説明

酸性オリゴ糖含有糖組成物の分析方法

【課題】フコイダンを加水分解して得られるフコースを含むオリゴ糖、特に、グルクロン酸とフコースとが結合した2糖以上のオリゴ糖や硫酸化フコースとフコースとが結合した2糖以上のオリゴ糖などの酸性オリゴ糖を含む組成物について、簡便に分析できる方法は存在していなかった。
【解決手段】液体クロマトグラフィーのカラムとしてアミノカラムを使用し、水とアセトニトリルと酸とを移動相に用いることで、化学修飾による前処理をすることなく、優れた感度と分離能で、酸性オリゴ糖含有組成物を分析することができる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性オリゴ糖を含有する糖組成物の簡便な分析方法に関し、更に詳細には、グルクロン酸とフコースとが結合した2糖以上のオリゴ糖及び/又は硫酸化フコースとフコースとが結合した2糖以上のオリゴ糖を含有する糖組成物から、化学修飾による前処理をすることなく、これらの酸性オリゴ糖を分離して分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食用海藻であるモズク、ワカメ、昆布などの褐藻類にはフコイダンと呼ばれるフコース及び硫酸化フコースを主要構成糖とする多糖が存在する。フコイダンは、抗血液凝固作用、脂血清澄作用(血液中のコレステロールや過酸化脂質を除去する作用)、抗腫瘍作用、癌転移抑制作用、抗エイズウイルス感染作用等の様々な生理活性を有することが報告され、医薬品及び食品素材として注目されてきている。中でも、生体の免疫機能を正常化する作用が注目されており、免疫機能調節作用を有する医薬品や食品素材として有用であると考えられている。
【0003】
フコイダンの構造は、由来となる藻類の種類やその生育環境などにより異なることが知られている。その理由の一つは、フコイダンの構成糖であるフコース、ガラクトース、キシロース、グルクロン酸、硫酸化フコース等の組成が、藻類の種類やその生育環境によって変動するためである。また、それら構成糖上のエステル結合及びグルコシド結合の位置が変動し得ることも、フコイダンの構造の多様性に寄与している。そのため、未だに多くのフコイダンの構造が特定されていない。優れた生理活性を有するフコイダンを食品や医薬品として用いるには、適切なフコイダンを選定することが重要であり、また、その品質管理や規格化において同定、定量法が必要である。
【0004】
フコイダンは分子量が極めて大きいため、そのまま飲食品や医薬品として用いる際には、吸収性、抗原性、均一性、抗凝血活性等に関する問題があることから、塩酸等の鉱酸による加水分解、あるいはギ酸、酢酸、酪酸などの有機酸による加水分解処理により、フコイダンからフコースを主成分として含むオリゴ糖を得る方法や、化学合成によりフコースを含むオリゴ糖を得る方法が種々提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、酸を外部から添加することなくフコイダンを加水分解してオリゴ糖を得る方法が記載されている。この場合の分析は、ゲルろ過モード(Superdex-peptide)で検出は低感度の示差屈折率(RI)を使用している。
【0006】
また、フコイダンの加水分解により得られ、構造が決定されたオリゴ糖がいくつか報告され、その分析方法も開示されている。例えば、特許文献2には、モズク等の藻類から得たフコイダンを酸加水分解してオリゴ糖を製造したことが記載されており、数種(フコビオース,キシロシルフコース)の低分子フコイダン由来オリゴ糖の構造を特定している。この場合の分析は、HPLCでの分析に汎用のNHカラムを使用し、検出にはRIを使用している。
【0007】
さらに、特許文献35及び特許文献4には、フコイダンを酵素的に加水分解して得たオリゴ糖の構造が開示されている。このオリゴ糖の分析はサンプルを還元末端を2−アミノピリジル化(PA化)後HPLCで分析し酢酸、トリエチルアミン、テトラヒドロフランを移動相としてHPLCで分析し、蛍光で検出している。
【0008】
一方、酸性糖を含むオリゴ糖の分析方法についても報告がなされている。例えば、グルクロノキシロオリゴ糖の分析方法として、HPLCでNHカラムを用い移動相にアセトニトリル、水、酢酸を用いた分析法(特許文献5)や、HPLC分析としてCarbo Pac PA-10カラム(ダイオネクス社)を用いイオンクロマト分析する方法が開示されている(特許文献62)。また、Shodex (R)のホームページ(インターネット:
1169813921167_0.html
)には、NHカラムを用い、移動相(溶離液)に燐酸ナトリウムを用いてガラクツロン酸のオリゴ糖をHPLC分析したことが記載されている。
【0009】
さらにまた、一般的な糖類の検出方法として、HPLCでの中性糖分析にアルギニンなどでポスト発色させる分析法(特許文献7)や、アルギニンなどでプレ発色させて分析する方法(特許文献8)が開示されている。ウロン酸含有多糖類、例えば、フコイダン、の分析に関し、ウロン酸含有多糖を、水溶性の縮合活性化試薬(例えば、カルボジイミド)と、アミノ基、ヒドラジノ基もしくはヒドラジド基を有しかつ蛍光性もしくは紫外線吸収性を有する物質とを用いて標識し、標識された多糖類をHPLCにて分離、分析、定量することも開示されている(特許文献9)。
【特許文献1】特開2002−226496号公報
【特許文献2】特開2000−351790号公報
【特許文献3】特開2003−199596号公報
【特許文献4】特開2004−339228号公報
【特許文献5】特開平1−226895号公報
【特許文献6】特開2003−183303号公報
【特許文献7】特開昭58−216953号公報
【特許文献8】特開昭61−25059号公報)
【特許文献9】特開2002−131233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
優れた生理活性を有するフコイダン、特に、フコイダンを加水分解して得られるフコースを含むオリゴ糖を食品や医薬品として用いるには、適切なフコイダン及び/又はフコイダンオリゴ糖を選定することが重要であり、また、その品質管理や規格化において同定、定量法が必要であった。しかし、グルクロン酸とフコースとが結合した2糖以上のオリゴ糖や硫酸化フコースとフコースとが結合した2糖以上のオリゴ糖などの酸性オリゴ糖について、簡便に分析できる方法は存在していなかった。化学合成したフコース含有オリゴ糖の製造方法が提案されているが、その分析においても簡便かつ高感度でそれらの物質の構造を同定し、分析できる方法はいまだ見出されていなかった。
【0011】
上記特許文献1は、物質を特定できる方法ではなく、上記特許文献2は、酸性糖を含むものではなく、個々のフコース含有酸性オリゴ糖の分離についても開示されていない。上記特許文献3及び4では、PA化という前処理を要し煩雑な分析工程となっている。上記特許文献5は、個々のフコース含有酸性オリゴ糖の分離については何ら開示されておらず、上記特許文献6では、個々のグルクロノキシロオリゴ糖の分離は困難であった。また、上記Shodex (R)のホームページにも、個々のフコース含有酸性オリゴ糖の分離については開示も示唆もされていない。
【0012】
本発明の課題は、酸性オリゴ糖の簡便かつ正確な分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため、液体クロマトグラフィー(HPLC)による酸性オリゴ糖の分離条件について検討した。その結果、液体クロマトグラフィーのカラムに官能基としてNHもしくはNHを有したカラム(アミノカラムと称する)を使用し、水とアセトニトリルと酸とを移動相に用いることで、化学修飾による前処理をすることなく、感度と分離能を確保できることを見出した。酸性度が異なる複数種類のオリゴ糖が混在する場合にも、移動相として酸性度や疎水度などが異なる二種以上の溶媒、具体的には酸の濃度勾配をつけたものを用いることで、分析が可能であることを確認した。そして、分離された酸性オリゴ糖は、示差屈折率検出器(RI)、紫外可視分光光度計検出器(UV)、蛍光検出器から選択される1又は2以上の検出器により検出でき、特に、RI又はUV検出器、もしくは、アルギニン発色によるUV又は蛍光検出器を用いると、高感度に分析できることを見出し本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は以下に関する。
1. グルクロン酸とフコースとが結合した2糖以上のオリゴ糖、硫酸化フコースとフコースとが結合した2糖以上のオリゴ糖、グルクロン酸と硫酸化フコースとが結合した2糖以上のオリゴ糖の少なくとも1種以上を含む糖組成物を分析する分析方法において、アミノカラムを用い、移動相としてアセトニトリルと水と酸とを含有する溶離液を用いた液体クロマトグラフィーによるオリゴ糖の分離工程を含むことを特徴とする、オリゴ糖含有糖組成物の分析方法。
2. 前記オリゴ糖が、フコダイン由来のオリゴ糖である、上記1に記載の分析方法。
3. 前記フコダイン由来のオリゴ糖が、フコダインの加水分解物である、上記2に記載の分析方法。
4. 前記移動相の酸が、鉱酸である、上記1〜3のいずれかに記載の分析方法。
5. 前記鉱酸が、リン酸、硫酸、塩酸及び過塩素酸から選択される1又は2以上の酸である、上記4に記載の分析方法。
6. 前記移動相が、鉱酸の濃度勾配をつけた溶離液である、上記1〜5のいずれかの項に記載の分析方法。
7. 分離したオリゴ糖を、示差屈折率検出器(RI)、紫外可視分光光度計検出器(UV)、蛍光検出器から選択される1又は2以上の検出器により検出することを特徴とする、上記1〜6のいずれかに記載の分析方法。
8. 分離したオリゴ糖を、アルギニン反応させた後、UV又は蛍光検出器により検出する上記7に記載の分析方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、特定の構造を有する酸性オリゴ糖、具体的には、グルクロン酸とフコースとが結合した2糖以上のオリゴ糖、硫酸化フコースとフコースとが結合した2糖以上のオリゴ糖、グルクロン酸と硫酸化フコースとが結合した2糖以上のオリゴ糖の少なくとも1種以上を含有する糖組成物から、これらのオリゴ糖を簡便に分離することができる。この分離では、プレ発光、標識化など化学修飾等の前処理をする必要がなく、固形分がある場合にも、例えば、0.45ミクロンのミクロフィルターでろ過する等の簡便な処理だけを行えばよい。また、本発明によると、酸性度の異なる酸性オリゴ糖が混在する場合にも、感度よく、分離することができるという利点もある。
【0016】
そして、この分離を利用した本発明の分析方法では、フコイダン由来の酸性オリゴ糖を簡便な方法でかつ短時間に高感度に分析が可能である。したがって、フコイダン及び/又はフコイダン由来酸性オリゴ糖を食品や医薬品を開発する場合に、従来、多大な時間を要していた適切なフコイダン及び/又はフコイダン由来酸性オリゴ糖の選択を、容易(短時間)に行うことができる。また、酸性オリゴ糖の製造又はこれらを含む食品や医薬品の製造における品質管理や規格化にも利用することができ、具体的には、フコイダン由来酸性オリゴ糖の製造の最適化や、フコイダン由来酸性オリゴ糖添加食品又は医薬品の品質保証を容易に行うことができ、さらに、有効量のフコイダン由来酸性オリゴ糖を配合した食品又は医薬品等を提供も可能となる。
【0017】
さらにまた、飲料などに含まれる酸性オリゴ糖の定量も簡便にかつ正確に感度高く行うことができるため、特定保健用食品の関与成分の分析等にも有効に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
糖組成物
本発明は、グルクロン酸とフコースとが結合した2糖以上のオリゴ糖(本明細書中、「GluA-Fn」と表記することもある)、硫酸化フコースとフコースとが結合した2糖以上のオリゴ糖(本明細書中、「Sfuc-Fn」と表記することもある)、グルクロン酸と硫酸化フコースとが結合した2糖以上のオリゴ糖(本明細書中、「GluA- Sfuc」と表記することもある)の少なくとも1種以上を含む糖組成物から、前記オリゴ糖を分離し、分析する方法を提供するものである。(2糖以上のオリゴ糖には、グルクロン酸とフコースと硫酸化フコースとが結合したようなオリゴ糖も含まれる。)
被検物質である糖組成物は、化学合成されたGluA-Fn、Sfuc-Fn、GluA- Sfucを含む糖組成物や、天然に存在するもの、例えば藻類又はその分解生成等により得られる糖組成物等、いずれのものでもよい。近年、生理活性が注目されているフコイダンを加水分解などの分解処理によって得られるフコイダン加水分解物にも利用可能である。また、食品、飲料、健康食品、経腸栄養組成物、ペットフードなどに含有されているものを、必要に応じて抽出、精製等を行うことにより得られる糖組成物も被検物質とすることができる。
【0019】
ここで、上記フコイダン加水分解物とは、フコース及び硫酸化フコースを主要構成糖とする多糖(硫酸化多糖)であるフコイダンを加水分解することにより得られる単糖及びオリゴ糖、又はこれらの誘導体、あるいはこれら混合物のことをいう。本発明の分析対象となるフコイダン加水分解物は、オリゴ糖及び/又はその誘導体であり、より好ましくは2〜10個の単糖からなるオリゴ糖、さらにより好ましくは2〜5個の単糖からなるオリゴ糖である。オリゴ糖を構成する単糖は、好ましくはフコース、硫酸化フコース、及び/又はグルクロン酸である。フコイダン加水分解物は、公知の方法、例えば、特開2000−351790、特開2002−226496号公報などの方法により製造される。
糖組成物の分離(分析)
本発明の分析方法では、各種酸性オリゴ糖の成分を、液体クロマトグラフィー(HPLC)により分離、定量する。
【0020】
HPLCには、アミノカラムを用い、移動相としてアセトニトリルと水と酸とを含有する溶離液を用いる。アミノカラムとは、アミノ基を表面にもつ樹脂を担体にしたものを、小型のカラム状容器に詰めたものを指す。このアミノカラムは、担体表面のアミノ基と糖鎖の水酸基を結合させ、非結合物である夾雑物を除去し、そしてアミノ基と糖鎖の結合を解離することにより、特定のオリゴ糖を分離するものである。従来よりアミノ基を表面にもつ樹脂を担体とするカラムは、糖鎖を特異的に吸着することが知られており糖鎖の分析にも利用されている。本発明のアミノカラムには、上記のとおり、官能基としてNHもしくはNHを有したカラムであれば、いずれのものも使用できる。
【0021】
上記のとおり、移動相には、アセトニトリルと酸と水を含有する溶液を使用する。この外に移動相のpHを一定に保つためにバッファーを使用してもよい。バッファーとして使用できる酸としては、塩酸、過塩素酸、燐酸、硫酸、硝酸などの鉱酸を用いることが好ましいが、酢酸、蟻酸、トリクロロ酢酸などの有機酸を用いることもできる。移動相の酸濃度及びアセトニトリル濃度は、溶出させるオリゴ糖の種類に応じて適宜変更すればよい。例えば、重合度の小さいオリゴ糖(重合度が2〜5、好ましくは2〜3)を分離するためにはアセトニトリルの濃度を高くすることにより、分離をよくすることができる。具体的には、アセトニトリルの濃度が、移動相中、40〜85%、好ましくは60〜75%となるようにする。また、重合度の高いオリゴ糖(重合度が3〜7、好ましくは4〜6)の分離には、アセトニトリルの濃度を移動相中、30〜80%(好ましくは60〜70%)とすることにより良好な分離能を確保できる。この場合、移動相における酸の濃度は適宜選択すればよいが、通常、10〜60mM(好ましくは、20〜40mM)である。
【0022】
また、被検物質となる糖組成物に、酸性度の異なるオリゴ糖、具体的にはグルクロン酸とフコースとが結合した2糖以上のオリゴ糖(GluA-Fn)や硫酸化フコースとフコース(Sfuc-Fn)やグルクロン酸と硫酸化フコースとが結合した2糖以上のオリゴ糖(GluA- Sfuc)とが混在している場合にも、移動相の酸に濃度勾配をつける、もしくは酸濃度の異なる二種以上の溶離液を用いることで、感度よく分離できる。具体的には、酸性度が低いグルクロン酸を側鎖に持つオリゴ糖の分離には、移動相の酸濃度を10〜60mM(好ましくは15〜50mM)とし、酸性度が高い硫酸化フコースを側鎖に持つオリゴ糖の分離には、移動相の酸濃度を30〜80mM(好ましくは40〜60mM)とする。
【0023】
HPLC分析の際のカラム温度は、糖のアノマー分離を防ぐため、加温することが好ましく、例えば、40〜80℃、より好ましくは50〜60℃である。
【0024】
なお、本発明の分析方法において、分析可能な被検物質の濃度は、各ピークが0.05%以上あることが好ましいが、後述の検出にアルギニン発色を用いる場合はより低濃度であっても分析可能であり、例えば、1ppm以上、好ましくは10ppm以上の濃度があれば可能である。
検出
検出には、公知の技術が用いられ、例えば示唆屈折率検出器(RI)、紫外可視分光光度計検出器(UV)、蛍光検出器など任意のものを用いることができる。中でも、RIを用いると、披検物質としてフコイダン加水分解物を用いた場合に、すべてのフコイダン由来オリゴ糖を検出できることから好ましい態様である。UVを用いる場合は、カルボキシル基の210nmの吸収を検出するため、硫酸化フコ−スとフコースからなる酸性オリゴ糖は検出できないが、グルクロン酸含有もしくはアセチル基を含有した酸性オリゴ糖の検出は高感度で行うことができる。より好ましい態様は、RIとUVとを直列に連結した分析である。この場合、RIで検出できて、UVで検出できないものが硫酸化フコ−スとフコースからなる酸性オリゴ糖であることがわかる。
【0025】
また別の好ましい態様として、分離されたオリゴ糖をアルギニン反応させてUV又は蛍光検出器で検出することが挙げられる。この場合、被検物質中のオリゴ糖をすべて高分解能で検出できる。特に、蛍光検出器を用いる場合には、高感度に分析できるので、被検物質の濃度が低濃度(1ppm程度)の場合にも分析可能であり、好適である。移動相の組成比を変えて分析する(グラジエント分析など)場合、RIやUV(210nm)の検出では、移動相の組成比の変化が影響して被検物質の定量分析ができないという問題があったが、本発明者らは、移動相の組成が経時的に変化する場合において、蛍光検出器を用いると高感度に定量分析できることも見出している。この観点からも、本発明の検出には、蛍光検出器を用いるのがよい。
【0026】
上記のように分離検出して行う本発明の分析方法は、サンプルを前処理することなく、直接HPLC分析のカラムに供すことができ非常に簡便なものである。しかも、分析時間は長くても60分、低分子で硫酸化フコースを含まないオリゴ糖の場合は20分程度、移動相グラジエント分析を行う場合でも、40分程度で分析することができる。
〔実施例〕
【0027】
以下に実施例を記載するが本発明は本実施例に限定されるものではなく、この考え方を用いたさまざまな実施も当然可能である。
【実施例1】
【0028】
フコイダン(沖縄発酵化学社製)に塩酸を加え、常法により加水分解処理を行い、フコイダン加水分解物を得た。これを中和した後、ろ紙でろ過して脱塩処理を行った。その後、6倍に減圧濃縮し、0.45ミクロンのフィルターでろ過し、ろ液(フコイダン由来オリゴ糖溶液)の10μlを、下記の条件でHPLC分析した。
カラム:資生堂 CAPCELL PAK NH2(4.6mmφ×250mm)
カラム温度:60℃
移動相:A アセトニトリル:100mM HCl=75:25 1ml/min
B アセトニトリル:133mM HCl=70:30 1ml/min.
検出: RI
ここで検出したピークを検出器の溶出液から分取し、質量分析機(Q−TOF;マイクロマス、マンチェスター(英国)製)を用い、ナノフローチューブを用い、イオン源にESI、Zスプレーを用い、キャピラリー電圧1000Vで、ネガティブモードでMSを測定し、RIで検出したピークに対応する物質の同定を行った。(以下、オリゴ糖の構成糖表示には、フコースをF、グルクロン酸をG、硫酸化フコースをS、アセチルフコースをFaと省略して記載する。)
図1−Aに、移動相Aで分析したRIで検出した結果を示す。
図1―Aにおいて;
ピーク1は、標準品(シグマアルドリッチ製)のフコースの溶出時間と一致した。
ピーク2は、MS分析でグルクロン酸1分子にフコース1分子が結合した糖(GF)であることが明らかになった。
ピーク3は、MS分析でグルクロン酸1分子にフコース2分子が結合した糖(GFF)であることが明らかになった。
ピーク4は、MS分析でグルクロン酸2分子にフコース2分子が結合した糖(GGFF)であることが明らかになった。
ピーク5は、MS分析でグルクロン酸2分子にフコース3分子が結合した糖(GGFFF)であることが明らかになった。
ピーク6は、MS分析でグルクロン酸2分子にフコース4分子が結合した糖(GGFFFF)であることが明らかになった。
ピーク7は、MS分析で硫酸化フコースであることが明らかになった。
【0029】
また、図1−Bに、移動相BでRIで検出した結果を示す。
ピーク1は、MS分析でグルクロン酸2分子にフコース4分子が結合した糖(GGFFFF)であることが明らかになった。
ピーク2は、MS分析でグルクロン酸1分子に硫酸化フコース1分子と、アセチル化フコース1分子とフコース1分子が結合した糖(GSFaF)であることが明らかになった。
ピーク3は、MS分析で硫酸化フコース1分子とフコース1分子が結合した糖(SF)であることが明らかになった。
ピーク4は、MS分析で硫酸化フコースであることが明らかになった。
ピーク5は、MS分析でグルクロン酸1分子に硫酸化フコース1分子とフコース1分子が結合した糖(GSF)とグルクロン酸1分子に硫酸化フコース1分子とフコース2分子が結合した糖(GSFF)の混合物であることが明らかになった。
ピーク6は、MS分析でグルクロン酸2分子に硫酸化フコース1分子とアセチルフコース1分子とフコース2分子が結合した糖(GGSFaFF)であることが明らかになった。
【0030】
このように、アミノカラム(NH2カラム)を用い、移動相にアセトニトリルと塩酸を用いたHPLCにより、酸性オリゴ糖を分離して検出することができた。また、酸性度の異なるオリゴ糖が混在する被検物質について、濃度の異なる二種の移動相(A,B)を適宜用いることにより、各種オリゴ糖を分離定量することできた。
【実施例2】
【0031】
フコイダン(沖縄発酵化学社製)に塩酸を加え、常法により加水分解処理を行い、フコイダン加水分解物を得た。これを中和した後、ろ紙でろ過し、さらに0.45ミクロンのフィルターでろ過し、減圧濃縮して得たサンプル10μl(フコイダン由来オリゴ糖溶液)を下記の条件でHPLC分析した。
カラム:ナカライ Cosmosil SugarD(4.6mmφ×250mm)(NHカラム)
カラム温度:60℃
移動相: アセトニトリル:100mM 過塩素酸=50:50 1ml/min
検出: RI、UV(210nm)(RIとUVを直列に接続)
RIの検出結果を図2−Aに、UVの検出結果を図2−Bに示す。
【0032】
上記の分析条件での、フコース、グルクロン酸の標準品のRIでのそれぞれ溶出時間は2.74分と2.92分であった。また、硫酸化フコースの溶出時間は33.40分であった。
【実施例3】
【0033】
実施例2と同様に、HPLCにNHカラムを用い、移動相に過塩素酸を用いて分析を行った。ただし、移動相のアセトニトリル濃度は実施例2よりも高く、過塩素酸濃度は実施例2よりも低い濃度で行った。すなわち、被検物質に、フコース、グルクロン酸、グルクロン酸1分子とフコース1分子とが結合した糖(GF)を含む糖組成物の2%溶液10μlを用い、下記の条件でHPLC分析した。
カラム:ナカライ Cosmosil SugarD(4.6mmφ×250mm)(NHカラム)
カラム温度:60 ℃
移動相溶媒: アセトニトリル:100mM 過塩素酸(80:20) 1ml/min
検出: RI、UV(210nm)(RIとUVを直列に接続)
フコース及びグルクロン酸のRIの検出結果を図3−Aに、GFのRIの検出結果を図3−B示す。図3に示されるように、RI検出で、フコースは3.583分、グルクロン酸は4.883分、GFは5.298分にピークを検出した。
【0034】
なお、UV(210nm)ではグルクロン酸及びGFは検出できたが、フコースは検出されなかった(図示せず)。
【実施例4】
【0035】
フコース、グルクロン酸、グルクロン酸1分子にフコース1分子が結合した糖(GF)の糖溶液を調製し、溶液それぞれ10μlについて、下記の条件でHPLC分析を行った。ただし、それぞれの濃度を低濃度とした(フコース:5ppm、グルクロン酸:100ppm、GF:100ppm)。
カラム:Cosmosil-sugar-Dカラム(4.6mm×250mm)、(NHカラム)
移動相:25mM HClO4/75%CH3CN、1ml/min
移動相:50mM HClO4/50%CH3CN、1ml/min
検出:アミノカラムの出口に三方コックを接続し、0.8ml/minで反応液(20mMアルギニンを含む、380mMホウ酸、152mM KOH(pH9.1)緩衝液)と混合し、150℃の反応槽で2.8分間、オンラインで反応後、RF−10AXL蛍光検出器(株式会社島津製作所)に導入し、ゲインx4でEx.320 nm、Em.430nm、感度中で検出した。
【0036】
移動相に25mM HClO/75%CHCN、1ml/minを用いることで(図4−1)、フコース(5ppm)(A)が4.58分、グルクロン酸(100ppm)(B)が7.042分、GF(100ppm)(C)が5.232分に高感度で検出できた。
【0037】
移動相に50mM HClO/50% CHCN、1ml/minを用いることで酸性糖(グルクロン酸及び硫酸化フコース)とグルクロン酸を含むオリゴ糖及び硫酸化フコースを含むオリゴ糖を高感度で検出できた(図4−2)。
【0038】
RI検出器と比較して100倍から1000倍の検出感度が得られた。
【実施例5】
【0039】
実施例4と同様に、フコース、グルクロン酸1分子にフコース1分子が結合した糖(GF)、硫酸化フコースの糖溶液を調製した。それぞれの糖溶液濃度は、10ppm、100ppm及び10ppmである。酸性度の高い硫酸化フコースSを含むオリゴ糖の分析のためにはHClO濃度を上げ、CHCN濃度を下げる必要があり、また、硫酸化フコースを含まないオリゴ糖の分離にはHClO濃度を下げ、CHCN濃度を上げる必要がある。これら全ての糖類を分析するために、下記の条件でHPLCのグラジエント溶出を行った。
カラム:Cosmosil-sugar-Dカラム(4.6mm×250mm)、(NHカラム)
移動相A:25mM HClO4/75% CH3CN、
移動相B:75mM HClO4/25% CH3CN、1ml/min
グラジエント:移動相B0%(5min)、B0%→B100%(15min)、
B100%(15min),
検出: カラム出口に三方コックを接続し、0.8ml/minで反応液(20mMアルギニンを含む、380mMホウ酸、152mM KOH(pH9.1)緩衝液)と混合し、150℃の反応槽で2.8分反応後、RF−10AXL検出器(株式会社島津製作所)に導入し、ゲインx4の感度で、Ex.320nm、Em.430nm、で測定した。
【0040】
分析結果を図5に示す、フコースは4.49分、GFは4.92分、硫酸化フコースSは26.87分に検出できた。
【実施例6】
【0041】
実施例5と同様の分析条件で、実施例2で調製したフコイダンオリゴ糖の0.2%溶液を分析した。
【0042】
分析結果を図6に示す。4.499分にフコースが検出され、26.893分に硫酸化フコースが検出され、これら2成分の溶出時間の間にオリゴ糖の溶出分離が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】フコイダン加水分解物を、実施例1によるHPLC分析を行った結果である。[図1―A]は移動相にアセトニトリル:100mMHCl(75:25)を用い、[図2―A]は移動相にアセトニトリル:133mMHCl(70:30)を用い、RIで検出して得られたクロマトグラムである。
【図2】フコイダン加水分解物を、実施例2によるHPLC分析を行った結果である。[図2―A]はRI検出で、[図2―B]はRI検出器に直列してつないだUV検出で得られたクロマトグラムである。
【図3】アセトニトリル濃度を上げ、過塩素酸濃度を下げた移動相溶出液を使用した実施例3によるHPLC分析を行った結果である。 [図3−A]はフコース、グルクロン酸を、[図3−B]はグルクロン酸1分子とフコース1分子とが結合した二糖(GF)をRIで検出して得られたクロマトグラムである。
【図4−1】実施例4によるHPLC分析を行った結果である。A:フコース(5ppm)、B:グルクロン酸(100ppm)又はC:グルクロン酸1分子とフコース1分子とが結合した二糖(GF)(100ppm)を含有する3種のサンプル溶液を、HPLC分析を行って得られたクロマトグラムである。
【図4−2】実施例4によるHPLC分析を行った結果である。A:硫酸化フコース,B:フコイダン加水分解物(2mg/ml)をHPLC分析して得られたクロマトグラムである。
【図5】フコース(4.49m:10ppm)、GF(4.92m:100ppm)及び硫酸化フコース(26.87m:10ppm)を含有するサンプル溶液を、ポストカラムアルギニン発色させてHPLC分析して得たクロマトグラムである。
【図6】フコイダン加水分解物(2mg/ml)をサンプル溶液とし、ポストカラムアルギニン発色させてHPLC分析して得たクロマトグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルクロン酸とフコースとが結合した2糖以上のオリゴ糖、硫酸化フコースとフコースとが結合した2糖以上のオリゴ糖、グルクロン酸と硫酸化フコースとが結合した2糖以上のオリゴ糖の少なくとも1種以上を含む糖組成物を分析する分析方法において、アミノカラムを用い、移動相としてアセトニトリルと水と酸とを含有する溶離液を用いた液体クロマトグラフィーによるオリゴ糖の分離工程を含むことを特徴とする、オリゴ糖含有糖組成物の分析方法。
【請求項2】
前記オリゴ糖が、フコダイン由来のオリゴ糖である、請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記フコダイン由来のオリゴ糖が、フコダインの加水分解物である、請求項2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記移動相の酸が、鉱酸である、請求項1〜3のいずれかに記載の分析方法。
【請求項5】
前記鉱酸が、リン酸、硫酸、塩酸及び過塩素酸から選択される1又は2以上の酸である、請求項4に記載の分析方法。
【請求項6】
前記移動相が、鉱酸の濃度勾配をつけた溶離液である、請求項1〜5のいずれかの項に記載の分析方法。
【請求項7】
分離したオリゴ糖を、示差屈折率検出器(RI)、紫外可視分光光度計検出器(UV)、蛍光検出器から選択される1又は2以上の検出器により検出することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の分析方法。
【請求項8】
分離したオリゴ糖を、アルギニン反応させた後、UV又は蛍光検出器により検出する請求項7に記載の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−185373(P2008−185373A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17197(P2007−17197)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】