酸化物超電導線材およびその製造方法
【課題】本発明は、酸化物超電導層への水分の浸入を抑えることができる酸化物超電導線材、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の酸化物超電導線材10の製造方法は、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と金属安定化層6とがこの順に積層されてなる超電導積層体S0を準備する第1工程と、超電導積層体S0の幅方向端部にレーザLを照射して超電導積層体S0の端部を溶融・凝固させて、少なくとも酸化物超電導層3の側面を覆う溶融凝固層7を形成する第2工程と、を備えることを特徴とする。
【解決手段】本発明の酸化物超電導線材10の製造方法は、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と金属安定化層6とがこの順に積層されてなる超電導積層体S0を準備する第1工程と、超電導積層体S0の幅方向端部にレーザLを照射して超電導積層体S0の端部を溶融・凝固させて、少なくとも酸化物超電導層3の側面を覆う溶融凝固層7を形成する第2工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年になって発見されたRE−123系酸化物超電導体(REBa2Cu3O7−X:REはYを含む希土類元素)は、液体窒素温度で超電導性を示し、電流損失が低いため、実用上極めて有望な素材とされており、これを線材に加工して電力供給用の導体あるいは磁気コイル等として使用することが要望されている。この酸化物超電導体を線材に加工するための方法として、金属基材テープ上に酸化物超電導層を形成する方法が研究されている。
【0003】
酸化物超電導線材にあっては、酸化物超電導層上に薄い銀の安定化層を形成し、その上に銅などの良導電性金属材料からなる厚い安定化層を設けた2層構造の安定化層を積層する構造が採用されている。前記銀の安定化層は、酸化物超電導層を酸素熱処理する際に酸素量の変動を調節する目的のためにも設けられており、銅の安定化層は、酸化物超電導層が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたとき、該酸化物超電導層の電流を転流させるバイパスとして機能させるための目的で設けられている。
【0004】
2層構造の安定化層を形成する技術の一例として、酸化物超電導層の上にスパッタリングにより薄い銀の安定化層を設けた線材と、銅製の安定化材テープとをはんだを介して重ね合わせて加熱・加圧ロールに通すことによって、銀の安定化層上に銅の安定化層を形成する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−48987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
RE−123系酸化物超電導層の特定組成のものは水分により劣化しやすく、線材を水分の多い環境に保管した場合や、線材に水分が付着した状態のまま放置した場合に、酸化物超電導層に水分が浸入すると、超電導特性が低下する要因となる。
特許文献1のように銀の安定化層上に銅製の安定化材テープを積層して銅の安定化層を形成する技術では、銀の安定化層の上面のみが銅の安定化層で保護される構造であり、水分によりダメージを受けやすい酸化物超電導層の側面が外部に露呈しているため、製造工程中などに水分が浸入することにより超電導特性の低下を引き起こす虞がある。
【0007】
本発明は、以上のような従来の実情に鑑みなされたものであり、酸化物超電導層への水分の浸入を抑えることができる酸化物超電導線材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、基材と中間層と酸化物超電導層と銀層と金属安定化層とがこの順に積層されてなる超電導積層体を準備する第1工程と、前記超電導積層体の幅方向端部にレーザを照射して該超電導積層体の端部を溶融・凝固させて、少なくとも前記酸化物超電導層の側面を覆う溶融凝固層を形成する第2工程と、を備えることを特徴とする。
本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、超電導積層体の幅方向の端部にレーザを照射して、該超電導積層体の端部を溶融・凝固させることにより、少なくとも酸化物超電導層の側面を覆う溶融凝固層を形成する。そのため、酸化物超電導層の側面が溶融凝固層により外部から遮蔽された構造の酸化物超電導線材を製造でき、水分の浸入を防止して水分による酸化物超電導層の劣化を抑止できる酸化物超電導線材を提供できる。
【0009】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法において、前記基材と前記金属安定化層の少なくとも一方を溶融凝固させて前記溶融凝固層を得ることもできる。
この場合、溶融凝固層は基材と金属安定化層のどちらか一方を溶融させて、少なくとも酸化物超電導層の側面を覆う溶融凝固層を形成でき、酸化物超電導層を外部から遮蔽した構造を実現できる。さらに、基材と金属安定化層の両方を溶融させて溶融凝固層を形成するならば、溶融凝固層は超電導積層体の側面全体を覆う構造となり、超電導積層体の側面全体を外部から遮蔽した構造を実現できる。従って、より効果的に水分の浸入を防止して水分による酸化物超電導層の劣化を確実に抑止できる酸化物超電導線材を提供できる
【0010】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、前記第2工程において、レーザ照射面の表面粗さを粗く加工した後に、レーザを照射することもできる。
この場合、レーザ照射面の表面粗さを粗く加工することにより、レーザ照射面の反射率を低下させることができるため、汎用のレーザを使用しても確実にレーザのエネルギーを照射部に伝えて、レーザ照射部を加熱・溶融することができる。また、レーザ照射面より反射されるレーザ光を低減できるので、レーザ加工機へのレーザ光の反射も低減され、レーザ加工機がレーザ光により劣化しやすくなることを抑制できる。
【0011】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法において、レーザとしてファイバーレーザを用いることもできる。
この場合、連続波レーザであるファイバーレーザを用いることにより、パルスレーザ等の他のレーザを用いる場合とは異なり、レーザ照射部が気化することが無く、確実に溶融凝固層を形成できる。
【0012】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法において、金属テープの貼り合わせ又はめっきにより前記金属安定化層を形成することもできる。
金属テープの貼り合わせより金属安定化層を形成する場合、金属テープの厚さを調整することで容易に金属安定化層の厚さを調整できるので、酸化物超電導層を安定化するに充分な厚さを確保しやすく、安定化効果が高い酸化物超電導線材を製造できる。
また、めっきにより金属安定化層を形成する場合、超電導積層体の基材の裏面側にも金属安定化層が形成できるので、酸化物超電導層を安定化するに充分な厚さを確保しやすく、安定性の優れた酸化物超電導線材を製造できる。
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の酸化物超電導線材は、基材と中間層と酸化物超電導層と銀層と金属安定化層とがこの順に積層されてなる超電導積層体と、該超電導積層体の幅方向の側面側に少なくとも前記酸化物超電導層の側面を覆い、前記基材と前記金属安定化層の少なくとも一方に対するレーザの照射により形成された溶融凝固層とを備えてなることを特徴とする。
本発明の酸化物超電導線材は、酸化物超電導層の側面が溶融凝固層により覆われ、外部から遮蔽された構成である。そのため、酸化物超電導層への水分の浸入を防止でき、水分による酸化物超電導層の劣化を抑止できる。
【0014】
本発明の酸化物超電導線材において、前記溶融凝固層が、前記基材と前記金属安定化層の少なくとも一方の溶融凝固物を含んでなることもできる。
溶融凝固層が基材の溶融凝固物を含む場合、超電導積層体の側面のうち、少なくとも基材と中間層と酸化物超電導層の側面が溶融凝固層により外部から遮蔽された構造となる。従って、酸化物超電導層への水分の浸入を防止でき、水分による酸化物超電導層の劣化を抑止できる酸化物超電導線材となる。
また、溶融凝固層が金属安定化層の溶融凝固物を含む場合、超電導積層体の側面のうち、少なくとも金属安定化層と銀層と酸化物超電導の側面が溶融凝固層により外部から遮蔽された構造となる。従って、酸化物超電導層への水分の浸入を防止でき、水分による酸化物超電導層の劣化を抑止できる酸化物超電導線材となる。
さらに、溶融凝固層が基材と金属安定化層の両方の溶融凝固物を含む場合、溶融凝固層は超電導積層体の側面全体を覆う構造となり、超電導積層体の側面全体を外部から遮蔽した構造を実現できる。従って、より効果的に水分の浸入を防止して水分による酸化物超電導層の劣化を確実に抑止できる酸化物超電導線材となる。
【0015】
本発明の酸化物超電導線材において、前記金属安定化層が、金属テープの貼り合わせ又はめっきにより形成されてなることもできる。
金属安定化層が金属テープの貼り合わせより形成されている場合、金属テープの厚さを調整することで容易に金属安定化層の厚さを調整できるので、酸化物超電導層を安定化するに充分な厚さを確保しやすく、安定化効果が高い酸化物超電導線材となる。
また、金属安定化層がめっきにより形成されている場合、超電導積層体の基材の裏面側にも金属安定化層が形成される構成となるため、酸化物超電導層を安定化するに充分な厚さを確保しやすく、安定性の優れた酸化物超電導線材となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、酸化物超電導層への水分の浸入を抑えることができる酸化物超電導線材及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る酸化物超電導線材の第1実施形態を示す断面図である。
【図2】図1に示す酸化物超電導線材の部分拡大断面図である。
【図3】図1に示す酸化物超電導線材の製造方法の一実施形態を示す工程説明図である。
【図4】本発明に係る酸化物超電導線材の第2実施形態を示す断面図である。
【図5】図4に示す酸化物超電導線材の部分拡大断面図である。
【図6】図5に示す酸化物超電導線材の製造方法の一実施形態を示す工程説明図である。
【図7】本発明に係る酸化物超電導線材の第3実施形態を示す断面図である。
【図8】本発明に係る酸化物超電導線材の第4実施形態を示す断面図である。
【図9】本発明に係る酸化物超電導線材の製造方法に用いるファイバーレーザ装置の概略構成図である。
【図10】実施例1〜3および比較例1、2の酸化物超電導線材の耐久試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る酸化物超電導線材の実施形態について図面に基づいて説明する。
[第1実施形態]
図1は本発明に係る酸化物超電導線材の第1実施形態を模式的に示す断面図であり、図2は図1に示す酸化物超電導線材の部分拡大断面図である。
【0019】
図1に示す酸化物超電導線材10は、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と半田層5と金属安定化層6が順次積層された超電導積層体S1と、この超電導積層体S1の幅方向の側面ほぼ全体を覆う溶融凝固層7とを備えてなる。
溶融凝固層7は、後述の如く超電導積層体S1と同じ層構成の超電導積層体S0の端部にレーザを照射し、超電導積層体S0の端部を溶融させた後に凝固させることにより形成される。そのため、溶融凝固層7の形状はレーザの照射条件により変化するので、図1に示す形状以外となる場合もあるが、本発明において、溶融凝固層7は少なくとも酸化物超電導層3の側面を覆っていればよい。
【0020】
基材1は、通常の超電導線材の基材として使用し得るものであれば良く、長尺のプレート状、シート状又はテープ状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。耐熱性の金属の中でも、合金が好ましく、ニッケル(Ni)合金がより好ましい。中でも、市販品であればハステロイ(商品名、ヘインズ社製)が好適であり、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。また、基材1としてニッケル(Ni)合金などに集合組織を導入した配向金属基材を用い、その上に中間層2および酸化物超電導層3を形成してもよい。
基材1の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmであることが好ましく、20〜200μmであることがより好ましい。下限値以上とすることで強度が一層向上し、上限値以下とすることでオーバーオールの臨界電流密度を一層向上させることができる。
【0021】
中間層2は、酸化物超電導層3の結晶配向性を制御し、基材1中の金属元素の酸化物超電導層3への拡散を防止するものである。さらに、基材1と酸化物超電導層3との物理的特性(熱膨張率や格子定数等)の差を緩和するバッファー層として機能し、その材質は、物理的特性が基材1と酸化物超電導層3との中間的な値を示す金属酸化物が好ましい。中間層2の好ましい材質として具体的には、Gd2Zr2O7、MgO、ZrO2−Y2O3(YSZ)、SrTiO3、CeO2、Y2O3、Al2O3、Gd2O3、Zr2O3、Ho2O3、Nd2O3等の金属酸化物が例示できる。
中間層2は、単層でも良いし、複数層でも良い。例えば、前記金属酸化物からなる層(金属酸化物層)は、結晶配向性を有していることが好ましく、複数層である場合には、最外層(最も酸化物超電導層3に近い層)が少なくとも結晶配向性を有していることが好ましい。
【0022】
中間層2は、基材1側にベッド層が介在された複数層構造でもよい。ベッド層は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層は、必要に応じて配され、例えば、イットリア(Y2O3)、窒化ケイ素(Si3N4)、酸化アルミニウム(Al2O3、「アルミナ」とも呼ぶ)等から構成される。このベッド層は、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜200nmである。
【0023】
さらに、本発明において、中間層2は、基材1側に拡散防止層とベッド層が積層された複数層構造でもよい。この場合、基材1とベッド層との間に拡散防止層が介在された構造となる。拡散防止層は、基材1の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、窒化ケイ素(Si3N4)、酸化アルミニウム(Al2O3)、あるいは希土類金属酸化物等から構成され、その厚さは例えば10〜400nmである。なお、拡散防止層の結晶性は問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すればよい。
このように基材1とベッド層との間に拡散防止層を介在させることにより、中間層2を構成する他の層や酸化物超電導層3等を形成する際に、必然的に加熱されたり、熱処理される結果として熱履歴を受ける場合に、基材1の構成元素の一部がベッド層を介して酸化物超電導層3側に拡散することを効果的に抑制することができる。基材1とベッド層との間に拡散防止層を介在させる場合の例としては、拡散防止層としてAl2O3、ベッド層としてY2O3を用いる組み合わせを例示することができる。
【0024】
また中間層2は、前記金属酸化物層の上に、さらにキャップ層が積層された複数層構造でも良い。キャップ層は、酸化物超電導層3の配向性を制御する機能を有するとともに、酸化物超電導層3を構成する元素の中間層2への拡散や、酸化物超電導層3積層時に使用するガスと中間層2との反応を抑制する機能等を有するものである。
【0025】
キャップ層は、前記金属酸化物層の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されたものが好ましい。このようなキャップ層は、前記金属酸化物層よりも高い面内配向度が得られる。
キャップ層の材質は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO2、Y2O3、Al2O3、Gd2O3、Zr2O3、Ho2O3、Nd2O3等が例示できる。キャップ層の材質がCeO2である場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
キャップ層は、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができるが、大きな成膜速度を得られる点でPLD法を用いることが好ましい。
【0026】
中間層2の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、0.1〜5μmである。
中間層2が、前記金属酸化物層の上にキャップ層が積層された複数層構造である場合には、キャップ層の厚さは、通常は、0.1〜1.5μmである。
【0027】
中間層2は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法(以下、IBAD法と略記する)等の物理的蒸着法;化学気相成長法(CVD法);塗布熱分解法(MOD法);溶射等、酸化物薄膜を形成する公知の方法で積層できる。特に、IBAD法で形成された前記金属酸化物層は、結晶配向性が高く、酸化物超電導層3やキャップ層の結晶配向性を制御する効果が高い点で好ましい。IBAD法とは、蒸着時に、結晶の蒸着面に対して所定の角度でイオンビームを照射することにより、結晶軸を配向させる方法である。通常は、イオンビームとして、アルゴン(Ar)イオンビームを使用する。例えば、Gd2Zr2O7、MgO又はZrO2−Y2O3(YSZ)からなる中間層2は、IBAD法における配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
【0028】
酸化物超電導層3は通常知られている組成の酸化物超電導体からなるものを広く適用することができ、REBa2Cu3Oy(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のもの、具体的には、Y123(YBa2Cu3Oy)又はGd123(GdBa2Cu3Oy)を例示することができる。また、その他の酸化物超電導体、例えば、Bi2Sr2Can−1CunO4+2n+δなる組成等に代表される臨界温度の高い他の酸化物超電導体からなるものを用いても良いのは勿論である。
酸化物超電導層3は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法等の物理的蒸着法;化学気相成長法(CVD法);塗布熱分解法(MOD法)等で積層でき、なかでもレーザ蒸着法が好ましい。
酸化物超電導層3の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
【0029】
酸化物超電導層3の上に積層されている銀層4は、スパッタ法などの成膜法により形成され、その厚さを1〜30μm程度とされる。
酸化物超電導層3上に銀層4を備える構成とする理由としては、銀は良導電性かつ酸化物超電導層3と接触抵抗が低くなじみの良い点、及び、酸化物超電導層3に酸素をドープするアニール工程においてドープした酸素を酸化物超電導層3から逃避し難くする性質を有する点を挙げることができる。
【0030】
金属安定化層6は、良導電性の金属材料からなり、酸化物超電導層3が超電導状態から常電導状態に遷移しようとした時に、銀層4とともに、酸化物超電導層3の電流が転流するバイパスとして機能する。
金属安定化層6は銀層4上に半田層5を介して積層されている。半田層5が金属安定化層6と銀層4との間に介在していることにより、金属安定化層6と銀層4とが半田層5により電気的および機械的に接続されて、銀層4と金属安定化層6との接合が強固となり、接続抵抗が低下するため、酸化物超電導層3を安定化する効果を向上できる。
半田層5の厚さは、特に限定されず、適宜調整可能であるが、例えば、2〜20μm程度とすることができる。
【0031】
半田層5としては、従来公知の半田を使用することができ、例えば、Sn−Ag系合金、Sn−Bi系合金、Sn−Cu系合金、Sn−Zn系合金などの鉛フリー半田、Pb−Sn系合金半田、共晶半田、低温半田などが挙げられ、これらの半田を1種または2種以上組み合わせて使用することができる。これらの中でも、融点が300℃以下の半田を用いることが好ましい。これにより、300℃以下の温度で金属安定化層6と銀層4を半田付けすることが可能となるので、半田付けの熱によって酸化物超電導層3の特性が劣化することを抑止することができる。
【0032】
金属安定化層6は、良導電性の金属よりなる長尺の金属テープより形成されている。金属安定化層6を形成する金属テープは、Cu、黄銅(Cu−Zn合金)、Cu−Ni合金等の銅合金、ステンレス等の比較的安価な材質からなるものを用いることが好ましく、中でも高い導電性を有し、安価であることがらCu製が好ましい。
金属安定化層6の厚さは特に限定されず、適宜調整可能であるが、10〜300μmとすることが好ましい。下限値以上とすることにより酸化物超電導層3を安定化する一層高い効果が得られ、上限値以下とすることにより酸化物超電導線材10を薄型化できる。
なお、酸化物超電導線材10を超電導限流器に使用する場合は、金属安定化層6は抵抗金属材料より構成され、Ni−Cr等のNi系合金などを使用できる。
【0033】
溶融凝固層7は、超電導積層体S1と同一の層構成の超電導積層体S0の端部にレーザを照射し、超電導積層体S0の端部を溶融・凝固させることにより形成されている。そのため、溶融凝固層7は、超電導積層体S1および超電導積層体S0の構成成分(溶融凝固物)を含んでなる。図2は本実施形態の酸化物超電導線材10の幅方向の一端部付近の様子を模式的に示す図である。レーザの照射により形成された溶融凝固層7の構造は、レーザ照射条件により変化するため図2に示す構造に限定されるわけではないが、金属安定化層6の側面に形成された溶融凝固層7Aは金属安定化層6の構成成分(溶融凝固物)を多く含み、基材1の側面に形成された溶融凝固層7Cは基材1の構成成分(溶融凝固物)を多く含む構成となる。中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と半田層5の側面の溶融凝固層7Bは、中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と半田層5の構成成分に加え、金属安定化層6および基材1の構成成分(溶融凝固物)も含む構成となる。
【0034】
溶融凝固層7の形状はレーザの照射条件により変化するので、図1及び図2に示す形状以外となる場合もあるが、本発明において、溶融凝固層7は少なくとも酸化物超電導層3の側面を覆っていればよい。溶融凝固層7が少なくとも酸化物超電導層3の側面を覆う構成とすることにより、酸化物超電導層3への水分の浸入を抑えることができるので、酸化物超電導層3が水分によりダメージを受けて超電導特性が劣化することを防ぐことができる。
【0035】
溶融凝固層7の厚さは特に制限されず適宜変更可能であるが、溶融凝固層7の最薄部の厚さが10μm以上とすることが好ましい。溶融凝固層7の厚さを10μm以上とすることにより、酸化物超電導層3に水分が浸入することを効果的に防ぐことができる。また、溶融凝固層7の最厚部の厚さは150μm以下とすることが好ましい。溶融凝固層7の厚さが150μmを超えると、レーザの照射により失われる酸化物超電導層3の面積が増加するため、超電導特性が低下する虞がある。
【0036】
本実施形態の酸化物超電導線材10は、超電導積層体S1の側面のほぼ全体が溶融凝固層7により覆われ、外部から遮蔽された構成である。そのため、酸化物超電導層3への水分の浸入を防止でき、水分による酸化物超電導層3の劣化を抑止できる。
【0037】
次に、本発明に係る酸化物超電導線材10の製造方法の一実施形態について図面に基づいて説明する。
図3は、図1に示す酸化物超電導線材10の製造方法の一実施形態を示す工程説明図である。
本実施形態の酸化物超電導線材の製造方法は、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と金属安定化層6とがこの順に積層されてなる超電導積層体S0を準備する第1工程と、超電導積層体S0の幅方向端部にレーザを照射して超電導積層体S0の端部を溶融・凝固させて、超電導積層体S1の側面を覆う溶融凝固層7を形成する第2工程と、を備える。
【0038】
まず、図3(a)に示す如く、前述した超電導積層体S1と同じ層構成の超電導積層体S0を準備する(第1工程)。一例として、基材1上にスパッタ法で拡散防止層とベッド層を形成した後、このベッド層の上にIBAD法で中間層2を形成し、さらにPLD法でキャップ層と酸化物超電導層3を形成し、次に、酸化物超電導層3上にスパッタ法により銀層4を形成する。その後、基材1上に銀層4まで形成された積層体の銀層4上に、金属テープを半田を介して積層することにより超電導積層体S0を得ることができる。なお、超電導積層体S0としては、幅広の超電導積層体を作製した後、この幅広の超電導積層体を幅方向に複数個に分割するように長手方向に沿って切断したものを使用してもよい。
【0039】
次に、図3(b)に示す如く基材1側を上にして、得られた超電導積層体S0の幅方向の端部に上からレーザを照射して、超電導積層体S0の端部を溶融・凝固させて、超電導積層体S1の側面を覆う溶融凝固層7を形成する(第2工程)。
第2工程において、超電導積層体S0の基材1の裏面1A側からレーザを照射してもよく、図3(b)とは上下逆になるように超電導積層体S0の金属安定化層6側を上にして、超電導積層体S0の金属安定化層6の表面6A側からレーザを照射してもよい。金属安定化層6が銅などの反射率の高い金属材料よりなり、基材1の裏面1Aの反射率が低い場合は、図3(b)に示す如く基材1の裏面1A側からレーザを照射する方が効率的にレーザ照射部を加熱できるため好ましい。
【0040】
ここで、金属安定化層6が前記した良導電性材料の金属テープよりなる場合、銅などの反射率の高い金属や合金より構成された金属テープをレーザ溶接するには、レーザの出力を高く設定したり、レーザ照射時間を長く設定する必要がある。例えば、表面を光沢面とした銅テープの反射率は、波長280nmで33.0%、波長400nmで47.5%、波長700nmで97.5%、波長1000nmで98.5%とされている。このように銅は、YAGレーザや半導体レーザ(ファイバーレーザ)等の波長1000nm付近の反射率が非常に高いため、レーザが反射されてしまい溶接加工し難いという問題がある。
【0041】
そこで、本実施形態においては、超電導積層体S0の金属安定化層6の表面6A側からレーザを照射する場合には、予め金属安定化層6のレーザ照射部(幅方向端部)の表面粗さを粗くしてからレーザを照射することが好ましい。これにより、銅等の表面を光沢面とした金属テープよりなる金属安定化層6のレーザ照射面の反射率を低下させて、確実にレーザのエネルギーを照射部に伝えて、超電導積層体S0の端部を加熱・溶融することができる。
【0042】
超電導積層体S0の金属安定化層6の表面6A側からレーザを照射する場合、金属安定化層6のレーザ照射部(幅方向端部)の表面粗さRaは、10μm以上100μm以下とすることが好ましい。このような表面粗さRaとすることにより、金属安定化層6が銅等の反射率の高い金属材料より構成される場合にも、汎用のレーザーを使用して、良好な製造速度で超電導積層体S0の端部を溶融・凝固させて溶融凝固層7を形成できるため好ましい。また、金属安定化層6により反射されるレーザ光を低減できるので、レーザ加工機へのレーザ光の反射も低減され、レーザ加工機がレーザ光により劣化しやすくなることを抑制できる。なお、本発明において、表面粗さRaとは、算術表面粗さRa(JIS B0601−1994)を表す。
【0043】
レーザ照射前に、金属安定化層6のレーザ照射部(幅方向端部)の表面粗さを粗く加工する方法としては、特に限定されず、型押し、鑢がけなど、従来公知の方法が適用できる。具体的には、例えば、図3(b)に二点鎖線で示す如く表面に凹凸加工が施された加圧ローラーなどの成形具20により加圧する方法が挙げられる。この場合、成形具により接触加圧される金属安定化層6の表面を、成形具表面の凹凸形状が反転した凹凸形状に加工し、所望の表面粗さとすることができる。
なお、レーザ照射前にレーザ照射部の表面粗さを粗く加工する方法は、超電導積層体S0の基材1の裏面1A側からレーザを照射する場合にも行ってもよい。
【0044】
第2工程において使用できるレーザとしては、YAGレーザ、半導体レーザ、CO2レーザ、およびこれらのレーザ光を光ファイバにより伝送するファイバーレーザ等が挙げられる。中でも、連続波であるため、ファイバーレーザが好ましい。パルスレーザの場合は1パルスのエネルギーが大きすぎるために、レーザ照射部分が気化してしまい溶融凝固層7が形成されない場合がある。銅の金属安定化層6に対するレーザ照射にYAGレーザを使用する場合は、銅の反射率が低くなる第2高調波(532nm)を使用することができる。
【0045】
図9は本実施形態の酸化物超電導線材の製造方法に用いるファイバーレーザ装置の概略構成図である。この例のファイバーレーザー装置30は、複数の(図9の例では3基の)励起用レーザーの発光装置31と、これら複数の光源21からの励起用レーザーを結合するビームコンパイナとしての結合器32と、この結合器32に接続されたダブルクラッドファイバーからなる増幅用ファイバー33と、この増幅用ファイバー33に接続された伝送用ファイバー34と、伝送用ファイバー34の先端部に接続された出力部35を主体として構成されている。
【0046】
増幅用ファイバー33は、一例として、光増幅媒体である希土類添加ファイバーを用いることができる。希土類添加ファイバーとして、希土類元素、例えば、Yb(イッテルビウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Nd(ネオジム)、Pr(プラセオジム)等の希土類元素が添加されたコアと、コアの外周を囲む第1クラッドと、この第1クラッドを囲む第2クラッドとからなる希土類添加ダブルクラッドファイバーを用いることができる。
【0047】
ファイバーレーザ装置30において、励起光の発光装置31から接続用ファイバー31aを介し結合器32に入力したマルチモードの励起光は、結合器32において光結合されて増幅用ファイバー33に入力され、増幅用ファイバー33において波長の増幅と出力増幅がなされ、シングルモードに変換され、伝送用ファイバー34を介し連続波レーザーとして出力部35から出力される。
【0048】
図3(b)に示すように、レーザ加工機21の先端(出力部35)から集光レンズ22で集光されたレーザ光Lを射出すると、超電導積層体S0の幅方向の端部を加熱することができ、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と半田層5と金属安定化層6の幅方向の端部を局部的に溶融できる。溶融した部分は超電導積層体S1の側面を覆うように付着するので、この部分をその後、凝固させることにより、超電導積層体S1の幅方向の側面を覆う溶融凝固層7を形成できる。レーザ加工機21は、外部のアシストガス供給装置に接続されたガス供給口23から窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスが供給され、この不活性ガスGがレーザ加工機21の先端部よりレーザ光Lの照射部へと吹き付けられる構成となっている。このように、溶接部に窒素などの不活性ガスを吹き付けながら溶接することにより、溶接される金属テープが酸化することを防ぐことができる。なお、不活性ガスで溶融物を吹き飛ばしてしまわないようなガス噴射圧とすることが必要となる。
【0049】
レーザ照射時のレーザのスポット径は、特に制限されないが、10〜100μm程度に設定することが好ましい。レーザのスポット径を10μm以上とすることにより溶融凝固層7を確実に形成することができるので好ましい。レーザのスポット径を100μm以下とすることにより、レーザ照射部のエネルギー密度が低くなりすぎることを防ぎ、充分な加工パワーを得られるため好ましい。また、レーザ照射により失われる酸化物超電導層3の面積を抑えることができるので、超電導特性の低下を少なく抑えることができる。
レーザのスポット径10〜100μm程度でレーザを照射することにより、形成される溶融凝固層7の厚さは10〜150μm程度となる。
レーザ溶接時のレーザの出力および波長は特に制限されず、使用するレーザ種や超電導積層体S0の層構成や厚さにより適宜調整すればよい。
【0050】
図3(b)に示すように、超電導積層体S0の幅方向の端部に(図3(b)に示す例では基材1の裏面1A側から)レーザ光Lを照射しながら、レーザ加工機21を超電導積層体S0の長手方向に沿って走査する、あるいは、超電導積層体S0を移動させることにより、レーザ光Lの照射位置を移動させて、超電導積層体S0の幅方向の端部に連続的にレーザ光Lを照射し、超電導積層体S0の端部を加熱して溶融・凝固させることにより、超電導積層体S1の幅方向の側面を覆う溶融凝固層7を形成できる。
同様に、超電導積層体S0の他方の幅方向端部にもレーザ光Lを照射することにより、超電導積層体S1の他方の側面を覆う溶融凝固層7を形成する。これにより、超電導積層体S1の幅方向の両側面が溶融凝固層7により覆われた図1及び図3(c)に示す構造の酸化物超電導線材10を製造できる。
【0051】
なお、超電導積層体S0の幅方向の端部にレーザを照射する際のレーザ照射位置は図3に示す例に限定されず、図3に示すレーザ照射位置よりも若干内側あるいは外側の位置にレーザを照射して溶融凝固層7を形成してもよい。
【0052】
本実施形態の酸化物超電導線材の製造方法は、超電導積層体S0の幅方向の端部にレーザを照射して、超電導積層体S0の端部を溶融・凝固させることにより、超電導積層体S1の側面を覆う溶融凝固層7を形成する。そのため、超電導積層体S1の側面全てが溶融凝固層7により外部から遮蔽された構造の酸化物超電導線材10を製造でき、水分の浸入を防止して水分による酸化物超電導層3の劣化を抑止できる酸化物超電導線材10を提供できる。
【0053】
また、本実施形態の酸化物超電導線材の製造方法は、金属テープの貼り合わせより金属安定化層6を形成するため、使用する金属テープ6の厚さを調整することで容易に金属安定化層6の厚さを調整できるので、酸化物超電導層3を安定化するに充分な厚さを確保しやすく、安定化効果が高い酸化物超電導線材10を製造できる。
【0054】
本実施形態の超電導線材の製造方法によれば、超電導積層体S0の端部をレーザ照射により溶融・凝固させて溶融凝固層7を形成しているため、万一、コイル加工や巻線加工、ケーブル加工など、あるいは、保管環境などにおいて酸化物超電導線材10が高温環境に曝されて半田層5が溶融するなどの現象を起こした場合であっても、金属安定化層6は溶融凝固層7と連続的に構成されているため、金属安定化層6が剥離することがなく、酸化物超電導層3に水分が浸入することを防止できる酸化物超電導線材10を製造できる。また、機械的強度が高い酸化物超電導線材10を提供できる。
さらに、溶融凝固層7形成前の超電導積層体S0と、溶融凝固層7形成後の超電導積層体S1とでは、線材全体の厚みや幅が増加することがほとんどないため、線材を大型化させずに酸化物超電導層3を外部から遮蔽する構造を実現できる。
【0055】
[第2実施形態]
図4は本発明に係る酸化物超電導線材の第2実施形態を模式的に示す断面図であり、図5は図4に示す酸化物超電導線材の部分拡大断面図である。図4および図5において、上記第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0056】
図4に示す酸化物超電導線材10Bは、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4が順次積層された積層体T1と、この積層体T1の上面、下面および幅方向の一側面を覆う金属安定化層16と、積層体T1と金属安定化層16よりなる超電導積層体S11の幅方向の一側面を覆う溶融凝固層17とを備えてなる。
金属安定化層16は、積層体T1の上面(銀層4の表面)を覆う金属安定化層16Aと、積層体S2の下面(基材1の裏面)を覆う金属安定化層16Bと、積層体S2の幅方向の一側面を覆う金属安定化層16Cより構成され、溶融凝固層17は積層体T1の金属安定化層16が形成されてない側に形成されている。
【0057】
図4に示す超電導積層体S11において、幅方向の側面のうち片方のみに金属安定化層16が形成されている構成であるのは、超電導積層体S11は元々金属安定化層を全周にめっきした積層体を分割して形成されたものであるためである。後述の如く超電導積層体S11は、積層体T1と同一の層構成で且つ積層体T1よりも幅広の積層体に対してめっきを行い、その全周に金属安定化層を形成してカプセル化した積層体をを長手方向に沿ってその幅方向に切断して分割することにより形成される。
溶融凝固層17は、後述の如く超電導積層体S11と同じ層構成の超電導積層体S10の金属安定化層16が形成されていない側の幅方向端部にレーザを照射し、超電導積層体S10の端部を溶融させた後に凝固させることにより形成される。そのため、溶融凝固層17の形状はレーザの照射条件により変化するので、図4に示す形状以外となる場合もあるが、本発明において、溶融凝固層17は少なくとも酸化物超電導層3の側面を覆っていればよい。
【0058】
積層体T1の上面、下面および幅方向の一側面を覆う金属安定化層16は、酸化物超電導層3が超電導状態から常電導状態に遷移しようとした時に、銀層4とともに、酸化物超電導層3の電流が転流するバイパスとして機能する。
金属安定化層16は、電気めっきにより形成されている。金属安定化層16を構成する材質としては、良導電性の金属が好ましく、Cu、Alなどが挙げられ、高い導電性を有するためCuが特に好ましい。金属安定化層16の厚さは特に限定されず、適宜変更可能であるが、10〜100μm程度とすることができ、20μm以上100μm以下とすることが好ましく、20μm以上50μm以下とすることがより好ましい。金属安定化層16の厚さを10μm以上とすることにより酸化物超電導層3を安定化する一層高い効果が得られ、100μm以下とすることにより酸化物超電導線材10Bを薄型化できる。
【0059】
溶融凝固層17は、後に説明する図6(c)に示す如く超電導積層体S11と同一の層構成の超電導積層体S10Bの金属安定化層16が形成されていない方の幅方向端部にレーザを照射し、超電導積層体S10Bの端部を溶融・凝固させることにより形成されている。そのため、溶融凝固層17は、超電導積層体S11および超電導積層体S10Bの構成成分(溶融凝固物)を含んでなる。
図5は本実施形態の酸化物超電導線材10Bの溶融凝固層17付近の様子を模式的に示す図である。レーザの照射により形成された溶融凝固層17の構造は、レーザ照射条件により変化するため図5に示す構造に限定されるわけではないが、金属安定化層16A、16Bの側面に形成された溶融凝固層17A、17Dは金属安定化層16の構成成分(溶融凝固物)を多く含み、基材1の側面に形成された溶融凝固層17Cは基材1の構成成分(溶融凝固物)を多く含む構成となる。中間層2と酸化物超電導層3と銀層4の側面の溶融凝固層17Bは、中間層2と酸化物超電導層3と銀層4の構成成分に加え、金属安定化層16および基材1の構成成分(溶融凝固物)も含む構成となる。
【0060】
溶融凝固層17の形状はレーザの照射条件により変化するので、図4及び図5に示す形状以外となる場合もあるが、本発明において、溶融凝固層17は少なくとも酸化物超電導層3の側面を覆っていればよい。溶融凝固層17が少なくとも酸化物超電導層3の側面を覆う構成とすることにより、酸化物超電導層3への水分の浸入を抑えることができるので、酸化物超電導層3が水分によりダメージを受けて超電導特性が劣化することを防ぐことができる。
【0061】
溶融凝固層17の厚さは特に制限されず適宜変更可能であるが、溶融凝固層17の最薄部の厚さが10μm以上とすることが好ましい。溶融凝固層17の厚さを10μm以上とすることにより、酸化物超電導層3に水分が浸入することを効果的に防ぐことができる。また、溶融凝固層17の最厚部の厚さは150μm以下とすることが好ましい。溶融凝固層17の厚さが150μmを超えると、レーザの照射により失われる酸化物超電導層3の面積が増加するため、超電導特性が低下する虞がある。
【0062】
本実施形態の酸化物超電導線材10Bは、超電導積層体S11の側面が溶融凝固層17により覆われ、外部から遮蔽された構成である。そのため、酸化物超電導層3への水分の浸入を防止でき、水分による酸化物超電導層3の劣化を抑止できる。
また、本実施形態の酸化物超電導線材10Bは、金属安定化層がめっきにより形成されており、基材1の裏面側にも金属安定化層16が形成される構成となるため、酸化物超電導層3を安定化するに充分な厚さを確保しやすく、安定化効果が高い酸化物超電導線材となる。
【0063】
次に、本発明に係る酸化物超電導線材10Bの製造方法の一実施形態について図面に基づいて説明する。
図6は、図4に示す酸化物超電導線材10Bの製造方法の一実施形態を示す工程説明図である。
本実施形態の酸化物超電導線材の製造方法は、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と金属安定化層6とがこの順に積層されてなる図6(b)に示す超電導積層体S10Bを準備する第1工程と、図6(c)に示す如く超電導積層体S10Bの幅方向端部にレーザを照射して超電導積層体S10Bの端部を溶融・凝固させて、図6(d)に示す如く超電導積層体S11の側面を覆う溶融凝固層17を形成する第2工程と、を備える。
【0064】
第1工程では、まず、図6(a)に示す如く積層体T1よりも幅広で且つ積層体T1と同じ層構成の積層体T1Pを作製する。一例として、基材1上にスパッタ法で拡散防止層とベッド層を形成した後、このベッド層の上にIBAD法で中間層2を形成し、さらにPLD法でキャップ層と酸化物超電導層3し、次に、酸化物超電導層3上にスパッタ法により銀層4を形成することにより積層体T1Pを得ることができる。
次に、作製した積層体T1Pをめっき浴に浸漬させて電気めっきを行うことにより、積層体T1Pの全周を覆って金属安定化層16Pを形成して、図6(a)に示す超電導積層体S10Aを作製する。金属安定化層16PはCuまたはAlより形成されていることが好ましく、Cuより形成されていることがより好ましい。
金属安定化層16PをCuのめっきより形成する場合、積層体T1Aを硫酸銅水溶液のめっき浴に浸漬させて電気めっきを行うことにより、積層体T1Aの全周を覆ってCuの金属安定化層16Pを形成することができる。
【0065】
その後の第2工程では、得られた超電導積層体S10Aを長手方向に沿って切断し、図6(b)に示す如く2つの超電導積層体S10B、S10Bに分割する。超電導積層体S10Aの分割方法としては特に限定されず、レーザによる溶断方法あるいは回転刃などによる機械的な切断方法が挙げられる。
【0066】
続いて、得られた超電導積層体S10Bの、切断面C1側の幅方向の端部にレーザを照射して、超電導積層体S10Bの端部を溶融・凝固させて、超電導積層体S11の切断面C1側の幅方向側面を覆う溶融凝固層17を形成する(第2工程)。
第2工程において、超電導積層体S10Bの銀層4側の金属安定化層16Aの表面側からレーザを照射してもよく、超電導積層体S10Bの基材1側の金属安定化層16Bの表面側からレーザを照射してもよい。
【0067】
ここで、本実施形態においては、上記第1実施形態の場合と同様に、レーザ照射前に予め金属安定化層16のレーザ照射部(切断面C1側の幅方向端部)の表面粗さを粗くしてからレーザを照射することが好ましい。これにより、銅等の反射率の高い材料よりなる金属安定化層16のレーザ照射面の反射率を低下させて、確実にレーザのエネルギーを照射部に伝えて、超電導積層体S10Bの切断面C1側の端部を加熱・溶融することができる。
【0068】
金属安定化層16のレーザ照射部(幅方向端部)の表面粗さRa、及び、金属安定化層16のレーザ照射部表面を粗す際の加工方法は、上記第1実施形態と同様である。
また、第2工程において使用できるレーザ種も上記第1実施形態と同様である。
【0069】
図6(c)に示すように、レーザ加工機21の先端から集光レンズ22で集光されたレーザ光Lを射出し、超電導積層体S10Bの切断面C1側の幅方向の端部に照射し、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と金属安定化層16A、16Bの切断面C1側の幅方向端部を局部的に溶融する。その後、溶融部分を凝固することにより、超電導積層体S11の幅方向の一側面を覆う溶融凝固層17を形成する。レーザ加工機は、外部のアシストガス供給装置に接続されたガス供給口23から窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスが供給され、この不活性ガスGがレーザ加工機21の先端部よりレーザ光Lの照射部へと吹き付けられる構成となっている。このように、溶接部に窒素などの不活性ガスを吹き付けながら溶接することにより、溶接される金属テープが酸化することを防ぐことができる。
【0070】
レーザ照射時のレーザのスポット径は、特に制限されないが、10〜100μm程度に設定することが好ましい。レーザのスポット径を10μm以上とすることにより溶融凝固層17を確実に形成することができるので好ましい。レーザのスポット径を100μm以下とすることにより、レーザ照射部のエネルギー密度が低くなりすぎることを防ぎ、充分な加工パワーを得られるため好ましい。また、レーザ照射により失われる酸化物超電導層3の面積を抑えることができるので、超電導特性の低下を少なく抑えることができる。
レーザのスポット径10〜100μm程度でレーザを照射することにより、形成される溶融凝固層17の厚さは10〜150μm程度となる。
レーザ溶接時のレーザの出力および波長は特に制限されず、使用するレーザ種や超電導積層体S0の層構成や厚さにより適宜調整すればよい。
【0071】
図6(c)に示すように、超電導積層体S10Bの切断面C1側の幅方向端部にレーザ光Lを照射しながら、レーザ加工機21を超電導積層体S10Bの長手方向に沿って走査する、あるいは、超電導積層体S10Bを移動させることにより、レーザ光Lの照射位置を移動させて、超電導積層体S10Bの幅方向の端部に連続的にレーザ光Lを照射し、超電導積層体S10Bの端部を加熱して溶融・凝固させることにより、超電導積層体S11の幅方向の一側面を覆う溶融凝固層17を形成できる。
以上の工程により、図4及び図6(d)に示す構造の酸化物超電導線材10Bを製造できる。
【0072】
本実施形態の酸化物超電導線材の製造方法は、超電導積層体S10Bの切断面C1側の幅方向端部にレーザを照射して、超電導積層体S10Bの端部を溶融・凝固させることにより、超電導積層体S11の一側面(切断面C1側の側面)を覆う溶融凝固層17を形成する。そのため、超電導積層体S11の側面全てが金属安定化層16Cおよび溶融凝固層17により外部から遮蔽された構造の酸化物超電導線材10Bを製造でき、水分の浸入を防止して水分による酸化物超電導層3の劣化を抑止できる酸化物超電導線材10Bを提供できる。
【0073】
また、本実施形態の超電導線材の製造方法では、金属安定化層16をめっきにより形成する構成であるため、基材1の裏面側にも金属安定化層16Bが形成できるので、酸化物超電導層3を安定化するに充分な厚さを確保しやすく、安定化効果が高い酸化物超電導線材10Bを製造できる。
【0074】
以上、本発明の酸化物超電導線材およびその製造方法の実施形態について説明したが、上記実施形態において、酸化物超電導線材の各部は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
例えば、上記第2実施形態では、外周に金属安定化層がめっきされてカプセル化された超電導積層体S10Aを2分割した場合を例示したが、本発明はこの例に限定されない。例えば、超電導積層体S10Aを長手方向に沿って、幅方向に3以上に分割し、分割された超電導積層体の切断面に対して上記第2実施形態と同様にしてレーザ照射して、該切断面を溶融凝固層で被覆することもできる。この場合、切断面が溶融凝固層に覆われていることにより酸化物超電導層3が外部から遮蔽された構造を実現できるため、水分の浸入による酸化物超電導層3の劣化を抑制できる。
【0075】
また、上記第1および第2実施形態では、超電導積層体S1、S11の側面全体を覆うように溶融凝固層7、17が形成された例を示したが、本発明はこの例に限定されない。少なくとも酸化物超電導層3の側面を覆うように溶融凝固層が形成されていれば、酸化物超電導層3に側面側から水分が浸入することを防止できる。
図7は本発明に係る酸化物超電導線材の第3実施形態を示す概略断面図であり、図8は本発明に係る酸化物超電導線材の第4実施形態を示す概略断面図である。図7および図8において、図1〜図6に示す上記実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0076】
図7に示す酸化物超電導線材10Cは、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と半田層5と金属安定化層6がこの順に積層された超電導積層体の幅方向の側面側に、金属安定化層6と半田層5と銀層4と酸化物超電導層3と中間層2の側面を覆う溶融凝固層7Cが形成されてなる。
本実施形態の酸化物超電導線材10Cは、上記した図3に示す製造工程において、図3(b)に示すレーザ照射時に金属安定化層6側からレーザを照射し、超電導積層体S0の幅方向端部の金属安定化層6と半田層5と銀層4と酸化物超電導層3と中間層2を加熱して溶融させ、溶融部分を凝固させることにより溶融凝固層7Cを形成して製造できる。
この実施形態の酸化物超電導線材10Cも、上記実施形態と同様に、酸化物超電導層3の側面が溶融凝固層7Cにより外部より遮蔽された構造となるため、酸化物超電導層3への水分の侵入を防止できる。
【0077】
図8に示す酸化物超電導線材10Dは、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と半田層5と金属安定化層6がこの順に積層された超電導積層体の幅方向の側面側に、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と半田層5の側面を覆う溶融凝固層7Dが形成されてなる。
本実施形態の酸化物超電導線材10Dは、上記した図3に示す製造工程において、図3(b)に示すレーザ照射時に基材1側からレーザを照射し、超電導積層体S0の幅方向端部の基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と半田層5を加熱して溶融させ、溶融部分を凝固させることにより溶融凝固層7Dを形成して製造できる。
この実施形態の酸化物超電導線材10Dも、上記実施形態と同様に、酸化物超電導層3の側面が溶融凝固層7Dにより外部より遮蔽された構造となるため、酸化物超電導層3への水分の侵入を防止できる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0079】
「実施例1」
幅10mm、厚さ0.1mmのハステロイC276(米国ヘインズ社製商品名)製の基材の上に、IBAD法により1.2μm厚のGd2Zr2O7(GZO)なる組成の中間層を形成し、さらにこの中間層の上にPLD法により1.0μm厚のCeO2なる組成のキャップ層を成膜した。次に、このキャップ層の上にPLD法により1.0μm厚のGdBa2Cu3O7−xなる組成の酸化物超電導層を形成し、さらにこの酸化物超電導層の上にスパッタ法により10μm厚の銀層を形成し、酸素アニールを施した。続いて、銀層上に厚さ5μmのスズ半田(融点230℃)を介して幅10mm、厚さ100μmの銅製テープ(金属安定化層)を積層し、この積層体を加熱・加圧ロール(加熱温度:240℃、加圧力:10〜20MPa、通過速度:100m/h)に通過させることにより、銀層上に半田層を介して銅製テープ(金属安定化層)を接合させることにより超電導積層体を作製した。
【0080】
作製した超電導積層体の基材側の幅方向両端部に対し、表面に凹凸加工された加圧ローラーにより圧力10〜20MPaで加圧しながら、長手方向に回転走行させることにより、超電導積層体の基材側の幅方向両端部の表面粗さRaを50μmに加工した。図3(b)に示すように、超電導積層体の幅方向の両端部から20μmの位置に基材側からファイバーレーザを照射して、溶融・凝固させることにより超電導積層体の側面を覆う溶融凝固層(厚さ約10μm)を形成して、図1及び図3(c)に示す構造の酸化物超電導線材を作製した。得られた酸化物超電導線材の液体窒素温度(77K)における臨界電流値Ic0は150Aであった。なお、レーザ照射は次の条件で行った。
使用レーザ:ファイバーレーザ(波長1065nm、出力200W)、スポット径:20μm、溶接速度:10m/分、アシストガスとして窒素ガスをレーザ照射部に吹きつけながらレーザ照射を行った。
【0081】
作製した実施例1の酸化物超電導線材を、温度121℃、湿度100%、2気圧の雰囲気中で100時間保持した後に、液体窒素温度(77K)における酸化物超電導線材の臨界電流値Icを測定し、試験前の臨界電流値Ic0に対する試験後の臨界電流値Icの割合Ic/Ic0を求めたところ、Ic/Ic0=0.99であり、超電導特性は劣化せずに保持されていた。
【0082】
「実施例2」
銅製テープ(金属安定化層)側からファイバーレーザを照射したこと以外は、実施例1と同様にして酸化物超電導線材を作製した。得られた酸化物超電導線材の液体窒素温度(77K)における臨界電流値Ic0は150Aであった。
作製した実施例2の酸化物超電導線材を、温度121℃、湿度100%、2気圧の雰囲気中で100時間保持した後に、液体窒素温度(77K)における酸化物超電導線材の臨界電流値Icを測定し、試験前の臨界電流値Ic0に対する試験後の臨界電流値Icの割合Ic/Ic0を求めたところ、Ic/Ic0=0.98であり、超電導特性は劣化せずに保持されていた。
【0083】
「実施例3」
幅10mm、厚さ0.1mmのハステロイC276(米国ヘインズ社製商品名)製の基材の上に、IBAD法により1.2μm厚のGd2Zr2O7(GZO)なる組成の中間層を形成し、さらにこの中間層の上にPLD法により1.0μm厚のCeO2なる組成のキャップ層を成膜した。次に、このキャップ層の上にPLD法により1.0μm厚のGdBa2Cu3O7−xなる組成の酸化物超電導層を形成し、さらにこの酸化物超電導層の上にスパッタ法により10μm厚の銀層を形成し、酸素アニールを施して積層体を作製した。続いて、得られた積層体を長手方向に沿って幅5mmに裁断し、裁断後の積層体の銀層上に厚さ5μmのスズ半田(融点230℃)を介して幅5mm、厚さ100μmの銅製テープ(金属安定化層)を、積層し、この積層体を加熱・加圧ロール(加熱温度:240℃、加圧力:10〜20MPa、通過速度:100m/h)に通過させることにより、銀層上に半田層を介して銅製テープ(金属安定化層)を接合させることにより超電導積層体を作製した。
【0084】
次に、実施例1と同様にして超電導積層体の幅方向の両端部に基材側からファイバーレーザを照射することにより溶融凝固層を形成することにより酸化物超電導線材を作製した。得られた酸化物超電導線材の液体窒素温度(77K)における臨界電流値Ic0は75Aであった。
作製した実施例3の酸化物超電導線材を、温度121℃、湿度100%、2気圧の雰囲気中で100時間保持した後に、液体窒素温度(77K)における酸化物超電導線材の臨界電流値Icを測定し、試験前の臨界電流値Ic0に対する試験後の臨界電流値Icの割合Ic/Ic0を求めたところ、Ic/Ic0=0.97であり、超電導特性は劣化せずに保持されていた。
【0085】
「比較例1」
実施例3と同様の方法で超電導積層体を作製したものをそのまま酸化物超電導線材とした。得られた酸化物超電導線材の液体窒素温度(77K)における臨界電流値Ic0は150Aであった。
作製した比較例1の酸化物超電導線材を、温度121℃、湿度100%、2気圧の雰囲気中で48時間保持した後、酸化物超電導線材の超電導特性を測定したところ、液体窒素温度(77K)における臨界電流値Icは0Aであり超電導特性が劣化していた。比較例1の酸化物超電導線材は、酸化物超電導層の側面が露出していたため、この露出部から水分が浸入して酸化物超電導層が劣化したと考えられる。
【0086】
実施例1〜3および比較例1の酸化物超電導線材の耐久試験結果を図10に示す。図10は、試験時間に対して、試験前の臨界電流値Ic0に対する試験後の臨界電流値Icの割合Ic/Ic0をプロットしたものである。縦軸Ic/Ic0が1.0に近いほど耐久性が高いことを示す。
図10の結果より、本発明に係る実施例1〜3の酸化物超電導線材は、酸化物超電導層への水分の浸入を抑えることができることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、例えば超電導モータ、限流器など、各種超電導機器に用いられる酸化物超電導線材に利用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1…基材、2…中間層、3…酸化物超電導層、4…銀層、5…半田層、6、16A、16B、16C、16P…金属安定化層、7、17、7C、7D…溶融凝固層、10、10B、10C、10D…酸化物超電導線材、21…レーザ加工機、22…集光レンズ、L…レーザ光、S0、S1、S11、S10A、S10B…超電導積層体、T1、T1P…積層体、C1…切断面。
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年になって発見されたRE−123系酸化物超電導体(REBa2Cu3O7−X:REはYを含む希土類元素)は、液体窒素温度で超電導性を示し、電流損失が低いため、実用上極めて有望な素材とされており、これを線材に加工して電力供給用の導体あるいは磁気コイル等として使用することが要望されている。この酸化物超電導体を線材に加工するための方法として、金属基材テープ上に酸化物超電導層を形成する方法が研究されている。
【0003】
酸化物超電導線材にあっては、酸化物超電導層上に薄い銀の安定化層を形成し、その上に銅などの良導電性金属材料からなる厚い安定化層を設けた2層構造の安定化層を積層する構造が採用されている。前記銀の安定化層は、酸化物超電導層を酸素熱処理する際に酸素量の変動を調節する目的のためにも設けられており、銅の安定化層は、酸化物超電導層が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたとき、該酸化物超電導層の電流を転流させるバイパスとして機能させるための目的で設けられている。
【0004】
2層構造の安定化層を形成する技術の一例として、酸化物超電導層の上にスパッタリングにより薄い銀の安定化層を設けた線材と、銅製の安定化材テープとをはんだを介して重ね合わせて加熱・加圧ロールに通すことによって、銀の安定化層上に銅の安定化層を形成する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−48987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
RE−123系酸化物超電導層の特定組成のものは水分により劣化しやすく、線材を水分の多い環境に保管した場合や、線材に水分が付着した状態のまま放置した場合に、酸化物超電導層に水分が浸入すると、超電導特性が低下する要因となる。
特許文献1のように銀の安定化層上に銅製の安定化材テープを積層して銅の安定化層を形成する技術では、銀の安定化層の上面のみが銅の安定化層で保護される構造であり、水分によりダメージを受けやすい酸化物超電導層の側面が外部に露呈しているため、製造工程中などに水分が浸入することにより超電導特性の低下を引き起こす虞がある。
【0007】
本発明は、以上のような従来の実情に鑑みなされたものであり、酸化物超電導層への水分の浸入を抑えることができる酸化物超電導線材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、基材と中間層と酸化物超電導層と銀層と金属安定化層とがこの順に積層されてなる超電導積層体を準備する第1工程と、前記超電導積層体の幅方向端部にレーザを照射して該超電導積層体の端部を溶融・凝固させて、少なくとも前記酸化物超電導層の側面を覆う溶融凝固層を形成する第2工程と、を備えることを特徴とする。
本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、超電導積層体の幅方向の端部にレーザを照射して、該超電導積層体の端部を溶融・凝固させることにより、少なくとも酸化物超電導層の側面を覆う溶融凝固層を形成する。そのため、酸化物超電導層の側面が溶融凝固層により外部から遮蔽された構造の酸化物超電導線材を製造でき、水分の浸入を防止して水分による酸化物超電導層の劣化を抑止できる酸化物超電導線材を提供できる。
【0009】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法において、前記基材と前記金属安定化層の少なくとも一方を溶融凝固させて前記溶融凝固層を得ることもできる。
この場合、溶融凝固層は基材と金属安定化層のどちらか一方を溶融させて、少なくとも酸化物超電導層の側面を覆う溶融凝固層を形成でき、酸化物超電導層を外部から遮蔽した構造を実現できる。さらに、基材と金属安定化層の両方を溶融させて溶融凝固層を形成するならば、溶融凝固層は超電導積層体の側面全体を覆う構造となり、超電導積層体の側面全体を外部から遮蔽した構造を実現できる。従って、より効果的に水分の浸入を防止して水分による酸化物超電導層の劣化を確実に抑止できる酸化物超電導線材を提供できる
【0010】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、前記第2工程において、レーザ照射面の表面粗さを粗く加工した後に、レーザを照射することもできる。
この場合、レーザ照射面の表面粗さを粗く加工することにより、レーザ照射面の反射率を低下させることができるため、汎用のレーザを使用しても確実にレーザのエネルギーを照射部に伝えて、レーザ照射部を加熱・溶融することができる。また、レーザ照射面より反射されるレーザ光を低減できるので、レーザ加工機へのレーザ光の反射も低減され、レーザ加工機がレーザ光により劣化しやすくなることを抑制できる。
【0011】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法において、レーザとしてファイバーレーザを用いることもできる。
この場合、連続波レーザであるファイバーレーザを用いることにより、パルスレーザ等の他のレーザを用いる場合とは異なり、レーザ照射部が気化することが無く、確実に溶融凝固層を形成できる。
【0012】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法において、金属テープの貼り合わせ又はめっきにより前記金属安定化層を形成することもできる。
金属テープの貼り合わせより金属安定化層を形成する場合、金属テープの厚さを調整することで容易に金属安定化層の厚さを調整できるので、酸化物超電導層を安定化するに充分な厚さを確保しやすく、安定化効果が高い酸化物超電導線材を製造できる。
また、めっきにより金属安定化層を形成する場合、超電導積層体の基材の裏面側にも金属安定化層が形成できるので、酸化物超電導層を安定化するに充分な厚さを確保しやすく、安定性の優れた酸化物超電導線材を製造できる。
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の酸化物超電導線材は、基材と中間層と酸化物超電導層と銀層と金属安定化層とがこの順に積層されてなる超電導積層体と、該超電導積層体の幅方向の側面側に少なくとも前記酸化物超電導層の側面を覆い、前記基材と前記金属安定化層の少なくとも一方に対するレーザの照射により形成された溶融凝固層とを備えてなることを特徴とする。
本発明の酸化物超電導線材は、酸化物超電導層の側面が溶融凝固層により覆われ、外部から遮蔽された構成である。そのため、酸化物超電導層への水分の浸入を防止でき、水分による酸化物超電導層の劣化を抑止できる。
【0014】
本発明の酸化物超電導線材において、前記溶融凝固層が、前記基材と前記金属安定化層の少なくとも一方の溶融凝固物を含んでなることもできる。
溶融凝固層が基材の溶融凝固物を含む場合、超電導積層体の側面のうち、少なくとも基材と中間層と酸化物超電導層の側面が溶融凝固層により外部から遮蔽された構造となる。従って、酸化物超電導層への水分の浸入を防止でき、水分による酸化物超電導層の劣化を抑止できる酸化物超電導線材となる。
また、溶融凝固層が金属安定化層の溶融凝固物を含む場合、超電導積層体の側面のうち、少なくとも金属安定化層と銀層と酸化物超電導の側面が溶融凝固層により外部から遮蔽された構造となる。従って、酸化物超電導層への水分の浸入を防止でき、水分による酸化物超電導層の劣化を抑止できる酸化物超電導線材となる。
さらに、溶融凝固層が基材と金属安定化層の両方の溶融凝固物を含む場合、溶融凝固層は超電導積層体の側面全体を覆う構造となり、超電導積層体の側面全体を外部から遮蔽した構造を実現できる。従って、より効果的に水分の浸入を防止して水分による酸化物超電導層の劣化を確実に抑止できる酸化物超電導線材となる。
【0015】
本発明の酸化物超電導線材において、前記金属安定化層が、金属テープの貼り合わせ又はめっきにより形成されてなることもできる。
金属安定化層が金属テープの貼り合わせより形成されている場合、金属テープの厚さを調整することで容易に金属安定化層の厚さを調整できるので、酸化物超電導層を安定化するに充分な厚さを確保しやすく、安定化効果が高い酸化物超電導線材となる。
また、金属安定化層がめっきにより形成されている場合、超電導積層体の基材の裏面側にも金属安定化層が形成される構成となるため、酸化物超電導層を安定化するに充分な厚さを確保しやすく、安定性の優れた酸化物超電導線材となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、酸化物超電導層への水分の浸入を抑えることができる酸化物超電導線材及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る酸化物超電導線材の第1実施形態を示す断面図である。
【図2】図1に示す酸化物超電導線材の部分拡大断面図である。
【図3】図1に示す酸化物超電導線材の製造方法の一実施形態を示す工程説明図である。
【図4】本発明に係る酸化物超電導線材の第2実施形態を示す断面図である。
【図5】図4に示す酸化物超電導線材の部分拡大断面図である。
【図6】図5に示す酸化物超電導線材の製造方法の一実施形態を示す工程説明図である。
【図7】本発明に係る酸化物超電導線材の第3実施形態を示す断面図である。
【図8】本発明に係る酸化物超電導線材の第4実施形態を示す断面図である。
【図9】本発明に係る酸化物超電導線材の製造方法に用いるファイバーレーザ装置の概略構成図である。
【図10】実施例1〜3および比較例1、2の酸化物超電導線材の耐久試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る酸化物超電導線材の実施形態について図面に基づいて説明する。
[第1実施形態]
図1は本発明に係る酸化物超電導線材の第1実施形態を模式的に示す断面図であり、図2は図1に示す酸化物超電導線材の部分拡大断面図である。
【0019】
図1に示す酸化物超電導線材10は、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と半田層5と金属安定化層6が順次積層された超電導積層体S1と、この超電導積層体S1の幅方向の側面ほぼ全体を覆う溶融凝固層7とを備えてなる。
溶融凝固層7は、後述の如く超電導積層体S1と同じ層構成の超電導積層体S0の端部にレーザを照射し、超電導積層体S0の端部を溶融させた後に凝固させることにより形成される。そのため、溶融凝固層7の形状はレーザの照射条件により変化するので、図1に示す形状以外となる場合もあるが、本発明において、溶融凝固層7は少なくとも酸化物超電導層3の側面を覆っていればよい。
【0020】
基材1は、通常の超電導線材の基材として使用し得るものであれば良く、長尺のプレート状、シート状又はテープ状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。耐熱性の金属の中でも、合金が好ましく、ニッケル(Ni)合金がより好ましい。中でも、市販品であればハステロイ(商品名、ヘインズ社製)が好適であり、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。また、基材1としてニッケル(Ni)合金などに集合組織を導入した配向金属基材を用い、その上に中間層2および酸化物超電導層3を形成してもよい。
基材1の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmであることが好ましく、20〜200μmであることがより好ましい。下限値以上とすることで強度が一層向上し、上限値以下とすることでオーバーオールの臨界電流密度を一層向上させることができる。
【0021】
中間層2は、酸化物超電導層3の結晶配向性を制御し、基材1中の金属元素の酸化物超電導層3への拡散を防止するものである。さらに、基材1と酸化物超電導層3との物理的特性(熱膨張率や格子定数等)の差を緩和するバッファー層として機能し、その材質は、物理的特性が基材1と酸化物超電導層3との中間的な値を示す金属酸化物が好ましい。中間層2の好ましい材質として具体的には、Gd2Zr2O7、MgO、ZrO2−Y2O3(YSZ)、SrTiO3、CeO2、Y2O3、Al2O3、Gd2O3、Zr2O3、Ho2O3、Nd2O3等の金属酸化物が例示できる。
中間層2は、単層でも良いし、複数層でも良い。例えば、前記金属酸化物からなる層(金属酸化物層)は、結晶配向性を有していることが好ましく、複数層である場合には、最外層(最も酸化物超電導層3に近い層)が少なくとも結晶配向性を有していることが好ましい。
【0022】
中間層2は、基材1側にベッド層が介在された複数層構造でもよい。ベッド層は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層は、必要に応じて配され、例えば、イットリア(Y2O3)、窒化ケイ素(Si3N4)、酸化アルミニウム(Al2O3、「アルミナ」とも呼ぶ)等から構成される。このベッド層は、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜200nmである。
【0023】
さらに、本発明において、中間層2は、基材1側に拡散防止層とベッド層が積層された複数層構造でもよい。この場合、基材1とベッド層との間に拡散防止層が介在された構造となる。拡散防止層は、基材1の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、窒化ケイ素(Si3N4)、酸化アルミニウム(Al2O3)、あるいは希土類金属酸化物等から構成され、その厚さは例えば10〜400nmである。なお、拡散防止層の結晶性は問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すればよい。
このように基材1とベッド層との間に拡散防止層を介在させることにより、中間層2を構成する他の層や酸化物超電導層3等を形成する際に、必然的に加熱されたり、熱処理される結果として熱履歴を受ける場合に、基材1の構成元素の一部がベッド層を介して酸化物超電導層3側に拡散することを効果的に抑制することができる。基材1とベッド層との間に拡散防止層を介在させる場合の例としては、拡散防止層としてAl2O3、ベッド層としてY2O3を用いる組み合わせを例示することができる。
【0024】
また中間層2は、前記金属酸化物層の上に、さらにキャップ層が積層された複数層構造でも良い。キャップ層は、酸化物超電導層3の配向性を制御する機能を有するとともに、酸化物超電導層3を構成する元素の中間層2への拡散や、酸化物超電導層3積層時に使用するガスと中間層2との反応を抑制する機能等を有するものである。
【0025】
キャップ層は、前記金属酸化物層の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されたものが好ましい。このようなキャップ層は、前記金属酸化物層よりも高い面内配向度が得られる。
キャップ層の材質は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO2、Y2O3、Al2O3、Gd2O3、Zr2O3、Ho2O3、Nd2O3等が例示できる。キャップ層の材質がCeO2である場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
キャップ層は、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができるが、大きな成膜速度を得られる点でPLD法を用いることが好ましい。
【0026】
中間層2の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、0.1〜5μmである。
中間層2が、前記金属酸化物層の上にキャップ層が積層された複数層構造である場合には、キャップ層の厚さは、通常は、0.1〜1.5μmである。
【0027】
中間層2は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法(以下、IBAD法と略記する)等の物理的蒸着法;化学気相成長法(CVD法);塗布熱分解法(MOD法);溶射等、酸化物薄膜を形成する公知の方法で積層できる。特に、IBAD法で形成された前記金属酸化物層は、結晶配向性が高く、酸化物超電導層3やキャップ層の結晶配向性を制御する効果が高い点で好ましい。IBAD法とは、蒸着時に、結晶の蒸着面に対して所定の角度でイオンビームを照射することにより、結晶軸を配向させる方法である。通常は、イオンビームとして、アルゴン(Ar)イオンビームを使用する。例えば、Gd2Zr2O7、MgO又はZrO2−Y2O3(YSZ)からなる中間層2は、IBAD法における配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
【0028】
酸化物超電導層3は通常知られている組成の酸化物超電導体からなるものを広く適用することができ、REBa2Cu3Oy(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のもの、具体的には、Y123(YBa2Cu3Oy)又はGd123(GdBa2Cu3Oy)を例示することができる。また、その他の酸化物超電導体、例えば、Bi2Sr2Can−1CunO4+2n+δなる組成等に代表される臨界温度の高い他の酸化物超電導体からなるものを用いても良いのは勿論である。
酸化物超電導層3は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法等の物理的蒸着法;化学気相成長法(CVD法);塗布熱分解法(MOD法)等で積層でき、なかでもレーザ蒸着法が好ましい。
酸化物超電導層3の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
【0029】
酸化物超電導層3の上に積層されている銀層4は、スパッタ法などの成膜法により形成され、その厚さを1〜30μm程度とされる。
酸化物超電導層3上に銀層4を備える構成とする理由としては、銀は良導電性かつ酸化物超電導層3と接触抵抗が低くなじみの良い点、及び、酸化物超電導層3に酸素をドープするアニール工程においてドープした酸素を酸化物超電導層3から逃避し難くする性質を有する点を挙げることができる。
【0030】
金属安定化層6は、良導電性の金属材料からなり、酸化物超電導層3が超電導状態から常電導状態に遷移しようとした時に、銀層4とともに、酸化物超電導層3の電流が転流するバイパスとして機能する。
金属安定化層6は銀層4上に半田層5を介して積層されている。半田層5が金属安定化層6と銀層4との間に介在していることにより、金属安定化層6と銀層4とが半田層5により電気的および機械的に接続されて、銀層4と金属安定化層6との接合が強固となり、接続抵抗が低下するため、酸化物超電導層3を安定化する効果を向上できる。
半田層5の厚さは、特に限定されず、適宜調整可能であるが、例えば、2〜20μm程度とすることができる。
【0031】
半田層5としては、従来公知の半田を使用することができ、例えば、Sn−Ag系合金、Sn−Bi系合金、Sn−Cu系合金、Sn−Zn系合金などの鉛フリー半田、Pb−Sn系合金半田、共晶半田、低温半田などが挙げられ、これらの半田を1種または2種以上組み合わせて使用することができる。これらの中でも、融点が300℃以下の半田を用いることが好ましい。これにより、300℃以下の温度で金属安定化層6と銀層4を半田付けすることが可能となるので、半田付けの熱によって酸化物超電導層3の特性が劣化することを抑止することができる。
【0032】
金属安定化層6は、良導電性の金属よりなる長尺の金属テープより形成されている。金属安定化層6を形成する金属テープは、Cu、黄銅(Cu−Zn合金)、Cu−Ni合金等の銅合金、ステンレス等の比較的安価な材質からなるものを用いることが好ましく、中でも高い導電性を有し、安価であることがらCu製が好ましい。
金属安定化層6の厚さは特に限定されず、適宜調整可能であるが、10〜300μmとすることが好ましい。下限値以上とすることにより酸化物超電導層3を安定化する一層高い効果が得られ、上限値以下とすることにより酸化物超電導線材10を薄型化できる。
なお、酸化物超電導線材10を超電導限流器に使用する場合は、金属安定化層6は抵抗金属材料より構成され、Ni−Cr等のNi系合金などを使用できる。
【0033】
溶融凝固層7は、超電導積層体S1と同一の層構成の超電導積層体S0の端部にレーザを照射し、超電導積層体S0の端部を溶融・凝固させることにより形成されている。そのため、溶融凝固層7は、超電導積層体S1および超電導積層体S0の構成成分(溶融凝固物)を含んでなる。図2は本実施形態の酸化物超電導線材10の幅方向の一端部付近の様子を模式的に示す図である。レーザの照射により形成された溶融凝固層7の構造は、レーザ照射条件により変化するため図2に示す構造に限定されるわけではないが、金属安定化層6の側面に形成された溶融凝固層7Aは金属安定化層6の構成成分(溶融凝固物)を多く含み、基材1の側面に形成された溶融凝固層7Cは基材1の構成成分(溶融凝固物)を多く含む構成となる。中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と半田層5の側面の溶融凝固層7Bは、中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と半田層5の構成成分に加え、金属安定化層6および基材1の構成成分(溶融凝固物)も含む構成となる。
【0034】
溶融凝固層7の形状はレーザの照射条件により変化するので、図1及び図2に示す形状以外となる場合もあるが、本発明において、溶融凝固層7は少なくとも酸化物超電導層3の側面を覆っていればよい。溶融凝固層7が少なくとも酸化物超電導層3の側面を覆う構成とすることにより、酸化物超電導層3への水分の浸入を抑えることができるので、酸化物超電導層3が水分によりダメージを受けて超電導特性が劣化することを防ぐことができる。
【0035】
溶融凝固層7の厚さは特に制限されず適宜変更可能であるが、溶融凝固層7の最薄部の厚さが10μm以上とすることが好ましい。溶融凝固層7の厚さを10μm以上とすることにより、酸化物超電導層3に水分が浸入することを効果的に防ぐことができる。また、溶融凝固層7の最厚部の厚さは150μm以下とすることが好ましい。溶融凝固層7の厚さが150μmを超えると、レーザの照射により失われる酸化物超電導層3の面積が増加するため、超電導特性が低下する虞がある。
【0036】
本実施形態の酸化物超電導線材10は、超電導積層体S1の側面のほぼ全体が溶融凝固層7により覆われ、外部から遮蔽された構成である。そのため、酸化物超電導層3への水分の浸入を防止でき、水分による酸化物超電導層3の劣化を抑止できる。
【0037】
次に、本発明に係る酸化物超電導線材10の製造方法の一実施形態について図面に基づいて説明する。
図3は、図1に示す酸化物超電導線材10の製造方法の一実施形態を示す工程説明図である。
本実施形態の酸化物超電導線材の製造方法は、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と金属安定化層6とがこの順に積層されてなる超電導積層体S0を準備する第1工程と、超電導積層体S0の幅方向端部にレーザを照射して超電導積層体S0の端部を溶融・凝固させて、超電導積層体S1の側面を覆う溶融凝固層7を形成する第2工程と、を備える。
【0038】
まず、図3(a)に示す如く、前述した超電導積層体S1と同じ層構成の超電導積層体S0を準備する(第1工程)。一例として、基材1上にスパッタ法で拡散防止層とベッド層を形成した後、このベッド層の上にIBAD法で中間層2を形成し、さらにPLD法でキャップ層と酸化物超電導層3を形成し、次に、酸化物超電導層3上にスパッタ法により銀層4を形成する。その後、基材1上に銀層4まで形成された積層体の銀層4上に、金属テープを半田を介して積層することにより超電導積層体S0を得ることができる。なお、超電導積層体S0としては、幅広の超電導積層体を作製した後、この幅広の超電導積層体を幅方向に複数個に分割するように長手方向に沿って切断したものを使用してもよい。
【0039】
次に、図3(b)に示す如く基材1側を上にして、得られた超電導積層体S0の幅方向の端部に上からレーザを照射して、超電導積層体S0の端部を溶融・凝固させて、超電導積層体S1の側面を覆う溶融凝固層7を形成する(第2工程)。
第2工程において、超電導積層体S0の基材1の裏面1A側からレーザを照射してもよく、図3(b)とは上下逆になるように超電導積層体S0の金属安定化層6側を上にして、超電導積層体S0の金属安定化層6の表面6A側からレーザを照射してもよい。金属安定化層6が銅などの反射率の高い金属材料よりなり、基材1の裏面1Aの反射率が低い場合は、図3(b)に示す如く基材1の裏面1A側からレーザを照射する方が効率的にレーザ照射部を加熱できるため好ましい。
【0040】
ここで、金属安定化層6が前記した良導電性材料の金属テープよりなる場合、銅などの反射率の高い金属や合金より構成された金属テープをレーザ溶接するには、レーザの出力を高く設定したり、レーザ照射時間を長く設定する必要がある。例えば、表面を光沢面とした銅テープの反射率は、波長280nmで33.0%、波長400nmで47.5%、波長700nmで97.5%、波長1000nmで98.5%とされている。このように銅は、YAGレーザや半導体レーザ(ファイバーレーザ)等の波長1000nm付近の反射率が非常に高いため、レーザが反射されてしまい溶接加工し難いという問題がある。
【0041】
そこで、本実施形態においては、超電導積層体S0の金属安定化層6の表面6A側からレーザを照射する場合には、予め金属安定化層6のレーザ照射部(幅方向端部)の表面粗さを粗くしてからレーザを照射することが好ましい。これにより、銅等の表面を光沢面とした金属テープよりなる金属安定化層6のレーザ照射面の反射率を低下させて、確実にレーザのエネルギーを照射部に伝えて、超電導積層体S0の端部を加熱・溶融することができる。
【0042】
超電導積層体S0の金属安定化層6の表面6A側からレーザを照射する場合、金属安定化層6のレーザ照射部(幅方向端部)の表面粗さRaは、10μm以上100μm以下とすることが好ましい。このような表面粗さRaとすることにより、金属安定化層6が銅等の反射率の高い金属材料より構成される場合にも、汎用のレーザーを使用して、良好な製造速度で超電導積層体S0の端部を溶融・凝固させて溶融凝固層7を形成できるため好ましい。また、金属安定化層6により反射されるレーザ光を低減できるので、レーザ加工機へのレーザ光の反射も低減され、レーザ加工機がレーザ光により劣化しやすくなることを抑制できる。なお、本発明において、表面粗さRaとは、算術表面粗さRa(JIS B0601−1994)を表す。
【0043】
レーザ照射前に、金属安定化層6のレーザ照射部(幅方向端部)の表面粗さを粗く加工する方法としては、特に限定されず、型押し、鑢がけなど、従来公知の方法が適用できる。具体的には、例えば、図3(b)に二点鎖線で示す如く表面に凹凸加工が施された加圧ローラーなどの成形具20により加圧する方法が挙げられる。この場合、成形具により接触加圧される金属安定化層6の表面を、成形具表面の凹凸形状が反転した凹凸形状に加工し、所望の表面粗さとすることができる。
なお、レーザ照射前にレーザ照射部の表面粗さを粗く加工する方法は、超電導積層体S0の基材1の裏面1A側からレーザを照射する場合にも行ってもよい。
【0044】
第2工程において使用できるレーザとしては、YAGレーザ、半導体レーザ、CO2レーザ、およびこれらのレーザ光を光ファイバにより伝送するファイバーレーザ等が挙げられる。中でも、連続波であるため、ファイバーレーザが好ましい。パルスレーザの場合は1パルスのエネルギーが大きすぎるために、レーザ照射部分が気化してしまい溶融凝固層7が形成されない場合がある。銅の金属安定化層6に対するレーザ照射にYAGレーザを使用する場合は、銅の反射率が低くなる第2高調波(532nm)を使用することができる。
【0045】
図9は本実施形態の酸化物超電導線材の製造方法に用いるファイバーレーザ装置の概略構成図である。この例のファイバーレーザー装置30は、複数の(図9の例では3基の)励起用レーザーの発光装置31と、これら複数の光源21からの励起用レーザーを結合するビームコンパイナとしての結合器32と、この結合器32に接続されたダブルクラッドファイバーからなる増幅用ファイバー33と、この増幅用ファイバー33に接続された伝送用ファイバー34と、伝送用ファイバー34の先端部に接続された出力部35を主体として構成されている。
【0046】
増幅用ファイバー33は、一例として、光増幅媒体である希土類添加ファイバーを用いることができる。希土類添加ファイバーとして、希土類元素、例えば、Yb(イッテルビウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Nd(ネオジム)、Pr(プラセオジム)等の希土類元素が添加されたコアと、コアの外周を囲む第1クラッドと、この第1クラッドを囲む第2クラッドとからなる希土類添加ダブルクラッドファイバーを用いることができる。
【0047】
ファイバーレーザ装置30において、励起光の発光装置31から接続用ファイバー31aを介し結合器32に入力したマルチモードの励起光は、結合器32において光結合されて増幅用ファイバー33に入力され、増幅用ファイバー33において波長の増幅と出力増幅がなされ、シングルモードに変換され、伝送用ファイバー34を介し連続波レーザーとして出力部35から出力される。
【0048】
図3(b)に示すように、レーザ加工機21の先端(出力部35)から集光レンズ22で集光されたレーザ光Lを射出すると、超電導積層体S0の幅方向の端部を加熱することができ、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と半田層5と金属安定化層6の幅方向の端部を局部的に溶融できる。溶融した部分は超電導積層体S1の側面を覆うように付着するので、この部分をその後、凝固させることにより、超電導積層体S1の幅方向の側面を覆う溶融凝固層7を形成できる。レーザ加工機21は、外部のアシストガス供給装置に接続されたガス供給口23から窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスが供給され、この不活性ガスGがレーザ加工機21の先端部よりレーザ光Lの照射部へと吹き付けられる構成となっている。このように、溶接部に窒素などの不活性ガスを吹き付けながら溶接することにより、溶接される金属テープが酸化することを防ぐことができる。なお、不活性ガスで溶融物を吹き飛ばしてしまわないようなガス噴射圧とすることが必要となる。
【0049】
レーザ照射時のレーザのスポット径は、特に制限されないが、10〜100μm程度に設定することが好ましい。レーザのスポット径を10μm以上とすることにより溶融凝固層7を確実に形成することができるので好ましい。レーザのスポット径を100μm以下とすることにより、レーザ照射部のエネルギー密度が低くなりすぎることを防ぎ、充分な加工パワーを得られるため好ましい。また、レーザ照射により失われる酸化物超電導層3の面積を抑えることができるので、超電導特性の低下を少なく抑えることができる。
レーザのスポット径10〜100μm程度でレーザを照射することにより、形成される溶融凝固層7の厚さは10〜150μm程度となる。
レーザ溶接時のレーザの出力および波長は特に制限されず、使用するレーザ種や超電導積層体S0の層構成や厚さにより適宜調整すればよい。
【0050】
図3(b)に示すように、超電導積層体S0の幅方向の端部に(図3(b)に示す例では基材1の裏面1A側から)レーザ光Lを照射しながら、レーザ加工機21を超電導積層体S0の長手方向に沿って走査する、あるいは、超電導積層体S0を移動させることにより、レーザ光Lの照射位置を移動させて、超電導積層体S0の幅方向の端部に連続的にレーザ光Lを照射し、超電導積層体S0の端部を加熱して溶融・凝固させることにより、超電導積層体S1の幅方向の側面を覆う溶融凝固層7を形成できる。
同様に、超電導積層体S0の他方の幅方向端部にもレーザ光Lを照射することにより、超電導積層体S1の他方の側面を覆う溶融凝固層7を形成する。これにより、超電導積層体S1の幅方向の両側面が溶融凝固層7により覆われた図1及び図3(c)に示す構造の酸化物超電導線材10を製造できる。
【0051】
なお、超電導積層体S0の幅方向の端部にレーザを照射する際のレーザ照射位置は図3に示す例に限定されず、図3に示すレーザ照射位置よりも若干内側あるいは外側の位置にレーザを照射して溶融凝固層7を形成してもよい。
【0052】
本実施形態の酸化物超電導線材の製造方法は、超電導積層体S0の幅方向の端部にレーザを照射して、超電導積層体S0の端部を溶融・凝固させることにより、超電導積層体S1の側面を覆う溶融凝固層7を形成する。そのため、超電導積層体S1の側面全てが溶融凝固層7により外部から遮蔽された構造の酸化物超電導線材10を製造でき、水分の浸入を防止して水分による酸化物超電導層3の劣化を抑止できる酸化物超電導線材10を提供できる。
【0053】
また、本実施形態の酸化物超電導線材の製造方法は、金属テープの貼り合わせより金属安定化層6を形成するため、使用する金属テープ6の厚さを調整することで容易に金属安定化層6の厚さを調整できるので、酸化物超電導層3を安定化するに充分な厚さを確保しやすく、安定化効果が高い酸化物超電導線材10を製造できる。
【0054】
本実施形態の超電導線材の製造方法によれば、超電導積層体S0の端部をレーザ照射により溶融・凝固させて溶融凝固層7を形成しているため、万一、コイル加工や巻線加工、ケーブル加工など、あるいは、保管環境などにおいて酸化物超電導線材10が高温環境に曝されて半田層5が溶融するなどの現象を起こした場合であっても、金属安定化層6は溶融凝固層7と連続的に構成されているため、金属安定化層6が剥離することがなく、酸化物超電導層3に水分が浸入することを防止できる酸化物超電導線材10を製造できる。また、機械的強度が高い酸化物超電導線材10を提供できる。
さらに、溶融凝固層7形成前の超電導積層体S0と、溶融凝固層7形成後の超電導積層体S1とでは、線材全体の厚みや幅が増加することがほとんどないため、線材を大型化させずに酸化物超電導層3を外部から遮蔽する構造を実現できる。
【0055】
[第2実施形態]
図4は本発明に係る酸化物超電導線材の第2実施形態を模式的に示す断面図であり、図5は図4に示す酸化物超電導線材の部分拡大断面図である。図4および図5において、上記第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0056】
図4に示す酸化物超電導線材10Bは、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4が順次積層された積層体T1と、この積層体T1の上面、下面および幅方向の一側面を覆う金属安定化層16と、積層体T1と金属安定化層16よりなる超電導積層体S11の幅方向の一側面を覆う溶融凝固層17とを備えてなる。
金属安定化層16は、積層体T1の上面(銀層4の表面)を覆う金属安定化層16Aと、積層体S2の下面(基材1の裏面)を覆う金属安定化層16Bと、積層体S2の幅方向の一側面を覆う金属安定化層16Cより構成され、溶融凝固層17は積層体T1の金属安定化層16が形成されてない側に形成されている。
【0057】
図4に示す超電導積層体S11において、幅方向の側面のうち片方のみに金属安定化層16が形成されている構成であるのは、超電導積層体S11は元々金属安定化層を全周にめっきした積層体を分割して形成されたものであるためである。後述の如く超電導積層体S11は、積層体T1と同一の層構成で且つ積層体T1よりも幅広の積層体に対してめっきを行い、その全周に金属安定化層を形成してカプセル化した積層体をを長手方向に沿ってその幅方向に切断して分割することにより形成される。
溶融凝固層17は、後述の如く超電導積層体S11と同じ層構成の超電導積層体S10の金属安定化層16が形成されていない側の幅方向端部にレーザを照射し、超電導積層体S10の端部を溶融させた後に凝固させることにより形成される。そのため、溶融凝固層17の形状はレーザの照射条件により変化するので、図4に示す形状以外となる場合もあるが、本発明において、溶融凝固層17は少なくとも酸化物超電導層3の側面を覆っていればよい。
【0058】
積層体T1の上面、下面および幅方向の一側面を覆う金属安定化層16は、酸化物超電導層3が超電導状態から常電導状態に遷移しようとした時に、銀層4とともに、酸化物超電導層3の電流が転流するバイパスとして機能する。
金属安定化層16は、電気めっきにより形成されている。金属安定化層16を構成する材質としては、良導電性の金属が好ましく、Cu、Alなどが挙げられ、高い導電性を有するためCuが特に好ましい。金属安定化層16の厚さは特に限定されず、適宜変更可能であるが、10〜100μm程度とすることができ、20μm以上100μm以下とすることが好ましく、20μm以上50μm以下とすることがより好ましい。金属安定化層16の厚さを10μm以上とすることにより酸化物超電導層3を安定化する一層高い効果が得られ、100μm以下とすることにより酸化物超電導線材10Bを薄型化できる。
【0059】
溶融凝固層17は、後に説明する図6(c)に示す如く超電導積層体S11と同一の層構成の超電導積層体S10Bの金属安定化層16が形成されていない方の幅方向端部にレーザを照射し、超電導積層体S10Bの端部を溶融・凝固させることにより形成されている。そのため、溶融凝固層17は、超電導積層体S11および超電導積層体S10Bの構成成分(溶融凝固物)を含んでなる。
図5は本実施形態の酸化物超電導線材10Bの溶融凝固層17付近の様子を模式的に示す図である。レーザの照射により形成された溶融凝固層17の構造は、レーザ照射条件により変化するため図5に示す構造に限定されるわけではないが、金属安定化層16A、16Bの側面に形成された溶融凝固層17A、17Dは金属安定化層16の構成成分(溶融凝固物)を多く含み、基材1の側面に形成された溶融凝固層17Cは基材1の構成成分(溶融凝固物)を多く含む構成となる。中間層2と酸化物超電導層3と銀層4の側面の溶融凝固層17Bは、中間層2と酸化物超電導層3と銀層4の構成成分に加え、金属安定化層16および基材1の構成成分(溶融凝固物)も含む構成となる。
【0060】
溶融凝固層17の形状はレーザの照射条件により変化するので、図4及び図5に示す形状以外となる場合もあるが、本発明において、溶融凝固層17は少なくとも酸化物超電導層3の側面を覆っていればよい。溶融凝固層17が少なくとも酸化物超電導層3の側面を覆う構成とすることにより、酸化物超電導層3への水分の浸入を抑えることができるので、酸化物超電導層3が水分によりダメージを受けて超電導特性が劣化することを防ぐことができる。
【0061】
溶融凝固層17の厚さは特に制限されず適宜変更可能であるが、溶融凝固層17の最薄部の厚さが10μm以上とすることが好ましい。溶融凝固層17の厚さを10μm以上とすることにより、酸化物超電導層3に水分が浸入することを効果的に防ぐことができる。また、溶融凝固層17の最厚部の厚さは150μm以下とすることが好ましい。溶融凝固層17の厚さが150μmを超えると、レーザの照射により失われる酸化物超電導層3の面積が増加するため、超電導特性が低下する虞がある。
【0062】
本実施形態の酸化物超電導線材10Bは、超電導積層体S11の側面が溶融凝固層17により覆われ、外部から遮蔽された構成である。そのため、酸化物超電導層3への水分の浸入を防止でき、水分による酸化物超電導層3の劣化を抑止できる。
また、本実施形態の酸化物超電導線材10Bは、金属安定化層がめっきにより形成されており、基材1の裏面側にも金属安定化層16が形成される構成となるため、酸化物超電導層3を安定化するに充分な厚さを確保しやすく、安定化効果が高い酸化物超電導線材となる。
【0063】
次に、本発明に係る酸化物超電導線材10Bの製造方法の一実施形態について図面に基づいて説明する。
図6は、図4に示す酸化物超電導線材10Bの製造方法の一実施形態を示す工程説明図である。
本実施形態の酸化物超電導線材の製造方法は、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と金属安定化層6とがこの順に積層されてなる図6(b)に示す超電導積層体S10Bを準備する第1工程と、図6(c)に示す如く超電導積層体S10Bの幅方向端部にレーザを照射して超電導積層体S10Bの端部を溶融・凝固させて、図6(d)に示す如く超電導積層体S11の側面を覆う溶融凝固層17を形成する第2工程と、を備える。
【0064】
第1工程では、まず、図6(a)に示す如く積層体T1よりも幅広で且つ積層体T1と同じ層構成の積層体T1Pを作製する。一例として、基材1上にスパッタ法で拡散防止層とベッド層を形成した後、このベッド層の上にIBAD法で中間層2を形成し、さらにPLD法でキャップ層と酸化物超電導層3し、次に、酸化物超電導層3上にスパッタ法により銀層4を形成することにより積層体T1Pを得ることができる。
次に、作製した積層体T1Pをめっき浴に浸漬させて電気めっきを行うことにより、積層体T1Pの全周を覆って金属安定化層16Pを形成して、図6(a)に示す超電導積層体S10Aを作製する。金属安定化層16PはCuまたはAlより形成されていることが好ましく、Cuより形成されていることがより好ましい。
金属安定化層16PをCuのめっきより形成する場合、積層体T1Aを硫酸銅水溶液のめっき浴に浸漬させて電気めっきを行うことにより、積層体T1Aの全周を覆ってCuの金属安定化層16Pを形成することができる。
【0065】
その後の第2工程では、得られた超電導積層体S10Aを長手方向に沿って切断し、図6(b)に示す如く2つの超電導積層体S10B、S10Bに分割する。超電導積層体S10Aの分割方法としては特に限定されず、レーザによる溶断方法あるいは回転刃などによる機械的な切断方法が挙げられる。
【0066】
続いて、得られた超電導積層体S10Bの、切断面C1側の幅方向の端部にレーザを照射して、超電導積層体S10Bの端部を溶融・凝固させて、超電導積層体S11の切断面C1側の幅方向側面を覆う溶融凝固層17を形成する(第2工程)。
第2工程において、超電導積層体S10Bの銀層4側の金属安定化層16Aの表面側からレーザを照射してもよく、超電導積層体S10Bの基材1側の金属安定化層16Bの表面側からレーザを照射してもよい。
【0067】
ここで、本実施形態においては、上記第1実施形態の場合と同様に、レーザ照射前に予め金属安定化層16のレーザ照射部(切断面C1側の幅方向端部)の表面粗さを粗くしてからレーザを照射することが好ましい。これにより、銅等の反射率の高い材料よりなる金属安定化層16のレーザ照射面の反射率を低下させて、確実にレーザのエネルギーを照射部に伝えて、超電導積層体S10Bの切断面C1側の端部を加熱・溶融することができる。
【0068】
金属安定化層16のレーザ照射部(幅方向端部)の表面粗さRa、及び、金属安定化層16のレーザ照射部表面を粗す際の加工方法は、上記第1実施形態と同様である。
また、第2工程において使用できるレーザ種も上記第1実施形態と同様である。
【0069】
図6(c)に示すように、レーザ加工機21の先端から集光レンズ22で集光されたレーザ光Lを射出し、超電導積層体S10Bの切断面C1側の幅方向の端部に照射し、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と金属安定化層16A、16Bの切断面C1側の幅方向端部を局部的に溶融する。その後、溶融部分を凝固することにより、超電導積層体S11の幅方向の一側面を覆う溶融凝固層17を形成する。レーザ加工機は、外部のアシストガス供給装置に接続されたガス供給口23から窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスが供給され、この不活性ガスGがレーザ加工機21の先端部よりレーザ光Lの照射部へと吹き付けられる構成となっている。このように、溶接部に窒素などの不活性ガスを吹き付けながら溶接することにより、溶接される金属テープが酸化することを防ぐことができる。
【0070】
レーザ照射時のレーザのスポット径は、特に制限されないが、10〜100μm程度に設定することが好ましい。レーザのスポット径を10μm以上とすることにより溶融凝固層17を確実に形成することができるので好ましい。レーザのスポット径を100μm以下とすることにより、レーザ照射部のエネルギー密度が低くなりすぎることを防ぎ、充分な加工パワーを得られるため好ましい。また、レーザ照射により失われる酸化物超電導層3の面積を抑えることができるので、超電導特性の低下を少なく抑えることができる。
レーザのスポット径10〜100μm程度でレーザを照射することにより、形成される溶融凝固層17の厚さは10〜150μm程度となる。
レーザ溶接時のレーザの出力および波長は特に制限されず、使用するレーザ種や超電導積層体S0の層構成や厚さにより適宜調整すればよい。
【0071】
図6(c)に示すように、超電導積層体S10Bの切断面C1側の幅方向端部にレーザ光Lを照射しながら、レーザ加工機21を超電導積層体S10Bの長手方向に沿って走査する、あるいは、超電導積層体S10Bを移動させることにより、レーザ光Lの照射位置を移動させて、超電導積層体S10Bの幅方向の端部に連続的にレーザ光Lを照射し、超電導積層体S10Bの端部を加熱して溶融・凝固させることにより、超電導積層体S11の幅方向の一側面を覆う溶融凝固層17を形成できる。
以上の工程により、図4及び図6(d)に示す構造の酸化物超電導線材10Bを製造できる。
【0072】
本実施形態の酸化物超電導線材の製造方法は、超電導積層体S10Bの切断面C1側の幅方向端部にレーザを照射して、超電導積層体S10Bの端部を溶融・凝固させることにより、超電導積層体S11の一側面(切断面C1側の側面)を覆う溶融凝固層17を形成する。そのため、超電導積層体S11の側面全てが金属安定化層16Cおよび溶融凝固層17により外部から遮蔽された構造の酸化物超電導線材10Bを製造でき、水分の浸入を防止して水分による酸化物超電導層3の劣化を抑止できる酸化物超電導線材10Bを提供できる。
【0073】
また、本実施形態の超電導線材の製造方法では、金属安定化層16をめっきにより形成する構成であるため、基材1の裏面側にも金属安定化層16Bが形成できるので、酸化物超電導層3を安定化するに充分な厚さを確保しやすく、安定化効果が高い酸化物超電導線材10Bを製造できる。
【0074】
以上、本発明の酸化物超電導線材およびその製造方法の実施形態について説明したが、上記実施形態において、酸化物超電導線材の各部は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
例えば、上記第2実施形態では、外周に金属安定化層がめっきされてカプセル化された超電導積層体S10Aを2分割した場合を例示したが、本発明はこの例に限定されない。例えば、超電導積層体S10Aを長手方向に沿って、幅方向に3以上に分割し、分割された超電導積層体の切断面に対して上記第2実施形態と同様にしてレーザ照射して、該切断面を溶融凝固層で被覆することもできる。この場合、切断面が溶融凝固層に覆われていることにより酸化物超電導層3が外部から遮蔽された構造を実現できるため、水分の浸入による酸化物超電導層3の劣化を抑制できる。
【0075】
また、上記第1および第2実施形態では、超電導積層体S1、S11の側面全体を覆うように溶融凝固層7、17が形成された例を示したが、本発明はこの例に限定されない。少なくとも酸化物超電導層3の側面を覆うように溶融凝固層が形成されていれば、酸化物超電導層3に側面側から水分が浸入することを防止できる。
図7は本発明に係る酸化物超電導線材の第3実施形態を示す概略断面図であり、図8は本発明に係る酸化物超電導線材の第4実施形態を示す概略断面図である。図7および図8において、図1〜図6に示す上記実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0076】
図7に示す酸化物超電導線材10Cは、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と半田層5と金属安定化層6がこの順に積層された超電導積層体の幅方向の側面側に、金属安定化層6と半田層5と銀層4と酸化物超電導層3と中間層2の側面を覆う溶融凝固層7Cが形成されてなる。
本実施形態の酸化物超電導線材10Cは、上記した図3に示す製造工程において、図3(b)に示すレーザ照射時に金属安定化層6側からレーザを照射し、超電導積層体S0の幅方向端部の金属安定化層6と半田層5と銀層4と酸化物超電導層3と中間層2を加熱して溶融させ、溶融部分を凝固させることにより溶融凝固層7Cを形成して製造できる。
この実施形態の酸化物超電導線材10Cも、上記実施形態と同様に、酸化物超電導層3の側面が溶融凝固層7Cにより外部より遮蔽された構造となるため、酸化物超電導層3への水分の侵入を防止できる。
【0077】
図8に示す酸化物超電導線材10Dは、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と半田層5と金属安定化層6がこの順に積層された超電導積層体の幅方向の側面側に、基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と半田層5の側面を覆う溶融凝固層7Dが形成されてなる。
本実施形態の酸化物超電導線材10Dは、上記した図3に示す製造工程において、図3(b)に示すレーザ照射時に基材1側からレーザを照射し、超電導積層体S0の幅方向端部の基材1と中間層2と酸化物超電導層3と銀層4と半田層5を加熱して溶融させ、溶融部分を凝固させることにより溶融凝固層7Dを形成して製造できる。
この実施形態の酸化物超電導線材10Dも、上記実施形態と同様に、酸化物超電導層3の側面が溶融凝固層7Dにより外部より遮蔽された構造となるため、酸化物超電導層3への水分の侵入を防止できる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0079】
「実施例1」
幅10mm、厚さ0.1mmのハステロイC276(米国ヘインズ社製商品名)製の基材の上に、IBAD法により1.2μm厚のGd2Zr2O7(GZO)なる組成の中間層を形成し、さらにこの中間層の上にPLD法により1.0μm厚のCeO2なる組成のキャップ層を成膜した。次に、このキャップ層の上にPLD法により1.0μm厚のGdBa2Cu3O7−xなる組成の酸化物超電導層を形成し、さらにこの酸化物超電導層の上にスパッタ法により10μm厚の銀層を形成し、酸素アニールを施した。続いて、銀層上に厚さ5μmのスズ半田(融点230℃)を介して幅10mm、厚さ100μmの銅製テープ(金属安定化層)を積層し、この積層体を加熱・加圧ロール(加熱温度:240℃、加圧力:10〜20MPa、通過速度:100m/h)に通過させることにより、銀層上に半田層を介して銅製テープ(金属安定化層)を接合させることにより超電導積層体を作製した。
【0080】
作製した超電導積層体の基材側の幅方向両端部に対し、表面に凹凸加工された加圧ローラーにより圧力10〜20MPaで加圧しながら、長手方向に回転走行させることにより、超電導積層体の基材側の幅方向両端部の表面粗さRaを50μmに加工した。図3(b)に示すように、超電導積層体の幅方向の両端部から20μmの位置に基材側からファイバーレーザを照射して、溶融・凝固させることにより超電導積層体の側面を覆う溶融凝固層(厚さ約10μm)を形成して、図1及び図3(c)に示す構造の酸化物超電導線材を作製した。得られた酸化物超電導線材の液体窒素温度(77K)における臨界電流値Ic0は150Aであった。なお、レーザ照射は次の条件で行った。
使用レーザ:ファイバーレーザ(波長1065nm、出力200W)、スポット径:20μm、溶接速度:10m/分、アシストガスとして窒素ガスをレーザ照射部に吹きつけながらレーザ照射を行った。
【0081】
作製した実施例1の酸化物超電導線材を、温度121℃、湿度100%、2気圧の雰囲気中で100時間保持した後に、液体窒素温度(77K)における酸化物超電導線材の臨界電流値Icを測定し、試験前の臨界電流値Ic0に対する試験後の臨界電流値Icの割合Ic/Ic0を求めたところ、Ic/Ic0=0.99であり、超電導特性は劣化せずに保持されていた。
【0082】
「実施例2」
銅製テープ(金属安定化層)側からファイバーレーザを照射したこと以外は、実施例1と同様にして酸化物超電導線材を作製した。得られた酸化物超電導線材の液体窒素温度(77K)における臨界電流値Ic0は150Aであった。
作製した実施例2の酸化物超電導線材を、温度121℃、湿度100%、2気圧の雰囲気中で100時間保持した後に、液体窒素温度(77K)における酸化物超電導線材の臨界電流値Icを測定し、試験前の臨界電流値Ic0に対する試験後の臨界電流値Icの割合Ic/Ic0を求めたところ、Ic/Ic0=0.98であり、超電導特性は劣化せずに保持されていた。
【0083】
「実施例3」
幅10mm、厚さ0.1mmのハステロイC276(米国ヘインズ社製商品名)製の基材の上に、IBAD法により1.2μm厚のGd2Zr2O7(GZO)なる組成の中間層を形成し、さらにこの中間層の上にPLD法により1.0μm厚のCeO2なる組成のキャップ層を成膜した。次に、このキャップ層の上にPLD法により1.0μm厚のGdBa2Cu3O7−xなる組成の酸化物超電導層を形成し、さらにこの酸化物超電導層の上にスパッタ法により10μm厚の銀層を形成し、酸素アニールを施して積層体を作製した。続いて、得られた積層体を長手方向に沿って幅5mmに裁断し、裁断後の積層体の銀層上に厚さ5μmのスズ半田(融点230℃)を介して幅5mm、厚さ100μmの銅製テープ(金属安定化層)を、積層し、この積層体を加熱・加圧ロール(加熱温度:240℃、加圧力:10〜20MPa、通過速度:100m/h)に通過させることにより、銀層上に半田層を介して銅製テープ(金属安定化層)を接合させることにより超電導積層体を作製した。
【0084】
次に、実施例1と同様にして超電導積層体の幅方向の両端部に基材側からファイバーレーザを照射することにより溶融凝固層を形成することにより酸化物超電導線材を作製した。得られた酸化物超電導線材の液体窒素温度(77K)における臨界電流値Ic0は75Aであった。
作製した実施例3の酸化物超電導線材を、温度121℃、湿度100%、2気圧の雰囲気中で100時間保持した後に、液体窒素温度(77K)における酸化物超電導線材の臨界電流値Icを測定し、試験前の臨界電流値Ic0に対する試験後の臨界電流値Icの割合Ic/Ic0を求めたところ、Ic/Ic0=0.97であり、超電導特性は劣化せずに保持されていた。
【0085】
「比較例1」
実施例3と同様の方法で超電導積層体を作製したものをそのまま酸化物超電導線材とした。得られた酸化物超電導線材の液体窒素温度(77K)における臨界電流値Ic0は150Aであった。
作製した比較例1の酸化物超電導線材を、温度121℃、湿度100%、2気圧の雰囲気中で48時間保持した後、酸化物超電導線材の超電導特性を測定したところ、液体窒素温度(77K)における臨界電流値Icは0Aであり超電導特性が劣化していた。比較例1の酸化物超電導線材は、酸化物超電導層の側面が露出していたため、この露出部から水分が浸入して酸化物超電導層が劣化したと考えられる。
【0086】
実施例1〜3および比較例1の酸化物超電導線材の耐久試験結果を図10に示す。図10は、試験時間に対して、試験前の臨界電流値Ic0に対する試験後の臨界電流値Icの割合Ic/Ic0をプロットしたものである。縦軸Ic/Ic0が1.0に近いほど耐久性が高いことを示す。
図10の結果より、本発明に係る実施例1〜3の酸化物超電導線材は、酸化物超電導層への水分の浸入を抑えることができることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、例えば超電導モータ、限流器など、各種超電導機器に用いられる酸化物超電導線材に利用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1…基材、2…中間層、3…酸化物超電導層、4…銀層、5…半田層、6、16A、16B、16C、16P…金属安定化層、7、17、7C、7D…溶融凝固層、10、10B、10C、10D…酸化物超電導線材、21…レーザ加工機、22…集光レンズ、L…レーザ光、S0、S1、S11、S10A、S10B…超電導積層体、T1、T1P…積層体、C1…切断面。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と中間層と酸化物超電導層と銀層と金属安定化層とがこの順に積層されてなる超電導積層体を準備する第1工程と、
前記超電導積層体の幅方向端部にレーザを照射して該超電導積層体の端部を溶融・凝固させて、少なくとも前記酸化物超電導層の側面を覆う溶融凝固層を形成する第2工程と、
を備えることを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記基材と前記金属安定化層の少なくとも一方を溶融凝固させて前記溶融凝固層を得ることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程において、レーザ照射面の表面粗さを粗く加工した後に、レーザを照射することを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項4】
レーザとしてファイバーレーザを用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項5】
金属テープの貼り合わせ又はめっきにより前記金属安定化層を形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項6】
基材と中間層と酸化物超電導層と銀層と金属安定化層とがこの順に積層されてなる超電導積層体と、該超電導積層体の幅方向の側面側に少なくとも前記酸化物超電導層の側面を覆い、前記基材と前記金属安定化層の少なくとも一方に対するレーザの照射により形成された溶融凝固層とを備えてなることを特徴とする酸化物超電導線材。
【請求項7】
前記溶融凝固層が、前記基材と前記金属安定化層の少なくとも一方の溶融凝固物を含んでなることを特徴とする請求項6に記載の酸化物超電導線材。
【請求項8】
前記金属安定化層が、金属テープの貼り合わせ又はめっきにより形成されてなることを特徴とする請求項6または7に記載の酸化物超電導線材。
【請求項1】
基材と中間層と酸化物超電導層と銀層と金属安定化層とがこの順に積層されてなる超電導積層体を準備する第1工程と、
前記超電導積層体の幅方向端部にレーザを照射して該超電導積層体の端部を溶融・凝固させて、少なくとも前記酸化物超電導層の側面を覆う溶融凝固層を形成する第2工程と、
を備えることを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記基材と前記金属安定化層の少なくとも一方を溶融凝固させて前記溶融凝固層を得ることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程において、レーザ照射面の表面粗さを粗く加工した後に、レーザを照射することを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項4】
レーザとしてファイバーレーザを用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項5】
金属テープの貼り合わせ又はめっきにより前記金属安定化層を形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項6】
基材と中間層と酸化物超電導層と銀層と金属安定化層とがこの順に積層されてなる超電導積層体と、該超電導積層体の幅方向の側面側に少なくとも前記酸化物超電導層の側面を覆い、前記基材と前記金属安定化層の少なくとも一方に対するレーザの照射により形成された溶融凝固層とを備えてなることを特徴とする酸化物超電導線材。
【請求項7】
前記溶融凝固層が、前記基材と前記金属安定化層の少なくとも一方の溶融凝固物を含んでなることを特徴とする請求項6に記載の酸化物超電導線材。
【請求項8】
前記金属安定化層が、金属テープの貼り合わせ又はめっきにより形成されてなることを特徴とする請求項6または7に記載の酸化物超電導線材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−181933(P2012−181933A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42194(P2011−42194)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
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