説明

酸化物超電導線材の製造方法及びその製造用支持具

【課題】 所定の熱処理パターンで精密な熱処理制御を可能にし、長尺の超電導特性の優れた酸化物超電導線材を製造する。
【解決手段】 耐熱ステンレス製のドラム1の外周に、Alからなるロッド2の複数本をドラムの軸方向に平行に、かつ等間隔に配置して固定し、この上に酸化物超電導体を構成する元素を所定のモル比で含む原料粉末を収容した長尺の線材4をソレノイド状に巻回して、電気炉5中に入れ熱処理を施すことにより、所定の熱処理パターンで精密な熱処理制御を可能にするとともに、線材支持具からの線材支持具を構成する元素の線材への拡散を防止し、さらに、熱処理時に線材に加わる歪による劣化を防止して、超電導特性の優れた長尺の酸化物超電導線材を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化物超電導線材の製造方法及びその製造用支持具の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化物超電導体として、Bi系(2212)酸化物超電導体(Bi:Sr:Ca:Cu=2:2:1:2のモル比)及びBi系(2223)酸化物超電導体(Bi:Sr:Ca:Cu=2:2:2:3のモル比)が線材化に成功しており、これらの線材は所謂銀シース法(Powder in Tube Method)によって製造されている。この方法は、銀又は銀合金シース内に超電導物質の原料粉末を充填し、これに縮径加工を施すか、あるいは更に圧延加工を施して断面丸形又はテープ状に成形した後、熱処理を施して原料粉末を超電導化するものである(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
上記の銀シース法により酸化物超電導線材を製造する場合、冷間加工後に酸化物超電導体を生成させるための熱処理が必要となる。酸化物超電導体の合成温度は適正温度範囲が狭く、例えば温度範囲を±1〜2℃に制御する必要がある。
【0004】
【非特許文献1】T.Hasegawa et.al.“HTS Conductors for Magnets”,MT−17,Sep.2001,Geneva.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の厳しい温度管理は、線材の長尺化に伴い電気炉が大型化するに従って、その困難さが著しく増大する。これに加えて、長尺の線材の重量を高温中で支えるためには、大型の線材支持具が必要となり、耐熱性の観点からこの線材支持具は耐熱ステンレス鋼、セラミックス成型体等により形成されている。
【0006】
これらの線材支持具は熱容量が大きいため、例えば、この線材支持具を円筒状に形成し、この外周に長尺の酸化物超電導体を構成する元素を含む線材をソレノイド状に巻回して熱処理を施すと、線材の熱挙動は線材支持具の熱挙動や熱容量に大きく影響され、熱処理すべき線材の温度制御が困難になり所望の熱処理パターンを得ることが困難になるという問題があり、特に、冷却条件を厳密に制御しなければならないBi系(2212)酸化物超電導線材の製造においては、特性の優れた超電導線材を得ることは極めて困難となる。
【0007】
また、線材支持具として耐熱ステンレス鋼を用いた場合には、線材支持具上に巻回した線材との熱膨張率の差により、熱処理時に線材に歪が加わり超電導特性が劣化するという問題がある上、線材支持具を構成する元素の線材への拡散により超電導特性が劣化するという問題がある。
【0008】
本発明は、以上の問題を解決するためになされたもので、線材支持具と長尺の酸化物超電導体を構成する元素を含む線材との間に熱絶縁層を設けて線材支持具からの熱流入を防止することにより、所定の熱処理パターンで精密な熱処理制御を可能にするとともに、線材支持具からの線材支持具を構成する元素の線材への拡散を防止し、さらに、熱処理時に線材に加わる歪による劣化を防止して、超電導特性の優れた長尺の酸化物超電導線材を製造することができる酸化物超電導線材の製造方法及びその製造用支持具を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成するために、本発明による酸化物超電導線材の製造方法は、
長尺の酸化物超電導体を構成する元素を所定のモル比で含む原料粉末を収容した線材を巻回して線材支持具上に載置した後、熱処理を施して酸化物超電導線材を製造する方法において、線材支持具と線材との間に熱絶縁層を設けて熱処理を施すことを特徴としている。
【0010】
また、本発明による他の酸化物超電導線材の製造方法は、線材支持具上に長尺の酸化物超電導体を構成する元素を所定のモル比で含む原料粉末を収容した線材をソレノイド状に巻回した後、熱処理を施して酸化物超電導線材を製造する方法において、線材支持具とソレノイド状に巻回した長尺の線材との間に熱絶縁層を設けて熱処理を施すことを特徴としている。
【0011】
さらに、本発明による酸化物超電導線材の製造用支持具は、耐熱性金属材料又はセラミックスからなる円筒状の線材支持具表面に、複数のセラミックスからなる棒状部材を線材支持具の軸方向に平行に所定の間隔を置いて配置したことを特徴としている。
【0012】
本発明における酸化物超電導体を構成する元素を所定のモル比で含む原料粉末を収容した線材としては、銀シース法により製造した単芯線、多芯線又はこれらの複数本を集合又は撚合せた集合導体を挙げることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上述べたように、本発明による酸化物超電導線材の製造方法によれば、線材支持具と長尺の線材との間に熱絶縁層を設けたことにより、線材支持具からの熱流入を防止して所定の熱処理パターンで精密な熱処理制御を可能にするとともに、線材支持具からの線材支持具を構成する元素の線材への拡散を防止し、さらに、熱処理時に線材に加わる歪による劣化を防止して、超電導特性の優れた長尺の酸化物超電導線材を製造することができる利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法の一実施形態においては、図3に示すように、線材支持具10の上に線材重量に耐える複数本の支柱11を立て、この上に網状の支持板12を置いて、この上にパンケーキ状に巻回した長尺の酸化物超電導体を構成する元素を含む線材13を載置した後、電気炉14内に配置して熱処理を施し酸化物超電導線材を製造する。この場合、上記の網状の支持板12により線材支持具10と線材13との間に形成される空気層によって熱絶縁層が形成される。
【0015】
また、本発明の他の酸化物超電導線材の製造方法においては、図1に示すように、線材支持具1とソレノイド状に巻回した長尺の線材4との間に熱絶縁層が設けられるが、この熱絶縁層は、線材支持具を構成する元素の前記線材への拡散を防止する機能も有し、熱絶縁と拡散防止機能を有する材料を線材支持具上に配設することもできるが、この熱絶縁層を空気絶縁層により形成することが好ましい。
【0016】
上記の空気絶縁層は、線材への拡散を防止する物質からなる部材2を線材支持具1とソレノイド状に巻回した長尺の線材4との間に間欠的に配置することにより形成することができる。この場合、耐熱性材料からなる円筒状の線材支持具1表面に、複数のセラミックスからなる棒状部材2を線材支持具の軸方向に平行に所定の間隔を置いて配置して、この棒状部材の外側に長尺の酸化物超電導体を構成する元素を含む線材をソレノイド状に巻回することが好ましい。
【0017】
線材支持具上に空気絶縁層を介してソレノイド状に巻回された冷間加工後の長尺の線材に、酸化物超電導体を生成させるための熱処理が施されるが、この熱処理は酸化物超電導体の合成温度で施され、Bi系(2212)酸化物超電導体の場合、酸素濃度50%以上の雰囲気中での加熱とそれに続く徐冷工程により施される。この加熱工程は、Bi系(2212)酸化物超電導体の融点以上で融点以上20℃未満の温度で施され、一方、徐冷工程は、0.1〜10℃/hの冷却速度の範囲で、少なくともBi系(2212)酸化物超電導体の凝固温度以下10℃まで施される。
【0018】
上記の線材支持具は、熱処理中の酸化性雰囲気及び温度でその形状及び機械的強度を保持することができるものであればよく、MgO、Al、Al−SiO系等のセラミックス材料あるいはステンレス鋼、ハステロイ、インコネル等の耐熱金属材料を用いることができ、一方、空気絶縁層を形成するための棒状部材はセラミックスにより形成することが好ましい。
【実施例】
【0019】
以下本発明の一実施例について図面を用いて説明する。
【0020】
実施例
外径φ18mm、内径φ15mmの純銀パイプ中に、BiSrCaCuの酸化物超電導体を構成する元素を所定のモル比で含む原料粉末を充填し、これに伸線加工を施して外径φ2mmまで成形した。この61本を束ねて同一サイズの純銀パイプ中に収容し、更に外径φ4.5mmまで伸線加工を施した。
【0021】
次いで、この6本を束ねてAg−Mg−Sb三元合金を用いて作製したパイプ中に収容し、これに伸線加工を施して成形し、φ1mmの線材を製造した。
【0022】
一方、図2に示すように、外径φ1m、長さ0.5m、厚さ5mmの耐熱ステンレス製のドラム1の外周に、Alからなる外径φ8mmのロッド2の10本を、ドラムの軸方向に平行に、かつ等間隔に配置して固定し、酸化物超電導線材の製造用支持具3を形成した。
【0023】
次いで、図1に示すように、この製造用支持具3上に上記の線材4の300mをソレノイド状に巻回して、電気炉5中に入れ熱処理を施した。熱処理条件は、酸素雰囲気中で900℃、冷却速度10℃/hとした。
【0024】
このようにして製造した酸化物超電導線材の臨界電流値(Ic)を4.2K、0Tで測定した結果、1050Aの値を示した。
【0025】
比較例
ドラムを、外径φ1m、長さ0.5m、厚さ5mmの耐熱ステンレス製あるいはAlで作製し、実施例と同様にしてこのドラム上に上記の線材の300mをソレノイド状に巻回して、電気炉中に入れ熱処理を施した。熱処理条件は、酸素雰囲気中で900℃、冷却速度10℃/hを目標とした。
【0026】
このようにして製造した酸化物超電導線材の臨界電流値(Ic)を4.2K、0Tで測定した結果、耐熱ステンレス製のドラムの場合には350A、Al製のドラムの場合には600Aの値を示した。
【0027】
以上の実施例及び比較例の結果から明らかなように、耐熱ステンレス製のドラムの外周にAlからなる複数本のロッドを、ドラムの軸方向に平行に、かつ等間隔に配置して固定し、この上に線材をソレノイド状に巻回して線材とドラムとの間に空気絶縁層を設けて熱処理を施すことにより、高い臨界電流値を有する酸化物超電導線材を製造することができる。
【0028】
これに対して、耐熱ステンレス製からなるドラム上に直接線材をソレノイド状に巻回して熱処理を施した場合には、ドラムの構成元素が拡散して超電導特性が低下し、一方、Alで作製したドラム上に直接線材をソレノイド状に巻回して熱処理を施した場合には、ドラムの構成元素の拡散は防止し得るものの、ドラムの熱容量が大きいために温度上昇が遅く、ドラムからの熱流入が冷却開始後も続き冷却速度を所定の範囲内に制御できず、高い臨界電流値を有する酸化物超電導線材を製造することができない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、所定の熱処理パターンで正確な熱処理制御を可能とし、特性の優れた酸化物超電導線材の製造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明による酸化物超電導線材の製造方法の一実施例を示す概略図である。
【図2】本発明による酸化物超電導線材の製造用支持具の一実施例を示す概略図である。
【図3】本発明による他の酸化物超電導線材の製造方法の一実施例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0031】
1 線材支持具(耐熱ステンレス製のドラム)
2 棒状部材(Alロッド)
3 酸化物超電導線材の製造用支持具
4、13 線材
5、14 電気炉
10 線材支持具
11 支柱
12 網状の支持板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の酸化物超電導体を構成する元素を所定のモル比で含む原料粉末を収容した線材を巻回して線材支持具上に載置した後、熱処理を施して酸化物超電導線材を製造する方法において、前記線材支持具と前記線材との間に熱絶縁層を設けて熱処理を施すことを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項2】
線材支持具上に長尺の酸化物超電導体を構成する元素を所定のモル比で含む原料粉末を収容した線材をソレノイド状に巻回した後、熱処理を施して酸化物超電導線材を製造する方法において、前記線材支持具とソレノイド状に巻回した長尺の前記線材との間に熱絶縁層を設けて熱処理を施すことを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項3】
熱絶縁層は、前記線材支持具を構成する元素の前記線材への拡散を防止する機能を有することを特徴とする請求項1又は2記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項4】
熱絶縁層は、空気絶縁層からなることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項5】
熱絶縁層は、前記線材支持具とソレノイド状に巻回した長尺の前記線材との間に間欠的に配置され、前記線材への拡散を防止する物質からなる部材により形成される空気絶縁層からなることを特徴とする請求項2又は3記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項6】
耐熱性材料からなる円筒状の線材支持具表面に、複数のセラミックスからなる棒状部材を前記線材支持具の軸方向に平行に所定の間隔を置いて配置し、前記棒状部材の外側に長尺の酸化物超電導体を構成する元素を所定のモル比で含む原料粉末を収容した線材をソレノイド状に巻回した後、熱処理を施すことを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項7】
線材支持具は耐熱金属材料又はセラミックスからなることを特徴とする請求項6記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項8】
耐熱性金属材料又はセラミックスからなる円筒状の線材支持具の表面に、複数のセラミックスからなる棒状部材を前記線材支持具の軸方向に平行に所定の間隔を置いて配置したことを特徴とする酸化物超電導線材の製造用支持具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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