説明

酸化物超電導導体の検査方法及び検査装置

【課題】本発明は、基材上に中間層と酸化物超電導層と金属安定化層を少なくとも有する積層構造の酸化物超電導導体の内部側において金属安定化層に剥離部分などの欠陥が生じていてもその有無を確実に検査することができる検査方法と検査装置の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、基材上に中間層を介し酸化物超電導層が形成され、この酸化物超電導層上に金属安定化層が積層されてなる酸化物超電導導体において内部欠陥の有無を検査する方法であって、前記酸化物超電導導体を超電導状態に維持可能な冷媒にて冷却し、冷却開始後、所定時間経過後に計測した第1の臨界電流値と、更に冷却を所定時間続行した後に測定した第2の臨界電流値との差分を検出し、この差分の検出により前記酸化物超電導導体の欠陥の有無を検出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導導体の検査方法及び検査装置に係り、より詳細には、積層構造の酸化物超電導導体において内部側において生じている剥離などの欠陥部分の有無を検出することができる検査方法と検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年になって発見されたRE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−X :REはYを含む希土類元素)は、液体窒素温度以上で超電導性を示すことから実用上極めて有望な素材とされており、これを線材に加工して電力供給用の導体として用いることが強く要望されている。
そして、酸化物超電導体を線材に加工するための方法としては、強度が高く、耐熱性が高く、線材に加工することが容易な金属を長尺のテープ状に加工し、この金属基材上に酸化物超電導体を薄膜状に形成する方法が検討されている。
【0003】
また、酸化物超電導体はその結晶自体は結晶軸のa軸方向とb軸方向には電気を流し易いが、c軸方向には電気を流しにくいという電気的異方性を有している。従って、基材上に酸化物超電導体を形成する場合には、電気を流す方向にa軸あるいはb軸を配向させ、c軸をその他の方向に配向させる必要がある。
しかしながら、金属基材自体は非結晶もしくは多結晶体であり、その結晶構造も酸化物超電導体と大きく異なるために、基材上に上記のような結晶配向性の良好な酸化物超電導体膜を形成することは困難である。
【0004】
そこで、上記のような問題を解決するために、まず金属基材上に熱膨張率や格子定数等の物理的な特性値が基材と酸化物超電導体との中間的な値を示すMgO、YSZ(イットリア安定化ジルコニウム)、SrTiO等の材料から成る中間層(バッファー層)を形成し、この中間層の上に酸化物超電導薄膜を形成すること、即ち、積層構造として超電導特性の良好な酸化物超電導導体を得ることがなされている。
また、長尺の酸化物超電導導体の設計においては、部分的に超電導状態が破れて常電導状態に転移した場合、酸化物超電導層に流れていた電流を分流して焼損を防止するために、酸化物超電導層に接触するように銀や銅などからなる良導電性の金属安定化層を設けることがなされている。
【0005】
上述の如く酸化物超電導導体は必然的に酸化物超電導層の上に金属安定化層を設けた積層構造となるので、酸化物超電導層と金属安定化層の積層構造に剥離部分を生じていた場合、剥離部分に位置している酸化物超電導層が常電導状態にクエンチすると、事故電流が金属安定化層側に満足に転流しなくなるおそれがあり、場合によっては焼損などの重大な故障を引き起こす可能性を有している。
【0006】
そこで、長尺の酸化物超電導導体の全長にわたり、酸化物超電導層と金属安定化層の間に剥離部分を生じていないか検査できることが望まれている。
しかしながら、酸化物超電導導体は上述の如く必然的に積層構造となるため、製造途中の段階において最表面に存在している状態の金属安定化層を観察することは可能であるが、仮に表面観察できたとしても金属安定化層が酸化物超電導層に密着しているか否かを表面観察により判別することは容易ではなく、また、金属安定化層を形成後、更には絶縁被覆を施した後にあっては、剥離部分を目視や光学的検査などの手段では検出できない問題がある。
【0007】
なお、長尺の酸化物超電導導体の測定装置の一例として、酸化物超電導導体の長さ方向に亘る超電導特性の均一性に関して連続的に非接触で測定することができる測定装置が知られている。この測定装置は、巻取装置から送り出した長尺の酸化物超電導導体を液体窒素の冷媒に浸漬した状態で磁石により磁場を印加し、これを酸化物超電導導体に近接配置したホールセンサで磁場観察することにより、長尺の酸化物超電導導体の磁場観察を可能とした装置として知られている。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−300723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載されている従来の測定装置では、液体窒素に浸漬して冷却し、超電導状態になっている酸化物超電導導体に対し、金属安定化層の一部に例え剥離部などの欠陥部分が生じていたとしても、酸化物超電導導体の内部に形成されている酸化物超電導層が冷媒により十分に冷却されて超電導状態になっているならば、超電導電流が流れるので、線材の長手方向の臨界電流値(Ic)を測定することはできるが、金属安定化層の剥離した部分の有無を検出することは想定していない。
従って、従来の技術では、酸化物超電導導体の接続端などにおいて表面検査が可能な剥離部分や欠陥部分の有無を観察することはできるが、積層構造の酸化物超電導導体の内部側の検査はできないので、金属安定化層の内側における剥離部分などの欠陥の有無を検出することができない問題があった。
【0010】
本発明は、上述のような従来の事情に鑑みてなされたものであり、基材上に中間層と酸化物超電導層と金属安定化層を少なくとも有する積層構造の酸化物超電導導体において金属安定化層に剥離部分などの欠陥が生じていてもその欠陥の有無を確実に検査することができる検査方法と検査装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る酸化物超電導導体の欠陥検査方法は、基材上に中間層を介し酸化物超電導層が形成され、この酸化物超電導層上に金属安定化層が形成されてなる酸化物超電導導体において内部欠陥の有無を検査する方法であって、前記酸化物超電導導体を超電導状態に維持可能な冷媒にて冷却し、冷却開始後、所定時間経過後に計測した第1の臨界電流値と、更に冷却を所定時間続行した後に測定した第2の臨界電流値との差分を検出し、この差分の検出により前記酸化物超電導導体の欠陥の有無を検出することを特徴とする。
本発明に係る酸化物超電導導体の欠陥検査方法は、前記第1の臨界電流値の計測と前記第2の臨界電流値の計測を酸化物超電導導体の長さ方向に沿って複数位置にて行い、酸化物超電導導体の長さ方向に連続して差分が検出された領域を欠陥部分として把握することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る酸化物超電導導体の欠陥検査方法は、前記第1の臨界電流値と第2の臨界電流値として、ホールセンサによる磁気検出結果に基づいて決定した臨界電流値を採用することを特徴とする。
本発明に係る酸化物超電導導体の欠陥検査方法は、前記第1の臨界電流値と第2の臨界電流値として、前記酸化物超電導導体への通電により求めた臨界電流値を採用することを特徴とする。
本発明に係る酸化物超電導導体の欠陥検査方法は、前記欠陥部を前記酸化物超電導層と金属安定化層の剥離部分として把握することを特徴とする。
本発明の酸化物超電導導体の欠陥検出方法は、前記第1の臨界電流値として、前記酸化物超電導導体を冷媒により冷却した場合に安定状態となった後に示す臨界電流値よりも低い臨界電流値として把握し、前記第2の臨界電流値として、前記酸化物超電導導体を冷媒により冷却した場合に安定状態となった後に示す臨界電流値として把握し、両者の差分を検出することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る酸化物超電導導体の欠陥検査装置は、基材上に中間層を介し酸化物超電導層が形成され、この酸化物超電導層上に金属安定化層が形成されてなる酸化物超電導導体の内部欠陥の有無を検査する装置であって、前記酸化物超電導導体を超電導状態に維持可能な冷媒を収容する容器と、前記容器に付設されて容器内部において冷媒により冷却された状態の酸化物超電導導体の臨界電流値を測定する手段とを備え、該臨界電流値測定手段に、前記酸化物超電導導体を前記容器内の冷媒により冷却し、冷却開始後、所定時間経過後に第1の臨界電流値を測定する機能と、更に冷却を所定時間続行した後に第2の臨界電流値を測定する機能を備えるとともに、前記第1の臨界電流値と前記第2の臨界電流値の差分の検出により前記酸化物超電導導体の欠陥を検出する検出手段を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る酸化物超電導導体の欠陥検査装置は、前記容器の内部に設けられて容器内に供給された酸化物超電導導体に磁界を印加する磁界印加機構と、前記磁界印加機構が酸化物超電導導体に印加した磁界の影響を検出する磁気センサと、前記磁気センサの計測結果に基づき臨界電流値を算出する手段とを具備してなることを特徴とする。
本発明に係る酸化物超電導導体の欠陥検査装置は、前記容器内に長尺の酸化物超電導導体を供給するか引き出す送出引出機構を更に備え、前記第1の臨界電流値の計測と前記第2の臨界電流値の計測を長尺の酸化物超電導導体の長さ方向に沿って複数位置にて行い、酸化物超電導導体の長さ方向に連続して臨界電流値の差分が検出された領域を欠陥部分として把握する機能を具備したことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る酸化物超電導導体の欠陥検査装置は、前記第1の臨界電流値が、前記酸化物超電導導体を冷媒により冷却した場合に安定状態となった後に示す臨界電流値よりも低い臨界電流値であり、前記第2の臨界電流値が、前記酸化物超電導導体を冷媒により冷却した場合に安定状態となった後に示す臨界電流値であり、両者の差分を検出して欠陥を検出する機能を具備したことを特徴とする。
本発明に係る酸化物超電導導体の欠陥検査装置は、前記容器内に供給される長尺の酸化物超電導導体の長さ方向に沿って前記第1の臨界電流値を測定する手段と前記第2の臨界電流値を測定する手段が間隔をあけて前記容器内に順番に配置されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
酸化物超電導導体は、液体窒素などの冷媒により臨界温度以下に冷却された場合に常電導状体から超電導状態に遷移する。従って、基材上に中間層と酸化物超電導層と金属安定化層を積層してなる積層構造の酸化物超電導導体を冷媒によって冷却する場合、酸化物超電導層と金属安定化層とが十分に密着し、剥離していない構造と、酸化物超電導層と金属安定化層とが十分に密着していないか、部分剥離している構造との比較では、十分に密着していないか、部分剥離している部位において、金属安定化層と酸化物超電導層との熱的結合が弱い状態になっている。従って、十分に密着していないか、部分剥離している部位は、酸化物超電導層と金属安定化層とが十分に密着し、剥離していない部位と比べ、冷却しても超電導状態となるまでに、あるいは超電導状態が十分に安定するまでに、より長い時間を要する。
従って、金属安定化層の剥離部分を有する酸化物超電導導体を冷媒により冷却し、温度を低下させて超電導状態に遷移させる場合において、経時的に複数回臨界電流を測定すると、金属安定化層の剥離部分に沿って存在している酸化物超電導層の臨界電流値は冷却開始の初期段階において低い臨界電流値を一端示し、冷却の進行により高い臨界電流値に遷移する。
このように酸化物超電導導体の冷却段階において経時的に複数回臨界電流を測定した場合に、測定した臨界電流値に差分を生じるならば、金属安定化層に部分剥離を生じているか、金属安定化層の密着性が劣る部分が存在すると認識することができる。また、経時的に複数回臨界電流を測定しても、臨界電流値に差分を生じないならば、金属安定化層に部分剥離を生じていないか、密着性に劣る部分が無い、と認識できる。
即ち、冷却の進行に合わせて経時的に第1と第2の臨界電流値を測定した場合、上述の臨界電流値に差分を生じていることを確認できたならば、酸化物超電導導体に欠陥が発生していることを認識することができ、上述の第1と第2の臨界電流値に差分を生じていないならば、剥離部分などの欠陥が生じていない酸化物超電導導体であると認識することができる。
【0017】
前記第1の臨界電流値と第2の臨界電流値の測定を酸化物超電導導体の長さ方向の複数位置にて位置毎に行うならば、酸化物超電導導体の長さ方向の位置毎の金属安定化層の剥離部分の有無を検査することができる。また、酸化物超電導導体の長さ方向に連続して臨界電流値の差分を生じる領域が存在している場合、その領域を連続して剥離部分が生じている欠陥部分として把握することができる。
前記第1の臨界電流値と第2の臨界電流値をホールセンサを用いた磁気検出結果に基づき求めた臨界電流値とすることができる。ホールセンサを用いた磁気検出結果であるならば、極めて細かい位置毎の臨界電流値の計測が可能であるので、微細な剥離部分の有無であっても高精度でもって検査することができる。例えば、現状のホールセンサにて0.01mm単位で臨界電流値の測定が可能であるので、換言すると0.01mmの位置分解能にて酸化物超電導導体の欠陥検査ができる。
また、前記第1の臨界電流値と第2の臨界電流値を実際の通電により求めた臨界電流値として前記金属安定化層の剥離欠陥の有無を判別することもできる。
【0018】
本発明装置によれば、酸化物超電導導体の検査にあたり、冷媒で冷却する間に経時的に第1の臨界電流値と第2の臨界電流値を測定し、これらの間に差分を生じた場合に積層構造の酸化物超電導導体の内部において金属安定化層に剥離欠陥、あるいは、金属安定化層の密着性の低い部分を生じている欠陥の有無を検査することができる。
第1の臨界電流値と第2の臨界電流値の測定はホールセンサを用いて行うことができるが、通電により酸化物超電導導体について第1と第2の臨界電流値の測定を直接行って差分の検出を行い、検査することもできる。
【0019】
本発明装置によれば、冷媒を収容した容器に長尺の酸化物超電導導体を送出するか引き出す送出引出機構を備えることにより、長尺の酸化物超電導導体の測定であっても、その一部分のみを部分的に容器内の冷媒に浸漬するか引き出す操作を必要回数繰り返し行いながら第1の臨界電流値の測定と第2の臨界電流値の測定を行うことができるので、酸化物超電導導体の測定箇所を収容可能な大きさの小型の容器に冷媒を必要量収容して測定を実施することができ、装置全体を小型化することができる。
また、容器内の冷媒に供給される酸化物超電導導体の長さ方向に沿って第1の臨界電流値を計測する手段と前記第2の臨界電流値を計測する手段を間隔をあけて順番に複数配置することにより、酸化物超電導導体を冷媒に1回浸漬させて冷媒中を移動させている間に経時的に第1の臨界電流値と第2の臨界電流値の測定を連続して行うことができる。これにより酸化物超電導導体の長さ方向の連続検査を実現できるので、長尺の酸化物超電導導体を製造して全体を検査する場合に量産性に優れた検査装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る酸化物超電導導体の欠陥検出装置の第1の実施形態を示す構成図。
【図2】図1に示す欠陥検出装置にて検査対象とする酸化物超電導導体の一例を示す構成図。
【図3】図1に示す欠陥検出装置に設けられている磁気印加手段とホールセンサの一例を示す構成図。
【図4】本発明に係る酸化物超電導導体の欠陥検出装置の第2の実施形態を示す構成図。
【図5】図1に示す欠陥検出装置に設けられているホールセンサから得られる磁気測定結果の一例を示すグラフ。
【図6】酸化物超電導導体の長さ方向に沿って図1に示す装置により測定された測定結果としての第1の臨界電流値と第2の臨界電流値の例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る酸化物超電導導体の欠陥検査装置の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る酸化物超電導導体の欠陥検査装置の第1の実施形態を示すもので、この実施形態の欠陥検査装置Aは、内部に液体窒素などの冷媒Lを収容可能な箱形の容器1と、この容器1の天井部1aの一側端部に取り付けられた筒型のヒータ部材2及び容器1の天井部1aの他側端部に取り付けられた筒型のヒータ部材3と、前記ヒータ部材2を介して容器1の内部側に長尺のテープ状の酸化物超電導導体5を供給可能かつ容器1内から引き出し可能な送出引出機構6と、前記ヒータ部材3を介して容器1の内部側に長尺のテープ状の酸化物超電導導体5を供給可能かつ容器1内から引き抜き可能な送出引出機構7を備えて構成されている。
また、前記容器1の内部において酸化物超電導導体5が通過する部分に、ホールセンサ(磁気センサ)と磁界印加機構を備えたセンサアレイ(臨界電流値測定手段)8が設けられている。
【0022】
図1に示す実施形態の欠陥検査装置Aにおいて、送出引出機構6は、図示略のモーターなどの駆動装置により正逆回転可能なリール部材6aと案内リール6bとが具備され、送出引出機構7は、図示略のモーターなどの駆動装置により正逆回転可能なリール部材7aと案内リール7bとが具備されてなる。そして、リール部材6aとリール部材7aに巻き掛けた長尺のテープ状の酸化物超電導導体5をリール部材6aあるいはリール部材7aのどちらか一方から容器1の内部側に送出し、残りの一方から容器1の外側に引き出すことができるように構成されている。以上の構成により、長尺の酸化物超電導導体5に対し、その必要な部分のみを容器1内の冷媒Lに浸漬するか、冷媒Lから常温の大気中に引き出すことができるようになっている。
また、酸化物超電導導体5の容器1に対する送出時と引出時のいずれにおいてもヒータ部材2あるいはヒータ部材3を介し必要に応じて酸化物超電導導体5を加熱することができるように構成されている。
更に、センサアレイ8は接続線9を介し容器1の外部に設けられた検出装置(検出手段)10に接続されている。
【0023】
前記センサアレイ8は、内部に図3に示す如く磁界印加用のコイル(磁界印加手段)20と、ホールセンサ(磁気センサ)21とを具備してなり、ホールセンサ21には複数(図3では4基)のホール素子22が酸化物超電導導体5の幅方向に整列するように形成されている。センサアレイ8は、容器1の内部においてホールセンサ21の近傍を通過する酸化物超電導導体5に対し、前記コイル20により磁界を印加するとともに、複数のホール素子22によりその近傍を通過する酸化物超電導導体5の長さ方向所定位置であって、幅方向複数位置(図3の構成ではホール素子22を4基備えているので酸化物超電導導体5の幅方向4箇所)について、各位置の磁界を個別に検出することができるように構成されている。
このセンサアレイ8は、後述する如く酸化物超電導導体5の長さ方向特定位置における幅方向複数位置で磁界強度の計測を行い、酸化物超電導導体5の幅方向の位置毎の磁界強度を計測する磁気センサである。本実施形態では、前記4基のホール素子22が計測した酸化物超電導導体5の幅方向4箇所の磁界強度の傾きから、酸化物超電導導体5の臨界電流値(Ic)を計測できるようになっている。
【0024】
図1に示す検査装置Aにおいて、センサアレイ8に電気的に接続された検出装置(検査手段)10は、各ホール素子22が酸化物超電導導体5の幅方向位置に応じて計測した磁界強度の傾きから、ビーンモデルを用いて臨界電流値(Ic)を計算することができる。
ビーン(Bean)モデルを用いた解析とは、超電導体の近似モデルとして公知の方法の一例であり、直流磁化を測定することにより得るヒステリシス曲線から、ある磁界におけるヒステリシスの幅が臨界電流密度に比例することを利用して臨界電流値(Ic)を計算することができる手法として知られている。
このビーンモデルの適用によって、酸化物超電導導体5の測定対象位置の臨界電流値を自動的に算出するように計算機能を有している。なお、臨界電流値(Ic)を算出する手法として、後に図5(B)を基に説明するIーVカーブを測定し、臨界電流値の判っている線を使って伽リブレーションを取る方法を適用することもできる。
また、本実施形態の検出装置10は、ホール素子22が磁界を検出するタイミングについて、酸化物超電導導体5の冷媒による冷却開始後の任意の時間で行うことができるようになっている。即ち、酸化物超電導導体5の冷媒による冷却開始直後のタイミングから、所定時間毎にホール素子22による磁界検出ができるように検出装置10が構成されている。なお、この検出装置10は酸化物超電導導体5の送出引出機構6、7の回転速度と回転方向制御も連動して行うことができるように構成されている。
【0025】
前記検査装置10が行うホール素子22の計測タイミングと動作の一例として、酸化物超電導導体5を容器1の内部に引き込んで冷媒Lに浸漬後、10秒経過してから磁界を印加してホール素子22により磁界測定を行い、その後に酸化物超電導導体5を冷媒Lから引き出して容器1の外部の常温の大気中に戻す操作を一連のサイクルとして、このサイクルを1サイクルあるいは8サイクル行うように検査装置10がコイル20とホール素子22と送出引出機構6、7とを連動させて動作できるようになっている。
なお、ここで行う1サイクルと8サイクルは1つの目安であって、任意のサイクル数においてコイル20とホール素子22を動作させて計測できるように検査装置10が計測タイミングを制御する。なお、この計測タイミング制御については後に検査装置10の実際の動作説明において詳述する。また、本実施形態の検査装置10には図示略の印刷装置が接続されていて、酸化物超電導導体5の長さ方向に沿って位置毎に上述のタイミングで計測した臨界電流値の測定結果を測定位置毎に対応させて図表にプロットした結果を印刷できるように構成されている。
【0026】
「酸化物超電導導体の構造例」
次に、前記欠陥検査装置Aにおいて検査される酸化物超電導導体5の一例構造として、図2に示す如く、金属テープなどの基材11の上に、中間層12とキャップ層13と酸化物超電導層14と保護層15と安定化層16とが積層された積層体17を絶縁テープなどの絶縁体18で被覆してなる構造を例示することができる。
なお、上記積層構造において、基材11と中間層2の間に、更にベッド層を配置しても良い。この場合のベッド層とは、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。
【0027】
本実施形態の酸化物超電導導体5に適用できる基材11は、通常の超電導線材の基材として使用でき、高強度であれば良く、長尺のケーブルとするためにテープ状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。例えば、ステンレス鋼、ハステロイ等のニッケル合金等の各種耐熱金属材料、もしくはこれら各種耐熱金属材料上にセラミックスを配したもの、等が挙げられる。各種耐熱性金属の中でも、ニッケル合金が好ましい。なかでも、市販品であれば、ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)が好適であり、ハステロイとして、モリブデン、クロム、鉄、コバルト等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用することができる。基材11の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmの範囲とすることができる。
【0028】
前記中間層12は、単層構造あるいは複層構造のいずれでも良く、その上に積層されるキャップ層13と酸化物超電導層14の結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から選択される。中間層12の好ましい材質として具体的には、MgO、GdZr、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr等の金属酸化物を例示することができる。
この中間層12をIBAD法により良好な結晶配向性(例えば結晶配向度15゜以下)で成膜するならば、その上に形成するキャップ層13の結晶配向性を良好な値(例えば結晶配向度5゜前後)とすることができ、これによりキャップ層13の上に成膜する酸化物超電導層14の結晶配向性を良好なものとして優れた超電導特性を発揮できるようにすることができる。中間層12の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、0.005〜2μmの範囲とすることができる。
【0029】
キャップ層13は、前記中間層12の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されたものが好ましい。このようなキャップ層は、前記金属酸化物層からなる中間層12よりも高い面内配向度が得られる。
キャップ層の材質は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO等を例示できる。キャップ層の材質がCeOである場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。CeO層の膜厚は、50nm以上であればよいが、十分な配向性を得るには100nm以上が好ましく、500nm以上であれば更に好ましい。但し、厚すぎると結晶配向性が悪くなるので、500〜1000nmとすることが好ましい。
【0030】
酸化物超電導層14は液体窒素などの冷媒で冷却することにより超電導状態に遷移する公知のものを採用することができ、具体的には、REBaCu(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のものを例示できる。この酸化物超電導層14として、Y123(YBaCu7−X )又はGd123(GdBaCu7−X )などを例示することができる。
【0031】
ここで前述のように、良好な配向性を有するキャップ層13上に酸化物超電導層14を形成すると、このキャップ層13上に積層される酸化物超電導層14もキャップ層13の配向性に整合するように結晶化する。よって前記キャップ層13上に形成された酸化物超電導層14は、結晶配向性に乱れが殆どなく、この酸化物超電導層14を構成する結晶粒の1つ1つにおいては、金属基材11の厚さ方向に電気を流しにくいc軸が配向し、金属基材11の長さ方向にa軸どうしあるいはb軸どうしが配向している。従って得られた酸化物超電導層14は、結晶粒界における量子的結合性に優れ、結晶粒界における超電導特性の劣化が殆どないので、金属基材2の長さ方向に電気を流し易くなり、十分に高い臨界電流密度が得られる。
【0032】
本実施形態において、酸化物超電導層14の上に積層されている保護層15はAgなどの良電導性かつ酸化物超電導層14と接触抵抗が低くなじみの良い金属材料からなる層として形成される。また、安定化層16はCuなどの良導電性の金属材料からなり、保護層15を構成するAgよりも厚く形成しても安価な材料からなることが好ましい。これらの保護層15と安定化層16の製造については、メッキにより積層する方法でも良いし、別途形成したテープ状の保護層15や安定化層16を酸化物超電導層14上に貼り合わせる方法などを採用しても良い。
そして、金属基材11から安定化層16まで積層した積層体17の全周を覆ってポリイミドなどの絶縁材料製のテープを巻回してなる絶縁層18が形成され、絶縁被覆付きの積層構造の酸化物超電導導体5が構成されている。
【0033】
「酸化物超電導導体の検査方法」
図1に示す検査装置Aを用いて上述の積層構造の酸化物超電導導体5の検査を行うには、容器1に液体窒素の冷媒Lを収容するとともに、検査対象の酸化物超電導導体5をリール部材6aに巻き付け、巻き付けた酸化物超電導導体5を順次送り出して案内リール6b、ヒータ部材2、容器1の内部、ヒータ部材3、案内リール7bを介しリール部材7aに掛け渡し、酸化物超電導導体5がリール部材6a、7a間においてどちらの方向にも移動できるようにセットしておく。なお、酸化物超電導導体5を上述のように検査装置Aにセットする場合、初めにリール部材7a側に巻き付けておいてからリール部材6a側に送り出しても良い。
【0034】
図1に示すように酸化物超電導導体5をリール部材6a、7a間に掛け渡して送り出し自由、かつ、巻き取り自由に検査装置Aにセットしたならば、測定部位の酸化物超電導導体5を液体窒素に10秒間浸漬した時点でコイル20により酸化物超電導導体5に磁界を印加し、ホール素子22により酸化物超電導導体5の幅方向に複数位置で磁界強度を測定する。そして、この磁界強度測定を終了した酸化物超電導導体5をリール部材6a、7aの回転により容器1から引き出し、再度、容器1の外部から容器1内に引き込んで液体窒素に10秒浸漬後、磁界測定を行う処理を必要回数繰り返し行う。この一連の操作において、「常温に酸化物超電導導体5を配置→液体窒素浸漬→10秒経過→磁界測定(臨界電流値測定)→常温へ取り出す」との一連の処理を1サイクルとして、このサイクルを酸化物超電導導体5の測定部位に対し繰り返し1回以上、例えば1サイクルあるいは8サイクル行う。
【0035】
この磁気測定の際に酸化物超電導導体5が冷却により超電導状態になってるならば、図5(A)に示すような磁界分布を計測できるので、この磁界分布の傾斜から臨界電流値を上述したビーンモデルの基に算出することができる。
しかしここで、酸化物超電導導体5の内部において金属安定化層16に図2に示すような剥離部分16aが生じていた場合、あるいは、金属安定化層16が十分に密着していない部位を生じていた場合は、これらの部位の金属安定化層16と酸化物超電導層14との熱的結合が弱い状態になっている。
この場合、酸化物超電導導体5において酸化物超電導層14と保護層15あるいは金属安定化層16とが十分に密着していないか、剥離している部位は、酸化物超電導層14と保護層15あるいは金属安定化層16とが十分に密着し、剥離していない部位と比べ、冷却しても超電導状態となるまでにより長い時間を要する。
【0036】
従って、金属安定化層16の剥離部分16aを有する酸化物超電導導体5を冷媒Lにより冷却し、温度を低下させて超電導状態に遷移させる場合において、経時的に複数回臨界電流値を測定すると、金属安定化層16の剥離部分16aに沿って存在している酸化物超電導層14における臨界電流値は、冷却開始の初期段階、例えばサイクル数の少ない計測時において低い臨界電流値を一端示し、その後の冷却の進行により、サイクル数の多い場合の後の測定時において、高い臨界電流値に遷移する。例えば1サイクル冷却を繰り返した後に計測した場合に得られた臨界電流値と8サイクル冷却を繰り返した後に得られた臨界電流値に差異を生じる。
この臨界電流値の計測値の遷移が生じると、臨界電流値に差分を生じたことになるので、その計測部位に金属安定化層16の剥離部分16aあるいは接合が弱い部分の存在を検出できたことになる。
以上説明の如く図1に示す検査装置Aを用いてホールセンサアレイ8による磁界検出を経時的に行うことにより、従来技術では実現できなかった酸化物超電導導体5の内部欠陥の有無を検査できるようになる。
【0037】
これらの1サイクル、8サイクルの組み合わせと、酸化物超電導導体5の冷媒Lへの浸漬時間の設定は、検査装置10にプログラマブルコントローラなどの制御装置を組み込み、リール部材6a、7aの正逆回転制御による酸化物超電導導体5の繰り返し浸漬操作において1サイクル浸漬時、第1の臨界電流値を測定し、8サイクル浸漬時、第2の臨界電流値を測定する、などのように制御装置に予め設定しておき、制御装置の制御下で自動的に行うようにすることができる。そして、酸化物超電導導体5の長さ方向において測定位置を順次変更して繰り返し計測することにより、長尺の酸化物超電導導体5であってもその全長の欠陥の検査を高精度で行うことができる。現状技術において例えば、ホール素子22によって酸化物超電導導体5の長さ方向に0.01mmの分解能で臨界電流値の測定が可能であるので、酸化物超電導導体5の長さ方向に0.01mmの分解能でもって剥離部分などの欠陥検査ができる。
【0038】
なお、前述の方法では1サイクルの磁気計測と8サイクルの磁気計測を組み合わせて実施する方法について説明したが、酸化物超電導導体5の冷却開始後に経時的に第1の臨界電流値の測定と第2の臨界電流値の測定を行えばよいので、サイクル数は適宜の数の組み合わせで実現することができる。例えば、2サイクルと6サイクルの組み合わせ、4サイクルと10サイクルの組み合わせなど任意でよい。
また、酸化物超電導導体5の欠陥部の発生状態によって、いずれのサイクル数の時に第1の臨界電流値の測定と第2の臨界電流値の測定を行えば良いのかは、一義的に決まらないので、毎回、磁気計測を行うことが好ましいが、上述の実施形態において1サイクル目まで磁気計測を行わず、2サイクル目において始めて磁気計測を実施し、その値を第1の臨界電流値とし、3サイクル目〜7サイクル目まで磁気計測を行わず、8サイクル目において第2の臨界電流値の測定を行うようにしても良い。更に、冷媒Lに浸漬する時間についても10秒に限るものではなく、適宜の浸漬時間に設定し、その浸漬時間と上述のサイクル数の組み合わせで検査することもできる。
【0039】
なおまた、上述した実施形態の説明においては、ホールセンサアレイ8による磁界測定によりビーンモデルに基づき臨界電流値を求めたが、臨界電流値は通電により直接計測することもできるので、例えばIVカーブを求める方法にて酸化物超電導層の位置毎の計測するならば、酸化物超電導導体5の欠陥を検査することができる。図5(B)にその例を示すが、I−Vカーブを測定し、電圧が1μV/cmとなった電流値を臨界電流(Ic)とすることもできる。
【0040】
図4は本発明に係る検査装置の第2実施形態を示すもので、この実施形態の検査装置Bは、先の実施形態の容器1と同等構造の容器1の内部に、案内リール6c、7cを離間させて設け、更にセンサアレイ8を2基設けた点に特徴を有する。
本実施形態の容器1では、その内部を通過する酸化物超電導導体5に直線部分を長く形成できるように案内リール6c、7cで保持することができ、案内リール6cの近くにセンサアレイ8を設け、案内リール7cの近くにもセンサアレイ8を設けている。即ち、センサアレイ8を2基、酸化物超電導導体5の長さ方向に離間させて配置した点に特徴を有する。なお、第2実施形態の構造について、その他の部分の構造については先の第1実施形態の検査装置Aと同等の構造とされている。
【0041】
この第2実施形態の検査装置Bでは、例えば、リール部材6aから送出させた酸化物超電導導体5を容器1内の冷媒に浸漬し、リール部材7a側に一定速度で連続移動させる場合、浸漬開始の初期段階において一方のセンサアレイ8が磁界検出を行い、該当位置での酸化物超電導導体5の第1の臨界電流値を計測し、更に酸化物超電導導体5の計測部位が冷媒L中を移動して他方のセンサアレイ8に到達した状態において、他方のセンサアレイ8が磁気検出を行い、酸化物超電導導体5の第2の臨界電流値を計測する。
第2実施形態の検査装置Bでは、以上のように酸化物超電導導体5を連続移動させている間に、冷媒L中の2基のセンサアレイ8にて順次第1の臨界電流値と第2の臨界電流値を計測することにより酸化物超電導導体5の全長の欠陥検査を行って目的を達成することができる。
【0042】
以上の測定操作において、酸化物超電導導体5の同一検査部位に対し、一方のセンサアレイ8にて検出した臨界電流値と他方のセンサアレイ8が検出した臨界電流値との間に差分を生じた場合は、酸化物超電導導体5の内部において、金属安定化層16に剥離部分あるいは密着性が悪い部分などの欠陥部分が存在していることを把握することができる。
なお、図4に示す検査装置Bにおいて、酸化物超電導導体5はリール部材6a側とリール部材7a側の何れからでも送出可能であるので、リール部材6a側から容器1内に送出した場合は案内リール6cに近い側のセンサアレイ8により第1の臨界電流値を計測し、案内リール7cに近い側のセンサアレイ8により第2の臨界電流値を計測し、両者の差分を測定する。また、逆に、酸化物超電導導体5をリール部材7a側から容器1内に送出した場合は案内リール7cに近い側のセンサアレイ8により第1の臨界電流値を計測し、案内リール6cに近い側のセンサアレイ8により第2の臨界電流値を計測し、両者の差分を測定し、検査することができる。
【0043】
以上説明の如く第2実施形態の検査装置Bにあっては、センサアレイ8を2基備えているので、酸化物超電導導体5を繰り返し複数回容器1内の冷媒に引き込む必要はなく、1回の浸漬により連続的に酸化物超電導導体5を一方向に搬送し、その間に2基のセンサアレイ8によって経時的に酸化物超電導導体5の各測定部位の臨界電流値を計測することで、目的を達成することができる。
第2実施形態の装置であれば、酸化物超電導導体5を一方向に順次搬送する間に連続的に酸化物超電導導体5の検査ができるので、長尺の酸化物超電導導体5を量産した場合に、その酸化物超電導導体5を検査する上で有利な特徴を有する。
【実施例】
【0044】
金属基材として、表面を研磨した長さ10m、10mm幅のハステロイテープ(ハステロイC276:米国ヘインズ社商品名)を使用した。この金属基材上に、イオンビームスパッタ法により厚さ150nmのAlのベッド層を形成し、更にイオンビームスパッタ法により厚さ30nmのYのベッド層を形成後、IBAD法によって厚さ10nmのMgOの中間層を形成した。
さらに前記MgO膜上に、PLD法によってCeO膜のキャップ層を500nm積層形成した。このキャップ層上にY123(YBaCu7−X )系超電導層をPLD法によって1500nmの厚さに形成し、その上にAgからなる厚さ10μmの保護層をスパッタにより形成した。その上に厚さ100μmのCuの安定化層を貼り合わせて積層し、これら積層体の全周にポリイミド絶縁テープを巻回して絶縁層を被覆形成し、絶縁被覆付きの酸化物超電導導体を得た。
【0045】
次に、この酸化物超電導導体について図1に示す構造の欠陥検査装置を用いて欠陥の有無を調査した。なお、試験に用いた検査装置の基本構造(容器1とヒータ部材2、3とリール部材6a、7aと案内リール6b、7c、センサアレイ8を含む基本構造であって、臨界電流値をセンサアレイ8にて検出する機能を有する基本構造)は、THEVA社製のTAPESTAR(登録商標)と称される酸化物超電導導体の臨界電流値の測定装置を用いていて、この装置に本願発明の特徴部分である第1の臨界電流値の測定機能と第2の臨界電流値の測定機能とこれらの差分の検出機能を付加した形態として装置を構成し、本実施例に用いている。
上記構造の酸化物超電導導体を図1に示す欠陥検査装置の容器一側のリール部材に巻き付け、酸化物超電導導体の一端を容器一側のリール部材から繰り出して案内リールを介し液体窒素を収容した容器の内部にヒータ部材を介して導入し、容器内部のセンサアレイを通過させてから容器の他側の外側にヒータ部材を介して引き出し、容器他側の案内リールを介してリール部材に巻き付けた。また、ヒータ装置2,3で必要に応じて酸化物超電導導体を加熱し、結露を防止するようにした。
【0046】
この状態から上述の酸化物超電導導体に対し、容器一側のリール部材から送り出して容器他側のリール部材に巻き取る方向か、容器他側のリール部材から送り出して容器一側のリール部材に巻き取る方向に移動させる操作を必要回数繰り返し行った。
臨界電流値の測定は、酸化物超電導導体を常温(容器の外部)から容器内部の液体窒素に引き込んで5秒間浸漬した後、容器外部の常温に引き戻す操作を1サイクルとして、1サイクル目の冷媒による冷却時に、ホールセンサにより超電導導体の長さ方向特定位置の幅方向について磁気計測する測定を行い、この際に求めた図5(A)に示す測定結果から臨界電流値を求めた値を第1の臨界電流値とした。
また、同様なサイクルを8サイクル繰り返し、8サイクル目の冷媒による冷却時に、ホールセンサにより酸化物超電導導体の長さ方向特定位置(先の1サイクル目の測定位置と同等位置)の幅方向について磁気計測する測定を行い、この際に求めた測定結果から臨界電流値を求めた値を第2の臨界電流値とした。
前述の第1の臨界電流値と第2の臨界電流値の測定を測定対象の酸化物超電導導体の長さ方向に沿って一定間隔で行い、酸化物超電導導体の長さ位置毎に測定した結果を併せて図6に示す。図6に◆印で示す測定結果が1サイクル計測時の第1の臨界電流値、図6に■印で示す測定結果が8サイクル計測時の第2の臨界電流値である。
【0047】
図6に示す如く酸化物超電導導体の長さ方向において1600mmの位置から1900mmの位置の間に、臨界電流値(Ic)において80〜100Aの間の領域に◆印と■印が集合して多数プロットされているが、これらのプロットとは別に、1650mm〜1800mmの間の領域において20A〜80Aの低い臨界電流値を示す領域に◆印が複数プロットされた結果となった。
これは、1サイクルの冷却操作の場合において、即ち、冷却操作が少ない場合において、酸化物超電導導体の内部に冷却が不十分ではあるが超電導状態となった領域が生成されたことを意味する。
即ち、8サイクルの冷却操作においては、酸化物超電導導層の隅々まで十分に冷却された結果、臨界電流値の値が高いが、1サイクルの冷却操作では酸化物超電導導層の一部に冷却不十分な部位が生じ、この部位の生成に起因して臨界電流値の値が低い値のまま計測される現象が認められた。
【0048】
このことは、酸化物超電導層に対して保護層と安定化層が完全に密着している部分については液体窒素からの冷却作用が十分に早く作用するが、酸化物超電導層に対して保護層あるいは安定化層が完全に密着していない部位を生じていた場合、1サイクル冷却操作では酸化物超電導層の冷却不十分な部位の発生により低い臨界電流値が計測され、8サイクル冷却操作では、例え剥離部分を生じていたとしても、冷媒からの冷却作用が十分に効いて本来の高い臨界電流値になっていると推定できる。
即ち、1サイクルの冷却操作の場合に臨界電流値の低下が発生している領域は、酸化物超電導層と保護層または安定化層との間に剥離等に起因する熱伝達の悪い部分、即ち欠陥部分を生じていると思われる。また、◆印が80〜100Aの領域に収まっている1600mm〜1650mmの領域と1800mm〜1900mmの領域では、低い臨界電流値を示す現象が発生していないので、剥離部分などの欠陥部分を生じていないと判断できる。
【0049】
従ってこの図6に示す如く液体窒素による冷却時間の短い1サイクルの冷却操作の場合に計測された臨界電流値と、液体窒素による冷却時間の長い8サイクルの冷却操作の場合に計測された臨界電流値とに差分を生じていると、その差分が検出された領域では酸化物超電導層と保護層又は安定化層との間に、剥離などの欠陥を生じていることが判り、その他の部分は剥離欠陥が生じていない領域であることが判る。即ち、本発明によれば、酸化物超電導導体の長さ方向において内部側の欠陥部分の有無を精密に検査できたことが判る。
また、図6に示す如く酸化物超電導導体の長さ方向において1650mm〜1800mmの領域に◆印が多数プロットされているので、この間の領域は剥離などの欠陥部分を連続的に生じている領域であると判断することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、積層構造の酸化物超電導導体の内部側に、生じている金属安定化層と超電導層との剥離などの欠陥部分の有無を検査することができる検査方法と検査装置を提供することができ、酸化物超電導導体の検査分野において多大な貢献をなす。
【符号の説明】
【0051】
A…欠陥検出装置、1…容器、2、3…ヒータ部材、5…酸化物超電導導体、6、7…送出引出機構、6a、7a…リール部材、8…センサアレイ(臨界電流値測定手段)、9…接続線、10…検出装置(検出手段)、11…基材、12…中間層、13…キャップ層、14…酸化物超電導層、15…保護層、16…安定化層、17…積層体、18…絶縁層、20…コイル(磁界印加機構)、21…ホールセンサ(磁気センサ)、22…ホール素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に中間層を介し酸化物超電導層が形成され、この酸化物超電導層上に金属安定化層が形成されてなる酸化物超電導導体において内部欠陥の有無を検査する方法であって、
前記酸化物超電導導体を超電導状態に維持可能な冷媒にて冷却し、冷却開始後、所定時間経過後に計測した第1の臨界電流値と、更に冷却を所定時間続行した後に測定した第2の臨界電流値との差分を検出し、この差分の検出により前記酸化物超電導導体の欠陥の有無を検出することを特徴とする酸化物超電導導体の検査方法。
【請求項2】
前記第1の臨界電流値の計測と前記第2の臨界電流値の計測を酸化物超電導導体の長さ方向に沿って複数位置にて行い、酸化物超電導導体の長さ方向に連続して差分が検出された領域を欠陥部分として把握することを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導導体の検査方法。
【請求項3】
前記第1の臨界電流値と第2の臨界電流値として、ホールセンサによる磁気検出結果に基づいて決定した臨界電流値を採用することを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物超電導導体の検査方法。
【請求項4】
前記第1の臨界電流値と第2の臨界電流値として、前記酸化物超電導導体への通電により求めた臨界電流値を採用することを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物超電導導体の検査方法。
【請求項5】
前記欠陥部を前記酸化物超電導層と金属安定化層の剥離部分として把握することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸化物超電導導体の検査方法。
【請求項6】
前記第1の臨界電流値として、前記酸化物超電導導体を冷媒により冷却した場合に安定状態となった後に示す臨界電流値よりも低い臨界電流値として把握し、前記第2の臨界電流値として、前記酸化物超電導導体を冷媒により冷却した場合に安定状態となった後に示す臨界電流値として把握し、両者の差分を検出することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の酸化物超電導導体の検査方法。
【請求項7】
基材上に中間層を介し酸化物超電導層が形成され、この酸化物超電導層上に金属安定化層が形成されてなる酸化物超電導導体の内部欠陥の有無を検査する装置であって、
前記酸化物超電導導体を超電導状態に維持可能な冷媒を収容する容器と、前記容器に付設されて容器内部において冷媒により冷却された状態の酸化物超電導導体の臨界電流値を測定する手段とを備え、該臨界電流値測定手段に、
前記酸化物超電導導体を前記容器内の冷媒により冷却し、冷却開始後、所定時間経過後に第1の臨界電流値を測定する機能と、更に冷却を所定時間続行した後に第2の臨界電流値を測定する機能を備えるとともに、
前記第1の臨界電流値と前記第2の臨界電流値の差分の検出により前記酸化物超電導導体の欠陥を検出する検出手段を備えたことを特徴とする酸化物超電導導体の検査装置。
【請求項8】
前記容器の内部に設けられて容器内に供給された酸化物超電導導体に磁界を印加する磁界印加機構と、前記磁界印加機構が酸化物超電導導体に印加した磁界の影響を検出する磁気センサと、前記磁気センサの計測結果に基づき臨界電流値を算出する手段とを具備してなることを特徴とする請求項7に記載の酸化物超電導導体の検査装置。
【請求項9】
前記容器内に長尺の酸化物超電導導体を供給するか引出可能な送出引出機構を更に備え、
前記第1の臨界電流値の計測と前記第2の臨界電流値の計測を長尺の酸化物超電導導体の長さ方向に沿って複数位置にて行い、酸化物超電導導体の長さ方向に連続して臨界電流値の差分が検出された領域を欠陥部分として把握する機能を具備したことを特徴とする請求項7または8に記載の酸化物超電導導体の検査装置。
【請求項10】
前記第1の臨界電流値が、前記酸化物超電導導体を冷媒により冷却した場合に安定状態となった後に示す臨界電流値よりも低い臨界電流値であり、前記第2の臨界電流値が、前記酸化物超電導導体を冷媒により冷却した場合に安定状態となった後に示す臨界電流値であり、両者の差分を検出して欠陥を検出する機能を具備したことを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の酸化物超電導導体の検査装置。
【請求項11】
前記容器内に供給される酸化物超電導導体の長さ方向に沿って前記第1の臨界電流値を測定する手段と前記第2の臨界電流値を測定する手段が間隔をあけて順番に前記容器内に配置されてなることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の酸化物超電導導体の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−133284(P2011−133284A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291638(P2009−291638)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】