適用可能である。
【0019】
本発明においては、担持する酸化物触媒粒子の付着性、担持体の例えば熱酸化触媒としての使用条件下での安定性、入手の容易性等の面から、多孔質無機材料がコージライト又は活性炭で構成されるのが好ましい。
【0020】
本発明において、分散剤を飛散させる乾燥工程とニトロセルロースを除去する熱処理工程を連続して行ってもよいが、担持体の使用時に180℃以上の加熱が行われるのであれば、その際にニトロセルロースを除去するようにしてもよい。
【実施例】
【0021】
(実施例1)
アセトン500ml、ニトロセルロース(RS60)1.25g、酸化チタン(ST10:石原産業)100gからなる分散液を攪拌子の入ったビーカーに入れる。上部より、コージライトハニカム(C600:京セラ)を分散液に約5cm/秒の速度で浸漬させ、約3秒間浸漬状態を保った。その後、約5cm/秒の速度で引き上げ、ヘアドライヤーで乾燥させた。この浸漬操作を2度繰り返した。
電子顕微鏡にてハニカムの表面を観察したところ、酸化チタン層が一様に緻密に形成されていることが分かった。更に、この酸化チタンを付与したハニカムについて、常温〜500℃で2時間加熱する熱履歴操作を10回繰り返したが、担持物にひび割れが生じることもなく、又、剥離することもなかった。
【0022】
(実施例2)
実施例1の酸化チタンの代わりに、酸化スズ(SnO:和光純薬)を使用し、コージライトハニカム(C600:京セラ)に同様の浸漬実験を行った。酸化チタンと同様の良好な結果が得られた。
【0023】
(実施例3)
実施例1の酸化チタンの代わりに、酸化亜鉛(ZnO:SAZEX:堺化学)を使用し、コージライトハニカム(C600:京セラ)に同様の浸漬実験を行った。酸化チタンと同様の良好な結果が得られた。
【0024】
(実施例4)
実施例1の酸化チタンの代わりに、酸化セリウム(CeO:日亜化学)を使用し、コージライトハニカム(C600:京セラ)に同様の浸漬実験を行った。酸化チタンと同様の良好な結果が得られた。
【0025】
(実施例5)
実施例1の酸化チタンの代わりに、酸化タングステン(WO:和光純薬)を使用し、コージライトハニカム(C600:京セラ)に同様の浸漬実験を行った。酸化チタンと同様の良好な結果が得られた。
【0026】
(実施例6)
実施例1で、コージライトハニカム(C600:京セラ)の代わりに、活性炭ハニカム(TC700:京セラ)を用いて同様の担持実験を行った。
電子顕微鏡にてハニカムの表面を観察したところ、酸化チタン層が一様に緻密に形成されていることが分かった。更に、この酸化チタンを付与したハニカムについて、前例と同様の熱履歴操作を回繰り返したが、担持物にひび割れが生じることもなく、又、剥離することもなかった。
【0027】
(実施例7)
メチルエチルケトン500ml、ニトロセルロース(RS60)1.35g、酸化クロム(Cr:和光純薬)60gからなる分散液を攪拌子の入ったビーカーに入れる。上部より、コージライトハニカム(C600:京セラ)を分散液に約5cm/秒の速度で浸漬させ、約3秒間浸漬状態を保った。その後、約5cm/秒の速度で引き上げ、ヘアドライヤーで乾燥させた。この浸漬操作を2度繰り返した。
電子顕微鏡にてハニカムの表面を観察したところ、酸化クロム層が一様に緻密に形成されていることが分かった。更に、この酸化クロムを付与したハニカムについて、前例と同様の熱履歴操作を回繰り返したが、担持物にひび割れが生じることもなく、又、剥離することもなかった。
【0028】
(実施例8)
実施例7の酸化チタンの代わりに、酸化イットリウム(Y:信越化学)を使用してコージライトハニカムに同様の実験を行った。酸化チタンの場合と同様の良好な効果が得られた。
【0029】
(実施例9)
実施例7で、コージライトハニカム(C600:京セラ)の代わりに、活性炭ハニカム(TC700:京セラ)を用いて同様の担持実験を行った。この場合のニトロセルロースとして、RS1/2とRS20との1:1混合物1.4g(重量比)を用いた。
電子顕微鏡にてハニカムの表面を観察したところ、酸化クロム層が一様に緻密に形成されていることが分かった。更に、この酸化クロムを付与したハニカムについて、前例と同様の熱履歴操作を回繰り返したが、担持物にひび割れが生じることもなく、又、剥離することもなかった。
【0030】
(実施例10)
酢酸ブチルとブチルアルコールの混合溶媒(体積比:1:1)500mlにニトロセルロース(RS 1/2とRS 20を重量で1:1)1.9g、酸化ニッケル粉末(NiO:山中セミコンダクター(株))150gからなる分散液を調製した。これから50mlをエアーガンセット(アズワン(株))に採り、0.1MPの圧力でSUSメッシュシート100((株)久宝金属製作所)に10秒間吹き付けた。
電子顕微鏡にてSUSメッシュシートの表面を観察したところ、酸化ニッケル層がきれいに形成していることが分かった。更に、この酸化ニッケルを付与したハニカムについて、常温〜500℃で2時間加熱する熱履歴操作を10回繰り返したが、担持物が剥離することはなかった。
【0031】
(実施例11)
メチルイソブチルケトン500ml、ニトロセルロース(RS60)1.4g、同上の酸化ニッケル粉末100gからなる分散液を攪拌子の入ったビーカーに入れる。上部より、コージライトハニカム(C600:京セラ)を分散液に約5cm/秒の速度で浸漬させ、約3秒間浸漬状態を保った。その後、約5cm/秒の速度で引き上げ、ヘアドライヤーで乾燥させた。この浸漬操作を2度繰り返した。
電子顕微鏡にてハニカムの表面を観察したところ、酸化ニッケル層がきれいに形成していることが分かった。更に、この酸化ニッケルを付与したハニカムについて、常温〜500℃で2時間加熱する熱履歴操作を10回繰り返したが、担持物が剥離することはなかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、バインダーとしてニトロセルロースを用い、支持体上に酸化物触媒粒子を担持後に熱処理(約180℃以上)により、ニトロセルロースを完全分解させて除去する方法であり、付着した酸化物触媒粒子は、バインダーに覆われることなく露出しており、更に、室温と高温の間で繰り返し熱サイクルを行っても全く剥離しないという大きな特徴があり、高温化で用いられる熱触媒用の触媒体として特に有用である。又、酸化チタン等の光触媒をハニカム支持体に上述の方法で担持し、180℃以上で熱処理すれば、室温近傍で用いる光触媒としても有効であり、その利用価値は広い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトロセルロースを含有する分散媒に酸化物触媒粒子を懸濁させてなる分散液を、浸漬法又は吹き付け法により支持体上に塗布した後、乾燥・熱処理して分散媒並びにニトロセルロースを除去するとともに、前記酸化物触媒粒子を支持体上に担持させることを特徴とする酸化物触媒粒子の担持方法。
【請求項2】
前記分散媒がケトン系並びにエステル系の有機溶剤である請求項1記載の酸化物触媒粒子の担持方法。
【請求項3】
前記分散媒がアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンとジアセトンアルコールとの混合液、アセトンとイソプロピルアルコールとの混合液、アセトンとトルエンの混合液、酢酸エチルと酢酸イソアミル、酢酸ブチルとブチルアルコールの混合液から選択された少なくとも一種の溶剤である請求項1又は2記載の酸化物触媒粒子の担持方法。
【請求項4】
支持体が多孔質無機材料である請求項1乃至3いずれか1記載の酸化物触媒粒子の担持方法。
【請求項5】
多孔質無機材料がハニカム構造或いは三次元網状骨格構造の材料であり、分散媒を浸漬法により塗布する請求項4記載の酸化物触媒粒子の担持方法。
【請求項6】
多孔質無機材料がコージライト又は活性炭からなる請求項5記載の酸化物触媒粒子の担持方法。
【請求項7】
前記酸化物触媒粒子がTiO、 ZnO、Cr、Y、NiO、SnO、CeO、WO選択から選択された少なくとも一種の粒子である請求項1乃至6いずれか1記載の酸化物触媒粒子の担持方法。
【請求項8】
前記ニトロセルロースが分散媒中にモノマー換算で10乃至100mM含まれる請求項1乃至7いずれか1記載の酸化物触媒粒子の担持方法。
【請求項9】
前記熱処理温度が180℃以上である請求項1乃至8いずれか1記載の酸化物触媒粒子の担持方法。

【公開番号】特開2010−125371(P2010−125371A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300773(P2008−300773)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】