説明

酸化物超電導線材の製造方法

【課題】磁場印加環境下において、安定した高い超電導特性を確保できる酸化物超電導線材を製造すること。
【解決手段】基板上に形成された中間層上にフッ素を含む超電導原料溶液を塗布する塗布工程Aの後、仮焼成熱処理工程Bを施す。超電導原料溶液は、RE(REは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd及びHoから選択された少なくとも1種以上の元素を示す)、Ba及びCuを含む混合溶液に、磁束ピンニング点を形成するZr、Sn、Ce、Ti、Hf、Nbのうち少なくとも一つの添加元素が含まれ、且つ、前記Baのモル比をy<2の範囲内とする溶液である。仮焼成熱処理工程Bと、超電導層生成のための本焼成熱処理工程Dとの間に、本焼成熱処理工程Dにおける本焼成熱処理温度より低い温度で中間焼成熱処理工程Cを施して、磁束ピンニング点を含むREBaCu系の酸化物超電導線材を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導マグネット、超電導ケーブル、限流器、発電機、モータ、変圧器等の超電導応用機器に有用な酸化物超電導線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物超電導体は、従来のNbSnやNbAl等の金属系超電導体と比較して臨界温度(Tc)が高く、送電ケーブル、変圧器、モータ等の超電導応用機器を液体窒素温度で運用できる。このため、その線材化の研究が精力的に行われている。
【0003】
酸化物超電導体は、印加磁場の増加に伴い、酸化物超電導体内に侵入する量子化磁束の密度が増加し、それらが運動して超電導状態が壊れることにより超電導特性(臨界電流密度(Jc[MA/cm])・臨界電流値(Ic[A/cm]))が低下する。また、酸化物超電導体は、結晶構造に起因して、a軸方向に磁場を加えた際のJc・Icよりも、c軸方向に磁場印加時のJc・Icが低いという特性を有する。
【0004】
これに対して、例えば、フッ素を含む有機酸塩(TFA塩:トリフルオロ酢酸塩)を出発原料とした溶液にて成膜する方法(TFA−MOD法)により製造したテープ状RE系酸化物超電導線材が知られている。この酸化物超電導線材の製造では、成膜する溶液の組成・材料を制御することにより、酸化物超電導体の粒界特性及び結晶性が改善され、自己磁場、即ち、77K、0T(テスラ)におけるJcが向上することが確認されている。
【0005】
しかしながら、このように製造された酸化物超電導線材では、77K、1TにおけるJcは、磁場印加角度依存性の影響を受け、Jc,minは0.19MA/cmと低くなる。このため、印加磁場下で使用する機器に利用するためには、酸化物超電導体内に磁束ピンニング点を導入する必要がある。
【0006】
そこで、酸化物超電導体内における量子化磁束の移動を妨げるために、あらゆる磁場方向にも有効な等方的な形状のナノサイズの磁束ピンニング点を酸化物超電導体内にナノメートル間隔に均一に導入した技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−164010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来の技術によって製造された磁束ピンニング点を超電導層に含む酸化物超電線材は、77K、1T程度の磁場においては、非常に優れた超電導特性を得ることができる。しかしながら、従来の技術により製造された酸化物超電導線材は、それ以上の強い磁場では、臨界電流値Ic[A/cm]の低下が著しく、所望の超電導特性を得ることができなかった。特に、長尺線材においては自己磁場中でIcが300A/cm以上あるものでも、より強い磁場である77K、1T越えの磁場、例えば、3Tの磁場において、Icが15A/cm以上の超電導特性を得る事は困難であった。
【0009】
これは、従来の酸化物超電導体製造において、磁束ピンニング点のサイズをコントロールすることが出来ないため、粗大な粒子が発生しているということがわかった。
【0010】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、磁場印加環境下において、安定した高い超電導特性を確保できる酸化物超電導線材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法の一つの態様は、基板上に形成された中間層上にフッ素を含む超電導原料溶液を塗布した後、仮焼成熱処理を施し、次いで、超電導層生成のための本焼成熱処理を施すことにより、REBaCu系(REは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd及びHoから選択された少なくとも1種以上の元素を示す)の酸化物超電導線材の製造方法であって、前記超電導原料溶液は、RE、Ba及びCuを含む混合溶液に、磁束ピンニング点を形成するZr、Sn、Ce、Ti、Hf、Nbのうち少なくとも一つの添加元素が含まれ、且つ、前記Baのモル比をy<2の範囲内とする溶液であり、前記仮焼成熱処理によって前記添加元素を含む前記超電導層の前駆体を形成した後で、且つ、前記本焼成熱処理の前に、前記添加元素を含む前記前駆体に対して、前記本焼成熱処理における本焼成熱処理温度より低い温度で中間焼成熱処理を施し、この中間焼成熱処理の後で、前記本焼成熱処理は、前記添加元素を含む酸化物粒子が前記磁束ピンニング点として分散された超電導層を生成するようにした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、磁束ピンニング点となる非超電導酸化物粒子を昇温中に核発生させ、焼成中、特に昇温中の条件を上記手段とすることにより、磁束ピンニング点の極微細化かつ均一化がなされ、磁場印加環境下において、安定した高い超電導特性を確保できる酸化物超電導線材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】MOD法によるYBCO超電導層を備えるテープ状酸化物超電導線材(YBCO超電導線材)の製造方法の概略を示した模式図
【図2】本発明の実施の形態に係る酸化物超電導線材の製造方法で製造される酸化物超電導線材のテープの軸方向に垂直な断面を示す概略図
【図3】本発明の一実施の形態に係る酸化物超電導線材の製造方法において用いられる熱処理装置の要部構成を示す概略断面図
【図4】同熱処理装置の回転体を示す概略図
【図5】同熱処理装置における熱処理のプロファイルを示す図
【図6】実施例1で製造された酸化物超電導線材の磁場印加環境下における超電導特性を示す図
【図7】従来の本焼成処理のプロファイルを示す図
【図8】図6の熱処理を用いて製造された酸化物超電導線材の磁場印加環境下における超電導特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
本発明の実施の形態に係る酸化物超電導線材の製造方法は、テープ状酸化物超電導線材(YBCO超電導線材)の製造に関し、特に、MOD法によってYBCO超電導層を生成する際の焼成熱処理に関する。
【0016】
具体的には、YBCO超電導線材の製造において、フッ素を含む有機酸塩を出発原料とするMOD溶液を基板に塗布した後に、アモルファス前駆体とするための仮焼成熱処理と、結晶化熱処理を行う本焼成熱処理との間に、特定の中間焼成熱処理を行う。この特定の中間焼成熱処理が施され、且つ、超電導層に磁束ピンニングを含む超電導線材を製造する。
【0017】
まず、図1を用いて、本発明の実施の形態に係るMOD法によるYBCO超電導層を備えるテープ状酸化物超電導線材(YBCO超電導線材)の製造方法の概要について説明する。
【0018】
図1は、MOD法によるYBCO超電導層を備えるテープ状酸化物超電導線材(YBCO超電導線材)の製造方法の概略を示した模式図である。
【0019】
まず、テープ状の基板、例えば、Ni合金基板(基材)上に、テンプレートとしてスパッタリング法によりGdZr中間層22aを成膜し、さらに、その上に、IBAD法によりMgOから成る第2中間層22bを成膜する(図2参照)。次いで、第2中間層22bの上にスパッタリング法によりLaMnOから成る第3中間層22cを成膜し、更に、この上に、スパッタリング法或いはPLD方によりCeOからなる第4中間層22dを成膜して複合基板25が形成される(図2参照)。この複合基板25上に、塗布工程Aで超電導原料溶液を塗布して塗布膜を形成する。ここでは、超電導原料溶液は複合基板25上にディップコート法により塗布される。この超電導原料溶液は、Y―TFA塩(トリフルオロ酢酸塩)、Ba―TFA塩およびCu―ナフテン酸塩を有機溶媒中にY:Ba:Cu=1:1.5:3の比率で溶解した混合溶液であり、詳細については後述する。この混合溶液(超電導原料溶液)を塗布した後、仮焼成熱処理工程Bで仮焼成する。なお、塗布工程Aでは、上記のディップコート法以外にインクジェット法、スプレー法などを用いることも可能であるが、基本的には、連続して混合溶液を複合基板25上に塗布できるプロセスであればこの例によって制約されない。1回に塗布する膜厚は0.01μm〜2.0μm、好ましくは0.1μm〜1.0μmである。なお、複合基板25において、基材上に形成される中間層は、GdZr中間層上に、CeOからなる中簡層を成膜して形成したものでもよい。
【0020】
この塗布工程Aおよび仮焼成熱処理工程Bを所定回数繰り返すことによって、テープ状酸化物超電導線材20の複合基板25における中間層上で塗布膜をマルチコートする。これにより、複合基板25における中間層上に、YBCO超電導層(以下、「超電導層」とも称する)となるアモルファス超電導前駆体としての膜体(図1に示す「前駆体」)を形成する。
【0021】
従来のMOD法では、この超電導前駆体を形成した後、本焼成熱処理工程Dで、テープ状酸化物超電導線材20における超電導前駆体の膜体の結晶化熱処理、即ち、YBCO超電導体生成のための熱処理を、水蒸気ガス中において施す。そして、この本焼成熱処理工程の後、生成されたYBCO超電導体上にスパッタ法により安定化層(例えば、Ag安定化層)24を施し、後熱処理を施してYBCO超電導線材を製造する。
【0022】
これに対して、本実施の形態では、上記MOD法において、塗布工程Aにおいて、上記超電導原料溶液に、磁束ピンニング点を形成するためのZr等の添加元素が添加された混合溶液を塗布する。そして、仮焼成熱処理工程Bで仮焼成する。
【0023】
これら塗布工程Aおよび仮焼成熱処理工程Bを所定回数繰り返して(マルチコートして)、アモルファス前駆体を形成する。このアモルファス前駆体を形成する仮焼成熱処理工程Bと、結晶化熱処理を行う本焼成熱処理工程Dとの間では、中間焼成熱処理工程Cで、本焼成熱処理温度より低い温度で中間焼成を行う。
【0024】
この中間焼成熱処理工程Cが、YBCOの結晶化温度に至る前に仮焼での残存有機分あるいは剰余フッ化物を排出する。これにより、中間焼成熱処理工程C後の本焼成熱処理工程Dは、磁束ピンニング点が分散された酸化物超電導体を備え、磁場印加特性に優れたYBCO層を有する超電導線材(YBCO超電導線材)を製造する。
【0025】
<酸化物超電導線材>
図2は、本発明の実施の形態に係る酸化物超電導線材の製造方法で製造される酸化物超電導線材のテープの軸方向に垂直な断面を示す概略図である。
【0026】
酸化物超電導線材20は、テープ状であり、テープ状の金属基板21上に、中間層22、テープ状の酸化物超電導層(以下、「超電導層」と称する)23、安定化層24が順に積層されることによって形成される。ここでは、中間層22は、第1中間層22a,第2中間層22b、第3中間層22c、第4中間層22dを有する。
【0027】
テープ状の金属基板21は、例えば、ニッケル(Ni)、ニッケル合金、ステンレス鋼又は銀(Ag)である。金属基板21は、ここでは、結晶粒無配向・耐熱高強度金属基板であり、Ni−Cr系(具体的には、Ni−Cr−Fe−Mo系のハステロイ(登録商標)B、C、X等)、W−Mo系、Fe−Cr系(例えば、オーステナイト系ステンレス)、Fe−Ni系(例えば、非磁性の組成系のもの)等の材料に代表される立方晶系のビッカース硬度(Hv)=150以上の非磁性の合金である。金属基板21の厚さは、例えば、0.1mm以下である。
【0028】
第1中間層22aは、スパッタリング法によりテープ状の金属基板21上に、GdZr(GZO)、或いはイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)等を成膜した全軸配向の中間層である。なお、この第1中間層22aの厚みは、約1000nmである。この全軸配向の第1中間層22a上には、IBAD法によりMgOから成る第2中間層22bが成膜されている。この第2中間層22bの上には、スパッタリング法によりLaMnOから成る第3中間層22cが成膜されている。更に、この上に、ここでは、スパッタリング法(PLD方でもよい)によってCeOを蒸着して全軸配向のキャップ層としての第4中間層22dが成膜されている。なお、第4中間層22dの厚みは、約1000nmである。また、第4中間層22dをCeO膜にGdを添加したCe−Gd−O膜とした場合、超電導層23としてYBCO超電導層を成膜した際に良好な配向性を得るために、膜中のGd添加量を50at%以下にすることが好ましい。この第4中間層22dの上には超電導層23が成膜されている。この超電導線材20では、第1中間層22a、第2中簡層22c及び第4中間層22dにより中間層22が形成される。これら金属基板21上に中間層22が形成されて図1に示す複合基板25が構成される。なお、複合基板25は、2軸配向性を有するものでも配向性の無い金属基板21の上に2軸配向性を有する中間層22を成膜したものでもよい。また、中間層22は、1層から3層或いは5層以上で形成されてもよい。
【0029】
超電導層23上には、銀、金、白金等の貴金属、あるいはそれらの合金であり低抵抗の金属である安定化層24が設けられている。なお、安定化層24は、超電導層23の直上に形成することによって、超電導層23が金、銀などの貴金属、あるいはそれらの合金以外の材料と直接的な接触によって反応によって引き起こす性能低下を防止する。これに加えて、安定化層24は、事故電流や交流通電により発生した熱を分散して発熱による破壊・性能低下を防止する。安定化層24の厚みはここでは10〜30μmである。
【0030】
超電導層23は、全軸配向REBCO層、つまり、REBaCu系(REは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd及びHoから選択された1種以上の元素を示し、y≦2及びz=6.2〜7である。)の高温超電導薄膜の層である。ここでは、超電導層23は、イットリウム系酸化物超電導体(RE123)である。
【0031】
ここでは、超電導層23は、Baの定比組成を2より小さくした通常の低Ba組成法に用いられる原料溶液組成RE:Ba:Cu=1:1.5:3に、添加元素Mを加えて形勢された、有効な酸化物粒子である人工ピン粒子(磁束ピンニング点)23aを有する。このときの超電導原料溶液組成は、人工ピン粒子の組成(Zrの場合Ba:Zr=1:1)を考慮して設定される。
【0032】
磁束ピンニング点(人工ピンニング点)23aは、超電導層23中に均一に分散された、Zr、Sn、Ce、Ti、Hf、Nbのうち少なくとも一つの添加元素を含む粒径50nm以下、より好ましくは粒径10nm以下の化合物としての酸化物粒子である。なお、磁束ピンニング点23aの粒径は、磁束線サイズに近い方がより効果を発揮するため、上記範囲内であることが望ましい。
【0033】
また、酸化物粒子の数nは、超電導層23中に、1μm当たり1.0×10個≦n<1.0×10個含まれることが望ましい。粒子の数が多いと確かにより多くの磁束をピン止めする事ができるため効果的であるが、上記範囲を超えると超電導体の体積減少の効果が大きくなるため超電導電流を阻害し、結局は超電導特性を低下させることとなる。例えば、1μm当たり1.0×10個以上存在する場合には、酸化物粒子の粒径が5nmであったとしても体積分率で60%を超える事になり、超電導特性を低下させる。
【0034】
このような超電導層23を有するRE系の超電導線材20は、図1に示すように製造される。すなわち、図1の塗布工程Aにおいて、金属基板21上に、中間層22を介して超電導原料溶液を塗布した後、仮焼熱処理工程Bで仮焼成熱処理を施す。これを所定の膜厚となるまで繰り返して行う(マルチコート処理)。次いで、中間熱焼成処理、本焼熱処理を順に施すことによって、Zrピン(磁束ピンニング点23a)を含むREBaCu系超電導層23として形成される。そして本焼成熱処理の後、生成された超電導層(YBCO超電導体)23上に、スパッタ法により安定化層(例えば、Ag安定化層)24を施し、後熱処理を施してYBCO超電導線材20として製造される。
【0035】
中間層22上に塗布される超電導原料溶液は、RE(REは、Y、Nd、Sm、Eu、GdおよびHoから選択された1種以上の元素を示す)、Ba及びCuを含む有機金属錯体溶液(混合溶液)と、Baと親和性の大きいZr、Sn、Ce、Ti、Hf、Nbのうち少なくとも一つの添加元素を含む有機金属錯体溶液とからなる。
【0036】
これらの有機金属錯体溶液を用いることによって、超電導原料溶液中に含まれるBaのモル比yは、y<2の範囲内とするとともに、超電導体中にZr、Ce、Sn、Hf、Nb又はTiを含む粒径50nm以下、好ましくは粒径10nm以下の酸化物粒子を磁束ピンニング点23aとして分散させることにより製造することができる。
【0037】
なお、超電導原料溶液としては、下記(a)〜(b)の溶液を用いることが好ましい。
(a)REを含む有機金属錯体溶液:REを含むトリフルオロ酢酸塩、ナフテン酸塩、オクチル酸塩、レブリン酸塩、ネオデカン酸塩、酢酸塩のいずれか1種以上を含む溶液、特に、REを含むトリフルオロ酢酸塩溶液であることが望ましい。
(b)Baを含む有機金属錯体溶液:Baを含むトリフルオロ酢酸塩の溶液
(c)Cuを含む有機金属錯体溶液:Cuを含むナフテン酸塩、オクチル酸塩、レブリン酸塩、ネオデカン酸塩、酢酸塩のいずれか1種以上を含む溶液
(d)Baと親和性の大きい金属を含む有機金属錯体溶液:Zr、Sn、Ce、Ti、Hf、Nbから選択された少なくとも1種以上の金属を含むトリフルオロ酢酸塩、ナフテン酸塩、オクチル酸塩、レブリン酸塩、ネオデカン酸塩、酢酸塩のいずれか1種以上を含む溶液
【0038】
また、超電導層23は、第4中間層22d上において、水蒸気分圧3〜76Torr、酸素分圧300〜760Torrの雰囲気中で400〜500℃の温度範囲の仮焼熱処理されることが望ましい。また、超電導層23は、水蒸気分圧30〜600Torr、酸素分圧0.05〜1Torrの雰囲気中で、400から700℃の温度範囲で中間焼成熱処理されることが好ましい。更に、超電導層23は、水蒸気分圧30〜600Torr、酸素分圧0.05〜1Torrの雰囲気中で700から800℃の温度範囲で本焼成熱処理されることが好ましい。
【0039】
また、形成される超電導層23に磁束ピンニング点23aを形成するための添加元素(添加金属)Mは、Zr、Sn、Ce、Ti、Hf、Nbのうち少なくとも1つである。なお、添加元素Mの添加量は、30wt%以下である必要があり、特に超電導層全体に対して1wt%〜10wt%であることが望ましい。1wt%〜10wt%が望ましい理由としては、磁場中特性向上のためには、添加元素の添加量が多い方がより多くの磁束をピン止め出来るため効果的である。しかしながら、10wt%、即ち体積分率30vol%を超えると超電導体の体積減少の効果が大きくなると共に、粒子が単独で存在できる臨界を超えるため、ピン止め効果が薄れかつ超電導電流を阻害するからである。さらに、上記範囲を超えると、析出物が凝集して超電導電流を阻害するからである。なお、添加元素MをZr、Sn、Ce、Ti、Hfのうちの少なくとも一つである場合におけるBaとの比は、Ba:M=1:1である。
【0040】
添加元素MがZrである場合、磁束ピンニング点23aとして超電導体中に分散して形成される化合物はBaZrOである。添加元素MがTiである場合、磁束ピンニング点23aとして超電導層23中に分散して形成される化合物はBaTiOである。また、添加元素MがCeである場合、磁束ピンニング点23aとして超電導層23中に分散して形成される化合物はBaCeOであり、添加元素MがSnである場合、磁束ピンニング点23aとして超電導層23中に分散して形成される化合物はBaSnOである。また、添加元素MがHfである場合、磁束ピンニング点23aとして超電導層23中に分散して形成される化合物はBaHfOである。なお、磁束ピンニング点23aとなる各化合物は、超電導層23中に均一分散される。
【0041】
また、添加元素MがNbの場合におけるBaとの比は、Ba:M=1:0.5〜2であり、磁束ピンニング点として超電導体中に分散して形成される化合物は、YNbBa、BaNb等である。なお、各磁束ピンニング点23aとなる化合物は、超電導層23中に均一分散される。
【0042】
超電導層(超電導体)23中に磁束ピンニング点23aが形成された超電導線材において、超電導層23中に含まれるBaのモル比は、RE:Ba:Cu=1:1.5:3を満たす比になるようにする。このようにBaのモル比を、その標準モル比(RE:Ba:Cu=1:2:3を満たす比)より小さくすることによって、Baの偏析が抑制され、結晶粒界でのBaベースの不純物の析出が抑制される。これにより形成される超電導層23は、クラックの発生が抑制されるとともに、結晶粒間の電気的結合性が向上して通電電流によって定義されるJcが向上する。
【0043】
また、超電導層23中に人工的に導入される磁束ピンニング点23aとして分散するZr、Sn、Ce、Ti、又はHfのうち少なくとも一つを含む酸化物粒子の粒径は、50nm以下とされるが、特に、10nm以下であることが望ましい。
【0044】
なお、TFAを含む超電導原料溶液に添加される添加元素Mが、Zrである場合、TFAを含む超電導原料溶液中に、Baと親和性の高いZr含有ナフテン酸塩等を混合する手法を採用してもよい。これにより、超電導層23の組成(RE:Ba:Cu=1:1.5:3を維持しつつ、Baと結合してピンニング点(人工ピン粒子)23aとなるBaZrOを形成して超電導層23を形成する粒内に分散させる。このように形成された超電導層23は、粒界偏析によるJc低下することなく、粒界特性が改善される。
【0045】
さらに、超電導層23内に形成されたBaZrOが膜面方向だけでなく、膜厚方向にもナノサイズ、ナノ間隔に存在しこれらが磁束を有効にピンニングし、磁場印加角度に対するJcの異方性を著しく改善することが可能となる。また、BaZrOのサイズ、密度及び分散を制御するためには、Zr含有ナフテン酸塩等の導入量だけでなく、仮焼熱処理時及び本焼熱(結晶化熱)処理時の酸素分圧、水蒸気分圧、焼成温度の制御により可能となる。これらの最適化を行うことにより有効な磁束ピンニング点23aの導入が可能となる。
【0046】
また、酸化物超電導線材20では、Ba濃度を低減したRE系超電導層において、超電導層中に人工的にZr含有磁束ピンニング点23aを微細分散させることができる。このため、Jcの磁場印加角度依存性(Jc,min/Jc,max)が小さく、かつ、高磁場で高いJcを有する磁場特性を有するとともに、Jcの磁場印加角度依存性(Jc,min/Jc,max)も著しく向上できる。よって、自己磁場に加えて、磁場中でも、あらゆる磁場印加角度方向に対しても有効に磁束をピンニングして、等方的Jc特性が得られることで高い超電導特性(Jcの臨界電流密度Jc[MA/cm]および臨界電流Ic[A/cm−width])を確保できる。
【0047】
本実施の形態では、酸化物超電導線材20の製造において、中間焼成熱処理工程C及び本焼成熱処理工程Dは、図3及び図4に示す熱処理装置10を用いて行う。
【0048】
<熱処理装置の構成>
図3は、本発明の実施の形態に係る酸化物超電導線材の製造方法における熱処理装置の構造を示す概略断面図であり、図4はその内部に配置される円筒状の回転体を示す。この回転体は、石英ガラス、セラミックス、ハステロイまたはインコネル等の高温に耐え、酸化しないものにより形成する。
【0049】
熱処理装置10は、所謂、バッチ型の電気炉であり、雰囲気ガスが導入される炉体12とこの炉体12の外部に配置された電気ヒータ13とからなる熱処理炉14と、熱処理炉14の内部(詳細には炉体12の内部)に配置された円筒状の回転体15とを備える。
【0050】
この円筒状の回転体15は、この熱処理炉14の内部に水平方向の回転軸に対して回転可能に配置されている。この回転体15の外周に、被熱処理物である基板上に2軸配向性を有する中間層を形成した複合基板の上にY系(123)超電導層の前駆体を成膜したテープ状線材20(便宜上、「酸化物超電導線材」と同符号で説明する)が巻回されて超電導体生成の熱処理が施される。
【0051】
回転体15の円筒体15aには、テープ状線材20のテープ幅の1/2以下の径を有する多数の貫通孔15bが円筒体15aの全面に均一に形成されている。円筒体15aの一端側は蓋体15cにより密封され、他端側は円筒体内部のガスを熱処理炉14外へ排出するためのガス排出管17が蓋体に接続されている。
【0052】
また、円筒体15aの外表面に離間して複数(少なくとも4本)のガス供給管18が回転体15の回転軸に対して対称に配置されている。各ガス供給管18には、多数のガス噴出孔(図示せず)が円筒体15aの表面に向かって雰囲気ガスを噴出するように形成されている。ガス供給管18の長さは、円筒体15aの高さよりも長くすることが好ましい。ガス噴出孔の径は、ガス圧およびガス流量が均一になるように設計されている。ガス供給管18は、石英ガラス、セラミックス、ハステロイまたはインコネル等の高温に耐え、酸化しない材料により形成される。
【0053】
雰囲気ガスは、ガス供給管18に接続された接続管(図示せず)を通じて熱処理炉14外に配置された雰囲気ガス供給装置(図示せず)からガス供給管18に送給される。
【0054】
この熱処理装置10は、熱処理炉14の内部を減圧雰囲気に保つことができるように構成されている。なお、雰囲気ガス供給装置は、不活性ガス、酸素ガスおよび水蒸気を供給するガス系統に接続され、熱処理のパターンに合わせてこれらの雰囲気ガスを変化させる機構を備える。
【0055】
上記の熱処理装置10において、テープ状線材20が巻回された円筒状の回転体15が所定の回転速度で駆動機構(図示せず)により回転される。これとともに、電気ヒータ13によって加熱雰囲気に保持された熱処理炉14の内部に、ガス供給管18の多数のガス噴出孔から雰囲気ガスが円筒体表面に向かって噴出される。一方、この雰囲気ガスは、円筒体15aの多数の貫通孔15bから円筒体15a内部に吸入され、円筒体15aの他端側に接続されたガス排出管17を経由して熱処理炉14外へ排出される。
【0056】
このように構成された熱処理装置10では、超電導原料溶液が塗布される(図1の塗布工程A)と、仮焼成熱処理Bとによって中間層上に添加元素を含む前駆体が形成されたテープ状線材20に対して、中間焼成熱処理工程Cと、本焼成熱処理工程Dとを行う。
【0057】
熱処理装置10は、中間焼成熱処理工程Cでは、テープ状線材20において、添加元素(例えば、Zr)を含む前駆体に対して、本焼成熱処理工程Dにおける本焼成熱処理温度より低い温度を所定時間保持して焼成を行う。
【0058】
ここでは、熱処理装置10は、中間焼成熱処理(図1の中間焼成熱処理工程C)として、図5に示すように、本焼成熱処理温度よりも低い温度で中間焼成熱処理温度まで加熱し、この温度を定温として所定時間維持する。ここで、中間焼成熱処理工程Cにおける中間焼成熱処理温度は、400℃から700℃が好ましい。
【0059】
上記温度範囲外であると中間焼成熱処理後の前駆体に未反応化合物が残存してしまい、所望の特性が得られない。
【0060】
また、中間焼成熱処理工程Cにおいて、中間焼成熱処理温度を維持する所定時間は、2時間以上5時間以下が好ましい。
【0061】
また、中間焼成熱処理工程Cにおいて、熱処理装置10は、炉体12内に、中間焼成熱処理で保持する中間焼成熱処理温度よりも低い温度から水蒸気ガスを導入することで、テープ状線材20の前駆体に対して、水蒸気ガス雰囲気中で中間焼成熱処理を施すことが好ましい。
【0062】
このように、炉体12内に、中間焼成熱処理工程Cで保持する中間焼成熱処理温度よりも低い温度から水蒸気ガスを導入することによって、炉体12内において中間焼成熱処理温度時点における水蒸気ガスの量を十分に確保できる。これにより、超電導の前駆体に対して、効果的な中間焼成熱処理を施すことができる。
【0063】
熱処理装置10は、中間焼成熱処理工程Cに連続して本焼成熱処理工程Dを施すことが好ましい。すなわち、熱処理装置10は、定温維持された中間焼成熱処理温度から続けて本焼成熱処理温度まで加熱して所定時間定温維持することで本焼成熱処理を施す(図5参照)。中間焼成熱処理と本焼成熱処理とを連続して施すことで中間焼成熱処理後に温度を下げることによる熱膨張および熱収縮の繰り返しを省くことができる。これにより、熱収縮による残留応力を少しでも軽減することができるため、超電導特性の向上を図ることができる。また、磁束ピンニング点が含まれた超電導原料溶液は、特に熱収縮による残留応力が大きいため、中間焼成熱処理工程Cに連続して本焼成熱処理工程Dを施すことが好ましい。さらに、仮焼成熱処理と本焼成熱処理との間で、温度を下げる作業が不要となり、酸化物超電導線材の生産効率を向上させることができる。
【0064】
また、前駆体に対して、中間焼成熱処理工程Cと本焼成熱処理工程Dとをバッチ式の熱処理装置10で施すため、密閉された炉体12内で効果的に焼成を行うことができる。これにより、酸化物超電導線材、詳細には、超電導特性の優れた超電導層を有する酸化物超電導線材を安定して製造できる。さらに、熱処理装置10は、バッチ方式で構成されているため、reel-to-reel方式の焼成を行う場合と比較して、炉内の雰囲気をコントロールし易いだけでなく、温度・圧力などの制御が容易であるため、安定した超電導層を形成でき、かつ、短時間で酸化物超電導線材を製造できる。
【実施例】
【0065】
上記熱処理装置10を用いた本実施の形態の酸化物超電導線材の製造方法によって、基板上に、GdZrO層、MgO層、LaMnO層、CeO層及びZrを磁束ピンとして含有したY0.77Gd0.23Ba1.5+zCu超電導層(超電導層の膜厚1.5μm)が順に形成された酸化物超電導線材を製造した。
【0066】
<実施例1>
上記構成の酸化物超電導線材の超電導層を生成する際の熱処理の条件は、
1)仮焼成熱処理・・・温度勾配2℃/min、最高加熱温度(仮焼成熱処理温度)400℃、保持時間1時間
2)中間焼成熱処理・・・温度勾配3℃/min、最高加熱温度(中間焼成熱処理温度)600℃、保持時間5時間
3)本焼成熱処理・・・600℃で保持した状態から温度勾配3℃/min、最高加熱温度(本焼成熱処理温度)800℃、保持時間12時間
とした。
【0067】
これらの条件で製造された酸化物超電導線材の超電導特性(Icminを示すが以下では、文中、各表での表記含めてIcで示す)は、77K、自己磁場で、Ic400(A/cm)であり、77K、3Tにおいても、図6に示すように、Ic25(A/cm)であった。
【0068】
<比較例1>
実施例1と同様の構成の超電導線材を下記熱処理の条件で製造した。
1)仮焼成熱処理・・・温度勾配2℃/min、最高加熱温度400℃、保持時間1時間
2)冷却処理・・・常温まで放置
3)本焼成熱処理・・・温度勾配3℃/min、最高加熱温度800℃、保持時間12時間
すなわち、仮焼成熱処理において冷却した後、熱処理装置10において図7に示す焼成温度の条件で本焼成熱処理を行った。
【0069】
このように、これらの条件で得られた酸化物超電導線材の超電導特性は、77K、自己磁場で、Ic300(A/cm)であったが、77K、3Tでは、図8に示すようにIc10(A/cm)であった。
【0070】
このように中間焼成熱処理を施して、磁束ピンニングを含む酸化物超電導線材を製造する実施例1は、仮焼成熱処理の後で本焼成熱処理を施して製造した比較例1の酸化物超電導線材と比較して、磁場印加環境下における超電導特性が優れるものとなった。
【0071】
<実施例2及び3、比較例2及び3>
実施例2及び3、比較例2及び3による酸化物超電導線材の製造方法では、実施例1と同様の構成の酸化物超電導線材を、実施例1とは中間焼成熱処理の温度のみを変更した条件で酸化物超電導線材を製造した。
【0072】
【表1】

【0073】
表1に示すように、実施例2において中間焼熱処理温度400℃で製造した酸化物超電導線材の超電導特性は、77K、自己磁場で、Ic350(A/cm)であり、77K、3Tでは、Ic22(A/cm)であった。また、実施例3において中間焼熱処理温度700℃で製造した酸化物超電導線材の超電導特性は、77K、自己磁場で、Ic320(A/cm)であり、77K、3Tでは、Ic21(A/cm)であった。さらに、比較例2において中間焼熱処理温度350℃で製造した酸化物超電導線材の超電導特性は、77K、自己磁場で、Ic280(A/cm)であり、77K、3Tでは、Ic10(A/cm)であった。さらに、比較例3において中間焼熱処理温度750℃で製造した酸化物超電導線材の超電導特性は、77K、自己磁場で、Ic290(A/cm)であり、77K、3TではIc12(A/cm)であった。
【0074】
<実施例4及び5、比較例4及び5>
実施例4及び5、比較例4及び5による酸化物超電導線材の製造方法では、実施例1と同様の構成の酸化物超電導線材を、実施例1とは中間焼成熱処理時間のみ異なる条件で酸化物超電導線材を製造した。
【0075】
【表2】

【0076】
表2に示すように、実施例4において中間焼熱処理温度保持時間を2時間として製造した酸化物超電導線材の超電導特性は、77K、自己磁場で、Ic350(A/cm)であり、77K、3Tでは、Ic22(A/cm)であった。また、実施例5において中間焼熱処理温度保持時間を5時間として製造した酸化物超電導線材の超電導特性は、77K、自己磁場で、Ic300(A/cm)であり、77K、3Tでは、Ic20(A/cm)であった。さらに、比較例4において中間焼熱処理温度保持時間を1時間として製造した酸化物超電導線材の超電導特性は、77K、自己磁場で、Ic280(A/cm)であり、77K、3Tでは、Ic10(A/cm)であった。さらに、比較例5において中間焼熱処理温度保持時間を7時間として製造した酸化物超電導線材の超電導特性は、77K、自己磁場で、Ic290(A/cm)であり、77K、3TではIc12(A/cm)であった。
【0077】
<実施例6>
上記熱処理装置10を用いて、基板上に、GdZrO層、CeO層、Y0.77Gd0.23Ba1.5+zCuZrをピンとして含有した超電導層(超電導層の膜厚1.3μm)が順に形成された酸化物超電導線材を製造した。
【0078】
このときの熱処理の条件は、
1)仮焼熱処理・・・温度勾配2℃/min、最高加熱温度400℃、保持時間1時間
2)中間熱処理・・・温度勾配3℃/min、最高加熱温度600℃、保持時間5時間
3)冷却処理・・・常温まで放置
4)本焼成熱処理・・・温度勾配3℃/min、最高加熱温度800℃、保持時間12時間
とした。実施例6により製造でされた酸化物超電導線材の超電導特性は、77K、自己磁場で、Ic300(A/cm)であり、77K、3Tで、Ic20(A/cm)であった。
【0079】
これら各実施例及び各比較例で示すように、本実施の形態によれば、基板上に、中間層を介して、Zrをピンとして含有したY0.77Gd0.23Ba1.5+zCuの超電導層を有する酸化物超電導線材を、磁場印加環境下において、優れた臨界電流値Ic[A/cm]を有し、所望の超電導特性を備えた酸化物超電導線材として製造できる。
【0080】
本実施の形態における中間焼成熱処理では、400〜700℃の温度範囲で、中間熱焼成処理を施すことが好ましい。さらに、中間焼成熱処理における中間熱焼成温度は2時間以上5時間以下に保持されることがこの好ましく、さらには、この中間焼成熱処理の温度を保持したまま、続けて、本焼成熱処理が施されることが望ましい。このように中間焼成熱処理と本焼成熱処理とを連続して施すことによって、中間焼成熱処理後に温度を下げることによる熱膨張および熱収縮の繰り返しを省くことができる。これら熱膨張および熱収縮の繰り返しを省くことによって、超電導特性の向上を図ることができる。また、仮焼成熱処理と本焼成熱処理との間で、温度を下げる作業が不要となり、酸化物超電導線材の生産効率を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係る酸化物超電導線材の製造方法は、磁場印加環境下において、安定した高い超電導特性を確保できる効果を有し、磁場印加環境下に配置される酸化物超電導線材の製造方法として有用である。
【符号の説明】
【0082】
10 熱処理装置
12 炉体
13 電気ヒータ
14 熱処理炉
20 酸化物超電導線材
21 金属基板
22 中間層
23 超電導層
23a 磁束ピンニング点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された中間層上にフッ素を含む超電導原料溶液を塗布した後、仮焼成熱処理を施し、次いで、超電導層生成のための本焼成熱処理を施すことにより、REBaCu系(REは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd及びHoから選択された少なくとも1種以上の元素を示す)の酸化物超電導線材の製造方法であって、
前記超電導原料溶液は、RE、Ba及びCuを含む混合溶液に、磁束ピンニング点を形成するZr、Sn、Ce、Ti、Hf、Nbのうち少なくとも一つの添加元素が含まれ、且つ、前記Baのモル比をy<2の範囲内とする溶液であり、
前記仮焼成熱処理によって前記添加元素を含む前記超電導層の前駆体を形成した後で、且つ、前記本焼成熱処理の前に、前記添加元素を含む前記前駆体に対して、前記本焼成熱処理における本焼成熱処理温度より低い温度で中間焼成熱処理を施し、
この中間焼成熱処理の後で、前記本焼成熱処理は、前記添加元素を含む酸化物粒子が前記磁束ピンニング点として分散された超電導層を生成する、
ことを特徴とするテープ状RE系酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記中間焼成熱処理は、400〜700℃の温度範囲で焼成を施す、
ことを特徴とする請求項1に記載のテープ状RE系酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記中間焼成熱処理は、前記温度で2時間以上5時間以下に保持する、
ことを特徴とする請求項1又は2記載のテープ状RE系酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記中間焼成熱処理は、前記温度を2時間から5時間保持して焼成を施し、
前記本焼成熱処理は、前記中間焼成熱処理に連続して焼成を施す、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のテープ状RE系酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記中間焼成熱処理は、水蒸気ガス雰囲気中で焼成を施し、
前記水蒸気ガスは、前記中間焼成熱処理で保持する温度よりも低い温度から導入する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のテープ状RE系酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項6】
前記中間焼成熱処理と前記本焼成熱処理は、バッチ型の電気炉内で行う、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のテープ状RE系酸化物超電導線材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−181963(P2012−181963A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42951(P2011−42951)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「イットリウム系超電導電力機器技術開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(391004481)公益財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【Fターム(参考)】