酸化防止剤を含む樹脂材料の劣化度判定方法、寿命判定方法、寿命予測方法、寿命検査方法及びコンピュータプログラム
【課題】酸化防止剤を含有する樹脂材料の劣化度或いは寿命を比較的短時間で判定、評価、検査する方法を提供すること。
【解決手段】酸化防止剤を含有する樹脂材料の試料を準備し、
該試料のガスクロマトグラフィー・質量分析法によりマススペクトルを計測し、
該マススペクトルからトータルイオンクロマトグラムのピーク面積を求め、
該ピーク面積から酸化防止剤、その分解物及び/又は変性物(以下、測定対象物と称する)の樹脂材料中の濃度を求め、
前記面積から、予め求められた指標と比較して樹脂材料の劣化度を判定する、
ことを特徴とする樹脂材料の劣化度判定方法。
【解決手段】酸化防止剤を含有する樹脂材料の試料を準備し、
該試料のガスクロマトグラフィー・質量分析法によりマススペクトルを計測し、
該マススペクトルからトータルイオンクロマトグラムのピーク面積を求め、
該ピーク面積から酸化防止剤、その分解物及び/又は変性物(以下、測定対象物と称する)の樹脂材料中の濃度を求め、
前記面積から、予め求められた指標と比較して樹脂材料の劣化度を判定する、
ことを特徴とする樹脂材料の劣化度判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化防止剤が添加された樹脂材料の劣化判定方法、寿命判定方法、寿命予測方法、寿命検査方法及びそれらの方法をコンピュータで実行するためのコンピュータプログラムに関し、特にケーブル絶縁体などのケーブル被覆材料の寿命の判定、予測及び検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ケーブルの被覆材に用いられる樹脂材料の酸化劣化現象については例えば非特許文献1などに解説されている。その概要は図2に示されており、プラスチックスは熱や光などのエネルギーにより、アルキル基の分子結合が切断されると、ラジカル(R・)が発生し、酸素が存在する環境下では酸素と結合してパーオキシラジカル(ROO・)が形成される。
R・+ O2 → ROO・ ・・・[式1]
【0003】
このパーオキシラジカルは反応性に富み、他の分子から水素を引き抜き、過酸化物(ROOH)とラジカル(R・)に変化する。
ROO・ + RH → ROOH + R・ ・・・[式2]
【0004】
新たに発生したラジカル(R・)は酸素存在下で、式1によりまた新たなパーオキシラジカルを形成させる。
【0005】
一方、過酸化物(ROOH)も不安定なため、分解して結果的にパーオキシラジカル(ROO・)、オキシラジカル(RO・)やラジカル(R・)が形成される。
ROOH → RO・+ ・OH ・・・[式3]
【0006】
2ROOH → ROO・ + RO・+H2O ・・・[式4]
【0007】
RO・+ RH → ROH + R・ ・・・[式5]
【0008】
この様に、最初に発生した一つのラジカル(R・)がパーオキシラジカル(ROO・)、過酸化物(ROOH)を経て、新たなラジカルを多数増殖させることとなり、連鎖的に酸化劣化反応が進行する。
【0009】
このため、長期の寿命を必要とするケーブル被覆材には酸化劣化反応の連鎖反応を抑制するために、ラジカル捕捉剤が一次酸化防止剤として添加され、過酸化物(ROOH)分解剤が二次酸化防止剤として添加される。
【0010】
一次酸化防止剤には芳香族アミン系酸化防止剤やフェノール系酸化防止剤が知られている。これらは分子内に−NH結合や−OH基のようなラジカルとの反応性に富む水素原子を含み、架橋ポリエチレン中に生成したラジカルと反応して安定な化合物にする作用を有する。例えば、フェノール系酸化防止剤はフェノール基(−OH)の水素を主にパーオキシラジカルに供与して、自身は安定なフェノキシラジカル(−O・)の形に変化することにより、式2の反応を阻止し、新たなラジカル(R・)の発生を防ぐ。
【0011】
ラジカル捕捉によりフェノール基が消費されてゆくが、フェノール基が残っている間はラジカル連鎖反応が抑えられ、酸化劣化の進行が抑制される。しかしフェノール基の消費が進み、フェノール基が枯渇してくるとラジカルの捕獲が間に合わず、ラジカル連鎖反応を抑えることが出来なくなり、急速に酸化劣化が進行する。芳香族アミン系酸化防止剤も同様に、−NH基の水素をパーオキシラジカルに供与して式2の反応を阻止し、新たなラジカル(R・)の発生を防ぐ。そのため、−NHの消費が進み、枯渇してくるとラジカルの捕獲が間に合わず、ラジカル連鎖反応を抑えることが出来なくなり、急速に酸化劣化が進行する。
【0012】
二次酸化防止剤としては硫黄系、リン系の酸化防止剤が知られている。イオウやリンは過酸化物(ROOH)中の酸素と反応してROHに変化させることで式3や式4の反応を阻止し、新たなラジカル(ROO・,RO・)の発生を防ぐ。これによりイオウやリンは酸化されてゆくが、まだ酸素と結合していないイオウやリンが残っている間は、ラジカル連鎖反応が抑えられ、酸化劣化の進行が抑制される。しかし過酸化物との反応により、酸素と結合していないイオウやリンが枯渇してくると、ラジカル連鎖反応を抑えることが出来なくなり、急速に酸化劣化が進行する。
【0013】
酸化劣化が進行する中で、アルデヒドやケトン、カルボン酸などカルボニル基(C=O)が形成され、さらに分子鎖切断による低分子量化や架橋も生じることが特許文献1に示されている。低分子量化も架橋もケーブル被覆材の引張に対する破断伸び率を低下させ、ケーブルの寿命に到る原因となる。
【0014】
ケーブルの寿命判定には引張試験が広く用いられている。寿命を決める判断基準は、ケーブルの用途、要求特性によっても異なるが、例えば特許文献3に原子力プラントのケーブル絶縁材の寿命評価方法について検討した内容が記載されており、この中では破断伸び率が100%以下になった時点を寿命としている。また、長期の寿命を短期間に評価するために温度加速試験が用いられている。これは複数の温度で経年劣化した試料の寿命をアレニウスプロットし、想定使用温度における寿命を外挿により求める方法である。高温条件ほど劣化が促進され、短時間に寿命に到達するため、試験期間が短縮できるが、構成材料の融点や分解温度を超える温度では劣化反応や現象が変わり、アレニウスプロットの傾斜が変化するようになるので、期間の短縮には限度が存在する。
【0015】
酸化防止剤が添加されたケーブル被覆材の寿命試験における破断伸び率は初期ではあまり低下が認められず、寿命末期になって急激に低下する傾向が見られる。これは、酸化防止剤が消費されている期間は酸化劣化の進行が抑えられ、酸化防止剤が枯渇してきて十分にラジカルが捕捉できなくなってきて、連鎖反応で急速に酸化劣化が進行するためである。
【0016】
引張試験以外の方法でケーブル部材の劣化を評価する技術として特許文献1にはフーリエ変換赤外分光計による吸光度比、示差走査熱分析計による酸化誘導期、熱重量分析器による熱分解開始温度などの測定値から寿命に達したか否かを判断する方法が記載されている。また、絶縁体を有機溶剤に入れて含有物を抽出後、濃縮し、ガスクロマトグラフィーにより定量評価を行うことが開示されている。
【0017】
耐用年数の長いケーブル被覆材の寿命評価においては、温度加速試験を活用しても、あまり高温にすると、前記の通り直線近似が成立しなくなるため、試験条件の高温化による評価時間短縮には限度がある。例えば、長期に亘って運転され、社会全体に重要な役割を担っている原子力プラント用の電線は、耐用年数がそれほど長くない一般機器用の電線や、屋外配線用の電線に比較して、より長期の信頼性が求められる。こうした電線においては温度加速試験を用いても、寿命評価試験に長い時間が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平10−115601号公報
【特許文献2】特開平10−96712号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】“高分子材料の劣化”、コロナ社 昭和33年 20−22頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本特許の目的は酸化防止剤を含有する樹脂材料の劣化度或いは寿命を比較的短時間で判定、評価、検査する方法を提供することであり、特に、耐用年数の長いケーブル被覆材料の寿命を短期間に見積もるための手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は広い意味で酸化防止剤を含む樹脂材料の劣化度判定方法に関するが、この判定方法には、寿命判定方法、寿命予測法、寿命検査方法が含まれる。また、以下の説明においては、対象の試料として樹脂材料であるケーブルの被覆材である絶縁材を取り上げる。
【0022】
以下に本発明の代表的発明として、樹脂材料の劣化度判定方法、寿命判定方法、寿命予測方法、寿命検査方法について、それらの概要を説明する。
A.樹脂材料の劣化度判定方法
(1)判定対象の樹脂材料の試料を準備し、
(2)該試料のGC−MSによりマススペクトルを計測し、
(3)該マススペクトルからトータルイオンクロマトグラムのピーク面積を求め、
(4)該ピーク面積から測定化学種(酸化防止剤、その分解物、異性体などの変性物など)の樹脂材料中の濃度を求め、
(5)該面積から、予め求められた指標と比較して樹脂材料の劣化度を判定する。
B.樹脂材料の寿命判定方法
(1)−(4)はAの(1)−(4)と同じ。
(5)上記面積と、予め求められた樹脂材料の寿命における面積に関する閾値と比較して、寿命に達したかどうかを判定する。
C.樹脂材料の寿命予測方法
(1)−(4)はAの(1)−(4)と同じ。ただし、判定対象の樹脂材料は、複数の条件下で加速劣化したもので、求める測定化学種の濃度は、それぞれの劣化条件で加速劣化した試料について求め、
(5)求めた濃度を関数化し、
(6)該関数の傾きから測定化学種の減少速度を見積もり、樹脂材料の寿命を予測する。
E.樹脂材料の寿命検査方法。
(1)−(4)はAの(1)−(4)と同じ。
(5)実使用濃度より低濃度の酸化防止剤含有樹脂材料の加速熱劣化試験を行った試料について、引張り破断伸び率と前記ピーク面積から酸化防止剤の劣化防止可能な最小限界濃度を見積もり、
(6)実使用濃度の酸化防止剤を含有する樹脂材料の加速熱劣化試験を行って前記測定化学種の減少速度を見積もり、
(7)上記減少速度から実使用濃度の酸化防止剤含有樹脂が最小限界濃度に到達する時間を求め、樹脂材料の寿命を求める。
【0023】
寿命判定方法とは、実際に使用された樹脂材料或いは対象となる樹脂材料が寿命となったかどうかを判定する方法であり、寿命予測法とはある材料が、ある条件下で寿命となる時間を予測することであり、寿命検査方法とは、ある材料がある条件下で実際に使用されて、寿命に対してどのような状態にあるのかを知るための方法である。
【0024】
被覆材の寿命判定方法及び寿命検査方法においては、実プラントで実際に使用された材料又は実プラントと実質的に同じ条件で保管されたダミー材を試料とする。
【0025】
寿命予測方法又は寿命検査方法の場合は、実使用濃度の酸化防止剤を含む樹脂材料と実使用濃度よりも低い濃度の酸化防止剤含有樹脂材料について酸化防止剤、その分解物、又はその変性物(以下、特に断りがない限り、これらの化学種を測定対象物と称する)の変化、減少について加速試験を行い、かつ引張り伸び率試験の結果と併せて寿命予測又は寿命検査を行う。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、測定対象物の濃度、もしくは濃度の関数を、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法のマススペクトル及びトータルイオンクロマトグラムのピーク面積から定量し、測定対象物の存在量やその減少速度から樹脂材料の劣化度を判定するので、短時間に被覆材の寿命を予測することができる。その結果、原子力プラントの配線系統のように超長寿命が要求される原子力プラントの配線系統の信頼性と安全性の向上に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明が適用される原子力発電プラントの概略図。
【図2】本発明の実施形態における被覆材中の酸化防止剤のラジカル捕捉のメカニズムを説明する図。
【図3】本発明で使用した熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析装置の概略図。
【図4A】本発明の劣化判定法において樹脂材料の劣化前を100とした時の酸化防止剤量比と破断伸び率との関係を示すグラフ。
【図4B】本発明の劣化判定法において樹脂材料の劣化前を100とした時の酸化防止剤の分解物量比と破断伸び率との関係を示すグラフ。
【図4C】本発明の劣化判定法において樹脂材料の劣化前を100とした時の酸化防止剤の変性物量比と破断伸び率との関係を示すグラフ。
【図5】酸化防止剤量を熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析測定でのトータルイオンクロマトグラムの酸化防止剤のピーク面積から求めた被覆材の寿命を示すグラフ。
【図6】被覆材の破断伸び率から求めた被覆材の寿命を示すグラフ。
【図7】酸化防止剤を添加したケーブル被覆材の単位質量当たりのピーク面積比を、120℃劣化試験における劣化時間依存性を比較したグラフ。
【図8】種々の熱分解温度で実施した熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析測定のトータルイオンクロマトグラムによる酸化防止剤のピーク面積を示すグラフ。
【図9A】酸化防止剤単品の熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析測定でのマススペクトル図。
【図9B】酸化防止剤単品の熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析測定でのトータルイオンクロマトグラム図。
【図9C】酸化防止剤の分解物のマススペクトル図。
【図9D】他の酸化防止剤の変性物のマススペクトル図。
【図10A】本発明における分析手順を示すフロー図。
【図10B】本発明の他の分析手順を示すフロー図。
【図10C】本発明の他の分析手順を示すフロー図。
【図11】本発明による被覆材の寿命判定法をコンピュータにより実行するプログラムの一例を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の1つの観点によれば、酸化防止剤の減少速度と、酸化劣化が急速に進む酸化防止剤の限界濃度から本来は寿命判定に時間の掛かる酸化防止剤を適量添加した樹脂材料の寿命を短時間で見積もることが可能になる。これにより、複数の劣化試験温度の寿命データをアレニウスプロットし、使用想定温度における寿命評価を行う場合に、あまり高くない劣化試験温度での寿命見積りを短期間に実施でき、結果として早期の寿命予測が可能になる。本発明における劣化試験は加速試験であり、実際の被覆ケーブルが晒される温度条件よりも高い温度で行う必要がある。
【0029】
本発明の実施の態様を例示すると以下のとおりである。
【0030】
酸化防止剤を配合した樹脂材料において、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法を用いて、測定対象物のマススペクトル及びトータルイオンクロマトグラムのピーク面積からこれらの濃度の関数を求めるとともに、あらかじめ求めておいたこれらの濃度又はその関数の閾値と比較して、閾値が有る基準を超えている場合に樹脂材料の寿命と判定する。
【0031】
前記閾値は、引張試験により求めた破断伸び率と、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法から求めた測定対象物の濃度の関数との関係から得ることができる。破断伸び率は、樹脂材料の寿命近辺では急激に低下することが知られており、この特徴を利用して、GC−MSで得たピーク濃度と組み合わせれば、正確に樹脂材料の寿命を判定することができる。
【0032】
前記閾値に達したかどうかは、引張試験による破断伸び率で寿命と判定した樹脂材料の熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法より求めた測定対象物の濃度又はその関数の比較によって判定することができる。
【0033】
前記閾値は、酸化防止剤を実際の配合量より少なく配合した1種又は複数種の樹脂材料を作製して加速劣化試験を実施し、引張試験による破断伸び率と、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により測定対象物の濃度の関数から得ることができる。
【0034】
複数の劣化条件下で樹脂材料の加速劣化試験を実施し、それぞれの劣化条件における樹脂材料の測定対象物の濃度の関数を熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により求め、劣化条件に対する濃度の関数の傾きから酸化防止剤の減少速度を見積もり、寿命を予測する樹脂材料の寿命予測方法。この場合、樹脂材料の酸化防止剤の濃度は実使用濃度より低い濃度(複数)が好ましく、また、実使用濃度の樹脂材料も対象とするのが好ましい。
【0035】
前記加速劣化試験として複数の温度、及び又は空間放射線量率で放置期間の異なる樹脂材料について実施し、この試料をサンプリングして熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により求められた測定対象物の濃度又はその関数からそれぞれの温度、及び又は放射線量における寿命を予測し、各温度、及び又は放射線量における該寿命をアレニウスプロットして、使用想定温度又は実使用温度及び/又は使用想定放射線量又は実使用放射線量下における樹脂材料の寿命を予測する。
【0036】
本発明により、コンピュータに、酸化劣化反応を抑制する酸化防止剤を配合した樹脂材料について、酸化防止剤の濃度を熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により定量する手段を用いて、第一段階として酸化防止剤の配合量の少ない試料で熱劣化試験を実施し、引張試験における破断伸び率と前記定量値との相関から酸化劣化の抑制可能な酸化防止剤の限界濃度を見積もり、第二段階として実使用濃度の酸化防止剤を配合した試料を用いて熱劣化試験を実施して前期定量値の減少速度を見積もり、第三段階として、減少速度から限界濃度に達するまでの時間を計算し、所定の温度における樹脂材料の寿命を算出する機能を行わせるプログラムが提供される。
上記プログラムは、熱劣化試験の代わりに放射線劣化試験を実施するか、もしくは、熱劣化試験と放射線劣化試験を組み合わせて実施することにより、酸化防止剤の限界濃度と減少速度を見積もり、限界濃度に達するまでの時間を計算し、所定の温度における樹脂材料の寿命を算出する。
【0037】
また、コンピュータに、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法による定量方法として、既知の量の酸化防止剤が配合された樹脂材料と劣化後の樹脂材料を、一定の重量となるように量り取り、これを300から400℃の温度に設定した熱分解装置にそれぞれ投入し、ヘリウムガスを流してガスクロマトグラフィー・質量分析装置へ導入することにより酸化防止剤のマススペクトルを計測し、該スペクトルを有するトータルイオンクロマトグラムのピークの面積を求め、既知の量の酸化防止剤が配合された樹脂材料のピーク面積を1としたときの劣化後の樹脂材料のピーク面積の比率を算出し、これに既知の酸化防止剤の濃度を掛けることにより、劣化後の酸化防止剤の濃度を定量するように機能させるプログラムが提供される。
【0038】
上記プログラムは、コンピュータに、複数の酸化防止剤を配合した樹脂材料において、複数の酸化防止剤の濃度を個別に定量し、すべての酸化防止剤が限界濃度に到達するまでの時間を計算することにより、寿命を算出する機能を行わせることができる。
【0039】
前記酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤のうち少なくとも一つを用いることが好ましい。
【0040】
樹脂材料として、ケーブル被覆材料の被覆膜厚方向を外表側と導体側とその中間の3つに分けて採取し、それぞれ熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析装置で分析して酸化防止剤の濃度分布データを収集し、濃度並びに限界濃度算出において分布形態も考慮して濃度を算定することが好ましい。
【0041】
電力ケーブル線路の接続部の耐用寿命の検査において、該ケーブル線路を形成する複数の相のいずれか1相の一部の樹脂材料を定期的に解体して樹脂材料を採取し、又はその電力ケーブル線路の使用条件を模擬した条件下に保管された樹脂材料を採取し、該樹脂材料中に含まれる測定対象物を熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法を用いて定量し、寿命を判定する。
【0042】
本発明は特に原子力プラントの各種配線材料のように他の分野よりも長寿命が必要とされ、かつ高い信頼性が要求される電線(被覆材)の寿命評価に適用するのが有効であるので、以下に原子力プラントの被覆材について簡単に説明する。図1に示すように、原子炉格納容器1内には各種制御・計装ケーブル2、電力ケーブル3、電線管8が張り巡らされ、これらは格納容器電線貫通部10を介して原子炉格納容器の外部の電線管5或いはケーブルトレイ4により支持されて制御装置7、中央制御盤6、線量計9などと連結されている。これらのケーブルの全長は約1000〜2000km程度であるといわれている。原子力ケーブルの要求寿命は約60年といわれるようになったが、ケーブルの寿命を迅速に判定、予測することが必要になっていることは前述のとおりである。
【0043】
さらに、酸化防止剤を添加したケーブル被覆材に引張試験の破断伸び率による寿命判断を用いた場合、酸化防止剤が枯渇するまでは破断伸び率の低下が顕著でなく、結局は寿命末期まで評価する必要がある。このことも、寿命評価に長い時間が掛かる原因となっている。
【0044】
また、特許文献1に示されたフーリエ変換赤外分光計による吸光度比、示差走査熱分析計による酸化誘導期、熱重量分析器による熱分解開始温度などを劣化の指標にすることが考えられるが、特許文献1では寿命に達したか否かを判断する判断基準は実際に長時間劣化した検体の測定値からのみ求めており、評価期間の短縮については言及されていない。
【0045】
特許文献1に示されたガスクロマトグラフィーでは分離した各成分の詳細な同定は困難である。原理的には、標準試料を用いてリテンションタイムから化合物を同定するが、現実にはピークが重なり判定が難しい。特に、複数の酸化防止剤、架橋剤、可塑剤、改良剤、耐放射線剤など多くの添加剤が絶縁体に存在する原子力ケーブルでは公知例のガスクロマトグラフィーは定性が困難で、酸化防止剤を精度よく定量化できない。
【0046】
特許文献3においては、ケーブルの被覆層の劣化度を診断する方法として、照射光を照射して、光音響効果に基づく音を発生させ、その音によって被覆材料の酸化の程度,硬化の程度、放射線劣化の程度などの状態を判定し、ケーブル被覆材の劣化度を判定する技術が開示されている。
【0047】
また、特許文献2においては、ケーブルの被覆材に光を照射し、被覆材中を伝わる弾性体の振動(弾性波)をセンサーにより検知し、これを解析してケーブル被覆材の劣化度を診断する方法が開示されている。
【0048】
原子力プラントの絶縁被覆材として広く用いられている架橋ポリエチレンの劣化機構及び酸化防止剤の作用を、図2を用いて説明する。架橋ポリエチレンが放射線環境下でラジカル(―CH2−CH・)を発生しこれが、パーオキシラジカル(−CH2OO・)となり、ポリエチレンの主鎖を切断することになるが、酸化防止剤の末端OHはパーオキシラジカルを捕捉し、ポリエチレンの主鎖の切断を抑制する。
【0049】
本発明は、公知の熱分解ガスクロマトグラフィーと質量分析装置を結合したGC−MS装置を用いて、酸化防止剤を含む樹脂材料の酸化防止剤、その分解物及び変性物の少なくとも1つのスペクトルを求め、或いはそれらのトータルイオンクロマトグラムのピーク面積からそれらの濃度を求め、予め求めておいた濃度の関数の閾値と比較して樹脂材料の寿命を判定するものである。図3は公知のGC−MSの概略構成図を示すが、これ自体は本発明の特徴を構成しないので、詳細な説明は省略するが、以下の説明により、GC−MSの構成と内容が理解されよう。以下の説明において、樹脂材料としてケーブルの被覆に用いられる被覆材即ち絶縁材について説明する。
【0050】
本発明者らは熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により、熱劣化試験時の樹脂材料の酸化防止剤の定量的解析を実施し、寿命見積りに関与する以下の知見を得た。
【0051】
1)一定温度で加熱された試料中の酸化防止剤は、時間軸に関し、ほぼ一定速度で減少する。
【0052】
2)酸化防止剤又はその分解物、変性物がある濃度に達すると、それ以降は樹脂材料の劣化が急速に進行し、樹脂材料が寿命に到達する。
【0053】
以上の知見から、次の手順を用いることにより寿命の予測が短期間に可能になる。
【0054】
手順1)酸化防止剤単独を試料として、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により定性データを取得する。これによって酸化防止剤由来の分解物や変性物の存在を確認する。酸化防止剤のマススペクトルは予め酸化防止剤単独でGC−MSにより分析することにより、正確なデータを得ることができる。例として、4,4‘−チオビス(2−tert−ブチルー5−メチルフェノール)のトータルイオンクロマトグラフが、図9Bに示されている。
【0055】
酸化防止剤の分子量に相当するマスクロマトグラムを抽出し、これのリテンションタイム(スキャン数)とトータルイオンクロマトグラムにおけるピーク面積を求める。複数の成分が重なっている場合には、酸化防止剤の分子量に相当するマスクロマトグラムのピーク面積を求める。同様に、酸化防止剤由来の分解物や変性物があれば、これらのピーク面積を求めておいても良い。酸化防止剤量を振って、トータルイオンクロマトグラムにおける酸化防止剤のピーク面積を求めておき、検量線を作成する。これより、ピーク面積から酸化防止剤量を換算する式を得ておく。
【0056】
手順2)測定対象物の濃度を熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により定量する手段を用いて、第一段階として酸化防止剤の配合量を実使用濃度より少なくした試料により、熱劣化試験を実施し、引張試験における破断伸び率と、酸化防止剤のマススペクトル、及びトータルイオンクロマトグラムのピーク面積の相関から酸化劣化の抑制可能な濃度の関数を見積もる。濃度の関数とは、例えば、トータルイオンクロマトグラムのピーク面積の絶対値であっても良く、リファレンス材料、例えば、劣化していない未処理の試料や、劣化前の初期値のピーク面積を100としたときのピーク面積比であっても良い。酸化防止剤とは無関係の増加・減少が生じない他の添加剤のピークをリファレンスとして比率を求めても良い。
【0057】
限界濃度とは、引張試験の結果から判断して寿命に達したときの測定対象物の濃度の関数、あるいは、濃度の絶対値である。濃度の絶対値は、手順1で得られたピーク面積から測定対象物を換算する式により試算された濃度であっても良い。手順2における酸化防止剤の配合量については目標寿命の達成を意識して設定された濃度より少なくする必要がある。配合量を減らすほど、樹脂材料の劣化が早期に進むが、製造時に酸化防止剤が一部消費されるため、あまり酸化防止剤の配合量を少なくし過ぎると、酸化防止剤が熱劣化試験前にほとんど消費されてしまい、限界濃度も酸化防止剤の減少速度も正しく評価できなくなる。このため、何種類かの配合濃度の試料を用いて試すことが望ましい。
【0058】
手順3)目標寿命の達成を意識して設定された濃度の酸化防止剤を配合した試料を用いて熱劣化試験を実施し、劣化初期の試料中の測定対象物のマススペクトル及びトータルイオンクロマトグラムのピーク面積から得られる濃度の関数、あるいは濃度の絶対値とその減少速度を見積もる。
【0059】
手順4)手順3で見積もった測定対象物の濃度の関数、あるいは濃度の絶対値とその減少速度から、第一段階で見積もった限界濃度に到達するまでの時間を計算し、加熱試験温度におけるケーブル被覆材料の熱劣化寿命を予測する。
【0060】
ここで、限界濃度の見積り、酸化防止剤の減少速度の見積りに際しては、複数の試料で実験を行い、その平均値を用いても良い。また、ケーブル被覆材の場合には、膜厚方向の断面を3分割して濃度の分布を評価することが好ましい。酸化防止剤の濃度は酸化劣化の抑制に影響するため、ケーブル被覆膜厚方向の酸化防止剤の濃度分布データを収集し、限界濃度算出において分布形態も考慮して濃度を算定することにより、寿命見積りの精度を向上できる。
【0061】
以上の手順により、任意の熱劣化温度における寿命を予測できるが、複数の熱劣化温度で、寿命予測を行い、それらの結果をアレニウスプロットし、想定使用温度における寿命を外挿により求めることができる。本発明を用いることによりアレニウスプロットに供するデータを収集する期間が短縮でき、結果的に寿命予測するための期間短縮が可能になる。
【0062】
評価用のケーブル被覆材料として、ポリエチレンに架橋剤としてジクミルパーオキサイド、フェノール系酸化防止剤として4,4−チオビス(6−ターシャリーブチル−3−メチルフェノール)を添加し、混練後、180℃で架橋処理を施した。実施例として0.15wt%と0.18wt%のフェノール系酸化防止剤を含む試料を作製した。
【0063】
この材料をJIS規格K7212に準じる方法で、強制通風循環式恒温槽内で加速劣化試験を実施した。熱劣化温度は120℃とした。
【0064】
複数の試料を、400時間、800時間、1600時間、3200時間まで熱処理して取り出し、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析装置により測定した。以下にその測定方法の一例を説明する。
試料を10mg採取する。
熱分解装置の温度を350℃に設定する。
ヘリウムガスを流す。
熱分解装置の入口から試料を投入する。
投入と同時にガスクロマトグラフを室温から300℃まで8℃/分の昇温速度で試料を加熱分解させる。
分解ガスをガスクロマトグラフと連結した質量分析装置にヘリウムガスと一緒に流し込んで、分解ガスを分析し、トータルイオンクロマトグラムとマススペクトルを測定する。
酸化防止剤のマススペクトルを抽出し、そのリテンションタイム、もしくはスキャン数のピークをトータルイオンクロマトグラムから選択しその面積を求める。
そのピーク面積を投入した試料の重量で割った値を求める。
単位質量当たりのピーク面積を酸化防止剤濃度が既知のリファレンス材料の単位質量当たりのピーク面積を100としたときの比で求める。
【0065】
図4Aは前記の手順で作成した酸化防止剤添加濃度0.15wt%のケーブル被覆材の破断伸び率と酸化防止剤量比の120℃加速劣化試験における劣化時間依存性を示したグラフである。酸化防止剤量比は濃度の関数である。即ち、酸化防止剤量比は、劣化前の初期値のピーク面積を100としたときのピーク面積比を表している。
【0066】
図4Aの破断伸び率がほとんど0であり寿命に到達した試料の酸化防止剤量比、即ち、酸化防止剤の濃度の関数から、伸び率が低下して寿命となっているか否かを判定することができる。さらに、伸び率が100%以下となる加熱劣化時間、即ち、寿命を予測できることがわかる。
【0067】
事前に、寿命に到達した試料の酸化防止剤量比、即ち、酸化防止剤の濃度の関数を閾値として求めておけば、寿命に到達したか否かを判定することが可能である。この閾値は、酸化防止剤を実際の配合量より少なく配合した樹脂材料を作製して加速劣化試験を実施し、引張試験による破断伸び率と、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により酸化防止剤の濃度の関数から得ることができる。この際の閾値は任意に定めることができる。
【0068】
図4Bは前記の手順で作成した酸化防止剤(2−tert−butyl−5methylphenol)の添加濃度0.15wt%のケーブル被覆材の破断伸び率と酸化防止剤の分解物量比の120℃加速劣化試験における劣化時間依存性を示したグラフである。酸化防止剤の分解物量比は濃度の関数である。即ち、酸化防止剤の分解物量比は、劣化前の初期値のピーク面積を100としたときのピーク面積比を表している。
【0069】
図4Cは前記の手順で作成した酸化防止剤(4,4‘−thiobis(3−methyl−6−tert−butylphenol)の添加濃度0.15wt%のケーブル被覆材の破断伸び率と酸化防止剤の変性物量比の120℃加速劣化試験における劣化時間依存性を示したグラフである。酸化防止剤の変性物量比は濃度の関数である。即ち、酸化防止剤の変性物量比は、劣化前の初期値のピーク面積を100としたときのピーク面積比を表している。
【0070】
図4A〜Cに示すように、酸化防止剤自体、その分解物及び変性物のピーク面積と破断伸び率の関係は樹脂材料の劣化に関していずれも互いに整合性があり、従って、GC−MSによって検出されるこれらのピーク面積値は樹脂材料の劣化又は寿命判定に有効であることが分かる。
【0071】
図9Aは酸化防止剤のマススペクトルの例であり、図9Bは酸化防止剤のトータルイオンクロマトグラム例である。
【0072】
酸化防止剤のピーク面積比は劣化時間に伴い、一定の傾きで減少していることが実験の結果認められた。これは酸化劣化試験で発生したパーオキシラジカルにフェノール基が水素を供給して安定化し、ラジカル連鎖反応を抑制するために消費された結果である。
【0073】
一方、破断伸び率は2000時間近くまでは顕著な低下が見られず、2000時間付近で急激に低下し、寿命判定基準の100%まで低下している。破断伸び率が100%になる2000時間におけるピーク面積比は図9Aの傾向から初期の濃度の14%、即ち0.02wt%と見積もられ、これを本実施例の材料組成の120℃の熱劣化試験における限界濃度とする。限界濃度の見積りに際して、ばらつきの影響を考慮するため、前述の破断伸び率、ならびに単位質量当たりのピーク面積比を各劣化時間において複数の試料で評価して、それらの平均値をプロットし、又は関数近似することにより精度を向上できる。
【0074】
限界濃度はベースポリマの分子量や酸化防止剤の種類や熱劣化温度によって変わるため、材料の組合せ、熱劣化温度を変えるときにはそれぞれ前記方法で取得する必要がある。
【0075】
限界濃度をより短期間で確認するためには酸化防止剤濃度を実使用濃度より少なく配合した試料で試験すれば良い。ただし、架橋剤による化学架橋で製造した場合、架橋剤により発生したラジカルに対しても酸化防止剤がラジカル捕獲剤として作用して、消費されるため、熱劣化試験を開始する時点で単位質量当たりのピーク面積は減少する。このため、あまり酸化防止剤の配合量を少なくし過ぎると、劣化試験前の段階で酸化防止剤が限界濃度に達してしまい、酸化防止剤の消費速度が検知できなくなる恐れがあるので注意を要する。
【0076】
図5はフェノール系酸化防止剤の初期添加濃度が0.15wt%のケーブル被覆材11と0.18wt%のケーブル被覆材12の単位質量当たりのピーク面積比(それぞれのリファレンス材料に対する比)の120℃劣化試験における劣化時間依存性を比較したグラフである。
【0077】
なお、図5において、酸化防止剤量比を熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析測定でのトータルイオンクロマトグラムの酸化防止剤のピーク面積から劣化前の値を100として比率(%)を求め、劣化試験温度に対してプロットした。酸化防止剤の量によらず直線近似された近似線の傾きはほとんど等しい。
【0078】
0.18wt%添加品のピーク面積比と0.15wt%添加品のピーク面積比は共に一定の速度(傾き)で消費されており、時間当たりに消費される酸化防止剤の量はほとんど等しいと見なせる。先に求めた通り、限界濃度は0.02wt%であるから、0.18wt%添加品が限界濃度である0.02wt%、リファレンス材料に対するピーク面積比に換算すると11%となるまでの時間は3900時間と推定された。このように、実使用濃度より低濃度の試料によりラジカル連鎖反応を抑制可能な酸化防止剤の限界濃度を見積り、高濃度(実使用濃度)の試料においてもその消費速度が等しいことが確認できれば、高濃度の試料の寿命を限界濃度に達する前に見積もることが可能になる。
【0079】
以上、120℃の劣化温度における寿命見積りの例を示したが、より低温の110℃、100℃の劣化温度における寿命見積りも可能であり、これらの劣化温度における寿命をアレニウスプロットすることにより、想定使用温度における寿命を見積もることが可能である。
【0080】
図7はアレニウスプロットを用いて加速熱劣化試験データから想定使用温度における寿命を評価した例である。21は酸化防止剤を0.15wt%添加した試料の120℃、110℃、100℃における寿命到達時間のプロットと外挿線である。原子力ケーブルの寿命試験における想定使用温度の60℃における予想寿命は外挿線が加熱温度60℃と交差するY座標22で求められる。
【0081】
同様に23は酸化防止剤を0.2wt%添加した試料の120℃、110℃、100℃における寿命到達時間のプロットと外挿線で、24は想定使用温度の60℃における予想寿命である。21の120℃、110℃、100℃のプロットの全てあるいは一部を前述の酸化防止剤の消費速度と限界濃度の見積りで求めることにより、想定使用温度における寿命評価を短期間で実施することが可能になる。
【0082】
図5において、酸化防止剤量比を熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析測定でのトータルイオンクロマトグラムの酸化防止剤のピーク面積から劣化前の値を100として比率(%)を求め、劣化試験温度に対してプロットした。酸化防止剤の量の少ない試料から寿命であると判断された酸化防止剤量比から実使用量の酸化防止剤量の試料の寿命を直線近似で求めたところ、約3800時間である。図8は、種々の熱分解温度で実施した熱分解クロマトグラフィー・質量分析測定のトータルイオンクロマトグラムによる測定対象物質のピーク面積を示す。この酸化防止剤については、最も多く検出される加熱温度は350℃であることが分かる。
【0083】
図6は従来の被覆材の破断伸び率から求めた寿命判定であるが、破断伸び率で求めた寿命は約3800時間で、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析測定で酸化防止剤量比から実使用量の試料の寿命を直線近似で求めた値(図5)と略一致する。破断伸び率試験には4000時間を要するのに対し、本発明では1200時間で寿命を予測することができる。
【0084】
本発明の加速試験による寿命判定方法と、加速試験による従来の寿命判定法を、樹脂材料の破断伸び率と酸化防止剤の含有量との関係を図4Aに示した。従来の寿命判定方法では、たとえば2000時間以上経過したときに破断伸び率が急激に低下して、被覆材の寿命であると判断することができる。しかし、加速試験でさえ2000時間以上を要するという問題がある。これに対し、本発明によれば、破断伸び率は酸化防止剤の含有量の低下に直線的に低下して、2000時間を待たないでも、破断伸び率がある所定の値になる時点(被覆材の寿命)を予測することができる。
【0085】
図4Aに示すように、酸化防止剤入りの樹脂材料(又はこれを被覆材とするケーブル)の熱劣化試験を行いその複数点の破断伸び率及び酸化防止剤量を求め、被覆材の劣化度及び劣化速度を求め、所定の破断伸び率に達する時間を予測することにより、被覆材の寿命を予測することができる。
【0086】
図9Aと図9Bは酸化防止剤の分解物のマススペクトルの一例であり、図9C及び図9Dはそれぞれ酸化防止剤の分解物と変性物のマススペクトルの一例である。酸化防止剤の分解物や変性物は劣化と共に増加することから、これらのピーク面積を閾値に用いることも可能である。
【0087】
本発明の検査方法をコンピュータによりサポートするには、以下の手順を採用するのが有効である。図9Aにおいて、酸化防止剤単品の熱分解ガスクロマトグラィー・質量分析測定でのマススペクトルであり、図9Bにおいて、酸化防止剤単品の熱分解ガスクロマトグラィー・質量分析測定でのトータルイオンクロマトグラムである。
【0088】
図10Aはコンピュータを用いて本発明の寿命予測を実施するためのフローを示すもので、試料をケーブルから1〜10mg採取する(ステップa)。この試料を酸化防止剤が最も多く検出される加熱温度で熱分解する(ステップb)。次いで、ガスクロマトグラフィー(GC)により,0から300℃まで、5〜10℃/分で昇温する。キャピラリカラムの固定層には5%フェニルポリジメチルシロキサンを使用する(ステップc)。
【0089】
質量分析装置(MS)において、質量範囲をm/Z10〜800などに指定する。トータルイオンクロマトグラムから酸化防止剤マススペクトルを検索し、そのスキャン数(トータルイオンクロマトグラムのリテンションタイム)を割り出す。このスキャン数のピーク面積を算出し、単位質量当たりのピーク面積を算出し、単位質量当たりのピーク面積として規格化する(ステップd)。
【0090】
寿命に達したケーブル(寿命既知材料)から酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積を求める(ステップe)。
【0091】
次いで、実プラントから取り出したケーブルより酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積を求め、寿命予測図を作成する(ステップf)。
【0092】
寿命に達したケーブルの酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積よりも実プラントから取り出したケーブルの酸化防止剤の他に質量当たりのピーク面積が10%以上大きければ、寿命に達していないと判定する(ステップg)。この閾値の値は任意である。
【0093】
図10Aにおいて、寿命既知材測定(ステップe)後に、上記ステップfに替えて、実プラントから経過時間を変えて取りだしたケーブルより、酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積を縦軸、経過時間を横軸にプロットし、直線近似して近似式を求めてもよい。以下のステップgは上記と同じである。
【0094】
図10Bは、他の寿命予測法を示すフロー図で、ステップaからステップeまでは図10Aと同じである。ステップf‘においては、寿命が未知のケーブル被覆材から既知量の酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積を縦軸、劣化時間を横軸にプロットし、劣化前を除いて直線近似を行い、近似式を求める。
【0095】
近似式により寿命に達したと判定されたケーブル被覆材の酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積に達する時間を算出する。これにより被覆材の寿命予測が可能となる。
【0096】
図10Cは他の寿命予測法を示すもので、試料採取から質量分析までは図10Aと同じである。質量分析による測定後、寿命が既知のケーブルから、酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積を縦軸、劣化時間を横軸にプロットし、劣化前を除いて直線近似により近似式を求め、既知寿命直線図を作成する(ステップh)。
【0097】
次に引張伸び率を縦軸、劣化時間を横軸にプロットし、100%伸び率となる劣化時間を求め、寿命に達したときの酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積を既知寿命直線図から求め、引っ張り伸び率曲線図を作成する(ステップi)。
【0098】
次に、寿命が未知のケーブルから酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積を縦軸、劣化時間を横軸にプロットし、劣化前を除いて直線近似式を求める(ステップj)。
【0099】
最後に、近似式より寿命に達したときの酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積に達する時間を算出し、予測寿命を算出する(ステップk)。
【0100】
図11は、上記の寿命検査方法をコンピュータにより実行するフローを示す。図11に各ステップに関する説明を記載したので、その詳細説明は省略する。なお、図11において、近似式A1=aH1+b、A2=aH2+c,ALife=aH+cは、最も簡単な例として一次式として提案するもので、この式でなければいけないということではない。また、HLifeは被覆材料の寿命を意味する。
【0101】
以上のことから、本発明における判定方法、予測方法、検査方法をコンピュータによりサポートする方法は、以下のとおりである。
【0102】
(1)酸化防止剤の分子量、分解物のセグメントとマッチするマススペクトルを抽出し、これのリテンションタイム、もしくはスキャン数を求める。
【0103】
(2)トータルイオンクロマトグラムから、先のリテンションタイム、もしくはスキャン数のピークを検索し、これのピーク面積を算出。
【0104】
(3)測定時に投入した試料の質量でピーク面積を割った単位質量当たりのピーク面積値(A)を求める。
【0105】
(4)酸化防止剤の濃度が既知で特定の値のリファレンス材料を同時に測定してリファレンス材料における酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積値(B)を求める。
【0106】
(5)AをBで割った値(A/B)を求める。
【0107】
(6)横軸に劣化時間、縦軸にA/BをプロットしたときのA/Bの減少速度を計算する。
【0108】
(7)引張試験から求められた寿命に相当する酸化防止剤のA/Bの算定。
【0109】
(8)実使用濃度より酸化防止剤の配合量の少ない試料から求めた(6)と寿命達成を意図した配合量の試料の(6)を比較して、一致している場合は本寿命検査が適用可能であることを判断すると共に、後者が(7)の濃度に到達する時間を計算。
【0110】
(9)さらに、上記に加えて、次の項目を追加することが考えられる。
【0111】
(10)複数の加速熱劣化温度における(8)の予測寿命をアレニウスプロットしたときの傾きと切片の計算。(最小二乗法)
(11)想定使用温度における寿命の計算。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、酸化防止剤を配合した樹脂材料の寿命を予測するための検査方法、特に原子力プラントなどの超長寿命が要求される各種配線に適用するのに好適な検査方法であり、これによって原子力プラントの電気系統の信頼性と安全性の向上に資することができる。
【符号の説明】
【0113】
1…原子炉格納容器、2…制御・計装ケーブル、3…電力ケーブル、4…ケーブルトレイ、5…電線管、6…中央制御盤、7…制御装置、8…電線管、9…線量計、10…格納容器電線貫通部。
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化防止剤が添加された樹脂材料の劣化判定方法、寿命判定方法、寿命予測方法、寿命検査方法及びそれらの方法をコンピュータで実行するためのコンピュータプログラムに関し、特にケーブル絶縁体などのケーブル被覆材料の寿命の判定、予測及び検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ケーブルの被覆材に用いられる樹脂材料の酸化劣化現象については例えば非特許文献1などに解説されている。その概要は図2に示されており、プラスチックスは熱や光などのエネルギーにより、アルキル基の分子結合が切断されると、ラジカル(R・)が発生し、酸素が存在する環境下では酸素と結合してパーオキシラジカル(ROO・)が形成される。
R・+ O2 → ROO・ ・・・[式1]
【0003】
このパーオキシラジカルは反応性に富み、他の分子から水素を引き抜き、過酸化物(ROOH)とラジカル(R・)に変化する。
ROO・ + RH → ROOH + R・ ・・・[式2]
【0004】
新たに発生したラジカル(R・)は酸素存在下で、式1によりまた新たなパーオキシラジカルを形成させる。
【0005】
一方、過酸化物(ROOH)も不安定なため、分解して結果的にパーオキシラジカル(ROO・)、オキシラジカル(RO・)やラジカル(R・)が形成される。
ROOH → RO・+ ・OH ・・・[式3]
【0006】
2ROOH → ROO・ + RO・+H2O ・・・[式4]
【0007】
RO・+ RH → ROH + R・ ・・・[式5]
【0008】
この様に、最初に発生した一つのラジカル(R・)がパーオキシラジカル(ROO・)、過酸化物(ROOH)を経て、新たなラジカルを多数増殖させることとなり、連鎖的に酸化劣化反応が進行する。
【0009】
このため、長期の寿命を必要とするケーブル被覆材には酸化劣化反応の連鎖反応を抑制するために、ラジカル捕捉剤が一次酸化防止剤として添加され、過酸化物(ROOH)分解剤が二次酸化防止剤として添加される。
【0010】
一次酸化防止剤には芳香族アミン系酸化防止剤やフェノール系酸化防止剤が知られている。これらは分子内に−NH結合や−OH基のようなラジカルとの反応性に富む水素原子を含み、架橋ポリエチレン中に生成したラジカルと反応して安定な化合物にする作用を有する。例えば、フェノール系酸化防止剤はフェノール基(−OH)の水素を主にパーオキシラジカルに供与して、自身は安定なフェノキシラジカル(−O・)の形に変化することにより、式2の反応を阻止し、新たなラジカル(R・)の発生を防ぐ。
【0011】
ラジカル捕捉によりフェノール基が消費されてゆくが、フェノール基が残っている間はラジカル連鎖反応が抑えられ、酸化劣化の進行が抑制される。しかしフェノール基の消費が進み、フェノール基が枯渇してくるとラジカルの捕獲が間に合わず、ラジカル連鎖反応を抑えることが出来なくなり、急速に酸化劣化が進行する。芳香族アミン系酸化防止剤も同様に、−NH基の水素をパーオキシラジカルに供与して式2の反応を阻止し、新たなラジカル(R・)の発生を防ぐ。そのため、−NHの消費が進み、枯渇してくるとラジカルの捕獲が間に合わず、ラジカル連鎖反応を抑えることが出来なくなり、急速に酸化劣化が進行する。
【0012】
二次酸化防止剤としては硫黄系、リン系の酸化防止剤が知られている。イオウやリンは過酸化物(ROOH)中の酸素と反応してROHに変化させることで式3や式4の反応を阻止し、新たなラジカル(ROO・,RO・)の発生を防ぐ。これによりイオウやリンは酸化されてゆくが、まだ酸素と結合していないイオウやリンが残っている間は、ラジカル連鎖反応が抑えられ、酸化劣化の進行が抑制される。しかし過酸化物との反応により、酸素と結合していないイオウやリンが枯渇してくると、ラジカル連鎖反応を抑えることが出来なくなり、急速に酸化劣化が進行する。
【0013】
酸化劣化が進行する中で、アルデヒドやケトン、カルボン酸などカルボニル基(C=O)が形成され、さらに分子鎖切断による低分子量化や架橋も生じることが特許文献1に示されている。低分子量化も架橋もケーブル被覆材の引張に対する破断伸び率を低下させ、ケーブルの寿命に到る原因となる。
【0014】
ケーブルの寿命判定には引張試験が広く用いられている。寿命を決める判断基準は、ケーブルの用途、要求特性によっても異なるが、例えば特許文献3に原子力プラントのケーブル絶縁材の寿命評価方法について検討した内容が記載されており、この中では破断伸び率が100%以下になった時点を寿命としている。また、長期の寿命を短期間に評価するために温度加速試験が用いられている。これは複数の温度で経年劣化した試料の寿命をアレニウスプロットし、想定使用温度における寿命を外挿により求める方法である。高温条件ほど劣化が促進され、短時間に寿命に到達するため、試験期間が短縮できるが、構成材料の融点や分解温度を超える温度では劣化反応や現象が変わり、アレニウスプロットの傾斜が変化するようになるので、期間の短縮には限度が存在する。
【0015】
酸化防止剤が添加されたケーブル被覆材の寿命試験における破断伸び率は初期ではあまり低下が認められず、寿命末期になって急激に低下する傾向が見られる。これは、酸化防止剤が消費されている期間は酸化劣化の進行が抑えられ、酸化防止剤が枯渇してきて十分にラジカルが捕捉できなくなってきて、連鎖反応で急速に酸化劣化が進行するためである。
【0016】
引張試験以外の方法でケーブル部材の劣化を評価する技術として特許文献1にはフーリエ変換赤外分光計による吸光度比、示差走査熱分析計による酸化誘導期、熱重量分析器による熱分解開始温度などの測定値から寿命に達したか否かを判断する方法が記載されている。また、絶縁体を有機溶剤に入れて含有物を抽出後、濃縮し、ガスクロマトグラフィーにより定量評価を行うことが開示されている。
【0017】
耐用年数の長いケーブル被覆材の寿命評価においては、温度加速試験を活用しても、あまり高温にすると、前記の通り直線近似が成立しなくなるため、試験条件の高温化による評価時間短縮には限度がある。例えば、長期に亘って運転され、社会全体に重要な役割を担っている原子力プラント用の電線は、耐用年数がそれほど長くない一般機器用の電線や、屋外配線用の電線に比較して、より長期の信頼性が求められる。こうした電線においては温度加速試験を用いても、寿命評価試験に長い時間が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平10−115601号公報
【特許文献2】特開平10−96712号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】“高分子材料の劣化”、コロナ社 昭和33年 20−22頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本特許の目的は酸化防止剤を含有する樹脂材料の劣化度或いは寿命を比較的短時間で判定、評価、検査する方法を提供することであり、特に、耐用年数の長いケーブル被覆材料の寿命を短期間に見積もるための手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は広い意味で酸化防止剤を含む樹脂材料の劣化度判定方法に関するが、この判定方法には、寿命判定方法、寿命予測法、寿命検査方法が含まれる。また、以下の説明においては、対象の試料として樹脂材料であるケーブルの被覆材である絶縁材を取り上げる。
【0022】
以下に本発明の代表的発明として、樹脂材料の劣化度判定方法、寿命判定方法、寿命予測方法、寿命検査方法について、それらの概要を説明する。
A.樹脂材料の劣化度判定方法
(1)判定対象の樹脂材料の試料を準備し、
(2)該試料のGC−MSによりマススペクトルを計測し、
(3)該マススペクトルからトータルイオンクロマトグラムのピーク面積を求め、
(4)該ピーク面積から測定化学種(酸化防止剤、その分解物、異性体などの変性物など)の樹脂材料中の濃度を求め、
(5)該面積から、予め求められた指標と比較して樹脂材料の劣化度を判定する。
B.樹脂材料の寿命判定方法
(1)−(4)はAの(1)−(4)と同じ。
(5)上記面積と、予め求められた樹脂材料の寿命における面積に関する閾値と比較して、寿命に達したかどうかを判定する。
C.樹脂材料の寿命予測方法
(1)−(4)はAの(1)−(4)と同じ。ただし、判定対象の樹脂材料は、複数の条件下で加速劣化したもので、求める測定化学種の濃度は、それぞれの劣化条件で加速劣化した試料について求め、
(5)求めた濃度を関数化し、
(6)該関数の傾きから測定化学種の減少速度を見積もり、樹脂材料の寿命を予測する。
E.樹脂材料の寿命検査方法。
(1)−(4)はAの(1)−(4)と同じ。
(5)実使用濃度より低濃度の酸化防止剤含有樹脂材料の加速熱劣化試験を行った試料について、引張り破断伸び率と前記ピーク面積から酸化防止剤の劣化防止可能な最小限界濃度を見積もり、
(6)実使用濃度の酸化防止剤を含有する樹脂材料の加速熱劣化試験を行って前記測定化学種の減少速度を見積もり、
(7)上記減少速度から実使用濃度の酸化防止剤含有樹脂が最小限界濃度に到達する時間を求め、樹脂材料の寿命を求める。
【0023】
寿命判定方法とは、実際に使用された樹脂材料或いは対象となる樹脂材料が寿命となったかどうかを判定する方法であり、寿命予測法とはある材料が、ある条件下で寿命となる時間を予測することであり、寿命検査方法とは、ある材料がある条件下で実際に使用されて、寿命に対してどのような状態にあるのかを知るための方法である。
【0024】
被覆材の寿命判定方法及び寿命検査方法においては、実プラントで実際に使用された材料又は実プラントと実質的に同じ条件で保管されたダミー材を試料とする。
【0025】
寿命予測方法又は寿命検査方法の場合は、実使用濃度の酸化防止剤を含む樹脂材料と実使用濃度よりも低い濃度の酸化防止剤含有樹脂材料について酸化防止剤、その分解物、又はその変性物(以下、特に断りがない限り、これらの化学種を測定対象物と称する)の変化、減少について加速試験を行い、かつ引張り伸び率試験の結果と併せて寿命予測又は寿命検査を行う。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、測定対象物の濃度、もしくは濃度の関数を、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法のマススペクトル及びトータルイオンクロマトグラムのピーク面積から定量し、測定対象物の存在量やその減少速度から樹脂材料の劣化度を判定するので、短時間に被覆材の寿命を予測することができる。その結果、原子力プラントの配線系統のように超長寿命が要求される原子力プラントの配線系統の信頼性と安全性の向上に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明が適用される原子力発電プラントの概略図。
【図2】本発明の実施形態における被覆材中の酸化防止剤のラジカル捕捉のメカニズムを説明する図。
【図3】本発明で使用した熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析装置の概略図。
【図4A】本発明の劣化判定法において樹脂材料の劣化前を100とした時の酸化防止剤量比と破断伸び率との関係を示すグラフ。
【図4B】本発明の劣化判定法において樹脂材料の劣化前を100とした時の酸化防止剤の分解物量比と破断伸び率との関係を示すグラフ。
【図4C】本発明の劣化判定法において樹脂材料の劣化前を100とした時の酸化防止剤の変性物量比と破断伸び率との関係を示すグラフ。
【図5】酸化防止剤量を熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析測定でのトータルイオンクロマトグラムの酸化防止剤のピーク面積から求めた被覆材の寿命を示すグラフ。
【図6】被覆材の破断伸び率から求めた被覆材の寿命を示すグラフ。
【図7】酸化防止剤を添加したケーブル被覆材の単位質量当たりのピーク面積比を、120℃劣化試験における劣化時間依存性を比較したグラフ。
【図8】種々の熱分解温度で実施した熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析測定のトータルイオンクロマトグラムによる酸化防止剤のピーク面積を示すグラフ。
【図9A】酸化防止剤単品の熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析測定でのマススペクトル図。
【図9B】酸化防止剤単品の熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析測定でのトータルイオンクロマトグラム図。
【図9C】酸化防止剤の分解物のマススペクトル図。
【図9D】他の酸化防止剤の変性物のマススペクトル図。
【図10A】本発明における分析手順を示すフロー図。
【図10B】本発明の他の分析手順を示すフロー図。
【図10C】本発明の他の分析手順を示すフロー図。
【図11】本発明による被覆材の寿命判定法をコンピュータにより実行するプログラムの一例を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の1つの観点によれば、酸化防止剤の減少速度と、酸化劣化が急速に進む酸化防止剤の限界濃度から本来は寿命判定に時間の掛かる酸化防止剤を適量添加した樹脂材料の寿命を短時間で見積もることが可能になる。これにより、複数の劣化試験温度の寿命データをアレニウスプロットし、使用想定温度における寿命評価を行う場合に、あまり高くない劣化試験温度での寿命見積りを短期間に実施でき、結果として早期の寿命予測が可能になる。本発明における劣化試験は加速試験であり、実際の被覆ケーブルが晒される温度条件よりも高い温度で行う必要がある。
【0029】
本発明の実施の態様を例示すると以下のとおりである。
【0030】
酸化防止剤を配合した樹脂材料において、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法を用いて、測定対象物のマススペクトル及びトータルイオンクロマトグラムのピーク面積からこれらの濃度の関数を求めるとともに、あらかじめ求めておいたこれらの濃度又はその関数の閾値と比較して、閾値が有る基準を超えている場合に樹脂材料の寿命と判定する。
【0031】
前記閾値は、引張試験により求めた破断伸び率と、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法から求めた測定対象物の濃度の関数との関係から得ることができる。破断伸び率は、樹脂材料の寿命近辺では急激に低下することが知られており、この特徴を利用して、GC−MSで得たピーク濃度と組み合わせれば、正確に樹脂材料の寿命を判定することができる。
【0032】
前記閾値に達したかどうかは、引張試験による破断伸び率で寿命と判定した樹脂材料の熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法より求めた測定対象物の濃度又はその関数の比較によって判定することができる。
【0033】
前記閾値は、酸化防止剤を実際の配合量より少なく配合した1種又は複数種の樹脂材料を作製して加速劣化試験を実施し、引張試験による破断伸び率と、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により測定対象物の濃度の関数から得ることができる。
【0034】
複数の劣化条件下で樹脂材料の加速劣化試験を実施し、それぞれの劣化条件における樹脂材料の測定対象物の濃度の関数を熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により求め、劣化条件に対する濃度の関数の傾きから酸化防止剤の減少速度を見積もり、寿命を予測する樹脂材料の寿命予測方法。この場合、樹脂材料の酸化防止剤の濃度は実使用濃度より低い濃度(複数)が好ましく、また、実使用濃度の樹脂材料も対象とするのが好ましい。
【0035】
前記加速劣化試験として複数の温度、及び又は空間放射線量率で放置期間の異なる樹脂材料について実施し、この試料をサンプリングして熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により求められた測定対象物の濃度又はその関数からそれぞれの温度、及び又は放射線量における寿命を予測し、各温度、及び又は放射線量における該寿命をアレニウスプロットして、使用想定温度又は実使用温度及び/又は使用想定放射線量又は実使用放射線量下における樹脂材料の寿命を予測する。
【0036】
本発明により、コンピュータに、酸化劣化反応を抑制する酸化防止剤を配合した樹脂材料について、酸化防止剤の濃度を熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により定量する手段を用いて、第一段階として酸化防止剤の配合量の少ない試料で熱劣化試験を実施し、引張試験における破断伸び率と前記定量値との相関から酸化劣化の抑制可能な酸化防止剤の限界濃度を見積もり、第二段階として実使用濃度の酸化防止剤を配合した試料を用いて熱劣化試験を実施して前期定量値の減少速度を見積もり、第三段階として、減少速度から限界濃度に達するまでの時間を計算し、所定の温度における樹脂材料の寿命を算出する機能を行わせるプログラムが提供される。
上記プログラムは、熱劣化試験の代わりに放射線劣化試験を実施するか、もしくは、熱劣化試験と放射線劣化試験を組み合わせて実施することにより、酸化防止剤の限界濃度と減少速度を見積もり、限界濃度に達するまでの時間を計算し、所定の温度における樹脂材料の寿命を算出する。
【0037】
また、コンピュータに、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法による定量方法として、既知の量の酸化防止剤が配合された樹脂材料と劣化後の樹脂材料を、一定の重量となるように量り取り、これを300から400℃の温度に設定した熱分解装置にそれぞれ投入し、ヘリウムガスを流してガスクロマトグラフィー・質量分析装置へ導入することにより酸化防止剤のマススペクトルを計測し、該スペクトルを有するトータルイオンクロマトグラムのピークの面積を求め、既知の量の酸化防止剤が配合された樹脂材料のピーク面積を1としたときの劣化後の樹脂材料のピーク面積の比率を算出し、これに既知の酸化防止剤の濃度を掛けることにより、劣化後の酸化防止剤の濃度を定量するように機能させるプログラムが提供される。
【0038】
上記プログラムは、コンピュータに、複数の酸化防止剤を配合した樹脂材料において、複数の酸化防止剤の濃度を個別に定量し、すべての酸化防止剤が限界濃度に到達するまでの時間を計算することにより、寿命を算出する機能を行わせることができる。
【0039】
前記酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤のうち少なくとも一つを用いることが好ましい。
【0040】
樹脂材料として、ケーブル被覆材料の被覆膜厚方向を外表側と導体側とその中間の3つに分けて採取し、それぞれ熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析装置で分析して酸化防止剤の濃度分布データを収集し、濃度並びに限界濃度算出において分布形態も考慮して濃度を算定することが好ましい。
【0041】
電力ケーブル線路の接続部の耐用寿命の検査において、該ケーブル線路を形成する複数の相のいずれか1相の一部の樹脂材料を定期的に解体して樹脂材料を採取し、又はその電力ケーブル線路の使用条件を模擬した条件下に保管された樹脂材料を採取し、該樹脂材料中に含まれる測定対象物を熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法を用いて定量し、寿命を判定する。
【0042】
本発明は特に原子力プラントの各種配線材料のように他の分野よりも長寿命が必要とされ、かつ高い信頼性が要求される電線(被覆材)の寿命評価に適用するのが有効であるので、以下に原子力プラントの被覆材について簡単に説明する。図1に示すように、原子炉格納容器1内には各種制御・計装ケーブル2、電力ケーブル3、電線管8が張り巡らされ、これらは格納容器電線貫通部10を介して原子炉格納容器の外部の電線管5或いはケーブルトレイ4により支持されて制御装置7、中央制御盤6、線量計9などと連結されている。これらのケーブルの全長は約1000〜2000km程度であるといわれている。原子力ケーブルの要求寿命は約60年といわれるようになったが、ケーブルの寿命を迅速に判定、予測することが必要になっていることは前述のとおりである。
【0043】
さらに、酸化防止剤を添加したケーブル被覆材に引張試験の破断伸び率による寿命判断を用いた場合、酸化防止剤が枯渇するまでは破断伸び率の低下が顕著でなく、結局は寿命末期まで評価する必要がある。このことも、寿命評価に長い時間が掛かる原因となっている。
【0044】
また、特許文献1に示されたフーリエ変換赤外分光計による吸光度比、示差走査熱分析計による酸化誘導期、熱重量分析器による熱分解開始温度などを劣化の指標にすることが考えられるが、特許文献1では寿命に達したか否かを判断する判断基準は実際に長時間劣化した検体の測定値からのみ求めており、評価期間の短縮については言及されていない。
【0045】
特許文献1に示されたガスクロマトグラフィーでは分離した各成分の詳細な同定は困難である。原理的には、標準試料を用いてリテンションタイムから化合物を同定するが、現実にはピークが重なり判定が難しい。特に、複数の酸化防止剤、架橋剤、可塑剤、改良剤、耐放射線剤など多くの添加剤が絶縁体に存在する原子力ケーブルでは公知例のガスクロマトグラフィーは定性が困難で、酸化防止剤を精度よく定量化できない。
【0046】
特許文献3においては、ケーブルの被覆層の劣化度を診断する方法として、照射光を照射して、光音響効果に基づく音を発生させ、その音によって被覆材料の酸化の程度,硬化の程度、放射線劣化の程度などの状態を判定し、ケーブル被覆材の劣化度を判定する技術が開示されている。
【0047】
また、特許文献2においては、ケーブルの被覆材に光を照射し、被覆材中を伝わる弾性体の振動(弾性波)をセンサーにより検知し、これを解析してケーブル被覆材の劣化度を診断する方法が開示されている。
【0048】
原子力プラントの絶縁被覆材として広く用いられている架橋ポリエチレンの劣化機構及び酸化防止剤の作用を、図2を用いて説明する。架橋ポリエチレンが放射線環境下でラジカル(―CH2−CH・)を発生しこれが、パーオキシラジカル(−CH2OO・)となり、ポリエチレンの主鎖を切断することになるが、酸化防止剤の末端OHはパーオキシラジカルを捕捉し、ポリエチレンの主鎖の切断を抑制する。
【0049】
本発明は、公知の熱分解ガスクロマトグラフィーと質量分析装置を結合したGC−MS装置を用いて、酸化防止剤を含む樹脂材料の酸化防止剤、その分解物及び変性物の少なくとも1つのスペクトルを求め、或いはそれらのトータルイオンクロマトグラムのピーク面積からそれらの濃度を求め、予め求めておいた濃度の関数の閾値と比較して樹脂材料の寿命を判定するものである。図3は公知のGC−MSの概略構成図を示すが、これ自体は本発明の特徴を構成しないので、詳細な説明は省略するが、以下の説明により、GC−MSの構成と内容が理解されよう。以下の説明において、樹脂材料としてケーブルの被覆に用いられる被覆材即ち絶縁材について説明する。
【0050】
本発明者らは熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により、熱劣化試験時の樹脂材料の酸化防止剤の定量的解析を実施し、寿命見積りに関与する以下の知見を得た。
【0051】
1)一定温度で加熱された試料中の酸化防止剤は、時間軸に関し、ほぼ一定速度で減少する。
【0052】
2)酸化防止剤又はその分解物、変性物がある濃度に達すると、それ以降は樹脂材料の劣化が急速に進行し、樹脂材料が寿命に到達する。
【0053】
以上の知見から、次の手順を用いることにより寿命の予測が短期間に可能になる。
【0054】
手順1)酸化防止剤単独を試料として、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により定性データを取得する。これによって酸化防止剤由来の分解物や変性物の存在を確認する。酸化防止剤のマススペクトルは予め酸化防止剤単独でGC−MSにより分析することにより、正確なデータを得ることができる。例として、4,4‘−チオビス(2−tert−ブチルー5−メチルフェノール)のトータルイオンクロマトグラフが、図9Bに示されている。
【0055】
酸化防止剤の分子量に相当するマスクロマトグラムを抽出し、これのリテンションタイム(スキャン数)とトータルイオンクロマトグラムにおけるピーク面積を求める。複数の成分が重なっている場合には、酸化防止剤の分子量に相当するマスクロマトグラムのピーク面積を求める。同様に、酸化防止剤由来の分解物や変性物があれば、これらのピーク面積を求めておいても良い。酸化防止剤量を振って、トータルイオンクロマトグラムにおける酸化防止剤のピーク面積を求めておき、検量線を作成する。これより、ピーク面積から酸化防止剤量を換算する式を得ておく。
【0056】
手順2)測定対象物の濃度を熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により定量する手段を用いて、第一段階として酸化防止剤の配合量を実使用濃度より少なくした試料により、熱劣化試験を実施し、引張試験における破断伸び率と、酸化防止剤のマススペクトル、及びトータルイオンクロマトグラムのピーク面積の相関から酸化劣化の抑制可能な濃度の関数を見積もる。濃度の関数とは、例えば、トータルイオンクロマトグラムのピーク面積の絶対値であっても良く、リファレンス材料、例えば、劣化していない未処理の試料や、劣化前の初期値のピーク面積を100としたときのピーク面積比であっても良い。酸化防止剤とは無関係の増加・減少が生じない他の添加剤のピークをリファレンスとして比率を求めても良い。
【0057】
限界濃度とは、引張試験の結果から判断して寿命に達したときの測定対象物の濃度の関数、あるいは、濃度の絶対値である。濃度の絶対値は、手順1で得られたピーク面積から測定対象物を換算する式により試算された濃度であっても良い。手順2における酸化防止剤の配合量については目標寿命の達成を意識して設定された濃度より少なくする必要がある。配合量を減らすほど、樹脂材料の劣化が早期に進むが、製造時に酸化防止剤が一部消費されるため、あまり酸化防止剤の配合量を少なくし過ぎると、酸化防止剤が熱劣化試験前にほとんど消費されてしまい、限界濃度も酸化防止剤の減少速度も正しく評価できなくなる。このため、何種類かの配合濃度の試料を用いて試すことが望ましい。
【0058】
手順3)目標寿命の達成を意識して設定された濃度の酸化防止剤を配合した試料を用いて熱劣化試験を実施し、劣化初期の試料中の測定対象物のマススペクトル及びトータルイオンクロマトグラムのピーク面積から得られる濃度の関数、あるいは濃度の絶対値とその減少速度を見積もる。
【0059】
手順4)手順3で見積もった測定対象物の濃度の関数、あるいは濃度の絶対値とその減少速度から、第一段階で見積もった限界濃度に到達するまでの時間を計算し、加熱試験温度におけるケーブル被覆材料の熱劣化寿命を予測する。
【0060】
ここで、限界濃度の見積り、酸化防止剤の減少速度の見積りに際しては、複数の試料で実験を行い、その平均値を用いても良い。また、ケーブル被覆材の場合には、膜厚方向の断面を3分割して濃度の分布を評価することが好ましい。酸化防止剤の濃度は酸化劣化の抑制に影響するため、ケーブル被覆膜厚方向の酸化防止剤の濃度分布データを収集し、限界濃度算出において分布形態も考慮して濃度を算定することにより、寿命見積りの精度を向上できる。
【0061】
以上の手順により、任意の熱劣化温度における寿命を予測できるが、複数の熱劣化温度で、寿命予測を行い、それらの結果をアレニウスプロットし、想定使用温度における寿命を外挿により求めることができる。本発明を用いることによりアレニウスプロットに供するデータを収集する期間が短縮でき、結果的に寿命予測するための期間短縮が可能になる。
【0062】
評価用のケーブル被覆材料として、ポリエチレンに架橋剤としてジクミルパーオキサイド、フェノール系酸化防止剤として4,4−チオビス(6−ターシャリーブチル−3−メチルフェノール)を添加し、混練後、180℃で架橋処理を施した。実施例として0.15wt%と0.18wt%のフェノール系酸化防止剤を含む試料を作製した。
【0063】
この材料をJIS規格K7212に準じる方法で、強制通風循環式恒温槽内で加速劣化試験を実施した。熱劣化温度は120℃とした。
【0064】
複数の試料を、400時間、800時間、1600時間、3200時間まで熱処理して取り出し、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析装置により測定した。以下にその測定方法の一例を説明する。
試料を10mg採取する。
熱分解装置の温度を350℃に設定する。
ヘリウムガスを流す。
熱分解装置の入口から試料を投入する。
投入と同時にガスクロマトグラフを室温から300℃まで8℃/分の昇温速度で試料を加熱分解させる。
分解ガスをガスクロマトグラフと連結した質量分析装置にヘリウムガスと一緒に流し込んで、分解ガスを分析し、トータルイオンクロマトグラムとマススペクトルを測定する。
酸化防止剤のマススペクトルを抽出し、そのリテンションタイム、もしくはスキャン数のピークをトータルイオンクロマトグラムから選択しその面積を求める。
そのピーク面積を投入した試料の重量で割った値を求める。
単位質量当たりのピーク面積を酸化防止剤濃度が既知のリファレンス材料の単位質量当たりのピーク面積を100としたときの比で求める。
【0065】
図4Aは前記の手順で作成した酸化防止剤添加濃度0.15wt%のケーブル被覆材の破断伸び率と酸化防止剤量比の120℃加速劣化試験における劣化時間依存性を示したグラフである。酸化防止剤量比は濃度の関数である。即ち、酸化防止剤量比は、劣化前の初期値のピーク面積を100としたときのピーク面積比を表している。
【0066】
図4Aの破断伸び率がほとんど0であり寿命に到達した試料の酸化防止剤量比、即ち、酸化防止剤の濃度の関数から、伸び率が低下して寿命となっているか否かを判定することができる。さらに、伸び率が100%以下となる加熱劣化時間、即ち、寿命を予測できることがわかる。
【0067】
事前に、寿命に到達した試料の酸化防止剤量比、即ち、酸化防止剤の濃度の関数を閾値として求めておけば、寿命に到達したか否かを判定することが可能である。この閾値は、酸化防止剤を実際の配合量より少なく配合した樹脂材料を作製して加速劣化試験を実施し、引張試験による破断伸び率と、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により酸化防止剤の濃度の関数から得ることができる。この際の閾値は任意に定めることができる。
【0068】
図4Bは前記の手順で作成した酸化防止剤(2−tert−butyl−5methylphenol)の添加濃度0.15wt%のケーブル被覆材の破断伸び率と酸化防止剤の分解物量比の120℃加速劣化試験における劣化時間依存性を示したグラフである。酸化防止剤の分解物量比は濃度の関数である。即ち、酸化防止剤の分解物量比は、劣化前の初期値のピーク面積を100としたときのピーク面積比を表している。
【0069】
図4Cは前記の手順で作成した酸化防止剤(4,4‘−thiobis(3−methyl−6−tert−butylphenol)の添加濃度0.15wt%のケーブル被覆材の破断伸び率と酸化防止剤の変性物量比の120℃加速劣化試験における劣化時間依存性を示したグラフである。酸化防止剤の変性物量比は濃度の関数である。即ち、酸化防止剤の変性物量比は、劣化前の初期値のピーク面積を100としたときのピーク面積比を表している。
【0070】
図4A〜Cに示すように、酸化防止剤自体、その分解物及び変性物のピーク面積と破断伸び率の関係は樹脂材料の劣化に関していずれも互いに整合性があり、従って、GC−MSによって検出されるこれらのピーク面積値は樹脂材料の劣化又は寿命判定に有効であることが分かる。
【0071】
図9Aは酸化防止剤のマススペクトルの例であり、図9Bは酸化防止剤のトータルイオンクロマトグラム例である。
【0072】
酸化防止剤のピーク面積比は劣化時間に伴い、一定の傾きで減少していることが実験の結果認められた。これは酸化劣化試験で発生したパーオキシラジカルにフェノール基が水素を供給して安定化し、ラジカル連鎖反応を抑制するために消費された結果である。
【0073】
一方、破断伸び率は2000時間近くまでは顕著な低下が見られず、2000時間付近で急激に低下し、寿命判定基準の100%まで低下している。破断伸び率が100%になる2000時間におけるピーク面積比は図9Aの傾向から初期の濃度の14%、即ち0.02wt%と見積もられ、これを本実施例の材料組成の120℃の熱劣化試験における限界濃度とする。限界濃度の見積りに際して、ばらつきの影響を考慮するため、前述の破断伸び率、ならびに単位質量当たりのピーク面積比を各劣化時間において複数の試料で評価して、それらの平均値をプロットし、又は関数近似することにより精度を向上できる。
【0074】
限界濃度はベースポリマの分子量や酸化防止剤の種類や熱劣化温度によって変わるため、材料の組合せ、熱劣化温度を変えるときにはそれぞれ前記方法で取得する必要がある。
【0075】
限界濃度をより短期間で確認するためには酸化防止剤濃度を実使用濃度より少なく配合した試料で試験すれば良い。ただし、架橋剤による化学架橋で製造した場合、架橋剤により発生したラジカルに対しても酸化防止剤がラジカル捕獲剤として作用して、消費されるため、熱劣化試験を開始する時点で単位質量当たりのピーク面積は減少する。このため、あまり酸化防止剤の配合量を少なくし過ぎると、劣化試験前の段階で酸化防止剤が限界濃度に達してしまい、酸化防止剤の消費速度が検知できなくなる恐れがあるので注意を要する。
【0076】
図5はフェノール系酸化防止剤の初期添加濃度が0.15wt%のケーブル被覆材11と0.18wt%のケーブル被覆材12の単位質量当たりのピーク面積比(それぞれのリファレンス材料に対する比)の120℃劣化試験における劣化時間依存性を比較したグラフである。
【0077】
なお、図5において、酸化防止剤量比を熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析測定でのトータルイオンクロマトグラムの酸化防止剤のピーク面積から劣化前の値を100として比率(%)を求め、劣化試験温度に対してプロットした。酸化防止剤の量によらず直線近似された近似線の傾きはほとんど等しい。
【0078】
0.18wt%添加品のピーク面積比と0.15wt%添加品のピーク面積比は共に一定の速度(傾き)で消費されており、時間当たりに消費される酸化防止剤の量はほとんど等しいと見なせる。先に求めた通り、限界濃度は0.02wt%であるから、0.18wt%添加品が限界濃度である0.02wt%、リファレンス材料に対するピーク面積比に換算すると11%となるまでの時間は3900時間と推定された。このように、実使用濃度より低濃度の試料によりラジカル連鎖反応を抑制可能な酸化防止剤の限界濃度を見積り、高濃度(実使用濃度)の試料においてもその消費速度が等しいことが確認できれば、高濃度の試料の寿命を限界濃度に達する前に見積もることが可能になる。
【0079】
以上、120℃の劣化温度における寿命見積りの例を示したが、より低温の110℃、100℃の劣化温度における寿命見積りも可能であり、これらの劣化温度における寿命をアレニウスプロットすることにより、想定使用温度における寿命を見積もることが可能である。
【0080】
図7はアレニウスプロットを用いて加速熱劣化試験データから想定使用温度における寿命を評価した例である。21は酸化防止剤を0.15wt%添加した試料の120℃、110℃、100℃における寿命到達時間のプロットと外挿線である。原子力ケーブルの寿命試験における想定使用温度の60℃における予想寿命は外挿線が加熱温度60℃と交差するY座標22で求められる。
【0081】
同様に23は酸化防止剤を0.2wt%添加した試料の120℃、110℃、100℃における寿命到達時間のプロットと外挿線で、24は想定使用温度の60℃における予想寿命である。21の120℃、110℃、100℃のプロットの全てあるいは一部を前述の酸化防止剤の消費速度と限界濃度の見積りで求めることにより、想定使用温度における寿命評価を短期間で実施することが可能になる。
【0082】
図5において、酸化防止剤量比を熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析測定でのトータルイオンクロマトグラムの酸化防止剤のピーク面積から劣化前の値を100として比率(%)を求め、劣化試験温度に対してプロットした。酸化防止剤の量の少ない試料から寿命であると判断された酸化防止剤量比から実使用量の酸化防止剤量の試料の寿命を直線近似で求めたところ、約3800時間である。図8は、種々の熱分解温度で実施した熱分解クロマトグラフィー・質量分析測定のトータルイオンクロマトグラムによる測定対象物質のピーク面積を示す。この酸化防止剤については、最も多く検出される加熱温度は350℃であることが分かる。
【0083】
図6は従来の被覆材の破断伸び率から求めた寿命判定であるが、破断伸び率で求めた寿命は約3800時間で、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析測定で酸化防止剤量比から実使用量の試料の寿命を直線近似で求めた値(図5)と略一致する。破断伸び率試験には4000時間を要するのに対し、本発明では1200時間で寿命を予測することができる。
【0084】
本発明の加速試験による寿命判定方法と、加速試験による従来の寿命判定法を、樹脂材料の破断伸び率と酸化防止剤の含有量との関係を図4Aに示した。従来の寿命判定方法では、たとえば2000時間以上経過したときに破断伸び率が急激に低下して、被覆材の寿命であると判断することができる。しかし、加速試験でさえ2000時間以上を要するという問題がある。これに対し、本発明によれば、破断伸び率は酸化防止剤の含有量の低下に直線的に低下して、2000時間を待たないでも、破断伸び率がある所定の値になる時点(被覆材の寿命)を予測することができる。
【0085】
図4Aに示すように、酸化防止剤入りの樹脂材料(又はこれを被覆材とするケーブル)の熱劣化試験を行いその複数点の破断伸び率及び酸化防止剤量を求め、被覆材の劣化度及び劣化速度を求め、所定の破断伸び率に達する時間を予測することにより、被覆材の寿命を予測することができる。
【0086】
図9Aと図9Bは酸化防止剤の分解物のマススペクトルの一例であり、図9C及び図9Dはそれぞれ酸化防止剤の分解物と変性物のマススペクトルの一例である。酸化防止剤の分解物や変性物は劣化と共に増加することから、これらのピーク面積を閾値に用いることも可能である。
【0087】
本発明の検査方法をコンピュータによりサポートするには、以下の手順を採用するのが有効である。図9Aにおいて、酸化防止剤単品の熱分解ガスクロマトグラィー・質量分析測定でのマススペクトルであり、図9Bにおいて、酸化防止剤単品の熱分解ガスクロマトグラィー・質量分析測定でのトータルイオンクロマトグラムである。
【0088】
図10Aはコンピュータを用いて本発明の寿命予測を実施するためのフローを示すもので、試料をケーブルから1〜10mg採取する(ステップa)。この試料を酸化防止剤が最も多く検出される加熱温度で熱分解する(ステップb)。次いで、ガスクロマトグラフィー(GC)により,0から300℃まで、5〜10℃/分で昇温する。キャピラリカラムの固定層には5%フェニルポリジメチルシロキサンを使用する(ステップc)。
【0089】
質量分析装置(MS)において、質量範囲をm/Z10〜800などに指定する。トータルイオンクロマトグラムから酸化防止剤マススペクトルを検索し、そのスキャン数(トータルイオンクロマトグラムのリテンションタイム)を割り出す。このスキャン数のピーク面積を算出し、単位質量当たりのピーク面積を算出し、単位質量当たりのピーク面積として規格化する(ステップd)。
【0090】
寿命に達したケーブル(寿命既知材料)から酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積を求める(ステップe)。
【0091】
次いで、実プラントから取り出したケーブルより酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積を求め、寿命予測図を作成する(ステップf)。
【0092】
寿命に達したケーブルの酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積よりも実プラントから取り出したケーブルの酸化防止剤の他に質量当たりのピーク面積が10%以上大きければ、寿命に達していないと判定する(ステップg)。この閾値の値は任意である。
【0093】
図10Aにおいて、寿命既知材測定(ステップe)後に、上記ステップfに替えて、実プラントから経過時間を変えて取りだしたケーブルより、酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積を縦軸、経過時間を横軸にプロットし、直線近似して近似式を求めてもよい。以下のステップgは上記と同じである。
【0094】
図10Bは、他の寿命予測法を示すフロー図で、ステップaからステップeまでは図10Aと同じである。ステップf‘においては、寿命が未知のケーブル被覆材から既知量の酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積を縦軸、劣化時間を横軸にプロットし、劣化前を除いて直線近似を行い、近似式を求める。
【0095】
近似式により寿命に達したと判定されたケーブル被覆材の酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積に達する時間を算出する。これにより被覆材の寿命予測が可能となる。
【0096】
図10Cは他の寿命予測法を示すもので、試料採取から質量分析までは図10Aと同じである。質量分析による測定後、寿命が既知のケーブルから、酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積を縦軸、劣化時間を横軸にプロットし、劣化前を除いて直線近似により近似式を求め、既知寿命直線図を作成する(ステップh)。
【0097】
次に引張伸び率を縦軸、劣化時間を横軸にプロットし、100%伸び率となる劣化時間を求め、寿命に達したときの酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積を既知寿命直線図から求め、引っ張り伸び率曲線図を作成する(ステップi)。
【0098】
次に、寿命が未知のケーブルから酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積を縦軸、劣化時間を横軸にプロットし、劣化前を除いて直線近似式を求める(ステップj)。
【0099】
最後に、近似式より寿命に達したときの酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積に達する時間を算出し、予測寿命を算出する(ステップk)。
【0100】
図11は、上記の寿命検査方法をコンピュータにより実行するフローを示す。図11に各ステップに関する説明を記載したので、その詳細説明は省略する。なお、図11において、近似式A1=aH1+b、A2=aH2+c,ALife=aH+cは、最も簡単な例として一次式として提案するもので、この式でなければいけないということではない。また、HLifeは被覆材料の寿命を意味する。
【0101】
以上のことから、本発明における判定方法、予測方法、検査方法をコンピュータによりサポートする方法は、以下のとおりである。
【0102】
(1)酸化防止剤の分子量、分解物のセグメントとマッチするマススペクトルを抽出し、これのリテンションタイム、もしくはスキャン数を求める。
【0103】
(2)トータルイオンクロマトグラムから、先のリテンションタイム、もしくはスキャン数のピークを検索し、これのピーク面積を算出。
【0104】
(3)測定時に投入した試料の質量でピーク面積を割った単位質量当たりのピーク面積値(A)を求める。
【0105】
(4)酸化防止剤の濃度が既知で特定の値のリファレンス材料を同時に測定してリファレンス材料における酸化防止剤の単位質量当たりのピーク面積値(B)を求める。
【0106】
(5)AをBで割った値(A/B)を求める。
【0107】
(6)横軸に劣化時間、縦軸にA/BをプロットしたときのA/Bの減少速度を計算する。
【0108】
(7)引張試験から求められた寿命に相当する酸化防止剤のA/Bの算定。
【0109】
(8)実使用濃度より酸化防止剤の配合量の少ない試料から求めた(6)と寿命達成を意図した配合量の試料の(6)を比較して、一致している場合は本寿命検査が適用可能であることを判断すると共に、後者が(7)の濃度に到達する時間を計算。
【0110】
(9)さらに、上記に加えて、次の項目を追加することが考えられる。
【0111】
(10)複数の加速熱劣化温度における(8)の予測寿命をアレニウスプロットしたときの傾きと切片の計算。(最小二乗法)
(11)想定使用温度における寿命の計算。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、酸化防止剤を配合した樹脂材料の寿命を予測するための検査方法、特に原子力プラントなどの超長寿命が要求される各種配線に適用するのに好適な検査方法であり、これによって原子力プラントの電気系統の信頼性と安全性の向上に資することができる。
【符号の説明】
【0113】
1…原子炉格納容器、2…制御・計装ケーブル、3…電力ケーブル、4…ケーブルトレイ、5…電線管、6…中央制御盤、7…制御装置、8…電線管、9…線量計、10…格納容器電線貫通部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化防止剤を含有する樹脂材料の試料を準備し、
該試料のガスクロマトグラフィー・質量分析法によりマススペクトルを計測し、
該マススペクトルからトータルイオンクロマトグラムのピーク面積を求め、
該ピーク面積から酸化防止剤、その分解物及び/又は変性物(以下、測定対象物と称する)の樹脂材料中の濃度を求め、
上記面積と、予め求められた樹脂材料の寿命における面積に関する閾値と比較して、寿命に達したかどうかを判定する、
ことを特徴とする樹脂材料の寿命判定方法。
【請求項2】
前記閾値は、引張試験により求めた破断伸び率と、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法から求めた前記測定対象物の濃度の関係から得たものであることを特徴とする請求項1記載の樹脂材料の寿命判定方法。
【請求項3】
前記閾値は、引張試験による破断伸び率で寿命と判定した樹脂材料の熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法より求めた前記測定対象物の濃度の関数から得ることを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂材料の寿命判定方法。
【請求項4】
前記閾値は、酸化防止剤を実際の配合量より少なく配合した樹脂材料を作製して加速劣化試験を実施し、引張試験による破断伸び率と、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により前記測定対象物の濃度の関数から得ることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の樹脂材料の寿命判定方法。
【請求項5】
酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤のうち少なくとも一つを用いることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の樹脂材料の寿命判定方法。
【請求項6】
酸化防止剤を含有する樹脂材料の試料を準備し、
該試料のガスクロマトグラフィー・質量分析法によりマススペクトルを計測し、
該マススペクトルからトータルイオンクロマトグラムのピーク面積を求め、
該ピーク面積から酸化防止剤、その分解物及び/又は変性物(以下、測定対象物と称する)の樹脂材料中の濃度を求め、
但し測定対象の樹脂材料は、複数の条件下で加速劣化したもので、求める測定対象物の濃度は、それぞれの劣化条件で加速劣化した試料について求め、
求めた濃度を関数化し、
該関数の傾きから測定対象物の減少速度を見積もり、樹脂材料の寿命を予測する、
ことを特徴とする樹脂材料の寿命予測方法。
【請求項7】
前記加速劣化試験は、前記樹脂材料を複数の温度及び/又は空間放射線量率で異なった期間放置させたものであることを特徴とする請求項6記載の樹脂材料の寿命予測方法。
【請求項8】
酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤のうち少なくとも一つを用いることを特徴とする請求項6又は7に記載の樹脂材料の寿命予測方法。
【請求項9】
熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により求められた前記測定対象物の濃度の関数からそれぞれの温度、及び又は放射線量における寿命を予測し、各温度、及び又は放射線量における該寿命をアレニウスプロットして、使用想定温度及び/又は使用想定放射線量における寿命を予測する請求項6から8のいずれかに記載の樹脂材料の寿命予測方法。
【請求項10】
酸化防止剤を含有する樹脂材料の試料を準備し、
該試料のガスクロマトグラフィー・質量分析法によりマススペクトルを計測し、
該マススペクトルからトータルイオンクロマトグラムのピーク面積を求め、
該ピーク面積から酸化防止剤、その分解物及び/又は変性物(以下、測定対象物と称する)の樹脂材料中の濃度を求め、
実使用濃度より低濃度の酸化防止剤含有樹脂材料の加速熱劣化試験を行った試料について、引張り破断伸び率と前記ピーク面積から酸化防止剤の劣化防止可能な最小限界濃度を見積もり、
実使用濃度の酸化防止剤を含有する樹脂材料の加速熱劣化試験を行って前記測定対象物の減少速度を見積もり、
上記減少速度から実使用濃度の酸化防止剤含有樹脂が最小限界濃度に到達する時間を求め、樹脂材料の寿命を求める樹脂材料の寿命検査方法。
【請求項11】
請求項10に記載の樹脂材料の寿命検査方法おいて、酸化劣化反応を抑制する酸化防止剤を配合した樹脂材料について、酸化防止剤の濃度を熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により定量する手段を用いて、第一段階として酸化防止剤の配合量の少ない試料で熱劣化試験を実施し、引張試験における破断伸び率と前記定量値との相関から酸化劣化の抑制可能な酸化防止剤の限界濃度を見積もり、第二段階として実使用濃度の酸化防止剤を配合した試料を用いて熱劣化試験を実施して前記定量値の減少速度を見積もり、第三段階として、減少速度から限界濃度に達するまでの時間を計算し、所定の温度における樹脂材料の寿命を算出することを特徴とする樹脂材料の寿命検査方法。
【請求項12】
放射線劣化試験を実施するか、もしくは、熱劣化試験と放射線劣化試験を組み合わせて実施することにより、酸化防止剤の限界濃度と減少速度を見積もり、限界濃度に達するまでの時間を計算し、所定の温度における樹脂材料の寿命を算出することを特徴とする請求項10又は11に記載の樹脂材料の寿命検査方法。
【請求項13】
請求項10から12のいずれかに記載の樹脂材料の寿命検査方法おいて、前記試料を300℃から400℃の温度に設定した熱分解装置にそれぞれ投入し、ヘリウムガスを流してガスクロマトグラフィー・質量分析装置へ導入することにより酸化防止剤のマススペクトルを計測し、該スペクトルを有するトータルイオンクロマトグラムのピークの面積を求め、既知の量の酸化防止剤が配合された樹脂材料のピーク面積を1としたときの劣化後の樹脂材料のピーク面積の比率を算出し、これに既知の酸化防止剤の濃度を掛けることにより、劣化後の酸化防止剤の濃度を定量することを特徴とする樹脂材料の寿命検査方法。
【請求項14】
複数の酸化防止剤を配合した樹脂材料において、複数の酸化防止剤の濃度を個別に定量し、すべての酸化防止剤が限界濃度に到達するまでの時間を計算することにより、寿命を算出することを特徴とする請求項10から13のいずれかに記載の樹脂材料の寿命検査方法。
【請求項15】
酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤のうち少なくとも一つを用いることを特徴とする請求項10から14のいずれかに記載の樹脂材料の寿命検査方法。
【請求項16】
酸化防止剤を含有する樹脂材料の試料を準備し、
該試料のガスクロマトグラフィー・質量分析法によりマススペクトルを計測し、
該マススペクトルからトータルイオンクロマトグラムのピーク面積を求め、
該ピーク面積から酸化防止剤、その分解物及び/又は変性物(以下、測定対象物と称する)の樹脂材料中の濃度を求め、
前記面積から、予め求められた指標と比較して樹脂の劣化度を判定する、
ことを特徴とする樹脂材料の劣化度判定方法。
【請求項17】
酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤のうち少なくとも一つを用いることを特徴とする請求項16に記載の樹脂材料の劣化度判定方法。
【請求項18】
コンピュータに、準備された、酸化防止剤を含有する樹脂材料のガスクロマトグラフィー・質量分析法によりマススペクトルを計測し、
該マススペクトルからトータルイオンクロマトグラムのピーク面積を求め、
該ピーク面積から酸化防止剤、その分解物及び/又は変性物(以下、測定対象物と称する)の樹脂材料中の濃度を求め、
但し測定対象の樹脂材料は、複数の条件下で加速劣化したもので、求める測定対象物の濃度は、それぞれの劣化条件で加速劣化した試料について求め、
求めた濃度を関数化し、
該関数の傾きから測定対象物の減少速度を見積もり、樹脂材料の寿命を予測する、
ように機能させることを特徴とするコンピュータの樹脂材料の寿命予測プログラム。
【請求項19】
コンピュータに、準備された、酸化防止剤を含有する樹脂材料の試料のガスクロマトグラフィー・質量分析法によりマススペクトルを計測し、
該マススペクトルからトータルイオンクロマトグラムのピーク面積を求め、
該ピーク面積から酸化防止剤、その分解物及び/又は変性物(以下、測定対象物と称する)の樹脂材料中の濃度を求め、
前記面積から、予め求められた指標と比較して樹脂材料の劣化度を判定する、
ように機能させることを特徴とするコンピュータの樹脂材料の劣化度判定プログラム。
【請求項20】
コンピュータに、準備された、酸化防止剤を含有する樹脂材料の試料のガスクロマトグラフィー・質量分析法によりマススペクトルを計測し、
該マススペクトルからトータルイオンクロマトグラムのピーク面積を求め、
該ピーク面積から酸化防止剤、その分解物及び/又は変性物(以下、測定対象物と称する)の樹脂材料中の濃度を求め、
上記面積と、予め求められた樹脂材料の寿命における面積に関する閾値と比較して、寿命に達したかどうかを判定する、
ように機能させることを特徴とするコンピュータの樹脂材料の寿命判定プログラム。
【請求項21】
コンピュータに、準備された、酸化防止剤を含有する樹脂材料の試料のガスクロマトグラフィー・質量分析法によりマススペクトルを計測し、
該マススペクトルからトータルイオンクロマトグラムのピーク面積を求め、
該ピーク面積から酸化防止剤、その分解物及び/又は変性物(以下、測定対象物と称する)の樹脂材料中の濃度を求め、
実使用濃度より低濃度の酸化防止剤含有樹脂材料の加速熱劣化試験を行った試料について、引張り破断伸び率と前記ピーク面積から酸化防止剤の劣化防止可能な最小限界濃度を見積もり、
実使用濃度の酸化防止剤を含有する樹脂材料の加速熱劣化試験を行って前記測定対象物の減少速度を見積もり、
上記減少速度から実使用濃度の酸化防止剤含有樹脂材料が最小限界濃度に到達する時間を求め、樹脂材料の寿命を求める、ように機能させることを特徴とするコンピュータの樹脂材料の寿命検査プログラム。
【請求項1】
酸化防止剤を含有する樹脂材料の試料を準備し、
該試料のガスクロマトグラフィー・質量分析法によりマススペクトルを計測し、
該マススペクトルからトータルイオンクロマトグラムのピーク面積を求め、
該ピーク面積から酸化防止剤、その分解物及び/又は変性物(以下、測定対象物と称する)の樹脂材料中の濃度を求め、
上記面積と、予め求められた樹脂材料の寿命における面積に関する閾値と比較して、寿命に達したかどうかを判定する、
ことを特徴とする樹脂材料の寿命判定方法。
【請求項2】
前記閾値は、引張試験により求めた破断伸び率と、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法から求めた前記測定対象物の濃度の関係から得たものであることを特徴とする請求項1記載の樹脂材料の寿命判定方法。
【請求項3】
前記閾値は、引張試験による破断伸び率で寿命と判定した樹脂材料の熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法より求めた前記測定対象物の濃度の関数から得ることを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂材料の寿命判定方法。
【請求項4】
前記閾値は、酸化防止剤を実際の配合量より少なく配合した樹脂材料を作製して加速劣化試験を実施し、引張試験による破断伸び率と、熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により前記測定対象物の濃度の関数から得ることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の樹脂材料の寿命判定方法。
【請求項5】
酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤のうち少なくとも一つを用いることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の樹脂材料の寿命判定方法。
【請求項6】
酸化防止剤を含有する樹脂材料の試料を準備し、
該試料のガスクロマトグラフィー・質量分析法によりマススペクトルを計測し、
該マススペクトルからトータルイオンクロマトグラムのピーク面積を求め、
該ピーク面積から酸化防止剤、その分解物及び/又は変性物(以下、測定対象物と称する)の樹脂材料中の濃度を求め、
但し測定対象の樹脂材料は、複数の条件下で加速劣化したもので、求める測定対象物の濃度は、それぞれの劣化条件で加速劣化した試料について求め、
求めた濃度を関数化し、
該関数の傾きから測定対象物の減少速度を見積もり、樹脂材料の寿命を予測する、
ことを特徴とする樹脂材料の寿命予測方法。
【請求項7】
前記加速劣化試験は、前記樹脂材料を複数の温度及び/又は空間放射線量率で異なった期間放置させたものであることを特徴とする請求項6記載の樹脂材料の寿命予測方法。
【請求項8】
酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤のうち少なくとも一つを用いることを特徴とする請求項6又は7に記載の樹脂材料の寿命予測方法。
【請求項9】
熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により求められた前記測定対象物の濃度の関数からそれぞれの温度、及び又は放射線量における寿命を予測し、各温度、及び又は放射線量における該寿命をアレニウスプロットして、使用想定温度及び/又は使用想定放射線量における寿命を予測する請求項6から8のいずれかに記載の樹脂材料の寿命予測方法。
【請求項10】
酸化防止剤を含有する樹脂材料の試料を準備し、
該試料のガスクロマトグラフィー・質量分析法によりマススペクトルを計測し、
該マススペクトルからトータルイオンクロマトグラムのピーク面積を求め、
該ピーク面積から酸化防止剤、その分解物及び/又は変性物(以下、測定対象物と称する)の樹脂材料中の濃度を求め、
実使用濃度より低濃度の酸化防止剤含有樹脂材料の加速熱劣化試験を行った試料について、引張り破断伸び率と前記ピーク面積から酸化防止剤の劣化防止可能な最小限界濃度を見積もり、
実使用濃度の酸化防止剤を含有する樹脂材料の加速熱劣化試験を行って前記測定対象物の減少速度を見積もり、
上記減少速度から実使用濃度の酸化防止剤含有樹脂が最小限界濃度に到達する時間を求め、樹脂材料の寿命を求める樹脂材料の寿命検査方法。
【請求項11】
請求項10に記載の樹脂材料の寿命検査方法おいて、酸化劣化反応を抑制する酸化防止剤を配合した樹脂材料について、酸化防止剤の濃度を熱分解ガスクロマトグラフィー・質量分析法により定量する手段を用いて、第一段階として酸化防止剤の配合量の少ない試料で熱劣化試験を実施し、引張試験における破断伸び率と前記定量値との相関から酸化劣化の抑制可能な酸化防止剤の限界濃度を見積もり、第二段階として実使用濃度の酸化防止剤を配合した試料を用いて熱劣化試験を実施して前記定量値の減少速度を見積もり、第三段階として、減少速度から限界濃度に達するまでの時間を計算し、所定の温度における樹脂材料の寿命を算出することを特徴とする樹脂材料の寿命検査方法。
【請求項12】
放射線劣化試験を実施するか、もしくは、熱劣化試験と放射線劣化試験を組み合わせて実施することにより、酸化防止剤の限界濃度と減少速度を見積もり、限界濃度に達するまでの時間を計算し、所定の温度における樹脂材料の寿命を算出することを特徴とする請求項10又は11に記載の樹脂材料の寿命検査方法。
【請求項13】
請求項10から12のいずれかに記載の樹脂材料の寿命検査方法おいて、前記試料を300℃から400℃の温度に設定した熱分解装置にそれぞれ投入し、ヘリウムガスを流してガスクロマトグラフィー・質量分析装置へ導入することにより酸化防止剤のマススペクトルを計測し、該スペクトルを有するトータルイオンクロマトグラムのピークの面積を求め、既知の量の酸化防止剤が配合された樹脂材料のピーク面積を1としたときの劣化後の樹脂材料のピーク面積の比率を算出し、これに既知の酸化防止剤の濃度を掛けることにより、劣化後の酸化防止剤の濃度を定量することを特徴とする樹脂材料の寿命検査方法。
【請求項14】
複数の酸化防止剤を配合した樹脂材料において、複数の酸化防止剤の濃度を個別に定量し、すべての酸化防止剤が限界濃度に到達するまでの時間を計算することにより、寿命を算出することを特徴とする請求項10から13のいずれかに記載の樹脂材料の寿命検査方法。
【請求項15】
酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤のうち少なくとも一つを用いることを特徴とする請求項10から14のいずれかに記載の樹脂材料の寿命検査方法。
【請求項16】
酸化防止剤を含有する樹脂材料の試料を準備し、
該試料のガスクロマトグラフィー・質量分析法によりマススペクトルを計測し、
該マススペクトルからトータルイオンクロマトグラムのピーク面積を求め、
該ピーク面積から酸化防止剤、その分解物及び/又は変性物(以下、測定対象物と称する)の樹脂材料中の濃度を求め、
前記面積から、予め求められた指標と比較して樹脂の劣化度を判定する、
ことを特徴とする樹脂材料の劣化度判定方法。
【請求項17】
酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤のうち少なくとも一つを用いることを特徴とする請求項16に記載の樹脂材料の劣化度判定方法。
【請求項18】
コンピュータに、準備された、酸化防止剤を含有する樹脂材料のガスクロマトグラフィー・質量分析法によりマススペクトルを計測し、
該マススペクトルからトータルイオンクロマトグラムのピーク面積を求め、
該ピーク面積から酸化防止剤、その分解物及び/又は変性物(以下、測定対象物と称する)の樹脂材料中の濃度を求め、
但し測定対象の樹脂材料は、複数の条件下で加速劣化したもので、求める測定対象物の濃度は、それぞれの劣化条件で加速劣化した試料について求め、
求めた濃度を関数化し、
該関数の傾きから測定対象物の減少速度を見積もり、樹脂材料の寿命を予測する、
ように機能させることを特徴とするコンピュータの樹脂材料の寿命予測プログラム。
【請求項19】
コンピュータに、準備された、酸化防止剤を含有する樹脂材料の試料のガスクロマトグラフィー・質量分析法によりマススペクトルを計測し、
該マススペクトルからトータルイオンクロマトグラムのピーク面積を求め、
該ピーク面積から酸化防止剤、その分解物及び/又は変性物(以下、測定対象物と称する)の樹脂材料中の濃度を求め、
前記面積から、予め求められた指標と比較して樹脂材料の劣化度を判定する、
ように機能させることを特徴とするコンピュータの樹脂材料の劣化度判定プログラム。
【請求項20】
コンピュータに、準備された、酸化防止剤を含有する樹脂材料の試料のガスクロマトグラフィー・質量分析法によりマススペクトルを計測し、
該マススペクトルからトータルイオンクロマトグラムのピーク面積を求め、
該ピーク面積から酸化防止剤、その分解物及び/又は変性物(以下、測定対象物と称する)の樹脂材料中の濃度を求め、
上記面積と、予め求められた樹脂材料の寿命における面積に関する閾値と比較して、寿命に達したかどうかを判定する、
ように機能させることを特徴とするコンピュータの樹脂材料の寿命判定プログラム。
【請求項21】
コンピュータに、準備された、酸化防止剤を含有する樹脂材料の試料のガスクロマトグラフィー・質量分析法によりマススペクトルを計測し、
該マススペクトルからトータルイオンクロマトグラムのピーク面積を求め、
該ピーク面積から酸化防止剤、その分解物及び/又は変性物(以下、測定対象物と称する)の樹脂材料中の濃度を求め、
実使用濃度より低濃度の酸化防止剤含有樹脂材料の加速熱劣化試験を行った試料について、引張り破断伸び率と前記ピーク面積から酸化防止剤の劣化防止可能な最小限界濃度を見積もり、
実使用濃度の酸化防止剤を含有する樹脂材料の加速熱劣化試験を行って前記測定対象物の減少速度を見積もり、
上記減少速度から実使用濃度の酸化防止剤含有樹脂材料が最小限界濃度に到達する時間を求め、樹脂材料の寿命を求める、ように機能させることを特徴とするコンピュータの樹脂材料の寿命検査プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【公開番号】特開2013−32958(P2013−32958A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168888(P2011−168888)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
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