説明

酸化還元法におけるホスフィン酸および/またはホスホン酸の使用

本発明は、ホスフィン酸および/またはホスホン酸ならびにそれらの塩の、好ましくは表面活性物質としての、酸化還元法における、特に電気めっき法における、特に好ましくは電気めっき浴における使用、およびまたこれらの化合物を含有する電気めっき浴に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスフィン酸および/またはホスホン酸ならびにそれらの塩の、好ましくは表面活性物質としての、酸化還元法における、特に電気めっき法における、特に好ましくは電気めっき浴における使用、およびこれらの化合物を含有する電気めっき浴に関する。
【背景技術】
【0002】
表面コーティングを工業品や一般品に適用するのに用いる電気めっき法は、以前から知られている。適用された表面コーティングは、物品に特定の機能上および/または装飾上の表面特性、例えば、硬度、耐食性、金属外観、光沢などを与える。電気めっきによる表面コーティングでは、堆積させるための金属は、塩としての溶解した金属を少なくとも含む浴から、直流により、陰極として接続された物品上に堆積する。被覆される物品は一般的に金属性の材料から構成される。そうではなく、基材がそれ自体導電性でない場合には、その表面を、例えば、薄膜金属化により導電性とすることができる。ニッケルまたはクロムを含む電気めっき浴は通常、特に硬く、機械的耐久性のある層を製造するための工業用途に用いられる。
【0003】
特に技術的に関連するのは、例えば、装飾用途のためまたは工業用途における物品のための硬化コーティングとしての、電気めっき法におけるクロムの適用である。装飾用途の場合には、つやがあって高反射性のクロム層であることが望ましい。工業用途(ハードクロムめっきとしても知られている)の場合には、適用されるクロム層は低摩擦性、耐熱性、耐食性であり、かつ磨耗に対して安定でなければならない。この種類のクロムめっき品は、例えば、ピストン、シリンダー、シリンダーライナーまたはジャーナルベアリングである。
【0004】
電気クロムめっきは通常、クロム(VI)塩および硫酸を含む電気めっき浴中で、不溶性の鉛−アンチモンまたは鉛−錫陽極を用いて実施される。ここで最も一般的なクロム(VI)塩は、CrOである。Cr(VI)溶液の健康および環境に危険を及ぼす性質により、代わりにCr(III)塩を含む電気めっき浴を用いることが提案されている。しかし、Cr(III)溶液から得られるクロム層は、特に工業用途において望ましくない微細構造を有することが見出されている。この理由のため、クロム(VI)によるクロムめっきは引き続き工業的に特に重要である。
【0005】
電気めっき法、特にクロム(VI)溶液によるクロムめっきにおける主要な問題は、ガス発生、特に水素の発生が起こること、および程度は小さいが、陽極で酸素が発生することであり、これは酸性で、腐食性の、そして場合によってはさらに毒性でもあるスプレーミストの形成をもたらす。これを阻止するために、表面活性物質、例えば界面活性剤を、通常電気めっき浴に加える。
【0006】
それ故、米国特許第4,006,064号では、クロムめっきにおける表面活性物質として第4級化アンモニウムパーフルオロアルカンスルホネートを用いることが提案されている。その結果、化学的に関連するパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOSA)が、クロムめっきにおいて現在頻繁に用いられている。しかし、近年では、この化合物が生分解性ではなく、組織内に蓄積し、蓄積毒性を有することから、この化合物の使用は徐々に制限されてきている。
【0007】
したがって、より容易に分解し、酸に対する適切な安定性と高い電気化学的安定性とを有し、さらに電気めっきの最中の望ましくないスプレーミストの形成を減らすことができる、電気めっき浴における代替的な表面活性物質の使用のための切迫した要求がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、上述した基準をさらに満たす電気めっき浴用の代替的な表面活性物質を見出すことにあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的は、ホスフィン酸および/またはホスホン酸またはそれらの塩の、特に酸化還元法における表面活性物質としての、特に電気めっき技術における、好ましくは電気めっき浴における、特にクロムめっき用電気めっき浴における使用により達成される。
【0010】
本発明において、酸化還元法は、金属層を電気化学的手法により、もしくは化学的酸化還元反応により支持体上に堆積させる、または表面上に存在する層を酸化還元反応により対応して改質する、全ての方法を意味することとする。化学的酸化還元反応は、通常無電流の表面処理方法であり、通常化学剤を用いて行われる。この種類の方法は、当業者に知られている。
【0011】
本発明において、電気めっき技術は、当業者に知られている、材料の電気化学的表面処理の全ての種類を、最も広い観念において意味することとする。電気化学的表面処理の場合、これは、電解析出または金属もしくは非金属層の化成を介して、特に装飾、腐食防止または改善した性質を有する複合材料の製造の目的のために行われる。本発明において、電気めっき技術は、特に、電鋳、電気めっきの双方、さらには電気化学的な不動態化を意味することとする。
【0012】
電鋳は、電析による物品の製造または再製造(reproduction)に用いられる。この目的のために、原型の、石膏、ロウ、グッタペルカ、シリコーンゴム、低融点金属合金などの印象(ネガティブ、中空型)をまず製造する。鋳造物は、表面を導電性にした後(金属の化学的堆積または蒸着により)、電気めっき液における陰極として、堆積させる金属(例えばCu、Ni、Agなど、陽極)で被覆される。電気分解の完了後、形成された金属層は、型から外し、任意に、補強のために充填材で裏打ちすることができる。
【0013】
本発明による電気めっき技術は、好ましくは電気めっきであり、これは、通常極めて薄い、保護および装飾用の、例えば、銀、金、ニッケル、クロム、銅、亜鉛、アルミニウムなどのコーティングによる、価値の低い基材(例えば鉄製のもの)上への、電流を用いた物品のコーティングのための方法である。本発明において、電気めっき技術の語はまた、例えば、エロキザル(eloxal)法の語で当業者に知られている、電気化学的な不動態化法をさらに包含する。本発明において、エロキザル法は、特に、アルミニウムおよびアルミニウム合金の陽極酸化のための電解法であって、それによりワークピース表面上に著しく強化された保護酸化層が製造されるものを意味することとする。対応するエロキザル法であって、それにより装飾用または工業用の機能的な酸化層が製造されるものは、当業者に知られている。前記層の利点は、強い付着性、30μm以下の厚さ、腐食保護、硬度および耐摩耗性、装飾効果、機械的耐久性、電気絶縁性および毒性学的許容性である。
【0014】
本発明による使用は、好ましくは電気めっき浴の形態の電気めっきに関する。
【0015】
用いられるホスフィン酸またはそれらの塩は、好ましくは、一般式(I)
RfRfP(O)O−X (I)
式中、RfおよびRfは互いに独立して、分枝状または非分枝状の式C2n−z+1(式中、n=2〜8、z=0〜3である)のアルキル鎖を示し、X=H、アルカリ金属またはアンモニウムまたはホスホニウムである
で表される。一般式(I)の化合物は、これらが光学システムに用いられているWO 03/82884から知られている。
【0016】
ホスホン酸またはそれらの塩は一般式(II)
RfP(O)(O−X)(O−X’) (II)
式中、Rfは分枝状または非分枝状の式C2n−z+1(式中、n=2〜8、z=0〜3である)のアルキル鎖を示し、XおよびX’は互いに独立して、H、アルカリ金属、アンモニウムまたはホスホニウムである
で表される。
【0017】
本発明によれば、XおよびX’はアルカリ金属、特にリチウム、ナトリウムまたはカリウム、好ましくはカリウムまたはナトリウムである。
【0018】
Xがアンモニウムの場合には、アンモニウムカチオンは一般式(III)
[NR (III)
式中、Rはそれぞれの場合に、互いに独立して、
H、
1〜20のC原子を有する直鎖または分枝状アルキル、
3〜7のC原子を有する飽和シクロアルキル、アリールまたはアルキルアリールであって、1〜6のC原子を有するアルキル基で置換されていてもよいもの
を示し、ここで1または2以上のRは部分的にまたは完全にハロゲン、特に−Fにより置換されていてもよい
で表されるものから選択することができる。
【0019】
Xがホスホニウムの場合には、ホスホニウムカチオンは一般式(IV)
[PR] (IV)
式中、
Rはそれぞれの場合に、互いに独立して、
H(ただし、全てのRが同時にHであることはない)、
1〜20のC原子を有する直鎖または分枝状アルキル、
3〜7のC原子を有する飽和シクロアルキル、アリールまたはアルキルアリールであって、1〜6のC原子を有するアルキル基で置換されていてもよいもの
を示し、ここで1または2以上のRは部分的にまたは完全にハロゲン、特に−Fにより置換されていてもよい
で表されるものから選択することができる。
【0020】
前記ホスフィン酸またはそれらの塩において、RfおよびRfは同一であっても異なっていてもよく、RfおよびRfは好ましくは同一である。前記ホスホン酸において、XおよびX’は同一であっても異なっていてもよく、XおよびX’は好ましくは同一である。
RfおよびRfのアルキル鎖は好ましくは非分枝である。特に好ましい一般式(I)のホスフィン酸または一般式(II)のホスホン酸は、式中n=2、3、4または6、z=0およびX=Hまたはアルカリ金属、アンモニウムもしくはホスホニウムであるもの、特に式中X=Hまたはアルカリ金属であるものである。下記のホスフィン酸がそれゆえに特に好ましい:(CP(O)OH、(CP(O)OH、(CP(O)OHおよび(C13P(O)OHならびに対応するアルカリ金属塩、アンモニウム塩およびホスホニウム塩。またそれゆえに、(C)P(O)(OH)、(C)P(O)(OH)、(C)P(O)(OH)および(C13)P(O)(OH)ならびに対応するアルカリ金属塩、アンモニウム塩またはホスホニウム塩が好ましいホスホン酸である。
【0021】
本発明のさらなる態様では、ホスフィン酸および/またはホスホン酸は、さらなる表面活性物質と組み合わせて用いることができる。当業者に知られている表面活性物質の全ての種類が基本的にこの目的のために好ましいが、前記表面活性物質は好ましくは、パーフルオロアルキルスルホン酸塩の群、特にパーフルオロオクチルスルホン酸(PFOSA)またはそれらの塩から選ばれる。しかし、ホスフィン酸および/またはホスホン酸の使用は、多くの場合、添加する表面活性物質の割合を低減することを可能にする。
【0022】
前記ホスフィン酸およびホスホン酸ならびにそれらの塩は、電流に基づくまたは無電流の酸化還元法の浴液において広く用いられている条件下で安定である。これにより、前記ホスフィン酸およびホスホン酸はまた、強酸性かつ強酸化性媒体、例えば、熱クロム酸などに対して抵抗性であり、高い電気化学的安定性を有し、かつ酸化還元法において低い表面張力を有する浴液をもたらす。表面張力の低下は、適用に際して下記の多くの利益を有し得る。
1.処理するワークピースの濡れを改善し、表面処理ムラを減らす。
2.分散固体粒子(例えば、無電流ニッケル法のある種の変法におけるフッ素ポリマーの分散固体粒子)の濡れを簡単にする。
3.浴からワークピースを除去する際の、浴液の流れ落としおよび滴下を簡単にする。これは、浴からの材料の損失を減らすとともに浴液の寿命を長くし、直接の経済的利点を示す。
4.浴表面の気泡の形成を簡単にし、かつ/または泡が破裂する際に放出されるエネルギーを減らす。これは、特にガス発生を伴う電流に基づく方法において、潜在的な毒性のスプレーミストの減少、これによる作業安全性の改善をもたらす。
【0023】
さらに、ホスフィン酸およびホスホン酸はアルカリ溶液中で加水分解され得、そこでは、環境に有害ではない炭化水素RHが形成され、これは大気中で光酸化し得るとともにオゾン損傷の可能性がゼロである。これは、使用済の電気めっき浴を、表面活性物質の破壊により、より簡単に化学処理することが今やできるため、パーフルオロアルキルスルホン酸およびそれらの塩の使用と比較して特に有利である。本発明により主張する、電流に基づくまたは無電流の酸化還元法の浴液におけるパーフルオロアルキルスルホン酸およびそれらの塩の全部または一部の置換は、難分解性で、毒性のある、生物蓄積性のパーフルオロアルキルスルホン酸、例えば、パーフルオロオクチルスルホン酸塩などの環境への放出を減らす。
【0024】
さらに、前記化合物は、それらが電気めっき浴において使用された場合、非分解性の化学廃棄物による長期間にわたる環境汚染の危険性が少ないという利点を有する。
ホスフィン酸および/またはホスホン酸ならびにそれらの塩は、原則として、当業者に知られている全ての電気めっきに適しており、特にクロムめっき用電気めっき浴に適している。クロムめっき用電気めっき浴は特に高い毒性を有するが、結果としてスプレーミストを、特にクロムめっきの最中に減らすことができる。
電気めっき浴中に溶解しているCr(VI)塩の高い酸化電位により、これらの浴の場合には、表面活性物質の化学的および電気化学的安定性について特に高い要求がなされるが、その要求は前記ホスフィン酸およびホスホン酸ならびにそれらの塩により満たされる。
【0025】
したがって、本発明はまた、電気めっき浴、特にクロムめっき用のものであって、ホスフィン酸および/またはホスホン酸ならびにそれらの塩、特に一般式(I)および(II)で表されるものを含む、電気めっき浴に関する。好ましいのは、(CP(O)OH、(CP(O)OH、(CP(O)OH、(C13P(O)OH、(C)P(O)(OH)、(C)P(O)(OH)、(C)P(O)(OH)および/または(C13)P(O)(OH)または対応するアルカリ金属塩を含む電気めっき浴である。
【0026】
本発明の電気めっき浴は、原則として、任意の種類の電気めっき法、特に亜鉛めっきまたはクロムめっき用の、装飾用途および工業用品の硬化コーティングの双方のための電気めっき法に適している。
亜鉛の場合には、当業者に知られている全ての電気亜鉛めっき法が、本発明による使用に適している。これらは通常、直流を用いた、水溶性電解質中での亜鉛コーティングの適用により行われる。大抵は、シアン化物を含まない酸性電解質またはシアン化物系(cyanidic)酸性電解質が用いられるが、シアン化物を含まないアルカリ性電解質またはシアン化物系アルカリ性電解質も用いられる。適用される亜鉛層は2.5〜25μmである。
【0027】
電気めっき浴は好ましくは、クロムめっき用浴、エロキザル法用浴または亜鉛めっき用電気めっき浴である。
本発明によるクロムめっき用電気めっき浴は、特に好ましくはCr(VI)イオンを、200〜400g/l、特に220〜270g/l、極めて特に好ましくは250g/lに相当する量で含む。Cr(VI)イオンを供給する化合物は好ましくは、無水クロム酸(CrO)および/または重クロム酸アルカリ金属、例えば、NaCrおよびKCrなどから選ばれる。重クロム酸アルカリ金属のうち、KCrが好ましい。特に好ましい態様では、Cr(VI)イオンを供給する化合物は、無水クロム酸である。さらなる態様では、Cr(VI)イオンを供給する化合物の一部は、1または2種以上の重クロム酸アルカリ金属、特に重クロム酸カリウムである。この態様では、Cr(VI)イオンの好ましくは30重量%未満、特に好ましくは15重量%未満が、重クロム酸アルカリ金属により供給される。
【0028】
クロムめっき用電気めっき浴は、さらに好ましくは、硫酸および/または硫酸の可溶性塩の形態の硫酸イオンを含む。用いることのできる硫酸の可溶性塩は、好ましくは、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸ストロンチウム、硫酸アルミニウムおよび硫酸カリウムアルミニウムから選ばれる。電気めっき浴中のCr(VI)イオンの硫酸イオンに対するモル濃度比は、通常80:1〜125:1、好ましくは95:1〜105:1、極めて特に好ましくは100:1である。
【0029】
さらに、本発明による電気めっき浴は、追加の添加剤および助剤、例えば、導電性の塩、湿潤剤および発泡を阻害する添加剤などをさらに含んでいてもよい。電気めっき浴におけるこれらの助剤の使用は、当業者に十分に知られている。さらに、電気めっき浴は、追加の表面活性化合物、特にパーフルオロアルキルスルホン酸塩の群からのものを含んでいてもよい。
【0030】
本発明によるクロムめっき用電気めっき浴は、当業者に知られている全ての電気めっき設備において、そこでの標準的な作業手順で、通常供給される基材への通常のコーティング目的のために用いることができる。そのような基材は、導電性物質、例えば、金属、特にスチールなどから作られる物品、および金属化された、非導電性物質、例えばプラスチックから作られる物品であることができる。ここで、前記物品は、任意の所望の形状を有することができる。プラスチックのコーティングは、通常プラスチック電気めっきとしても知られている。プラスチック電気めっき(プラスチック金属化としても知られている)は、ここで、金属層によるプラスチックの電着(electrocoating)を意味することとする。
【0031】
基材としてのプラスチックの利点は多岐にわたる。低重量、腐食しないこと(insensitivity to corrosion)、射出成型によるブランクの安価な製造および機械的表面処理の省略が、基材としてプラスチックが関心をひく主な理由である。例えば、電気めっきされる外付け部品(ドアハンドル、レタリング、装飾用トリム、ラジエーターグリルなど)のために自動車産業で用いられる基材は、かつては専ら金属(スチール、真鍮、亜鉛ダイキャスト)であったが、それらは今日ではほとんど完全に電気めっきされたプラスチックに置き換わっている。その用途は多岐にわたるとともに全ての産業分野に、装飾用だけでなく、工業目的、例えば、携帯電話のシールドなどにも広まっている。
【0032】
プラスチックは通常導電性でないため、その後に続く電解コーティングのために、まずその表面を、強い付着性を有する導電性の層で覆わなければならない。様々な方法が原則としてこの方法のために使用できる:
・PVD(物理気相成長法)
・PECVD(プラズマ化学気相成長法)
・溶射
・パラジウム活性化による化学的コーティング
・化学エッチング法(化学的結合力)
・プラズマ前処理(物理的結合力)
・機械的粗化(機械的結合力)
【0033】
方法に応じて、様々なプラスチックを被覆することができるとともに様々な付着強度が達成される。個々の方法は、下記のように要約できる。
PVD:
高真空で、「標的」(コーティング物質)に粒子を使って衝撃が与えられる。厚さ3〜5μmまでの層が、コーティング物質の脱離および基材上への加速により、一般的に堆積される。被覆可能なプラスチックは、特に、減圧に適していなければならない。これは、プラスチックのガス放出挙動および水吸収に大きく影響される。
【0034】
PECVD:
純粋な「CVD」法(化学気相成長法)は、>500℃で化学反応により物質の堆積を促進する。プラスチックは一般的に、これらの温度に耐えられない。処理温度を下げるためには、PVD法およびCVD法を組み合わせた方法を使用することができる(PECVD)。
溶射:
コーティング物質の加熱、粒子の脱離および加速ならびに基材に与える衝撃により、粒子が表面上に固化する。層厚は、通常>50μm程度である。
【0035】
化学エッチング法:
全てのプラスチックが、化学エッチング法による電着に適しているわけではない。工業的には、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体)およびABS−PCプラスチックの電気めっきが最も普及している。
【0036】
PA6.6、PEI、液晶ポリマー(パラジウムをドープしたもの)などの他のプラスチックも同様に、これらの方法を使用して金属化することができる。
ABSプラスチックの電気めっきにおける第1の工程は、粗面化である。クロム酸/硫酸の洗い浴では、ABSの成分であるブタジエンが表面から溶出し、微細領域の空洞が形成される。錫の鞘に囲まれたパラジウム核は、これらの空洞内に組み込まれている。さらなる工程では、空洞内で核を付着させている錫の鞘を、核が露出する程度に除去する。次の工程である、化学ニッケルめっき(外部電流なし)では、パラジウムの高い標準電位が反応を開始させる。ここで、それ自体が酸化される還元剤が、ニッケルの堆積のために必要な電子を放出する。これは最初の薄い導電性ニッケル層の形成をもたらし、それは空洞を充填することによりプラスチックと強い機械的ダブテール結合を有するとともに対応して良好に付着する。
その後、慣用の系をこの層上に構成することができ、例えば、装飾用の電気めっき技術として広く用いられている、銅・ニッケル・クロム系を適用することができる。
【0037】
プラズマコーティング:
プラズマは真空乾燥機内で発生させる。プラスチック表面のプラズマの物理反応により、表面に改質がおこりその金属化能(metallisability)を改善する。
【0038】
機械的粗化:
粗化方法、とりわけ例えば、研削(grinding)、サンドブラスト、研磨(polishing)などは、プラスチックの表面を、機械的な付着をもたらすために機械的に改質することを可能にする。
【0039】
これらの方法の組み合わせは、例えば、META−COAT法である。
【0040】
本発明はさらに、本発明による電気めっき浴の、金属層、特にクロム層の適用のための使用に関する。本発明はまた、本発明による電気めっき浴を用いた、金属層の適用のための方法に関する。本発明による方法は、好ましくはクロム層の適用のために使用される。
【0041】
本発明による方法は、作業安全性に比してより容易に実行されるとともに、対応する作業後に、環境的に有害な残留物が少ないという利点を有する。
【0042】
本発明による電気めっき浴は、30〜70℃の間の温度で本発明による方法に有利に用いることができる。装飾用途では、特に30〜50℃、とりわけ約43℃の温度で使用される。工業用途では、温度は、通常40〜65℃、特に50〜60℃である。
【0043】
クロム層の適用に用いられる電流密度は、通常7.0〜65A/dmである。装飾用途では、特に7.5〜17.5A/dm、工業用途では、特に30〜65A/dmの電流密度が用いられる。
【0044】
これ以上の説明がなくとも、当業者は上記の記載を最も広い範囲で利用することが可能であると考えられる。したがって、好ましい態様および例は、単に説明的な開示であると考えられるべきであって、如何なる意味においても決して限定するものではない。
【0045】

A)表面張力の減少の測定
(CP(O)OHを蒸留水に様々な濃度で溶解させる。得られた溶液の表面張力をリング法で測定する。この目的のために、それぞれのケースにおいて、約80mlの測定すべき溶液を測定皿内へ移し、表面張力測定器(モデル K12、Kruess製、ハンブルグ)内に配置する。実際の測定は、20℃(±0.2℃)への温度均一化を達成するために、約15分後に開始する。試料容器をリングの下方へ手動で上げた後、自動測定処理を開始する。測定器は、リングおよび試料皿の幾何学的データを考慮して静的表面張力を決定するが、そこでは、液層(liquid lamella)をはがすことなくリングを溶液外に移動させるために必要な力が測定される。測定系は、最終的な値(10回の個別の測定の平均値)が±0.05mN/mの標準偏差の許容範囲内となるように設定する。この目標値に達した後にプリントアウトされる測定プロトコールは、全ての関連する測定データを含む。
【0046】
その結果は、表1に再現され、ホスフィン酸の添加が溶液の表面張力の著しい減少をもたらすことを示す。
【0047】
【表1】

【0048】
B)クロム酸における安定性
600mgの(CP(O)OHをCr(VI)イオン(300g/lのCrOおよび3g/lのHSO)を含有する溶液10mlと混合する。混合液を65℃で48時間加熱する。ホスフィン酸は、19F−および31P−NMR分析により、加熱後に化学的に改質されていない形態で定量される。したがって、(CP(O)OHは熱クロム酸に対して安定である。
【0049】
C)電気化学的安定性
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(ペンタフルオロエチル)ホスフィナートのサイクリックボルタモグラムを、濃度0.5Mのアセトニトリル中、室温で測定する。作用電極としてガラス状炭素電極を、対向電極としてPt電極を、参照電極としてAg/AgNO(CHCN)を使用する。電位値は、フェロセンのE°に標準化する。
3.6Vの酸化電位E(ox)および−2.6Vの還元電位E(red)が定量される。この測定値は、(CP(O)Oアニオンを含有する化合物が電気化学的酸化に対して安定であり、クロムめっき用電気めっき浴における使用に好適であることを実証する。
【0050】
D)分解性
4.5mlの20%NaOHを、450mlの(CP(O)OHに加える。(CP(O)ONaの沈殿が形成される。沈殿は3日以内に完全に溶解し、(CP(O)(ONa)およびCHが形成される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化還元法におけるホスフィン酸および/またはホスホン酸またはそれらの塩の使用。
【請求項2】
酸化還元法が、電気めっき技術の方法であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
電気めっき浴を用いることを特徴とする、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
ホスフィン酸またはそれらの塩が、一般式(I)
RfRfP(O)O−X (I)
式中、RfおよびRfは互いに独立して、分枝状または非分枝状の式C2n−z+1(式中、n=2〜8、z=0〜3である)のアルキル鎖を示し、X=H、アルカリ金属またはアンモニウムまたはホスホニウムである
で表されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
ホスホン酸またはそれらの塩が、一般式(II)
RfP(O)(O−X)(O−X’) (II)
式中、Rfは分枝状または非分枝状の式C2n−z+1(式中、n=2〜8、z=0〜3である)のアルキル鎖を示し、XおよびX’は互いに独立して、H、アルカリ金属またはアンモニウムまたはホスホニウムを示す
で表されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
ホスフィン酸が、(CP(O)OH、(CP(O)OH、(CP(O)OHおよび(C13P(O)OHならびにそれらの対応するアルカリ金属塩から選ばれることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
ホスホン酸が、(C)P(O)(OH)、(C)P(O)(OH)、(C)P(O)(OH)および(C13)P(O)(OH)ならびにそれらの対応するアルカリ金属塩から選ばれることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
クロムめっき用電解めっき浴を用いることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の使用。
【請求項9】
エロキザル法または亜鉛めっき用電解めっき浴を用いることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の使用。
【請求項10】
ホスフィン酸および/またはホスホン酸またはそれらの塩が、さらなる表面活性物質と組み合わせて用いられることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の使用。
【請求項11】
表面活性物質が、パーフルオロアルキルスルホン酸塩の群から選ばれることを特徴とする、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
ホスフィン酸および/またはホスホン酸またはそれらの塩を含む電気めっき浴。
【請求項13】
(CP(O)OH、(CP(O)OH、(CP(O)OH、(C13P(O)OH、(C)P(O)(OH)、(C)P(O)(OH)、(C)P(O)(OH)および/または(C13)P(O)(OH)またはそれらの対応するアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはホスホニウム塩を含むことを特徴とする、請求項12に記載の電気めっき浴。
【請求項14】
Cr(VI)イオンおよび硫酸イオンを、硫酸および/または硫酸の可溶性塩の形態で含むことを特徴とする、請求項12または13に記載の電気めっき浴。
【請求項15】
電気めっき浴における、Cr(VI)イオンの硫酸イオンに対するモル濃度比が80:1〜125:1であることを特徴とする、請求項12〜14のいずれかに記載の電気めっき浴。
【請求項16】
表面活性物質をさらに含むことを特徴とする、請求項12〜15のいずれかに記載の電気めっき浴。
【請求項17】
表面活性物質が、パーフルオロアルキルスルホン酸塩の群から選ばれることを特徴とする、請求項16に記載の電気めっき浴。
【請求項18】
金属層の適用のための請求項12〜17のいずれかに記載の電気めっき浴の使用。
【請求項19】
金属層がクロム層であることを特徴とする、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
請求項12〜17のいずれかに記載の電気めっき浴を使用することを特徴とする、金属層の適用のための方法。
【請求項21】
金属層がクロム層であることを特徴とする、請求項20に記載の方法。

【公表番号】特表2009−538982(P2009−538982A)
【公表日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−512443(P2009−512443)
【出願日】平成19年5月4日(2007.5.4)
【国際出願番号】PCT/EP2007/003966
【国際公開番号】WO2007/140850
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】