説明

酸化酵素の活性向上方法

【課題】本発明の目的は、グルコースデヒドロゲナーゼ及び/又はジアホラーゼの酵素活性を高め、これらの酸化酵素反応の効率を向上させる技術、とりわけ、バイオ燃料電池の出力増加をもたらし得る酵素反応技術を提供することである。
【解決手段】グルコースデヒドロゲナーゼ及び/又はジアホラーゼを用いた酵素反応において、特定構造のベタイン誘導体を添加することによって、酵素反応効率を著しく向上させることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコースデヒドロゲナーゼ及び/又はジアホラーゼの酵素活性を高め、これらの酸化酵素反応の効率を向上させることができる技術、とりわけバイオ燃料電池における負極で電子を放出させる酵素反応系に好適に適用される技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、負極又は正極の少なくとも一方の電極上に触媒として酸化還元酵素を固定したバイオ燃料電池が注目されている。このバイオ燃料電池は、グルコース等の燃料を酵素により分解してプロトン(H+)と電子とに分離することにより、燃料の持つ化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換することが可能になっている。現在では、バイオ燃料電池は、大規模発電、自動車の駆動用電源、パソコンやモバイル機器等のポータブル電源等への幅広い応用が試みられている。
【0003】
グルコースを燃料として用いるバイオ燃料電池は、負極でグルコースの酸化反応が進行し、正極で大気中の酸素の還元反応が進行するように構成されている。当該バイオ燃料電池の代表的なものは、負極においては、グルコース、グルコースデヒドロゲナーゼ、補酵素、ジアホラーゼ、電子メディエーター、電極の順で、電子が受け渡されるように設計されている。
【0004】
一方、一般に、酵素反応は、生成物やエフェクター分子との結合によって反応過程で反応速度が頭打ちになる場合が多い。このような酵素反応が頭打ちとなる現象は、酵素反応を利用する技術分野で問題となっており、バイオ燃料電池の場合もその例外ではない。即ち、バイオ燃料電池の実用化への障壁の一つとして、電極における酵素反応が頭打ちになり、負極から正極に受け渡される電子量が少なく、他の燃料電池に比して出力が小さいという問題が挙げられる。そのため、バイオ燃料電池において、酸化酵素(特に、グルコースデヒドロゲナーゼ及びジアホラーゼ)の反応効率を向上させ得る技術を開発できれば、バイオ燃料電池の実用化に多大なる貢献をもたらすと考えられる。
【0005】
従来、酵素反応において、酵素活性を高める技術は報告されている。例えば、非特許文献1には、アルコールを酵素反応溶液に添加することにより酵素活性を向上させる方法が開示されている。非特許文献2には、ポリエチレングリコールを酵素反応溶液に添加することによって、酵素活性を向上できることが開示されている。非特許文献3には、グリシンが酵素活性を向上させることも開示されている。特許文献1には、特定構造のベタイン誘導体が酵素活性を向上させることも開示されている。しかしながら、酵素の種類は多種多様であり、酵素活性を高める技術は、使用する酵素の種類に応じて検討しなければならず、非特許文献1〜3及び特許文献1に開示されている技術も、あらゆる酵素の活性向上に適用できる訳ではない。実際に、非特許文献1〜3及び特許文献1に開示されている技術を適用しても、酵素活性の向上が認められない酵素も多数存在することが確認されている。更に、非特許文献1〜3及び特許文献1には、酸化酵素の活性を向上させる技術的手段については一切開示されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S. N. Timasheff, Adv. Protein Chem., 51, 355 (1998)
【非特許文献2】K. Hayashi, et al., Nucleic Acids Res., 14, 7817 (1986)
【非特許文献3】V. Vathipadiekal, et al., Biol. Chem., 388, 61 (2007)
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-220607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、酸化酵素の酵素活性を高めて、反応効率を向上させるための具体的解決策は提言されていない。特に、バイオ燃料電池の出力増加をもたらし得る酸化酵素の活性を向上させる手法については、何ら知られていない。
そこで、本発明は、グルコースデヒドロゲナーゼ及び/又はジアホラーゼの酵素活性を高め、これらの酸化酵素反応の効率を向上させる技術、とりわけ、バイオ燃料電池の出力増加をもたらし得る酵素反応技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべき鋭意検討を行ったところ、グルコースデヒドロゲナーゼ及び/又はジアホラーゼを用いた酵素反応において、特定構造のベタイン誘導体を添加することによって、酵素反応効率を著しく向上させることが可能になることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 下記一般式(1)に示すベタイン誘導体の存在下で、グルコースデヒドロゲナーゼ及び/又はジアホラーゼを用いた酵素反応を行うことを特徴とする、酵素反応方法。
【化1】

[一般式(1)中、R1〜R3は、同一又は異なって、炭素数1〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基、R4は、COO又はSO、nは、1〜5の整数を示す。]
項2. グルコースデヒドロゲナーゼ及びジアホラーゼを組み合わせて同一反応系で酵素反応を行う、項1に記載の酵素反応方法。
項3. グルコースデヒドロゲナーゼ及びジアホラーゼの少なくとも1つ及び下記一般式(1)に示すベタイン誘導体を含む負極を有する、バイオ燃料電池。
【化2】

[一般式(1)中、R1〜R3は、同一又は異なって、炭素数1〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基、R4は、COO又はSO、nは、1〜5の整数を示す。]
項4. 下記一般式(1)に示すベタイン誘導体からなる、グルコースデヒドロゲナーゼ及び/又はジアホラーゼの酵素反応効率の向上剤。
【化3】

[一般式(1)中、R1〜R3は、同一又は異なって、炭素数1〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基、R4は、COO又はSO、nは、1〜5の整数を示す。]
項5. 項1又は2に記載の酵素反応方法を行うためのキットであって、グルコースデヒドロゲナーゼ及び/又はジアホラーゼ、並びに一般式(1)に示すベタイン誘導体を含有する、前記キット。
【化4】

[一般式(1)中、R1〜R3は、同一又は異なって、炭素数1〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基、R4は、COO又はSO、nは、1〜5の整数を示す。]
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、グルコースデヒドロゲナーゼ及び/又はジアホラーゼを用いた酵素反応において、酵素反応効率を向上させることにより、グルコースからプロトンと電子の遊離、又は酸化型補酵素(NAD、NADP等)とプロトンによる還元型補酵素(NADH、NADPH等)の生成を効率的に進行させることができる。特に、本発明は、グルコースを燃料として用いたバイオ燃料電池における電極反応系に好適に適用することができ、バイオ燃料電池の出力増加に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1において、グルコースデヒドロゲナーゼを用いた酵素反応において、ベタイン誘導体の添加による酵素反応効率を評価した結果を示す図である。
【図2】実施例2において、ジアホラーゼを用いた酵素反応において、ベタイン誘導体の添加による酵素反応効率を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.酵素反応方法
本発明の酵素反応方法は、一般式(1)に示すベタイン誘導体の存在下で、グルコースデヒドロゲナーゼ及び/又はジアホラーゼを用いた酵素反応を行うことを特徴とする。
【0014】
本発明で使用するベタイン誘導体は、以下の一般式(1)に示す構造である。
【化5】

【0015】
一般式(1)中、R1〜R3は、同一又は異なって、炭素数1〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基、好ましくは炭素数1〜4の直鎖又は分岐状のアルキル基、更に好ましくは炭素数1〜4の直鎖状のアルキル基を示す。
また、一般式(1)中、R4は、COO又はSOを示す。
また、一般式(1)中、nは、1〜5、好ましくは1〜3、更に好ましくは1又は3の整数を示す。
【0016】
グルコースデヒドロゲナーゼの酵素反応に使用する場合には、一般式(1)に示すベタイン誘導体の中でも、好ましくは、一般式(1)中、R1〜R3が、炭素数2〜4の直鎖状のアルキル基、更に好ましくは炭素数2又は4の直鎖状のアルキル基、R4が、COO、且つnが1〜3の整数、更に好ましくは1であるもの;或いはR1〜R3が、炭素数1〜3の直鎖状のアルキル基、更に好ましくは炭素数2の直鎖状のアルキル基、R4が、SO、且つnが2〜4の整数、更に好ましくは3であるものが例示される。
【0017】
また、ジアホラーゼの酵素反応に使用する場合には、一般式(1)に示すベタイン誘導体の中でも、好ましくは、一般式(1)中、R1〜R3が、炭素数1〜4の直鎖状のアルキル基、更に好ましくは炭素数1〜3の直鎖状のアルキル基、R4が、COO、且つnが1〜3の整数、更に好ましくは1であるもの;或いはR1〜R3が、炭素数1〜3の直鎖状のアルキル基、更に好ましくは炭素数1の直鎖状のアルキル基、R4が、SO、且つnが2〜4の整数、更に好ましくは3であるものが例示される。
【0018】
更に、グルコースデヒドロゲナーゼとジアホラーゼの双方を用いて同一の反応系内で双方の酸化酵素による酵素反応を行う場合には、一般式(1)に示すベタイン誘導体の中でも、好ましくは、一般式(1)中、R1〜R3が、炭素数2〜3の直鎖状のアルキル基、R4が、COO、且つnが1〜3の整数、更に好ましくは1であるもの;或いはR1〜R3が、炭素数2〜3の直鎖状のアルキル基、更に好ましくは炭素数2の直鎖状のアルキル基、R4が、SO、且つnが2〜4の整数、更に好ましくは3であるものが例示される。とりわけ、一般式(1)中、R1〜R3が、炭素数2のアルキル基、R4が、COO、且つnが1〜3の整数、特に1であるものが、双方の酸化酵素の活性を顕著に向上させ得るので好適である。
【0019】
一般式(1)に示すベタイン誘導体の製造方法については、例えば、特開2009-96766号公報等で公知であり、更に公知の有機合成法から導き出されるものである。
【0020】
本発明の酵素反応方法では、酸化酵素として、グルコースデヒドロゲナーゼ及び/又はジアホラーゼを使用する。
【0021】
グルコースデヒドロゲナーゼは、酸化型補酵素(NAD、NADP等)の存在下でグルコースを脱水素してグルコノ−δ−ラクトンとプロトンを生成させる。当該反応によって、酸化型補酵素は、還元型補酵素(NADH、NADPH等)に変換される。
本発明に使用されるグルコースデヒドロゲナーゼは、上記反応を行うことができる限り、その種類については、特に制限されないが、NAD依存型のグルコースデヒドロゲナーゼが好ましい。また、本発明では、酵素反応効率を一層向上させるために、耐熱性のグルコースデヒドロゲナーゼを使用してもよい。
また、本発明に使用されるグルコースデヒドロゲナーゼは、微生物から単離したもの、その変異体、遺伝子組換技術により製造したもの等であってもよい。
【0022】
また、ジアホラーゼは、電子受容体の存在下で、還元型補酵素(NADH、NADPH)を酸化して、酸化型補酵素(NAD、NADP等)とプロトンと電子を生成させる。当該反応によって、還元型補酵素1分子あたり、酸化型補酵素1分子と、プロトン1個と、電子2個が生成する。生成した電子は電子受容体の還元に使用され、電子受容体は電子供与体に変換される。
本発明に使用されるジアホラーゼは、上記反応を行うことができる限り、その種類については、特に制限されないが、NADHを還元できるものが好ましい。また、本発明では、酵素反応効率を一層向上させるために、耐熱性のジアホラーゼを使用してもよい。
また、本発明に使用されるジアホラーゼは、微生物から単離したもの、その変異体、遺伝子組換技術により製造したもの等であってもよい。
【0023】
また、ジアホラーゼによる酵素反応で使用される電子受容体としては、バイオ燃料電池の電子メディエーターとして使用し得る物質、即ち酸化と還元を可逆的に行う物質であることが好ましく、このような電子受容体としては、2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン(Q0)や、ナフトキノン骨格を有する化合物、例えば、2−アミノ−1,4−ナフトキノン(ANQ)、2−アミノ−3−メチル−1,4−ナフトキノン(AMNQ)、2−メチル−1,4−ナフトキノン(VK3)、2−アミノ−3−カルボキシ−1,4−ナフトキノン(ACNQ)、ビタミンK1等のナフトキノン誘導体;フェロセンメタノール等のフェロセン誘導体;フェリシアン化カリウム;オスミウム錯体;ルテニウム錯体;フェノチアジン誘導体;フェナジンメトサルフェート誘導体;p−アミノフェノール;メルドーラブルー;2,6−ジクロロフェノールインドフェノール等が挙げられる。これらの電子受容体は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
本発明の酵素反応では、グルコースデヒドロゲナーゼ及び/又はジアホラーゼを使用する従来の酵素反応系に、上記一般式(1)に示すベタイン誘導体を添加することにより行われる。
【0025】
本発明の酵素反応において、酵素、一般式(1)に示すベタイン誘導体、補酵素、基質等の濃度については、特に制限されず、グルコースデヒドロゲナーゼ及び/又はジアホラーゼが使用される酵素反応での一般的な濃度範囲であればよい。
【0026】
例えば、酵素としてグルコースデヒドロゲナーゼを使用する場合、反応開始時に、適量のグルコースデヒドロゲナーゼの存在下で、グルコース1モル当たり、酸化型補酵素を0.0001〜0.5モル、一般式(1)に示すベタイン誘導体を0.01〜3モルの比率で共存させればよい。
【0027】
また、例えば、酵素としてジアホラーゼを使用する場合、反応開始時に、適量のジアホラーゼの存在下で、還元型補酵素を1モル当たり、電子受容体を0.0001〜0.5モル、一般式(1)に示すベタイン誘導体を0.01〜12.5モルの比率で共存させればよい。
【0028】
更に、例えば、酵素としてグルコースデヒドロゲナーゼ及びジアホラーゼを組み合わせて同一反応系で行う場合、反応開始時に、適量のグルコースデヒドロゲナーゼ及びジアホラーゼの存在下で、グルコース1モル当たり、補酵素(酸化型補酵素と還元型補酵素の総量)を0.0001〜0.5モル、電子受容体を0.0001〜0.5モル、一般式(1)に示すベタイン誘導体を0.01〜12.5モルの比率で共存させればよい。
【0029】
本発明の酵素反応における反応温度は、使用する酸化酵素の特性に応じて、適宜設定すればよく、使用する酸化酵素の至適温度であることが望ましいが、使用する酸化酵素が作用可能であることを限り、温度調整を行わず、酵素反応が行われる環境の温度であってもよい。
【0030】
本発明の酵素反応は、グルコースデヒドロゲナーゼ及び/又はジアホラーゼの酵素反応を行うのに適した溶媒(例えば、緩衝液)中で行われる。
【0031】
2.バイオ燃料電池
本発明は、上記酵素反応を利用するバイオ燃料電池を提供する。
【0032】
本発明のバイオ燃料電池では、負極において、グルコースデヒドロゲナーゼ及びジアホラーゼの少なくとも1つ及び一般式(1)に示すベタイン誘導体を含むように構成される。
【0033】
例えば、バイオ燃料電池の負極において、酸化酵素として、グルコースデヒドロゲナーゼと、ジアホラーゼ以外の酸化酵素を使用する場合(実施態様1)、グルコースデヒドロゲナーゼ以外の酸化酵素と、ジアホラーゼを使用する場合(実施態様2)、グルコースデヒドロゲナーゼとジアホラーゼを使用する場合(実施態様3)が包含される。
【0034】
実施態様1では、グルコースデヒドロゲナーゼと、ジアホラーゼ以外の酸化酵素とが負極に固定化される。当該実施態様1に使用されるジアホラーゼ以外の酸化酵素としては、グルコースデヒドロゲナーゼの酵素反応により生成する還元型補酵素(NADH、NADPH等)を酸化して、酸化型補酵素(NAD、NADP等)に変換できるものが使用される。当該実施態様1では、燃料化合物として使用されるグルコースが適当な溶媒(溶媒(例えば、リン酸緩衝液やトリス緩衝液等の緩衝液)に溶解されて、燃料溶液として使用される。また、当該実施態様1において、一般式(1)に示すベタイン誘導体、補酵素及び電子メディエーターは、燃料溶液に含ませてもよいが、負極に固定化することが望ましい。当該実施態様1では、グルコースデヒドロゲナーゼによってグルコースが酸化されると共に還元型補酵素が生成し、ジアホラーゼ以外の酸化酵素により還元型補酵素が酸化型補酵素に戻されて、電子を生じさせる。当該実施態様1では、グルコース1分子あたり、2個の電子がと2個のプロトンが生成される。
【0035】
実施態様2では、グルコースデヒドロゲナーゼ以外の酸化酵素と、ジアホラーゼが負極に固定化される。当該実施態様2に使用されるグルコースデヒドロゲナーゼ以外の酸化酵素としては、クエン酸回路に関与する各種の有機酸や、ペントースリン酸回路および解糖系に関与する糖又は有機酸を燃料化合物として、これらを酸化型補酵素の存在下で酸化し、酸化型補酵素を還元型補酵素に変換できるものが使用される。当該実施態様2では、燃料化合物として使用される有機酸や糖が適当な溶媒(溶媒(例えば、リン酸緩衝液やトリス緩衝液等の緩衝液)に溶解されて、燃料溶液として使用される。また、当該実施態様2において、一般式(1)に示すベタイン誘導体、補酵素及び電子メディエーターは、燃料溶液に含ませてもよいが、負極に固定化することが望ましい。当該実施態様2では、グルコースデヒドロゲナーゼ以外の酸化酵素によって燃料化合物が酸化されると共に還元型補酵素が生成し、ジアホラーゼにより還元型補酵素が酸化型補酵素に戻されて、電子を生じさせる。当該実施態様1では、燃料化合物から電子とプロトンが生成される。
【0036】
実施態様3では、グルコースデヒドロゲナーゼと、ジアホラーゼが負極に固定化される。当該実施態様3では、燃料として使用されるグルコースが適当な溶媒(溶媒(例えば、リン酸緩衝液やトリス緩衝液等の緩衝液)に溶解されて、燃料溶液として使用される。また、当該実施態様3において、一般式(1)に示すベタイン誘導体、補酵素及び電子メディエーターは、燃料溶液に含ませてもよいが、負極に固定化することが望ましい。当該実施態様3では、グルコースデヒドロゲナーゼによってグルコースが酸化されると共に還元型補酵素が生成し、ジアホラーにより還元型補酵素が酸化型補酵素に戻されて、電子を生じさせる。当該実施態様3では、グルコース1分子あたり、2個の電子がと2個のプロトンが生成される。
【0037】
負極に使用される上記電子メディエーターとしては、補酵素に受け渡された電子を負極に移動させ得るものである限り、特に制限されないが、好適には、上記「1.酵素反応方法」の欄に記載した電子受容体が例示される。電子メディエーターを負極に固定化する場合、平均値で0.64×10-6mol/mm2 以上となるように固定化することが望ましい。
【0038】
上記負極において、燃料化合物、酸化酵素、補酵素の使用量については、上記「1.酵素反応方法」の欄に記載の比率を目安にして適宜設定すればよい。
【0039】
本発明のバイオ燃料電池は、負極で発生したプロトンがプロトン伝導体を通って正極まで移動するように構成される。また、負極で発生した電子は、外部回路を通って正極に送られる。正極では、負極から移動してきたプロトンと、外部から供給された酸素と、外部回路を通って正極に送られた電子とが反応して、水(HO)が生じるように構成される。
【0040】
上記プロトン電素導体としては、電子伝導性を持たず、プロトンを伝導する性質を備えるものである限り、特に制限されず、通常の燃料電池にも使用されるものを用いることができる。
【0041】
正極は、プロトンと、酸素と、電子とが反応して、水が生じるように構成される限り、特に制限されないが、好ましくは、酸素還元酵素を利用するように構成されていることが望ましい。正極に使用される酸素還元酵素としては、例えば、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ等が挙げられる。当該酸素還元酵素は、正極に固定化されて使用される。正極おける酸素還元酵素の使用量については、一般的なバイオ燃料電池の正極の場合と同様の範囲に設定すればよい。
【0042】
また、正極には、電子メディエーターが固定化されていることが好ましく、当該電子メディエーターとしては、例えば、オクタシアノタングステン酸カリウム、ヘキサシアノ鉄酸カリウム、フェリシアン化カリウム等が挙げられる。電子メディエーターを正極に固定化する場合、平均値で0.64×10-6mol/mm2 以上となるように固定化することが望ましい。
【0043】
正極及び負極の電極における酵素、補酵素、一般式(1)に示すベタイン誘導体、電子メディエーター等の固定化は、当該技術分野で公知の方法で行うことができる。
正極及び負極の電極の材料としては、例えば、多孔質カーボン、カーボンペレット、カーボンフェルト、カーボンペーパー等のカーボン系材料を使用することができる。
【0044】
本発明のバイオ燃料電池は、コイン型、ボタン型等の各種形状にすることができる。
【0045】
本発明のバイオ燃料電池は、例えば、電子機器、移動体(自動車、二輪車、航空機、ロケット、宇宙船等)、動力装置等に用いることができる。
【0046】
3.グルコースデヒドロゲナーゼ及び/又はジアホラーゼの酵素反応効率の向上剤
また、本発明は、一般式(1)に示すベタイン誘導体からなる、グルコースデヒドロゲナーゼ及び/又はジアホラーゼの酵素反応効率の向上剤を提供する。
当該剤は、グルコースデヒドロゲナーゼ及び/又はジアホラーゼを使用する酵素反応系で、反応効率を向上させるために使用されるものであり、その使用態様は、前記「1.酵素反応方法」の欄に記載の通りである。
【0047】
4.キット
更に、本発明は、上記酵素反応方法を行うためのキットをも提供する。
本発明のキットは、グルコースデヒドロゲナーゼ及び/又はジアホラーゼ、並びに一般式(1)に示すベタイン誘導体を含む。
本発明のキットは、必要に応じて、酵素反応に使用する補酵素を含んでいてもよく、また、ジアホラーゼの酵素反応方法を行うためのキットの場合には、電子受容体を含んでいてもよい。
また、本発明のキットは、前述する酵素反応についてのプロトコールを示した実験手順書が含まれていてもよい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて、本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
試験例1:グルコースデヒドロゲナーゼの反応効率の評価
グルコースデヒドロゲナーゼの酵素活性について、ベタイン誘導体の添加効果を評価した。基質としてはグルコース、酸化型補酵素としてNAD、ベタイン誘導体としては、下記のベタイン1〜5を用いた。
【0050】
【化6】

【0051】
酵素反応は、以下の条件で行った。先ず、2Mのイミダゾール緩衝溶液(pH7.0)、グルコースデヒドロゲナーゼ0.875μg、0.015〜0.5Mのベタイン誘導体、0.4Mのグルコース、1.5 mMのNADを含む酵素反応液を調製し、25℃で3分間インキュベートし酵素反応を行った。また、コントロールとして、ベタイン誘導体を添加しないこと以外は上記と同条件で、酵素反応を行った。
酵素反応によって生成するNADHの生成量を340 nmにおける吸光度を測定することにより、1分間に酸化されるグルコース量を測定した。NADHの分子吸光係数は6.22/mM/cmを用いた。コントロールにおける反応生成物の生成量を100%として、各ベタイン誘導体を添加した場合の反応生成物の生成量を相対活性(%)として算出した。
【0052】
この結果を図1に示す。この結果から、ベタイン1〜5を添加した場合に、それらの添加濃度によってその挙動が異なるものの、コントロールに比して、グルコースデヒドロゲナーゼ活性の向上が認められた。とりわけ、ベタイン1、3、及び5を添加した場合に、顕著なグルコースデヒドロゲナーゼ活性の向上が認められた。
以上の結果から、本発明で規定する一般式(1)に示すベタイン誘導体を選択し、これをグルコースデヒドロゲナーゼによる酵素反応系に添加することによって、グルコースデヒドロゲナーゼの酵素反応効率を高め得ることが明らかとなった。
【0053】
試験例2:発色基質の発色効率の評価−2
ジアホラーゼの酵素活性について、ベタイン誘導体の添加効果を評価した。還元型補酵素としてはNADH、電子受容体としてANQ(2-amino-1,4-naphthoquinone)、ベタイン誘導体としては、実施例1で使用したベタイン1〜5を用いた。
【0054】
酵素反応は、以下の条件で行った。先ず、2Mのイミダゾール緩衝溶液(pH7.0)、ジアホラーゼ0.18μg、0.03〜0.5Mのベタイン誘導体、40mMのNADH、0.3mMのANQを含む酵素反応液を調製し、25℃で3分間インキュベートし酵素反応を行った。また、コントロールとして、ベタイン誘導体を添加しないこと以外は上記と同条件で、酵素反応を行った。
【0055】
ANQの還元に伴って減少する465nmにおける吸光度変化を測定することにより、酵素活性を測定した。ANQの分子吸光係数は12/mM/cmを用いた。コントロールにおける反応生成物の生成量を100%として、各ベタイン誘導体を添加した場合の反応生成物の生成量を相対活性(%)として算出した。
【0056】
この結果を図2に示す。この結果から、ベタイン1〜5を添加した場合に、それらの添加濃度によってその挙動が異なるものの、コントロールに比して、ジアホラーゼ活性の向上が認められた。とりわけ、ベタイン1、2、4、及び5、特にベタイン1を添加した場合に、顕著なジアホラーゼ活性の向上が認められた。
以上の結果から、本発明で規定する一般式(1)に示すベタイン誘導体を選択し、これをジアホラーゼによる酵素反応系に添加することによって、ジアホラーゼの酵素反応効率を高め得ることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)に示すベタイン誘導体の存在下で、グルコースデヒドロゲナーゼ及び/又はジアホラーゼを用いた酵素反応を行うことを特徴とする、酵素反応方法。
【化1】

[一般式(1)中、R1〜R3は、同一又は異なって、炭素数1〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基、R4は、COO又はSO、nは、1〜5の整数を示す。]
【請求項2】
グルコースデヒドロゲナーゼ及びジアホラーゼを組み合わせて同一反応系で酵素反応を行う、請求項1に記載の酵素反応方法。
【請求項3】
グルコースデヒドロゲナーゼ及びジアホラーゼの少なくとも1つの酸化酵素及び下記一般式(1)に示すベタイン誘導体を含む負極を有する、バイオ燃料電池。
【化2】

[一般式(1)中、R1〜R3は、同一又は異なって、炭素数1〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基、R4は、COO又はSO、nは、1〜5の整数を示す。]
【請求項4】
下記一般式(1)に示すベタイン誘導体からなる、グルコースデヒドロゲナーゼ及び/又はジアホラーゼの酵素反応効率の向上剤。
【化3】

[一般式(1)中、R1〜R3は、同一又は異なって、炭素数1〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基、R4は、COO又はSO、nは、1〜5の整数を示す。]
【請求項5】
請求項1又は2に記載の酵素反応方法を行うためのキットであって、グルコースデヒドロゲナーゼ及び/又はジアホラーゼ、並びに下記一般式(1)に示すベタイン誘導体を含有する、前記キット。
【化4】

[一般式(1)中、R1〜R3は、同一又は異なって、炭素数1〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基、R4は、COO又はSO、nは、1〜5の整数を示す。]


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−178997(P2012−178997A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43365(P2011−43365)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(397022911)学校法人甲南学園 (18)
【出願人】(505057738)株式会社耐熱性酵素研究所 (10)
【Fターム(参考)】