説明

酸化鉄複合粒子及びその製造方法

【課題】 1000[Oe]を超える高い真の保磁力()を有し、化学的に安定であり、かつ、流動性に優れた酸化鉄複合粒子及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明に係る酸化鉄複合粒子の製造方法は、シリカを含む粒子に鉄を含む塩を担持させる担持工程と、前記塩が担持された前記粒子を酸化処理し、酸化鉄及び/又はその複合化合物を生成させる酸化工程とをを備えている。この場合、前記粒子は、シリカを含む球状メソ多孔体が好ましい。また、本発明に係る酸化鉄複合粒子は、本発明に係る方法により得られたものからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化鉄複合粒子及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、磁気記録媒体用磁性材料、磁石材料、磁性トナー材料、電磁波吸収材料、ドラッグデリバリー用材料等として用いられる酸化鉄複合粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗布型の磁気記録媒体(以下、「塗布型媒体」という。)は、磁性粉末に適当なバインダ、補強材等を加えた磁性塗料を基体上に薄く塗布することにより製造されている。塗布型媒体用の磁性粉末には、(1)真の保磁力()が高いこと、(2)化学的安定性が高いこと、(3)粒子の分散性が良く、塗布の際の磁場による配向が容易であること、等が求められる。
【0003】
塗布型媒体用の磁性粉末としては、針状又は紡錘状のγ−Fe粉末、Co被着型γ−Fe粉末、Feを主体とする針状の金属磁性粉末などが知られている。これらの内、γ−Feは、保磁力が適度に高く、化学的に安定であるので、塗布型媒体用の磁性粉末として広く用いられている。
針状又は紡錘状のγ−Fe粉末は、一般に、
(1)鉄の塩(例えば、硫酸第一鉄(FeSO))にアルカリを加えて水酸化物(Fe(OH))とし、
(2)これに空気を吹き込んで針状のゲータイト(α−FeOOH)を作り、
(3)これを約300℃で加熱脱水してα−Feとし、
(4)これを約400℃で水素還元してFeとし、さらに、
(5)これを約250℃で空気(含湿気)酸化させること、
により得られる。
【0004】
γ−Fe粉末の形状を針状又は紡錘状とするのは、形状磁気異方性を利用して、真の保磁力()を増大させるためである。ゲータイトの針状比(長さ:直径)は、比較的簡単に大きくすることができるので、針状γ−Feの保磁力を大きくするには、ゲータイト生成後の工程において針状比をいかに維持するかが重要である。そのため、加熱脱水、水素還元及び空気酸化の各工程において粒子が互いに焼結しないように、ゲータイトの表面をAlやSiOの薄膜で覆うことも行われている。
【0005】
また、Co被着型γ−Feは、γ−Feの表面にCo−フェライト(Co・Fe)を被着させたものであり、針状γ−Feより高い真の保磁力()を有している。γ−Feの表面にCo−フェライトを被着させることによって真の保磁力()が増大するのは、Co−フェライトの被着によって結晶磁気異方性が増大するためと考えられている。
【0006】
さらに、金属磁性粉末は、非磁性の酸素イオンを含まないので、一般に、酸化物磁性粉末より高い真の保磁力()を有している。
このような針状の鉄系金属磁性粉末を製造する方法には、
(1)針状の酸化鉄(γ−Fe、α−Fe)又はゲータイト(α−FeOOH)を水素気流中で還元する方法、
(2)Fe、Co、Niなどの塩の水溶液に、NaBHなどのボロハイドライドを加えて磁性金属を還元沈殿させる方法、
などが知られている。
【0007】
しかしながら、塗布型媒体の高出力化を達成するためには、磁性粉末の真の保磁力()をさらに高くすることが必要である。また、磁性塗料を基体表面に均一に塗布するためには、樹脂との親和性や、磁性粉末の分散性の向上も重要である。また、金属磁性粉末は、真の保磁力()は高いが、酸化されやすいという欠点がある。さらに、特殊な用途に用いられる磁性粉末には、これらの特性に加えて他の特性(例えば、可視光に対する透明性)が求められることもある。
【0008】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、コバルト表面被覆ガンマ酸化鉄粉末を分散させた溶液に、ケイ酸ナトリウム溶液及び硫酸を加えることにより得られる磁気粒子が開示されている。同文献には、このような方法によってコバルト表面被覆ガンマ酸化鉄粉末コアの周囲がシェル材料で覆われた磁性粒子が得られる点、及び、シェル材料の屈折率を磁性粒子が取り込まれるべきバインダーの屈折率より小さくすることによって、写真的に透明な磁性層が得られる点が記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、シリカ及びアルカリを含む懸濁液に希土類元素と鉄を含む磁性粉末(例えば、NdFe17B粉末)を分散させ、熱風型オーブンで加熱することにより得られる表面改質磁性粉末が開示されている。同文献には、このような方法によって磁性粉末表面がシリカ粒子で被覆された表面改質磁性粉末が得られる点、及び、磁性粉末の表面をアルカリ変性シリカで被覆すると、磁性粉末の耐酸化性及び耐水性が向上する点が記載されている。
【0010】
また、特許文献3には、鉄系金属粉末と金属ケイ素との混合粉末をキャリアガスと共に反応室内に供給し、混合粉末を反応室内で燃焼させることにより得られるシリカ粒子が開示されている。同文献には、このような方法によって球状シリカの内部に鉄系酸化物微粒子が多数分散保持されているシリカ粒子が得られる点、及び、鉄系酸化物微粒子の表面がシリカで被覆されることによって、樹脂との親和性が向上する点が記載されている。
【0011】
また、特許文献4には、α−FeOOH粉末の表面に、水酸化コバルト、ケイ酸ナトリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化マグネシウムをこの順で被覆し、脱水及び水素還元することにより得られるコバルト含有針状強磁性粉体が開示されている。同文献には、このような方法によって、鉄及びコバルトからなるコアの表面に、アルミニウム、リン、ケイ素、酸素、並びに、マグネシウム及び/又はナトリウムからなるシェルが被覆された針状強磁性粉末が得られる点、及び、コアの表面を所定の組成を有するシェルで被覆することによって、良好な分散性、高い保磁力等が得られる点が記載されている。
【0012】
また、特許文献5には、硫酸第一鉄水溶液に空気を吹き込んでゲータイトを生成させる際に、コバルト、希土類元素及びタングステンの塩を含む溶液を加えてこれらを共沈させ、次いで沈殿物を大気中で焼成し、さらに水素気流中で還元処理することにより得られる金属磁性粉が開示されている。同文献には、コバルト、希土類元素及びタングステンの含有量を最適化することによって、0.1μm以下の微細粒子においても2000[Oe]以上の高い保磁力が得られる点が記載されている。
【0013】
また、特許文献6には、
(1)炭酸アンモニウムを溶解させたアンモニア水に、塩化第一鉄及び塩化コバルトを溶解させた溶液を徐々に加えて鉄含有沈殿物を含む懸濁液とし、
(2)この懸濁液に酸化性ガスを吹き込むことによりオキシ水酸化鉄を生成させ、
(3)この懸濁液に塩化ネオジウム、水ガラス及び塩化アルミニウムを加えて、Nd、Si及びAlを含む水酸化物をオキシ水酸化鉄粒子表面に被着させ、
(4)懸濁液から分離したオキシ水酸化鉄粒子を窒素雰囲気中、600℃で熱処理し、
(5)熱処理された粒子を水素ガス気流下、480℃で4時間還元処理し、さらに、
(6)還元処理された粉末を100℃以下まで冷却した後、微量の酸素を含む不活性ガスと接触させ、表面に酸化被膜を形成すること、
により得られる磁気記録用金属粉末が開示されている。
同文献には、このような方法によって、微細でありながら保磁力及び飽和磁化量が高く、分散安定性、パッキング性に優れた金属粉末が得られる点が記載されている。
【0014】
さらに、非特許文献1には、
(1)Fe(NO)及びBa(NO)を含むマイクロエマルジョンIと、NHOHを含むマイクロエマルジョンIIとを激しく攪拌しながら混合し、
(2)この溶液にテトラエトキシシランを加えてFe(OH)前駆体粒子の表面にシリカシェルを被覆し、、
(3)溶液から分離した生成物を大気中において、900〜1100℃で焼成すること、
により得られる酸化鉄粉末が開示されている。
同文献には、焼成温度を980℃以上1030℃以下とすると、粉末中にε−Fe相が生成する点、1000℃で焼成した粉末の室温における保磁力Hcは20000[Oe]に達する点、巨大保磁力が得られる理由の1つとして、ε−Feの粒子サイズが小さいことが考えられる点、及び、Ba2+イオンを加えることによって、ε−Fe相が存在する温度範囲が拡大する点が記載されている。
【0015】
【特許文献1】特表平6−501594号公報
【特許文献2】特公平6−14485号公報
【特許文献3】特開2003−221218号公報
【特許文献4】特表平11−510322号公報
【特許文献5】特開平9−55306号公報
【特許文献6】特開平10−83906号公報
【非特許文献1】Jian Jin et al., Adv. Mater., 16, 48(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
針状γ−Fe粉末やCo被着型γ−Feは、化学的に安定であるが、その真の保磁力()は、数百[Oe]程度である。一方、金属磁性粉末は、酸素を含まない事に加えて、添加元素を最適化することによって結晶磁気異方性を増大させることができるので、その真の保磁力()は、1000〜2400[Oe]程度の値が得られている。しかしながら、金属磁性粉末は、酸化されやすいという問題がある。また、高い真の保磁力()を得るためには、コバルトや希土類元素などの高価な元素を多量に添加する必要があるので、高コストである。
【0017】
これに対し、逆ミセル法とゾルゲル法とを組み合わせると、巨大保磁力を有する酸化鉄粉末が得られるとされている(非特許文献1)。しかしながら、同文献に記載の方法により巨大保磁力を得るためには、約1000℃での焼成が必要となる。また、出発原料として硝酸バリウム(Ba(NO))を用いる必要があるが、硝酸バリウムは、毒性があるので、環境上の問題を引き起こすおそれがある。
【0018】
さらに、磁性粉を塗布した記録媒体から発生する雑音電圧は、磁性粉の分散が一様で、かつ、塗膜表面が十分に滑らかであるときは、単位体積中に含まれる磁性粒子の数の1/2乗に比例する。従って、雑音電圧を低減するためには、磁性粉はできるだけ細かい方が好ましい。一方、この種の磁性粉末を樹脂バインダ中に分散させたり、あるいは、磁性トナー材料、ドラッグデリバリー用材料等として用いる場合、粉末の流動性も重要な要素となる。しかしながら、一般に、粉末の粒径が細かくなるほど、粉末の流動性が低下するという問題がある。
【0019】
本発明が解決しようとする課題は、1000[Oe]を超える高い真の保磁力()を有し、かつ、化学的に安定な酸化鉄複合粒子及びその製造方法を提供することにある。また、本発明が解決しようとする他の課題は、高価な元素あるいは毒性のある元素を用いることなく、高い真の保磁力()が得られる酸化鉄複合粒子及びその製造方法を提供することにある。また、本発明が解決しようとする他の課題は、相対的に低温で焼成した場合であっても、高い真の保磁力()が得られる酸化鉄複合粒子及びその製造方法を提供することにある。さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、流動性に優れた酸化鉄複合粒子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために本発明に係る酸化鉄複合粒子の製造方法は、シリカを含む粒子に鉄を含む塩を担持させる担持工程と、前記塩が担持された前記粒子を酸化処理し、酸化鉄及び/又はその複合化合物を生成させる酸化工程とを備えていることを要旨とする。この場合、前記粒子は、シリカを含む球状メソ多孔体が好ましい。また、本発明に係る酸化鉄複合粒子は、本発明に係る方法により得られたものからなる。
【発明の効果】
【0021】
シリカを含む粒子の表面に鉄を含む塩を吸着させ、これを酸化処理すると、その詳細は不明であるが、1000[Oe]を超える高い真の保磁力()を有する酸化鉄複合粒子が得られる。しかも、このような高い真の保磁力()は、相対的に低温(400℃前後)の焼成で得られ、また、必ずしも高価な元素及び/又は毒性のある元素の添加を必要としない。さらに、シリカを含む粒子として、球状メソ多孔体を用いると、極めて流動性に優れた酸化鉄複合粒子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。本発明に係る酸化鉄複合粒子の製造方法は、担持工程と、酸化工程とを備えている。また、本発明に係る酸化鉄複合粒子は、本発明に係る方法により得られたものからなる。
【0023】
担持工程は、シリカを含む粒子に鉄を含む塩を担持させる工程である。
塩を担持させるための粒子は、シリカのみからなるものであっても良く、あるいは、シリカ以外の金属元素Mの酸化物を含むものであっても良い。金属元素Mは、特に限定されるものではないが、2価以上の金属アルコキシドを製造可能なものが好ましい。金属元素Mが2価以上の金属アルコキシドを製造可能なものであると、金属元素Mの酸化物を含むシリカ粒子を容易に製造することができる。このような金属元素Mとしては、具体的には、Al、Ti、Mg、Zrなどがある。
【0024】
粒子に含まれるシリカの含有量は、相対的に多い方が好ましい。シリカの含有量が相対的に少なくなると、詳細は不明であるが、高い真の保磁力()を有する粉末が得られないと考えられる。粉末中のシリカの含有量は、具体的には、20wt%以上が好ましく、さらに好ましくは、50wt%以上、さらに好ましくは、80wt%以上である。
【0025】
粒子の形状は、特に限定されるものではなく、球状、針状若しくは紡錘状、不定形状のいずれであっても良い。但し、高い分散性及び/又は高い充填密度が要求される場合には、粒子の形状は、球形が好ましい。
【0026】
粒子の粒径は、特に限定されるものではなく、酸化鉄複合粒子の用途、要求特性等に応じて最適な粒径を選択する。一般に、粒子の粒径が小さくなるほど、比表面積が大きくなるので、単位重量当たりの磁性粒子の担持量が多い酸化鉄複合粉末が得られる。
また、本発明に係る酸化鉄複合粒子は、そのまま各種の用途に用いても良いが、その表面に、さらに磁気特性の異なる他の磁性材料を被覆しても良い。この場合において、粒子の粒径が1μm以上であるときには、他の磁性材料で被覆された複合粒子の磁気特性(真の保磁力()、飽和磁化Mなど)は、一般に、複数の磁性材料が持つ磁気特性を単純に加算した値となる。一方、粒子の粒径が1μm未満(サブミクロン)であるときには、他の磁性材料で被覆された複合粒子の磁気特性は、一般に、量子効果によって、複数の磁性材料が持つ磁気特性の最大値を示す。
従って、粒子の粒径及び複合粒子の表面を被覆する磁性材料の種類を最適化することによって、種々の磁気特性を有する磁性粒子を得ることができる。
【0027】
粒子は、緻密質であっても良く、あるいは、多孔質であっても良い。また、粒子が多孔質である場合、その気孔率は、特に限定されるものではない。但し、粒子の気孔率がある一定の値以上になると、その詳細は不明であるが、極めて流動性に優れた酸化鉄複合粒子が得られる。流動性に優れた酸化鉄複合粒子を得るためには、粒子の気孔率は、10%以上が好ましく、さらに好ましくは、15%以上、さらに好ましくは、20%以上である。ここで、気孔率とは、粒子単位体積中の細孔の割合をいう。
細孔の形状、分布、細孔径等は、特に限定されるものではなく、酸化鉄複合粒子の用途、要求特性等に応じて、最適なものを選択する。例えば、細孔は、粒子内にランダムに分布していても良く、あるいは、粒子の中心から外側に向かって放射状に配置されていても良い。また、細孔は、スーパーミクロ孔(直径=1〜2nm)であっても良く、メソ孔(直径=2〜50nm)であっても良く、あるいは、マクロ孔(直径>50nm)であっても良い。
【0028】
これらの中でも、シリカを含む球状粒子を用いると、高い真の保磁力()に加えて、高い分散性及び/又は高い充填密度を有する酸化鉄複合粒子が得られるので、塩を担持させるための粒子として好適である。また、シリカを含み、かつ、メソ孔を備えた球状メソ多孔体(特に、メソ孔がその中心から外側に向かって放射状に配置された球状メソ多孔体)は、高い真の保磁力()、高い分散性及び高い充填密度に加えて、極めて高い流動性が得られるので、塩を担持させるための粒子として特に好適である。
なお、シリカを含む粒子の製造方法については、後述する。
【0029】
鉄を含む塩は、鉄のみを含む塩(鉄塩)であっても良く、あるいは、鉄に加えて他の金属元素Mを含む塩であっても良い。また、鉄を含む塩は、鉄塩と他の塩との混合物であっても良く、あるいは、複合化合物であっても良い。このような金属元素Mとしては、具体的には、Ba、Sr、Co、Ni、Mn、Zn等がある。
また、塩は、適当な溶媒に可溶なものであれば良い。すなわち、塩は、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩のいずれであっても良い。また、塩は、水和物であっても良く、あるいは、無水塩であっても良い。
【0030】
鉄塩としては、具体的には、塩化第一鉄(FeCl)、塩化第二鉄(FeCl)、臭化第一鉄(FeBr)、臭化第二鉄(FeBr)、ヨウ化第一鉄(FeI)、塩化第一鉄4水塩(FeCl・4HO)、塩化第二鉄6水塩(FeCl・6HO)、硝酸第二鉄9水塩(Fe(NO)・9HO)、シュウ酸第一鉄2水塩(FeC・2HO)、硫酸第二鉄(Fe(SO))、硫酸第一鉄7水塩(FeSO・7HO)、硫酸第二鉄n水塩(Fe(SO)・nHO)等がある。
Ba塩としては、具体的には、塩化バリウム(BaCl)、硝酸バリウム(Ba(NO))、硫酸バリウム(BaSO)酢酸バリウム(Ba(CHCOO))、臭化バリウム2水塩(BaBr・2HO)、塩化バリウム2水塩(BaCl・2HO)、ヨウ化バリウム2水塩(BaI・2HO)、シュウ酸バリウム1水塩(BaC・HO)等がある。
Sr塩としては、具体的には、塩化ストロンチウム(SrCl)、臭化ストロンチウム(SrBr)、ヨウ化ストロンチウム(SrI)、硝酸ストロンチウム(Sr(NO))、硫酸ストロンチウム(SrSO)、酢酸ストロンチウム0.5水塩(Sr(CHCOO)・0.5HO)、塩化ストロンチウム6水塩(SrCl・6HO)、臭化ストロンチウム6水塩(SrBr・6HO)、シュウ酸ストロンチウム1水塩(SrC・HO)等がある。
Co塩としては、具体的には、酢酸コバルト(Co(CHCOO))、安息香酸コバルト(Co(CCOO))、臭化コバルト(CoBr)、塩化コバルト(CoCl)、酢酸コバルト4水塩(Co(CHCOO)・4HO)、コバルトアセチルアセトナート2水塩(Co(CHCOCHCOCH)・2HO)、臭化コバルト6水塩(CoBr・6HO)、塩化コバルト6水塩(CoCl・6HO)、クエン酸コバルト2水塩(Co(C)・2HO)、ヨウ化コバルト2水塩(CoI・2HO)、硝酸コバルト6水塩(Co(NO)・6HO)、シュウ酸コバルト2水塩(CoC・2HO)、硫酸コバルト7水塩(CoSO・7HO)等がある。
Ni塩としては、具体的には、臭化ニッケル(NiBr)、塩化ニッケル(NiCl)、ヨウ化ニッケル(NiI)、酢酸ニッケル4水塩(Ni(CHCOO)・4HO)、臭化ニッケル3水塩(NiBr・3HO)、塩化ニッケル6水塩(NiCl・6HO)、ギ酸ニッケル2水塩(Ni(HCOO)・2HO)、乳酸ニッケル4水塩(NiC10・4HO)、硝酸ニッケル6水塩(Ni(NO)・6HO)、シュウ酸ニッケル2水塩(NiC・2HO)、硫酸ニッケル6水塩(NiSO・6HO)等がある。
Mn塩としては、具体的には、酢酸マンガン(Mn(CHCOO))、臭化マンガン(MnBr)、炭酸マンガン(MnCO)、ヨウ化マンガン(MnI)、酢酸マンガン4水塩(Mn(CHCOO)・4HO)、酢酸マンガン2水塩(Mn(CHCOO)・2HO)、臭化マンガン4水塩(MnBr・4HO)、塩化マンガン4水塩(MnCl・4HO)、ギ酸マンガン2水塩(Mn(HCOO)・2HO)、硝酸マンガン6水塩(Mn(NO)・6HO)、硝酸マンガン4水塩(Mn(NO)・4HO)、シュウ酸マンガン2水塩(MnC・2HO)、硫酸マンガン5水塩(MnSO・5HO)等がある。
Zn塩としては、具体的には、酢酸亜鉛(Zn(CHCOO))、臭化亜鉛(ZnBr)、塩化亜鉛(ZnCl)、ギ酸亜鉛(Zn(HCOO))、ヨウ化亜鉛(ZnI)、硫酸亜鉛(ZnSO)、酢酸亜鉛2水塩(Zn(CHCOO)・2HO)、クエン酸亜鉛2水塩(Zn(C)・2HO)、ギ酸亜鉛2水塩(Zn(HCOO)・2HO)、硝酸亜鉛6水塩(Zn(NO)・6HO)、シュウ酸亜鉛2水塩(ZnC・2HO)、硫酸亜鉛7水塩(ZnSO・7HO)等がある。
【0031】
塩に含まれる金属元素Mの量は、特に限定されるものではなく、金属元素Mの種類、酸化鉄複合粒子に要求される特性等に応じて、最適な量を選択する。例えば、本発明においては、鉄のみを含む塩を出発原料に用いた場合であっても、高い真の保磁力()が得られるが、鉄に加えてある種の金属元素Mを所定量含む塩を用いると、さらに高い真の保磁力()が得られる。これは、ある種の金属元素Mを加えることによって、酸化鉄の結晶磁気異方性が増大するためである。
【0032】
粒子上への塩の担持方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。中でも、適当な溶媒に塩を溶解させた溶液中に粒子を分散させ、溶媒を除去する方法が好適である。
この場合、溶媒は、塩を溶解させることができるものであればよい。また、溶媒の除去を容易化するためには、溶媒は、相対的に沸点の低いものが好ましい。このような条件を満たす溶媒としては、水、アルコール類等がある。特に、メタノール、エタノール等のアルコール類は、種々の塩を溶解させることが可能であり、かつ、揮発除去も容易であるので、溶媒として好適である。
【0033】
溶液中の塩の濃度及び溶液中に分散させる粒子の量は、特に限定されるものではなく、塩や粒子の種類、酸化鉄複合粉末に要求される特性等に応じて、最適なものを選択する。一般に、溶液中の塩の濃度が高くなるほど、及び/又は、溶液中に分散させる粒子の量が少なくなるほど、粒子当たりの塩の担持量を増大させることができる。
【0034】
酸化工程は、塩が担持された粒子を酸化処理し、酸化鉄及び/又はその複合化合物を生成させる工程である。
酸化処理は、酸化雰囲気下で行う。すなわち、酸化処理は、大気中、酸素中、あるいは、不活性ガス(例えば、窒素)と酸素の混合ガス中で行う。但し、塩の中に炭酸塩を生成しやすい元素(例えば、Ba、Srなど)が含まれる場合には、酸素中又は不活性ガスと酸素の混合ガス中で酸化処理するのが好ましい。
【0035】
酸化処理の温度は、塩及び粒子の組成に応じて、最適な温度を選択する。一般に、酸化処理の温度に応じて、酸化鉄及び/又はその複合化合物の結晶構造が変わり、磁気的特性が変化する。本発明において、高い真の保磁力()を得るためには、酸化処理の温度は、300℃以上500℃以下が好ましい。酸化処理の温度が300℃未満である場合、及び、500℃を超える場合、いずれも、真の保磁力()が低下する。酸化処理の温度は、さらに好ましくは、320℃以上480℃以下、さらに好ましくは、350℃以上450℃以下である。
酸化処理の時間は、粒子上の塩が酸化物に変換されるに十分な時間であれば良い。通常、1〜10時間程度、酸化処理することによって、酸化物を生成させることができる。
【0036】
以上のような方法を用いると、真の保磁力()が4000[Oe]以上である酸化鉄複合粒子が得られる。また、製造条件を最適化すれば、真の保磁力()が6000[Oe]以上、あるいは、7000[Oe]である酸化鉄複合粒子が得られる。しかも、このような高い真の保磁力()を得るために、1000℃以上の高温で焼成する必要がなく、また、必ずしも高価な元素及び/又は毒性のある元素を用いる必要がない。
このような優れた磁気的特性が得られる理由の詳細は不明である。しかしながら、本発明に係る方法において、酸化処理の温度を最適化すると、斜方晶の酸化鉄が生成することが確認されている。斜方晶の酸化鉄は、磁気的特性が高いと言われているので、酸化処理の温度を最適化することによって、高い真の保磁力()が得られる理由の1つは、粒子上に斜方晶の酸化鉄が生成することによると考えられる。
【0037】
さらに、塩を担持させる粒子として、球状粒子を用いると、分散性及び充填性に優れた酸化鉄複合粒子が得られる。また、塩を担持させる粒子として、球状メソ多孔体(特に、メソ孔がその中心から外側に向かって放射状に配置された球状メソ多孔体)を用いると、その詳細は不明であるが、分散性及び充填性に加えて、極めて流動性に優れた酸化鉄複合粒子が得られる。
【0038】
次に、本発明に用いられるシリカを含む粒子の製造方法について説明する。
例えば、シリカを含む球状メソ多孔体は、界面活性剤を鋳型として、シリカ原料を含む原料を3次元的に重合させることにより得られる。具体的には、
(1)水に適量の界面活性剤とシリカ原料(及び必要に応じて他の原料)とを加え、塩基性条件下でシリカ原料(及び必要に応じて添加された他の原料)を加水分解させ、
(2)溶液から生成物を分離し、界面活性剤を除去すること、
により得られる(例えば、特開平10−328558号公報、特開2004−2161号公報等参照)。
【0039】
この時、溶液中の界面活性剤の濃度、シリカ原料の濃度、及び、両者の比率を最適化すると、メソ孔がその中心から外側に向かって放射状に配置された球状メソ多孔体が得られる。また、シリカ原料に加えて、金属元素Mを含む原料を用いると、シリカに加えて金属元素Mの酸化物を含む粒子が得られる。
さらに、溶液中に特定種類のアルコール及び/又は親水性ポリマを加えると、1μm以下の微少粒径を有し、かつ、粒度分布の狭い球状メソ多孔体が得られる。
【0040】
シリカ原料には、
(1) テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン(シラン化合物)、
(2) トリメトキシシラノール、トリエトキシシラノール、トリメトキシメチルシラン、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリエトキシ−3−グリシドキシプロピルシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン(シラン化合物)、
(3) ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシ−3−グリシドキシプロピルメチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン等のジアルコキシシラン(シラン化合物)、
(4) メタケイ酸ナトリウム(NaSiO)、オルトケイ酸ナトリウム(NaSiO)、二ケイ酸ナトリウム(NaSi)、四ケイ酸ナトリウム(NaSi)、水ガラス(NaO・nSiO、n=2〜4)等のケイ酸ナトリウム、
(5) カネマイト(NaHSi・3HO)、二ケイ酸ナトリウム結晶(α、β、γ、δ−NaSi)、マカタイト(NaSi)、アイアライト(NaSi17・xHO)、マガディアイト(NaSi1417・xHO)、ケニヤイト(NaSi2041・xHO)等の層状シリケート、
(6) Ultrasil(Ultrasil社)、Cab−O−Sil(Cabot社)、HiSil(Pittsburgh Plate Glass社)等の沈降性シリカ、コロイダルシリカ、Aerosil(Degussa−Huls社)等のフュームドシリカ、
などを用いることができる。
【0041】
これらの中でも、テトラアルコキシシランは、加水分解により生ずるシラノール結合の数が多くなり、強固な骨格を形成することができるので、シリカ原料として好適である。
なお、これらのシリカ原料は、単独で用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。但し、2種以上のシリカ原料を用いると、球状メソ多孔体の製造時の反応条件が複雑化する場合がある。このような場合には、シリカ原料は、単独で使用するのが好ましい。
【0042】
また、金属元素Mを含む原料には、
(1) アルミニウムブトキシド(Al(OC))、アルミニウムエトキシド(Al(OC))、アルミニウムイソプロポキシド(Al(OC))等のAlを含むアルコキシド類、及び、アルミン酸ナトリウム、塩化アルミニウム等の塩類、
(2) チタンイソプロポキシド(Ti(Oi−C))、チタンブトキシド(Ti(OC))、チタンエトキシド(Ti(OC))等のTiを含むアルコキシド、
(3) マグネシウムメトキシド(Mg(OCH))、マグネシウムエトキシド(Mg(OC))等のMgを含むアルコキシド、
(4) ジルコニウムイソプロポキシド(Zr(Oi−C))、ジルコニウムブトキシド(Zr(OC))、ジルコニウムエトキシド(Zr(OC))等のZrを含むアルコキシド、
などを用いることができる。
【0043】
また、界面活性剤は、次の(1)式で表されるものが好ましい。
CH−(CH)−N(R)(R)(R)X ・・・(1)
(但し、R、R、Rは、炭素数が1〜3であって、同一又は異なるアルキル基、Xはハロゲン原子、nは8〜21の整数。)
(1)式で表される界面活性剤の中でも、アルキルトリメチルアンモニウムハライド(例えば、ノニルトリメチルアンモニウムハライド、デシルトリメチルアンモニウムハライド、ウンデシルトリメチルアンモニウムハライド、ドデシルトリメチルアンモニウムハライド等)が好ましく、特に、アルキルトリメチルアンモニウムブロミドが好ましい。
【0044】
メソ孔がその中心から外側に向かって放射状に配置した球状メソ多孔体を得るためには、溶液中のシリカ原料(及び必要に応じて添加される他の原料)の濃度は、0.005mol/L以上0.05mol/L以下が好ましく、さらに好ましくは、0.007mol/L以上0.045mol/L以下、さらに好ましくは、0.009mol/L以上0.04mol/L以下である。
同様に、溶液中の界面活性剤の濃度は、0.005mol/L以上0.04mol/L以下が好ましく、さらに好ましくは、0.007mol/L以上0.03mol/L以下、さらに好ましくは、0.008mol/L以上0.018mol/L以下である。
さらに、界面活性剤/シリカ原料(及び必要に応じて添加される他の原料)の比率(モル比)は、0.1以上3以下が好ましく、さらに好ましくは、0.2以上2.7以下、さらに好ましくは、0.3以上2.5以下である。
【0045】
溶液中にアルコールを添加する場合、アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール等の1価のアルコール、エチレングリコール等の2価のアルコール、グリセリン等の3価のアルコールのいずれでも良い。この場合、1μm以下の微少粒径を有し、かつ、粒度分布の狭い球状メソ多孔体が得るためには、アルコールの添加量は、水の容量100に対して5〜80が好ましく、さらに好ましくは、7〜70、さらに好ましくは、10〜60である。
【0046】
アルコールに加えて又はアルコールに代えて、溶液中に親水性ポリマを添加する場合、親水性ポリマは、ポリビニルアルコール又はポリエチレングリコールが好ましい。この場合、親水性ポリマの分子量は、200〜50000が好ましく、さらに好ましくは、300〜30000である。また、1μm以下の微少粒径を有し、かつ、粒度分布の狭い球状メソ多孔体が得るためには、溶液中の親水性ポリマの濃度は、0.1〜20重量%が好ましく、さらに好ましくは、0.5〜10重量%である。
【0047】
これらの原料を含む溶液には、溶液を塩基性とし、シリカ原料等を加水分解させるために、塩基性物質を加える。塩基性物質としては、具体的には、水酸化ナトリウム、アンモニア水等がある。塩基性物質の添加量は、原料の種類や濃度、作製しようとする酸化鉄複合粒子の特性等に応じて最適な添加量を選択する。一般に、塩基性物質の添加量が少なすぎる場合には、収率が極端に低下する。一方、塩基性物質の添加量が多すぎる場合には、多孔体の形成が困難となる場合がる。塩基性物質の添加量は、具体的には、塩基性物質のアルカリ当量を原料中のケイ素及び金属元素Mのモル数で除した値で、0.1〜0.9が好ましく、さらに好ましくは、0.2〜0.5である。
【0048】
シリカ原料として、テトラアルコキシシラン等のシラン化合物を用いる場合には、これをそのまま出発原料として用いる。
一方、シリカ原料としてシラン化合物以外の化合物を用いる場合には、予め、水(又は、必要に応じてアルコールが添加されたアルコール水溶液)にシリカ原料を加えて、水酸化ナトリウム等の塩基性物質を加える。塩基性物質の添加量は、シリカ原料中ケイ素原子と等モル程度の量とするのが好ましい。シラン化合物以外のシリカ原料を含む溶液に塩基性物質を加えると、シリカ原料中に既に形成されているSi−(O−Si)結合の一部が切断され、均一な溶液が得られる。溶液中に含まれる塩基性物質の量は、球状メソ多孔体の収量や気孔率に影響を及ぼすので、均一な溶液が得られた後、溶液に希薄酸溶液を加え、溶液中に存在する過剰の塩基性物質を中和させる。希薄酸溶液の添加量は、シリカ原料中のケイ素原子に対して1/2〜3/4倍モルに相当する量が好ましい。
【0049】
必要に応じて予備処理が行われたシリカ原料に対し、所定量の水及び界面活性剤、並びに、必要に応じて、金属元素Mを含む原料、アルコール及び/又は親水性ポリマを加え、これにさらに塩基性物質を加えて、塩基性条件下で加水分解を行う。これにより、界面活性剤がテンプレートとして機能し、その内部に界面活性剤を含むケイ素含有酸化物(以下、これを「前駆体」という。)が得られる。
【0050】
次に、溶液から得られた前駆体を分離し、この前駆体から界面活性剤を除去すれば、球状メソ多孔体が得られる。
界面活性剤を除去する方法としては、具体的には、
(1) 前駆体を大気中又は不活性雰囲気下において、所定温度(300〜1000℃、好ましくは、400〜700℃)で所定時間(30分以上、好ましくは、1時間以上)焼成する焼成方法、
(2) 前駆体を界面活性剤の良溶媒(例えば、少量の塩酸を含むメタノール)中に浸漬し、所定の温度(例えば、50〜70℃)で加熱しながら攪拌し、前駆体中の界面活性剤を抽出するイオン交換法、
などがある。
【0051】
また、シリカを含む緻密質の球状粒子は、具体的には、
(1) 界面活性剤を用いることなく、上述したシリカ原料及び必要に応じて他の金属元素M1を含む原料を塩基性条件下で加水分解させる方法、
(2) 金属ケイ素粉末及び必要に応じて他の金属元素M粉末をキャリアガスと共に反応容器内に供給し、反応室内で粉末を燃焼させる方法、
などにより製造することができる。
この時、出発原料の種類、反応条件等を最適化することにより、球状粒子の平均粒径、標準偏差、粒子形状等を制御する事ができる。
【0052】
このようにして得られたシリカを含む粒子を出発原料に用いて本発明に係る酸化鉄複合粒子を製造すると、上述したように、高い真の保磁力()を有する酸化鉄複合粒子が得られる。また、シリカを含む粒子として球状メソ多孔体を用いると、高い真の保磁力()に加えて、流動性に優れた酸化鉄複合粒子が得られる。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
[1. 球状メソ多孔体シリカの合成]
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(C16TMACl、東京化成製)3.52gと、1Mの水酸化ナトリウム水溶液2.28mlとを、800gのメタノール/水(50/50=w/w)溶液に溶解させた。次いで、テトラメトキシシラン(TMOS)1.32gを溶液に加え、298Kにおいて激しく攪拌した。TMOSを加えた後、透明な溶液は、突然、不透明となり、白色の析出物が得られた。攪拌を8時間行った後、混合物を一晩放置した。次に、白色粉末を濾過し、蒸留水で少なくとも3回洗浄し、318Kにおいて72時間乾燥させた。さらに、有機物を除去するために、得られた粉末を823Kにおいて6時間仮焼した。
得られた粉末は、平均粒径が0.63μmであり、かつ、メソ孔が粒子の中心から表面に向かって放射状に配置されている単分散球状メソ多孔体シリカであった。
【0054】
[2. 酸化鉄複合粒子の作製]
[1.]で得られた単分散球状メソ多孔体シリカ1gを、0.02mol/Lの塩化第二鉄6水塩(FeCl・6HO)のメタノール溶液100mlに分散させ、室温で2時間攪拌した。次いで、減圧下において、溶液を40℃に加熱し、メタノールを揮発させた。さらに、得られた粉末を、大気中において、400℃で2時間加熱することにより、酸化鉄/シリカ複合粒子を得た。
【0055】
[3. 評価]
得られた酸化鉄/シリカ複合粒子について、VSM(Vibrating Sample Magnetometer: 振動試料型磁力計)を用いて、室温で真の保磁力()を測定したところ、7400[Oe]であった。図1に、この粉末のX線回折パターンを示す。図1より、この粉末には、α−酸化鉄(ヘマタイト)と斜方晶の酸化鉄が混在していることがわかる。
【0056】
(実施例2)
[4. 球状メソ多孔体シリカの合成]
n−デシルトリメチルアンモニウムブロミド(C10TMABr、東京化成製)1.54gと、1Mの水酸化ナトリウム水溶液2.28mlとを、397.7gの水/メタノール(75/25=w/w)溶液に溶解させた。以下、実施例1[1.]と同様の手順に従い、粉末を合成した。得られた粉末は、平均粒径0.61μmであり、かつ、メソ孔が粒子の中心から表面に向かって放射状に配置されている単分散球状メソ多孔体シリカであった。
【0057】
[5. 酸化鉄複合粒子の作製及び評価]
実施例1で得られた単分散球状メソ多孔体に代えて、[4.]で得られた単分散球状メソ多孔体シリカを用いた以外は、実施例1と同様の手順に従い、酸化鉄/シリカ複合粒子の作製及びその評価を行った。得られた酸化鉄/シリカ複合粒子の真の保磁力()は、4300[Oe]であった。
【0058】
(実施例3)
球状シリカ(アドマテックス製、アドマファインSO−E2)1gを、0.1mol/Lの塩化第二鉄6水塩(FeCl・6HO)のメタノール溶液100mlに分散させ、室温で2時間攪拌した。次いで、減圧下において、溶液を40℃に加熱し、メタノールを揮発させた。さらに、得られた粉末を、大気中において、400℃で2時間加熱することにより、酸化鉄/シリカ複合粒子を得た。
得られた酸化鉄/シリカ複合粒子の真の保磁力()を実施例1と同一条件下で測定したところ、6300[Oe]であった。
【0059】
(比較例1)
単分散球状メソ多孔体シリカに代えて、α−アルミナを用いた以外は、実施例1と同様の手順に従い、酸化鉄/アルミナ複合粒子の作製及びその評価を行った。得られた酸化鉄/アルミナ複合粒子の真の保磁力()は、100[Oe]であった。
【0060】
(比較例2)
塩化第二鉄6水塩(FeCl・6HO)のメタノール溶液100mlを、減圧下において40℃に加熱し、メタノールを揮発させた。得られた粉末を、大気中において、400℃で2時間加熱し、酸化鉄粒子を得た。得られた酸化鉄粒子の真の保磁力()を実施例1と同一条件下で測定したところ、2500[Oe]であった。
【0061】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る酸化鉄複合粒子は、磁気記録媒体用磁性材料、磁石材料、磁性トナー材料、電磁波吸収材料、ドラッグデリバリー材料等に用いることができる。
また、本発明に係る酸化鉄複合粒子は、そのまま各種の用途に用いることができるが、その表面に磁気特性の異なる他の材料を被覆させた状態で使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例1で得られた酸化鉄/シリカ複合粒子のX線回折パターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカを含む粒子に鉄を含む塩を担持させる担持工程と、
前記塩が担持された前記粒子を酸化処理し、酸化鉄及び/又はその複合化合物を生成させる酸化工程とを備えた酸化鉄複合粒子の製造方法。
【請求項2】
前記粒子は、シリカを含む球状粒子である請求項1に記載の酸化複合鉄粒子の製造方法。
【請求項3】
前記粒子は、シリカを含む球状メソ多孔体である請求項1に記載の酸化鉄複合粒子の製造方法。
【請求項4】
前記粒子は、界面活性剤を鋳型として、シリカ原料を含む原料を3次元的に重合させることにより得られた球状メソ多孔体である請求項3に記載の酸化鉄複合粒子の製造方法。
【請求項5】
前記粒子は、メソ孔がその中心から外側に向かって放射状に配置された球状メソ多孔体である請求項3又は4に記載の酸化鉄複合粒子の製造方法。
【請求項6】
前記塩は、鉄の塩化物、硝酸塩、硫酸塩又はシュウ酸塩を含むものである請求項1から5までのいずれかに記載の酸化鉄複合粒子の製造方法。
【請求項7】
前記担持工程は、溶媒に前記塩を溶解させた溶液に前記粒子を分散させ、前記溶媒を除去するものである請求項1から6までのいずれかに記載の酸化鉄複合粒子の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒は、アルコールを含有する溶媒である請求項7に記載の酸化鉄複合粒子の製造方法。
【請求項9】
前記酸化工程は、前記粒子を酸化雰囲気下において、300℃以上500℃以下の温度において加熱するものである請求項1から8までのいずれかに記載の酸化鉄複合粒子の製造方法。
【請求項10】
前記酸化鉄は、斜方晶の酸化鉄である請求項1から9までのいずれかに記載の酸化鉄複合粒子の製造方法。
【請求項11】
その真の保持力()が、4000[Oe]以上である請求項1から10までのいずれかに記載の酸化鉄複合粒子の製造方法。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれかに記載の方法により得られる酸化鉄複合粒子。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−89308(P2006−89308A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274170(P2004−274170)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】