説明

酸味が抑制されたヨーグルト及びその製造方法

【課題】ヨーグルトの酸味をマスキングすることにより酸味を抑制すると共に、ヨーグルト本来の味覚とを調和したヨーグルトの製造方法、及び該製造方法によって製造される抑制された酸味と調和した味覚とを有するヨーグルトを提供すること。
【解決手段】ヨーグルトの製造において、ヨーグルト中の乳脂肪分を、3.0〜10.0重量%に調整すると共に、乳原料に対して、高度分岐環状デキストリンを0.1〜10.0重量%、及び/又は、ゼラチンを0.2〜1.0重量%の範囲で配合することにより、抑制された酸味と調和した味覚とを有するヨーグルトを製造する。本発明の方法は、ヨーグルト中の乳脂肪分、高度分岐環状デキストリンの配合量、ゼラチンの配合量についての条件を組み合わせることにより、高い酸味マスキングの効果を得、ヨーグルトの酸味を有効に抑制して、マイルドな酸味とすると共に、ヨーグルト本来の味覚を維持して、調和した味覚のヨーグルトを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨーグルトの酸味をマスキングすることにより酸味を抑制すると共に、ヨーグルト本来の味覚とを調和したヨーグルトの製造方法、及び該製造方法によって製造される抑制された酸味と調和した味覚とを有するヨーグルト関する。
【背景技術】
【0002】
ヨーグルトは、乳を原料として、乳酸発酵により製造される栄養価及び嗜好性に富んだ乳酸発酵食品であり、乳酸の独特な酸味により特徴づけられる食品である。しかし、ヨーグルトは、酸味により特徴づけられる食品であっても、現代においては一般的にマイルドな酸味が好まれる傾向がある。そこで、従来より、ヨーグルトの製造に際して、酸味を調整し、マイルドな酸味を有するヨーグルトを製造することが行われてきた。ヨーグルトの酸味を緩和する方法としては、例えば、砂糖や異性化糖、オリゴ糖のような糖類や、人工甘味料等を加え、甘味を付与する方法や、乳酸菌の種類や発酵条件などの工夫により、酸味を調整する方法が行われてきた。
【0003】
ヨーグルトの製造に際して、酸味を緩和し、マイルドな酸味を有するヨーグルトを製造する方法が開示されている。例えば、特開2003−289797号公報には、原料乳に、内分岐環状構造部分と外分岐構造部分を有する、重合度が50以上であるグルカン(高度分岐環状デキストリン)を添加し、或いは、更に大豆多糖類やシクロデキストリンを添加して、乳酸発酵を行うことにより、マイルドな酸味と、長期保存に対して変性カゼインと乳清成分が分離し難いヨーグルトを製造する方法が、特開2003−289800号公報には、豆乳を酸変性或いは乳原料を添加し、乳酸発酵して得られるヨーグルト様飲食物の製造において、内分岐環状構造部分と外分岐構造部分を有する、重合度が50以上であるグルカン(高度分岐環状デキストリン)を添加し、或いは、更に、シクロデキストリン、ゲンチオオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、デキストリン等を添加して、マイルドな酸味とタンパク質の凝集分離が起こりにくいヨーグルト様飲食物を製造する方法が開示されている。
【0004】
また、WO2006/075772には、原料乳にタンパク質脱アミド酵素を添加し、乳タンパク質に作用させることにより、食感が滑らかで酸味、苦味の抑制されたチーズやヨーグルトを製造する方法が開示されている。しかしながら、例えば、上記のようにヨーグルトの酸味抑制に高度分岐環状デキストリンを添加する方法等が開示されているが、原料乳に該高度分岐環状デキストリンを添加しただけでは、酸味を低減する効果は低いという問題があった。
【0005】
ヨーグルトには、その製造工程において、カップ充填と乳酸発酵の時期の相違により、カップ充填前に発酵させる前発酵(攪拌型又はソフト)タイプヨーグルトと、カップ充填後に発酵させる後発酵(静置型又はセット)タイプヨーグルトとがある。かかるタイプのヨーグルトにおいて、特に、前発酵タイプヨーグルトにおいては、果肉、果汁やジャム様のソース類を混ぜることができ、該成分の混合により、様々な酸味抑制の工夫を行うことができるが、後発酵タイプヨーグルトではその製法上、添加できる素材は限定されており、添加成分によりヨーグルトの酸味抑制を行うことが難しいという酸味抑制に対する制約がある。また、カスタードヨーグルトのようなデザートヨーグルトにおいては、酸味が強いと消費者の好みに合わず、消費者に受け入れられない傾向があり、上記のような酸味抑制方法だけでは、処方が限られてしまい、多様な商品を開発することが難しいという問題があった。
【0006】
従来より、酸味を呈する飲食品の酸味を抑制するための酸味抑制物質としては、種々のものが知られている。例えば、上記のように、蔗糖、果糖、オリゴ糖のような糖類、アラニン、グリシン等のアミノ酸、モネリン、ソーマチン等の天然由来の甘味料、アスパルテーム等の合成甘味料を用いることが知られている。また、特開平10−215793号公報には、ステビア抽出物、スクラロース又はアスパルテームのような高甘味度甘味剤を甘味の閾値以下で用いる酸味のマスキング方法が、特開平2−227043号公報には、ミラクリンを酸味の抑制に用いる方法が、特開平2−84156号公報には、クルクリンを酸味の抑制に用いる方法が、特開平9−224602号公報には、リゾチームを酸味抑制剤として用いる方法が、特開2001−89500号公報には、酸味抑制ペプチドを酸味抑制剤として用いる方法が開示されている。
【0007】
更に、特開2005−245270号公報には、γ−アミノ酪酸及び多糖類を酸味抑制剤として用いる方法が、特開2008−278990号公報には、鰹節抽出物を酸味抑制剤として用いる方法が開示されている。しかしながら、これら従来より飲食品の酸味抑制に用いられている酸味抑制剤は、ヨーグルトのような味覚の食品に対して、その本来の味覚に影響を及ぼさずに酸味を抑制することが難しく、ヨーグルトの酸味の抑制とヨーグルトの本来の味覚の調和とを両立させたヨーグルトを提供することが難しかった。
【0008】
一方、従来より高度分岐環状デキストリンには、酸味を低減させる効果が知られている。例えば、“「生物工学会誌」第84巻、第2号、61−66、2006.”には、pHを変化させずに、酸味を抑える効果を有することが記載されており、酸味飲料に0.5〜3%程度添加した場合、酸味が抑えられてまろやかになり、飲みやすくなったことが示されている。そして、上記のとおり、該高度分岐環状デキストリンを、ヨーグルトや、ヨーグルト様飲食物の製造に際して、酸味抑制物資として用いてマイルドな酸味を有するヨーグルトやヨーグルト様飲食物を製造することが開示されている(特開2003−289797号公報;特開2003−289800号公報)。高度分岐環状デキストリン自体は、内分岐環状構造部分と外分岐構造部分を有する、重合度が50から5000の範囲にあるグルカンとして公知のものであり(特許3107358号公報)、水に対する溶解度が非常に高いため、飲食品用の基材として用いられているものである。しかしながら、前記のとおり、高度分岐環状デキストリンをヨーグルトの酸味抑制に用いて、原料乳に該高度分岐環状デキストリンを添加しただけでは、酸味を低減する効果は低いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−84156号公報。
【特許文献2】特開平2−227043号公報。
【特許文献3】特開平9−224602号公報。
【特許文献4】特開平10−215793号公報。
【特許文献5】特開2001−89500号公報。
【特許文献6】特開2003−289797号公報。
【特許文献7】特開2003−289800号公報。
【特許文献8】特開2005−245270号公報。
【特許文献9】特開2008−278990号公報。
【特許文献10】WO2006/075772。
【特許文献11】特許3107358号公報。
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「生物工学会誌」第84巻、第2号、61−66、2006。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、ヨーグルトの酸味をマスキングすることにより酸味を抑制すると共に、ヨーグルト本来の味覚とを調和したヨーグルトの製造方法、及び該製造方法によって製造される抑制された酸味と調和した味覚とを有するヨーグルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討する中で、ヨーグルトの製造において、ヨーグルト中の乳脂肪分を、特定範囲に調整すると共に、乳原料に対して、高度分岐環状デキストリン及び/又はゼラチンを特定範囲で配合することにより、ヨーグルトの酸味を有効に抑制して、マイルドな酸味とすると共に、ヨーグルト本来の味覚を維持して調和した味覚のヨーグルトを製造することが可能であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、ヨーグルトの製造において、ヨーグルト中の乳脂肪分を、3.0〜10.0重量%に調整すると共に、乳原料に対して、高度分岐環状デキストリンを0.1〜10.0重量%、及び/又は、ゼラチンを0.2〜1.0重量%の範囲で配合することにより抑制された酸味と調和した味覚とを有するヨーグルトの製造方法からなる。従来、ヨーグルトの酸味の抑制に、高度分岐環状デキストリンを用いることが知られていた。しかし、該成分の添加のみでは、有効な酸味の抑制は得られなかった。そこで、本発明においては、ヨーグルトの酸味抑制について鋭意検討する中で、ヨーグルト中の乳脂肪分、高度分岐環状デキストリンの配合量、ゼラチンの配合量についての条件を組み合わせることにより、高い酸味マスキングの効果が得られ、上記のとおり、ヨーグルトの酸味を有効に抑制して、マイルドな酸味とすると共に、ヨーグルト本来の味覚を維持して、調和した味覚のヨーグルトを製造することが可能であることを見い出した。
【0014】
本発明のヨーグルトの製造方法において、乳原料に配合するゼラチンは、そのブルーム値が、100〜350ブルームであることが好ましい。また、本発明のヨーグルトの製造方法においては、ヨーグルト中の原材料として、卵若しくは卵加工品、はちみつ、メープルシロップ、コーヒー、チョコレート類、及び果汁から選択される1又は2以上を配合し、乳脂肪を3.0〜10.0重量%に調整することにより、抑制された酸味と調和した味覚とを有するヨーグルトを製造することができる。かかる場合に用いられる果汁の好ましいものとして、例えば、いちご果汁、メロン果汁、オレンジ果汁、葡萄果汁、桃果汁、或いはりんご果汁等を挙げることができるが、これらの果汁に限定されるものではない。なお、ヨーグルト中の乳脂肪分は、乳原料に対するクリームの配合割合により、調整することもできる。
【0015】
本発明のヨーグルトの製造方法は、特に、後発酵タイプヨーグルトに対して有効に適用することができ、抑制された酸味と調和した味覚とを有するヨーグルトを製造することができる。本発明は、本発明のヨーグルトの製造方法によって製造された抑制された酸味と調和した味覚とを有するヨーグルトを包含する。
【0016】
すなわち、具体的には本発明は、[1]ヨーグルトの製造において、ヨーグルト中の乳脂肪分を、3.0〜10.0重量%に調整すると共に、乳原料に対して、高度分岐環状デキストリンを0.1〜10.0重量%、及び/又は、ゼラチンを0.2〜1.0重量%の範囲で配合することを特徴とする抑制された酸味と調和した味覚とを有するヨーグルトの製造方法(請求項1)や、[2]乳原料に配合するゼラチンのブルーム値が、100〜350ブルームであることを特徴とする上記[1]記載の抑制された酸味と調和した味覚とを有するヨーグルトの製造方法(請求項2)や、[3]ヨーグルト中の原材料として、卵若しくは卵加工品、はちみつ、メープルシロップ、コーヒー、チョコレート類、及び果汁から選択される1又は2以上を配合し、乳脂肪を3.0〜10.0重量%に調整することを特徴とする請求上記[1]又は[2]記載の抑制された酸味と調和した味覚とを有するヨーグルトの製造方法(請求項3)や、[4]ヨーグルトが、後発酵ヨーグルトであることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれか記載の抑制された酸味と調和した味覚とを有するヨーグルトの製造方法(請求項4)や、[5]上記[1]〜[4]のいずれか記載のヨーグルトの製造方法によって製造された抑制された酸味と調和した味覚とを有するヨーグルト(請求項5)、からなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、抑制された酸味と調和した味覚とを有する嗜好性に富んだヨーグルト、及びその製造方法を提供する。本発明のヨーグルトの製造方法は、特に、カスタードヨーグルトのようなデザートタイプのヨーグルトに適用することができ、抑制された酸味と調和した味覚とを有する嗜好性に富んだヨーグルトを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、ヨーグルトの製造において、ヨーグルト中の乳脂肪分を、3.0〜10.0重量%に調整すると共に、乳原料に対して、高度分岐環状デキストリンを0.1〜10.0重量%、及び/又は、ゼラチンを0.2〜1.0重量%の範囲で配合することにより抑制された酸味と調和した味覚とを有するヨーグルトを製造することからなる。
【0019】
本発明のヨーグルトの製造方法は、上記のように、ヨーグルト中の乳脂肪分を、特定範囲に調整すると共に、乳原料に対して、高度分岐環状デキストリン及び/又はゼラチンを特定範囲で配合する点を除いて、用いる乳原料、添加成分、ヨーグルトの製造方法及び条件において、通常のヨーグルト製造方法と特に変わるところはない。例えば、原料に用いる乳の種類、発酵に用いる乳酸菌の種類、発酵条件、及び、工程に用いる装置等は、通常のヨーグルト製造に用いられている原料、方法、及び装置を用いることができる。
【0020】
本発明のヨーグルトの製造方法において、用いる乳原料としては、牛乳、生クリーム、脱脂粉乳等、ヨーグルトの製造に用いられる種々の乳原料を用いることができるが、ヨーグルト中の乳脂肪分の調整には、乳原料に対するクリームの配合割合を工夫することにより行うことができる。本発明のヨーグルトの製造方法においては、ヨーグルト中の原材料として、卵若しくは卵加工品、はちみつ、メープルシロップ、コーヒー、チョコレート類、及び果汁から選択される1又は2以上を配合し、乳脂肪を3.0〜10.0重量%に調整することにより、抑制された酸味と調和した味覚とを有するヨーグルトを製造することができる。かかる場合に用いられる果汁の好ましいものとして、例えば、いちご果汁、メロン果汁、オレンジ果汁、葡萄果汁、桃果汁、或いはりんご果汁等を挙げることができる。
【0021】
本発明のヨーグルトの製造方法において用いられる高度分岐環状デキストリンとは、α−1,6−グルコシド結合を有する環状グルカン(内分岐環状構造部分)に、枝状のグルカン(外分岐構造部分)が、α−1,4−又はα−1,6−グルコシド結合を介して連結したものであり(「生物工学会誌」第84巻、第2号、61−66、2006;特開平8−134104号公報)、全体の重合度が50以上のものが用いられる。このようなグルカンは、α−1,4−グルコシド結合及びα−1,6−グルコシド結合を有する糖質に、糖転移酵素を作用させることで得ることができる。高度分岐環状デキストリンは、従来からあるデキストリンと異なり、還元末端をほとんど持たないので冷蔵・保存中に老化するようなことがほとんどない。そのため、飲食品の製造おいて添加しても冷蔵・保存中に老化して沈殿することや浮遊物を生じることがないという利点を有している。また、異味、異臭がほとんど無く、水溶性が高いため、飲食品の製造において、固形分の調節、甘味の調節、ボディー感の付与、或いは粉末化基材等に用いられている。
【0022】
本発明のヨーグルトの製造方法においては、乳原料に対してゼラチンを0.2〜1.0重量%の割合で配合する。添加するゼラチンは、ブルーム値が100〜350ブルームであることが望ましい。ブルーム値が100ブルーム未満の場合は、精製度が低くなり遊離アミノ酸が多くなってしまい、添加したヨーグルトの風味にも影響を与えることから望ましくない。また、ゼラチンのブルーム値が350ブルームを超えるとゼリー強度が強くなりすぎて、ヨーグルトの物性に影響を与えることから望ましくない。ゼラチンの添加量は、上記範囲で設定される。ゼラチンの添加量を増やし、粘度が高くなるほど酸味は軽減される傾向にあるが、ゼラチンのみの添加では、その効果は十分なものではなく、1%程度添加して、ようやく酸味は軽減される程度である。
【0023】
なお、ここで、「ブルーム値」とはゼラチンのゼリー強度を示す単位であるが、測定にはブルームゲロメーターやテクスチャーアナライザーが一般的に用いられている。すなわち、6.67%ゼラチン水溶液を、ゼリーカップに入れ、10℃の恒温槽で17時間冷却して、ゼリーを調製する。2分の1インチ(12.7mm)径のプランジャーで、そのゼリーに荷重をかけ、ゼリー表面が4mm押し下げられたときの重さ(グラム単位)をゼリー強度としている。
【0024】
本発明のヨーグルトの製造方法においては、上記のようにヨーグルト中の乳脂肪分を、3.0〜10.0重量%に調整すると共に、乳原料に対して、高度分岐環状デキストリンを0.1〜10.0重量%、及び/又は、ゼラチンを0.2〜1.0重量%の範囲で配合される。ヨーグルト中に高度分岐環状デキストリンを10%を超えて添加すると、カード組成が荒くなるという問題がある。ゼラチンをヨーグルト中に1%を超えて添加すると、食感が硬くなり香味上の問題が発生する。乳脂肪分は10%を超えると、油っぽく感じ香味上問題となる。また、高度分岐環状デキストリン、ゼラチン、乳脂肪分を必要以上の濃度添加すると上記記載の問題が発生するうえに、原材料コストも上がってしまう。
【0025】
本発明のヨーグルトの製造方法において、高度分岐環状デキストリンや、ゼラチンは、ヨーグルト製造工程の任意の過程で添加することができる。すなわち、原料乳に該配合成分を予め添加、溶解させた後、乳酸発酵を経てヨーグルトを製造してもよいし、乳酸発酵の過程で該配合成分を添加したり、発酵が終了しパッケージする直前にヨーグルトに該配合成分を混合溶解してもよい。
【0026】
前記のように、ヨーグルトには、その製造工程において、カップ充填と乳酸発酵の時期の相違により、カップ充填前に発酵させる前発酵タイプヨーグルトと、カップ充填後に発酵させる後発酵タイプヨーグルトとがあるが、本発明のヨーグルトの製造方法は、基本的に前発酵タイプ及び後発酵タイプのいずれのタイプのヨーグルトの製造に適用し、実施することができる。なお、前発酵タイプヨーグルトにおいては、ゼラチンを0.5%程度以上添加したヨーグルトを冷却すると、ブルーム値にもよるが、後発酵タイプヨーグルトのように固まってしまうことがある。又、酸味マスキング効果は前発酵タイプ、後発酵タイプのどちらのタイプでも認められるが、その効果は後発酵で固まったタイプのヨーグルトの方が強い傾向がある。
【0027】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
[1.ヨーグルトの製造方法]
(1)原材料:
原材料として、乳原料(牛乳、生クリーム、脱脂粉乳等)、砂糖8.0%、ゼラチン(ブルーム値250)、高度分岐環状デキストリン(日本食品化工株式会社製“クラスターデキストリン”(商品名))を使用した。尚、牛乳、生クリーム、脱脂粉乳等の配合を工夫することにより、無脂乳固形分は8.0%に統一し、乳脂肪含量は0、2、3、4、6または10%とした。又、ゼラチン、高度分岐環状デキストリン含量は官能評価試験の内容により変動させた。
【0029】
(2)製造方法:
上記原材料を混合分散し、70℃付近まで加熱し、均質圧(15〜17MPa)でホモジナイザーにかける。95℃10分ほど加熱殺菌し、45℃付近まで冷却し、乳酸菌添加(菌種:L.bulgaricus、St.thermophilus)し、カップに充填し蓋を装着後42℃で4〜5時間程度で発酵させた。乳酸酸度が0.70に達した時点で10℃まで冷却保管した。なお、官能評価試験に使用したヨーグルトは官能評価試験時の乳酸酸度をいずれも0.75に調整した。以下に示す官能評価試験はいずれも上記製造方法に従って製造した後発酵タイプヨーグルトを使用した。
【0030】
[2.高度分岐環状デキストリン、ゼラチン、乳脂肪単独添加でのマスキング効果(参考例)]
<試験方法>
高度分岐環状デキストリン、ゼラチン、乳脂肪をヨーグルトに単独添加した場合のマスキング効果を確認した。マスキング効果の評価は、訓練された官能評価パネル6〜8人で5段階評価にて行った。6〜8人の結果の平均値の結果を表1〜3に示すが、点数が大きい程マスキング効果が高いことを意味する。
【0031】
<点数の指標>
5点:酸味がかなり軽減されている。
4点:酸味がだいぶ軽減されている。
3点:酸味がやや軽減されている。
2点:酸味が少し軽減されている。
1点:酸味軽減効果が認められない。
【0032】
評価結果を、表1(ヨーグルトでの高度分岐環状デキストリン単独添加でのマスキング効果)、表2(ヨーグルトでのゼラチン単独添加でのマスキング効果)、及び表3(ヨーグルトでの乳脂肪分単独添加でのマスキング効果)に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
(2)結果:
単品使用の場合、デキストリン、ゼラチン、乳脂肪分ともに、添加量が多くなるほど、数値上酸味軽減効果は大きくなる傾向にあるもののその効果は強いものではなく、デキストリンは10.0%、ゼラチンは1.0%、乳脂肪分は10.0%の添加で酸味軽減効果が見られた。しかしながら、ヨーグルト中に高度分岐環状デキストリンを10%を超えて添加すると、カード組成が荒くなるという問題があった。同様に、ゼラチンをヨーグルト中に1%を超えて添加すると、触感が硬くなり香味上の問題が発生した。また、ヨーグルトの乳脂肪分が10%を超えると、油っぽく感じ香味上問題が発生した。
【0037】
[3.乳脂肪分と高度分岐環状デキストリン、乳脂肪分とゼラチンの組合せでのマスキング効果]
(1)試験方法:
乳脂肪分(3%、4%)と高度分岐環状デキストリン、乳脂肪分(3%、4%)とゼラチンの組合せでのマスキング効果を確認した。マスキング効果の評価は、訓練された官能評価パネル8人で5段階評価にて行った。8人の結果の平均値の結果を、表4[乳脂肪分(3%、4%)と高度分岐環状デキストリンの組合せ]及び表5[乳脂肪分(3%、4%)とゼラチンの組合せ]に示す。官能評価平均点数において、点数が大きい程マスキング効果が高いことを意味する。
【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【0040】
(2)結果:
表4、表5に示すように、乳脂肪分(3%、4%)と高度分岐環状デキストリン、乳脂肪分(3%、4%)とゼラチンの組合せでのマスキング効果の増加が認められた。ゼラチン濃度、高度分岐環状デキストリンが増大するにしたがって、そのマスキング効果が増加した。
【0041】
[4.高度分岐環状デキストリン、ゼラチン、乳脂肪組合せでのマスキング効果]
(1)試験方法:
高度分岐環状デキストリン、ゼラチン、乳脂肪をヨーグルトに組み合わせて添加した場合のマスキング効果を確認した。マスキング効果の評価は、訓練された官能評価パネル8人で5段階評価にて行った。8人の結果の平均値の結果を、表6、7[ヨーグルトでの3原料組合せでのマスキング効果(乳脂肪4%)]、表8、9[ヨーグルトでの3原料組合せでのマスキング効果(乳脂肪3%)]、及び表10[ヨーグルトでの3原料組合せでのマスキング効果(乳脂肪分変動)]に示す。官能評価平均点数において、点数が大きい程マスキング効果が高いことを意味する。
【0042】
【表6】

【0043】
【表7】

【0044】
【表8】

【0045】
【表9】

【0046】
【表10】

【0047】
(2)結果
乳脂肪分は4.0%の場合、クラスターデキストリンは0.1%以上(表6)、ゼラチンは0.2%以上(表7)、で酸味軽減効果が見られた。乳脂肪分3.0%の場合、クラスターデキストリンは0.5%以上、ゼラチンは0.3%以上で酸味マスキングの効果が見られた。以上のことから、高度分岐環状デキストリン、ゼラチンは単品では酸味軽減の効果は弱いが、乳脂肪分3.0〜10.0%、高度分岐環状デキストリン0.1〜10.0%、ゼラチン0.2〜1.0%の3品の組み合わせで有効な酸味マスキングの効果が得られることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、抑制された酸味と調和した味覚とを有するヨーグルトの製造方法を提供する。該ヨーグルトの製造方法により、抑制された酸味と調和した味覚とを有する嗜好性に富んだヨーグルトを提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨーグルトの製造において、ヨーグルト中の乳脂肪分を、3.0〜10.0重量%に調整すると共に、乳原料に対して、高度分岐環状デキストリンを0.1〜10.0重量%、及び/又は、ゼラチンを0.2〜1.0重量%の範囲で配合することを特徴とする抑制された酸味と調和した味覚とを有するヨーグルトの製造方法。
【請求項2】
乳原料に配合するゼラチンのブルーム値が、100〜350ブルームであることを特徴とする請求項1記載の抑制された酸味と調和した味覚とを有するヨーグルトの製造方法。
【請求項3】
ヨーグルト中の原材料として、卵若しくは卵加工品、はちみつ、メープルシロップ、コーヒー、チョコレート類、及び果汁から選択される1又は2以上を配合し、乳脂肪を3.0〜10.0重量%に調整することを特徴とする請求項1又は2記載の抑制された酸味と調和した味覚とを有するヨーグルトの製造方法。
【請求項4】
ヨーグルトが、後発酵ヨーグルトであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の抑制された酸味と調和した味覚とを有するヨーグルトの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載のヨーグルトの製造方法によって製造された抑制された酸味と調和した味覚とを有するヨーグルト。