説明

酸化防止剤組成物

本発明は、p−クレゾール、ジシクロペンタジエン及びイソブチレンの反応生成物を含む第一酸化防止剤並びにジアリールアミンを含む第二酸化防止剤を含む、潤滑剤用及び有機ポリマー用の酸化防止剤組成物に関する。第一酸化防止剤は好ましくは、構造式:


(式中、nは0〜50であり、並びにR及びRは独立して、水素、1個又はより多くの置換基により置換されていてもよい直鎖状又は分枝鎖状C〜C30アルキル基又はアルキレン基、C〜C12シクロアルキル、C〜C12アリール又はC〜C12アルキルアリールである)を有する。第二酸化防止剤は好ましくは、式:
(R−Ar−NH−Ar−(R
(式中、Ar及びArは独立して、芳香族炭化水素基であり、並びにR及びRは独立して、水素又は炭素原子6個〜約100個を有するヒドロカルビル基であり、並びにa及びbは独立して、0〜3であり、但し(a+b)は4以下である)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権主張)
本出願は2008年11月24日付けで出願された米国特許出願第12/277,019号に優先権を主張するものであり、この特許出願をその全体を引用し、ここに組入れる。
【0002】
本発明は潤滑油用酸化防止剤組成物に関する。さらに特に、本発明は立体ヒンダードフェノール及びジアリールアミンを含む液状酸化防止剤組成物、並びに酸素、熱及び/又は光によって生じる劣化に対する潤滑油の安定化におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
炭化水素を基材とする潤滑油は、それらの製造、輸送、貯蔵又は使用期間中に偏在する熱及び酸素(空気)に曝されると時間の経過で酸化する。未制御の油酸化は有害な成分を生成し、これらの成分は潤滑油の指定の機能を結果的に危険にさらし、その使用寿命を短縮し、またさらに過度には機械に損害を与える。潤滑油の酸化を防止するための実用的手段は、1種又はより多くの活性成分を含む適当な酸化防止剤系を使用することである。
【0004】
かなり多くの種類の潤滑油製品にかかわる拡大する性能及び環境要件の高まりによって工業界はさらに良好な酸化安定性、さらに長い枯渇間隔、改良された低温物性及びより大きい燃料効率を得るために、現代の潤滑剤配合物を用いる作業用に高性能の酸化防止剤が引続き捜し求められている。
【0005】
潤滑剤配合物の観点からの顕著な変化の一つは亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(ZDDP)の使用の減少である。過去十年にわたり、ZDDPは摩損防止及び酸化抑制における、特に主要酸化防止剤との相乗効果によるそれらの優れた価格効率によってかなり多くの種類の潤滑油用の重要な種類の潤滑油添加剤であった。しかしながら、ZDDP中の亜鉛の存在は内燃機関における灰粒子の形成の一因となり、及び排出流に入った揮発性リンはNOx触媒を害する。これらの成分は両方ともに触媒コンバータの有効寿命を短縮させる。
低ZDDP酸化防止剤組成物の一つは米国特許第3,305,522号に記載されており、この特許全体を引用してここに組入れる。この特許はジシクロペンタジエン1モルを少なくとも1モルのフェノール、パラ−クレゾール、混合メタ−パラ−クレゾール及びパラ−エチルフェノールからなる群から選択されるフェノール化合物とフリーデル−クラフツ型触媒の存在下に反応させる工程を包含する2工程法によって製造されるヒンダードフェノール化合物を開示している。この反応生成物は、引き続き、ジシクロペンタジエン1モル当たり少なくとも1.5モルの三級オレフィン系物質によりアルキル化される。この三級オレフィン系物質はイソブチレン、三級ヘキセン及び三級ペンテンからなる群から選択される。米国特許第3,305,522号に記載のヒンダードフェノール化合物は、ゴム、ガソリン及びオイルなどの有機物質の安定化に係わり酸化防止物性を有する。
二つ目の低ZDDP酸化防止剤組成物は米国特許第6,559,105号に記載されており、この特許全体を引用してここに組入れる。この特許は式:
【化1】


(式中、Rは炭素原子2〜6個を有するアルキル基である)の酸化防止剤、及び分散剤又は洗剤の組成物が潤滑剤組成物用の有用な添加剤パッケージであることを開示している。しかしながら、米国特許第6,559,105号に記載の種類のヒンダードフェノールは近年、高温酸化条件下に分解されてそれらの酸化防止物性が減少されることが示された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第3,305,522号
【特許文献2】米国特許第6,559,105号
【特許文献3】米国公開出願第2003/0144395A1
【特許文献4】米国特許第3,632,511号
【特許文献5】米国特許第4,867,890号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】American Petroleum Institute(API)出版の「エンジン油ライセンス及び認証システム(Engine Oil Licensing and Certification System)」、Industry ServicesDepartment(14版、1996年12月)、Addendum I、1998年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
低量のZDDPを含有し、高い安定化効果を有する、特に潤滑油用途用の追加の酸化防止剤組成物に対する要望が残されている。高温酸化条件下に安定のままである酸化防止剤組成物の存在がまた、求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は潤滑油安定化用の低ZDDPフェノール酸化防止剤組成物に関する。本発明の酸化防止剤組成物は好ましくは、高温酸化条件下おいてさえも高度に安定である。例えば一態様において、本発明は、酸化防止剤組成物に関するものであって、
(a)構造式:
【化2】


(式中、nは0〜50であり、並びにR及びRは独立して、水素、1個又はより多くの置換基により置換されていてもよい直鎖状又は分岐鎖状C〜C30アルキル基又はアルキレン基、C〜C12シクロアルキル、C〜C12アリール又はC〜C12アルキルアリールである)を有する第一酸化防止剤;及び
(b)式:
(R−Ar−NH−Ar−(R
(式中、Ar及びArは独立して、芳香族炭化水素基であり、並びにR及びRは独立して、水素又は炭素原子6個〜約100個を有するヒドロカルビル基であり、並びにa及びbは独立して、0〜3であり、但し(a+b)は4以下である)を有する第二酸化防止剤;
を含む、酸化防止剤組成物に関する。
第二酸化防止剤 対 第一酸化防止剤 の重量比は任意に、1:99〜99:1であるか、又は3:1より大きいか、又は3:1〜19:1である。理想的には、本発明の酸化防止剤組成物は25℃において液体であり、好ましくは100℃において40cSt未満の動粘度を有する。
【0010】
好ましくは、Rはtert−ブチル又はそのα位が置換されていてもよいスチレニル基である。Rは好ましくは、5個又はそれ未満の炭素原子を有するアルキル基又はアルキレン基、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル又はペンチルである。好適な態様の一つにおいて、第二酸化防止剤はモノ−、ジ−及びトリ−ノニルジフェニルアミンの混合物を含む。
【0011】
第一酸化防止剤は、構造式:
【化3】


(式中、R、R及びnは上記定義の通りである)を有してもよい。
【0012】
好適な態様の一つにおいて、本酸化防止剤組成物は式:
【化4】


(式中、R、R及びRは同一又は相違しており、直鎖状又は分岐鎖状C〜C18アルキル基を表す)のヒンダードフェノールを実質的に含有していない。一例として、組成物はこのヒンダードフェノールを酸化防止剤組成物の総重量に基づき0.2重量パーセント未満の量で含むことができる。
【0013】
もう一つの態様において、本発明は潤滑粘度のベースストック及び上記酸化防止剤のいずれか(例えば、上記第一酸化防止剤及び第二酸化防止剤を含む組成物)を含む潤滑剤組成物に関する。この態様において、本発明の潤滑剤組成物は好ましくは、潤滑剤組成物の重量に基づき65〜99.9重量%のベースストック及び0.05〜3重量%の酸化防止剤組成物を含む。好ましくは、本発明の潤滑剤組成物は潤滑剤組成物の総重量に基づき1重量%以下の量で、例えば0.7重量%未満の量でZDDPを含む。
【0014】
もう一つの態様において、本発明は有機ポリマー及び上記酸化防止剤のいずれか(例えば、上記第一酸化防止剤及び第二酸化防止剤を含む組成物)を含むポリマー組成物にある。
【0015】
もう一つの態様において、本発明は:(a)潤滑粘度のベースストック;及び(b)(i)構造式:
【化5】


(式中、nは0〜50であり、並びにR及びRは独立して、水素、1個又はより多くの置換基により置換されていてもよい直鎖状又は分岐鎖状C〜C30アルキル基又はアルキレン基、C〜C12シクロアルキル、C〜C12アリール又はC〜C12アルキルアリールである)を有する第一酸化防止剤;及び(ii)第二ジアリールアミン酸化防止剤、を含む添加剤パッケージ、を含む潤滑剤組成物にある。この添加剤パッケージは好ましくは、潤滑剤の重量に基づき0.1〜3.0重量%の範囲の量で潤滑剤中に存在させる。
【0016】
もう一つの態様において、本発明は、(a)p−クレゾール、ジシクロペンタジエン及びイソブチレンの反応生成物を含む第一酸化防止剤及び(b)ジアリールアミンを含む第二酸化防止剤を含む酸化防止剤組成物にある。一例として、第二酸化防止剤はモノ−、ジ−及びトリ−ノニルジフェニルアミンの混合物を含むことができる。第二酸化防止剤 対 第一酸化防止剤 の重量比は任意に、1:99〜99:1であるか、又は3:1より大きいか、又は3:1〜19:1である。好ましくは、本発明の酸化防止剤組成物は25℃において液体であり、及び100℃において40cSt未満の動粘度を有する。本発明の酸化防止剤組成物は好ましくは、式:
【化6】


(式中、R、R及びRは同一又は相違しており、直鎖状又は分岐鎖状C〜C18アルキル基を表す)のヒンダードフェノールを実質的に含有していない。一例として、組成物はこのヒンダードフェノールを酸化防止剤組成物の総重量に基づき0.2重量パーセント未満の量で含むことができる。
【0017】
もう一つの態様において、本発明は、(a)潤滑粘度のベースストック;並びに(b)p−クレゾール、ジシクロペンタジエン並びにイソブチレンの反応生成物を含む第一酸化防止剤及びジアリールアミンを含む第二酸化防止剤を含む酸化防止剤組成物にある。この潤滑剤組成物は潤滑剤組成物の重量に基づき65〜99.9重量%の量のベースストック及び0.05〜3重量%の量の酸化防止剤組成物を含むことができる。第二酸化防止剤 対 第一酸化防止剤 の重量比は3:1〜19:1であることができる。好ましくは、本発明の潤滑剤組成物はZDDPを潤滑剤組成物の総重量に基づき1重量%以下の量で、例えば7重量%未満の量で含む。潤滑剤組成物はさらにまた、酸化防止剤、摩損防止剤、洗剤、錆防止剤、濁り防止剤、解乳化剤、金属脱活性化剤、摩擦調整剤、流動点降下剤、発泡防止剤、補助溶剤、パッケージ相溶化剤、腐食防止剤、無灰分散剤、顔料、極圧剤及びその混合物からなる群から選択される少なくとも1種の潤滑油用添加剤を含むことができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
[序文]
本発明は酸化防止剤組成物及びこのような酸化防止剤組成物を配合した潤滑剤に関し、当該酸化防止剤組成物は1種又はより多くのジアリールアミンと組合わされている1種又はより多くのヒンダードフェノール化合物を含んでいる。酸化防止剤組成物に使用される1種又はより多くのヒンダードフェノール化合物は好ましくは、ジシクロペンタジエンを1種又はより多くのフェノール、p−クレゾール又はp−エチル−フェノールと反応させ、次いでさらにこの縮合生成物を1種又はより多くの三級オレフィン、例えばこれらに制限されないものとして、イソブチレン、三級ヘキセン又は三級ペンテンにより核アルキル化することによって生成される反応生成物を含む。1種又はより多くのジアリールアミンは好ましくは、モノ−ノニルジフェニルアミン、ジ−ノニルジフェニルアミン、トリ−ノニルジフェニルアミン及びその混合物から選択する。
【0019】
例えば一態様において、本発明は、酸化防止剤組成物に関するものであり、
(a)構造式(I):
【化7】


(式中、nは0〜50であり、並びにR及びRは独立して、水素、1個又はより多くの置換基により置換されていてもよい直鎖状又は分岐鎖状C〜C30アルキル基又はアルキレン基、C〜C12シクロアルキル、C〜C12アリール又はC〜C12アルキルアリールである)を有する第一酸化防止剤;及び
(b)構造式(II):
(R−Ar−NH−Ar−(R
(II)
(式中、Ar及びArは独立して、芳香族炭化水素基であり、並びにR及びRは独立して、水素又は炭素原子6〜約100個を有するヒドロカルビル基であり、並びにa及びbは独立して、0〜3であり、但し(a+b)は4以下である)を有する第二酸化防止剤;
を含む酸化防止剤組成物に関する。
【0020】
本発明の酸化防止剤組成物及び潤滑剤組成物は好ましくは、式(III):
【化8】


(式中、R、R及びRは同一又は相違しており、直鎖状又は分枝鎖状C〜C18アルキル基を表す)のヒンダードフェノールを実質的に含有していない。「実質的に含有していない」の用語は、酸化防止剤組成物又は潤滑剤組成物がこのような化合物を酸化防止剤組成物又は潤滑剤組成物の総重量に基づき1重量%以下の量、例えば0.5重量%未満の量、0.2重量%未満の量又は約0重量%の量で含むことを意味する。好ましくは、式(III)のヒンダードフェノールは本発明の酸化防止剤組成物又は潤滑剤組成物中で容易に検出することはできない。
【0021】
[ヒンダードフェノール化合物]
本発明の酸化防止剤組成物は1種又はより多くのヒンダードフェノール化合物を包含する。このヒンダードフェノール化合物は好ましくは、第一工程においてジシクロペンタジエンを1種又はより多くのフェノール、p−クレゾール又はp−エチル−フェノールと反応させ、次いでさらに第二工程において縮合生成物を1種又はより多くのオレフィン、例えばこれらに制限されないものとして、イソブチレン、三級ヘキセン又は三級ペンテンのような三級オレフィン、あるいはスチレン(置換されていてもよいスチレン、例えばα−メチルスチレン)により核アルキル化することによって生成される反応生成物を含む。このようなヒンダードフェノール化合物の合成は、例えば米国特許第3,305,522号(この特許は前記で引用して組入れられている)及び英国特許第1,068,995号(この特許を引用してここに組入れる)に詳細に記載されている。
【0022】
ヒンダードフェノールは好ましくは、2工程法によって製造される特定の種類の化合物から選択され、この方法はジシクロペンタジエンと1種又はより多くのフェノール、パラクレゾール、混合メタ−パラ−クレゾール及びパラ−エチル−フェノールからなる群から選択されるフェノール化合物とのフリーデル−クラフツ型触媒の存在下における反応を包含する。好ましくは、ジシクロペンタジエンとフェノール化合物とは約1:1モル比で反応する。さらに詳細には、合成方法の第一工程に従いジシクロペンタジエンと効果的に反応するフェノール物質は構造式(IV):
【化9】


(式中、Rは上記定義の通りであるが、好ましくは水素、メチル及びエチルからなる群から選択される基である)で表されるフェノール化合物であると規定できる。生成する生成物中の反応剤分子の好適な割合はジシクロペンタジエン1モル当たりフェノール化合物1.50〜1.75モルである。
【0023】
ジシクロペンタジエンとフェノール化合物との反応生成物は次いで、少なくともジシクロペンタジエン当量当たり0.5当量のオレフィン、例えば三級オレフィンによりアルキル化する。このオレフィンは好ましくは、イソブチレン、三級ヘキセン、三級ペンテン、スチレン及び置換スチレンからなる群から選択される。
【0024】
アルキル化工程に使用されるオレフィン原料の量は使用されるフェノール化合物及びまた反応生成物中のフェノール化合物とジシクロペンタジエンとのモル比に依存する。従って、フェノール及びジシクロペンタジエンから生成される生成物は、パラクレゾールからの生成物よりもオレフィンと反応し、また2:1モル比で、フェノール と ジシクロペンタジエン を含有するフェノールの反応生成物は、1:1生成物よりオレフィンと反応する。不完全にアルキル化された生成物は未アルキル化生成物に比較し優れた酸化防止物性を有するが、好適な生成物はアルキル化が実質的に完了された生成物である。最終アルキル化生成物中の反応剤分子の好適な割合は、パラ−クレゾール、メタ−パラ−クレゾールの混合物及びパラ−エチルフェノールをジシクロペンタジエンと反応させ、工程1の生成物を生成させる場合、ジシクロペンタジエン1モル当たり三級オレフィン原料1.0〜2.0モルである。最終アルキル化生成物中の反応剤分子の好適な割合はフェノールをジシクロペンタジエンと反応させ、工程1の生成物を生成させた場合、ジシクロペンタジエン1モル当たり三級オレフィン原料2.0〜4.0モルである。望ましい量が第一工程の生成物と反応することを確実にするためには、僅かに過剰量のアルキル化剤を使用すると好ましい。
【0025】
ジシクロペンタジエンとフェノール化合物との反応はフリーデル−クラフツ型触媒、特に塩化アルミニウム、塩化亜鉛、第一及び第二塩化鉄並びに三フッ化ホウ素、並びに三フッ化ホウ素を基材とする複合化合物などのより強力なフリーデル−クラフツ触媒によって効果的に触媒される。三フッ化ホウ素及び三フッ化ホウ素を基材とする複合化合物は第一工程用の好適な触媒である。ジシクロペンタジエンとフェノール化合物との反応によって得られる生成物をオレフィン、例えば三級オレフィン、スチレン又は置換スチレンによりさらにアルキル化する前記二工程反応法の第二工程は1種又はより多くの慣用の酸性アルキル化触媒、例えば硫酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、酸活性化クレイ、三フッ化ホウ素、塩化亜鉛、ハロゲン化第一及び第二鉄、ハロゲン化アルミニウム並びにハロゲン化第一及び第二スズを使用することによって効果的に触媒される。硫酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸及び酸活性化クレイは前記方法の第二工程における好適な触媒である。第二工程用の別種の好適な触媒は三フッ化ホウ素、メタンスルホン酸、及びp−トルエンスルホン酸を包含する。前記方法の第一工程及び第二工程の両方で使用される触媒は慣用の触媒量で使用する。すなわち、触媒量は通常、触媒される反応の反応剤の総重量に基づき触媒0.1パーセント〜5.0パーセントの範囲で変わる。
【0026】
前記二工程法の第一工程として規定されるジシクロペンタジエンをフェノール化合物と反応させる反応は、好ましくは、25℃〜1600℃、例えば80℃〜1500℃の温度で行う。ジシクロペンタジエンとフェノール化合物との反応は室温で開始させることができ、当該反応が極めて迅速であり、また発熱性であることから、反応熱を使用し、最終反応温度を得ることができる。適当な冷却手段が利用できる場合、この反応は連続式で行うことができる。
【0027】
前記方法の第一工程の反応混合物に使用される フェノール化合物 対 ジシクロペンタジエン のモル比は1:1〜5:1、又はより高く、例えば1:1〜2:1又は2:1〜4:1で変えることができ、好ましい割合は約3:1である。反応剤の前記好適な割合は、ジシクロペンタジエンと実際に反応する量より実質的に過剰な量のフェノール化合物を提供する。前記方法の第一工程から得られる生成物中の反応剤の好ましいモル比はジシクロペンタジエン1モル当たりフェノール化合物1.50〜1.75モルの範囲であることができる。態様の中で、前記方法の第一工程は不活性有機溶媒、例えばベンゼン、トルエン中で行うと好ましいことがある。ジシクロペンタジエンに対しフェノール化合物を比較的低い割合で使用する場合、溶媒の使用は特に好ましい。フェノール化合物 対 ジシクロペンタジエン のモル比が3:1又はより高くである場合、過剰のフェノール化合物は効果的な溶媒として作用し、追加の溶媒を使用する必要はない。
【0028】
本方法の第一工程は、例えばフェノール化合物と触媒との混合物又は触媒にジシクロペンタジエンを添加することによって行うことができ、又は触媒はフェノール化合物とジシクロペンタジエンとの混合物に徐々に添加することもできる。反応剤の配合速度は温度が1600℃以下に維持されるかぎり、広い範囲内で変えることができる。
【0029】
本合成方法の第二工程は第一工程で得られた生成物のアルキル化を包含する。本方法の第二工程の実施に際し、第一工程から得られた樹脂状生成物は好ましくは、等量の不活性炭化水素溶媒、例えばベンゼン、トルエンなどに溶解させる。アルキル化は任意に、20〜100℃、例えば60〜80℃の温度で行う。アルキル化剤として使用される三級オレフィンが気体である場合、反応混合物に加圧下に添加することができるが、過度の重合は回避されるべきことから、この圧力は30p.s.i.(207kPa)を超えるべきではない。本方法の第二工程において、アルキル化は可能な限り迅速に行うと好ましいが、反応が完了する時間は使用されるアルキル化剤の活性度に依存する。
【0030】
前記合成方法で得られる比較的高分子量のフェノール分子を含む複合反応混合物の化学組成は正確な化学式で示すことはできない。しかしながら、一般に、本発明の酸化防止剤組成物に使用されるヒンダードフェノール化合物は一般式(I):
【化10】


(式中、nは0〜50であり、並びにR及びRは独立して、水素、1個又はより多くの置換基により置換されていてもよい直鎖状又は分枝鎖状C〜C30アルキル基又はアルキレン基、C〜C12シクロアルキル、C〜C12アリール又はC〜C12アルキルアリールである)を有する化合物を包含する。特に好適な態様において、Rはt−ブチルであり、及びRはメチルである。Rは好ましくは、5個又はそれ未満の炭素を有するアルキル基又はアルキレン基である。一例として、Rはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル及びネオペンチルからなる群から選択することができる。
【0031】
さらに好ましくは、本発明の酸化防止組成物は一般式(V):
【化11】


(式中、R、R及びnは上記定義の通りである)を有するヒンダードフェノール化合物を含む。特に好適な態様において、Rはt−ブチルであり、及びRはメチルである。もう一つの態様において、Rはtert−ブチル又はそのα位が置換されていてもよいスチレニル(例えば、メチル又はエチルで置換されている)である。
【0032】
本発明の目的である酸化防止剤組成物に使用することができる市販の立体ヒンダードフェノール化合物の特定の例は、GoodyearのWingstay(商標)としても知られているGreat Lakes Chemical CorporationのLowinox(商標)である。これはp−クレゾールとジシクロペンタジエンとの反応生成物を、次いイソブチレンアルキル化した生成物である。
【0033】
前記したように、ある種のヒンダードフェノールは本発明の酸化防止剤組成物における使用を回避すべきである。特に、ある種のフェノールは上昇した温度で分解するおそれがある。従って、ある種の最終使用用途、例えばモーター油用途には適していないことがある。本発明の酸化防止剤組成物又は潤滑剤組成物は好ましくは、式(III):
【化12】


(式中、R、R及びRは同一又は相違しており、直鎖状又は分枝鎖状C〜C18アルキル基を表す)のヒンダードフェノールを実質的に含有していない。
態様の一つにおいて、例えばR及びRはt−ブチルであり、及びRは直鎖状又は分枝鎖状C〜C18アルキル基を表す。この点に関し、「実質的に含有していない」の用語は、酸化防止剤組成物又は潤滑剤組成物がこのような化合物を酸化防止剤組成物又は潤滑剤組成物の総重量に基づき1重量%以下の量、例えば0.5重量パーセント未満、0.2重量パーセント未満、又は約0重量パーセントの量で含むことを意味する。好ましくは、式(III)のヒンダードフェノールは本発明の酸化防止剤組成物又は潤滑剤組成物中で容易に検出することはできない。別の態様において、酸化防止剤組成物がこのような式(III)のヒンダードフェノールを含むこともできるが、少量であることが好ましい。
【0034】
[ジアリールアミン]
前記したように、本発明の酸化防止剤組成物はまた、1種又はより多くのジアリールアミン、好ましくは式(II):
(R−Ar−NH−Ar−(R
(II)
(式中、Ar及びArは独立して、芳香族炭化水素基であり、並びにR及びRは独立して、水素又は炭素原子6個〜約100個を有するヒドロカルビル基であり、及びa及びbは独立して、0〜3であり、但し(a+b)は4以下である)のジアリールアミンを含む。
【0035】
本発明の酸化防止剤組成物に使用することができる市販のジアリールアミンは、例えばChemtura CorporationによるNaugalube438L(商標)(モノ−及びジ−ノニルジフェニルアミンの混合物)を包含する。ジアリールアミンの追加の例は、ジフェニルアミン;N−アルキルジフェニルアミン;4−イソプロポキシ−ジフェニルアミン;N−フェニル−1−ナフチルアミン;N−(4−t−オクチル−フェニル)−1−ナフチルアミン;N−フェニル−2−ナフチルアミン;及びジフェニルアミンオクチレート、例えばp,p’−ジ−t−オクチルジフェニルアミンを包含する。
【0036】
本発明の実施に有用な二級ジアリールアミン化合物の追加の例は、これらに制限されないものとして、ジフェニルアミン、モノアルキル化ジフェニルアミン、ジアルキル化ジフェニルアミン、トリアルキル化ジフェニルアミン、又はその混合物、3−ヒドロキシジフェニルアミン、4−ヒドロキシジフェニルアミン、モノ−及び/又はジ−ブチルジフェニルアミン、モノ−及び/又はジ−オクチルジフェニルアミン、モノ−及び/又はジ−ノニルジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、ジヘプチルジフェニルアミン、モノ−及び/又はジ−(α−メチルスチリル)ジフェニルアミン、モノ−及び/又はジ−スチリルジフェニルアミン、4−(p−トルエンスルホンアミド)ジフェニルアミン、4−イソプロポキシジフェニルアミン、t−オクチル化N−フェニル−1−ナフチルアミン、モノ−及びジ−アルキル化t−ブチル−t−オクチルジフェニルアミンの混合物、N−フェニル−1,2−フェニレンジアミン、N−フェニル−1,4−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ(ナフチル−2−)−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1−メチルヘプチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、及びN−シクロヘキシル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンを包含する。以下は、今挙げられる二級ジアリールアミン化合物の例である:Chemtura Corporationから市販されているNaugalube438(商標)、Naugalube438L、Naugalube640(オクチル化、ブチル化ジフェニルアミン)、Naugalube635、Naugalube680、NaugalubeAMS、NaugalubeAPAN、NaugardPANA、Naugalube403、Naugalube410、及びNaugalube420;CibaGeigyから市販されているIrganoxL06(商標)及びIrganoxL57;R.T.Vanderbiltから市販されているVanlubeSL、Vanlube961、Vanlube81、VanlubeSS、VanlubeDND;Albermarleから市販されているEthanox4720、Ethanox4793、Ethanox4780;Rhein Chemieから市販されているAdditinM−10314;及びLubrizolから市販されているGood−rite3128。
【0037】
[酸化防止剤組成物]
(a)上記式(I)の立体ヒンダードフェノールの群に属する固形化合物を含む第一酸化防止剤及び(b)上記式(II)の液状ジアリールアミン化合物を含む第二酸化防止剤を含むか、(a)及び(b)から基本的に構成されているか、又は(a)及び(b)から構成されている酸化防止剤組成物が驚くほど望ましい安定化物性を有することがここに見出された。さらに、本発明の酸化防止剤組成物は好ましくは、室温及び0℃より低い温度(例えば、−30℃ほどの低温)の両方において永続的に液体のままとどまることができ、これにより広範囲の温度に対し望ましい取り扱い特性が付与される。
【0038】
本発明の酸化防止剤組成物中に含有される第一酸化防止剤と第二酸化防止剤との相対量は広く変えることができる。好適な態様の中で、例えば酸化防止剤組成物は式(I)の第一酸化防止剤を酸化防止剤組成物中に含有される全酸化防止剤の総重量に基づき1重量パーセントより多い量、例えば5重量パーセントより多い量、又は10重量パーセントより多い量で含んでいる。範囲で表すと、酸化防止剤組成物は任意に、式(I)の第一酸化防止剤を酸化防止剤組成物中に含有される全酸化防止剤の総重量に基づき5〜50重量パーセント、例えば5〜40重量パーセント、又は10〜30重量パーセントの範囲の量で含む。
【0039】
本発明の酸化防止剤組成物はまた好ましくは、式(II)の第二酸化防止剤を酸化防止剤組成物中に含有される全酸化防止剤の総重量に基づき1重量パーセントより多い量、例えば50重量パーセントより多い量、60重量パーセントより多い量、又は70重量パーセントより多い量で含んでいる。範囲で表すと、酸化防止剤組成物は任意に、式(II)の第二酸化防止剤を酸化防止剤組成物中に含有される全酸化防止剤の総重量に基づき50〜95重量パーセント、例えば60〜95重量パーセント、又は70〜90重量パーセントの範囲の量で含む。
【0040】
本発明の酸化防止剤組成物中に含有される、式(II)の第二酸化防止剤 対 式(I)の第一酸化防止剤 の重量比は同様に、広く変えることができる。好適な態様の中で、本発明の酸化防止剤組成物は、3:1より大きい、例えば4:1より大きい、又は5:1より大きい重量比で、式(II)の第二酸化防止剤 と 式(I)の第一酸化防止剤 を含んでいる。好ましくは、第二酸化防止剤 対 第一酸化防止剤 の重量比は19:1以下である。範囲で表すと、第二酸化防止剤 対 第一酸化防止剤 の重量比は任意に、1:99〜99:1、例えば3:1〜19:1、又は5:1〜19:1である。
【0041】
前記式(I)のヒンダードフェノール化合物及び式(II)のジアリールアミン化合物に加えて、本発明の酸化防止剤組成物は1種又はより多くの追加の酸化防止剤を包含することができるが、上記式(III)の追加の酸化防止剤を含有していないと好ましい。
【0042】
本発明の酸化防止剤組成物は種々の方法により製造することができる。しかしながら、式(I)のヒンダードフェノール化合物及び式(II)のジアリールアミン化合物のどちらか、又は両方を加熱し、その後に相互に配合すると好ましい。
【0043】
一例として、態様の一つにおいて、本発明の酸化防止剤組成物は、(a)第一酸化防止剤(例えば、式(I)のヒンダードフェノール化合物及び/又は第二酸化防止剤(例えば、式(II)のジアリールアミン)のどちらか;又は両方を60℃〜180℃、さらに好ましくは70℃〜140℃、90℃〜120℃又は約100℃の温度に、好ましくは攪拌下に加熱し;次いで(b)第一酸化防止剤と第二酸化防止剤とを配合し、酸化防止剤組成物を形成する;工程を含む方法によって製造する。配合工程中、どちらかの酸化防止剤をもう一方の酸化防止剤に添加することもできる。好ましくは、生成する混合物を第一酸化防止剤が完全に溶解するまでの期間、例えば5分〜100分、好ましくは10分〜60分の範囲の期間にわたり連続的に攪拌する。生成する酸化防止剤組成物は室温で液状である。理想的には、酸化防止剤組成物は100℃において80cSt未満、60cSt未満、又は40cSt未満の動粘度を有する。
【0044】
このようにして得られる液状混合物はドラム又はタンク中に供給することができ、及び室温において、固形化合物(式(I)のヒンダードフェノール化合物)の再沈殿を伴うことなく永続的に液状である。
【0045】
[潤滑油の安定化]
本発明の酸化防止剤組成物は潤滑剤組成物、例えば潤滑剤ベースストック組成物の安定化に使用することができる。適当なベースストックはエンジン油、トランスミッション液、油圧作動液、ギア油、海洋シリンダ油、コンプレッサ油、冷蔵庫潤滑油、航空用タービン油、ガス用タービン油、チェーン油、金属作業用液、及びその混合物に使用されるベースストックからなる群から選択することができる。
【0046】
本発明の酸化防止剤組成物は好ましくは、酸化、熱及び/又は光誘発劣化に曝される潤滑油の酸化安定性を改善する。これらの潤滑油は天然又は合成のものであることができ、例えば「機能性液体」、潤滑油、グリース及び燃料、並びに自動式及び手動式トランスミッション液、パワーステアリング液、油圧作動液、ガスタービン油、コンプレッサ潤滑油、自動車用及び工業用ギア潤滑油、並びに熱交換油を包含することができる。本発明の実施に有用な潤滑剤組成物は好ましくは、主要量の潤滑粘度を有する油及び少量の少なくとも1種の本発明の潤滑剤組成物を含む。
【0047】
本発明の観点から有用な潤滑粘度を有する油は天然潤滑油、合成潤滑油及びその混合物から選択することができる。潤滑油は軽質蒸留鉱油から重質潤滑油、例えばガソリンエンジン油、鉱物潤滑油及びへビーデューティーディゼル油までの粘度の範囲にわたることができる。一般に、これらの油の粘度は100℃で測定して約2センチストークス〜約40センチストークス、特に約4センチストークス〜約20センチストークスの範囲である。
【0048】
ディーゼル燃料油は石油を基材とする燃料油、特に中間蒸留燃料油である。このような蒸留燃料油は一般に、110℃〜500℃、例えば150℃〜400℃の範囲内で沸騰する。燃料油は大気圧蒸留油又は減圧蒸留油、分解ガス油、接触分解蒸留液及び水素化分解蒸留液などの直留蒸留流及び熱蒸留流及び/又は精製流の全部の割合の配合物を含むことができる。
【0049】
適当なディーゼル燃料は、例えばフィッシャー−トロプシュ燃料を包含する。FT燃料としても知られているフィッシャー−トロプシュ燃料は、気体−液体(gas−to−liquid)(GTL)燃料、バイオマス−液体(biomass−to−liquid)(BTL)燃料及び石炭変換燃料として開示されている燃料を包含する。このような燃料を製造するためには、先ずシンガス(CO+H)を発生させ、次いでフィッシャー−トロプシュ法によってノルマルパラフィンに変換する。このノルマルパラフィンを次いで、接触分解/精製又は異性化、水素化分解及び水素化異性化などの処理により改質し、種々の炭化水素、例えばイソパラフィン、シクロパラフィン及び芳香族化合物を生成する。生成するFT燃料はそのままで、又は別の燃料組成物及び種々の燃料と組合せて使用することができる。また、植物又は動物起源から誘導されるディーゼル油も適している。これらは単独で、又は別種の燃料と組合わせて使用することができる。
【0050】
好ましくは、ディーゼル燃料は最大で0.05重量%、さらに好ましくは最大で0.035重量%、特に最大で0.015重量%のイオウ含有量を有する。さらにイオウレベルが低い燃料でさえも、例えばイオウが50ppm未満、好ましくは20ppm未満、例えば10ppm又はそれ未満である燃料もまた適している。
【0051】
植物又は動物原料から誘導される油又は油脂は燃料として、例えばディーゼルなどの石油派生中間蒸留燃料の部分的又は完全代用物として用途が次第に見出されてきている。通常、このような燃料は「バイオ燃料」又は「バイオディーゼル」として知られている。バイオ燃料はかなりの供給源から誘導することができる。最も慣用のバイオ燃料の中には、ナタネ油、ヒマワリ油などの植物から抽出される脂肪酸のアルキル、オレフィンメチル、エステル類がある。これらの種類の燃料はしばしば、FAME(脂肪酸メチルエステル)と称される。
【0052】
天然油は動物油及び植物油(例えば、ラード油、ヒマシ油);液状石油並びにパラフィン系、ナフテン系及びパラフィン−ナフテン型混合物の水素化精製、溶媒処理又は酸処理された鉱油を包含する。石炭又はシェールから誘導される潤滑粘度の別種の例もまた、有用な基油として役立つ。動物又は植物原料から誘導される油及び脂肪の別種の例には、ナタネ油、コリアンダ油、大豆油、綿実油、ヒマワリ油、ヒマシ油、オリーブ油、ピーナツ油、トウモロコシ油、アーモンド油、パーム核油、ココナツ油、カラシ油、ジャトロファ(jatropha)油、牛脂及び魚油がある。追加の例は、トウモロコシ、ジュート、ゴマ、シアナッツ、グランドナッツ、及びアマニ油から誘導される油を包含し、これらは当技術で既知の方法によってこれらから誘導することができる。グリセロールにより部分的にエステル化されている脂肪酸の混合物であるナタネ油は大量に入手することができ、ナタネの圧縮によって簡単な方法で得ることができる。使用済み台所油などの再使用もまた、適当である。
【0053】
脂肪酸のアルキルエステルの有用な例は炭素原子12〜22個を有する脂肪酸のエチル、プロピル、ブチル、及び特にメチルエステルの市販混合物を包含することができる。一例として、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミトール酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、ペトロセリン(petroselic)酸、リシノール酸、エラエオステアリン(elaeostearin)酸、リノール酸、エイコサン酸、ガドレイン酸、ドコサン酸、又はエルカ酸は有用であり、これらは50〜150、特に90〜125のヨウ素価を有する。特に有利な性質を有する混合物は主として、すなわち少なくとも50重量%の量で炭素原子16〜22個及び二重結合1、2又は3個を有する脂肪酸のメチルエステルを含有するものである。好適な脂肪酸の低級アルキルエステルはオレイン酸、リノール酸、リノレン酸及びエルカ酸のメチルエステルである。
【0054】
前記種類の市販混合物は、例えば低級脂肪族アルコールを用いるそれらのエステル交換による動物及び植物の油脂及び油の分解及びエステル化によって得られる。脂肪酸のアルキルエステルの製造にあたり、20%未満の低レベルで飽和脂肪酸を含有し、及び130未満のヨウ素価を有する油脂及び油から出発すると有利である。下記エステル又は油の配合物、例えばナタネ、ヒマワリ、コリアンダー、ヒマシ、大豆、ピーナツ、綿実、牛脂なども適当である。新しい種々のナタネ油を基材とする脂肪酸のアルキルエステルであって、その脂肪酸成分が炭素原子18個を有する不飽和脂肪酸を80重量%より多い量で含むものは好適である。
【0055】
バイオ燃料として利用することができる油は特に好適である。バイオ燃料は燃焼に際し環境に与える損害が少なく、また再生可能な供給源から得られる。燃焼に際し、二酸化炭素量は等量の石油蒸留燃料、例えばディーゼル燃料によって生成される量より少なく、また生成される二酸化イオウは非常に少ないことが報告されている。植物油のある種の誘導体、例えばケン化及び一価アルキルアルコールによる再エステル化によって得られる誘導体は、ディーゼル燃料の代替物質として使用することができる。
【0056】
好適なバイオ燃料は植物油誘導体であり、特に好ましいバイオ燃料はナタネ油、綿実油、大豆油、ヒマワリ油、オリーブ油、又はパーム油のアルキルエステル誘導体であり、ナタネ油メチルエステルは特に好ましい。これらは単独で又は別種の植物油誘導体との混合物、例えばナタネ油メチルエステルとパーム油メチルエステルとの全ての割合の混合物として特に好ましく使用される。
【0057】
現時点で、バイオ燃料は最も一般的に、石油由来油と組合わせて使用されている。本発明はバイオ燃料と石油由来燃料との全割合の混合物に適用することができる。一例として、少なくとも5%、好ましくは少なくとも25%、さらに好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも95%の油を植物又は動物起源から誘導することができる。
【0058】
合成潤滑油は炭化水素油及びハロ置換炭化水素油、例えば重合及び混合重合オレフィン類(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン−イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1−ヘキセン)、ポリ(1−オクテン)、ポリ(1−デセン));アルキルベンゼン類(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2−エチルヘキシルベンゼン));ポリフェニル類(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェノール));及びアルキル化ジフエニルエーテル類及びアルキル化ジフェニルスルフィド類;並びにその誘導体、類縁体及び同族体を包含する。通常、気体−液体基油又は「GTL」基油と称されているフィシャー−トロプシュ合成炭化水素からの気体−液体法から誘導される合成油もまた、有用である。
【0059】
アルキレンオキシドポリマー及び混合重合体、並びにその末端ヒドロキシル基がエステル化、エーテル化などによって修飾されているその誘導体は公知合成潤滑油のもう一つの群を構成している。これらの具体例には、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドの重合によって生成されるポリオキシアルキレンポリマー及びポリオキシアルキレンポリマーのアルキル及びアリールエーテル(例えば、分子量1000を有するメチル−ポリイソプロピレングリコールエーテル又は分子量1000〜1500を有するポリエチレングリコールのジフェニルエーテル)、並びにそのモノ−及びポリカルボン酸エステル、例えば酢酸エステル、混合C〜C脂肪酸エステル、及びテトラエチレングリコールのC13オキソ酸ジエステルがある。
【0060】
合成潤滑油の適当な別の一群はジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)の各種アルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノマー、プロピレングリコール)によるエステルを含む。このようなエステルの特定の例はジブチルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ−n−ヘキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソプロピルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、リノール酸ダイマーの2−エチルヘキシルジエステル、及び1モルのセバシン酸と2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2−エチルヘキサン酸との反応によって生成される複合エステルを包含する。
【0061】
合成油として有用なエステルはまた、C〜C12モノカルボン酸及びポリオールから生成されるもの及びポリオールエステル、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトールを包含する。
【0062】
ケイ素を基材とする油、例えばポリアルキル−、ポリアリール−、ポリアルコキシ−又はポリアリールオキシシリコーン油及びシリケート油はもう1種の合成潤滑油の有用な一群を含んでいる;このような油はテトラエチルシリケート、テトライソプロピルシリケート、テトラ−(2−エチルヘキシル)シリケート、テトラ−(4−メチル−2−エチルヘキシル)シリケート、テトラ−(p−tert−ブチル−フェニル)シリケート、ヘキサ−(4−メチル−2−エチルヘキシル)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン及びポリ(メチルフェニル)シロキサンを包含する。別種の潤滑油はリン含有酸の液状エステル(例えば、トリクレシルホスフェート、トリオクチルホスフェート、デシルホスホン酸のジエチルエステル)及びポリマー状テトラヒドロフランを包含する。
【0063】
潤滑粘度を有する油は前記ベースストックのグループI、グループII又はグループIIIベースストック又は基油配合物を含むことができる。好ましくは、潤滑粘度を有する油はグループII又はグループIIIベースストック又はその混合物、又はグループIベースストックと1種又はより多くのグループII及びグループIIIの混合物である。好ましくは、潤滑粘度を有する油の主要量はグループII、グループIII、グループIV、又はグループVベースストック、あるいはその混合物である。ベースストック又はベースストック配合物は、好ましくは少なくとも65%、さらに好ましくは少なくとも75%、例えば少なくとも85%の飽和物質含有量を有する。最も好ましくは、ベースストック又はベースストック混合物は90%よりも多い飽和含有量を有する。好ましくは、これらの油又は油混合物は1重量%未満、好ましくは0.6重量%未満、最も好ましくは0.4重量%未満のイオウ含有量を有する。
【0064】
好ましくは、これらの油又は油混合物の揮発度は、Noack揮発度試験(ASTM D5880)により測定して、30%より低いか、又は30%に等しく、好ましくは25%より低いか、又は25%に等しく、さらに好ましくは20%より低いか、又は20%に等しく、最も好ましくは16%より低いか、又は16%に等しい。好ましくは、これらの油又は油配合物の粘度指数(VI)は少なくとも85、好ましくは少なくとも100、最も好ましくは約105〜140である。
【0065】
本発明におけるこれらのベースストック及び基油に係わる規定は、American Petroleum Institute(API)出版の「エンジン油ライセンス及び認証システム(Engine Oil Licensing and Certification System)」、Industry ServicesDepartment(14版、1996年12月)、Addendum I、1998年12月に見出されるものと同一である。この刊行物はベースストックを下記の通りに分類している:
(a)グループIベースストックは、90%未満の飽和物質及び/又は0.03より多い量のイオウを含有し、及び表1に詳述されている試験方法を使用し、80より高いか、又は80に等しく、及び120未満の粘度指数を有する。
(b)グループIIベースストックは、90%より多いか、又は90%に等しい量の飽和物質及び0.03%未満、又は0.03%に等しい量のイオウを含有し、及び表1に詳述されている試験方法を使用し、80より高いか、又は80に等しく、及び120未満の粘度指数を有する。
(c)グループIIIベースストックは、90%より多いか、又は90%に等しい量の飽和物質及び0.03パーセント未満又は0.03パーセントに等しい量のイオウを含有し、及び表1に詳述されている試験方法(その記載全体を引用してここに組入れる)を使用し、120より高いか、又は120に等しい粘度指数を有する。
(d)グループIVベースストックは、ポリアルファオレフィン類(PAO)である。
(e)グループVベースストックはグループI、II、III又はIVに包含されないその他のベースストックの全部を包含する。
【表1】

【0066】
従って、本発明の追加の態様は潤滑粘度を有する潤滑油(例えば、ベースストック)及び有効量の本発明の酸化防止剤組成物を含有する潤滑剤組成物に関する。酸化防止剤組成物は安定化させる潤滑油(ベースストック、本発明の酸化防止剤組成物及び使用する場合、添加剤を包含する)の重量に関して、例えば0.01重量%〜3.0重量%、好ましくは0.01重量%〜2.5重量%、0.03重量%〜2重量%、0.1重量%〜1重量%、0.1重量%〜3.0重量%、又は1.0重量%〜1.5重量%の範囲の量で安定化させる潤滑油に添加することができる。一例として、本発明の潤滑剤組成物は任意に、潤滑剤組成物の総重量に基づき65〜99.9重量%の量のベースストック及び0.05〜3重量%の量の本発明の酸化防止剤組成物を含む。
【0067】
上記の通り、本発明の酸化防止剤組成物は低いZDDPレベルにおいて潤滑油を安定化する能力を提供する。態様の中で、潤滑剤組成物は潤滑剤組成物の総重量(酸化防止剤組成物、ベースストック及び全部の添加剤を包含する)に基づき1重量%以下の量、例えば0.7重量%未満の量、例えば0.5重量%未満の量、又は0.3重量%未満の量でZDDPを含む。
【0068】
さらに、酸化防止剤組成物は好ましくは、式(III)の酸化防止剤を実質的に含有していないことから、本発明の潤滑剤組成物は好ましくは、高温酸化条件下に安定のままである。上昇した温度における酸化防止剤の安定性は、下記実施例3に記載されている加圧式示差走査熱量計(PDSC)試験期間中の試料の酸化誘導時間(OIT)の測定により求めることができる。態様の中で、例えば本発明の潤滑剤組成物は40分より長い、例えば50分より長い、又は60分より長いPDSC OIT値を有する。
【0069】
本発明の酸化防止剤組成物は潤滑油用途に特に適するが、当該酸化防止剤組成物はポリマー用途における安定剤又は酸化防止剤として使用することもできる。例えば、米国公開出願第2003/0144395A1を参照でき、この出願書の全体を引用してここに組入れる。従って、本発明の追加の態様は有機ポリマー及び本発明の酸化防止剤組成物の1種の有効量を含有するポリマー組成物に関する。酸化防止剤組成物は安定化させる有機ポリマーの重量に基づき0.01重量%〜3.0重量%、好ましくは0.01重量%〜2.5重量%、0.03重量%〜2重量%、0.1重量%〜1重量%、0.1重量%〜3.0重量%、又は1.0重量%〜1.5重量%の範囲の量で安定化させる有機ポリマーに添加することができる。さらに別の態様は上記ポリマー組成物の処理から得られる目的生成物に関する。
【0070】
[追加の添加剤]
本発明の酸化防止剤及び/又は潤滑剤組成物に追加の添加剤を配合し、これらを特定の要件に適合させることができる。本発明の酸化防止剤組成物及び潤滑剤組成物に包含させることができる添加剤の例には、分散剤、洗剤、金属腐食防止剤、粘度指数改良剤、腐食防止剤、(追加の)酸化防止剤、摩擦調整剤、別種の分散剤、発泡防止剤、磨耗防止剤及び流動点降下剤がある。従って、本発明は上記の通り酸化防止剤及び/又は潤滑剤組成物に関するが、さらにある態様では、本発明は、酸化防止剤、磨耗防止剤、洗剤、錆防止剤、曇り防止剤、解乳化剤、金属脱活性化剤、摩擦調整剤、流動点降下剤、発泡防止剤、補助溶剤、パッケージ相溶化剤、顔料、極圧剤及びその混合物からなる群から選択される少なくとも1種の潤滑油用添加剤を含む。これらの添加剤の数種については以下でさらに説明する。
【0071】
本発明の潤滑剤組成物はさらに、1種又はより多くの無灰分散剤を含有することができ、これらの無灰分散剤は潤滑油に添加されると、ガソリン及びディーゼルエンジンで使用した場合の沈着物の形成を効果的に減少させる。本発明の組成物に有用な無灰分散剤は、例えば油溶性ポリマー長鎖骨格が分散させる粒子と会合することができる官能基を有する無灰分散剤を包含する。典型的に、このような分散剤はポリマー骨格にしばしば、架橋基を経て結合しているアミン、アルコール、アミド又はエステル極性基を含む。無灰分散剤は、例えば長鎖炭化水素置換モノ−及びポリカルボン酸又はその無水物の油溶性の塩、エステル、アミノ−エステル、アミド、イミド、及びオキサゾリン;長鎖炭化水素のチオカルボキシレート誘導体;そこに直接結合しているポリアミン分子を有する長鎖脂肪族炭化水素;及び長鎖置換フェノールとホルムアルデヒド及びポリアルキレンポリアミンとの縮合によって生成されるマンニッヒ縮合生成物から選択することができる。
【0072】
好適な分散剤はポリアミン−誘導体化ポリアルファ−オレフィン分散剤、特にエチレン/ブテンアルファ−オレフィン及びポリイソブチレンを基材とする分散剤を包含する。無水コハク酸基で置換されており、ポリエチレンアミンと反応されたポリイソブチレンから誘導される無灰分散剤、例えばポリイソブチレンコハクイミド、ポリエチレンジアミン、テトラエチレンペンタアミン;又はポリオキシプロピレンジアミン、例えばポリオキシプロピレンジアミン、トリメチロールアミノメタン;ヒドロキシ化合物、例えばペンタエリスリトール;及びその組合せは特に好適である。特に好適な分散剤組合せの1種は(A)無水コハク酸基で置換されており、(B)ヒドロキシ化合物、例えばペンタエリスリトールと反応されているポリイソブチレン;(C)ポリオキシアルキレンポリアミン、例えばポリオキシプロピレンジアミン;又は(D)ポリアルキレンジアミン、例えばポリエチレンジアミン及びテトラエチレンペンタミンを(A)1モルに対し(B)、(C)及び/又は(D)を約0.3〜約2モルで使用した組合せである。もう1種の好適な分散剤組合せは、米国特許第3,632,511号に記載されているような(A)ポリイソブテニル無水コハク酸と(B)ポリアルキレンポリアミン、例えばテトラエチレンペンタミン、及び(C)多価アルコール又は多ヒドロキシ置換脂肪族一級アミン、例えばペンタエリスリトール又はトリスメチロールアミノメタンの組合せを含む。
【0073】
ピストン沈着を適度に制御するために、窒素含有分散剤を約0.03重量%〜約0.15重量%、好ましくは約0.07重量%〜約0.12重量%の窒素が潤滑剤組成物に付与される量で添加することができる。
【0074】
金属含有洗剤又は灰形成洗剤は沈着物を減少又は除去するための洗剤として、及び酸中和剤又は錆防止剤としての両方の機能を有し、これにより磨耗及び腐食が減少され、及びエンジン寿命が延長される。洗剤は一般に、長い疎水性尾部を伴う極性先頭部を含み、この極性先頭部は酸性有機化合物の金属塩を含む。これらの塩は実質的に化学量論量の金属を含有することができ、この場合、これらは通常、正塩又は中性塩と称され、代表的に0〜80の総塩基数すなわちTBN(ASTM D2896により測定することができる)を有する。過剰量の金属化合物(例えば、酸化物又は水酸化物)を酸性気体(例えば、二酸化炭素)と反応させることによって大量の金属塩基を組入れることができる。生成する過塩基性(overbased)洗剤は金属塩基(例えば、炭酸塩)ミセルの外側層として中和されている洗剤を含む。このような過塩基性洗剤は150又はより大きいTBNを有することができ、典型的に250〜450、又はより大きいTBNを有する。
【0075】
使用することができる洗剤は、金属、特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム及びマグネシウムの油溶性中性及び過塩基性スルホネート、フェネート、硫化フェネート、チオホスホネート、サリチレート、ナフテネート、並びにその他の油溶性カルボキシレートを包含する。最も慣用される金属はカルシウム及びマグネシウム(これらは両方共に潤滑剤に使用される洗剤に存在させることができる)、並びにカルシウム及び/又はマグネシウムとナトリウムとの混合物である。特に慣用される金属洗剤は、20〜450TBNのTBNを有する中性及び過塩基性カルシウムスルホネート及び50〜450のTBNを有する中性及び過塩基性カルシウムフェネート及び硫化フェネートである。過塩基性又は中性、あるいはその両方に関係なく、洗剤の組合わせを使用することができる。
【0076】
スルホネートは、石油の分画から得られるもののようなアルキル置換芳香族炭化水素のスルホン化により、又は芳香族炭化水素のアルキル化により典型的に得られるスルホン酸から製造することができる。具体例は、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、ジフェニル、又はそれらのハロゲン誘導体、例えばクロロベンゼン、クロロトルエン及びクロロナフタレンのアルキル化によって得られるものを包含する。アルキル化は約3個〜70個以上の炭素原子を有するアルキル化剤を用いて触媒の存在下に行うことができる。アルカリールスルホネートは通常、アルキル置換芳香族基1個あたり約9〜約80個、又はより多くの炭素原子、好ましくは約16個〜約60個の炭素原子を含有する。
【0077】
油溶性スルホネート又はアルカリールスルホン酸は金属の酸化物、水酸化物、アルコキシド、カーボネート、カルボキシレート、硫化物、ヒドロスルフィド、ニトレート、ボレート及びエーテルで中和することができる。金属化合物の量は最終生成物に望まれるTBNに関連して選択されるが、典型的には化学量論上で要求される量の約100〜220重量%(好ましくは、少なくとも125重量%)の範囲である。
【0078】
フェノール及び硫化フェノールの金属塩は適当な金属化合物、例えば酸化物又は水酸化物との反応によって製造され、また中性又は過塩基性生成物は当技術で公知の方法によって得ることができる。硫化フェノールはフェノールをイオウ又はイオウ含有化合物、例えば硫化水素、イオウモノハライド又はイオウジハライドと反応させ、一般に2個又はより多くのフェノールがイオウ含有架橋によって架橋されている化合物の混合物である生成物を生成することによって製造することができる。
【0079】
ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩はしばしば、磨耗防止剤及び酸化防止剤として使用される。金属はアルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケル又は銅であることができる。亜鉛塩は潤滑油組成物の総重量に基づき0.1〜10重量%、好ましくは0.2〜2重量%の量で潤滑油に最も慣用される。これらは、公知技術に従い、先ず通常、1種又はより多くのアルコール又はフェノールをPと反応させることによってジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)を生成し、次いで生成されたDDPAを亜鉛化合物により中和することによって製造することができる。一例として、ジチオリン酸は一級及び二級アルコールの混合物を反応させることによって製造することができる。別法として、多種ジチオリン酸は、一方のヒドロカルビル基が全体的に二級の性質を有し、他方のヒドロカルビル基が全体的に一級の性質を有する場合に製造することができる。亜鉛塩を製造する場合、全ての塩基性又は中性亜鉛化合物を使用することができるが、酸化物、水酸化物及びカルボキシレートが最も一般的に使用される。市販添加剤はしばしば、中和反応に過剰量の塩基性亜鉛化合物が使用されることから過剰の亜鉛を含有する。
【0080】
好適なジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛塩はジヒドロカルビルジチオリン酸の油溶性塩であり、亜鉛ジアルキルジチオホスフェートを含むことができる。本発明は、組成物の総質量に基づき約0.02〜約0.12重量%、例えば約0.03〜約0.10重量%又は約0.05〜約0.08重量%のレベルのリンを含有する乗用車ディーゼルエンジン潤滑剤組成物及び組成物の総質量に基づき約0.02〜約0.16重量%、例えば約0.05〜約0.14重量%又は約0.08〜約0.12重量%のレベルのリンを含有するヘビーデューティーディゼルエンジン潤滑剤組成物で使用すると特に有用であることができる。好適な態様の一つにおいて、本発明の潤滑油組成物は、主として(例えば、60モル%以上などの50モル%以上)二級アルコールから誘導される亜鉛ジアルキルジチオホスフェートを含有する。このような磨耗防止性添加剤の例を下記に挙げる。これらはThe Lubrizol Corporationから市販されている中でも:677A;Lubrizol1095;Lubrizol1097;Lubrizol1360;Lubrizol1395;Lubrizol5139;及びLubrizol5604;並びにCiba−Geigyから市販されているIrgalube353。
【0081】
酸化抑制剤又は酸化防止剤は作業中における潤滑剤組成物の劣化傾向を減少させる。酸化による劣化は、潤滑油中のスラッジ、金属表面上のワニス状沈着物及び粘度の増加によって証明することができる。このような酸化抑制剤は(本発明の酸化防止剤組成物中に使用される第一及び第二酸化防止剤に加えて)、ヒンダードフェノール、好ましくはC〜C12アルキル側鎖を有するアルキルフェノールチオエステルのアルカリ土類金属塩、カルシウムノニルフェノールスルフィド、油溶性フェネート及び硫化フェネート、リン硫化又は硫化炭化水素、亜リン酸エステル、金属チオカルバメート、米国特許第4,867,890号に記載されているような油溶性銅化合物、モリブデン含有化合物及び芳香族アミン(前記式(II)の芳香族アミンに加えて)を包含することができる。
【0082】
1種又はより多くの追加の酸化防止剤を本発明の酸化防止剤組成物及び潤滑剤組成物に第一酸化防止剤及び第二酸化防止剤とともに使用することができる。好適な態様の一つにおいて、本発明の潤滑油組成物はアミン系酸化防止剤(式(II)の第二酸化防止剤を包含する)を約0.1〜約1.2重量%の量で、及びフェノール酸化防止剤(式(I)の第一酸化防止剤を包含する)を約0.1〜約3重量%の量で含有する。別の好適な態様において、本発明の潤滑油組成物はアミン系酸化防止剤約0.1〜約1.2重量%、フェノール酸化防止剤約0.1〜約3重量%及びモリブデンが約10〜約1000ppmの量で潤滑油組成物に供給される量のモリブデン化合物を含有する。好ましくは、本発明の実施に有用な潤滑油組成物、特に1200ppmより多くない量でリンを含有することが要求される本発明の実施に有用な潤滑油組成物は無灰酸化防止剤を約0.1〜約5重量%、好ましくは約0.3〜約4重量%、さらに好ましくは約0.5〜約3重量%の量で含有する。リン含有量がさらに低いことが要求される場合、第一酸化防止剤及び第二酸化防止剤以外に無灰酸化防止剤の量を増加すると好ましい。
【0083】
適当な粘度調整剤の代表例には、ポリイソブチレン、エチレンとプロピレンとのコポリマー、ポリメタアクリレート、メタアクリレートコポリマー、不飽和ジカルボン酸とビニル化合物とのコポリマー、スチレンとアクリル酸エステルとのインターポリマー、及びスチレン/イソプレン、スチレネルブタジエン及びイソプレン/ブタジエンの部分的に水素化されたコポリマー、並びにブタジエンとイソプレンとの部分的に水素化されたホモポリマーがある。
【0084】
粘度指数改質分散剤は粘度指数調整剤として、及び分散剤としての両方の機能を果たす。粘度指数改質分散剤の例はアミン、例えばポリアミンとヒドロカルビル置換基が化合物に粘度指数改質性を付与するの充分に長い鎖長をするヒドロカルビル置換モノ−又はジカルボン酸との反応生成物を包含する。一般に、粘度指数改質分散剤は、例えばビニルアルコール又はC〜C10不飽和モノカルボン酸又はC〜C10ジカルボン酸の炭素原子4〜10個を有する不飽和窒素含有モノマーによるのC〜C24不飽和エステル;C〜C20オレフィンとアミン、ヒドロキシアミン又はアルコールにより中和されている不飽和C〜C10モノ−又はジカルボン酸とのポリマー;C〜C20不飽和窒素含有モノマーをそこにグラフトすることによって、又はポリマー骨格に不飽和酸をグラフトし、次いでこのグラフトされた酸のカルボン酸基をアミン、ヒドロシアミン又はアルコールと反応させることによってさらに反応されているC〜C20オレフィンとエチレンとのポリマーであることができる。
【0085】
燃料油の他の成分に適合する摩擦調整剤及び燃料節約剤をまた、包含させることができる。このような原料の例は高級脂肪酸のグリセリルモノエステル、例えばグリセリルモノ−オレエート;長鎖ポリカルボン酸のジオールによるエステル、例えば二量化不飽和脂肪酸のブタンジオールエステル;オキサゾリン化合物;並びにアルコキシル化アルキル置換モノ−アミン、ジアミン及びアルキルエーテルアミン、例えばエトキシル化タローアミン及びエトキシル化タローエーテルアミン;を包含する。
【0086】
別種の公知摩擦調整剤は油溶性有機モリブデン化合物を含む。このような有機モリブデン摩擦調整剤はまた、潤滑油組成物に酸化防止性及び磨耗防止性を付与する。このような油溶性有機モリブデン化合物の例は、ジチオカルバメート、ジチオホスフェート、ジチオホスフィネート、キサンテート、チオキサンテート、スルフィド、及びその混合物を包含する。モリブデンジチオカルバメート、ジアルキルジチオホスフェート、アルキルキサンテート、及びアルキルチオキサンテートは特に好適である。
【0087】
さらに、モリブデン化合物は酸性モリブデン化合物であることができる。これらの化合物はASTM試験D−664又はD−2896検定方法により測定して、塩基性窒素化合物と反応し、また典型的には六価である。モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、及びその他のモリブデン酸アルカリ金属塩及びその他のモリブデン塩、例えばモリブデン酸水素ナトリウム、MoOCl、MoOBr、MoCl、三酸化モリブデン又は類似の酸性モリブデン化合物を包含する。
【0088】
本発明の組成物に有用なモリブデン化合物の中には、式:Mo(ROCSの有機モリブデン化合物(式中、Rは一般に炭素原子1〜30個、好ましくは炭素原子2〜12個、最も好ましくは炭素原子2〜12個を有するアルキル、アリール、アラルキル、及びアルコキシアルキルからなる群から選択される有機基である)がある。モリブデンのジアルキルジチオカルバメートは特に好適である。
【0089】
本発明の潤滑剤組成物に有用なもう一つの群の有機モリブデン化合物は三核状モリブデン化合物、特に式Moのもの及びその混合物である(式中、Lは独立して、当該化合物を油中で可溶性又は分散性にするのに充分な数の炭素原子を有する有機基を有するリガンドであり、nは1〜4であり、kは4〜7であり、Qは中性電子付与性化合物、例えば水、アミン、アルコール、ホスフィン及びエーテルの群から選択され、及びzは0〜5の範囲であり、及び非化学量論的数値を包含する)。このリガンド有機基は全部がその中に少なくとも21個の総炭素原子、例えば少なくとも25個、少なくとも30個、又は少なくとも35個の炭素原子が存在するものであるべきである。
【0090】
モリブデン摩擦改質添加剤の例を下記に示す:R.T.Vanderbilt Company,Inc.から市販されている中でも:Molyvan(商標)A、MolyvanL、Molyvan807、Molyvan856B、Molyvan822、Molyvan855。このような添加剤の例を下記に示す:Asahi Denka Kogyo K.K.から市販されている中でも:SAKURA−LUBE(商標)100、SAKURA−LUBE165、SAKURA−LUBE300、SAKURA−LUBE310G、SAKURA−LUBE321、SAKURA−LUBE474、SAKURA−LUBE600、SAKURA−LUBE700。このような摩擦改質添加剤の追加の例を下記に示す:Akzo Nobel Chemicals GmbHから市販されている中でも:Ketjen−OX(商標)77M、Ketjen−OX77TS。NaugalubeMolyFMはまた、このような添加剤の例であり、Chemtura Corporationから市販されている。
【0091】
別名潤滑油流動改良剤(LOFI)としても知られている流動点降下剤は当該液体が流動するか、又は注入することができる最低温度を低下させる。このような添加剤は周知である。液体の低温流動性を改善するこれらの添加剤の代表例にはC〜C18ジアルキルフマレート/ビニルアセテートコポリマー及びポリメタアクリレート類がある。発泡の制御はポリシロキサン型の発泡防止剤、例えばシリコーン油又はポリジメチルシロキサンによって付与することができる。流動点降下剤の例にはポリメタアクリレートなどがある。
【0092】
ある種の上記添加剤は多種の効果を提供することができ、例えば単独の添加剤が分散−酸化抑制剤として作用することができる。この手段は周知であり、ここではさらに説明する必要はない。
【0093】
腐食防止剤の例はアミン複合物、ベンゾトリアゾール−、トリルチアゾール−、チジアゾール−、及びイミダゾール−に基づく化合物などを包含する。腐食防止剤の例を下記に示す:King Industries,Inc.から市販されているK−Corr(商標)100A2。
【0094】
粘度指数(V.I.)改良剤はオレフィンコポリマー、分散性オレフィンコポリマー、エチレン−α−オレフィンコポリマー(ここで、α−オレフィンはプロピレン、1−ブテン又は1−ペンテンであることができる)又はそのハイブリッド、ポリイソブチレン又はそのハイブリッド、スチレン−ジエン水素化コポリマー、スチレン−無水マレエートコポリマー、及びポリアルキルスチレンなどを包含する。
【0095】
発泡防止剤の例はポリシロキサン、シリコーン類、例えばジメチルシリコーン及びフルオロシリコーンなどを包含する。発泡防止剤の例を下記に示す:Munzing/Ulta Additivesから市販されている:Foam Ban(商標)MS−575。
【0096】
本発明において、配合物の粘度の安定性を維持する添加剤を包含させる必要があることがある。このような場合、極性基含有添加剤は予備配合工程において適当に低い粘度を達成させるが、ある種の組成物では、延長された期間にわたり保存した場合、粘度の増加が見出される。この粘度の増加の制御に有効である添加剤は前記の無灰分散剤の製造に使用されるモノ−又はジカルボン酸又は酸無水物との反応によって官能性化された長鎖炭化水素を包含する。
【0097】
潤滑剤組成物が1種又はより多くの前記添加剤を含有する場合、各添加剤は典型的に、添加剤が所望の機能を付与できる量で基油中に配合する。クランク室潤滑油で使用する場合におけるこのような添加剤の代表有効量を下記表2に示す。挙げられている数値は全部が活性成分重量パーセントとして示されている。
【表2】

【0098】
本発明の、完全配合された乗用車ディーゼルエンジン潤滑油(PCDO)組成物は好ましくは、約0.4重量%未満、例えば約0.35重量%未満、さらに好ましくは約0.03重量%未満、例えば約0.15重量%未満の量のイオウ含有量を有する。好ましくは、完全配合されたPCDO(潤滑粘度の油及び全添加剤)のNoack揮発度は13以下であり、例えば12以下であり、好ましくは10以下である。本発明の、完全配合されたPCDOは好ましくは、1200ppm以下の量のリンを含有し、例えば1000ppm以下の量のリンを含有し、又は800ppm以下の量のリンを有する。本発明の、完全配合されたPCDOは好ましくは、約1.0重量%又はそれ未満のイオウ化灰(SASH)含有量を有する。
【0099】
本発明の、完全配合されたヘビーデューティーディゼルエンジン(HDD)潤滑油組成物は好ましくは、約1.0重量%未満、例えば約0.6重量%未満、さらに好ましくは約0.4重量%未満、例えば約0.15重量%未満のイオウ含有量を有する。好ましくは、完全配合されたHDD潤滑油組成物(潤滑粘度の油及び全添加剤)のNoack揮発度は20以下であり、例えば15以下であり、好ましくは12以下である。本発明の、完全配合されたHDD潤滑油組成物は好ましくは、1600ppm以下の量のリンを含有し、例えば1400ppm以下か、又は1200ppm以下の量でリンを含有する。本発明の、完全配合されたHDD潤滑油組成物は好ましくは、約1.0重量%又はそれ未満のイオウ化灰(SASH)含有量を有する。
【実施例】
【0100】
本発明の若干の非制限的実施例を本発明のより良好な理解及びその実施のために示す。
【0101】
[実施例1](TEOST分析)
本発明のある種の態様に従う式(I)のポリマー状ヒンダードフェノールを含む酸化防止剤組成物の酸化防止効果及び式(II)の二級ジアリールアミンとのその相乗効果を、加速酸化ベンチ試験、詳細には中〜高温サーモ酸化エンジン油シュミレーション試験(Thermo−oxidation Engine Oil Simulation Test)(TEOST、ASTM D7097、引用してここに組入れる)を使用し、被験低リン含有SAE5W20完全配合エンジン油において実証した。
【0102】
SAE5W20エンジン油配合物は市販の成分を用いて表3に示されている通りに予備配合した。本発明の観点から、原料の種類及び正確な組成に特定の制限はない。
【表3】

【0103】
式(I)のポリマー状ヒンダードフェノールは、場合により式(II)の二級ジアリールアミンとの混合物としてエンジン油予備配合物に添加した。ヒンダードフェノールと二級ジアリールアミンとの相対量を下記表5に示す。添加された酸化防止剤の総量は1.0〜1.5重量パーセントであった。最終エンジン油は約0.044重量%のリンを含んでいた。
【0104】
試験に使用されたポリマー状ヒンダードフェノールはLowinox(登録商標)CPLであった。これはp−クレゾールとジシクロペンタジエン及びイソブチレンとの反応生成物である。試験に使用された二級ジアリールアミンは主としてモノ−及びジ−ノニルジフェニルアミンの複合混合物であった。これは現時点で、商標Naugalube438Lとして販売されている。製品は両方共に、Chemtura Corporation(Middlebury、CT、米国)から市販されている。
【0105】
[サーモ酸化エンジン油シュミレーション試験](TEOST、ASTM D7097)
中〜高温サーモ酸化エンジン油シュミレーション試験(TEOST、ASTM D7097)を行い、エンジン油の沈着物形成傾向を求めた。この試験は、特別に構築されたスチール製ロッド上に形成された沈着物の量を、熱酸化及び触媒条件下に被験油8.5gの反復通過による連続ストレス付加によって求める試験である。使用装置はTannas Co.製であり、0.15(x+16)(式中、xは2回又はより多くの反復試験結果の平均である)の典型反復能力を有していた。TEOST試験条件を表4に示す。得られた沈着物の量が少ないほど、当該油の酸化安定性は良好である。
【表4】

【0106】
表5はTEOST試練結果を示す。配合物2及び5について得られた沈着物が配合物1に比較して少ないことは、沈着物形成制御の観点から式(I)のポリマー状ヒンダードフェノールが強力な酸化防止効果を有することを示している。単独の酸化防止剤を含有する配合物でそれぞれ得られた沈着物の量に比較し、配合物4、7及び8について得られた沈着物の量が少ないことは、本発明の態様に従う酸化防止剤混合物を含有する潤滑油組成物がTEOSTにおいて少ない沈着物量を生じさせる優れた酸化安定性を有することを示している。
【表5】

【0107】
[実施例2](RPVOT分析)
式(I)のポリマー状ヒンダードフェノールの酸化防止効果及び式(II)の二級ジアリールアミンとの相乗効果を、被験工業用タービン油において回転加圧容器酸化試験法(Rotating Pressure Vessel Oxidation Test)(RPVOT、ASTM D2272)により実証した。
【0108】
タービン油配合物は下記市販成分と予備配合した。本発明の観点から、原料の種類及び正確な組成に特定の制限はない。
【表6】

【0109】
タービン油予備配合物に、本発明の態様に従い場合により式(II)の二級ジアリールアミンと混合して式(I)のポリマー状ヒンダードフェノールを順次配合した。添加された酸化防止剤の総量は0.5重量パーセントであった。
【0110】
試験に使用されたポリマー状ヒンダードフェノールはLowinox(登録商標)CPLであった。これはp−クレゾールとジシクロペンタジエン及びイソブチレンとの反応生成物である。試験に使用された二級ジアリールアミンは主としてモノ−及びジ−ノニルジフェニルアミンの複合混合物であった。これは現時点で、商標Naugalube438L(商標)として販売されている。製品は両方共に、Chemtura Corporation(Middlebury、CT)から市販されている。
【0111】
[回転加圧容器酸化試験](RPVOT、ASTM D2272)
RPVOTは、D2272−02に詳述されている標準ASTM試験法に従い行われた(この記載全体を引用してここに組入れる)。試験条件を表7に示す。この試験は酸素加圧容器を使用し、水及び銅触媒の存在下に150℃において同一もしくは類似組成(ベースストック及び添加剤)を有する新しいタービン油及び使用中のタービン油の酸化安定性を評価する試験である。覆われているガラス容器中に含有されている被験油、水及び銅触媒コイルを、圧力計を備えたスティール容器内に配置する。この容器に90psi(621kPa)の圧力まで酸素を注入し、150℃に設定されている恒温油浴に配置し、水平から30度の角度で100rpmで軸方向回転させる。圧力計の圧力が25psi(172kPa)に到達するのに要した分の数は被験試料の酸化安定度である。
【表7】

【0112】
表8はタービン油配合物に係わるRPVOT酸化誘導時間(OIT)を示している。配合物2の組成を有するタービン油が比較配合物1を超える優れた酸化安定性を有することは明白である。配合物4及び5の長いOIT値はまた、LowinoxCPLと式(II)の二級ジアリールアミンとの混合物を含有するタービン油配合物が単独の酸化防止剤を含有する配合物(配合物2及び3)に比較して有意に良好な酸化安定性を有することを示している。さらに、配合物4及び5は、配合物A、B及びCに比較してより大きい安定性を示した。
【表8】

【0113】
[実施例3](PDSC OIT分析)
前記したように、本発明の酸化防止剤組成物は式(III)の酸化防止剤を実質的に含有していないことが好ましいことから、本発明の組成物は好ましくは、高温酸化条件下に安定のままである。高温酸化条件における潤滑剤組成物の安定性は加圧示差走査熱量計(PDSC)試験期間中の酸化誘導時間(OIT)を計測することによって求めた。
【0114】
[加圧示差走査熱量計(PDSC)試験]
PDSC法は各操作全体を通し一定の酸素圧下にスティール製セルを使用する。この装置は200分間のOITについて95%の信頼限界をもって±5.0分の典型反復能力を有する。PDSC操作の開始時点において、PDSCスチール製セルを酸素により加圧し、40℃/分の速度で表9に挙げられている恒温温度にまで加熱した。この誘導時間は、エンタルピー変化が見出されるまで試料がその恒温温度に達する時間から測定される。酸化誘導時間が長いほど、その油の酸化安定性は良好である、すなわち長いOIT値は、より安定な組成物を示す。調製された被験油各50g毎に、PDSC試験に先立ち、油溶性ナフテン酸第二鉄(鉱油中6重量パーセント)40μLを添加し、油中の鉄50ppmを助成した。
【表9】

【0115】
本発明の酸化防止剤の効果を低リン含有SAE5W20完全配合エンジン油で実証した。このようなエンジン油は本明細書に記載のPDSC試験で使用された。このSAE5W20エンジン油配合物は上記表3に示されている成分と予備配合されていなければならない。これらの成分の全部が市販されている。酸化防止剤組成物を次いで、エンジン油予備配合物に添加した。PDSC試験は185℃で行われた。本発明の酸化防止剤組成物は40分より長く、及び50分より長いPDSC OIT値を示した。下記表10は酸化防止剤組成物及び実施例3で得られたPDSC OIT値を示す。得られたOIT値は高温酸化条件下における本発明の酸化防止剤組成物及び潤滑剤組成物の高い安定度を反映している。
【表10】

【0116】
本明細書に記載の全部の特許、論文及びその他の刊行物はそれらの全体を引用してここに組入れる。本発明の原則、好適な態様及び操作方法は前記詳細な説明に示されている。本発明は本明細書に記載されている特定の態様に制限されるものではなく、記載の態様は制限することよりも例示するものである。本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、当業者は変更を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化防止剤組成物であって、
(a)構造式:
【化1】


(式中、nは0〜50であり、並びにR及びRは独立して、水素、1個又はより多くの置換基により置換されていてもよい直鎖状又は分岐鎖状C〜C30アルキル基又はアルキレン基、C〜C12シクロアルキル、C〜C12アリール又はC〜C12アルキルアリールである)を有する第一酸化防止剤;及び
(b)ジアリールアミンを含む第二酸化防止剤;
を含む、酸化防止剤組成物。
【請求項2】
がtert−ブチル又はそのα位が置換されていてもよいスチレニル基である、請求項1に記載の酸化防止剤組成物。
【請求項3】
が5個又はそれ未満の炭素を有するアルキル基又はアルキレン基である、請求項1及び2のいずれか一項に記載の酸化防止剤組成物。
【請求項4】
がメチルである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化防止剤組成物。
【請求項5】
第二酸化防止剤が式:
(R−Ar−NH−Ar−(R
(式中、Ar及びArは独立して、芳香族炭化水素基であり、並びにR及びRは独立して、水素又は炭素原子6個〜約100個を有するヒドロカルビル基であり、並びにa及びbは独立して、0〜3であり、但し(a+b)は4以下である)を有する、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の酸化防止剤組成物。
【請求項6】
第二酸化防止剤がモノ−、ジ−及びトリ−ノニルジフェニルアミンの混合物を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の酸化防止剤組成物。
【請求項7】
第二酸化防止剤 対 第一酸化防止剤 の重量比が3:1〜19:1である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の酸化防止剤組成物。
【請求項8】
酸化防止剤組成物が25℃において液体である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の酸化防止剤組成物。
【請求項9】
酸化防止剤組成物が100℃において40cSt未満の動粘度を有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の酸化防止剤組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の酸化防止剤組成物であって、
酸化防止剤組成物が式(III):
【化2】


(式中、R、R及びRは同一又は相違しており、直鎖状又は分岐鎖状C〜C18アルキル基を表す)のヒンダードフェノールを、酸化防止剤組成物の総重量に基づき0.5重量パーセント未満の量で含む、
酸化防止剤組成物。
【請求項11】
潤滑剤組成物であって、
(a)潤滑粘度のベースストック;及び
(b)請求項1〜10のいずれか一項に記載の酸化防止剤組成物;
を含む潤滑剤組成物。
【請求項12】
潤滑剤組成物が、潤滑剤組成物の重量に基づきベースストックを65〜99.9重量パーセントの量で、及び酸化防止剤組成物を0.05〜3重量%の量で含む、請求項11に記載の潤滑剤組成物。
【請求項13】
潤滑剤組成物が、潤滑剤組成物の総重量に基づき1重量%以下の量でZDDPを含む、請求項11及び12のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項14】
酸化防止剤、磨耗防止剤、洗剤、錆防止剤、濁り防止剤、解乳化剤、金属脱活性化剤、摩擦調整剤、流動点降下剤、発泡防止剤、補助溶剤、パッケージ相溶化剤、腐食防止剤、無灰分散剤、顔料、極圧剤及びその混合物からなる群から選択される少なくとも1種の潤滑油用添加剤をさらに含む、請求項11〜13のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項15】
ポリマー組成物であって、
(a)有機ポリマー;及び
(b)請求項1〜10のいずれか一項に記載の酸化防止剤組成物;
を含むポリマー組成物。

【公表番号】特表2012−509956(P2012−509956A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537456(P2011−537456)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際出願番号】PCT/US2009/060757
【国際公開番号】WO2010/059316
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(508201282)ケムチュア コーポレイション (69)
【Fターム(参考)】