説明

酸化銀組成物

【課題】耐熱性の低い基材、特に、PET、PI等のプラスチック材料にも良好に導電性被膜を形成することができ、基材との密着性および導電性に優れた導電性被膜を形成することができる酸化銀組成物および該酸化銀組成物を用いた導電性被膜の形成方法ならびに導電性被膜付き基材の提供。
【解決手段】酸化銀(A)と、ウレタンプレポリマーならびにエポキシ樹脂および/またはフェノール樹脂からなる硬化性樹脂(B)と、を含有する酸化銀組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化銀組成物、導電性被膜の形成方法および導電性被膜付き基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、導電性樹脂組成物(導電性ペースト)は、塗布または印刷を行い、乾燥または加熱硬化させることにより、各種の電子機器・電子部品・電子回路に利用されている。
この導電性ペーストには、酸化銀、銀粉、ニッケル粉、カーボンブラック等の導電性フィラーが用いられており、フェノール系、エポキシ系、ポリエステル系、ポリウレタン系等の樹脂(バインダー)が用いられることが知られている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0003】
中でも、導電性フィラーとして酸化銀を用い、バインダーとしてポリエステル樹脂を用いた導電性ペーストは、ポリエチレンテレフタラート(PET)等のプラスチック材料に導電性被膜(電子回路)を形成できるため広く一般に用いられている。
しかしながら、この導電性ペーストを用いた場合は、酸化銀を銀に還元する必要があり、導電性被膜の電気抵抗を低くするためには、塗布後、高温(200℃超)で焼成する必要があり、その高温にプラスチック材料が耐えられない問題があった。
また、ポリイミド(PI)などの耐熱性に優れたプラスチック材料を用いた場合には、導電性被膜との密着性が悪いという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−15474号公報
【特許文献2】特開昭60−88027号公報
【特許文献3】特開昭63−86205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、耐熱性の低い基材、特に、PET、PI等のプラスチック材料にも良好に導電性被膜を形成することができ、基材との密着性および導電性に優れた導電性被膜を形成することができる酸化銀組成物および該酸化銀組成物を用いた導電性被膜の形成方法ならびに導電性被膜付き基材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、酸化銀と、ウレタンプレポリマーならびにエポキシ樹脂および/またはフェノール樹脂からなる硬化性樹脂と、を含有する酸化銀組成物が耐熱性の低い基材にも良好に導電性被膜を形成することができ、基材との密着性および導電性が良好となることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、下記(i)〜(vii)を提供する。
(i)酸化銀(A)と、ウレタンプレポリマーならびにエポキシ樹脂および/またはフェノール樹脂からなる硬化性樹脂(B)と、を含有する酸化銀組成物。
(ii)更に、硬化剤(C)を含有する上記(i)に記載の酸化銀組成物。
(iii)上記硬化剤(C)が、ケトンまたはアルデヒドと、アミンとから導かれるイミノ(>C=N−)結合を有するイミン化合物である上記(ii)に記載の酸化銀組成物。
【0008】
(iv)上記フェノール樹脂が、下記式(1)で表される上記(i)〜(iii)のいずれかに記載の酸化銀組成物。
【0009】
【化1】

【0010】
式中、R1は炭素数1〜10の2価の脂肪族または脂環式炭化水素基を表し、R2は水素原子または炭素数1〜10の1価の炭化水素基を表し、nは1〜3の整数を表す。nが2または3の場合、複数のR1はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0011】
(v)上記硬化性樹脂(B)の含有量が、酸化銀(A)100質量部に対して0.5〜20質量部である上記(i)〜(iv)のいずれかに記載の酸化銀組成物。
(vi)上記(i)〜(v)のいずれかに記載の酸化銀組成物を基材上に塗布して塗膜を形成する塗膜形成工程と、得られた塗膜を60〜200℃の温度に加熱して導電性被膜を得る熱処理工程と、を具備する導電性被膜の形成方法。
(vii)上記(vi)に記載の導電性被膜の形成方法により得られる導電性被膜が基材上に形成された導電性被膜付き基材。
【発明の効果】
【0012】
以下に示すように、本発明によれば、耐熱性の低い基材、特に、PET、PI等のプラスチック材料にも良好に導電性被膜を形成することができ、基材との密着性および導電性に優れた導電性被膜を形成することができる酸化銀組成物および該酸化銀組成物を用いた導電性被膜の形成方法ならびに導電性被膜付き基材を提供することができる。
また、本発明の酸化銀組成物を用いれば、耐熱性の低い基材上にも電子回路、アンテナ等の回路を容易に作製することができるため非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の酸化銀組成物は、酸化銀(A)と、ウレタンプレポリマーならびにエポキシ樹脂および/またはフェノール樹脂からなる硬化性樹脂(B)と、を含有する酸化銀組成物である。
本発明の酸化銀組成物は、更に、硬化剤(C)を含有するのが好ましい。
以下に、酸化銀(A)、硬化性樹脂(B)および硬化剤(C)について詳述する。
【0014】
<酸化銀(A)>
本発明の酸化銀組成物で用いる酸化銀(A)は、酸化銀(I)、即ち、Ag2Oである。
本発明においては、酸化銀(A)の形状は特に限定されないが、粒子径が10μm以下の粒子状であるのが好ましく、1μm以下であるのがより好ましい。粒子径がこの範囲であると、より低温で自己還元反応が生ずるので、結果的により低温で導電性被膜を形成できる。
【0015】
<硬化性樹脂(B)>
本発明の酸化銀組成物で用いる硬化性樹脂(B)は、ウレタンプレポリマーならびにエポキシ樹脂および/またはフェノール樹脂からなる。即ち、硬化性樹脂(B)は、以下で例示する、ウレタンプレポリマーおよびエポキシ樹脂、ウレタンプレポリマーおよびフェノール樹脂、または、ウレタンプレポリマー、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂からなるものである。
【0016】
(ウレタンプレポリマー)
上記ウレタンプレポリマーは、通常の1液型のポリウレタン樹脂組成物と同様、ポリオール化合物と過剰のポリイソシアネート化合物(即ち、水酸(OH)基に対して過剰のイソシアネート(NCO)基)を反応させて得られる反応生成物であって、一般に、0.5〜10質量%のNCO基を分子末端に含有するものである。
【0017】
このようなウレタンプレポリマーを生成するポリイソシアネート化合物は、分子内にNCO基を2個以上有する化合物であれば特に限定されず、その具体例としては、TDI(例えば、2,4−トリレンジイソシアネート(2,4−TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート(2,6−TDI))、MDI(例えば、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4′−MDI)、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4′−MDI))、1,4−フェニレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、リジンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアナートメチル(NBDI)などの脂肪族ポリイソシアネート;トランスシクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(H6XDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水添TDI(H6TDI)などの脂環式ポリイソシアネート;上記各ポリイソシアネートのカルボジイミド変性ポリイソシアネート;これらのイソシアヌレート変性ポリイソシアネート;これらのイソシアネート化合物と後述するポリオール化合物とを反応させて得られるウレタンプレポリマー;等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
また、このようなウレタンプレポリマーを生成するポリオール化合物は、OH基を2個以上有する化合物であれば、その分子量および骨格などは特に限定されず、その具体例としては、低分子多価アルコール類、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、その他のポリオール、およびこれらの混合ポリオール等が挙げられる。
【0019】
ここで、低分子多価アルコール類としては、具体的には、例えば、エチレングリコール(EG)、ジエチレングリコール、プロピレングリコール(PG)、ジプロピレングリコール、(1,3−または1,4−)ブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、1,1,1−トリメチロールプロパン(TMP)、1,2,5−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトールなどの低分子ポリオール;ソルビトールなどの糖類;等が挙げられる。
【0020】
ポリカーボネートポリオールは、例えば、ポリオール化合物と、ジアルキルカーボネートとのエステル交換反応により得られる。
このポリオール化合物としては、具体的には、例えば、上記で例示した各種低分子多価アルコール類のうち、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール等が好適に挙げられる。
また、このジアルキルカーボネートとしては、例えば、下記式(2)で表されるジアルキルカーボネートを使用することができる。
【0021】
【化2】


(式中、R3およびR4は、それぞれ独立に、炭素数12以下のアルキル基である。)
【0022】
上記式(2)で表されるジアルキルカーボネートとしては、具体的には、例えば、ジメチルカーボネートおよびジエチルカーボネートが好適に挙げられる。
【0023】
上記ポリオール化合物と、上記ジアルキルカーボネートとのエステル交換反応に適した触媒としては、具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物;ナトリウムメチレート、カリウムメチレート、チタンテトライソプロピレート、ジルコニウムテトライソプロピレート等の金属アルコレート;等が挙げられる。これらのうち、チタンテトライソプロピレート、ジルコニウムテトライソプロピレートが好ましい。
【0024】
次に、ポリエーテルポリオールおよびポリエステルポリオールとしては、通常、上記低分子多価アルコール類から導かれるものが用いられるが、本発明においては、更に芳香族ジオール類から導かれるものも好適に用いることができる。
この芳香族ジオール類としては、具体的には、例えば、キシリレングリコール、1,4−ベンゼンジメタノール、スチレングリコール、4,4′−ジヒドロキシエチルフェノール;下記に示すようなビスフェノールA構造(4,4′−ジヒドロキシフェニルプロパン)、ビスフェノールF構造(4,4′−ジヒドロキシフェニルメタン)、臭素化ビスフェノールA構造、水添ビスフェノールA構造、ビスフェノールS構造、ビスフェノールAF構造のビスフェノール骨格を有するもの;等が挙げられる。
【0025】
【化3】

【0026】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、上記低分子多価アルコール類および上記芳香族ジオール類として例示した化合物から選ばれる少なくとも1種に、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド(テトラメチレンオキサイド)などのアルキレンオキサイドおよびスチレンオキサイド等から選ばれる少なくとも1種を付加させて得られるポリオール等が挙げられる。
このようなポリエーテルポリオールの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール(PPG)、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)、ソルビトール系ポリオール等が挙げられる。
また、ビスフェノール骨格を有するポリエーテルポリオールの具体例としては、ビスフェノールA(4,4′−ジヒドロキシフェニルプロパン)に、エチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドを付加させて得られるポリエーテルポリオールが挙げられる。
【0027】
同様に、ポリエステルポリオールとしては、例えば、上記低分子多価アルコール類および/または芳香族ジオール類と、多塩基性カルボン酸との縮合物(縮合系ポリエステルポリオール);ラクトン系ポリオール;等が挙げられる。
上記縮合系ポリエステルポリオールを形成する多塩基性カルボン酸としては、具体的には、例えば、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ダイマー酸、他の低分子カルボン酸、オリゴマー酸、ヒマシ油、ヒマシ油とエチレングリコールとの反応生成物等のヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
また、上記ラクトン系ポリオールとしては、具体的には、例えば、プロピオンラクトン、バレロラクトン等の開環重合体等が挙げられる。
また、ビスフェノール骨格を有するポリエステルポリオールとしては、上記低分子多価アルコール類に代えて、または低分子多価アルコール類とともに、ビスフェノール骨格を有するジオールを用いて得られる縮合系ポリエステルポリオールが挙げられる。具体的には、ビスフェノールAとヒマシ油とから得られるポリエステルポリオール、ビスフェノールAとヒマシ油とエチレングリコールとプロピレングリコールとから得られるポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0028】
その他のポリオールとしては、具体的には、例えば、アクリルポリオール;ポリブタジエンポリオール;水素添加されたポリブタジエンポリオールなどの炭素−炭素結合を主鎖骨格に有するポリマーポリオール;等が挙げられる。
【0029】
本発明においては、以上で例示した種々のポリオール化合物を1種単独で用いても2種以上を併用してもよく、更に、後述するアミン化合物と併用してもよい。
このようなアミン化合物としては、アミン類およびアルカノールアミン類が挙げられる。アミン類としては、具体的には、例えば、キシリレンジアミン、エチレンジアミン、プロパノールアミン等が挙げられる。アルカノールアミン類としては、具体的には、例えば、エタノールアミン、プロパノールアミン等が挙げられる。
【0030】
上記ウレタンプレポリマーは、上述したように、ポリオール化合物と過剰のポリイソシアネート化合物を反応させることによって得られるものであり、その具体例としては、上記で例示した各種ポリオール化合物と、各種ポリイソシアネート化合物との組み合わせによるものが挙げられる。
【0031】
本発明においては、このようなウレタンプレポリマーのうち、骨格にポリカーボネートを有していることが、得られる本発明の酸化銀組成物を用いることにより、プラスチック材料からなる基材と該基材上に形成される導電性被膜との密着性および該導電性膜の導電性がより良好となるため好ましい。
そのため、ウレタンプレポリマーの原料ポリオール化合物として、ポリカーボネートポリオールを用いるのが好ましい。
【0032】
また、本発明においては、このようなウレタンプレポリマーのうち、NCO基の官能基数が3以上有していることが、得られる本発明の酸化銀組成物を用いることにより、プラスチック材料からなる基材と該基材上に形成される導電性被膜との密着性および該導電性膜の導電性がより良好となるため好ましい。
【0033】
NCO基の官能基数が3以上のウレタンプレポリマーとしては、上記低分子多価アルコール類と、例えば、上記ポリイソシアネート化合物のうちのジイソシアネート化合物との付加体が挙げられ、具体的には、1,1,1−トリメチロールプロパン(TMP)とIPDIとから合成されるIPDI・TMPアダクト体、TMPとTMXDIとから合成されるTMXDI・TMPアダクト体、TMPとHDIとから合成されるHDI・TMPアダクト体、TMPとTDIとから合成されるTDI・TMPアダクト体等が好適に挙げられる。
このようなアダクト体としては、市販品として、IPDI・TMPアダクト体(D140、三井武田ケミカル社製)、TMXDI・TMPアダクト体(サイセン3174、日本サイテックインダストリーズ社製)、HDI・TMPアダクト体(D160、三井武田ケミカル社製)、TDI・TMPアダクト体(スミジュールL75、バイエル社製)等を用いることもできる。
また、上記アダクト体は、必ずしもOH:NCO完全付加体でなくても、未反応原料を含んでいてもよく、また、後述するポリアミン(例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン等)とジイソシアネート化合物との付加体であってもよい。
【0034】
NCO基の官能基数が3以上のウレタンプレポリマーのその他の例としては、具体的には、IPDIイソシアヌレート3量体、HDIイソシアヌレート3量体、TDIイソシアヌレート3量体等が好適に挙げられる。
このようなイソシアヌレート体としては、市販品として、IPDIイソシアヌレート3量体(T1890、デグッサ社製)、HDIイソシアヌレート3量体(スミジュール N3300、住化バイエルウレタン社製)等を用いることもできる。
【0035】
更に、本発明においては、上記ウレタンプレポリマーは、下記一般式(3)で表されるように分子内の全てのNCO基に第二級炭素または第三級炭素が結合した構造を有していることが、得られる本発明の酸化銀組成物を用いることにより、プラスチック材料からなる基材と該基材上に形成される導電性被膜との密着性および該導電性膜の導電性がより良好となるため好ましい。
【0036】
【化4】

【0037】
式中、pは2以上の整数を表し、R5、R6およびR7は、それぞれ独立に、O、NおよびSからなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含んでいてもよい有機基であり、R6は水素原子であってもよい。また、複数のR5およびR6は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。更に、R6が水素原子である場合においては、R5とR6の一部とが結合して環を形成していてもよい。
【0038】
ここで、上記有機基としては、具体的には、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基などの炭化水素基;O、NおよびSからなる群より選ばれるヘテロ原子を少なくとも1つ有する基(例えば、エーテル、カルボニル、アミド、尿素基(カルバミド基)、ウレタン結合など)を含む有機基等が挙げられる。これらのうち、R5およびR6で表される有機基は、アルキル基であることが好ましく、具体的には、メチル基であることが好ましい。
【0039】
上記一般式(3)で表されるウレタンプレポリマーを生成するポリイソシアネート化合物としては、上記一般式(3)で表される構造を有するウレタンプレポリマーが得られるものであれば特に限定されず、公知の1液型のポリウレタン樹脂組成物の製造に用いられるものを用いることができる。
具体的には、上記で例示したポリイソシアネート化合物のうち、TMXDI、IPDI、水添MDI、水添TDIを用いることが、得られるウレタンプレポリマー自体の保存安定性が優れるという理由から好ましい。
【0040】
本発明においては、このようなウレタンプレポリマーを硬化性樹脂(B)として用いることにより、耐熱性の低い基材、特に、PET、PI等のプラスチック材料からなる基材と該基材上に形成される導電性被膜との密着性および該導電性膜の導電性がより良好となる。硬化後の架橋密度が上がるため密着性が良好になり、硬化性樹脂(B)が上記酸化銀(A)の還元作用を促進する還元剤としての効果も発揮するため導電性が良好になると考えられる。
【0041】
また、本発明においては、上記ウレタンプレポリマーの重量平均分子量は特に限定されないが、1500以下であるのが好ましく、300〜1000であるのがより好ましい。重量平均分子量の範囲がこの範囲であると、得られる本発明の酸化銀組成物を用いることにより、プラスチック材料からなる基材と該基材上に形成される導電性被膜との密着性および該導電性膜の導電性がより良好となる。
【0042】
更に、本発明においては、上記ウレタンプレポリマーの含有量は、硬化性樹脂(B)の全質量に対し、0.01〜100質量%であるのが好ましく、0.5〜10質量%であるのがより好ましい。ウレタンプレポリマーの含有量がこの範囲であると、得られる本発明の酸化銀組成物の貯蔵安定性および硬化性が良好となり、プラスチック材料からなる基材と該基材上に形成される導電性被膜との密着性および該導電性膜の導電性がより良好となる。
【0043】
(エポキシ樹脂)
上記エポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有する化合物からなる樹脂であれば特に限定されず、一般的に、エポキシ当量が90〜2000のものである。
【0044】
このようなエポキシ樹脂としては、従来公知のエポキシ樹脂を用いることができ、具体的には、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型等のビスフェニル基を有するエポキシ化合物や、ポリアルキレングリコール型、アルキレングリコール型のエポキシ化合物、更にナフタレン環を有するエポキシ化合物、フルオレン基を有するエポキシ化合物等の二官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;
フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、DPPノボラック型、トリス・ヒドロキシフェニルメタン型、三官能型、テトラフェニロールエタン型等の多官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;
ダイマー酸等の合成脂肪酸のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;
下記式(4)で表されるN,N,N′,N′−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、N,N−ジグリシジルアニリン等のグリシジルアミノ基を有する芳香族エポキシ樹脂;
【0045】
【化5】

【0046】
下記式(5)で表されるトリシクロ〔5,2,1,02,6〕デカン環を有するエポキシ化合物、具体的には、例えば、ジシクロペンタジエンとメタクレゾール等のクレゾール類もしくはフェノール類を重合させた後、エピクロルヒドリンを反応させる公知の製造方法によって得ることができるエポキシ化合物;
【0047】
【化6】


(式中、mは、0〜15の整数を表す。)
【0048】
脂環型エポキシ樹脂;東レチオコール社製のフレップ10に代表されるエポキシ樹脂主鎖に硫黄原子を有するエポキシ樹脂;ウレタン結合を有するウレタン変性エポキシ樹脂;ポリブタジエン、液状ポリアクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)を含有するゴム変性エポキシ樹脂等が挙げられる。
これらは1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0049】
上記で例示した各種エポキシ樹脂のうち、骨格に芳香環を有するエポキシ樹脂を用いるのが、得られる本発明の酸化銀組成物を用いることにより、プラスチック材料からなる基材と該基材上に形成される導電性被膜との密着性および該導電性膜の導電性がより良好となるため好ましい。
また、このようなエポキシ樹脂としては、市販品としてジャパンエポキシレジン社製のエピコート828、エピコート154、エピコート630等を用いることができる。
【0050】
本発明においては、このようなエポキシ樹脂を上記ウレタンプレポリマーとともに硬化性樹脂(B)として用いることにより、耐熱性の低い基材、特に、PET、PI等のプラスチック材料にも、導電性に優れた導電性被膜を良好に形成することができる。これは、硬化後の架橋密度が上がり、硬化性樹脂(B)が上記酸化銀(A)の還元作用を促進する還元剤としての機能も発揮するためであると考えられる。
【0051】
また、本発明においては、上記エポキシ樹脂の含有量は、硬化性樹脂(B)の全質量に対して、後述するフェノール樹脂を用いない場合には、10〜90質量%であるのが好ましく、20〜80質量%であるのがより好ましい。一方、後述するフェノール樹脂を用いる場合には、10〜90質量%であるのが好ましく、20〜80質量%であるのがより好ましい。
エポキシ樹脂の含有量がこの範囲であると、プラスチック材料からなる基材と該基材上に形成される導電性被膜との密着性および該導電性膜の導電性がより良好となる。
【0052】
(フェノール樹脂)
上記フェノール樹脂は、フェノール類とホルムアルデヒドとの付加・縮合で得られる樹脂であれば特に限定されず、その具体例としては、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、クレゾール樹脂、キシレノール樹脂等が好適に挙げられる。
【0053】
本発明においては、上記フェノール樹脂が、下記式(1)で表されるものであるのが、得られる本発明の酸化銀組成物を用いることにより、プラスチック材料からなる基材と該基材上に形成される導電性被膜との密着性および該導電性膜の導電性がより良好となるため好ましい。これは、下記式(1)で表されるフェノール樹脂の芳香環、水酸基、および、酸化銀組成物中で該水酸基とイソシアネート基との反応により形成するウレタン結合が、金属や塗膜と相互作用するためであると考えられる。
【0054】
【化7】

【0055】
式中、R1は炭素数1〜10の2価の脂肪族または脂環式炭化水素基を表し、R2は水素原子または炭素数1〜10の1価の炭化水素基を表し、nは1〜3の整数を表す。nが2または3の場合、複数のR1はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
1の炭素数1〜10の2価の脂肪族または脂環式炭化水素基としては、具体的には、例えば、アルキレン基、ビニレン基などの2価の脂肪族炭化水素基;1,4−シクロへキシレン基などの2価の脂環式炭化水素基;およびこれらを組合せた基等が挙げられる。より具体的には、アルキレン基として、エチレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、1,8−オクチレン基等が好適に例示される。
また、R2の炭素数1〜10の1価の炭化水素基としては、具体的には、例えば、アルキル基、ビニル基、アリル基などの1価の脂肪族炭化水素基;シクロへキシル基などの1価の脂環式炭化水素基;フェニル基などの1価の芳香族炭化水素基;およびこれらを組合せた基等が挙げられる。より具体的には、アルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−オクチル基等が好適に例示される。
【0056】
上記式(1)で表されるフェノール樹脂のうち、R1がメチレン基であり、R2がアリル基または水素原子であるものが、原料の入手容易性の観点から望ましく、また、得られる本発明の酸化銀組成物を用いることによりプラスチック材料からなる基材と該基材上に形成される導電性被膜との密着性および該導電性膜の導電性がより良好となるため好ましい。
上記式(1)で表されるフェノール樹脂としては、市販品としてOxyChem社製のメチロン75−108、住友化学社製のスミライト23等を用いることもできる。
【0057】
本発明においては、このようなフェノール樹脂を上記ウレタンプレポリマーとともに硬化性樹脂(B)として用いることにより、耐熱性の低い基材、特に、PET、PI等のプラスチック材料にも、導電性に優れた導電性被膜を良好に形成することができる。これは、硬化後の架橋密度が上がり、硬化性樹脂(B)が上記酸化銀(A)の還元作用を促進する還元剤としての機能も発揮するためであると考えられる。
【0058】
また、本発明においては、上記フェノール樹脂の含有量は、硬化性樹脂(B)の全質量に対して、上述したエポキシ樹脂を用いない場合には、10〜90質量%であるのが好ましく、20〜80質量%であるのがより好ましい。一方、上述したエポキシ樹脂を用いる場合には、10〜90質量%であるのが好ましく、20〜80質量%であるのがより好ましい。
フェノール樹脂の含有量がこの範囲であると、プラスチック材料からなる基材と該基材上に形成される導電性被膜との密着性および該導電性膜の導電性がより良好となる。
【0059】
本発明においては、上記硬化性樹脂(B)の含有量は、上記酸化銀(A)100質量部に対して、0.5〜20質量部であるのが好ましく、1〜10質量部であるのがより好ましい。
硬化性樹脂(B)の含有量がこの範囲であると、得られる本発明の酸化銀組成物を用いることによりプラスチック材料からなる基材と該基材上に形成される導電性被膜との密着性および該導電性膜の導電性がより良好となるため好ましい。
【0060】
<硬化剤(C)>
本発明の酸化銀組成物で所望により用いられる硬化剤(C)は、上記硬化性樹脂(B)に上記フェノール樹脂を用いなかった場合に用いるのが望ましく、上記硬化性樹脂(B)、特に、ウレタンプレポリマーおよび/またはエポキシ樹脂に対してに使用できるものであれば特に限定されない。
【0061】
本発明においては、上記硬化剤(C)は、ウレタンプレポリマーおよび/またはエポキシ樹脂に対する硬化性、配合してから塗布するまでの作業性、貯蔵安定性の観点から、潜在性硬化剤であるのが好ましく、イミン化合物であるのが好ましい。
【0062】
上記イミン化合物は、ケトンまたはアルデヒドと、アミンとから導かれるイミノ(>C=N−)結合を有する化合物であり、具体的には、ケトンとアミンとから導かれるケチミン、アルデヒドとアミンとから導かれるアルジミンが挙げられる。
【0063】
このようなイミン化合物の合成に用いられるケトンまたはアルデヒドとしては、広く公知のものを使用することができ、例えば、下記式(6)または(7)で表される化合物が挙げられる。
【0064】
【化8】

【0065】
上記式(6)中、R11およびR13は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基または水素原子を表し、R12は、メチル基またはエチル基を表し、R14は炭素数1〜6のアルキル基を表す。ただし、R14は、R11またはR12と結合して環を形成することができる。また、R14がR12と結合して環を形成し、さらに、カルボニル基のα位の炭素原子のうち、該環に含まれる炭素原子が、R12またはR14と二重結合で結合する場合、R13は存在しない。なお、R14が、R11またはR12と結合して環を形成する場合、形成されてなる環状炭化水素としては、例えば、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素が挙げられる。
上記式(7)中、R15およびR16は、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基を表し、R15とR16は、お互いに結合して環を形成することができる。なお、R15とR16が結合して環を形成する場合、形成されてなる環状炭化水素としては、例えば、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素が挙げられる。
【0066】
上記式(6)で表される化合物は、イミノ化された際にイミノ結合を構成する炭素原子(以下、「イミン炭素原子」ともいう。)のα位の炭素原子の一方が、2個または3個の置換基を有しており、いわば分岐炭素原子となっている。上記式(6)で表される化合物は、このようにイミン炭素原子が、嵩高い基と比較的嵩の小さな基とを有するため、硬化性と可使時間とがいずれも好適範囲になる。
【0067】
また、上記式(7)で表される化合物は、イミン炭素原子のα位の炭素原子の両方が、いずれも分岐炭素原子ではないが、いずれも炭素原子数1〜6のアルキル基と結合している。また、当該炭素原子数1〜6のアルキル基2個は、お互いに結合して環を形成することができる。上記式(7)で表される化合物は、このようにイミン炭素原子が2個の炭素原子数2〜7のアルキル基を有するため、硬化性と可使時間とがいずれも好適範囲になる。
【0068】
上記式(6)で表される化合物としては、具体的には、例えば、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチル−t−ブチルケトン(MTBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、ピバルアルデヒド(トリメチルアセトアルデヒド)、カルボニル基に分岐炭素が結合したイソブチルアルデヒド((CH3)2CHCHO)、メチルシクロヘキサノン、エチルシクロヘキサノン、メチルシクロヘキシルケトン、アセトフェノン、プロピオフェノン、等が挙げられ、これらを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのうち、MTBK、MIPKが好ましい。
【0069】
また、上記式(7)で表される化合物としては、具体的には、例えば、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジブチルケトン、エチルプロピルケトン、エチルブチルケトン、ブチルプロピルケトン、エチルイソプロピルケトン、エチルアミルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられ、これらを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのうち、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジブチルケトンが好ましい。
【0070】
一方、上記イミン化合物合成の原料として用いることができるアミン化合物としては、広く公知のものを使用することができ、分子内にアミノ基を2個以上有するポリアミンであるのが好ましく、反応調整が容易という観点から下記式(8)で表されるポリアミンであるのがより好ましい。
【0071】
【化9】


(式中、nは、2〜6の整数を表す。)
【0072】
アミン化合物としては、具体的には、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、イミノビスプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、1,5−ジアミノ−2−メチルペンタン(例えば、デュポン・ジャパン社製のMPMD等)のような脂肪族ポリアミン;メタフェニレンジアミン、オルトフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン(MXDA)、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、ジアミノジエチルジフェニルメタンのような芳香族ポリアミン;N−アミノエチルピペラジン;3−ブトキシイソプロピルアミンのような主鎖にエーテル結合を有するモノアミン;サンテクノケミカル社製のジェファーミンEDR148に代表されるポリエーテル骨格のジアミン;イソホロンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン(例えば、三菱ガス化学社製の1,3BAC等)、1−シクロヘキシルアミノ−3−アミノプロパン、3−アミノメチル−3,3,5−トリメチル−シクロヘキシルアミンのような脂環式ポリアミン;ノルボルナンジアミン(例えば、三井化学社製のNBDA等)のようなノルボルナン骨格のジアミン;ポリアミドの分子末端にアミノ基を有するポリアミドアミン;2,5−ジメチル−2,5−ヘキサメチレンジアミン、メンセンジアミン、1,4−ビス(2−アミノ−2−メチルプロピル)ピペラジン、ポリプロピレングリコール(PPG)を骨格に持つサンテクノケミカル社製のジェファーミンD230、ジェファーミンD400;等が挙げられ、これらを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0073】
これらのうち、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン(1,3BAC)、ノルボルナンジアミン(NBDA)、m−キシリレンジアミン(MXDA)、ジェファーミンEDR148(商品名)、ポリアミドアミンであるのが好ましい。
【0074】
上記イミン化合物は、上述したように、ケトンまたはアルデヒドと、アミンとから導かれる化合物であり、上記で例示した各種ケトンまたはアルデヒドと、各種アミンとの組み合わせによるものが挙げられる。
具体的には、MIBKとプロピレンジアミンとから得られるもの;MIPKおよび/またはMTBKとジェファーミンEDR148とから得られるもの;MIPKおよび/またはMTBKと1,3BACとから得られるもの;MIPKおよび/またはMTBKとNBDAとから得られるもの;MIPKおよび/またはMTBKとMXDAとから得られるもの;MIPKおよび/またはMTBKとポリアミドアミンとから得られるもの;ジエチルケトンとMXDAとから得られるもの;等が好適に例示される。
これらのうち、MIPKまたはMTBKと1,3BACとから得られるもの;MIPKまたはMTBKとNBDAとから得られるもの;MIPKまたはMTBKとMXDAとから得られるものが、得られる本発明の酸化銀組成物を用いることによりプラスチック材料からなる基材と該基材上に形成される導電性被膜との密着性および該導電性膜の導電性がより良好となるため好ましい。
【0075】
また、アルデヒドとポリアミンとの組み合わせから得られるイミン化合物としては、具体的には、ピバルアルデヒド、イソブチルアルデヒドおよびシクロヘキサンカルボクスアルデヒドからなる群より選択される少なくとも1種のアルデヒドと、NBDA、1,3BAC、ジェファーミンEDR148およびMXDAからなる群より選択される少なくとも1種のアミンとの組み合わせから得られるものが好適に例示される。
【0076】
このようなイミン化合物は、ケトンまたはアルデヒドと、アミンとを、無溶媒下、またはベンゼン、トルエン、キシレン等の溶媒存在下、加熱環流させ、脱離してくる水を共沸により除きながら反応させることにより得ることができる。
【0077】
本発明において、上記イミン化合物の含有量は、(ウレタンプレポリマーのNCO基およびエポキシ樹脂のエポキシ基の合計)/(イミン化合物中のイミノ結合)で表される当量比が、0.5〜3.0となるように含有していることが好ましく、0.8〜2.0となるように含有していることがより好ましい。
【0078】
本発明の酸化銀組成物は、加熱温度を低下させ、加熱時間を短縮する観点から、2級脂肪酸銀化合物および/または3級脂肪酸銀化合物を含有するのが好ましい態様の一つである。
上記2級脂肪酸銀化合物としては、具体的には、例えば、2−メチルプロパン酸銀塩(イソ酪酸銀塩)、2−メチルブタン酸銀塩、2−メチルペンタン酸銀塩、2−メチルヘプタン酸銀塩、2−メチルヘキサン酸銀塩、2−エチルブタン酸銀塩、ネオデカン酸銀塩等が挙げられる。
上記3級脂肪酸銀化合物としては、具体的には、例えば、ネオデカン酸銀塩、ピバル酸銀塩等が挙げられる。
【0079】
これらの脂肪酸銀化合物の含有量は、上記酸化銀(A)のモル数Aと、これらの脂肪酸銀化合物のモル数Bとのモル比(A/B)が、2/1〜15/1であるのが好ましい。モル比がこの範囲であると、得られる本発明の酸化銀組成物を用いて形成した導電性被膜の導電性がより良好となる。
【0080】
本発明の酸化銀組成物は、必要に応じて、上記の各種成分を溶液化する溶媒を含有していてもよい。
溶媒としては、具体的には、例えば、ブチルカルビトール、メチルエチルケトン、イソホロン、α−テルピネオール等が挙げれ、これらを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
中でも、イソホロンおよび/またはα−テルピネオールを溶媒として用いるのが、得られる本発明の酸化銀組成物をのチクソ性が良好となるため好ましい。
【0081】
本発明の酸化銀組成物は、必要に応じて、金属粉を含有していてもよい。
上記金属粉としては、具体的には、例えば、銅、銀、アルミニウム等が挙げられ、中でも、銅、銀であるのが好ましい。また、0.01〜10μmの粒径の金属粉であるのが好ましい。
なお、本発明の酸化銀組成物は、酸化銀の還元が60〜200℃という低温でも進行するが、通常、金属粉とともに併用される還元剤(例えば、エチレングリコール類等)を含有してもよい。
【0082】
本発明の酸化銀組成物は、上記イミン化合物を含有する場合、該イミン化合物の加水分解触媒を含有するのが好ましい態様の一つである。
加水分解触媒は、特に限定されず、その具体例としては、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸等のカルボン酸類;ポリリン酸、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート等のリン酸類;ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート等の有機金属類;等が挙げられる。
このような加水分解触媒を含有していれば、イミン化合物の湿気(水)による加水分解が促進され、作業性および密着性のバランスが向上するため好ましい。
【0083】
本発明においては、加水分解触媒の含有量は、上記イミン化合物100質量部に対して0.01〜30質量部であるのが好ましく、0.1〜20質量部であるのがより好ましい。
【0084】
本発明の酸化銀組成物は、シランカップリング剤を含有するのが好ましい態様の一つである。
シランカップリング剤は、特に限定されず、その具体例としては、アミノシラン、ビニルシラン、エポキシシラン、メタクリルシラン、イソシアネートシラン、ケチミンシランもしくはこれらの混合物もしくは反応物、または、これらとポリイソシアネートとの反応により得られる化合物等が挙げられる。
【0085】
アミノシランは、アミノ基もしくはイミノ基と加水分解性のケイ素含有基とを有する化合物であれば特に限定されず、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルエチルジエトキシシラン、ビストリメトキシシリルプロピルアミン、ビストリエトキシシリルプロピルアミン、ビスメトキシジメトキシシリルプロピルアミン、ビスエトキシジエトキシシリルプロピルアミン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルエチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0086】
ビニルシランとしては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、トリス−(2−メトキシエトキシ)ビニルシラン等が挙げられる。
エポキシシランとしては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
メタクリルシランとしては、例えば、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
イソシアネートシランとしては、例えば、イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、イソシアネートプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
ケチミンシランとしては、例えば、ケチミン化プロピルトリメトキシシラン、ケチミン化プロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0087】
シランカップリング剤の含有量は、上記硬化性樹脂(B)100質量部に対して、0.1〜10質量部であるのが好ましい。
シランカップリン剤の含有量がこの範囲であれば、ガラス基板を用いた場合であっても、該基板上に形成される導電性被膜との密着性および該導電性膜の導電性がより良好となるため好ましい。
【0088】
本発明の酸化銀組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記各種成分以外に、必要に応じて、各種の添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、充填剤、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、接着性付与剤、分散剤が挙げられる。
【0089】
充填剤としては、例えば、ろう石クレー、カオリンクレー、焼成クレー;ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ;けいそう土;酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛;カーボンブラック等の有機または無機充填剤;これらの脂肪酸、樹脂酸、脂肪酸エステル処理物、脂肪酸エステルウレタン化合物処理物が挙げられる。
【0090】
老化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)が挙げられる。
帯電防止剤としては、例えば、第四級アンモニウム塩;ポリグリコール、エチレンオキサイド誘導体等の親水性化合物が挙げられる。
【0091】
難燃剤としては、例えば、クロロアルキルホスフェート、ジメチル・メチルホスホネート、臭素・リン化合物、アンモニウムポリホスフェート、ネオペンチルブロマイド−ポリエーテル、臭素化ポリエーテルが挙げられる。
接着性付与剤としては、例えば、テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペン−フェノール樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂、エポキシ樹脂が挙げられる。
上記の各添加剤は適宜、組み合わせて用いることができる。
【0092】
本発明の酸化銀組成物の製造方法は特に限定されず、上記酸化銀(A)および上記硬化性樹脂(B)ならびに所望により含有していてもよい上記硬化剤(C)、各種添加剤(溶剤、金属粉、加水分解触媒、シランカップリング剤を含む。)を、ロール、ニーダー、押出し機、万能かくはん機等により混合する方法が挙げられる。
【0093】
本発明の導電性被膜の形成方法は、本発明の酸化銀組成物を基材上に塗布して塗膜を形成する塗膜形成工程と、得られた塗膜を60〜200℃の温度に加熱して導電性被膜を得る熱処理工程と、を具備する導電性被膜の形成方法である。
以下に、塗膜形成工程、熱処理工程について詳述する。
【0094】
<塗膜形成工程>
上記塗膜形成工程は、本発明の酸化銀組成物を基材上に塗布して塗膜を形成する工程である。
ここで、基材としては、PET、ポリエチレンナフタレート、PIなどのフィルム;銅板、銅箔、ガラス、エポキシなどの基板;等が挙げられる。
本発明の酸化銀組成物は、必要に応じて上記で例示したα−テルピネオール等の溶剤を用いて溶液化された後、以下に例示する塗布方法により基材上に塗布され、塗膜を形成する。
塗布方法としては、具体的には、例えば、インクジェット、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、凸版印刷等が挙げられる。
【0095】
<熱処理工程>
上記熱処理工程は、上記塗膜形成工程で得られた塗膜を60〜200℃、好ましくは100〜200℃の温度に加熱して導電性被膜を得る工程である。
本発明においては、塗膜を60〜200℃の低温で熱処理することにより、上記酸化銀(A)が還元(銀と2級脂肪酸への分解)され、本発明の導電性被膜(銀膜)が形成される。
【0096】
また、本発明においては、60〜200℃の温度での熱処理は、数十分間行うのが好ましい。熱処理の時間がこの範囲であると、耐熱性の低い基材にも良好な導電性被膜を形成することができる。
【0097】
なお、本発明においては、上記塗膜形成工程で得られた塗膜は、紫外線または赤外線の照射でも上記サイクルにより導電性被膜を形成することができるため、上記熱処理工程は、紫外線または赤外線の照射によるものであってもよい。
【実施例】
【0098】
以下、実施例を用いて、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0099】
(実施例1〜6、比較例1および2)
下記表1に示す各組成成分を、下記表1に示す質量部となるように、溶剤中で混合し、酸化銀組成物を調製した。
次いで、調製した各酸化銀組成物を、基材である厚さ100μmのPETフイルム上に塗布して塗膜を形成した後、180℃で30分間のぞれぞれの条件で乾燥し、導電性被膜付き基材を作製した。
また、同様の条件で、調製した各酸化銀組成物を、厚さ100μmのPIフイルム上および厚さ20mmのガラス基板上に塗布し、乾燥させ、導電性被膜付き基材を作製した。
【0100】
得られた各導電性被膜付き基材について、以下の方法により密着性および比抵抗を測定した。その結果を表1に示す。
【0101】
<密着性>
各基材に対する導電性被膜の密着性の評価は、碁盤目テープはく離試験により行った。
具体的には、得られた各導電性被膜付き基材に、1mmの基盤目を100個(10×10)作り、基盤目上にセロハン粘着テープ(幅18mm)を完全に付着させ、直ちにテープの一端を導電性膜に直角に保ち、瞬間的に引き離し、完全に剥がれないで残った基盤目の数を調べた。完全に剥がれないで残った基盤目数が100、即ち、全く剥がれなかったものが最も好ましい。
【0102】
<比抵抗>
得られた各導電性被膜付き基材の導電性被膜について、低抵抗率計(ロレスターGP、三菱化学社製)を用いた4端子4探針法により比抵抗(体積固有抵抗値)を測定した。その結果を下記表1に示す。なお、下記表1中、「−」とは、導電性被膜の膜状態が悪いため、測定値が得られなかったことを示す。
【0103】
【表1】

【0104】
表1中の各組成成分は、以下に示す通りである。
・酸化銀:酸化銀(I)
【0105】
・ウレタンプレポリマー1:1,1,1−トリメチロールプロパン(TMP)と、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)との反応物(NCO/OH=2.0)であるTMXDI・TMPアダクト体(サイセン3174、74質量%酢酸エチル溶液、日本サイテックインダストリーズ社製)
【0106】
・ウレタンプレポリマー2:ポリカーボネートジオール(T−5652、旭化成ケミカルズ社製)と、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)とを、NCO/OH=2.0で、固形分が50%となるように酢酸エチルで希釈し、60℃下で12時間反応させて得られた2官能のウレタンプレポリマー
【0107】
・エポキシ樹脂:EP4100(旭電化工業社製)
・フェノール樹脂:メチロン75−108(OxyChem社製)
【0108】
・イミン化合物:ノルボルナンジアミン(NBDA、三井東圧化学社製)100gと、メチルイソプロピルケトン(MIPK)200gとを、トルエン200gとともにフラスコに入れ、生成する水を共沸により除きながら20時間反応させることで合成した、下記構造式で表される化合物
【0109】
【化10】

【0110】
表1に示す結果から、実施例1〜6で調製した酸化銀組成物は、塗布後の乾燥条件が180℃、30分間であっても、PIフィルムおよびガラス基板のみならず、耐熱性の低い材料であるPETフィルムに対しても良好な導電性被膜を形成できることが分かり、上記硬化性樹脂(B)を含有していない比較例1および2で調製した酸化銀組成物に比べて、基材に対する密着性および導電性が良好となることが分かった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化銀(A)と、ウレタンプレポリマーならびにエポキシ樹脂および/またはフェノール樹脂からなる硬化性樹脂(B)と、を含有する酸化銀組成物。
【請求項2】
更に、硬化剤(C)を含有する請求項1に記載の酸化銀組成物。
【請求項3】
前記硬化剤(C)が、ケトンまたはアルデヒドと、アミンとから導かれるイミノ(>C=N−)結合を有するイミン化合物である請求項2に記載の酸化銀組成物。
【請求項4】
前記フェノール樹脂が、下記式(1)で表される請求項1〜3のいずれかに記載の酸化銀組成物。
【化1】


(式中、R1は炭素数1〜10の2価の脂肪族または脂環式炭化水素基を表し、R2は水素原子または炭素数1〜10の1価の炭化水素基を表し、nは1〜3の整数を表す。nが2または3の場合、複数のR1はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項5】
前記硬化性樹脂(B)の含有量が、酸化銀(A)100質量部に対して0.5〜20質量部である請求項1〜4のいずれかに記載の酸化銀組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の酸化銀組成物を基材上に塗布して塗膜を形成する塗膜形成工程と、得られた塗膜を60〜200℃の温度に加熱して導電性被膜を得る熱処理工程と、を具備する導電性被膜の形成方法。
【請求項7】
請求項6に記載の導電性被膜の形成方法により得られる導電性被膜が基材上に形成された導電性被膜付き基材。

【公開番号】特開2007−332328(P2007−332328A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−168870(P2006−168870)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】