説明

酸化物超電導層に対する人工ピンの導入方法および酸化物超電導導体

【課題】本発明は、酸化物超電導層の成膜時には制御し難い人工ピンを酸化物超電導層の形成後に導入することができる技術の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、テープ状の基材の上方に中間層と酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体において前記酸化物超電導層に人工ピンを導入する方法であって、成膜後の酸化物超電導層に加熱急冷処理を施した後、該酸化物超電導層上に人工ピン材料の薄膜を形成し、次いで加熱処理することにより前記薄膜中の人工ピン材料を前記酸化物超電導層に拡散させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導層に対する人工ピンの導入方法及び人工ピンを導入した酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体に関する。
【背景技術】
【0002】
RE123系の酸化物超電導体は、REBaCu7−δ(RE:Y、Gdなどの希土類元素)なる組成で表記され、液体窒素温度(77K)よりも高い臨界温度を有し、超電導マグネットや変圧器、限流器、モータ等、各種超電導機器への応用開発がなされている。
一般に、RE123系の酸化物超電導体を用いて良好な結晶配向性を有するように成膜された超電導体は、自己磁場下で高臨界電流特性を示す。しかしながら、超電導体に侵入している量子化磁束にローレンツ力が作用し、量子化磁束が移動すると、電流の方向に電圧が生じ、抵抗が生じてしまう。ローレンツ力は、電流値が増加するほど、また磁場が強くなるほど大きくなるので、外部磁場が強くなると超電導体の臨界電流特性が低下する問題がある。
【0003】
その解決策として、超電導体の内部に不純物や欠陥などのナノスケールの異相を混入させ、磁束をピン止めすることで、磁場中における超電導体の臨界電流特性を改善することがなされている。一例として、酸化物超電導体の内部に磁束ピン止め物質となるべき物質を接触させながら熱拡散させて酸化物超電導体中に磁束ピン止め物質を分散させる方法が知られている。(特許文献1参照)また、他の例として、磁束渦をピンニングしてその動きを阻止するピンニングサイトをピンニングに必要な磁気モーメントを有する原子を導入することで解決しようとした技術が知られている。(特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−104500号公報
【特許文献2】特開平1−100808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1、2に記載の技術を基に、薄膜状の酸化物超電導層に対し人工ピンを導入する技術として、酸化物超電導層の成膜中に人工ピンとなるべき物質を混入し、酸化物超電導層の結晶成長とともに人工ピンの導入も行う技術が一般的になされている。
例えば、PLD法(パルスレーザー蒸着法)によって酸化物超電導層を成膜する場合、成膜用のターゲットに人工ピンの元となる材料(BaZrO)を混入しておき、酸化物超電導層の結晶成長と同時に人工ピンを導入する技術が提供されている。
【0006】
しかしながら、酸化物超電導層の結晶成長と同時に人工ピンを導入する方法では、人工ピンの形状制御や人工ピンの導入量制御が難しい問題を有しており、更に、人工ピン(不純物)を酸化物超電導層内に直接生成するため、母相となる酸化物超電導層の結晶性を一部崩すこととなるので、臨界電流値(Ic)や臨界電流密度(Jc)などの絶対値が低下してしまう。従って、母相となる酸化物超電導層の結晶性を保ちながら磁場中の超電導特性をこれまで以上に向上させるためには、酸化物超電導層の結晶成長と同時に人工ピンを導入する方法、即ち、in-situ(インサイチュ)に人工ピンを導入する方法では限界があった。また、酸化物超電導層の成膜方法にはPLD法の他に、TFA−MOD法(トリフルオロ酢酸塩を用いた有機金属堆積法、塗布熱分解法)、MOCVD法(有機金属気相成長法)などのように種々の方法が知られており、これらの成膜法によって人工ピン生成の仕方や形状は異なるが、いずれにおいても前述の問題がある。
【0007】
よって、酸化物超電導層の作製方法に拘わらずに後発的に人工ピンを作製する方法があるならば、酸化物超電導層の本来の結晶性を保ったまま人工ピンを導入することが可能であると思われる。また、後発的に人工ピンの導入が可能であるならば、人工ピンの入っていない高品質な酸化物超電導層のサンプルに人工ピンを追加することが可能となり、もしくは、ある特定の人工ピン(人工ピンの形状や人工ピンの材料、種類)しか導入できない製造方法による酸化物超電導層に他の人工ピンを追加することができると想定できる。
【0008】
本発明は、以上のような従来の実情に鑑みなされたものであり、酸化物超電導層の成膜時には制御し難い人工ピンを酸化物超電導層の形成後に量や拡散状態を制御しつつ導入することができる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、テープ状の基材の上方に中間層と酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体において前記酸化物超電導層に人工ピンを導入する方法であって、成膜後の酸化物超電導層に加熱急冷処理を施した後、該酸化物超電導層上に人工ピン材料の薄膜を形成し、次いで加熱処理することにより前記薄膜中の人工ピン材料を前記酸化物超電導層に拡散させることを特徴とする。
【0010】
酸化物超電導層の上に形成された薄膜に含有される人工ピン材料の元素が、熱処理により酸化物超電導層側に拡散して分散され、酸化物超電導層内において元素拡散により人工ピンが分散生成される。酸化物超電導層の内部には加熱急冷処理によって転位が多く導入されているので、これらの転位部分に人工ピンの元素が集中的に拡散される結果、酸化物超電導層内に複数の人工ピンが分散生成される。
酸化物超電導層はそれ自身の成膜時に人工ピン材料が導入されておらず、成膜後に人工ピン材料が転位の部分に元素拡散されて導入されているので、成膜時において酸化物超電導層自体の結晶構造を不純物の無い良好な結晶状態の膜とすることができる。よって、磁場中において基本的に優れた臨界温度や臨界電流密度を示す酸化物超電導導体を提供できる。
【0011】
前記課題を解決するため、本発明は、テープ状の基材の上方に中間層と酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体に曲げ歪を付加した後、加熱急冷処理することにより、前記酸化物超電導層の転位密度を上昇させることを特徴とする。
酸化物超電導層に曲げ歪が付加されることによって、多数の転位が導入されて酸化物超電導層の転位密度が向上する。転位密度を高めた酸化物超電導層に人工ピン材料の元素を拡散させることにより、多数分散された転位部分に人工ピン材料の元素が拡散する結果、人工ピンを酸化物超電導層に均一に多数分散させることができ、磁場中において超電導特性の劣化割合の小さい酸化物超電導層を提供できる。
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は、前記薄膜として人工ピン材料の金属薄膜を形成し、該金属薄膜形成後の加熱時に酸素雰囲気中において加熱することにより、前記金属薄膜から前記酸化物超電導層内に前記金属の酸化物を人工ピンとして導入することを特徴とする。
人工ピン材料の金属薄膜から酸化物超電導層側に元素拡散する際、人工ピン材料の元素と雰囲気中の酸素とを反応させて酸化物の人工ピンを酸化物超電導層内に導入できる。このため、酸化物としての人工ピンを酸化物超電導層に導入する際、酸化物になっていない金属薄膜を利用して酸化物の人工ピンを酸化物超電導層内に導入できる。このようにすることで、酸化物としてのターゲットを作成することが難しく、金属ターゲットであれば利用しやすい場合は、使いやすい単体金属のターゲットを用いて酸化物の人工ピンを導入することができる。
【0013】
前記課題を解決するため、本発明は、先のいずれか一項に記載の酸化物超電導層に対する人工ピンの導入方法により得られた酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体に関する。
本発明により、結晶構造が良好で優れた臨界電流値と臨界電流密度を示す酸化物超電導層に人工ピンが導入され、磁場中における超電導特性の優れた酸化物超電導導体を提供できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸化物超電導層の成膜後に設けた薄膜から人工ピン材料を酸化物超電導層に拡散させて酸化物超電導層内に人工ピンを導入するので、成膜時に良好な結晶状態で形成した優れた超電導特性を発揮する酸化物超電導層に人工ピンを導入した酸化物超電導導体を提供できる。よって、磁場中において超電導特性が低下するおそれの少ない優れた酸化物超電導導体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る方法により人工ピンが導入された酸化物超電導導体の一例構造を示す正面図。
【図2】図1に示す酸化物超電導導体を製造する段階において利用する歪の付加方法の一例を示す説明図。
【図3】図1に示す構成の酸化物超電導導体に設けられている酸化物超電導層を成膜している状態の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る酸化物超電導層に対する人工ピンの導入方法と人工ピンが導入された酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体について図面に基づいて説明する。
図1は本発明に係る方法により人工ピンが酸化物超電導層に導入された酸化物超電導導体の一例構造を示す斜視図、図2は人工ピンを導入するにあたり、酸化物超電導導体に歪を付加する状態を説明するための説明図、図3は酸化物超電導層を形成している状態の一例を示す側面図である。
本実施形態において目的とする酸化物超電導導体1は、テープ状の基材本体2の上方に、拡散防止層3と中間層4とキャップ層5と酸化物超電導層6と安定化層7をこの順に積層されてなる。この酸化物超電導導体1はその外周面を図示略の絶縁被覆層などで覆って酸化物超電導線材として利用される。
【0017】
前記酸化物超電導導体1に適用される基材本体2は、通常の酸化物超電導導体の基材本体として使用することができ、高強度であれば良く、長尺の超電導線材とするためにテープ状やシート状あるいは薄板状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。例えば、ハステロイ等のニッケル合金等の各種耐熱性金属材料等が挙げられる。各種耐熱性金属の中でも、ニッケル合金が好ましい。なかでも、市販品であれば、ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)が好適であり、ハステロイとして、モリブデン、クロム、鉄、コバルト等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。なお、Ni合金に集合組織を導入したNi−W合金のような配向性基材本体を用いても良い。基材本体2の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmの範囲とすることができる。
【0018】
拡散防止層3は、基材本体2を構成する元素が上部の酸化物超電導層6側へ拡散するのを防止する機能を有する。これにより、拡散元素による酸化物超電導層6等の特性劣化を抑えることができる。拡散防止層3として、例えば、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)、あるいは、GZO(GdZr)等から構成される単層構造あるいは複層構造の層が望ましく、厚さは例えば10〜400nmである。
拡散防止層3と中間層4の間には、ベッド層が設けられていてもよい。ベッド層は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層は、例えば、イットリア(Y)などの希土類酸化物であり、組成式(α2x(β(1−x)で示されるものが例示できる。より具体的には、Er、CeO、Dy、Er、Eu、Ho、La等を例示することができ、これらの材料からなる単層構造あるいは複層構造でも良い。ベッド層は、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜100nmである。また、ベッド層の結晶性は特に問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すれば良い。
【0019】
中間層4は、酸化物超電導層6の結晶配向性を制御し、基材本体2中の金属元素の酸化物超電導層6への拡散を防止するものである。さらに、基材本体2と酸化物超電導層6との物理的特性(熱膨張率や格子定数等)の差を緩和するバッファー層として機能し、その材質は、物理的特性が基材本体2と酸化物超電導層6との中間的な値を示す金属酸化物が好ましい。中間層4の好ましい材質として具体的には、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物を例示できる。
中間層4は、単層でも良いし、複層構造でも良くIBAD法(イオンビームアシスト蒸着法)などにより成膜された結晶配向性に優れた層であることが好ましい。例えば、前記金属酸化物からなる層(金属酸化物層)は、結晶配向性を有していることが好ましく、複数層である場合には、最外層(最も酸化物超電導層6に近い層)が少なくとも結晶配向性を有していることが好ましい。
【0020】
前記キャップ層5は、前記中間層4の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されたものが好ましい。このようなキャップ層5は、前記中間層4よりも高い面内配向度が得られる可能性がある。
キャップ層5の材質は、前記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等が例示できる。キャップ層5の材質がCeOである場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
【0021】
キャップ層5は、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができるが、大きな成膜速度を得られる点でPLD法を用いることが好ましい。PLD法によるCeO層の成膜条件としては、基材温度約500〜1000℃、約0.6〜100Paの酸素ガス雰囲気中で行うことができる。キャップ層5を成膜するために本実施形態では後に説明する構成の成膜装置Aを用いて後述するPLD法により形成することができる。勿論、キャップ層5をPLD法以外の成膜法で形成しても良い。
CeOのキャップ層5の膜厚は、50nm以上であればよいが、十分な配向性を得るには100nm以上が好ましい。但し、厚すぎると結晶配向性が悪くなるので、50〜5000nmの範囲、より好ましくは100〜5000nmの範囲とすることができる。
【0022】
酸化物超電導層6は通常知られている組成の酸化物超電導体からなるものを広く適用することができ、REBaCu(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のもの、具体的には、Y123(YBaCu)又はGd123(GdBaCu)を例示することができる。また、その他の酸化物超電導体、例えば、BiSrCan−1Cu4+2n+δなる組成等に代表される臨界温度の高い他の酸化物超電導体からなるものを用いても良いのは勿論である。
酸化物超電導層6は、本実施形態では後に説明する構成の成膜装置Aを用いて後述するPLD法により形成することができる。酸化物超電導層6の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。また、酸化物超電導層6の内部には図示略の複数の転位が導入されており、これらの転位部分に後述する人工ピン材料が拡散されて人工ピンが導入されている。
【0023】
酸化物超電導層6の上面を覆うように形成されている安定化層7は、Agからなり、スパッタ法などの気相法により成膜されており、その厚さを1〜30μm程度とされる。また、安定化層7の上に図示略の第2の安定化層が設けられていても良い。第2の安定化層は、良導電性の金属材料からなり、酸化物超電導層6が超電導状態から常電導状態に転移した時に、安定化層7とともに、電流を転流するバイパスとして機能する。第2の安定化層を構成する金属材料としては、良導電性を有するものであればよく、特に限定されないが、銅、黄銅(Cu−Zn合金)、Cu−Ni合金等の銅合金、ステンレス等の比較的安価な材質からなるものを用いることが好ましく、中でも高い導電性を有し、安価であることがら銅からなることが好ましい。なお、酸化物超電導導体1を超電導限流器に使用する場合は、第2の安定化層は高抵抗金属材料より構成され、例えば、Ni−Cr等のNi系合金などを使用できる。第2の安定化層の厚さは特に限定されず、適宜調整可能であるが、10〜300μmとすることが好ましい。
【0024】
本実施形態において、前記酸化物超電導導体1のキャップ層5あるいは酸化物超電導層6を以下に説明する図3に示す成膜装置Aを用いて製造することができる。
本実施形態の成膜装置Aは、レーザー光Bによってターゲット11から叩き出され若しくは蒸発した構成粒子の噴流(プルーム)F1を基材本体側に向け、構成粒子の堆積による薄膜を基材本体上に形成するレーザー蒸着法(PLD法)を実施する装置である。
本実施形態の成膜装置Aは、基材本体2上に中間層4までを形成した状態からその上のキャップ層5を成膜する場合と、キャップ層5の上に酸化物超電導層6を成膜する場合のいずれかまたは両方に用いることができる。
【0025】
成膜装置Aは、図3に示すようにテープ状の基材本体2をその長手方向に走行するための走行装置10と、この走行装置10の下側に設置されたターゲット11と、このターゲット11にレーザー光を照射するための図3に示すように処理容器(真空チャンバ)18の外部に設けられた図示略のレーザー光源を備えている。
前記走行装置10は、一例として、テープ状の基材本体2を成膜領域15に沿って供給するための供給リール装置16と、成膜領域15を通過後の基材本体2を巻き取るための巻取リール装置17を備えている。
基材本体2は処理容器18の内部に設けられている供給リール装置16に必要長さ巻き付けられ、必要長さ繰り出すことができるように構成されている。供給リール装置16から繰り出された基材本体2は、成膜領域15を通過後、巻取リール装置17に巻き取られるように構成されている。この構成により、成膜領域15を通過する基材本体2の走行レーンを構成するように基材本体2を案内できる装置としてリール装置16、17が設けられている。
【0026】
前記走行装置10とターゲット11は処理容器18の内部に収容されており、処理容器18は、外部と成膜空間とを仕切る容器であり、気密性を有するとともに、内部が高真空状態とされるため耐圧性を有する構成とされる。この処理容器18には、処理容器内のガスを排気する排気手段が接続され、他に、処理容器内にキャリアガスおよび反応ガスを導入するガス供給手段が形成されているが、図面では略し、処理容器18の輪郭のみ描いている。
【0027】
また、処理容器18の内部に、搬送途中の基材本体2を加熱するための熱板等の加熱装置23が設けられ、供給リール装置16から繰り出された基材本体2は加熱装置23の一面に沿って成膜領域15を通過後、巻取リール装置17に至るように構成されている。
加熱装置23は基材本体2をその裏面側から目的の温度に加熱できる装置であればその構成は問わないが、通電式の電熱ヒーターを内蔵した金属板からなる一般的な加熱ヒーターを用いることができる。
ターゲット11は、図示略のターゲットホルダに支持され、ターゲットホルダが回転機構と水平移動機構に支持され、これらの機構によるターゲットホルダの回転移動と往復移動により、ターゲット11の表面に照射されるレーザー光Bの照射位置を変更できるように構成されている。
【0028】
ターゲット11は、図3に示す成膜装置Aでキャップ層5を成膜する場合、キャップ層5を構成するCeOなどの酸化物焼結体の板材を用いることができる。
ターゲット11は、図3に示す成膜装置Aで酸化物超電導層6を成膜する場合、形成しようとする酸化物超電導層6と同等または近似した組成、あるいは、成膜中に逃避しやすい成分を多く含有させた複合酸化物の焼結体あるいは酸化物超電導体などの板材を用いることができる。従って、酸化物超電導体のターゲットは、RE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−x:REはY、La、Nd、Sm、Eu、Gd等の希土類元素)またはそれらに類似した組成の材料を用いることができる。RE−123系酸化物として好ましいのは、Y123(YBaCu7−x)又はGd123(GdBaCu7−x)等であるが、その他の酸化物超電導体、例えば、BiSrCaCuなる組成などに代表される臨界温度の高い酸化物超電導体と同一の組成か、近似した組成のものを用いることが好ましい。
【0029】
処理容器18には図示略の窓部が形成されており、この窓部を介し外部のレーザー光源からのレーザー光Bをターゲット11に照射できるように構成されている。なお、窓部とレーザー光源との間には反射ミラーや調整レンズ等の光学系が設けられているが図3では略している。
前記レーザー光源はエキシマレーザーあるいはYAGレーザー等のようにパルスレーザーとして良好なエネルギー出力を示すレーザー光源を用いることができる。
【0030】
前記構成の成膜装置Aを用いて酸化物超電導層6を成膜するには、テープ状の基材本体2上に、拡散防止層3と中間層4とキャップ層5までを先に説明した成膜法で種々形成したテープ状の基材を用いる。
これらのテープ状の基材を供給リール装置16から巻取リール装置17に図3に示すように移動させ、ターゲットホルダに目的のターゲット11を装着した後、処理容器18の内部を所定の圧力に減圧する。目的の圧力に減圧後、レーザー光源からパルス状のレーザー光をターゲット11の表面に集光照射する。
【0031】
ターゲット11の表面にレーザー光源からのパルス状のレーザー光を集光照射すると、ターゲット11の表面部分の構成粒子を叩き出し若しくは蒸発させて前記ターゲット11から構成粒子の噴流(プルーム)F1を発生させることができ、レーン状に走行しているテープ状の基材本体2のキャップ層5上に目的の粒子堆積を行って、酸化物超電導層6を成膜できる。
酸化物超電導層6の成膜を行って図2に示す酸化物超電導積層体1Aを得た後、図2に示すように以下の歪付加工程を行う。
【0032】
図2に示すようなステンレス鋼などの熱伝導性の良好な金属からなる円柱状の治具13に酸化物超電導積層体1Aを巻き付け、歪を与える。酸化物超電導積層体1Aが短尺のものの場合は治具13に単に巻き付けることができ、酸化物超電導積層体1Aが長尺のものの場合は治具13にらせん巻きすることで、長尺の酸化物超電導積層体1Aの全長に均一に歪を付加することができる。
ここで用いる治具13の曲率半径は、5cm〜20cm程度が望ましい。この治具13に巻き付けたまま、一例として、酸素雰囲気中において300〜900℃に数分〜数時間、例えば、700℃に3時間、加熱後、急冷する、加熱急冷処理を施す。急冷処理としては、液体窒素などの液体に浸漬する処理、あるいは、冷却板に押し付ける処理などを選択できる。
なお、治具13により歪を付加する場合、0.5%を超える歪を付加すると、酸化物超電導層6の超電導特性が劣化し始めるので、酸化物超電導層6に付加する歪は0.1〜0.3%の範囲とすることが好ましい。また、常温の治具13に常温で巻き付けたまま急冷することなく保持して機械歪を付加する方法では転位は導入できないか、導入できたとしても転位の導入は不十分となり易い。また、前述の巻取リール装置17を治具13の代用として利用し、処理容器18から取り出してそのまま加熱急冷処理を施しても良い。
【0033】
前記治具13に酸化物超電導積層体1Aを巻き付けて湾曲させたまま加熱急冷処理することで、酸化物超電導層6に多数の転位を導入することができる。転位密度として、例えば、0.1個/μm〜10000個/μmの範囲を例示することができる。治具13に酸化物超電導積層体1Aを巻き付ける場合、基材本体2側が治具13に接するように、酸化物超電導層6が外面側に露出するように巻き付けることが好ましい。酸化物超電導層6を内側にすると、治具13との擦れ等により酸化物超電導層6が損傷するおそれがあるが、酸化物超電導層6を損傷させるおそれがないように巻き付ける場合は酸化物超電導層6をどちら側に向けて酸化物超電導積層体1Aを治具13に巻き付けても良い。
転位密度の測定は、例えば、Br-MeOH(あるいはBr−MrOH)溶液をエッチング液として用い、転位を生成させた膜、酸化物超電導層6をBr-MeOH(あるいはBr−MrOH)溶液に数秒浸漬し、速やかにエタノールで2分程度、超音波洗浄し、乾燥させた後、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて薄膜表面の観察を行う方法で測定することができる。
【0034】
酸化物超電導層6に多数の転位を導入のための加熱急冷処理を施した後、酸化物超電導層6の上に人工ピン材料の薄膜を形成する。人工ピン材料として金属の酸化物を用いる場合は、皮膜として該当金属の薄膜を用いることができる。例えば、人工ピン材料としてYを用いる場合は、Yの単体金属薄膜を形成できる。人工ピン材料として他にBaZrO(BZO)、BiFeO(BFO)、SnO、BaSnOなどが知られているので、これら金属酸化物の元となる金属ターゲットを1つあるいは複数用いて薄膜を形成する。ターゲットにおいては、目的とする人工ピンが複合酸化物である場合は、単体金属ターゲットを複数用いても良いし、合金化が可能なターゲットであれば合金ターゲットを用いても良く、酸化物ターゲットを用いても良い。
人工ピン材料の薄膜から酸化物超電導層6側に元素拡散する際、人工ピン材料の元素と雰囲気中の酸素とを反応させて酸化物の人工ピンを酸化物超電導層6内に導入できる。このため、酸化物としての人工ピンを酸化物超電導層6に導入する際、酸化物になっていない金属の薄膜を利用して酸化物の人工ピンを酸化物超電導層6内に導入できる。このようにすることで、酸化物としてのターゲットを作成することが難しく、あるいは酸化物のターゲットがレーザー照射に弱く、割れやすいなどの制約がある場合であっても、金属ターゲットであればレーザー照射に強く利用しやすいなどの場合は、使いやすい単体金属のターゲットを用いて酸化物の人工ピンを導入することができる。
【0035】
薄膜を形成後、酸素雰囲気などの所定の雰囲気において薄膜を備えた酸化物超電導積層体1Aを300〜900℃に数時間、例えば、500℃に3時間程度加熱し、薄膜を構成している元素を酸化物超電導層6側に熱拡散させる。この拡散の際、通常の結晶に元素が拡散する場合よりも転位を介して元素が拡散する方が拡散速度が格段に速いので、薄膜を構成する元素は確実に酸化物超電導層6の全体に拡散する。この酸素雰囲気中の加熱処理によってYはYとなって酸化物超電導層6の内部に分散するので、内部に人工ピンとしてのYを分散させた酸化物超電導層6を得ることができる。なお、一般に材料を高温に加熱すると転位の再配列や結合が起こり、転位密度が変化することがあるが、転位の部分に他の物質を拡散させると、転位の部分に他の物質が移動して転位が固着されるので、上述のように500℃程度の高温に加熱しても転位密度が加熱前の転位密度より少なくなることはない。
また、人工ピンの分散生成後、酸素雰囲気中で400〜500℃程度に数時間以上加熱する酸素ドーピング処理を行って酸化物超電導層6の結晶構造を整え、人工ピンを導入した酸化物超電導層6を得ることができる。
【0036】
一般的に材料を高温、高圧下に保持すると、結晶のすべりや欠陥の集中などによって転位が発生する。この転位のみでも酸化物超電導層に生成すると、転位の部分は酸化物超電導体ではなくなるので、転位部分が人工ピンになり得るため、磁場中の超電導特性は向上すると考えられる。
また、物質中の拡散は、結晶中よりも転位や粒界などの欠陥線や面の方が速いといわれている。従って、例えば、刃状転位を有する物質に何らかの物質を蒸着し、熱拡散させることによって、ナノロッドのような人工ピンとなり得る部位を生成できると考えられる。
例えば、高温高圧に保持することで単結晶サファイヤに転位欠陥を発生させ、表面に蒸着したTiを熱拡散により転位内に拡散させることで、導電性ナノワイヤを形成できることが知られている。
【0037】
上述の方法により転位に沿って人工ピンの材料を酸化物超電導層6内に分散させる場合、加圧温度や圧力、保持時間を調節することで、転位密度を自在に変更できる。また、転位に対し熱拡散により分散させる人工ピン材料の量について、薄膜の厚さ(蒸着で薄膜を作製する場合の薄膜の蒸着量)、加熱時間、加熱温度により制御することができる。従って、酸化物超電導層6に導入する人工ピンの量や分散状態を任意に制御することができる。この後、酸化物超電導層6の上にAgなどの保護層7を成膜することで図1に示す構造の酸化物超電導導体1を得ることができる。
以上説明のように、人工ピンの分散量、分散状態を制御した酸化物超電導層6を備えた酸化物超電導導体1を得ることができる。
【0038】
以上説明した酸化物超電導導体1は、酸化物超電導層6とその上の薄膜を形成後に薄膜から熱拡散により分散させた人工ピンを備えているので、酸化物超電導層6自体は人工ピン材料の添加に拘束されずに成膜されているので、結晶構造の優れた超電導特性の良好な酸化物超電導層6とすることができる。結晶構造の良好な酸化物超電導層6に対し転位の増加と人工ピン材料の拡散により結晶構造は多少乱れると想定されるが、酸化物超電導層6自体が成膜時に良好な結晶状態で成膜されているので、ターゲットに人工ピン材料を添加して成膜時に人工ピン材料を供給しつつ酸化物超電導層を成膜した場合に比べ優れた超電導特性の酸化物超電導層6とすることができる。
【0039】
このため、人工ピンを導入している転位部分を除いた領域に形成されている酸化物超電導層は膜質の良好な結晶構造に優れた酸化物超電導層であるので、酸化物超電導層6は全体として超電導特性に優れるとともに、人工ピン材料が導入されているので、磁場中における臨界電流密度の優れた酸化物超電導導体1を得ることができる。
【0040】
また、上述の方法により人工ピンを酸化物超電導層6に導入する場合、その上に形成する薄膜の厚さを調節するならば、薄膜の厚さに応じて人工ピンの導入量を容易に制御できる。また、熱処理の温度や時間などのパラメータを制御することで、人工ピンの分散状態を制御できるので、人工ピンの分散状態の制御も可能な利点を有する。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
「実施例1」
ハステロイC−276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ200mmのテープ状の基材本体上に、アモルファスAlの拡散防止層(厚さ80nm)と、アモルファスYのベッド層(厚さ30nm)と、イオンビームアシスト蒸着法によるMgOの中間層(厚さ10nm)と、PLD法によるCeOのキャップ層(厚さ300nm)を成膜したテープ状の基材を用意した。
【0042】
次に、前記キャップ層上にYBaCu7−x層(膜厚1μm)を成膜した。レーザー光源として、エキシマレーザー(KrF:248nm)を用いた。エネルギー密度3.0J/cm(300mJ)、T−S(ターゲット基材間距離):7cm、テープ基材の移動時の線速20m/h、パルスレーザーの繰り返し周波数200Hz、処理容器の酸素分圧PO=80mTorr、熱板によるテープ状基材本体の加熱温度970℃の条件で行った。成膜装置は図3に示す構造と同じように1つの供給リール装置から他の1つの巻取リール装置までシングルレーンを構成するように基材本体を搬送しつつ成膜する装置を用いた。
【0043】
なお、前記基材本体上に前記と同等条件でキャップ層までを前記と同じ積層構造、かつ、同等膜厚で形成し、YBaCu7−x層を成膜する場合、用いるターゲットとして、5種類のターゲット「YBCO(Y:Ba:Cu=1:2:3)+Y(0、1、5、10、15%)」を使い分けて5種類のYBaCu7−x層を備えたNo.1〜No.5の酸化物超電導積層体試料を作成した。これらの試料は、ターゲットにYを含んでいるので、YBaCu7−x層の生成と同時にYBaCu7−x層中にYが分散されるので、分散されたYがYBaCu7−x層中において人工ピンを構成する。
【0044】
次に、前記Yを含ませずに前記の条件で形成したYBaCu7−x層を備えた酸化物超電導積層体について、図2に示す形状の曲率半径5cmの丸棒(ステンレス鋼製)に巻き付けて曲げ歪を付加し、次いで、酸素雰囲気中において電気炉で700℃に3時間加熱し、電気炉の均熱帯から低温域−20℃に急冷(クエンチ)し、YBaCu7−x層に転位を多数導入してNo.6の試料を得た。
前記No.6と同等の急冷した試料を複数用意し、これらに金属Yのターゲットを用いてPLD法により金属Y薄膜(膜厚0.2μm)を蒸着した後、Yを酸化物超電導層側に熱拡散し、酸化させるため、酸素雰囲気で500℃に3時間加熱してNo.7〜10の試料を得た。
【0045】
以上作成したすべての試料(No.1〜10)について、酸素雰囲気中で400℃に2時間加熱し、酸化物超電導層を構成する酸化物超電導体の結晶に酸素ドーピングを行ない、酸化物超電導導体を得た。
これら各酸化物超電導導体の臨界電流密度(Jc)を77K、1T(B//c)中において測定した結果を表1に示す。(B//c)は酸化物超電導層を構成する酸化物超電導体の結晶のc軸(基材本体の厚さ方向に配向するc軸)に平行に1T(テスラ)の磁場を印加した状態を示す。
【0046】
「表1」
試料No. Yドープ量(質量%) YBCO層の臨界電流密度[MA/cm]
1 0% 0.45
2 1% 0.51
3 5% 0.73
4 10% 0.71
5 15% 0.50
6 0% 0.54
7 1% 0.62
8 5% 0.81
9 10% 0.77
10 15% 0.62
【0047】
No.6の試料は歪付加後の急冷処理による転位の増加により、人工ピンを導入しなくても、No.1の試料と比較し、磁場中の超電導特性が向上している。これは酸化物超電導層内の転位そのものが人工ピンの役目を担ったものと推定できる。No.2〜5の試料に比べてNo.7〜10の試料の臨界電流密度が高いのは、No.7〜10の試料は、人工ピンを成膜後の後処理で生成しているため、YBCO酸化物超電導層の結晶成長が人工ピンによって阻害されず、高品質なYBCO酸化物超電導層となったためであると考えられる。また、No.2〜5の試料は人工ピンの導入と同時に酸化物超電導層を成膜しているため、成膜した酸化物超電導層そのものの結晶構造が乱れている結果、No.7〜10の試料よりも臨界電流密度が低下したと推定できる。
【0048】
次に、前述のNo.1〜10の各試料について、YBCO酸化物超電導層の面内配向のFWHM(結晶軸分散の半値幅)を求めた結果を以下の表2に記載する。
【0049】
「表2」
試料No. Yドープ量(質量%) YBCO層のFWHM[゜]
1 0% 2.8
2 1% 2.8
3 5% 2.9
4 10% 3.0
5 15% 3.1
6 0% 2.8
7 1% 2.8
8 5% 2.7
9 10% 2.8
10 15% 2.8
【0050】
表2に示す結果から、同じようにYをドープした試料であっても、ターゲットの段階でYを添加して成膜時に同時にYをドープしたNo.2〜5の試料に対し、薄膜形成後に熱拡散によりYをドープしたNo.7〜10の試料の方が結晶配向性に優れていることが判明した。これは、ターゲットの状態で人工ピン導入のための材料を添加すると酸化物超電導層の成膜時に同時に人工ピンも生成されるので、酸化物超電導体の結晶成長に影響があったのに対し、酸化物超電導層の形成後に人工ピン材料を導入した試料では酸化物超電導層を構成する酸化物超電導体の結晶配向性が良好であったことを示していると推定できる。
【0051】
なお、No.1の試料と同等条件で製造した酸化物超電導導体の酸化物超電導層について、歪付加と加熱急冷処理を行う前後の転位密度を計測した。
転位密度の計測は、酸化物超電導層をBr-MeOH溶液に数秒浸漬し、速やかにエタノールで2分程度、超音波洗浄し、酸化物超電導層の表面を乾燥させた後、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて酸化物超電導層表面の観察を行ない、測定した。
この測定方法に従い歪付加および加熱急冷処理を行う前後の酸化物超電導層について転位密度の測定を行ったところ、成膜直後の酸化物超電導層において12個/μmであった転位密度が、歪付加し加熱急冷処理した後、1200個/μmに増加していた。このことから、歪付加と加熱急冷処理によって転位密度が向上したことが明かとなった。
【0052】
本実施例では、人工ピンの元となる材料として、金属Yを選択したが、最終的に人工ピンとなれば材料の種類は問わない。また、人工ピン材料の成膜方法もスパッタ法、加熱蒸着法、MOCVD法など、あるいは塗布法など如何なる方法でも差し支えない。更に、酸化物超電導層6を成膜する方法は上述したPLD法に限らず、スパッタ法などの他の成膜法、あるいは、TFA−MOD法など、酸化物超電導層を成膜するための公知の他の方法を用いても良いのは勿論である。
また、加熱時の雰囲気は、YBCO酸化物超電導層の組成ずれを防止するため酸素雰囲気中で行ったが、窒素雰囲気中、真空中で行ってもよく、人工ピン材料を拡散させるための加熱雰囲気は問わない。
また、本実施例では酸化物超電導積層体を丸棒状の曲げ治具に巻き付け固定して加熱を行ったが、リールに巻き付けた状態での加熱処理やホットプレス、HIP(熱間等方圧加圧法)による加圧、加熱でも構わない。また、冷却工程は、酸化物超電導層の成膜後だけに限らず、結晶成長直後の高温酸化物超電導導体を処理容器(チャンバー)の冷却板等で急冷処理することであっても、同じ効果を得ることができる。
【0053】
なお、酸化物超電導層を複数積層して厚膜化を図る場合、1層の酸化物超電導層を成膜する度にこれらの加熱急冷工程を行っても良い。例えば、図3に示す成膜領域15を1レーンで通過するように酸化物超電導積層体を走行させるのではなく、転向ローラ等の複数の転向部材を成膜領域15の両側に配置して複数レーンでもって酸化物超電導積層体が成膜領域15を通過するように成膜装置を構成し、レーンを切り替える位置に存在する転向ローラで酸化物超電導積層体を急冷できる構造とするならば、1層積層するごとに酸化物超電導層に多数の転位を導入することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、例えば超電導用送電線、超電導モータ、限流器など、各種電力機器に用いられ、磁場中における超電導特性の優れた酸化物超電導導体を提供できる技術に関する。
【符号の説明】
【0055】
A…成膜装置、F1…プルーム(噴流)、1…酸化物超電導導体、1A…酸化物超電導積層体、2…基材本体、3…拡散防止層、4…中間層、5…キャップ層、6…酸化物超電導層、7…安定化層、10…搬送装置、11…ターゲット、13…治具、15…成膜領域、16…供給リール装置、17…巻取リール装置、18…処理容器(チャンバー)、23…加熱装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状の基材の上方に中間層と酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体において前記酸化物超電導層に人工ピンを導入する方法であって、成膜後の酸化物超電導層に加熱急冷処理を施した後、該酸化物超電導層上に人工ピン材料の薄膜を形成し、次いで加熱処理することにより前記薄膜中の人工ピン材料を前記酸化物超電導層に拡散させることを特 徴とする酸化物超電導層に対する人工ピンの導入方法。
【請求項2】
テープ状の基材の上方に中間層と酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体に曲げ歪を付加した後、加熱急冷処理することにより、前記酸化物超電導層の転位密度を上昇させることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導層に対する人工ピンの導入方法。
【請求項3】
前記薄膜として人工ピン材料の金属薄膜を形成し、該金属薄膜形成後の加熱時に酸素雰囲気中において加熱することにより、前記金属薄膜から前記酸化物超電導層内に前記金属の酸化物を人工ピンとして導入することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化物超電導層に対する人工ピンの導入方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の酸化物超電導層に対する人工ピンの導入方法により得られた酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−84514(P2013−84514A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225094(P2011−225094)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】