説明

酸化物超伝導体とその製造方法

【課題】高いジョセフソンプラズマ周波数と高い臨界電流の双方を有する酸化物超伝導体を提供する。
【解決手段】[R(M)]Cu結晶構造(ただし、R:希土類元素、M:アルカリ土類金属とする)を有する酸化物超伝導体であって、その結晶が針状であることを特徴とし、その製造方法は、下記化学式1で表される原子組成を有する前駆体の粉末の圧粉成形体を熱処理することで針状に結晶成長させることを特徴とする。(化1)R2.85CuTe(R:希土類元素。M:アルカリ土類金属。a、b、c:原子比。x:酸素量)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、[R(M)]Cu結晶構造(ただし、R:希土類元素、M:アルカリ土類金属またはCeとする)を有する酸化物超伝導体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物超伝導体の単結晶は、超伝導層と非超伝導層が交互に積層した結晶構造を有し、各層間は固有ジョセフソン接合している。かかる固有ジョセフソン接合を用いた単結晶スイッチング素子デバイスが提案されている。また高周波発振素子が提案されており、その周波数はジョセフソンプラズマ周波数に依存する。これらの素子の実現には、無欠陥もしくは、欠陥の極めて少ない単結晶が要求される。
実用観点からの酸化物超伝導体には、超伝導臨界温度が約110Kの(BiPb)SrCaCu10、約80KのBiSrCaCu、約90KのRBaCu(Rは希土類元素を表す)、および高いジョセフソンプラズマ周波数を有する[R(M)]Cu(Mはアルカリ土類金属元素またはCeを表す)の結晶構造物が知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような実情に鑑み、高いジョセフソンプラズマ周波数と高い臨界電流の双方を有する酸化物超伝導体を実現することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明1は、[R(M)]Cu結晶構造(ただし、R:希土類元素、M:アルカリ土類金属またはCeとする)を有する酸化物超伝導体であって、その結晶が針状であることを特徴とする酸化物超伝導体
【0005】
発明2は、発明1の酸化物超伝導体の製造方法であって、下記化学式1で表される原子組成を有する前駆体の粉末の圧粉成形体を熱処理することで針状に結晶成長させることを特徴とする。
(化1)
2.85CuTe
(R:希土類元素。M:アルカリ土類金属またはCe。a、b、c:原子比。x:酸素量)
【発明の効果】
【0006】
(BiPb)SrCaCu10、BiSrCaCuおよびRBaCu組成に、その融点を低減させる元素であるTe及びSbを含有する圧粉成形体から、極めて結晶性の良好な、(BiPb)SrCaCu10、BiSrCaCuおよびRBaCuの針状結晶を育成できることが報告されている。
本発明は、このような知見を利用して、高いジョセフソンプラズマ周波数を持つ[R(M)]Cu結晶構造(ただし、R:希土類元素、M:アルカリ土類金属またはCeとする)を有する酸化物超伝導体を針状化することに成功したものである。
その結果、未だ実現していない超伝導エレクトロニクス素子の実用化への可能性を開くほどに高いプラズマ周波数と臨界電流とを達成することが出来た。
また、発明2により、従来より育成困難であった酸化物超伝導体の高品位結晶を容易にかつ効率的に製造することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の酸化物超伝導体は、[R(M)]Cu結晶構造(ただし、R:希土類元素、M:アルカリ土類金属またはCeとする)を有し、その結晶が針状であることを特徴とする。
また、その製造方法は、下記化学式1で表される原子組成を有する前駆体の粉末の圧粉成形体を熱処理することで針状に結晶成長させることを特徴とする。
(化1)
2.85CuTe
(R:希土類元素。M:アルカリ土類金属またはCe。a、b、c:原子比。x:酸素量)
【実施例】
【0008】
実施例1〜14
酸化物超伝導体[R(M)]CuのR=La、M=Srの場合において構成する元素の酸化物La、CuO及び炭酸塩SrCOの各粉末に、更に酸化物TeO粉末を、表1に示す割合で含有されたLa2.85SrCuTe原子比組成(Laを2.85とした場合の組成比)の混合粉末を760℃、790℃、820℃でそれぞれ10時間仮焼した後、直径φ10mm、厚さ2mmの圧粉成形体を作製した。
【0009】
【表1】

【0010】
ここで、アルカリ土類元素に関して炭酸塩を用いたのは、酸化物より取扱いが容易なためであり、SrCO粉末のかわりに、SrO粉末を用いてもよい。この圧粉成形体を大気圧中、1280℃で10時間熱処理した後、1270℃にし100時間熱処理した後徐冷し800℃にして30時間熱処理し、室温まで徐冷し、成形体から針状結晶を育成した。育成された針状結晶の長さを表1に示す。実施例1〜14よりaが0.5〜2.45、bが1.5〜2.5、cが0.6〜0.9の場合において針状結晶が成長する(Laを2.85とした場合)。
よって、Teの含有とともに、一定量のSr、Cu含有が必要であることがわかる。従って、最も成長が良好な[R(M)]Cu(R=La、M=Sr)の針状結晶は、前駆体の組成比においてSrの含有量が1.95(a=1.95)、Cuの含有量が2.0(b=2.0)、Teの含有量が0.7(c=0.7)の場合である(実施例3)。
【0011】
図1に、La2.85Sr1.75Cu2.0Te0.6原子比組成の前駆体から育成した[R(M)]Cu(R=La、M=Sr)針状結晶の光学顕微鏡像を示す。針状の形状であることが明らかである。
また、図2に、本発明である[R(M)]Cu(R=La、M=Sr)針状結晶の電気抵抗と温度の関係を示す。かかる測定は、直流四端子法で測定した値である。これより電気抵抗がおよそ30Kにおいてゼロ抵抗になる事を確認した。
図3に、本発明である[R(M)]Cu(R=La、M=Sr)針状結晶の温度と磁化率との関係を示す。これより完全反磁性を確認した。よって針状結晶が超伝導転移する。
図4に、上記実施例3で得られた、[R(M)]Cu(R=La、M=Sr)の針状結晶のX線回折パターンを示す。本発明の針状結晶は、酸化物超伝導体[R(M)]Cu(R=La、M=Sr)結晶構造を有する単結晶である。(この針状結晶中には、Teが含有されていないことが明らかとなった。)
【0012】
実施例15〜20
熱処理温度の効果
表1において作製した圧粉成形体を、表2に示す温度より10℃高温で10時間保持した後、表2に示す温度にし100時間熱処理した。その後徐冷して、800℃にして30時間熱処理し、室温まで徐冷することで成形体から針状結晶を得た。表2には、熱処理の温度を変化させた際に育成した針状結晶の長さを示す。実施例15〜20より熱処理温度1170〜1340度において針状結晶が成長する。1270℃のとき最も成長が良好である。これらより、熱処理温度は1100℃を越え、1400℃未満とするのが妥当であるが、1150℃から前駆体の完全溶融温度以下とするのがより好ましい。
【0013】
【表2】

【0014】
実施例21
M(アルカリ土類元素)をかえた場合
酸化物超伝導体[R(M)]Cu(R=La、M=Ba)の場合において構成する元素の酸化物La、CuO及び炭酸塩BaCOの各粉末に、更に酸化物TeO粉末を、表3に示す割合で含有されたLa2.85Ba2.05Cu2.0Te0.6Ox原子比組成(Laを2.85とした場合の組成比)の混合粉末を760℃、790℃、820℃でそれぞれ10時間仮焼した後、直径φ10mm、厚さ2mmの圧粉成形体を作製した。
【0015】
【表3】

【0016】
ここで、アルカリ土類元素に関して炭酸塩を用いたのは、酸化物より取扱いが容易なためであり、BaCO粉末のかわりに、BaO粉末を用いてもよい。この圧粉成形体を大気圧中、1280℃で10時間熱処理した後、1270℃にして100時間熱処理した。その後徐冷し800℃にして30時間熱処理し、室温まで徐冷することで、成形体から針状結晶を育成した。実施例21よりM=Baの場合[R(M)]Cu(R=La、M=Ba)の針状結晶が成長する。
【0017】
これらの知見より、アルカリ土類元素としては、以下のものを使用することが可能であることが容易に類推できる。
(Ba,Sr,Ca)
さらに、これに代わりCeも可能である。
また、希土類元素としては、以下のものを使用することが可能であることが容易に類推できる。
(La,Pr,Nd,Sm,Eu)
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の[R(M)]Cu(R=La、M=Sr)針状結晶の光学顕微鏡写真
【図2】本発明の[R(M)]Cu(R=La、M=Sr)針状結晶の温度と電気抵抗との関係の線図
【図3】本発明の[R(M)]Cu(R=La、M=Sr)針状結晶の温度と磁化率との関係の線図
【図4】本発明の[R(M)]Cu(R=La、M=Sr)針状結晶のX線回折結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
[R(M)]Cu結晶構造(ただし、R:希土類元素、M:アルカリ土類金属またはCeとする)を有する酸化物超伝導体であって、その結晶形状が針状であることを特徴とする酸化物超伝導体
【請求項2】
請求項1に記載の酸化物超伝導体の製造方法であって、下記化学式1で表される原子組成を有する前駆体の粉末の圧粉成形体を熱処理することで針状に結晶成長させることを特徴とする。
(化1)
2.85CuTe
(R:希土類元素。M:アルカリ土類金属またはCe。a、b、c:原子比。x:酸素量)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−196852(P2009−196852A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40686(P2008−40686)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年8月21日 社団法人日本物理学会発行の「日本物理学会講演概要集 第62巻 第2号 第3分冊」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】