説明

酸性で安定なコロイダルシリカの製造方法

【課題】イオン交換樹脂による脱アルカリ処理の必要がなく、しかも、必要な場合には高純度であって酸性で安定なコロイダルシリカを容易にかつ安価に製造することができる酸性で安定なコロイダルシリカの製造方法を提供する。
【解決手段】コロイダルシリカと有機酸アルミニウムとを、これらシリカ(SiO2)に換算されたコロイダルシリカとアルミナ(Al2O3)に換算された有機酸アルミニウムとがAl2O3/SiO2モル比5×10-7以上となるように混合し、加熱温度100℃以上及び加熱時間0.5時間以上の処理条件で加熱処理する、酸性で安定なコロイダルシリカの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酸性で安定なコロイダルシリカの製造方法に係り、特に、酸性分散液中でも凝集やゲル化を起こし難く、長期に亘って安定した分散状態を維持することができる酸性で安定なコロイダルシリカの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コロイダルシリカは、例えば半導体、セラミックス、紙、繊維、鉄鋼、建築等の多くの分野で、研磨剤、バインダー、物性改良剤、金属表面処理剤、地盤改良注入剤等の種々の用途に幅広く用いられている有用な物質である。
【0003】
そして、このコロイダルシリカを工業的に製造する方法としては、珪酸ソーダ水溶液をイオン交換する方法、四塩化珪素の熱分解法、オルガノシリケートを酸性又はアルカリ性の触媒の存在下に水−アルコール混合溶媒中で加水分解・縮合する方法等が提案され実施されているが、コロイダルシリカは、一般に、アルカリ性分散媒中で安定であって、酸性分散媒中では、短時間でコロイダルシリカどうしが凝集したり、ひいてはゲル化する等、安定性に欠けるという問題がある。
【0004】
しかるに、コロイダルシリカの分散媒がアルカリ性に限られることは、コロイダルシリカの用途をかなり制限することになり、例えば半導体装置の製造工程でシリコンウエハの鏡面研磨用等の研磨剤、酸化チタン光触媒等のハードコート剤用途において有機溶剤と混合使用されるバインダー、セラミック炉材やセラミックスファイバー等のセラミックス用途において使用されるバインダー、クロム酸系の金属表面処理剤、地盤改良注入剤等の種々の用途においては、アルカリ性以外の中性や酸性の分散媒中で安定的に用いることができるいわゆる酸性で安定なコロイダルシリカが求められている。
【0005】
そこで、このような酸性分散媒中で用いることができるコロイダルシリカについて、これまでに幾つかの提案がされている。
例えば、特開昭63-123,807号公報には、重合度の低いポリケイ酸の水溶液からなる酸性ケイ酸液と、アルミン酸ナトリウムや硫酸アルミニウム等の水溶液からなるアルミニウム化合物水溶液とを、シリカ含有アルカリ水溶液又はアルカリ金属水酸化物水溶液に添加して得られたアルミニウム含有アルカリ性シリカゾルを、又は、アルミニウム化合物が混在する酸性ケイ酸液をシリカ含有アルカリ水溶液又はアルカリ金属水酸化物水溶液に添加して得られたアルミニウム含有アルカリ性シリカゾルを、陽イオン交換樹脂で脱アルカリ処理して酸性シリカゾルを製造する方法が提案されている。
【0006】
また、特開平6-199,515号公報には、(a) コロイダルシリカの粒子径が4〜30mμmであり、かつpHが2〜9であるシリカゾルに、Al2O3/SiO2モル比が0.0006を越えるが、0.004以下になるように、アルミン酸アルカリ水溶液を添加する工程、(b) 上記(a)工程で得られたシリカゾルを80〜250℃で0.5〜20時間加熱する工程、及び(c) 上記(b)工程で得られたシリカゾルを陽イオン交換樹脂又は陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂に接触させることにより、pHが2〜5の酸性シリカゾルを生成させる工程からなる、コロイダルシリカの粒子径が4〜30mμmであり、pHが2〜5である安定な酸性シリカゾルを製造する方法が提案されている。
【0007】
更に、特開2005-162,533号公報には、加水分解可能なケイ素化合物を加水分解・縮合して得られたコロイダルシリカを、シランカップリング剤等の変性剤で変性することにより、酸性分散媒であってもコロイダルシリカの凝集やゲル化を起こすことなく、長期間安定分散可能な変性コロイダルシリカを製造する方法が提案されている。
【0008】
しかしながら、特開昭63-123,807号公報や特開平6-199,515号公報に記載の方法においては、一旦アルミニウム化合物含有アルカリ性シリカゾルを調製し、次いでイオン交換樹脂で脱アルカリ処理する必要があり、このために製造コストが嵩むほか、脱アルカリ処理の際にイオン交換樹脂による汚染やイオン交換によるイオン除去の限界があって、例えば近年の半導体製造用研磨剤等の用途に要求される高純度のコロイダルシリカを製造するには適していないという問題がある。また、特開2005-162,533号公報に記載の方法においては、得られるコロイダルシリカの表面がシランカップリング剤等の変性剤により変性されているために、例えば有機の変性剤が使用された場合、紫外線に弱いために、コロイダルシリカが残存する材料等の用途には適さない場合があるほか、変性剤からの汚染もあって例えば半導体研磨剤、高純度セラミックス等の用途には適さない場合があるという問題がある。
【0009】
【特許文献1】特開昭63-123,807号公報
【特許文献2】特開平6-199,515号公報
【特許文献3】特開2005-162,533号公
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明者らは、イオン交換樹脂による脱アルカリ処理の必要がなくて安価に製造することができ、また、必要により高純度の酸性で安定なコロイダルシリカを容易にかつ安価に製造することができる酸性で安定なコロイダルシリカの製造方法について鋭意検討した結果、コロイダルシリカに有機酸アルミニウムを所定の割合で添加して所定の条件で加熱処理することにより、イオン交換樹脂による脱アルカリ処理の必要がなく、しかも、必要な場合には高純度の酸性で安定なコロイダルシリカを容易にかつ安価に製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
従って、本発明の目的は、イオン交換樹脂による脱アルカリ処理の必要がなく、しかも、必要な場合には高純度であって酸性で安定なコロイダルシリカを容易にかつ安価に製造することができる酸性で安定なコロイダルシリカの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、コロイダルシリカと有機酸アルミニウムとを、これらシリカ(SiO2)に換算されたコロイダルシリカとアルミナ(Al2O3)に換算された有機酸アルミニウムとがAl2O3/SiO2モル比5×10-7以上となるように混合し、加熱温度100℃以上及び加熱時間0.5時間以上の処理条件で加熱処理することを特徴とする酸性で安定なコロイダルシリカの製造方法である。
【0013】
本発明において、原料として用いるコロイダルシリカは、珪酸ソーダ水溶液をイオン交換する方法、四塩化珪素の熱分解法、オルガノシリケートを酸性又はアルカリ性の触媒の存在下に水−アルコール混合溶媒中で加水分解・縮合する方法等、それがどのような方法で製造されたものであってもよいが、高純度の酸性で安定なシリカを製造するという観点からは、好ましくはオルガノシリケートを加水分解触媒の存在下に加水分解・縮合させて得られたコロイダルシリカであり、また、より高純度の酸性で安定なシリカを製造するという観点からは、より好ましくは金属不純物濃度がいずれも1ppm以下のオルガノシリケート、加水分解触媒及び純水を用いて製造されたコロイダルシリカであるのがよい。
【0014】
ここで、問題となる金属不純物については、具体的にはナトリウム(Na)、鉄(Fe)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、カリウム(K)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、カルシウム(Ca)等であり、これらはいずれもそれぞれ1ppm以下であるのがよく、好ましくは0.1ppm以下、より好ましくは10ppb以下であるのがよい。この金属不純物の含有量が0.1ppmを超えると、例えば高純度半導体材料等の用途には不向きになり、その用途が制限される。
【0015】
本発明において、オルガノシリケートとしては、特に限定されないが、好ましくは下記の一般式(1)
HxRySi(OR)z …… (1)
(但し、式中、Rは炭素数1〜8の炭化水素基を示し、互いに同じであっても異なっていてもよく、また、x,y,zは0〜4のいずれかの整数であってこれらの合計(x+y+z)が4である整数を示す。)で表されるテトラアルコキシシラン類が用いられる。
【0016】
ここで、一般式(1)において、x=0、y=0及びz=4の化合物としては、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン等を例示することができる。
【0017】
また、一般式(1)において、x=0、y=1及びz=3の化合物としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、エポキシトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、3-ブテニルトリメトキシシラン、メタクリロキシトリメトキシシラン、メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、アクリロキシエトキシトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アリルアミノプロピルトリメトキシシラン等や、ビニルトリエトキシシラン、エポキシトリエトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、3-ブテニルトリエトキシシラン、メタクリロキシトリエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリエトキシシラン、アクリロキシエトキシトリエトキシシラン、アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等や、ビニルトリプロポキシシラン、エポキシトリプロポキシシラン、アリルトリプロポキシシラン、3-ブテニルトリプロポキシシラン、メタクリロキシトリプロポキシシラン等や、ビニルトリブトキシシラン、エポキシトリブトキシシラン、アリルトリブトキシシラン、3-ブテニルトリブトキシシラン、メタクリロキシトリブトキシシラン等や、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、3-イソシアナートプロピルトリエトキシシラン等や、N-メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、アミノブチルトリメトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン、アミノトリプロポキシシラン、アミノトリブトキシシラン等や、メルカプトメチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、メルカプトメチルトリプロポキシシラン、メルカプトメチルトリブトキシシラン、メルカプトエチルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等や、アセトキシメチルトリメトキシシラン、アセトキシエチルトリメトキシシラン、アセトキシプロピルトリメトキシシラン等や、アセトキシメチルトリエトキシシラン、アセトキシエチルトリエトキシシラン等や、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、6-アジドスルフォニルヘキシルトリエトキシシラン、N-メチルアミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0018】
更に、一般式(1)において、x=1、y=0及びz=3の化合物としては、具体的には、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、トリブトキシシラン、トリフェノキシシラン等を挙げることができ、また、x=2、y=0及びz=2の化合物としては、具体的には、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン、ジプロポキシシラン、ジブトキシシラン、ジフェノキシシラン等を挙げることができ、更に、x=0、y=2及びz=2の化合物としては、具体的には、アセトキシメチルメチルジメトキシシラン、アセトキシエチルジメトキシシラン、アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノイソブチルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、ビス(3-シアノプロピル)ジメトキシシラン、イソブチルメチルジメトキシシラン、メルカプトメチルメチルジエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、N-メチルアミノプロピルメチルジメトキシシラン等を挙げることができる。
【0019】
この一般式(1)で表されるテトラアルコキシシラン類において、置換基Rとしては、好ましくは炭素数1〜8の低級アルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4の低級アルキル基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等を例示することができ、特に好ましくはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、及びテトライソプロポキシシランを挙げることができる。また、これらテトラアルコキシシラン類については、その1種のみを単独で用いることができるほか、2種以上の混合物として用いることもでき、更に、部分的に加水分解して得られる低縮合物として用いることもできる。
【0020】
また、上記加水分解触媒については、例えばナトリウム(Na)やカリウム(K)等のアルカリ金属の水酸化物や、アンモニア、塩化アンモニウム等のアンモニア触媒や、有機アミン、第四級アンモニウム化合物等を用いることができ、金属の混入を可及的に防止する必要がある半導体用途等の場合には、アンモニア触媒や、有機アミン類、第四級アンモニウム化合物類等を用いるのが好ましい。この加水分解触媒についても、その1種のみを単独で用いることができるほか、必要により2種以上の混合物として用いることもできる。
【0021】
ここで、上記有機アミン類としては、一級アミン、二級アミン及び三級アミンの種々のものを挙げることができ、具体的には例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ペンチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、N,N-ジメチルアミン、N,N-ジエチルアミン、N,N-ジプロピルアミン、N,N-ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、シクロヘキシルアミン、トリメチルイミジン、1-アミノ-3-メチルブタン、ジメチルグリシン、3-アミノ-3-メチルアミン、アンモニアピリジン、ピロール、ピペラジン、ピロリジン、ピペリジン、ピコリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルモノエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロオクタン、ジアザビシクロノナン、ジアザビシクロウンデセン等を例示することができる。
【0022】
また、上記第四級アンモニウム化合物類としては、具体的には例えば、テトラメチルアンモニウムハイドライド(TMAH)、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムハイドライド(コリン)、メチルトリヒドロキシエチルアンモニウムハイドライド、ジメチルジヒドロキシエチルアンモニウムハイドライド、テトラエチルアンモニウムハイドライド、トリメチルエチルアンモニウムハイドライド、テトラプロピルアンモニウムハイドライド、テトラブチルアンモニウムハイドライド等を挙げることができる。
【0023】
更に、本発明において原料として用いるコロイダルシリカについては、好ましくはその固形分濃度が10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であって、その平均粒子径が5nm以上500nm以下、好ましくは5nm以上300nm以下であるのがよい。コロイダルシリカの固形分濃度が10質量%以上であると、運送コストが安価に抑えられるほか、このコロイダルシリカを他の物質と混合してもある程度の高濃度を維持できるという利点がある。また、コロイダルシリカの平均粒子径が5nmより小さいと粒子としての存在が難しくなり、反対に、300nmより大きくなると分散安定性が低下して沈降する場合がある。
【0024】
そして、本発明において用いる有機酸アルミニウムとしては、それが入手可能又は製造可能なものであれば特に制限はないが、コロイダルシリカに溶解するものであればなおよく、この観点から、好ましくは分子中に1つ又は2つ以上の水酸基を有する水酸基含有有機酸アルミニウムであるのがよく、非発泡性、無臭、純度、経済性等の観点からより好ましくは乳酸アルミニウムである。
【0025】
この有機酸アルミニウムのコロイダルシリカに対する使用量については、シリカ(SiO2)に換算されたコロイダルシリカとアルミナ(Al2O3)に換算された有機酸アルミニウムとのAl2O3/SiO2モル比5×10-7以上である必要があり、好ましくはAl2O3/SiO2モル比5×10-7以上2×10-3以下の範囲内であるのがよい。このコロイダルシリカに対する有機酸アルミニウムの使用量がAl2O3/SiO2モル比5×10-7より低いと酸性領域での液の安定性が悪くなり、反対に、Al2O3/SiO2モル比2×10-3より高くなると酸性領域での液の安定性が低下するほか、粘度が上昇してゲル化する場合がある。
【0026】
本発明においては、上記コロイダルシリカに上記有機酸アルミニウムを添加し、加熱温度100℃以上及び加熱時間0.5時間以上、好ましくは1時間以上の処理条件で加熱処理して酸性で安定なシリカを製造する。この加熱処理において、加熱温度が100℃より低いと液を酸性にした際に粘度が上昇してゲル化することがあり、また、加熱時間が0.5時間より少ないと液を酸性にした際に粘度が上昇してゲル化する場合がある。
【0027】
このようにして製造された酸性で安定なコロイダルシリカは、原料コロイダルシリカの粒子径を保ったまま、酸性にしても凝集やゲル化を起こさず安定である。例えば本発明の実施例1で得られた6mPa・sのコロイダルシリカは、pH8のまま60℃で1ヶ月保管しても、また、酸性であるpH3に調整して60℃で1ヶ月保管して、6mPa・sのまま粘度の変化は見られない。
【0028】
また、このようにして製造された酸性で安定なコロイダルシリカは、酸性系の研磨剤の組成物に酸性で安定な砥粒として用いられる。つまり酸性銅配線研磨剤組成物として、他の酸と共存しても凝集やゲル化を起こすことがない安定性に優れた砥粒の性質を持つ。本発明は特開2000-183,003号公報の実施例のようにキナルジン酸や乳酸等の有機酸を含有し、pH2〜5付近の酸性になるような研磨組成物を調整した場合等に非常に適している。
【発明の効果】
【0029】
本発明の酸性で安定なシリカの製造方法によれば、イオン交換樹脂による脱アルカリ処理の必要がなくて安価に製造することができるほか、使用する製造原料について高純度のものを容易にかつ安価に入手することができるので、必要により高純度の酸性で安定なシリカを容易にかつ安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の実施の形態を具体的に説明する。
〔実施例1〕
〔原料コロイダルシリカの製造〕
攪拌機、温度計、コンデンサー付き留出管及びオルガノシリケート導入管を備えた5L容量のガラス製反応容器に、539.4gの純水、2,922gのメタノール、及び122.6gの28mass%-アンモニア水溶液を仕込み、次いでこの反応容器内の溶液を23℃に維持しながらこの溶液中に686gのテトラメチルシリケート(多摩化学工業社製正珪酸メチル)を攪拌下に2時間かけて連続的に供給し、テトラメチルシリケートの加水分解・縮合反応を行った。
【0031】
このテトラメチルシリケートの加水分解・縮合反応に用いたテトラメチルシリケート、純水、メタノール、及びアンモニア水溶液について、原子吸光分光光度計を用いて測定された金属不純物濃度は、テトラメチルシリケートがNa<4ppb、Fe<6ppb、Cu<6ppb、Al<6ppb、K<4ppb、Cr<10ppb、Ni<10ppb、Pb<6ppb、Mn<4ppb、Mg<4ppb、Zn<4ppb、及びCa<4ppbであって、純水がNa<4ppb、Fe<6ppb、Cu<6ppb、Al<6ppb、K<4ppb、Cr<10ppb、Ni<10ppb、Pb<6ppb、Mn<4ppb、Mg<4ppb、Zn<4ppb、及びCa<4ppbであって、メタノールがNa<4ppb、Fe<6ppb、Cu<6ppb、Al<6ppb、K<4ppb、Cr<10ppb、Ni<10ppb、Pb<6ppb、Mn<4ppb、Mg<4ppb、Zn<4ppb、及びCa<4ppbであって、アンモニア水溶液がNa<4ppb、Fe<6ppb、Cu<6ppb、Al<6ppb、K<4ppb、Cr<10ppb、Ni<10ppb、Pb<6ppb、Mn<4ppb、Mg<4ppb、Zn<4ppb、及びCa<4ppbであった。
【0032】
この加水分解・縮合反応終了後、放冷して得られた反応混合物を100℃に加熱し、留出管からメタノールと水とを留出させて反応容器内の反応混合物を1,400gまで濃縮し、原料として用いるコロイダルシリカを調製した。得られた原料コロイダルシリカはSiO2濃度21.5質量%、pH9.70、及び粘度3.2mPa・sであって、光子相関法で求めた平均粒子径が54.5nmであり、また、その金属不純物濃度(原子吸光分光光度計測定値)がNa<4ppb、Fe<6ppb、Cu<6ppb、Al<6ppb、K<4ppb、Cr<10ppb、Ni<10ppb、Pb<6ppb、Mn<4ppb、Mg<4ppb、Zn<4ppb、及びCa<4ppbであった。
【0033】
攪拌機、温度計、コンデンサー付き留出管及びオルガノシリケート導入管を備えた1L容量のガラス製反応容器に、上記の原料コロイダルシリカと乳酸アルミニウム〔金属不純物濃度(原子吸光分光光度計測定値):Na<4ppb、Fe<6ppb、Cu<6ppb、Al<6ppb、K<4ppb、Cr<10ppb、Ni<10ppb、Pb<6ppb、Mn<4ppb、Mg<4ppb、Zn<4ppb、及びCa<4ppb〕とを、表1に示すAl2O3/SiO2モル比となるように仕込み、表1に示す加熱温度及び加熱時間の処理条件で加熱還流(加熱処理)し、放冷して実施例1、4及び5の酸性コロイダルシリカを得た。
【0034】
〔実施例2〕
留出管からメタノールと水とを留出させて反応容器内の反応混合物を1,450gまで濃縮し、SiO2濃度20.0質量%、pH9.61、及び粘度1.9mPa・sであって、光子相関法で求めた平均粒子径が52.3nmである原料コロイダルシリカを用いた以外は、上記実施例1と同様にして実施例2の酸性コロイダルシリカを得た。
【0035】
〔実施例3〕
留出管からメタノールと水とを留出させて反応容器内の反応混合物を1,450gまで濃縮し、SiO2濃度19.9質量%、pH9.56、及び粘度4.6mPa・sであって、光子相関法で求めた平均粒子径が53.5nmである原料コロイダルシリカを用いた以外は、上記実施例1と同様にして実施例3の酸性コロイダルシリカを得た。
【0036】
得られた各実施例1〜5の酸性で安定なコロイダルシリカについて、そのSiO2濃度(mass%)、pH、及び粘度(mPa・s)を測定すると共に、光子相関法による平均粒子径(nm)を測定し、また、金属不純物濃度(原子吸光分光光度計測定値)を測定した。
【0037】
金属不純物濃度の測定結果は、いずれも原料コロイダルシリカと同様に、金属不純物濃度(原子吸光分光光度計測定値)がNa<4ppb、Fe<6ppb、Cu<6ppb、Al<6ppb、K<4ppb、Cr<10ppb、Ni<10ppb、Pb<6ppb、Mn<4ppb、Mg<4ppb、Zn<4ppb、及びCa<4ppbであった。
また、その他の結果を表1に示す。
【0038】
また、各実施例1〜5の酸性コロイダルシリカ中に、所定量の3.6mass%-塩酸を添加して表1に示すpH値に調整し、次いでこれをガラス容器に移し、密閉して60℃の恒温槽内に入れて保管する「1ヶ月保存試験」を実施し、ゲル化までの時間を測定すると共に、ゲル化しないものについては1ヶ月経過後にそのpH及び粘度(mPa・s)を測定した。結果を表1に示す。
【0039】
〔比較例1〕
上記の原料コロイダルシリカに3.6mass%-塩酸を添加して表1に示すpH値に調整し、上記各実施例1〜5の場合と同様にして1ヶ月保存試験を実施した。1ヶ月経過後に観察した性状と測定したpH及び粘度(mPa・s)の結果を表1に示す。
【0040】
〔比較例2〜5〕
上記の原料コロイダルシリカに乳酸アルミニウムを表1に示すAl2O3/SiO2モル比となるように仕込み、次いで表1に示す条件で加熱処理した後、得られた酸性コロイダルシリカに3.6mass%-塩酸を添加して表1に示すpH値に調整し、上記各実施例1〜5の場合と同様にして1ヶ月保存試験を実施した。1ヶ月経過後に観察した性状と測定したpH及び粘度(mPa・s)の結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の酸性で安定なコロイダルシリカの製造方法によれば、イオン交換樹脂による脱アルカリ処理の必要がなく、しかも、使用する製造原料について高純度のものを容易にかつ安価に入手することができるので、酸性で安定なコロイダルシリカを、また、必要により高純度の酸性で安定なシリカを容易にかつ安価に製造することができ、その工業的価値の高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカと有機酸アルミニウムとを、これらシリカ(SiO2)に換算されたコロイダルシリカとアルミナ(Al2O3)に換算された有機酸アルミニウムとがAl2O3/SiO2モル比5×10-7以上となるように混合し、加熱温度100℃以上及び加熱時間0.5時間以上の処理条件で加熱処理することを特徴とする酸性で安定なコロイダルシリカの製造方法。
【請求項2】
コロイダルシリカが、オルガノシリケートを加水分解触媒の存在下に加水分解・縮合させて得られたコロイダルシリカである請求項1に記載の酸性で安定なコロイダルシリカの製造方法。
【請求項3】
コロイダルシリカは、金属不純物濃度がいずれも1ppm以下のオルガノシリケート、加水分解触媒及び純水を用いて製造されたコロイダルシリカである請求項2に記載の酸性で安定なコロイダルシリカの製造方法。
【請求項4】
加水分解触媒が、アンモニア触媒又は有機アミン触媒である請求項2又は3に記載の酸性で安定なコロイダルシリカの製造方法。
【請求項5】
コロイダルシリカは、固形分濃度が20質量%以上であって平均粒子径が5〜500nmである請求項1〜4のいずれかに記載の酸性で安定なコロイダルシリカの製造方法。
【請求項6】
有機酸アルミニウムが、水酸基を有する水酸基含有有機酸アルミニウムである請求項1〜5のいずれかに記載の酸性で安定なコロイダルシリカの製造方法。
【請求項7】
水酸基含有有機酸アルミニウムが、乳酸アルミニウムである請求項6に記載の酸性で安定なコロイダルシリカの製造方法。