説明

酸化物超電導バルク材料

【課題】RE−Ba−Cu−O(REはY又は希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素)の組成からなる希土類系酸化物超電導バルク材料において、パルス着磁性能に優れた酸化物超電導バルク材料を提供する。
【解決手段】単結晶状のRE1Ba2Cu3y(REはY又は希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素、6.8≦y≦7.2)中にRE2BaCuO5が微細分散した酸化物超電導バルク材料であって、前記酸化物超電導バルク材料が結晶の(001)方向の±10度以内の方向に開けられた複数の細孔を有すると共に、前記複数の細孔が前記酸化物超電導バルク材料の外周部から中心に向かって動径方向に並んで配置されていることを特徴とする酸化物超電導バルク材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導バルク材料に関する。
【背景技術】
【0002】
RE−Ba−Cu−O(REはY又は希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素)の組成からなる希土類系酸化物超電導バルク材料は、磁場中冷却法やパルス着磁法により励磁され、バルク磁石として使用可能であり、超強力なマグネットや磁気浮上等の応用に有望視されている。このような酸化物超電導バルク材料には、結晶成長中に十分な酸素を成長端に供給するために、あるいは酸素アニールにおいてバルク内部まで酸素を十分導入するために、あるいは徐々に周辺磁場を低下させながら磁場を十分に捕捉させる着磁方法において磁束ジャンプに起因した発熱の弊害を取り除くために、バルク内に穴、細孔等を設けることが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、バルク内に穴を有することを特徴とする酸化物超電導バルク材料が開示されている。特許文献1には、バルク内に設けた穴は結晶成長中に十分な酸素を成長端に供給するためのものであり、そのため、比較的細い穴を多数開ける方法はバルク全体により確実かつ均一に酸素を供給することができ望ましい、と記載されている。なお、穴のサイズや密度については、穴の直径が0.3mm以上であり、穴の密度が1.0個/cm2以上である、というように具体的に記載されているが、穴の位置や配列については、中心穴と複数の周辺穴、あるいは六角格子状に多数、との記載があるのみである。また、特許文献1には、穴とパルス着磁との関係を示唆する記載はない。
【0004】
また、特許文献2には、バルク内に細孔を有することを特徴とする酸化物超電導バルク材料が開示されている。特許文献2には、バルク内の細孔は酸素アニールにおいてバルク内部まで酸素を十分導入するためのものであり、バルクに多数の細孔を開けてその比表面積を増大させることが有利である、と記載されている。細孔のサイズや体積割合については、細孔の直径が0.01〜2.0mmで、細孔の体積割合が0.1〜20%である、と具体的に記載されているが、穴の位置や配列については、隣り合う細孔の間隔が5〜30mm程度の均等配置とすることが好ましい、との記載があるのみである。また、特許文献2には、細孔とパルス着磁との関係を示唆する記載はない。
【0005】
さらに、特許文献3には、バルク内に人工孔を有することを特徴とする酸化物超電導バルク材料が開示されている。特許文献3には、バルク材に設けた人工孔は、徐々に周辺磁場を低下させながら磁場を十分に捕捉させる着磁方法において、磁束ジャンプに起因した発熱の弊害を取り除くためのものであり、人工孔の位置や数は適宜決定すれば良いが、通常は中央部に1個の孔を形成すれば十分である、と記載されている。また、特許文献3には、人工孔とパルス着磁との関係を示唆する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−219739号公報
【特許文献2】特開平10−87328号公報
【特許文献3】特開2004−22576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酸化物超電導バルク材料は、磁場中冷却法やパルス着磁法により励磁され、バルク磁石として使用可能である。ここで、磁場中冷却法とは、目的とする捕捉磁場よりも高い周辺磁場中において酸化物超電導バルク材料を冷却し、この状態から徐々に周辺磁場を低下させながら、酸化物超電導バルク材料に磁場を十分に捕捉させる着磁方法である。一方、パルス着磁法とは、酸化物超電導バルク材料を冷却した後に、パルス的な外部磁場を印加することにより、酸化物超電導バルク材料に磁場を捕捉させる着磁方法である。磁場中冷却法とパルス着磁法とを比較すると、パルス着磁法は、発電機やモータ等の機器に組み込まれた状態でも着磁可能であり、応用的には優れている着磁方法ではある。しかし、パルス着磁法には、磁場中冷却法に比べて、酸化物超電導バルク材料に捕捉される磁場分布の形状が乱れるという問題や酸化物超電導バルク材料に捕捉できる磁場強度が低いという問題があった。
そこで、本発明では、上記の問題を解決し、RE−Ba−Cu−O(REはY又は希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素)の組成からなる希土類系酸化物超電導バルク材料において、パルス着磁性能に優れた酸化物超電導バルク材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の酸化物超電導バルク材料の製造方法は、以下のとおりである。
(1)単結晶状のRE1Ba2Cu3y(REはY又は希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素、6.8≦y≦7.2)中にRE2BaCuO5が微細分散した酸化物超電導バルク材料であって、前記酸化物超電導バルク材料が結晶の(001)方向の±10度以内の方向に開けられた複数の細孔を有すると共に、前記複数の細孔が前記酸化物超電導バルク材料の外周部から中心に向かって動径方向に並んで配置されていることを特徴とする酸化物超電導バルク材料。
(2)前記細孔の直径が0.1mm以上、3mm以下であることを特徴とする(1)に記載の酸化物超電導バルク材料。
(3)前記細孔において、隣り合う同士の細孔の間隔が0.1mm以上、5mm以下であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の酸化物超電導バルク材料。
(4)前記複数の細孔が、前記酸化物超電導バルク材料の結晶の(100)方向、あるいは(110)方向に並んで配置されていることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の酸化物超電導バルク材料。
(5)前記細孔が低融点金属で充填されていることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の酸化物超電導バルク材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、希土類系酸化物超電導バルク材料において、パルス着磁性能に優れた酸化物超電導バルク材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る酸化物超電導バルク材料の一例を示す概念図である。
【図2】切れ込みを設けた酸化物超電導バルク材料の一例を示す概念図である。
【図3】本発明の実施形態に係る酸化物超電導バルク材料の別の態様を示す概念図である。
【図4】本発明の実施形態に係る酸化物超電導バルク材料の別の態様を示す概念図である。
【図5】本発明の実施形態に係る酸化物超電導バルク材料の別の態様を示す概念図である。
【図6】本発明の実施形態に係る酸化物超電導バルク材料の別の態様を示す概念図である。
【図7】本発明の実施形態に係る酸化物超電導バルク材料の別の態様を示す概念図である。
【図8】本発明の実施例における酸化物超電導バルク材料の捕捉磁場分布の測定結果を示す図である。
【図9】本発明の別の実施例における酸化物超電導バルク材料の捕捉磁場分布の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について、図に沿って説明する。
図1は、本実施形態における酸化物超電導バルク材料1の一例を示す概念図である。図1では、酸化物超電導バルク材料が複数の細孔2を有すると共に、細孔2が酸化物超電導バルク材料1の外周部から中心に向かって動径方向に並んで配置している。
【0012】
パルス着磁法では、比較的小さい試料においては、磁場中冷却法と殆ど同じ程度の捕捉磁場が得られるが、体積が20cm3程度(直径4cm、厚さ1.5cm)以上の大きな試料においては、磁場中冷却法に比べて、酸化物超電導バルク材料に捕捉される磁場分布の形状が乱れたり、酸化物超電導バルク材料に捕捉できる磁場強度が低くなってしまったりする。これは、パルス着磁法では、臨界温度以下に冷却してピン止め特性を示す酸化物超電導バルク材料に、外部から強制的に磁場を試料内部に入れようとするために起こるものである。即ち、ピン止め特性を示す酸化物超電導バルク材料は、外部からの磁場の侵入を妨げようとする性質があり、その性質に逆らって強制的に磁場を入れようとしても、パルス磁場強度が低い場合には、磁場は試料内部に侵入できず、パルス磁場強度が高い場合には、超電導特性が僅かに低い部分から高い磁場が急激に試料内部に侵入し、急激な磁場変化のため試料温度が上昇し、結果として、捕捉磁場の磁場分布形状が乱れたり、捕捉磁場の磁場強度が低くなってしまったりするのである。
【0013】
図1では、酸化物超電導バルク材料1の外周部から中心に向かって動径方向に複数の細孔2が設けられているが、この細孔部分がパルス着磁における磁場の侵入口となるため、パルス磁場強度が低い場合でも、比較的容易に試料内部に磁場が侵入することができる。
【0014】
一方、図2のように、酸化物超電導バルク材料の外周部に切れ込みを入れても、同様にパルス着磁に対して磁場の侵入口としての機能を有することができ、試料内部には磁場が侵入できるが、切れ込み部分では超電導電流が流れないために、最終的な捕捉磁場の分布形状は綺麗な同心円状にはならない。本実施形態である図1のような細孔2では、最終的な状態で超電導電流を阻害することはないので、パルス着磁での磁場の侵入口になると共に、最終的な捕捉磁場の分布形状は綺麗な同心円状になる。そのため、本実施形態によって、パルス着磁性能に優れた酸化物超電導バルク材料を提供することができる。
【0015】
細孔を開ける向きは、酸化物超電導バルク材料の結晶の(001)方向、即ち、結晶のc軸方向である。単結晶状の酸化物超電導バルク材料の場合、超電導電流は結晶の(001)方向と垂直な面(以下、ab面と呼称)の面内に流れ易く、ab面が積層している構造を有する。従って、細孔を開ける向きを(001)方向にすることによって、磁場の侵入口となる箇所が各ab面内で揃うことにより、磁場の侵入口としての機能が高まる。細孔を開ける向きが、(001)方向から±10度以内の範囲であれば、同様の効果を有する。しかし、細孔を開ける向きが、(001)方向から±10度よりも大きくなると、各ab面内での磁場の侵入口となる箇所のずれが大きくなるため、細孔はパルス着磁での磁場侵入口としての機能が低下する。
【0016】
細孔の大きさは、直径0.1mm以上、直径3mm以下が好ましい。細孔の直径が3mmを超えると最終的な捕捉磁場への影響が大きくなり、また、実際的にドリル加工等で穿孔する場合、直径0.1mm程度が限界である。一方、隣り合う細孔間の間隔は、0.1mm以上、5mm以下が好ましい。ここで隣り合う細孔間の間隔とは、細孔の中心間の距離ではなく、細孔間の隙間の距離のことをいう。隣り合う細孔間の間隔が5mmを超えると、パルス着磁での磁場の侵入口としての機能が弱くなり、また、ドリル加工等で穿孔する場合、細孔間の間隔は0.1mm程度が限界である。また、細孔の深さは、深さ5mm以上が好ましく、貫通孔であってもよい。なお、細孔の深さが小さ過ぎると、磁場の侵入口としての機能が大幅に低下する可能性がある。
【0017】
細孔は、酸化物超電導バルク材料の外周部から中心に向かって動径方向に並んで設けられるが、図1に示すように、細孔2が中心部まで到達しなくてもよいし、図3に示すように、細孔2が外周から中心部まで到達してもよい。パルス磁場での磁場侵入口としての機能を果たすためには、外周から中心までの1/3程度以上の外周側には細孔を設けた方が好ましい。パルス着磁における磁場は酸化物超電導材料の外周部から侵入することになるので、細孔は外周側に設ける必要があり、細孔が中心部にあって外周側にない場合には、細孔はパルス着磁での磁場侵入口としての機能が低下する可能性がある。また、細孔は外周部から中心に向かって動径方向に直線的に設けた方が好ましいが、図4に示すように、細孔2の中心が幅5mmの直線幅に入っていれば、同様の効果を有する。
【0018】
細孔を設ける位置は、図5に示すように、結晶の(100)方向あるいは(110)方向が好ましい。高性能な酸化物超電導バルク材料は、半溶融状態から徐冷させながら結晶成長させることによって製造され、単結晶状の材料となる。単結晶状の材料では結晶方位によって特性が変化するが、酸化物超電導バルク材料の場合、結晶の(100)方向、あるいは(110)方向から磁場が入り易い、あるいは磁場が捕捉し易いので、その方向と細孔の方向とを一致させると、パルス磁場での磁場侵入口としての機能が一層高まるので望ましい。細孔は、図5に示すように1ヶ所に複数設けてもよいし、結晶の対称性を反映して、図6に示すように2ヶ所あるいは4ヶ所に複数設けてもよい。
【0019】
酸化物超電導バルク材料をバルク磁石として使用する場合には、酸化物超電導バルク材の形状としては円板形状の場合が多いが、四角形状等、他の形状でもバルク磁石として使用可能である。例えば、四角形状の酸化物超電導バルク材料の場合でも、外周部から中心に向けて細孔を設ければよいが、図7に示すように、四角形状では角部から磁場が侵入し易いので、磁場の侵入口の機能を一層高めるためには対角線上に細孔2を設けることが好ましい。
【0020】
一方、酸化物超電導バルク材料に細孔を設けると、酸化物超電導バルク材料の機械的強度が低下し、熱衝撃等でクラックが発生し易くなるおそれがある。そこで、細孔内を半田、錫、インジウム等の融点が573K以下の低融点金属で充填することにより、酸化物超電導バルク材料の機械的特性を効果的に向上させ得ると共に、パルス着磁の際の磁場変化による温度上昇を効果的に抑制することができる。細孔の直径が0.5mm以上の場合には、細孔にアルミニウム線や銀線等の金属線を予め挿入して、その隙間に低融点金属を充填しても、同様の効果が得られる上に、充填作業を容易に行うことができる。
【0021】
細孔を設ける酸化物超電導バルク材料の大きさは、直径4cm、厚さ1.5cm(体積が約20cm3)以上、直径30cm以下、厚さ10cm以下(体積が約7000cm3)とするのが好ましい。パルス着磁法では、比較的小さいバルク材料においては、磁場中冷却法と殆ど同じ程度の捕捉磁場が得られるが、体積が20cm3程度(直径4cm、厚さ1.5cm)以上の大きなバルク材料においては、磁場中冷却法に比べて、酸化物超電導バルク材料に捕捉される磁場分布の形状が乱れたり、酸化物超電導バルク材料に捕捉できる磁場強度が低くなったりしてしまうため、細孔を設けることがパルス着磁性能を改善することに有効になる。一方、生産設備を考慮すると、直径が30cmより大きく、厚さが10cmより大きい酸化物超電導バルク材料を作製することは難しい。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
本実施例で使用した酸化物超電導バルク材料について述べる。まず、REの元素をGdとして、市販されている純度99.9質量%のガドリニウム(Gd)、バリウム(Ba)、銅(Cu)のそれぞれの酸化物の粉末を、Gd:Ba:Cu=1.6:2.3:3.3のモル比で秤量し、それに白金を0.5質量%及び銀を10質量%加えた。この秤量粉を2時間かけて十分混練してから、大気中にて1173Kで8時間仮焼した。次に、金型を用いて仮焼粉を円板形状に成形した。この成形体を1423Kまで加熱して溶融状態にし、30分間保持した後、降温途中で種付けを行い、1278K〜1252Kの温度領域を100時間かけて徐冷し結晶成長させた。
【0023】
上述した製造方法で作製した試料は、単結晶状のRE1Ba2Cu3y中にRE2BaCuO5が微細分散した組織を有しており、RE2BaCuO5の大きさは平均1〜2μmであった。結晶成長直後の試料の大きさは、直径48mm、高さ20mm程度であったが、乾式加工により、直径46mm、高さ15mmに加工すると共に、結晶の(001)方向にほぼ平行に(1度以内に)開けた直径1mm、深さ10mmの細孔を結晶の(100)方向に外周部から中心に向かって1mm間隔で計5個開けた。酸化物超電導バルク材料全体に対する細孔の体積割合は、約0.2%と非常に小さかった。また、比較材として、細孔を設けなかった試料も同時に作製した。次に、この加工体を酸素雰囲気中で723K〜673Kの温度領域を100時間程度熱処理した。
【0024】
本実施例の試料(以下、本実施例材)における磁場中冷却条件による液体窒素中での捕捉磁場特性を調べるため、超電導マグネットを用いて試料に磁場を捕捉させ、液体窒素中での捕捉磁場分布をホール素子にて測定した。磁場中冷却の条件は、外部印加磁場は3Tで、最大印加磁場までの励磁時間及び最大印加磁場からの消磁時間は15分とした。本実施例材及び比較材のどちらにおいても、磁場中冷却条件での捕捉磁場分布は綺麗な同心円状をしていた。このことから、本実施例材及び比較材のどちらも結晶成長が良好であることが分かった。
【0025】
次に、パルス着磁装置を用いて、パルス着磁による液体窒素中での捕捉磁場特性を調べた。パルス着磁の条件は、最大印加磁場6T、最大印加磁場までの時間5m秒とした。図8に、本実施例材及び比較材の捕捉磁場の磁場分布結果を示す。比較材の捕捉磁場分布は、複数の磁場ピークを有する乱れた磁場分布になったのに対して、本実施例材の捕捉磁場分布は、きれいな同心円状の磁場分布になった。本結果から、本実施例材は、パルス着磁性能に優れていることが確認できた。
【0026】
(実施例2)
RE元素として、Eu:Dy=9:1で秤量した以外は、実施例1と同様の製造方法により、直径60mm、高さ20mmの加工体を製造した。この加工体に、結晶の(001)方向から10度ずらして開けた直径2mmの貫通した細孔を結晶の(110)方向に4回対称に外周部から中心に向かって1.5mm間隔で各6個、計24個開けた。酸化物超電導バルク材料全体に対する細孔の体積割合は、約2.7%と小さかった。また、比較材として、細孔を設けなかった試料も同時に作製した。次に、この加工体を酸素雰囲気中で723K〜673Kの温度領域を100時間程度熱処理した。その後、本実施例材について、細孔を低融点金属(商品名:Uアロイ、(株)大阪アサヒメタル工場製、融点333K)で充填した。
【0027】
本実施例の試料(以下、本実施例材)における磁場中冷却条件による液体アルゴン中での捕捉磁場特性を調べるため、超電導マグネットを用いて試料に磁場を捕捉させ、液体アルゴン中での捕捉磁場分布をホール素子にて測定した。磁場中冷却の条件は、外部印加磁場は2Tで、最大印加磁場までの励磁時間及び最大印加磁場からの消磁時間は8分とした。本実施例材及び比較材のどちらにおいても、磁場中冷却条件での捕捉磁場分布はきれいな同心円状をしていた。このことから、本実施例材及び比較材のどちらも結晶成長が良好であることが分かった。
【0028】
次に、パルス着磁装置を用いて、パルス着磁による液体アルゴン中での捕捉磁場特性を調べた。パルス着磁の条件は、最大印加磁場4T、最大印加磁場までの時間4m秒とした。図9に、本実施例材及び比較材の捕捉磁場の磁場分布結果を示す。比較材の捕捉磁場分布は、複数の磁場ピークを有する乱れた磁場分布になったのに対して、本実施例材の捕捉磁場分布は、きれいな同心円状の磁場分布になった。また、別の比較例として、中心部に直径2mmの貫通した細孔を設けた酸化物超電導バルク材料も作製したが、磁場中冷却法での磁場分布及びパルス着磁法での磁場分布は、どちらも細孔を設けなかった試料と大きな差異は見られなかった。以上の結果から、本実施例材は、パルス着磁性能に優れていることが確認できた。
【0029】
(実施例3)
RE元素として、Gd:Dy=8:2で秤量した以外は、実施例1と同様の製造方法により、直径40mm、高さ17mmの加工体を製造した。この加工体に、結晶の(001)方向にほぼ平行に(2度以内に)開けた直径3mm、深さ5mmの細孔を結晶の(100)方向に外周部から中心に向かって2mm間隔で計4個開けた。酸化物超電導バルク材料全体に対する細孔の体積割合は、約0.7%と小さかった。また、比較材1として、同じサイズの細孔を結晶の(100)方向及び(110)方向の中間に外周部から中心に向かって2mm間隔で計4個開けた試料も同時に作製した。さらに、比較材2として、同じサイズの細孔を円板の側面に厚さ方向に2mm間隔で計4個開けた試料も同時に作製した。次に、この加工体を酸素雰囲気中で723K〜673Kの温度領域を100時間程度熱処理した。
【0030】
本実施例の試料(以下、本実施例材)における磁場中冷却条件による液体窒素中での捕捉磁場特性を調べるため、超電導マグネットを用いて試料に磁場を捕捉させ、液体窒素中での捕捉磁場分布をホール素子にて測定した。磁場中冷却の条件は、外部印加磁場は3Tで、最大印加磁場までの励磁時間及び最大印加磁場からの消磁時間は15分とした。本実施例材と比較材1及び2のどれも、磁場中冷却条件での捕捉磁場分布はきれいな同心円状をしていた。このことから、本実施例材と比較材1及び2のどれも結晶成長が良好であることが分かった。
【0031】
次に、パルス着磁装置を用いて、パルス着磁による液体窒素中での捕捉磁場特性を調べた。パルス着磁の条件は、最大印加磁場4T、最大印加磁場までの時間4m秒とした。本実施例材及び比較材1の捕捉磁場分布は、きれいな同心円状の磁場分布になったが、本実施例の方が磁場のピーク値が2割程度高かった。一方、比較材2の場合、複数の磁場ピークを有する乱れた磁場分布になった。以上の結果から、本実施例材は、パルス着磁性能に優れていることが確認できた。
【0032】
(実施例4)
RE元素として、Erとした以外は、実施例1と同様の製造方法により、角形状一辺45mm、高さ15mm、対角線が結晶の(110)方向になる加工体を製造した。この加工体に、結晶の(001)方向にほぼ平行に(1度以内に)開けた直径1.2mmの貫通した細孔を対角線上に外周部から中心に向かって1.5mm間隔で計6個開けた。酸化物超電導バルク材料全体に対する細孔の体積割合は、約0.4%と小さかった。また、比較材として、細孔を設けなかった試料も同時に作製した。次に、この加工体を酸素雰囲気中で723K〜673Kの温度領域を100時間程度熱処理した。
【0033】
本実施例の試料(以下、本実施例材)における磁場中冷却条件による液体窒素中での捕捉磁場特性を調べるため、超電導マグネットを用いて試料に磁場を捕捉させ、液体窒素中での捕捉磁場分布をホール素子にて測定した。磁場中冷却の条件は、外部印加磁場は3Tで、最大印加磁場までの励磁時間及び最大印加磁場からの消磁時間は15分とした。本実施例材及び比較材のどちらにおいても、磁場中冷却条件での捕捉磁場分布は綺麗な同心円状をしていた。このことから、本実施例材及び比較材のどちらも結晶成長が良好であることが分かった。
【0034】
次に、パルス着磁装置を用いて、パルス着磁による液体窒素中での捕捉磁場特性を調べた。パルス着磁の条件は、最大印加磁場6T、最大印加磁場までの時間5m秒とした。比較材の捕捉磁場分布は、複数の磁場ピークを有する乱れた磁場分布になったのに対して、本実施例材の捕捉磁場分布は、きれいな同心円状の磁場分布になった。本結果から、本実施例材は、パルス着磁性能に優れていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、希土類系酸化物超電導バルク材料であって、パルス着磁性能に優れた大型酸化物超電導バルク材料を提供することができるので、酸化物超電導バルク材料の工業上の利用範囲が拡大する。
【符号の説明】
【0036】
1 酸化物超電導バルク材料
2 細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶状のRE1Ba2Cu3y(REはY又は希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素、6.8≦y≦7.2)中にRE2BaCuO5が微細分散した酸化物超電導バルク材料であって、前記酸化物超電導バルク材料が結晶の(001)方向の±10度以内の方向に開けられた複数の細孔を有すると共に、前記複数の細孔が前記酸化物超電導バルク材料の外周部から中心に向かって動径方向に並んで配置されていることを特徴とする酸化物超電導バルク材料。
【請求項2】
前記細孔の直径が0.1mm以上、3mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導バルク材料。
【請求項3】
前記細孔において、隣り合う同士の細孔の間隔が0.1mm以上、5mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化物超電導バルク材料。
【請求項4】
前記複数の細孔が、前記酸化物超電導バルク材料の結晶の(100)方向、あるいは(110)方向に並んで配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸化物超電導バルク材料。
【請求項5】
前記細孔が低融点金属で充填されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸化物超電導バルク材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−180227(P2012−180227A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42389(P2011−42389)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】