説明

酸化銀粉末の製造方法

【課題】還元剤を共存させない場合でも、大気中にて低い温度で加熱することにより酸化銀が還元して銀を生成する、導電性ペースト用フィラーに適した微細酸化銀粉末を得る。さらには、有機溶媒等を用いた湿式粉砕処理工程を不要とする低コストの製造方法を提供する。
【解決手段】pHを12程度に調整した水溶液中に、銀塩を6mol/リットル以下で含む水溶液と、この銀塩に対し1mol当量以上のアルカリを含む水溶液とを同時投入して反応を行い、酸化銀微粒子を析出させる。この酸化銀微粒子を水に懸濁させた酸化銀粒子含有スラリー中に高分子有機物を、銀に対して0.1〜2.5質量%添加してこの有機物を酸化銀粒子に被覆させることにより、大気中で80℃以上150℃未満の温度で銀に還元する酸化銀粉末を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に導電性ペースト用のフィラーに適した微粒子酸化銀粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として特開2005−104825号公報及び特開2003−308730号公報において、導電性フィラー用の微粒子酸化銀粉末の製法が提案されている。
先ず、特開2005−104825号により得られる酸化銀粉末は、銀に還元する温度域も400℃付近であることから、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)のような低融点または耐熱温度が低い材料の基板上に配線や電極を形成する導電性ペーストに用いる導電性フィラーとしては適しておらず、導電性フィラーとして用いられる用途が限定されていた。また、酸化銀生成反応後に得られた微粒子酸化銀に対しては、乾燥工程を経てから更に有機溶媒中で湿式粉砕する処理工程が必要であって工程増となり、その上に、この工程から発生する廃液の処理工程も必要となり、これら工程などによってコスト増となるものであった。
【0003】
次に、特開2003−308730号には、ペースト中の酸化銀粉末を150℃の加熱により銀に還元できることが開示されているが、この場合、ペースト中に還元剤を添加することが必要であり、さらに還元剤を添加することによってペーストが変質しやすくなってしまい保管中の品質変化が大きい、ことなどが工業的な問題として存在していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−104825号公報
【特許文献2】特開2003−308730号公報
【特許文献3】特開2007−126691号公報
【特許文献4】国際公開第2003/085052号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって本発明の課題は、還元剤を共存させない場合でも、大気中にて従来よりも低い温度で加熱することにより酸化銀が還元して銀を生成する、導電性ペースト用フィラーに適した微細な酸化銀粉末を得ることである。さらには、有機溶媒等を用いた湿式粉砕処理工程を不要とする低コストで、従来よりも大気中低温加熱で銀に還元する酸化銀粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような酸化銀粉末として、酸化銀微粒子表面を高分子有機物で被覆し、大気中にて80℃以上150℃未満の温度域で加熱することにより、高分子有機物被膜の燃焼に伴う発熱エネルギーで酸化銀粉末中の酸素の解離を生じさせ、銀に還元させればよい。これを実現するため、すなわち、酸化銀粒子を被覆する有機物から十分な発熱エネルギーを得てこの発熱エネルギーにより酸化銀の還元を円滑に進めるため、(1)適切な有機物の選定、(2)酸化銀粒子表面を被覆する有機物量の設定、(3)酸化銀粒子の粒径が小さく且つ酸化銀粒子同士の凝集が少ない、ことを同時に達成することにより、大気中にて80℃以上150℃未満で加熱することにより銀に還元する酸化銀粉末が得られるという知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0007】
従来の方法では、銀塩含有水溶液(例えば硝酸銀水溶液)とアルカリ(例えば水酸化ナトリウム水溶液)を反応させて酸化銀粒子を生成する中和反応時において反応スラリー(酸化銀粒子含有スラリー)中に有機物が添加されており、この有機物が酸化銀粒子表面を被覆するものであった。この従来法では、酸化銀粒子表面を被覆する有機物量を十分に確保しようとするとスラリー中に添加する有機物量を多くする必要があり、この添加する有機物量が多い場合には酸化銀粉末が凝集してしまうという問題があった。凝集した場合には、後工程の解砕工程で酸化銀から銀への急激な還元が起こると同時に有機物が燃焼してしまい目的とする酸化銀粉末が得られないものであり、一方、添加する有機物量が前記凝集を生じない程度の量では、酸化銀粉末の大気中加熱時の還元温度が200℃以下にならないというものであった。
さらには、従来の方法では酸化銀粒子表面を被覆した有機物の一部が、酸化銀粉末中の残留ナトリウムイオン等の不純物を除去する目的で行う純水による洗浄時において系外に排出されるため、有機物をその分多く添加する必要があった。
【0008】
本発明に係る酸化銀粉末は、予めpHを12程度(好ましくはpH12±1.5)のアルカリ性に調整した水溶液中に、銀塩を6mol/リットル(Lで表わす。)以下の量で含む水溶液と、この銀塩に対し1mol当量以上のアルカリを含む水溶液とを同時投入して反応を行い、一次粒子の小さな酸化銀微粒子を析出させる。なお、この一次粒子はその100個の長辺をSEMによって測定した値の平均値が100nm以下のものが得られる。この酸化銀粒子含有スラリーを洗浄して得られた酸化銀粒子を水に懸濁させたスラリー中に、溶媒に溶解させた高分子有機物を、酸化銀粉末中に含有される銀量に対して0.1〜2.5質量%の範囲で添加することにより、十分な量の有機物を酸化銀粒子に被覆させる。その後、固液分離し乾粉とすることにより、微粒子酸化銀粉末を得ることができる。この酸化銀粒子に被覆させる有機物として、ゼラチンを主成分とする高分子有機物を選択することにより、大気中で80℃以上150℃未満の温度で加熱することにより銀に還元する平均粒径10〜200nmの酸化銀粉末を得ることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、大気中で従来よりも低温域の加熱で銀に還元する酸化銀粉末を得ることができる。本発明で得られる酸化銀粉末は、還元剤を共存させなくても80℃以上150℃未満の温度で銀に還元することから、低温焼成可能な導電性ペーストの品質安定性を向上することができ、PETの様な低融点または耐熱温度が低い材料の基板への応用が期待出来る。
また既存の銀系ペーストへ本発明の微粒子酸化銀粉末を最適量添加した場合には、低い焼成温度で従来では得られなかった密着性や抵抗値を得ることが可能となり、工業的用途が大幅に拡大する。
さらに、本発明の酸化銀粉末は、製造時に有機溶媒等の処理に要するコストが不要で、導電性ペーストに還元剤を添加する必要がないことから、安価な銀系の導電回路を形成するための導電性ペーストおよび導電性ペースト用フィラーを供給することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における製造プロセスにより、安価に銀系ペースト原料を提供することができる。
すなわち、本発明に従う微粒子酸化銀粉末は、pHを制御したアルカリ溶液中に銀塩溶液とアルカリ溶液を同時に投入することによってpHの変動を抑えることにより、均一な酸化銀核発生と核成長・粒子成長を行う方法によって製造することができる。また、粒径を制御するために保護コロイドとなる高分子有機物を使用する。
前記工程までは特開2005−104825号(特許文献1)と同様であるが、本発明では更に、酸化銀粒子生成反応後の酸化銀粒子含有スラリーを洗浄し、この酸化銀粒子を水に懸濁させたスラリーに最適量の高分子有機物を添加することにより、酸化銀粒子表面に有機物被膜を形成させ、乾燥・解砕工程を経て微粒子酸化銀粉末を得る。
【0011】
微粒子酸化銀粒子表面に高分子有機物を被覆する効果として、微粒子酸化銀粉末を導電性ペーストとして用いた場合、80℃以上150℃未満の温度範囲における被覆有機物の分解に伴い酸素解離が生ずることにより、銀前駆体を形成させることが出来る。この時の発熱エネルギーにおいて、ペースト中の溶剤とバインダーの一部が分解する。
【0012】
予め反応スラリー中に多量の高分子有機物を添加する場合には、高分子有機物の被覆層中に、スラリー中のナトリウムイオン等が多く残留する。この場合、高分子有機物が粘着材の様に作用し、反応後の酸化銀微粒子含有スラリー洗浄が困難となる為、有効に残留不純物を除去することが困難となる。これに対し、酸化銀粒子生成反応後に高分子有機物を含有する溶液で酸化銀粒子を処理する場合には、酸化銀粒子生成反応後の有機物被覆量が少なくて済むため、スラリー中のナトリウムイオン等の不純物が高分子有機物層中に多く含まれることはなく、酸化銀粒子生成反応後の洗浄が容易になる。これも、本発明の製法の利点となっている。
【0013】
その製造方法は、要するところ、銀塩に保護コロイドを適量添加し、アルカリを水中で反応させて酸化銀沈殿物を得る工程(酸化銀粒子生成工程)、得られた酸化銀沈殿物を水洗する工程、水洗後の酸化銀粒子含有スラリーに更に高分子有機物を添加する工程、そのスラリーを固液分離・乾燥する工程、乾燥物を解砕して酸化銀粉末を得る工程からなる。以下にさらに詳細に説明する。
【0014】
酸化銀粒子生成工程において、銀塩としては硝酸銀などを使用することができる。アルカリとしては水酸化カリウムや水酸化ナトリウムの他、水酸化リチウムなどの塩基を使用することが出来るが、例えばアミン等の有機塩基を用いることも可能である。中和処理はアルカリ水溶液と銀塩の水溶液を同時添加し、反応液のpHを一定(例えばpH12程度)にすることにより、溶液中への銀の溶出を低く抑えることができるので、アルカリ水溶液に対して、銀塩の水溶液およびアルカリ水溶液を添加する方法がコスト的に有利となる。
【0015】
アルカリ水溶液の濃度は0.5mol/L以下とし、銀塩溶液の濃度は6mol/L以下、好ましくは3mol/L以下、銀塩溶液と同時添加するアルカリ水溶液は、反応中のpH変動を少なくする為に、銀塩に対し1mol当量以上であるのがよい。銀塩溶液濃度を低くすると粒径の小さい酸化銀粉末を製造できる。銀塩溶液濃度を6mol/Lより高くすると粒径の大きい酸化銀粉末が生成する。
【0016】
反応中に保護コロイドを共存させることによって、酸化銀粒子の粒成長を抑え、比表面積を高くすることができる。保護コロイドとしては、ゼラチン、アラビアゴム、デキストリン、ポリビニルアルコール、ロジン、アミノ酸、寒天など公知のものを使用することができる。保護コロイドは銀塩の水溶液中に含有銀量に対して5質量%以下、好ましくは2質量%以下含有させるのがよい。5質量%より多いと逆に結着材の働きをしてしまい凝集粒となる。
【0017】
保護コロイドの添加は、反応後に得られる粒子表面に均一な被膜が形成される様、反応前に予め銀塩水溶液中に溶解しておくことが好ましい。反応時のpHは12.0±1.5の範囲であるのが良い。更に好ましくはpH12.0±0.5の範囲が望ましい。その理由としては、溶液中への銀の溶解度がpH12.0付近で極小となるからである。その範囲外では、溶解・析出による粒成長が発生し、銀が系外に逃げてしまい酸化銀粉末の収率が悪化するという問題が出てくる。中和処理における反応温度は外気温の変化に対しての制御しやすさとコスト面から、30℃以上50℃以下が好ましい。反応温度が50℃を超えた場合は、反応槽内壁に銀膜が発生するため好ましくなく、一方、30℃未満の場合には酸化銀の一次粒子が肥大化するため好ましくない。
【0018】
酸化銀粒子生成反応終了後は、得られた酸化銀沈殿物を熟成してから固液分離するのが好ましい。酸化銀沈殿物の熟成は中和反応後の酸化銀粒子含有スラリーをその温度で5〜120分間撹拌を保持する。これにより酸化銀沈殿物が均一化される。次いで撹拌を止め、この酸化銀粒子含有スラリーを静置することにより沈降させ、スラリー中の残留ナトリウムイオンを除去する目的で、電気伝導度が2mS/m以下となるまでデカンテーション洗浄を行う。
【0019】
その後、純水洗浄上澄み液を廃棄し、固液質量比(酸化銀:純水)1:1から1:28、更に好ましくは1:5から1:10の範囲となる酸化銀粒子含有スラリーとし、そのスラリー中に、溶媒中に最適量溶解させた高分子有機物を撹拌混合させる。その理由としては、高分子有機物は一度溶媒に溶解させている為、酸化銀粒子表面に被覆されていない余剰分が系外に排出されやすいからである。よってデカンテーション洗浄の際に出来るだけ洗浄上澄液を廃棄し、固液比を規定したスラリー中に添加することにより、排水として排出される高分子有機物量を極力少なくすることができ、スラリー中に残留させる有機物を制御し易いからである。また量産時における排水処理費用も最小限に抑えることが可能となる。
【0020】
酸化銀粒子含有スラリー中に添加する高分子有機物の主成分としてゼラチンを用い、その単体でも十分に目的の還元温度を得ることが出来るが、更にアラビアゴム、デキストリン、ポリビニルアルコール、ロジン、アミノ酸、寒天など公知の高分子材料も併せて添加することにより、酸化銀から銀への還元温度を更に低くすることが可能となる。
高分子有機物の最適添加量としては、スラリー中の理論銀量に対し、0.1質量%以上、2.5質量%以下で添加することが望ましく、更に好ましくは1.0〜1.5質量%の範囲で添加させるのがよい。0.1質量%未満であると、80℃以上150℃未満での発熱エネルギー量が少なくなり、その条件で得た微粒子酸化銀粉末を200℃まで加熱しても銀への還元が確認出来ないからである。また、2.5質量%を越えた場合、酸化銀粒子含有スラリー乾燥後の解砕工程において、解砕機の解砕エネルギーにより酸化銀から銀への還元が一挙に起こり、爆発的に有機物が燃焼する場合があるので好ましくない。
【0021】
その後酸化銀粒子含有スラリーを固液分離させ、真空減圧乾燥機にて好ましくは30℃以上90℃以下、更に好ましくは40℃以上60℃以下の範囲で10時間以上乾燥させ、黒茶色の乾燥物を得る。この時の乾燥温度を90℃超とした場合は、高分子有機成分が一部熱により分解し、乾燥機内で爆発的に燃焼する場合があるので好ましくない。乾燥装置として真空減圧乾燥機を用いる理由としては、大気循環型乾燥機を用いた場合より、高温で且つ(同じ乾燥温度でも)短時間で乾燥が可能であるからである。
前記の製造工程により、BET1点法による比表面積が1〜30m2/g、(二次粒子の)平均粒径が10〜200nmの酸化銀粉末を製造することが出来る。
また、この微粒子酸化銀粉末を大気中にて80℃以上150℃未満の温度域で加熱処理を行うと、微粒子酸化銀粉末の酸素離脱による発熱と、高分子有機物被膜の燃焼とにより、茶黒色の微粒子酸化銀粉末が銀白色に変化し、銀に還元されていることが確認出来る。
なお、酸化銀粉末の大気中での熱分解温度が80℃未満の場合は、酸化銀粉末の取り扱い時やペースト製造工程において銀への還元が生じてしまうので好ましくない。
【実施例】
【0022】
[実施例1]160gの純水に銀濃度38.0質量%の硝酸銀水溶液467gを添加した硝酸銀水溶液を調整した。前記硝酸銀水溶液中の銀量を酸化銀換算した理論酸化銀量に対し1.0質量%となるポリビニルアルコール(和光純薬製試薬、重合度2000)1.9gを溶解させた水溶液を前記硝酸銀水溶液に添加し、マグネットスターラーを用いて10分間混合を行った。
中和剤として市販の48%水酸化ナトリウム水溶液150.3gを準備した。
反応槽は5Lビーカーを用い、予め3.6Lに定量した純水を、温度調節器にて49±1℃とした後、市販の48%水酸化ナトリウム水溶液6.8gを添加した。その時のpHは11.8であった。
温度調節とpH制御を行った水酸化ナトリウム水溶液を撹拌している中に、先に準備していた硝酸銀とポリビニルアルコールの混合水溶液と、中和剤である48%水酸化ナトリウム水溶液とを同時に添加した。この時の添加速度は、硝酸銀とポリビニルアルコール混合水溶液を毎分145g、48%水酸化ナトリウム水溶液を毎分30gとし、約5分で全量添加できる様、添加速度を調整した。全量添加後のpHは11.9であった。
その後、10分間撹拌を継続し、中和澱物(酸化銀粒子)の熟成を行った。その時のpHは11.9であった。
【0023】
熟成終了後、酸化銀粒子含有スラリーに純水を加えた。次に、酸化銀粒子を5Lビーカーの底に沈殿させ、残留ナトリウムイオンを除去する目的で、このビーカーを傾けて上澄み液だけを排出(デカンテーション)した。1回のデカンテーションで使用する純水量は約3Lとし、最終的に排水中の電気伝導率が2mS/m以下となるまで合計14回繰り返した。
その後30分静置させ完全に中和澱物を沈降させた後、純水量と中和澱物である酸化銀粉末との固液質量比(酸化銀:水)が1:7になる様、上澄み液を排出した。
スラリー中の理論銀量に対し、1.25質量%となるゼラチン(ゼライス株式会社製、銘柄:E−200)2.2gを110gの純水中に溶解させ、撹拌中の固液質量比1:7(酸化銀:水)のスラリー内に投入し、10分間撹拌混合を行なった。その後速やかにヌッチェにて固液分離を行い、濃茶色の酸化銀ウエットケーキを得た。
その酸化銀ウエットケーキを55℃に設定した真空減圧乾燥機内にて約12時間乾燥させ、得られた乾固粉をコーヒーミルで解砕させることにより、目的の微粒子酸化銀粉末を得た。
【0024】
そこで得られた微粒子酸化銀粉末を、示差熱分析測定装置(ブルカーエイエックス社製TG−DTA2000)にて、大気中500℃まで、毎分5℃の昇温速度で測定したところ、高分子有機物被膜の燃焼と酸素の解離による、146℃での発熱ピークが確認できた。
また、得られた微粒子酸化銀粉末を加熱器にて大気中146℃まで加熱し、1分間保持したところ、濃茶色の酸化銀粉末が銀白色に変化した。
変色後の銀白色粉末をX線回折装置(リガク社製Rotaflex)にてCuKα線2θ角で定性分析を行ったところ、メインピークが38°にあることを確認した。その回折線角度からJCPDS−ICDDにて物質同定したところ、銀のメインピークであることを確認した。本発明では、酸化銀粉末を大気中で加熱した物質を前記のX線回折測定し、メインピークが38°である場合、酸化銀が銀に還元したと判断した。本発明では、酸化銀粉末を前記方法で加熱して前記方法でX線回折測定を行った際、メインピークが銀のピークであれば、その酸化銀粉末の熱分解温度は前記加熱温度以下であるとした。
さらに前記加熱温度が80℃の場合には、酸化銀粉末を加熱後にX線回折測定した結果、33°付近に相対強度比100となるピークを確認し、その回折線角度からJCPDS−ICDDにて物質同定したところ、酸化銀のメインピークであることを確認した。この結果は後記の実施例2においても同様であった。
【0025】
また、50mgの前記微粒子酸化銀粉末を、20gの0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液中にて、ホモジナイザーを用いて10分間超音波分散を行った後、粒度分布測定装置(日機装社製、商品名:マイクロトラックHRA)にて平均粒径(二次粒径)を測定したところ0.088μmであった(本発明で、平均粒径とは、前記粒度分布測定装置を用い前記方法で測定した平均粒径D50の値を示す)。
また、比表面積測定装置(QUANTA CHROME社製、装置名:MONOSORB)を用い、脱気条件を60℃15分として、比表面積をBET1点法にて測定したところ、10.6m2/gであった(本発明で、比表面積とは、前記装置、方法で測定した値を示す)。
さらに、得られた微粒子酸化銀粉末中の不純物分析をイオンクロマトグラフ(DIONEX社製)にて残留ナトリウムイオン量を測定したところ、10ppm未満であった。
【0026】
[実施例2]実施例1と同様にしてデカンテーション後の中和澱物を経て、純水量と中和澱物である酸化銀との固液質量比(酸化銀:水)が1:7のスラリーを得た。
このスラリー中の理論銀量に対し1.5質量%となるゼラチン2.7gを132gの純水中に溶解させた。同じくスラリー中の理論銀量に対し0.2質量%となるポリビニルアルコール0.35gを18gの純水中に溶解させ、撹拌中の固液重量比1:7(酸化銀:水)のスラリー内にこれらのゼラチン溶液とポリビニルアルコール溶液を同時投入し、10分間撹拌混合を行なった。その後速やかに固液分離を行い、濃茶色のウエットケーキを得た。
そのウエットケーキを55℃に設定した真空乾燥機内にて12時間乾燥させ、乾固粉をコーヒーミルで解砕させることにより、目的の微粒子酸化銀粉末を得た。
【0027】
そこで得られた微粒子酸化銀粉末を、示差熱分析測定装置(ブルカーエイエックス社製TG−DTA2000)にて、大気中500℃まで、毎分5℃の昇温速度で測定したところ、高分子有機物被膜の燃焼と酸素の解離による、143℃での発熱ピークが確認できた。
また、得られた微粒子酸化銀粉末を加熱器にて143℃まで加熱したところ、濃茶色の酸化銀粉末が灰色に変化した。
変色後の灰色粉末をX線回折装置(リガク社製Rotaflex)にてCuKα線2θ角で定性分析を行ったところ、メインピークが38°にあることを確認した。その回折線角度からJCPDS−ICDDにて物質同定したところ、銀のメインピークであることを確認した。
【0028】
また、粒度分布測定装置(日機装社製、商品名:マイクロトラックHRA)にて平均粒径(二次粒径)を測定したところ0.093μmであった。また、比表面積をBET1点法にて測定したところ、11.4m2/gであった。
さらに、得られた微粒子酸化銀粉末中の不純物分析をイオンクロマトグラフ(DIONEX社製)にて残留ナトリウムイオン量を測定したところ、10ppm未満であった。
【0029】
[比較例1]160gの純水に銀濃度38.0質量%の硝酸銀水溶液466gを添加した硝酸銀水溶液を調整した。前記硝酸銀水溶液中の銀量を酸化銀換算した理論酸化銀量に対し1.0質量%となるポリビニルアルコール(和光純薬製試薬、重合度2000)1.9gを溶解させた水溶液を前記硝酸銀水溶液に添加して、マグネットスターラーを用いて10分間混合を行った。
中和剤として市販の48%水酸化ナトリウム水溶液150.3gを準備した。
反応槽は5Lビーカーを用い、予め3.6Lに定量した純水を、温度調節器にて49±1℃とした後、市販の48%水酸化ナトリウム水溶液6.8gを添加した。その時のpHは11.8であった。
温度調節とpH制御を行った水酸化ナトリウム水溶液を撹拌している中に、先に準備していた硝酸銀とポリビニルアルコールの混合水溶液と、中和剤である48%水酸化ナトリウム水溶液とを同時に添加する。この時の添加速度は、硝酸銀とポリビニルアルコール混合水溶液を毎分145g、48%水酸化ナトリウム水溶液を毎分30gとし、約5分で全量添加できる様、添加速度を調整した。全量添加後のpHは11.9であった。
その後、10分間撹拌を継続し、中和澱物の熟成を行った。その時のpHは11.9であった。
【0030】
熟成終了後、残留ナトリウムイオンを除去する目的で、純水にてデカンテーションを行った。1回のデカンテーションで使用する純水量は約3Lとし、最終的に排水中の電気伝導率が2mS/m以下となるまで合計14回繰り返した。
その後30分静置させ完全に中和澱物を沈降させた後、純水量と中和澱物である酸化銀粉末との固液質量比(酸化銀:水)が1:7になる様、上澄み液を排出した。
得られたスラリーをヌッチェにて固液分離し十分水洗した後、55℃の真空乾燥機内にて約12時間乾燥させ乾固粉を得、更にその乾固粉をコーヒーミルにて解砕し、微粒子酸化銀粉末を得た。
【0031】
そこで得られた微粒子酸化銀粉末を粒度分布測定装置(商品名:マイクロトラックHRA、日機装社製)にて平均粒径を測定したところ0.09μmであった。また、比表面積をBET1点法にて測定したところ、7.3m2/gであった。
また、示差熱分析測定装置(ブルカーエイエックス社製TG−DTA2000)にて、大気中500℃まで、毎分5℃の昇温速度で測定したところ、392.6℃での吸熱ピークが確認されたが、それ以下の温度域での発熱ピークは確認出来なかった。
さらに、大気中200℃以下での加熱試験でも灰色変色を確認出来ず、リガク社製X線回折装置にてCuKα線2θ角で定性分析を行ったところ、33°付近に相対強度比100となるピークを確認し、その回折線角度からJCPDS−ICDDにて物質同定したところ、酸化銀のメインピークであることを確認した。
【0032】
[比較例2]160gの純水に銀濃度38.0質量%の硝酸銀水溶液466gを添加した硝酸銀水溶液を調整した。前記硝酸銀水溶液中の銀量を酸化銀換算した理論酸化銀量に対し1.5質量%となるポリビニルアルコール(和光純薬製試薬、重合度2000)2.9gを純水100gに溶解させた以外は比較例1と同様のプロセスにて酸化銀粒子含有スラリーを得た。
スラリー中の残留ナトリウムイオンを除去する目的で、純水にてデカンテーションを行った。1回のデカンテーションで使用する純水量は約3Lとし、最終的に排水中の電気伝導率が2mS/m以下となるまで合計14回繰り返した。
その後30分静置させ完全に中和澱物を沈降させた後、純水量と中和澱物である酸化銀粉末との固液質量比(酸化銀:水)が1:7になる様、上澄み液を排出した。
得られた酸化銀粒子含有スラリーをヌッチェにて固液分離し十分水洗した後、55℃での真空乾燥機内にて約12時間乾燥させ乾固粉を得、更にその乾固粉をコーヒーミルにて解砕し、微粒子酸化銀粉末を得た。
【0033】
そこで得られた微粒子酸化銀粉末を粒度分布測定装置(商品名:マイクロトラックHRA、日機装社製)にて平均粒径を測定したところ0.15μmであった。また、比表面積をBET1点法にて測定したところ、6.9m2/gであった。
また、示差熱分析測定装置(ブルカーエイエックス社製TG−DTA2000)にて、大気中500℃まで、毎分5℃の昇温速度で測定したところ、382℃での吸熱ピークが確認されたが、それ以下の温度域での発熱ピークは確認出来なかった。
さらに、大気中200℃以下での加熱試験でも灰色変色を確認出来ず、リガク社製X線回折装置にてCuKα線2θ角で定性分析を行ったところ、33°付近に相対強度比100となるピークを確認し、その回折線角度からJCPDS−ICDDにて物質同定したところ、酸化銀のメインピークであることを確認した。
【0034】
[比較例3]160gの純水に銀濃度38.0質量%の硝酸銀水溶液466gを添加した硝酸銀水溶液を調整し、硝酸銀水溶液中の銀量を酸化銀換算した理論酸化銀量に対し1.5質量%となるゼラチン(ゼライス株式会社製、銘柄:E−200)2.9gを純水に溶解させた以外は、比較例1と同様のプロセスにて酸化銀粒子含有スラリーを得た。
酸化銀粒子含有スラリー中の残留ナトリウムイオンを除去する目的で、純水にてデカンテーションを行った。1回のデカンテーションで使用する純水量は約3Lとし、最終的に排水中の電気伝導率が2mS/m以下となるまで合計14回繰り返した。
その後30分静置させ完全に中和澱物を沈降させた後、純水量と中和澱物である酸化銀粉末との固液質量比(酸化銀:水)が1:7になる様、上澄み液を排出した。
得られた酸化銀粒子含有スラリーをヌッチェにて固液分離し十分水洗した後、55℃での真空乾燥機内にて約12時間乾燥させ乾固粉を得、更にその乾固粉をコーヒーミルにて解砕し微粒子酸化銀粉末を得た。
【0035】
そこで得られた微粒子酸化銀粉末を粒度分布測定装置(商品名:マイクロトラックHRA、日機装社製)にて平均粒径を測定したところ0.12μmであった。また、比表面積をBET1点法にて測定したところ、7.2m2/gであった。
また、示差熱分析測定装置(ブルカーエイエックス社製TG−DTA2000)にて、大気中500℃まで、毎分5℃の昇温速度で測定したところ、399℃での吸熱ピークが確認されたが、それ以下の温度域での発熱ピークは確認出来なかった。
また、大気中200℃以下での加熱試験でも灰色変色を確認出来ず、リガク社製X線回折装置にてCuKα線2θ角で定性分析を行ったところ、33°付近に相対強度比100となるピークを確認し、その回折線角度からJCPDS−ICDDにて物質同定したところ、酸化銀のメインピークであることを確認した。
【0036】
[比較例4]160gの純水に銀濃度38.0質量%の硝酸銀水溶液466gを添加した硝酸銀水溶液を調整した。前記硝酸銀水溶液中の銀量を酸化銀換算した理論酸化銀量に対し6.0質量%となるポリビニルアルコール(和光純薬製試薬、重合度2000)11.4gを純水に溶解させた以外は、比較例1と同様のプロセスにて酸化銀粒子含有スラリーを得た。
酸化銀粒子含有スラリー中の残留ナトリウムイオンを除去する目的で、ヌッチェにて濾過を行ったが、銀塩に添加した添加物が粘着剤として作用し、スラリーを濾過させるのに4時間、3Lの純水を用いての洗浄に約6時間費やした為、作業性を考慮して2回目以降の純水洗浄を断念した。
その酸化銀ウエットケーキを55℃に設定した真空減圧乾燥機内にて約12時間乾燥させ、得られた乾固粉をコーヒーミルで解砕させたところ、その解砕エネルギーにより微粒子酸化銀粉末が瞬間的に還元し(酸化銀を被覆する有機物が瞬時に燃焼し)、酸化銀粉末を得ることが出来なかった。
【0037】
[比較例5]硝酸銀水溶液に添加する物質をポリビニルアルコールからゼラチン(ゼライス株式会社製、銘柄:E−200)に変更した以外は、比較例4の方法で微粒子酸化銀粉末を得た。
酸化銀粒子含有スラリー中の残留ナトリウムイオンを除去する目的で、ヌッチェにて濾過を行ったが、銀塩に添加した添加物が粘着剤として作用し、スラリーを濾過させるのに4時間、3Lの純水を用いての洗浄に約6時間費やした為、作業性を考慮して2回目以降の純水洗浄を断念した。
その酸化銀ウエットケーキを55℃に設定した真空減圧乾燥機内にて12時間乾燥させ、得られた乾固粉をコーヒーミルで解砕させた所、その解砕エネルギーにより微粒子酸化銀粉末が瞬間的に還元し(酸化銀を被覆する有機物が瞬時に燃焼し)、酸化銀粉末を得ることが出来なかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化銀粒子が生成されたスラリーを洗浄し、得られた該酸化銀粒子を水に懸濁させたスラリーに高分子有機物を該酸化銀粒子の銀量に対し0.1〜2.5質量%添加することにより、該酸化銀粒子表面に該高分子有機物の被膜を形成する酸化銀粉末の製造方法。
【請求項2】
前記高分子有機物がゼラチン、又は、アラビアゴム、デキストリン、ポリビニルアルコール、ロジン、アミノ酸および寒天の群から選ばれる少なくとも1種とゼラチンである、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記の酸化銀粒子を水に懸濁させたスラリーの該酸化銀:該水の質量比が1:1〜1:28である、請求項1または2に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−176892(P2012−176892A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−130463(P2012−130463)
【出願日】平成24年6月8日(2012.6.8)
【分割の表示】特願2008−121103(P2008−121103)の分割
【原出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(591203082)DOWAハイテック株式会社 (9)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)