説明

酸化物超電導材料の製造方法およびその前駆体支持用基材

【課題】 RE−Ba−Cu−O系バルク超電導材料を製造するための前駆体の支持基材を提供する。
【解決手段】 RE系化合物(REはYを含む希土類元素)、Ba系化合物、Cu系化合物またはこれらの複合化合物からなる混合物を出発物質とし、これを成形して前駆体を作製し、得られた前駆体を部分的に溶融後、冷却して超電導相を成長させるRE−Ba−Cu−O系超電導材料の製造方法において、前駆体を支持する基材の少なくとも前駆体に直接接触する部分が、RE’系化合物(RE’はRE以外の希土類元素)、Ba系化合物、Cu系化合物またはこれらの複合化合物からなる粉末とRE”2BaCuO5(RE”はRE以外の希土類元素)の粒状粒子の混合物から構成されており、かつ、基材の少なくとも前駆体に直接接触する部分から生成する(RE’,RE”)−Ba−Cu−O系超電導相の結晶生成温度が、前駆体から生成するRE−Ba−Cu−O系超電導相の結晶生成温度よりも低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフライホイール、磁気軸受け、超電導モータ、磁気分離装置、超電導バルクマグネット、電流リード、限流器等への利用を目的とした、臨界電流密度、捕捉磁場および磁気浮上力の大きい酸化物超電導材料の製造方法とその前駆体支持用基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
YBa2Cu3y系に代表されるREBa2Cu3y(REは希土類元素、以下、RE123と記す)系酸化物超電導材料では、QMG法またはMPMG法などの溶融法の開発により、大きな臨界電流密度を有するバルク状の超電導体が得られている(特許文献1、参照)。
【0003】
このようなバルク超電導体は、磁場との相互作用で大きな磁気浮上力を発生することができ、この力を利用したベアリング、フライホイールなどへの応用研究が盛んとなっている。また、臨界電流の大きな超電導体では、強磁場を捕捉して強力な永久磁石として機能させることも可能である。
【0004】
バルク超電導体の捕捉磁場は、試料が均一であると仮定した場合、単純には、臨界電流密度と試料の径との積に比例する。従って、このような応用を考えるには、臨界電流密度が大きく、結晶方位がそろった大きな結晶粒の材料の作製が重要である。
【0005】
強磁場を捕捉したバルク超電導磁石は、磁気分離装置やマグネトロンスパッタ装置など多方面への適用が検討されている。さらに、バルク超電導体を棒状や線状に加工し、電流リードや限流器等へ応用する研究も盛んに行われている。
【0006】
このようなバルク超電導体の製造方法の一例を以下に示す。まず、原料粉として、例えば、RE123および磁束のピニングセンターとして添加するRE2BaCuO5(以下、RE211と記す)の粉末を所定の割合に混合する。これを、所定形状に加圧成形して前駆体とした後、液相とRE211相が共存する温度に加熱し、RE123相を部分溶融させる。
【0007】
その後、超電導相であるRE123相が生成する温度付近まで冷却し、その温度から、例えば、0.05〜10℃/hrの速度で徐冷することにより、RE123相を結晶成長させる。さらに、超電導相の酸素量を調整するために、酸素富化雰囲気中、250〜650℃の温度でアニールを行い、バルク超電導体を得る。
【0008】
以上の方法において、結晶方位のそろった大きい結晶粒を有するバルク超電導体を得る手法としては、原料粉を成形した前駆体、または、これを溶融した試料に、配向した種結晶を置くかまたは埋め込んで接触させ、これを基点として種結晶と同じ方位になるように結晶成長を行うことが有効である。種結晶としては、分解溶融温度の高いSm123系、Nd123系材料が、通常、選択される(特許文献2、参照)。
【0009】
ところで、バルク超電導体を溶融法により作製する場合、アルミナやマグネシア等の基板上で超電導体の結晶成長を行う。この際、前駆体を基板上に直接設置して結晶成長させた場合には、基板との反応により超電導体中に不純物が混入し、特性が低下したり、部分溶融した前駆体が基板と固着し、凝固過程で基板との熱膨張差により、クラックが入り易くなる。
【0010】
そのため、前駆体と基板との間に、前駆体の支持基材を介在物として挿入する工夫が行われている。
【0011】
このような前駆体の支持基材としては、前駆体M中のRE123相よりも結晶生成温度の低いRE組成を有する別の前駆体Lと、前駆体M中のRE123相よりも結晶生成温度の高いRE組成を有する別の前駆体Hとを支持基材として、前駆体M−前駆体L−前駆体H−基板の順番で配置したもの(特許文献2、参照)が知られている。
【0012】
また、RE元素を50モル%以上含まないBa系化合物を含む原料混合体であり、Ba系化合物として、特にBaZrO3,BaSnO3またはBaPtO3を用いたもの(特許文献3、参照)、溶融状態でBaまたはCuを含み希土類元素を含まないもの(特許文献4、参照)などが知られている。
【0013】
【特許文献1】特開平2−153803号公報
【特許文献2】特開平5−301787号公報
【特許文献3】特開平11−278923号公報
【特許文献4】特開2004−262673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上、説明してきたように、溶融法により作製したRE−Ba−Cu−O系バルク超電導体を様々な分野に応用するためには、磁気浮上力、捕捉磁場分布をより向上させることが必要であり、そのためには、バルク超電導体を大型化することが非常に有効である。
【0015】
実際、希土類元素としてYを含むY123系バルク超電導体では、直径100mm程度の大型バルク材料が製造されており、Gd.DyやSmなどその他の希土類元素を含む材料でも、65mm程度の大型バルク超電導体が製造されている。
【0016】
しかしながら、このような大型のバルク超電導体を製造する際に、従来の基材を用いて前駆体を支持した場合、前駆体と基材の焼成収縮挙動の違いにより、昇温中に基材が均一に収縮せず、大きな亀裂を生じ、それに対応して、前駆体にもクラックが発生し、歩留まりが低下する問題がある。
【0017】
また、これよりも大型のバルク超電導体の作製時に、クラックの発生を抑制することは容易ではない。
【0018】
本発明の目的は、RE−Ba−Cu−O系バルク超電導材料を製造するための前駆体の支持基材の構造を工夫することにより、クラックの発生を抑制し、従来よりも大型のバルク超電導体を、歩留まり良く製造する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前述の目的を達成するため、前駆体を設置する基材の構造について鋭意検討を行った結果、前駆体の支持基材を、RE−Ba−Cu−O系粉末にRE211粒状粒子を混合した混合物とし、さらに、基材からのRE123超電導相の結晶生成温度が、前駆体のRE123超電導相の結晶成長温度よりも低くなるようにRE元素を選択することにより、クラックの発生や基材部分からの核生成の抑制が可能となることを見出し、大型のバルク超電導体を安定に製造できる技術を開発するに至ったものである。
【0020】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下の通りである。
【0021】
(1)RE系化合物(ここで、REはYを含む希土類元素)、Ba系化合物およびCu系化合物またはこれらの複合化合物からなる混合物を出発物質とし、これを成形して前駆体を作製し、得られた前駆体を部分的に溶融後、冷却して超電導相を成長させるRE−Ba−Cu−O系超電導材料の製造方法において、前駆体を支持する基材の少なくとも前駆体に直接接触する部分が、RE’系化合物(ここで、RE’はRE以外の希土類元素)、Ba系化合物およびCu系化合物またはこれらの複合化合物からなる粉末とRE”2BaCuO5(ここで、RE”はRE以外の希土類元素)の粒状粒子の混合物から構成されており、かつ、基材の少なくとも前駆体に直接接触する部分から生成する(RE’,RE”)−Ba−Cu−O系超電導相の結晶生成温度が、前駆体から生成するRE−Ba−Cu−O系超電導相の結晶生成温度よりも低いことを特徴とする酸化物超電導材料の製造方法。
【0022】
(2)前記RE”2BaCuO5粒状粒子が粒径1〜10mmのRE”2BaCuO5焼結体粒子として前記基材中に分散していることを特徴とする前記(1)に記載の酸化物超電導材料の製造方法。
【0023】
(3)前記基材が含有するRE”2BaCuO5粒状粒子の量が10〜80質量%であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の酸化物超電導材料の製造方法。
【0024】
(4)RE’系化合物、Ba系化合物およびCu系化合物またはこれらの複合化合物からなる前記粉末がRE’Ba2Cu3y(6.0≦y≦7.2)とRE’2BaCuO5の混合物からなっていることを特徴とする前記(1)〜(3)の何れかに記載の酸化物超電導材料の製造方法。
【0025】
(5)前記RE’およびRE”がともにYbであることを特徴とする前記(1)〜(4)の何れかに記載の酸化物超電導材料の製造方法。
【0026】
(6)前記超電導相を結晶成長させる前の前駆体あるいは部分溶融体に種結晶を置くかまたは埋め込んだ後、種結晶を基点として超電導相を優先的に結晶成長させることを特徴とする前記(1)〜(5)の何れかに記載の酸化物超電導材料の製造方法。
【0027】
(7)前記種結晶がRE”’−Ba−Cu−O系結晶(RE”’はNdおよびSmのうち少なくとも一つの元素)であることを特徴とする前記(6)に記載の酸化物超電導材料の製造方法。
【0028】
(8)RE−Ba−Cu−O系超電導材料(ここで、REはYを含む希土類元素)の前駆体を部分的に溶融後、冷却して超電導相を成長させる酸化物超電導材料の製造方法において用いられる前駆体支持用基材であって、前記基材の少なくとも前駆体に直接接触する部分が、RE’系化合物(ここで、RE’はRE以外の希土類元素)、Ba系化合物およびCu系化合物またはこれらの複合化合物からなる粉末とRE”2BaCuO5(ここで、RE”はRE以外の希土類元素)の粒状粒子の混合物から構成されており、かつ、基材の少なくとも前駆体に直接接触する部分から生成する(RE’,RE”)−Ba−Cu−O系超電導相の結晶生成温度が、前駆体から生成するRE−Ba−Cu−O系超電導相の結晶生成温度よりも低いことを特徴とする酸化物超電導材料の前駆体支持用基材。
【0029】
(9)前記RE”2BaCuO5粒状粒子が粒径1〜10mmのRE”2BaCuO5焼結体粒子として前記基材中に分散していることを特徴とする前記(8)に記載の酸化物超電導材料の前駆体支持用基材。
【0030】
(10)前記基材が含有するRE”2BaCuO5粒状粒子の量が10〜80質量%であることを特徴とする前記(8)または(9)に記載の酸化物超電導材料の前駆体支持用基材。
【0031】
(11)RE’系化合物、Ba系化合物およびCu系化合物またはこれらの複合化合物からなる前記粉末がRE’Ba2Cu3y(6.0≦y≦7.2)とRE’2BaCuO5の混合物からなっていることを特徴とする前記(8)〜(10)の何れかに記載の酸化物超電導材料の前駆体支持用基材。
【0032】
(12)前記RE’およびRE”がともにYbであることを特徴とする前記(8)〜(11)の何れかに記載の酸化物超電導材料の前駆体支持用基材。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、従来よりも大型で、クラックの無いバルク超電導材料を安定に製造することができるので、捕捉磁場、磁気浮上力が非常に優れたバルク超電導材料を提供することができる。したがって、本発明は、フライホイール、磁気軸受け、超電導モータ、磁気分離装置、超電導バルクマグネット、電流リードなどのバルク超電導材料を利用した産業分野において極めて有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0035】
本発明で製造しようとしているRE−Ba−Cu−O系バルク超電導体は、RE123超電導相に磁束のピンニングセンターとして有効なRE211(または、RE4Ba2Cu210、以下RE422と記す)粒子が分散した微細組織を有しており、必要に応じ、RE211を微細化するためのPt、Rh、CeO2等の微量添加物、機械強度を改善するためのAgが添加されている。
【0036】
このような超電導体は、RE−Ba−Cu−O系原料粉を混合した後、成形して前駆体を作製し、得られた前駆体を部分的に溶融した後、ゆっくり冷却して、RE123超電導相を成長させることにより製造される。
【0037】
ここで、RE−Ba−Cu−O系原料粉は、RE123、RE211、RE422、RE23、BaCO3、BaO2、Ba(NO32、CuO、BaCuO2等のRE系化合物、Ba系化合物、Cu系化合物、または、これらの複合化合物を、所定の割合に秤量し、混合することにより調製されるが、一般的には、RE123粉末とRE211粉末の混合物を用いる場合が多い。
【0038】
さらに、添加物としてPt、Pt化合物、RhおよびCeO2等のCe化合物のうち少なくとも一つを元素換算で0.1ため5.0質量%、必要によりAgおよび/またはAg2O、AgNO3等のAg化合物をAg換算で1〜50質量%添加する。
【0039】
結晶成長後のバルク体は、通常、酸素量が不足しており超電導特性を示さない。そこで、酸素を付加するため、酸素雰囲気において、250〜650℃の温度範囲内に加熱、保持することが必要である。この工程を経て、はじめて高特性のバルク超電導体が得ることが可能となる。
【0040】
以上のような溶融法でバルク超電導体を製造する場合、前駆体をアルミナやマグネシア等の基板上に直接設置して結晶成長させた場合には、前述のように、基板との反応により超電導体中に不純物が混入し、超電導特性が劣化したり、部分溶融した前駆体が基板と固着し、凝固過程で基板との熱膨張差によりクラックが入り易くなる。これを防ぐためには、前駆体と基板との間に、前駆体の支持基材を介在物として挿入することが必要である。
【0041】
本発明は、このような前駆体の支持基材の構造に関わるものである。図1は、本発明の超電導酸化物の製造方法を実施する形態を説明するための側面図であり、耐熱材料製の基板1の上に、基材2を介して、酸化物超電導材料の前駆体3が設置されている。基板1は、図1に示した様に、通常、板状のものが用いられるが、前駆体を保持できる形状のものであれば任意の形状で良く、例えば、坩堝状のものでも差し支えない。
【0042】
この基板1は、前駆体を溶解する温度(例えば950〜1200℃)に耐え得るものであれば良く、例えば、アルミナ、マグネシア、イットリウム安定化ジルコニアなどの耐熱セラミックスや白金などが使用される。
【0043】
次に、前駆体支持用基材2の構成について説明する。この基材2は、少なくとも前駆体に直接接触する部分が、RE’系化合物(RE’は、前駆体を構成するREとは異なる希土類元素)、Ba系化合物およびCu系化合物またはこれらの複合化合物からなる粉末とRE”2BaCuO5(以下、RE”211と記す。ここで、RE”は前駆体を構成するREとは異なる希土類元素でありRE’と同一であってもよい)の粒状粒子の混合物から構成されている。
【0044】
基材中にRE”211の粒状粒子を添加するのが、本発明の最も重要な点の一つである。RE”211粒状粒子を含まないRE−Ba−Cu−O系の粉末または圧粉体を前駆体支持用基材として用いて、7〜10cmを超えるような大型のバルク超電導材料を製造した場合、前駆体と基材の焼成収縮挙動の違いにより、昇温中に基材が均一に収縮せず、大きな亀裂を生じてしまう。
【0045】
さらに、基材に、不接触の部分から核生成が起こり、多結晶化する問題もたびたび発生する。また、希土類元素を含まないBa−Cu−O系材料のみで前駆体支持用基材を構成した場合、前駆体の部分溶融時に基材が全て溶解するため、大型バルク材料を製造した場合には、基材が前駆体の重量に耐えられなくなり、前駆体が沈み込んで、基板と接触してしまう。
【0046】
本発明のように、RE”211粒状粒子を基材に加えると、昇温時の収縮に伴い発生する亀裂の進展をRE211粒子が抑制するため、大きな亀裂が生じなくなる。そのため、マクロ的にみると、前駆体の焼成収縮に合わせて基材が均一に収縮するようになり、結晶成長後のバルク超電導体におけるクラックの発生を抑制することが可能となる。
【0047】
なお、RE”211粒状粒子の粒径は1〜10mmが好ましく、また、含有量は10〜80質量%であることが好ましい。
【0048】
粒径が1mmよりも小さかったり、含有量が10質量%未満の場合には、RE−Ba−Cu−O系の粉末または圧粉体を基材として用いた場合と同様に、基材が前駆体に比べて大きく、かつ、不均一に焼成収縮し、結果として、バルク超電導体にクラックが生じやすくなる。
【0049】
また、粒径が10mmよりも大きい場合や、含有量が80質量%を超える場合には、溶融時に前駆体の自重によってRE”2BaCuO5粒子が、溶融した前駆体中にめり込んだり、前駆体に比べて基材の収縮が小さくなるため、かえって前駆体にクラックが発生しやすくなる。また、前駆体が基材に接触していない部分で核生成が起こり、多結晶化を誘発しやすくなる。
【0050】
RE”211粒状粒子は、通常、RE”211の粉末または成形体を、例えば、800〜1200℃の温度で焼成した後、適当な大きさに砕いて作製することができる。
【0051】
前記RE”211粒状粒子は、基材のもう1つの構成要素であるRE’系化合物、Ba系化合物およびCu系化合物またはこれらの複合化合物からなる粉末中に分散される。このRE’系化合物、Ba系化合物およびCu系化合物としては、溶融法によるバルク材料作製時の前駆体の組成ずれを防ぐ目的から、RE’Ba2Cu3y(6.0≦y≦7.2)とRE’2BaCuO5の混合物とすることが望ましい。
【0052】
前駆体支持用基材を構成する化合物中の希土類元素RE’およびRE”は、基材の少なくとも前駆体に直接接触する部分から生成する(RE’,RE”)−Ba−Cu−O系超電導相の結晶生成温度が、前駆体から生成するRE−Ba−Cu−O系超電導相の結晶生成温度よりも低くなるように選択される。
【0053】
もし、基材の少なくとも前駆体に直接接触する部分から生成する(RE’,RE”)−Ba−Cu−O系超電導相の結晶生成温度が、前駆体から生成するRE−Ba−Cu−O系超電導相の結晶生成温度よりも高かった場合、固化した基材を基点として前駆体の結晶成長が開始するので、材料が多結晶化してしまう。
【0054】
RE’およびRE”として最も好ましいのは、ともにYbとする場合である。これは、Yb−Ba−Cu−O系超電導相であるYb123の結晶成長温度が、他のRE123相の結晶成長温度に比べて低く、材料の入手も容易であるためである。
【0055】
なお、前記基材の超電導相の結晶生成温度は、前駆体に接している部分以外は、前駆体から生成する超電導相の結晶成長温度よりも高い材質であっても差し支えない。
【0056】
本発明において、単一粒からなる大型のバルク体を得るためには、超電導相を結晶成長させる前の前駆体または部分溶融体に、1個または複数個の種結晶を置くかまたは埋め込んだ後、種結晶を基点として超電導相を優先的に結晶成長させることが必要である。
【0057】
この際に用いる種結晶は、前駆体よりも分解溶融温度が高い必要があり、RE123化合物のなかで分解溶融温度が比較的高いNd−Ba−Cu−O系結晶、Sm−Ba−Cu−O系結晶またはこれらの固溶体を用いることが好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例を比較例とともに説明する。
【0059】
(実施例1)
Dy123とDy211の粉末を5:2のモル比になるように計1kg秤量し、さらに、Ptを0.5質量%、Ag2Oを20質量%添加して混合した。直径100mmの金型に、混合粉を充填し、予備的に一軸加圧成形を行った。次いで、2000kgf/cm2の圧力で静水圧加圧(CIP)成形を行って、前駆体を作製した。
【0060】
一方、前駆体を支持する基材を以下の方法で作製した。先ず、Yb123とYb211の粉末を5:2のモル比になるように混合し、Yb−Ba−Cu−O系混合粉末を調製した。また、Er211の粉末を直径80mmの金型に充填し、一軸加圧成形した後、1100℃で4時間、焼成後、2〜4mm程度(平均約3mm)の粒径になる様に乳鉢で粉砕した。
【0061】
得られたEr211焼結体粒子を前記Er−Ba−Cu−O系混合粉末中に、1:2の質量比になるように混合した。この混合物を150mm角アルミナ基板状に、桝を用いて、約5mm程度の厚さになるよう敷設し、前駆体の支持基材とした。
【0062】
基材の上に前記前駆体を置き、電気炉内に設置した。大気中、1100℃で前駆体を部分溶融した後、1020℃で大きさ3mm程度のNd123系種結晶を種付けし、985℃から0.2℃/hの速度で徐冷することにより結晶成長を行った。この際、前駆体の上下に5℃の温度勾配を与えながら徐冷を行った。結晶成長後の試料は、直径86mmのc軸配向した単一粒からなるバルク体であった。
【0063】
図2は、結晶成長後にアルミナ基板と前駆体の支持用基材を分離し、基材の底面の様子を示した模式図である。基材底面からは、空隙となっている部分が見られるが、バルクの収縮にあわせて、ほぼ均一に基材が収縮していることが確認された。
【0064】
図3は、基材底面の写真であり、Yb−Ba−Cu−O粉末の収縮によるクラックが大きく進展するのを、Er211焼結体粒子が妨げていることがうかがえる。
【0065】
図4は、基材を研削して除去し、バルク体底面を観察した様子を示す模式図であり、特に大きなクラックは観察できなかった。
【0066】
次に、バルク体に、450℃で250h、酸素アニール処理を施した後、液体窒素中、5Tで磁場中冷却後、外部磁場を0Tに戻し、バルク体表面から1.2mmの位置でホール素子を走査して磁場分布を測定した。
【0067】
図5に、その捕捉磁場分布を示す。捕捉磁場分布は、クラックなどの影響のない、シングルピークの分布となっており、最大捕捉磁場は2.0Tを示した。このことから、クラックのない優れた特性のバルク超電導体が得られたことが確認された。
【0068】
(比較例1)
実施例1と同じ組成、形状のDy系前駆体を作製した。これを支持する基材として、Yb123とYb211の粉末を5:2のモル比になるように混合し、Yb−Ba−Cu−O系混合粉末を調製した。この混合物を150mm角アルミナ基板状に、桝を用いて、約5mm程度の厚さになるよう敷設し、前駆体の支持基材とした。
【0069】
基材の上に前記前駆体を置き、電気炉内に設置後、実施例1と同様の温度条件で結晶成長を行い、直径86mmのc軸配向した単一粒からなるバルク体を作製した。
【0070】
図6は、結晶成長後にアルミナ基板と前駆体の支持用基材を分離し、基材の底面の様子を示した模式図である。この例においては、基材の方が前駆体に比べて粉体の充填密度が低く、かつ、低温で焼成収縮が起こりやすい材質であるため、昇温時に、基材が前駆体に比べ大きく、かつ、不均一に収縮した。その影響で、基材底面には大きな裂け目が生じている。
【0071】
さらに、基材を研削して除去し、バルク体底面を観察したところ、図7に示すように、基材の裂け目に対応したクラックが観察された。
【0072】
次に、バルク体に、450℃で250h、酸素アニール処理を施した後、液体窒素中、5Tで磁場中冷却し、その後、外部磁場を0Tに戻し、バルク体表面から1.2mmの位置でホール素子を走査して磁場分布を測定した。
【0073】
図8に、その捕捉磁場分布を示す。底面で生じたクラックはバルク表面まで進展しており、その影響を受けて、捕捉磁場分布は2つのピークが見られる分布となっていた。
【0074】
(実施例2)
Gd123とGd211の粉末を5:2のモル比になるように計2.3kg秤量し、さらに、Ptを0.5質量%、Ag2Oを20質量%添加して混合した。直径165mmの金型に混合粉を充填し、予備的に一軸加圧成形を行った。次いで、2000kgf/cm2の圧力で静水圧加圧(CIP)成形を行って、前駆体を作製した。
【0075】
次に、前駆体を支持する基材を以下の方法で作製した。先ず、Yb23、BaO2、および、CuOの粉末を0.8:2.4:3.4のモル比になるように混合し、850℃で4時間加熱した後、粉砕し、平均粒径約1μmのYb−Ba−Cu−O系混合粉末を調製した。
【0076】
一方、Yb211の粉末を直径80mmの金型に充填し、一軸加圧成形した後、1100℃で4時間、焼成し、その後、2〜4mm程度(平均約3mm)の粒径になる様に乳鉢で粉砕した。
【0077】
得られたYb211焼結体粒子を、前記Yb−Ba−Cu−O系粉末中に1:2の質量比になるように混合し、これを基材Aとした。
【0078】
これとは別に、Sm123とSm211の粉末を5:2のモル比になるように混合した。このSm−Ba−Cu−O系混合粉末中に、前記Yb211焼結体粒子を1:2の質量比になるように混合し、これを基材Bとした。200mm角アルミナ基板上に、まず基材Bを桝を用いて、約2mm程度の厚さになるよう敷設し、その上に基材Aを敷設した。
【0079】
この基材Aの上に前記前駆体を置き、電気炉内に設置した。1%O2を含むArガス雰囲気中で、1100℃で前駆体を部分溶融した後、1020℃で大きさ3mm程度のNd123系種結晶を種付けし、985℃から0.1〜0.2℃/hの速度で徐冷することにより結晶成長を行った。この際、前駆体の上下に5℃の温度勾配を与えながら徐冷を行った。結晶成長後の試料は、直径140mmのc軸配向した単一粒からなるバルク体であった。
【0080】
結晶成長後にアルミナ基板と前駆体の支持用基材を分離し、基材の底面の様子を観察した。その結果、基材底面からは、空隙となっている部分が見られたが、バルクの収縮にあわせて、ほぼ均一に基材が収縮していることが確認された。さらに、基材を研削して除去し、バルク体底面を観察したところ、大きなクラックは観察できなかった。
【0081】
次に、バルク体に、400〜450℃で450h、酸素アニール処理を施した後、液体窒素中、3Tで磁場中冷却し、その後、外部磁場を0Tに減磁し、バルク体表面から1.0mmの位置でホール素子を走査して磁場分布を測定した。
【0082】
図9に、その捕捉磁場分布を示す。捕捉磁場分布は、クラックなどの影響のない、シングルピークの分布となっており、2.3Tの捕捉磁場が得られた。この結果、本実施例のように非常に大きなバルク体を製造する場合であっても、本発明の前駆体支持用基材を使用することにより、クラックのない優れた特性のバルク超電導体が得られることを確認できた。
【0083】
(比較例2)
実施例2と同じ組成、形状のGd系前駆体を作製した。一方、前駆体を支持する基材を以下の方法で作製した。先ず、Sm123とSm211の粉末を5:2のモル比になるように混合し、Sm−Ba−Cu−O系混合粉末を調製した。また、Sm211の粉末を直径80mmの金型に充填し、一軸加圧成形した後、1100℃で4時間、焼成し、その後、2〜4mm程度(平均約3mm)の粒径になる様に乳鉢で粉砕した。
【0084】
得られたSm211焼結体粒子を、前記Sm−Ba−Cu−O系混合粉末中に1:1の質量比になるように混合した。この混合物を、150mm角アルミナ基板状に、桝を用いて、約5mm程度の厚さになるよう敷設し、前駆体の支持基材とした。
【0085】
基材の上に前記前駆体を置き、電気炉内に設置後、実施例2と同様の温度条件で結晶成長を行った。この場合、前駆体中のGd123の結晶生成温度よりも基材からのSm123の結晶成長温度が高かったため、基材が前駆体よりも先に固化し、それを基点として、Gd123がランダムに成長した。そのため、結晶成長後のバルク体は多結晶化し、単一粒のバルク体を得ることはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の超電導酸化物の製造方法を実施する形態を説明するための側面図である。
【図2】実施例1のバルク超電導体を結晶成長させた後、アルミナ基板と前駆体支持用基材を分離し、前駆体支持用基材の底面の様子を観察した結果を模式的に示した図である。
【図3】実施例1のバルク超電導体を結晶成長させた後、アルミナ基板と前駆体支持用基材を分離し、前駆体支持用基材の底面の一部を観察した結果を示す図(写真)である。
【図4】実施例1のバルク超電導体を結晶成長させた後、前駆体支持用基材を研削して除去し、バルク超電導体底面を観察した様子を示す模式図である。
【図5】実施例1で得られたバルク超電導体の捕捉磁場分布を液体窒素温度(77K)で測定した結果を等高線で示す図である。等高線の1目盛りは0.2Tに相当する。
【図6】比較例1のバルク超電導体を結晶成長させた後、アルミナ基板と前駆体支持用基材を分離し、前駆体支持用基材の底面の様子を観察した結果を模式的に示す図である。
【図7】比較例1のバルク超電導体を結晶成長させた後、前駆体支持用基材を研削して除去し、バルク超電導体底面を観察した結果を模式的に示す図である。
【図8】比較例1で得られたバルク超電導体の捕捉磁場分布を液体窒素温度(77K)で測定した結果を等高線で示す図である。等高線の1目盛りは0.2Tに相当する。
【図9】実施例2で得られたバルク超電導体の捕捉磁場分布を液体窒素温度(77K)で測定した結果を3次元的に示す図である。
【符号の説明】
【0087】
1 基板
2 酸化物超電導体の前駆体支持用基材
3 酸化物超電導体の前駆体
4 前駆体支持用基材中に分散する粒状Er211焼結体
5 クラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RE系化合物(ここで、REはYを含む希土類元素)、Ba系化合物およびCu系化合物またはこれらの複合化合物からなる混合物を出発物質とし、これを成形して前駆体を作製し、得られた前駆体を部分的に溶融後、冷却して超電導相を成長させるRE−Ba−Cu−O系超電導材料の製造方法において、前駆体を支持する基材の少なくとも前駆体に直接接触する部分が、RE’系化合物(ここで、RE’はRE以外の希土類元素)、Ba系化合物およびCu系化合物またはこれらの複合化合物からなる粉末とRE”2BaCuO5(ここで、RE”はRE以外の希土類元素)の粒状粒子の混合物から構成されており、かつ、基材の少なくとも前駆体に直接接触する部分から生成する(RE’,RE”)−Ba−Cu−O系超電導相の結晶生成温度が、前駆体から生成するRE−Ba−Cu−O系超電導相の結晶生成温度よりも低いことを特徴とする酸化物超電導材料の製造方法。
【請求項2】
前記RE”2BaCuO5粒状粒子が粒径1〜10mmのRE”2BaCuO5焼結体粒子として前記基材中に分散していることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導材料の製造方法。
【請求項3】
前記基材が含有するRE”2BaCuO5粒状粒子の量が10〜80質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物超電導材料の製造方法。
【請求項4】
RE’系化合物、Ba系化合物およびCu系化合物またはこれらの複合化合物からなる前記粉末がRE’Ba2Cu3y(6.0≦y≦7.2)とRE’2BaCuO5の混合物からなっていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の酸化物超電導材料の製造方法。
【請求項5】
前記RE’およびRE”がともにYbであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の酸化物超電導材料の製造方法。
【請求項6】
前記超電導相を結晶成長させる前の前駆体または部分溶融体に種結晶を置くかまたは埋め込んだ後、種結晶を基点として超電導相を優先的に結晶成長させることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の酸化物超電導材料の製造方法。
【請求項7】
前記種結晶がRE”’−Ba−Cu−O系結晶(RE”’はNdおよびSmのうち少なくとも一つの元素)であることを特徴とする請求項6に記載の酸化物超電導材料の製造方法。
【請求項8】
RE−Ba−Cu−O系超電導材料(ここで、REはYを含む希土類元素)の前駆体を部分的に溶融後、冷却して超電導相を成長させる酸化物超電導材料の製造方法において用いられる前駆体支持用基材であって、前記基材の少なくとも前駆体に直接接触する部分が、RE’系化合物(ここで、RE’はRE以外の希土類元素)、Ba系化合物およびCu系化合物またはこれらの複合化合物からなる粉末とRE”2BaCuO5(ここで、RE”はRE以外の希土類元素)の粒状粒子の混合物から構成されており、かつ、基材の少なくとも前駆体に直接接触する部分から生成する(RE’,RE”)−Ba−Cu−O系超電導相の結晶生成温度が、前駆体から生成するRE−Ba−Cu−O系超電導相の結晶生成温度よりも低いことを特徴とする酸化物超電導材料の前駆体支持用基材。
【請求項9】
前記RE”2BaCuO5粒状粒子が粒径1〜10mmのRE”2BaCuO5焼結体粒子として前記基材中に分散していることを特徴とする請求項8に記載の酸化物超電導材料の前駆体支持用基材。
【請求項10】
前記基材が含有するRE”2BaCuO5粒状粒子の量が10〜80質量%であることを特徴とする請求項8または9に記載の酸化物超電導材料の前駆体支持用基材。
【請求項11】
RE’系化合物、Ba系化合物およびCu系化合物またはこれらの複合化合物からなる前記粉末がRE’Ba2Cu3y(6.0≦y≦7.2)とRE’2BaCuO5の混合物からなっていることを特徴とする請求項8〜10の何れか1項に記載の酸化物超電導材料の前駆体支持用基材。
【請求項12】
前記RE’およびRE”がともにYbであることを特徴とする請求項8〜11の何れか1項に記載の酸化物超電導材料の前駆体支持用基材。

【図5】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−70177(P2007−70177A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260366(P2005−260366)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「微小重力環境利用超電導材料製造技術の開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】