説明

酸化触媒

【課題】新規な酸化触媒を提供することを目的とする。
【解決手段】酸化触媒は、有機金属塩と、酸性度定数pKaが4.57より大きい有機酸からなる。ここで、有機金属塩は、Cu(OAc)2 ,Co(OAc)2 ,Ni(OAc)2 ,Mn(OAc)2 ,Zn(OAc)2 ,Pd(OAc)2であることが好ましい。有機酸は、tBuCOOH ,1-AdamantylCOOH ,c-C6H11COOH ,C2H5COOHであることが好ましい。また、酸化触媒は、無機金属化合物と、酸性度定数pKaが4.57より大きい有機酸からなる。ここで、無機金属化合物は、Cu2O ,CuO ,CuClであることが好ましい。有機酸は、tBuCOOH ,1-AdamantylCOOH ,c-C6H11COOH ,C2H5COOHであることが好ましい。また、酸化触媒は、酸性度定数pKaが4.57より大きい有機酸の塩からなる。ここで、塩は、Cu[OC(O)tBu]2 , Co[OC(O)tBu]2であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な酸化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、代表的な芳香族アルデヒドであるベンズアルデヒドはトルエンの塩素化により塩化ベンザルを経て、その加水分解により得る方法で製造されている(化1、特許文献1参照)。
【0003】
【化1】

【0004】
これに対して、高温でトルエン蒸気と分子状酸素含有ガスとを、完全酸化を抑制するための多量の水蒸気と共に固体触媒上に接触させて、安息香酸とベンズアルデヒドを得る方法が主流である。目的生成物が安息香酸の場合はV2O5/TiO2系触媒が用いられるが、ベンズアルデヒドが目的であれば、V2O5/TiO2系以外にV複合酸化物系、Mo複合酸化物系、Pd-Sb-P系なども触媒として用いられる。何れも、低いトルエン転化率で反応を行うことで、高い選択性を得ている(非特許文献1参照)。
【0005】
液相酸化反応で無溶媒によるものとしては、マンガン塩、コバルト塩を臭化物イオンと共に用いて反応を行うものが報告されている(化2、特許文献2および非特許文献2参照)。
【0006】
【化2】

【0007】
液相酸化反応で主に酢酸溶媒を用いるものとしては、古くからは、二酸化マンガンを酸化剤として、硫酸中で酸化されるものが報告されているが、最近では酢酸溶媒中で酸素(空気)を酸化剤としてもちいて反応を行われることが多い(化3、特許文献3参照)。
【0008】
【化3】

【0009】
なお、発明者は、本発明に関連する技術内容を開示している(非特許文献3参照。)。これは、特許法第30条第1項を適用できるものと考えられる。
【0010】
【特許文献1】US 4229379
【特許文献2】WO 95/20560
【特許文献3】WO 2005/063666
【非特許文献1】触媒の辞典(小野、御園生、諸岡編)、朝倉書店、p415
【非特許文献2】Ind. Eng. Chem. prod. Res. Dev. 1084, 23, 455-458
【非特許文献3】「銅(II)触媒を用いるトルエンの液相空気酸化」、松本 拓也、牧岡 良和、谷口 裕樹、第40回酸化反応討論会、2007年11月17-18日、奈良(奈良女子大学)、P41, 215-217pp.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、ベンズアルデヒドはトルエンの塩素化により塩化ベンザルを経て、その加水分解により得る方法で製造されている。しかし、塩素化の際に、ベンゼン環まで塩素化されたものが不純物として残る恐れがあり、食品、香料向け原料には適さない。反応後の廃棄物(酸)処理が問題である。
【0012】
また、高温でトルエン蒸気と分子状酸素含有ガスとを、完全酸化を抑制するための多量の水蒸気と共に固体触媒上に接触させて、安息香酸とベンズアルデヒドを得る方法が主流である。目的生成物が安息香酸の場合はV2O5/TiO2系触媒が用いられるが、ベンズアルデヒドが目的であれば、V2O5/TiO2系以外にV複合酸化物系、Mo複合酸化物系、Pd-Sb-P系なども触媒として用いられる。しかし、高温で行う為、多くの熱エネルギーを必要とし、また、触媒上への炭化による劣化が起こるという問題がある。
【0013】
また、液相酸化反応で無溶媒によるものとしては、マンガン塩、コバルト塩を臭化物イオンと共に用いて反応を行うものが報告されている。しかし、臭化物イオンによる腐食性化合物(HBr)の発生が問題である。原料のトルエンの低転化率での反応が要求される。
【0014】
また、液相酸化反応で主に酢酸溶媒を用いるものとしては、酢酸溶媒中で酸素(空気)を酸化剤としてもちいて反応を行われることが多い。しかし、酢酸ベンジル(C6H5CH2OAc)などの副生成物の生成が問題となる場合がある。
【0015】
そのため、このような課題を解決する、新規な酸化触媒の開発が望まれている。
【0016】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、新規な酸化触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の酸化触媒は、有機金属塩と、酸性度定数pKaが4.57より大きい有機酸からなる。
【0018】
ここで、限定されるわけではないが、有機金属塩は、Cu(OAc)2, Co(OAc)2, Ni(OAc)2, Mn(OAc)2, Zn(OAc)2, Pd(OAc)2, (HCOO)2Cu, Cu(C2O4), Cu(acac)2, (HCOO)2Co, Co(C2O4), Co(acac)2, (HCOO)2Ni, Ni(C2O4), Ni(acac)2, (HCOO)2Mn, Mn(C2O4), Mn(acac)2, (HCOO)2Zn, Zn(C2O4), Zn(acac)2, (HCOO)2Pd, Pd(C2O4), Pd(acac)2などから選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。また、限定されるわけではないが、有機酸は、tBuCOOH, 1-AdamantylCOOH, c-C6H11COOH, C2H5COOH, (CH3)2CHCOOH,(CH3CH2)2CHCOOH, (CH3CH2CH2)2CHCOOH,(CH3CH2)3CCOOH,(CH3CH2CH2)3CCOOH,CH3CH2CH2COOH,CH3CH2CH2CH2COOH,CH3CH2CH2CH2CH2COOH,CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)2CCOOH,CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)CHCOOHなどから選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。
【0019】
本発明の酸化触媒は、無機金属化合物と、酸性度定数pKaが4.57より大きい有機酸からなる。
【0020】
ここで、限定されるわけではないが、無機金属化合物は、Cu2O, CuO, Cu2S, CuS, Cu2Se, CuSe, CuTe, CuTe2から選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。また、限定されるわけではないが、有機酸は、tBuCOOH, 1-AdamantylCOOH, c-C6H11COOH, C2H5COOH, (CH3)2CHCOOH, (CH3CH2)2CHCOOH, (CH3CH2CH2)2CHCOOH, (CH3CH2)3CCOOH, (CH3CH2CH2)3CCOOH, CH3CH2CH2COOH, CH3CH2CH2CH2COOH, CH3CH2CH2CH2CH2COOH, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)2CCOOH, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)CHCOOHなどから選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。
【0021】
本発明の酸化触媒は、酸性度定数pKaが4.57より大きい有機酸の塩からなる。
【0022】
ここで、限定されるわけではないが、塩は、Cu[OC(O)tBu]2, Co[OC(O)tBu]2, Ni[OC(O)tBu]2, Mn[OC(O)tBu]2, Zn[OC(O)tBu]2, Pd[OC(O)tBu]2, Cu[O(CO)1-Adamantyl]2, Cu[O(CO)c-C6H11]2, Cu[O(CO)C2H5]2などから選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。
【0023】
本発明の酸化触媒は、無機金属塩と、酸性度定数pKaが4.57より大きい有機酸の塩からなる。
【0024】
ここで、限定されるわけではないが、無機金属塩は、CuCl, CuCl2, CuSO4, Cu(NO3)2, CuCN, Cu(CN)2, CuBr, CuF, CuI, CuCO3, Cu(OH)2などから選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。また、限定されるわけではないが、塩は、tBuCOONa, 1-AdamantylCOONa, c-C6H11COONa, C2H5COONa, (CH3)2CHCOONa, (CH3CH2)2CHCOONa, (CH3CH2CH2)2CHCOONa, (CH3CH2)3CCOONa, (CH3CH2CH2)3CCOONa, CH3CH2CH2COONa, CH3CH2CH2CH2COONa, CH3CH2CH2CH2CH2COONa, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)2CCOONa, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)CHCOONa, tBuCOOLi, 1-AdamantylCOOLi, c-C6H11COOLi, C2H5COOLi, (CH3)2CHCOOLi, (CH3CH2)2CHCOOLi, (CH3CH2CH2)2CHCOOLi, (CH3CH2)3CCOOLi, (CH3CH2CH2)3CCOOLi, CH3CH2CH2COOLi, CH3CH2CH2CH2COOLi, CH3CH2CH2CH2CH2COOLi, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)2CCOOLi, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)CHCOOLi, tBuCOOCs, 1-AdamantylCOOCs, c-C6H11COOCs, C2H5COOCs, (CH3)2CHCOOCs, (CH3CH2)2CHCOOCs, (CH3CH2CH2)2CHCOOCs, (CH3CH2)3CCOOCs, (CH3CH2CH2)3CCOOCs, CH3CH2CH2COOCs, CH3CH2CH2CH2COOCs, CH3CH2CH2CH2CH2COOCs, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)2CCOOCs, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)CHCOOCsなどから選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
【0026】
本発明の酸化触媒は、有機金属塩と、酸性度定数pKaが4.57より大きい有機酸からなるので、新規な酸化触媒を提供することができる。
【0027】
本発明の酸化触媒は、無機金属化合物と、酸性度定数pKaが4.57より大きい有機酸からなるので、新規な酸化触媒を提供することができる。
【0028】
本発明の酸化触媒は、酸性度定数pKaが4.57より大きい有機酸の塩からなるので、新規な酸化触媒を提供することができる。
【0029】
本発明の酸化触媒は、無機金属塩と、酸性度定数pKaが4.57より大きい有機酸の塩からなるので、新規な酸化触媒を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、酸化触媒にかかる発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0031】
本発明の酸化触媒は、有機金属塩と、酸性度定数pKaが4.57より大きい有機酸からなる。
【0032】
ここで、限定されるわけではないが、有機金属塩は、Cu(OAc)2, Co(OAc)2, Ni(OAc)2, Mn(OAc)2, Zn(OAc)2, Pd(OAc)2, (HCOO)2Cu, Cu(C2O4), Cu(acac)2, (HCOO)2Co, Co(C2O4), Co(acac)2, (HCOO)2Ni, Ni(C2O4), Ni(acac)2, (HCOO)2Mn, Mn(C2O4), Mn(acac)2, (HCOO)2Zn, Zn(C2O4), Zn(acac)2, (HCOO)2Pd, Pd(C2O4), Pd(acac)2などから選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。また、限定されるわけではないが、有機酸は、tBuCOOH, 1-AdamantylCOOH, c-C6H11COOH, C2H5COOH, (CH3)2CHCOOH,(CH3CH2)2CHCOOH, (CH3CH2CH2)2CHCOOH,(CH3CH2)3CCOOH,(CH3CH2CH2)3CCOOH,CH3CH2CH2COOH,CH3CH2CH2CH2COOH,CH3CH2CH2CH2CH2COOH,CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)2CCOOH,CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)CHCOOHなどから選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。
【0033】
本発明の酸化触媒は、無機金属化合物と、酸性度定数pKaが4.57より大きい有機酸からなる。
【0034】
ここで、限定されるわけではないが、無機金属化合物は、Cu2O, CuO, Cu2S, CuS, Cu2Se, CuSe, CuTe, CuTe2から選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。また、限定されるわけではないが、有機酸は、tBuCOOH, 1-AdamantylCOOH, c-C6H11COOH, C2H5COOH, (CH3)2CHCOOH, (CH3CH2)2CHCOOH, (CH3CH2CH2)2CHCOOH, (CH3CH2)3CCOOH, (CH3CH2CH2)3CCOOH, CH3CH2CH2COOH, CH3CH2CH2CH2COOH, CH3CH2CH2CH2CH2COOH, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)2CCOOH, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)CHCOOHなどから選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。
【0035】
本発明の酸化触媒は、酸性度定数pKaが4.57より大きい有機酸の塩からなる。
【0036】
ここで、限定されるわけではないが、塩は、Cu[OC(O)tBu]2, Co[OC(O)tBu]2, Ni[OC(O)tBu]2, Mn[OC(O)tBu]2, Zn[OC(O)tBu]2, Pd[OC(O)tBu]2, Cu[O(CO)1-Adamantyl]2, Cu[O(CO)c-C6H11]2, Cu[O(CO)C2H5]2などから選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。
【0037】
本発明の酸化触媒は、無機金属塩と、酸性度定数pKaが4.57より大きい有機酸の塩からなる。
【0038】
ここで、限定されるわけではないが、無機金属塩は、CuCl, CuCl2, CuSO4, Cu(NO3)2, CuCN, Cu(CN)2, CuBr, CuF, CuI, CuCO3, Cu(OH)2などから選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。また、限定されるわけではないが、塩は、tBuCOONa, 1-AdamantylCOONa, c-C6H11COONa, C2H5COONa, (CH3)2CHCOONa, (CH3CH2)2CHCOONa, (CH3CH2CH2)2CHCOONa, (CH3CH2)3CCOONa, (CH3CH2CH2)3CCOONa, CH3CH2CH2COONa, CH3CH2CH2CH2COONa, CH3CH2CH2CH2CH2COONa, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)2CCOONa, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)CHCOONa, tBuCOOLi, 1-AdamantylCOOLi, c-C6H11COOLi, C2H5COOLi, (CH3)2CHCOOLi, (CH3CH2)2CHCOOLi, (CH3CH2CH2)2CHCOOLi, (CH3CH2)3CCOOLi, (CH3CH2CH2)3CCOOLi, CH3CH2CH2COOLi, CH3CH2CH2CH2COOLi, CH3CH2CH2CH2CH2COOLi, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)2CCOOLi, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)CHCOOLi, tBuCOOCs, 1-AdamantylCOOCs, c-C6H11COOCs, C2H5COOCs, (CH3)2CHCOOCs, (CH3CH2)2CHCOOCs, (CH3CH2CH2)2CHCOOCs, (CH3CH2)3CCOOCs, (CH3CH2CH2)3CCOOCs, CH3CH2CH2COOCs, CH3CH2CH2CH2COOCs, CH3CH2CH2CH2CH2COOCs, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)2CCOOCs, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)CHCOOCsなどから選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。
【0039】
上述の有機酸の酸性度定数pKaは4.57より大きいことが好ましい。また、酸性度定数pKaは4.62以上であることがさらに好ましい。
【0040】
酸性度定数pKaが4.57より大きいと、銅イオンからカルボン酸イオンの解離が起こり、2価銅イオンが還元を受けやすくなることで、ベンゼン環からの電子移動(酸化)が起こり易くなるという利点がある。酸性度定数pKaが4.62以上であると、この効果がより顕著になる。
【0041】
上述触媒を用いる酸化反応において、酸化の対象化合物は以下のとおりである。
アルキルベンゼンまたはその芳香環結合水素の1〜5個をXに置換したもの、または
アルキルナフタレンまたはその芳香環結合水素の1〜7個をXに置換したもの、または
アルキルアントラセンまたはその芳香環結合水素の1〜9個をXに置換したものである。
ここで、
アルキル基 :C1〜C30の飽和または不飽和アルキル基
X: C1〜C30の飽和または不飽和アルキル基, -Cl, -Br, -F, -OR, -NO2, -NR2, -COOR, -CN, -CONR2, -Ph, -C6H4OH, -OPh, -C(O)Ph, SO2Rなどから別個独立に選ばれる。
R: C1〜C30の飽和アルキル基
【0042】
酸化剤としては、空気,酸素,過酸化水素,O3, N2O, tert-ブチルヒドロペルオキシド,クメンヒドロペルオキシド,過酸化ベンゾイル,過酢酸,NaClO, NaIO, PhIO, K2S2O8などを採用することができる。
【0043】
酸化反応は無溶媒で行うことができる。酸化反応は溶媒中で行うこともできる。溶媒としては、ベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、1,1,2−トリクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、四塩化炭素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、シクロヘキサン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ヘキシル、酢酸オクチル、酢酸デシル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸ヘキシル、酪酸ブチル、酪酸オクチル、炭酸ジオクチル、炭酸ジフェニル、ジフェニルエーテル、ブタノン、ヘキサノン、シクロヘキサノン、オクタノン、デカノン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリルなどを採用することができる。
【0044】
酸化反応の温度は-20〜200 ℃の範囲内にあることが好ましい。温度が-20 ℃以上であると、酸化剤である酸素ガスが基質に溶解し易いという利点がある。温度が200 ℃以下であると、触媒が分解しにくいという利点がある。
【0045】
酸化反応の圧力は0.1〜5.0 MPaの範囲内にあることが好ましい。圧力が0.1 MPa以上であると、十分な酸素量を供給できるという利点がある。圧力が5.0 MPa以下であると、特別な耐圧容器を用いる必要が無いという利点がある。
【0046】
なお、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【実施例】
【0047】
つぎに、本発明にかかる実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0048】
<酸の添加効果>
ステンレス製の耐圧金属容器(25mL)中にトルエン(5mL)と触媒量の酢酸銅(II)(0.05mmol)及び各種の有機酸(0.50mmol)を添加し、2.0 MPaの空気加圧下に120℃に加熱して4時間反応を行った。反応後の分析によると、生成物はベンジルアルコール、ベンズアルデヒド、安息香酸の3成分のみである。その結果を表1に示す。酸を無添加の場合(entry 1)と比べると、Entry 2〜5のカルボン酸に効果を示すことがわかった。触媒原料に用いた酢酸銅中の酢酸よりも小さな酸性度定数pKaを有する酸(Entry6〜10)については反応性が小さくなる。生成物の1つである安息香酸を添加することで、反応は阻害された(Entry6)。更に、ある程度の効果を示したシクロヘキサンカルボン酸でも、2塩基酸(ジカルボン酸)ではその効果が無くなることが分かった(Entry9,10)。以上のことから、酢酸よりも酸性度定数pKaの大きいカルボン酸であって、嵩高いカルボン酸が大きな添加効果を持つことが分かった。いずれの反応においても、生成物の選択性は殆ど無かった。
【0049】
【表1】

【0050】
また、この中で最も添加効果の高かったピバリン酸について、その添加量についても検討を行った結果を図1及び表2に示す。ピバリン酸の量を徐々に増加させるとトルエンの転化率は著しく向上する。しかし、ピバリン酸を銅(0.05 mmol)に対して10倍以上多量に使用しても転化率はそれ以上向上しないが、安息香酸の選択性が向上する。また、ピバリン酸の添加量を銅に対して2当量程度(0.10 mmol)にして反応を行うとベンズアルデヒドの選択性が高くなることがわかった。
【0051】
【表2】

【0052】
<金属触媒の種類の効果>
添加する酸としてピバリン酸が最も高い効果を示したので、金属を変化させて検討を行った。金属としては酢酸銅の他、工業的にも使用されているコバルト塩、ニッケル塩、マンガン塩が高い効果を示した。銅塩の使用については、これら希少金属に匹敵する触媒活性を示している。他の銅化合物ではCu2Oが高い活性を示し、他のアセチルアセトン塩、酸化物、塩化物も効果が認められた。
【0053】
【表3】

【0054】
<Cu(OCOCH3)2の触媒量効果>
表4と図2にCu(OCOCH3)2/tert-BuCO2H(2 equiv.)触媒を用いるトルエンの空気酸化について、触媒量の効果を検討した結果を示す。触媒量を増加させるに従い、反応生成物の量は増大するが、0.05mmol以上の使用量では、トルエンに対する触媒の溶解度の限界であり、それ以上の収量の増加は認められない。0.05mmolまでの使用量においては、ベンズアルデヒドの選択性が優先することが認められた。
【0055】
【表4】

【0056】
<経時変化>
表5と図3にCu(OCOCH3)2/tert-BuCO2H(2 equiv.)触媒を用いるトルエンの空気酸化についての経時変化を検討した結果を示す。表5と図3より、反応は4時間で終結しており、4時間以上では収量変化は認められなかった。また、若干のベンズアルデヒドの選択性低下が認められた。安息香酸の選択性は若干向上していた。
【0057】
【表5】

【0058】
<反応温度効果>
表6と図4にCu(OCOCH3)2/tert-BuCO2H(2 equiv.)触媒を用いるトルエンの空気酸化に及ぼす温度の効果を示す。反応温度は120℃で極大値を示し、それ以上の温度では、収率は低下することが分かった。
【0059】
【表6】

【0060】
<圧力効果>
Cu(OCOCH3)2/tert-BuCO2H(2 equiv.)触媒を用いるトルエンの空気酸化において、酸化剤として用いる空気の圧力についての検討を行った結果を、表7に示す。表から明らかなように、酸化剤として用いる空気圧は、常圧(0.1 MPa)でも反応は進行するが、2.0 MPa程度に加圧して、充分な酸素量を供給することが望ましい。また、常圧の純酸素を用いても、反応は遜色なく進行する。
【0061】
【表7】

【0062】
<ピバリン酸塩の使用>
これまで、触媒として酢酸銅にピバリン酸を加えるととにより反応を検討した。しかし、触媒量ではあるものの、酸を加えることに違いなく、中性条件で行うことにはならない。そこで、触媒として、ピバリン酸塩を調整し反応を行った。結果を表8に示す。表から明らかなように、酢酸銅とピバリン酸を組み合わせて用いた場合とピバリン酸銅を用いて中性条件で行った場合、反応に差異が認められず、ピバリン酸銅が触媒として働いていることが分かる。また、ピバリン酸コバルトでも同様に反応は進行する。
【0063】
【表8】

【0064】
<置換基効果>
トルエンの空気酸化反応について詳しく検討したが、同触媒系を用いて、他の置換トルエンの反応性を調べた。トルエンとの反応性の比較のために用いた基質はp−クロロトルエンおよびp−メトキシトルエンである(化4)。その結果を表9に示す。パラ位に電子吸引基のクロル基を持つp -クロロトルエンの酸化生成物の総量は、トルエンに比べて劣るものの、アルコール、ケトン。カルボン酸の三種の生成物が確認出来た。また、パラ位に電子供与基であるメトキシ基を有するp−メトキシトルエンの反応では、反応が充分進行せず、低TONで生成物を与えたが、対応するカルボン酸は得られなかった。
【0065】
【化4】

【0066】
【表9】

【0067】
<エチルベンゼンの酸化反応>
エチルベンゼンについてトルエンと同様の条件での反応を行った。トルエンの酸化反応では、反応が進行するにつれて生成する安息香酸が反応を阻害している原因であると考えられるが、トルエン以外の基質では安息香酸が生成しないことが予想される為、高い収率が期待できる。そこで、エチルベンゼン(5mL)、触媒としてピバリン酸銅(0.03 mmol, 8.0 mg)を用い、次式に示す反応を行った(化5)。
【0068】
エチルベンゼンの酸化反応は高い収率で対応するアルコールとケトンを得た。その要因としては、ベンジル位にメチル基が存在する為、中間体のラジカルがより安定である事が挙げられる。また、トルエンの場合の様に生成物が反応を阻害する様子も見られない。結果を酸素基準の収率に換算すると98%であった。また、痕跡量の安息香酸が得られた。表10にエチルベンゼンの空気酸化についての反応温度の検討結果を示す。
【0069】
【化5】

【0070】
【表10】

【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】ピバリン酸の添加量の効果を示す図である。
【図2】酢酸銅の添加量の効果を示す図である。
【図3】反応の経時変化を示す図である。
【図4】反応温度の効果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機金属塩と、酸性度定数pKaが4.57より大きい有機酸からなる
酸化触媒。
【請求項2】
有機金属塩は、Cu(OAc)2, Co(OAc)2, Ni(OAc)2, Mn(OAc)2, Zn(OAc)2, Pd(OAc)2, (HCOO)2Cu, Cu(C2O4), Cu(acac)2, (HCOO)2Co, Co(C2O4), Co(acac)2, (HCOO)2Ni, Ni(C2O4), Ni(acac)2, (HCOO)2Mn, Mn(C2O4), Mn(acac)2, (HCOO)2Zn, Zn(C2O4), Zn(acac)2, (HCOO)2Pd, Pd(C2O4), Pd(acac)2から選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる
請求項1記載の酸化触媒。
【請求項3】
有機金属塩は、Cu(OAc)2, Co(OAc)2, Ni(OAc)2, Mn(OAc)2, Zn(OAc)2, Pd(OAc)2から選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる
請求項1記載の酸化触媒。
【請求項4】
有機酸は、tBuCOOH, 1-AdamantylCOOH, c-C6H11COOH, C2H5COOH, (CH3)2CHCOOH,(CH3CH2)2CHCOOH, (CH3CH2CH2)2CHCOOH,(CH3CH2)3CCOOH,(CH3CH2CH2)3CCOOH,CH3CH2CH2COOH,CH3CH2CH2CH2COOH,CH3CH2CH2CH2CH2COOH,CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)2CCOOH,CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)CHCOOHから選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる
請求項1記載の酸化触媒。
【請求項5】
有機酸は、tBuCOOH, 1-AdamantylCOOH, c-C6H11COOH, C2H5COOHから選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる
請求項1記載の酸化触媒。
【請求項6】
有機金属塩は、Cu(OAc)2, Co(OAc)2, Ni(OAc)2, Mn(OAc)2, Zn(OAc)2, Pd(OAc)2から選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなり、
有機酸は、tBuCOOH, 1-AdamantylCOOH, c-C6H11COOH, C2H5COOHから選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる
請求項1記載の酸化触媒。
【請求項7】
無機金属化合物と、酸性度定数pKaが4.57より大きい有機酸からなる
酸化触媒。
【請求項8】
無機金属化合物は、Cu2O, CuO, Cu2S, CuS, Cu2Se, CuSe, CuTe, CuTe2から選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる
請求項7記載の酸化触媒。
【請求項9】
無機金属化合物は、Cu2O, CuO, CuClから選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる
請求項7記載の酸化触媒。
【請求項10】
有機酸は、tBuCOOH, 1-AdamantylCOOH, c-C6H11COOH, C2H5COOH, (CH3)2CHCOOH, (CH3CH2)2CHCOOH, (CH3CH2CH2)2CHCOOH, (CH3CH2)3CCOOH, (CH3CH2CH2)3CCOOH, CH3CH2CH2COOH, CH3CH2CH2CH2COOH, CH3CH2CH2CH2CH2COOH, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)2CCOOH, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)CHCOOHから選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる
請求項7記載の酸化触媒。
【請求項11】
有機酸は、tBuCOOH, 1-AdamantylCOOH, c-C6H11COOH, C2H5COOHから選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる
請求項7記載の酸化触媒。
【請求項12】
無機金属化合物は、Cu2O, CuO, CuClから選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなり、
有機酸は、tBuCOOH, 1-AdamantylCOOH, c-C6H11COOH, C2H5COOHから選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる
請求項7記載の酸化触媒。
【請求項13】
酸性度定数pKaが4.57より大きい有機酸の塩からなる
酸化触媒。
【請求項14】
塩は、Cu[OC(O)tBu]2, Co[OC(O)tBu]2, Ni[OC(O)tBu]2, Mn[OC(O)tBu]2, Zn[OC(O)tBu]2, Pd[OC(O)tBu]2, Cu[O(CO)1-Adamantyl]2, Cu[O(CO)c-C6H11]2, Cu[O(CO)C2H5]2から選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる
請求項13記載の酸化触媒。
【請求項15】
塩は、Cu[OC(O)tBu]2, Co[OC(O)tBu]2から選ばれる1種、または双方の混合物からなる
請求項13記載の酸化触媒。
【請求項16】
無機金属塩と、酸性度定数pKaが4.57より大きい有機酸の塩からなる
酸化触媒。
【請求項17】
無機金属塩は、CuCl, CuCl2, CuSO4, Cu(NO3)2, CuCN, Cu(CN)2, CuBr, CuF, CuI, CuCO3, Cu(OH)2から選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる
請求項16記載の酸化触媒。
【請求項18】
塩は、tBuCOONa, 1-AdamantylCOONa, c-C6H11COONa, C2H5COONa, (CH3)2CHCOONa, (CH3CH2)2CHCOONa, (CH3CH2CH2)2CHCOONa, (CH3CH2)3CCOONa, (CH3CH2CH2)3CCOONa, CH3CH2CH2COONa, CH3CH2CH2CH2COONa, CH3CH2CH2CH2CH2COONa, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)2CCOONa, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)CHCOONa, tBuCOOLi, 1-AdamantylCOOLi, c-C6H11COOLi, C2H5COOLi, (CH3)2CHCOOLi, (CH3CH2)2CHCOOLi, (CH3CH2CH2)2CHCOOLi, (CH3CH2)3CCOOLi, (CH3CH2CH2)3CCOOLi, CH3CH2CH2COOLi, CH3CH2CH2CH2COOLi, CH3CH2CH2CH2CH2COOLi, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)2CCOOLi, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)CHCOOLi, tBuCOOCs, 1-AdamantylCOOCs, c-C6H11COOCs, C2H5COOCs, (CH3)2CHCOOCs, (CH3CH2)2CHCOOCs, (CH3CH2CH2)2CHCOOCs, (CH3CH2)3CCOOCs, (CH3CH2CH2)3CCOOCs, CH3CH2CH2COOCs, CH3CH2CH2CH2COOCs, CH3CH2CH2CH2CH2COOCs, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)2CCOOCs, CH3CH2CH2CH2CH2(CH3)CHCOOCsから選ばれる1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる
請求項16記載の酸化触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−189939(P2009−189939A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32679(P2008−32679)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年11月16日 第40回酸化反応討論会実行委員会事務局発行の「第40回酸化反応討論会講演要旨集」に発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】