酸化第二銅粉末およびその製造方法
【課題】銅メッキに好適に用いられる酸化第二銅粉末を提供する。
【解決手段】酸化第二銅粉末を、平均粒子径が15μm以上45μm以下、安息角が50°以下、CuO含有量が97.0重量%以上であって、易溶解性とする。
【解決手段】酸化第二銅粉末を、平均粒子径が15μm以上45μm以下、安息角が50°以下、CuO含有量が97.0重量%以上であって、易溶解性とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化第二銅粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅メッキ技術は、プリント基盤配線をはじめとして印刷ロール、電解箔、線材等多くのエレクトロニクス関連に利用されている。近年、この分野においては、メッキの高品質化、作業性等の優位性から、従来型のメッキ浴中で銅ボールをチタンバスケットに入れ硫酸に溶解して行うメッキプロセスに代わり、メッキ浴外に酸化第二銅の供給装置と溶解槽を設け、メッキ浴に供給、循環する新しいプロセスが急速に普及してきている。それに伴い、この新しいプロセスのメッキ液補充剤として好適な酸化第二銅粉末が求められている。
【0003】
従来の酸化第二銅粉末の製造方法としては、酸化第一銅粉末、銅粉などを500℃以上に加熱して酸化する方法が知られているが、この方法によって得られる酸化第二銅粉末は、一次粒子径が1μm以上となり、メッキ液への溶解性が低いため銅メッキ用補充剤としては好ましくない。また、一次粒子が1μm以下となる酸化第二銅粉末の製造方法としては、塩化第二銅,硫酸銅,硝酸銅などの銅塩の水溶液にNaOHを添加して、pHを10〜12に調整し加熱する方法が知られているが、この方法では、一次粒子径は小さくできるものの、二次粒子径の大きい流動性の良好な粉末を得ることはできない。
【0004】
一次粒子径が小さく、二次粒子径が大きい酸化第二銅粉末を得る方法としては、塩化第二銅,硫酸銅,硝酸銅などの水溶液と炭酸ナトリウム水溶液とを60℃〜80℃の温度で、pH8.0〜9.0に調整し反応させ、生成した塩基性炭酸銅を300℃以上で加熱し分解させる方法が知られている。この方法によれば、一次粒子径とともに二次粒子径を比較的簡単に制御でき、また比較的低温で熱分解できるため、銅メッキ補充用の酸化第二銅の製造方法として採用されている。
【0005】
関連する技術として、特許文献1には、易溶解性酸化銅の製造方法が開示されている。この製造方法によれば、塩基性炭酸銅を還元雰囲気とならない雰囲気下で250℃〜800℃、好ましくは350℃〜600℃で加熱、熱分解し、次いで水洗し、脱水、乾燥することにより、高純度の易溶解性酸化銅が得られることが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、塩基性炭酸銅粉あるいは直接湿式法により得た酸化銅及び水酸化第二銅を原料とした酸化銅からなるメッキ材料について種々開示されており、特に有機物の添加剤を含むメッキ液に対する溶解性が高い酸化銅粉の形態について、X線回折スペクトルによる強度比、半値幅比、比表面積等によって説明がなされている。
【特許文献1】特開2002−68743号公報
【特許文献2】特開2005−29892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、たとえば背景技術の項で前述した新しいメッキプロセスに用いる酸化第二銅に求められる品質としては、以下の(i)〜(iii)が挙げられる。
(i)粉末の流動性が良好であること、
(ii)飽和濃度に近い硫酸銅溶液に常温で容易に溶解すること、および
(iii)不純物が少なく、酸化第二銅の含有量が高く安定していること。
【0008】
この点、特許文献1には、前述のように、塩基性炭酸銅を350℃〜600℃で加熱、熱分解し酸化銅を得、次いで水洗し、乾燥することにより高純度の易溶解性酸化銅が得られることが開示されている。ところが、この方法によれば、焼成炉などの大掛りな設備が必要となり、また、実際には、加熱、熱分解工程における温度管理幅が狭く、高純度化と溶解性の両立した品質の製品を得ることが困難であった。
【0009】
また、特許文献2には、有機物の添加剤を含むメッキ液に対する溶解性が高い酸化銅の形態について種々説明されている。しかし、酸化銅の二次粒子の形状についてはまったく記載されていない。
そこで、二次粒子について本発明者が検討したところ、平均二次粒子径が10μmより小さくなると、その粉末の流動性は極端に悪くなり、実際のメッキプロセスにおける供給装置から溶解槽へ酸化第二銅の安定供給が行いがたく、また粉末の凝集が著しいため、メッキ液との濡れ性が悪く、結果的にメッキ液への溶解性が悪くなることが明らかになった。このため、同文献に記載されている条件を満たしているだけでは、銅メッキ用として好適な形態であるとは言い難い。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、銅メッキに好適に用いられる酸化第二銅を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、
平均粒子径が15μm以上45μm以下、安息角が50°以下であって、CuO含有量が97.0重量%以上である、易溶解性の酸化第二銅粉末が提供される。
【0012】
本発明においては、CuO含有量を97.0重量%以上、酸化第二銅粉末の平均粒子径を15μm以上45μm以下、安息角を50°以下の易溶解性とすることにより、前述の(i)〜(iii)の品質を満たし、銅メッキ用補充剤として用いる場合をはじめとする銅メッキプロセスに好適な構成とすることができる。
【0013】
本明細書において、特に断りのない場合、「平均粒子径」とは、粒度測定における平均粒子径(D50)のことである。
【0014】
また、本発明において、易溶解性とは、たとえば、CuSO4濃度が8.8重量%かつH2SO4濃度が16.2重量%である25℃の硫酸銅溶液2380gを攪拌しながら、20gの酸化銅を添加してから、目視にて溶解して完全に澄明になるまでに要する時間が60秒未満であることをいう。
【0015】
ここで、上記構成の酸化第二銅粉末は、従来の製法では安定した品質のものを得ることが困難であった。そこで、本発明者が検討したところ、原料として塩基性炭酸銅を用い、該塩基性炭酸銅をアルカリ処理することにより、本発明の酸化第二銅粉末を安定的に得ることができることが見出された。
【0016】
また、原料として特定の塩基性炭酸銅を選別して用いるとともに、選別した塩基性炭酸銅を特定の条件でアルカリ処理することにより、上記条件を満たす酸化第二銅粉末をより一層安定的に製造できる。具体的には、平均二次粒子径(以下においては、単に平均粒子径という。)が15μm以上50μm以下、かつ安息角が45°以下に調製された塩基性炭酸銅を出発原料とし、たとえばそれを水中に分散させた後、塩基性炭酸銅中の炭酸根(CO32-)に対して水酸化アルカリを含む水溶液を添加して60℃以上95℃以上の温度で30分以上120分以下アルカリ処理を施して前記塩基性炭酸銅を酸化第二銅に転換し、洗浄、分離した後、250℃以下の温度で乾燥する。このように、流動性の良好な特定の塩基性炭酸銅を用いて特定の条件でアルカリ処理することにより、銅メッキ用補充剤として好適な易溶解性かつ高流動性を有するCuO含有量が97.0重量%以上である酸化第二銅粉末を得ることができる。水酸化アルカリとして、具体的には、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)等が挙げられる。
【0017】
上記製造方法中で重要な工程であるアルカリ処理工程における、塩基性炭酸銅を添加して酸化第二銅を得る反応は、水酸化アルカリが水酸化ナトリウムである場合を例にとれば、下記式(1)のように進むと推察される。
Cu(OH)2・CuCO3+2NaOH→2CuO+Na2CO3+2H2O (1)
【0018】
上記式(1)の反応では、加熱することによって、脱水、脱炭酸が促進され、CuOの生成をより確実に進行させることができる。また同時に塩基性炭酸銅の粒子内部に包含されているNa、Cl等の不純物をより確実に液中に溶出させることができ、その後の洗浄、分離によって容易に除去されるため、高純度化が可能となる。
【0019】
さらに、本発明者らは、上記式(1)の反応を行うアルカリ処理工程において、特に、前記水酸化アルカリが水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであって、塩基性炭酸銅中の炭酸根(CO32-)に対する水酸化アルカリの添加量を1.75倍モル以上2.50倍モル以下の範囲とし、処理温度を60℃以上95℃以下とし、30分以上120分以下の時間処理することによって、塩基性炭酸銅の二次粒子の形状を維持しつつ、柱状あるいは板状の一次粒子からなる塩基性炭酸銅を、薄片状の一次微粒子からなる酸化第二銅にさらに安定的に転化できることを見出した。
【0020】
このアルカリ処理工程において、水酸化アルカリの添加量を塩基性炭酸銅中の炭酸根(CO32-)に対して1.75倍モル量以上とすることにより、脱水、脱炭酸をより一層充分に行うことができる。
また、水酸化アルカリの添加量を2.50倍モル量以下とすることにより、過剰の水酸化アルカリによる酸化第二銅中の銅分の溶出をさらに確実に抑制できる。また、酸化第二銅の表面粒子の一部が脱落し、微粒子の生成が多くなるなど、原料塩基性炭酸銅が持つ粒子形態を維持できなくなることをさらに抑制できるため、流動性の低下や溶解性の低下がより一層抑制される。
【0021】
また、処理温度については、処理温度を60℃以上とすることにより、脱水、脱炭酸をさらに充分に進行させることができる。また、脱水、脱炭酸に要する時間を短縮できる点でも効果的である。
【0022】
また、アルカリ処理時の塩基性炭酸銅スラリーの濃度は、アルカリ処理後に生成する炭酸塩の濃度が飽和濃度以下になるように設定することが好ましい。この観点で、実質的には、たとえば水酸化アルカリとしてNaOHを用いてアルカリ処理する場合には、CuO換算濃度で50g/L以上300g/L以下の範囲に設定することが好ましい。
【0023】
また、このアルカリ処理により、塩基性炭酸銅中の炭酸根(CO32-)は、Na2CO3あるいはK2CO3など炭酸アルカリ塩の水溶液として回収される。このため、回収した炭酸アルカリ塩の水溶液を原料となる塩基性炭酸銅製造時の炭酸原料として再利用できるため、背景技術の項で前述した特許文献1に記載の方法に比べて、CO2の大気放出が低減されたクローズドシステムを構成することができる。
【0024】
以上のように、本発明の酸化第二銅粉末を上記製造工程で製造することにより、より一層経済的かつ環境に優しい方法で、銅メッキプロセスに用いるのに好適な、易溶解性、高流動性で高純度の酸化第二銅粉末を製造し、提供することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、銅メッキプロセスに好適に用いられる酸化第二銅粉末を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の酸化第二銅粉末について、さらに具体的に説明する。
本発明の酸化第二銅粉末は、たとえば薄片状の微粒子が平均粒子径で15μm以上45μm以下に集合した球状の形態をとる酸化第二銅であり、該粉末の安息角が50°以下となるように調製されており、流動性に優れ、かつ飽和濃度に近い硫酸銅溶液への溶解性に優れている。また、この酸化第二銅粉末は、CuO含有量が97.0重量%以上と高く、高純度である。このように、本発明の酸化第二銅粉末は、高純度で易溶解性および流動性に優れ、銅メッキプロセスにおいて、たとえば銅メッキ用補充剤等として好適に用いることができる。
【0027】
なお、酸化第二銅粉末の平均粒子径は、たとえばレーザー回折散乱法(マイクロトラック(登録商標)法)により測定される。
酸化第二銅粉末の平均粒子径が小さすぎると、該粉末の安息角が50°を超えて流動性が低下してしまう。また、実際のメッキプロセスにおいて、供給装置から溶解槽に酸化第二銅を安定して供給できないなどの懸念がある。また該粉末のメッキ液との濡れ性も悪いため、メッキ液への溶解性が低下してしまう。
【0028】
一方、酸化第二銅粉末の平均粒子径が大きすぎると、安息角は50°以下となり粉末の流動性は高くなるものの、二次粒子径が大きくなるため、メッキ液への溶解性が低くなり、さらにCuO含有量も97.0重量%未満と低下してしまう。
【0029】
また、酸化第二銅粉末の安息角が小さいほど、粉末の流動性を向上させることができる。本発明においては、酸化第二銅粉末の安息角が50°以下であるため、流動性の面でも優れている。
【0030】
なお、安息角は、粉末を水平面上に落下させて堆積させた円錐の母線と水平面とのなす角をいい、たとえば、注入法により求められる。安息角は、さらに具体的には、排出孔径6mmの漏斗を通して酸化第二銅粉末を水平面上に堆積させて、堆積している粉末と水平面との角度を測定することにより求めることができる。漏斗の排出孔から水平面までの距離は、たとえば100mmとする。
なお、酸化第二銅粉末の安息角の下限に特に制限はないが、取り扱いの容易性の観点では、たとえば5°以上とすることができる。
【0031】
また、本発明の酸化第二銅粉末は、易溶解性の観点では、CuSO4濃度が8.8重量%かつH2SO4濃度が16.2重量%である25℃の硫酸銅溶液2380gを200rpmの回転数で攪拌しながら、20gの酸化銅粉末を添加してから、目視にて溶解して完全に澄明になるまでに要する時間が、たとえば60秒未満、好ましくは45秒以下である。
なお、酸化第二銅粉末の溶解速度の下限についても特に制限はないが、たとえば1秒以上とすることができる。
【0032】
次に、本発明の酸化第二銅粉末を得るための製造工程について詳細に説明する。
酸化第二銅粉末の製造方法に特に制限はないが、上記性質を満たす酸化第二銅粉末を、従来の方法で得ることは困難である。
そこで、本実施形態においては、出発原料として塩基性炭酸銅を用い、これをアルカリ処理することにより、酸化第二銅粉末を形成する。このとき、出発原料である塩基性炭酸銅として、特定の平均粒子径および安息角を有するもののみを選別して用い、さらに選別した原料に対応する条件を選択し、水酸化アルカリを用いたアルカリ処理を行う。こうすることにより、高純度で易溶解性、高流動性の酸化第二銅粉末を得ることがはじめて可能となる。なお、本発明の酸化第二銅粉末を作製する際の原料の選別および製造条件の選択については、後述する実施例において、従来の焼成法と比較してさらに詳細に説明する。
【0033】
すなわち、本発明の酸化第二銅の製造方法は、たとえば、以下の工程を含む。
平均粒子径が15μm以上50μm以下かつ安息角が45°以下に制御された塩基性炭酸銅を製造する工程、
得られた塩基性炭酸銅を水酸化アルカリの存在下、処理温度を60℃以上95℃以下、処理時間を30分以上120分以下としてアルカリ処理を施し、塩基性炭酸銅を酸化第二銅に転化させるアルカリ処理工程、
得られた酸化第二銅から塩類を分離除去するための洗浄工程、
洗浄後の酸化第二銅を脱水分離する工程、および
分離後の酸化第二銅を乾燥する工程から構成される。
さらに、上記洗浄工程の後、アルカリ炭酸塩を回収する工程を含んでもよい。
【0034】
以下、図1を適宜参照して、各工程をさらに詳細に説明する。図1は、本実施形態における酸化第二銅の製造工程の概略を示す図である。なお、図1に示した工程図は一例であり、本例に制限されるものではない。
【0035】
まず、原料である塩基性炭酸銅の粒径は平均粒子径がたとえば15μm以上50μm以下、好ましくは20μm以上50μm以下、より好ましくは25μm以上50μm以下であり、かつ安息角がたとえば45°以下、好ましくは40°以下に制御される。
【0036】
塩基性炭酸銅の平均粒子径についても、たとえばレーザー回折散乱法(マイクロトラック法)により測定される。
原料となる塩基性炭酸銅の平均粒子径が小さすぎると、安息角が45°を超えるととともに、得られた酸化第二銅粉末の安息角も50°を超えることとなり流動性が悪く、実際のメッキプロセスにおいて、供給装置から溶解槽に酸化第二銅を安定して供給できない懸念がある。また、塩基性炭酸銅粉末の平均粒子径が小さすぎると、凝集が著しくなり、メッキ液との濡れ性が低下したり、メッキ液への溶解性が低下する懸念もある。
【0037】
一方、平均粒子径が大きすぎる場合には、安息角は、たとえば25°程度となり、得られた酸化第二銅粉末の安息角は、たとえば30°となり、粉末の流動性は高いものの、メッキ液への溶解性は、二次粒子径が大きくなるため逆に低下する。さらにはアルカリ処理工程における酸化銅への転化反応が完全に進行せず、脱炭酸、脱水が不完全となるとともに、粒子内部の不純物の溶出も不充分となり、CuO含有量が低くなる懸念がある。
【0038】
以上のように、本発明の酸化第二銅を製造する上では、出発原料となる塩基性炭酸銅の形態は非常に重要であり、上述の条件を確実に満たしていれば、本発明の酸化第二銅の原料としてさらに好適に用いることができる。
【0039】
なお、出発原料である塩基性炭酸銅は、平均粒子径が15μm以上50μm以下であり、かつ安息角が45°以下に調製されたものであれば、市販されているものを用いても特段の問題はないが、アルカリ処理後に回収されるNa2CO3などの炭酸アルカリ塩の水溶液を有効利用し、より環境への影響の少ない製造工程を構築する観点では、たとえば以下の条件で水溶性銅塩溶液と炭酸原料とを反応させることにより、塩基性炭酸銅を製造することができる。
【0040】
このとき、原料として適した上述の平均粒子径、安息角が制御された塩基性炭酸銅の製造においては、原料となる水溶性銅塩溶液の銅濃度、反応pH、温度ならびに反応時間等を制御することにより、塩基性炭酸銅を目的の粒径に制御することが可能である。
【0041】
水溶性銅塩溶液としては、たとえば塩化銅、硫酸銅あるいは硝酸銅の粉末を水に溶解して用いる。また、プリント基板等電子回路基板のエッチング廃液である塩化銅廃液や硫酸銅廃液あるいは硝酸銅廃液などを使用してもよい。
また、炭酸原料としては、たとえば炭酸ナトリウム水溶液あるいは炭酸カリウム水溶液を用いる。
以下、水溶性銅塩溶液として塩化第二銅溶液を用い、炭酸原料として炭酸ナトリウム(炭酸ソーダ)を用いる場合を例に説明する。
【0042】
このとき、図1において、塩化第二銅溶液貯槽103に収容された原料溶液のCu濃度をたとえば50g/L以上110g/L以下に調製し、反応pHをたとえば7.5以上8.5以下とし、反応温度をたとえば55℃以上75℃以下に維持しながら、塩化第二銅溶液貯槽103に収容された塩化第二銅溶液および炭酸ソーダ溶解貯槽101に収容された炭酸ナトリウム水溶液をそれぞれ同時に連続的に反応槽107中に添加し、たとえば1.5時間以上16時間以下連続的に反応させる。なお、炭酸ソーダ溶解貯槽101と反応槽107との間にフィルター105を設け、フィルター105を介して反応槽107に炭酸ソーダを供給してもよい。また、反応槽107への炭酸ソーダおよび塩化第二銅の供給の制御に加えて、水109および蒸気111の供給を制御して、Cu濃度および反応温度を調整してもよい。
【0043】
反応槽107で所定の時間反応後、反応液を熟成槽113に移して所定の時間熟成させてもよい。その後、反応液を洗浄槽115に入れ、洗浄槽115に水117を加えて生成物を洗浄する。
以上の手順により、平均粒子径が15μm以上50μm以下に制御され、かつ該粉末の安息角が45°以下に制御された、本発明の酸化第二銅粉末の原料として好適な塩基性炭酸銅が調製できる。
【0044】
その後、図1において、得られた塩基性炭酸銅を用いて、引き続き、酸化第二銅の製造を行う。
そこで次に、本発明の易溶解性かつ高流動性を有する酸化第二銅を得る製造工程で重要な工程であるアルカリ処理を施し酸化第二銅に転化させる工程を説明する。以下、水酸化アルカリとして水酸化ナトリウムを用いる場合を例に説明するが、水酸化カリウム等を用いてもよい。
【0045】
上述の粒子径および安息角が制御された塩基性炭酸銅をCuO換算濃度で50g/L以上300g/Lに調製し、アルカリ加熱分解槽119中で攪拌しながら、原料となる塩基性炭酸銅分散スラリー中の塩基性炭酸銅中の炭酸根(CO32-)に対してNaOHが1.75倍モル以上2.50倍モル以下となるようにNaOH溶液125を添加して、60℃以上95℃以下の温度で30分以上120分以下アルカリ処理を施して塩基性炭酸銅を酸化第二銅に転化させる。なお、アルカリ加熱分解槽119への水121または蒸気123の供給を制御して、CuO換算濃度および反応温度を調整してもよい。
【0046】
この結果、アルカリ処理前の平均粒子径で15μm以上45μm以下に制御された塩基性炭酸銅の二次粒子形態を維持し、薄片状の微粒子が集合した球状の形態をとる易溶解性かつ高流動性を有した酸化第二銅粉末を得ることが可能となる。
【0047】
ここで、塩基性炭酸銅中の炭酸根(CO32-)に対する水酸化アルカリの添加量が少なすぎると、酸化第二銅への転化が完全には進行せず、CuO含有量の高い酸化第二銅粉末が得られない場合がある。
また、水酸化アルカリの添加量が多すぎると、酸化第二銅への転化は完全に進行するものの、過剰の水酸化アルカリによって酸化第二銅中の銅分が溶出したり、酸化第二銅粒子の一部が脱落し、微粒子の生成が多くなるなど、原料である塩基性炭酸銅のもつ二次粒子の形態を維持できなくなり、結果として、流動性の低下や溶解性の低下をもたらす懸念がある。さらには未反応の水酸化アルカリが多量に残り、後の洗浄工程に悪影響を与え、また炭酸アルカリ塩の回収再利用が難くなるなどの懸念がある。
【0048】
また、処理温度については、たとえば60℃以上95℃以下、好ましくは75℃以上95℃以下とする。処理温度が低すぎると、酸化第二銅への転化が進み難く、多大な時間を要することになる。なお、アルカリ処理の温度の上限に特に制限はないが、水の沸点以下の高温とする観点で、たとえば、95℃以下とすることができる。
【0049】
また、処理時間については、酸化第二銅への転化反応の効率、塩基性炭酸銅に内包している不純物の除去効果および生産性等を勘案し、上述の処理温度では、30分以上120分以下の範囲で行うことが好ましい。
【0050】
以上の酸化第二銅に転化させる工程に続き、洗浄、分離、乾燥の各工程を行う。これら単位操作は、一般的に使用される方法、設備を使用し行うことができる。
【0051】
具体的には、洗浄工程においてはイオン交換水を使用し、たとえば、デカンテーション法によるタンク洗浄、あるいは遠心分離機あるいはフィルタープレスによる固液分離とあわせて行う洗浄等により、排水の導電率が200μS/cm以下に達するまでこれらの操作を繰り返す。さらに具体的には、反応液を遠心分離機127中で遠心分離した後、固形分を洗浄槽129に移し、水131を添加して洗浄してもよい。この操作により、不純物となる塩類を除去し、高純度化を図ることができる。また、この際、蒸気等を利用して洗浄槽内の洗浄スラリーを40℃以上70℃以下に加温して洗浄操作を行うことにより、塩類がより容易に除去できる。
【0052】
次いで、脱水分離は、洗浄後の酸化第二銅スラリーをコンベンショナルな設備であるフィルタープレスや遠心分離機133等を使用して脱水することにより行う。
【0053】
最後の乾燥工程では、脱水分離工程で得られた酸化第二銅含水ケーキを、箱型乾燥機、連続式乾燥機等のコンベンショナルな装置(乾燥機135)を使用して、250℃以下の温度で乾燥処理し、乾燥減量が0.5%以下に制御する。ここで、乾燥温度が高すぎると、酸化第二銅の結晶化が進むことから、銅メッキ液への溶解性が低くなるため好ましくない。
以上の手順により、溶解性が高く、かつ流動性に優れた本発明の酸化第二銅粉末が得られる。
【0054】
また、前述の洗浄工程ないし分離工程において、前述したアルカリ処理工程にて副生される炭酸アルカリ塩、たとえば炭酸ナトリウムあるいは炭酸カリウムとして回収する工程を併設することにより、原料となる塩基性炭酸銅調製工程の原料炭酸塩としての再利用が可能となり、環境面へのより一層の貢献とともに製造コストのより一層の低減にも寄与する。図1には、遠心分離機127で分離された回収液を炭酸ソーダ溶解貯槽101に再度供給する例が示されている。
【0055】
背景技術の項で前述した特許文献1の方法においては、加熱、熱分解の際に大量のCO2を大気に放出する点で改善の余地があったのに対し、本実施形態の方法では、CO2の大気への放出がほとんどなく、また、副生される炭酸アルカリ塩を再利用することができるため、環境に与える影響が少ない。
【0056】
かくして、銅メッキ用補充剤等として好適な易溶解性かつ高流動性を有する高純度酸化第二銅粉末が、250℃を超える温度での熱処理を必要とせず、経済的かつ環境への影響に配慮した製造方法により得られる。得られた塩基性炭酸銅を出発原料とした易溶解性の酸化第二銅粉末は、不純物としてのCO32-、Cl―の陰イオンやNa+、Ca2+、Mg2+、等の陽イオンの含有量が少ない。
【0057】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の例によって制限されるものではない。
【0059】
(塩基性炭酸銅の調製)
はじめに、酸化第二銅の原料として用いる塩基性炭酸銅の調製例を示す。
【0060】
(塩基性炭酸銅No.A〜H)
6m3の反応槽にイオン交換水1m3を入れ、65℃に温度を維持しながら攪拌しつつ、Cu濃度として75g/Lに調製した塩化第二銅溶液とNa2CO3濃度として100g/Lに調製した炭酸ナトリウム溶液をpHが7.5から8.5を維持するように同時に添加し、反応時間を1.5時間から16時間の範囲で変化させて反応を行った。次いで反応後のスラリーは、イオン交換水を使用して、CuO換算濃度で200g/Lの濃度におけるスラリーの導電率が200μS/cm以下となるまでデカンテーション法による洗浄を繰り返し行い、粒子径、安息角の異なる8種類のアルカリ処理前のCuO換算濃度で200g/Lの塩基性炭酸銅スラリーを得た。
【0061】
このようにして得られたスラリーの一部を、遠心分離機を使用し脱水した後、箱型乾燥機を使用し、80℃で24時間乾燥を行った。得られた塩基性炭酸銅粉末の粒子径、安息角および分析値を、反応時間とともに表1に示す。
【0062】
なお、表1および以下の表における測定方法は以下の通りである。
平均粒子径:マイクロトラック粒度分析装置(日機装社製マイクロトラックX100)による
安息角測定:安息角測定器(蔵持科学器械製作所社製KRS−605)による
CuO濃度:酸化還元滴定法によりCuを分析してCuOに換算
CO2濃度:炭素・硫黄分析装置(堀場製作所社製EMIA−820W)によりCを分析してCO2に換算
Na濃度:原子吸光法による
Cl濃度:吸光光度法による
【0063】
【表1】
【0064】
(出発原料である塩基性炭酸銅の粒子径、安息角の影響)
(実施例1〜5および比較例1〜3)
表1に示す粒子径、安息角を有するNo.A〜Hの塩基性炭酸銅分散スラリーを用いて、スラリー中の塩基性炭酸銅に含まれる炭酸根(CO32-)に対して、2.0倍モル量のNaOHを水溶液として添加し、攪拌しながら85℃で1時間のアルカリ処理を行った。
【0065】
次いで、該スラリーの導電率が200μS/cm以下になるまでイオン交換水を使用してデカンテーション法による洗浄を行い、遠心分離機を使用し脱水した後、箱型乾燥機を使用し、150℃で12時間乾燥することで、実施例1〜5の酸化第二銅粉末および比較例1〜3の酸化第二銅粉末を得た。表2には、こうして得られた酸化第二銅粉末の平均粒子径、安息角、分析値および溶解性を示す。
【0066】
なお、表2および以下の表における測定方法または条件は、それぞれ以下の通りである。
水分測定:105℃×2時間
Ig−loss(灼熱減量):850℃×2時間
Ca濃度:ICP−AES法による
Mg濃度:ICP−AES法による
溶解性:2Lのパイレックス(登録商標)製ビーカーに、25℃の硫酸銅溶液(CuSO48.8%+f−H2SO416.2%)2380gを入れ、羽根部が幅80mm×高さ15mmであるテフロン(登録商標)製の攪拌羽根をビーカー底部から20mmの位置に設置し、スリーワンモーターを用いて200rpmの回転数で攪拌しながら酸化銅20gを添加してから、溶解して完全に澄明になるまでに要した時間を目視により測定
【0067】
【表2】
【0068】
表1および表2より、No.A〜Hの塩基性炭酸銅は、すべてアルカリ処理することによって脱水、脱炭酸が生じて酸化第二銅へ転化し、不純物であるNaおよびClも大幅に低減されることがわかる。
【0069】
そして、平均粒子径が15μmから50μmである表1記載のNo.C〜Gの塩基性炭酸銅を用いた実施例1〜5では、安息角が30°以上50°以下であり、高い流動性を示すとともに、溶解性の測定結果が30秒から40秒を示し、易溶解性かつ高流動性を有して、かつCuO含有量が97.0重量%以上である酸化第二銅粉末が得られた。
【0070】
一方、平均粒子径が15μm未満である表1記載のNo.AおよびNo.Bを用いた比較例1および2では、安息角が60°以上となり、流動性が低く、CuO含有量も97.0重量%未満である溶解性も低い酸化第二銅粉末しか得られなかった。
【0071】
また、平均粒子径が50μmより大きい表1記載のNo.Hの塩基性炭酸銅を用いた比較例3では、安息角は30°と流動性には優れていたものの、CuO含有量が97.0重量%未満である、溶解性も低い酸化第二銅粉末しか得られなかった。
【0072】
以上より、平均粒子径が15μm以上50μm以下、好ましくは20μm以上50μm以下、かつ安息角が45°以下、好ましくは40°以下に制御された、流動性の良好な塩基性炭酸銅を出発原料とすることが望ましいことがわかる。
【0073】
(アルカリ処理条件の影響について)
(実施例6〜13、比較例4〜8)
表1記載の塩基性炭酸銅No.Eを用いて、NaOHの添加量を塩基性炭酸銅に含まれる炭酸根(CO32-)に対して、0.75〜3.0倍モル量の範囲で変化させた。処理時間を120分としてアルカリ処理を行ったこと以外は(実施例1〜5および比較例1〜3)と同様な処理をおこない、実施例6〜9の酸化第二銅粉末および比較例4〜7の酸化第二銅粉末を得た。
【0074】
また、表1記載の塩基性炭酸銅No.Eを用いて、NaOHの添加量を塩基性炭酸銅に含まれる炭酸根(CO32-)に対して2.25倍モル量とし、処理時間を30分としてアルカリ処理を行ったこと以外は、(実施例1〜5および比較例1〜3)と同様な処理をして実施例10の酸化第二銅粉末を得た。
【0075】
また、表1記載の塩基性炭酸銅No.Eを用いて、処理温度45〜95℃の範囲で変化させて、処理時間を120分としたアルカリ処理以外は、(実施例1〜5および比較例1〜3)と同様な処理をおこない、実施例11〜13の酸化第二銅粉末および比較例8の酸化第二銅粉末を得た。
表3には、アルカリ処理条件と得られた酸化第二銅粉末の平均粒子径、安息角、分析値、溶解性を示す。
【0076】
【表3】
【0077】
また、図2には比較例5で得られた酸化第二銅粉末のX線回折パターンを、図3には実施例7で得られた酸化第二銅粉末のX線回折パターンを示す。図2および図3において、横軸は回折角度(°)を示し、縦軸はX線強度を示す。図4には原料塩基性炭酸銅Eの粒度分布を、図5には実施例7で得られた酸化第二銅粉末の粒度分布を示す。さらに、図6には原料塩基性炭酸銅Eの走査型電子顕微鏡(SEM)観察結果、図7には実施例7で得られた酸化第二銅粉末のSEM観察結果を、図8には比較例7で得られた酸化第二銅粉末のSEM観察結果を示す。
【0078】
表3の実施例6〜9および比較例4〜7のCuOの分析結果から、アルカリ処理時のNaOHの添加量が多くなるにつれて、酸化第二銅への転化がより進行しやすいことがわかる。とくに、塩基性炭酸銅中の炭酸根に対して1.75倍モル量以上として得られた酸化第二銅粉末のCuO含有量は97.0重量%以上であった。
【0079】
また、図2および図3のX線回折パターンからもわかるように、NaOHの添加量を1.00倍モル量とした比較例5で得られた酸化第二銅粉末には、原料の塩基性炭酸銅の回折ピークが残っており、酸化第二銅への転化が不充分である。
【0080】
それに対して、NaOHの添加量を2.00倍モル量とした実施例7で得られた酸化第二銅粉末には、酸化銅の回折ピークのみが観測されることから、酸化第二銅への転化が充分に進行していることがわかる。
【0081】
さらに、図4〜図7より、NaOHの添加量を2.00倍モル量とした実施例7で得た酸化第二銅粉末は原料塩基性炭酸銅の二次粒子形態を維持していることが観察される。それに対して、図8からわかるように、NaOHの添加量を3.00倍モル量とした比較例7で得られた酸化第二銅粉末は、二次粒子形態が崩れ、微粒子が多く存在している。
【0082】
次に、酸化第二銅粉末の流動性に関与する平均粒子径、安息角についてみれば、アルカリ添加量が増すにつれ、平均粒子径は小さくなる一方、安息角は高くなる傾向を示す。溶解性に関しては、アルカリ添加量が2.00倍モル量までは、80秒から30秒と溶解時間が急激に短くなる一方で、2.00倍モル量から3.00倍モル量へ添加量をさらに増加させた場合、逆に溶解時間が長くなり、溶解性が低くなった。このことから、易溶解性かつ高流動性かつCuO含有量が97.0重量%である酸化第二銅粉末を得るアルカリ添加量は、塩基性炭酸銅中の炭酸根に対して1.75倍モル量から2.50倍モル量とすることが好適であることがわかった。
【0083】
実施例11〜13および比較例8の結果は、アルカリ添加量の場合と同様の傾向を示し、処理温度が45℃である比較例8を除いては良好な溶解性を有する酸化第二銅粉末が得られており、処理温度としては、60°以上95℃以下が最適であることが判明した。
また、処理時間は、実施例6〜10からも明らかなように、30分以上120分以下の範囲内であれば、良好な溶解性を有す酸化第二銅粉末を得ることができる。
【0084】
以上の結果から、易溶解性かつ高流動性を有し、CuO含有量が97.0重量%である酸化第二銅を得るためのアルカリ処理の条件は、塩基性炭酸銅中の炭酸根に対する水酸化アルカリの添加量が1.75倍モル量以上2.50倍モル量以下、処理温度は60℃以上95℃以下、処理時間は30分以上120分以下である。
【0085】
(乾燥温度の影響について)
(実施例7、実施例14〜15、比較例9)
乾燥温度を200℃、250℃、300℃としたこと以外は実施例7と同様に処理することにより、実施例14、実施例15および比較例9の酸化第二銅粉末を得た。
【0086】
表4は、乾燥温度と得られた酸化第二銅の平均粒子径、安息角、分析値、溶解性の関係を示す。表4より、乾燥温度が250℃以下の場合、得られた酸化第二銅粉末は高い溶解性を示すが、乾燥温度が300℃の場合には、明らかに溶解性が低下している。すなわち、良好な溶解性が得られる乾燥温度は250℃以下が好適であることがわかった。
【0087】
【表4】
【0088】
(焼成法との比較)
(実施例7、比較例10〜12)
表1記載の塩基性炭酸銅No.Eをアルカリ処理することなしに、電気炉を使用して300℃および350℃で3時間の焼成を行い、次いでイオン交換水を使用しCuO濃度として150g/Lのスラリーとなし、導電率が200μS/cm以下になるまでイオン交換水を使用してデカンテーション法による洗浄を行い、塩類を除去した後、遠心分離機を使用して脱水し、150℃で12時間乾燥して、比較例10および11の酸化第二銅粉末を得た。
【0089】
また、平均粒子径がマイクロトラック測定で3.4μmである市販の酸化第一銅(Cu2O)を出発原料として、電気炉を使用して550℃で3時間焼成した後、アトマイザーで粉砕し、次いでイオン交換水を使用し、CuO濃度として150g/Lのスラリーとなし、導電率が200μS/cm以下になるまでイオン交換水を使用してデカンテーション法による洗浄を行い、塩類を除去した後、遠心分離機にて脱水し、150℃で12時間乾燥して、比較例12の酸化第二銅粉末を得た。
表5に、こうして得られた酸化第二銅粉末の平均粒子径、安息角、分析値および溶解性を示す。
【0090】
また、図9には、原料である塩基性炭酸銅Eの一次粒子の形状を、図10には実施例7で得られた酸化第二銅の一次粒子の形状を、図11には比較例11で得られた酸化第二銅の一次粒子の形状のSEM観察結果を示す。
【0091】
【表5】
【0092】
表5より、塩基性炭酸銅を直接焼成する方法により得られた比較例10および比較例11の酸化第二銅粉末は、いずれも実施例7の酸化第二銅粉末と比較して、溶解性の面で劣ることがわかる。また、加熱、熱分解工程における温度管理幅が狭く、高純度化と溶解性の両立した品質の製品を得ることが難しいことがわかる。
【0093】
また市販の酸化第一銅を焼成して酸化第二銅とする方法で得られた比較例12の酸化第二銅粉末は、流動性も悪く、溶解性も極端に悪くなることから、酸化第一銅を焼成して得られた酸化第二銅粉末は、銅メッキ用補充剤として適さないことがわかる。
【0094】
さらには、図9および図10より、実施例7で得られた酸化第二銅粉末の一次粒子が、原料塩基性炭酸銅粉末の柱状ないし板状の形状から、薄片状に変化した様子が観察される。
【0095】
それに対して、図11では、塩基性炭酸銅粉末Eを焼成処理して得た比較例11の酸化第二銅粉末の一次粒子が、粒状に変化している様子が観察される。このことから、アルカリ処理にともなうこの一次粒子の薄片状への形状の変化が溶解性の向上に大きく寄与しているものと推察される。
【0096】
(回収Na2CO3の再利用試験)
(実施例16〜19)
実施例3における洗浄工程にて回収したNa2CO3100g/Lの炭酸ナトリウム溶液と新たに溶解したNa2CO3100g/Lの炭酸ナトリウム溶液とを2:1の割合で混合し、平均細孔径0.7μmのフィルターで濾過することにより、Na2CO3100g/Lの炭酸ナトリウム溶液を得た。得られた炭酸ナトリウム溶液とCu濃度として75g/Lに調製した塩化銅溶液を表1の塩基性炭酸銅Eが得られる条件で反応、洗浄、スラリー濃度の調製をしたのち、実施例3と同様な条件でアルカリ処理を行い、生成したNa2CO3100g/L濃度の炭酸ナトリウム溶液を回収した。
この操作を5回繰り返し、その際に得られた塩基性炭酸銅の一部を80℃×12時間乾燥することで、実施例16〜19の塩基性炭酸銅を得た。
表6に、得られた塩基性炭酸銅の平均粒子径、安息角および分析値を示す。
【0097】
【表6】
【0098】
表6の結果より、アルカリ処理時に生成する炭酸ナトリウム溶液は、回収して実施例における酸化第二銅の原料として好適な塩基性炭酸銅を調製する際の炭酸源として再利用できることがわかった。これにより、コストダウンが図れるとともに、CO2の大気放出を防ぐクローズドシステムを構築できることになる。
【0099】
以上の結果より、本発明の平均粒子径が15μm以上45μm以下、安息角が50°以下かつCuO含有量が97.0重量%以上である易溶解性の酸化第二銅粉末は、たとえば、平均粒子径が15μm以上50μm以下かつ安息角が45°以下に粒径制御された塩基性炭酸銅を製造する工程、得られた塩基性炭酸銅を水酸化アルカリの存在下でアルカリ処理を施し、その際の、塩基性炭酸銅中の炭酸根(CO32-)に対する水酸化アルカリの添加量を1.75倍モル以上2.50倍モル以下、処理温度を60℃以上95℃以下、処理時間を30分以上120分以下として、塩基性炭酸銅を酸化第二銅に転化させる工程、得られた酸化第二銅を洗浄して塩類を分離除去する工程、洗浄後の酸化第二銅を脱水分離する工程および分離後の酸化第二銅を250℃以下の温度で乾燥する工程、ならびに前記洗浄工程からアルカリ炭酸塩を回収する工程を備える製造工程から容易に得られることがわかる。
また、実施例1〜15で得られた酸化第二銅粉末は、銅メッキプロセスにおける補充剤として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本実施形態における酸化第二銅の製造工程の概略を示す図である。
【図2】実施例における酸化第二銅粉末のX線回折パターンを示す図である。
【図3】実施例における酸化第二銅粉末のX線回折パターンを示す図である。
【図4】実施例における塩基性炭酸銅粉末の粒度分布を示す図である。
【図5】実施例における酸化第二銅粉末の粒度分布を示す図である。
【図6】実施例における塩基性炭酸銅粉末のSEM観察結果を示す図である。
【図7】実施例における酸化第二銅粉末のSEM観察結果を示す図である。
【図8】実施例における酸化第二銅粉末のSEM観察結果を示す図である。
【図9】実施例における塩基性炭酸銅粉末のSEM観察結果を示す図である。
【図10】実施例における酸化第二銅粉末のSEM観察結果を示す図である。
【図11】実施例における酸化第二銅粉末のSEM観察結果を示す図である。
【符号の説明】
【0101】
101 炭酸ソーダ溶解貯槽
103 塩化第二銅溶液貯槽
105 フィルター
107 反応槽
109 水
111 蒸気
113 熟成槽
115 洗浄槽
117 水
119 アルカリ加熱分解槽
121 水
123 蒸気
125 NaOH溶液
127 遠心分離機
129 洗浄槽
131 水
133 遠心分離器
135 乾燥機
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化第二銅粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅メッキ技術は、プリント基盤配線をはじめとして印刷ロール、電解箔、線材等多くのエレクトロニクス関連に利用されている。近年、この分野においては、メッキの高品質化、作業性等の優位性から、従来型のメッキ浴中で銅ボールをチタンバスケットに入れ硫酸に溶解して行うメッキプロセスに代わり、メッキ浴外に酸化第二銅の供給装置と溶解槽を設け、メッキ浴に供給、循環する新しいプロセスが急速に普及してきている。それに伴い、この新しいプロセスのメッキ液補充剤として好適な酸化第二銅粉末が求められている。
【0003】
従来の酸化第二銅粉末の製造方法としては、酸化第一銅粉末、銅粉などを500℃以上に加熱して酸化する方法が知られているが、この方法によって得られる酸化第二銅粉末は、一次粒子径が1μm以上となり、メッキ液への溶解性が低いため銅メッキ用補充剤としては好ましくない。また、一次粒子が1μm以下となる酸化第二銅粉末の製造方法としては、塩化第二銅,硫酸銅,硝酸銅などの銅塩の水溶液にNaOHを添加して、pHを10〜12に調整し加熱する方法が知られているが、この方法では、一次粒子径は小さくできるものの、二次粒子径の大きい流動性の良好な粉末を得ることはできない。
【0004】
一次粒子径が小さく、二次粒子径が大きい酸化第二銅粉末を得る方法としては、塩化第二銅,硫酸銅,硝酸銅などの水溶液と炭酸ナトリウム水溶液とを60℃〜80℃の温度で、pH8.0〜9.0に調整し反応させ、生成した塩基性炭酸銅を300℃以上で加熱し分解させる方法が知られている。この方法によれば、一次粒子径とともに二次粒子径を比較的簡単に制御でき、また比較的低温で熱分解できるため、銅メッキ補充用の酸化第二銅の製造方法として採用されている。
【0005】
関連する技術として、特許文献1には、易溶解性酸化銅の製造方法が開示されている。この製造方法によれば、塩基性炭酸銅を還元雰囲気とならない雰囲気下で250℃〜800℃、好ましくは350℃〜600℃で加熱、熱分解し、次いで水洗し、脱水、乾燥することにより、高純度の易溶解性酸化銅が得られることが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、塩基性炭酸銅粉あるいは直接湿式法により得た酸化銅及び水酸化第二銅を原料とした酸化銅からなるメッキ材料について種々開示されており、特に有機物の添加剤を含むメッキ液に対する溶解性が高い酸化銅粉の形態について、X線回折スペクトルによる強度比、半値幅比、比表面積等によって説明がなされている。
【特許文献1】特開2002−68743号公報
【特許文献2】特開2005−29892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、たとえば背景技術の項で前述した新しいメッキプロセスに用いる酸化第二銅に求められる品質としては、以下の(i)〜(iii)が挙げられる。
(i)粉末の流動性が良好であること、
(ii)飽和濃度に近い硫酸銅溶液に常温で容易に溶解すること、および
(iii)不純物が少なく、酸化第二銅の含有量が高く安定していること。
【0008】
この点、特許文献1には、前述のように、塩基性炭酸銅を350℃〜600℃で加熱、熱分解し酸化銅を得、次いで水洗し、乾燥することにより高純度の易溶解性酸化銅が得られることが開示されている。ところが、この方法によれば、焼成炉などの大掛りな設備が必要となり、また、実際には、加熱、熱分解工程における温度管理幅が狭く、高純度化と溶解性の両立した品質の製品を得ることが困難であった。
【0009】
また、特許文献2には、有機物の添加剤を含むメッキ液に対する溶解性が高い酸化銅の形態について種々説明されている。しかし、酸化銅の二次粒子の形状についてはまったく記載されていない。
そこで、二次粒子について本発明者が検討したところ、平均二次粒子径が10μmより小さくなると、その粉末の流動性は極端に悪くなり、実際のメッキプロセスにおける供給装置から溶解槽へ酸化第二銅の安定供給が行いがたく、また粉末の凝集が著しいため、メッキ液との濡れ性が悪く、結果的にメッキ液への溶解性が悪くなることが明らかになった。このため、同文献に記載されている条件を満たしているだけでは、銅メッキ用として好適な形態であるとは言い難い。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、銅メッキに好適に用いられる酸化第二銅を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、
平均粒子径が15μm以上45μm以下、安息角が50°以下であって、CuO含有量が97.0重量%以上である、易溶解性の酸化第二銅粉末が提供される。
【0012】
本発明においては、CuO含有量を97.0重量%以上、酸化第二銅粉末の平均粒子径を15μm以上45μm以下、安息角を50°以下の易溶解性とすることにより、前述の(i)〜(iii)の品質を満たし、銅メッキ用補充剤として用いる場合をはじめとする銅メッキプロセスに好適な構成とすることができる。
【0013】
本明細書において、特に断りのない場合、「平均粒子径」とは、粒度測定における平均粒子径(D50)のことである。
【0014】
また、本発明において、易溶解性とは、たとえば、CuSO4濃度が8.8重量%かつH2SO4濃度が16.2重量%である25℃の硫酸銅溶液2380gを攪拌しながら、20gの酸化銅を添加してから、目視にて溶解して完全に澄明になるまでに要する時間が60秒未満であることをいう。
【0015】
ここで、上記構成の酸化第二銅粉末は、従来の製法では安定した品質のものを得ることが困難であった。そこで、本発明者が検討したところ、原料として塩基性炭酸銅を用い、該塩基性炭酸銅をアルカリ処理することにより、本発明の酸化第二銅粉末を安定的に得ることができることが見出された。
【0016】
また、原料として特定の塩基性炭酸銅を選別して用いるとともに、選別した塩基性炭酸銅を特定の条件でアルカリ処理することにより、上記条件を満たす酸化第二銅粉末をより一層安定的に製造できる。具体的には、平均二次粒子径(以下においては、単に平均粒子径という。)が15μm以上50μm以下、かつ安息角が45°以下に調製された塩基性炭酸銅を出発原料とし、たとえばそれを水中に分散させた後、塩基性炭酸銅中の炭酸根(CO32-)に対して水酸化アルカリを含む水溶液を添加して60℃以上95℃以上の温度で30分以上120分以下アルカリ処理を施して前記塩基性炭酸銅を酸化第二銅に転換し、洗浄、分離した後、250℃以下の温度で乾燥する。このように、流動性の良好な特定の塩基性炭酸銅を用いて特定の条件でアルカリ処理することにより、銅メッキ用補充剤として好適な易溶解性かつ高流動性を有するCuO含有量が97.0重量%以上である酸化第二銅粉末を得ることができる。水酸化アルカリとして、具体的には、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)等が挙げられる。
【0017】
上記製造方法中で重要な工程であるアルカリ処理工程における、塩基性炭酸銅を添加して酸化第二銅を得る反応は、水酸化アルカリが水酸化ナトリウムである場合を例にとれば、下記式(1)のように進むと推察される。
Cu(OH)2・CuCO3+2NaOH→2CuO+Na2CO3+2H2O (1)
【0018】
上記式(1)の反応では、加熱することによって、脱水、脱炭酸が促進され、CuOの生成をより確実に進行させることができる。また同時に塩基性炭酸銅の粒子内部に包含されているNa、Cl等の不純物をより確実に液中に溶出させることができ、その後の洗浄、分離によって容易に除去されるため、高純度化が可能となる。
【0019】
さらに、本発明者らは、上記式(1)の反応を行うアルカリ処理工程において、特に、前記水酸化アルカリが水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであって、塩基性炭酸銅中の炭酸根(CO32-)に対する水酸化アルカリの添加量を1.75倍モル以上2.50倍モル以下の範囲とし、処理温度を60℃以上95℃以下とし、30分以上120分以下の時間処理することによって、塩基性炭酸銅の二次粒子の形状を維持しつつ、柱状あるいは板状の一次粒子からなる塩基性炭酸銅を、薄片状の一次微粒子からなる酸化第二銅にさらに安定的に転化できることを見出した。
【0020】
このアルカリ処理工程において、水酸化アルカリの添加量を塩基性炭酸銅中の炭酸根(CO32-)に対して1.75倍モル量以上とすることにより、脱水、脱炭酸をより一層充分に行うことができる。
また、水酸化アルカリの添加量を2.50倍モル量以下とすることにより、過剰の水酸化アルカリによる酸化第二銅中の銅分の溶出をさらに確実に抑制できる。また、酸化第二銅の表面粒子の一部が脱落し、微粒子の生成が多くなるなど、原料塩基性炭酸銅が持つ粒子形態を維持できなくなることをさらに抑制できるため、流動性の低下や溶解性の低下がより一層抑制される。
【0021】
また、処理温度については、処理温度を60℃以上とすることにより、脱水、脱炭酸をさらに充分に進行させることができる。また、脱水、脱炭酸に要する時間を短縮できる点でも効果的である。
【0022】
また、アルカリ処理時の塩基性炭酸銅スラリーの濃度は、アルカリ処理後に生成する炭酸塩の濃度が飽和濃度以下になるように設定することが好ましい。この観点で、実質的には、たとえば水酸化アルカリとしてNaOHを用いてアルカリ処理する場合には、CuO換算濃度で50g/L以上300g/L以下の範囲に設定することが好ましい。
【0023】
また、このアルカリ処理により、塩基性炭酸銅中の炭酸根(CO32-)は、Na2CO3あるいはK2CO3など炭酸アルカリ塩の水溶液として回収される。このため、回収した炭酸アルカリ塩の水溶液を原料となる塩基性炭酸銅製造時の炭酸原料として再利用できるため、背景技術の項で前述した特許文献1に記載の方法に比べて、CO2の大気放出が低減されたクローズドシステムを構成することができる。
【0024】
以上のように、本発明の酸化第二銅粉末を上記製造工程で製造することにより、より一層経済的かつ環境に優しい方法で、銅メッキプロセスに用いるのに好適な、易溶解性、高流動性で高純度の酸化第二銅粉末を製造し、提供することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、銅メッキプロセスに好適に用いられる酸化第二銅粉末を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の酸化第二銅粉末について、さらに具体的に説明する。
本発明の酸化第二銅粉末は、たとえば薄片状の微粒子が平均粒子径で15μm以上45μm以下に集合した球状の形態をとる酸化第二銅であり、該粉末の安息角が50°以下となるように調製されており、流動性に優れ、かつ飽和濃度に近い硫酸銅溶液への溶解性に優れている。また、この酸化第二銅粉末は、CuO含有量が97.0重量%以上と高く、高純度である。このように、本発明の酸化第二銅粉末は、高純度で易溶解性および流動性に優れ、銅メッキプロセスにおいて、たとえば銅メッキ用補充剤等として好適に用いることができる。
【0027】
なお、酸化第二銅粉末の平均粒子径は、たとえばレーザー回折散乱法(マイクロトラック(登録商標)法)により測定される。
酸化第二銅粉末の平均粒子径が小さすぎると、該粉末の安息角が50°を超えて流動性が低下してしまう。また、実際のメッキプロセスにおいて、供給装置から溶解槽に酸化第二銅を安定して供給できないなどの懸念がある。また該粉末のメッキ液との濡れ性も悪いため、メッキ液への溶解性が低下してしまう。
【0028】
一方、酸化第二銅粉末の平均粒子径が大きすぎると、安息角は50°以下となり粉末の流動性は高くなるものの、二次粒子径が大きくなるため、メッキ液への溶解性が低くなり、さらにCuO含有量も97.0重量%未満と低下してしまう。
【0029】
また、酸化第二銅粉末の安息角が小さいほど、粉末の流動性を向上させることができる。本発明においては、酸化第二銅粉末の安息角が50°以下であるため、流動性の面でも優れている。
【0030】
なお、安息角は、粉末を水平面上に落下させて堆積させた円錐の母線と水平面とのなす角をいい、たとえば、注入法により求められる。安息角は、さらに具体的には、排出孔径6mmの漏斗を通して酸化第二銅粉末を水平面上に堆積させて、堆積している粉末と水平面との角度を測定することにより求めることができる。漏斗の排出孔から水平面までの距離は、たとえば100mmとする。
なお、酸化第二銅粉末の安息角の下限に特に制限はないが、取り扱いの容易性の観点では、たとえば5°以上とすることができる。
【0031】
また、本発明の酸化第二銅粉末は、易溶解性の観点では、CuSO4濃度が8.8重量%かつH2SO4濃度が16.2重量%である25℃の硫酸銅溶液2380gを200rpmの回転数で攪拌しながら、20gの酸化銅粉末を添加してから、目視にて溶解して完全に澄明になるまでに要する時間が、たとえば60秒未満、好ましくは45秒以下である。
なお、酸化第二銅粉末の溶解速度の下限についても特に制限はないが、たとえば1秒以上とすることができる。
【0032】
次に、本発明の酸化第二銅粉末を得るための製造工程について詳細に説明する。
酸化第二銅粉末の製造方法に特に制限はないが、上記性質を満たす酸化第二銅粉末を、従来の方法で得ることは困難である。
そこで、本実施形態においては、出発原料として塩基性炭酸銅を用い、これをアルカリ処理することにより、酸化第二銅粉末を形成する。このとき、出発原料である塩基性炭酸銅として、特定の平均粒子径および安息角を有するもののみを選別して用い、さらに選別した原料に対応する条件を選択し、水酸化アルカリを用いたアルカリ処理を行う。こうすることにより、高純度で易溶解性、高流動性の酸化第二銅粉末を得ることがはじめて可能となる。なお、本発明の酸化第二銅粉末を作製する際の原料の選別および製造条件の選択については、後述する実施例において、従来の焼成法と比較してさらに詳細に説明する。
【0033】
すなわち、本発明の酸化第二銅の製造方法は、たとえば、以下の工程を含む。
平均粒子径が15μm以上50μm以下かつ安息角が45°以下に制御された塩基性炭酸銅を製造する工程、
得られた塩基性炭酸銅を水酸化アルカリの存在下、処理温度を60℃以上95℃以下、処理時間を30分以上120分以下としてアルカリ処理を施し、塩基性炭酸銅を酸化第二銅に転化させるアルカリ処理工程、
得られた酸化第二銅から塩類を分離除去するための洗浄工程、
洗浄後の酸化第二銅を脱水分離する工程、および
分離後の酸化第二銅を乾燥する工程から構成される。
さらに、上記洗浄工程の後、アルカリ炭酸塩を回収する工程を含んでもよい。
【0034】
以下、図1を適宜参照して、各工程をさらに詳細に説明する。図1は、本実施形態における酸化第二銅の製造工程の概略を示す図である。なお、図1に示した工程図は一例であり、本例に制限されるものではない。
【0035】
まず、原料である塩基性炭酸銅の粒径は平均粒子径がたとえば15μm以上50μm以下、好ましくは20μm以上50μm以下、より好ましくは25μm以上50μm以下であり、かつ安息角がたとえば45°以下、好ましくは40°以下に制御される。
【0036】
塩基性炭酸銅の平均粒子径についても、たとえばレーザー回折散乱法(マイクロトラック法)により測定される。
原料となる塩基性炭酸銅の平均粒子径が小さすぎると、安息角が45°を超えるととともに、得られた酸化第二銅粉末の安息角も50°を超えることとなり流動性が悪く、実際のメッキプロセスにおいて、供給装置から溶解槽に酸化第二銅を安定して供給できない懸念がある。また、塩基性炭酸銅粉末の平均粒子径が小さすぎると、凝集が著しくなり、メッキ液との濡れ性が低下したり、メッキ液への溶解性が低下する懸念もある。
【0037】
一方、平均粒子径が大きすぎる場合には、安息角は、たとえば25°程度となり、得られた酸化第二銅粉末の安息角は、たとえば30°となり、粉末の流動性は高いものの、メッキ液への溶解性は、二次粒子径が大きくなるため逆に低下する。さらにはアルカリ処理工程における酸化銅への転化反応が完全に進行せず、脱炭酸、脱水が不完全となるとともに、粒子内部の不純物の溶出も不充分となり、CuO含有量が低くなる懸念がある。
【0038】
以上のように、本発明の酸化第二銅を製造する上では、出発原料となる塩基性炭酸銅の形態は非常に重要であり、上述の条件を確実に満たしていれば、本発明の酸化第二銅の原料としてさらに好適に用いることができる。
【0039】
なお、出発原料である塩基性炭酸銅は、平均粒子径が15μm以上50μm以下であり、かつ安息角が45°以下に調製されたものであれば、市販されているものを用いても特段の問題はないが、アルカリ処理後に回収されるNa2CO3などの炭酸アルカリ塩の水溶液を有効利用し、より環境への影響の少ない製造工程を構築する観点では、たとえば以下の条件で水溶性銅塩溶液と炭酸原料とを反応させることにより、塩基性炭酸銅を製造することができる。
【0040】
このとき、原料として適した上述の平均粒子径、安息角が制御された塩基性炭酸銅の製造においては、原料となる水溶性銅塩溶液の銅濃度、反応pH、温度ならびに反応時間等を制御することにより、塩基性炭酸銅を目的の粒径に制御することが可能である。
【0041】
水溶性銅塩溶液としては、たとえば塩化銅、硫酸銅あるいは硝酸銅の粉末を水に溶解して用いる。また、プリント基板等電子回路基板のエッチング廃液である塩化銅廃液や硫酸銅廃液あるいは硝酸銅廃液などを使用してもよい。
また、炭酸原料としては、たとえば炭酸ナトリウム水溶液あるいは炭酸カリウム水溶液を用いる。
以下、水溶性銅塩溶液として塩化第二銅溶液を用い、炭酸原料として炭酸ナトリウム(炭酸ソーダ)を用いる場合を例に説明する。
【0042】
このとき、図1において、塩化第二銅溶液貯槽103に収容された原料溶液のCu濃度をたとえば50g/L以上110g/L以下に調製し、反応pHをたとえば7.5以上8.5以下とし、反応温度をたとえば55℃以上75℃以下に維持しながら、塩化第二銅溶液貯槽103に収容された塩化第二銅溶液および炭酸ソーダ溶解貯槽101に収容された炭酸ナトリウム水溶液をそれぞれ同時に連続的に反応槽107中に添加し、たとえば1.5時間以上16時間以下連続的に反応させる。なお、炭酸ソーダ溶解貯槽101と反応槽107との間にフィルター105を設け、フィルター105を介して反応槽107に炭酸ソーダを供給してもよい。また、反応槽107への炭酸ソーダおよび塩化第二銅の供給の制御に加えて、水109および蒸気111の供給を制御して、Cu濃度および反応温度を調整してもよい。
【0043】
反応槽107で所定の時間反応後、反応液を熟成槽113に移して所定の時間熟成させてもよい。その後、反応液を洗浄槽115に入れ、洗浄槽115に水117を加えて生成物を洗浄する。
以上の手順により、平均粒子径が15μm以上50μm以下に制御され、かつ該粉末の安息角が45°以下に制御された、本発明の酸化第二銅粉末の原料として好適な塩基性炭酸銅が調製できる。
【0044】
その後、図1において、得られた塩基性炭酸銅を用いて、引き続き、酸化第二銅の製造を行う。
そこで次に、本発明の易溶解性かつ高流動性を有する酸化第二銅を得る製造工程で重要な工程であるアルカリ処理を施し酸化第二銅に転化させる工程を説明する。以下、水酸化アルカリとして水酸化ナトリウムを用いる場合を例に説明するが、水酸化カリウム等を用いてもよい。
【0045】
上述の粒子径および安息角が制御された塩基性炭酸銅をCuO換算濃度で50g/L以上300g/Lに調製し、アルカリ加熱分解槽119中で攪拌しながら、原料となる塩基性炭酸銅分散スラリー中の塩基性炭酸銅中の炭酸根(CO32-)に対してNaOHが1.75倍モル以上2.50倍モル以下となるようにNaOH溶液125を添加して、60℃以上95℃以下の温度で30分以上120分以下アルカリ処理を施して塩基性炭酸銅を酸化第二銅に転化させる。なお、アルカリ加熱分解槽119への水121または蒸気123の供給を制御して、CuO換算濃度および反応温度を調整してもよい。
【0046】
この結果、アルカリ処理前の平均粒子径で15μm以上45μm以下に制御された塩基性炭酸銅の二次粒子形態を維持し、薄片状の微粒子が集合した球状の形態をとる易溶解性かつ高流動性を有した酸化第二銅粉末を得ることが可能となる。
【0047】
ここで、塩基性炭酸銅中の炭酸根(CO32-)に対する水酸化アルカリの添加量が少なすぎると、酸化第二銅への転化が完全には進行せず、CuO含有量の高い酸化第二銅粉末が得られない場合がある。
また、水酸化アルカリの添加量が多すぎると、酸化第二銅への転化は完全に進行するものの、過剰の水酸化アルカリによって酸化第二銅中の銅分が溶出したり、酸化第二銅粒子の一部が脱落し、微粒子の生成が多くなるなど、原料である塩基性炭酸銅のもつ二次粒子の形態を維持できなくなり、結果として、流動性の低下や溶解性の低下をもたらす懸念がある。さらには未反応の水酸化アルカリが多量に残り、後の洗浄工程に悪影響を与え、また炭酸アルカリ塩の回収再利用が難くなるなどの懸念がある。
【0048】
また、処理温度については、たとえば60℃以上95℃以下、好ましくは75℃以上95℃以下とする。処理温度が低すぎると、酸化第二銅への転化が進み難く、多大な時間を要することになる。なお、アルカリ処理の温度の上限に特に制限はないが、水の沸点以下の高温とする観点で、たとえば、95℃以下とすることができる。
【0049】
また、処理時間については、酸化第二銅への転化反応の効率、塩基性炭酸銅に内包している不純物の除去効果および生産性等を勘案し、上述の処理温度では、30分以上120分以下の範囲で行うことが好ましい。
【0050】
以上の酸化第二銅に転化させる工程に続き、洗浄、分離、乾燥の各工程を行う。これら単位操作は、一般的に使用される方法、設備を使用し行うことができる。
【0051】
具体的には、洗浄工程においてはイオン交換水を使用し、たとえば、デカンテーション法によるタンク洗浄、あるいは遠心分離機あるいはフィルタープレスによる固液分離とあわせて行う洗浄等により、排水の導電率が200μS/cm以下に達するまでこれらの操作を繰り返す。さらに具体的には、反応液を遠心分離機127中で遠心分離した後、固形分を洗浄槽129に移し、水131を添加して洗浄してもよい。この操作により、不純物となる塩類を除去し、高純度化を図ることができる。また、この際、蒸気等を利用して洗浄槽内の洗浄スラリーを40℃以上70℃以下に加温して洗浄操作を行うことにより、塩類がより容易に除去できる。
【0052】
次いで、脱水分離は、洗浄後の酸化第二銅スラリーをコンベンショナルな設備であるフィルタープレスや遠心分離機133等を使用して脱水することにより行う。
【0053】
最後の乾燥工程では、脱水分離工程で得られた酸化第二銅含水ケーキを、箱型乾燥機、連続式乾燥機等のコンベンショナルな装置(乾燥機135)を使用して、250℃以下の温度で乾燥処理し、乾燥減量が0.5%以下に制御する。ここで、乾燥温度が高すぎると、酸化第二銅の結晶化が進むことから、銅メッキ液への溶解性が低くなるため好ましくない。
以上の手順により、溶解性が高く、かつ流動性に優れた本発明の酸化第二銅粉末が得られる。
【0054】
また、前述の洗浄工程ないし分離工程において、前述したアルカリ処理工程にて副生される炭酸アルカリ塩、たとえば炭酸ナトリウムあるいは炭酸カリウムとして回収する工程を併設することにより、原料となる塩基性炭酸銅調製工程の原料炭酸塩としての再利用が可能となり、環境面へのより一層の貢献とともに製造コストのより一層の低減にも寄与する。図1には、遠心分離機127で分離された回収液を炭酸ソーダ溶解貯槽101に再度供給する例が示されている。
【0055】
背景技術の項で前述した特許文献1の方法においては、加熱、熱分解の際に大量のCO2を大気に放出する点で改善の余地があったのに対し、本実施形態の方法では、CO2の大気への放出がほとんどなく、また、副生される炭酸アルカリ塩を再利用することができるため、環境に与える影響が少ない。
【0056】
かくして、銅メッキ用補充剤等として好適な易溶解性かつ高流動性を有する高純度酸化第二銅粉末が、250℃を超える温度での熱処理を必要とせず、経済的かつ環境への影響に配慮した製造方法により得られる。得られた塩基性炭酸銅を出発原料とした易溶解性の酸化第二銅粉末は、不純物としてのCO32-、Cl―の陰イオンやNa+、Ca2+、Mg2+、等の陽イオンの含有量が少ない。
【0057】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の例によって制限されるものではない。
【0059】
(塩基性炭酸銅の調製)
はじめに、酸化第二銅の原料として用いる塩基性炭酸銅の調製例を示す。
【0060】
(塩基性炭酸銅No.A〜H)
6m3の反応槽にイオン交換水1m3を入れ、65℃に温度を維持しながら攪拌しつつ、Cu濃度として75g/Lに調製した塩化第二銅溶液とNa2CO3濃度として100g/Lに調製した炭酸ナトリウム溶液をpHが7.5から8.5を維持するように同時に添加し、反応時間を1.5時間から16時間の範囲で変化させて反応を行った。次いで反応後のスラリーは、イオン交換水を使用して、CuO換算濃度で200g/Lの濃度におけるスラリーの導電率が200μS/cm以下となるまでデカンテーション法による洗浄を繰り返し行い、粒子径、安息角の異なる8種類のアルカリ処理前のCuO換算濃度で200g/Lの塩基性炭酸銅スラリーを得た。
【0061】
このようにして得られたスラリーの一部を、遠心分離機を使用し脱水した後、箱型乾燥機を使用し、80℃で24時間乾燥を行った。得られた塩基性炭酸銅粉末の粒子径、安息角および分析値を、反応時間とともに表1に示す。
【0062】
なお、表1および以下の表における測定方法は以下の通りである。
平均粒子径:マイクロトラック粒度分析装置(日機装社製マイクロトラックX100)による
安息角測定:安息角測定器(蔵持科学器械製作所社製KRS−605)による
CuO濃度:酸化還元滴定法によりCuを分析してCuOに換算
CO2濃度:炭素・硫黄分析装置(堀場製作所社製EMIA−820W)によりCを分析してCO2に換算
Na濃度:原子吸光法による
Cl濃度:吸光光度法による
【0063】
【表1】
【0064】
(出発原料である塩基性炭酸銅の粒子径、安息角の影響)
(実施例1〜5および比較例1〜3)
表1に示す粒子径、安息角を有するNo.A〜Hの塩基性炭酸銅分散スラリーを用いて、スラリー中の塩基性炭酸銅に含まれる炭酸根(CO32-)に対して、2.0倍モル量のNaOHを水溶液として添加し、攪拌しながら85℃で1時間のアルカリ処理を行った。
【0065】
次いで、該スラリーの導電率が200μS/cm以下になるまでイオン交換水を使用してデカンテーション法による洗浄を行い、遠心分離機を使用し脱水した後、箱型乾燥機を使用し、150℃で12時間乾燥することで、実施例1〜5の酸化第二銅粉末および比較例1〜3の酸化第二銅粉末を得た。表2には、こうして得られた酸化第二銅粉末の平均粒子径、安息角、分析値および溶解性を示す。
【0066】
なお、表2および以下の表における測定方法または条件は、それぞれ以下の通りである。
水分測定:105℃×2時間
Ig−loss(灼熱減量):850℃×2時間
Ca濃度:ICP−AES法による
Mg濃度:ICP−AES法による
溶解性:2Lのパイレックス(登録商標)製ビーカーに、25℃の硫酸銅溶液(CuSO48.8%+f−H2SO416.2%)2380gを入れ、羽根部が幅80mm×高さ15mmであるテフロン(登録商標)製の攪拌羽根をビーカー底部から20mmの位置に設置し、スリーワンモーターを用いて200rpmの回転数で攪拌しながら酸化銅20gを添加してから、溶解して完全に澄明になるまでに要した時間を目視により測定
【0067】
【表2】
【0068】
表1および表2より、No.A〜Hの塩基性炭酸銅は、すべてアルカリ処理することによって脱水、脱炭酸が生じて酸化第二銅へ転化し、不純物であるNaおよびClも大幅に低減されることがわかる。
【0069】
そして、平均粒子径が15μmから50μmである表1記載のNo.C〜Gの塩基性炭酸銅を用いた実施例1〜5では、安息角が30°以上50°以下であり、高い流動性を示すとともに、溶解性の測定結果が30秒から40秒を示し、易溶解性かつ高流動性を有して、かつCuO含有量が97.0重量%以上である酸化第二銅粉末が得られた。
【0070】
一方、平均粒子径が15μm未満である表1記載のNo.AおよびNo.Bを用いた比較例1および2では、安息角が60°以上となり、流動性が低く、CuO含有量も97.0重量%未満である溶解性も低い酸化第二銅粉末しか得られなかった。
【0071】
また、平均粒子径が50μmより大きい表1記載のNo.Hの塩基性炭酸銅を用いた比較例3では、安息角は30°と流動性には優れていたものの、CuO含有量が97.0重量%未満である、溶解性も低い酸化第二銅粉末しか得られなかった。
【0072】
以上より、平均粒子径が15μm以上50μm以下、好ましくは20μm以上50μm以下、かつ安息角が45°以下、好ましくは40°以下に制御された、流動性の良好な塩基性炭酸銅を出発原料とすることが望ましいことがわかる。
【0073】
(アルカリ処理条件の影響について)
(実施例6〜13、比較例4〜8)
表1記載の塩基性炭酸銅No.Eを用いて、NaOHの添加量を塩基性炭酸銅に含まれる炭酸根(CO32-)に対して、0.75〜3.0倍モル量の範囲で変化させた。処理時間を120分としてアルカリ処理を行ったこと以外は(実施例1〜5および比較例1〜3)と同様な処理をおこない、実施例6〜9の酸化第二銅粉末および比較例4〜7の酸化第二銅粉末を得た。
【0074】
また、表1記載の塩基性炭酸銅No.Eを用いて、NaOHの添加量を塩基性炭酸銅に含まれる炭酸根(CO32-)に対して2.25倍モル量とし、処理時間を30分としてアルカリ処理を行ったこと以外は、(実施例1〜5および比較例1〜3)と同様な処理をして実施例10の酸化第二銅粉末を得た。
【0075】
また、表1記載の塩基性炭酸銅No.Eを用いて、処理温度45〜95℃の範囲で変化させて、処理時間を120分としたアルカリ処理以外は、(実施例1〜5および比較例1〜3)と同様な処理をおこない、実施例11〜13の酸化第二銅粉末および比較例8の酸化第二銅粉末を得た。
表3には、アルカリ処理条件と得られた酸化第二銅粉末の平均粒子径、安息角、分析値、溶解性を示す。
【0076】
【表3】
【0077】
また、図2には比較例5で得られた酸化第二銅粉末のX線回折パターンを、図3には実施例7で得られた酸化第二銅粉末のX線回折パターンを示す。図2および図3において、横軸は回折角度(°)を示し、縦軸はX線強度を示す。図4には原料塩基性炭酸銅Eの粒度分布を、図5には実施例7で得られた酸化第二銅粉末の粒度分布を示す。さらに、図6には原料塩基性炭酸銅Eの走査型電子顕微鏡(SEM)観察結果、図7には実施例7で得られた酸化第二銅粉末のSEM観察結果を、図8には比較例7で得られた酸化第二銅粉末のSEM観察結果を示す。
【0078】
表3の実施例6〜9および比較例4〜7のCuOの分析結果から、アルカリ処理時のNaOHの添加量が多くなるにつれて、酸化第二銅への転化がより進行しやすいことがわかる。とくに、塩基性炭酸銅中の炭酸根に対して1.75倍モル量以上として得られた酸化第二銅粉末のCuO含有量は97.0重量%以上であった。
【0079】
また、図2および図3のX線回折パターンからもわかるように、NaOHの添加量を1.00倍モル量とした比較例5で得られた酸化第二銅粉末には、原料の塩基性炭酸銅の回折ピークが残っており、酸化第二銅への転化が不充分である。
【0080】
それに対して、NaOHの添加量を2.00倍モル量とした実施例7で得られた酸化第二銅粉末には、酸化銅の回折ピークのみが観測されることから、酸化第二銅への転化が充分に進行していることがわかる。
【0081】
さらに、図4〜図7より、NaOHの添加量を2.00倍モル量とした実施例7で得た酸化第二銅粉末は原料塩基性炭酸銅の二次粒子形態を維持していることが観察される。それに対して、図8からわかるように、NaOHの添加量を3.00倍モル量とした比較例7で得られた酸化第二銅粉末は、二次粒子形態が崩れ、微粒子が多く存在している。
【0082】
次に、酸化第二銅粉末の流動性に関与する平均粒子径、安息角についてみれば、アルカリ添加量が増すにつれ、平均粒子径は小さくなる一方、安息角は高くなる傾向を示す。溶解性に関しては、アルカリ添加量が2.00倍モル量までは、80秒から30秒と溶解時間が急激に短くなる一方で、2.00倍モル量から3.00倍モル量へ添加量をさらに増加させた場合、逆に溶解時間が長くなり、溶解性が低くなった。このことから、易溶解性かつ高流動性かつCuO含有量が97.0重量%である酸化第二銅粉末を得るアルカリ添加量は、塩基性炭酸銅中の炭酸根に対して1.75倍モル量から2.50倍モル量とすることが好適であることがわかった。
【0083】
実施例11〜13および比較例8の結果は、アルカリ添加量の場合と同様の傾向を示し、処理温度が45℃である比較例8を除いては良好な溶解性を有する酸化第二銅粉末が得られており、処理温度としては、60°以上95℃以下が最適であることが判明した。
また、処理時間は、実施例6〜10からも明らかなように、30分以上120分以下の範囲内であれば、良好な溶解性を有す酸化第二銅粉末を得ることができる。
【0084】
以上の結果から、易溶解性かつ高流動性を有し、CuO含有量が97.0重量%である酸化第二銅を得るためのアルカリ処理の条件は、塩基性炭酸銅中の炭酸根に対する水酸化アルカリの添加量が1.75倍モル量以上2.50倍モル量以下、処理温度は60℃以上95℃以下、処理時間は30分以上120分以下である。
【0085】
(乾燥温度の影響について)
(実施例7、実施例14〜15、比較例9)
乾燥温度を200℃、250℃、300℃としたこと以外は実施例7と同様に処理することにより、実施例14、実施例15および比較例9の酸化第二銅粉末を得た。
【0086】
表4は、乾燥温度と得られた酸化第二銅の平均粒子径、安息角、分析値、溶解性の関係を示す。表4より、乾燥温度が250℃以下の場合、得られた酸化第二銅粉末は高い溶解性を示すが、乾燥温度が300℃の場合には、明らかに溶解性が低下している。すなわち、良好な溶解性が得られる乾燥温度は250℃以下が好適であることがわかった。
【0087】
【表4】
【0088】
(焼成法との比較)
(実施例7、比較例10〜12)
表1記載の塩基性炭酸銅No.Eをアルカリ処理することなしに、電気炉を使用して300℃および350℃で3時間の焼成を行い、次いでイオン交換水を使用しCuO濃度として150g/Lのスラリーとなし、導電率が200μS/cm以下になるまでイオン交換水を使用してデカンテーション法による洗浄を行い、塩類を除去した後、遠心分離機を使用して脱水し、150℃で12時間乾燥して、比較例10および11の酸化第二銅粉末を得た。
【0089】
また、平均粒子径がマイクロトラック測定で3.4μmである市販の酸化第一銅(Cu2O)を出発原料として、電気炉を使用して550℃で3時間焼成した後、アトマイザーで粉砕し、次いでイオン交換水を使用し、CuO濃度として150g/Lのスラリーとなし、導電率が200μS/cm以下になるまでイオン交換水を使用してデカンテーション法による洗浄を行い、塩類を除去した後、遠心分離機にて脱水し、150℃で12時間乾燥して、比較例12の酸化第二銅粉末を得た。
表5に、こうして得られた酸化第二銅粉末の平均粒子径、安息角、分析値および溶解性を示す。
【0090】
また、図9には、原料である塩基性炭酸銅Eの一次粒子の形状を、図10には実施例7で得られた酸化第二銅の一次粒子の形状を、図11には比較例11で得られた酸化第二銅の一次粒子の形状のSEM観察結果を示す。
【0091】
【表5】
【0092】
表5より、塩基性炭酸銅を直接焼成する方法により得られた比較例10および比較例11の酸化第二銅粉末は、いずれも実施例7の酸化第二銅粉末と比較して、溶解性の面で劣ることがわかる。また、加熱、熱分解工程における温度管理幅が狭く、高純度化と溶解性の両立した品質の製品を得ることが難しいことがわかる。
【0093】
また市販の酸化第一銅を焼成して酸化第二銅とする方法で得られた比較例12の酸化第二銅粉末は、流動性も悪く、溶解性も極端に悪くなることから、酸化第一銅を焼成して得られた酸化第二銅粉末は、銅メッキ用補充剤として適さないことがわかる。
【0094】
さらには、図9および図10より、実施例7で得られた酸化第二銅粉末の一次粒子が、原料塩基性炭酸銅粉末の柱状ないし板状の形状から、薄片状に変化した様子が観察される。
【0095】
それに対して、図11では、塩基性炭酸銅粉末Eを焼成処理して得た比較例11の酸化第二銅粉末の一次粒子が、粒状に変化している様子が観察される。このことから、アルカリ処理にともなうこの一次粒子の薄片状への形状の変化が溶解性の向上に大きく寄与しているものと推察される。
【0096】
(回収Na2CO3の再利用試験)
(実施例16〜19)
実施例3における洗浄工程にて回収したNa2CO3100g/Lの炭酸ナトリウム溶液と新たに溶解したNa2CO3100g/Lの炭酸ナトリウム溶液とを2:1の割合で混合し、平均細孔径0.7μmのフィルターで濾過することにより、Na2CO3100g/Lの炭酸ナトリウム溶液を得た。得られた炭酸ナトリウム溶液とCu濃度として75g/Lに調製した塩化銅溶液を表1の塩基性炭酸銅Eが得られる条件で反応、洗浄、スラリー濃度の調製をしたのち、実施例3と同様な条件でアルカリ処理を行い、生成したNa2CO3100g/L濃度の炭酸ナトリウム溶液を回収した。
この操作を5回繰り返し、その際に得られた塩基性炭酸銅の一部を80℃×12時間乾燥することで、実施例16〜19の塩基性炭酸銅を得た。
表6に、得られた塩基性炭酸銅の平均粒子径、安息角および分析値を示す。
【0097】
【表6】
【0098】
表6の結果より、アルカリ処理時に生成する炭酸ナトリウム溶液は、回収して実施例における酸化第二銅の原料として好適な塩基性炭酸銅を調製する際の炭酸源として再利用できることがわかった。これにより、コストダウンが図れるとともに、CO2の大気放出を防ぐクローズドシステムを構築できることになる。
【0099】
以上の結果より、本発明の平均粒子径が15μm以上45μm以下、安息角が50°以下かつCuO含有量が97.0重量%以上である易溶解性の酸化第二銅粉末は、たとえば、平均粒子径が15μm以上50μm以下かつ安息角が45°以下に粒径制御された塩基性炭酸銅を製造する工程、得られた塩基性炭酸銅を水酸化アルカリの存在下でアルカリ処理を施し、その際の、塩基性炭酸銅中の炭酸根(CO32-)に対する水酸化アルカリの添加量を1.75倍モル以上2.50倍モル以下、処理温度を60℃以上95℃以下、処理時間を30分以上120分以下として、塩基性炭酸銅を酸化第二銅に転化させる工程、得られた酸化第二銅を洗浄して塩類を分離除去する工程、洗浄後の酸化第二銅を脱水分離する工程および分離後の酸化第二銅を250℃以下の温度で乾燥する工程、ならびに前記洗浄工程からアルカリ炭酸塩を回収する工程を備える製造工程から容易に得られることがわかる。
また、実施例1〜15で得られた酸化第二銅粉末は、銅メッキプロセスにおける補充剤として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本実施形態における酸化第二銅の製造工程の概略を示す図である。
【図2】実施例における酸化第二銅粉末のX線回折パターンを示す図である。
【図3】実施例における酸化第二銅粉末のX線回折パターンを示す図である。
【図4】実施例における塩基性炭酸銅粉末の粒度分布を示す図である。
【図5】実施例における酸化第二銅粉末の粒度分布を示す図である。
【図6】実施例における塩基性炭酸銅粉末のSEM観察結果を示す図である。
【図7】実施例における酸化第二銅粉末のSEM観察結果を示す図である。
【図8】実施例における酸化第二銅粉末のSEM観察結果を示す図である。
【図9】実施例における塩基性炭酸銅粉末のSEM観察結果を示す図である。
【図10】実施例における酸化第二銅粉末のSEM観察結果を示す図である。
【図11】実施例における酸化第二銅粉末のSEM観察結果を示す図である。
【符号の説明】
【0101】
101 炭酸ソーダ溶解貯槽
103 塩化第二銅溶液貯槽
105 フィルター
107 反応槽
109 水
111 蒸気
113 熟成槽
115 洗浄槽
117 水
119 アルカリ加熱分解槽
121 水
123 蒸気
125 NaOH溶液
127 遠心分離機
129 洗浄槽
131 水
133 遠心分離器
135 乾燥機
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が15μm以上45μm以下、安息角が50°以下であって、CuO含有量が97.0重量%以上である、易溶解性の酸化第二銅粉末。
【請求項2】
請求項1に記載の酸化第二銅粉末において、原料として塩基性炭酸銅を用い、該塩基性炭酸銅をアルカリ処理して得られるものである、酸化第二銅粉末。
【請求項3】
請求項2に記載の酸化第二銅粉末において、
平均粒子径が15μm以上50μm以下であって安息角が45°以下である前記塩基性炭酸銅を攪拌しながら水中に分散させ、水酸化アルカリの存在下、処理温度を60℃以上95℃以下、処理時間を30分以上120分以下とするアルカリ処理を施して、前記塩基性炭酸銅を酸化第二銅に転化させる工程と、
酸化第二銅に転化させる前記工程で得られた酸化第二銅を洗浄する工程と、
洗浄後の酸化第二銅を分離する工程と、
分離後の酸化第二銅を250℃以下の温度で乾燥する工程と、
を含む製造方法により製造される、酸化第二銅粉末。
【請求項4】
請求項3に記載の酸化第二銅粉末において、
前記水酸化アルカリが、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであって、
前記塩基性炭酸銅中の炭酸根(CO32-)に対する前記水酸化アルカリの添加量が、1.75倍モル以上2.50倍モル以下である、酸化第二銅粉末。
【請求項5】
請求項1に記載の酸化第二銅粉末の製造方法であって、原料として塩基性炭酸銅を用い、該塩基性炭酸銅をアルカリ処理して前記酸化第二銅を得る、酸化第二銅粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法において、
平均粒子径が15μm以上50μm以下であって安息角が45°以下である前記塩基性炭酸銅を攪拌しながら水中に分散させ、水酸化アルカリの存在下、処理温度を60℃以上95℃以下、処理時間を30分以上120分以下とするアルカリ処理を施して酸化第二銅に転化させる工程と、
酸化第二銅に転化させる前記工程で得られた酸化第二銅を洗浄する工程と、
洗浄後の酸化第二銅を分離する工程と、
分離後の酸化第二銅を250℃以下の温度で乾燥する工程と、
を含む、酸化第二銅粉末の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法において、
前記水酸化アルカリが、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであって、
前記塩基性炭酸銅中の炭酸根(CO32-)に対する前記水酸化アルカリの添加量が、1.75倍モル以上2.50倍モル以下である、酸化第二銅粉末の製造方法。
【請求項1】
平均粒子径が15μm以上45μm以下、安息角が50°以下であって、CuO含有量が97.0重量%以上である、易溶解性の酸化第二銅粉末。
【請求項2】
請求項1に記載の酸化第二銅粉末において、原料として塩基性炭酸銅を用い、該塩基性炭酸銅をアルカリ処理して得られるものである、酸化第二銅粉末。
【請求項3】
請求項2に記載の酸化第二銅粉末において、
平均粒子径が15μm以上50μm以下であって安息角が45°以下である前記塩基性炭酸銅を攪拌しながら水中に分散させ、水酸化アルカリの存在下、処理温度を60℃以上95℃以下、処理時間を30分以上120分以下とするアルカリ処理を施して、前記塩基性炭酸銅を酸化第二銅に転化させる工程と、
酸化第二銅に転化させる前記工程で得られた酸化第二銅を洗浄する工程と、
洗浄後の酸化第二銅を分離する工程と、
分離後の酸化第二銅を250℃以下の温度で乾燥する工程と、
を含む製造方法により製造される、酸化第二銅粉末。
【請求項4】
請求項3に記載の酸化第二銅粉末において、
前記水酸化アルカリが、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであって、
前記塩基性炭酸銅中の炭酸根(CO32-)に対する前記水酸化アルカリの添加量が、1.75倍モル以上2.50倍モル以下である、酸化第二銅粉末。
【請求項5】
請求項1に記載の酸化第二銅粉末の製造方法であって、原料として塩基性炭酸銅を用い、該塩基性炭酸銅をアルカリ処理して前記酸化第二銅を得る、酸化第二銅粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法において、
平均粒子径が15μm以上50μm以下であって安息角が45°以下である前記塩基性炭酸銅を攪拌しながら水中に分散させ、水酸化アルカリの存在下、処理温度を60℃以上95℃以下、処理時間を30分以上120分以下とするアルカリ処理を施して酸化第二銅に転化させる工程と、
酸化第二銅に転化させる前記工程で得られた酸化第二銅を洗浄する工程と、
洗浄後の酸化第二銅を分離する工程と、
分離後の酸化第二銅を250℃以下の温度で乾燥する工程と、
を含む、酸化第二銅粉末の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法において、
前記水酸化アルカリが、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであって、
前記塩基性炭酸銅中の炭酸根(CO32-)に対する前記水酸化アルカリの添加量が、1.75倍モル以上2.50倍モル以下である、酸化第二銅粉末の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−143737(P2008−143737A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331990(P2006−331990)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
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