説明

酸性エンドセルラーゼ遺伝子

【課題】強酸性条件下でセルロース分解活性を示す酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子を提供する。
【解決手段】フォミトプシス・エスピーI53株(NITE P-559)由来の酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子。該遺伝子を含む組換えベクター。該組換えベクターを有する形質転換体。該形質転換体を培養することを含む、酸性エンドセルラーゼの製造方法。該形質転換体を、セルロースを含む培地においてpH1.5〜5.0の条件下で培養することを含む、糖類、有機酸、アルコール、及びアミノ酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば強酸性条件下でセルロース分解活性を示す酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子及びその利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の枯渇、地球レベルの炭酸ガス発生量の削減が叫ばれており、今後、石油価格の高騰が予想される。自然界に大量に存在しているセルロース系バイオマスをポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等の石油代替樹脂原料へと直接発酵することができれば、炭酸ガス発生量を増やすことなく安価に石油代替資源を入手できる。一方、セルロース系バイオマスを化成品原料となる酢酸、プロピオン酸等の有機酸へと直接発酵する技術が求められている。
【0003】
しかしながら、例えばポリ乳酸原料である乳酸やポリブチレンサクシネート原料であるコハク酸は有機酸であるため、セルロース系バイオマスを用いた直接発酵による有機酸の産生には、強酸性条件下で機能するセルラーゼが必要となる。
【0004】
通常、セルラーゼは弱酸性〜中性領域下で機能する。一方、近年、アルカリ性で機能するものが数多くクローニングされており、数々の改良が加えられ、洗剤用酵素として実用化されている。例えば、特許文献1には、バチルス・エスピー(Bacillus sp.)KSM-N131株由来のアルカリセルラーゼが開示されている。
【0005】
また、強酸性で機能するセルラーゼが、始源菌スルフォロバス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)より唯一クローニングされている(非特許文献1)。スルフォロバス・ソルファタリカスからクローニングされた酸性セルラーゼは低分子のセロオリゴ糖に作用するβグルコシダーゼであり、当該酸性セルラーゼを単独発現させてもセルロースを直接糖化することはできない。
【0006】
酸性エンドセルラーゼを菌体外に分泌生産する微生物として、パルプ製造工程用に開発されたトリコデルマ・エスピー(Trichodermasp.)SK-1919株(特許文献2)、木材腐朽試験に用いられるフォミトプシス・パルストリス(Fomitopsis palustris)(非特許文献2)が知られている。しかしながら、特許文献2には、トリコデルマ・エスピーSK-1919株由来のセルラーゼをコードする遺伝子に関する情報を記載していない。また、フォミトプシス・パルストリス由来のエンド-1,4-β-D-グルカナーゼをコードする遺伝子配列及び当該遺伝子配列によりコードされるアミノ酸配列が遺伝子データーベースに登録されている(非特許文献3)ものの、当該エンド-1,4-β-D-グルカナーゼが酸性エンドセルラーゼであるか否かは明らかではない。
【0007】
以上のように、強酸性下で、高分子のセルロースを分解できる酸性エンドセルラーゼは今まで単離されていなかった。
【0008】
【特許文献1】特開2001-231569号公報
【特許文献2】特開平6-38747号公報
【非特許文献1】Huang Y.ら, Biochem J., 2005年, Vol.385, p.581-588
【非特許文献2】Ishihara M.ら, Mokuzai kagakushi, 1984年, Vol.30, No.1, p.79-87
【非特許文献3】GenBank Accession No. AB299016, 2007年3月29日, インターネット<URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/viewer.fcgi?db=nuccore&id=134131317>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した実情に鑑み、強酸性条件下でセルロース分解活性を示す酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、pH2以下のような強酸性域でも常温でエンドセルラーゼ活性を示すフォミトプシス・エスピー(Fomitopsis sp.)I53株より酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子の単離に成功し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の(a)〜(d)のいずれか1記載の酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子である。
(a)配列番号1記載の塩基配列から成る遺伝子;
(b)配列番号1記載の塩基配列において、55番目〜735番目の塩基配列から成る遺伝子;
(c)(a)又は(b)記載の遺伝子の塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列から成り、且つ酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子;
(d)(a)又は(b)記載の遺伝子の塩基配列と相補的な塩基配列から成るDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子。
【0012】
また、本発明は、上述の遺伝子を含む組換えベクター、当該組換えベクターを有する形質転換体である。形質転換体へと形質転換する宿主としては、微生物、植物細胞、動物細胞、植物及び非ヒト動物が挙げられる。
【0013】
さらに、本発明は、上述の形質転換体を培養、生育又は飼育することを含む酸性エンドセルラーゼの製造方法である。
【0014】
また、本発明は、上述の遺伝子によりコードされる酸性エンドセルラーゼを用いてpH1.5〜5.0の条件下でセルロースを分解することを含む、糖類の製造方法である。さらに、本発明は、上述の形質転換体を、セルロースを含む培地においてpH1.5〜5.0の条件下で培養することを含む、糖類の製造方法である。糖類としては、セロオリゴ糖、セロビオース及びグルコースが挙げられる。
【0015】
また、本発明は、有機酸生産生物を、上述の遺伝子によりコードされる酸性エンドセルラーゼとセルロースとを含む培地においてpH1.5〜5.0の条件下で培養することを含む、有機酸の製造方法である。さらに、本発明は、上述の形質転換体単独又は上述の形質転換体と有機酸生産生物との組合せを、セルロースを含む培地においてpH1.5〜5.0の条件下で培養することを含む、有機酸の製造方法である。
【0016】
また、本発明は、アルコール生産生物を、上述の遺伝子によりコードされる酸性エンドセルラーゼとセルロースとを含む培地においてpH1.5〜5.0の条件下で培養することを含む、アルコールの製造方法である。さらに、本発明は、上述の形質転換体単独又は上述の形質転換体とアルコール生産生物との組合せを、セルロースを含む培地においてpH1.5〜5.0の条件下で培養することを含む、アルコールの製造方法である。
【0017】
また、本発明は、アミノ酸生産生物を、上述の遺伝子によりコードされる酸性エンドセルラーゼとセルロースとを含む培地においてpH1.5〜5.0の条件下で培養することを含む、アミノ酸の製造方法である。さらに、本発明は、上述の形質転換体単独又は上述の形質転換体とアミノ酸生産生物との組合せを、セルロースを含む培地においてpH1.5〜5.0の条件下で培養することを含む、アミノ酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子を用いることで、糖類、有機酸、アルコール、アミノ酸等の工業的に利用される物質を優れた生産性で製造できる。また、本発明によれば、糖類、有機酸、アルコール、アミノ酸等の生産性が向上するので、これら工業的に利用される物質生産の低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る遺伝子は、以下の(a)〜(d)のいずれか1記載の酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子である。
(a)配列番号1記載の塩基配列から成る遺伝子;
(b)配列番号1記載の塩基配列において、55番目〜735番目の塩基配列から成る遺伝子;
(c)(a)又は(b)記載の遺伝子の塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列から成り、且つ酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子;
(d)(a)又は(b)記載の遺伝子の塩基配列と相補的な塩基配列から成るDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子。
【0020】
(a)記載の遺伝子は、配列番号2記載のアミノ酸配列から成る酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子である。
【0021】
本願発明者等は、既存のセルラーゼとは違って広範な酸性条件下で強力な活性を示し、且つ常温の強酸性条件下でも十分な活性を示す各種セルラーゼを、菌体外に産生するフォミトプシス属微生物の新菌種としてフォミトプシス・エスピーI53株(以下、「I53株」という)を単離した。I53株は、2008年4月11日付で、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、受託番号NITE P-559として寄託されている。
【0022】
(a)記載の遺伝子は、I53株からのクローニングにより得られたcDNAである。(a)記載の遺伝子のゲノムDNA(配列番号3)と非特許文献3に記載のフォミトプシス・パルストリス由来のエンド-1,4-β-D-グルカナーゼをコードする遺伝子配列(配列番号4)とのアライメントを図1−1及び1−2に示す。図1−1及び1−2において、「Query」配列が(a)記載の遺伝子のゲノムDNA(配列番号3)であり、「Sbjct」配列が非特許文献3に記載のフォミトプシス・パルストリス由来のエンド-1,4-β-D-グルカナーゼをコードする遺伝子配列(配列番号4)である。当該アライメントに基づく相同性分析の結果、同一性は97%である。さらに、シグナル配列予測オンラインプログラムSignalP 3.0 Server(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)で配列番号1の塩基配列からリーダーシークエンス配列を予測したところ、配列番号1の塩基配列において、1番目〜54番目の塩基配列がシグナルペプチドをコードする。従って、(b)記載の遺伝子は、シグナルペプチドを除く成熟型酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子である。
【0023】
ここで、酸性エンドセルラーゼとは、酸性条件(pH0以上pH7.0未満)下でエンド型の作用様式で(すなわち、分子鎖内部で)セルロースを加水分解し、セロオリゴ糖、セロビオース及びグルコースを生産する酵素を意味する。エンドセルラーゼはカルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」という)等の非結晶性セルロースをよく加水分解することが知られている。本発明に係る遺伝子によりコードされる酸性エンドセルラーゼ(以下、「本発明に係る酸性エンドセルラーゼ」という)は、強酸性条件(pH3.0以下、特にpH1.5〜2.5)においてもセルロース分解活性を示す。本発明に係る遺伝子によりコードされるタンパク質が酸性エンドセルラーゼ活性を有することは、当該遺伝子を導入した形質転換体の培養物又は培養上清を、酸性条件下でエンドセルラーゼの基質となるCMCと反応させ、CMCの分解によって生じる還元糖の量を測定することにより判定することができる。還元糖量の定量法としては、Somogyi法、Tauber-Kleiner法、Hanes法(滴定法)、Park-Johnson法、3,5-ジニトロサリチル酸(DNS)法等の多数の定量法が知られているが、好適な1つの方法として、糖による銅イオンの還元を利用するSomogyi-Nelson法を用いることができる(福井作蔵 著「生物化学実験法1 還元糖の定量法 第2版」学会出版センター 1990年)。Somogyi-Nelson法のプロトコールの一例では、まず酵素反応液を100℃で10分加熱処理して反応を停止させ、その反応液と等量のSomogyi銅液(和光純薬社製等)を加えて混合し、100℃で10分加熱処理してから急速に冷却し、冷却後、等量のNelson試薬(和光純薬社製等)を加えて還元銅沈殿を溶解して発色させ、30分静置し、660nmでの吸光度を測定し、その測定値から、グルコースを標準糖として還元糖量を算出する。
【0024】
(c)記載の遺伝子は、(a)又は(b)記載の遺伝子の塩基配列において、1又は数個(例えば1〜10個、1〜5個)の塩基が置換、欠失または付加された塩基配列から成り、且つ酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子である。当該遺伝子は、例えば部位特異的突然変異誘発法等によって(a)又は(b)記載の遺伝子の変異型であって、変異前と同等の機能を有するものとして合成することができる。なお、遺伝子への変異導入方法としては、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法が挙げられる。また、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製))等を用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキットを用いて変異の導入が行われる。
【0025】
(d)記載の遺伝子は、(a)又は(b)記載の遺伝子の塩基配列と相補的な塩基配列から成るDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子である。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、例えばリン32で標識したプローブDNAを用いる場合には、5x SSC(0.75M NaCl、0.75Mクエン酸ナトリウム)、5x デンハルト試薬(0.1%フィコール、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%ウシ血清アルブミン)及び0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)から成るハイブリダイゼーション溶液中で、温度が45℃〜65℃、好ましくは55℃〜65℃である。また、洗浄ステップにおいては、2x SSC及び0.1%SDSから成る洗浄液中で、温度が45℃〜55℃、より好ましくは0.1x SSC及び0.1%SDSから成る洗浄溶液中で温度が45℃〜55℃である。
【0026】
本発明に係る組換えベクターは、本発明に係る遺伝子を含む組換えベクターである。適当なベクターに本発明に係る遺伝子を挿入することにより、本発明に係る組換えベクターを得ることができる。本発明に係る遺伝子を挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えばプラスミド、シャトルベクター、ヘルパープラスミド等が挙げられる。また該ベクター自体に複製能がない場合には、宿主の染色体に挿入することによって複製可能となるDNA断片であってもよい。
【0027】
例えば、プラスミドとしては、大腸菌(Escherichia coli)由来のプラスミド(例えばpET30b及びpET43.1a等のpET系、pBR322及びpBR325等のpBR系、pUC118、pUC119、pUC18及びpUC19等のpUC系、pBluescript、pBI221)、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)由来のバイナリープラスミド(例えばpBIN19由来のpBI系)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13等のYEp系、YCp50等のYCp系)等が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルス等の動物ウイルス、カリフラワーモザイクウイルス等の植物ウイルス、又はバキュロウイルス等の昆虫ウイルスをベクターとして用いることもできる。
【0028】
ベクターに本発明に係る遺伝子を挿入するには、まず適当な制限酵素で本発明に係る遺伝子のcDNAを切断し、次いで適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法が用いられる。またベクターと本発明に係る遺伝子のcDNAのそれぞれ一部に相同な領域を持たせることにより、PCR等を用いたin vitro法又は酵母等を用いたin vivo法によって両者を連結する方法であってもよい。
【0029】
また、本発明に係る組換えベクターは、本発明に係る遺伝子以外の他の遺伝子又はDNA断片を含んでいてもよい。例えば、上述の(b)記載の遺伝子は、成熟型酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子である。従って、当該成熟型酸性エンドセルラーゼが分泌発現されるべく、本発明に係る組換えベクターにおいて、宿主に適した分泌シグナルペプチド若しくは分泌タンパク質又は可溶性タンパク質をコードする遺伝子又はDNA断片の下流にフレームを合わせて(b)記載の遺伝子を配置する。このように配置することで、当該組換えベクターを導入した形質転換体から、(b)記載の遺伝子によりコードされる成熟型酸性エンドセルラーゼは、融合タンパク質として発現し、分泌されることとなる。例えば、大腸菌に適した可溶性タンパク質としては、例えばNusAタンパク質(cDNA:配列番号5、アミノ酸配列:配列番号6)が挙げられる。
【0030】
本発明に係る形質転換体は、本発明に係る組換えベクターを有する形質転換体である。本発明に係る形質転換体は、本発明に係る組換えベクターを宿主中に導入することにより得ることができる。宿主としては、本発明に係る遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではないが、微生物、植物細胞、動物細胞、植物、非ヒト動物、酵母及び昆虫細胞が挙げられる。
【0031】
形質転換に用いられる微生物としては、例えば大腸菌等のエッシェリヒア属、枯草菌等のバチルス属又はシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属に属する細菌が挙げられる。微生物への本発明に係る組換えベクターの導入方法としては、例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0032】
形質転換に用いられる植物としては、例えばイネ科、アブラナ科、ナス科、マメ科等に属する植物(下記参照)が挙げられる。
イネ科:イネ(Oryza sativa)、トウモロコシ(Zea mays)
アブラナ科:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)
ナス科:タバコ(Nicotiana tabacum)
マメ科:ダイズ(Glycine max)
【0033】
植物細胞又は植物(植物全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子等)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部等)を含む)への本発明に係る組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、PEG法等が挙げられる。
【0034】
形質転換に用いられる動物細胞としては、例えばサル細胞COS-7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞が挙げられる。動物細胞への本発明に係る組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
【0035】
形質転換に用いられる非ヒト動物としては、例えばウシ、ヤギ、ヒツジ、ニワトリ、ウズラが挙げられる。非ヒト動物への本発明に係る組換えベクターの導入方法としては、例えばモロニーマウス白血病ウイルス、モロニーマウス肉腫ウイルス、トリ白血病ウイルス、マウス肝細胞ウイルス、ヒト免疫不全ウイルスを用いる方法が挙げられる。
【0036】
形質転換に用いられる酵母としては、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等が挙げられる。酵母への本発明に係る組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる。
【0037】
形質転換に用いられる昆虫細胞としては、例えばSf9細胞が挙げられる。昆虫細胞への本発明に係る組換えベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0038】
一方、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等によって、本発明に係る遺伝子が宿主に組み込まれたか否かの確認を行うことができる。例えば、形質転換体からDNAを調製し、本発明に係る遺伝子に特異的なプライマーを設計してPCRを行う。次いで、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして本発明に係る遺伝子に対応するバンドとして増幅産物を検出することにより、形質転換されたことを確認する。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応等により増幅産物を確認する方法を採用してもよい。
【0039】
以上のようにして得られた形質転換体を用いることで、本発明に係る酸性エンドセルラーゼを製造することができる。例えば、宿主が微生物、植物細胞、動物細胞、酵母、昆虫細胞等である場合には、形質転換体を適宜培養し、培養物又は培養上清から当該酸性エンドセルラーゼを採取することができる。採取方法としては、溶媒抽出、ろ過、硫安塩析、カラムクロマトグラフィー、透析、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィー等の抽出や精製が挙げられる。また、本発明に係る酸性エンドセルラーゼが細胞又は菌体外へ分泌生産される場合には、培養上清自体を当該酸性エンドセルラーゼとして使用することもできる。また、宿主が植物である場合には、同様に、形質転換体(形質転換植物)を適宜生育し、当該形質転換植物全体、その器官又は植物組織より本発明に係る酸性エンドセルラーゼを採取することができる。さらに、宿主が非ヒト動物である場合には、形質転換体(形質転換動物)を適宜飼育し、当該形質転換動物個体又はその器官から本発明に係る酸性エンドセルラーゼを採取することができる。
【0040】
あるいは、本発明に係る組換えベクターを無細胞タンパク質合成系に適宜供することで、本発明に係る酸性エンドセルラーゼを製造することもできる。無細胞タンパク質合成系としては、例えば、小麦胚芽抽出物、昆虫抽出物、赤血球抽出物を利用した系等が挙げられる。
【0041】
一方、本発明に係る酸性エンドセルラーゼ又は上述の形質転換体(宿主が微生物、植物細胞、動物細胞、酵母又は昆虫細胞である)を用いて、酸性条件下でセルロースを分解することで、糖類を製造することができる。本発明に係る酸性エンドセルラーゼとして、上述の形質転換体から採取された培養上清や当該培養上清からの抽出物等を用いることができる。また、上述の形質転換体を用いて、糖類を製造する場合には、セルロースを培地に添加して当該形質転換体を培養する。セルロースとしては、セルロースそれ自体以外に、例えばセルロース部分分解物(セロオリゴ糖、セロビオース、βグルコシド等)、植物細胞壁(ヘミセルロース、ペクチン質、リグニン等に結合したセルロースによって構成される)、綿や麻等の天然繊維品、レーヨン、キュプラ、アセテート、リヨセル等の再生繊維品、セルロース系バイオマスやセルロース系廃棄物(稲わら、籾殻、木材チップ等の農産廃棄物、バクテリアセルロースのナタデココ等の食品廃棄物等)が挙げられる。本発明に係る糖類製造方法において得られる糖類としては、例えばセロオリゴ糖、セロビオース及びグルコースが挙げられる。
【0042】
反応液又は培地のpH値は、好ましくはpH1.5〜pH5.0、より好ましくはpH1.8〜4.5の酸性pH値である。このようなpH条件下で反応又は培養を行うことで、糖類を効率よく生産することができる。本発明に係る糖類製造方法において、生産された糖類を、反応液又は培養物(特に培養液)から、HPLC法、アルコール沈殿法、結晶化法等の当業者に公知の方法により精製することができる。あるいは、本発明に係る酸性エンドセルラーゼを用いて糖類を製造する場合には、反応液をそのまま糖類を豊富に含む溶液として利用することができる。一方、本発明に係る形質転換体を用いて糖類を製造する場合には、その培養液から形質転換体を除去した培養上清を調製し、それを、糖類を豊富に含む溶液として利用することができる。
【0043】
本発明に係る形質転換体(宿主が微生物、植物細胞、動物細胞、酵母又は昆虫細胞である)は、公知技術であるセルラーゼ生産生物と有機酸生産生物の共存培養に基づく有機酸製造方法において、強酸性条件下でも糖類を生産できるという利点を生かし、セルラーゼ生産生物として非常に有利に利用することができる。
【0044】
セルラーゼ生産生物と有機酸生産生物の共存培養に基づく有機酸製造方法は、特開2005-13131号並びにIyer P.V. and Lee Y.Y., Biotechnology Letters (1999) 21: p.371-373、Xu D.B. et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. (1989) 30, p.553-558、Kim D.M. et al., Biotechnol. Bioeng. (1992) 39 p.336-342及びMoresi. M. et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. (1991) 36, p.35-39等の文献に詳細に記載されている。例えば特開2005-13131号には、セルラーゼ生産菌(セルロース分解菌)の存在下でセルロース又はセルロースと澱粉の混合物を同時に加水分解して糖化した後、乳酸菌を加えて乳酸発酵を行うことによる、乳酸の製造方法が開示されている。特開2005-13131号には、さらに、セルロース又はセルロースと澱粉の混合物を含む培地において、セルラーゼ生産菌と乳酸菌の共生系による混合培養を行うことによる乳酸の製造方法が開示されている。従って本発明では、これらの文献に記載されたような公知の有機酸製造方法において、既存のセルラーゼ生産生物に代えて本発明に係る形質転換体を用いればよい。
【0045】
具体的には本発明は、本発明に係る形質転換体と有機酸生産生物とをセルロース存在下で共存培養することにより、有機酸を製造する方法に関する。本発明はさらに、本発明に係る酸性エンドセルラーゼ(本発明に係る形質転換体由来の培養上清等)とセルロースとを含む培地で有機酸生産生物を培養することにより、有機酸を製造する方法に関する。
【0046】
本発明に係る有機酸製造方法において使用する有機酸生産生物[及び生産される有機酸]としては、ストレプトコッカス属菌(例えばストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis))やラクトバチルス属菌(例えばラクトバチルス・ラクチス(Lactobacillus lactis)、ラクトバチルス・デルブルエキイ(Lactobacillus delbrueckii))等の乳酸菌[乳酸](Bai, DM, BIOTECHNOLOGY LETTERS, (2003), 25, 21, p.1833-1835)、代謝操作された大腸菌[乳酸](Zhou, SD, APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY, (2003), 69, 1, p.399-407)、リューコノストック属菌[乳酸]、ペニシリウム属菌[クエン酸]、グルコノバクター属菌[グルコン酸](Schulz, G., (1983) Gluconesaere, in: Ullmanns Ecyklopaedie der technischen Chemie, 4th Edn., 24, 783-793 Weinheim: Verlag Chemie)、アセトバクター属菌[酢酸](Gillis, M. et al., Int. J. Syst. Bacteriol., (1980), 39, p.361-364)、アスペルギルス属菌[イタコン酸](Kautola, H., Appl. Microbiol. Biotechnol., (1990), 35, p.154-158)、リゾプス属菌[フマル酸](Moresi, M. et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., (1991), 36, p.35-39)、アスペルギルス属菌[リンゴ酸](Battat, E., et al., Biotechnol. Bioeng., (1991), 37, p.1108-1116)、アスペルギルス属菌[コウジ酸](Kwak, M., et al., Biotechnol. Bioeng., (1992), 39, p.903-906)、グルコノバクター属菌[酒石酸](Yamada K, 醗酵工学雑誌, (1971) 49, (2), p.85-92)等が挙げられる。
【0047】
ここで、「共存培養」とは、培養期間の少なくとも一部において、本発明に係る形質転換体と有機酸生産生物とが、同じ培地中で互いを排除することなく生育(増殖)していることを意味する。
【0048】
本発明に係る有機酸製造方法において培養に使用する培地、培養温度、培養時間等は、使用する有機酸生産生物に適した培養条件に、本発明に係る形質転換体の生育可能範囲等を考慮して必要に応じて多少の変更を加えることにより、当業者が適宜設定することができる。なお、pH値は、上述の本発明に係る糖類製造方法における値と同様にすることで、有機酸を効率よく生産することができる。
【0049】
セルラーゼ生産生物と有機酸生産生物を用いた従来の有機酸製造方法では、生産された有機酸により培地のpHが徐々に低下し、その結果、セルロース分解活性の低下をもたらすため、培養中の培地におけるpH低下を防ぐ必要があったが、本発明では、強酸性条件下でも十分なセルロース分解活性を示す本発明に係る酸性エンドセルラーゼを利用するため、培地のpH調整がほとんど不要になり、非常に有利である。
【0050】
また、宿主として各種有機酸生産生物を用いて、本発明に係る形質転換体が作製された場合には、当該形質転換体を単独でセルロースを含む培地において上述の条件下で培養することで、各種有機酸を製造することができる。従来においては、セルロース、ヘミセルロース及びデンプン等の多糖類やオリゴ糖類を分解して単糖類を生成させる分解酵素をコードし、該分解酵素を細胞外に分泌及び/又は細胞表層に保持されるように発現可能に備えられるポリヌクレオチドと、有機酸生産に関連する酵素をコードするポリヌクレオチドとを導入した微生物を用いて、多糖類やオリゴ糖類を炭素源として利用して有機酸を生産することが知られている(特開2006-42719号公報)。そこで、当該有機酸生産微生物の作製において、本発明に係る遺伝子を上述のセルロース、ヘミセルロース及びデンプン等の多糖類やオリゴ糖類を分解して単糖類を生成させる分解酵素をコードするポリヌクレオチドとして使用することで、同様に有機酸生産微生物を得ることできる。
【0051】
セルラーゼはセルロースより精製したグルコースにより酵素反応が低下するため、生成したグルコースを速やかにエタノールに変換する技術が開発されている。例えば、エタノール発酵酵母の細胞表層にセルラーゼを固定する方法(国際公開第01/079483号パンフレット)、セロオリゴ糖資化能をエタノール発酵酵母に持たせる方法(特開平5-207885号公報)、セロオリゴ糖をエタノール発酵する能力を有するアルスリニウム属微生物(特開平6-277077号公報)、糸状菌由来のセルラーゼを添加した培地でエタノール発酵酵母を培養する方法(特開2005-58055号公報)等がある。
【0052】
従来のセルラーゼ生産生物とアルコール生産生物の共存培養に基づくアルコール製造方法に準じて、本発明は、本発明に係る形質転換体(宿主が微生物、植物細胞、動物細胞、酵母又は昆虫細胞である)とアルコール生産生物とをセルロース存在下で共存培養することにより、アルコールを製造する方法に関する。本発明はさらに、本発明に係る酸性エンドセルラーゼ(本発明に係る形質転換体由来の培養上清等)とセルロースとを含む培地でアルコール生産生物を培養することにより、アルコールを製造する方法に関する。
【0053】
炭化水素分解菌とアルコール生産生物の共存培養に基づくアルコール製造方法は、特開平6-197772号公報等の文献に詳細に記載されている。従って、本発明では、当該文献に記載されたような公知のアルコール製造方法において、既存の炭化水素分解菌に代えて本発明に係る形質転換体を用いればよい。
【0054】
本発明に係るアルコール製造方法において使用するアルコール生産生物[及びその生産されるアルコール類]としては、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)[エタノール]、ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)[エタノール]、クロストリジウム・アセトブチリクム(Clostridium acetobutylicum)[ブタノール]、クロストリジウム・バイジェリンキー(Clostridium beijerinckii)[プロパノール]、バチルス・ポリミクサ(Bacillus polymyxa)[ブタンジオール]等が挙げられる。
【0055】
ここで、「共存培養」とは、培養期間の少なくとも一部において、本発明に係る形質転換体とアルコール生産生物とが、同じ培地中で互いを排除することなく生育(増殖)していることを意味する。
【0056】
本発明に係るアルコール製造方法において培養に使用する培地、培養温度、培養時間等は、使用するアルコール生産生物に適した培養条件に、本発明に係る形質転換体の生育可能範囲等を考慮して必要に応じて多少の変更を加えることにより、当業者が適宜設定することができる。なお、pH値は、上述の本発明に係る糖類製造方法における値と同様にすることで、アルコールを効率よく生産することができる。
【0057】
また、宿主として各種アルコール生産生物を用いて、本発明に係る形質転換体が作製された場合には、当該形質転換体を単独でセルロースを含む培地において上述の条件下で培養することで、各種アルコールを製造することができる。
【0058】
一方、コリネバクテリウム属細菌は、グルコース等を用いたアミノ酸発酵によりアミノ酸を生成することが知られている。そこで、例えば、従来では、細胞表層に糖質分解酵素を提示するように組み換えられた、アミノ酸発酵能を有するコリネバクテリウム属細菌を用いて、バイオマスに由来する多糖類を主成分とする糖質材料からアミノ酸を製造する方法が知られている(特開2007-89506号公報)。
【0059】
このような従来のアミノ酸製造方法に準じて、本発明は、本発明に係る形質転換体(宿主が微生物、植物細胞、動物細胞、酵母又は昆虫細胞である)とアミノ酸生産生物とをセルロース存在下で共存培養することにより、アミノ酸を製造する方法に関する。本発明はさらに、本発明に係る酸性エンドセルラーゼ(本発明に係る形質転換体由来の培養上清等)とセルロースとを含む培地でアミノ酸生産生物を培養することにより、アミノ酸を製造する方法に関する。
【0060】
ここで、「共存培養」とは、培養期間の少なくとも一部において、本発明に係る形質転換体とアミノ酸生産生物とが、同じ培地中で互いを排除することなく生育(増殖)していることを意味する。
【0061】
本発明に係るアミノ酸製造方法において使用するアミノ酸生産生物[及びその生産されるアミノ酸]としては、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)[リジン]、ブレビバクテリウム・フラヴァム(Brevibacterium flavum)[グルタミン酸]、バチルス・サブチリス(枯草菌)[トリプトファン]等が挙げられる。
【0062】
本発明に係るアミノ酸製造方法において培養に使用する培地、培養温度、培養時間等は、使用するアミノ酸生産生物に適した培養条件に、本発明に係る形質転換体の生育可能範囲等を考慮して必要に応じて多少の変更を加えることにより、当業者が適宜設定することができる。なお、pH値は、上述の本発明に係る糖類製造方法における値と同様にすることで、アミノ酸を効率よく生産することができる。
【0063】
また、宿主として各種アミノ酸生産生物を用いて、本発明に係る形質転換体が作製された場合には、当該形質転換体を単独でセルロースを含む培地において上述の条件下で培養することで、各種アミノ酸を製造することができる。
【0064】
以上に説明したように、本発明に係る遺伝子によれば、強酸性条件下でセルロース分解活性を示す酸性エンドセルラーゼが提供されるので、当該酸性エンドセルラーゼを用いて、強酸性条件下で糖類、有機酸、アルコール、アミノ酸等の工業的に利用される物質を製造することができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0066】
〔実施例1〕I53株由来の酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子のクローニング及び当該酸性エンドセルラーゼの活性
1. I53株由来の酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子のクローニング
I53株の菌糸を、以下に示す前培養用培地(10mL)に接種し、25℃で100rpmにおいて5日間往復振盪培養した。
【0067】
<前培養用培地組成>
(NH4)2SO4:2g
KCl:0.1g
KH2PO4:0.5g
MgSO4:0.5g
CaCl2:0.3g
yeast extract:1g
peptone:10g
glucose:5g
H20:1L
(全て溶かしてオートクレーブ、pHは調整なし)
【0068】
次いで、生育した菌糸を無菌的に採取し、以下に示す酸性培地(30ml、pH2)に移し、25℃で100rpmにおいて3日間往復振盪培養した。
【0069】
<酸性培地組成>
ろ紙細片:0.3g
(NH4)2SO4:2g
KCl:0.1g
KH2PO4:0.5g
MgSO4:0.5g
CaCl2:0.3g
yeast extract:0.001g
(硫酸でpHを調整し、H2Oで1Lに液量調整後、オートクレーブ滅菌)
【0070】
このようにして得られた菌糸(100mg)を乳鉢に移し、液体窒素中で乳棒を用いて破砕した。次いで、RNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN)を用いて、破砕した菌体より全RNAを抽出した。得られた全RNAを用いて、SMART RACE cDNA Amplification Kit(Clontech)によりcDNA合成を行った。
得られたcDNAを鋳型として用いて、以下に示すPCR反応を行った。
【0071】
<プライマー>
プライマー1:5'-TGY GAR AAY YTN TGG GGN-3'(配列番号7)
プライマー2:5'-ACT ATA GGG CAA GCA GTG GTA TC-3'(配列番号8)
【0072】
<PCR反応カクテル>
cDNA:0.5μl
0.1mMプライマー1:0.5μl
0.01mMプライマー2:0.5μl
10×LA Taq Buffer:2μl
2.5mM dNTPs:1.6μl
イオン交換水:14.5μl
LA Taq:0.4μl
(LA Taq、10×LA Taq Buffer及び2.5mM dNTPsはタカラバイオ社製のものを使用した)
【0073】
<PCR条件>
95℃で2分間加熱後、95℃で10秒間、53℃で10秒間及び72℃で1分間のサイクルを35回繰り返した。反応終了後、一度72℃で7分間加温後に、15℃に温度を下げた。
【0074】
反応終了後のPCR反応液を1%アガロースゲル電気泳動に供し、DNAマーカーの移動度を基に400〜1000bpのDNAフラグメントを含むゲルを切り出した。切り出したゲルについてQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いてDNA精製を行った。
【0075】
得られたDNAをPCRの鋳型として用いて、さらに以下に示すPCR反応により全長のcDNAを得た。
【0076】
<プライマー>
プライマー3:5'-TAY GAR ATH ATG ATH TGG YT-3'(配列番号9)
プライマー4:NUP(Clontech社製SMART RACE cDNA Amplification Kit)
【0077】
<PCR反応カクテル>
精製DNA:1μl
0.1mMプライマー3:0.8μl
0.01mMプライマー4:0.8μl
10×LA Taq Buffer:2μl
2.5mM dNTPs:1.6μl
イオン交換水:13.4μl
LA Taq:0.4μl
(LA Taq、10×LA Taq Buffer及び2.5mM dNTPsはタカラバイオ社製のものを使用した)
【0078】
<PCR条件>
95℃で1分間加熱後、95℃で10秒間、49℃で10秒間及び72℃で30秒間のサイクルを35回繰り返した。反応終了後、一度72℃で7分間加温後に、15℃に温度を下げた。
【0079】
上記と同様に、反応終了後のPCR反応液を1%アガロースゲル電気泳動、QIAquick Gel Extraction Kitを用いた精製に供した。
【0080】
得られた精製DNA断片を、クローニングベクターp-GEMT-easy(プロメガ社製)に挿入した。常法によりクローニングされたDNA断片をシークエンシングに供したところ、I53株由来の酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子の部分配列を得た。得られた配列を元に5'RACE用プライマーを設計し、5'RACEを行った。
【0081】
<5'RACE反応液組成>
5'RACE用cDNA:1μl
10μM UPM:5μl
10μM I53 5'RACE3:1μl
LA Taq:1μl
10×LA Taq Buffer:5μl
2.5mM dNTPs:4μl
ミリQ水:33μl
(UPMは、SMART RACE cDNA Amplification Kit (Clontech)に含まれるものである)
【0082】
<プライマー>
I53 5'RACE3:5'-GAT CGT CTG CCA GTT GGA GTT CGG GCC G-3'(配列番号10) 28mer
【0083】
<PCRサイクル>
1. 95℃:2分
2. 95℃:10秒
3. 72℃:10秒
4. 72℃:1分
5. 72℃:7分
6. 15℃:∞
(2〜4を35回。ただし、サイクル3の温度は1サイクル毎に0.5℃ずつ68℃まで8サイクルかけて下げた。残りの27サイクルは68℃で行った。)
【0084】
得られたPCR産物を2%アガロースゲル電気泳動に供し、約650bpのバンドをゲルから切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いたDNA精製に供した。精製したDNAを市販されているTAクローニング用ベクターpGEM-T easy(Promega)にライゲーションし、定法に従って塩基配列を決定した。その結果、配列番号1に示されるI53株由来の酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子の全長配列を得た。
【0085】
2. I53株由来の酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子を有する発現ベクター構築
シグナル配列予測オンラインプログラムSignalP 3.0 Server(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)で配列番号1の塩基配列からリーダーシークエンス配列を予測したところ、翻訳した最初の18アミノ酸残基がシグナルペプチドである確率が0.999であり、また18番目のアミノ酸残基と19番目のアミノ酸残基との間がシグナルペプチダーゼによって切断される確率が0.444であることが示された。このことから、18番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列(Met-Gln-Leu-Arg-Thr-Ser-Phe-Val-Leu-Ala-Ala-Val-Ala-Val-Ser-Ala-Gln-Ala)がシグナル配列であると断定した。
【0086】
常法により、配列番号1に示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列(配列番号2)の19番目のアミノ酸がN末端アミノ酸になり、且つベクターのNusAタンパク質(塩基配列:配列番号5、アミノ酸配列:配列番号6)のDNA配列フレームに合うようにPCRを用いて、配列番号1の塩基配列において55番目の塩基の5'側にBamHI制限酵素切断部位を、配列番号1の塩基配列の3'側にHindIII制限酵素切断部位を付与した。このDNA断片を発現ベクターpET43.1a(Novagen社製)のBamHI制限酵素切断部位とHindIII制限酵素切断部位との間に挿入した。
【0087】
このようにして構築した発現ベクターを用いて遺伝子を発現させると、N末端側にNusAタンパク質を有する融合タンパク質として配列番号2に示されるアミノ酸配列において19番目のアミノ酸から244番目のアミノ酸までのアミノ酸配列を有するタンパク質を発現させることができる。
【0088】
3. I53株由来の酸性エンドセルラーゼの発現
上記第2節で得られた発現ベクターを用いて、大腸菌BL21を形質転換した。50μg/mlのアンピシリンを含むLBプレート上に生えたコロニーを分離した。
【0089】
得られたコロニーを、50μg/mlのアンピシリンを含むLB液体培地(5ml)に接種し、25℃で16時間、前培養した。前培養後、培養液(4mL)を同じ組成の本培養液体培地(100mL)に植菌して、20℃で4時間培養した。本培養後、終濃度10μMのIPTGを添加し、さらに20℃で20時間培養した。
【0090】
次いで、IPTG誘導後の本培養液を遠心分離に供することで大腸菌を回収し、得られた菌のペレットを10mM酢酸ナトリウム緩衝液(5mL、pH4)に懸濁した。懸濁液を氷水中で冷却しながら超音波破砕に供した(装置:セントラル科学社製BRANSON SONIFIER 250、Output:25%、Duty Cycle:20%、Time:3min)。次いで、遠心分離により上清の粗酵素液を細胞破砕物より分離し、さらに0.2μmのフィルターを用いたろ過に供した後、吸水剤(アトー社製みずぶとりくん)を用いて大腸菌中に含まれている還元糖を除くと同時に1.3mlに溶液を濃縮した。
【0091】
4. I53株由来の酸性エンドセルラーゼの活性測定
終濃度1%の2%CMC(シグマ社製)と上記第3節の濃縮した大腸菌破砕液(8μl)を含む反応カクテル(60μl)を2つ調製した。一方の反応カクテルは1N塩酸を用いpH1.8に、他方は1Mグリシン塩酸を用いてpH3.6に調整した。なお、pHの確認は、pHメータを用いて行った。
【0092】
上記反応カクテルを25℃で15〜90分間反応させ、Somogyi銅液(50μl)を添加することにより酵素反応を停止させた。次いで、反応カクテルをサーマルサイクラーにおいて100℃で10分加熱した後、急冷し、Nelson試薬(70μl、和光純薬工業製)を加えることで、生じた一価の銅を溶解し、発色させた。
【0093】
発色30分後に、反応カクテルを660nmの吸光度測定に供した。得られた測定値を標品のグルコースと比較することにより、反応カクテル中に含まれる還元糖量を測定した。なお、1分間に1μmolの還元糖を生成する酵素量をエンドセルラーゼ活性の1単位(unit)とした。
【0094】
結果を図2に示す。図2において、横軸は各反応カクテル(1.8:pH1.8に調整した反応カクテル;3.6:pH3.6に調整した反応カクテル)であり、縦軸は各反応カクテルにおけるエンドセルラーゼ活性(単位(unit)/ml)を示す。
【0095】
図2に示すように、I53株由来の酸性エンドセルラーゼ含有反応カクテルにおけるpH1.8とpH3.6でのCMC分解活性(すなわち、エンドセルラーゼ活性)を測定したところ、それぞれ960unit/ml、1680unit/mlであった。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1−1】I53株由来の酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子のゲノムDNA(配列番号3)とフォミトプシス・パルストリス由来のエンド-1,4-β-D-グルカナーゼをコードする遺伝子配列(配列番号4:GenBank Accession No. AB299016)とのアライメントである。
【図1−2】図1−1の続きである。
【図2】I53株由来の酸性エンドセルラーゼ含有反応カクテルにおけるエンドセルラーゼ活性の測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(d)のいずれか1記載の酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子。
(a)配列番号1記載の塩基配列から成る遺伝子
(b)配列番号1記載の塩基配列において、55番目〜735番目の塩基配列から成る遺伝子
(c)(a)又は(b)記載の遺伝子の塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列から成り、且つ酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子
(d)(a)又は(b)記載の遺伝子の塩基配列と相補的な塩基配列から成るDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ酸性エンドセルラーゼをコードする遺伝子
【請求項2】
請求項1記載の遺伝子を含む組換えベクター。
【請求項3】
請求項2記載の組換えベクターを有する形質転換体。
【請求項4】
宿主が微生物、植物細胞又は動物細胞である、請求項3記載の形質転換体。
【請求項5】
請求項4記載の形質転換体を培養することを含む、酸性エンドセルラーゼの製造方法。
【請求項6】
宿主が植物である、請求項3記載の形質転換体。
【請求項7】
請求項6記載の形質転換体を生育することを含む、酸性エンドセルラーゼの製造方法。
【請求項8】
宿主が非ヒト動物である、請求項3記載の形質転換体。
【請求項9】
請求項8記載の形質転換体を飼育することを含む、酸性エンドセルラーゼの製造方法。
【請求項10】
請求項1記載の遺伝子によりコードされる酸性エンドセルラーゼを用いてpH1.5〜5.0の条件下でセルロースを分解することを含む、糖類の製造方法。
【請求項11】
請求項4記載の形質転換体を、セルロースを含む培地においてpH1.5〜5.0の条件下で培養することを含む、糖類の製造方法。
【請求項12】
糖類がセロオリゴ糖、セロビオース及びグルコースから成る群より選択される、請求項10又は11記載の方法。
【請求項13】
有機酸生産生物を、請求項1記載の遺伝子によりコードされる酸性エンドセルラーゼとセルロースとを含む培地においてpH1.5〜5.0の条件下で培養することを含む、有機酸の製造方法。
【請求項14】
請求項4記載の形質転換体を、セルロースを含む培地においてpH1.5〜5.0の条件下で培養することを含む、有機酸の製造方法。
【請求項15】
上記培養が、請求項4記載の形質転換体と有機酸生産生物との共存培養である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
アルコール生産生物を、請求項1記載の遺伝子によりコードされる酸性エンドセルラーゼとセルロースとを含む培地においてpH1.5〜5.0の条件下で培養することを含む、アルコールの製造方法。
【請求項17】
請求項4記載の形質転換体を、セルロースを含む培地においてpH1.5〜5.0の条件下で培養することを含む、アルコールの製造方法。
【請求項18】
上記培養が、請求項4記載の形質転換体とアルコール生産生物との共存培養である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
アミノ酸生産生物を、請求項1記載の遺伝子によりコードされる酸性エンドセルラーゼとセルロースとを含む培地においてpH1.5〜5.0の条件下で培養することを含む、アミノ酸の製造方法。
【請求項20】
請求項4記載の形質転換体を、セルロースを含む培地においてpH1.5〜5.0の条件下で培養することを含む、アミノ酸の製造方法。
【請求項21】
上記培養が、請求項4記載の形質転換体とアミノ酸生産生物との共存培養である、請求項20記載の方法。

【図1−1】
image rotate

【図1−2】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−45999(P2010−45999A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212080(P2008−212080)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】