説明

酸味のマスキング方法

【課題】食酢や酸味料等に由来する酸味のマスキング方法を提供する。具体的には、酸味特有の酢かどや酸味を低減し、まろやかな呈味を有する可食性製品を提供可能な、酸味のマスキング方法を提供する。
【解決手段】酸味を呈する可食性製品にモルトエキスを添加し、酸味をマスキングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸味のマスキング方法に関する。具体的には、食酢や酸味料を含有した飲料、ドレッシング、惣菜や漬物等の酸味のマスキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸味成分は、飲食品などの可食性製品に特有の爽やかさ、清涼感を与える他、保存性を向上させるなど、飲食品中で重要な役割を果たしている。また、近年の健康嗜好に伴い、黒酢やリンゴ酢といった食酢を含有した食酢含有飲料なども人気を博している。しかし、酸味付与を目的としない飲食品や、酸味を苦手とする消費者においては、酸味特有の刺激や味は望まれないものであった。
【0003】
従来から用いられてきた酸味のマスキング手法として、例えば、セロオリゴ糖を有効成分とする技術(特許文献1)、アルパルテームを用いて酸味をマイルドにする技術(特許文献2)等があるが、いずれの手法を用いた場合も酸味のマスキング(低減)効果は不十分であり、未だ改良の余地があった。また、例えばアスパルテームを用いた場合、アスパルテーム特有の甘味の後引きが飲食品の食味に影響を与えてしまう、アスパルテーム自体がpH、温度によって分解しやすい性質を有するため、飲食品によっては長期安定してマスキング効果を持続することが困難であるといった課題を抱えていた。
【0004】
一方、モルトエキスは、麦芽又はこれを焙煎したものから抽出した麦芽汁を濃縮、糖化させたものであり、麦芽本来の風味やモルトエキス特有の風味を利用して、炭酸飲料に対するビール風味の香味付け(特許文献3)やパンの風味、食感改良(特許文献4)等に使用されてきた。しかし、モルトエキスは、それ自体が麦芽に由来する特有の苦味を有しており、当該モルトエキスを用いて酸味をマスキングすることについて、何ら検討されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−199997号公報
【特許文献2】特公平04−60626号公報
【特許文献3】特開2003−250503号公報
【特許文献4】特開2001−120163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、食酢や酸味料等に由来する酸味のマスキング方法を提供することを目的とする。具体的には、酸味特有の酢かどや酸味を低減し、まろやかな呈味を有する可食性製品を提供可能な、酸味のマスキング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねていたところ、モルトエキスを添加するで、意外にも飲食品をはじめとした可食性製品の酸味や刺激味を低減できることを見出した。特に、従来の酸味のマスキング素材は、比較的、味覚で認識される呈味よりも酸特有の臭い(酸臭)のマスキングに効果を示すものが多かった中で、本発明ではモルトエキスを用いることにより、味覚で認識される酸味に対して、特に顕著なマスキング効果を示すことを見出して本発明に至った。
【0008】
本発明は、以下の態様を有する酸味のマスキング方法に関する;
項1.酸味を呈する可食性製品に、モルトエキスを添加することを特徴とする酸味のマスキング方法。
項2.酸味を呈する可食性製品に対し、モルトエキスを0.005〜0.2質量%添加する、項1記載の酸味のマスキング方法。
項3.酸味を呈する可食性製品が、飲料、調味料、漬物又は惣菜である、項1又は2に記載の酸味のマスキング方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、食酢や酸味料等に由来する酸味がマスキングされ、風味に優れた可食性製品を提供できる。例えば、酸味がマスキングされ、まろやかな呈味を示す酸性飲料や食酢含有飲料、ドレッシング等の調味料、漬物、惣菜等の可食性製品の提供が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、モルトエキスを添加することを特徴とする、酸味のマスキング方法に関する。本発明で使用するモルトエキスは、麦芽又はこれを焙煎したものを抽出した麦芽汁を糖化することで得られる。好ましくは、麦芽又はこれを焙煎したものを水で抽出した麦芽汁を糖化したものを使用できる。具体的には、麦芽又はこれを焙煎したものに対して0.5〜100倍量、好ましくは5〜20倍量の水を用いて、室温〜100℃で30分間〜15時間、麦芽を浸漬し、必要に応じて攪拌することにより抽出、糖化されたモルトエキスを得ることができる。このようにして得られるモルトエキスは通常液状であるが、本発明に使用するモルトエキスは、液体、固体、ペースト品などその使用形態は問わない。
【0011】
本発明では好ましくは、500nmにおける吸光度を基に算出した色濃度が5以上、より好ましくは10〜60となるように調整された、高濃度のモルトエキスを使用する。本発明において色濃度とは、モルトエキスを含有する水溶液の500nmにおける吸光度を測定し、該吸光度を10w/v%溶液の吸光度に換算した数値である。かかる色濃度を有するモルトエキスは、麦芽自体の焙煎度を高める方法、ミュンヘン麦芽、ロースト麦芽、チョコレート麦芽及びカラメル麦芽等を麦芽原料として用いる方法、並びにUF膜等を用いてモルトエキスの濃縮を繰り返す方法などを適宜選択することにより得ることができる。
【0012】
本発明では、モルトエキスの中でも特に、モルトエキスを吸着樹脂に通液させた後、10〜90v/v%、好ましくは30〜70v/v%のアルコール水溶液を用いて該樹脂から脱離したモルトエキス処理品を用いることが望ましい。当該処理品を用いることで、より顕著に酸味のマスキング効果が得られる。モルトエキスを吸着樹脂に通液させる際には、モルトエキスを希釈した希釈溶液を用いても良い。
【0013】
従来、モルトエキスは、パンの風味付け等に利用されてきたが、モルトエキス特有の苦味を有するため、食品への応用はあまり検討されてこなかった。しかし、本発明では、当該モルトエキスを、酸味を呈する可食性製品に添加することで、意外にも酸味を顕著にマスキングし、呈味に優れた可食性製品を提供できることを見出した。
【0014】
本発明におけるモルトエキスによる酸味マスキング効果の機構は定かではないが、おそらく、分子量が約2,000〜50,000の範囲である成分が寄与していると推測される。
【0015】
酸味を呈する可食性製品へのモルトエキスの添加形態は特に限定されず、本発明では最終製品中に酸味を呈する成分及びモルトエキスが共存していれば、酸味のマスキング効果を発揮する。例えば、酸性飲料、食酢含有飲料等の飲料;ドレッシング、マヨネーズ等の調味料;漬物や惣菜といった可食性製品の原料と共に混合しても良く、調製された可食性製品に対してモルトエキスを添加してもよい。
【0016】
本発明のマスキング対象となる酸味を呈する可食性製品としては、天然果実や食酢(例えば、酢酸、黒酢、リンゴ酢、醸造酢等)等の、天然素材に由来する酸味を呈するものや、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、乳酸、酢酸、アジピン酸、コハク酸及びリン酸等の酸味料、並びにこれら素材や酸味料を含有する可食性製品を例示できる。例えば、果実、果汁、食酢、酸味料等を含有する飲料や、ドレッシング等の調味料、漬物や惣菜等の各種飲食品を挙げることができる。特に、本発明のマスキング効果は、食酢含有飲料や漬物に対して、より顕著な効果を奏する。
【0017】
本発明における酸味を呈する可食性製品とは、酸味を呈するものであって、口から摂取できるものであれば特に制限されず各種製品が含まれる。例えば、食品や経口用の医薬品又は医薬部外品等も含まれる。
【0018】
本発明のマスキング効果は、特に酸度が0.2%以上、更には0.4%以上である可食性製品に対して特に、顕著な酸味マスキング効果を奏する。本発明において「酸度」とは、可食性製品に占める酸の質量パーセントを意味する。
【0019】
特に、本発明のマスキング効果は、酢酸や乳酸が有する酸味に対して顕著な効果を奏する。例えば、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸は少量であれば比較的爽やかな酸味を有するが、酢酸は独自のツーンとした酸味が強く、特にマスキングに関する需要が大きい。同様にして、発酵食品等に由来する乳酸も、特有の酸味を有しており、マスキングに対する需要が大きい。かかる中、本発明では、酢酸や乳酸独自の強い酸味に対しても顕著なマスキング効果を奏し、例えば、食酢含有飲料、梅干、漬物、ドレッシング、ヨーグルト等の酢酸や乳酸を含有する可食性製品に有用である。
本発明では、特に、酢酸酸度が0.2%以上、更には0.4%以上である可食性製品や、乳酸酸度が0.2%以上、更には0.4%以上である可食性製品に対して特に、顕著な酸味マスキング効果を奏する。
【0020】
酸味を呈する可食性製品に対するモルトエキスの添加量は、酸味の種類や添加量によっても適宜調節することが可能であるが、具体的には、可食性製品に対してモルトエキスの添加量が0.0005〜0.6質量%、好ましくは0.002〜0.35質量%、更に好ましくは0.005〜0.2質量%を挙げることができる。
【実施例】
【0021】
以下に、実験例及び実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。ただし、これらの例
は本発明を制限するものではない。なお、実施例中の「部」「%」は、それぞれ「質量部
」「質量%」、文中「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」印は三
栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを意味する。
【0022】
実験例1 酸味のマスキング試験
市販の黒酢を希釈し、酸度(酢酸として)0.3%の黒酢溶液(食酢含有飲料)を調製した。表1に示す各素材を添加し、酸味のマスキング効果を評価した。結果を表1に示す。なお、実験例1において、使用したモルトエキスは、500nmにおける吸光度を基に算出した色濃度が20のモルトエキス(焙煎麦芽を水にて抽出、糖化後、噴霧乾燥して得られたモルトエキス)である。比較として、先に述べた特許文献1及び2で用いられているセロオリゴ糖及びアスパルテームを用いた。
【0023】
【表1】

【0024】
モルトエキスを用いた実施例1−1は、酢酸特有のツーンとした酸味が有意にマスキングされていたが、セロオリゴ糖を用いた場合(比較例1−1)は酸味のマスキング効果がなく、アスパルテーム(比較例1−2)を用いた場合は、酸味のマスキング効果は奏するものの、余分な甘味が付与され、最終食品の呈味に影響を与えてしまうことが分かった。なお、アスパルテームの甘味が付与されない量(0.001%)まで添加量を下げた黒酢溶液を調製したが、酸味のマスキング効果は不十分であった。
【0025】
実験例2 黒酢飲料のマスキング
表2及び表3の処方に従って黒酢飲料を調製した。具体的には、エリスリトール、難消化性デキストリン、甘味料、クエン酸、クエン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸を50部の水に添加して溶解させた後、純玄米黒酢、りんご5倍濃縮果汁、ハチミツ、香料、酸化防止剤及びモルトエキスを加え、瞬間殺菌機にて120℃で30秒間殺菌し、黒酢飲料(実施例2−1及び2−2)を調製した。一方、比較のためにモルトエキスを添加しない以外は、実施例2−1及び2−2と同様にして、黒酢飲料を調製した(比較例2−1)。結果を表3に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
注1)500nmにおける吸光度を基に算出した色濃度が20のモルトエキス(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を使用した。本製品は、焙煎麦芽を水にて抽出、糖化後、噴霧乾燥して得られたモルトエキスである。
【0029】
実験例3 漬物のマスキング
表4及び5の処方に従って漬物を調製した。具体的には、表4に示す各調味料を混合した調味液に刻み白菜漬、刻みダイコン漬、刻みニンジン漬を添加し、漬物(実施例3−1)を調製した。一方、比較のためにモルトエキスを添加しない以外は、実施例3−1と同様にして、漬物を調製した(比較例3−1)。結果を表5に示す。
【0030】
【表4】

【0031】
【表5】

【0032】
実験例4 黒酢飲料の調製
表2の処方に基づき、黒酢飲料を調製した。具体的には、エリスリトール、難消化性デキストリン、甘味料、クエン酸、クエン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸を50部の水に添加して溶解させた後、純玄米黒酢、りんご5倍濃縮果汁、ハチミツ、香料、酸化防止剤及びモルトエキス(表6参照)を加え、瞬間殺菌機にて120℃で30秒間殺菌し、黒酢飲料(実施例4−1及び4−2)を調製した。一方、比較のためにモルトエキスを添加しない以外は、実施例4−1及び4−2と同様にして、黒酢飲料を調製した(比較例4−1)。なお、本実験例では、モルトエキスとして、モルトエキスを吸着樹脂に通液させた後、60v/v%のアルコール水溶液を用いて該樹脂から脱離したモルトエキス処理品(500nmにおける吸光度を基に算出した色濃度が5)を使用した。結果を表6に示す。
【0033】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の方法によれば、酸味を呈する可食性製品の酸味をマスキングし、呈味に優れた可食性製品を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸味を呈する可食性製品に、モルトエキスを添加することを特徴とする酸味のマスキング方法。
【請求項2】
酸味を呈する可食性製品に対し、モルトエキスを0.005〜0.2質量%添加する、請求項1記載の酸味のマスキング方法。
【請求項3】
酸味を呈する可食性製品が、飲料、調味料、漬物又は惣菜である、請求項1又は2に記載の酸味のマスキング方法。

【公開番号】特開2011−254809(P2011−254809A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104908(P2011−104908)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】